説明

センシング方法及びセンシング装置

【課題】表面プラズモン共鳴、または局在表面プラズモン共鳴を用いたセンシングの精度を向上させる。
【解決手段】光源101からのコリメートされた出力光を、放物面鏡104を介してプラズモン素子105上に集光し、プラズモン素子105からの反射光を、放物面鏡104によって再びコリメートする。放物面鏡104からの、コリメートされた光を、プラズモン素子105への入射面に平行なスリット106と、スリット106に垂直な方向に分散を与える回折格子107によって処理し、2次元検出器108で検出する。2次元検出器108で検出される像では、入射面に平行な方向に、プラズモン素子105の反射光の、プラズモン素子105への入射光の波数に対する依存性が現れ、入射面に垂直な方向に周波数に対する依存性が現れ、これを、ベクトル的に解析する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、屈折率、温度などの表面状態の変化、特に、抗原抗体反応などによる表面状態の変化をモニターするために用いられるプラズモンセンサーによるセンシング方法、およびセンシング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、プラズモン共鳴の波長依存性、波数依存性(すなわち入射角依存性)、またはその両方を計測するプラズモンセンサーによって高感度な計測が行われてきた。平面表面プラズモン共鳴(SPR)の分散関係は
【0003】
【数1】

【0004】
で近似的に与えられる。ここで、ε1mはそれぞれトランスデューサー界面を形成する誘電体と金属の誘電率、λは波長である。トランスデューサー界面での入射光の波数がkspと等しくなる(位相整合)と、入射光のエネルギーはプラズモンと結合し、表面プラズモンの伝搬に伴う損失が反射光の損失として観測される。平面表面プラズモンの空間的な染み出しは、誘電体と金属の界面を形成する物質の誘電率によって決まり、可視域において数百nm以下のオーダーである。これが、トランスデューサー感度をもつ空間レンジを決める。
【0005】
一方、2次元金属周期構造でのプラズモン相互作用では、金属のユニット・セル内の境界条件によってプラズモン電磁界が局所化し、局所的表面プラズモン(LSPR)が誘起される。その位相整合条件は1次近似的に以下のように示される。
【0006】
【数2】

【0007】
ここでm,nはそれぞれ整数で、2π/Λは与えられた構造のフーリエ主成分の周波数である。LSPRの電磁界染み出しは、局在化によってSPRのそれに比べて小さくすることができ、トランスデューサーとして、より表面近傍に感度が高いセンサーを実現する手段として期待されている。
【特許文献1】特開2003-177089号公報
【非特許文献1】Review of Scientific Instruments Vol.67, pp.3039-3043 (1998)
【非特許文献2】Physical Review Letters Vol.92, 107401 (2004)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来のSPRセンサーでは、金属界面での吸着または反応によるSPRの位相整合条件変化が検出される。反射率変化ΔRは信号の強度変化ΔIを観測することで測定されるので、最小検出能は、究極的にはショットノイズで制限される。
【0009】
【数3】

【0010】
ここで、eは素電荷、Pは入射光パワー、ηは光検出器の量子効率、Δfは検出のバンド幅、hνは光子エネルギーである。すなわち、ショットノイズ限界では反射率変化の最小検出能は入射光パワーの平方根に比例する。しかし、プラズモン素子は損失がある系なので、入射光パワーを大きくすると金属吸収に由来する素子自身の温度上昇が生じる。したがって、これが原因で生じる分散曲線のシフトを、モニター対象とする反応などによるセンサーの応答と区別できるようにすることが望まれる。
【0011】
また、従来の多くのSPR/LSPRセンサーにおいては波長を固定し、入射角度を掃引していたため、測定時間を要し、また、機械的要素部品による動作精度によって、測定精度に制約が生じる。
【0012】
さらに、上述のように、従来技術の多くは、波長または角度スペクトルの一方を計測していたので、トランスデューサーから得られる情報に限界があった。すなわち、トランスデューサーの、環境的な温度変化などの外乱要素による成分を、センサー応答としての成分から分離することができなかった。
【0013】
本発明は、表面プラズモン共鳴、または局在表面プラズモン共鳴を用いた、より高精度のセンシング方法、およびセンシング装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上述の目的を達成するため、本発明のセンシング方法は、金属薄膜上または2次元金属周期構造上に試料が配置されたプラズモン素子における表面プラズモン共鳴、または局在表面プラズモン共鳴を用いるセンサシング方法において、プラズモン素子の反射率または透過率の、プラズモン素子への入射光の波数と波長に対する依存性の変化を測定する工程と、波数と波長に対する依存性の変化を、波数に対する依存性に関する量と、波長に対する依存性に関する量とを成分とするベクトルによって表されるシフトとして解析する工程と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、波数に対する依存性に関する量と、波長に対する依存性に関する量とを成分とするベクトルを用いた解析によって、モニター対象とする反応などによるセンサーの応答と、外乱による応答とを区別することができる。それによって、高精度のセンシングが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
図1と図2(非特許文献2より)はそれぞれ(1)式と(2)式に対応するSPRとLSPRの分散(波長と波数の)関係を示している。暗部で示される部分では入射光とプラズモンが位相整合しやすい波長と波数の関係となっており、分散曲線を反映している。SPRの位相整合条件は波長と波数が反比例する関係になっているが、LSPRの位相整合条件は周期構造を有するためブリルアン・ゾーン内で規定される。重要なことはLSPRの分散曲線はSPRのそれに比して複雑でかつ複数のモードが存在することである。また、この分散曲線は周期構造構成要素の個々の形状に強く依存する。
【0017】
金属薄膜上(SPR)または2次元金属周期構造上(LSPR)に試料が配置されたプラズモン素子において、実際のモニター対象とする反応による試料の変化(表面状態の変化)は局所的に生じる。金属構造界面において、ある物質が吸着することを考える。その屈折率と厚みの変化量をそれぞれΔd,Δlとすると、実効的な変化量Δsは
【0018】
【数4】

【0019】
とかける。固定された測定条件下で反射率の変化ΔRは、プラズモン素子への入射光の入射角をθ、波長をλとして、
【0020】
【数5】

【0021】
で与えられる。センサーの感度を上げるためには、反射率Rに対する変微分項を最大化するθ1/2とλ1/2に注目し、反射率の変化率Aが最大化されるように観測するのが望ましい。それによって、最高性能でセンシングを行うことが可能となる。一般に用いられるSPRセンサーは上記平方根内第1項か第2項のみしか用いていない(図1,2の1成分への射影)。また特許文献1および非特許文献1で開示される技術ではθとλに対する反射率の依存性を測定できるが、上式の解釈に注目してセンシングを行う手法は開示されていない。(5)式から、センサー応答ベクトルを以下のように定義する。
【0022】
【数6】

【0023】
ここで、センサー応答ベクトルpは任意の外乱応答ベクトルqと異なることを示しておく。例として、素子自身の温度の変化が生じ、それによって外乱が生じたと仮定する。この場合の外乱応答ベクトルは金属の屈折率と吸収の温度変化と依存するが、これらは誘電率変化と置き換えることができ、それによって生じる反射率変化は
【0024】
【数7】

【0025】
となる。これによって生じるバンドイメージの変化は
【0026】
【数8】

【0027】
となる。これは一般にベクトルpとは方向が異なるので、温度変化とセンサー応答は区別できることになる。当然のことながら、この効果は金属のプラズマ周波数に近い波長であるほど大きい。センサー応答ベクトルpが大きい領域と外乱応答ベクトルqが大きい領域が同じイメージ内に収まるように測定すれば、外乱の効果を見分けやすい。ここで外乱要素は温度変化として例証したが、外乱要素が複数含まれていても、イメージの変化はそれらの線形和として反映される。外乱の起源が明確にわかっているときは、新たな外乱要素ベクトルを定義してそのベクトル要素を抽出することも可能である。
【0028】
なお、本実施形態では、プラズモン素子の反射率Rに着目して説明するが、透過率に着目してもほぼ同様の議論が成立する。
【0029】
(実施例1)
本実施形態のセンシング方法においては、波長と角度の機械的掃引機構を無くした装置でプラズモンバンドイメージを測定し、そのバンドイメージのベクトル的なシフトに対して解析を行う。測定に対しては、直入射と斜入射で以下の方法が考えられる。ただし、LSPRセンサーの場合はブリルアン・ゾーン内を調べればよいことを考えると、高NAの入射光を用いて直入射でも十分と考えられるが、バンド端でのセンサー応答の感度がよく、その情報をクローズアップしたい場合、斜入射も考えられる。
【0030】
図3,4は、本実施形態のセンシング方法を実行するセンシング装置の例を示している。
【0031】
直入射の場合、図3で示すように、コリメートされた光を出力する光源100からの出力光をポラライザー(または波長板:光源の性質による)102で応答のよい偏光軸に調整し、ハーフミラー103を通した後、放物面鏡104を用いてプラズモン素子105上に集光する。プラズモン素子105からの反射光は放物面鏡104で再びコリメートされ、その、ハーフミラー103によって反射された成分がプラズモン素子105への入射面に平行なスリット106を通される。そして、スリット106と垂直な方向に分散を与える回折格子107を介して生成された像を2次元検出器108で検出する。
【0032】
斜入射の場合、図4で示すように点光源201からの出力光をポラライザー(または波長板:光源の性質による)202を通した後、プラズモン素子204上に楕円面鏡203を用いて集光し再結像する。その反射光を放物面鏡205でコリメートし、プラズモン素子の入射面に平行なスリット206と、それに垂直な方向に分散を与える回折格子207を介することで生成される像を2次元検出器208で検出する。
【0033】
これらのセンシング装置によって、プラズモン素子104,204への入射面に平行な方向に入射角に対する依存性(したがって波数kに対する依存性)、反射面と入射面に垂直な方向に波長λに対する依存性をマッピングしている(図5参照)。すなわち、2次元検出器208によって検出される像において、プラズモン素子104,204への入射面に平行な方向に、入射角を変化させた時の反射光の変化が現れ、入射面に垂直な方向に、波長を変化させた時の反射光の変化が現れる。したがって、機械的な稼動部分を用いることなく、得られる2次元像の解析によって、入射角、すなわち波数に対する依存性と、波長に対する依存性を一括して求めることができる。すなわち、プラズモン素子のバンドイメージを高速に計測でき、また、機械的な稼動部分の動作精度が測定精度に影響することがなくなる。
【0034】
ここで重要な点をまとめる。
a)角度走査することなしに一括計測するために点光源像を、必要な偏光に調整してプラズモン素子に再結像させ、プラズモン素子からの反射光をコリメートして、入射面に平行な方向に入射角に対する依存性が現れるようにする。
b)コリメートされた反射光に対して入射面に平行なスリットと、グルーブが入射面に平行になるように配置された回折格子によって入射面と垂直な方向に角度分散を与え、2次元検出器上に結像させる。
【0035】
図3,4では機能を明確化するために、簡略図を示したが、それぞれの機能をより高機能化するために様々な付加的な機能をつけることができる。例えば、光源はハロゲンランプベースファイバ光源でもよいし、素子の余剰加熱を抑えるためにスーパーコンティニュウム光源でもよい。しかし、後者の場合は楕円面鏡のかわりにコリメートされた光を放物面鏡で絞ってもかまわない。特許文献1では角度の一括測定にレンズ系を指定しているが、ここでは広い波長範囲のバンドイメージを取得することも考慮し、反射光学系を利用している。しかし、バンドイメージの波長レンジが狭ければレンズ系でもかまわない。スリットに関しては、プラズモン素子からの反射光がイメージング分光器の入射スリットに結像されているだけでもよい。また、バンドイメージのある特定の場所を高分解能でクローズアップしたければ、波長分散方向をコリメートする光学素子を入れてから拡大光学系を挿入してもよい(例えば、図3,4のレンズ系109,209)。LSPRにおいては、バンド中心やバンド端では群速度が実効的に遅くなるので、より大きな相互作用を得ることができる。すなわち素子のデザインによってはセンサー感度が高いところがバンド端にあり、斜入射光学系が有効になる場合も考えられる。
【0036】
次に上述の装置を用いて得られたバンドイメージの解析を行う。第一の手順は、波数と波長とを成分とする2次元空間における高感度領域の同定を行うことである。次に、第二の手順として、同定された高感度領域に注目してセンサー応答を判別する。単純に高感度領域における画像の輝度の総和をセンサー応答とすることもできるが、各イメージ要素に対して所定の条件を課し、それに従って画像プロセシングを行い、センサー応答ベクトルpや外乱ベクトルqを抽出することも可能である。以下にいくつかの例を示す。
【0037】
(高感度位置の同定)
まずセンサー応答が無い状態において、参照イメージRij(i=1〜M,j=1〜N)を測定する。このイメージ対して、k,λに対してそれぞれ偏微分を行っておく(Dkij, Dλij;図6参照)。次にあるiに対する、参照イメージRijとセンサー応答イメージFijのスライスイメージに対してそれぞれの極値を評価し、k方向のシフト量を求めることで、N個のシフトベクトルSkjができる(図7参照)。同様の操作をあるjに対して行うとλ方向へのM個のシフトベクトルSλiが求まる。シフト量の計算には偏微分イメージの極値を用いてもよい。シフトベクトルの分布が顕著に変わることで、センサー応答が非線形であるか、または別の要因が含まれているかを判断することができることが重要である。k方向シフトベクトルと同一の列要素をもつk方向シフトマトリクス(Skij)、λ方向シフトベクトルと同一の行要素をもつλ方向シフトマトリクス(Sλij)を定義し、以下のイメージを作る。
【0038】
【数9】

【0039】
これはシフトが一様に生じたという仮定のもとでの(5)式に対応している。すなわち、Pijが最大化される領域が(5)式のAが最大化される領域に対応し、高感度な領域を与える。図8は(7)式によって生成されたイメージである。この場合、1μm付近の波長でPijが最大値をとっており、センサー応答が相対的に高感度になっていることがわかる。(7)式において、偏微分イメージDijの変わりに、参照イメージとセンサー応答イメージの差分イメージ(Gij=Rij-Fij)を用いると、これには全微分情報しか含まれていないため、直接(5)式には対応しない。
【0040】
ところで、より簡便な処理方法としてGijを用いて高感度領域の同定を行うことを考えると、近似的に
【0041】
【数10】

【0042】
として高感度な領域を同定してもよい。この操作によって得られるイメージの例を図9に示す。この場合Pijが最大値をとっている波長は900nm付近である。ただし、この場合では、全微分項と変微分項が独立でないので、直交要素の掛け算がなされる結果として感度が擬似的に増強される部位が発生する可能性がある。k,λどちらかへのシフトが非常に少ない場合でも、その方向へのプロファイルがシャープでさえあれば、高感度部位となってしまうからである。
【0043】
本論に戻ると、高感度領域が同定された上で、Pijが最大値をとる点での差分強度をセンサー応答の指標としてもよい。あるいは、ある範囲(i,j: Pij>Pc:const)を定義して、その範囲でのGijを積分したものを、絶対的な応答として算出してもよい。後者の場合、要素数の平方根に反比例してノイズの効果を低減できる。
【0044】
(要素抽出を行った後でのセンサー応答判別)
線形演算での射影として捕らえられる範囲では、抽出される分散曲線(ピーク点から形成される稜線)に対して、多項式近似を行い、その射影ベクトルの大きさを取ることもできる。例えば参照イメージとセンサー応答イメージから抽出される分散曲線がそれぞれ、
【0045】
【数11】

【0046】
と近似できたとき、
【0047】
【数12】

【0048】
としてセンサー応答ベクトルを定義し、そのノルム
【0049】
【数13】

【0050】
をセンサー応答として用いることもできる。このベクトルからはずれるセンサー応答には、外乱が含まれている可能性を判別することができる。この場合、(9)式の近似にN個のデータ点を用いれば√N倍ノイズを減らすことができ、多数のサンプル点に対して適用することで、高感度化を図れる。(9)式の近似には、前述の高感度領域範囲外のデータ点を用いることもできる。これを同様に偏微分イメージに応用すると、擬似的に1つのモードに対して複数の分散曲線が定義できるので、さらなるノイズ低減をすることができる。
【0051】
(差分のピーク曲線からベクトルエレメント抽出と分解)
上記のセンサー応答判別では、センサー応答ベクトルの複数要素を線形独立なものに分離しているがその構成要素の同定はしていない。以下ではより一般的な解析手法として、差分イメージから直交要素を抽出することを考える。これにはセンサー応答に対する単位ベクトル(要素は整数からなる)
【0052】
【数14】

【0053】
と、外乱応答に対する単位ベクトル
【0054】
【数15】

【0055】
が含まれていると仮定すると、差分イメージの成分は摂動に対する全微分であると考えられるので、
【0056】
【数16】

【0057】
となる。サンプル濃度を例えばa倍にして同様の差分イメージをとると、
【0058】
【数17】

【0059】
が得られる。外乱要素として例えば温度を変化させておいてから同様に差分イメージをとると、
【0060】
【数18】

【0061】
を得る。上述のΔS1,ΔS2より
【0062】
【数19】

【0063】
となるので、dkr,dkp,dλr,dλp12T1212の11個の変数を含む代数方程式に帰着できる。ここで知りたい分散曲面上の変数パラメータはdkr,dkp,dλr,dλpの4つだけなので、分散曲線(差分イメージの極値によって形成される曲線)に沿った(kil)(l=1...N)に対してその近傍から4N+7点を選べばよいことになる。LSPRの場合は、一番感度のよい(センサー応答ベクトルpのノルムが大きい)モードの分散曲線に着目してもよいし、n個のモードに対して上式を適用してもよいが、バンドイメージの分解能、信号のSNRに応じて適宜範囲を選ぶべきである。aの値をいくつか変えて、検量線マップを予め作っておくと、分散曲線の位置とベクトルの向きを同時に一致させるようにフィッティングできるため、センサー応答ベクトルpが濃度に対して非線形であっても対応できる。フィッティングは各ピクセルに対する線形和
【0064】
【数20】

【0065】
を定義し、センサー応答イメージと参照イメージの差分(図10)に対してfをフィッティングさせる(図11参照)。なお、図10は、差分イメージの例であり、左が純粋なセンサー応答、右が金属の誘電率変化に伴う応答である。図10を参照すると、局所的な最大(白)と最小(黒)があるのが分かり、また、金属の誘電率変化に伴う応答では、変化が短波長側に偏っている。
【0066】
フィッティングエラーの最小となるセンサー応答ベクトルpと外乱応答ベクトルqのペアを選択し、それに対するX1をセンサー応答とする。フィッティングエラーがある所定の標準偏差内に収まっていなければエラーとしてもう一度測定することもできる。さらに、外乱ベクトルに比べてセンサー応答ベクトルpが小さい場合であっても、外乱応答ベクトルqの時間変化がk-l面上で等方的であるときは、M回の測定をした後に観測ベクトルの時系列に対して総和をとってもよい。それによって、外乱応答ベクトルqがキャンセルされセンサー応答ベクトルpのみが残ることを利用して、センサー応答を抽出することもできる。
【0067】
以上の説明ではイメージにセンサー応答ベクトルpと外乱応答ベクトルqが一要素ずつ含まれているという仮定を用いた。しかし、例えば複数の外乱要素が含まれているといったように、上述以外の様々な仮定を用いても、バンドイメージを処理することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】平面表面プラズモンのバンド構造を反映した波長、波数依存の反射率の例(縦軸:波長λ、横軸:波数k)。
【図2】局在平面表面プラズモンのバンド構造を反映した波長、波数依存の反射率の例。
【図3】直入射の場合の一例のセンシング装置を示す模式図。
【図4】斜入射の場合の一例のセンシング装置を示す模式図。
【図5】スリット直前と2次元検出器面上での概念的なイメージ。
【図6】k方向とλ方向の変微分イメージ(縦軸:波長λ、横軸:波数k)。
【図7】シフトベクトル抽出の概念図。
【図8】(6)式によって生成されたイメージ(縦軸:波長λ、横軸:波数k)。
【図9】(7)式による処理によって生成されたイメージ(縦軸:波長λ、横軸:波数k)。
【図10】差分イメージの例。
【図11】差分イメージの各ピクセルに対応するベクトル関数和表現。
【符号の説明】
【0069】
101 光源
102 ポラライザー(または波長板)
103 ハーフミラー
104 放物面鏡
105 プラズモン素子
106 スリット
107 回折格子
108 2次元検出器
201 点光源
202 ポラライザー(または波長板)
203 楕円面鏡
204 プラズモン素子
205 放物面鏡
206 スリット
207 回折格子
208 2次元検出器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属薄膜上または2次元金属周期構造上に試料が配置されたプラズモン素子における表面プラズモン共鳴、または局在表面プラズモン共鳴を用いるセンシング方法において、
前記プラズモン素子の反射率または透過率の、前記プラズモン素子への入射光の波数と波長に対する依存性の変化を測定する工程と、
前記波数と波長に対する依存性の変化を、波数に対する依存性に関する量と、波長に対する依存性に関する量とを成分とするベクトルによって表されるシフトとして解析する工程と、
を有することを特徴とするセンシング方法。
【請求項2】
波数と波長とを成分とする2次元空間で、前記波数と波長に対する依存性が変化する時の、前記プラズモン素子の反射率または透過率の変化率が最大となった領域を求め、その領域で前記ベクトルのシフトの解析を行う、請求項1に記載のセンシング方法。
【請求項3】
前記表面プラズモン共鳴、または前記局在表面プラズモン共鳴の複数のピーク点のシフトを同時に計測する、請求項1または2に記載のセンシング方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載のセンシング方法を実行するセンシング装置であって、
コリメートされた光を出力する光源と、
前記光源からの出力光が通されるポラライザーまたは波長板と、
前記ポラライザーまたは波長板を通った光を前記プラズモン素子の上に集光し、該プラズモン素子からの反射光を再びコリメートする放物面鏡と、
前記ポラライザーまたは波長板と、前記放物面鏡との間に配置されたハーフミラーと、
前記放物面鏡でコリメートされ前記ハーフミラーで反射された光が通される、前記プラズモン素子の入射面に平行なスリットと、
前記スリットを通された光に対して、前記スリットに垂直な方向に分散を与える回折格子と、
前記回折格子からの光を検出する2次元検出器と、
を有するセンシング装置。
【請求項5】
請求項1から3のいずれか1項に記載のセンシング方法を実行するセンシング装置であって、
点光源と、
前記点光源からの出力光が通されるポラライザーまたは波長板と、
前記ポラライザーまたは波長板を通った光を前記プラズモン素子の上に集光する楕円面鏡と、
前記プラズモン素子からの反射光をコリメートする放物面鏡と、
前記放物面鏡でコリメートされた光が通される、前記プラズモン素子の入射面に平行なスリットと、
前記スリットを通された光に対して、前記スリットに垂直な方向に分散を与える回折格子と、
前記回折格子からの光を検出する2次元検出器と、
を有するセンシング装置。

【図3】
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【図4】
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【図7】
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【図11】
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【図1】
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【図2】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−19893(P2009−19893A)
【公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−180801(P2007−180801)
【出願日】平成19年7月10日(2007.7.10)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】