説明

センサ装置

【課題】検出値に関する経年変化の影響を容易に認識し得るセンサ装置を提供する。
【解決手段】ジャイロセンサ20では、メモリ22には、装置の製造時に各検出条件に応じて角速度検出部23により検出され得る初期検出値が予め記憶される。そして、上記特性変化検査用情報設定処理を実行する制御部21により、角速度検出部23により検出される現角速度検出値とこの検出値の検出条件に対応する初期角速度検出値とが入出力インタフェース25を介して検査装置30に出力される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物理量を検出する検出部を有するセンサ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、上記センサ装置では、製造時のリフロー熱や組み込み時の衝撃等によるストレスや経年変化に応じて、センサ特性が初期特性から変化することから、当該センサ装置の検出精度が低下する場合がある。
【0003】
そこで、上記問題を解決するため、下記特許文献1に開示される加速度センサが知られている。この加速度センサは、コントローラにおいて衝撃加速度に比例した電圧を出力するセンサである。このコントローラでは、加速度センサに正弦波もしくは矩形波の電圧を印加し、この時の出力波形より加速度センサの周波数特性における平坦部感度、低域及び高域遮断周波数を求めて、この周波数特性と初期において記憶した初期特性値とが比較される。そして、この比較結果に応じて、自動車が衝突したか否かを判定する衝突判定基準値を変化させることにより、加速度センサの経時変化に対しても、正確かつ確実な衝突検出を実現している。
【0004】
また、下記特許文献2に開示される角速度センサは、電気的に接続されるマイコンにより、その検出値がオフセット診断・補正されるように構成されている。当該マイコンには、不揮発性メモリが電気的に接続されており、この不揮発性メモリには、角速度センサにて検出された検出値をオフセット補正するためのオフセット補正値が格納されている。また、不揮発性メモリには、製品出荷時のオフセット補正値も記憶されており、角速度センサが経年劣化して出力値にオフセット分が含まれるようになったとしてもオフセット補正値を書き換えることでオフセット補正値のずれを調整する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平05−240875号公報
【特許文献2】特開2008−070224号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記特許文献1に開示される加速度センサや上記特許文献2に開示される角速度センサのようなセンサ装置では、コントローラのように組み込まれる電子装置のメモリ等にセンサ単品における初期特性値を記憶する必要がある。このため、センサ装置を所定の電子装置に組み込む場合、組み込み時に当該センサ装置により各検出条件において検出される検出値を、初期特性値として上記電子装置のメモリ等に記憶することが考えられる。しかしながら、センサ装置を所定の電子装置に組み込むごとに初期特性値を得るための検査が必要となり、組み込み作業が繁雑になるだけでなく低コスト化の阻害要因となってしまう。
【0007】
また、センサ装置の製造元から当該センサ装置に関する初期特性値を取得し、この取得した初期特性値を上記電子装置のメモリ等に記憶することが考えられる。しかしながら、組み込み対象のセンサ装置と他のセンサ装置とを識別可能なID等の識別情報を用いたトレーサビリティを確保するため、センサ装置の識別情報とその検査結果とを関連付けて保存する装置やセンサ装置の組み付け時等に上記識別情報を読み出す装置、記識別情報と検査結果を照合する作業工程などが必要となる。
【0008】
特に、センサ装置の製造個数が増えると、関連付けられるデータ量が大きくなり、顧客毎の保証年数分のデータ保存が困難になる。また、センサ装置の製造元と当該センサ装置を所定の電子装置に組み込む業者が異なると、上記識別情報を読み出す装置の用意が困難となる場合もある。
【0009】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、検出値に関する経年変化の影響を容易に認識し得るセンサ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、特許請求の範囲に記載の請求項1のセンサ装置では、物理量を検出する検出手段と、この検出手段により検出された検出値を含めた情報を出力可能な出力手段とを備えるセンサ装置であって、当該装置の製造時に各検出条件に応じて前記検出手段により検出され得る初期検出値が予め記憶される記憶手段と、前記検出手段により検出される検出値とこの検出値の検出条件に対応する前記初期検出値とを前記出力手段を介して出力する制御手段と、を備えることを特徴とする。
【0011】
請求項2の発明は、請求項1に記載のセンサ装置において、前記制御手段は、検査装置からの要求に応じて、前記検出手段により検出される検出値とこの検出値の検出条件に対応する前記初期検出値とを、前記出力手段を介して前記検査装置に出力することを特徴とする。
【0012】
請求項3の発明は、請求項1に記載のセンサ装置において、前記制御手段は、前記検出手段により検出される検出値とこの検出値の検出条件に対応する前記初期検出値との差を、前記出力手段を介して出力することを特徴とする。
【0013】
請求項4の発明は、請求項3に記載のセンサ装置において、前記制御手段は、検査装置からの要求に応じて、前記検出手段により検出される検出値とこの検出値の検出条件に対応する前記初期検出値との差を、前記出力手段を介して前記検査装置に出力することを特徴とする。
【0014】
請求項5の発明は、請求項1に記載のセンサ装置において、前記検出手段により検出される検出値とこの検出値の検出条件に対応する前記初期検出値とに基づいて、当該検出手段が許容される検出精度の検出状態であるか否かについて判定する判定手段を備え、前記制御手段は、前記判定手段による判定結果を、前記出力手段を介して出力することを特徴とする。
【0015】
請求項6の発明は、請求項5に記載のセンサ装置において、前記制御手段は、検査装置からの要求に応じて、前記判定手段による判定結果を、前記出力手段を介して前記検査装置に出力することを特徴とする。
【0016】
請求項7の発明は、請求項1〜6のいずれか一項に記載のセンサ装置において、前記記憶手段には、他のセンサ装置と識別するための識別情報が含まれ、前記制御手段は、さらに前記識別情報を、前記出力手段を介して出力することを特徴とする。
【0017】
請求項8の発明は、請求項7に記載のセンサ装置において、前記制御手段は、検査装置からの要求に応じて、さらに前記識別情報を、前記出力手段を介して前記検査装置に出力することを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
請求項1の発明では、記憶手段には、装置の製造時に各検出条件に応じて検出手段により検出され得る初期検出値が予め記憶される。そして、制御手段により、検出手段により検出される検出値とこの検出値の検出条件に対応する初期検出値とが出力手段を介して出力される。
【0019】
このように、初期検出値と現時点における検出値(現検出値)との両検出値が出力されるため、これらの比較に応じて検出値に関する経年変化の影響を容易に認識することができる。特に、センサ装置自身で初期検出値を出力可能に記憶するため、当該センサ装置を組み込んだ電子装置が上記初期検出値を記憶する必要がないので、初期検出値を取得するための検査やトレーサビリティの確保も不要となる。
したがって、検出値に関する経年変化の影響が容易に認識されて、当該センサ装置の異常検出状態を事前に検知して検出精度の低下を抑制することができる。
【0020】
請求項2の発明では、検査装置からの要求に応じて、検出手段により検出される検出値とこの検出値の検出条件に対応する初期検出値とが、制御手段により出力手段を介して上記検査装置に出力される。
これにより、検査装置は、所望のタイミングで、初期検出値および現検出値を取得して、センサ装置の検出値に関する経年変化の影響を容易に認識することができる。
【0021】
請求項3の発明では、検出手段により検出される検出値とこの検出値の検出条件に対応する初期検出値との差が、制御手段により出力手段を介して出力される。
このように、同等の検出条件での初期検出値および現検出値の差が出力される場合でも、この差に応じて検出値に関する経年変化の影響を容易に認識することができる。
【0022】
請求項4の発明では、検査装置からの要求に応じて、検出手段により検出される検出値とこの検出値の検出条件に対応する初期検出値との差が、制御手段により出力手段を介して上記検査装置に出力される。
これにより、検査装置は、所望のタイミングで、同等の検出条件での初期検出値および現検出値の差を取得して、センサ装置の検出値に関する経年変化の影響を容易に認識することができる。
【0023】
請求項5の発明では、判定手段により、検出手段により検出される検出値とこの検出値の検出条件に対応する初期検出値とに基づいて、当該検出手段が許容される検出精度の検出状態であるか否かについて判定され、この判定結果は、制御手段により出力手段を介して出力される。
このように、検出手段が許容される検出精度の検出状態であるか否かについての判定結果が出力される場合でも、この判定結果に応じて検出値に関する経年変化の影響を容易に認識することができる。
【0024】
請求項6の発明では、検査装置からの要求に応じて、上記判定手段による判定結果が、制御手段により出力手段を介して上記検査装置に出力される。
これにより、検査装置は、所望のタイミングで、検出手段が許容される検出精度の検出状態であるか否かについての判定結果を取得して、センサ装置の検出値に関する経年変化の影響を容易に認識することができる。
【0025】
請求項7の発明では、さらに上記識別情報が、制御手段により出力手段を介して出力される。
このように、上記両検出値に関する情報に加えて上記識別情報が出力されるので、センサ装置の検出値に関する経年変化の影響を容易に認識するとともに、当該センサ装置に関するトレーサビリティを容易に確保することができる。
【0026】
請求項8の発明では、検査装置からの要求に応じて、さらに上記識別情報が、制御手段により出力手段を介して上記検査装置に出力される。
これにより、検査装置は、所望のタイミングで、上記両検出値に関する情報に加えて上記識別情報を取得して、センサ装置の検出値に関する経年変化の影響を容易に認識するとともに、当該センサ装置に関するトレーサビリティを容易に確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】ジャイロセンサを組み込んだECUの主要構成をブロックで示す説明図である。
【図2】ジャイロセンサの検出値に関する経年変化の影響を静止時検出値を用いて説明するための説明図である。
【図3】ジャイロセンサの制御部により実施される特性変化検査用情報出力処理の流れを例示するフローチャートである。
【図4】ジャイロセンサの検出値に関する経年変化の影響を感度誤差を用いて説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明に係るセンサ装置をジャイロセンサ20に適用した一実施形態について図を参照して説明する。図1は、ジャイロセンサ20を組み込んだECU10の主要構成をブロックで示す説明図である。
図1に示すECU(Electronic Control Unit)10は、たとえば自動車に搭載されて、当該自動車の横滑りを防止するための制御を実施する電子装置である。このECU10は、全体的制御を司る制御部11と、この制御部11が検査装置30等の外部機器と通信するためのユーザインタフェース12と、ジャイロセンサ20とを備えている。
【0029】
ジャイロセンサ20は、搭載される自動車の鉛直方向周りの角速度を検出してヨーレート信号を出力するセンサ装置であって、図1に示すように、全体的制御を司る制御部21と、この制御部21に電気的に接続されるメモリ22、角速度検出部23、温度検出部24および入出力インタフェース25とを備えている。当該ジャイロセンサ20の検出可能な角速度の範囲は、例えば、±100°/sであり、分解能は、0.06°/s/LSBである。なお、制御部21は、特許請求の範囲に記載の「制御手段」の一例に相当し得る。
【0030】
メモリ22は、フラッシュメモリ等の不揮発性メモリであって、後述する特性変化検査用情報出力処理を実行可能なプログラムや各ハードウェアを制御可能なシステムプログラム、各種情報などが予め格納されている。なお、メモリ22は、特許請求の範囲に記載の「記憶手段」の一例に相当し得る。
【0031】
角速度検出部23は、例えば、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)技術により形成された櫛歯状の可動部を備え、この可動部の変位に応じて、搭載される車両の鉛直方向周りの角速度を検出し、この角速度に応じた角速度信号を制御部21に出力するように構成されている。なお、角速度検出部23は、特許請求の範囲に記載の「検出手段」の一例に相当し得る。
【0032】
温度検出部24は、例えば、抵抗体温度センサやダイオード温度センサ等により構成されており、周囲の温度に応じた温度信号を制御部21に出力するように構成されている。
【0033】
入出力インタフェース25には、制御部11が電気的に接続されている。これにより、制御部21は、入出力インタフェース25を介して、制御部11やユーザインタフェース12に接続される検査装置30等の外部機器と、通信可能に接続される。なお、入出力インタフェース25は、特許請求の範囲に記載の「出力手段」の一例に相当し得る。
【0034】
次に、ジャイロセンサ20における検出値に関する経年変化の影響について、図2を用いて説明する。図2は、ジャイロセンサ20の検出値に関する経年変化の影響を静止時検出値を用いて説明するための説明図である。
一般に、ジャイロセンサ20などのセンサ装置は、使用可能な温度範囲において、製造時の検出値(以下、初期検出値という)が、所定の許容範囲内にあるものが良品として後工程に出荷される。
【0035】
しかしながら、出荷されて使用中のセンサ装置は、製造時のリフロー熱や組み込み時の衝撃等によるストレスや経年変化に応じて、現時点における検出値(以下、現検出値という)が同等の検出条件での初期検出値から変化する場合がある。また、センサ内部構造変化(共振変化など)等により、センサ装置単品の出荷後のECUへの組付工程などの後工程で検査できない特性(検出値)も変動し、センサ特性を保証できない可能性がある。
【0036】
例えば、図2に例示するように、使用可能な温度範囲において、ジャイロセンサ20の静止時検出値(0点特性)における許容範囲が±4°/sの仕様である場合(図2の符号S1oにて示す)、出荷時のジャイロセンサ20の初期検出値(初期特性)が、図2の符号S1aにて示す曲線のように当該許容範囲内にあるものが良品として後工程に出荷される。そして、上述した経年変化やセンサ内部構造変化(以下、経年変化等という)に起因して現検出値が変化する場合に、図2の符号S1bにて示す曲線のように、この変化が大きくなり少なくとも一部の温度領域において、現検出値が所定の許容範囲から外れると、当該センサ装置の検出精度が低下してしまう。
【0037】
一方で、後工程で受けた応力開放によりセンサ出荷時の初期特性に戻っていくこともあり、後工程の初期状態でセンサ特性を補正する場合、市場での耐久変動が通常より大きく、過補正となる可能性がある。
【0038】
また、ジャイロセンサ20の0点特性における許容範囲が、初期角速度で±2°/sで耐久変動分が±2°/sであり製品自体で±4°/sであるセンサ仕様配分であることから、このジャイロセンサ20を採用するECU10で検出できる当該ジャイロセンサ20の異常有無判定が±6°/s以上となる場合を想定する。なお、図2において、符号S1cは、初期角速度(図2の符号S1a)に対する耐久変動分を示し、符号S1dは、ECU10での異常判定閾値を示す。
【0039】
この場合、本来はセンサの特性保証で特性が±4°/sであるのに対し、経年変化等によりある温度範囲において初期角速度が+4°/sに変動するとき、ECU10出荷後の市場では耐久変動分+2°/sを加算した+6°/sとなり、+4〜+6°/sの範囲ではECU10でもセンサ特性変動を検出できないために、検出精度の悪い状態で横滑り防止機能が運用されることになる。
【0040】
そこで、本実施形態に係るジャイロセンサ20では、予め測定された各初期角速度検出値(各初期検出値)がメモリ22に記憶され、後述する特性変化検査用情報出力処理を実行することにより、現検出値とこの検出値の検出条件に対応する初期角速度検出値とを、特性変化検査用情報として、入出力インタフェース25を介して出力可能に構成されている。
【0041】
なお、メモリ22に記憶される各初期角速度検出値(各初期検出値)は、その検出時の温度とともに予め複数点記憶され、特定の温度に対応する初期角速度検出値を抽出する場合には、当該特定の温度に近似する温度の初期角速度検出値から推定される値を、初期角速度検出値として抽出してもよい。また、各初期角速度検出値(各初期検出値)に代えて、各温度点とその温度に対応する初期角速度検出値との関係に基づく近似式が予め記憶され、この近似式と上記特定の温度とに基づいて初期角速度検出値を演算して抽出してもよい。
【0042】
このため、ジャイロセンサ20の特性変化を検査するための検査装置30がユーザインタフェース12に接続されている場合、検査装置30は、ユーザインタフェース12等を介して取得される特性変化検査用情報に基づいて、ジャイロセンサ20の検出値に関する経年変化の影響を認識することができる。また、ECU10では、後工程における検出値の変動の有無にかかわらず、出荷後のセンサ特性変動が2°/sを超えると検出されるため、少なくとも4°/s以下の特性保証をすることができる。なお、例えば、メモリ22に記憶される各初期角速度検出値は、±4°/sの範囲であって、分解能は、0.125°/s/LSBである。
【0043】
以下、ジャイロセンサ20の制御部21において実施される特性変化検査用情報出力処理について、図3のフローチャートを用いて説明する。図3は、ジャイロセンサ20の制御部21により実施される特性変化検査用情報出力処理の流れを例示するフローチャートである。
【0044】
まず、図3のステップS101において、検査装置30により特性変化検査用情報を出力させるための出力指示信号が制御部21に入力されたか否かについて判定され、上記出力指示信号が入出力インタフェース25を介して制御部21に入力されない場合には、ステップS101にてNoと判定される。この場合には、角速度検出部23から入力される角速度信号に基づいて現時点における角速度が検出されて、この角速度に加えて当該センサ装置の有効/無効を示すフラグやパリティ信号等が、入出力インタフェース25を介して制御部11に出力される。制御部11は、ジャイロセンサ20から入力される角速度等の情報に基づいて、搭載される自動車の横滑りを防止するための制御を実施する。
【0045】
上記ステップS101にてNoとの繰り返し判定中に、検査装置30の要求に応じて上記出力指示信号が入出力インタフェース25を介して制御部21に入力されると、ステップS101にてYesと判定される。次に、ステップS103にて温度測定処理がなされ、温度検出部24から入力される温度信号に基づいて現時点における温度が検出される。
【0046】
続いて、ステップS105において、特性変化検査用情報設定処理がなされる。この処理では、検出値に関する経年変化の影響を認識するための情報が特性変化検査用情報として設定される。具体的には、角速度検出部23から入力される角速度信号に基づいて検出される現時点での現角速度検出値と、現時点における温度と、この温度に基づいてメモリ22から抽出された初期角速度検出値とが、特性変化検査用情報として設定される。
【0047】
例えば、現時点における温度が10℃であれば、図2の符号Pにて示すように、初期角速度検出値が1.5°/sとしてメモリ22から抽出される。なお、検査装置30から上記出力指示信号が入力される状態では、搭載された自動車が静止等しており検出されるべき角速度が0°/sとなる状態である。また、上述のように設定される特性変化検査用情報には、パリティ信号のような一般的な情報が含まれてもよい。
【0048】
上述のように特性変化検査用情報が設定されると、ステップS107において、出力処理がなされる。この処理では、ステップS105にて設定された特性変化検査用情報が入出力インタフェース25等を介して検査装置30に出力される。特性変化検査用情報、すなわち同等の検出条件での初期角速度検出値および現角速度検出値を取得した検査装置30は、これら両検出値を比較することで、当該ジャイロセンサ20の検出値が経年変化等の影響を受けているか検査することができる。また、当該ジャイロセンサ20の異常検出状態を事前に検知して検出精度の低下を抑制することができる。
【0049】
以上説明したように、本実施形態に係るジャイロセンサ20では、メモリ22には、装置の製造時に各検出条件に応じて角速度検出部23により検出され得る初期検出値が予め記憶される。そして、上記特性変化検査用情報設定処理を実行する制御部21により、角速度検出部23により検出される現角速度検出値とこの検出値の検出条件に対応する初期角速度検出値とが入出力インタフェース25を介して検査装置30に出力される。
【0050】
このように、初期検出値と現検出値との両検出値が出力されるため、検査装置30では、これらの比較に応じて検出値に関する経年変化の影響を容易に認識することができる。特に、ジャイロセンサ20自身で初期検出値を出力可能に記憶するため、当該ジャイロセンサ20を組み込んだECU10が上記初期検出値を記憶する必要がないので、初期検出値を取得するための検査やトレーサビリティの確保も不要となる。
したがって、検出値に関する経年変化の影響が容易に認識されて、当該ジャイロセンサ20の異常検出状態を事前に検知して検出精度の低下を抑制することができる。
【0051】
また、本実施形態に係るジャイロセンサ20では、検査装置30からの要求に応じて、角速度検出部23により検出される検出値とこの検出値の検出条件に対応する初期検出値とが、制御部21により入出力インタフェース25を介して上記検査装置30に出力される。
これにより、検査装置30は、所望のタイミングで、初期検出値および現検出値を取得して、ジャイロセンサ20の検出値に関する経年変化の影響を容易に認識することができる。
【0052】
なお、特性変化検査用情報出力処理では、ステップS101における判定処理を廃止して、検査装置30からの出力指示の有無にかかわらず、ステップS105にて設定された特性変化検査用情報を定期的に出力するように構成されてもよい。また、特性変化検査用情報には、初期角速度検出値に代えて、初期角速度検出値を求めるための情報、例えば、初期角速度検出値と温度とが関連付けられた情報などが含まれてもよい。
【0053】
図4は、ジャイロセンサ20の検出値に関する経年変化の影響を感度誤差を用いて説明するための説明図である。
上記実施形態の第1変形例として、ステップS105において、特性変化検査用情報として、感度誤差が含まれるように設定されてもよい。
【0054】
具体的には、使用可能な温度範囲において、出荷時に角速度検出部23の可動部を所定の静電容量に応じてオフセットさせ、このときの値を、図4に例示するように、各温度に応じて初期感度誤差として予めメモリ22に記憶する。そして、現時点においてオフセットさせたときの現感度誤差と、同等の検出条件での上記初期感度誤差とを比較することで、ジャイロセンサ20の検出値に関する経年変化の影響を認識することができる。
【0055】
ここで、感度誤差を数値を用いて説明すると、感度誤差が0であるときの検出値が「2048」であり、角速度検出部23の可動部が「409」分だけ変化するようにオフセットさせた場合に、感度誤差が0であれば「2057」が検出されるところが、感度誤差が生じているため「2400」が検出されると、検出誤差は、(2400−2457)/409を演算した値にて表すことができる。
【0056】
例えば、図4に例示するように、使用可能な温度範囲において、ジャイロセンサ20の感度誤差の許容範囲が±3°/sの仕様である場合(図4の符号S2oにて示す)、出荷時のジャイロセンサ20の初期感度誤差(初期特性)が、図4の符号S2aにて示す曲線のように当該許容範囲内にあるものが良品として後工程に出荷される。そして、上記経年変化等に起因して現感度誤差が変化する場合に、図4の符号S2bにて示す曲線のように、この変化が大きくなり少なくとも一部の温度領域において、現感度誤差が所定の許容範囲から外れると、この許容範囲外である状態を、上記特性変化検査用情報出力処理により得られる特性変化検査用情報に基づいて認識することができる。なお、図4において、符号S2cは、初期感度誤差(図4の符号S2a)に対する耐久変動分を示し、符号S2dは、ECU10での異常判定閾値を示す。
【0057】
上記実施形態の第2変形例として、上記ステップS105における特性変化検査用情報設定処理において、現角速度検出値とこの現角速度検出値の検出条件に対応する初期角速度検出値との差を特性変化検査用情報として設定し、この差を入出力インタフェース25を介して出力するようにしてもよい。
このように、同等の検出条件での初期角速度検出値および現角速度検出値の差が出力される場合でも、この差に応じて、ジャイロセンサ20の検出値に関する経年変化の影響を容易に認識することができる。
【0058】
特に、検査装置30からの要求に応じて、現角速度検出値とこの現角速度検出値の検出条件に対応する初期角速度検出値との差が、入出力インタフェース25を介して検査装置30に出力されるので、検査装置30は、所望のタイミングで、同等の検出条件での初期角速度検出値および現角速度検出値の差を取得して、ジャイロセンサ20の検出値に関する経年変化の影響を容易に認識することができる。
【0059】
なお、上記第2変形例においても、特性変化検査用情報出力処理では、ステップS101における判定処理を廃止して、検査装置30からの出力指示の有無にかかわらず、ステップS105にて設定された特性変化検査用情報を定期的に出力するように構成されてもよい。
【0060】
上記実施形態の第3変形例として、上記ステップS105における特性変化検査用情報設定処理において、現角速度検出値と初期角速度検出値とを比較することで当該ジャイロセンサ20の角速度検出部23が許容される検出精度の検出状態であるか否かについて判定し、この判定結果が特性変化検査用情報として設定されてもよい。
このように、角速度検出部23が許容される検出精度の検出状態であるか否かについての判定結果が出力される場合でも、この判定結果に応じて検出値に関する経年変化の影響を容易に認識することができる。なお、第3変形例における制御部21は、特許請求の範囲に記載の「判定手段」の一例に相当し得る。
【0061】
特に、検査装置30からの要求に応じて、上記判定結果が、入出力インタフェース25を介して検査装置30に出力されるので、検査装置30は、所望のタイミングで、上記判定結果を取得して、ジャイロセンサ20の検出値に関する経年変化の影響を容易に認識することができる。
【0062】
なお、上記第3変形例においても、特性変化検査用情報出力処理では、ステップS101における判定処理を廃止して、検査装置30からの出力指示の有無にかかわらず、ステップS105にて設定された特性変化検査用情報を定期的に出力するように構成されてもよい。
【0063】
上記実施形態の第4変形例として、上記ステップS105における特性変化検査用情報設定処理において、現角速度検出値、初期角速度検出値および温度に加えて、メモリ22に予め記憶される他のセンサ装置と識別するためのシリアル番号等の識別情報が含まれるように、特性変化検査用情報が設定されてもよい。
このように、上記両検出値に加えて上記識別情報が出力されるので、ジャイロセンサ20の検出値に関する経年変化の影響を容易に認識するとともに、当該ジャイロセンサ20に関するトレーサビリティを容易に確保することができる。
【0064】
なお、上記第4変形例においても、特性変化検査用情報出力処理では、ステップS101における判定処理を廃止して、検査装置30からの出力指示の有無にかかわらず、ステップS105にて設定された特性変化検査用情報を定期的に出力するように構成されてもよい。
【0065】
なお、本発明は上記実施形態および変形例に限定されるものではなく、以下のように具体化してもよい。
(1)本発明に係る構成は、ジャイロセンサ20に限らず、例えば、圧力や流量などの物理量を検出するセンサ装置に採用されてもよい。
また、本発明に係るジャイロセンサ20等のセンサ装置は、搭載される自動車の横滑りを防止するための制御を実施するECU10に組み込まれることに限らず、当該センサ装置からの検出値に応じて所定の制御を実施する電子装置に組み込まれてもよい。特に、高い検出精度や低コストが要求される自動車用の電子装置に組み込まれることにより、初期検出値を取得するための検査やトレーサビリティの確保が不要となることから低コストであって、センサ装置の検出値に関する経年変化の影響が容易に認識されて、当該センサ装置の異常検出状態を事前に検知して検出精度の低下を抑制することができる。
【0066】
(2)ジャイロセンサ20は、入出力インタフェース25に代えて、入力用のインタフェースおよび出力用のインタフェースを設けてもよい。この場合、出力指示信号は、入力用のインタフェースを介して制御部21に入力され、ステップS105にて設定される特性変化検査用情報は、出力用のインタフェースを介して出力される。また、出力用のインタフェースは、通常のセンサ検出値が出力されるインタフェースと特性変化検査用情報が出力されるインタフェースとを有するように構成されてもよいし、1つのインタフェースの切り替えにより、通常のセンサ検出値と特性変化検査用情報とのいずれかを出力するように構成されてもよい。
【符号の説明】
【0067】
10…ECU
11…制御部
20…ジャイロセンサ(センサ装置)
21…制御部(制御手段,判定手段)
22…メモリ(記憶手段)
23…角速度検出部(検出手段)
24…温度検出部
25…入出力インタフェース(出力手段)
30…検査装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
物理量を検出する検出手段と、この検出手段により検出された検出値を含めた情報を出力可能な出力手段とを備えるセンサ装置であって、
当該装置の製造時に各検出条件に応じて前記検出手段により検出され得る初期検出値が予め記憶される記憶手段と、
前記検出手段により検出される検出値とこの検出値の検出条件に対応する前記初期検出値とを前記出力手段を介して出力する制御手段と、
を備えることを特徴とするセンサ装置。
【請求項2】
前記制御手段は、検査装置からの要求に応じて、前記検出手段により検出される検出値とこの検出値の検出条件に対応する前記初期検出値とを、前記出力手段を介して前記検査装置に出力することを特徴とする請求項1に記載のセンサ装置。
【請求項3】
前記制御手段は、前記検出手段により検出される検出値とこの検出値の検出条件に対応する前記初期検出値との差を、前記出力手段を介して出力することを特徴とする請求項1に記載のセンサ装置。
【請求項4】
前記制御手段は、検査装置からの要求に応じて、前記検出手段により検出される検出値とこの検出値の検出条件に対応する前記初期検出値との差を、前記出力手段を介して前記検査装置に出力することを特徴とする請求項3に記載のセンサ装置。
【請求項5】
前記検出手段により検出される検出値とこの検出値の検出条件に対応する前記初期検出値とに基づいて、当該検出手段が許容される検出精度の検出状態であるか否かについて判定する判定手段を備え、
前記制御手段は、前記判定手段による判定結果を、前記出力手段を介して出力することを特徴とする請求項1に記載のセンサ装置。
【請求項6】
前記制御手段は、検査装置からの要求に応じて、前記判定手段による判定結果を、前記出力手段を介して前記検査装置に出力することを特徴とする請求項5に記載のセンサ装置。
【請求項7】
前記記憶手段には、他のセンサ装置と識別するための識別情報が含まれ、
前記制御手段は、さらに前記識別情報を、前記出力手段を介して出力することを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載のセンサ装置。
【請求項8】
前記制御手段は、検査装置からの要求に応じて、さらに前記識別情報を、前記出力手段を介して前記検査装置に出力することを特徴とする請求項7に記載のセンサ装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2012−211872(P2012−211872A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−78528(P2011−78528)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】