説明

ゼオライト構造体及びその製造方法

【課題】機械的強度に優れたゼオライト構造体を提供する。
【解決手段】ゼオライト粒子と、少なくとも塩基性塩化アルミニウムを含む無機結合材とを含有するゼオライト原料を押出成形した成形体から形成されてなる多孔質のゼオライト構造体であり、前記ゼオライト構造体の体積V1に対する、前記ゼオライト構造体中の無機結合材の体積V2の割合P1(P1=V2/V1×100)が、10〜50体積%であり、且つ、前記ゼオライト構造体の体積V1に対する、前記ゼオライト構造体中の無機結合材の体積V2の前記割合P1と、前記ゼオライト構造体の全細孔容量Vaに対する、気孔径が0.003〜0.03μmの細孔容量Vbの割合P2(P2=Vb/Va×100)と、が、下記式(1)の関係を満たすゼオライト構造体。
P2/P1≦1.0 ・・・ (1)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゼオライト構造体及びその製造方法に関する。更に詳しくは、機械的強度に優れたゼオライト構造体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ゼオライト(zeolite)は、微細で均一な径の細孔が形成された網目状の結晶構造を有する珪酸塩の一種であり、一般式:W2n・sHO(W:ナトリウム、カリウム、カルシウム等、Z:珪素、アルミニウム等、sは種々の値をとる)で示される種々の化学組成が存在するとともに、結晶構造についても細孔形状の異なる多くの種類(型)が存在することが知られている。これらのゼオライトは、各々の化学組成や結晶構造に基づいた固有の吸着能、触媒性能、固体酸特性、イオン交換能等を有しており、吸着材、触媒、触媒担体、ガス分離膜、或いはイオン交換体といった様々な用途において利用されている(例えば、特許文献1〜3を参照)。
【0003】
例えば、MFI型ゼオライト(「ZSM−5型ゼオライト」とも称される)は、結晶中の酸素10員環によって0.5nm程度の細孔が形成されたゼオライトであり、自動車排ガス中の窒素酸化物(NO)、炭化水素(HC)等を吸着させるための吸着材、或いはキシレン異性体からp−キシレンのみを選択的に分離するためのガス分離膜等の用途において利用されている。また、DDR(Deca−Dodecasil 3R)型ゼオライトは、結晶中の酸素8員環によって0.44×0.36nm程度の細孔が形成されたゼオライトであり、天然ガスやバイオガスから二酸化炭素のみを選択的に分離・除去し、燃料として有用なメタンの純度を向上させるためのガス分離膜等の用途において利用されている。
【0004】
また、自動車用エンジン、建設機械用エンジン、産業用定置エンジン、燃焼機器等から排出される排ガスに含有されるNO等を浄化するためや炭化水素等を吸着するために、コージェライト等からなるハニカム形状のセラミック担体(ハニカム構造体)に、イオン交換処理されたゼオライトが担持された触媒体が使用されている。
【0005】
上記コージェライト等から形成されたセラミック担体にゼオライトを担持させた場合、コージェライト等は、NO浄化、炭化水素の吸着等の作用を示さないため、コージェライト等が存在する分だけ、排ガスが通過するときの圧力損失が増大することになる。
【0006】
これに対し、ハニカム構造体自体を、金属イオンによりイオン交換処理されたゼオライトを含む成形原料を成形、焼成して、構造体を形成する方法が提案されている(例えば、特許文献4及び5を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−296521号公報
【特許文献2】特許第3272446号公報
【特許文献3】特開2009−000657号公報
【特許文献4】特開2008−169104号公報
【特許文献5】国際公開第2009/141878号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、このような従来のゼオライト構造体は、曲げ強度等の機械的強度が低いという問題があった。特に、ハニカム構造体自体をゼオライトによって形成する場合には、自動車の排気系内部に設置して使用するため、従来のゼオライト構造体では、自動車等の振動によって破損したり、変形してしまうという問題があった。
【0009】
また、従来のゼオライト構造体であっても、ゼオライト粒子を結合するための結合材を大量に含有させることにより、その機械的強度をある程度向上させることは可能であるが、ゼオライト構造体に含まれるゼオライトの比率が低下してしまうため、浄化性能が悪くなるという問題があった。
【0010】
本発明は、上述した問題に鑑みてなされたものであり、機械的強度に優れたゼオライト構造体及びその製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、前記のような従来技術の課題を解決するために鋭意検討した結果、骨材となるゼオライト粒子を結合させる無機結合材として、少なくとも塩基性塩化アルミニウムを含有する結合材を所定量用い、気孔径が0.003〜0.03μmの細孔容量の、全細孔容量に対する割合P2と、無機結合材の体積の、ゼオライト構造体の体積に対する割合P1とが、P2/P1≦1の関係を満たした、無機結合材によって緻密な結合部が形成されたゼオライト構造体とすることによって、上記課題が解決されることに想到し、本発明を完成させた。具体的には、本発明により、以下のゼオライト構造体及びその製造方法が提供される。
【0012】
[1] ゼオライト粒子と、少なくとも塩基性塩化アルミニウムを含む無機結合材とを含有するゼオライト原料を押出成形した成形体から形成されてなる多孔質のゼオライト構造体であり、前記ゼオライト構造体の体積V1に対する、前記ゼオライト構造体中の無機結合材の体積V2の割合P1(P1=V2/V1×100)が、10〜50体積%であり、且つ、前記ゼオライト構造体の体積V1に対する、前記ゼオライト構造体中の無機結合材の体積V2の前記割合P1と、前記ゼオライト構造体の全細孔容量Vaに対する、気孔径が0.003〜0.03μmの細孔容量Vbの割合P2(P2=Vb/Va×100)と、が、下記式(1)の関係を満たすゼオライト構造体。
P2/P1≦1.0 ・・・ (1)
【0013】
[2] 前記ゼオライト原料に含有される前記無機結合材が、前記ゼオライト粒子100質量%に対して、固形分換算で10〜30質量%に相当する量の前記塩基性塩化アルミニウムを含むものである前記[1]に記載のゼオライト構造体。
【0014】
[3] 前記ゼオライト原料に含有される前記無機結合材が、アルミナゾル、シリカゾル、チタニアゾル、ジルコニアゾル、セリアゾル、ベーマイト、モンモリロナイト、ハイドロタルサイト、水硬性アルミナ、シリコン樹脂、及び水ガラスからなる群より選択される少なくとも一種を更に含むものである前記[1]又は[2]に記載のゼオライト構造体。
【0015】
[4] 前記ゼオライト粒子のうちの少なくとも一部のゼオライト粒子が、ZSM−5型ゼオライト、β型ゼオライト、Y型ゼオライト、モルデナイト型ゼオライト、及びフェリエライト型ゼオライトからなる群から選択される少なくとも一種のゼオライトからなる粒子である前記[1]〜[3]のいずれかに記載のゼオライト構造体。
【0016】
[5] 前記ゼオライト粒子のうちの少なくとも一部のゼオライト粒子が、銅、鉄、ニッケル、亜鉛、マンガン、コバルト、銀、パラジウム、インジウム、セリウム、ガリウム、チタン、及びバナジウムからなる群より選択される少なくとも一種の金属のイオンによりイオン交換されたゼオライトからなる粒子である前記[1]〜[4]のいずれかに記載のゼオライト構造体。
【0017】
[6] 流体の流路となる一方の端面から他方の端面まで延びる複数のセルを区画形成する隔壁を備えたハニカム形状に成形されたものである前記[1]〜[5]のいずれかに記載のゼオライト構造体。
【0018】
[7] ゼオライト粒子と、前記ゼオライト粒子同士を結合させる無機結合材と、有機バインダと、を混合して、ゼオライト原料を調製する工程と、得られた前記ゼオライト原料を押出成形してゼオライト成形体を形成する工程と、得られた前記ゼオライト成形体を焼成して、ゼオライト構造体を作製する工程と、を備え、前記ゼオライト原料を調製する工程において、前記ゼオライト粒子100質量%に対して、固形分換算で10〜30質量%に相当する量の塩基性塩化アルミニウムを含む前記無機結合材を、焼成して得られる前記ゼオライト構造体の体積に対する、前記ゼオライト構造体中に含まれる無機結合材の体積の割合が、10〜50体積%となるように加えて前記ゼオライト原料を調製するゼオライト構造体の製造方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明のゼオライト構造体は、骨材となるゼオライト粒子を結合させる無機結合材として、少なくとも塩基性塩化アルミニウムを含有する無機結合材が所定量用いられたものであり、ゼオライト構造体の全細孔容量に対する、気孔径が0.003〜0.03μmの細孔容量の割合P2と、ゼオライト構造体中の無機結合材の体積の、ゼオライト構造体の体積に対する割合P1とが、P2/P1≦1.0の関係を満たしている。即ち、本発明のゼオライト構造体は、無機結合材による緻密な結合部が形成されており、押出成形して製造された多孔質体からなるゼオライト構造体の機械的強度、例えば、曲げ強度が極めて高いものとなる。
【0020】
また、本発明のゼオライト構造体の製造方法は、無機結合材による緻密な結合が実現され、機械的強度に優れた本発明のゼオライト構造体を、簡便且つ安価に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明のゼオライト構造体の一の実施形態を模式的に示す斜視図である。
【図2】図1のゼオライト構造体の表面に垂直な断面における、ゼオライト粒子と無機結合材との結合状態を模式的に示す拡大図である。
【図3】本発明のゼオライト構造体の他の実施形態を模式的に示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
次に本発明を実施するための形態を図面を参照しながら詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、適宜設計の変更、改良等が加えられることが理解されるべきである。
【0023】
(1)ゼオライト構造体:
本発明のゼオライト構造体の一の実施形態は、図1に示すように、複数のゼオライト粒子と、少なくとも塩基性塩化アルミニウムを含む無機結合材とを含有するゼオライト原料を押出成形した成形体から形成されてなる多孔質のゼオライト構造体100である。ここで、図1は、本発明のゼオライト構造体の一の実施形態を模式的に示す斜視図であり、図2は、図1のゼオライト構造体の表面に垂直な断面における、ゼオライト粒子と無機結合材との結合状態を模式的に示す拡大図である。
【0024】
このような多孔質のゼオライト構造体100は、図2に示すように、ゼオライト粒子32同士が、無機結合材33によって結合された多孔質体によって構成されている。具体的には、上述した所定のゼオライト原料を押出成形して形成された成形体(ゼオライト成形体)を、乾燥、焼成等の工程を経て製造された多孔質体からなるものである。なお、図2中の符号35は、多孔質体における細孔(即ち、空隙部分)を示す。
【0025】
そして、本実施形態のゼオライト構造体においては、ゼオライト構造体の体積V1に対する、ゼオライト構造体中の無機結合材の体積V2の割合P1(P1=V2/V1×100)が、10〜50体積%である。即ち、乾燥、焼成等の工程を経て製造された多孔質体(換言すれば、焼成体)において、その構造体全体に占める、無機結合材の体積の割合P1が、10〜50体積%である。なお、以下、この割合P1を、「無機結合材割合P1」ということがある。
【0026】
更に、本実施形態のゼオライト構造体は、上記「無機結合材割合P1」と、ゼオライト構造体の全細孔容量Vaに対する、気孔径が0.003〜0.03μmの細孔容量Vbの割合P2(P2=Vb/Va×100)と、が、下記式(1)の関係を満たすものである。なお、上記割合P2を、「微細孔割合P2」ということがある。
P2/P1≦1.0 ・・・ (1)
【0027】
このように構成することによって、本実施形態のゼオライト構造体は、無機結合材による緻密な結合が実現されており、少なくとも塩基性塩化アルミニウムを含む無機結合材を含有するゼオライト原料を押出成形した成形体から形成されてなる多孔質のゼオライト構造体の機械的強度、例えば、曲げ強度が極めて高いものとなる。
【0028】
より具体的には、塩基性塩化アルミニウムは水溶性物質であるため、ゼオライト原料中において、水溶液の状態で存在することとなる。このような水溶液の状態の塩基性塩化アルミニウム(塩基性塩化アルミニウム水溶液)は、従来無機結合材として用いられている、各種ゾルやベーマイト等の粒子状の無機結合材と比較して、水溶液が乾燥することによってゼオライト粒子を結合させるため、ゼオライト粒子を結合する結合部分が、より緻密なものとなる。
【0029】
これにより、乾燥及び焼成の工程を経て製造される多孔質体は、無機結合材によって形成される隙間、即ち、多孔質体に形成される細孔(気孔ともいう)の平均気孔径が大きくなり、ゼオライト構造体の全細孔容量Vaに対する、気孔径が0.003〜0.03μmの細孔容量Vbの割合P2(即ち、微細孔割合P2)と、上記無機結合材割合P1とが、上記式(1)の関係を満たすものとなる。そして、無機結合材自体は、それぞれがより緻密に結合するため、無機結合材による結合部分が太くなり、多孔質体からなるゼオライト構造体の機械的強度、例えば、曲げ強度が極めて高いものとなる。
【0030】
なお、無機結合材割合P1の算出に際し、「ゼオライト構造体の体積V1(真体積)」は、下記式(2)によって求められる値である。
【0031】
V1=V+V2 ・・・ (2)
V1:ゼオライト構造体の体積(真体積)
:ゼオライト粒子の体積
V2:(焼成後の)無機結合材の体積
【0032】
ゼオライト粒子の体積V及び(焼成後の)無機結合材の体積V2は、例えば、ゼオライト構造体を所定の箇所にて切断し、その断面の微構造写真から算出することができる。より具体的な上記体積の算出方法としては、例えば、まず、ゼオライト構造体を切断し、その切断を研磨する。次に、研磨した切断面を、走査型電子顕微鏡等によって撮像する。なお、断面の微構造を撮像する際には、1視野内に、ゼオライト粒子が10〜30個含まれる視野とすることが好ましい。
【0033】
得られた走査型電子顕微鏡写真(以下、「SEM写真」ということがある)を、画像解析ソフト(例えば、MEDIA CYBERNETICS社製の「Image−Pro Plus(商品名)」)を使用して、ゼオライト粒子と無機結合材とを分類し、ゼオライト粒子の粒子径或いは占有面積、及び無機結合材の占有面積を測定する。ゼオライト粒子の粒子径を測定する際には、少なくとも10視野(即ち、上記SEM写真10枚分)における平均値とする。
【0034】
更に、撮像されたゼオライト粒子の粒子径或いは占有面積、及び無機結合材の占有面積から、ゼオライト粒子の体積と(焼成後の)無機結合材の体積とを算出する。このため、本明細書において、「ゼオライト粒子の体積」とは、各ゼオライト粒子の体積の合計値、即ち、ゼオライト粒子の相互の隙間(空隙)を含まない体積のことを意味する。
【0035】
また、原料段階(即ち、製造段階)で使用するゼオライト粒子の質量、及び無機結合材の質量が予め判明している場合、或いは、製造段階において各原料成分の体積が測定可能な場合には、原料段階において無機結合材割合P1を算出してもよい。このような方法によって無機結合材割合P1を求めることにより、極めて簡便に無機結合材割合P1を得ることができる。以下、原料段階において無機結合材割合P1を算出する方法について説明する。
【0036】
上記式(2)中の「V:ゼオライト粒子の体積」は、下記式(3)によって求めることができる。
【0037】
=M/D ・・・ (3)
:ゼオライト粒子の体積
:ゼオライト粒子の質量
:ゼオライトの密度(1.85g/cm
【0038】
また、上記式(2)中の「V2:(焼成後の)無機結合材の体積」は、下記式(4)によって求めることができる。なお、下記式(4)中、「MB2:焼成後の無機結合材の質量」は、下記式(5)によって求めた値であり、下記式(4)中の「DB2:焼成後の無機結合材の密度」及び下記式(5)中の「m:無機結合材の焼成前後での質量変化率」は、予め、無機結合材のみを用いて焼成することによって求めておいた値である。
【0039】
V2=MB2/DB2 ・・・ (4)
V2:焼成後の無機結合材の体積
B2:焼成後の無機結合材の質量
B2:焼成後の無機結合材の密度
【0040】
B2=MB1×m ・・・ (5)
B2:焼成後の無機結合材の質量
B1:焼成前の無機結合材の質量
:無機結合材の焼成前後での質量変化率
【0041】
また、上記微細孔割合P2の算出に際し、「ゼオライト構造体の全細孔容量Va」は、気孔径0.003〜180μmの単位質量あたりの細孔容量(cc/g)とし、「気孔径が0.003〜0.03μmの細孔容量Vb」は、気孔径0.003〜0.03μmの単位質量あたりの細孔容量(cc/g)とする。
【0042】
なお、上記「ゼオライト構造体の全細孔容量Va」及び「気孔径が0.003〜0.03μmの細孔容量Vb」は、水銀圧入法によって測定された値である。なお、細孔容積の測定は、例えば、Quantachrome社製の全自動多機能水銀ポロシメータ「PoreMaster60GT(商品名)」によって測定することができる。
【0043】
なお、上記無機結合材割合P1が、10体積%未満であると、無機結合材の量が少なすぎて、ゼオライト粒子同士を良好に結合することが困難となり、ゼオライト構造体の機械的強度が著しく低下する。一方、上記無機結合材割合P1が、50体積%超であると、無機結合材が多すぎて、相対的なゼオライト粒子の割合が低下し、例えば、NO等を浄化するため浄化性能や、炭化水素等を吸着する吸着性能等のゼオライトの機能性が著しく低下してしまう。
【0044】
また、本実施形態のゼオライト構造体においては、「無機結合材割合P1」に対する、「微細孔割合P2」の比の値(即ち、「P2/P1」)が、1以下であることが必要である。即ち、「無機結合材割合P1」と「微細孔割合P2」とが、上記式(1)の関係を満たす必要がある。P2/P1の値が、1を超えると、無機結合材割合P1に対して、微細孔割合P2が大きくなり過ぎて、ゼオライト構造体の機械的強度、例えば、曲げ強度が低下することがある。なお、ゼオライト構造体の機械的強度は、ゼオライト構造体中のゼオライト量(換言すれば、ゼオライト粒子の量)によっても変化するため、単に、「微細孔割合P2」のみを規定しただけでは、必ずしもゼオライト構造体の機械的強度を向上させる効果が発現するものではない。本実施形態のゼオライト構造体においては、「無機結合材割合P1」に対する、「微細孔割合P2」の比の値(即ち、「P2/P1」)を規定することにより、特定のゼオライト量において、微細孔の容量が少ないゼオライト構造体とすることができ、機械的強度に優れたものとすることができる。
【0045】
(1−1)ゼオライト粒子:
ゼオライト粒子は、本実施形態のゼオライト構造体の骨材となるものである。このようなゼオライト粒子は、無機結合材によってゼオライト粒子同士が結合されて一つの構造体を形成している。
【0046】
本実施形態のゼオライト構造体に用いられるゼオライト粒子については特に制限はなく、従来公知のゼオライトからなる粒子を用いることができる。ゼオライトの種類等については特に制限はないが、例えば、複数のゼオライト粒子のうちの少なくとも一部のゼオライト粒子が、ZSM−5型ゼオライト、β型ゼオライト、Y型ゼオライト、モルデナイト型ゼオライト、及びフェリエライト型ゼオライトからなる群から選択される少なくとも一種のゼオライトからなる粒子であることが好ましい。これらのゼオライト中でも、良好な浄化性能ならびに良好な吸着性能を有することから、ZSM−5型ゼオライト、及びβ型ゼオライトが好ましい。ゼオライト粒子は、上記したゼオライトのうち、一種類のゼオライトからなる粒子であってもよいし、複数種類のゼオライトの粒子の混合物であってもよい。
【0047】
ゼオライト粒子の大きさについても特に制限はないが、例えば、平均粒子径が、0.1〜100μmであることが好ましく、0.5〜50μmであることが更に好ましく、0.7〜20μmであることが特に好ましい。ゼオライト粒子の平均粒子径が0.1μm未満では、耐熱性が低下することがあり、100μm超では、ゼオライト粒子を含有するゼオライト原料を押出成形する際に、ゼオライト粒子が大き過ぎて、押出成形が困難になることがある。
【0048】
なお、ゼオライト粒子の平均粒子径は、上述したゼオライト粒子の体積の算出(即ち、無機結合材割合P1の算出)に用いられるSEM写真から、上記画像解析ソフトを用いて粒子径を測定し、そのゼオライト粒子の粒度分布を求めることによって得ることができる。なお、上記画像解析ソフトによる粒子径の測定においては、各粒子が円であった場合の直径を、その粒子の粒子径として測定することができる。また、各ゼオライト粒子の粒子径を測定する際には、少なくとも10視野(即ち、上記SEM写真10枚分)における平均値とする。
【0049】
また、原料段階(即ち、製造段階)で使用するゼオライト粒子の平均粒子径が測定可能な場合には、この原料段階にてゼオライト粒子の平均粒子径を測定することもできる。このような方法によってゼオライト粒子の平均粒子径を求めることにより、極めて簡便に平均粒子径を得ることができる。本実施形態における「平均粒子径」とは、粒子(例えば、ゼオライト粒子)の粒子径分布におけるメジアン径(d50)のことである。なお、平均粒子径は、JIS R1629に準拠して、レーザー回折散乱法にて測定した値である。なお、ゼオライト粒子の平均粒子径は、例えば、堀場製作所製のレーザー回折/散乱式粒度分布測定装置:「LA−920(商品名)」によって測定することができる。
【0050】
また、本実施形態のゼオライト構造体は、金属イオンによりイオン交換されたゼオライト(ゼオライト粒子)により形成されたものであることが好ましい。このような金属イオンによりイオン交換されたゼオライトは、触媒機能に優れており、例えば、排ガス中の窒素酸化物(NO)の処理等を良好に行うことができる。
【0051】
具体的には、複数のゼオライト粒子のうちの少なくとも一部のゼオライト粒子が、銅、鉄、ニッケル、亜鉛、マンガン、コバルト、銀、パラジウム、インジウム、セリウム、ガリウム、チタン、及びバナジウムからなる群より選択される少なくとも一種の金属のイオンによりイオン交換されたゼオライトからなる粒子であることが好ましい。例えば、鉄イオンや銅イオンによりイオン交換することによって、良好なNO浄化性能となり、また、銅イオンや銀イオンによりイオン交換することによって、良好な炭化水素吸着能を発現させることができる。
【0052】
なお、特に限定されることはないが、金属イオンでのイオン交換量(M+/Alイオンモル比)は、0.3〜2.0であることが好ましく、0.7〜1.5であることが更に好ましく、0.9〜1.2であることが特に好ましい。なお、イオン交換量は、例えば、セイコーインスツル社製の誘導結合プラズマ質量分析装置:「SPQ9000(商品名)」によって測定することができる。なお、上述したイオン交換量は、ゼオライト中のアルミニウムイオン(Alイオン)に対する、金属イオンの価数(M+)のモル比(「M+/Alイオン」)のことである。なお、イオン交換量が少ない(例えば、0.3未満である)と触媒性能が低くなり、一方、イオン交換量が多過ぎる(例えば、2.0超である)と、触媒性能が飽和して、イオン交換による効果が発現し難くなることがある。なお、イオン交換量としては、交換後のゼオライト粒子の質量に対する、金属イオンの質量の割合(質量%)として示すこともできる。
【0053】
なお、ゼオライト粒子がイオン交換されたものである場合には、結合材によって結合される前の粉体の状態でイオン交換されたものであってもよいし、結合材によって結合された後のゼオライト構造体の状態でイオン交換されたものであってもよい。なお、製造工程がより簡便であることから、粉体の状態でイオン交換されたもの(即ち、原料の状態で予めイオン交換されたもの)であることがより好ましい。
【0054】
(1−2)無機結合材:
無機結合材は、これまでに説明した骨材としてのゼオライト粒子同士を結合させるための結合材である。
【0055】
本実施形態のゼオライト構造体においては、上述したように、ゼオライト構造体の体積V1に対する、ゼオライト構造体中の無機結合材の体積V2の割合P1(P1=V2/V1×100)が、10〜50体積%である。更に、ゼオライト原料の調製の際に使用される無機結合材として(乾燥及び焼成前の無機結合材)として、少なくとも塩基性塩化アルミニウムを含む無機結合材が用いられる。なお、ゼオライト原料の調製の際に使用される無機結合材としての塩基性塩化アルミニウムは、押出成形された成形体が焼成されることによって、多孔質体(ゼオライト構造体)においては、酸化アルミニウムの状態で無機結合材として存在している。
【0056】
塩基性塩化アルミニウムは、水溶性物質であるため、ゼオライト原料中において、無機結合材として水溶液の状態で存在する。このような水溶液の状態の塩基性塩化アルミニウム(塩基性塩化アルミニウム水溶液)は、従来無機結合材として用いられている、各種ゾルやベーマイト等の粒子状の無機結合材と比較して、水溶液が乾燥することによってゼオライト粒子を結合させるため、ゼオライト粒子を結合する結合部分が、より緻密なものとなる。これにより、無機結合材による結合部分が太くなり(換言すれば、結合部分が緻密になることによって、比較的に小さい気孔径の細孔(具体的には、気孔径が0.003〜0.03μmの細孔)が少なくなり)、多孔質体からなるゼオライト構造体の機械的強度、例えば、曲げ強度が極めて高いものとなる。
【0057】
なお、ゼオライト構造体の体積V1に対する、ゼオライト構造体中の無機結合材の体積V2の割合P1は、10〜50体積%であるが、10〜30体積%であることが好ましく、15〜25体積であることが更に好ましい。このように構成することによって、機械的強度の向上と、ゼオライトの機能性の向上とをバランスよく両立させることができる。即ち、無機結合材割合P1が、10体積%未満であると、ゼオライト構造体の機械的強度が低下することがあり、50体積%超であると、無機結合材が多くなり、ゼオライトの機能性が低下してしまうことがある。
【0058】
なお、ゼオライト原料に含有される無機結合材は、ゼオライト粒子の100質量%に対して、固形分換算で10〜30質量%に相当する量の塩基性塩化アルミニウムを含むものであることが好ましく、15〜30質量%含むものであることが更に好ましく、20〜30質量%含むものであることが特に好ましい。このように構成することによって、緻密な結合部分を形成する塩基性塩化アルミニウムの量を十分に確保することができ、ゼオライト構造体の機械的強度を良好に向上させることができる。また、このような量の塩基性塩化アルミニウムが含まれていると、上記「無機結合材割合P1」に対する、「微細孔割合P2」の比の値を1以下(即ち、上記式(1)の関係を満たすもの)とすることができる。なお、塩基性塩化アルミニウムの量が、ゼオライト粒子100質量%に対して、固形分換算で10質量%未満であると、ゼオライト構造体の機械的強度を十分に向上させることができないことがあり、30質量%を超えると、ゼオライト原料中に含有される有機バインダの機能を阻害し、保水性が低下するため、ゼオライト原料を押出成形することが困難になることがある。
【0059】
なお、上記「固形分換算」とは、常温(20℃)で液体として存在する成分を除いた残留分を意味する。即ち、「固形分換算の質量」は、無機結合材が水溶液等の溶液の場合に、溶液中に含まれる無機結合材の固形分に相当する質量である。例えば、塩基性塩化アルミニウムの質量というときは、[Al(OH)Cl6−nの質量のことをいう(但し、0<n<6、1≦m≦10である)。例えば、塩基性塩化アルミニウムが水溶液である場合の、固形分換算の質量は、大気中において、120℃の温度で24時間乾燥させた際の乾燥体(固形分)の質量とする。
【0060】
ゼオライト原料に含有される無機結合材は、上述した塩基性塩化アルミニウム以外に、更に別の無機結合材を含んでいてもよい。このような無機結合材としては、例えば、アルミナゾル、シリカゾル、チタニアゾル、ジルコニアゾル、セリアゾル、ベーマイト、モンモリロナイト、ハイドロタルサイト、塩基性塩化アルミニウム、水硬性アルミナ、シリコン樹脂、及び水ガラスからなる群より選択される少なくとも一種を挙げることができる。
【0061】
(1−3)ゼオライト原料:
ゼオライト原料は、本実施形態のゼオライト構造体を形成するための成形体を成形するための原料であり、これまでに説明した、ゼオライト粒子と無機結合材とを含有するものである。
【0062】
なお、ゼオライト原料中には、水が含有されていることが好ましい。ゼオライト原料中の水の含有量は、ゼオライト粒子100質量%に対して、30〜70質量%が好ましい。
【0063】
また、ゼオライト原料中には、有機バインダを含有させ、分散剤等を更に含有させてもよい。有機バインダとしては、例えば、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシルメチルセルロース、ポリビニルアルコール等を挙げることができる。なお、本実施形態のゼオライト構造体においては、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロースを好適に用いることができる。このような有機バインダは、塩基性塩化アルミニウム水溶液との相溶性が高いため、有機バインダの機能を阻害し難く、ゼオライト原料の保水性を良好に保つことができる。また、分散剤としては、例えば、脂肪酸、アクリル酸、ソルビタン酸、デキストリン、ポリアルコール等を挙げることができる。
【0064】
(1−4)ゼオライト構造体:
本実施形態のゼオライト構造体は、これまでに説明したゼオライト粒子と無機結合材とを含有するゼオライト原料を押出成形した成形体から形成されてなるものであり、ゼオライト粒子が無機結合材によって結合された多孔質体となっている。より具体的には、上記成形体を焼成することによって得られた焼成体からなるゼオライト構造体である。
【0065】
なお、本実施形態のゼオライト構造体の気孔率及び気孔径(細孔径)は、二つの観点で考える必要がある。第一の観点は、ゼオライト(ゼオライト粒子)が結晶構造体として細孔を有する物質であるために、ゼオライトの種類に特有の値であり、ゼオライトの種類が決まれば決まる細孔に関するものである。例えば、ZSM−5型ゼオライトの場合は、酸素10員環の細孔を有し、細孔径が約0.5〜0.6nmである。また、β型ゼオライトの場合は、酸素12員環の細孔を有し、細孔径が約0.5〜0.75nmである。第二の観点は、ゼオライト構造体が、ゼオライト粒子(ゼオライトの結晶粒子)が結合材とともに一体化したものであるため、ゼオライト構造体(多孔質体)としての気孔率、気孔径である。
【0066】
本実施形態のゼオライト構造体においては、気孔率が20〜60%であることが好ましく、30〜50%であることが更に好ましく、30〜40%であることが特に好ましい。なお、上記気孔率は、水銀圧入法によって測定した気孔径0.003〜180μmの単位質量あたりの細孔容量と、ゼオライト構造体の密度を用いて下記式(6)にて計算した値である。
気孔率=[ゼオライト構造体の密度]/[ゼオライト構造体の密度+1/細孔容量]×100 ・・・ (6)
【0067】
なお、細孔容量は、Quantachrome社製の全自動多機能水銀ポロシメータ「PoreMaster60GT(商品名)」にて測定した。また、ゼオライト構造体の密度は、ゼオライト粒子の密度を1.85g/cmとし、焼成後の無機結合材の密度を、micrometrics社製の乾式自動密度計「アキュピック1330(商品名)」にて測定した値とし、ゼオライト粒子の質量と焼成後の無機結合材の質量の合計値を、ゼオライト粒子の体積と焼成後の無機結合材の体積の合計値で除することによって算出した。
【0068】
なお、本実施形態のゼオライト構造体においては、これまでに説明したように、無機結合材割合P1と微細孔割合P2とが、上記式(1)の関係を満たすものであるが、無機結合材割合P1に対する微細孔割合P2の比の値(P2/P1)の下限値は、製造可能な観点より、例えば、0.01である。なお、特に限定されることはないが、上記比の値(P2/P1)は、0.01〜0.7であることが好ましく、0.01〜0.5であることが更に好ましい。このように構成することによって、ゼオライト構造体の機械的強度をより向上させることができる。
【0069】
ゼオライト構造体は、押出形成によって形成されたものであれば、その形状については特に制限はなく、例えば、ガスの浄化や分離に利用可能なものであればよい。例えば、膜状、板状(例えば、図1参照)、筒状等の形状であってもよいし、図3に示すように、流体の流路となる一方の端面11から他方の端面12まで延びる複数のセル2を区画形成する隔壁1を備えたハニカム形状に成形されたもの(ゼオライト構造体100a)であってもよい。ここで、図3は、本発明のゼオライト構造体の他の実施形態を模式的に示す斜視図である。
【0070】
このようなハニカム形状とすることにより、自動車用エンジン、建設機械用エンジン、産業用定置エンジン、燃焼機器等から排出される排ガスに含有されるNO等を浄化するためや炭化水素等を吸着するためのハニカム構造体を、ゼオライト構造体によって形成することが可能となる。即ち、従来使用されていた、コージェライト等のセラミック担体を用いる必要がないため、セラミック担体を用いた場合と比較して圧力損失を極めて低いものとすることができる。このため、例えば、ゼオライト構造体により多くの触媒を担持することも可能となる。そして、本実施形態のゼオライト構造体は、極めて高い強度を有しているため、自動車の排気系内部に設置して使用したとしても、振動等による破損や変形も生じ難くなっている。
【0071】
また、ゼオライト構造体をハニカム形状とする場合には、セル2の延びる方向に直交する断面における面積が、300〜200000mmであることが好ましい。300mmより小さいと、排ガスを処理することができる面積が小さくなることがあるのに加えて、圧力損失が高くなる。200000mmより大きいと、ゼオライト構造体の強度が低下することがある。
【0072】
また、本実施形態のゼオライト構造体100aは、図3に示すように、隔壁1全体の外周を取り囲むように配設された外周壁4を備えることが好ましい。外周壁の材質は、必ずしも隔壁と同じ材質である必要はないが、外周部の材質が耐熱性や熱膨張係数等の物性の観点で大きく異なると隔壁の破損等の問題が生じる場合があるので、主として同じ材質を含むか、同等の物性を有する材料を主として含有することが好ましい。外周壁は、押出成形により、隔壁と一体的に形成されたものであっても、成形後に外周部を所望形状に加工し、外周部にコーティングするものであってもよい。
【0073】
ハニカム形状のゼオライト構造体における、セルの形状(即ち、セルが延びる方向に直交する断面におけるセルの形状)としては、特に制限はなく、例えば、三角形、四角形、六角形、八角形、円形、或いはこれらの組合せを挙げることができる。
【0074】
ハニカム形状のゼオライト構造体における、隔壁の厚さは、50μm〜2mmであることが好ましく、100μm〜350μmであることが更に好ましい。50μmより薄いと、ゼオライト構造体の強度が低下することがある。2mmより厚いと、浄化性能が低くなったり、ゼオライト構造体にガスが流通するときの圧力損失が大きくなったりすることがある。また、ハニカム形状のゼオライト構造体の最外周を構成する外周壁4の厚さは、10mm以下であることが好ましい。10mmより厚いと、排ガス浄化処理を行う面積が小さくなることがある。
【0075】
また、ハニカム形状のゼオライト構造体のセル密度は、特に制限されないが、7.8〜155.0セル/cmであることが好ましく、31.0〜93.0セル/cmであることが更に好ましい。155.0セル/cmより大きいと、ゼオライト構造体にガスが流通するときの圧力損失が大きくなることがある。7.8セル/cmより小さいと、排ガス浄化処理を行う面積が小さくなることがある。
【0076】
ハニカム形状のゼオライト構造体の全体の形状は特に限定されず、例えば、円筒形状、オーバル形状等、所望の形状とすることができる。また、ゼオライト構造体の大きさは、例えば、円筒形状の場合、底面の直径が20〜500mmであることが好ましく、70〜300mmであることが更に好ましい。また、ゼオライト構造体の中心軸方向の長さは、10〜500mmであることが好ましく、30〜300mmであることが更に好ましい。
【0077】
(2)ゼオライト構造体の製造方法:
次に、本発明のゼオライト構造体の製造方法の一の実施形態について説明する。本発明のゼオライト構造体の製造方法の一の実施形態は、上述した、本発明のゼオライト構造体の一の実施形態を製造するものである。
【0078】
本実施形態のゼオライト構造体の製造方法は、複数のゼオライト粒子と、ゼオライト粒子同士を結合させる無機結合材と、有機バインダと、を混合して、ゼオライト原料を調製する工程(以下、「ゼオライト原料調製工程」ということがある)と、得られたゼオライト原料を押出成形してゼオライト成形体を形成する工程(以下、「押出成形工程」ということがある)と、得られたゼオライト成形体を焼成して、ゼオライト構造体を作製する工程(以下、「焼成工程」ということがある)と、を備えたものである。
【0079】
そして、本実施形態のゼオライト構造体の製造方法においては、上記ゼオライト粒子100質量%に対して、固形分換算で10〜30質量%に相当する量の塩基性塩化アルミニウムを含む前記無機結合材を、焼成して得られるゼオライト構造体の体積に対する、ゼオライト構造体中に含まれる無機結合材の体積の割合が、10〜50体積%となるように加えてゼオライト原料を調製するものである。
【0080】
このように構成することによって、これまでに説明した本実施形態のゼオライト構造体を簡便且つ安価に製造することができる。なお、押出成形するゼオライト成形体の形状については特に制限はなく、図1に示すゼオライト構造体100のように板状のものであってもよいし、図3にゼオライト構造体100aのようにハニカム形状のものであってもよい。
【0081】
以下に、本実施形態のゼオライト構造体の製造方法について更に詳細に説明する。
【0082】
(2−1)ゼオライト原料調製工程:
本実施形態のゼオライト構造体の製造方法においては、まず、複数のゼオライト粒子と、ゼオライト粒子同士を結合させる無機結合材と、有機バインダと、を混合して、ゼオライト原料を調製する。この際、上述したように、無機結合材として、「ゼオライト粒子の100質量%に対して、固形分換算で10〜30質量%に相当する量の塩基性塩化アルミニウム」を含む無機結合材を用意し、焼成して得られるゼオライト構造体の体積(即ち、焼成後のゼオライト構造体の体積)に対する、ゼオライト構造体中に含まれる無機結合材の体積の割合(即ち、焼成後の無機結合材の体積の割合)が、10〜50体積%となるように加えてゼオライト原料を調製する。なお、焼成後のゼオライト構造体の体積、及び焼成後の無機結合材の体積については、上記式(2)〜(5)によって算出することができる。例えば、使用する無機結合材のみを焼成することによって、無機結合材の焼成前後での質量変化率を求め、ゼオライト原料に用いる無機結合材の量(質量、或いは、質量から算出される体積)を決定することが好ましい。
【0083】
ゼオライト粒子としては、ZSM−5型ゼオライト、β型ゼオライト、Y型ゼオライト、モルデナイト型ゼオライト、及びフェリエライト型ゼオライトからなる群から選択される少なくとも一種のゼオライトからなる粒子を用いることができる。なお、このようなゼオライト粒子は、本発明のゼオライト構造体の実施形態にて説明したものと同様に構成されたものであることが好ましい。
【0084】
また、ゼオライト粒子は、金属イオンによるイオン交換処理を行ったものであってもよい。このようなゼオライト粒子を用いることによって、触媒機能に優れたゼオライト構造体を簡便に製造することができる。なお、イオン交換処理については、ゼオライト構造体を製造した後に行うことも可能である。
【0085】
なお、ゼオライト粒子或いはゼオライト構造体に対して、金属イオンでイオン交換する処理を施す方法としては、以下の方法を挙げることができる。
【0086】
イオン交換する金属イオンを含有するイオン交換用溶液(金属イオン含有溶液)を調製する。例えば、銀イオンでイオン交換する場合には、硝酸銀、又は酢酸銀の水溶液を調製する。また、銅イオンでイオン交換する場合には、酢酸銅、硫酸銅、又は硝酸銅の水溶液を調製する。また、鉄イオンでイオン交換する場合には、硫酸鉄、又は酢酸鉄の水溶液を調製する。イオン交換用溶液の濃度は、0.005〜0.5(モル/リットル)が好ましい。そして、イオン交換用溶液に、ゼオライト粒子を浸漬する。浸漬時間は、イオン交換させたい金属イオンの量等によって適宜決定することができる。そして、ゼオライト粒子をイオン交換用溶液から取り出し、乾燥及び仮焼を行うことによりイオン交換されたゼオライト粒子を得ることができる。乾燥条件は、80〜150℃で、1〜10時間が好ましい。仮焼の条件は、400〜600℃で、1〜10時間が好ましい。
【0087】
無機結合材は、少なくとも塩基性塩化アルミニウムを含むものであり、アルミナゾル、シリカゾル、チタニアゾル、ジルコニアゾル、セリアゾル、ベーマイト、モンモリロナイト、ハイドロタルサイト、水硬性アルミナ、シリコン樹脂、及び水ガラスからなる群より選択される少なくとも一種を更に含んでいてもよい。
【0088】
なお、ゼオライト原料中の無機結合材の量は、焼成して得られるゼオライト構造体の体積に対する、ゼオライト構造体中に含まれる無機結合材の体積の割合が、10〜50体積%となる量であるが、10〜30体積%となる量であることが好ましく、15〜25体積%となる量であることが更に好ましい。このように構成することによって、得られるゼオライト構造体の機械的強度の向上と、ゼオライトの機能性の向上とをバランスよく両立させることができる。
【0089】
また、この無機結合材には、ゼオライト粒子の100質量%に対して、固形分換算で10〜30質量%に相当する量の塩基性塩化アルミニウムが含まれており、これにより、緻密な結合部分を形成する塩基性塩化アルミニウムの量を十分に確保することができ、ゼオライト構造体の機械的強度を良好に向上させることができる。なお、上記したように、無機結合材全体の使用量は、焼成後のゼオライト構造体及び無機結合材の体積から算出されるものであるが、塩基性塩化アルミニウムの含有量については、ゼオライト原料における固形分換算の質量(乾燥体の質量)によって算出される。
【0090】
なお、無機結合材に、上述した量の塩基性塩化アルミニウムが含まれていると、「無機結合材割合P1」に対する、「微細孔割合P2」の比の値(即ち、「P2/P1」)を、1以下とすることができる。即ち、「無機結合材割合P1」と「微細孔割合P2」とが上記式(1)の関係を満たすゼオライト構造体を簡便に製造することが可能となる。なお、塩基性塩化アルミニウムの固形分換算の質量が、ゼオライト粒子の100質量%に対して、10質量%未満であると、ゼオライト構造体の機械的強度を十分に向上させることができないことがあり、30質量%を超えると、ゼオライト原料中に含有される有機バインダの機能を阻害し、保水性が低下するため、ゼオライト原料を押出成形することが困難になることがある。
【0091】
なお、無機結合材中の塩基性塩化アルミニウムは、ゼオライト粒子の100質量%に対して、固形分換算で15〜30質量%に相当する量であることが好ましく、20〜30質量%に相当する量であることが更に好ましい。
【0092】
なお、無機結合材としての塩基性塩化アルミニウムは、ゼオライト原料に含まれる水分に溶解し、ゼオライト原料中においては水溶液の状態で存在する。このため、塩基性塩化アルミニウムとして粉末状のものを用いることも可能であるが、塩基性塩化アルミニウムの溶け残りが生じないように、予め水溶液の状態のものを用いることが好ましい。このような塩基性塩化アルミニウムとしては、例えば、多木化学社製の「タキバイン#1500(商品名):液体」や「タキバイン#3000(商品名):粉末」を挙げることができる。
【0093】
ゼオライト原料中には、水が含有されていることが好ましい。ゼオライト原料中の水の含有量は、ゼオライト粒子100質量%に対して、30〜70質量%が好ましい。
【0094】
また、ゼオライト原料中には、有機バインダを含有させる。有機バインダとしては、例えば、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール等を挙げることができる。本実施形態のゼオライト構造体の製造方法においては、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロースを好適に用いることができる。このような有機バインダは、塩基性塩化アルミニウム水溶液との相溶性が高いため、有機バインダの機能を阻害し難く、ゼオライト原料の保水性を良好に保つことができる。
【0095】
また、ゼオライト原料中には、分散剤等を更に含有させてもよい。分散剤としては、例えば、脂肪酸、アクリル酸、ソルビタン酸、デキストリン、ポリアルコール等を挙げることができる。
【0096】
ゼオライト粒子、無機結合材、及び有機バインダを少なくとも含有するゼオライト原料を混合する方法については、特に制限はなく、公知の方法を採用することができる。例えば、本田鐵工社製の双腕型ニーダーを用いて、乾式(即ち、水を加えずに)で10〜30分間混合し、その後、混合物に更に水を加えて、混合物の粘度を調整しながら、20〜60分間、混合及び混練する方法を挙げることができる。
【0097】
(2−2)押出成形工程:
次に、得られたゼオライト原料を所定の形状に押出成形して、ゼオライト成形体を形成する。なお、ゼオライト成形体をハニカム形状に成形する場合には、例えば、まず、ゼオライト原料を混練して円柱状の成形体を形成し、円柱状の成形体を押出成形して、ハニカム形状のゼオライト成形体を形成することが好ましい。ゼオライト原料(成形原料)を混練して円柱状の成形体を形成する方法としては特に制限はなく、例えば、ニーダー、真空土練機等を用いる方法を挙げることができる。押出成形に際しては、所望の全体形状、セル形状、隔壁厚さ、セル密度等を有する口金を用いることが好ましい。口金の材質としては、摩耗し難い金属が好ましい。
【0098】
得られたハニカム形状の成形体について、焼成前に乾燥を行うことが好ましい。乾燥の方法は特に限定されず、例えば、マイクロ波加熱乾燥、高周波誘電加熱乾燥等の電磁波加熱方式と、熱風乾燥、過熱水蒸気乾燥等の外部加熱方式とを挙げることができる。これらの中でも、成形体全体を迅速かつ均一に、クラックが生じないように乾燥することができる点で、電磁波加熱方式で一定量の水分を乾燥させた後、残りの水分を外部加熱方式により乾燥させることが好ましい。特に、このような乾燥を行うことにより、塩基性塩化アルミニウム水溶液の乾燥によって、無機結合材から水分が蒸発し、無機結合材が緻密なものとなる。
【0099】
また、ゼオライト成形体を焼成(本焼成)する前には、そのゼオライト成形体を仮焼することが好ましい。仮焼は、脱脂のために行うものであり、その方法は、特に限定されるものではなく、中の有機物(有機バインダ、分散剤等)を除去することができればよい。仮焼の条件としては、酸化雰囲気において、200〜500℃程度で、1〜20時間程度加熱することが好ましい。
【0100】
(2−3)焼成工程:
次に、ゼオライト成形体を焼成して、所定の形状のゼオライト構造体を得る。従って、「焼成したゼオライト成形体」は、「ゼオライト構造体」のことである。焼成の方法は特に限定されず、電気炉、ガス炉等を用いて焼成することができる。焼成条件は、大気雰囲気において、500〜750℃で、1〜10時間加熱することが好ましい。
【0101】
このような、乾燥、及び焼成工程を行うことによって、ゼオライト粒子が無機結合材によって結合される際に、無機結合材として含まれる塩基性塩化アルミニウム溶液(塩基性塩化アルミニウム水溶液)が乾燥することにより結合部分が形成され、より緻密な結合部分を形成することができる。これにより、無機結合材によって形成される隙間、即ち、多孔質体に形成される気孔の平均気孔径が大きくなり、ゼオライト構造体の全細孔容量Vaに対する、気孔径が0.003〜0.03μmの細孔容量Vbの割合P2と、ゼオライト構造体の体積V1に対する、ゼオライト構造体中の無機結合材の体積V2の割合P1とが、上記式(1)の関係を満たすものとすることが可能となる。そして、無機結合材自体は、それぞれがより緻密に結合するため、無機結合材による結合部分が太くなり、多孔質体からなるゼオライト構造体の機械的強度、例えば、曲げ強度が極めて高いものとなる。なお、乾燥によって形成された塩基性塩化アルミニウムの結合部分(無機結合材)は、焼成工程によって、酸化アルミニウムによって構成された結合部分となっている。
【0102】
また、ゼオライト粒子として、イオン交換処理されたゼオライト粒子を用いなかった場合には、焼成したゼオライト成形体に対して、金属イオンでイオン交換する処理を施してもよい。
【実施例】
【0103】
以下、本発明を実施例によって更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0104】
(実施例1)
ゼオライト粒子として、β型ゼオライトからなり、銅イオンで3質量%イオン交換された、平均粒子径が0.7μmのゼオライト粒子を用意した。
【0105】
また、無機結合材として、塩基性塩化アルミニウムの含有量が32質量%の塩基性塩化アルミニウム溶液(多木化学社製の「タキバイン#1500(商品名)」)と、比表面積が130m/gのベーマイトと、を用意した。
【0106】
上記β型ゼオライトの粒子からなるゼオライト粒子3500gに、無機結合材としての、上記塩基性塩化アルミニウム溶液1750g(塩基性塩化アルミニウムの質量は560g)と、上記ベーマイト940gとを加えた。焼成後における無機結合材の体積は、得られるゼオライト構造体の体積に対して、16.4体積%に相当する量である。また、塩基性塩化アルミニウムは、ゼオライト粒子100質量%に対して、固形分換算で16.0質量%に相当する量である。なお、焼成後における無機結合材の体積は、事前に、本実施例にて使用する無機結合材を個別に焼成し、焼成による質量変化率を測定することによって求めた。塩基性塩化アルミニウム溶液の焼成による質量変化率は23.5%であり、焼成後の密度は3.20g/cmであった。また、ベーマイトの質量変化率は82.2%であり、焼成後の密度は3.18g/cmであった。なお、ゼオライト粒子の焼成による質量変化率は0.0%(質量変化なし)とし、密度は1.85g/cmとした。
【0107】
次に、上記の混合物に、更に、有機バインダとして、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)を350gを加え、本田鐵工社製の双腕型ニーダーを用いて乾式で10分間混合し、更に、水を加えて粘度調整しながら40分間混合及び混練し、ゼオライトの混練物(ゼオライト原料)を得た。表1に、ゼオライト原料の配合処方を示す。
【0108】
得られたゼオライトの混練物を、本田鐵工社製の連続混練真空押出成形機を用いて、幅25mm、厚さ5mmの板状に押出成形して、ゼオライト成形体を得た。得られたゼオライト成形体を、熱風乾燥機にて80℃で12時間乾燥した後、焼成炉にて450℃で5時間脱脂し、700℃で4時間焼成することでゼオライト焼成体(ゼオライト構造体)を得た。
【0109】
なお、ゼオライト粒子の平均粒子径は、そのゼオライト粒子を含有する粉末の粒子径分布におけるメジアン径(d50)であり、JIS R1629に準拠したレーザー回折散乱法にて測定した。
【0110】
また、比表面積はBET比表面積とし、micrometrics社製の流動式比表面積測定装置:「FlowSorb−2300(商品名)」を使用し、試料前処理は200℃で10分間保持として測定した。ここで、比表面積とは、単位質量当りの表面積を表し、例えば、ガスの物理吸着によりB.E.T理論を用いて、試料表面に吸着されたガスの単分子層でサンプル表面を覆うのに必要な分子数(N)を求め、この吸着分子数(N)に吸着ガスの分子断面積をかけることにより、試料の表面積を導出し、この試料の表面積を試料の質量で割ることにより求まる値をいう。
【0111】
また、得られたゼオライト構造体について、JIS R1601に準拠して4点曲げ試験を行って、ゼオライト構造体の曲げ強度を測定した。表2に、曲げ強度の測定結果を示す。また、表2において、「微細孔割合P2」の欄は、ゼオライト構造体の全細孔容量Vaに対する、気孔径が0.003〜0.03μmの細孔容量Vbの割合P2を意味し、「無機結合材割合P1」の欄は、ゼオライト構造体の体積V1に対する、ゼオライト構造体中の無機結合材の体積V2の割合P1を意味する。更に、「P2/P1」の欄は、上記無機結合材割合P1に対する上記微細孔割合P2の比の値(P2/P1)を意味する。なお、上記欄の意味については、表4においても同様である。
【0112】
【表1】

【0113】
【表2】

【0114】
(実施例2)
表1に示すように、無機結合材として、塩基性塩化アルミニウム溶液1150g(塩基性塩化アルミニウムの質量は368g)と、ベーマイト1100gとを加えた以外は、実施例1と同様にしてゼオライト構造体を製造し、曲げ強度を測定した。測定結果を表2に示す。なお、焼成後における無機結合材の体積は、ゼオライト構造体の体積に対して、16.3体積%に相当する量である。また、塩基性塩化アルミニウムは、ゼオライト粒子100質量%に対して、固形分換算で10.5質量%に相当する量である。
【0115】
(実施例3)
表1に示すように、無機結合材として、塩基性塩化アルミニウム溶液3000g(塩基性塩化アルミニウムの質量は960g)と、ベーマイト580gとを加えた以外は、実施例1と同様にしてゼオライト構造体を製造し、曲げ強度を測定した。測定結果を表2に示す。なお、焼成後における無機結合材の体積は、ゼオライト構造体の体積に対して、16.4体積%に相当する量である。また、塩基性塩化アルミニウムは、ゼオライト粒子100質量%に対して、固形分換算で27.4質量%に相当する量である。
【0116】
(実施例4)
表1に示すように、無機結合材として、塩基性塩化アルミニウム溶液1150g(塩基性塩化アルミニウムの質量は368g)と、ベーマイト530gとを加えた以外は、実施例1と同様にしてゼオライト構造体を製造し、曲げ強度を測定した。測定結果を表2に示す。なお、焼成後における無機結合材の体積は、ゼオライト構造体の体積に対して、10.5体積%に相当する量である。また、塩基性塩化アルミニウムは、ゼオライト粒子100質量%に対して、固形分換算で10.5質量%に相当する量である。
【0117】
(実施例5)
表1に示すように、無機結合材として、塩基性塩化アルミニウム溶液3000g(塩基性塩化アルミニウムの質量は960g)を加えた以外は、実施例1と同様にしてゼオライト構造体を製造し、曲げ強度を測定した。測定結果を表2に示す。なお、焼成後における無機結合材の体積は、ゼオライト構造体の体積に対して、10.4体積%に相当する量である。また、塩基性塩化アルミニウムは、ゼオライト粒子100質量%に対して、固形分換算で27.4質量%に相当する量である。
【0118】
(比較例1)
表3に示すように、無機結合材として、塩基性塩化アルミニウム溶液を用いずに、ベーマイト1440gを加えた以外は、実施例1と同様にしてゼオライト構造体を製造し、曲げ強度を測定した。測定結果を表4に示す。なお、焼成後における無機結合材の体積は、ゼオライト構造体の体積に対して、16.5体積%に相当する量である。
【0119】
(比較例2)
表3に示すように、無機結合材として、塩基性塩化アルミニウム溶液900g(塩基性塩化アルミニウムの質量は288g)と、ベーマイト1200gとを加えた以外は、実施例1と同様にしてゼオライト構造体を製造し、曲げ強度を測定した。測定結果を表4に示す。なお、焼成後における無機結合材の体積は、ゼオライト構造体の体積に対して、16.5体積%に相当する量である。また、塩基性塩化アルミニウムは、ゼオライト粒子100質量%に対して、固形分換算で8.2質量%に相当する量である。
【0120】
(比較例3)
表3に示すように、無機結合材として、塩基性塩化アルミニウム溶液3500g(塩基性塩化アルミニウムの質量は1120g)と、ベーマイト450gとを加えた以外は、実施例1と同様にしてゼオライト原料を調製した。但し、比較例3については、ゼオライト原料の保水性が低く、ゼオライト原料を押出成形して成形体を作製することが不可能であった。なお、焼成後における無機結合材の体積は、ゼオライト構造体の体積に対して、16.5体積%に相当する量である。また、塩基性塩化アルミニウムは、ゼオライト粒子100質量%に対して、固形分換算で32.0質量%に相当する量である。
【0121】
(比較例4)
表3に示すように、無機結合材として、塩基性塩化アルミニウム溶液900g(塩基性塩化アルミニウムの質量は288g)と、ベーマイト600gとを加えた以外は、実施例1と同様にしてゼオライト構造体を製造し、曲げ強度を測定した。測定結果を表4に示す。なお、焼成後における無機結合材の体積は、ゼオライト構造体の体積に対して、10.5体積%に相当する量である。また、塩基性塩化アルミニウムは、ゼオライト粒子100質量%に対して、固形分換算で8.2質量%に相当する量である。
【0122】
(比較例5)
表3に示すように、無機結合材として、塩基性塩化アルミニウム溶液1150g(塩基性塩化アルミニウムの質量は368g)と、ベーマイト350gとを加えた以外は、実施例1と同様にしてゼオライト構造体を製造し、曲げ強度を測定した。測定結果を表4に示す。なお、焼成後における無機結合材の体積は、ゼオライト構造体の体積に対して、8.5体積%に相当する量である。また、塩基性塩化アルミニウムは、ゼオライト粒子100質量%に対して、固形分換算で10.5質量%に相当する量である。
【0123】
【表3】

【0124】
【表4】

【0125】
表2及び表4より、実施例1〜5のゼオライト構造体は、曲げ強度が高いことがわかる。ゼオライト粒子と無機結合材とからなるゼオライト構造体においては、無機結合材の量が多いほど強度が高くなる一方で、無機結合材が多すぎる場合には、ゼオライト粒子の比率が少なくなり、浄化性能等の性能が低下する。ここで、実施例1〜3、及び比較例1〜3のゼオライト構造体は、無機結合材割合P1が16.3〜16.5体積%と略同程度の無機結合材を含有しているが、比較例1及び2のゼオライト構造体と比較して、実施例1〜3のゼオライト構造体は、その曲げ強度が高いことがわかる。実施例1〜3のゼオライト構造体は、ゼオライト原料に、所定量の塩基性塩化アルミニウムを含む無機結合材が用いられており、この塩基性塩化アルミニウムによって緻密な結合部が形成されたことにより、曲げ強度が向上したものと推測される。なお、実施例1〜3のゼオライト構造体は、無機結合材割合P1に対する微細孔割合P2の比の値(P2/P1)が1.0以下であり、このことからも緻密な結合部が形成されていることがわかる。特に、塩基性塩化アルミニウムの質量割合が10質量%である場合には、「P2/P1」の値が1.0以下となっている。なお、比較例3においては、押出不可が不可能であったため、ゼオライト構造体を製造することができず、「P2/P1」の値の算出も不可能であった。
【0126】
また、実施例4、5及び比較例4は、無機結合材割合P1が10.4〜10.5体積%と略同程度の無機結合材を含有しているが、「P2/P1」の値が1.0以下となっている実施例4及び5については、曲げ強度が高く、一方で、「P2/P1」の値が1.08の比較例4については、曲げ強度が低いものであった。また、比較例5のように、無機結合材割合P1が10体積%未満(具体的には、8.5体積%)であると、ゼオライト構造体の曲げ強度が大幅に減少してしまうことがわかる。なお、実施例4と比較例2とを比較した場合には、比較例2の方が曲げ強度が高くなっているが、実施例4と比較例2とは、無機結合材割合P1(換言すれば、ゼオライト粒子の量)が異なるため、上述したように、両者を単純に曲げ強度のみで比較することはできない。即ち、比較例2は、実施例4に比べて相対的にゼオライト粒子の量が少ないため、浄化性能等のゼオライトに起因する諸特性が低くなっている。
【産業上の利用可能性】
【0127】
本発明のゼオライト構造体は、吸着材、触媒、触媒担体、ガス分離膜、或いはイオン交換体に使用することができ、特に、自動車用エンジン、建設機械用エンジン、産業用定置エンジン、燃焼機器等から排出される排ガスに含有されるNO等を浄化するために好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0128】
1:隔壁、2:セル、4:外周壁、11:一方の端部、12:他方の端部、32:ゼオライト粒子、33:無機結合材、35:細孔、100,100a:ゼオライト構造体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゼオライト粒子と、少なくとも塩基性塩化アルミニウムを含む無機結合材とを含有するゼオライト原料を押出成形した成形体から形成されてなる多孔質のゼオライト構造体であり、
前記ゼオライト構造体の体積V1に対する、前記ゼオライト構造体中の無機結合材の体積V2の割合P1(P1=V2/V1×100)が、10〜50体積%であり、且つ、
前記ゼオライト構造体の体積V1に対する、前記ゼオライト構造体中の無機結合材の体積V2の前記割合P1と、前記ゼオライト構造体の全細孔容量Vaに対する、気孔径が0.003〜0.03μmの細孔容量Vbの割合P2(P2=Vb/Va×100)と、が、下記式(1)の関係を満たすゼオライト構造体。
P2/P1≦1.0 ・・・ (1)
【請求項2】
前記ゼオライト原料に含有される前記無機結合材が、前記ゼオライト粒子100質量%に対して、固形分換算で10〜30質量%に相当する量の前記塩基性塩化アルミニウムを含むものである請求項1に記載のゼオライト構造体。
【請求項3】
前記ゼオライト原料に含有される前記無機結合材が、アルミナゾル、シリカゾル、チタニアゾル、ジルコニアゾル、セリアゾル、ベーマイト、モンモリロナイト、ハイドロタルサイト、水硬性アルミナ、シリコン樹脂、及び水ガラスからなる群より選択される少なくとも一種を更に含むものである請求項1又は2に記載のゼオライト構造体。
【請求項4】
前記ゼオライト粒子のうちの少なくとも一部のゼオライト粒子が、ZSM−5型ゼオライト、β型ゼオライト、Y型ゼオライト、モルデナイト型ゼオライト、及びフェリエライト型ゼオライトからなる群から選択される少なくとも一種のゼオライトからなる粒子である請求項1〜3のいずれか一項に記載のゼオライト構造体。
【請求項5】
前記ゼオライト粒子のうちの少なくとも一部のゼオライト粒子が、銅、鉄、ニッケル、亜鉛、マンガン、コバルト、銀、パラジウム、インジウム、セリウム、ガリウム、チタン、及びバナジウムからなる群より選択される少なくとも一種の金属のイオンによりイオン交換されたゼオライトからなる粒子である請求項1〜4のいずれか一項に記載のゼオライト構造体。
【請求項6】
流体の流路となる一方の端面から他方の端面まで延びる複数のセルを区画形成する隔壁を備えたハニカム形状に成形されたものである請求項1〜5のいずれか一項に記載のゼオライト構造体。
【請求項7】
ゼオライト粒子と、前記ゼオライト粒子同士を結合させる無機結合材と、有機バインダと、を混合して、ゼオライト原料を調製する工程と、得られた前記ゼオライト原料を押出成形してゼオライト成形体を形成する工程と、得られた前記ゼオライト成形体を焼成して、ゼオライト構造体を作製する工程と、を備え、前記ゼオライト原料を調製する工程において、前記ゼオライト粒子100質量%に対して、固形分換算で10〜30質量%に相当する量の塩基性塩化アルミニウムを含む前記無機結合材を、焼成して得られる前記ゼオライト構造体の体積に対する、前記ゼオライト構造体中に含まれる無機結合材の体積の割合が、10〜50体積%となるように加えて前記ゼオライト原料を調製するゼオライト構造体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−200789(P2011−200789A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−70095(P2010−70095)
【出願日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】