説明

センサーチップ、センサーカートリッジ及び分析装置

【課題】センサー感度の向上を図り、SERSスペクトルから標的物質を特定することが可能なセンサーチップ、センサーカートリッジ及び分析装置を提供する。
【解決手段】回折格子9は、基材10の平面部10sの上に形成され、断面形状が矩形の凸形状であり、基材10の平面内に平行な第1の方向に光の波長よりも短い周期P1で配列される金属を含む第1の突起11の群と、第1の突起11の群において隣り合う2つの第1の突起11の間に位置する基材10の下地部分10aの群と、第1の突起11の群において各々の第1の突起11の上面11aに形成される金属を含む複数の第2の突起12の群と、下地部分10aの群において各々の下地部分10aに形成される金属を含む複数の第3の突起13の群と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、センサーチップ、センサーカートリッジ及び分析装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、医療診断や飲食物の検査などに用いられるセンサーの需要が増大しており、小型で高速にセンシング可能なセンサー技術の開発が求められている。このような要求に応えるために、電気化学的な手法をはじめ様々なタイプのセンサーが検討されている。これらの中で、集積化が可能であり、低コスト、さらに測定環境を選ばないといった理由から、表面プラズモン共鳴(SPR:Surface Plasmon Resonance)を用いたセンサーに対する関心が高まっている。
【0003】
ここで、表面プラズモンとは、表面固有の境界条件により光とカップリングを起こす電子波の振動モードである。表面プラズモンを励起する方法としては、金属表面に回折格子を刻み、光とプラズモンを結合させる方法やエバネッセント波を利用する方法がある。例えば、SPRを利用したセンサーとしては、全反射型プリズムと、当該プリズムの表面に形成された標的物質に接触する金属膜と、を具備して構成されるものがある。このような構成により、抗原抗体反応における抗原の吸着の有無など、標的物質の吸着の有無を検出している。
【0004】
ところで、金属表面に伝播型の表面プラズモンが存在する一方、金属微粒子には局在型の表面プラズモンが存在する。局在型の表面プラズモン、つまり、表面の微細構造上に局在する表面プラズモンが励起された際には、著しく増強された電場が誘起されることが知られている。
【0005】
そこで、センサー感度の向上を目的として、金属微粒子や金属ナノ構造を用いた局在表面プラズモン共鳴(LSPR:Localized Surface Plasmon Resonance)を利用したセンサーが提案されている。例えば、特許文献1では、表面に金属微粒子が膜状に固定された透明基板に対して光を照射し、金属微粒子を透過した光の吸光度を測定することにより、金属微粒子近傍の媒質の変化を検出し、標的物質の吸着や堆積を検出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−356587号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1では、金属微粒子のサイズ(大きさや形状)を均一に作製すること、及び金属微粒子を規則正しく配列することは困難であった。金属微粒子のサイズや配列が制御できないと、共鳴で生じる吸収や共鳴波長にもばらつきが生じる。これにより、吸光度スペクトルの幅がブロードになり、ピーク強度が低下してしまう。このため、金属微粒子近傍の媒質の変化を検出する信号変化が低く、センサー感度を向上させるにも限界があった。したがって、吸光度スペクトルから物質を特定するような用途では、センサーの感度が不十分であった。
【0008】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであって、センサー感度の向上を図り、ラマン分光スペクトルから標的物質を特定することが可能なセンサーチップ、センサーカートリッジ及び分析装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するため、本発明のセンサーチップは、金属を含む基材に形成された回折格子に標的物質を配置し、表面プラズモン共鳴及び表面増強ラマン散乱を利用して、前記標的物質を検出するためのセンサーチップであって、前記回折格子は、前記基材の平面部の上に形成され、前記平面部を垂直に切断する方向の断面形状が矩形の凸形状であり、前記基材の平面内に平行な第1の方向に光の波長よりも短い周期で配列される金属を含む第1の突起の群と、前記第1の突起の群において、隣り合う2つの第1の突起の間に位置する前記基材の下地部分の群と、前記第1の突起の群において、各々の前記第1の突起の上面に形成される金属を含む複数の第2の突起の群と、前記下地部分の群において、各々の前記下地部分に形成される金属を含む複数の第3の突起の群と、を有することを特徴とする。
【0010】
この構成によれば、第1の突起により表面プラズモン共鳴を介して増強された近接電場を同形状の表面へ励起し、さらに第2の突起、第3の突起による金属微細構造で増強度の高い表面増強ラマン散乱(SERS:Surface Enhanced Raman Scattering)を発現させることができる。具体的には、第1の突起の群、第2の突起の群、第3の突起の群が形成された面に光が入射すると、第1の突起の群による表面固有の振動モード(表面プラズモン)が生じる。すると、光の振動にともなって自由電子が共鳴振動し、自由電子の振動にともなって電磁波の振動が励起される。この電磁波の振動は、自由電子の振動に影響するため、両者の振動が結合した系、いわゆる表面プラズモンポラリトン(SPP:Surface Plasmon Polariton)をつくることになる。これにより、第2の突起の群、第3の突起の群の近傍に、局在表面プラズモン共鳴(LSPR:Localized Surface Plasmon Resonance)が励起される。本構造では隣り合う2つの第2の突起の間の距離、隣り合う2つの第3の突起の間の距離が小さいため、その接点付近に極めて強い増強電場が生じる。そして、その接点に1〜数個の標的物質が吸着すると、そこからSERSが発生する。このため、標的物質に固有の鋭いSERSスペクトルを取得することができる。したがって、センサー感度の向上を図り、SERSスペクトルから標的物質を特定することが可能なセンサーチップが提供できる。また、第1の突起の周期や高さ、第2の突起の高さ、第3の突起の高さを適宜変更することで、共鳴ピークの位置を任意の波長に合わせることができる。このため、標的物質を特定する際に照射する光の波長を適宜選択することが可能となり、測定範囲の幅が広がる。
【0011】
また、上記センサーチップは、前記第1の突起が前記1の方向に交差し前記基材の平面内に平行な第2の方向に周期性を有して配列されていてもよい。
この構成によれば、第1の突起が基材の平面内に平行な方向(第1の方向)のみに周期性を有して形成されている場合よりも広いプラズモン共鳴条件下においてセンシングを行うことができる。したがって、センサー感度の向上を図り、SERSスペクトルから標的物質を特定することが可能なセンサーチップが提供できる。また、第1の突起における第1の方向の周期に加えて、第2の方向の周期を適宜変更することもできる。このため、標的物質を特定する際に照射する光の波長を適宜選択することが可能となり、測定範囲の幅が広がる。
【0012】
また、上記センサーチップは、前記第2の突起、前記第3の突起が前記基材の平面内に平行な第3の方向に周期性を有して配列されていてもよい。
この構成によれば、第2の突起、第3の突起の周期を適宜変更することができる。このため、標的物質を特定する際に照射する光の波長を適宜選択することが可能となり、測定範囲の幅が広がる。
【0013】
また、上記センサーチップは、前記第2の突起、前記第3の突起が前記第3の方向に交差し前記基材の平面内に平行な第4の方向に周期性を有して配列されていてもよい。
この構成によれば、第2の突起、第3の突起が基材の平面内に平行な方向(第3の方向)のみに形成されている場合よりも広いプラズモン共鳴条件下においてセンシングを行うことができる。したがって、センサー感度の向上を図り、SERSスペクトルから標的物質を特定することが可能なセンサーチップが提供できる。また、第2の突起、第3の突起における第3の方向の周期に加えて、第4の方向の周期を適宜変更することもできる。このため、標的物質を特定する際に照射する光の波長を適宜選択することが可能となり、測定範囲の幅が広がる。
【0014】
また、上記センサーチップは、前記第2の突起、前記第3の突起が微粒子からなっていてもよい。
この構成においても、センサー感度の向上を図り、SERSスペクトルから標的物質を特定することが可能なセンサーチップが提供できる。
【0015】
また、上記センサーチップは、前記基材に含まれる金属、前記第1の突起に含まれる金属、前記第2の突起に含まれる金属、前記第3の突起に含まれる金属が金または銀であることが望ましい。
この構成によれば、金または銀がSPP、LSPR、SERSを発現させる特性を有しているので、SPP、LSPR、SERSが発現しやすくなり、標的物質を高感度で検出することが可能となる。
【0016】
また、本発明のセンサーチップは、金属を含む基材に形成された回折格子に標的物質を配置し、表面プラズモン共鳴及び表面増強ラマン散乱を利用して、前記標的物質を検出するためのセンサーチップであって、前記回折格子は金属を含み、前記基材の平面部を垂直に切断する方向における前記回折格子の断面形状は、光の波長よりも短い周期で第1の凸形状が配列される第1の凹凸形状と、前記第1の凹凸形状の周期よりも短い周期で第2の凸形状が配列される第2の凹凸形状とを重畳して得られた合成パターンであることを特徴とする。
【0017】
この構成によれば、第1の凸形状により表面プラズモン共鳴を介して増強された近接電場を同形状の表面へ励起し、さらに第2の凸形状による金属微細構造で増強度の高い表面増強ラマン散乱(SERS:Surface Enhanced Raman Scattering)を発現させることができる。具体的には、第1の凹凸形状及び第2の凹凸形状が形成された面に光が入射すると、第1の凹凸形状による表面固有の振動モード(表面プラズモン)が生じる。すると、光の振動にともなって自由電子が共鳴振動し、自由電子の振動にともなって電磁波の振動が励起される。この電磁波の振動は、自由電子の振動に影響するため、両者の振動が結合した系、いわゆる表面プラズモンポラリトン(SPP:Surface Plasmon Polariton)をつくることになる。これにより、第2の凹凸形状の近傍に、局在表面プラズモン共鳴(LSPR:Localized Surface Plasmon Resonance)が励起される。本構造では隣り合う2つの第2の凸形状の間の距離が小さいため、その接点付近に極めて強い増強電場が生じる。そして、その接点に1〜数個の標的物質が吸着すると、そこからSERSが発生する。このため、標的物質に固有の鋭いSERSスペクトルを取得することができる。したがって、センサー感度の向上を図り、SERSスペクトルから標的物質を特定することが可能なセンサーチップが提供できる。また、第1の凸形状の周期、高さ及び第2の凸形状の高さを適宜変更することで、共鳴ピークの位置を任意の波長に合わせることができる。このため、標的物質を特定する際に照射する光の波長を適宜選択することが可能となり、測定範囲の幅が広がる。
【0018】
また、上記センサーチップは、前記第1の凸形状が前記基材の平面内に平行な第1の方向に周期性を有するとともに前記1の方向に交差し前記基材の平面内に平行な第2の方向に周期性を有して配列されていてもよい。
この構成によれば、第1の凸形状が基材の平面内に平行な方向(第1の方向)のみに周期性を有して形成されている場合よりも広いプラズモン共鳴条件下においてセンシングを行うことができる。したがって、センサー感度の向上を図り、SERSスペクトルから標的物質を特定することが可能なセンサーチップが提供できる。また、第1の凸形状における第1の方向の周期に加えて、第2の方向の周期を適宜変更することもできる。このため、標的物質を特定する際に照射する光の波長を適宜選択することが可能となり、測定範囲の幅が広がる。
【0019】
また、上記センサーチップは、前記第2の凸形状が前記基材の平面内に平行な第3の方向に周期性を有して配列されていてもよい。
この構成によれば、第2の凸形状の周期を適宜変更することができる。このため、標的物質を特定する際に照射する光の波長を適宜選択することが可能となり、測定範囲の幅が広がる。
【0020】
また、上記センサーチップは、前記第2の凸形状が前記第3の方向に交差し前記基材の平面内に平行な第4の方向に周期性を有して配列されていてもよい。
この構成によれば、第2の凸形状が基材の平面内に平行な方向(第3の方向)のみに形成されている場合よりも広いプラズモン共鳴条件下においてセンシングを行うことができる。したがって、センサー感度の向上を図り、SERSスペクトルから標的物質を特定することが可能なセンサーチップが提供できる。また、第2の凸形状における第3の方向の周期に加えて、第4の方向の周期を適宜変更することもできる。このため、標的物質を特定する際に照射する光の波長を適宜選択することが可能となり、測定範囲の幅が広がる。
【0021】
また、上記センサーチップは、前記第2の凸形状が微粒子からなっていてもよい。
この構成においても、センサー感度の向上を図り、SERSスペクトルから標的物質を特定することが可能なセンサーチップが提供できる。
【0022】
また、上記センサーチップは、前記基材に含まれる金属、前記第1の凸形状に含まれる金属、前記第2の凸形状に含まれる金属が金または銀であることが望ましい。
この構成によれば、金または銀がSPP、LSPR、SERSを発現させる特性を有しているので、SPP、LSPR、SERSが発現しやすくなり、標的物質を高感度で検出することが可能となる。
【0023】
本発明の分析装置は、前述した本発明のセンサーチップと、前記センサーチップに光を照射する光源と、前記センサーチップからの光を検出する光検出器と、を備えることを特徴とする。
この構成によれば、上述した本発明に係るセンサーチップを備えているので、ラマン散乱光を選択的に分光し、標的分子を検出することができる。したがって、センサー感度の向上を図り、SERSスペクトルから標的物質を特定することが可能な分析装置が提供できる。
【0024】
本発明のセンサーチップは、基材に形成された回折格子に標的物質を配置し、表面プラズモン共鳴及び表面増強ラマン散乱を利用して、前記標的物質を検出するためのセンサーチップであって、前記回折格子は、前記基材の平面部の上に形成され、前記基材の平面内に平行な第1の方向に100nm以上1000nm以下の周期で配列される第1の突起の群と、前記第1の突起の群において、隣り合う2つの第1の突起の間に位置する前記基材の下地部分の群と、前記第1の突起の群において、各々の前記第1の突起の上面に形成される複数の第2の突起の群と、前記下地部分の群において、各々の前記下地部分に形成される複数の第3の突起の群と、を有し、前記回折格子は表面が金属で形成されていることを特徴とする。
【0025】
この構成によれば、第1の突起により表面プラズモン共鳴を介して増強された近接電場を同形状の表面へ励起し、さらに第2の突起、第3の突起による金属微細構造で増強度の高い表面増強ラマン散乱(SERS:Surface Enhanced Raman Scattering)を発現させることができる。具体的には、第1の突起の群、第2の突起の群、第3の突起の群が形成された面に光が入射すると、第1の突起の群による表面固有の振動モード(表面プラズモン)が生じる。すると、光の振動にともなって自由電子が共鳴振動し、自由電子の振動にともなって電磁波の振動が励起される。この電磁波の振動は、自由電子の振動に影響するため、両者の振動が結合した系、いわゆる表面プラズモンポラリトン(SPP:Surface Plasmon Polariton)をつくることになる。これにより、第2の突起の群、第3の突起の群の近傍に、局在表面プラズモン共鳴(LSPR:Localized Surface Plasmon Resonance)が励起される。本構造では隣り合う2つの第2の突起の間の距離、隣り合う2つの第3の突起の間の距離が小さいため、その接点付近に極めて強い増強電場が生じる。そして、その接点に1〜数個の標的物質が吸着すると、そこからSERSが発生する。このため、標的物質に固有の鋭いSERSスペクトルを取得することができる。したがって、センサー感度の向上を図り、SERSスペクトルから標的物質を特定することが可能なセンサーチップが提供できる。また、第1の突起の周期や高さ、第2の突起の高さ、第3の突起の高さを適宜変更することで、共鳴ピークの位置を任意の波長に合わせることができる。このため、標的物質を特定する際に照射する光の波長を適宜選択することが可能となり、測定範囲の幅が広がる。
【0026】
また、上記センサーチップは、前記第1の突起が前記1の方向に交差し前記基材の平面内に平行な第2の方向に周期性を有して配列されていてもよい。
この構成によれば、第1の突起が基材の平面内に平行な方向(第1の方向)のみに周期性を有して形成されている場合よりも広いプラズモン共鳴条件下においてセンシングを行うことができる。したがって、センサー感度の向上を図り、SERSスペクトルから標的物質を特定することが可能なセンサーチップが提供できる。また、第1の突起における第1の方向の周期に加えて、第2の方向の周期を適宜変更することもできる。このため、標的物質を特定する際に照射する光の波長を適宜選択することが可能となり、測定範囲の幅が広がる。
【0027】
また、上記センサーチップは、前記第2の突起、前記第3の突起が前記基材の平面内に平行な第3の方向に周期性を有して配列されていてもよい。
この構成によれば、第2の突起、第3の突起の周期を適宜変更することができる。このため、標的物質を特定する際に照射する光の波長を適宜選択することが可能となり、測定範囲の幅が広がる。
【0028】
また、上記センサーチップは、前記第2の突起、前記第3の突起が前記第3の方向に交差し前記基材の平面内に平行な第4の方向に周期性を有して配列されていてもよい。
この構成によれば、第2の突起、第3の突起が基材の平面内に平行な方向(第3の方向)のみに形成されている場合よりも広いプラズモン共鳴条件下においてセンシングを行うことができる。したがって、センサー感度の向上を図り、SERSスペクトルから標的物質を特定することが可能なセンサーチップが提供できる。また、第2の突起、第3の突起における第3の方向の周期に加えて、第4の方向の周期を適宜変更することもできる。このため、標的物質を特定する際に照射する光の波長を適宜選択することが可能となり、測定範囲の幅が広がる。
【0029】
また、上記センサーチップは、前記第2の突起、前記第3の突起が微粒子からなっていてもよい。
この構成においても、センサー感度の向上を図り、SERSスペクトルから標的物質を特定することが可能なセンサーチップが提供できる。
【0030】
また、上記センサーチップは、前記回折格子の表面の金属が金または銀であることが望ましい。
この構成によれば、金または銀がSPP、LSPR、SERSを発現させる特性を有しているので、SPP、LSPR、SERSが発現しやすくなり、標的物質を高感度で検出することが可能となる。
【0031】
また、本発明のセンサーチップは、基材に形成された回折格子に標的物質を配置し、表面プラズモン共鳴及び表面増強ラマン散乱を利用して、前記標的物質を検出するためのセンサーチップであって、前記回折格子は表面が金属で形成され、前記基材の平面部を垂直に切断する方向における前記回折格子の断面形状は、100nm以上1000nm以下の周期で第1の凸形状が配列される第1の凹凸形状と、前記第1の凹凸形状における各々の前記第1の凸形状において前記第1の凹凸形状の周期よりも短い周期で第2の凸形状が配列される第2の凹凸形状と、前記第1の凹凸形状における隣り合う2つの前記第1の凸形状の間に位置する各々の下地部分において前記第1の凹凸形状の周期よりも短い周期で第3の凸形状が配列される第3の凹凸形状と、を重畳して得られた合成パターンであることを特徴とする。
【0032】
この構成によれば、第1の凸形状により表面プラズモン共鳴を介して増強された近接電場を同形状の表面へ励起し、さらに第2の凸形状による金属微細構造で増強度の高い表面増強ラマン散乱(SERS:Surface Enhanced Raman Scattering)を発現させることができる。具体的には、第1の凹凸形状及び第2の凹凸形状が形成された面に光が入射すると、第1の凹凸形状による表面固有の振動モード(表面プラズモン)が生じる。すると、光の振動にともなって自由電子が共鳴振動し、自由電子の振動にともなって電磁波の振動が励起される。この電磁波の振動は、自由電子の振動に影響するため、両者の振動が結合した系、いわゆる表面プラズモンポラリトン(SPP:Surface Plasmon Polariton)をつくることになる。これにより、第2の凹凸形状の近傍に、局在表面プラズモン共鳴(LSPR:Localized Surface Plasmon Resonance)が励起される。本構造では隣り合う2つの第2の凸形状の間の距離が小さいため、その接点付近に極めて強い増強電場が生じる。そして、その接点に1〜数個の標的物質が吸着すると、そこからSERSが発生する。このため、標的物質に固有の鋭いSERSスペクトルを取得することができる。したがって、センサー感度の向上を図り、SERSスペクトルから標的物質を特定することが可能なセンサーチップが提供できる。また、第1の凸形状の周期、高さ及び第2の凸形状の高さ、第3の凸形状の高さを適宜変更することで、共鳴ピークの位置を任意の波長に合わせることができる。このため、標的物質を特定する際に照射する光の波長を適宜選択することが可能となり、測定範囲の幅が広がる。
【0033】
また、上記センサーチップは、前記第1の凸形状が前記基材の平面内に平行な第1の方向に周期性を有するとともに前記1の方向に交差し前記基材の平面内に平行な第2の方向に周期性を有して配列されていてもよい。
この構成によれば、第1の凸形状が基材の平面内に平行な方向(第1の方向)のみに周期性を有して形成されている場合よりも広いプラズモン共鳴条件下においてセンシングを行うことができる。したがって、センサー感度の向上を図り、SERSスペクトルから標的物質を特定することが可能なセンサーチップが提供できる。また、第1の凸形状における第1の方向の周期に加えて、第2の方向の周期を適宜変更することもできる。このため、標的物質を特定する際に照射する光の波長を適宜選択することが可能となり、測定範囲の幅が広がる。
【0034】
また、上記センサーチップは、前記第2の凸形状、前記第3の凸形状が前記基材の平面内に平行な第3の方向に周期性を有して配列されていてもよい。
この構成によれば、第2の凸形状、第3の凸形状の周期を適宜変更することができる。このため、標的物質を特定する際に照射する光の波長を適宜選択することが可能となり、測定範囲の幅が広がる。
【0035】
また、上記センサーチップは、前記第2の凸形状、前記第3の凸形状が前記第3の方向に交差し前記基材の平面内に平行な第4の方向に周期性を有して配列されていてもよい。
この構成によれば、第2の凸形状、第3の凸形状が基材の平面内に平行な方向(第3の方向)のみに形成されている場合よりも広いプラズモン共鳴条件下においてセンシングを行うことができる。したがって、センサー感度の向上を図り、SERSスペクトルから標的物質を特定することが可能なセンサーチップが提供できる。また、第2の凸形状、第3の凸形状における第3の方向の周期に加えて、第4の方向の周期を適宜変更することもできる。このため、標的物質を特定する際に照射する光の波長を適宜選択することが可能となり、測定範囲の幅が広がる。
【0036】
また、上記センサーチップは、前記第2の凸形状、第3の凸形状が微粒子からなっていてもよい。
この構成においても、センサー感度の向上を図り、SERSスペクトルから標的物質を特定することが可能なセンサーチップが提供できる。
【0037】
また、上記センサーチップは、前記回折格子の表面の金属が金または銀であることが望ましい。
この構成によれば、金または銀がSPP、LSPR、SERSを発現させる特性を有しているので、SPP、LSPR、SERSが発現しやすくなり、標的物質を高感度で検出することが可能となる。
【0038】
本発明のセンサーカートリッジは、前述した本発明のセンサーチップと、前記標的物質を前記センサーチップの表面に搬送する搬送部と、前記センサーチップを載置する載置部と、前記センサーチップ、前記搬送部及び前記載置部を収容する筐体と、前記筐体の前記センサーチップの表面と対向する位置に設けられた照射窓と、を備えることを特徴とする。
この構成によれば、上述した本発明に係るセンサーチップを備えているので、ラマン散乱光を選択的に分光し、標的分子を検出することができる。したがって、センサー感度の向上を図り、SERSスペクトルから標的物質を特定することが可能なセンサーカートリッジが提供できる。
【0039】
本発明の分析装置は、前述した本発明のセンサーチップと、前記センサーチップに光を照射する光源と、前記センサーチップからの光を検出する光検出器と、を備えることを特徴とする。
この構成によれば、上述した本発明に係るセンサーチップを備えているので、ラマン散乱光を選択的に分光し、標的分子を検出することができる。したがって、センサー感度の向上を図り、SERSスペクトルから標的物質を特定することが可能な分析装置が提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明に係るセンサーチップの概略構成を示す模式図である。
【図2】ラマン散乱分光法を示す図である。
【図3】LSPRによる電場増強の機構を示す図である。
【図4】SERS分光法を示す図である。
【図5】第1の突起単体の反射光強度を示すグラフである。
【図6】SPPの分散曲線を示すグラフである。
【図7】本発明に係るセンサーチップの反射光強度を示すグラフである。
【図8】基材の平面部に複数の第2の突起を形成したセンサーチップの模式図である。
【図9】図8におけるセンサーチップの反射光強度を示すグラフである。
【図10】センサーチップの作製プロセスを示す図である。
【図11】他の形態の第1の突起を有するセンサーチップの概略構成図である。
【図12】他の形態の第2の突起を有するセンサーチップの概略構成図である。
【図13】他の形態の第2の突起を有するセンサーチップの概略構成図である。
【図14】分析装置の一例を示す模式図である。
【図15】本発明に係るセンサーチップの概略構成を示す模式図である。
【図16】本発明に係るセンサーチップの概略構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。かかる実施の形態は、本発明の一態様を示すものであり、この発明を限定するものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で任意に変更可能である。また、以下の図面においては、各構成をわかりやすくするために、実際の構造と各構造における縮尺や数等が異なっている。
【0042】
図1は、本発明に係るセンサーチップの概略構成を示す模式図である。図1(a)はセンサーチップの概略構成斜視図、図1(b)はセンサーチップの概略構成断面図である。図1(b)において、符号P1は第1の突起(第1の凸形状)の周期、符号P2は第2の突起(第2の凸形状)及び第3の突起(第3の凸形状)の周期、符号T1は第1の突起の高さ(溝の深さ)、符号T2は第2の突起の高さ(溝の深さ)、符号T3は第3の突起の高さ(溝の深さ)、符号W1は第1の突起の幅、符号W2は隣り合う2つの第1の突起の間の距離である。
【0043】
図15及び図16は、図1(b)に対応した、本発明に係るセンサーチップの概略構成を示す模式図である。図15及び図16において、符号P1は第1の突起(第1の凸形状)の周期、符号P2は第2の突起(第2の凸形状)及び第3の突起(第3の凸形状)の周期、符号T1は第1の突起の高さ(溝の深さ)、符号T2は第2の突起の高さ(溝の深さ)、符号T3は第3の突起の高さ(溝の深さ)、符号W1は第1の突起の幅、符号W2は隣り合う2つの第1の突起の間の距離である。
【0044】
センサーチップ1は、金属を含む基材10に形成された回折格子9に標的物質を配置し、局在表面プラズモン共鳴(LSPR:Localized Surface Plasmon Resonance)及び表面増強ラマン散乱(SERS:Surface Enhanced Raman Scattering)を利用して、前記標的物質を検出するためのものである。回折格子9は、基材10の平面部10sの上に形成され、平面部10sを垂直に切断する方向の断面形状が矩形の凸形状であり、基材10の平面内に平行な第1の方向に光の波長よりも短い周期P1で配列される金属を含む第1の突起11の群と、第1の突起11の群において隣り合う2つの第1の突起11の間に位置する基材11の下地部分10aの群と、第1の突起11の群において各々の第1の突起11の上面11aに形成される金属を含む複数の第2の突起12の群と、下地部分10aの群において各々の下地部分10aに形成される金属を含む複数の第3の突起13の群と、を具備して構成されている。
【0045】
具体的には、センサーチップ1は、基材10に形成された回折格子9に標的物質を配置し、LSPR及びSERSを利用して、前記標的物質を検出するためのものである。回折格子9は、基材10の平面部10sの上に形成され、基材10の平面内に平行な第1の方向に100nm以上1000nm以下の周期P1で配列される第1の突起11の群と、第1の突起11の群において隣り合う2つの第1の突起11の間に位置する基材10の下地部分10aの群と、第1の突起11の群において各々の第1の突起11の上面11aに形成される複数の第2の突起12の群と、下地部分10aの群において各々の下地部分10aに形成される複数の第3の突起13の群と、を具備して構成されている。回折格子9は表面が金属で形成されている。
【0046】
言い換えると、回折格子9は金属を含み、基材10の平面部10sを垂直に切断する方向における回折格子9の断面形状は、光の波長よりも短い周期P1で第1の凸形状(第1の突起)11が配列される第1の凹凸形状と、第1の凹凸形状の周期よりも短い周期P2で第2の凸形状(第2の突起、第3の突起)12,13が配列される第2の凹凸形状とを重畳して得られた合成パターンである。すなわち、センサーチップ1は、LSPRを発現させるための第1の凸形状11と、SERSを発現させるための第2の凸形状12,13と、を備えている。なお、LSPR、SERSの詳細については後述する。
【0047】
具体的には、回折格子9は表面が金属で形成され、基材10の平面部10sを垂直に切断する方向における回折格子9の断面形状は、100nm以上1000nm以下の周期P1で第1の凸形状(第1の突起)11が配列される第1の凹凸形状と、第1の凹凸形状における各々の第1の凸形状11において第1の凹凸形状の周期よりも短い周期P2で第2の凸形状(第2の突起)12が配列される第2の凹凸形状と、前記第1の凹凸形状における隣り合う2つの前記第1の凸形状11の間に位置する各々の下地部分において第1の凹凸形状の周期よりも短い周期P2で第3の凸形状が配列される第3の凹凸形状と、を重畳して得られた合成パターンである。
【0048】
なお、ここでいう「回折格子」とは、複数の凹凸形状(突起の群)を周期的に配列したものをいう。
【0049】
回折格子9の構成としては、図1(b)に示すように、基材10、第1の凸形状11及び第2の凸形状12が全て金属からなるものが挙げられる。また、図15に示すように、基材10及び第1の凸形状11をガラスや樹脂等の絶縁部材で形成して絶縁部材の露出する部位全体を金属膜で覆い、金属膜の上に金属からなる第2の凸形状12、金属からなる第3の凸形状13を形成したものが挙げられる。さらに、図16に示すように、基材10、第1の凸形状11、第2の凸形状12及び第3の凸形状13を全て絶縁部材で形成し、絶縁部材の露出する部位全体を金属膜で覆ったものが挙げられる。すなわち、回折格子9は、基材10の下地部分10a、第1の凸形状11、第2の凸形状12及び第3の凸形状13の少なくとも表面が金属で形成された構成とすることができる。
【0050】
基材10は、例えば、ガラス基板の上に金属膜を150nm以上形成したものである。この金属膜が後述する作製プロセスにより、第1の突起11、第2の突起12、第3の突起13となる。なお、本実施形態では、基材10としてガラス基板の上に金属膜を形成したものを用いているがこれに限らない。例えば、石英基板やサファイア基板の上に金属膜を形成したものでもよい。また、基材として金属からなる平板を用いてもよい。
【0051】
第1の突起11は、基材10の平面部10aに所定の高さT1を有して形成されている。この第1の突起11は、基材10の平面内に平行な方向(第1の方向)に光の波長よりも短い周期P1で配列されている。周期P1とは、第1の方向(図1(b)の左右方向)における第1の突起11単体の幅と、隣り合う2つの第1の突起11の間の距離とを足し合わせたものである。また、第1の突起11は断面視矩形の凸形状になっており、第1の突起11の群は平面視ラインアンドスペース(縞状)になっている。
【0052】
第1の突起11は、例えば周期P1が100〜1000nmの範囲に設定され、高さT1が10〜100nmの範囲に設定されることが望ましい。これにより、第1の突起11を、LSPRを発現させるための構造とすることができる。
【0053】
第1の方向における第1の突起11の幅W1は、隣り合う2つの第1の突起11の間の距離W2よりも大きくなっている(W1>W2)。これにより、LSPRが励起される第1の突起11の空間充填率が増える。
【0054】
第2の突起12は、第1の突起11の群において各々の第1の突起11の上面11aに所定の高さT2を有して2つ以上形成されている。第3の突起13は、下地部分10aの群において各々の下地部分10aに所定の高さT3を有して2つ以上形成されている。
【0055】
第2の突起12、第3の突起13は、基材10の平面内に平行な方向(第3の方向)に光の波長よりも短い周期P2で配列されている。周期P2とは、第3の方向(図1(b)の左右方向)における第2の突起12単体の幅と、隣り合う2つの第2の突起12の間の距離とを足し合わせたもの(第3の方向における第3の突起13単体の幅と、隣り合う2つの第3の突起13の間の距離とを足し合わせたもの)である。これにより、第2の突起12(第3の突起13)の周期P2は第1の突起11の周期P1よりも十分に短くなっている。
【0056】
第2の突起12、第3の突起13は、例えば周期P2が500nmよりも小さい値に設定され、高さT2、T3が200nmよりも小さい値に設定されることが望ましい。これにより、第2の突起12、第3の突起13を、SERSを発現させるための構造とすることができる。
【0057】
なお、本実施形態では、第1の突起11の配列方向(第1の方向)と第2の突起12、第3の突起13の配列方向(第3の方向)とが同一の方向になっている。また、第2の突起12、第3の突起13は断面視矩形の凸形状になっており、第2の突起12の群及び第3の突起の群は平面視ラインアンドスペース(縞状)になっている。
【0058】
回折格子9の表面の金属としては、例えば金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、もしくはこれらの合金が用いられる。本実施形態では、SPP、LSPR、SERSを発現させる特性を有するAuまたはAgを用いる。これにより、SPP、LSPR、SERSが発現しやすくなり、標的物質を高感度で検出することが可能となる。
【0059】
ここで、LSPR、SERSについて説明する。センサーチップ1の表面、つまり第1の突起11の群、第2の突起12の群、第3の突起13の群が形成された面に光が入射すると、第1の突起11の群による表面固有の振動モード(表面プラズモン)が生じる。ただし、入射光の偏光方向は第1の突起11の溝方向と直交させておく。すると、自由電子の振動にともなって電磁波の振動が励起される。この電磁波の振動は、自由電子の振動に影響するため、両者の振動が結合した系、いわゆる表面プラズモンポラリトン(SPP:Surface Plasmon Polariton)をつくることになる。なお、本実施形態では光の入射角度がセンサーチップ1の表面に対してほぼ垂直となっているが、SPPを励起する条件であれば、これに限るものではない。
【0060】
このSPPは、センサーチップ1の表面に沿って、具体的には空気と第2の突起12、第3の突起13との界面に沿って伝搬し、第2の突起12、第3の突起13の近傍に強い局所電場を励起する。SPPの結合は光の波長に対して敏感であり、その結合効率は高い。このように、空気伝搬モードである入射光からSPPを介して局在表面プラズモン共鳴(LSPR:Localized Surface Plasmon Resonance)を励起することができる。そして、LSPRとラマン散乱光との関係から表面増強ラマン散乱(SERS:Surface Enhanced Raman Scattering)を利用することができる。
【0061】
図2は、ラマン散乱分光法を示す図である。図2(a)は、ラマン散乱分光法の原理を示している。図2(b)は、ラマンスペクトル(ラマンシフトとラマン散乱強度との関係)を示している。図2(a)において、符号Lは入射光(単一波長の光)、符号Ramはラマン散乱光、符号Rayはレイリー散乱光、符号Xは標的分子(標的物質)を示している。図2(b)において、横軸はラマンシフトを示している。なお、ラマンシフトとは、ラマン散乱光Ramの振動数と入射光Lの振動数との差であり、標的分子Xの構造に特有の値をとる。
【0062】
図2(a)に示すように、単一波長の光Lを標的分子Xに照射すると、散乱された光の中に入射された光の波長と異なる波長の光が発生する(ラマン散乱光Ram)。ラマン散乱光Ramと入射光Lとのエネルギー差は、標的分子Xの振動準位や回転準位、もしくは電子準位のエネルギーに対応している。標的分子Xはその構造に応じた特有の振動エネルギーをもつため、単一波長の光Lを用いることで標的分子Xを特定することができる。
【0063】
例えば、入射光Lの振動エネルギーをV1、標的分子Xで消費される振動エネルギーをV2、ラマン散乱光Ramの振動エネルギーをV3とすると、V3=V1−V2となる。なお、入射光Lの大部分は標的分子Xに衝突後においても衝突前と同じ大きさのエネルギーを有している。この弾性的な散乱光をレイリー散乱光Rayという。例えば、レイリー散乱光Rayの振動エネルギーをV4とすると、V4=V1となる。
【0064】
図2(b)に示すラマンスペクトルから、ラマン散乱光Ramの散乱強度(スペクトルピーク)とレイリー散乱光Rayの散乱強度を比較すると、ラマン散乱光Ramは微弱であることがわかる。このように、ラマン散乱分光法は標的分子Xの識別能力には優れているものの、標的分子Xをセンシングする感度自体は低い測定手法である。そこで、本発明では高感度化を図るために表面増強ラマン散乱を用いた分光法(SERS分光法)を用いている(図4参照)。
【0065】
図3は、LSPRによる電場増強の機構を示す図である。図3(a)は、金属ナノ粒子に光を入射したときの模式図である。図3(b)は、LSPR増強電場を示す図である。図3(a)において、符号100は光源、符号101は金属ナノ粒子、符号102は光源からの光である。図3(b)において、符号103は表面局在電場である。
【0066】
図3(a)に示すように、金属ナノ粒子101に光102が入射すると、光102の振動にともなって自由電子が共鳴振動する。なお、金属ナノ粒子径は入射光の波長よりも小さくなっている。例えば、光の波長は400〜800nm、金属ナノ粒子径は10〜100nmである。また、金属ナノ粒子としてはAg、Auを用いる。
【0067】
すると、自由電子の共鳴振動にともなって、金属ナノ粒子101の近傍に強い表面局在電場103が励起される(図3(b)参照)。このように、金属ナノ粒子101に光102が入射することにより、LSPRを励起することができる。
【0068】
図4は、SERS分光法を示す図である。図4において、符号200は基板、符号201は金属ナノ構造、符号202は選択吸着膜、符号203は増強電場、符号204は標的分子、符号211は入射レーザー光、符号212はラマン散乱光、符号213はレイリー散乱光である。なお、選択吸着膜202は標的分子204を吸着するものである。
【0069】
図4に示すように、金属ナノ構造201にレーザー光211が入射すると、レーザー光211の振動にともなって自由電子が共鳴振動する。金属ナノ構造201のサイズは入射レーザー光の波長よりも小さくなっている。すると、自由電子の共鳴振動にともなって、金属ナノ構造201の近傍に強い表面局在電場が励起される。これにより、LSPRが励起される。そして、隣り合う金属ナノ構造201の間の距離が小さくなると、その接点付近に極めて強い増強電場203が生じる。その接点に1〜数個の標的分子204が吸着すると、そこからSERSが発生する。この点については、時間領域差分(EDTD:Finite Difference Time Domain)法を用いて計算した近接した2個の銀ナノ粒子間に生じる増強電場の結果からも確認されている。したがって、ラマン散乱光を選択的に分光し、標的分子を高感度で検出することができる。
【0070】
本発明では、上述したように、第1の突起11を基材10の平面内に平行な方向に光の波長よりも短い周期P1で配列することでLSPRを励起させる構造となっている。また、第2の突起12を第1の突起11の上面11aに2つ以上形成し、第3の突起13を下地部分10aに2つ以上形成することでSERSを発現させる構造になっている。具体的には、単一波長の光を標的分子に照射するとラマン散乱光が発生する原理をもとに、標的分子を隣り合う2つの第2の突起12(第3の突起13)の間に配し、この接点近傍に増強磁場を生じさせることにより、SERSを発生させている。これにより、ラマン散乱分光法に比べて高感度で目標物質を検出することが可能なSERS分光法を用いることが可能になっている。
【0071】
図5は、第1の突起単体の反射光強度を示すグラフである。図5において、横軸は光の波長、縦軸は反射光強度である。第1の突起11の高さT1をパラメータにとっている(T1=20nm、30nm、40nm)。なお、本実施形態のセンサーチップ1の構造においては、入射光強度(1.0とする)から反射光強度を差し引いた値が吸光度となる。
【0072】
光は第1の突起11に対して垂直に入射する。光の偏光方位は溝(隣り合う第1の突起11の間の領域の延在方向)に平行な電界成分をもつ偏光と直交するTM(Transverse Electric)偏光である。第1の突起11の周期は580nmであり、反射光強度の共鳴ピークは波長630nm近傍に存在する。この共鳴ピークはSPPに由来するものであり、第1の突起11の高さT1を大きくしていくと、共鳴ピークは長波長側へシフトする。第1の突起11の高さT1が30nmのとき、反射光強度が最も強くなっており、吸収が最も強くあらわれていることがわかる。
【0073】
図6は、SPPの分散曲線を示すグラフである。図6において、符号C1はSPPの分散曲線(例として空気とAuの境界面での値を示している)、符号C2はライトラインである。第1の突起11の周期は580nmである。第1の突起11の格子ベクトルの位置を横軸上に示す(図6における横軸上の2π/Pに対応)。この位置から上へ線を延ばすとSPPの分散曲線と交わる。この交点に対応する波長は以下の式から求められる。
【0074】
【数1】

【0075】
式(1)において、P1は第1の突起11の周期、E1は空気の複素誘電率、E2はAuの複素誘電率である。式(1)にP1、E1、E2を代入すると、λ=620nmを得る(図6における縦軸上のw0に対応)。
【0076】
第1の突起11の高さT1が大きくなるとともに、SPPの波数における虚部が大きくなる。これにより、SPPの波数における実部が小さくなり、格子ベクトルの位置から延ばした線とSPPの分散曲線との交点が右上から左下へ移動する。すなわち、共鳴ピークは長波長側へシフトする。
【0077】
図7は、第1の突起11及び第2の突起12(第3の突起13)を重ねた構造、つまり本発明に係るセンサーチップ1の反射光強度を示すグラフである。図7において、横軸は光の波長、縦軸は反射光強度である。第2の突起12の高さT2(第3の突起13の高さT3)をパラメータにとっている(T2(T3)=0nm、40nm、80nm)。なお、本図におけるパラメータT2=0のグラフは、図5におけるパラメータT1=30のグラフと同じものである。
【0078】
光は第1の突起11に対して垂直に入射する。なお、第1の突起11の高さT1は30nmである。また、第2の突起12(第3の突起13)の周期P2は97nmである。反射光強度の共鳴ピークは波長730nm近傍に存在する。特許文献1のスペクトルと比較して、共鳴ピークの幅が狭くかつ鋭くなっている。この共鳴ピークは上述したSPPに由来するものであり、第1の突起11に第2の突起12(第3の突起13)を重ねたことにより共鳴ピークの位置は長波長側へシフトする。このとき、共鳴ピークの鋭さと勾配は保たれている。第2の突起12の高さT2(第3の突起13の高さ)が40nmのときに、波長730nmの光を照射することで第2の突起12の表面近傍へ強い局所電場を励起できる。なお、第1の突起11及び第2の突起12(第3の突起13)の周期P1、P2と高さT1、T2(T3)を適宜変更することにより、共鳴ピークの位置を任意の波長に合わせることができる。
【0079】
図8は、基材10の平面部10sの上に第1の凸形状11を形成せずに、基材10の平面部10sの上に第2の突起12(第3の突起13)のみを形成した場合、つまり基材10の平面部10sの上に複数の第2の突起12(第3の突起13)を形成した場合のセンサーチップ2を模式的に示す図である。
【0080】
図9は、基材10の平面部10sの上に複数の第2の突起12(第3の突起13)を形成した場合のセンサーチップ2の反射光強度を示すグラフである。図9において、横軸は光の波長、縦軸は反射光強度である。第2の突起12の高さT2(第3の突起13の高さT3)をパラメータ(T2(T3)=0nm、40nm、80nm)にとっている。TM偏光の光は第2の突起12(第3の突起13)に対して垂直に入射する。本図を見ても反射光強度の深い共鳴ピークは認められない。この結果から、第1の突起11が存在しない場合、つまりSPPを介さない場合には、第2の突起12(第3の突起13)へ光エネルギーをほとんど結合できないことがわかる。
【0081】
図10は、センサーチップの作製プロセスを示す図である。先ず、ガラス基板30の上にAu膜31を蒸着やスパッタ等の方法で形成する。次に、Au膜31の上にレジスト32をスピンコート等の方法で塗布する(図10(a)参照)。このとき、Au膜31の膜厚Taは入射光が透過しない程度に厚く形成する(例えば100nm)。
【0082】
次に、インプリント等の方法により、周期Paが580nmのレジストパターン32aを形成する(図10(b)参照)。次に、このレジストパターン32aをマスクにして、ドライエッチングによりAu膜31を所定の深さD1(例えば30nm)だけエッチングする。その後、レジストパターン32aを除去することにより第1の突起31aを形成する(図10(c)参照)。
【0083】
次に、第1の凸形状31aが形成されたAu膜31の上にレジスト33をスピンコート等の方法で塗布する(図10(d)参照)。次に、インプリント等の方法により、周期Pbが97nmのレジストパターン33aを形成する(図10(e)参照)。次に、このレジストパターン33aをマスクにして、ドライエッチングにより第1の突起31aが形成されたAu膜31を所定の深さD2(例えば40nm)だけエッチングする。その後、レジストパターン33aを除去することにより第2の突起31b、第3の突起31cを形成する(図10(f)参照)。以上の工程により、本発明に係るセンサーチップ3が製造できる。
【0084】
本発明のセンサーチップ1によれば、第1の突起11による金属微細構造でSPPを介してLSPRを励起し、さらに第2の突起12、第3の突起13による金属微細構造でSERSを発現させることができる。具体的には、第1の突起11の群、第2の突起12の群、第3の突起13の群が形成された面に光が入射すると、第1の突起11の群による表面固有の振動モード(表面プラズモン)が生じる。すると、光の振動にともなって自由電子が共鳴振動してSPPが励起され、第2の突起12、第3の突起13の近傍に強い表面局在電場が励起される。これにより、LSPRが励起される。本構造では隣り合う2つの第2の突起12(第3の突起13)の間の距離が小さいため、その接点付近に極めて強い増強電場が生じる。そして、その接点に1〜数個の標的物質が吸着すると、そこからSERSが発生する。このため、反射光強度スペクトルの幅が狭く、共鳴ピークが鋭いものとなり、センサー感度を向上させることができる。したがって、センサー感度の向上を図り、SERSスペクトルから標的物質を特定することが可能なセンサーチップ1が提供できる。また、第1の突起11の周期P1や高さT1、第2の突起12の高さT2、第3の突起13の高さT3を適宜変更することで、共鳴ピークの位置を任意の波長に合わせることができる。このため、標的物質を特定する際に照射する光の波長を適宜選択することが可能となり、測定範囲の幅が広がる。
【0085】
また、この構成よれば、第2の突起12、第3の突起13が基材10の平面内に平行な第3の方向に周期性を有して配置されているので、第2の突起12、第3の突起13の周期P2を適宜変更することができる。このため、標的物質を特定する際に照射する光の波長を適宜選択することが可能となり、測定範囲の幅が広がる。
【0086】
また、この構成によれば、回折格子9の表面の金属として金または銀を用いているので、SPP、LSPR、SERSが発現しやすくなり、標的物質を高感度で検出することが可能となる。
【0087】
また、この構成によれば、第1の突起11のデューティー比がW1>W2の関係を満たしており、LSPRが励起される第1の突起11の空間充填率が増えるため、W1<W2の関係を満たす場合よりも広いプラズモン共鳴条件下においてセンシングを行うことができる。また、標的物質を特定する際に照射する光のエネルギーを有効に利用することができる。
【0088】
なお、本実施形態では、第1の突起11が基材10の平面内に平行な方向(第1の方向)に光の波長よりも短い周期P1で配列されている構造を示したが、これに限らない。本実施形態の第1の突起11と異なる構造を有するセンサーチップ4について、図11を用いて説明する。
【0089】
図11は、上述した第1の突起11と異なる形態の第1の突起41を有するセンサーチップ4の概略構成斜視図である。なお、本図においては、便宜上第2の突起、第3の突起の図示を省略している。
【0090】
図11に示すように、第1の突起41は、基材40の平面部40sの上に形成されている。この第1の突起41は、基材40の平面内に平行な方向(第1の方向)に光の波長よりも短い周期P3で配列されている。また、第1の突起41は、第1の方向に直交し基材40の平面内に平行な第2の方向に光の波長よりも短い周期P4で配列されている。なお、第2の方向は第1の方向に直交し基材40の平面内に平行な方向に限らず、第1の方向に交差し基材40の平面内に平行な方向にされていてもよい。
【0091】
この構造によれば、第1の突起が基材10の平面内に平行な方向(第1の方向)のみに形成されている場合よりも広い共鳴条件下においてSPPを励起することができる。したがって、センサー感度の向上を図り、SERSスペクトルから標的物質を特定することが可能なセンサーチップ4が提供できる。また、第1の突起における第1の方向の周期P3に加えて、第2の方向の周期P4を適宜変更することもできる。このため、標的物質を特定する際に照射する光の波長を適宜選択することが可能となり、測定範囲の幅が広がる。
【0092】
また、本実施形態では、第2の突起12、第3の突起13が基材10の平面内に平行な方向(第3の方向)に光の波長よりも短い周期P2で配列されている構造、具体的には、第1の突起11の配列方向(第1の方向)と第2の突起12、第3の突起13の配列方向(第3の方向)とが同一の方向になっている構造を示したが、これに限らない。本実施形態の第2の突起12、第3の突起13と異なる構造を有するセンサーチップ5、6、7、8について、図12及び図13を用いて説明する。
【0093】
図12は、上述した第2の突起12、第3の突起13と異なる形態の第2の突起、第3の突起を有するセンサーチップの概略構成斜視図である。図12(a)は第2の突起52、第3の突起53を有するセンサーチップ5、図12(b)は第2の突起62、第3の突起63を有するセンサーチップ6を示している。
【0094】
図12(a)に示すように、第2の突起52は、第1の突起51の群において各々の第1の突起51の上面51aに2つ以上形成されている。第3の突起53は、下地部分50aの群において各々の下地部分50aに2つ以上形成されている。本図では、一例として、第1の突起51の配列方向(第1の方向)と第2の突起52、第3の突起53の配列方向(第3の方向)との交差する角度が45度である構造を示している。
【0095】
図12(b)に示すように、第2の突起62は、第1の突起61の群において各々の第1の突起61の上面61aに2つ以上形成されている。第3の突起63は、下地部分60aの群において各々の下地部分60aに2つ以上形成されている。本図では、一例として、第1の突起61の配列方向(第1の方向)と第2の突起62、第3の突起63の配列方向(第3の方向)との交差する角度が90度である構造を示している。
【0096】
このような構成においても、センサー感度の向上を図り、SERSスペクトルから標的物質を特定することが可能なセンサーチップが提供できる。
【0097】
図13は、上述した第2の突起12、第3の突起13と異なる形態の第2の突起、第3の突起を有するセンサーチップの拡大平面図である。図13(a)は第2の突起72(第3の突起73)を有するセンサーチップ7、図13(b)は第2の突起82(第3の突起83)を有するセンサーチップ8を示している。
【0098】
図13(a)に示すように、第2の突起72は、第1の突起の群(不図示)において各々の第1の突起の上面71aに2つ以上形成されている。第3の突起73は、下地部分70aの群において各々の下地部分70aに2つ以上形成されている。また、第2の突起72、第3の突起73は、第3の方向に交差し基材の平面内に平行な第4の方向に周期性を有して配列されている。本図では、一例として第2の突起72、第3の突起73が平面視円形状の構造を示している。なお、第2の突起72、第3の突起73は、周期性を有することなくランダムに配置されていてもよい。また、望ましくは、第2の突起72の間隔、第3の突起73の間隔はゼロ〜数十nmの範囲で設定される。
【0099】
図13(b)に示すように、第2の突起82は、第1の突起の群(不図示)において各々の第1の突起の上面81aに2つ以上形成されている。第3の突起83は、下地部分80aの群において各々の下地部分80aに2つ以上形成されている。また、第2の突起82、第3の突起83は、第3の方向に交差し基材の平面内に平行な第4の方向に周期性を有して配列されている。本図では、一例として第2の突起82、第3の突起83が平面視楕円形状の構造を示している。なお、第2の突起82、第3の突起83は、周期性を有することなくランダムに配置されていてもよい。また、望ましくは、第2の突起82の間隔、第3の突起83の間隔はゼロ〜数十nmの範囲で設定される。
【0100】
この構成によれば、第2の突起、第3の突起が基材の平面内に平行な方向(第3の方向)のみに形成されている場合よりも、増強電場が生じる場所の密度を高めることができる。したがって、センサー感度の向上を図り、SERSスペクトルから標的物質を特定することが可能なセンサーチップが提供できる。また、第2の突起、第3の突起における第3の方向の周期に加えて、第4の方向の周期を適宜変更することもできる。このため、標的物質を特定する際に照射する光の波長を適宜選択することが可能となり、測定範囲の幅が広がる。
【0101】
なお、本実施形態では、第2の突起、第3の突起がガラス基板の上面に形成されたAu膜をパターニングすることにより形成されているが、これに限らない。例えば、第2の突起、第3の突起が微粒子であってもよい。このような構成においても、センサー感度の向上を図り、SERSスペクトルから標的物質を特定することが可能なセンサーチップが提供できる。
【0102】
また、本実施形態では、基材に含まれる金属、第1の突起に含まれる金属、第2の突起に含まれる金属、第3の突起に含まれる金属として、同じ金属どうし(金または銀)を用いているが、これに限らない。例えば、基材に含まれる金属を金、第1の突起に含まれる金属を銀、第2の突起(第3の突起)に含まれる金属を金と銀の合金にするなど、異なる金属(金、銀、銅、アルミニウム、もしくはこれらの合金)を組み合わせて用いてもよい。
【0103】
(分析装置)
図14は、本発明に係るセンサーチップを備えた分析装置の一例を示す模式図である。
なお、図14における矢印は標的物質(図示略)の搬送方向を示している。
【0104】
図14に示すように、分析装置1000は、センサーチップ1001と、光源1002と、光検出器1003と、コリメータレンズ1004と、偏光制御素子1005と、ダイクロイックミラー1006と、対物レンズ1007と、対物レンズ1008と、搬送部1010とを具備して構成されている。光源1002及び光検出器1003は、それぞれ配線を介して制御装置(図示略)と電気的に接続されている。
【0105】
光源1002は、SPP、LSPR及びSERSを励起するレーザー光を照射するものである。光源1002から照射されたレーザー光は、コリメータレンズ1004で平行光にされ、偏光制御素子1005を通過し、ダイクロイックミラー1006によってセンサーチップ1001の方向に導かれ、対物レンズ1007で集光され、センサーチップ1001に入射する。このとき、センサーチップ1001の表面(例えば金属ナノ構造や検出物質選択機構が形成された面)には標的物質(図示略)が配置されている。なお、標的物質は、ファン(図示略)の駆動を制御することにより、搬入口1011から搬送部1010内部に導入され、排出口1012から搬送部1010外部に排出されるようになっている。また、金属ナノ構造のサイズはレーザー光の波長よりも小さくなっている。
【0106】
金属ナノ構造にレーザー光が入射すると、レーザー光の振動にともなって自由電子が共鳴振動し、金属ナノ構造の近傍に強い表面局在電場が励起され、これによりLSPRが励起される。そして、隣り合う金属ナノ構造の間の距離が小さくなると、その接点付近に極めて強い増強電場が生じ、その接点に1〜数個の標的物質が吸着すると、そこからSERSが発生する。
【0107】
センサーチップ1001からの光(ラマン散乱光やレイリー散乱光)は、対物レンズ1007を通過し、ダイクロイックミラー1006によって光検出器1003の方向に導かれ、対物レンズ1007で集光され、光検出器1003に入射する。そして、光検出器1003によりスペクトル分解され、スペクトル情報が得られる。
【0108】
この構成によれば、上述した本発明に係るセンサーチップを備えているので、ラマン散乱光を選択的に分光し、標的分子を検出することができる。したがって、センサー感度の向上を図り、SERSスペクトルから標的物質を特定することが可能な分析装置1000が提供できる。
【0109】
分析装置1000は、センサーカートリッジを1100を含んで構成されている。センサーカートリッジ1100は、センサーチップ1001と、標的物質をセンサーチップ1001の表面に搬送する搬送部1010と、センサーチップ1001を載置する載置部1101と、これらを収容する筐体1110と、を具備して構成されている。筐体1110のセンサーチップ1001と対向する位置には、照射窓1111が設けられている。光源1002から照射されたレーザー光は、照射窓1111を通過してセンサーチップ1001の表面に照射される。センサーカートリッジ1100は、分析装置1000の上部に位置しており、分析装置1000の本体部から脱着可能に設けられている。
【0110】
この構成によれば、上述した本発明に係るセンサーチップを備えているので、ラマン散乱光を選択的に分光し、標的分子を検出することができる。したがって、センサー感度の向上を図り、吸光度スペクトルから標的物質を特定することが可能なセンサーカートリッジ1100が提供できる。
【0111】
本発明に係る分析装置は、麻薬や爆発物の検知、医療や健康診断、食品の検査に用いられるセンシング装置へ広く応用することが可能である。また、抗原抗体反応における抗原の吸着の有無などのように、物質の吸着の有無を検出するアフィニティー・センサーなどとして用いることができる。
【符号の説明】
【0112】
1、3、4、5、6、7、8、1001…センサーチップ、9…回折格子、10、40、50、60…基材、10a、50a、60a、70a、80a…下地部分、10s、40s、50s、60s…基材の平面部、11、31a、41、51、61…第1の突起(第1の凸形状)、11a、51a、61a、71a、81a…第1の突起の上面、12、31b、52、62、72、82…第2の突起(第2の凸形状)、13、31c、53、63、73、83…第3の突起(第3の凸形状)、1000…分析装置、1002…光源、1003…光検出器、1100…センサーカートリッジ、1101…載置部、1110…筐体、1111…照射窓、P1、P2、P3、P4…周期

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属を含む基材に形成された回折格子に標的物質を配置し、表面プラズモン共鳴及び表面増強ラマン散乱を利用して、前記標的物質を検出するためのセンサーチップであって、
前記回折格子は、
前記基材の平面部の上に形成され、前記平面部を垂直に切断する方向の断面形状が矩形の凸形状であり、前記基材の平面内に平行な第1の方向に光の波長よりも短い周期で配列される金属を含む第1の突起の群と、
前記第1の突起の群において、隣り合う2つの第1の突起の間に位置する前記基材の下地部分の群と、
前記第1の突起の群において、各々の前記第1の突起の上面に形成される金属を含む複数の第2の突起の群と、
前記下地部分の群において、各々の前記下地部分に形成される金属を含む複数の第3の突起の群と、
を有することを特徴とするセンサーチップ。
【請求項2】
前記第1の突起が前記1の方向に交差し前記基材の平面内に平行な第2の方向に周期性を有して配列されていることを特徴とする請求項1に記載のセンサーチップ。
【請求項3】
前記第2の突起、前記第3の突起が前記基材の平面内に平行な第3の方向に周期性を有して配列されていることを特徴とする請求項1または2に記載のセンサーチップ。
【請求項4】
前記第2の突起、前記第3の突起が前記第3の方向に交差し前記基材の平面内に平行な第4の方向に周期性を有して配列されていることを特徴とする請求項3に記載のセンサーチップ。
【請求項5】
前記第2の突起、前記第3の突起が微粒子からなることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のセンサーチップ。
【請求項6】
前記基材に含まれる金属、前記第1の突起に含まれる金属、前記第2の突起に含まれる金属、前記第3の突起に含まれる金属が金または銀であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のセンサーチップ。
【請求項7】
金属を含む基材に形成された回折格子に標的物質を配置し、表面プラズモン共鳴及び表面増強ラマン散乱を利用して、前記標的物質を検出するためのセンサーチップであって、
前記回折格子は金属を含み、
前記基材の平面部を垂直に切断する方向における前記回折格子の断面形状は、
光の波長よりも短い周期で第1の凸形状が配列される第1の凹凸形状と、
前記第1の凹凸形状の周期よりも短い周期で第2の凸形状が配列される第2の凹凸形状と、を重畳して得られた合成パターンであることを特徴とするセンサーチップ。
【請求項8】
前記第1の凸形状が前記基材の平面内に平行な第1の方向に周期性を有するとともに前記1の方向に交差し前記基材の平面内に平行な第2の方向に周期性を有して配列されていることを特徴とする請求項7に記載のセンサーチップ。
【請求項9】
前記第2の凸形状が前記基材の平面内に平行な第3の方向に周期性を有して配列されていることを特徴とする請求項7または8に記載のセンサーチップ。
【請求項10】
前記第2の凸形状が前記第3の方向に交差し前記基材の平面内に平行な第4の方向に周期性を有して配列されていることを特徴とする請求項9に記載のセンサーチップ。
【請求項11】
前記第2の凸形状が微粒子からなることを特徴とする請求項7〜10のいずれか1項に記載のセンサーチップ。
【請求項12】
前記基材に含まれる金属、前記第1の凸形状に含まれる金属、前記第2の凸形状に含まれる金属が金または銀であることを特徴とする請求項7〜11のいずれか1項に記載のセンサーチップ。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれか1項に記載のセンサーチップと、
前記センサーチップに光を照射する光源と、
前記センサーチップからの光を検出する光検出器と、
を備えることを特徴とする分析装置。
【請求項14】
基材に形成された回折格子に標的物質を配置し、表面プラズモン共鳴及び表面増強ラマン散乱を利用して、前記標的物質を検出するためのセンサーチップであって、
前記回折格子は、
前記基材の平面部の上に形成され、前記基材の平面内に平行な第1の方向に100nm以上1000nm以下の周期で配列される第1の突起の群と、
前記第1の突起の群において、隣り合う2つの第1の突起の間に位置する前記基材の下地部分の群と、
前記第1の突起の群において、各々の前記第1の突起の上面に形成される複数の第2の突起の群と、
前記下地部分の群において、各々の前記下地部分に形成される複数の第3の突起の群と、
を有し、
前記回折格子は表面が金属で形成されていることを特徴とするセンサーチップ。
【請求項15】
前記第1の突起が前記1の方向に交差し前記基材の平面内に平行な第2の方向に周期性を有して配列されていることを特徴とする請求項14に記載のセンサーチップ。
【請求項16】
前記第2の突起、前記第3の突起が前記基材の平面内に平行な第3の方向に周期性を有して配列されていることを特徴とする請求項14または15に記載のセンサーチップ。
【請求項17】
前記第2の突起、前記第3の突起が前記第3の方向に交差し前記基材の平面内に平行な第4の方向に周期性を有して配列されていることを特徴とする請求項16に記載のセンサーチップ。
【請求項18】
前記第2の突起、前記第3の突起が微粒子からなることを特徴とする請求項14〜17のいずれか1項に記載のセンサーチップ。
【請求項19】
前記回折格子の表面の金属が金または銀であることを特徴とする請求項14〜18のいずれか1項に記載のセンサーチップ。
【請求項20】
基材に形成された回折格子に標的物質を配置し、表面プラズモン共鳴及び表面増強ラマン散乱を利用して、前記標的物質を検出するためのセンサーチップであって、
前記回折格子は表面が金属で形成され、
前記基材の平面部を垂直に切断する方向における前記回折格子の断面形状は、
100nm以上1000nm以下の周期で第1の凸形状が配列される第1の凹凸形状と、
前記第1の凹凸形状における各々の前記第1の凸形状において前記第1の凹凸形状の周期よりも短い周期で第2の凸形状が配列される第2の凹凸形状と、
前記第1の凹凸形状における隣り合う2つの前記第1の凸形状の間に位置する各々の下地部分において前記第1の凹凸形状の周期よりも短い周期で第3の凸形状が配列される第3の凹凸形状と、
を重畳して得られた合成パターンであることを特徴とするセンサーチップ。
【請求項21】
前記第1の凸形状が前記基材の平面内に平行な第1の方向に周期性を有するとともに前記1の方向に交差し前記基材の平面内に平行な第2の方向に周期性を有して配列されていることを特徴とする請求項20に記載のセンサーチップ。
【請求項22】
前記第2の凸形状、前記第3の凸形状が前記基材の平面内に平行な第3の方向に周期性を有して配列されていることを特徴とする請求項20または21に記載のセンサーチップ。
【請求項23】
前記第2の凸形状、前記第3の凸形状が前記第3の方向に交差し前記基材の平面内に平行な第4の方向に周期性を有して配列されていることを特徴とする請求項22に記載のセンサーチップ。
【請求項24】
前記第2の凸形状、前記第3の凸形状が微粒子からなることを特徴とする請求項20〜23のいずれか1項に記載のセンサーチップ。
【請求項25】
前記回折格子の表面の金属が金または銀であることを特徴とする請求項20〜24のいずれか1項に記載のセンサーチップ。
【請求項26】
請求項14〜25のいずれか1項に記載に記載のセンサーチップと、
前記標的物質を前記センサーチップの表面に搬送する搬送部と、
前記センサーチップを載置する載置部と、
前記センサーチップ、前記搬送部及び前記載置部を収容する筐体と、
前記筐体の前記センサーチップの表面と対向する位置に設けられた照射窓と、
を備えることを特徴とするセンサーカートリッジ。
【請求項27】
請求項14〜25のいずれか1項に記載のセンサーチップと、
前記センサーチップに光を照射する光源と、
前記センサーチップからの光を検出する光検出器と、
を備えることを特徴とする分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図3】
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【図4】
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【図13】
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【公開番号】特開2011−141264(P2011−141264A)
【公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−176427(P2010−176427)
【出願日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】