説明

セルロース含有物質より糖類を回収する際に副生する残渣の溶解法

【課題】セルロース含有物質より糖類を回収する際に副生する残渣を有効利用する手段の提供。
【解決手段】セルロース含有物質より糖類を回収する際に副生する残渣を、濃度が0.01〜5mol/Lであるアルカリ水溶液中で、100〜300℃の温度環境で加熱処理することにより残渣溶解液を提供すると共に、本製造法で製造された残渣溶解液を塗工して得る強化紙。
【効果】セルロース含有物質より糖類を回収する際に副生する残渣を、水溶液として扱うことが出来るようになり、紙に塗工して紙力増強剤などへの応用が広がる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、セルロース含有物質より糖を回収する際に副生する残渣の溶解法とその溶液の利用に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、製紙工程において副生する微細繊維や紙粉等は、焼却処分にされるか又は産業廃棄物となることが多く、これらを有効利用することが求められている。またこれ以外にも、産業廃棄物、農・林業廃棄物、家庭廃棄物に含まれる、天然物や添加剤等を有効利用することも求められている。その中でも、紙、木材、藁などのセルロースを含有する天然高分子や、古紙、木粉等のセルロース含有廃棄物を有効利用する際には、含有するセルロースを有効利用するという点で、上記製紙工程での廃棄物の有効利用と同種の方法が適用できる。
【0003】
この有効利用方法として、例えば特許文献1に記載の方法のように、上記のセルロース含有廃棄物を酸により糖類に分解することで、発酵原料として用いて、エタノールのような有用物質の製造を行うといった方法が試みられている。ただし、これらのセルロース含有廃棄物の分解後には、リグニン、無機物等を含む大量の残渣が副生し、その有効利用は、廃棄物削減に加え、上記のセルロース含有廃棄物より有用物質を得るプロセスを経済的に成り立たせる上で重要な課題である。
【0004】
【特許文献1】特開平11−506934号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、セルロース含有廃棄物の分解後に生じる残渣、特に酸加水分解により副生する残渣は、含まれるリグニンが架橋する等の反応が分解時に起こることにより、溶解性が極めて低いものとなる。中でも、硫酸を用いて酸加水分解を行った場合に得られる残渣は、さらに溶解性が低いものとなる。
【0006】
また、上記残渣は大量に回収されるが、これをそのまま焼却用燃料として処理してしまうと上記セルロース含有廃棄物の有効利用が十分にされたとは言い難い。さらに、セルロース含有物質より糖類を回収する工程を工業化するには、これも有効利用しなければ経済的ではない。しかし、これらの残渣、特に酸加水分解によりセルロース含有廃棄物の分解を行った場合の残渣は、ほとんど溶解しないため、有効な利用方法はきわめて限られてしまい、焼却用燃料にしなければならない場合が多かった。
【0007】
そこでこの発明は、セルロース含有物質より糖類を回収する際に副生する残渣を有効利用する手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明は、セルロース含有物質より糖類を回収する際に副生する残渣を、有効濃度が0.01〜5mol/Lであるアルカリ水溶液中で、100〜300℃の温度環境で加熱処理して溶液とすることにより上記の課題を解決したのである。
【発明の効果】
【0009】
セルロース含有物質より糖類を回収する際に副生する溶解性の低い残渣を、水溶液として扱うことができるようになり、応用範囲が大きく拡大する。例えば、水溶液として紙に塗工することで、紙力増強効果が得られる。また、残渣に含まれる酸リグニンなどの変性したリグニンの反応性も向上するため、応用範囲が広がり、その他の利用方法も期待できるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下この発明を詳細に説明する。
この発明は、セルロース含有物質より糖類を回収する際に副生する残渣を、有効濃度が0.01〜5mol/Lであるアルカリ水溶液中で、100〜300℃の温度環境で加熱処理することにより残渣溶解液を得る方法である。
【0011】
上記セルロース含有物質としては、針葉樹、広葉樹、草木類などの植物、パルプ、古紙、紙粉、微細繊維、木材粉、とうもろこし芯、バガス、おがくず、麦わら等のリグニンを含有する物質が挙げられる。
【0012】
糖類を回収するとは、上記セルロース含有物質を加水分解、酵素分解、または、加圧熱水処理等による熱分解などにより、上記セルロース含有物質に含まれるセルロース分を糖類に分解、回収することをいう。なお、これらのセルロース含有物質より糖類を製造する前に、上記セルロース含有物質に対して、必要に応じて粉砕、脱墨等の機械的又は化学的な前処理を施した後、直接に、またはスラリー状にして、ニーダーなどの連続装置、カラム等に充填して通液する半連続装置、または反応(発酵)釜などのバッチ式装置に供給して以下の糖類への分解処理が行なわれる。
【0013】
上記セルロース含有物質を加水分解する方法としては、例えば、酸で処理する酸加水分解法がある。この酸加水分解法としては、例えば、ショラー法、マジソン法、改良マジソン法、ソ連法等の希酸法、及び、ピオリア法、ジョルダーニ・レオネ法、北海道法、ソ連法、ベルギウス・ライナウ法、新ライナウ法、ブロードル法、ダブルオーフェン法、エラン法、野口研究所法等の濃酸法が挙げられる。上記の処理に用いる酸としては酢酸、蟻酸、トリフルオロ酢酸等の有機酸、亜硫酸、リン酸、フッ化水素、硫酸、硝酸、塩酸などの無機酸が用いられ、特に硫酸、塩酸が好ましい。
【0014】
上記酸加水分解以外のセルロース含有物質の分解処理法としては、酵素分解、加圧熱水処理等が挙げられる。
【0015】
上記の酵素分解とは、C1酵素(アビセラーゼ、セロビオヒドラーゼ、FPアーゼ、エキソ−βーグルカナーゼ等とも呼称されている。)、Cx酵素(CMCアーゼ、エンド−β−グルカナーゼともいう。)およびβ−グルコシダーゼ(セロビアーゼともいう。)など種々の名称で呼ばれるセルラーゼを水懸濁液中、公知の条件で、上記セルロース含有物質に作用させることにより行なわれる。酵素の起源は、特に限定されるものではないが、例えばトリコデルマ・レーゼイ、トリコデルマ・ビリデやアスペルギルス属、ペニシリウム属等が挙げられる。
【0016】
上記の加圧熱水処理は、上記セルロース含有物質を高温・高圧の水、亜臨界水または超臨界水中で分解させる手法で、温度180〜600℃、圧力5〜50MPaの範囲で通常行なわれる。
【0017】
上記のセルロース含有物質に上記のような処理をすることにより、単糖またはオリゴ糖などの糖からなる有効成分が得られると同時に、副生成物が生じる。この糖を回収する際に残渣として残るその副生成物は、原料起源、処理法等により異なるが、リグニン類、タンパク質、炭水化物等の有機物、塩類、鉱物、酸、シリカ化合物等の無機物が含まれる。特に、酸加水分解で得られる残渣には、通常のリグニンとは異なる酸リグニンが大量に含まれ、例えば硫酸リグニンや塩酸リグニンが挙げられる。その中でも、酸処理の際に硫酸を用いた硫酸リグニンは反応性も乏しく他の処理方法が適用しにくいため、特にこの発明が効果的である。なお、上記リグニン類とは通常のリグニンだけでなく上記酸リグニンも含む。
【0018】
この発明で溶解させる上記残渣は、上記の糖を回収する際に残る残渣をそのまま用いてもよいし、上記のアルカリ水溶液で加熱処理する前に、洗浄、pH調整、粉砕、乾燥、分別したりしたものでもよい。
【0019】
この発明にかかる具体的な方法としては、例えば、上記の残渣を上記アルカリ水溶液に混合浸漬してスラリー状にした後、上記の温度条件で加熱することにより行なわれる。また、上記のアルカリ水溶液に添加剤として、亜硫酸ナトリウム、硫化ナトリウム、ポリスルフィド、メタノール、アントラキノンなどのキノン類等を添加してもよい。
【0020】
この発明において上記残渣を処理する上記アルカリ水溶液としては、一般的なアルカリ試薬を用いてよく、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等の水酸化アルカリ金属化合物、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等の炭酸アルカリ金属化合物といった塩基性を示すアルカリ金属化合物や、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム等の水酸化アルカリ土類金属化合物、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等の炭酸アルカリ土類金属化合物といった塩基性を示すアルカリ土類金属化合物や、アンモニア、トリメチルアミン、トリエチルアミン等の塩基性を示すアミノ類が挙げられる。これらの中でも、強塩基性を示す水酸化アルカリ金属化合物が望ましく、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが特に望ましい。
【0021】
上記アルカリ水溶液の濃度は、有効成分として0.01〜5mol/Lが望ましく、0.1〜2mol/Lであるとより望ましい。0.01mol/L未満であると、上記の残渣中のリグニン成分、特に酸リグニンの解裂が十分に進まないために、得られる上記残渣の溶解率が低くなってしまう。一方、5mol/Lを超える濃度であると、分解には支障がないものの、用いた上記アルカリ水溶液の反応後の処理に要する手間、および処理コストがかかり過ぎてしまう。ただし、上記残渣中に、硫酸、塩酸、硫酸アルミニウム等の酸性成分や、糖類等の本反応条件で分解又は変性することで酸性物質を生成する物質が含まれる場合には、上記アルカリ水溶液に、それら酸性成分や、酸性物質を生成する物質と、当量のアルカリを追加して中和しなければならない。なお、上記の有効濃度とは、この中和に要する分を除いた濃度である。
【0022】
上記アルカリ水溶液の上記残渣に対する添加量は、加える上記残渣が浸漬されスラリー状になる量であることが必要であり、上記残渣に対して3〜250重量部であることが望ましく、10〜100重量部であるとより望ましい。上記アルカリ水溶液が3重量部未満であると十分に上記残渣が浸漬されずに反応・溶解が不均一になるおそれがある。一方、250重量部を超えて上記アルカリ水溶液を添加すると、上記溶液中の基質濃度が低くなりすぎて濃縮工程が必要になる場合があり、また、使用後の上記アルカリ水溶液の処理に要する手間、及び処理コストがかかりすぎてしまう。
【0023】
上記アルカリ水溶液により上記残渣を加熱処理する際の反応・溶解温度は、100〜300℃であることが必要であり、140〜250℃であるとより望ましい。100℃未満では溶解率が低く、一方で300℃を超えると上記リグニン類等の有用高分子の分子量を低下させる過分解や、酸化などの副反応が起こりやすくなってしまうおそれがあるからである。
【0024】
上記アルカリ水溶液により上記残渣を加熱処理する際の反応圧力は、上記の反応・溶解温度が常圧における水の沸点以上であるため、常圧以上であることが必要である。
【0025】
上記アルカリ水溶液により上記残渣を加熱処理する際の処理時間は、上記のアルカリ水溶液濃度と反応温度によって変化するために、一律的に定義することは困難であるが、例えば上記のようにアルカリ水溶液濃度が0.01〜5mol/Lで、反応温度が100〜300℃の範囲である場合には、通常、30秒〜24時間で反応が終了し、より望ましい条件では1分〜4時間で反応が終了する。極端に処理時間が短いと、特にバッチ式の場合は反応時間の制御が難しくなってしまい、連続式の場合は制御可能ではあるが高溶解率を得ることが困難である。
【0026】
上記の加熱処理を行う反応装置の雰囲気は、特に制限されるものではなく、空気以外に、窒素、ヘリウム、アルゴン、アンモニア等のガスに置換して上記加熱処理を行ってもよい。これらのガスに置換することによって、ある程度酸化を防止することができる。
【0027】
上記装置としては、上記の反応条件で加熱処理を行うことができる装置であればよく、例えば、オートクレーブ、ニーダー等のバッチ式、スクリューニーダー、流通型反応装置等の連続式、上記残渣をカラム等に詰め、上記アルカリ水溶液を通液する半連続式等が挙げられる。
【0028】
上記のような処理により、特に上記残渣中に含まれる酸リグニン等のリグニン類のβ−アリールエーテル結合の解裂や分解、分子量の低下、フェノール性水酸基の増加などの反応が起こると考えられ、難溶性又は不溶性であるリグニン類が、可溶性に変化する。特に難溶性の硫酸リグニンやKlasonリグニンであっても適切な条件で行うことによりほぼ定量的に溶解する。また、原料の種類や溶解条件によっては上記のリグニン類を溶解させると同時に、有機物、塩類、鉱物、シリカ化合物等の無機物もある程度溶解する。
【0029】
上記のように、この発明で用いるアルカリ水溶液には添加剤を加えてもよく、例えば亜硫酸ナトリウム、硫化ナトリウム、ポリスルフィド、メタノール、アントラキノンなどのキノン類等が挙げられる。その添加量は、0.01〜2mol/Lが好ましい。添加剤は目的に応じて添加されるが、例えば亜硫酸ナトリウムを添加する場合、可溶化した上記のリグニン類にスルホン酸基が導入され、その結果として中性でも沈殿を生じにくい溶液を調製することが可能である。また、硫化ナトリウムを添加すると溶解速度が向上する。
【0030】
用いた上記残渣のうち、可溶性成分に変化した率である可溶化率は、30重量%以上であることが望ましく、80重量%以上であればより望ましく、100重量%であればもっとも望ましい。なお、ここでいう可溶化率は、上記加熱処理後も不溶のまま残る成分の乾燥重量iと、用いた上記残渣の乾燥重量Wから、下記式(1)により求められるものである。
可溶化率=(W−i)/W×100 (1)
【0031】
上記加熱処理を行った後、得られた反応液を、この発明にかかる残渣溶解液としてそのまま用いてもよいし、使用目的に応じて濾過、遠心分離、中和、pH調整、イオン交換、再結晶、沈殿法、分画、透析、溶媒抽出、脱色、脱臭等の処理を行ってもよい。ただし、中性から酸性になると上記可溶性酸リグニンは沈殿してしまうことがあるので、アルカリ性を維持していることが望ましい。ただし、上記のように亜硫酸ナトリウムなどを上記アルカリ水溶液に添加した場合には、弱アルカリ性から酸性領域における沈殿は抑制される。
【0032】
この発明により得られる残渣溶解液中の可溶性成分中の(変性)リグニンの分子量範囲を、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(以下、「GPC」という。)で、溶離液(1,4−ジオキサン:水=1:1である溶液にNaClを0.5mol/Lになるよう溶解させたもの)2mlに試料1mgを溶解させた後にフィルター濾過して測定した数平均分子量は、300〜30000であると好ましい。
【0033】
この発明により得られる残渣溶解液の用途としては、例えば紙力増強剤が挙げられる。紙力増強剤として用いると、特に圧縮強度及び引張強度を向上させる効果が得られる。
【0034】
上記の紙力増強剤として使用する際の使用形態としては、上記残渣を上記アルカリ水溶液で処理して得られた上記の残渣溶解液をそのまま直接紙に塗工してもよいし、pH調整、濃縮、不溶物除去、溶媒抽出、分子量分画、減圧による揮発材料の除去などの処理を行ったものを塗工してもよい。なお、塗工とは塗布、噴射、浸漬を含み、上記の塗布とは刷毛、コーティング機、サイズプレス等で塗るなどの行為を示し、上記の噴射とはスプレーなどで吹き付けるなどの行為を示し、上記の浸漬とは溶液で濡らしたり溶液中に沈めたりといった行為を示す。
【0035】
また、この発明より得られる上記残渣溶解液を紙力増強剤として用いる場合には、上記紙力増強剤を単独で用いる他に、その他の紙添加用薬剤及び/又は填料を添加して用いてもよい。
【0036】
上記の紙添加用薬剤としては、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール、ポリビニルアミン、スチレンアクリル系樹脂、ポリアミドポリアミンエピクロロヒドリン樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、ケトン樹脂等の合成樹脂、デンプン、グアーガム等の天然高分子、カチオン変性デンプン、アセチル化デンプン、尿素リン酸エステル化デンプン等の変性デンプン、CMC等のセルロース系高分子、デンプン糖、セロビオース、マルトース等のオリゴ糖、ジルコニウム化合物、珪酸化合物、多価アルコール/カルボニル化合物、環状アミド化合物、グリオキサール等の架橋剤、硫酸アルミニウム等が挙げられる。
【0037】
また、これらのうち、セルロース系高分子やオリゴ糖として、この発明に用いる上記残渣を副生するセルロース含有物質の分解で得られる糖類を用いると、上記セルロース含有物質から得られる有用成分を一括してリサイクルに用いることができ、望ましい。
【0038】
上記の填料としては、カオリン、タルク、炭酸カルシウム、酸化チタン、酸化亜鉛、シリカ、炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウム等が挙げられる。
【0039】
また、上記の紙としては、洋紙、ライナーや中芯等の段ボール板紙、白板紙、チップボール等の紙器用板紙、紙管原紙等が挙げられる。
【0040】
この発明により得られる上記残渣溶解液を用いた紙力増強剤は、その中に含まれるリグニン由来物質、多価金属イオン、シリカ化合物等が紙力増強に関与していると推察され、特にリグニン由来物質は、元来木材中でセルロースの接着剤として機能しているリグニンを基本骨格としていることから、紙との親和性、相互作用に優れる。そのため、紙力増強効果の中でも、圧縮強度と引張強度の増強効果がより強く発揮された強化紙を製造することができる。また、これまで有効利用が困難であった上記酸リグニンをも有効利用しているため、環境に対する効果が高く、経済的でもある。
【0041】
この発明により得られる上記残渣溶解液は、上記した紙力増強剤の他に、たとえば、分散剤、コンクリート減水剤、造粒剤、農薬、土壌改良剤、粘結剤、バインダー、乳化安定剤、錯塩形成剤、沈殿剤、酸化防止剤、染料、顔料、泥水調整剤、水処理剤、接着剤、合成樹脂、防腐剤、成長促進剤、石膏ボード用添加剤、鋳物砂用添加剤、脱墨剤、耐火剤、耐水剤、寸法安定剤、耐候性付与剤、公害防止用処理剤、皮革用鞣剤、ゴム用添加剤などが挙げられる。また、リグニン由来の可溶性成分は反応性が高く水溶性であるので、さらなるリグニンスルホン酸、カチオン性リグニンなどのリグニン誘導体への原料として使用できる。
【実施例】
【0042】
以下、この発明について、実施例により具体的に説明する。まず、製造方法を変えた種々の残渣の可溶化率について測定し、次に、残渣溶解液を塗工した際の紙力強度について測定する。
【0043】
[可溶化率と数平均分子量]
(酸加水分解による残渣の調製方法(1))
まず、この実施例で用いる残渣の調製方法について説明する。解繊新聞原紙300gに72重量%硫酸(ナカライテスク(株)社製:GR)2250mlを添加し、25℃で3時間放置した後に、1500mLの水を追加し、ガラスフィルター(G1)で濾過し、十分に水洗して、未乾燥残渣387gを回収した。この未乾燥残渣をボールミル(フリッチュ・ジャパン社製:遠心式ボールミル)で粉砕した後、60℃の環境で真空乾燥して、硫酸リグニンを含む濃褐色の残渣57g(灰分16重量%)を得た。なお、上記の灰分とは試料中に含まれるシリカ、アルミニウム、カルシウム、マグネシウム等の無機成分であり、ここでは、試料を775℃で4時間処理した後の残存重量を灰分の重量とする。
【0044】
(実施例1)
上記の方法で調製した残渣1.0gと、1mol/LのNaOH(ナカライテスク(株)製:GR)水溶液50mlとを耐圧容器に仕込み、180℃で4時間反応させた。その後、遠心分離(8000rpm、20min)により上澄部分を回収して、可溶性硫酸リグニンを含む残渣溶解液を得た。この溶液を以下に示す条件でGPC測定したところ、溶解成分の数平均分子量(Mn)は4500であった。また、上記の上澄部分を回収した残りである不溶分残渣を十分に水洗した後、80℃、15mmHgで1時間減圧乾燥し、回収した不溶成分は0.19gであり、上記式(1)により残渣の可溶化率を算出したところ、81重量%であった。さらに、残渣溶解液に1N硫酸を加えてpH=7にすると沈殿を生じた。
【0045】
<GPC測定条件>
・カラム:東ソー(株)製造:α−3000(6.0mmI.D.×4.0cm)
・溶離液:1,4−ジオキサン/水=1/1(0.5M NaCl)
・流速:0.5mL/min
・オーブン温度:40.0℃
・検出器:UV(280nm)
【0046】
(実施例2)
実施例1の手順により得られた残渣溶解液50mlを、透析チューブ(Viskase Sales社製:UC36−32−100)に入れ、蒸留水中で一週間透析した。その後、チューブ内に残った水溶液を凍結乾燥して、濃褐色の粉末である可溶性残渣0.5gを得た。この可溶性残渣を上記実施例1と同様の手順によりGPC測定したところ、数平均分子量は5500であった。
【0047】
(実施例3〜12)
反応温度、水酸化ナトリウム水溶液濃度、反応時間、残渣添加量を、下記表1のように変えた以外は、実施例1と同様の手順により残渣溶解液を得て、可溶化率を算出した。その結果を表1内に示す。
【0048】
【表1】

【0049】
(比較例1:低温での反応)
反応温度を80℃にした以外は、実施例1と同様の手順により残渣溶解液を得て、可溶化率を算出した。その結果を表1内に示す。
【0050】
(比較例2:高温での反応)
反応温度を320℃にした以外は、実施例1と同様の手順により、黒色で悪臭を伴った溶解液を得た。その後、実施例2と同様に透析チューブで処理したところ、回収された可溶性残渣は0.1gであった。高温による過分解が原因で減少したと考えられる。
【0051】
(比較例3:低アルカリ濃度での反応)
NaOH濃度を0.005mol/Lにした以外は、実施例1と同様の手順により残渣溶解液を得て、可溶化率を算出した。その結果を表1内に示す。
【0052】
(結果)
この発明にかかる方法により、硫酸リグニンを含む残渣の30重量%以上を可溶化させることができ、条件によっては90重量%以上の残渣を可溶化させることができた。
【0053】
[材料・試薬の違いによる変化]
(実施例13)
1mol/LのNaOH水溶液の代わりに1mol/LのKOH(ナカライテスク(株)製:GR)を用いた以外は、実施例1と同様の手順により残渣溶解液を得て、可溶化率を算出したところ、96重量%であった。
【0054】
(実施例14)
上記の酸加水分解による残渣の調製方法(1)において、硫酸の代わりに42重量%塩酸を使用して、1〜5℃で上記の硫酸リグニンを含む残渣の調製方法と同様な手順により塩酸リグニンを含む濃褐色の残渣55g(灰分=14重量%)を得た。上記で得られた残渣1.0gを実施例1と同様な手順により残渣溶解液を得た。不溶分残渣を水洗・乾燥した後、淡褐色固体0.1gを得た。上記式(1)により可溶化率を算出したところ90重量%であった。
【0055】
(実施例15)
反応の際に硫化ナトリウム(ナカライテスク(株)製:GR)1.0gを添加した以外は実施例6(反応時間6時間、可溶化率70重量%)と同様に行い残渣溶解液を得て、可溶化率を算出したところ83重量%となり、反応時間を8時間掛けた実施例7(可溶化率85重量%)に近い値となり、反応時間を短縮することができた。
【0056】
(酸加水分解による残渣の調製方法(2))
酸加水分解による残渣の調製において、原材料として木材(杉鋸屑、国武製材所製)200gに72重量%硫酸(ナカライテスク(株)製:GR)1500mLを添加し、25℃で3時間放置した後に、ガラスフィルター(G1)でろ過し、未乾燥残渣を回収した。未乾燥残渣を3重量%硫酸6.8Lに分散し、121℃で90分間処理した後、ガラスフィルター(G1)でろ過し、十分に水洗し、残渣を80℃で真空乾燥して、Klasonリグニンを含む濃褐色の残渣63g(灰分0.1重量%)を得た。
【0057】
(実施例16)
上記の残渣5.0gと、0.1mol/LのNaOH水溶液250mlを耐圧容器に仕込み、230℃、2.6MPaで2時間反応させた以外は、実施例1と同様に行い残渣溶解液を得て、可溶化率を算出したところ99重量%であった。
【0058】
(実施例17)
反応の際に亜硫酸ナトリウム(ナカライテスク(株)製:GR)5.0gを添加した以外は実施例16と同様に行い残渣溶解液を得て、可溶化率を算出したところ99重量%であった。この溶液を1N硫酸でpH=7にしても沈殿物はまったく観られなかった。
【0059】
(酸加水分解による残渣の調製方法(3))
酸加水分解による残渣の調製において、原材料として段ボール用中芯(レンゴー(株)製、坪量:115g/m)300gに72重量%硫酸(ナカライテスク(株)製:GR)900mLを添加し、30℃で2時間放置した後に蒸留水450mLを添加、ガラスフィルター(G1)でろ過し、蒸留水1.5Lで洗浄し、硫酸リグニンを含む濃褐色の未乾燥残渣228g(水分73.4重量%、硫酸分2.2重量%、灰分8.8重量%)を得た。
【0060】
(実施例18)
上記残渣41gに蒸留水70mLを分散させNaOH(ナカライテスク(株)製:GR)0.7gで中和後、NaOH3.0gを追加し、耐圧容器に仕込み、220℃、2.2MPaで4時間反応させた以外は、実施例1と同様に行い残渣溶解液を得て、可溶化率を算出したところ65重量%であった。
【0061】
(酵素分解による残渣の調製法)
解繊段ボール古紙20gを、ビーカーに2gずつに分け、それぞれに20mM酢酸緩衝液(pH4.5)100mLに加え、ホモジナイザー(日本精機(株)製:bio−mixer BM−1)で10min粉砕後、まとめてガラスフィルター(G1)でろ過してろ渣を得た。フラスコに上記ろ渣、20mM酢酸緩衝液(pH4.5)400mL、セルラーゼ(セルロシンT2、エイチビィアイ(株)製)0.8gを仕込み、45℃、90spmで48時間振盪後、30分間90℃で加温して酵素を失活させた。酵素処理液をガラスフィルター(G1)でろ過し、十分に水洗し、残渣を80℃で真空乾燥して、残渣13g(セルロース分74重量%、灰分13重量%)を得た。
【0062】
(実施例19)
上記のように調製した残渣7.0gと、2mol/LのNaOH水溶液50mlとを耐圧容器に仕込み、220℃、2.2MPaで4時間反応させた以外は、実施例1と同様に行い残渣溶解液を得て、可溶化率を算出したところ88重量%であった。
【0063】
(加圧熱水による残渣の調製法)
木材(杉鋸屑、国武製材所製)10g、蒸留水90mLを耐圧容器に仕込み、270℃のシリコン浴中、15MPaで20分間処理した後、室温まで急冷した。処理物をガラスフィルター(G1)でろ過し、十分に水洗し、残渣を80℃で真空乾燥して、残渣4g(セルロース分35重量%、灰分0.1重量%)を得た。
【0064】
(実施例20)
上記のように調製した残渣1.0gと、1mol/LのNaOH水溶液50mlを耐圧容器に仕込み、220℃、2.2MPaで3時間反応させた以外は、実施例1と同様に行い残渣溶液を得て、可溶化率を算出したところ85重量%であった。
【0065】
[紙力増強効果]
(実施例21〜25)
実施例1,9,16,17,18で得られた残渣溶解液を下記のように調整した溶液に、段ボール用中芯(レンゴー(株)製、坪量:115g/m、15cm×15cm)を30秒間浸漬させた後、中芯を引き上げて吸引濾紙に付着した溶液を吸い取らせてから、回転乾燥機(JAPO社製:Auto Dryer Type L−3D 120℃、乾燥時間:90秒)にかけて、残渣溶解液塗工中芯を得た。これを23℃、湿度50%の条件で24時間調湿後、以下の方法で評価を行った。その結果を表2に示す。
【0066】
・実施例21:実施例1で得られた残渣溶解液をそのまま塗工液として使用。
・実施例22:実施例9で得られた残渣溶解液を溶質濃度5重量%まで減圧濃縮後、硫酸でpH10に調整して使用。
・実施例23:実施例16で得られた残渣溶解液を溶質濃度5重量%まで減圧濃縮後、硫酸でpH10に調整して使用。
・実施例24:実施例17で得られた残渣溶解液を溶質濃度5重量%まで減圧濃縮後、硫酸でpH10に調整して使用。
・実施例25:実施例18で得られた残渣溶解液を蒸留水で溶質濃度5重量%に希釈後、硫酸でpH10に調整して使用。
【0067】
【表2】

【0068】
(塗工量測定)
得られた中芯を調湿後、105℃で5時間乾燥することにより、絶乾坪量を算出して、使用した元の中芯の絶乾坪量との差から塗工量を算出した。
【0069】
(圧縮強度、比圧縮強度測定)
JIS P 8126に従って測定した。
【0070】
(裂断長測定)
JIS P 8126に従って測定した。
【0071】
(実施例22)
実施例21において浸漬させる代わりに、実施例1で得られた残渣溶解液を中芯表面に500g/mでスプレー塗工した以外は実施例21と同様の手順により調湿し、実施例16と同様の評価を行った。その結果を表2に示す。
【0072】
(比較例4)
段ボール用中芯(レンゴー(株)製:坪量:115g/m)について実施例21と同様の評価を行った。その結果を表2に示す。
【0073】
(結果)
この発明にかかる残渣溶解液を塗工した強化紙は、通常の中芯に比べて、特に圧縮強度と引張強度に優れる強化紙となった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロース含有物質より糖類を回収した後の残渣を、有効濃度が0.01〜5mol/Lであるアルカリ水溶液中で、100〜300℃の環境で加熱処理することによる残渣溶解液の製造方法。
【請求項2】
上記残渣が、上記セルロース含有物質から酸加水分解法、酵素分解法、または加圧熱水分解法で糖類を回収する際に副生する残渣である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
上記酸加水分解法が、希酸法、濃酸法である請求項2記載の製造方法。
【請求項4】
上記アルカリ水溶液に、亜硫酸ナトリウムまたは硫化ナトリウムを0.01〜2mol/L添加する請求項1乃至3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載の製造方法により製造された残渣溶解液を塗工して得る強化紙。

【公開番号】特開2006−76917(P2006−76917A)
【公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−262399(P2004−262399)
【出願日】平成16年9月9日(2004.9.9)
【出願人】(000115980)レンゴー株式会社 (502)
【Fターム(参考)】