説明

セルロース脂肪酸エステル繊維のチーズ状パッケージ

【課題】複数のパッケージ間の糸端同士を結びつけて高次工程を連続操業するときに、高次加工性と製品品位の向上を可能にするセルロース脂肪酸エステル繊維のチーズ状パッケージを提供する。
【解決手段】アシル基の少なくとも一部が炭素数3〜18であるセルロース脂肪酸エステル75〜95重量%と、多価アルコール系可塑剤5〜25重量%とを含む組成物を製糸化し、伸度を20〜40%にしたマルチフィラメントをボビンに巻付けたチーズ状パッケージであって、前記パッケージの最内層に巻付けられたマルチフィラメントの伸度と、該最内層と最外層を除く巻取り層に巻付けられたマルチフィラメントの伸度との差を5%以下にしたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロース脂肪酸エステル繊維のチーズ状パッケージに関し、さらに詳しくは、複数のパッケージ間の糸端同士を結びつけて高次工程を連続操業するときに、高次加工性と製品品位の向上を可能にするセルロース脂肪酸エステル繊維のチーズ状パッケージに関する。
【背景技術】
【0002】
セルロースエステル、セルロースエーテルなどのセルロース系材料は、地球上で最も大量に生産されるバイオマス材料として、また、環境中にて生分解可能な材料として昨今の大きな注目を集めつつある。
【0003】
セルロース系フィラメントとしてはビスコース、キュプラなどのレーヨン繊維、セルロースジアセテート、セルローストリアセテートなどのセルロース単一エステル繊維が知られている。これらの繊維はセルロース由来であることによって良好な光沢や吸放湿性など衣料用繊維として非常に良好な特性を有している。一方、これらの繊維はいずれも組成物が熱可塑性を有していないか、或いは熱可塑化が発現する温度が分解温度以上であるため、溶融紡糸によって繊維化することができず、溶媒を使用する湿式または乾式の製糸方法によって製造されている。しかし、これらの製糸方法は、有機溶媒の使用による環境負荷が懸念され、また紡糸速度の制限により生産性が低いという欠点を有している。
【0004】
このため、特許文献1は、セルロースアセテートに代表されるセルロースエステル樹脂に、可塑剤を添加することにより樹脂の分解温度以下での熱可塑性を向上させ溶融紡糸を可能にすることを提案し、なかでも、一般の衣料・産業用途に用いることが可能な力学特性を有し生産性に優れたセルロース繊維の製造方法を提案している。
【0005】
しかし、この方法により得られたセルロース脂肪酸エステル繊維をチーズ状パッケージにした場合、このチーズ状パッケージは、複数のパッケージ間でテール結びすること(糸端同士を結びつけること)により高次工程を連続操業するように使用するときに、そのテール移行の部分において良好な高次通過性や製品品位が得られ難いという問題があることがわかった。
【0006】
一般に、チーズ状パッケージから糸条を解除しながら高次工程の糸加工や編成、製織などを行うときには、先に使用するパッケージの最後の糸端に次に使用するパッケージの最初の糸端を順次結びつけ、複数のパッケージ間の糸条を連続化することによりパッケージ毎に作業を中断することなく連続操業するようにしている。しかし、上述した特許文献1で得られたセルロース脂肪酸エステル繊維のチーズ状パッケージでこのような連続操業を行うと、テール移行の前後で糸切れを多発したり、また布帛にして染色したとき染色差などを発生し、製品品位が低下するという問題があった。
【特許文献1】特開2005−248354号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、複数のパッケージ間の糸端同士を結びつけて高次工程を連続操業するときに、高次加工性と製品品位の向上を可能にするセルロース脂肪酸エステル繊維のチーズ状パッケージを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成する本発明のセルロース脂肪酸エステル繊維のチーズ状パッケージは、アシル基の少なくとも一部が炭素数3〜18であるセルロース脂肪酸エステル75〜95重量%と、多価アルコール系可塑剤5〜25重量%とを含む組成物を製糸化し、伸度を20〜40%にしたマルチフィラメントをボビンに巻付けたチーズ状パッケージであって、前記パッケージの最内層に巻付けられたマルチフィラメントの伸度と、該最内層と最外層を除く巻取り層に巻付けられたマルチフィラメントの伸度との差を5%以下にしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、チーズ状パッケージに巻付けられたセルロース脂肪酸エステル繊維のマルチフィラメントの伸度を20〜40%にし、かつ最内層のマルチフィラメントの伸度と、この最内層と最外層を除く巻取り層のマルチフィラメントの伸度との差を5%以下にしたので、複数のパッケージ間の糸端同士を連結して高次工程を連続操業するときに、糸端連結部分の前後で伸度などの糸特性をほぼ均一にしているので糸切れの発生を低減し、高次加工性を向上する。また、高次製品にした場合は、糸端連結部分の前後で染色差などを発生しないので、製品品位を向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。
本発明で用いるセルロース脂肪酸エステルは、アシル基の少なくとも一部が炭素数3〜18であることが必要である。アシル基の炭素数を3〜18にすることにより、多価アルコール系可塑剤との相溶性が良く、また多価アルコール系可塑剤の少量添加により、溶融紡糸が可能な熱流動性を有するものとなる。アシル基の少なくとも一部が炭素数3〜18であるセルロース脂肪酸エステルの具体的な例としては、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、セルロースブチレート、セルロースプロピオネートブチレート、セルロースアセテートバリレート、セルロースバリレート、セルロースアセテートラウレート、セルロースラウレート、セルロースアセテートオレート、セルロースオレートなどが例示できる。
【0011】
なかでもセルロースにアシル基の炭素数が2であるアセチル基と炭素数が3であるプロピオニル基とが結合したセルロースアセテートプロピオネート、およびセルロースにアセチル基と炭素数が4であるブチリル基とが結合したセルロースアセテートブチレートは、適度な吸湿性を有しており、また製造も容易である。そのためアシル基の少なくとも一部が炭素数3〜18であるセルロース脂肪酸エステルとしては、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレートが好ましく、セルロースアセテートプロピオネートが特に好ましい。
【0012】
この場合、アセチル基および炭素数3〜18のアシル基(特に、プロピオニル基あるいはブチリル基)の置換度は、多価アルコール系可塑剤との相溶性および良好な熱流動性の観点から下式を満たすことが好ましい。
2.0≦(アセチル基の置換度)+(炭素数3〜18のアシル基の置換度)≦3.0
0.1≦(アセチル基の置換度)≦2.5
0.5≦(炭素数3〜18のアシル基の置換度)≦2.9
【0013】
セルロース脂肪酸エステルの重量平均分子量(Mw)は50000〜250000であることが好ましい。Mwを50000〜250000とすることで、良好な機械的特性を有した繊維を得ることができ、また溶融紡糸により安定して繊維を得ることが可能となる。Mwは70000〜200000であることがより好ましく、80000〜180000であることが最も好ましい。なお重量平均分子量(Mw)とは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)測定により算出した値をいう。
【0014】
セルロース脂肪酸エステルの含有量は、75〜95重量%であることが必要である。含有量を95重量%以下にすることにより、多価アルコール系可塑剤を加えたことによる熱可塑化効果が増し、溶融紡糸性が良好になる。含有量を75%重量%以上にすることにより、セルロース脂肪酸エステルの特徴である強度が増し、機械的特性が優れる。セルロース脂肪酸エステルの含有量は、好ましくは80〜93重量%、より好ましくは82〜90重量%にするとよい。
【0015】
多価アルコール系可塑剤の含有量は、5〜25重量%であることが必要である。多価アルコール系可塑剤の含有量を5〜25重量%とすることにより、セルロース脂肪酸エステルと多価アルコール系可塑剤を少なくとも含んでなる組成物の熱流動性が向上するため、生産効率が高く環境負荷が低い、薬剤を使用しない溶融紡糸法での生産が可能となり、それにより繊維断面を任意に制御することが可能になり、複合紡糸の生産が可能となる。さらには良好な熱可塑性を生かして延伸や仮撚加工、布帛の熱加工などを容易に行うことができる。セルロース脂肪酸エステルの組成物における多価アルコール系可塑剤の含有量は、好ましくは7〜20重量%、より好ましくは10〜18重量%にするとよい。
【0016】
本発明で具体的に用いることができる多価アルコール系可塑剤は、セルロース脂肪酸エステルとの相溶性が良く、また熱可塑化効果が顕著に現れるグリセリン骨格を有したエステル化合物やポリアルキレングリコールなどが好ましい。
【0017】
具体的なグリセリン骨格を有したエステル化合物としては、グリセリンアセテートステアレート、グリセリンアセテートパルミテート、グリセリンアセテートラウレート、グリセリンアセテートカプレート、グリセリンアセテートオレート、ジグリセリンテトラアセテート、ジグリセリンテトラプロピオネート、ジグリセリンテトラブチレート、ジグリセリンテトラカプリレート、ジグリセリンテトララウレートなどが挙げられるがこれらに限定されず、これらを単独もしくは併用して使用することができる。
【0018】
ポリアルキレングリコールの具体的な例としては、平均分子量が200〜4000であるポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどが挙げられるがこれらに限定されず、これらを単独もしくは併用して使用することができる。
【0019】
本発明で使用するセルロース脂肪酸エステルの組成物は、上述したセルロース脂肪酸エステルおよび多価アルコール系可塑剤を含む以外に、異なるアシル基を有する脂肪酸エステルを含む他の樹脂や各種の添加剤、例えば艶消し剤、消臭剤、消泡剤、整色剤、難燃剤、糸摩擦低減剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、結晶核剤、酸化防止剤、着色防止剤、着色顔料、静電剤、抗菌剤等酸化防止剤、難燃剤、滑剤を含んでも構わない。
【0020】
本発明において、上述したセルロース脂肪酸エステルの組成物からなるマルチフィラメントの製糸方法は、特に制限されるものではないが、溶融紡糸法を適用することが好ましい。溶融紡糸法により製造することにより、繊維構造を制御しやすいこと、生産性が高いこと、繊維断面を精密にかつ任意に制御できること、芯鞘複合、偏芯芯鞘複合、サイドバイサイド型複合などのように様々な品種の複合繊維が得られること、製造時に環境への負荷がかかる有機溶剤を使用しないこと、エネルギーコストが低いこと、良好な熱可塑性を生かして紡出糸の延伸、仮撚などの糸加工等が容易にできること、等のメリットを得ることができる。
【0021】
溶融紡糸法は、例えば、エクストルーダーなどにより溶融した樹脂組成物を紡糸温度240〜270℃で多数の紡糸孔を有する口金から溶融吐出し、冷却風により冷却固化してマルチフィラメントにし、次いで繊維用油剤を0.05〜5重量%付与したのち、必要に応じて圧空などによりフィラメント間を交絡して1500〜3500m/minの高速で引き取り、そのままボビンに巻取りチーズ状パッケージにする方法を例示することができる。
【0022】
本発明において、セルロース脂肪酸エステルの組成物を溶融紡糸して得られるマルチフィラメントの繊度は、特に限定されるものではないが、好ましくは総繊度が10〜300dtexであり、30〜200dtexであることがより好ましい。また、単繊維繊度としては、好ましくは0.1〜6dtexであり、0.5〜5dtexであることがより好ましい。マルチフィラメントの繊度をこのような範囲内にすることにより、例えば衣料用途として好適に使用することができる。
【0023】
また、セルロース脂肪酸エステルからなる繊維の断面形状としては、特に限定されるものではないが、丸断面、三角断面、マルチローバル断面、中空断面、偏平断面、W型断面、X型断面、その他の異形断面のいずれであってもよく、使用用途や狙いとする機能・触感に合わせて適宜選択すればよい。
【0024】
本発明のセルロース脂肪酸エステル繊維のチーズ状パッケージ(以後、単に「パッケージ」ということがある)は、セルロース脂肪酸エステルの組成物を製糸したマルチフィラメントが巻取り工程においてボビンに層状に巻かれて形成される。この巻取り工程で形成されたパッケージから、糸加工工程や編成、製織工程等の高次加工工程において、マルチフィラメントが解除されながら供給される。一つのパッケージのマルチフィラメントが全て供給されると、次の新しいパッケージからの供給に糸切替えされるが、一般に、その糸切替えは前のパッケージにおける最後の糸端と次のパッケージにおける最初の糸端とをテール結びしておくことにより、作業を中断することなく連続操業するようになっている。
【0025】
本発明のセルロース脂肪酸エステル繊維のチーズ状パッケージは、ボビンに巻付けたマルチフィラメントの伸度を20〜40%にするものである。伸度を20%以上とすることにより、製織や製編時などの高次加工工程において糸切れが多発することがない。また、伸度を40%以下にすることにより、低い応力であれば変形することなく、製織時の緯ひけなどにより最終製品の染色欠点を生じることがない。マルチフィラメントの伸度は、好ましくは25〜40%、より好ましくは25〜35%にするとよい。
【0026】
マルチフィラメントの伸度の調製は、例えば、後述する巻取り工程において、巻取り速度を制御し、巻取り張力を調整することにより、伸度を増減することができる。なお、本発明において、マルチフィラメントの伸度とは、JIS L 1013(1999)(化学繊維フィラメント糸試験方法)に規定される定速伸長条件に基いてS−S曲線における最大強力を示した点の伸びをいうものとする。
【0027】
本発明のチーズ状パッケージは、マルチフィラメントの伸度がボビンに巻付けられた状態で全長にわたり略均一であることが必要であり、パッケージの最内層に巻付けられたマルチフィラメントの伸度と、最内層と最外層を除く巻取り層に巻付けられたマルチフィラメントの伸度との差が5%以下、好ましくは3%以下である。最内層と、最内層と最外層を除く巻取り層とのマルチフィラメントの伸度の差をこのような範囲内にすることにより、高次加工工程を連続操業する場合において、テール結び部分の前後付近で糸切れを多発することなく安定操業を可能にし、また布帛などの高次製品にしたときテール結び部分の前後で染色の濃淡差などの品位欠陥を生じさせないようにすることができる。
【0028】
最内層のマルチフィラメントと、最内層と最外層を除く巻取り層のマルチフィラメントとの伸度差が5%を超えると、セルロース脂肪酸エステル繊維の内部構造差が発現するため、布帛として染色したとき濃淡差となって製品欠点が現れる。また、高次工程での通過性が悪化して糸切れが頻発するようになる。
【0029】
本発明において、パッケージの「最内層」とは、糸切替え時の巻取り開始から正規巻取りに移行する迄にマルチフィラメントがボビンに巻取られた巻取り開始初期の巻糸層のうち、ボビンに接する最内側の第1層をいう。後述するターレット型巻取機では、糸切替え時にローラーベイルが巻糸層に接触を開始する迄に形成される巻糸層のうち、ボビンに接する最内側の第1層である。1本のパッケージに巻付けられたマルチフィラメントのうち、最内層に巻付けられたマルチフィラメントの伸度は、正規巻取り層より低い。
【0030】
また、「正規巻取り層」とは、巻取り開始初期の巻糸層より外側の巻糸層であり、マルチフィラメントが正規巻取りされる巻糸層をいい、ターレット型巻取機の場合は、ローラーベイルが巻糸層の表面に接触した以降に巻取られる巻糸層である。1本のパッケージに巻付けられたマルチフィラメントのうち、正規巻取り層に巻付けられたマルチフィラメントの伸度は、最内層よりも高い。
【0031】
また、糸切替え時の巻取り開始のときに、最内層の外側から正規巻取り層に移行する迄の巻糸層に巻取られたマルチフィラメントの伸度は、最内層と正規巻取り層のマルチフィラメントの伸度との間の値を有している。
【0032】
したがって、最内層と、最内層と最外層を除く巻取り層とのマルチフィラメントの伸度差を5%以下にするためには、最内層のマルチフィラメントの伸度と、正規巻取り層のマルチフィラメントの伸度との差を5%以下にする必要がある。なお、巻取り工程において、満巻に達すると、糸切替えのためパッケージはローラーベイルから離れるが、このようにローラーベイルが離れた後に形成される表層部分のマルチフィラメントは正規巻取り層には含まれない。この表層の巻取り部分は、一般に作業者が糸端同士を結ぶ際にパッケージから剥ぎ取っている。
【0033】
最内層と、最内層と最外層を除く巻取り層とのマルチフィラメントの伸度差の調製は、後述するように、ボビンを切替えた巻取り開始時の巻取り速度を制御し、巻取り張力を正規巻取り時の巻取り張力と同じにするようにすることにより、最内層のマルチフィラメントの伸度を正規巻取り層のマルチフィラメントの伸度に合わせ、伸度差を5%以内にすることができる。
【0034】
従来のパッケージでは、巻取り工程の満巻(指定されたパッケージ重量)時に新しいボビンへの糸切り替えするとき、新ボビンへの巻取り開始時と正規巻取りに移行した時とではマルチフィラメントの巻取り張力が異なっており、その巻取り張力の違いにより最内層に巻付けられたマルチフィラメントとその外側の巻取り層や正規巻取り層に巻付けられたマルチフィラメントとの間で力学特性、特に伸度の差が発生していた。
【0035】
具体的に、新ボビンへの巻取り開始時は、マルチフィラメントの巻取り張力が正規巻取り時よりも高いため、最内層に巻取られたマルチフィラメントの伸度は、正規巻取り層のマルチフィラメントの伸度よりも低くなり、伸度差が5%を超えた状態になる。特に、セルロース脂肪酸エステル繊維は、ナイロンやポリエステルなどの既存の熱可塑性重合体繊維に比べて、最内層と正規巻取り層との伸度差が5%を超えやすく、前述したように高次加工工程を連続操業する際に糸切れの多発が避けられなかった。
【0036】
本発明のセルロース脂肪酸エステル繊維のチーズ状パッケージの形成には、好ましくはターレット型巻取機を使用するとよい。図1は、そのターレット型巻取機の概略を例示する。
【0037】
図1において、巻取機の本体フレーム1に、ターレット盤2が水平方向のターレット軸(図示せず)に支持され、ターレット軸を中心に180°ずつ間欠回転するようになっている。ターレット盤2にはターレット軸を挟んで2本のスピンドル3a,3bが周方向に180°の間隔で立され、それぞれモーター(図示せず)により駆動されるようになっている。これらスピンドル3a,3bには、それぞれボビン4a,4bが装着されている。スピンドルとしては、必ずしも2本だけに限定されず、3本以上が等間隔に設けられたものであってもよい。
【0038】
上記2本のスピンドル3a,3bは、一方のスピンドル3aを上方の巻取り側に、他方のスピンドル3bを下方の待機側に位置させ、巻取り側スピンドル3aのボビン4aに対してマルチフィラメントYを巻き上げてパッケージ5aを形成する。巻取り中のパッケージ5aの表面にはローラーベイル6が接圧し、一定の回転速度で駆動されるようになっている。ローラーベイル6は本体フレーム1に支持された昇降ボックス7に支持されており、パッケージ5aの外径の成長に従って昇降ボックス7と共に上下方向に移動する。
【0039】
マルチフィラメントYの正規巻取り時には、上記のようにローラーベイル6がパッケージ5aの表面に接圧し、そのローラーベイル6の回転数を不図示の制御部にフィードバックしながら、スピンドル3aの回転数をマルチフィラメントYの巻取り張力を一定にするように制御することにより巻取りが行われる。スピンドル3aの巻き上げによりパッケージ5aが満巻になると、ローラーベイル6が上方に離れ、ターレット盤2が反時計方向に180°回転して2本のスピンドル3a,3bの位置を入れ換え、上方の巻取り側に移動したスピンドル3bのボビン4bにマルチフィラメントYの糸切替えが行われる。次いで、ローラーベイル6が下降し、ボビン4b上に形成されつつある薄い巻糸層に接圧し、以後正規巻取りが満巻になるまで実施される。
【0040】
従来、スピンドル駆動方式の巻取機は、巻取り開始時にローラーベイルがスピンドル上の空ボビン(裸のボビン)に直接接触しない機構になっている。これはローラーベイルが空ボビンに直接接触すると、その空ボビンの表面を損傷し、さらには巻取られるマルチフィラメントに対する損傷を大きくするためである。そのため巻糸層が所定の巻径まで巻太った後に、ローラーベイルを接圧するようになっている。したがって、従来の方法では、糸切替え時の巻取り開始から正規巻取り迄の巻取り張力は、ローラーベイルが非接触であることから正規巻取り時の巻取り張力より高くなり、そのため最内層に巻かれるマルチフィラメントの伸度が正規巻取り時のマルチフィラメントの伸度より低くなっていた。
【0041】
本発明において、パッケージを形成するための巻取りは、上記のように少なくとも2本のモーター駆動されるスピンドルを有するターレット型スピンドル駆動方式で、かつローラーベイルを強制駆動する巻取機で行うと共に、満巻毎に巻取機をターレットさせて他のスピンドル上のボビンに糸切替えするに際し、糸切替え後のボビンに形成されつつある糸層にローラーベイルが接圧を開始する迄に巻取られるマルチフィラメントの伸度変動を抑えるように、スピンドルの回転速度を定められたプログラムに従って制御するようにしている。
【0042】
すなわち、ターレット型巻取機を使用する糸切替え時の巻取り開始からローラーベイルが巻糸層に接圧し正規巻取りに移行する迄の巻取り張力を、正規巻取り時の巻取り張力と同じになるようにスピンドルの回転速度を制御する巻取りを行うことが好ましい。具体的には、ローラーベイルが巻糸層に接圧する迄の巻取り時の張力を測定し、その測定張力が正規巻取り時の巻取り張力と同じになるようにプログラムを設定し、そのプログラムに基づいてスピンドルの回転速度を制御する。このスピンドルの回転速度制御により、最内層に巻取られるマルチフィラメントの伸度と正規巻取り時のマルチフィラメントの伸度との伸度差を5%以下にすることができる。
【0043】
本発明のパッケージは、好ましくは1本当たりの重量を4〜20kgにするとよく、さらに好ましくは5〜10kgにするとよい。パッケージの重量が、4kg未満の場合は、巻取り工程における糸切り替え回数が増加し、生産性が低下する。20kgを越えると、パッケージの梱包やクリール掛けなどの作業に作業者の負担が増大し、作業性を低下させる要因になる。なお、パッケージ重量とは、満巻時の総重量からボビンの重量を引いた重量であり、マルチフィラメントの正味重量をいう。
【実施例】
【0044】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によって何ら限定されるものではない。なお、実施例中の各特性値は以下の測定方法に従って求めた。
【0045】
A.セルロース脂肪酸エステルの置換度
セルロース脂肪酸エステルの置換度の算出方法については下記の通りである。
【0046】
80℃で8時間の真空乾燥により絶乾状態としたセルロース脂肪酸エステル0.9gを秤量し、アセトン35mlとジメチルスルホキシド15mlを加え溶解した後、さらにアセトン50mlを加えた。撹拌しながら0.5N−水酸化ナトリウム水溶液30mlを加え、2時間ケン化した。熱水50mlを加え、フラスコ側面を洗浄した後、フェノールフタレインを指示薬として0.5N−硫酸で滴定した。別に試料と同じ方法で空試験を行った。滴定が終了した溶液の上澄み液を100倍に希釈し、イオンクロマトグラフを用いて、有機酸の組成を測定した。測定結果とイオンクロマトグラフによる酸組成分析結果から、下記式により置換度を計算した。
TA=(B−A)×F/(1000×W)
DSace=(162.14×TA)/[[1−(Mwace−(16.00+1.01))×TA]+[1−(Mwacy−(16.00+1.01))×TA]×(Acy/Ace)]
DSacy=DSace×(Acy/Ace)
TA:全有機酸量(ml)
A:試料滴定量(ml)
B:空試験滴定量(ml)
F:硫酸の力価
W:試料重量(g)
DSace:アセチル基の置換度
DSacy:アシル基の置換度
Mwace:酢酸の分子量
Mwacy:他の有機酸の分子量
Acy/Ace:酢酸(Ace)と他の有機酸(Acy)とのモル比
162.14:セルロースの繰り返し単位の分子量
16.00:酸素の原子量
1.01:水素の原子量
【0047】
B.重量平均分子量(Mw)
セルロース脂肪酸エステルを濃度0.01重量%となるようにクロロホルムに完全に溶解させGPC測定用試料とした。この試料を用い、以下の条件のもと、Waters2690でGPC測定を行い、ポリスチレン換算により重量平均分子量(Mw)を求めた。
カラム:昭和電工社製Shodex K−805L 2本連結
検出器:Waters2410 示差屈折計RI
移動層溶媒:クロロホルム
流速:1.0ml/分
注入量:200μl
【0048】
C.伸度
試料をオリエンテック社製テンシロン(TENSILON UCT−100)により、JIS L 1013(1999)(化学繊維フィラメント糸試験方法)に規定される定速伸長条件で破断伸度を測定した。なお、破断伸度はS−S曲線における最大強力を示した点の伸びから求めた。
【0049】
また、最内層の伸度は、ボビン表面から第1層のマルチフィラメントの伸度を測定した。最内層及び最外層を除く巻取り層の伸度として正規巻取り層の伸度を代表させ、パッケージ厚さの1/2と2/3の箇所からサンプリングして測定し、これら伸度の平均値を用いた。
【0050】
D.高次加工性(製織性)
エアージェットルーム織機(津田駒工業社製ZA103)を用い、緯打ちの製織を実施した。このときの、回転数:513rpm、ヨコ糸密度:82本/インチ、連続運転時間:24時間での停台回数(回/日・台)を、下記式により算出した。
停台回数(回/日・台)=総停台回数(回)/総生産量(m)/1日1台生産量
1日1台生産量(m/日・台)=1440分×(織機回転数/ヨコ糸密度×2.54/100)×稼働率
製織性の評価は、停台回数が2.0回未満を◎、2.0回以上5.0回未満を○、5.0回以上を×とした。
【0051】
E.高次製品の品位(織物品位)
得られた繊維にて製織を行った時のC反発生率で示した。すなわち、染色後の反物の検反を実施し、熟練検査員によってA反を◎、B反を○、C反を×との判定をし、A,B反を合格、C反を不合格とした。
【0052】
(実施例1)
セルロース(日本製紙(株)溶解パルプ、α−セルロース92wt%)100重量部に、酢酸240重量部とプロピオン酸67重量部を加え、50℃で30分間混合した。混合物を室温まで冷却した後、氷浴中で冷却した無水酢酸172重量部と無水プロピオン酸168重量部をエステル化剤として、硫酸4重量部をエステル化触媒として加えて、150分間撹拌を行い、エステル化反応を行った。エステル化反応において、40℃を越える時は、水浴で冷却した。反応後、反応停止剤として酢酸100重量部と水33重量部の混合溶液を20分間かけて添加して、過剰の無水物を加水分解した。その後、酢酸333重量部と水100重量部を加えて、80℃で1時間加熱撹拌した。反応終了後、炭酸ナトリウム6重量部を含む水溶液を加えて、析出したセルロースエステルを濾別し、続いて水で洗浄した後、60℃で4時間乾燥した。アセチル置換度は1.9、アシル(プロピオニル)置換度は0.5であり、重量平均分子量(Mw)は12.8万であった。
【0053】
得られたセルロース脂肪酸エステル88重量%と平均分子量600のポリエチレングリコール12重量%を、二軸エクストルーダーを用いて230℃で混練し、5mm程度にカッティングしてセルロース脂肪酸エステル組成物ペレットを得た。
【0054】
このペレットを80℃、8時間の真空乾燥を行い、単軸エクストルーダーを用いて溶融させ、紡糸温度260℃とした溶融紡糸パックへ導入して、吐出量28.0g/minにて0.23mmφ−0.30mmLの口金孔を36ホール有した紡糸口金より紡出し、一方向からの冷却風によって冷却し、油剤を付与して収束させた後、1800m/minで回転する第1ゴデットローラーにて引き取り、第1ゴデットローラーと同じ速度で回転する第2ゴデットローラーを介してワインダーにて巻取った。
【0055】
上記巻取りにおける糸切り替え時において、初期の巻糸層がローラーベイルに接触するまでのマルチフィラメント張力を測定し、その張力がローラーベイル接触後のマルチフィラメント張力と同じになるようにスピンドルの回転速度を制御して巻取りを行うことにより、156dtex、36フィラメントのセルロース脂肪酸エステルマルチフィラメントの7.5kg巻きの巻き姿良好なチーズ状パッケージを得た。得られたチーズ状パッケージからマルチフィラメントを引き出し、最内層と正規巻取り層の伸度を測定したところ、正規巻取り層の伸度が25%、最内層の伸度が24%であった。
【0056】
また、得られたセルロース脂肪酸エステルマルチフィラメントを経糸、緯糸に用い、エアージェットルーム織機(津田駒工業社製ZA103、速度:513〔rpm〕)で製織した。これらのチーズ状パッケージの最内層のテールと最外層のテールを結んで、製織性の評価を行ったところ、織機の停台回数は0回であった。また、得られた織物を液流染色機で、昇温速度2℃、常圧染色(染色温度を95〜100℃にコントロール)し、分散染料(黒)1重量%を用い60分染色した。織物品位はA反であり、極めて良好であった。これらの評価結果を表1に示す。
【0057】
【表1】

【0058】
(実施例2)
紡糸速度を1000m/minに変更した以外は実施例1と同じ条件でチーズ状パッケージを得た。正規巻取り層の伸度は38%、最内層の伸度は36%であった。また、実施例1と同様に、製織、染色を行った結果、織機の停台回数は0回、織物品位はA反であり、良好であった。これらの結果を表1に示した。
【0059】
(実施例3)
紡糸速度3500m/minに変更した以外は実施例1と同じ条件でチーズ状パッケージを得た。正規巻取り層の伸度は20%、最内層の伸度は20%であった。また、実施例1と同様に、製織、染色を行った結果、織機の停台回数は1回、織物品位はA反であり良好であった。これらの結果を表1に示した。
【0060】
(比較例1)
糸切り替え後、スピンドルの回転速度の制御を行わなかったこと以外は実施例1と同じ条件でチーズ状パッケージを得た。得られたチーズ状パッケージからフィラメントを引き出し、物性測定を行ったところ、正規巻取り層の伸度は25%、最内層の伸度は19%であった。また、実施例1と同様に、製織、染色を行った結果、織機の停台回数は3回、織物品位はC反であり、高次加工性、品位に満足するものではなかった。織機の停台、織物欠点はパッケージ内層に相当する箇所で発生した。これらの結果を表1に示した。
【0061】
(比較例2)
紡糸速度を600m/minに変更した以外は実施例1と同じ条件でチーズ状パッケージを得た。得られたフィラメントの伸度は正規巻取り層の伸度48%、最内層の伸度45%であった。また、実施例1と同様に、製織、染色を行った結果、織機の停台回数は0回、織物品位はC反であり、品位に満足するものではなかった。織物欠点は、パッケージの内層、表層に関係ない箇所で発生した。これらの結果を表1に示した。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明のセルロース脂肪酸エステル繊維のチーズ状パッケージの形成に使用されるターレット型巻取機の一実施形態を示す概略図である。
【符号の説明】
【0063】
1 本体フレーム
2 ターレット盤
3a,3b スピンドル
4a,4b ボビン
5a パッケージ
6 ローラーベイル
7 昇降ボックス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アシル基の少なくとも一部が炭素数3〜18であるセルロース脂肪酸エステル75〜95重量%と、多価アルコール系可塑剤5〜25重量%とを含む組成物を製糸化し、伸度を20〜40%にしたマルチフィラメントをボビンに巻付けたチーズ状パッケージであって、前記パッケージの最内層に巻付けられたマルチフィラメントの伸度と、該最内層と最外層を除く巻取り層に巻付けられたマルチフィラメントの伸度との差を5%以下にしたセルロース脂肪酸エステル繊維のチーズ状パッケージ。
【請求項2】
前記セルロース脂肪酸エステルがセルロースアセテートプロピオネートである請求項1に記載のセルロース脂肪酸エステル繊維のチーズ状パッケージ。
【請求項3】
前記パッケージの重量が4〜20kgである請求項1または2に記載のセルロース脂肪酸エステル繊維のチーズ状パッケージ。
【請求項4】
前記マルチフィラメントの総繊度が10〜300dtexで、短繊維繊度が0.6〜6dtexである請求項1、2または3に記載のセルロース脂肪酸エステル繊維のチーズ状パッケージ。

【図1】
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【公開番号】特開2008−133573(P2008−133573A)
【公開日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−322390(P2006−322390)
【出願日】平成18年11月29日(2006.11.29)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】