説明

センシング装置

【課題】金属微小構造体と光との共鳴現象を利用してセンシング装置において、より高感度なセンシングが可能なセンシング装置を提供する。
【解決手段】 センシング装置1は、金属微小構造体23と光L3との共鳴現象を利用したセンシング装置であって、金属微小構造体23を有するセンサ領域22を表面21b上に一つ又は複数有しており、センサ領域を照明する照明光L3を内部で導光可能な測定チップ20と、照明光L3となる光L2を出力する光源部10と、センサ領域における金属微小構造体によって照明光が散乱された散乱光L4を検出する受光装置42とを備え、測定チップは、表面の側方に位置している側面21aを有し、光源部からの光は側面から測定チップ内に入射される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、センシング装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属微粒子と光との共鳴現象の一つであるプラズモン共鳴を利用して金属微粒子周囲の屈折率変化を測定するセンサーが開発されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
ここで、特許文献1のように、プラズモン共鳴を利用して金属微粒子周囲の屈折率変化を検出可能な原理について説明する。金ナノ粒子や銀ナノ粒子等の金属微粒子に光を照射すると、所定の共鳴波長において共鳴現象の一つであるプラズモン共鳴が生じる。その結果、光が照射された金属微粒子による散乱や吸収が増大するため、金属微粒子と相互作用した光を検出した際に、そのスペクトルに共鳴ピークが現出する。この共鳴ピークを生じせしめる共鳴波長は、金属微粒子周囲の屈折率に依存しているため、共鳴ピークのシフトを検出することで、金属微粒子周囲の屈折率変化を検出できることになる。
【0004】
上記特許文献1に記載の局在表面プラズモン共鳴センサーでは、ガラス基板の表面上に金属微粒子としての金ナノ粒子が複数固定されて構成されており、ガラス基板の裏面側から光を照射し、その透過光を検出することによって共鳴ピークを取得する。そして、共鳴ピークの変化から金属微粒子周囲の屈折率変化を検出している。
【0005】
このようなセンサーは、例えば、次のようにしてDNAやタンパク質等の被検体を検出するセンサーとして利用される。すなわち、金属微粒子に被検体と特異的に結合するプローブ分子を固定しておき、試料液を送液すると、試料液に被検体が含まれていれば、プローブ分子に結合した被検体の影響で金属微粒子近傍の屈折率が変化して共鳴波長がシフトする。そのため、試料液の送液前後での共鳴ピークの変化を検出すれば、被検体を検出できることになり、DNAやタンパク質等の被検体を検出するセンサーとして利用できることになる。
【0006】
特許文献1においては局在表面プラズモン共鳴による入射光の減衰を測定する測定手法を採用しているが、この光の減衰成分は吸収による寄与と散乱による寄与に分けて考えることができる(非特許文献1参照)。
【0007】
よって、局在表面プラズモン共鳴を利用する場合、金属微粒子周囲の屈折率に依存して、局在表面プラズモン共鳴によて金微粒子の散乱スペクトルにも共鳴ピークが生じると考えられる。非特許文献2には、このような散乱スペクトルの共鳴ピークを利用した測定手法が開示されている。
【特許文献1】特許第3452837号公報
【非特許文献1】Craig F. Bohren, Donald R. Huffman, “Absorption and Light Scatteringof Light by Small Particles,” Wiley-VCH, 1983, Chapter 4, “Absorption andScattering by Sphere.”
【非特許文献2】阿部将之、藤原一彦、加藤勝、赤上陽一、小川信明、「ガラス基板へ固定化した金ナノ粒子の局在表面プラズモン共鳴散乱顕微分光測定」、分析化学、2007年、Vol.56、No.9、p695−703
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1及び非特許文献2においても背景光が存在することから、高感度な測定が困難であるという問題点があった。
【0009】
そこで、本発明は、金属微小構造体と光との共鳴現象を利用してセンシング装置において、より高感度なセンシングが可能なセンシング装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係るセンシング装置は、金属微小構造体と光との共鳴現象を利用したセンシング装置であって、金属微小構造体を有するセンサ領域を表面上に一つ又は複数有しており、センサ領域を照明する照明光を内部で導光可能な測定チップと、照明光となる光を出力する光源部と、センサ領域における金属微小構造体によって照明光が散乱された散乱光を検出する受光装置と、を備え、測定チップは、表面の側方に位置している側面を有し、光源部からの光は側面から測定チップ内に入射される、ことを特徴とする。
【0011】
金属微小構造体と光とは特定波長において共鳴現象を生じせしめ、この特定波長は金属微小構造体を含む測定環境の屈折率に依存している。よって、散乱光強度の変化により、金属微小構造体近傍の屈折率変化を検出できることになる。従来のように、測定チップをホルダー等に保持し、測定チップ外部から光を照射した場合には、センサ領域以外の場所からの光の散乱のため背景光が増大する。これはセンシング効率の低下につながる。これに対して、上記本発明に係るセンシング装置では、測定チップの側面から光を入射し、測定チップ内を導光させながら照明光としてセンサ領域を照明する。そして、センサ領域が有する金属微小構造体によって照明光が散乱された散乱光を受光装置で検出する。そのため、背景光が抑制されるので、より高感度のセンシングが可能である。
【0012】
上記測定チップを構成する材料としては、金属微小構造体に共鳴現象を生じせしめる波長を含む波長領域に対して透明であり、且つ、測定チップを、光を導光させる光導波路として利用可能な屈折率のものが考えられ、ガラス、石英、アクリル系樹脂、ポリカーボネート樹脂及びポリスチレン系樹脂からなる群から選ばれた一つの材料からなることが好ましい。
【0013】
上記光源部は、複数の光束の各々を上記照明光となる光として出力することが好ましい。これにより、センサ領域の照明ムラを抑制することが可能である。
【0014】
上記照明光は、600nm〜1000nmの波長領域のうちの所定の100nm以内の波長領域に狭帯化された光であることが好適である。このような波長領域の光を照明光として使用することにより、金属微小構造体と光との共鳴現象を好適に利用することができる。
【0015】
上記受光装置は、センサ領域が一つの場合は、フォトダイオード又は光電子増倍管であるとすることが有効である。また、上記受光装置は、センサ領域が複数の場合にはフォトダイオードアレイ又はCCDカメラであるとすることが有効である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によるセンシング装置によれば、より高感度なセンシングが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、図面を参照して本発明に係るセンシング装置の実施形態について説明する。以下の説明において、同一の要素には同一の符号を付すものとし、重複する説明は省略する。また、図面の寸法比率は説明のものと必ずしも一致していない。
【0018】
図1は、本発明に係るセンシング装置の一実施形態の概略構成を示す模式図である。センシング装置は、金属微小構造体と光との共鳴現象を利用してセンシングを実施するものである。
【0019】
図1に示すように、センシング装置1は、光源部10と、測定チップ20を含む測定セル30と、検出手段40と、解析装置50とを備える。
【0020】
光源部10は、白色光L1を出力する光源11と、光源11から出力された白色光L1を平行光にするためのコリメータ12と、コリメータ12を通過し平行光となった白色光を2つの光束L2,L2にするためのスリット13と、その2つの光束L2を測定チップ20の側面21aに集光入射させるためのシリンドリカルレンズ14と、600〜1000nmの波長領域から所定の100nm以下の波長領域の光を選択的に通す光学フィルタ15とを有する。ここでは、スリット13により分けられた光を明示するため光束L2としているが、以下、この光束L2を光L2とも称す。
【0021】
この構成では、光源11から出力されコリメータ12を通って平行光になった白色光L1がスリット13によって2つの光束L2,L2に分けられた後に、シリンドリカルレンズ14によって測定チップ20の側面21aに集光入射される。シリンドリカルレンズ14の後段に光学フィルタ15が設けられているため、測定チップ20の側面21aに入射される光束L2は、上記所定の100nm以下の波長領域に狭帯化された光である。測定チップ20の側面21aに入射される光束L2が、後述するように金属微小構造体23(図2(b)参照)を照明する光(照明光)L3となる。
【0022】
測定チップ20は、その表面21bに、金属微小構造体23が固定されてなるセンサ領域22(図2(a)参照)を少なくとも一つ有しており、側面21aから入射された光L2が、センサ領域22を照明するための照明光L3として測定チップ20の内部で導光可能に構成されている。この測定チップ20は測定セル30により保時されており、測定セル30には、測定セル30内に試料液Sを供給し、試料液Sと測定チップ20とを接触させるため2つの流路51,52が接続されている。流路51,52は、例えばパイプである。2つの流路51,52のうち流路51は、送液ポンプ等によって測定セル30内に試料液Sを供給するためのものであり、流路52は測定セル30内から試料液Sを排出するためのものである。
【0023】
検出手段40は、レンズアセンブリ41と受光装置42とから構成されており、レンズアセンブリ41は、センサ領域22を構成する金属微小構造体23による照明光L3の散乱光L4を受光装置42に導き、受光装置42はその散乱光L4を検出する。受光装置42としては、測定チップ20が備えるセンサ領域22が一つの場合にはフォトダイオード又は光電子増倍管が例示され、測定チップ20が備えるセンサ領域22が複数の場合には、各センサ領域22からの散乱光L4をそれぞれ検出するためにフォトダイオードアレイ又はCCDカメラのような二次元配列された受光素子が例示される。
【0024】
解析装置50は、受光装置42での検出結果を解析するためのものである。解析装置50としては、例えば、ADコンバータ等の信号処理部や、パーソナルコンピュータ等の解析部を含んで構成される。なお、解析装置50がロックインアンプを備えることも好ましい。この場合、例えば、側面21aに入射する前段で光束L2にチョッパなどで変調を加えておき、ロックインアンプなどで増幅検出を行うことで高感度なセンシングが可能となる。これは特に、センサ領域22が一つであり、受光装置42としてフォトダイオード又は光電子増倍管を使用している場合に有効である。
【0025】
次に、図2〜図4を参照して測定チップ及び測定セルの構成について詳述する。
【0026】
図2(a)は、測定チップの概略構成を示す平面図であり、図2(b)は測定チップの概略構成を示す側面図である。図2(a)及び図2(b)に示すように、ここでは測定チップ20が複数のセンサ領域22を有するものとして説明する。
【0027】
図2(a)及び図2(b)に示すように、測定チップ20は、略直方体形状の基板21の表面21b上にセンサ領域22が複数形成されて構成されている。図2(a)では、9個のセンサ領域22a〜22iが形成されている場合を示している。複数のセンサ領域22は、互いに離間している。基板21の材料は、金属微小構造体23と光との共鳴現象を生じさせる波長を含む波長領域に対して透明であり、基板21周囲の媒質と基板21との屈折率差により基板21が光導波路として機能し、基板21の側面21aから入射された光としての照明光L3を基板21内部で伝搬可能な材料であればよい。基板21の材料としては、ガラス、石英、アクリル系樹脂、ポリカーボネート樹脂及びポリスチレン系樹脂からなる群から選ばれた一つの材料とすることができる。センサ領域22は、基板21の表面21b上のセンサ領域22となるべき領域に複数の金属微小構造体23が固定されて形成されている。金属微小構造体23としては、金微粒子が例示される。なお、図2(a)では、金属微小構造体23は示していない。また、図2(b)では、説明のために金属微小構造体23を拡大して示している。他の図においても、金属微小構造体23を図示するときは同様に拡大している。
【0028】
上記測定チップ20の構成では、側面21aから光束L2が所定の条件を満たして入射されると、側面21aから入射された光束L2を、基板21内部を全反射を利用して導光可能である。センシング装置1では、側面21aから基板21内に入射され基板21内を導光している光束L2が照明光L3としてセンサ領域22を構成する金属微小構造体23を照明することになる。より詳細には、基板21内部を導光している照明光L3のうち表面21b側からしみ出した部分、いわゆるエバネッセント光が金属微小構造体23を照明することになる。そして、照明光L3が金属微小構造体23により散乱された光である散乱光L4は、基板21内を伝搬して表面21bに対向する面としての裏面21cから出射される。
【0029】
図3は、測定セルの模式図である。なお、図3は、図1において検出手段側から見た場合の図を示している。図4は、図3のIV―IV線に沿った端面図である。
【0030】
測定セル30は、支持体31、支持体32、測定チップ20及びOリング33を含んでおり、2つの支持体31,32を利用して測定チップ20及びOリング33を挟み込む構造となっている。この構成では、支持体31,32及びOリング33は、測定チップ20を保持する保持具として機能している。支持体31には、支持体31の厚さ方向に貫通しており流路51及び流路52と接続可能な流路31a及び流路31bが形成されている。また、支持体32には、センサ領域22からの散乱光L4を通すための開口32aが形成されている。
【0031】
上記支持体31,32間に測定チップ20は、センサ領域22が形成された表面21bが支持体31側を向いており、更に、光源部10からの光L2が側面21aから入射可能に側面21aが露出するように保持されている。この構成では、測定チップ20と支持体31との間にOリング33が配置されるため、測定チップ20と支持体31との間に試料液Sを導入するための空間34が形成される。よって、流路51及び流路52に接続された流路31a及び流路31bを通して試料液Sを空間34内に供給して測定し、測定終了後等に、空間34内から試料液Sを排出することが可能となっている。更に、光源部10から側面21aに集光入射される光L2が支持体31,32により遮られないように、側面21aが露出していることから、光源部10からの光L2を側面21aから測定チップ20内に確実に導入可能である。そして、支持体32に開口32aが形成されているため、基板21の裏面21cから出射される散乱光L4を確実に検出手段40に入射させることができるようになっている。
【0032】
図5は、光源部からの光の測定チップへの入射方法を説明するための図面である。図5では、一つのセンサ領域22を拡大して示している。図中の2つの一点鎖線は、それぞれ側面21a及び表面21bの法線である。
【0033】
図1を利用して説明したように、測定チップ20には、シリンドリカルレンズ14を介して2つの光束L2,L2が側面21aから集光入射される。この際、センシング装置1では、以下の式(1)及び式(2)を満たすように2つの光束L2,L2は、側面21aに入射される。
sinθ=nsinθ・・・(1)
θ≦θ=90°−θ・・・(2)
ここで、n、n、nはそれぞれ光束L2の入射側媒質(例えば、空気)、測定チップ20及びセンサ領域22が接する試料液Sの屈折率である。また、θ、θ、θは、光束L2の側面21aへの入射角、側面21aから基板21内への照明光L3の出射角、照明光L3の表面21bへの入射角である。また、θcは臨界角であり式(3)により規定される。
sinθ=n/n・・・(3)
なお、式(2)を満たすために、n>nを満たす必要がある。
【0034】
センシング装置1において、光源部10から出力された2つの光束L2,L2が式(1)及び式(2)を満たす条件で、測定チップ20の側面21aから入射すると、各光束L2,L2は、それぞれ照明光L3として測定チップ20内を全反射しながら伝搬し、センサ領域22を照明する。センサ領域22は金属微小構造体23が基板21の表面21bの所定領域に固定されて形成されたものであるため、照明光L3が金属微小構造体23により散乱される。そして、この散乱光L4が測定チップ20を構成する基板21の裏面21c側から支持体32の開口32aを通して出力され、レンズアセンブリ41で受光装置42に導かれて検出される。
【0035】
金属微小構造体23に光が入射すると、特定波長において局在表面プラズモン共鳴が生じ、金属微小構造体23による光の散乱光強度が増加することが知られており、上記特定波長は、金属微小構造体23及びその周囲の屈折率に依存する。よって、金属微小構造体23を照明光L3により照明しながら、測定セル30の空間34内に試料液Sを供給すると、試料液Sに含まれる物質等の屈折率によっては、局在表面プラズモン共鳴を示す波長が変化するため、散乱光強度が変化する、すなわち、共鳴ピークが変化する。従って、散乱光強度の変化により、試料液Sに所定の物質等が含まれるか否かを測定することができる。また、例えば、抗原抗体反応等に例示されるように、被検体と特異的に結合するプローブ分子が存在する場合には、被検体を検出することができる。すなわち、被検体と特異的に結合するプローブ分子を金属微小構造体23に結合させておいて、試料液Sを空間34に供給すると、試料液Sに被検体が含まれている場合には、被検体が金属微小構造体23に結合する。その結果、金属微小構造体23又はその周囲の屈折率が変化するため、共鳴ピークが変化する。よって、共鳴ピークの変化を検出することで、被検体を検出できる。
【0036】
センシング装置1では、測定チップ20を側面21aから光L2を入射して測定チップ20を光導波路として機能させることで、光L2を照明光L3として測定チップ20内部を導光させながらエバネッセント光を利用してセンサ領域22、すなわち、金属微小構造体23を照明している。この場合、背景光の影響を受けないので、高感度な測定が可能となる。更に、従来法のように、分光器を用いないでもよいため、簡易な構成とすることができる。また、複数の光束L2を測定チップ20に入射させているため、表面21b上に複数のセンサ領域22が設けられている場合であっても、各センサ領域22をより均一に照明することが可能であり、高感度な局在表面プラズモン共鳴センシングが可能である。更に、例えば、図2(a)に示したように、センサ領域22を表面21b上に複数設けている場合には、センサ領域22毎に、金属微小構造体23に結合させるべきプローブ分子を互いに異なるものを選択することで、一度の試料液Sの送液により複数の被検体を検出することも可能である。この場合、多検体検出を高感度に実施することができる。
【0037】
以下では、金属微小構造体23として金微粒子を採用すると共に、基板21をガラス基板とした場合の測定チップの作製方法の一例について具体的に説明する。ここでは、図2に示すように、9個のセンサ領域22a〜22iを形成するものとする。
【0038】
先ず、ガラス基板21へ、5%(v/v)3―アミノプロピルトリメトキシシラントルエン溶液を滴下し、5分間静置する。次いで、ガラス基板21をエタノールで6回、純水で3回超音波洗浄する。この操作により基板表面21bはアミノ基で覆われる。
【0039】
エチレングリコールを53.3%(v/v)とした0.47nMの金微粒子分散液を調製したのち、微量スポット装置を用いることで表面21bをアミノ基で被覆した基板21の表面21bの複数箇所へ70nLずつ滴下し、湿度を90%保った容器内で1時間静置する。この手順により、センサ領域22a〜22iとなる領域へは、粒子密度50個/μm程度となるよう、金微粒子23が配置される。
【0040】
上記金微粒子溶液は、例えばクエン酸還元法により合成したものを利用すればよく、具体的には次のようにして準備する。すなわち、約1mMテトラクロロ金(III)酸四水和物水溶液を、ホットプレート等で加熱しながら攪拌を行う。十分に沸騰してから約10mMクエン酸三ナトリウム水溶液を加えてから十分加熱攪拌し、常温まで冷却した後、0.20μmの細孔をもつメンブレンフィルターでろ過することで、金微粒子水溶液とする。
【0041】
その後、純水で洗浄し、金微粒子23が固定されたガラス基板21を、0.4mM塩酸ヒドロキシルアミン溶液と0.24mMテトラクロロ金(III)酸四水和物水溶液との混合液である粒子成長溶液に3回浸漬する。これにより、金微粒子23の粒径が60〜90nmまで増大し、散乱光測定が可能なセンサ領域22a〜22iを作成することができる。
【0042】
上記のように金微粒子23を用いてセンサ領域22a〜22iを作成する場合には、例えば特開2007−303973号公報に記載されているように、金微粒子23と相互作用しないアミノ基へブロッキング剤を作用させる等により金微粒子23の凝集を抑制することが好ましい。
【0043】
図6及び図7は、以上の手順で作成した測定チップ20の、センサ領域22a〜22i毎の散乱光スペクトルを示す図面である。各図において横軸は波長(nm)を示し、縦軸は散乱光強度(任意単位:a.u.)を示している。図6(a)〜図6(f)は、図2(a)に示したセンサ領域22a〜22fに対応する散乱スペクトルである。また、図7(a)〜図7(c)は、センサ領域22g〜22iに対応する散乱スペクトルである。ガラス基板21の寸法は、18mm×18mmとした。また、センサ領域22a〜22iは、3×3=9個とし、3mm間隔で配置している。各センサ領域22a〜22iの面積は0.125mmである。スペクトル測定は、暗視野光源及び分光器を備えた倒立顕微鏡により測定した。共鳴ピーク位置は平均で603.7±15.1nmであり、均一なセンサアレイであることが分かる。この共鳴ピークより長波長側の領域の散乱光強度を測定することで高感度にセンサ領域22a〜22iに接する試料液S又は試料液Sに含まれる被検体の屈折率を測定することが可能である。
【0044】
次に、測定チップ20を利用して抗原抗体反応等の生体分子相互作用の測定を実施するために抗体や任意のタンパク質を、センサ領域22を構成する金属微小構造体23に導入する手順を具体的に示す。ここでは、測定チップ20には、上述した作製方法の一例により表面21b上の所定領域上に金属微小構造体23としての金微粒子23が固定されてなる9個のセンサ領域22a〜22iが形成されているものとする。
【0045】
測定チップ20の表面21b上へ0.5mMメルカプトウンデンカン酸(MUA)エタノール溶液を滴下し、5時間静置する。静置する際には、湿度を90%以上とした容器内で保存する。次に、余剰のMUAを除去するために再度エタノールに20分浸漬した後に取り出して、測定チップ20を純水へ1分間程度浸漬してから取り出して更に純水で洗浄する。これにより、センサ領域22a〜22iに配置された金微粒子23の表面にMUA膜が形成される。
【0046】
EDACとNHSを、0.2Mとなるようそれぞれ0.1MのMES buffered Salineへ溶解し、1:1で混合した後、その混合液をMUA膜を形成する工程を経た測定チップへ滴下し、30分静置する。その後、滴下された混合液を除去してから、抗体またはタンパク質を適切量、PBSに溶解し、測定チップ20へ滴下した後、1時間静置する。これにより、測定チップ20上のセンサ領域22a〜22iに配置された金微粒子23表面のMUA上へ、抗体又はタンパク質が結合する。
【0047】
なお、上記EDACとは、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(1-ethyl-3-(3-dimethylaminopropyl)carbodiimide, hydrochloride)である。NHSとは、N−ヒドロキシコハク酸(N-hydroxysuccinicacid)である。MESとは、2−モルホリノエタンスルホン酸一水和物(2-morpholino ethanesulfonicacid, monohydrate)である。また、0.1MのMES bufferedSalineは、0.1MのMESと0.9%(w/v)の塩化ナトリウムを溶解させてpHを4.5〜5とした溶液である。更に、PBSとは、10mMのリン酸緩衝液へ0.9%(w/v)の塩化ナトリウムを溶解させて、pHを7.4とした溶液である。
【0048】
図8は、上記手順において、抗原及び抗体の対として、HOP(Hsp70/Hsp90 organizing protein)及び抗HOP抗体を用いた場合の測定結果を示す図面である。横軸は時間を示し、縦軸は散乱光強度(a.u.)を示している。この測定では、金微粒子23には抗HOP抗体をプローブ分子として結合している。これまで説明した手順と同様の手順により、測定チップ20の各センサ領域22a〜22iを構成する金微粒子23に抗HOP抗体をプローブ分子として結合させた。センサ領域22a〜22iへ抗体を結合させる操作において、PBSに溶解する抗体の濃度は22μg/mLとした。そして、測定チップ20を測定セル30にセットし、図1に示したセンシング装置1で測定を実施した。なお、受光装置42としてはCCDカメラを利用した。照明光L3の波長は、610nm〜660nmの波長範囲を有するとした、すなわち、光学フィルタ15として、上記波長範囲を選択的に通すものを使用した。測定時には、まず、PBSを送液した後、1.75nMのHOPを溶解したPBSを送液し、その後、再度HOPを含まないPBSを緩衝液として送液した。
【0049】
図8に示すように、HOPを溶解したPBSを送液することによって、シグナル強度は上昇し、再度PBSを送液すると、シグナルは減少することが見て取れる。
【0050】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されない。例えば、光源部10は、側面21aに入射する、照明光L3となるべき光L1を出力する光源を備えていればよい。この場合には、図1において、センシング装置1は、その光源から出力された光L1を側面21aに集光入射させるための集光手段を備えることができる。また、図1に示したように、コリメータ12、スリット13及び光学フィルタ15を適宜配置してもよい。
【0051】
光源部10は、光学フィルタ15を利用して照明光L3となるべき光束L2の波長領域を調整しているが、白色光源を使用せずに、元々所望の波長を有する光を出力可能な光源を用いることも可能であり、この場合には、光学フィルタ15は設けなくてもよい。また、光学フィルタ15の位置は光源11と、側面21aとの間であれば特に限定されない。
【0052】
センサ領域22を均一に照射する観点からは複数の光束が側面21aに入射されることが好ましいが、側面21aへは一つの光束が入射されるようになっていてもよい。例えば、センサ領域22が一つの場合には、光源部10はスリット13を有しなくてもよい。
【0053】
また、測定チップ20は、基板21の表面21b上にセンサ領域22が形成されたものとしたが、側面21aから入射される光L2を測定チップ20内で導光可能であって、表面21b上に金属微小構造体23からなるセンサ領域22が形成されているものであればよい。
【0054】
更に、金属微小構造体23の一例として金微粒子を挙げたが、光と共鳴現象を生じせしめるものであれば特に限定されず、例えば、銀からなる微粒子を用いることも可能である。更に、金属微小構造体23の形状は、光と共鳴現象を生じせしめるものであれば特に限定されず、例えば、立方体、円柱、三角錐、ピラミッド構造等のような形状のものを利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明に係るセンシング装置の一実施形態の概略構成を示す模式図である。
【図2】(a)は、測定チップの概略構成を示す平面図である。(b)は測定チップの概略構成を示す側面図である。
【図3】測定セルの模式図である。
【図4】図3のIV―IV線に沿った端面図である。
【図5】光源部からの光の測定チップへの入射方法を説明するための図面である。
【図6】図2(a)に示した複数のセンサ領域の一部の散乱光スペクトルを示す図面である。
【図7】図2(a)に示した複数のセンサ領域の他の部分の散乱光スペクトルを示す図面である。
【図8】図1に示したセンシング装置を利用した測定結果の一例を示す図面である。
【符号の説明】
【0056】
1…センシング装置、10…光源部、20…測定チップ、21…基板、21a…側面(測定チップの側面)、21b…表面(測定チップの表面)、22…センサ領域、23…金属微小構造体、42…受光装置、L1…照明光となる光、L2…光束(照明光となる光)、L3…照明光、L4…散乱光。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属微小構造体と光との共鳴現象を利用したセンシング装置であって、
前記金属微小構造体を有するセンサ領域を表面上に一つ又は複数有しており、前記センサ領域を照明する照明光を内部で導光可能な測定チップと、
前記照明光となる光を出力する光源部と、
前記センサ領域における前記金属微小構造体によって前記照明光が散乱された散乱光を検出する受光装置と、
を備え、
前記測定チップは、前記表面の側方に位置している側面を有し、
前記光源部からの前記光は前記側面から前記測定チップ内に入射される、ことを特徴とするセンシング装置。
【請求項2】
前記測定チップは、ガラス、石英、アクリル系樹脂、ポリカーボネート樹脂及びポリスチレン系樹脂からなる群から選ばれた一つの材料からなることを特徴とする請求項1に記載のセンシング装置。
【請求項3】
前記光源部は、複数の光束の各々を、前記照明光となる光として出力することを特徴とする請求項1又は2に記載のセンシング装置。
【請求項4】
前記照明光は、600nm〜1000nmの波長領域のうちの所定の100nm以内の波長領域に狭帯化された光であることを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載のセンシング装置。
【請求項5】
前記受光装置は、前記センサ領域が一つの場合には、フォトダイオード又は光電子増倍管であることを特徴とする請求項1〜4の何れか一項に記載のセンシング装置。
【請求項6】
前記受光装置は、前記センサ領域が複数の場合には、フォトダイオードアレイ又はCCDカメラであることを特徴とする請求項1〜4の何れか一項に記載のセンシング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−192259(P2009−192259A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−30725(P2008−30725)
【出願日】平成20年2月12日(2008.2.12)
【出願人】(504409543)国立大学法人秋田大学 (210)
【Fターム(参考)】