説明

センサ出力補正回路及び補正方法

【課題】固体高分子電解質を用いた曲率センサに付与される曲率と曲率センサからの出力電圧との間の線形性を保持すること。
【解決手段】一対の電極と、その間に形成された固体高分子電解質層と、を備えたセンサ200が、付与された曲率に応じて出力する出力電圧を補正する補正回路100であって、出力電圧の変化量を監視する監視回路102と、変化量が所定の基準値よりも小さい場合、センサが静止状態であると判定し、目標電圧を設定する状態判定回路103と、静止状態であると判定された場合、センサ200に対し出力電圧が目標電圧に近づく方向に出力電圧と目標電圧とのずれに応じた量の電荷を注入する補正電流生成回路104と、を備えるセンサ出力補正回路。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はセンサ出力補正回路及び補正方法に関し、特に固体高分子電解質を用いた曲率センサ用の補正回路及び補正方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、医療介護機器、産業用ロボット、パーソナルロボットなどの分野において、小型で軽量なセンサの必要性が高まっている。また、歪センサ、振動センサとして、複雑な形状の構造物に設置可能な軽量かつ可撓性を有するセンサの必要性が高まっている。
【0003】
このような軽量かつ可撓性を有するセンサとして、特許文献1には、固体高分子電解質(SPE:Solid Polymer Electrolyte)、特に、非水系高分子固体電解質を用いた変形センサが開示されている。このセンサは、センサ素子の変形により起電力を生じるものである。また、非水系高分子固体電解質を用いているため、空気中において安定して高い応答感度を有する。
【0004】
また、特許文献1に記載の変形センサでは、非特許文献1に記載の通り、可撓性を有するセンサに付与される曲率と、センサからの出力電圧との間に比例関係(線形性)を有することが知られている。そのため、特許文献1に記載の変形センサの具体的用途としては、曲率(曲げ変形)センサが特に有望視されている。この曲率センサは、広範囲の曲率を検出することができる。また、変形を保持した場合、略一定の電圧を発生し続けることができる。さらには、バイアス電圧が不要であるため、低消費電力であるなどの特徴を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2009/096419号パンフレット
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】大槻、外2名、「固体高分子電解質を用いた曲率センサの特性評価」、第18回MAGDAコンファレンスin東京、電磁現象及び電磁力に関するコンファレンス講演論文集、2009年、p.165−170
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
図10は、本発明が解決しようとする課題を説明するための模式的グラフである。図10の横軸は時間、縦軸は曲率センサの出力電圧である。一定時間間隔において、同一の曲率を繰り返し付与した場合を示している。図10に示すように、繰り返し回数が増えると、同一の曲率を付与しているにも関わらず、出力電圧が徐々に降下している。即ち、曲率センサに付与される曲率と、曲率センサからの出力電圧との間の線形性が保持されないという問題があった。
【0008】
本発明は上記に鑑みなされたものであり、固体高分子電解質を用いた曲率センサに付与される曲率と曲率センサからの出力電圧との間の線形性を保持するためのセンサ出力補正回路及び補正方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る第1の態様は、
一対の電極と、
前記一対の電極間に形成された固体高分子電解質層と、を備えたセンサが、
付与された曲率に応じて出力する出力電圧を補正する補正回路であって、
前記出力電圧の変化量を監視する監視回路と、
前記変化量が所定の基準値よりも小さい場合、前記センサが静止状態であると判定し、目標電圧を設定する状態判定回路と、
前記静止状態であると判定された場合、前記センサに対し前記出力電圧が前記目標電圧に近づく方向に前記出力電圧と前記目標電圧とのずれに応じた量の電荷を注入する補正電流生成回路と、を備えるセンサ出力補正回路である。
これにより、センサに付与される曲率とセンサからの出力電圧との間の線形性を保持することができる。
【0010】
本発明に係る第2の態様は、前記第1の態様において、
前記状態判定回路は、前記変化量が所定の基準値よりも大きい場合、前記センサが動作状態であると判定し、
前記動作状態であると判定された場合、前記補正電流生成回路は、前記センサに対し前記変化量を緩和する方向に電荷を注入することを特徴とするセンサ出力補正回路である。
これにより、より確実に、センサに付与される曲率とセンサからの出力電圧との間の線形性を保持することができる。
【0011】
本発明に係る第3の態様は、前記第2の態様において、
前記動作状態であると判定された場合、前記センサに対し注入される前記電荷の量が、前記変化量によらず一定であることを特徴とするセンサ出力補正回路である。
これにより、より迅速に補正することができる。
【0012】
本発明に係る第4の態様は、前記第1〜3のいずれかの態様において、
前記静止状態であると判定された場合、前記センサに対し注入される前記電荷の量が、PWM制御されることを特徴とするセンサ出力補正回路である。PWM制御は、具体的な制御方法として好適である。
【0013】
本発明に係る第5の態様は、前記第1〜4のいずれかの態様において、
前記監視回路が積分回路を含むことを特徴とするセンサ出力補正回路である。具体的回路構成として好適である。
【0014】
本発明に係る第6の態様は、前記第1〜5のいずれかの態様において、
前記監視回路が微分回路を含むことを特徴とするセンサ出力補正回路である。具体的回路構成として好適である。
【0015】
本発明に係る第7の態様は、前記第1〜6のいずれかの態様において、
前記固体高分子電解質層が非水系高分子固体電解質層であることを特徴とするセンサ出力補正回路である。具体的回路構成として好適である。
【0016】
本発明に係る第8の態様は、
一対の電極と、
前記一対の電極間に形成された固体高分子電解質層と、を備えたセンサが、
付与された曲率に応じて出力する出力電圧を補正する補正方法であって、
前記出力電圧の変化量を監視するステップと、
前記変化量が所定の基準値よりも小さい場合、前記センサが静止状態であると判定し、目標電圧を設定するステップと、
前記静止状態であると判定した場合、前記センサに対し前記出力電圧が前記目標電圧に近づく方向に前記出力電圧と前記目標電圧とのずれに応じた量の電荷を注入するステップと、を備えるセンサ出力補正方法である。
これにより、センサに付与される曲率とセンサからの出力電圧との間の線形性を保持することができる。
【0017】
本発明に係る第9の態様は、前記第8の態様において、
前記変化量が所定の基準値よりも大きい場合、前記センサが動作状態であると判定するステップと、
前記動作状態であると判定した場合、前記センサに対し前記変化量を緩和する方向に電荷を注入するステップと、を更に備えることを特徴とするセンサ出力補正方法である。
これにより、より確実に、センサに付与される曲率とセンサからの出力電圧との間の線形性を保持することができる。
【0018】
本発明に係る第10の態様は、前記第9の態様において、
前記動作状態であると判定した場合、前記センサに対し注入する前記電荷の量が、前記変化量によらず一定とすることを特徴とするセンサ出力補正方法である。
これにより、より迅速に補正することができる。
【0019】
本発明に係る第11の態様は、前記第8〜10のいずれかの態様において、
前記静止状態であると判定した場合、前記センサに対し注入する前記電荷の量を、PWM制御することを特徴とするセンサ出力補正方法である。PWM制御は、具体的な制御方法として好適である。
【0020】
本発明に係る第12の態様は、前記第8〜11のいずれかの態様において、
前記固体高分子電解質層が非水系高分子固体電解質層であることを特徴とするセンサ出力補正回路である。特に非水系高分子固体電解質層を用いたセンサの出力電圧の補正方法として好適である。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、固体高分子電解質を用いた曲率センサに付与される曲率と曲率センサからの出力電圧との間の線形性を保持するためのセンサ出力補正回路及び補正方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】実施の形態1に係る補正回路を備えた曲率センサのブロック図である。
【図2】実施の形態1に係る補正方法を説明するためのフローチャートである。
【図3】実施の形態1に係る補正回路の動作を説明するためのタイミングチャートである。
【図4】実施例及び比較例に係る曲率センサ200の構造を示す断面図である。
【図5A】出力電圧が450μV程度となる曲げ変形量(曲率)を付与し続けた場合の出力電圧の変化を示すグラフである。
【図5B】出力電圧が450μV程度となる曲げ変形量(曲率)を付与し続けた場合の出力電圧の変化を示すグラフである。
【図6A】出力電圧が450μV程度となる曲げ変形量(曲率)を付与した後、この曲げ変形を解除した場合の出力電圧の変化を示すグラフである。
【図6B】出力電圧が450μV程度となる曲げ変形量(曲率)を付与した後、この曲げ変形を解除した場合の出力電圧の変化を示すグラフである。
【図7A】出力電圧が75μV程度となる曲げ変形量(曲率)を約1秒毎に繰り返し付与した場合の出力電圧の変化を示すグラフである。
【図7B】出力電圧が75μV程度となる曲げ変形量(曲率)を約1秒毎に繰り返し付与した場合の出力電圧の変化を示すグラフである。
【図8A】出力電圧が250μV程度となる曲げ変形量(曲率)を約2秒毎に繰り返し付与した場合の出力電圧の変化を示すグラフである。
【図8B】出力電圧が250μV程度となる曲げ変形量(曲率)を約2秒毎に繰り返し付与した場合の出力電圧の変化を示すグラフである。
【図9A】出力電圧が250μV程度となる曲げ変形量(曲率)を約2秒毎に5段階に分割して繰り返し付与した場合の出力電圧の変化を示すグラフである。
【図9B】出力電圧が250μV程度となる曲げ変形量(曲率)を約2秒毎に5段階に分割して繰り返し付与した場合の出力電圧の変化を示すグラフである。
【図10】本発明が解決しようとする課題を説明するための模式的グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を適用した具体的な実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。ただし、本発明が以下の実施の形態に限定される訳ではない。また、説明を明確にするため、以下の記載及び図面は、適宜、簡略化されている。
【0024】
(実施の形態1)
図1を参照して本発明の第1の実施の形態に係る補正回路を備えた曲率センサについて説明する。図1は、実施の形態1に係る補正回路を備えた曲率センサのブロック図である。図1に示す補正回路100は、A/D(アナログ/デジタル)変換回路101、積分回路102、積分結果判定回路103、補正電流生成回路104を備えている。曲率センサ200は、上部電極202a、下部電極202b、SPE層201を備えている。
【0025】
図1には、曲率センサ200の模式的断面図が示されている。SPE層201は、非水系高分子固体電解質層である。具体的な非水系高分子固体電解質としては、例えば、特許文献1や特開2007-336790号公報に開示された公知の非水系高分子固体電解質を用いることができる。SPE層201は、上部電極202aと、下部電極202bとに挟持されている。ここで、上部電極202a及び下部電極202bとしては、例えば、特許文献1に開示された公知の炭素電極を用いることができる。そして、この上部電極202a及び下部電極202bの外側表面には、例えば銀ペーストなどの導電材料が塗布されている(不図示)。
【0026】
実際の曲率センサ200は、フィルム状であって、可撓性を有している。このフィルム状の曲率センサ200自体を曲げ変形する、即ち、曲率センサ200に曲率を付与すると、曲率に応じた起電力が発生する。つまり、図1に示すように、曲率センサ200に曲率を付与すると、曲率に応じた起電力Vaが、上部電極202aと下部電極202bとの間に発生する。これまでの曲率センサ200は、曲率に応じた起電力Vaを検出するのみであった。ここで、曲率センサ200をある一方向に曲げた場合の起電力が正の値である場合、その反対方向に曲げた場合の起電力は負の値となる。
【0027】
これに対し、本実施の形態に係る曲率センサ200には、補正回路100が接続されている。上述の通り、図1に示す補正回路100は、A/D変換回路101、積分回路102、積分結果判定回路103、補正電流生成回路104を備えている。A/D変換回路101には、曲率センサ200において発生したアナログ起電力Vaが入力される。
【0028】
A/D変換回路101は、このアナログ起電力Vaをデジタル出力電圧Vdに変換し、出力する。このデジタル出力電圧Vdが測定値としてモニターされる。つまり、このデジタル出力電圧Vdから測定対象である曲率を逆算することができる。
【0029】
他方、A/D変換回路101から出力されたデジタル出力電圧Vdは、積分回路102に入力される。積分回路102は、所定の期間毎にデジタル出力電圧Vdを積分する。そして、積分回路102から出力された積分結果が、積分結果判定回路103に入力される。
【0030】
積分結果判定回路103は、出力電圧の変化量が大きい場合つまり所定の基準値以上の場合、曲率センサ200が動作状態にあると判断する。一方、出力電圧の変化量が小さい場合つまり所定の基準値より小さい場合、曲率センサ200が静止状態にあると判断する。
【0031】
動作状態にあると判断した場合、積分結果判定回路103は、出力電圧の変化を緩和する方向を示す極性信号s1を生成する。この極性信号s1に応じて補正電流生成回路104から出力される補正電流の方向つまり補正電流I1又はI2のいずれかが選択される。また、この場合、積分結果判定回路103は、一定の電荷量を出力するためのパルス幅制御信号s2を生成する。
【0032】
一方、静止状態にあると判断した場合、積分結果判定回路103は、その静止状態における出力電圧のレンジに対応した設定制御変動幅上下の近い方に目標電圧を設定する。そして、出力電圧の積分結果と目標電圧の積分結果との差の極性つまりその差が正の値か負の値かに応じた極性信号s1を生成する。具体的には、極性信号s1は出力電圧を目標電圧に近づける方向を示す信号である。また、この場合、積分結果判定回路103は、出力電圧の積分結果と目標電圧の積分結果との差の大きさ(絶対値)に応じたパルス幅制御信号s2を生成する。
【0033】
補正電流生成回路104には、極性信号s1及びパルス幅制御信号s2が入力される。補正電流生成回路104は、極性信号s1に応じて、補正電流I1又はI2のいずれかの補正電流を出力する。例えば、デジタル信号である極性信号s1がHの場合、上部電極202aに供給される補正電流I1が補正電流生成回路104から出力されるとする。ここで、下部電極202bに供給される補正電流I2が補正電流生成回路104から出力されることはない。反対に、極性信号s1がLの場合、上部電極202aに供給される補正電流I1は補正電流生成回路104から出力されず、下部電極202bに供給される補正電流I2のみが補正電流生成回路104から出力される。
【0034】
また、補正電流生成回路104は、パルス幅制御信号s2に応じた時間だけ一定値の補正電流I1又はI2を出力する。即ち、PWM制御により曲率センサ200への注入電荷量が制御される。ここで、積分結果判定回路103により動作状態にあると判断された場合、補正電流生成回路104は、パルス幅制御信号s2に応じて一定時間、一定値の補正電流I1又はI2を出力する。つまり、常に一定量の電荷が曲率センサ200へ注入される。一定量の電荷を、時間依存的に注入することにより、ヒステリシスの少ないまた急峻な変動がない迅速な補正をすることができる。
【0035】
一方、積分結果判定回路103により静止状態にあると判断された場合、出力電圧の積分結果と目標電圧の積分結果との差が大きければ、一定値の補正電流I1又はI2が出力される時間が長くなり、曲率センサ200へ注入される電荷量が多くなる。反対に、出力電圧の積分結果と目標電圧の積分結果との差が小さければ、一定値の補正電流I1又はI2が出力される時間も短くなり、曲率センサ200へ注入される電荷量も少なくなる。
【0036】
上述のように、曲率センサ200は、曲率を一定に保持した場合、その曲率に応じた略一定の起電力を出力し続ける。しかしながら、厳密には長時間保持すると、例えば正の起電力の場合、徐々に起電力が減少し、曲率と起電力との線形性が悪化するという問題があった。しかしながら、当該補正電流を曲率センサ200に供給することにより、一定の起電力に保持することができる。従って、曲率と起電力との線形性を保持することができる。
【0037】
上述の曲率を一定に保持した場合のように、出力電圧の変化量が小さい場合、補正電流生成回路104は、出力電圧の目標電圧からのずれに応じた電荷量を曲率センサ200へ出力する。これに対し、出力電圧の変化量が大きく、所定の基準値を超えるような場合、この電圧変動を緩和するように、出力電圧の変化量によらず一定の電荷を曲率センサ200へ出力する。この場合の一定の注入電荷量は適宜調整の上、決定すればよい。
【0038】
出力電圧の変化量が所定の基準値を超えた場合とは、具体的には、例えば、曲げ変形を加えている時や曲げ変形を解除した時である。このような場合、立ち上がりのオーバーシュートや立ち下がりのオーバーシュートが発生する。しかしながら、当該補正電流を曲率センサ200に供給することにより、このようなオーバーシュートを緩和することができる。これにより、さらに高精度に曲率と起電力との線形性を保持することができる。
【0039】
また、本実施の形態に係る補正回路100は、曲率センサ200の電極端子に直接接続されるものであって、曲率センサ200自体に何らかの変更を必要とするものではない。そのため、曲率センサ200の有する、薄さ、軽さ、可撓性などの特長が損なわれることがない。また通常考えられる補正方法のように、曲率センサ200において発生した起電力をアルゴニズムに則った数学的な演算処理をして出力する必要がない。そのことにより、出力電圧を補正電荷により制御しながら出力することができるため、リアルタイム性に優れている。さらに、本発明に係る補正方法は、曲率センサ200を構成する固体高分子電解質の特性を踏まえて、これに直接電荷を注入するという極めて独創的な手法である。
【0040】
次に、図2を用いて本実施の形態に係る補正方法について説明する。図2は、実施の形態1に係る補正方法を説明するためのフローチャートである。図2に示すように、出力電圧の変化量をモニターする(ステップST1)。図1の例では、積分回路102により出力電圧の変化量をモニターする。次に、出力電圧の変化量が基準値以下であるか否かを判定する(ステップST2)。図1の例では、積分結果判定回路103により判定する。
【0041】
ここで、出力電圧の変化量が大きく、基準値以下でなければ(ステップST2NO)、動作状態にあると判断し、出力電圧の変化を緩和する方向に一定量の電荷を曲率センサ200へ注入する(ステップST3)。そして、再度ステップST1へ戻り、出力電圧の変化量を測定する。
【0042】
一方、出力電圧の変化量が小さく、基準値以下であれば(ステップST2YES)、静止状態にあると判断し、目標電圧を設定すると共に出力電圧と目標電圧とのずれを計算する(ステップST4)。そして、この出力電圧と目標電圧とのずれに応じた量の電荷を、出力電圧が目標電圧に近づく方向に注入する(ステップST5)。そして、再度ステップST1へ戻り、出力電圧の変化量を測定する。
【0043】
次に、図3を用いて図1の補正回路100の動作について説明する。図3は、実施の形態1に係る補正回路の動作を説明するためのタイミングチャートである。図3に示したのは、出力電圧の変化量が小さい場合であって、目標電圧に保持するための補正動作である。図3の最上段は、A/D変換回路101から出力されたデジタル出力電圧Vdを示している。2段目は、積分結果判定回路103から出力される極性信号s1を示している。3段目は、積分結果判定回路103から出力されるパルス幅制御信号s2を示している。最下段は、補正電流生成回路104から出力される補正電流I1又はI2(注入電荷量)を示している。
【0044】
図3に示すように、等しいサンプリング時間で出力電圧Vdを積分し、この積分結果に基づいて極性信号s1及びパルス幅制御信号s2が生成される。まず、図3では途中からになっているが、時間T1までのサンプリング時間では、出力電圧Vdの積分結果と目標電圧の積分結果との差は正の値となる。そのため、時間T1においてデジタル信号である極性信号s1はLとなる。また、時間T1においてパルス幅制御信号s2は出力電圧Vdの積分結果と目標電圧の積分結果との差の大きさ(絶対値)に応じて、幅W1だけHになる。その結果、時間T1においてI2×W1の電荷が曲率センサ200の下部電極202bに供給される。これにより、出力電圧Vdが目標電圧に近づく。
【0045】
時間T1から時間T2までのサンプリング時間では、出力電圧Vdが目標電圧より常に大きいため、出力電圧Vdの積分結果と目標電圧の積分結果との差は正の値となる。そのため、時間T2においてデジタル信号である極性信号s1はLのままとなる。また、時間T2においてパルス幅制御信号s2は出力電圧Vdの積分結果と目標電圧の積分結果との差の大きさ(絶対値)に応じて、幅W2だけHになる。その結果、時間T2においてI2×W2の電荷が曲率センサ200の下部電極202bに供給される。これにより、出力電圧Vdが目標電圧に近づく。
【0046】
時間T2から時間T3までのサンプリング時間では、出力電圧Vdの積分結果と目標電圧幅の積分結果との差が負にて最小値となる。そのため、時間T3においてデジタル信号である極性信号s1はHに切り換わる。また、出力電圧Vdの積分結果と目標電圧の積分結果との差が0であるため、時間T3においてパルス幅制御信号s2はHにならない。その結果、時間T3では、補正電流I1、I2のいずれも流れない。
【0047】
時間T3から時間T4までのサンプリング時間では、出力電圧Vdが目標電圧より常に小さいため、出力電圧Vdの積分結果と目標電圧の積分結果との差は負の値となる。そのため、時間T4においてデジタル信号である極性信号s1はHのままとなる。また、時間T4においてパルス幅制御信号s2は出力電圧Vdの積分結果と目標電圧の積分結果との差の大きさ(絶対値)に応じて、幅W4だけHになる。その結果、時間T4においてI1×W4の電荷が曲率センサ200の上部電極202aに供給される。これにより、出力電圧Vdが目標電圧に近づく。
【0048】
時間T4から時間T5までのサンプリング時間では、出力電圧Vdの積分結果と目標電圧の積分結果との差は正の値となる。そのため、時間T5においてデジタル信号である極性信号s1はHに切り換わる。また、時間T5においてパルス幅制御信号s2は出力電圧Vdの積分結果と目標電圧の積分結果との差の大きさ(絶対値)に応じて、幅W5だけHになる。その結果、時間T4においてI2×W5の電荷が曲率センサ200の下部電極202bに供給される。これにより、出力電圧Vdが目標電圧に近づく。
【0049】
図3を用いて説明したように、出力電圧の変化量が小さい場合、つまり、積分結果判定回路103により静止状態にあると判断された場合、出力電圧Vdと目標電圧とのずれ量に応じた電荷量を曲率センサ200へ注入することにより、出力電圧Vdが目標電圧に近づくようにフィードバック補正する。
【実施例】
【0050】
次に、本願に係る具体的な実施例を用いて本発明の効果について説明する。図4は実施例及び比較例に係る曲率センサ200の構造を示す断面図である。曲率センサ200は、縦20mm×横20mm×厚さ0.03〜0.2mmのSPE層201の表裏両面に同一形状の炭素電極202を備えている。更に、2つの炭素電極202の外側表面には、それぞれ銀ペーストが塗布され、導電層203が形成されている。そして、SPE層201、炭素電極202、導電層203は、樹脂製の保護膜204により覆われている。ここで、SPE層201は例えば特許文献1に開示された公知の非水系高分子固体電解質から構成されている。
【0051】
導電層203にリード205が接続されることにより、曲率に応じた起電力を測定できる。そして、実施例では補正回路(不図示)からリード205を介して補正電流が曲率センサ200へ供給される。当然のことながら、比較例に係る曲率センサ200は、このような補正回路を備えていない。
【0052】
また、曲率センサ200は、板バネ302に挟持されている。さらに、板バネ302に挟持された曲率センサ200が、ホルダ(固定治具)302に固定されている。ここで、各構成要素の位置関係は、図4に示すようになっている。
【0053】
具体的には、20mm×20mmのSPE層201の先端と板バネ302の先端とが一致している。また、SPE層201の中央部までホルダ302に挟まれている。つまり、SPE層201の先端側10mmがホルダ302から突出し、曲げ変形可能な状態となっている。SPE層201の先端から2mmの領域がシェーカー301により押され、図面下側に曲げ変形される。
【0054】
ここで、シェーカー301は、図4に矢印にて示した図面上下方向に移動する。シェーカー301が図面下側に移動することにより、SPE層201の先端が押され、曲げ変形する。反対に、シェーカー301が図面上側に移動することにより、SPE層201の曲げ変形が解除される。また、SPE層201の先端から5mmの部位の変位をレーザ変位計により測定した。
【0055】
図5A、5Bには、出力電圧が450μV程度となる曲げ変形量(曲率)を付与し続けた場合の出力電圧の変化を示している。図5A、5Bの横軸は時間(秒)、縦軸は出力電圧(μV)を示している。図5A、5Bにおいて実施例A、比較例Bとして示している。図5Aは短時間での出力電圧変化を示している。図5Aに示すように、実施例Aでは、比較例Bに比べ、立ち上がりのオーバーシュートが抑制されていることが分かる。
【0056】
図5Bは長時間での出力電圧変化を示している。図5Bに示すように、比較例Bでは0〜200秒付近において出力電圧が低下及び再上昇し、1000秒以降において出力電圧が徐々に低下している。これに対し、実施例Aでは、出力電圧が450μV付近で一定に保持されている。
【0057】
次に、図6A、6Bには、出力電圧が450μV程度となる曲げ変形量(曲率)を付与した後、この曲げ変形を解除した場合の出力電圧の変化を示している。図6A、6Bの横軸は時間(秒)、縦軸は出力電圧(μV)を示している。図6A、6Bにおいて実施例A、比較例Bとして示している。図6Aは短時間での出力電圧変化を示している。図6Aに示すように、実施例Aでは、比較例Bに比べ、立ち下がりのオーバーシュートが抑制されていることが分かる。
【0058】
図6Bは長時間での出力電圧変化を示している。図6Bに示すように、比較例Bでは0〜500秒付近において出力電圧が0μVから比較的急激に降下し、1000秒以降においても出力電圧が徐々に低下し続け、2000秒において約−100μVとなっている。これに対し、実施例Aでは、出力電圧が0μVで一定に保持されている。
【0059】
次に、図7A、7Bには、出力電圧が75μV程度となる曲げ変形量(曲率)を約1秒毎に繰り返し付与した場合の出力電圧の変化を示している。試験は0〜260分行なった。図7A、7Bの横軸は時間(秒)、縦軸は出力電圧(μV)を示している。図7A、7Bにおいて実施例A、比較例Bとして示している。図7Aは試験開始後0〜20分における出力電圧変化を示している。図7Aに示すように、比較例Bでは出力電圧の最大値(及び最小値)が徐々に降下している。これに対し、実施例Aでは、出力電圧の最大値(及び最小値)が一定に保持されている。
【0060】
図7Bは試験開始後240〜260分における出力電圧変化を示している。図7Bに示すように、比較例Bでは出力電圧の最大値(及び最小値)がさらに降下している。即ち、比較例Bでは、付与している曲率は同じであるにも関わらず、出力電圧の出力値が繰り返し数の増加と共に大きく低下してしまう。これに対し、実施例Aでは、試験開始後240分を経過した後も、出力電圧の最大値(及び最小値)が試験開始直後とほとんど変化せず、一定に保持されている。
【0061】
次に、図8A、8Bには、出力電圧が250μV程度となる曲げ変形量(曲率)を約2秒毎に繰り返し付与した場合の出力電圧の変化を示している。図8A、8Bの横軸は時間(秒)、縦軸は出力電圧(μV)を示している。図8A、8Bにおいて実施例A、比較例Bとして示している。図8Aは短時間での出力電圧変化を示している。図8Aに示すように、実施例Aでは、比較例Bに比べ、立ち上がり及び立ち下がりのオーバーシュートが抑制されていることが分かる。
【0062】
図8Bは長時間での出力電圧変化を示している。図8Bに示すように、比較例Bでは出力電圧が回数毎に徐々に低下している。これに対し、実施例Aでは、出力電圧が250μV付近で一定に保持されている。
【0063】
次に、図9A、9Bには、出力電圧が250μV程度となる曲げ変形量(曲率)を約2秒毎に5段階に分割して繰り返し付与した場合の出力電圧の変化を示している。図9A、9Bの横軸は時間(秒)、縦軸は出力電圧(μV)を示している。図9A、9Bにおいて実施例A、比較例Bとして示している。図9Aは短時間での出力電圧変化を示している。図9Aに示すように、実施例Aでは、比較例Bに比べ、立ち上がり及び立ち下がりのオーバーシュートが抑制されていることが分かる。
【0064】
図9Bは長時間での出力電圧変化を示している。図9Bに示すように、比較例Bでは出力電圧が回数毎に徐々に低下している。また、図9Bの比較例Bから分かるように、5段階に分割して曲げ変形を付与した場合、図9Bの比較例Bのように分割せずに1段階で曲げ変形を付与した場合に比べ、出力電圧の低下が大きくなっている。これに対し、図9Bの実施例Aでは、図9Bの実施例Aと同様に、繰り返し数が増えても出力電圧が250μV付近で一定に保持されている。
【0065】
以上、実施の形態を参照して本願発明を説明したが、本願発明は上記によって限定されるものではない。本願発明の構成や詳細には、発明のスコープ内で当業者が理解し得る様々な変更をすることができる。例えば、図1の積分回路102に代えて、かなり急峻な変動には微分回路を用いてもよく、さらに、積分回路と微分回路の両方を用いて出力電圧の変化をモニターしてもよい。また、積分回路102、積分結果判定回路103、補正電流生成回路104を2経路備え、出力電圧の変化量が小さい場合の経路と、出力電圧の変化量が大きい場合の経路とを別々としてもよい。
【符号の説明】
【0066】
100 補正回路
101 変換回路
102 積分回路
103 積分結果判定回路
104 補正電流生成回路
200 曲率センサ
201 SPE層
202 炭素電極
202a 上部電極
202b 下部電極
203 導電層
204 保護膜
205 リード
301 シェーカー
302 板バネ
302 ホルダ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の電極と、
前記一対の電極間に形成された固体高分子電解質層と、を備えたセンサが、
付与された曲率に応じて出力する出力電圧を補正する補正回路であって、
前記出力電圧の変化量を監視する監視回路と、
前記変化量が所定の基準値よりも小さい場合、前記センサが静止状態であると判定し、目標電圧を設定する状態判定回路と、
前記静止状態であると判定された場合、前記センサに対し前記出力電圧が前記目標電圧に近づく方向に前記出力電圧と前記目標電圧とのずれに応じた量の電荷を注入する補正電流生成回路と、を備えるセンサ出力補正回路。
【請求項2】
前記状態判定回路は、前記変化量が所定の基準値よりも大きい場合、前記センサが動作状態であると判定し、
前記動作状態であると判定された場合、前記補正電流生成回路は、前記センサに対し前記変化量を緩和する方向に電荷を注入することを特徴とする請求項1に記載のセンサ出力補正回路。
【請求項3】
前記動作状態であると判定された場合、前記センサに対し注入される前記電荷の量が、前記変化量によらず一定であることを特徴とする請求項2に記載のセンサ出力補正回路。
【請求項4】
前記静止状態であると判定された場合、前記センサに対し注入される前記電荷の量が、PWM制御されることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のセンサ出力補正回路。
【請求項5】
前記監視回路が積分回路を含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のセンサ出力補正回路。
【請求項6】
前記監視回路が微分回路を含むことを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載のセンサ出力補正回路。
【請求項7】
前記固体高分子電解質層が非水系高分子固体電解質層であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載のセンサ出力補正回路。
【請求項8】
一対の電極と、
前記一対の電極間に形成された固体高分子電解質層と、を備えたセンサが、
付与された曲率に応じて出力する出力電圧を補正する補正方法であって、
前記出力電圧の変化量を監視するステップと、
前記変化量が所定の基準値よりも小さい場合、前記センサが静止状態であると判定し、目標電圧を設定するステップと、
前記静止状態であると判定した場合、前記センサに対し前記出力電圧が前記目標電圧に近づく方向に前記出力電圧と前記目標電圧とのずれに応じた量の電荷を注入するステップと、を備えるセンサ出力補正方法。
【請求項9】
前記変化量が所定の基準値よりも大きい場合、前記センサが動作状態であると判定するステップと、
前記動作状態であると判定した場合、前記センサに対し前記変化量を緩和する方向に電荷を注入するステップと、を更に備えることを特徴とする請求項8に記載のセンサ出力補正方法。
【請求項10】
前記動作状態であると判定した場合、前記センサに対し注入する前記電荷の量を、前記変化量によらず一定とすることを特徴とする請求項9に記載の補正方法。
【請求項11】
前記静止状態であると判定した場合、前記センサに対し注入する前記電荷の量を、PWM制御することを特徴とする請求項8〜10のいずれか一項に記載のセンサ出力補正方法。
【請求項12】
前記固体高分子電解質層が非水系高分子固体電解質層であることを特徴とする請求項8〜11のいずれか一項に記載のセンサ出力補正方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図10】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7A】
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【図7B】
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【図8A】
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【図8B】
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【図9A】
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【図9B】
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【公開番号】特開2012−2540(P2012−2540A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−135277(P2010−135277)
【出願日】平成22年6月14日(2010.6.14)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【出願人】(306029981)ケイテック株式会社 (6)
【Fターム(参考)】