説明

セル成型苗用の育苗用養土およびセル成型苗の生産方法

【課題】潅水を省力化できるセル成型苗用の育苗用養土を提供する。
【解決手段】乾燥質量基準で、バーミキュライト20〜65質量%、ピートモス35〜80質量%、ゼオライト0〜10質量%、パーライト0〜10質量%からなる養土基材に、窒素原子50〜800mg/L、リン原子500〜3000mg/Lおよびカリウム原子150〜800mg/Lを含有する養土100質量部と、吸水性ポリマー0.1〜1.0質量部とからなり、pHが5.5〜7.0である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸水性ポリマーを含有するセル成型苗用の育苗用養土に関し、より詳細には、育苗用セルに充填して育苗するに好適な育苗用養土、および該育苗用養土を使用したセル成型苗の生産方法に関する。
【背景技術】
【0002】
野菜の栽培で最も過酷な作業の一つに植付けがあり、経営規模の拡大や野菜類の安定供給のためには、機械化の導入が必須であり、育苗を移植するための各種の移植機が開発されている。このような移植機を使用するには、一定の規格を有する「苗」を供給する必要があり、従来から発芽効率を上げ、健苗を育てるために精密播種機等でセルトレイのセル毎に播種し、発芽させてセル成形苗を形成し、圃場等へ移植することが行われている。このような育苗のため、育苗用養土の充填、潅水および播種を自動化して「苗」を生育する技術も開発されている。
【0003】
例えば、野菜の播種機を備える播種プラントが開示されている(特許文献1)。該プラントには、供給コンベアの中間にホッパを備えた養土充填機が配設してあり、養土コンベアによって搬送された育苗箱に養土を供給し、次いで該育苗箱に噴霧灌水、および播種を行うことができる、という。
【0004】
一方、植物育成用培土としては、粒状培養土または該粒状培養土とバーミキュライトよりなる基材100重量部に対して、ピートモス0.1〜43重量部、活性炭3〜7重量部、界面活性剤0.03〜0.5重量部、緩効性肥料2〜6重量部、速効性肥料0〜2重量部を含有するものがある(特許文献2)。肥料によって土壌の電気伝導度が上昇し、作物によっては発芽阻害や成育むらが発生する場合があるが、上記組成の植物育成用培土によれば、作物の発芽を損ねることなく、長期にわたって肥効があり、かつ保存中に肥料が溶出せず、基材の電気伝導度を上昇させない、という。
【0005】
一方、セル成型苗の育苗は、トレイを苗載台に載置し、上方より灌水することによって行うため、上方より灌水するための灌水装置等が別途必要であり、毎日灌水する必要がある。この問題を解決するため、下向き傾斜した苗載台上に毛細管現象で吸水性の強い給水部材を敷設し、該給水部材上にトレイを載置してトレイの底からセル成型苗に灌水することを特徴とするセル成型苗の育苗装置も開示されている(特許文献3)。
【特許文献1】特開平6−133605号公報
【特許文献2】特開平10−191780号公報
【特許文献3】特開平09−107894号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
育苗箱などのセルトレイを使用する育苗期間はおよそ1ヶ月に亘るため、苗床への潅水が必須である。潅水は毎日一定量の水を供給するというものでなく、晴天日では一日に2〜3回の潅水を行い、曇天には一日に0〜1回の潅水を行うなど、苗の生育や天候に合わせた潅水が必要となり、このため育苗期間中の人手の確保が要求される。上記特許文献2記載の植物育成用培土では、保水力が十分でなく、潅水作業が必要となる。一方、上記特許文献3記載の方法では、新たな装置が必要となり、設備の設置に時間と費用がかかる。
【0007】
そこで本発明は、セル成型苗の育苗を省力化するため、育苗期間中に潅水を行うことなく育苗し得るセル成型苗の育苗用養土を提供することを目的とする。
【0008】
また、本発明は、このような育苗用養土を使用したセル成型苗の生産方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、セル成型苗の育苗用養土について詳細に検討した結果、養土基材に、特定量の窒素原子、リン原子、カリウム原子などの栄養成分を配合して養土を調製し、これに吸水性ポリマーを特定量配合することで、育苗期間中の潅水および追肥を行うことなく育苗することができること、潅水および追肥を行う必要がないため、潅水や追肥の相違による生育の差を抑制することができ、均質な「苗」を生産し得ることを見出し、本発明を完成させた。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、吸水性ポリマーを配合することで潅水作業を省力化することができ、潅水作業用の装置や施設を回避することができる。しかも、特定量の吸水性ポリマーを使用することで、発芽や発根を損ねることなく、効率的な健苗の生育が可能である。
【0011】
本発明によれば、無追肥でも「苗」が生育できるため、簡便に均質な「苗」を大量に生育することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の第一は、乾燥質量基準で、バーミキュライト20〜65質量%、ピートモス35〜80質量%、ゼオライト0〜10質量%、パーライト0〜10質量%からなる養土基材に、窒素原子50〜800mg/L、リン原子500〜3000mg/Lおよびカリウム原子150〜800mg/Lを含有する養土100質量部と、吸水性ポリマー0.1〜1.0質量部とからなり、pHが5.5〜7.0である、セル成型苗用の育苗用養土である。
【0013】
本発明では、特定組成の養土100質量部に対し、吸水性ポリマーを0.1〜1.0質量部配合する点に特徴がある。吸水性ポリマーの配合により、潅水作業を省力化することができ、かつ潅水作業による生育の誤差を回避することができるため、均質なセル成型苗を生育させることができる。吸水性ポリマーの配合量が、1.0質量部を超えると、他の栄養分の相対割合が低くなり、十分な苗の生育ができない場合がある。一方、0.1質量部を下回ると保水率が低下するため、潅水の省力化の効果が低減する。
【0014】
本発明で使用できる吸水性ポリマーとは、水溶性樹脂の少なくとも一部を架橋して水不溶化したものであり、含有するイオンの種類により、陰イオン性重合体、又は非イオン性重合体、陽イオン性重合体、両性イオン性重合体がある。本発明では、陰イオン性重合体や非イオン性重合体を好適に使用することができる。
【0015】
陰イオン性重合体とは、例えばポリアクリル酸塩系、イソブチレン/マレイン酸塩系、でんぷん/ポリアクリル酸塩系、ビニルアルコール/アクリル酸塩系、カルボキシメチルセルロース系、アクリル酸塩/アクリルアミド系、酢酸ビニル/アクリル酸塩系、ポリアクリロニトリル系ケン化物、でんぷん/アクリロニトリルグラフト重合体系ケン化物、多糖類/アクリル酸塩系、アルギン酸エステル系、ポリスルホン酸塩系、及び酢酸ビニル/アクリル酸エステル共重合体系ケン化物が挙げられる。また、非イオン性重合体としては、ポリビニルアルコール系、でんぷん/ポリアクリロニトリル系、ポリオキシエチレン系、酢酸ビニル/無水マレイン酸系、ポリ−N−ビニルアセトアミド系、及びポリアクリルアミド系が挙げられる。以上のような吸水性ポリマーの中でも、ポリアクリル酸塩系、イソブチレン/マレイン酸塩系、でんぷん/ポリアクリル酸塩系、ポリビニルアルコール系、酢酸ビニル/無水マレイン酸系、ポリN−アセトアミド系のものが好ましい。より好ましくは、ポリアクリル酸塩系、ポリビニルアルコール系、酢酸ビニル/無水マレイン酸系、ポリN−アセトアミド系の吸水性ポリマーが使用される。このような吸水性ポリマーとしては、市販品を使用することもでき、例えばメビオール株式会社製の商品名「スカイジェル」、三洋化成(株)製の商品名「サンフレッシュ GT−1」などが好適に使用できる。
【0016】
吸水性ポリマーは、これらの中でも温度20℃における水に対する吸水倍率が100〜800g/gである。800g/gを超えると、吸水性が強すぎるため放水性が低下して、苗の生育が損なわれる場合がある。一方、100g/gを下回ると、保水力が低下する場合がある。
【0017】
また、平均粒子径は0.25〜2.0mmである。吸水によって該ポリマーの体積が増加するため、2.0mmを超えると育苗用養土中で根が吸水性ポリマーに直接接触して、根の生育を損なう場合があり、一方、0.25mmを下回ると通気性が低下する場合がある。
【0018】
本発明のセル成型苗用の育苗用養土は、上記吸水性ポリマーに、乾燥質量基準で、バーミキュライト20〜65質量%、ピートモス35〜80質量%、ゼオライト0〜10質量%、パーライト0〜10質量%からなる養土基材に、窒素原子50〜800mg/Lリン原子500〜3000mg/Lおよびカリウム原子150〜800mg/Lを含有した養土を併用する。
【0019】
上記養土基材を構成するバーミキュライトとピートモスは保水性に優れる天然素材であり、多くの孔隙を形成し、根に必要な適度な空気が保持され、播種された種子や幼弱苗の生育に優れる。特にバーミキュライトの配合量が養土基材中で20質量%を下回ると、水はけ、水もち、肥料もち、通気性が低下する場合がある。一方、ピートモスは固相率が低いため、配合量が80質量%を超えると、酸性度が高いためpH調整剤の配合量を多くする必要があるため中和塩が増加し苗の生育を阻害する場合があり、および肥料もちが低下する場合がある。
【0020】
本発明では、養土基材に、更にゼオライトやパーライトを上記範囲で含んでいてもよく、更に木炭、竹炭、ヤシガラ炭、藁灰、消炭、製紙スラッジ灰などの活性炭、界面活性剤を、本発明の趣旨を損なわない範囲で含有していてもよい。活性炭は、養土を中和する作用があり、界面活性剤は、ピートモスや吸水性ポリマーの保水性を向上させる効果がある。
【0021】
本発明では、上記養土基材に、窒素原子、リン原子およびカリウム原子とを上記範囲で含有する。このような原子を含有する化合物としては、リン酸マグネシウムアンモニウム、リン酸マグネシウムアンモニウムカリウム、リン酸マグネシウムカリウムの他、硝安石灰、重焼リン、硫酸カリウム、硫酸アンモニウム、過リン酸石灰等があげられる。特に、水に溶解し難いリン酸マグネシウムアンモニウム、リン酸マグネシウムアンモニウムカリウム、リン酸マグネシウムカリウムと、水に溶解しやすい硝安石灰、重焼リン、硫酸カリウム、硫酸アンモニウム、過リン酸石灰等とを組み合わせることで、迅速かつ長期に亘り苗に供給することができる。なお、上記窒素原子、リン原子およびカリウム原子の含有量は、育苗を目的とする苗の種類に応じて、適宜選択することができる。
【0022】
上記化合物は、粉末状、顆粒状、粒子状で配合することができ、より好ましくは平均粒子径0.25〜2.0mmの粒子状である。単位質量あたりの表面積が小さいため成分の溶出が徐放され、長期に亘り肥料成分を供給することができる。これにより、育苗期間中の追肥を回避することができる。
【0023】
本発明のセル成型苗用の育苗用養土は、pHが5.5〜7.0、pHはセル成型苗の種類によって適宜選択できるが、吸水性ポリマーはカルボキシル基などのイオン性基を有するため、育苗用養土のpHが上記範囲を外れると吸水特性が低下する場合がある。本発明においては、育苗用養土のpHは、より好ましくは5.5〜6.5である。
【0024】
本発明の育苗用養土は、これを土壌として種子、苗、または植物を育成することができるが、特にセル成型苗用の育苗用養土として好適である。窒素原子、リン原子、およびカリウム原子の配合量割合が、育苗期間中に使用するに好適な配合量であり、かつ特定の粒子径に調整することで、各成分が徐放され、育苗期間中の追肥が不要となるからである。また、特定量の吸水性ポリマーの配合によって、育苗期間中の潅水作業を不要とすることができる。なお、本願において、「セル成型苗」とは、セルトレイ中で発芽および育苗した苗、または苗を更に育苗した苗をいう。また、植物には、キャベツ、ハクサイ、レタス、ホウレンソウ、ネギ、ダイコン、ニンジン、イチゴなどの野菜類、コスモス、パンジー、ランなどの花卉類、タバコなどがあり、特に限定されない。
【0025】
本発明のセル成型苗用の育苗用養土は、通気性および保水性に優れる養土基材に、リン原子、窒素原子、カリウム原子が上記範囲で含まれるため、播種後は種子の発根、発芽率に優れ、苗が均一に生育する。更に、養土には、吸水性ポリマーが配合されており、播種時に十分な水分を与えることで、育苗期間中の潅水し省力化でき、かつ移植適期となるまで追肥も不要である。
【0026】
本発明の第二は、上記育苗用養土を育苗用セルに充填し、潅水と共に育苗用種子を播種しおよび生育させることを特徴とする、セル成型苗の生産方法である。
【0027】
本発明で使用する育苗用セルとしては、特に限定はなく、育苗する苗の種類や定植時の苗のサイズに応じて適宜選択することができる。一般に、育苗資材として市販される、横300mm、縦600mm、深さ40〜50mmのセルが12×24で配列される専用育苗箱などを好適に使用することができる。
【0028】
本発明によれば、播種時に潅水処理を行うだけで育種期間中に潅水処理を行うことなく、育苗することができるが、播種した種子の発芽や発根に優れるだけでなく、幼弱苗の生育にも優れる。したがって、同様の趣旨により、上記育苗用養土を育苗用セルに充填し、潅水と共に育苗用幼弱苗を移植しおよび生育させ、セル成型苗を生産することもできる。
【0029】
図1に、育苗用養土を育苗用セルに充填し、潅水と共に育苗用種子を播種する方法を示すが、上記作業は、充填機で行ってもよく、手作業でおこなってもよい。図1(a)では、育苗用養土(10)を育苗用セル(1)に適量充填し、次いで、該育苗用養土(10)に水(15)を供給し、吸水した育苗用養土に育苗用種子(20)を播種する場合を示す。また、図1(b)は、育苗用養土(10)を育苗用セル(1)に適量充填した後に、育苗用種子(20)を播種し、次いでこの育苗用養土(10)に水(15)を供給させる態様を示す。本発明の育苗用養土を使用すると、播種時に潅水を行うだけで育苗期間中の潅水処理が不要になるものであり、育苗用養土に対して播種と潅水とのいずれを先に行ってもよい。
【0030】
同様に、図2(a)では、育苗用養土(10)を育苗用セル(1)に適量充填し、次いで、該育苗用養土(10)に水(15)を供給し、吸水した育苗用養土に移植用穴(25)を設け、これに幼弱苗(30)を播種する場合を示す。また、図2(b)は、育苗用養土(10)を育苗用セル(1)に適量充填した後に、移植用穴(25)を設け、次いでこの育苗用養土(10)に水(15)を供給させ、その後に幼弱苗(30)を移植する態様を示す。本発明の育苗用養土を使用すると、移植時に潅水を行うだけで育苗期間中の潅水処理が不要になり、育苗用養土に対して幼弱苗(30)の移植と潅水とのいずれを先に行ってもよい。
【0031】
セル成型苗は、その種子や幼弱苗の種類に応じて、適宜定植時期を判断してセル成型苗とする。本発明で生産されたセル成型苗は、セル内に十分に根を張っている。この苗を、移植機などに供給し、圃場に定植させ、更に生育させれば、均質な野菜や花卉を大量かつ簡便に生産することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】図1は、本発明のセル成型苗の生産方法の一例を示す図であり、本発明の育苗用養土に播種および潅水し、セル成型苗を生産する方法を示す。
【図2】図2は、本発明のセル成型苗の生産方法の一例を示す図であり、本発明の育苗用養土に幼弱苗を移植しおよび生育させ、セル成型苗を生産する方法を示す。
【符号の説明】
【0033】
1・・・育苗用セル、
10・・・育苗用養土、
15・・・水、
20・・・種子、
25・・・移植用穴、
30・・・幼弱苗。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乾燥質量基準で、バーミキュライト20〜65質量%、ピートモス35〜80質量%、ゼオライト0〜10質量%、パーライト0〜10質量%からなる養土基材に、窒素原子50〜800mg/L、リン原子500〜3000mg/Lおよびカリウム原子150〜800mg/Lを含有する養土100質量部と、吸水性ポリマー0.1〜1.0質量部とからなり、pHが5.5〜7.0である、セル成型苗用の育苗用養土。
【請求項2】
前記吸水性ポリマーが、吸水倍率100〜800g/gである、請求項1記載のセル成型苗用の育苗用養土。
【請求項3】
前記吸水性ポリマーの平均粒子径が0.25〜2.0mmである、請求項1または2記載のセル成型苗用の育苗用養土。
【請求項4】
請求項1〜4のいずれかに記載の育苗用養土を育苗用セルに充填し、潅水と共に育苗用種子を播種しおよび生育させることを特徴とする、セル成型苗の生産方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の育苗用養土を育苗用セルに充填し、潅水と共に育苗用幼弱苗を移植しおよび生育させることを特徴とする、セル成型苗の生産方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−222111(P2007−222111A)
【公開日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−49120(P2006−49120)
【出願日】平成18年2月24日(2006.2.24)
【出願人】(000006781)ヤンマー株式会社 (3,810)
【Fターム(参考)】