説明

セルロース含有布帛の熱脆化防止のための前処理方法

【解決手段】 本発明の目的は、セルロース系繊維を含む布帛に対して、高温での乾熱セットを行っても、セルロース系繊維の黄変及び風合いの硬化などの脆化が発生することのない布帛の加工方法を提供こと。
【課題】 セルロース系繊維を含む布帛に対して行う前処理加工法であって、布帛に0. 1〜10. 0重量%の分子量1000以下のスルホン酸塩を含む処理液を付与し、その後、乾熱セットする前処理加工法。
【効果】 プレセット加工時にセルロース系繊維を含む布帛に対して、スルホン酸塩を含む処理液を付与することで、セルロース系繊維の黄変、及び強度低下等の脆化の発生が防止される。
処理液を布帛に付与した後、乾熱セットを行うが、その乾熱セットの温度が180〜200℃であるときに極めて有効である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロース系繊維を含む布帛の前処理加工方法に関するものであり、更に詳しくは、セルロース系繊維を含む布帛の熱による黄変や強度低下などの布帛の劣化を防止するための前処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、例えば綿やレーヨン等のセルロース系繊維とポリエステル繊維やポリウレタン弾性繊維などの合成繊維からなる布帛は、染色工程等の前の工程で行う前処理加工としてプレセット加工が行われている(特許文献1参照)。
このプレセット加工は、布帛を180〜200℃程度の乾熱温度でセットするもので、この乾熱セットにより、布帛の寸法安定性の向上や染色シワ防止、或いは、ポリウレタンなどの弾性繊維を用いた布帛に対しては、布帛の耳巻き防止を図ることができる。
【0003】
しかし、このような乾熱セットでは、一般にセルロース系繊維が黄変したり、熱劣化により強度低下などが発生することが多い。
また、布帛が硬化して風合いが悪くなる難点がある。
因みに、セルロース繊維は、約150℃以上の乾熱処理加工を行うと熱酸化が起こり、分解炭化が起こり始める。
【0004】
このように、布帛が熱処理により黄変することは布帛の品質として大きく劣ることとなり、そのための防止方法が必要とされている。
【0005】
【特許文献1】特開平3−234876号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記の如き問題点を背景になされたものである。
すなわち、本発明は、セルロース系繊維を含む布帛に対して、高温での乾熱セットを行っても、セルロース系繊維の黄変及び風合いの硬化などの脆化が発生することのない布帛の加工方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は上記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、黄変防止性物質を特定することで上記の問題点を解決できることを見出し、この知見により本発明に到達したものである。
【0008】
即ち、本発明は、(1)、セルロース系繊維を含む布帛に対して行う前処理加工法であって、布帛に0. 1〜10. 0重量%のスルホン酸塩を含む処理液を付与し、その後、乾熱セットすることを特徴とする前処理加工法に存する。
【0009】
また、本発明は、(2)、処理液がスルホン酸塩と不揮発性の酸を含む処理液である上記(1)記載の前処理加工法。
【0010】
また、本発明は、(3)、処理液がスルホン酸塩とキレート剤を含む処理液である上記(1)記載の前処理加工法。
【0011】
また、本発明は、(4)、処理液がスルホン酸塩と不揮発性の酸とキレート剤を含む処理液である上記(1)記載の前処理加工法に存する。
【0012】
また、本発明は、(5)、布帛がセルロース系繊維の他に合成繊維を含む布帛である上記(1)記載の前処理加工法に存する。
【0013】
また、本発明は、(6)、合成繊維がポリウレタン繊維である上記(5)記載の前処理加工法に存する。
【0014】
また、本発明は、(7)、乾熱セットが180〜200℃で行われる上記(1)記載の前処理加工法に存する。
【0015】
本発明の目的に沿ったものであれば(1)から(7)を適宜組み合わせる構成も採用可能である。
【発明の効果】
【0016】
プレセット加工時にセルロース系繊維を含む布帛に対して、スルホン酸塩を含む処理液を付与することで、セルロース系繊維の黄変、及び強度低下等の脆化の発生が防止される。
特に、セルロース系繊維とポリウレタン系弾性繊維を含む布帛を180℃を越える温度で乾熱セットした場合には、セルロースの黄変及び脆化による強度低下や風合いの硬化を抑えつつポリウレタン系弾性繊維による布帛の耳巻きが防止されるなど、その効果は更に顕著に現れる。
また、不揮発性の酸を加えることでセルロースの黄変や脆化を更に効果的に抑制できる。
同様に布帛にスルホン酸塩とキレート剤を含む処理液を付与することで、或いは、スルホン酸塩とキレート剤と不揮発性の酸を含む処理液を付与することで、熱酸化促進能を有する金属イオンが取り除かれて、更に脆化を抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明は、セルロース系繊維を含む布帛に対して特定の処理液、即ちスルホン酸塩を使った処理加工に特徴がある。
この処理加工を行うことによって、その後、180℃〜200℃で乾熱セットをしても、布帛、特に布帛を構成するセルロース系繊維の黄変、強度低下や風合いの硬化などの脆化、を防止することができる。
【0018】
布帛に処理液を付与する方法については、パディング法、グラビア法、ロータリースクリーン法、インクジェット法等が採用でき、処理液が布帛に均一に付与できればよく特に限定されない。
ここで処理液とは、スルホン酸塩を含む水溶液であり、好ましくはスルホン酸塩と不揮発性の酸を含む水溶液やスルホン酸塩とキレート剤を含む水溶液であり、更に好ましくはスルホン酸塩と不揮発性の酸及びキレート剤を含む水溶液である。
【0019】
そして、布帛にスルホン酸塩を含む処理液を付与することで、スルホン酸塩がセルロース系繊維の水酸基に水素結合することにより、セルロース系繊維の熱酸化を防ぎ黄変、及び強度低下や風合いの硬化を防止する。
【0020】
ここでスルホン酸塩の使用量は0. 1〜10. 0重量%の範囲であることが必要である。(ここで重量%とは処理液に対するスルホン酸塩の重量濃度である)。
スルホン酸塩が0. 1重量%より少ないと脆化を十分抑えられなくなり、また10. 0重量%を越えると風合いが硬化するので好ましくない。
また、本発明で好ましく用いられるスルホン酸塩は 分子量1000以下のものを用いる。
分子量が1000より大きくなるとスルホン酸塩を含む処理液の粘度が高くなるおそれがあり、加工にムラが生じるおそれがある。また、布帛が硬くなったり、十分な白度が得られないおそれがある。
【0021】
ここで、処理液に含まれるスルホン酸塩としては、脂肪族系スルホン酸塩若しくは芳香族系スルホン酸塩より選ばれた少なくとも1以上のものである。
脂肪族系スルホン酸塩としては、メタンスルホン酸塩、α−オレフィンスルホン酸塩等が挙げられる。
また、芳香族系スルホン酸塩としては、ベンゼンスルホン酸塩、p −トルエンスルホン酸塩、ナフタリン−α−スルホン酸塩、ナフタリン−β−スルホン酸塩等が挙げられる。
【0022】
また、塩の種類としては、リチウム、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属塩、アンモニウム塩、モノエタノール置換、ジエタノール置換などのアルカノール置換アンモニウム塩などを用いることができる。
【0023】
また、スルホン酸塩を付与する際に、よりセルロース繊維とのより反応をしやすくするため不揮発性酸を併用することが好ましい。
用いることのできる不揮発性の酸としては、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸などが挙げられるが、処理液のpHを3.0〜6.0にすることができれば特に限定されない。
処理液のpH3.0以下では、酸によるセルロース繊維の加水分解がおこり脆化がおこる。
また処理液のpH6.0以上では、スルホン酸塩とセルロース繊維の反応が不充分であるため黄変防止効果が低くなる。
【0024】
また更に、キレート剤を処理液に付加することにより、熱酸化促進物であるFe,Cu等の金属イオンを除去することができ、より効果的に上述した脆化が抑えられる。
キレート剤としては、アミノポリカルボン酸塩、ヒドロキシカルボン酸塩、ポリカルボン酸塩、エチレンジアミン四酢酸、ニトリロ三酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸等が挙げられる。
【0025】
また、本発明の効果が妨げられない範囲において、処理液に対して、適宜、精練剤、帯電防止剤、柔軟剤等を含ませることも当然可能である。
【0026】
本発明の前処理加工法は、上述した処理液を布帛に付与した後、乾熱セットを行うが、 その乾熱セットの温度が180〜200℃であるときに極めて有効である。
処理温度が180℃より低いとポリエステル繊維やポリウレタン系弾性繊維の形態安定が不十分で、セット効果が必ずしも満足するものとはならない。
また、処理温度が200℃より高いとポリエステル繊維やポリウレタン系繊維等の合成繊維にも熱劣化や強度低下等が起こり易い。
【0027】
本発明で対象となる布帛の例としては、主にセルロース系繊維と、ポリエステル系繊維やポリウレタン系弾性繊維の混交編物(又は織物)の布帛があるが、これのみに限定されない。
セルロース系繊維単独でも、セルロース系繊維とその他の繊維との混交編物(または織物)の布帛であっても、本発明の前処理加工法は有効である。
【0028】
本発明でいうセルロース系繊維とは、麻、綿などの天然繊維やビスコースレーヨン、銅アンモニアレーヨン、ポリノジック、精製セルロースなどの再生繊維、アセテート、トリアセテートなどの半合成繊維が挙げられる。
合成繊維としてはカチオン可染ポリエステル、トリメチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル繊維、ナイロンなどのポリアミド繊維、アクリロニトリルなどのアクリル繊維、ポリウレタン繊維などの合成繊維を挙げることができる。
【0029】
これら繊維の組織形態は特に限定されるものではなく、例えば、ポリウレタン系弾性繊維の裸糸をそのまま用いて交編、交織してもよく、セルロース系繊維を巻き付けた被覆糸を交編、交織してもよい。
また、編み組織としては経編でも緯編でもよく、トリコット、ラッセル、丸編等限定されるものではない。
また、布帛として織物も当然適用可能である。
【実施例】
【0030】
次に、本発明について実施例を挙げて説明するが、本発明は、必ずしも以下の実施例に限定されるものではない。
以下の実施例における性能の評価方法は下記の方法に従って評価した。
〔引裂強度〕
JIS L 1096 D法(ペンジュラム法)に準じて、エレメンドルフ型引裂試験機を用いて、布帛の状態での引裂強度を測定した。単位はkgfである。
引裂強度が650kgf以上であれば実用上問題ないとする。
〔白度〕
JIS Z 8715に準じて、布帛の表面色濃度を分光光度計(グレタグマクベス社製 CE−3000)を使用して測定し、白色度指数(W)を算出した。
白色度指数(W)が比較例1よりも5以上高いと白度が良いとする(数字が大きいほど白さの度合いが大きい)。
〔風合い〕
JIS L 1096 A法(45°カンチレバー法)により布帛の風合いを評価した。単位はmm。
50mm以下であれば軟らかく風合いがよいと判断する(数字が大きいほど硬い)。
【0031】
〔実施例1〕
まず綿繊維糸(30番手単糸)90%/ポリウレタン(ロイカC80 440d)10%の織布(布帛)を用意した。
次に、この織布にスルホン酸ソーダを含む処理液を付与した。
すなわちこの織布を、分子量300の直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ソーダ1.0重量%を含む常温水溶液に5秒浸漬した。
その後、温度195℃にて5分間、乾熱セットした。
乾熱セット後の織布に対して、「白度」、「強度」、及び「風合い」を測定した。
その結果を表1に示す。
【0032】
〔実施例2〕
実施例1と同様の織布を分子量300の直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ソーダ8.0重量%、不揮発性酸として酒石酸0.05重量%を含む常温水溶液に5秒浸漬した後、温度195℃にて5分間、乾熱セットした。
乾熱セット後の織布に対して、「白度」、「強度」、及び「風合い」を測定した。
その結果を表1に示す。
【0033】
〔実施例3〕
実施例1と同様の織布を分子量300の直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ソーダ8.0重量%、キレート剤としてEDTA0.05重量%を含む常温水溶液に5秒浸漬した後、温度195℃にて5分間、乾熱セットした。
乾熱セット後の織布に対して、「白度」、「強度」、及び「風合い」を測定した。
その結果を表1に示す。
【0034】
〔実施例4〕
実施例1と同様の織布をαオレフィンスルホン酸ソーダ2.0重量%、不揮発性酸として酒石酸0.05重量%、キレート剤としてEDTA0.05重量%を含む常温水溶液に5秒浸漬した後、温度195℃にて5分間、乾熱セットした。
乾熱セット後の織布に対して「白度」、「強度」、及び「風合い」を測定した。
その結果を表1に示す。
【0035】
〔比較例1〕
実施例1と同様の織布を、常温水に5秒浸漬した後、温度195℃にて5分間、乾熱セットした。
乾熱セット後の織布に対して、「白度」、「強度」、及び「風合い」を測定した。
その結果を表1に示す。
【0036】
〔比較例2〕
実施例1と同様の織布を、分子量300の直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ソーダ0.01重量%を含む常温水溶液に5秒浸漬した後、温度195℃にて5分間、乾熱セットした。
乾熱セット後の織布に対して、「白度」、「強度」、及び「風合い」を測定した。
その結果を表1に示す。
【0037】
〔比較例3〕
実施例1と同様の織布を、分子量300の直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ソーダ15重量%を含む常温水溶液に5秒浸漬した後、温度195℃にて5分間、乾熱セットした。 乾熱セット後の織布に対して、「白度」、「強度」、及び「風合い」を測定した。
その結果を表1に示す。
【0038】
〔比較例4〕
実施例1と同様の織布を分子量2000のジヒドロキシジフェニルスルホンホルマリン重縮合物1.0重量%、不揮発性酸として酒石酸0.05重量%、キレート剤としてEDTA0.05重量%を含む常温水溶液に5秒浸漬した後、温度195℃にて5分間、乾熱セットした。
乾熱セット後の織布に対して、「白度」、「強度」、及び「風合い」を測定した。
その結果を表1に示す。
【0039】
〔評価〕
以上述べた実施例及び比較例から、本発明の前処理加工法により、布帛に対する黄変、及び強度低下、風合いの低下等の脆化の発生が防止されることが分かった。
【0040】
〔表1〕


【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロース系繊維を含む布帛に対して行う前処理加工法であって、布帛に0. 1〜10. 0重量%の分子量1000以下のスルホン酸塩を含む処理液を付与し、その後、乾熱セットすることを特徴とする前処理加工法。
【請求項2】
処理液がスルホン酸塩と不揮発性の酸を含む処理液であることを特徴とする請求項1記載の前処理加工法。
【請求項3】
処理液がスルホン酸塩と更にキレート剤を含む処理液であることを特徴とする請求項1記載の前処理加工法。
【請求項4】
処理液がスルホン酸塩と不揮発性の酸とキレート剤を含む処理液であることを特徴とする請求項1記載の前処理加工法。
【請求項5】
布帛がセルロース系繊維の他に合成繊維を含む布帛であることを特徴とする請求項1記載の前処理加工法。
【請求項6】
合成繊維がポリウレタン繊維であることを特徴とする請求項5記載の前処理加工法。
【請求項7】
乾熱セットが180〜200℃で行われることを特徴とする請求項1記載の前処理加工法。

【公開番号】特開2007−39842(P2007−39842A)
【公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−226047(P2005−226047)
【出願日】平成17年8月3日(2005.8.3)
【出願人】(000107907)セーレン株式会社 (462)
【Fターム(参考)】