説明

ゼオライト層状前駆体からの大細孔ゼオライトの製造法

【課題】
本発明は、各種の化学反応における触媒としてだけでなく、吸着剤や充填剤として有用なMWW型ゼオライトにおけるさらに新しいタイプのMWW型ゼオライト、及びその製造方法、並びにそれを用いた固体酸触媒を提供するものである。
【解決手段】
本発明は、MWW型ゼオライトの層状の前駆体にシリル化剤を添加した後、これを焼成することによりMWW型ゼオライトの層状の前駆体の層間距離が拡大されたマイクロ孔を有することを特徴とするMWW型ゼオライト、その製造方法、及びそれを用いた固体酸触媒に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、MWW型ゼオライトの層状の前駆体にシリル化剤を添加した後、これを焼成することによりMWW型ゼオライトの層状の前駆体の層間距離が拡大されたマイクロ孔を有することを特徴とするMWW型ゼオライト、その製造方法、及びそれを用いた固体酸触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
ゼオライトは、ギリシャ語の「沸騰する石」の意味から命名されたもので、日本語では「沸石」と言われている。ゼオライトは、主にアルミニウムとケイ素からなるアルミノシリケートを主成分とするものであり、結晶構造にアルミノシリケートの立体構造に由来するオングストローム単位の微孔を有している。
ゼオライトは、独特な結晶構造を有しているために、分子ふるい作用、吸脱着作用、イオン交換能などの様々な作用を有しており、洗剤などのビルダーとしてだけでなく、触媒、吸着剤、イオン交換剤などとして広く工業的に利用されてきているが、アルミノシリケートの立体構造に由来する微孔の形状や大きさにより、ゼオライトの特性が異なり、利用目的に合わせて多種多様なゼオライトが開発されてきている。
現在までに、約40種類以上のゼオライトが天然ゼオライトとして発見されてきており、約160種類以上の合成ゼオライトが開発されてきている。このような合成ゼオライトは、一般に水熱合成法により製造されおり、有機分子などの鋳型を用いて結晶構造の微孔の大きさを調整したり、また原料のシリカとアルミナの量を調整してシリカ/アルミナ比を調製するなどして製造されている。最近では、特殊な触媒能や吸着能を付与させるために、鋳型として複雑な有機分子を使用する傾向が強まっている。
【0003】
ゼオライトの構造は、国際ゼオライト学会(IZA)の構造委員会(IZA−SC)によって決められている。この委員会は、IUPACからゼオライトの構造の型を命名する権限が与えられており、「アトラス」(非特許文献1参照)と略称されている書籍において各種のゼオライトのフレーム構造が定義されている。また、現在では、次のウェブサイトにおいて:www.iza-sc.ethz.ch/IZA-SC/Atlas/AtlasHome.htmlにおいても検索できるようになっている。
IZA−SCにより「MWW型ゼオライト」とされている物質は多層物質であって、10員環と12員環による2つの細孔系を有することを特徴とされている。当該「MWW型ゼオライト」に属するゼオライトとしては、MCM−22、ERB−1、ITQ−1、PSH−3およびSSZ−25などがあるとされている。
「MWW型ゼオライト」は、炭化水素類の接触分解、水素化分解、水素化脱蝋、異性化、アルキル化などにおいて特に有用なだけでなく、吸着剤、充填剤および軟水化剤としても有用であることが知られており、他の種類のゼオライトとは異なる産業上の有用性を有していることで注目されている。また、最近では、自動車の排ガス浄化用触媒、特に炭化水素(HC)吸着型三元触媒における吸着材料としても注目されてきている(特許文献1参照)。さらに、メソポーラスなゼオライトを用いてカーボンナノチューブを製造する方法も開発されてきている(特許文献2参照)。
【0004】
MWW型ゼオライトは、例えば、有機アミン又はその塩であるアダマンタン第四アンモニウムイオンや、ヘキサメチレンイミン、又はピペリジンを鋳型として、水熱合成及び焼成処理を経て調製可能である(特許文献3〜6参照)。また、この調製過程で水熱合成後に得られる固体生成物は、MWW構造を有するゼオライト(MWW型ゼオライト)の層状の前駆体(以下、「MWW層状前駆体」という。)であり、その層間には鋳型である有機アミン又はその塩からなる有機分子を保持している。この鋳型分子を焼成処理で除去する過程で、MWW層状前駆体の層間のシラノール同士が脱水縮合により架橋することにより、初めてMWW型ゼオライトが得られる。
このように、MWW層状前駆体から構造変換により得られるゼオライトは10種類程度知られている。なかでもMWW層状前駆体は、その層間に直鎖アルキルアンモニウム塩の界面活性剤をその層間に挿入することで層間を拡張することができ、そのまま層剥離処理を行うことでMWWのシングルレイヤー構造の調製が可能である。この物質はITQ−2として知られている(非特許文献2参照)。また、界面活性剤により拡張した空間の大きさはメソ孔の大きさに相当し、この空間をシリカなどの金属酸化物を柱として挿入することで、MWWのシート構造を保持したメソポーラス物質、MCM−36が調製できる(特許文献7、及び非特許文献3参照)。
【0005】
前記してきたように、特異な層状構造を有するMWW型ゼオライトは、各種の化学反応における触媒としてだけでなく、吸着剤や充填剤としても、他の種類のゼオライトとは異なる産業上の有用性を有していることから、さらに新しいタイプのMWW型ゼオライトの開発が望まれている。
【0006】
【特許文献1】特開2004−105821号公報
【特許文献2】特開2006−111458号公報
【特許文献3】特開昭63−297210号公報
【特許文献4】米国特許第4954325号明細書
【特許文献5】米国特許第5149894号明細書
【特許文献6】米国特許第5453554号明細書
【特許文献7】米国特許第5229341号明細書
【非特許文献1】Atlas of Zeolite Framework Types(Ch.Baerlocher, W.M.Meier and D.H.Olson, 5th.Revised Edition, 2001,Elsevier)
【非特許文献2】A.Corma, et al., Microporous Mesoporous Mater. 38, 301 (2000).
【非特許文献3】W.J.Roth, et al., Stud. Surf. Sci. Catal., 94, 301 (1995).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、各種の化学反応における触媒としてだけでなく、吸着剤や充填剤として有用なMWW型ゼオライトにおけるさらに新しいタイプのMWW型ゼオライト、及びその製造方法、並びにそれを用いた固体酸触媒を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
MWW型ゼオライトは炭化水素類のアルキル化、異性化、酸化などの触媒として、また各種の吸着剤として産業上有用なものであるが、分子の選択性が狭く、より大きな分子に対する選択性を有するMWW型ゼオライトの開発が望まれていた。しかし、MWW型ゼオライトは層状の前駆体から製造されるゼオライトであり、層状の前駆体からゼオライトを製造する場合には、生成するゼオライトの構造が原料となる層状の前駆体の層間距離に依存し、ゼオライトの小さな細孔(微孔)構造を自由に設計することができなかった。本発明者らは、層間距離をマイクロ孔のサイズで拡張する方法を検討してきた結果、MWW型ゼオライトの層状の前駆体(以下、「MWW層状前駆体」という。)の層間をモノシランなどのシリル化剤で修飾することで、その層間のマイクロ孔サイズレベルでの拡張が可能であり、新規な大孔径ゼオライトを製造することができることを見出した。
【0009】
即ち、本発明は、MWW型ゼオライトの層状の前駆体にシリル化剤を添加した後、これを焼成することによりMWW型ゼオライトの層状の前駆体の層間距離が拡大されたマイクロ孔を有することを特徴とするMWW型ゼオライトに関する。
また、本発明は、MWW型ゼオライトの層状の前駆体にシリル化剤を添加した後、これを焼成して、当該層状の前駆体の層間がシリル基により架橋され、当該層状の前駆体の層間距離がシリル化剤により拡大されたマイクロ孔を有することを特徴とするMWW型ゼオライトを製造する方法に関する。
さらに、本発明は、前記した本発明のMWW型ゼオライトからなる固体酸触媒に関する。
【0010】
本発明をより詳細に説明すれば、次の(1)〜(15)のとおりとなる。
(1)MWW型ゼオライトの層状の前駆体にシリル化剤を添加した後、これを焼成することによりMWW型ゼオライトの層状の前駆体の層間距離が拡大されたマイクロ孔を有することを特徴とするMWW型ゼオライト。
(2)シリル化剤が、アルコキシモノシランである前記(1)に記載のMWW型ゼオライト。
(3)アルコキシモノシランが、ジアルコキシジアルキルシランである前記(2)に記載のMWW型ゼオライト。
(4)MWW型ゼオライトの粉末X線回折における2θの主ピークの角度(CuKα/度)が、MWW型ゼオライトの層状の前駆体の粉末X線回折における2θの主ピークの角度(CuKα/度)よりも小さいことを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれかに記載のMWW型ゼオライト。
(5)MWW型ゼオライトの層状の前駆体が、有機アミン又はその塩を鋳型として、水熱合成法により製造されたものである前記(1)〜(4)のいずれかに記載のMWW型ゼオライト。
(6)有機アミン又はその塩が、ヘキサメチレンイミンである前記(5)に記載のMWW型ゼオライト。
(7)MWW型ゼオライトの層状の前駆体にシリル化剤を添加した後、これを焼成して、当該層状の前駆体の層間がシリル基により架橋され、当該層状の前駆体の層間距離がシリル化剤により拡大されたマイクロ孔を有することを特徴とするMWW型ゼオライトを製造する方法。
(8)シリル化剤が、アルコキシモノシランである前記(7)に記載の方法。
(9)アルコキシモノシランが、ジアルコキシジアルキルシランである前記(8)に記載の方法。
(10)MWW型ゼオライトの層状の前駆体にシリル化剤を添加した後、さらに酸を加え加熱処理した後、焼成するものである前記(7)〜(9)のいずれかに記載の方法。
(11)酸が、硝酸である前記(10)に記載の方法。
(12)MWW型ゼオライトの層状の前駆体が、有機アミン又はその塩を鋳型として、水熱合成法により製造されたものである前記(7)〜(11)のいずれかに記載の方法。
(13)有機アミン又はその塩が、ヘキサメチレンイミンである前記(12)に記載の方法。
(14)シリル化剤の添加量が、MWW型ゼオライトの層状の前駆体に対して質量で、5質量%〜100質量%である前記(7)〜(13)のいずれかに記載の方法。
(15)前記(1)〜(6)のいずれかに記載のMWW型ゼオライトからなる固体酸触媒。
【0011】
本発明者らは、本発明のMWW型ゼオライトの例として、具体的には、アルミニウムを骨格構造に含むMWW層状前駆体に、アルコキシモノシランによる修飾処理を行うことで、層間にケイ素原子を挿入し、12員環程度のマイクロ孔を有するゼオライト物質を製造した。ここでは、この新規なゼオライト物質をIE−MWW(interlayer-expanded MWW)と呼ぶ。以下では、このIE−MWWを例として、本発明をより具体的に説明する。
図1は、従来のMWW型ゼオライトと本発明のMWW型ゼオライトとの相違を模式的に示したものである。図1の左側上段に示されているのが、ヘキサメチレンイミンを鋳型として使用したMWW層状前駆体である。従来のMWW型ゼオライト(図1の右上段)は、当該MWW層状前駆体を直接脱水縮合して製造されていた。を一方、本発明の方法では、図1の右側下段に示されるように、鋳型の有機アミン類で隔てられているMWW層状前駆体の層間にシリカを挿入して層間を拡大し、ここにシリケートを含有する細孔を形成する操作により製造される。MWW層状前駆体には、シリカ骨格以外にNaイオンおよび鋳型分子(ヘキサメチレンイミン又はピペリジンなど)がその層間に存在しているが、Naイオンはイオン交換により、鋳型分子は焼成によりそれぞれ除去可能である。
MWW層状前駆体の結晶構造をある方向からみると、その層内に10員環マイクロ孔をもつ構造を見ることができる。この層内の10員環マイクロ孔の大きさは、4.1×5.1オングストロームと求められている。ここでMWW層状前駆体を構成する、層間により区切られた構造をMWWシート構造と呼ぶ。このMWWシート構造の表面には、ケイ素原子と結合した水酸基が周期的に存在している。MWWシート構造の水酸基同士が直接脱水縮合すると、層間の空間がシリカの架橋構造により10員環で区切られるようになる。この10員環の大きさは、4.0×5.5オングストロームと求められている。このようにしてMWW型ゼオライトが形成する。
【0012】
一方、本発明のMWW型ゼオライトでは、層間にシリル化剤をあらかじめ侵入させておくため、層の表面にある水酸基同士が直接脱水縮合するのではなく、その水酸基とシリル化剤とが脱水縮合することで、シリル化剤が層間を支える柱となって層間が拡張した構造となり(図1左側下段)、これを焼成して層間の有機物を除去することで、IE−MWWが形成する(図1下段右側参照)。シリル化剤による層間の架橋度が100%の場合の例を図1に示したが、この架橋の程度は任意に決定することができる。そして、このような架橋により、モノシランでシリカ架橋構造により区切られた空間は12員環となる。
【0013】
次に、図2に各物質の粉末XRDパターンを示し、その結晶構造と層間距離について説明する。図2(a)にはMWW層状前駆体のXRDパターンを示すが、ここではMWW層状前駆体の結晶構造に由来する回折ピークが得られている。図2(b)にはMWW層状前駆体のシリル化処理後の生成物のXRDパターンを示す。回折角(2θ)10°〜35°にわたって、結晶構造に由来する回折ピークが現れており、シリル化処理によってMWW層状前駆体の層内の周期構造が損なわれていないことがわかる。また、6.48°付近に現れている回折ピークは層の周期構造を示すが、このピーク位置がMWW層状前駆体での層の周期構造を示すピーク位置、6.56°付近とほとんど変化していないことがわかる。これらのピークは、MWW層状前駆体での層の繰り返し間隔が26.9オングストロームであったものが、シリル化後の生成物でもその層間隔が維持されていることを意味している。また、シリル化後に焼成した生成物のXRDパターンを図2(c)に示すが、回折角6.46°付近に回折ピークを示すこと、また回折角10°〜35°でも結晶構造に由来する回折ピークが現れている。これらのことは、焼成後にもこの層間が拡張した構造が保持されていることを意味している。
一方、MWW層状前駆体を直接焼成して得られるMWW型ゼオライトのXRDパターンを図2(d)に示すが、こちらではMWW型ゼオライトの結晶構造に由来する回折ピークが現れており、とくに層の周期構造を示す回折ピークは回折角7.12°付近に現れている。焼成処理により、層間内で向かい合う水酸基同士が脱水縮合するので、層の繰り返し間隔が25.1オングストロームまで縮まることを表している。
【0014】
図3には各物質の電子顕微鏡観察像を示す。図3の(a)(図の上段)はMWW層状前駆体の写真であり、図3の(b)(図3の中段)はこれを直接焼成したMWW型ゼオライトであり、図3の(c)(図3の下段)は本発明のIE−MWWをそれぞれ示す。MWW層状前駆体は六角平板であり、その1辺が0.5〜1.0μm程度で、厚さが30〜50nm程度である。このMWW層状前駆体を焼成して得られるMWW型ゼオライトは、MWW層状前駆体由来の幾何学的な形状がほとんど変化していないことがわかる。また、IE−MWWでも同様に、MWW層状前駆体の粒子形状とほぼ同様の形状をしている。
【0015】
図4にはMWW型ゼオライトとIE−MWWのチッ素吸・脱着等温線を示す。図4の(a)(図4の下側の曲線)(原図では赤色)は従来のMWW型ゼオライトの場合を示し、図4の(b)(図4の上側の曲線)(原図では青色)は本発明のIE−MWWの場合を示す。それぞれの黒丸印は吸着曲線を示し、白丸印は脱着曲線を示す。図4の縦軸は窒素の吸着体積(cm(S.T.P.)g−1)を示し、横軸は相対圧力(P/P)を示す。
どちらの物質でも、相対圧0.1までにチッ素吸着量の急激な増加が見られ、その構造にマイクロ孔を有していることがわかる。
また、次の表1に各物質の比表面積とマイクロ孔容積を示す。
【0016】
【表1】

【0017】
従来のMWW型ゼオライトのマイクロ孔容積が0.239cm・g−1であるのに対して、IE−MWWでは0.300cm・g−1と約1.25倍に増加しているが、これはIE−MWWではシリル化により層間が拡張しており、マイクロ孔が大きくなったために、MWW型ゼオライトよりも高いマイクロ孔容積を示すと考えられる。また、比表面積も同様にIE−MWWがMWW型ゼオライトよりも約1.2倍も高い値となっているが、これもマイクロ孔の拡張という同様の理由によるものである。
【0018】
図5にはMWW型ゼオライトとIE−MWWでのシクロヘキサンの吸着等温線を示す。図5の(a)(図5の下側の曲線)(原図では赤色)は従来のMWW型ゼオライトの場合を示し、図5の(b)(図5の上側の曲線)(原図では青色)は本発明のIE−MWWの場合を示す。それぞれの黒丸印は吸着曲線を示し、白丸印は脱着曲線を示す。図5の縦軸はシクロヘキサンの吸着体積(cm(S.T.P.)g−1)を示し、横軸は相対圧力(P/P)を示す。
ここでは相対圧0.1以下の吸着量に注目すると、IE−MWWでは20cm・g−1までの急激な吸着量の増加が見られるのに対して、従来のMWW型ゼオライトではシクロヘキサンの吸着がIE−MWWに比べて極わずかである。従来のMWW型ゼオライトでは結晶構造に由来する10員環マイクロ孔へのシクロヘキサンの吸着は起こらなかったと考えられる。いっぽう、IE−MWWでは構造内に層間が拡張したことにより形成した10員環よりも大きいマイクロ孔があり、そのマイクロ孔はシクロヘキサンが吸着するのに十分な大きさを有していることがわかる。
【0019】
図6にはIE−MWWおよびMWW型ゼオライトを固体酸触媒として、無水酢酸によるアニソールのアシル化を行った結果から、生成物であるパラメトキシアセトフェノン(p−MAP)の収率の経時変化を示す。図6の黒丸印(●)は本発明のIE−MWWの場合を示し、白丸印(○)は従来のMWW型ゼオライトの場合を示す。図6の縦軸はパラメトキシアセトフェノン(p−MAP)の収率(%)を示し、横軸は反応時間(分)を示す。
この結果、本発明のIE−MWWは、従来のMWWに比べて常に高いp−MAPの収率を示しており、180分後にはp−MAP収率が22%まで達した。この活性の向上は、MWWの10員環マイクロ孔内では立体的な制約のためにアニソールのアシル化が起こりにくいのに対して、IE−MWWでは拡張したマイクロ孔が十分広いのでアニソールのアシル化が起こりやすくなったためと考えられる。
【0020】
本発明におけるMWW型ゼオライトは、アルミニウムを骨格構造に含むMWW型ゼオライトの層状前駆体を出発物質として、大孔径を有する新規なゼオライトである。本発明のMWW型ゼオライトは、MWW層状前駆体の層間にアルコキシモノシランなどのシリル化剤を化学的に導入・結合させ、その層間に拡張したマイクロ孔を形成したことを特徴とするものである。また、本発明のMWW型ゼオライトは、シリカ/アルミナ比としては、従来のMWW型と同様であり、例えば、ケイ素/アルミニウム原子数比が10〜100、好ましくは20〜100、又は20〜70の範囲が好ましい。また、本発明のMWW型ゼオライトは、ケイ素原子と酸素原子との共有結合からなるマイクロ孔を有し、酸素12員環を含んだ幾何学的な結晶構造を持ち、かつ粉末X線回折において2θに特定の回折ピークを与える多孔質ゼオライトである。
また、本発明のMWW型ゼオライトはアルミノシリケートで例示しているが、これに限定されるものではなく、アルミナ部分のアルミニウムの一部又は全部がチタニウム、ジルコニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデン、タングステン、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、亜鉛、ガリウム、インジウム、錫および鉛からなる群から選ばれる少なくとも一種の金属で置換されたメタロシリケートであってもよい。このようなメタロシリケートについては、特開2003−327425号公報、及び特開2004−292171号公報の記載を参照することができ、これらの記載を本明細書に取り込む。
本発明のゼオライトは、吸着能、脱着能、分子ふるい作用などにおいて、ゼオライトと同様な性質を有しており、かつ特異的なマイクロ孔の大きさを有することから、従来の物質とは異なる特異的な選択性を有している。例えば、前記してきたように、従来のMWW型ゼオライトとは異なりシクロヘキサンを取り込むことはでき、またアニソールのような置換ベンゼンに対する反応性を有しており、工業的な有用性を有している。
【0021】
本発明のMWW層状前駆体としては、MWW型ゼオライトの前駆体となる層状構造をしているものであり、例えば、特許文献3〜6に記載されている各種の方法により製造することができる。また、メタロシリケートの場合については、例えば、前記した特開2003−327425号公報、及び特開2004−292171号公報の記載を参照することができる。本発明のMWW層状前駆体の製造方法としては、例えば、二酸化ケイ素などのシリカ源、アルミナなどのアルミニウム源、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属水酸化物のような塩基、鋳型となる有機アミン又はその塩、及び溶媒を加熱処理することによる水熱合成法により製造することができる。好ましい鋳型となる有機アミン又はその塩としては、アダマンタン第四アンモニウムイオン、ヘキサメチレンイミン、ピペリジンなどが挙げられるが、特にヘキサメチレンイミンやピペリジンが好ましい。
本発明のMWW層状前駆体としては、カチオン性、アニオン性、又はノニオン性の界面活性剤などを用いて層剥離処理を行ったものを用いることもできるが、層剥離処理を行うことなく、前記の方法により製造されたMWW層状前駆体を使用するのが好ましい。
【0022】
本発明におけるMWW型ゼオライトの製造方法としては、MWW層状前駆体とシリル化剤を混合、好ましくは溶媒の存在下で混合させ、好ましくは0.3規定〜1.0規定の酸の存在下に加熱処理を行った後、これを焼成させることにより行うことができる。溶媒としては、水などの他に各種の有機溶媒を使用することができるが、好ましい溶媒としては水が挙げられる。使用される酸としては、無機酸、有機酸のいずれでもよいが、焼成により除去できる酸が好ましく、好ましい酸としては硝酸が挙げられる。加熱処理としては、50℃、好ましくは70℃以上で溶媒の沸点までの温度が挙げられる。加熱処理は、処理物の量にもよるが、通常は5時間〜40時間、好ましくは15時間〜30時間程度である。
また、本発明におけるシリル化剤、MWW層状前駆体の層間に侵入することができる大きさであり、MWW層状前駆体の層を形成するケイ素原子に結合する水酸基と反応できる反応性の官能基を2個以上、好ましくは2個有するものであれば特に制限はない。本発明のシリル化剤は、ケイ素原子を2個以上含有するものであってもよいが、マイクロ孔を適度の大きさに、かつ比較的一定に保つためにはケイ素原子を1個含有するモノシランが好ましい。より好ましいシリル化剤としては、炭素数1〜10、好ましくは1〜5のアルコキシ基を有するジアルコキシモノシラン類が挙げられる。より具体的には、炭素数1〜10、好ましくは1〜5のアルキル基を有するジアルコキシジアルキルシランが挙げられる。このようなジアルコキシジアルキルシランとしては、例えば、ジエトキシジメチルシラン、ジエトキシジエチルシラン、ジメトキシジメチルシランなどが挙げられる。
添加するシリル化剤の量としては、特に制限はないが、MWW層状前駆体に対して5質量%〜100質量%、好ましくは5質量%〜50質量%、10質量%〜50質量%程度が挙げられる。
【0023】
また、焼成処理は、通常の方法によって行うことができるが、例えば、減圧下又は加圧下で400℃〜700℃、好ましくは400℃〜600℃程度で焼成処理を行うことができる。焼成処理の後、必要により乾燥処理を行うことができる。
MWW層状前駆体は鋳型になるアミンなどの有機化合物を含有している場合もあるが、これらの有機化合物は焼成により除去可能であるし、必要により他の方法で除去してもよい。また、層状シリケートは、Naイオンなどの金属イオンを含有している場合もあるが、これはゼオライトにそのまま利用することもできるが、必要により公知の方法によりKイオンや水素イオンなどの陽イオンと交換することができる。
【0024】
本発明のMWW型ゼオライトは、MWW層状前駆体の層間にシリル化剤をあらかじめ侵入させておくため,層の表面にある水酸基同士が脱水縮合せずに,その水酸基とシリル化剤とが脱水縮合することで、シリル化剤が層間を支える柱となって層間が拡張した構造となっていることを特徴とするものである。このことは、図2に示されるX線回折からも示されることであり、本発明における「MWW型ゼオライトの粉末X線回折における2θの主ピークの角度(CuKα/度)が、原料のMWW層状前駆体の粉末X線回折における2θの主ピークの角度(CuKα/度)よりも小さい」ということは、原料となるMWW層状前駆体の層間距離が拡大された構造を有するものであることを示したものである。
また、本発明のMWW型ゼオライトの化学組成は、原料となるMWW層状前駆体とシリル化剤によって規定されるものであり、化学組成自体には主たる特徴を有していないが、原料となるMWW層状前駆体としてMCM−22と同様な前駆体を用いた場合には、ケイ素/アルミニウム原子数比が20〜40の範囲のMWW型ゼオライトとなる。しかしながら、本発明のMWW型ゼオライトの化学組成はこれに限定されるものではない。
また、本発明の固体酸触媒は、本明細書に例示したアシル化反応に限定されるものではなく、本発明のMWW型ゼオライトはマイクロ孔が拡大されているが、従来のMWW型ゼオライトとどうようなゼオライトとしての活性を有するものであることから、炭化水素などの有機化合物のアルキル化触媒、異性化触媒、改質触媒などにおける固体酸触媒として使用することもできる。
【発明の効果】
【0025】
本発明は、MWW層状前駆体からMWW型ゼオライトを製造する際の新規な方法を提供するものであり、原料の層MWW層状前駆体の層間距離に依存せずに、シリル化剤によりMWW層状前駆体の層間距離を拡大させて、任意のマイクロ孔を有するMWW型ゼオライトを製造することができる簡便で、かつ選択性の高いMWW型ゼオライトの製造方法、及びその方法によって製造される新規なMWW型ゼオライトを提供するものである。本発明のMWW型ゼオライトは、従来のMWW型ゼオライトとは異なり、層間距離が拡大された大きなマイクロ孔を有するものであり、MWW型ゼオライトとしての新規な応用が期待されるものである。
【0026】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。
粉末X線回折(XRD)パターンは、リガク社製RINT−2000を使用し、CuKa線を用いて、0.01°間隔のステップスキャンにより得た。また電子顕微鏡(SEM)観察は、日立社製S−5200を用いた。各吸着質の吸着等温線の測定には、日本ベル社製BELSORP18を用いた。チッ素吸着については−196℃、シクロヘキサンの吸着測定は25℃でそれぞれ行った。
【実施例1】
【0027】
(1) MWW層状前駆体の調製
原料混合物の組成は、SiO:Al:NaO:HO:HMI = 1.0:x:0.075:45:0.50とし、xの値は0.0125〜0.0250の範囲とすることができるが、この実験では、x=0.0143の場合を例にして手順を示す。なお、HMIは、ヘキサメチレンイミンを示す。
まず蒸留水135.0gに、NaAlO(Al:36.5wt%、NaO:33.0wt%)0.664gと、NaOH0.716gを加え、固体が溶解するまで室温でかく拌した。その後、SiO(商品名:Cab-O-Sil M5、CABOT Co.製)を10.0gを加え、さらにヘキサメチレンイミン(HMI)を8.25g加えて、室温にて1時間かく拌した。得られた懸濁液をテフロン(登録商標)内筒を有するSUS316製オートクレーブに移し、150℃で7日間加熱処理した。オートクレーブから取り出した後、蒸留水で洗浄を行い、100℃で12時間乾燥させ、粉末状の生成物を得た。また生成物がMWW層状前駆体であることをSEMおよびXRD測定により確認した。
生成物の粉末XRDパターンを図2の(a)に示し、回折ピークを次の表2に示す。
【0028】
【表2】

【0029】
(2) 新規ゼオライト様物質IE−MWWの調製
あらかじめ乾燥した100mlナスフラスコに、前記(1)で製造したMWW層状前駆体を1.0gとり、所定量の蒸留水と混合した後に、シリル化剤としてジエトキシジメチルシランを0.10gを加えて、5分間室温でかく拌した。その後、硝酸を所定濃度となるように加えて、再び室温で5分間かく拌した。このとき硝酸の濃度は、0.3から1.0規定の範囲でIE−MWWが調製可能であるので、主として1.0規定で処理を行った。引き続き、還流条件下で24時間加熱処理した。加熱処理後、ろ過および蒸留水で洗浄を行い、100℃で12時間乾燥させ、粉末状の生成物を得た。得られたシリル化されたMWW層状前駆体の粉末XRDパターン図2の(b)に示し、回折ピークを次の表3に示す。
【0030】
【表3】

【0031】
さらに得られた生成物を焼成皿にとり、マッフル炉内にて、室温から550℃まで6時間かけて昇温、6時間保持、及び自然放冷の3工程からなる熱処理を行い、白色粉末であるIE−MWWを生成物として得た。この生成物は、図2の(c)に示す粉末XRDパターンを示し、その回折ピークを次の表4に示す。
【0032】
【表4】

【0033】
この結果から、層内の結晶構造を保持したまま、層間が拡張した新規構造体が得られていることがわかる。またこの生成物は、1辺0.5〜1.0μm、厚さ30〜50nmの薄い鱗片状の結晶形態であり、MWW層状前駆体と幾何学的に相似な構造変化によって、IE−MWWが生成していることがわかる。
【0034】
比較例1
MWW型ゼオライトの調製
前記した実施例1(1)で製造したMWW層状前駆体を焼成皿にとり、マッフル炉内にて、室温から550℃まで6時間かけて昇温、6時間保持、及び自然放冷の3工程からなる熱処理を行い、白色粉末であるMWW型ゼオライトを得た。また生成物がMWW型ゼオライトであることをSEMおよびXRD測定により確認した。
得られたMWW型ゼオライトの粉末XRDパターンを図2の(d)に示し、回折ピークを次の表5に示す。
【0035】
【表5】

【0036】
この結果、層の周期構造を示す回折ピークは、原料のMWW層状前駆体における6.56°付近から、7.12°付近に大きくなっており、焼成処理により、比較例1のMWW型ゼオライトでは層間内で向かい合う水酸基同士が脱水縮合するので、層の繰り返し間隔が25.1オングストロームまで縮まることが示された。
【0037】
また、MWW層状前駆体、本発明のIE−MWW、及び比較例1のMWW型ゼオライトの電子顕微鏡観察像を観察した。結果を図3に示す。さらに、本発明のIE−MWW、及び比較例1のMWW型ゼオライトのそれぞれの、チッ素吸・脱着等温線、及びシクロヘキサンの吸・脱着等温線をそれぞれ測定した。結果をそれぞれ図4、及び図5に示す。
【実施例2】
【0038】
シリカアルミナ比70であるIE−MWW、及び比較例1のMWW型ゼオライトを固体酸触媒として使用した。あらかじめ乾燥した20mlナスフラスコにアニソールを5.23g(48mmol)と無水酢酸0.50g(4.9mmol)を順次いれた後、触媒を50mg加え、室温で5分間かく拌した。その後、あらかじめ60℃に加熱した湯浴にナスフラスコを浸し、所定時間反応を行った。反応後は、遠心分離にて反応液から固体触媒を分離した後、ガスクロマトグラフにて反応物および生成物の定性・定量を行った。
結果を図6に示す。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明は、新規なMWW型ゼオライト、及びその製造方法を提供するものであり、簡便でかつ安定した操業が可能なMWW型ゼオライトの製造方法を提供するだけでなく、特異なマイクロ孔を有する新規なMWW型ゼオライトを提供するものであり、吸着剤や分子ふるい剤としてだけでなくゼオライトを利用する産業分野において有用であり、本発明は産業上の利用可能性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】図1は、MWW層状前駆体の骨格構造と、これを焼成することにより得られるMWW型ゼオライトの骨格構造、および、MWW層状前駆体の層間をシリル化後に焼成して得られる本発明のMWW型ゼオライト(IE−MWW)のとりうる骨格構造をそれぞれ模式的に図示したものである。
【図2】図2は、MWW層状前駆体、層間シリル化後の生成物、層間シリル化後に焼成して得られた本発明のMWW型ゼオライト(IE−MWW)、及びMWW層状前駆体を直接焼成して得られるMWW型ゼオライトの粉末XRDパターンを示す。
【図3】図3は、MWW層状前駆体、本発明のMWW型ゼオライト(IE−MWW)、及び比較例1のMWW型ゼオライトの電子顕微鏡観察像を示す図面に代わる写真である。
【図4】図4は、本発明のMWW型ゼオライト(IE−MWW)、及び比較例1のMWW型ゼオライトにおける、−196℃での窒素吸・脱着等温線を示す。
【図5】図5は、本発明のMWW型ゼオライト(IE−MWW)、及び比較例1のMWW型ゼオライトにおける、25℃でのシクロヘキサンの吸・脱着等温線を示す。
【図6】図6は、本発明のMWW型ゼオライト(IE−MWW)、及び比較例1のMWW型ゼオライトを固体酸触媒として、無水酢酸によるアニソールのアシル化を行った結果から、生成物であるパラメトキシアセトフェノンの収率の経時変化を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
MWW型ゼオライトの層状の前駆体にシリル化剤を添加した後、これを焼成することによりMWW型ゼオライトの層状の前駆体の層間距離が拡大されたマイクロ孔を有することを特徴とするMWW型ゼオライト。
【請求項2】
シリル化剤が、アルコキシモノシランである請求項1に記載のMWW型ゼオライト。
【請求項3】
アルコキシモノシランが、ジアルコキシジアルキルシランである請求項2に記載のMWW型ゼオライト。
【請求項4】
MWW型ゼオライトの粉末X線回折における2θの主ピークの角度(CuKα/度)が、MWW型ゼオライトの層状の前駆体の粉末X線回折における2θの主ピークの角度(CuKα/度)よりも小さいことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のMWW型ゼオライト。
【請求項5】
MWW型ゼオライトの層状の前駆体が、有機アミン又はその塩を鋳型として、水熱合成法により製造されたものである請求項1〜4のいずれかに記載のMWW型ゼオライト。
【請求項6】
有機アミン又はその塩が、ヘキサメチレンイミンである請求項5に記載のMWW型ゼオライト。
【請求項7】
MWW型ゼオライトの層状の前駆体にシリル化剤を添加した後、これを焼成して、当該層状の前駆体の層間がシリル基により架橋され、当該層状の前駆体の層間距離がシリル化剤により拡大されたマイクロ孔を有することを特徴とするMWW型ゼオライトを製造する方法。
【請求項8】
シリル化剤が、アルコキシモノシランである請求項7に記載の方法。
【請求項9】
アルコキシモノシランが、ジアルコキシジアルキルシランである請求項8に記載の方法。
【請求項10】
MWW型ゼオライトの層状の前駆体にシリル化剤を添加した後、さらに酸を加え加熱処理した後、焼成するものである請求項7〜9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
酸が、硝酸である請求項10に記載の方法。
【請求項12】
MWW型ゼオライトの層状の前駆体が、有機アミン又はその塩を鋳型として、水熱合成法により製造されたものである請求項7〜11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
有機アミン又はその塩が、ヘキサメチレンイミンである請求項12に記載の方法。
【請求項14】
シリル化剤の添加量が、MWW型ゼオライトの層状の前駆体に対して質量で、5質量%〜100質量%である請求項7〜13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
請求項1〜6のいずれかに記載のMWW型ゼオライトからなる固体酸触媒。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−162846(P2008−162846A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−354034(P2006−354034)
【出願日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【Fターム(参考)】