説明

セルロース分解酵素を表層提示する酵母及びその利用

【課題】グルコースのβ-グルコシド結合による重合体を効率良く、かつ簡便に分解してエタノール発酵できる酵母、及びグルコースのβ-グルコシド結合による重合体を原料として効率良くかつ簡便にエタノールを製造できる方法を提供する。
【解決手段】細胞表層局在タンパク質を介してβ-グルコシダーゼ、及びエンドグルカナーゼの両方が細胞膜に結合された清酒酵母を用いれば、グルコースのβ-グルコシド結合による重合体を効率良く分解し、エタノール発酵することができる。また、β-グルコシダーゼと細胞表層局在タンパク質との間に5〜10アミノ酸残基のリンカーペプチドを介在させ、エンドグルカナーゼと細胞表層局在タンパク質との間に14〜23アミノ酸残基のリンカーペプチドを介在させることにより、酵素活性が著しく向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、β-グルコシダーゼとエンドグルカナーゼとを表層に共提示する清酒酵母、及びこの酵母を用いて植物原料からエタノールを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、化石燃料に替わる燃料源として、植物材料から製造したバイオエタノールが注目を集めている。バイオエタノールは、空気中の二酸化炭素が固定化された植物材料に由来するため燃焼させても地球上の二酸化炭素を増加させることにはならない点で、有用なものである。例えば、米国などではエタノール混合ガソリンが使用されており、日本でも使用される予定である。
【0003】
バイオエタノールは、サトウキビ・テンサイなどの糖質原料や、トウモロコシ・小麦などデンプン質原料から微生物発酵を経て生産されるが、これらは食用資源でもある。将来の世界的食料不足が懸念される近年では、廃材や食物性残渣など非食用炭素源からのエタノール生産技術が求められ、開発が進められている。
【0004】
セルロースやヘミセルロースを含むバイオマスに対して酸処理や超臨界処理を施し、発酵微生物が資化できるグルコースにまで原料処理をおこなう手法も考案されているが、これらは強酸あるいは高温・高圧を必要とするなど、設備面への過負荷や、高エネルギーコストが問題点として挙げられている。
【0005】
一方、セルロースやヘミセルロースなどを本来資化できない発酵微生物に対して、分子生物学的手法を用いて機能改変を施し、非食料炭素源からの直接エタノール発酵を目指した研究が行われているが、未だ、実験室での研究レベルを脱してはいない。
【0006】
ここで、酵母の細胞表層に酵素などの目的タンパク質を提示させる「酵母細胞表層提示工学」が注目されている。これは、目的タンパク質をGPIアンカリングタンパク質のような細胞表面への固定が可能なタンパク質との融合蛋白質として発現させることにより、酵母の細胞表面上に目的タンパク質を高密度に提示する手法である。
【0007】
この細胞表層提示酵母は、以下のような利点を有するために、酵素を生産する菌体を用いた物質生産に適している。
【0008】
第1に、この酵母は、目的タンパク質である酵素が細胞表面に存在するため、基質の細胞膜透過が問題にならず、また酵素により細胞が損傷を受け難い。
【0009】
第2に、この酵母は、酵素を高密度に菌体に固定化することができるため、反応槽内に菌体を高密度で充填又は懸濁することにより、反応系内の酵素濃度を高くすることができ、その結果スケールアップが比較的容易である。また、酵素が菌体外に固定されているため菌体内に存在するタンパク質分解酵素の作用を受け難い。また、酵素が細胞表面に高密度で存在する等の理由により、菌体外に存在するタンパク質分解酵素の作用も受け難くなることが期待される。
【0010】
第3に、この酵母を増殖させることにより大量の目的酵素を容易に取得することができ、さらに遠心分離により極めて簡単に菌体ごと酵素を回収及び濃縮できる。
【0011】
このような「酵母細胞表層提示工学」は新しい研究分野であり、現在実験室レベルで種々の検討がなされている状況である。例えば、特許文献1、及び特許文献2には、高活性プロモーター、酵母細胞で機能する分泌シグナル配列、アラビノフラノシダーゼをコードする配列、及びGPIアンカリングタンパク質からなるポリヌクレオチドが染色体中に組み込まれた酵母を用いて、キシランを分解する方法が記載されている。アラビノフラノシダーゼを表層提示した酵母と、キソロシダーゼやキシラナーゼを用いれば、植物材料中のキシラン(ヘミセルロース)を簡便に分解して単糖を得て、さらに、この酵母にキシロースリダクターゼ、キシリトールデヒドロゲナーゼ、及びキシルロキナーゼ、または、キシロースイソメラーゼおよびキシルロキナーゼを高発現させ、キシロース資化能を付与すれば、アルコール発酵することができる。
【0012】
しかし、特許文献1、2のアラビノフラノシダーゼ提示酵母は、それ単独でキシランを単糖にまで分解できるものではない。
【特許文献1】特開2005−245334号公報
【特許文献2】特開2005−245335号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、グルコースのβ-グルコシド結合による重合体を、効率良く、かつ簡便に分解してエタノール発酵することができる酵母、及びグルコースのβ-グルコシド結合による重合体を原料として、効率良く、かつ簡便にエタノールを製造することができる方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために本発明者は研究を重ね、以下の知見を得た。
(i) 染色体に下記の(a)及び(b)のポリヌクレオチドが組み込まれた清酒酵母は、β-グルコシダーゼとエンドグルカナーゼとを表層に共提示している。この酵母と植物材料中のグルコースのβ-グルコシド結合による重合体とを反応させれば、各酵素を表層提示した2種の酵母を用いるより、菌体重量当たりの上記重合体分解速度、及びエタノール生成速度が高くなる。
(a) 5’末端側から順に、酵母細胞で機能する分泌シグナル配列、β-グルコシダーゼをコードする配列、細胞表層局在タンパク質又はその細胞膜結合領域をコードする配列を含むポリヌクレオチド
(b) 5’末端側から順に、酵母細胞で機能する分泌シグナル配列、エンドグルカナーゼをコードする配列、細胞表層局在タンパク質又はその細胞膜結合領域をコードする配列を含むポリヌクレオチド
(ii) β-グルコシダーゼをコードする配列と細胞表層局在タンパク質又はその細胞膜結合領域をコードする配列との間に、6〜90塩基長のリンカーを介在させ、エンドグルカナーゼをコードする配列と細胞表層局在タンパク質又はその細胞膜結合領域をコードする配列との間に、6〜90塩基長のリンカーを介在させることにより、菌体重量当たりの上記重合体分解速度が著しく高くなる。
【0015】
本発明は、上記知見に基づき完成されたものであり、以下の清酒酵母、及びエタノールの製造方法を提供する。
【0016】
項1. 下記の(a)及び(b)のポリヌクレオチドが染色体に組み込まれ、β-グルコシダーゼとエンドグルカナーゼとを表層に共提示する清酒酵母。
(a) 5’末端側から順に、酵母細胞で機能する分泌シグナル配列、β-グルコシダーゼをコードする配列、及び細胞表層局在タンパク質又はその細胞膜結合領域をコードする配列を含むポリヌクレオチド
(b) 5’末端側から順に、酵母細胞で機能する分泌シグナル配列、エンドグルカナーゼをコードする配列、及び細胞表層局在タンパク質又はその細胞膜結合領域をコードする配列を含むポリヌクレオチド
項2. (a)のポリヌクレオチドが、β-グルコシダーゼをコードする配列と、細胞表層局在タンパク質又はその細胞膜結合領域をコードする配列との間に、6〜90塩基長のリンカーが介在したものであり、
(b)のポリヌクレオチドが、エンドグルカナーゼをコードする配列と、細胞表層局在タンパク質又はその細胞膜結合領域をコードする配列との間に、6〜90塩基長のリンカーが介在したものである、
項1に記載の清酒酵母。
【0017】
項3. (a)の分泌シグナル配列が2つ以上の分泌シグナル配列の組み合わせである、項1又は2に記載の清酒酵母。
【0018】
項4. (a)の分泌シグナル配列が2種以上の分泌シグナル配列の組み合わせである、項1〜3のいずれかに記載の清酒酵母。
【0019】
項5. (a)の分泌シグナル配列が、分泌されるβ-グルコシダーゼが本来有する分泌シグナル配列と異なる分泌シグナル配列との組み合わせである項1〜4のいずれかに記載の清酒酵母。
【0020】
項6. (a)の分泌シグナル配列が、(1)アスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)由来β-グルコシダーゼ(BGL7)の分泌シグナル配列とアスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)由来β-グルコシダーゼ(BGL1)の分泌シグナル配列との組み合わせ、又は(2)BGL7の分泌シグナル配列とリゾプス・オリゼ(Rhizopus oryzae)由来グルコアミラーゼ(GlaR)の分泌シグナル配列との組み合わせである、項1〜5のいずれかに記載の清酒酵母。
【0021】
項7. (b)の分泌シグナル配列が、エンドグルカナーゼが本来有する分泌シグナル配列とアスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)由来エンドグルカナーゼ(CelA)の分泌シグナルとの組み合わせである、項1〜6のいずれかに記載の清酒酵母。
【0022】
項8. (b)の分泌シグナル配列がCelAの分泌シグナル配列とアスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)由来エンドグルカナーゼ(CelB)の分泌シグナル配列との組み合わせである、項1〜7のいずれかに記載の清酒酵母。
【0023】
項9. (a)及び/又は(b)のヌクレオチドが、複数コピー染色体に組み込まれた項1〜8のいずれかに記載の清酒酵母。
【0024】
項10. 細胞表層局在タンパク質又はその細胞膜結合領域をコードする配列が、酵母のα−アグルチニンのC末端から320ないしは600個のアミノ酸をコードする配列である項1〜9のいずれかに記載の清酒酵母。
【0025】
項11. β-グルコシダーゼ、及びエンドグルカナーゼが、それぞれ、細胞表層局在タンパク質又はその細胞膜結合領域を介して細胞膜に結合した清酒酵母。
【0026】
項12. β-グルコシダーゼと細胞表層局在タンパク質又はその細胞膜結合領域との間に2〜30アミノ酸残基からなるリンカーペプチドが介在し、エンドグルカナーゼと細胞表層局在タンパク質又はその細胞膜結合領域との間に2〜30アミノ酸残基からなるリンカーペプチドが介在している、項11に記載の清酒酵母。
【0027】
項13. 項1〜11のいずれかに記載の清酒酵母の存在下で、グルコースのβ-グルコシド結合による重合体を分解してグルコースを得、生成するグルコースの発酵によりエタノールを得る、エタノールの製造方法。
【0028】
項14. グルコースのβ-グルコシド結合による重合体が、植物材料を加水分解処理して得られる処理物中に含まれるものである項13に記載の方法。
【発明の効果】
【0029】
染色体に上記の(a)及び(b)のポリヌクレオチドが組み込まれた清酒酵母は、β-グルコシダーゼとエンドグルカナーゼとが、それぞれ細胞表層局在タンパク質又はその細胞膜結合領域を介して細胞膜に結合することにより、細胞表層に共提示されている。この酵母を用いてグルコースのβ-グルコシド結合による重合体を分解すれば、酵母表層で、この重合体のエンドグルカナーゼによるランダムな分解とβ-グルコシダーゼによるβ-D-グルコース単位での分解とが、細胞表面付近の狭い範囲で基質を受け渡しつつ行われるため、効率良く、上記重合体を分解してD-グルコースとし、さらにこれを発酵してエタノールを得ることができる。
【0030】
また、β-グルコシダーゼと細胞表層局在タンパク質又はその細胞膜結合領域との間に2〜30アミノ酸残基のリンカーペプチドを介在させ、エンドグルカナーゼと細胞表層局在タンパク質又はその細胞膜結合領域との間に2〜30アミノ酸残基のリンカーペプチドを介在させるときは、上記重合体の分解効率、及びエタノール生成効率が著しく向上する。
【0031】
また、本発明の清酒酵母は、β-グルコシダーゼ遺伝子及びエンドグルカナーゼ遺伝子が染色体中に組み込まれているため、選択圧をかけなくても発現ユニットが脱落し難い。このため、コストの点で選択圧をかけ難い工業スケールでの培養においても、各酵素を高発現させることができる。
【0032】
本発明の清酒酵母は、分泌シグナル配列の組み合わせを最適化することにより、酵素活性を向上することができる。
【0033】
本発明の酵母を用いたエタノール発酵では、原料バイオマスの前処理において酸処理や超臨界処理を用いる場合、グルコースにまで分解する必要がないため、より緩和な条件で分解できる。従って、設備への過負荷や、高エネルギーコストを回避できる。また、原料バイオマスを超臨界処理だけでグルコースにまで分解しようとすると過分解物が発生し易いが、原料バイオマスを超臨界処理した後に本発明の酵母を用いたエタノール発酵を行う場合は過分解物の発生がより抑制された条件を採用できるため、原料回収率の向上が期待できる。
【0034】
さらに、清酒酵母は、過酷な培養条件になる場合もある工業規模での培養においても、高い増殖速度が得られる。また清酒酵母はエタノールに極めて高い耐性を有するため、D-グルコースを生産した後、そのままエタノール発酵に供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
以下、本発明を詳細に説明する。
(I)清酒酵母
本発明の清酒酵母は、上記の(a)及び(b)のポリヌクレオチドが染色体に組み込まれ、β-グルコシダーゼとエンドグルカナーゼとを表層に共提示する清酒酵母である。この清酒酵母は、β-グルコシダーゼ、及びエンドグルカナーゼが、それぞれ、細胞表層局在タンパク質又はその細胞膜結合領域を介して細胞膜に結合したものとなる。
分泌シグナル配列
分泌シグナル配列は、分泌シグナルペプチドをコードするポリヌクレオチド配列である。分泌シグナルペプチドは、ペリプラズムを含む細胞外に分泌される分泌性タンパク質のN末端に通常結合しているペプチドである。このペプチドは、生物間で類似した構造を有しており、20個程度のアミノ酸からなり、N末端付近に塩基性アミノ酸配列を有し、その後に疎水性アミノ酸を多く含んでいる。分泌シグナルは、通常、分泌性タンパク質が細胞内から細胞膜を通過して細胞外へ分泌される際にシグナルペプチダーゼにより分解されることにより除去される。
【0036】
本発明においては、β-グルコシダーゼ及びエンドグルカナーゼを酵母の細胞外に分泌させることができる分泌シグナルペプチドをコードするポリヌクレオチド配列であれば、どのようなものでも用いることができ、その起源は問わない。例えば、リゾプス・オリゼ(Rhizopus oryzae)等のグルコアミラーゼの分泌シグナルペプチド配列、アスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)のグルコアミラーゼの分泌シグナルペプチド配列、酵母(Saccharomyces cerevisiae)のα−またはa−アグルチニンの分泌シグナルペプチド配列、酵母(Saccharomyces cerevisiae)由来のα因子の分泌シグナルペプチド配列等を好適に用いることができる。特に、分泌効率の点で、リゾプス・オリゼ由来グルコアミラーゼの分泌シグナルペプチド配列が好ましい。また、アスペルギルス・オリゼ由来グルコアミラーゼの分泌シグナルペプチド配列も好ましい。
【0037】
分泌シグナル配列の由来は特に制限されないが、β-グルコシダーゼ及びエンドグルカナーゼと機能的又は構造的に近似するタンパク質由来であることが好ましく、糖鎖の加水分解酵素由来であることが好ましい。また、分泌シグナル配列は、β-グルコシダーゼ又はエンドグルカナーゼを酵母細胞外に分泌させる能力を有する限り、既知の分泌シグナル配列に、アミノ酸の置換、付加、欠失、削除等の任意の変異が加えられていてもよい。
【0038】
より好ましい分泌シグナル配列としては、グルコアミラーゼの分泌シグナル配列、β-グルコシダーゼの分泌シグナル配列、エンドグルカナーゼの分泌シグナル配列、エキソグルカナーゼの分泌シグナル配列を挙げることができる。さらに、グルコアミラーゼの分泌シグナル配列の中ではリゾプス・オリゼ(Rhizopus oryzae)由来GlaRの分泌シグナル配列が好ましい。β-グルコシダーゼの分泌シグナル配列の中ではアスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)由来のβ-グルコシダーゼ(BGL1)及びβ-グルコシダーゼ(BGL7)の分泌シグナル配列が好ましい。エンドグルカナーゼの分泌シグナル配列としては、アスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)由来のエンドグルカナーゼ、CelA又はCelBの分泌シグナル配列が好ましい。
【0039】
分泌シグナル配列は、既知の分泌シグナル配列をそのまま用いることもできるが、2個以上の分泌シグナル配列を組み合せて用いることも可能である。2個以上の分泌シグナル配列の組み合せは、複数の配列を連続的に繋ぎ合わせても良く、また各シグナル配列間に制限酵素部位などの短い配列を挿入して連結してもよい。
【0040】
β-グルコシダーゼを酵母細胞外に分泌させるための分泌シグナル配列は、好ましくは2個〜5個の分泌シグナル配列の組み合せであり、より好ましくは2個〜3個の分泌シグナル配列の組み合せである。分泌シグナル配列の組み合わせは、同一の分泌シグナル配列を2個以上組み合せても良いが、異なる分泌シグナル配列の組み合わせが好ましい。より好ましくは、酵母細胞外に分泌される酵素が本来有する分泌シグナル配列と他の分泌シグナル配列との組み合わせである。ここで、他の分泌シグナル配列とは、分泌される酵素が本来有する分泌シグナル配列とは異なる配列を有する任意の分泌シグナル配列を意味する。
【0041】
β-グルコシダーゼを酵母細胞外に分泌させるための分泌シグナル配列の組み合わせは、上記のような分泌シグナル配列を任意に組み合せて使用することができ、好ましい組み合わせとしては、例えば、GlaRの分泌シグナル配列とBGL1の分泌シグナル配列、GlaRの分泌シグナル配列とBGL7の分泌シグナル配列、GlaRの分泌シグナル配列とCelAの分泌シグナル配列、GlaRの分泌シグナル配列とCelBの分泌シグナル配列、BGL1の分泌シグナル配列とBGL7の分泌シグナル配列、BGL1の分泌シグナル配列とCelAの分泌シグナル配列、BGL1の分泌シグナル配列とCelBの分泌シグナル配列、BGL7の分泌シグナル配列とCelAの分泌シグナル配列、BGL7の分泌シグナル配列とCelBの分泌シグナル配列、CelAの分泌シグナル配列とCelBの分泌シグナル配列等の組み合わせを挙げることが出来る。より好ましい組み合わせとしては、GlaRの分泌シグナル配列とBGL7の分泌シグナル、BGL1の分泌シグナル配列とBGL7の分泌シグナル配列の組み合わせである。
【0042】
エンドグルカナーゼを酵母細胞外に分泌させるための分泌シグナル配列としては、分泌されるエンドグルカナーゼが本来有する分泌シグナル配列とCelAの分泌シグナル配列との組み合わせが好ましい。例えば、エンドグルカナーゼCelBを分泌させる場合、CelBの分泌シグナル配列とCelAの分泌シグナル配列との組み合わせが好ましい。
【0043】
分泌される酵素が本来有する分泌シグナル配列と異種の分泌シグナル配列とを組み合せる場合、各分泌シグナル配列の並びはいずれがN末端側であってもよいが、遺伝子組み換え操作における取扱い上、異種の分泌シグナル配列をN末端側とすることが好ましい。分泌シグナル配列をコードした塩基配列とプロモーター配列とは、連続的に繋がっていてもよく、各種の制限酵素認識配列などの短い配列を介して繋がっていることが好ましい。制限酵素認識配列としては、例えば、EcoRI(GAATTC)、SalI(GTCGAC)、HindIII(AAGCTT)、KpnI(GGTACC)、PstI(CTGCAG)、SacI(GAGCTC)、XhoI(CTCGAG)、SmaI(CCCGGG)、NotI(GCGGCCGC)より好ましくは、プロモーター配列と分泌シグナル配列コード領域とは、SalI認識配列を介して連結している。
細胞表層局在タンパク質
細胞表層局在タンパク質は、細胞表層に固定化され又は付着ないしは接着してそこに局在するタンパク質であればよく、公知のものを制限なく使用できる。
【0044】
細胞膜に局在するタンパク質としては、膜貫通タンパク質や細胞表層局在タンパク質が挙げられる。膜貫通タンパク質は、疎水性アミノ酸領域部分で脂質二重膜を貫通しているタンパク質であり、受容体タンパク質に多く見られる。一方、細胞表層局在タンパク質としては、脂質で修飾されたタンパク質が知られており、この脂質が膜成分と共有結合することにより細胞膜に固定される。その他に、固定化の機構が明らかにされていない細胞表層局在タンパク質もあり、本発明方法ではそれらも使用できる。細胞表層局在タンパク質としては、後述する各種GPIアンカリングタンパク質やBGL2などが知られている。BGL2は、酵母のβ-グルコシダーゼで細胞壁に強く結合することは分かっているが、その機構は不明のタンパク質である。また、BGL2は、GPIアンカリングタンパク質に共通するモチーフは有さない。
【0045】
<GPIアンカリングタンパク質>
細胞表層局在タンパク質の代表例として、GPI(glycosylphosphatidylinositol:エタノールアミンリン酸-6マンノースα−1,2マンノースα−1,6マンノースα−1,4グルコサミンα−1,6イノシトールリン脂質を基本構造とする糖脂質)アンカリングタンパク質を挙げることができる。GPIアンカリングタンパク質は、そのC末端に糖脂質であるGPIを有しており、このGPIが細胞膜中のPI(phosphatidylinositol)と共有結合することによって細胞膜表面に結合する。
【0046】
GPIアンカリングタンパク質のC末端へのGPIの結合は以下のようにして行われる。即ち、GPIアンカリングタンパク質は、転写及び翻訳の後、N末端側に存在する分泌シグナルの作用により小胞体内腔に分泌される。GPIアンカリングタンパク質のC末端又はその近傍の領域には、GPIアンカーがGPIアンカリングタンパク質と結合する際に認識されるGPIアンカー付着シグナルと呼ばれる領域が存在する。小胞体内腔及びゴルジ体において、このGPIアンカー付着シグナル領域が切断され、新たに生じるC末端にGPIが結合する。
【0047】
GPIが結合したタンパク質は、分泌小胞により細胞膜まで運ばれ、GPIが細胞膜のPIに共有結合することにより、細胞膜に固定される。さらに、ホスファチジルイノシトール依存性ホスホリパーゼC(PI-PLC)によりGPIアンカーが切断され、細胞壁に組み込まれることにより細胞壁に固定された状態で、細胞表面に提示される。
【0048】
本発明では、GPIアンカリングタンパク質の細胞膜結合領域であるGPIアンカー付着シグナル領域を含む、通常C末端の領域をコードするポリヌクレオチドを好適に用いることができる。この細胞膜結合領域は、GPIアンカー付着シグナル領域を含んでいればよく、融合タンパク質の酵素活性を阻害しない限り、その他GPIアンカリングタンパク質のどのような部分を含んでいてもよい。
【0049】
GPIアンカリングタンパク質は、酵母細胞で機能するタンパク質であればよく、公知のGPIアンカリングタンパク質を制限なく使用できる。公知のGPIアンカリングタンパク質としては、例えば、酵母の性凝集タンパク質であるα−又はa−アグルチニン、Flo1タンパク質、大腸菌の外膜タンパク質OmpA(Georgiou,G.et.al.Trends Biotechnol.,11,6-10,1993) 、大腸菌マルトーストランスポーターLamB、大腸菌鞭毛タンパク質flagellin、枯草菌細胞壁溶解酵素CwlB等が挙げられる。
【0050】
特に、酵母のα−アグルチニンを好適に使用できる。α−アグルチニンのC末端側から320ないしは600個のアミノ酸からなる領域(即ち、C末端から320個のアミノ酸からなる領域、C末端から321個のアミノ酸からなる領域、……C末端から599個のアミノ酸からなる領域、又はC末端から600個のアミノ酸からなる領域)を用いることが好ましく、C末端側から320個のアミノ酸からなる領域をコードするポリヌクレオチド配列を用いることがより好ましい。α−アグルチニンのC末端側から320個のアミノ酸からなる配列には、4カ所の糖鎖結合部位が存在する。GPIアンカーがPI-PLCにより切断された後、この糖鎖と細胞壁を構成する多糖類とが共有結合することにより、α−アグルチニンの細胞壁への固定を増強する。α−アグルチニンをコードするDNAの塩基配列は日本DNAデータバンクにおいてCAA89526のアクセッション番号で登録されている。
【0051】
本発明では、細胞表層局在タンパク質の一部をコードする配列とGPIアンカー付着シグナル配列が、別々の起源から調製されたものであってもよい。
β-グルコシダーゼ・エンドグルカナーゼ
β-グルコシダーゼは、セロオリゴ糖又はアグリコンとβ-D-グルコースとの間のβ-グルコシド結合を加水分解する酵素である。本発明のβ-グルコシダーゼとしては特に起源は限定されないが、例えばAspergillus oryzae 、Aspergillus aculeatus、Saccharomycopsis fibuligera、Bacillus circulans、Clostridium thermocellum、Thermotoga maritima、Ruminococcus albus起源のものを挙げることができる。より好ましくは、安全性の点で、Aspergillus oryzaeのβ-グルコシダーゼが好ましい。Aspergillus oryzaeのβ-グルコシダーゼ遺伝子の配列は日本DNAデータバンクにおいてBAE54829のアクセッション番号で登録されている。
【0052】
エンドグルカナーゼは、セルロースのβ-グルコシド結合を加水分解し、グルコースやセロオリゴ糖を生成する酵素である。本発明のエンドグルカナーゼとしては特に起源は限定されないが、例えばAspergillus oryzae、Aspergillus kawachi、Bacillus subtilis、Streptomyces halstedii、Trichoderma reesei 、Ruminococcus albus、Fusarium oxysporumを挙げることができる。より好ましくは、安全性の点で、Aspergillus oryzaeのエンドグルカナーゼが好ましい。Aspergillus oryzaeのエンドグルカナーゼ遺伝子の配列は日本DNAデータバンクにおいてBAA22589のアクセッション番号で登録されている。
【0053】
β-グルコシダーゼ、及びエンドグルカナーゼは、実用できるだけの活性を維持している限り、その一部のアミノ酸配列からなるものであってもよい。
リンカー
本発明では、β-グルコシダーゼ遺伝子とその下流の細胞表層局在タンパク質又はその細胞膜結合領域をコードする配列との間、及びエンドグルカナーゼ遺伝子とその下流の細胞表層局在タンパク質又はその細胞膜結合領域をコードする配列との間に、リンカーが存在することが好ましい。上記位置にリンカーを介在させることにより、菌体重量当たりの各酵素活性が向上する。なお、「リンカー」とは、リンカーペプチドをコードするポリヌクレオチドを意味する。
【0054】
菌体重量当たりのβ-グルコシダーゼ活性、ひいてはセルロース分解速度、及びエタノール生成速度を向上させるために、β-グルコシダーゼ遺伝子とその下流の細胞表層局在タンパク質又はその細胞膜結合領域をコードする配列との間のリンカー長は、6〜90塩基程度が好ましく、15〜30塩基程度がより好ましい。即ち、本発明の清酒酵母の表層に提示されたβ-グルコシダーゼと細胞表層局在タンパク質又はその細胞膜結合領域との間のリンカーペプチドの長さは、2〜30アミノ酸残基程度が好ましく、5〜10アミノ酸残基程度がより好ましい。
【0055】
菌体重量当たりのエンドグルカナーゼ活性、ひいてはセルロース分解速度、及びエタノール生成速度を向上させるために、エンドグルカナーゼ遺伝子とその下流の細胞表層局在タンパク質又はその細胞膜結合領域をコードする配列との間のリンカー長は、6〜90塩基程度が好ましく、42〜69塩基程度がより好ましい。即ち、本発明の清酒酵母の表層に提示されたエンドグルカナーゼと細胞表層局在タンパク質又はその細胞膜結合領域との間のリンカーペプチドの長さは、2〜30アミノ酸残基程度が好ましく、14〜23アミノ酸残基程度がより好ましい。
【0056】
リンカーペプチドの配列は特に限定されないが、親水性を高めるために、非電荷型で芳香環を含まないアミノ酸からなる配列が好ましい。また、リンカーペプチドに柔軟性を持たせる上で、分子量180以下の比較的嵩の小さいアミノ酸が好ましい。このようなアミノ酸として、例えばグリシン、アラニン、バリン、セリン、スレオニン、システインなどが挙げられる。中でも、菌体重量当たりの酵素活性を向上させる上で、セリンとグリシンとからなる配列が好ましい。
【0057】
(a)及び(b)のポリヌクレオチドにおいて、分泌シグナル配列とβ-グルコシダーゼ遺伝子又はエンドグルカナーゼ遺伝子との間には、分泌シグナルペプチドによる融合タンパク質の分泌を阻害しない程度であれば、任意のオリゴヌクレオチド配列が挿入されていてもよい。一般に30塩基程度までの挿入配列が許容される。
マルチコピー
本発明の清酒酵母は、染色体中に、β-グルコシダーゼ遺伝子、及び/又はエンドグルカナーゼ遺伝子を複数コピー含んでいることが好ましい。これにより、細胞表層にこれらの酵素が高密度に提示されたものとなる。但し、酵母自身の細胞壁のβ-(1,4)グルカンやβ-(1,6)グルカンを分解しないようにするため、上記各遺伝子のコピー数の上限は、通常6程度とすればよい。
本発明の清酒酵母の作製方法
本発明の清酒酵母は、例えば、染色体組み込み型の発現ベクターへ上記(a)及び(b)のポリヌクレオチドがそれぞれのプロモーターにより発現するように挿入し、そのプラスミドを用いて清酒酵母を形質転換することにより得ることができる。発現ベクターは、酵母の自律複製配列を含んでいないものであれば、通常、酵母の染色体DNA組込み型のものとなる。
【0058】
プロモーターは、酵母細胞で機能できるものであればよく、特に限定されない。例えば、酵母SED1プロモーター(特開2003-265177号)、GAPDHプロモーター(特公平07-24594)、PGK1プロモーター(EMBO J.(1982),1,603- Tuite,M.F. et al)、ADH1プロモーター(Nature(1981),293,717- Hitzeman,R.A.et al)などが挙げられる。これらのプロモーターは、酵母細胞において高いプロモーター活性を示す。
【0059】
工業スケールで培養する場合は、様々な成分が溶け込んだ反応系、即ち高浸透圧環境となる場合が多い。また、実験室で培養する場合と較べて、温度やpHを厳密に制御することが難しく、またコスト等の面で栄養リッチな培養液を使用し難い。この点、酵母SED1プロモーターは、通常の培養条件で高い転写活性を示すだけでなく、高温、高浸透圧又は低浸透圧、貧栄養状態、アルコールの存在などの各種ストレス環境下においても安定した高いプロモーター活性を示し、pHの変動による影響も受け難い点で、特に好ましいものである。
【0060】
プロモーターは、高いプロモーター活性を示していれば、その全領域であってもよく、その一部の領域であってもよい。
【0061】
またβ-グルコシダーゼ遺伝子、及びエンドグルカナーゼ遺伝子の発現を調節するために、プロモーターの他に、オペレーター、エンハンサー、ターミネーター等も含んでいればよい。ターミネーターとしては、ADH1(アルデヒドデヒドロゲナーゼ)ターミネーター、GAPDH(グリセルアルデヒド3’-リン酸デヒドロゲナーゼ)ターミネーター等が挙げられる。
【0062】
GAPDHプロモーターを備える発現ベクターであって、酵母染色体DNAに組み込まれるものとしては、pICAS1(京都大学大学院農学研究科の植田充美教授より分譲)等が挙げられる。SED1プロモーター、PGK1プロモーター、又はADH1プロモーターを含む発現ベクターは、これらのプロモーターをPCRにより増幅してプラスミドpRS406(Stratagene社)に連結することにより作製できる。
【0063】
プロモーターと分泌シグナル配列との間には、プロモーターによる融合タンパク質の発現を阻害しない範囲で任意のヌクレオチド配列が挿入されていてもよい。
【0064】
染色体中にβ-グルコシダーゼ遺伝子、エンドグルカナーゼ遺伝子が複数コピー組み込まれた清酒酵母は、例えば、(a)と(b)との双方を含む発現ベクターであって、互いに異なるマーカー(例えば、薬剤耐性遺伝子、URA3、TRP1、LEU2、LYS2等)を含むものを複数用いて清酒酵母を形質転換することにより得ることができる。また、(a)と(b)との双方を含む発現ベクターであって選択マーカーとして薬剤耐性遺伝子を含むものを使用して清酒酵母を形質転換し、段階的又は漸次的に変化させた薬剤濃度で選択することによっても、この発現ベクターが複数導入された形質転換体を容易に選択できる。また、発現ベクター中に挿入する各遺伝子の数を設定することにより、宿主に導入する各遺伝子の数を決めることもできる。
【0065】
宿主に導入された各遺伝子のコピー数は、形質転換体が分泌する酵素の活性測定、各遺伝子に特異的なプローブを用いたゲノムサザンハイブリダイゼーション、各遺伝子に特異的なプライマーを用いたPCRなどにより確認することができる。
【0066】
得られた酵母の細胞表層にβ-グルコシダーゼ及びエンドグルカナーゼが固定されていることは、常法により確認できる。例えば、被験酵母に、これらのタンパク質に対する抗体と、FITCのような蛍光標識2次抗体またはアルカリフォスファターゼのような酵素標識2次抗体等とを作用させる方法、これらのタンパク質に対する抗体とビオチン標識2次抗体とを反応させた後さらに蛍光標識ストレプトアビジンを作用させる方法などが挙げられる。また、アンカータンパクのN末端側にFLAGタグを挿入した場合は、FLAGタグ抗体を用いることでより簡便に細胞表層に局在化していることを確認できる。
<宿主>
本発明では、実用酵母の中でも、高い発酵能と高いエタノール耐性を有し、遺伝学的にも安定した清酒酵母を用いる。一般に、微生物にとってエタノールは有毒である。エタノール発酵する酵母も例外ではなく、エタノール濃度が8%(v/v)を超えると自身が生産したエタノールにより徐々に死滅してしまう。ここで、清酒酵母はエタノール濃度が20%にも達する清酒モロミで長年選抜及び育種されてきた株であり、一般的な酵母に比べ極めて高いエタノール耐性を持っている。
【0067】
清酒酵母としては、日本醸造協会頒布の「きょうかい酵母」およびこれらを親株とした突然変異株などが挙げられる。また他にも、清酒醸造で使用されている酵母であればいずれも有用である。形質転換マーカーとして栄養要求性遺伝子を用いる場合は、これら清酒酵母に突然変異などの手法を用いて栄養要求性を付与した株を用いればよく、そのような栄養要求性としてはウラシル要求性、トリプトファン要求性、ロイシン要求性、ヒスチジン要求性、リシン要求性などが挙げられる。清酒酵母にウラシル・リシン要求性を付与した例としては「きょうかい9号酵母」を宿主として突然変異法により取得したSaccharomyces cerevisiae GRI-117-UKが挙げられる。
(II)エタノールの製造方法
本発明のエタノールの製造方法は、本発明の清酒酵母の存在下で、グルコースのβ-グルコシド結合による重合体を分解してグルコースを得、生成するグルコースを分解してエタノールを得る方法である。
グルコースのβ-グルコシド結合による重合体
グルコースのβ-グルコシド結合による重合体の重合度、及びグルコシド結合の様式は特に限定されず、例えばセロオリゴ糖のようなオリゴ糖、セルロース、更にはβ-グルカンなどが挙げられる。
【0068】
これらの重合体は、廃材などの未利用バイオマス、食物繊維を含有する食品廃棄物などの廃棄物系バイオマス、あるいは資源作物バイオマスなどのバイオマス原料から、例えば酸処理や超臨界処理などの公知の手法、又はこれらの方法においてより緩和な条件で処理することにより得ることができる。この方法によれば、通常は、β-グルカンとその部分分解物との混合物が得られる。これをそのまま使用してもよく、β-グルカン及びその部分分解物を精製して使用してもよく、又は特定のβ-グルコース重合体のみ精製して使用してもよい。
分解反応
上記重合体の分解反応は、反応容器内の反応液中に酵母を懸濁した状態で行うことができる。また、カラムのような反応容器内に酵母を充填したバイオリアクターを用いて行うこともできる。また、反応は連続式、回分式(バッチ式)又は半回分式のいずれの方式で行ってもよい。
【0069】
反応液中には、基質となるβ-グルコース重合体のみ含まれていてもよく、又はこれに加えてpH調整のための緩衝剤や酵母の生存に必要な公知の物質が含まれていてもよい。好ましくは、植物材料を酸処理や超臨界処理して得られる混合物を基質溶液とすればよい。
【0070】
反応開始時のβ-グルコース重合体濃度は、通常1〜20重量%程度とすることが好ましく、5〜15重量%程度とすることがより好ましい。上記濃度範囲であれば、効率的にグルコースを生成することができるとともに、反応液の粘度が上がって攪拌や温度制御等が難しくなったり、反応液の浸透圧が上がって酵母の死滅や増殖阻害が生じたりすることがない。
【0071】
反応温度は、清酒酵母が保持する各酵素が活性を示す温度であればよく、通常30〜38℃程度とすればよい。
【0072】
反応液中の各成分濃度を、例えば、ガスクロマトグラフィーやHPLCなどを用いて経時的にモニターすることにより、セルロースの追加量、反応時間、pH調整剤の添加量などを決定すればよい。上記の温度範囲であれば、5〜24時間程度の反応により、反応液中にエタノールが生成する。
実施例
以下、実施例を示して本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0073】
β−グルコシダーゼ・エンドグルカナーゼを含む発現ベクターの構築
(A) 常法に従って、高活性プロモーター(SED1プロモーター)を取得した。簡単に述べると、5'-GCGggatccTTGGATATAGAAAATTAACGTAAGG-3'(配列番号1:Psed-F)及び5'-CCGgaattcCTTAATAGAGCGAACGTATTTTATT-3'(配列番号2:Psed-R)の2つのプライマーを用いて、酵母Saccharomyces cerevisiae X2180-1A(ATCC Number: 204647)の染色体DNAを鋳型としてPCRを行った。PCRの条件としては、94℃/1分−52℃/1分−72℃/2分のサイクルを30回繰り返した。
【0074】
ここで、配列番号1:Psed-Fには、後にpRS406への挿入目的として制限酵素KpnIの認識配列を、また、制限酵素処理を効率化するためのエキストラ配列を付与している。配列番号2:Psed-Rについても、同様の目的で制限酵素EcoRI認識配列およびエキストラ配列を付与している。制限酵素認識配列は小文字で記載してある。
【0075】
得られたPCR産物をスピンカラム(キアゲン社製、PCR Purification Kit)により精製後、制限酵素KpnIとEcoRIとで消化して、KpnIとEcoRI断片を得た。このKpnIとEcoRI断片には、SED1遺伝子のプロモーター領域が含まれている。配列表の配列番号:3(Psed-seq)にその配列を示す。
【0076】
(B) 常法に従って、Rhizopus oryzaeのグルコアミラーゼの分泌シグナル配列を取得した。簡単に述べると、5'-GCGggatcc ATGCAACTGTTCAATTTGCCATTGA -3'(配列番号4:sig-F)5'-ggggttaacgtcgacgatctccgcgGCAGAAACGAGCAAAGAAAAGTAAG -3'(配列番号5:sig-R)を合成し、これらをプライマーとして、グルコアミラーゼ遺伝子が挿入されているプラスミドpNGB1(Gene 207 127-134 (1998))を鋳型としてPCRを行った。PCRの条件としては、94℃/1分−52℃/1分−72℃/30秒のサイクルを30回繰り返した。
【0077】
ここで、配列番号4:sig-Fには、後にpRS406への挿入目的として制限酵素EcoRIの認識配列を、また、制限酵素処理を効率化するためのエキストラ配列を付与している。配列番号5:sig-Rの設計には、後に目的の遺伝子配列を挿入させるため、制限酵素SalIおよびHpaIの認識部位を付与し、また、pRS406への挿入前の制限酵素処理を簡便にする目的で、制限酵素SmaI消化後配列を配列の末端に付与した。制限酵素認識配列は小文字で記載してある。
【0078】
得られたPCR産物をスピンカラム(キアゲン社製、PCR Purification Kit)により精製後、制限酵素EcoRIで切断し、EcoRI-SmaI断片を得た。このEcoRI断片にはグルコアミラーゼ分泌シグナル配列が含まれている。配列表の(配列番号6:sig-seq)にその配列を示す。
(C) α-アグルチニンのC末端の一部をコードする配列及びGPIアンカー付着シグナル配列を有する遺伝子(320アミノ酸)を有する配列を取得するため、酵母Saccharomyces cerevisiae X2180-1Aから、常法により染色体DNAを単離し、5'- gggGctcgagCGCCAAAAGCTCTTTTATCTCAA -3'(配列番号7:GPI-F)および5'-AAGGAAAAAAgcggccgcTTTGATTATGTTCTTTCTATTTGAATG -3'(配列番号8:GPI-R)の2つのプライマーを用いて、PCRを行った。PCRの条件としては、94℃/1分−52℃/1分−72℃/2分のサイクルを30回繰り返した。
【0079】
ここで、配列番号7:GPI-Fの設計には、後に目的のリンカー配列を挿入させるため、制限酵素XhoIの認識部位を付与し、またpRS406への挿入前の制限酵素処理を簡便にする目的で、制限酵素SmaI消化後配列を配列の末端に付与した。配列番号8:GPI-Rには、後にpRS406への挿入目的として制限酵素NotIの認識配列を、また、制限酵素処理を効率化するためのエキストラ配列を付与している。制限酵素認識配列は小文字で記載してある。
【0080】
得られたPCR産物をスピンカラム(キアゲン社製、PCR Purification Kit)により精製後、制限酵素NotIで消化して、SmaI-NotI断片を得た。このSmaI-NotI断片には、α-アグルチニンのC末端から320アミノ酸をコードする配列と、3'非コード領域の466bpとを含んでおり、この配列中にGPIアンカー付着シグナル配列が含まれている。配列表の配列番号9:GPI-seqにその配列を示す。
【0081】
(D) 酵母表層提示発現に用いる基本ベクターとして、(A)で得られた高活性プロモーターと(B)で得られた分泌シグナル配列と(C)GPIアンカー付着シグナルを含むDNA断片を、常法に従い、それぞれpRS406中のマルチクローニングサイト、KpnI-EcoRIサイト、EcoRI-SmaIサイト、SmaI-NotIサイトに順次挿入し、プラスミドpK113を得た。
【0082】
(E) 常法に従って、Aspergillus oryzaeのβ-グルコシダーゼ遺伝子のcDNAを取得した。簡単に述べると、まず、Aspergillus oryzae O-1013株(平成9年11月20日付で産業技術総合研究所特許生物寄託センター(日本国茨城県つくば市東1-1-1 つくばセンター 中央第6)にFERM P-16528として寄託済み)から全RNAを抽出し、ついで、オリゴdTセルロースを用いてPoly(A)+RNAを取得した。
【0083】
次にPoly(A)+RNAを鋳型とし、GIBCO BRL社のRT-PCR KITを用いて逆転写反応を行い、cDNA混合物を取得した。即ち、5'-ACGCgtcgacATGAAGCTTGGTTGGATCGAGGTGG-3'(配列番号10:B-F)及び5'-aacCCTGGGCCTTAGGCAGCGACGCCTGGAGCGGCAG-3'(配列番号11:B-R)を合成し、これをプライマーとして、先ほどのcDNA混合物を鋳型にPCRした。PCRは、50℃/30分−94℃/2分の後、94℃/1分−52℃/1分−72℃/2分のサイクルを30回繰り返す条件で行った。
【0084】
ここで、配列番号10:B-Fには、後に遺伝子のN末端を分泌シグナル配列と融合させるために翻訳開始コドンATGの直前に制限酵素SalIの認識配列を、また、制限酵素処理を効率化するためのエキストラ配列を付与している。配列番号11:B-Rには、後に遺伝子のC末端と、α-アグルチニンC末断片のN末端とを融合させるため翻訳終止コドンを除去し、また、pK113への挿入前の制限酵素処理を簡便にする目的で、制限酵素HpaI消化後配列を配列の末端に付与した。制限酵素認識配列は小文字で記載してある。
【0085】
得られたPCR産物をスピンカラム(キアゲン社製、PCR Purification Kit)により精製後、制限酵素SalIで切断し、約2.6kbpのβ-グルコシダーゼ遺伝子cDNA断片を得た。配列表の(配列番号12:B-cDNA)にその配列を示す。
(F) 得られた目的のDNAをプラスミドpK113のSalIとSmaI切断部位に挿入して、目的のプラスミドpK113-BGL7を得た。
【0086】
(G) エンドグルカナーゼ遺伝子についても、(E)と同様の手順に従い、5'-GTAAgtcgacATGATCTGGACACTCGCTC-3'(配列番号13:C-F)および5'-CCCAgttaacCATGCCTGTAGGTAGATCCA-3'(配列番号14:C-R)を用いて、約1.3kbpのエンドグルカナーゼ遺伝子cDNA断片を作製した。続いて、エンドグルカナーゼ遺伝子配列内部に存在していたSalI制限酵素サイトは、5'-TTCGATGTtGAtGCCTCCACCCTC-3'(配列番号15:C-dS1F)、5'-GTGGAGGCaTCaACATCGAAGGTGAAT-3'(配列番号16:C-dS1R)、5'-GAAAAACTGTtGAtTCAATCACAAAGGACT-3'(配列番号17:C-dS2F)、および、5'-TTGTGATTGAaTCaACAGTTTTTCCTCCAG-3'(配列番号18:C-dS2R)のプライマーを用いて常法に従いアミノ酸配列を保持したまま破壊した。配列表の(配列番号19:C-cDNA)にその配列を示す。配列番号19において、塩基置換を施した部分を小文字で示す。
(H) 得られた目的のDNAをプラスミドpK113のSalIとSmaI切断部位に挿入して、目的のプラスミドpK113-celBを得た。
【実施例2】
【0087】
リンカー長が酵素活性に与える影響の検討
(1)プラスミドの構築
実施例1で得たプラスミド(pK113-BGL7)において、β-グルコシダーゼ遺伝子とα-アグルチニンのC末端領域をコードする配列との間に存在する制限酵素XhoIの認識部位を制限酵素XhoIで切断し、そこへ合成した18塩基(6アミノ酸;リンカーL6)、27塩基(9アミノ酸;リンカーL9)、42塩基(14アミノ酸;リンカーL14)、54塩基(18アミノ酸;リンカーL18)、69塩基(23アミノ酸;リンカーL23)のリンカーを挿入することで、それぞれの長さのリンカーが挿入されたプラスミド、pK113-BGL7(L6)、pK113-BGL7(L9)、pK113-BGL7(L14)、pK113-BGL7(L18)、およびpK113-BGL7(L23)を作製した。
【0088】
また、実施例1で得たプラスミド(pK113-celB)において、同様の手法にてプラスミドpK113-celB(L6)、pK113-celB(L9)、pK113-celB(L14)、pK113-celB(L18)、およびpK113-celB(L23)を作製した。
【0089】
各リンカーの塩基配列、及びこれに対応するリンカーペプチドのアミノ酸配列は以下の通りである。pK113-BGL7およびpK113-celBへの挿入の際には、両端にXhoI制限酵素処理後配列を付加した形でセンス鎖およびアンチセンス鎖にあたる塩基配列を作製し、それらをアニーリングすることで、各プラスミドへの挿入断片を作製した。
<リンカーL6>
塩基配列:GGTTCTTCAGGTGGTTCG(配列番号20)
アミノ酸配列:GSSGGS(配列番号21)
<リンカーL9>
塩基配列:GGTTCGAGTGGTTCTTCAGGTGGTTCG(配列番号22)
アミノ酸配列:GSSGSSGGS(配列番号23)
<リンカーL14>
塩基配列:GGTTCGAGTGGTTCTTCAGGTGGTTCTGGTGGATCTGGTTCG(配列番号24)
アミノ酸配列:GSSGSSGGSGGSGS(配列番号25)
<リンカーL18>
塩基配列:
GGTTCTTCAGGTGGTTCGAGTGGTTCTTCAGGTGGTTCTGGTGGATCTGGTTCG(配列番号26)
アミノ酸配列:GSSGGSSGSSGGSGGSGS(配列番号27)
<リンカーL23>
塩基配列:
GGTTCTTCAGGTGGTTCTGGTGGATCTGGTTCGAGTGGTTCTTCAGGTGGTTCTGGTGGATCTGGTTCG(配列番号28)
アミノ酸配列:GSSGGSGGSGSSGSSGGSGGSGS(配列番号29)
【0090】
(2)形質転換
これらのプラスミドを用いて、清酒酵母きょうかい9号を公知の手法、より具体的には、「酵母遺伝子実験マニュアル(丸善株式会社)P.9〜P.17」に表記されている手法に従い変異処理して、ウラシル要求性とリシン要求性を併せ持つ、GRI−117−UK株を取得した(月桂冠株式会社保有)。本株を宿主とし、酢酸リチウム法にてpK113-BGL7、及びpK113-celBをそれぞれ形質転換し、染色体中に2コピーのβ-グルコシダーゼ遺伝子が挿入された清酒酵母と、染色体中に2コピーのエンドグルカナーゼが挿入された清酒酵母を作製した。
【0091】
(3)β-グルコシダーゼ活性の測定
5mlのSD培地(ΔURA)を用いて、上記の各酵母を30℃で24時間培養した。OD600が5ml当たり0.1となるように前培養液を5mlのYPD培地に植菌し、30℃で48時間振盪培養した。これを、5000×gで5分間遠心することにより集菌し、滅菌水で洗浄した後同様にした遠心により集菌した。この菌体に基質溶液(1mMのp-ニトロフェニルβ-D-グルコピラノシド (sigma社)水溶液(pH5.0))を0.4ml添加した。このときのOD600は0.5程度となる。さらに37℃で10分間反応させた後、0.5MのNa2CO3を0.4ml添加し、遊離したp-ニトロフェノール量を415nmの吸光度を測定して定量した。1分間に1μmolのp-ニトロフェノールが生成する活性を1Uとした。
【0092】
(4)エンドグルカナーゼ活性の測定
5mlのSD培地(ΔURA)を用いて、上記の各酵母を30℃で24時間培養した。OD600が5ml当たり0.1となるように前培養液を5mlのYPD培地に植菌し、30℃で48時間振盪培養した。これを、5000×gで5分間遠心することにより集菌し、滅菌水で洗浄した後同様にした遠心により集菌した。この菌体に基質溶液(0.1重量%の大麦のβ-グルカン(sigma社)水溶液(pH4.0))を0.5ml添加した。このときのOD600は10程度となる。さらに40℃で30分間反応させた後、15000×gで10分間遠心し、上清中の還元糖濃度をソモギ−ネルソン法に従い測定した。1分間に1μmolの還元糖が生成する活性を1Uとした。
【0093】
(5)結果
結果を図1に示す。図1から、菌体の乾燥重量当たりのβ-グルコシダーゼ活性は、β-グルコシダーゼとα-アグルチニンとの間に6〜9アミノ酸残基からなるリンカーペプチドを介在させた場合、リンカーペプチドを含まない場合に比べて、約6〜7倍に増大することが分かる。
【0094】
また、菌体の乾燥重量当たりのエンドグルカナーゼ活性は、エンドグルカナーゼとα-アグルチニンとの間に18アミノ酸残基からなるリンカーペプチドを介在させた場合、リンカーペプチドを含まない場合に比べて、約5倍に増大することが分かる。
【0095】
なお、「科学と工業」Vol.78(6),p16-21(2004)には、糸状菌リゾプス・オリゼのリパーゼを酵母サッカロマイセス・セレビシエの細胞表層に提示するにあたり、リパーゼとα-アグルチニンのC末端領域との間にセリンとグリシンとからなる7〜14アミノ酸のリンカーペプチドを介在させることにより、リパーゼ活性が2倍に向上したことが記載されている(19頁、表1)。本発明では、これに比べてリンカー挿入による酵素活性増大効果が非常に高い。
【実施例3】
【0096】
分泌シグナル配列が酵素活性に与える影響の検討
(1)プラスミドの構築
実施例1で得たプラスミド(pK113-BGL7)において、β-グルコシダーゼ遺伝子の分泌シグナル配列を替えた数種類のプラスミドを調製した。詳しくはAspergillus oryzae由来β-グルコシダーゼ(BGL1、BGL7)及びRhizopus oryzae由来グルコアミラーゼ(GlaR)の分泌シグナル配列を1個、ないしは2個連結したものを調製した。この際、翻訳開始コドン直前の制限酵素サイトをEcoRIからSalIに変更した。それぞれの分泌シグナル配列は実施例1と同様の手順に従い、A. oryzaeのPoly(A)+RNAもしくはプラスミドpNGB1を鋳型としてPCR法により取得し、BGL7プロ配列に連結した。そして、分泌シグナル配列を置換したプラスミド、pK113-BGL7(d7)、pK113-BGL7(d1V7)、pK113-BGL7(d7D7)、およびpK113-BGL7(dR7)を作製した。実施例1で取得したプラスミド(pK113-BGL7)は、GlaRの分泌シグナル配列とBGL7の分泌シグナル配列を有する。なお、BGL7成熟配列を以下に示す。
【0097】
<塩基配列>
GATGATCTCGCGTACTCCCCTCCTTTCTACCCTTCCCCATGGGCAGATGGTCAGGGTGAATGGGCGGAAGTATACAAACGCGCTGTAGACATAGTTTCCCAGATGACGTTGACAGAGAAAGTCAACTTAACGACTGGAACAGGATGGCAACTAGAGAGGTGTGTTGGACAAACTGGCAGTGTTCCCAGACTCAACATCCCCAGCTTGTGTTTGCAGGATAGTCCTCTTGGTATTCGTTTCTCGGACTACAATTCAGCTTTCCCTGCGGGTGTTAATGTCGCTGCCACCTGGGACAAGACGCTCGCCTACCTTCGTGGTCAGGCAATGGGTGAGGAGTTCAGTGATAAGGGTATTGACGTTCAATTGGGTCCTGCTGCTGGCCCTCTCGGTGCTCATCCGGATGGCGGTAGAAACTGGGAAGGTTTCTCACCAGATCCAGCCCTCACCGGTGTACTTTTTGCGGAGACGATTAAGGGTATTCAAGATGCTGGTGTCATTGCGACAGCTAAGCATTATATCATGAACGAACAAGAGCATTTCCGCCAACAACCCGAGGCTGCGGGTTACGGATTCAACGTAAGCGACAGTTTGAGTTCCAACGTTGATGACAAGACTATGCATGAATTGTACCTCTGGCCCTTCGCGGATGCAGTACGCGCTGGAGTCGGTGCTGTCATGTGCTCTTACAACCAAATCAACAACAGCTACGGTTGCGAGAATAGCGAAACTCTGAACAAGCTTTTGAAGGCGGAGCTTGGTTTCCAAGGCTTCGTCATGAGTGATTGGACCGCTCATCACAGCGGCGTAGGCGCTGCTTTAGCAGGTCTGGATATGTCGATGCCCGGTGATGTTACCTTCGATAGTGGTACGTCTTTCTGGGGTGCAAACTTGACGGTCGGTGTCCTTAACGGTACAATCCCCCAATGGCGTGTTGATGACATGGCTGTCCGTATCATGGCCGCTTATTACAAGGTTGGCCGCGACACCAAATACACCCCTCCCAACTTCAGCTCGTGGACCAGGGACGAATATGGTTTCGCGCATAACCATGTTTCGGAAGGTGCTTACGAGAGGGTCAACGAGTTCGTGGACGTGCAACGCGATCATGCCGACCTAATCCGTCGCATCGGCGCGCAGAGCACTGTTCTGCTGAAGAACAAGGGTGCCTTGCCCTTGAGCCGCAAGGAAAAGCTGGTCGCCCTTCTGGGAGAGGATGCGGGTTCCAACTCGTGGGGCGCTAACGGCTGTGATGACCGTGGTTGCGATAACGGTACCCTTGCCATGGCCTGGGGTAGCGGTACTGCGAATTTCCCATACCTCGTGACACCAGAGCAGGCGATTCAGAACGAAGTTCTTCAGGGCCGTGGTAATGTCTTCGCCGTGACCGACAGTTGGGCGCTCGACAAGATCGCTGCGGCTGCCCGCCAGGCCAGCGTATCTCTCGTGTTCGTCAACTCCGACTCAGGAGAAGGCTATCTTAGTGTGGATGGAAATGAGGGCGATCGTAACAACATCACTCTGTGGAAGAACGGCGACAATGTGGTCAAGACCGCAGCGAATAACTGTAACAACACCGTTGTCATCATCCACTCCGTCGGACCAGTTTTGATCGATGAATGGTATGACCACCCCAATGTCACTGGTATTCTCTGGGCTGGTCTGCCAGGCCAGGAGTCTGGTAACTCCATTGCCGATGTGCTGTACGGTCGTGTCAACCCTGGCGCCAAGTCTCCTTTCACTTGGGGCAAGACCAGAGAGTCGTATGGTTCTCCCTTGGTCAAGGATGCCAACAATGGCAACGGAGCGCCCCAGTCTGATTTCACCCAGGGTGTTTTCATCGATTACCGCCATTTCGATAAGTTCAATGAGACCCCTATCTACGAGTTTGGCTACGGCTTGAGCTACACCACCTTCGAGCTCTCCGACCTCCATGTTCAGCCCCTGAACGCGTCCCGATACACTCCCACCAGTGGCATGACTGAAGCTGCAAAGAACTTTGGTGAAATTGGCGATGCGTCGGAGTACGTGTATCCGGAGGGGCTGGAAAGAATCCATGAGTTTATCTATCCCTGGATCAACTCTACCGACCTGAAGGCATCGTCTGACGATTCTAACTACGGCTGGGAAGACTCCAAGTATATTCCCGAAGGCGCCACGGATGGGTCTGCCCAGCCCCGTTTGCCCGCTAGTGGTGGTGCCGGAGGAAACCCCGGTCTGTACGAGGATCTTTTCCGCGTCTCTGTGAAGGTCAAGAACACGGGCAATGTCGCCGGTGATGAAGTTCCTCAATTGTACGTTTCCCTAGGCGGCCCGAATGAGCCCAAGGTGGTACTGCGCAAGTTTGAGCGTATTCACTTGGCCCCTTCGCAGGAGGCCGTGTGGACAACGACCCTTACCCGTCGTGACCTTGCAAACTGGGACGTTTCGGCTCAGGACTGGACCGTCACTCCTTACCCCAAGACGATCTACGTTGGAAACTCCTCACGGAAACTGCCGCTCCAGGCGTCGCTGCCTAAGGCCCAGGGT(配列番号34)
【0098】
<アミノ酸配列>
DDLAYSPPFYPSPWADGQGEWAEVYKRAVDIVSQMTLTEKVNLTTGTGWQLERCVGQTGSVPRLNIPSLCLQDSPLGIRFSDYNSAFPAGVNVAATWDKTLAYLRGQAMGEEFSDKGIDVQLGPAAGPLGAHPDGGRNWEGFSPDPALTGVLFAETIKGIQDAGVIATAKHYIMNEQEHFRQQPEAAGYGFNVSDSLSSNVDDKTMHELYLWPFADAVRAGVGAVMCSYNQINNSYGCENSETLNKLLKAELGFQGFVMSDWTAHHSGVGAALAGLDMSMPGDVTFDSGTSFWGANLTVGVLNGTIPQWRVDDMAVRIMAAYYKVGRDTKYTPPNFSSWTRDEYGFAHNHVSEGAYERVNEFVDVQRDHADLIRRIGAQSTVLLKNKGALPLSRKEKLVALLGEDAGSNSWGANGCDDRGCDNGTLAMAWGSGTANFPYLVTPEQAIQNEVLQGRGNVFAVTDSWALDKIAAAARQASVSLVFVNSDSGEGYLSVDGNEGDRNNITLWKNGDNVVKTAANNCNNTVVIIHSVGPVLIDEWYDHPNVTGILWAGLPGQESGNSIADVLYGRVNPGAKSPFTWGKTRESYGSPLVKDANNGNGAPQSDFTQGVFIDYRHFDKFNETPIYEFGYGLSYTTFELSDLHVQPLNASRYTPTSGMTEAAKNFGEIGDASEYVYPEGLERIHEFIYPWINSTDLKASSDDSNYGWEDSKYIPEGATDGSAQPRLPASGGAGGNPGLYEDLFRVSVKVKNTGNVAGDEVPQLYVSLGGPNEPKVVLRKFERIHLAPSQEAVWTTTLTRRDLANWDVSAQDWTVTPYPKTIYVGNSSRKLPLQASLPKAQG(配列番号35)
【0099】
また、実施例1のプラスミド(pK113-celB)も同様に、エンドグルカナーゼ遺伝子の分泌シグナル配列を替えた数種類のプラスミドを調製した。詳しくはAspergillus oryzae由来エンドグルカナーゼ(CelA、CelB)及びRhizopus oryzae由来グルコアミラーゼ(GlaR)の分泌シグナル配列を1個、ないしは2個連結したものを調製した。この際、翻訳開始コドン直前の制限酵素サイトをEcoRIからSalIに変更した。それぞれの分泌シグナル配列は実施例1と同様の手順に従い、A. oryzaeのPoly(A)+RNAもしくはプラスミドpNGB1を鋳型としてPCR法により取得し、celB成熟配列に連結した。そして、分泌シグナル配列を置換したプラスミド、pK113-celB (dB)、pK113-celB (dA2B)、pK113-celB (dB2B)、およびpK113-celB (dRB)を作製した。なお、celB成熟配列を以下に示す。
【0100】
<塩基配列>
CAGGTGGGAACTACAGCGGACGCCCATCCCAGACTCACTACGTATAAATGTACTTCACAGAACGGTTGCACGAGGCAGAACACCTCAGTCGTCCTTGATGCAGCAACCCATTTTATCCACAAGAAAGGAACACAAACATCCTGCACCAACAGCAACGGCTTAGACACTGCCATTTGTCCGGACAAACAGACCTGCGCGGACAACTGTGTCGTTGATGGGATCACGGACTACGCTAGCTACGGCGTCCAGACGAAGAATGACACGTTGACCCTTCAACAATACCTGCAAACTGGGAATGCCACAAAGTCCCTGTCACCGCGCGTCTACCTCCTCGCTGAAGACGGAGAGAACTATTCCATGCTGAAACTCCTGAATCAGGAATTCACCTTCGATGTTGATGCCTCCACCCTCGTCTGCGGCATGAATGGTGCTCTATATCTCTCTGAAATGGAGGCTTCTGGCGGAAAGAGTTCCCTAAATCAAGCCGGAGCCAAATACGGAACCGGTTACTGTGATGCCCAATGCTACACCACGCCTTGGATCAACGGCGAAGGCAACACCGAGAGTGTCGGTTCCTGCTGTCAGGAAATGGATATTTGGGAAGCCAACGCCCGAGCAACAGGGCTTACACCACACCCTTGCAACACAACCGGTCTGTACGAGTGCAGCGGCTCAGGATGCGGAGACTCCGGGGTCTGTGACAAGGCCGGCTGTGGATTCAATCCATATGGCCTAGGCGCAAAGGACTACTACGGTTACGGTCTCAAGGTCAACACCAACGAGACATTCACTGTCGTAACTCAGTTCCTCACAAACGATAACACAACTTCGGGCCAGCTCAGCGAAATCCGCCGTCTCTATATCCAGAACGGCCAGGTCATTCAAAATGCTGCCGTTACCTCTGGAGGAAAAACTGTTGATTCAATCACAAAGGACTTCTGCAGCGGCGAAGGAAGTGCCTTCAACCGACTTGGCGGCCTCGAGGAAATGGGCCACGCCTTGGGCCGCGGCATGGTTCTTGCGCTCAGTATCTGGAACGATGCAGGCTCATTTATGCAATGGCTTGATGGTGGCAGTGCCGGACCGTGCAACGCAACGGAGGGAAACCCGGCGTTGATCGAGAAGTTGTATCCGGATACTCATGTGAAGTTTTCCAAGATTCGGTGGGGAGATATTGGATCTACCTACAGGCATGGT(配列番号36)
【0101】
<アミノ酸配列>
QVGTTADAHPRLTTYKCTSQNGCTRQNTSVVLDAATHFIHKKGTQTSCTNSNGLDTAICPDKQTCADNCVVDGITDYASYGVQTKNDTLTLQQYLQTGNATKSLSPRVYLLAEDGENYSMLKLLNQEFTFDVDASTLVCGMNGALYLSEMEASGGKSSLNQAGAKYGTGYCDAQCYTTPWINGEGNTESVGSCCQEMDIWEANARATGLTPHPCNTTGLYECSGSGCGDSGVCDKAGCGFNPYGLGAKDYYGYGLKVNTNETFTVVTQFLTNDNTTSGQLSEIRRLYIQNGQVIQNAAVTSGGKTVDSITKDFCSGEGSAFNRLGGLEEMGHALGRGMVLALSIWNDAGSFMQWLDGGSAGPCNATEGNPALIEKLYPDTHVKFSKIRWGDIGSTYRHG(配列番号37)
【0102】
各分泌シグナルの名称:構成要素、塩基配列、及びこれに対応するアミノ酸配列は以下の通りである。
<β-グルコシダーゼ>
d7:BGL7の分泌シグナル配列、ATGAAGCTTGGTTGGATCGAGGTGGCCGCATTGGCGGCTGCCTCAGTAGTCAGTGCCAAG(配列番号38)、MKLGWIEVAALAAASVVSAK(配列番号39)
d1V7:BGL1の分泌シグナル配列とBGL7の分泌シグナル配列を連結、ATGAAGCTGTCAGCGGCACTTTCTACGCTTGCTGCATTGCAGCCAGCAGTCGGTGCTGCTGTTATGAAACTTGGTTGGATCGAGGTGGCCGCATTGGCGGCTGCCTCAGTAGTCAGTGCCAAG(配列番号40)、MKLSAALSTLAALQPAVGAAVMKLGWIEVAALAAASVVSAK(配列番号41)
dR7:GlaRの分泌シグナル配列とBGL7の分泌シグナル配列を連結、ATGCAACTGTTCAATTTGCCATTGAAAGTTTCATTCTTTCTCGTCCTCTCTTACTTTTCTTTGCTCGTTTCTGCTGCTGAAATTATGAAACTTGGTTGGATCGAGGTGGCCGCATTGGCGGCTGCCTCAGTAGTCAGTGCCAAG(配列番号42)、MQLFNLPLKVSFFLVLSYFSLLVSAAEIMKLGWIEVAALAAASVVSAK(配列番号43)
【0103】
<エンドグルカナーゼ>
dB:CelBの分泌シグナル配列、ATGATCTGGACACTCGCTCCCTTTGTGGCACTCCTGCCACTGGTAACTGCCCAG(配列番号44)、MIWTLAPFVALLPLVTAQ(配列番号45)
dB2B:CelBの分泌シグナル配列を2つ連結、ATGATCTGGACACTCGCTCCCTTTGTGGCACTCCTGCCACTGGTAACTGCTCAACAAATGATTTGGACACTCGCTCCCTTTGTGGCACTCCTGCCACTGGTAACTGCCCAG(配列番号46)、MIWTLAPFVALLPLVTAQQMIWTLAPFVALLPLVTAQ(配列番号47)
dA2B:CelAの分泌シグナル配列とCelBの分泌シグナル配列を連結、ATGAAGCTCTCATTGGCACTTGCTACGCTCGTGGCCACAGCATTCAGTCAAGAGATGATCTGGACACTCGCTCCCTTTGTGGCACTCCTGCCACTGGTAACTGCCCAG(配列番号48)、MKLSLALATLVATAFSQEMIWTLAPFVALLPLVTAQ(配列番号49)
dRB:GlaRの分泌シグナル配列とCelBの分泌シグナル配列を連結、ATGCAACTGTTCAATTTGCCATTGAAAGTTTCATTCTTTCTCGTCCTCTCTTACTTTTCTTTGCTCGTTTCTGCTGCTGAAATTATGATCTGGACACTCGCTCCCTTTGTGGCACTCCTGCCACTGGTAACTGCCCAG(配列番号50)、MQLFNLPLKVSFFLVLSYFSLLVSAAEIMIWTLAPFVALLPLVTAQ(配列番号51)
【0104】
(2)形質転換
実施例2と同様に行い、染色体中に2コピーのβ-グルコシダーゼ遺伝子が組み込まれた清酒酵母と、染色体中に2コピーのエンドグルカナーゼが組み込まれた清酒酵母を作製した。
【0105】
(3)β-グルコシダーゼ活性の測定
5mlのSD培地(ΔURA)を用いて、上記の各酵母を30℃で24時間培養した。OD600が5ml当たり0.1となるように前培養液を5mlのSDC培地(ΔURA,2重量%カザミノ酸)に植菌し、30℃で64時間振盪培養した。これを、5000×gで5分間遠心することにより集菌し、滅菌水で洗浄した後同様にした遠心により集菌した。この菌体に基質溶液(1mMのp-ニトロフェニルβ-D-グルコピラノシド (sigma社)水溶液(pH5.0))を0.4ml添加した。このときのOD600は0.5となる。さらに37℃で3分間反応させた後、0.5MのNa2CO3を0.4ml添加し、遊離したp-ニトロフェノール量を415nmの吸光度を測定して定量した。1分間に1μmolのp-ニトロフェノールが生成する活性を1Uとした。
【0106】
(4)エンドグルカナーゼ活性の測定
5mlのSD培地(ΔURA)を用いて、上記の各酵母を30℃で24時間培養した。OD600が5ml当たり0.1となるように前培養液を5mlのSDC培地(ΔURA,2重量%カザミノ酸)に植菌し、30℃で64時間振盪培養した。これを、5000×gで5分間遠心することにより集菌し、滅菌水で洗浄した後同様にした遠心により集菌した。この菌体に50 mMの酢酸-酢酸ナトリウム緩衝液(pH4.5)を0.2 ml添加し懸濁後、基質溶液(2重量%のAZO-CM-Cellulose(Megazyme社)水溶液(pH4.5))を0.2ml添加した。このときのOD600は25となる。さらに37℃で15分間反応させた後、反応停止液(2.4%酢酸ナトリウム、0.4%酢酸亜鉛、80%エタノール(pH5.0))1 mlを加え撹拌後、15000×gで10分間遠心し、上清の590 nmにおける吸光度を測定した。1分間に590 nmにおける吸光度を1上昇させる活性を1Uとした。
【0107】
(5)結果
結果を図2に示す。図2から、菌体の乾燥重量当たりのβ-グルコシダーゼ活性は、開始コドン直前の配列を制限酵素EcoRI認識配列からSalI認識配列に変更することで、酵母細胞表層における酵素活性が実施例1の株に比べ約1.7倍に向上することが分かった。そして、GlaRの分泌シグナルとBGL7の分泌シグナルとを連結したものが、BGL7の活性が最も高くなる最適な分泌シグナル配列であることが明らかとなった。
【0108】
また、菌体の乾燥重量当たりのエンドグルカナーゼ活性は、開始コドン直前の配列を制限酵素EcoRI認識配列からSalI認識配列に変更し、CelAの分泌シグナルとCelBの分泌シグナルとを連結した場合が最も高活性であり、その酵母細胞表層における酵素活性は実施例1の株に比べ約6.5倍に向上した。
【実施例4】
【0109】
リンカー長と分泌シグナル配列の最適化が酵素活性に与える影響の検討
(1)プラスミドの構築
実施例2と3で得た結果を元に、リンカー長と分泌シグナル配列を共に最適化したβ-グルコシダーゼを発現するプラスミドを作製した。詳しくは、開始コドン直前の配列がSalI認識配列でGlaRの分泌シグナルとBGL7の分泌シグナルとを連結し、さらにβ-グルコシダーゼとα-アグルチニンとの間に6アミノ酸残基からなるリンカーペプチドを介在させたプラスミドpK113-BGL7(dR7-L6)を常法に従い作製した。
【0110】
同様に、リンカー長と分泌シグナル配列を共に最適化したエンドグルカナーゼを発現するプラスミドを作製した。詳しくは、開始コドン直前の配列がSalI認識配列でCelAの分泌シグナルとCelBの分泌シグナルとを連結し、さらにエンドグルカナーゼとα-アグルチニンとの間に18アミノ酸残基からなるリンカーペプチドを介在させたプラスミドpK113-celB(dA2B-L18)を常法に従い作製した。
【0111】
(2)形質転換
実施例2と同様に行い、染色体中に2コピーのβ-グルコシダーゼ遺伝子が組み込まれた清酒酵母と、染色体中に2コピーのエンドグルカナーゼが組み込まれた清酒酵母を作製した。
(3)β-グルコシダーゼ活性の測定
実施例3と同様に行った。
(4)エンドグルカナーゼ活性の測定
実施例3と同様に行った。
(5)結果
結果を図3に示す。図3から、菌体の乾燥重量当たりのβ-グルコシダーゼ活性及びエンドグルカナーゼ活性は、リンカー長と分泌シグナル配列を共に最適化することで、それぞれ最適化前の3.2倍、8.6倍に向上した。
【実施例5】
【0112】
β-グルカンからのエタノール発酵
β-グルカンを単一炭素源とする培地(6.7g/l YNB w/o amino acids, 20g/l casamino acids, 20g/lβ-glucan)に、実施例1と4で作製した各BGL7発現株/CelB発現株をそれぞれOD660=5となるように加え(総菌体量: OD660=10)、30℃で反応させたときのエタノール濃度をガスクロマトグラフィーにて測定した。この際、比較対照として、酵素を細胞表層提示しない親株とβ-グルカンの代わりにグルコースを単一炭素源とする培地(6.7g/l YNB w/o amino acids, 20g/l casamino acids, 20g/l glucose)を用意した。
【0113】
その結果を図4に示す。親株はβ-グルカン培地からエタノールを生成できないのに対し、BGL7発現株/CelB発現株を混合した系は良好にエタノール発酵した。この時の発酵速度はリンカー長と分泌シグナル配列を共に最適化した株を混合した系が最も大きく、グルコースからのエタノール生産速度の約7割にも達していた。このことから本発明の作製株を利用すれば、植物材料を既知の加水分解処理法にて得られるセルロース分解物から、グルコースと同等の速度でエタノールを生産できることが期待できる。
【0114】
なお、最適化前の株においても反応24時間後には約0.9%のエタノールが生産され、本株でもエタノール生産に十分利用できることを確認した。
【実施例6】
【0115】
β-グルカンからのエタノール発酵
(1)β−グルコシダーゼ・エンドグルカナーゼを含む発現ベクターの構築
(A) ウラシルマーカー、β−グルコシダーゼ、およびエンドグルカナーゼを含むプラスミドpUDB7CBを作製した。具体的には、5’−CCGCgacgtcTTGGATATAGAAAATTAACG-3'(配列番号30:P-SED1(AatII)F)及び5'-CCGCgacgtcTTTGATTATGTTCTTTCTAT-3'(配列番号31:CAS1(AatII)R)の2のプライマーを用いて、実施例1において作製したpK113-celBを鋳型とし、プロモーターからターミネーターに相当する部分に対してPCRを行い、エンドグルカナーゼ発現合成遺伝子をコードするPCR産物を取得した。得られたPCR産物を制限酵素AatIIで消化し、精製を行った。実施例1において作製したpK113-BGL7を制限酵素AatIIで消化し、切断部位に上記エンドグルカナーゼ発現合成遺伝子を挿入した。
【0116】
(B) ウラシルマーカー、リンカー長最適化β−グルコシダーゼ、およびリンカー長最適化エンドグルカナーゼを含むプラスミドpUDB7CBIIを作製した。具体的には、pK113-celBの代わりに実施例2で作製したpK113-celB(L18)を、pK113-BGL7の代わりに実施例2で作製したpK113-BGL7(L6)を使用し、(A)と同様の手法で作製した。
【0117】
(C) リシンマーカー、およびβ−グルコシダーゼを含むプラスミドpKDB7を作製した。具体的には、5’−GCGgacgtcCACTTGCAATTACATA-3'(配列番号32:LYS2(AatII)F)及び5'-CTGCACGTGATTTACAGTTCTTATTCAATA-3'(配列番号33:LYS2(Blunt)R)の2のプライマーを用いて、酵母Saccharomyces cerevisiae X2180-1Aの染色体DNAを鋳型としてPCRを行い、LYS2遺伝子をコードするPCR産物を取得した。得られたPCR産物を制限酵素AatIIで消化し、精製を行った。実施例1において作製したpK113-BGL7を制限酵素AatIIおよび制限酵素NaeIで消化し、切断部位に上記LYS2遺伝子を挿入した。
【0118】
(D) リシンマーカー、およびリンカー長最適化β−グルコシダーゼ含むプラスミドpKDB7(L6)を作製した。具体的には、pK113-BGL7の代わりに実施例2で作製したpK113-BGL7(L6)を使用し、(C)と同様の手法で作製した。
【0119】
(E) リシンマーカー、リンカー長最適化β−グルコシダーゼ、およびリンカー長最適化エンドグルカナーゼを含むプラスミドpKDB7CBIIを作製した。具体的には、pK113-celBの代わりに実施例2で作製したpK113-celB(L18)を、pK113-BGL7の代わりに(D)で作製したpKDB7(L6)を使用し、(A)と同様の手法で作製した。
【0120】
(2)表層提示酵母の作製
酢酸リチウム法を用いて、宿主GRI-117-UKに対して、pUDB7CBおよびpKDB7を形質転換し、β-グルコシダーゼ遺伝子4コピーとエンドグルカナーゼ遺伝子2コピーとを染色体中に含む清酒酵母であって、リンカーを含まない酵母UK/UDB7CB/KDB7株を作製した。
【0121】
同様にして、pUDB7CBIIおよびpKDB7(L6)を用いて、β-グルコシダーゼ遺伝子4コピーとエンドグルカナーゼ遺伝子2コピーとを染色体中に含み、β-グルコシダーゼ遺伝子とα-アグルチニンのC末端領域との間に6アミノ酸残基のリンカーペプチドを含み、エンドグルカナーゼ遺伝子とα-アグルチニンのC末端領域との間に18アミノ酸残基のリンカーペプチドを含む酵母UK/UDB7CBII/KDB7(L6)株を作製した。
【0122】
同様にして、pUDB7CBIIおよびpKDB7CBIIを用いて、β-グルコシダーゼ遺伝子4コピーとエンドグルカナーゼ遺伝子4コピーとを染色体中に含む清酒酵母であって、β-グルカナーゼ遺伝子とα-アグルチニンのC末端領域との間に6アミノ酸残基のリンカーペプチドを含み、エンドグルカナーゼ遺伝子とα-アグルチニンのC末端領域との間に18アミノ酸残基のリンカーペプチドを含む酵母UK/UDB7CBII/KDB7CBII株を作製した。
【0123】
同様にして、pK113-BGL7を用いて、β-グルコシダーゼ遺伝子2コピーが染色体中に挿入された清酒酵母UK/UDB7株を作製した。また、pK113-celBを用いて、エンドグルカナーゼ遺伝子2コピーが染色体中に挿入された清酒酵母UK/UDCB株を作製した。
(3)β-グルカンを原料としたエタノール発酵
上記のようにして得た各形質転換体、及び宿主である清酒酵母GRI-117-UKを、それぞれ5mlのYPD培地に植菌して30℃で16時間前培養した。これを100mlのYPD培地に加えて30℃で30時間振盪培養した。5,000 × gで5分間遠心することにより集菌し、2%の大麦β-グルカン(sigma社)水溶液(pH5.0)にOD600が5となるように懸濁した。
【0124】
これを37℃で16時間反応させた後、菌液中のエタノール濃度をガスクロマトグラフィーにて測定した。
【0125】
結果を図5に示す。図5から、β-グルコシダーゼを表層提示する酵母とエンドグルカナーゼを表層提示する酵母とを用いてエタノール発酵する場合に比べて、共提示酵母を用いてエタノール発酵する方が、菌体の乾燥重量当たりのエタノール生成速度が高いことが分かる。さらに、リンカーペプチドを介在させ、β-グルコシダーゼのコピー数を4コピーにすることにより一層エタノール生産速度が向上することが分かる。
【0126】
また、これらの共提示株は、既存のセルラーゼ表層提示実験室酵母MT8-1/pBG211/pEG23u31H6(Murai et al., Applied and Environmental Microbiology, 2002, p.5136-5141)よりも高いエタノール生産性を示した。この株は自律複製型のマルチコピープラスミドによる形質転換株である。詳しくは、Aspergillus aculeatus β−グルコシダーゼを表層提示するためのプラスミドpBG211、及びTrichoderma reeseiエンドグルカナーゼ(EGII) を表層提示するためのプラスミドpEG23u31H6を、それぞれプラスミド状態で複数コピー保有する。導入された遺伝子のコピー数は一般的に数十コピーと考えられる。各プラスミドには本発明で使用したリンカーは含まれていない。
【0127】
本実施例で作製した本発明の酵母(スーパー酵母)では、導入遺伝子コピー数はこの既存株より少ないながらも、高いエタノール生産性を示した。理由としては、ゲノム組み込み型による形質の安定性向上、宿主のエタノール発酵適応性、SED1プロモーターによる高発現など、複数の要因による相乗効果の結果と考えられる。
【実施例7】
【0128】
モデル基質からのエタノール発酵
植物材料を既知の加水分解処理法にて得られる処理液中に含まれるセルロース分解物のモデル基質として、基質溶液A( 5重量%グルコース、2重量%セロビオース、20mMリン酸ナトリウムバッファー(pH5.0))、及び基質溶液B( 5重量%グルコース、2重量%セロビオース、20mMリン酸ナトリウムバッファー(pH5.0)、2重量%カザミノ酸)を用いた。
【0129】
各基質溶液に、親株である清酒酵母GRI-117-UK株、及び上記のようにして作製した清酒酵母UK/UDB7CBII/KDB7CBII株を、それぞれOD600が20となるように添加し、30℃で24時間反応させた。反応後の菌液中のエタノール濃度、グルコース濃度、及びエタノールの収率を以下の表1に示す。
【0130】
【表1】

【0131】
エタノールの収率:糖の全重量に対するエタノールの重量の比率
【0132】
基質の糖の全てがエタノールにまで分解された場合の収率の最大値は0.520であることから、基質溶液Aを本発明のセルロース分解酵素提示酵母を用いてエタノール発酵させた場合、非常に効率良く糖がアルコール発酵されたことが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0133】
【図1】リンカー長と酵素活性との関係を示す図である。
【図2】分泌シグナル配列と酵素活性との関係を示す図である。
【図3】リンカー長と分泌シグナル配列を共に最適化したときの酵素活性 を示す図である。
【図4】本発明のセルロース分解酵素提示酵母によるエタノール生成速 度を示す図である。
【図5】本発明のセルロース分解酵素提示酵母によるエタノール生成速度 を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の(a)及び(b)のポリヌクレオチドが染色体に組み込まれ、β-グルコシダーゼとエンドグルカナーゼとを表層に共提示する清酒酵母。
(a) 5’末端側から順に、酵母細胞で機能する分泌シグナル配列、β-グルコシダーゼをコードする配列、及び細胞表層局在タンパク質又はその細胞膜結合領域をコードする配列を含むポリヌクレオチド
(b) 5’末端側から順に、酵母細胞で機能する分泌シグナル配列、エンドグルカナーゼをコードする配列、及び細胞表層局在タンパク質又はその細胞膜結合領域をコードする配列を含むポリヌクレオチド
【請求項2】
(a)のポリヌクレオチドが、β-グルコシダーゼをコードする配列と、細胞表層局在タンパク質又はその細胞膜結合領域をコードする配列との間に、6〜90塩基長のリンカーが介在したものであり、
(b)のポリヌクレオチドが、エンドグルカナーゼをコードする配列と、細胞表層局在タンパク質又はその細胞膜結合領域をコードする配列との間に、6〜90塩基長のリンカーが介在したものである、
請求項1に記載の清酒酵母。
【請求項3】
(a)の分泌シグナル配列が2つ以上の分泌シグナル配列の組み合わせである、請求項1又は2に記載の清酒酵母。
【請求項4】
(a)の分泌シグナル配列が2種以上の分泌シグナル配列の組み合わせである、請求項1〜3のいずれかに記載の清酒酵母。
【請求項5】
(a)の分泌シグナル配列が、分泌されるβ-グルコシダーゼが本来有する分泌シグナル配列と異なる分泌シグナル配列との組み合わせである請求項1〜4のいずれかに記載の清酒酵母。
【請求項6】
(a)の分泌シグナル配列が、(1)アスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)由来β-グルコシダーゼ(BGL7)の分泌シグナル配列とアスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)由来β-グルコシダーゼ(BGL1)の分泌シグナル配列との組み合わせ、又は(2)BGL7の分泌シグナル配列とリゾプス・オリゼ(Rhizopus oryzae)由来グルコアミラーゼ(GlaR)の分泌シグナル配列との組み合わせである、請求項1〜5のいずれかに記載の清酒酵母。
【請求項7】
(b)の分泌シグナル配列が、エンドグルカナーゼが本来有する分泌シグナル配列とアスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)由来エンドグルカナーゼ(CelA)の分泌シグナルとの組み合わせである、請求項1〜6のいずれかに記載の清酒酵母。
【請求項8】
(b)の分泌シグナル配列がCelAの分泌シグナル配列とアスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)由来エンドグルカナーゼ(CelB)の分泌シグナル配列との組み合わせである、請求項1〜7のいずれかに記載の清酒酵母。
【請求項9】
(a)及び/又は(b)のヌクレオチドが、複数コピー染色体に組み込まれた請求項1〜8のいずれかに記載の清酒酵母。
【請求項10】
細胞表層局在タンパク質又はその細胞膜結合領域をコードする配列が、酵母のα−アグルチニンのC末端から320ないしは600個のアミノ酸をコードする配列である請求項1〜9のいずれかに記載の清酒酵母。
【請求項11】
β-グルコシダーゼ、及びエンドグルカナーゼが、それぞれ、細胞表層局在タンパク質又はその細胞膜結合領域を介して細胞膜に結合した清酒酵母。
【請求項12】
β-グルコシダーゼと細胞表層局在タンパク質又はその細胞膜結合領域との間に2〜30アミノ酸残基からなるリンカーペプチドが介在し、エンドグルカナーゼと細胞表層局在タンパク質又はその細胞膜結合領域との間に2〜30アミノ酸残基からなるリンカーペプチドが介在している、請求項11に記載の清酒酵母。
【請求項13】
請求項1〜11のいずれかに記載の清酒酵母の存在下で、グルコースのβ-グルコシド結合による重合体を分解してグルコースを得、生成するグルコースの発酵によりエタノールを得る、エタノールの製造方法。
【請求項14】
グルコースのβ-グルコシド結合による重合体が、植物材料を加水分解処理して得られる処理物中に含まれるものである請求項13に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−86310(P2008−86310A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−228373(P2007−228373)
【出願日】平成19年9月3日(2007.9.3)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2006年3月5日 社団法人 日本農芸化学会発行の「日本農芸化学会2006年度(平成18年度)大会講演要旨集」に発表
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成16年度、独立行政法人科学技術振興機構、革新技術開発研究事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000165251)月桂冠株式会社 (88)
【Fターム(参考)】