説明

ゼオライト・カオリン触媒組成物

ゼオライトおよび結合剤を含む触媒組成物であって、ゼオライトがGa含有ゼオライトであり、結合剤がLa修飾カオリンである触媒組成物、およびこの触媒組成物を用いて、低級アルカンを芳香族炭化水素に転化する方法が開示されている。芳香族炭化水素がベンゼン、トルエンおよびキシレンを少なくとも45質量%含むことが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゼオライトおよび結合剤を含む触媒組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
結合した、または担持されたゼオライト触媒が、低級アルカンの芳香族炭化水素への転化における触媒として有用であることが知られている。
【0003】
特許文献1には、希土類金属を含有し、必要に応じて適切な結合剤と結合した、ゼオライト系触媒が開示されている。そのような結合剤の例としては、アルミナおよびシリカが挙げられている。結合剤としてのLa修飾カオリンの使用については言及されていない。
【0004】
特許文献2には、ゼオライトと粘土、並びに、必要に応じて、「促進剤」と称される化合物を含む触媒組成物が開示されている。この文献には、どのような粘土を使用しても差し支えないと教示されている。促進剤として、希土類を含む、周期表の9つの族からの元素が述べられている。促進剤は、コークスの形成を抑制するか、またはオレフィンの製造を増加させることのできる任意の化合物であると言われている。報告された転化率はかなり低い。
【0005】
非特許文献1において、結合剤としてカオリンを使用して、プロパンの芳香族炭化水素への転化率がアルミナよりも著しく低い触媒組成物を製造することが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第4855522号明細書
【特許文献2】米国特許第6255243号明細書
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Proc. Indian Acad. Sci, (Chem. Sci.), Vol. III, No. 5, October 1999, pp. 669-676
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、アルカンの転化率が良好であり、芳香族炭化水素の全体の収率が良好である、ゼオライト・結合剤触媒組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この課題は、ゼオライトがGa含有ゼオライトであり、結合剤がLa修飾カオリンである本発明にしたがって達成される。
【0010】
Ga含有ゼオライトおよびLa修飾カオリンの組合せを有する本発明による触媒組成物が、希土類修飾されたものなどの、他の結合剤を含有する組成物よりも、アルカンの高い転化率と芳香族の高い収率を示すことが分かった。本発明の触媒組成物は、公知のGaおよびLa含有ゼオライト・結合剤触媒よりも、低い失活速度も示す。
【0011】
アルカンの芳香族化合物への転化に触媒作用を及ぼすことのできる任意の市販のゼオライトが、本発明におけるゼオライトとして使用できる。適切なゼオライトの例としては、以下に限られないが、Kirk-Othmer Encyclopaedia of Chemical Technology, third edition, volume 15 (John Wiley & Sons, New York, 1991) およびW. M. Meier and D. H. Olson, "Atlas of Zeolite Structure Types," pages 138-139 (Butterworth-Heineman, Boston, Mass., 3rd ed. 1992)に開示されたものが挙げられる。本発明を使用する前に、本発明ゼオライト、または触媒組成物を、必要に応じて蒸気処理しても差し支えない。現在好ましいゼオライトは、細孔径が中くらいのものである。MFIと特定される骨格トポロジーを有するものとして識別されたZSM−5および類似のゼオライトは、その形状選択性のために、特に好ましい。
【0012】
このゼオライトはガリウムを含有する。Ga含有ゼオライトの調製のために、当該技術分野において一般に知られた技法を適用できる。ゼオライトを、Ga塩、例えば、硝酸ガリウムの加熱水溶液と、連続的に撹拌しながら接触させることが、効果的な方法であることが実証された。一般に、ゼオライト上のGaの量は、0.2から2.0質量%に及ぶ。好ましい範囲は0.5から1.5質量%であり、最も好ましい範囲は0.75から1.25質量%である。本発明による触媒において、Gaの量は1質量%未満、好ましくは0.95質量%未満で差し支えないことが分かった。
【0013】
結合剤はLa修飾カオリンである。カオリンはそれ自体公知であり、本発明の触媒において、全ての公知の変種を使用できる。カオリンの金属による修飾に関して、当該技術分野においていくつかの方法が知られている。効果的な方法は、カオリンを、La塩の加熱水溶液と連続的に撹拌しながら接触させる工程を含む。濾過と乾燥後、La修飾カオリンは、そのカオリンを、典型的に1〜10時間に亘り、500および800℃の間の温度で、水分を含まない気流に曝露することによって、か焼することが好ましい。ランタンが、本発明の目的にとって最も効果的な希土類金属であることが分かった。あるいは、合成されたままの乾燥済みLa修飾カオリンは、芳香族化触媒のための結合剤としてさらに処理せずにそのまま使用しても差し支えない。
【0014】
次いで、Ga含有ゼオライトおよびLa修飾カオリンを含む触媒組成物は、ゼオライトと結合剤を完全に混合することによって調製し、有用な形状、例えば、約0.1mmから約15mmの範囲にある寸法を有する顆粒、球形、円柱形ペレット、環、鞍形または星形ペレット、好ましくは0.5mmから5mmの球形に作り変える。触媒組成物中の結合剤の質量百分率は、10および90の間であり得、触媒含有率が20から50質量%であることが好ましく、30〜35質量%が最も好ましい。
【0015】
触媒組成物を低級アルカンに反応条件下で曝露する前に、通常、触媒は、前処理工程、例えば、酸化工程に、必要に応じて、蒸気処理工程と還元工程に曝される。酸化工程は、任意の金属をそれらの酸化物に分解し、触媒の表面から水分や他の吸着された不純物を除去する働きをする。還元工程は、酸化ガリウムを活性ガリウム種に還元し、そのガリウム種をゼオライト中に分散させる働きをする。必要に応じて、触媒の熱/熱水安定性を増加させ、触媒活性部位の強度を向上させ、触媒のコークス化の重大性を減少させるために、触媒に、還元工程の前に、蒸気処理を施しても差し支えない。
【0016】
本発明はさらに、本発明による触媒組成物を用いて、低級アルカンを芳香族炭化水素に転化する方法に関する。
【0017】
この触媒を使用することによって、結合剤としての希土類金属添加カオリンを含まない他の触媒よりも、低級アルカンの転化率が高くなることが分かった。
【0018】
ゼオライト系触媒を用いて低級アルカンを芳香族炭化水素に転化する方法は、それ自体、例えば、特許文献1から知られている。これらの方法において、通常、ゼオライト触媒組成物の固定床に、アルカン含有ガス流が供給される。印加される展開的な温度は400から650℃までに及び、好ましい範囲は500から600℃である。触媒組成物の固定床が、転化反応が行われる反応装置内で作製したときに、上述した触媒組成物の前処理を適用することができる。一般に適用できる質量空間速度(WHSV)は、0.1から10/時に及び、0.5から2.5/時に及ぶことが好ましい。
【0019】
本発明による反応において転化できる低級アルカンおよびアルケンは、1から6の炭素鎖長を有し得る。本発明による反応において転化すべき好ましい低級アルカンは、プロパンとブタンである。主に形成される芳香族炭化水素は、ベンゼン、トルエンおよびキシレンであり、通常、BTXと表示される。
【実施例】
【0020】
本発明を以下の実施例によって説明する。
【0021】
実施例1: Ga含有ZSM−5ゼオライト(ゼオライトA)の調製
三首の丸底フラスコ中で0.5714gの硝酸ガリウムを200mlの脱塩水中に溶解させた。Si/Al比が20である、NH4形態にある乾燥ZSM−5を10g加えた。この混合物を90〜95℃に加熱し、24時間に亘り300rpmで撹拌した。
【0022】
Ga交換したZSM−5を濾過により除去し、2リットルの脱塩水で洗浄した。ゼオライトの公称Ga含有量は、AASによって1質量%であると決定された。
【0023】
この手法は、他のSi/Al比を有するGa交換ZSM−5を調製するのにも適用できる。
【0024】
実施例2: NH4−GaAlMFIゼオライト(ゼオライトB)の調製
500mlのテフロン(登録商標)ビーカー内で50.46gの三ケイ酸ナトリウムを200mlの脱塩水に加え、激しく撹拌した。これとは別に、50mlの脱塩水中の13.34gの硝酸アルミニウムの溶液、15mlの脱塩水中の硝酸ガリウム溶液、および50mlの脱塩水中の20.19gの臭化テトラプロピルアンモニウム(TPABr)溶液を調製した。三ケイ酸ナトリウムの撹拌溶液に、硝酸アルミニウム、硝酸ガリウムおよびTPABrの透明な溶液を次々にゆっくりと加えた。さらに、最後に35mlの水を加えた。この混合物のpHを、濃H2SO4および脱塩水の1:1の混合物を加えることによって、9.0に調節した。pHを調節した後、激しい撹拌を30〜45分間続けた。混合物を500mlのSS316オートクレーブに移し、封止し、結晶化を行うために、72時間に亘り400rpmの定速で撹拌しながら170℃に加熱した。
【0025】
結晶質ゼオライトを濾過により除去し、脱塩水で完全に洗浄した。乾燥粉末のXRDテストによって、このゼオライトのMFI骨格構造を確認した。このゼオライトを、乾燥空気を流しながら、マッフル炉内で4時間に亘り550℃でか焼した。か焼したゼオライトを、4時間に亘り95〜98℃で1MのNH4NO3水溶液で交換することによつて、アンモニウム形態に転化させた。このゼオライトを、Si、AlおよびGaの各含有量についてAASによって特徴付けた。このようにして調製したゼオライトは、アンモニウム形態にあるガロアルミノシリケートMFIである。このゼオライトは、これからは、NH4・GaAlMFIと称し、20の理論Si/Al比および1.0質量%の公称Ga含有量を有した。
【0026】
実施例3: 担体材料(結合剤)の調製
1. La交換カオリン結合剤(C−1)
0.187gの硝酸ランタン六水和物を120mlの脱塩水中に溶解させた。6gのカオリンを加えた。還流設備で24時間に亘り95〜98℃で加熱しながら、この組成物を磁気撹拌子を用いて撹拌した。
【0027】
La交換カオリンを濾過した。保持された固体を2リットルの脱塩水で洗浄し、乾燥させた。
【0028】
乾燥したLa交換カオリンをマッフル炉内でか焼した。このカオリンを、毎分8℃の速度で加熱しながら、100ml/分の水分を含まない気流に曝露し、次いで、4時間に亘り650℃に保持し、室温まで冷却した。La/カオリン(カオリン上に1質量%の公称添加量)の組成を有する結合剤材料が得られた。
【0029】
2. カオリン結合剤(C−2)
硝酸Laの交換を行わずに、上述した1のか焼プロセスを、カオリンに繰り返した。
【0030】
3. La修飾Al結合剤(C−3)
0.187gの硝酸ランタンを10mlの脱塩水中に溶解させた。それに6gのα−Al23を加えてスラリーを調製し、これを、加熱しながら撹拌して、水を蒸発させた。得られたペーストを120℃で乾燥させて、1質量%のLaの公称添加量のα−Al23を得た。
【0031】
4. α−Al23結合剤(C−4)
α−Al23それ自体を、修飾せずに、結合剤として選択した。
【0032】
実施例4: 触媒粒子の調製
ゼオライトAまたはBを1種類の担体Cと2:1の比で完全に混合することによって、異なるゼオライト化合物(AまたはB)および異なる担体(C−1からC−4)を含むいくつかの触媒組成物を粒子形態で調製した。その混合物を10トンの圧力で加圧して、ペレットを製造した。圧縮した触媒組成物を粉砕し、篩い分けした。0.25から0.5mmの粒子を含有する分画および0.5から1.00mmの粒子を含有する分画を、さらに使用するために選択した。
【0033】
実施例5および比較例I、IIおよびIII
組合せAC−1(本発明による)と比較のための組合せAC−2、AC−3およびAC−4の各々から2gの触媒粒子(粒径0.25〜0.5mm)を、下降流式固定床マイクロ触媒反応装置内に装填し、以下のようにして前処理した:
工程1: 630℃で25ml/分の無水分気流に1時間に亘り曝露した;
工程2: 600℃で80ml/分のN2流量中の5.0体積%の水蒸気に1時間に亘り曝露した;
工程3: 500℃で25ml/分の水素流に1時間に亘り曝露した。
【0034】
前処理後、プロパンを34ml/分で固定床に供給した。プロパン流の開始前の触媒床の温度は500℃であった。質量空間速度(WHSV)は2.0/時であった。
【0035】
未転化のプロパンおよび形成された生成物を、火炎イオン化検出器を用いて、オンラインガスクロマトグラフ分離カラムPetrocol DH50.2によって分析した。
【0036】
500℃の温度での様々な触媒により得られたプロパン転化率が表1に示されている。
【表1】

【0037】
これらの実施例と比較例の実験は、本発明による触媒組成物のプロパン転化率における良好な結果を示している。
【0038】
実施例6
実施例4で調製した組合せBC−1の0.25〜0.5mmの触媒組成物粒子をプロパン転化に用いた。
【0039】
実施例5の実験設備、反応および分析手法を、前処理工程2を500℃および80ml/分のN2流量中の2.0体積%の水蒸気で行ったことを除いて、繰り返した。
【0040】
500℃での1時間の反応後、反応温度を、5℃/分の速度で20℃だけ増加させて、520℃にし、反応を1時間続けた。少なくとも90%の転化率または580℃の温度に到達するまで、この手法を繰り返した。
【0041】
結果が表2に示されている。
【表2】

【0042】
比較例IV
実施例6の手法を、触媒組成物BC−2について繰り返した。
【0043】
その結果が表3に示されている。
【表3】

【0044】
比較例V
実施例6の手法を、触媒組成物BC−3について繰り返した。
【0045】
その結果が表4に示されている。
【表4】

【0046】
比較例VI
実施例6の手法を、触媒組成物BC−4について繰り返した。
【0047】
その結果が表5に示されている。
【表5】

【0048】
実施例6および比較例IVからVIは、本発明による触媒組成物のより高いプロパン転化率を示し、それゆえ、BTXのより高い収率を示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Ga含有ゼオライトおよび結合剤を含む触媒組成物であって、前記結合剤がLa修飾カオリンであることを特徴とする触媒組成物。
【請求項2】
前記ガリウムが、ゼオライトとガリウムの合計に対して、多くとも0.95質量%の量で含まれることを特徴とする請求項1記載の触媒組成物。
【請求項3】
前記カオリンが酸処理されていないことを特徴とする請求項1または2記載の触媒組成物。
【請求項4】
低級アルカンを芳香族炭化水素に転化する方法であって、請求項1から3いずれか1項記載の触媒組成物を使用することを特徴とする方法。
【請求項5】
前記芳香族炭化水素が、ベンゼン、トルエンおよびキシレンを少なくとも45質量%含むことを特徴とする請求項4記載の方法。
【請求項6】
前記低級アルカンがC2〜C6アルカンであることを特徴とする請求項4または5記載の方法。
【請求項7】
前記低級アルカンを含む供給流を、500〜600℃の温度で前記触媒組成物に接触させる工程を含むことを特徴とする請求項4から6いずれか1項記載の方法。

【公表番号】特表2010−514564(P2010−514564A)
【公表日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−544367(P2009−544367)
【出願日】平成19年12月5日(2007.12.5)
【国際出願番号】PCT/EP2007/010763
【国際公開番号】WO2008/080517
【国際公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【出願人】(502132128)サウディ ベーシック インダストリーズ コーポレイション (109)
【Fターム(参考)】