説明

ゼオライト膜の再生方法

【課題】無機材料分離膜による分離、濃縮において、実用上十分な処理量と分離性能を両立する多孔質支持体−ゼオライト膜複合体の再生方法を提供する。
【解決手段】SiO/Alモル比が5以上のゼオライトを含むゼオライト膜が、多孔質支持体の表面に形成されてなる多孔質支持体−ゼオライト膜複合体に、有機物を含む気体または液体の混合物を接触させて、該混合物のうち透過性の高い物質を透過させ後に、該ゼオライト膜複合体を水に浸漬することよりゼオライト膜複合体を再生する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゼオライト膜の再生方法に関し、さらに詳しくは、ゼオライト膜が多孔質支持体上に形成されてなる多孔質支持体―ゼオライト膜複合体に有機化合物を含む気体または液体の混合物を接触させて、該混合物のうち透過性の高い物質を透過させた後に、該ゼオライト膜を再生させる方法、該方法により再生されたゼオライト膜に、有機化合物を含む気体または液体の混合物を接触させて、該混合物から、透過性の高い物質を透過させる分離方法、該再生方法や該分離方法などを行うための分離装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、有機化合物を含有する気体または液体の混合物の分離、濃縮は、対象となる物質の性質に応じて、蒸留法、共沸蒸留法、溶媒抽出/蒸留法、吸着剤などにより行われている。しかしながら、これらの方法は、多くのエネルギーを必要とする、あるいは分離、濃縮対象の適用範囲が限定的であるといった欠点がある。
【0003】
近年、これらの方法に代わる分離方法として、高分子膜やゼオライト膜などの膜を用いた膜分離、濃縮方法が提案されている。高分子膜、例えば平膜や中空糸膜などは、加工性に優れるが、耐熱性が低いという欠点がある。また高分子膜は、耐薬品性が低く、特に有機溶媒や有機酸といった有機化合物との接触で膨潤するものが多いため、分離、濃縮対象の適用範囲が限定的である。
【0004】
また、ゼオライト膜は、通常、支持体上に膜状にゼオライトを形成させたゼオライト膜複合体として分離、濃縮に用いられている。例えば有機化合物と水との混合物を、ゼオライト膜複合体に接触させ、水を選択的に透過させることにより、有機化合物を分離し、濃縮することができる。無機材料の膜を用いた分離、濃縮は、蒸留や吸着剤による分離に比べ、エネルギーの使用量を削減できるほか、高分子膜よりも広い温度範囲で分離、濃縮を実施でき、更に有機化合物を含む混合物の分離にも適用できる。
【0005】
ゼオライト膜を用いた分離法として、例えば、A型ゼオライト膜複合体を用いて水を選択的に透過させてアルコールを濃縮する方法(特許文献1)、モルデナイト型ゼオライト膜複合体を用いてアルコールと水の混合系から水を選択的に透過させてアルコールを濃縮する方法(特許文献2)や、フェリエライト型ゼオライト膜複合体を用いて酢酸と水の混合系から水を選択的に透過させて酢酸を分離・濃縮する方法(特許文献3)などが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7−185275号公報
【特許文献2】特開2003−144871号公報
【特許文献3】特開2000−237561号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、実用化に十分な処理量と分離性能を両立し、かつ有機化合物、特に有機酸への耐性をもつゼオライト膜はいまだ見出せていない。例えば、特許文献2のモルデナイト型ゼオライト膜複合体や特許文献3のフェリエライト型ゼオライト膜複合体は、透過流束が小さく、実用化には処理量が不十分である。また、酸性条件下で脱Al化反応が進行するので、使用時間が長くなるにつれ分離性能が変化し、有機酸存在条件下での使用は望ましくない。特許文献1のA型ゼオライトは、耐酸性や耐水性がなく、適用範囲が限られている。
【0008】
さらに、ゼオライト膜を有する膜分離手段で含水有機化合物を分離する際、ゼオライト膜表面に非透過物質である有機化合物が吸着・堆積し、透過流束が低下するという現象が発生する(Separation and Purification Technology 32 (2003) 199-206)。透過流束が低下したゼオライト膜は、通常、交換されるが、交換は手間がかかりコスト高となる。
【0009】
このように、ゼオライト膜を膜分離手段として用いる分離方法において、透過流束や処理量が大きいゼオライト膜、かつ効率のよいゼオライト膜の再生方法が望まれていた。
【0010】
本発明の目的は、かかる従来技術の問題点が解決された、無機材料分離膜による分離、濃縮において、実用上十分な処理量と分離性能を両立する多孔質支持体−ゼオライト膜複合体の再生方法、該方法により再生されたゼオライト膜複合体を用いる分離方法、該再生方法や該分離方法などに好適な分離装置等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、ある種のゼオライトを無機多孔質支持体上に膜状に形成させれば、実用上十分な処理量と分離性能を両立するゼオライト膜複合体が得られることを見出し、先に提案した(特願2010−043366号明細書)。本発明者らは、さらに検討を重ねた結果、膜分離手段として用いたゼオライト膜を水に浸漬することにより、ゼオライト膜が効率よく再生され、低下した分離性能が飛躍的に向上することを見出した。本発明は、これらの知見に基づいて成し遂げられたものである。
【0012】
即ち、本発明の要旨は、次の(1)〜(8)に存する。
(1)SiO/Alモル比が5以上のゼオライトを含むゼオライト膜が、多孔質支持体上に形成されてなる多孔質支持体−ゼオライト膜複合体の再生方法であって、該ゼオライト膜複合体に、有機物を含む気体または液体の混合物を接触させて、該混合物のうち透過性の高い物質を透過させ後に、該ゼオライト膜複合体を水に浸漬することを特徴とする多孔質支持体−ゼオライト膜複合体の再生方法。
(2)水の温度が50℃以上であり、浸漬時間が1時間以上である、上記(1)に記載の方法。
(3)浸漬が水の流通下で行われる、上記(1)又は(2)に記載の方法。
(4)有機物を含む気体または液体の混合物が含水有機化合物である、上記(1)乃至(3)の何れかに記載の方法。
(5)上記(1)乃至(4)のいずれかに記載の方法により再生された多孔質支持体―ゼオライト膜複合体に、有機化合物を含む気体または液体の混合物を接触させて、該混合物から、透過性の高い物質を透過させて分離することを特徴とする分離方法。
(6)SiO/Alモル比が5以上のゼオライトを含むゼオライト膜が、多孔質支持体上に形成されてなる多孔質支持体−ゼオライト膜複合体を膜分離手段として有し、かつ該膜分離手段へ水を供給する水供給ラインを有することを特徴とする分離装置。
(7)有機物を含む気体または液体の混合物を膜分離手段へ導入する導入ラインをさらに有し、該導入ラインに水供給ラインが接続されている、上記(6)に記載の分離装置。
(8)膜分離手段と水供給ラインと導入ラインを少なくとも有する分離装置を複数個備え、水供給ラインと導入ラインが、個々の分離装置への有機物を含む気体または液体の混合物の導入と水の供給を、交互に切り替え可能なように接続されている、上記(6)又は(7)に記載の分離装置。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、膜分離手段として用いた多孔質支持体−ゼオライト膜複合体を効率的に再生し、有機化合物を含む気体または液体の混合物から特定の化合物を、実用上も十分に大きい処理量を有し、かつ十分な性能による分離/濃縮を達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の分離装置における実施態様の幾つかの例を模式的に示す図である。
【図2】本発明の分離装置の実施態様の一つを模式的に示す図である。
【図3】本発明の分離装置の他の実施態様の一つを模式的に示す図である。
【図4】パーベーパレーション測定装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について更に詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例であり、本発明はこれらの内容に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0016】
本発明の多孔質支持体−ゼオライト膜複合体の再生方法は、SiO/Alモル比が5以上のゼオライトを含むゼオライト膜が、多孔質支持体上に形成されてなる多孔質支持体−ゼオライト膜複合体の再生方法であって、該ゼオライト膜複合体に、有機物を含む気体または液体の混合物を接触させて、該混合物のうち透過性の高い物質を透過させ後に、該ゼオライト膜複合体を水に浸漬することに特徴を有するものである。
【0017】
先ず、この発明の構成要件についてさらに詳細に説明する。なお、本明細書において、「多孔質支持体−ゼオライト膜複合体」を「ゼオライト膜複合体」または「膜複合体」と、また「多孔質支持体」を「支持体」と略称することがある。
【0018】
(多孔質支持体)
本発明において使用される多孔質支持体としては、その表面などにゼオライトを膜状に結晶化できるような化学的安定性があり、無機の多孔質よりなる支持体(無機多孔質支持体)であれば如何なるものであってもよい。例えば、シリカ、α−アルミナ、γ−アルミナ、ムライト、ジルコニア、チタニア、イットリア、窒化珪素、炭化珪素などのセラミックス焼結体、鉄、ブロンズ、ステンレス等の焼結金属や、ガラス、カーボン成型体などが挙げられる。
【0019】
これら多孔質支持体の中で、基本的成分あるいはその大部分が無機の非金属物質から構成されている固体材料であるセラミックスを焼結したものを含む無機多孔質支持体(セラミックス支持体)が好ましい。この支持体を用いれば、その一部がゼオライト膜合成中にゼオライト化することで界面の密着性を高める効果がある。
【0020】
具体的には、例えば、シリカ、α−アルミナ、γ−アルミナ、ムライト、ジルコニア、チタニア、イットリア、窒化珪素、炭化珪素などを含むセラミックス焼結体(セラミックス支持体)が挙げられる。それらの中で、アルミナ、シリカ、ムライトのうち少なくとも1種を含む無機多孔質支持体が好ましい。これらの支持体を用いれば、部分的なゼオライト化が容易であるため、支持体とゼオライトの結合が強固になり緻密で分離性能の高い膜が形成されやすくなる。
【0021】
多孔質支持体の形状は、気体混合物や液体混合物を有効に分離できるものであれば特に制限されず、具体的には、例えば、平板状、管状のもの、または円筒状、円柱状や角柱状の孔が多数存在するハニカム状のものやモノリスなどが挙げられる。
【0022】
本発明において、かかる多孔質支持体上、すなわち支持体の表面などにゼオライトを膜状に形成させる。支持体表面は、支持体の形状に応じて、どの表面であってもよく、複数の面であっても良い。例えば、円筒管の支持体の場合には外側の表面でも内側の表面でもよく、場合によっては外側と内側の両方の表面であってよい。
【0023】
多孔質支持体表面が有する平均細孔径は特に制限されないが、細孔径が制御されているものが好ましく、通常0.02μm以上、好ましくは0.05μm以上、より好ましくは0.1μm以上であり、通常20μm以下、好ましくは10μm以下、より好ましくは5μm以下である。平均細孔径が小さすぎると透過量が小さくなる傾向があり、大きすぎると支持体自体の強度が不十分になり、支持体表面の細孔の割合が増えて緻密なゼオライト膜が形成されにくくなることがある。
【0024】
支持体の平均厚さ(肉厚)は、通常0.1mm以上、好ましくは0.3mm以上、より好ましくは0.5mm以上であり、通常7mm以下、好ましくは5mm以下、より好ましくは3mm以下である。支持体はゼオライト膜に機械的強度を与える目的で使用しているが、平均厚さが薄すぎるとゼオライト膜複合体が十分な強度を持たずゼオライト膜複合体が衝撃や振動等に弱くなる。また、厚すぎると透過した物質の拡散が悪くなり透過流束が低くなる傾向がある。
【0025】
支持体の気孔率は、通常20%以上、好ましくは25%以上、より好ましくは30%以上であり、通常70%以下、好ましくは60%以下、より好ましくは50%以下である。支持体の気孔率は、気体や液体を分離する際の透過流量を左右し、下限未満では透過物の拡散を阻害する傾向があり、上限を超えると支持体の強度が低下する傾向がある。
【0026】
多孔質支持体の表面は滑らかであることが好ましく、必要に応じて表面をやすり等で研磨してもよい。なお、多孔質支持体表面とはゼオライトを結晶化させる無機多孔質支持体表面部分を意味し、表面であればそれぞれの形状のどこの表面であってもよく、複数の面であっても良い。例えば円筒管の支持体の場合には外側の表面でも内側の表面でもよく、場合によっては外側と内側の両方の表面であってよい。
【0027】
(ゼオライト膜複合体)
本発明において、上記多孔質支持体上にゼオライト膜を形成させて、ゼオライト膜複合体を得る。
【0028】
ゼオライト膜を構成する成分としては、ゼオライト以外にシリカ、アルミナなどの無機バインダー、ポリマーなどの有機化合物、あるいはゼオライト表面を修飾するシリル化剤などを必要に応じ含んでいてもよい。また、本発明におけるゼオライト膜は、一部アモルファス成分などを含んでいてもよいが、実質的にゼオライトのみで構成されるゼオライト膜が好ましい。
【0029】
ゼオライト膜の厚さは特に制限されないが、通常0.1μm以上、好ましくは0.6μm以上、より好ましくは1.0μm以上であり、通常100μm以下、好ましくは60μm以下、より好ましくは20μm以下である。膜厚が大きすぎると透過量が低下する傾向があり、小さすぎると選択性が低下する傾向がある。
【0030】
ゼオライトの粒子径は特に限定されないが、小さすぎると粒界が大きくなるなどして透過選択性などを低下させる傾向がある。それゆえ、通常30nm以上、好ましくは50nm以上、より好ましくは100nm以上であり、上限は膜の厚さ以下である。さらに、ゼオライトの粒子径が膜の厚さと同じである場合が特に好ましい。ゼオライトの粒子径が膜の厚さと同じであるとき、ゼオライトの粒界が最も小さくなる。
【0031】
ゼオライトとしては、アルミノ珪酸塩であるものが好ましく、そのSiO/Alモル比は、好ましくは5以上、より好ましくは8以上、さらに好ましくは10以上、特に好ましくは12以上であり、好ましくは2000以下、より好ましくは1000以下、さらに好ましくは500以下、特に好ましくは100以下である。SiO/Alモル比が下限未満では耐久性が低下する傾向があり、上限を超えると疎水性が強すぎるため、透過流束が小さくなる傾向がある。
【0032】
なお、本発明におけるSiO/Alモル比は、走査型電子顕微鏡−エネルギー分散型X線分光法(SEM−EDX)により得られた数値である。数ミクロンの膜のみの情報を得るために通常はX線の加速電圧を10kVで測定する。
【0033】
ゼオライト膜を構成する主たるゼオライトは、好ましくは酸素6〜10員環構造を有するゼオライトを含むもの、より好ましくは酸素6〜8員環構造を有するゼオライトを含むものである。
【0034】
ここでいう酸素n員環を有するゼオライトのnの値は、ゼオライト骨格を形成する酸素とT元素(酸素以外の骨格を構成する元素)で構成される細孔の中で最も酸素の数が大きいものを示す。例えば、MOR型ゼオライトのように酸素12員環と8員環の細孔が存在する場合は、酸素12員環のゼオライトとみなす。
【0035】
酸素6〜10員環構造を有するゼオライトとしては、例えば、AEI、AEL、AFG、ANA、BRE、CAS、CDO、CHA、DAC、DDR、DOH、EAB、EPI、ESV、EUO、FAR、FRA、FER、GIS、GIU、GOO、HEU、IMF、ITE、ITH、KFI、LEV、LIO、LOS、LTN、MAR、MEP、MER、MEL、MFI、MFS、MON、MSO、MTF、MTN、MTT、MWW、NAT、NES、NON、PAU、PHI、RHO、RRO、RTE、RTH、RUT、SGT、SOD、STF、STI、STT、TER、TOL、TON、TSC、TUN、UFI、VNI、VSV、WEI、YUGなどが挙げられる。
【0036】
酸素6〜8員環構造を有するゼオライトとしては、例えば、AEI、AFG、ANA、CHA、EAB、ERI、ESV、FAR、FRA、GIS、ITE、KFI、LEV、LIO、LOS、LTN、MAR、PAU、RHO、RTH、SOD、STI、TOL、UFIなどが挙げられる。
【0037】
酸素n員環構造はゼオライトの細孔のサイズを決定するものであり、6員環よりも小さいゼオライトではHO分子のKinetic半径よりも細孔径が小さくなるため透過流束が小さくなり実用的でない場合がある。また、酸素10員環構造よりも大きい場合は細孔径が大きくなり、サイズの小さな有機化合物では分離性能が低下することがあり、用途が限定的になる場合がある。
【0038】
ゼオライトのフレームワーク密度(T/1000Å)は特に制限されないが、通常17以下、好ましくは16以下、より好ましくは15.5以下、特に好ましくは15以下であり、通常10以上、好ましくは11以上、より好ましくは12以上である。
【0039】
ここで、フレームワーク密度とは、ゼオライトの1000Åあたりの酸素以外の骨格を構成する元素(T元素)の数を意味し、この値はゼオライトの構造により決まる。なおフレームワーク密度とゼオライトの構造との関係はATLAS OF ZEOLITE FRAMEWORK TYPES Fifth Revised Edition 2001 ELSEVIERに示されている。
【0040】
本発明において、好ましいゼオライトの構造は、AEI、AFG、CHA、EAB、ERI、ESV、FAR、FRA、GIS、ITE、KFI、LEV、LIO、LOS、LTN、MAR、PAU、RHO、RTH、SOD、STI、TOL、UFIであり、より好ましい構造は、AEI、CHA、ERI、KFI、LEV、PAU、RHO、RTH、UFIであり、さらに好ましい構造は、CHA、LEVであり、最も好ましい構造はCHAである。
【0041】
ここで、CHA型のゼオライトとは、International Zeolite Association(IZA)が定めるゼオライトの構造を規定するコードでCHA構造のものを示す。これは、天然に産出するチャバサイトと同等の結晶構造を有するゼオライトである。CHA型ゼオライトは3.8×3.8Åの径を有する酸素8員環からなる3次元細孔を有することを特徴とする構造をとり、その構造はX線回折データにより特徴付けられる。
【0042】
CHA型ゼオライトのフレームワーク密度(T/1000Å)は14.5である。また、SiO/Alモル比は上記と同様である。
【0043】
本発明において、ゼオライト膜複合体は、ゼオライト膜がCHA型ゼオライトを含む場合、X線回折のパターンにおいて、2θ=17.9°付近のピークの強度が2θ=20.8°付近のピークの強度の0.5倍以上の大きさであることが好ましい。
【0044】
ここで、ピークの強度とは、測定値からバックグラウンドの値を引いたものをさす。(2θ=17.9°付近のピークの強度)/(2θ=20.8°付近のピークの強度)で表されるピーク強度比(以下これを「ピーク強度比A」ということがある。)でいえば、通常0.5以上、好ましくは1以上、より好ましくは1.2以上、特に好ましくは1.5以上である。上限は特に限定されないが、通常1000以下である。
【0045】
また、ゼオライト膜複合体は、ゼオライト膜がCHA型ゼオライトを含む場合、X線回折のパターンにおいて、2θ=9.6°付近のピークの強度が2θ=20.8°付近のピークの強度の4倍以上の大きさであることが好ましい。
【0046】
(2θ=9.6°付近のピークの強度)/(2θ=20.8°付近のピークの強度)で表されるピーク強度比(以下これを「ピーク強度比B」ということがある。)でいえば、通常4以上、好ましくは6以上、より好ましくは8以上、特に好ましくは10以上である。上限は特に限定されないが、通常1000以下である。
【0047】
ここでいう、X線回折パターンとは、ゼオライトが主として付着している側の表面にCuKαを線源とするX線を照射して、走査軸をθ/2θとして得るものである。測定するサンプルの形状としては、膜複合体のゼオライトが主として付着している側の表面にX線が照射できるような形状なら何でもよく、膜複合体の特徴をよく表すものとして、作成した膜複合体そのままのもの、あるいは装置によって制約される適切な大きさに切断したものが好ましい。
【0048】
ここで、X線回折パターンは、ゼオライト膜複合体の表面が曲面である場合には自動可変スリットを用いて照射幅を固定して測定してもかまわない。自動可変スリットを用いた場合のX線回折パターンとは、可変→固定スリット補正を実施したパターンを指す。
【0049】
ここで、2θ=17.9°付近のピークとは、基材に由来しないピークのうち17.9°±0.6°の範囲に存在するピークのうち最大のものを指す。
【0050】
2θ=20.8°付近のピークとは、基材に由来しないピークのうち20.8°±0.6°の範囲に存在するピークで最大のものを指す。
【0051】
2θ=9.6°付近のピークとは、基材に由来しないピークのうち9.6°±0.6°の範囲に存在するピークのうち最大のものを指す。
【0052】
X線回折パターンで2θ=9.6°付近のピークは、COLLECTION OF SIMULATED XRD POWDER PATTERNS FOR ZEOLITE Third Revised Edition 1996 ELSEVIERによればrhombohedral settingで空間群を
【0053】
【数1】

【0054】
(No.166)とした時にCHA構造において指数が(1,0,0)の面に由来するピークである。
【0055】
また、X線回折パターンで2θ=17.9°付近のピークは、COLLECTION OF SIMULATED XRD POWDER PATTERNS FOR ZEOLITE Third Revised Edition 1996 ELSEVIERによればrhombohedral settingで空間群を
【0056】
【数2】

【0057】
(No.166)とした時にCHA構造において指数が(1,1,1)の面に由来するピークである。
【0058】
X線回折パターンで2θ=20.8°付近のピークは、COLLECTION OF SIMULATED XRD POWDER PATTERNS FOR ZEOLITE Third Revised Edition 1996 ELSEVIERによればrhombohedral settingで空間群を
【0059】
【数3】

【0060】
(No.166)とした時にCHA構造において指数が(2,0,−1)の面に由来するピークである。
【0061】
(1,0,0)面由来のピークの強度と(2,0,−1)の面に由来のピーク強度の典型的な比(ピーク強度比B)は、COLLECTION OF SIMULATED XRD POWDER PATTERNS FOR ZEOLITE Third Revised Edition 1996 ELSEVIERによれば2.5である。
【0062】
それゆえ、この比が4以上であるということは、例えば、CHA構造をrhombohedral settingとした場合の(1,0,0)面が膜複合体の表面と平行に近い向きになるようにゼオライト結晶が配向して成長していることを意味すると考えられる。ゼオライト膜複合体においてゼオライト結晶が配向して成長することは分離性能の高い緻密な膜が出来るという点で有利である。
【0063】
(1,1,1)面由来のピークの強度と(2,0,−1)の面に由来のピーク強度の典型的な比(ピーク強度比A)は、COLLECTION OF SIMULATED XRD POWDER PATTERNS FOR ZEOLITE Third Revised Edition 1996 ELSEVIERによれば0.3である。
【0064】
そのため、この比が0.5以上であるということは、例えば、CHA構造をrhombohedral settingとした場合の(1,1,1)面が膜複合体の表面と平行に近い向きになるようにゼオライト結晶が配向して成長していることを意味すると考えられる。ゼオライト膜複合体においてゼオライト結晶が配向して成長することは分離性能の高い緻密な膜が出来るという点で有利である。
【0065】
このように、ピーク強度比A、Bのいずれかが、上記した特定の範囲の値であるということは、ゼオライト結晶が配向して成長し、分離性能の高い緻密な膜が形成されていることを示すものである。
【0066】
CHA型ゼオライト結晶が配向して成長している緻密なゼオライト膜は、次に述べる通り、ゼオライト膜を水熱合成により形成する際に、例えば、特定の有機テンプレートを用い、水性反応混合液中にKイオンを共存させることにより達成することができる。
【0067】
(ゼオライト膜複合体の製造方法)
本発明においては、水熱合成により、多孔質支持体上にゼオライト膜を形成さて、ゼオライト膜複合体を調製する。
【0068】
具体的には、例えば、組成を調整して均一化した水熱合成用の反応混合物(以下これを「水性反応混合物」ということがある。)を、多孔質支持体を内部に緩やかに固定した、オートクレーブなどの耐熱耐圧容器に入れて密閉して、一定時間加熱すればよい。
【0069】
水性反応混合物としては、Si元素源、Al元素源、必要に応じて有機テンプレート、および水を含み、さらに必要に応じてアルカリ源を含むものが好ましい。
【0070】
水性反応混合物に用いるSi元素源としては、例えば、無定形シリカ、コロイダルシリカ、シリカゲル、ケイ酸ナトリウム、無定形アルミのシリケートゲル、テトラエトキシシラン(TEOS)、トリメチルエトキシシラン等を用いることができる。
【0071】
Al元素源としては、例えば、アルミン酸ナトリウム、水酸化アルミニウム、硫酸アルミニウム、硝酸アルミニウム、酸化アルミニウム、無定形アルミノシリケートゲル等を用いることができる。なお、Al元素源以外に他の元素源、例えばGa、Fe、B、Ti、Zr、Sn、Znなどの元素源を含んでいてもよい。
【0072】
ゼオライトの結晶化において、必要に応じて有機テンプレート(構造規定剤)を用いることができるが、有機テンプレートを用いて合成したものが好ましい。有機テンプレートを用いて合成することにより、結晶化したゼオライトのアルミニウム原子に対するケイ素原子の割合が高くなり、耐酸性が向上する。
【0073】
有機テンプレートとしては、所望のゼオライト膜を形成し得るものであれば種類は問わず、如何なるものであってもよい。また、テンプレートは1種類でも、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0074】
ゼオライトがCHA型の場合、有機テンプレートとしては、通常、アミン類、4級アンモニウム塩類が用いられる。例えば、米国特許第4544538号明細書、米国特許公開第2008/0075656号明細書に記載の有機テンプレートが好ましいものとして挙げられる。
【0075】
具体的には、例えば、1−アダマンタンアミンから誘導されるカチオン、3−キナクリジナールから誘導されるカチオン、3−exo−アミノノルボルネンから誘導されるカチオン等の脂環式アミンから誘導されるカチオンが挙げられる。これらの中で、1−アダマンタンアミンから誘導されるカチオンがより好ましい。
【0076】
1−アダマンタンアミンから誘導されるカチオンを有機テンプレートとしたとき、緻密な膜を形成し得るCHA型ゼオライトが結晶化する。また、膜が水を選択的に透過するのに十分な親水性を有するCHA型ゼオライトが生成し得るほか、耐酸性に優れたCHA型ゼオライトが得られる。
【0077】
1−アダマンタンアミンから誘導されるカチオンのうち、N,N,N−トリアルキル−1−アダマンタンアンモニウムカチオンがさらに好ましい。N,N,N−トリアルキル−1−アダマンタンアンモニウムカチオンの3つのアルキル基は、通常、それぞれ独立したアルキル基であり、好ましくは低級アルキル基、より好ましくはメチル基である。それらの中で最も好ましい化合物は、N,N,N−トリメチル−1−アダマンタンアンモニウムカチオンである。
【0078】
このようなカチオンは、CHA型ゼオライトの形成に害を及ぼさないアニオンを伴う。このようなアニオンを代表するものには、Cl、Br、Iなどのハロゲンイオンや水酸化物イオン、酢酸塩、硫酸塩、およびカルボン酸塩が含まれる。これらの中で、水酸化物イオンが特に好適に用いられる。
【0079】
その他の有機テンプレートとしては、N,N,N−トリアルキルベンジルアンモニウムカチオンも用いることができる。この場合もアルキル基は、それぞれ独立したアルキル基であり、好ましくは低級アルキル基、より好ましくはメチル基である。それらの中で、最も好ましい化合物は、N,N,N−トリメチルベンジルアンモニウムカチオンである。また、このカチオンが伴うアニオンは上記と同様である。
【0080】
水性反応混合物に用いるアルカリ源としては、有機テンプレートのカウンターアニオンの水酸化物イオン、NaOH、KOHなどのアルカリ金属水酸化物、Ca(OH)などのアルカリ土類金属水酸化物などを用いることができる。
【0081】
アルカリの種類は特に限定されず、通常、Na、K、Li、Rb、Cs、Ca、Mg、Sr、Baなどが用いられる。これらの中で、Na、Kが好ましく、Kがより好ましい。また、アルカリは2種類以上を併用してもよく、具体的には、NaとKを併用するのが好ましい。
【0082】
水性反応混合物中のSi元素源とAl元素源の比は、通常、それぞれの元素の酸化物のモル比、すなわちSiO/Alモル比として表わす。
【0083】
SiO/Alモル比は特に限定されないが、通常5以上、好ましくは8以上、より好ましくは10以上、更に好ましくは15以上である。また、通常10000以下、好ましくは1000以下、より好ましくは300以下、更に好ましくは100以下である。
【0084】
SiO/Alモル比がこの範囲内にあるときゼオライト膜が緻密に生成し、更に生成したゼオライトが強い親水性を示し、有機化合物を含有する混合物中から親水性の化合物、特に水を選択的に透過することができる。また耐酸性に強く脱Alしにくいゼオライト膜が得られる。
【0085】
特に、SiO/Alモル比がこの範囲にあるとき、緻密な膜を形成し得るCHA型ゼオライトを結晶化させることができる。また、膜が水を選択的に透過するのに十分な親水性を有するCHA型ゼオライトが生成し得るほか、耐酸性に優れたCHA型ゼオライトが得られる。
【0086】
水性反応混合物中のシリカ源と有機テンプレートの比は、SiOに対する有機テンプレートのモル比(有機テンプレート/SiOモル比)で、通常0.005以上、好ましくは0.01以上、より好ましくは0.02以上であり、通常1以下、好ましくは0.4以下、より好ましくは0.2以下である。
【0087】
有機テンプレート/SiOモル比が上記範囲にあるとき、緻密なゼオライト膜が生成し得ることに加えて、生成したゼオライトが耐酸性に強くAlが脱離しにくい。また、この条件において、特に緻密で耐酸性のCHA型ゼオライトを形成させることができる。
【0088】
Si元素源とアルカリ源の比は、M(2/n)O/SiO(ここで、Mはアルカリ金属またはアルカリ土類金属を示し、nはその価数1または2を示す。)モル比で、通常0.02以上、好ましくは0.04以上、より好ましくは0.05以上であり、通常0.5以下、好ましくは0.4以下、より好ましくは0.3以下である。
【0089】
CHA型ゼオライト膜を形成する場合、アルカリ金属の中でKを含む場合がより緻密で結晶性の高い膜を生成させるという点で好ましいその場合のKと、Kを含むすべてのアルカリ金属および/またはアルカリ土類金属とのモル比は通常0.01以上1以下、好ましくは0.1以上1以下、さらに好ましくは0.3以上1以下である。
【0090】
水性反応混合物中へのKの添加は、前記のとおり、rhombohedral settingで空間群を
【0091】
【数4】

【0092】
(No.166)とした時に、CHA構造において指数が(1,0,0)の面に由来するピークである2θ=9.6°付近のピーク強度と(2,0,−1)の面に由来するピークである2θ=20.8°付近のピーク強度の比(ピーク強度比B)、または、(1,1,1)の面に由来するピークである2θ=17.9°付近のピーク強度と(2,0,−1)の面に由来するピークである2θ=20.8°付近のピーク強度の比(ピーク強度比A)を大きくする傾向がある。
【0093】
Si元素源と水の比は、SiOに対する水のモル比(HO/SiOモル比)で、通常10以上、好ましくは30以上、より好ましくは40以上、特に好ましくは50以上であり、通常1000以下、好ましくは500以下、より好ましくは200以下、特に好ましくは150以下である。
【0094】
水性反応混合物中の物質のモル比がこれらの範囲にあるとき、緻密なゼオライト膜が生成し得る。水の量は緻密なゼオライト膜の生成においてとくに重要であり、粉末合成法の一般的な条件よりも水がシリカに対して多い条件のほうが細かい結晶が生成して緻密な膜ができやすい傾向にある。
【0095】
一般的に、粉末のCHA型ゼオライトを合成する際の水の量は、HO/SiOモル比で、15〜50程度である。HO/SiOモル比が高い(50以上1000以下)、すなわち水が多い条件にすることにより、支持体表面層にCHA型ゼオライトが緻密な膜状に結晶化した分離性能の高いゼオライト膜複合体を得ることができる。
【0096】
さらに、水熱合成に際して、必ずしも反応系内に種結晶を存在さる必要は無いが、種結晶を加えることで、支持体上にゼオライトの結晶化を促進できる。種結晶を加える方法としては特に限定されず、粉末のゼオライトの合成時のように、水性反応混合物中に種結晶を加える方法や、支持体上に種結晶を付着させておく方法などを用いることができる。ゼオライト膜複合体を製造する場合は、支持体上に種結晶を付着させておくことが好ましい。支持体上に予め種結晶を付着させておくことで緻密で分離性能良好なゼオライト膜が生成しやすくなる。
【0097】
使用する種結晶としては、結晶化を促進するゼオライトであれば種類は問わないが、効率よく結晶化させるためには形成するゼオライト膜と同じ結晶型であることが好ましい。CHA型ゼオライト膜を形成する場合は、CHA型ゼオライトの種結晶を用いることが好ましい。
【0098】
種結晶の粒子径は、通常0.5nm以上、好ましくは1nm以上、より好ましくは2nm以上であり、通常20μm以下、好ましくは15μm以下、より好ましくは10μm以下、さらに好ましくは5μm以下である。
【0099】
支持体上に種結晶を付着させる方法は特に限定されず、例えば、種結晶を水などの溶媒に分散させてその分散液に支持体を浸けて種結晶を付着させるディップ法や、種結晶を水などの溶媒と混合してスラリー状にしたものを支持体上に塗りこむ方法などを用いることができる。種結晶の付着量を制御し、再現性良く膜複合体を製造するにはディップ法が望ましい。
【0100】
種結晶を分散させる溶媒は特に限定されないが、特に水が好ましい。分散させる種結晶の量は特に限定されず、分散液の全質量に対して、通常0.01質量%以上、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上であり、通常20質量%以下、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下、更に好ましくは4質量%以下、とくに好ましくは3質量%以下である。
【0101】
分散させる種結晶の量が少なすぎると、支持体上に付着する種結晶の量が少ないため、水熱合成時に支持体上に部分的にゼオライトが生成しない箇所ができ、欠陥のある膜となる可能性がある。ディップ法によって支持体上に付着する種結晶の量は分散液中の種結晶の量がある程度以上でほぼ一定となるため、分散液中の種結晶の量が多すぎると、種結晶の無駄が多くなりコスト面で不利である。
【0102】
支持体にディップ法あるいはスラリーの塗りこみによって種結晶を付着させ、乾燥した後にゼオライト膜の形成を行うことが望ましい。
【0103】
支持体上に予め付着させておく種結晶の質量は特に限定されず、基材1mあたりの質量で、通常0.01g以上、好ましくは0.05g以上、より好ましくは0.1g以上であり、通常100g以下、好ましくは50g以下、より好ましくは10g以下、更に好ましくは8g以下である。
【0104】
種結晶の量が下限未満の場合には、結晶ができにくくなり、膜の成長が不十分になる場合や、膜の成長が不均一になったりする傾向がある。また、種結晶の量が上限を超える場合には、表面の凹凸が種結晶によって増長されたり、支持体から落ちた種結晶によって自発核が成長しやすくなって支持体上の膜成長が阻害されたりする場合がある。何れの場合も、緻密なゼオライト膜が生成しにくくなる傾向となる。
【0105】
水熱合成により支持体上にゼオライト膜を形成する場合、支持体の固定化方法に特に制限はなく、縦置き、横置きなどあらゆる形態をとることができる。この場合、静置法でゼオライト膜を形成させてもよいし、水性反応混合物を攪拌させてゼオライト膜を形成させてもよい。
【0106】
ゼオライト膜を形成させる際の温度は特に限定されないが、通常100℃以上、好ましくは120℃以上、更に好ましくは150℃以上であり、通常200℃以下、好ましくは190℃以下、さらに好ましくは180℃以下である。反応温度が低すぎると、ゼオライトが結晶化し難くなる傾向がある。また、反応温度が高すぎると、本発明におけるゼオライトとは異なるタイプのゼオライトが生成し易くなる傾向がある。
【0107】
加熱時間は特に限定されないが、通常1時間以上、好ましくは5時間以上、更に好ましくは10時間以上であり、通常10日間以下、好ましくは5日以下、より好ましくは3日以下、さらに好ましくは2日以下である。反応時間が短すぎるとゼオライトが結晶化し難くなる傾向がある。反応時間が長すぎると、本発明におけるゼオライトとは異なるタイプのゼオライトが生成し易くなる傾向がある。
【0108】
ゼオライト膜形成時の圧力は特に限定されず、密閉容器中に入れた水性反応混合物を、この温度範囲に加熱したときに生じる自生圧力で十分である。さらに必要に応じて、窒素などの不活性ガスを加えても差し支えない。
【0109】
水熱合成により得られたゼオライト膜複合体は、水洗した後に、加熱処理して、乾燥させる。ここで、加熱処理とは、熱をかけてゼオライト膜複合体を乾燥又はテンプレートを使用した場合にテンプレートを焼成することを意味する。
【0110】
加熱処理の温度は、乾燥を目的とする場合、通常50℃以上、好ましくは80℃以上、より好ましくは100℃以上、通常200℃以下、好ましくは150℃以下である。また、テンプレートの焼成を目的とする場合、通常350℃以上、好ましくは400℃以上、より好ましくは430℃以上、更に好ましくは480℃以上であり、通常900℃以下、好ましくは850℃以下、さらに好ましくは800℃以下、特に好ましくは750℃以下である。
【0111】
加熱時間は、ゼオライト膜が十分に乾燥、またはテンプレートが焼成する時間であれば特に限定されず、好ましくは0.5時間以上、より好ましくは1時間以上である。上限は特に限定されず、通常200時間以内、好ましくは150時間以内、より好ましくは100時間以内である。
【0112】
水熱合成を有機テンプレートの存在下で行った場合、得られたゼオライト膜複合体を、水洗した後に、例えば、加熱処理や抽出などにより、好ましくは加熱処理、すなわち焼成により有機テンプレートを取り除くことが適当である。
【0113】
焼成温度は、通常350℃以上、好ましくは400℃以上、より好ましくは430℃以上、更に好ましくは480℃以上であり、通常900℃以下、好ましくは850℃以下、さらに好ましくは800℃以下、特に好ましくは750℃以下である。焼成温度が低すぎると有機テンプレートが残っている割合が多くなる傾向があり、ゼオライトの細孔が少なく、そのために分離濃縮の際の透過流束が減少する可能性がある。焼成温度が高すぎると支持体とゼオライトの熱膨張率の差が大きくなるためゼオライト膜に亀裂が生じやすくなる可能性があり、ゼオライト膜の緻密性が失われ分離性能が低くなることがある。
【0114】
焼成時間は、昇温速度や降温速度により変動するが、有機テンプレートが十分に取り除かれる時間であれば特に限定されず、好ましくは1時間以上、より好ましくは5時間以上である。上限は特に限定されず、例えば、通常200時間以内、好ましくは150時間以内、より好ましくは100時間以内、最も好ましくは24時間以内である。焼成は空気雰囲気で行えばよいが、酸素を付加した雰囲気で行ってもよい。
【0115】
焼成の際の昇温速度は、支持体とゼオライトの熱膨張率の差がゼオライト膜に亀裂を生じさせることを少なくするために、なるべく遅くすることが望ましい。昇温速度は、通常5℃/分以下、好ましくは2℃/分以下、さらに好ましくは1℃/分以下、特に好ましくは0.5℃/分以下である。通常、作業性を考慮し0.1℃/分以上である。
【0116】
また、焼成後の降温速度もゼオライト膜に亀裂が生じることを避けるためにコントロールする必要がある。昇温速度と同様、遅ければ遅いほど望ましい。降温速度は、通常5℃/分以下、好ましくは2℃/分以下、より好ましくは1℃/分以下、特に好ましくは0.5℃/分以下である。通常、作業性を考慮し0.1℃/分以上である。
【0117】
ゼオライト膜は、必要に応じてイオン交換しても良い。イオン交換は、テンプレートを用いて合成した場合は、通常、テンプレートを除去した後に行う。イオン交換するイオンとしては、プロトン、Na、K、Liなどのアルカリ金属イオン、Ca2+、Mg2+、Sr2+、Ba2+などのアルカリ土類金属イオン、Fe、Cu、Znなどの遷移金属のイオンなどが挙げられる。これらの中で、プロトン、Na、K、Liなどのアルカリ金属イオンが好ましい。
【0118】
イオン交換は、焼成後(テンプレートを使用した場合など)のゼオライト膜を、NHNO、NaNOなどアンモニウム塩あるいは交換するイオンを含む水溶液、場合によっては塩酸などの酸で、通常、室温から100℃の温度で処理後、水洗する方法などにより行えばよい。さらに、必要に応じて200℃〜500℃で焼成してもよい。
【0119】
加熱処理後のゼオライト膜複合体の空気透過量[L/(m・h)]は、通常1400L/(m・h)以下、好ましくは1000L/(m・h)以下、より好ましくは700L/(m・h)以下、より好ましくは600L/(m・h)以下、さらに好ましくは500L/(m・h)以下、特に好ましくは300L/(m・h)以下、もっとも好ましくは200L/(m・h)以下である。透過量の下限は特に限定されないが、通常0.01L/(m・h)以上、好ましくは0.1L/(m・h)以上、より好ましくは1L/(m・h)以上である。
【0120】
ここで、空気透過量とは、実施例で詳述するとおり、ゼオライト膜複合体を絶対圧5kPaの真空ラインに接続した時の空気の透過量[L/(m・h)]である。
【0121】
かくして製造されるゼオライト膜複合体は、上記のとおり優れた特性をもつものであり、有機化合物を含む気体または液体の混合物を接触させて、該混合物から、透過性の高い物質を透過させて分離を行う際の膜分離手段として好適に用いることができる。
【0122】
(分離方法)
本発明において、上記ゼオライト膜を備えた無機多孔質支持体を介し支持体側又はゼオライト膜側の一方の側に有機化合物を含む気体または液体の混合物を接触させ、その逆側を混合物が接触している側よりも低い圧力とすることによって、混合物から、ゼオライト膜に透過性が高い物質(透過性が相対的に高い混合物中の物質)を選択的に、すなわち、透過物質の主成分として透過させる。これにより、混合物から透過性の高い物質を分離することができる。その結果、混合物中の特定の有機化合物(透過性が相対的に低い混合物中の物質)の濃度を高めることで、特定の有機化合物を分離回収、あるいは濃縮することができる。
【0123】
例えば、水と有機化合物の混合物の場合、通常水がゼオライト膜に対する透過性が高いので、混合物から水が分離され、有機化合物は元の混合物中で濃縮される。パーベーパレーション法(浸透気化法)、ベーパーパーミエーション法(蒸気透過法)と呼ばれる分離・濃縮方法は、本発明の分離方法におけるひとつの実施形態である。
【0124】
前記多孔質支持体−ゼオライト膜複合体は、含水率が20質量%以上の含水有機化合物を処理した場合でも、高い透過性能、選択性を発揮し、耐久性に優れた分離膜としての性能を持つ。
【0125】
ここでいう高い透過性能とは、十分な処理量を示し、例えば、膜を透過する物質の透過流束が、例えば含水率30質量%の2−プロパノールと水の混合物を、70℃において、1気圧(1.01×10Pa)の圧力差で透過させた場合、1kg/(m・h)以上、好ましくは3kg/(m・h)以上、より好ましくは5kg/(m・h)以上であることをいう。透過流束の上限は特に限定されず、通常20kg/(m・h)以下、好ましくは15kg/(m・h)以下である。
【0126】
また、高い透過性能をパーミエンスで表す事もできる。パーミエンスとは、透過する物質量を膜面積と時間と透過する物質の分圧差の積で割ったものである。パーミエンスの単位で表した場合、例えば含水率30質量%の2−プロパノール水溶液を、70℃において、1気圧(1.01×10Pa)の圧力差で透過させた場合、水のパーミエンスとして、通常3×10−7mol/(m・s・Pa)以上、好ましくは5×10−7mol/(m・s・Pa)以上、より好ましくは1×10−6mol/(m・s・Pa)以上、特に好ましくは2×10−6mol/(m・s・Pa)以上である。パーミエンスの上限は特に限定されず、通常1×10−4mol/(m・s・Pa)以下、好ましくは5×10−5mol/(m・s・Pa)以下である。
【0127】
選択性は分離係数により表される。分離係数は膜分離で一般的に用いられる選択性を表す以下の指標である。
【0128】
分離係数=(Pα/Pβ)/(Fα/Fβ)
[ここで、Pαは透過液中の主成分の質量パーセント濃度、Pβは透過液中の副成分の質量パーセント濃度、Fαは透過液において主成分となる成分の被分離混合物中の質量パーセント濃度、Fβは透過液において副成分となる成分の被分離混合物中の質量パーセント濃度である。]
【0129】
分離係数は、例えば、含水率30質量%の2−プロパノールと水の混合物を、70℃において、1気圧(1.01×10Pa)の圧力差で透過させた場合、通常1000以上、好ましくは4000以上、より好ましくは10000以上、特に好ましくは20000以上である。分離係数の上限は完全に水しか透過しない場合でありその場合は無限大となるが、好ましくは10000000以下、より好ましくは1000000以下である。
【0130】
分離対象が、水と有機化合物の混合物(以下これを「含水有機化合物」ということがある。)の場合、混合物中の含水率は、通常20質量%以上、好ましくは30質量%以上、より好ましくは45質量%以上であり、通常95質量%以下、好ましくは80質量%以下、より好ましくは70質量%以下である。
【0131】
ゼオライト膜を透過する物質は、通常水であるため、含水率が少なくなると処理量が低下するため効率的でない。また含水率が多すぎると濃縮に必要な膜が大面積となり(膜が管状に形成されている場合は数が多くなり)経済的な効果が小さくなる。
【0132】
含水有機化合物としては、適当な水分調節方法により、予め含水率を調節したものであってもよい。この場合、好ましい含水率は上記と同様である。また、水分調節方法としては、それ自体既知の方法、例えば、蒸留、圧力スイング吸着(PSA)、温度スイング吸着(TSA)、デシカントシステムなどが挙げられる。
【0133】
さらに、ゼオライト膜複合体によって水が分離された含水有機化合物から、さらに水を分離してもよい。これにより、より高度に水を分離し、含水有機化合物をさらに高度に濃縮することができる。
【0134】
有機化合物としては、例えば、酢酸、アクリル酸、プロピオン酸、蟻酸、乳酸、シュウ酸、酒石酸、安息香酸などのカルボン酸類や、スルフォン酸、スルフィン酸、ハビツル酸、尿酸、フェノール、エノール、ジケトン型化合物、チオフェノール、イミド、オキシム、芳香族スルフォンアミド、第1級および第2級ニトロ化合物などの有機酸類;メタノール、エタノール、イソプロパノール(2−プロパノール)などのアルコール類;アセトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類;アセトアルデヒドなどのアルデヒド類、ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル類;ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン等のアミドなどの窒素を含む有機化合物(N含有有機化合物)、酢酸エステル、アクリル酸エステル等のエステル類などが挙げられる。
【0135】
これらの中で、特にアルコール、エーテル、ケトン、アルデヒド、アミドから選ばれる少なくとも一種を含有する有機化合物が望ましい。これら有機化合物の中で、炭素数が2から10のものが好ましく、炭素数が3から8のものがより好ましい。
【0136】
また有機化合物としては、水と混合物(混合溶液)を形成し得る高分子化合物でもよい。かかる高分子化合物としては、分子内に極性基を有するもの、例えば、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコールなどのポリオール類;ポリアミン類;ポリスルホン酸類;ポリアクリル酸などのポリカルボン酸類;ポリアクリル酸エステルなどのポリカルボン酸エステル類;グラフト重合等によってポリマー類を変性させた変性高分子化合物類;オレフィンなどの非極性モノマーとカルボキシル基等の極性基を有する極性モノマーとの共重合によって得られる共重合高分子化合物類などが挙げられる。
【0137】
さらに、含水有機化合物としては、水とポリマーエマルジョンとの混合物でもよい。ここで、ポリマーエマルジョンとは、接着剤や塗料等で通常使用される、界面活性剤とポリマーとの混合物である。ポリマーエマルジョンに用いられるポリマーとしては、例えば、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、アクリル樹脂、ポリオレフィン、エチレン−ビニルアルコール共重合体などのオレフィン−極性モノマー共重合体、ポリスチレン、ポリビニルエーテル、ポリアミド、ポリエステル、セルロース誘導体等の熱可塑性樹脂;尿素樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン等の熱硬化性樹脂;天然ゴム、ポリイソプレン、ポリクロロプレン、スチレン−ブタジエン共重合体などのブタジエン共重合体等のゴム等が挙げられる。また界面活性剤としては、それ自体既知のものを用いればよい。
【0138】
本発明のゼオライト膜複合体は、耐酸性を有するため、水と酢酸など有機酸の混合物からの水分離、エステル化反応促進のための水分離などにも有効に利用できる。
【0139】
(ゼオライト膜複合体の再生方法)
上記分離方法により、有機化合物を含む気体または液体の混合物を接触させて、該混合物から、透過性の高い物質を透過させて分離を行うと、ゼオライト膜表面に非透過物質である有機化合物が吸着・堆積し、ゼオライト膜複合体の透過流束が低下する。本発明においては、透過流束が低下したゼオライト膜複合体を水に浸漬することにより再生する。
【0140】
ゼオライト膜複合体を再生するタイミングは特に限定されず、分離/濃縮の効率を勘案し適宜決定すればよい。
【0141】
ここで、水とは、液状の水であって、沸点以上の温度では、加圧下で液状となっているものも含まれる。この場合の圧力は、自生圧でも加圧でもよい。
【0142】
水の温度は、通常50℃以上、好ましくは60℃以上であり、より好ましくは80℃以上、さらに好ましくは100℃以上、特に好ましくは120℃以上であり、通常300℃以下、好ましくは200℃以下、より好ましくは160℃以下である。水の温度がこの範囲より低い場合、ゼオライト膜表面に吸着、堆積した物質が十分に脱離しないことがあり、水の温度がこの範囲よりも高い場合、ゼオライトの一部が溶出してゼオライトが壊れる可能性がある。
【0143】
水への浸漬時間は、通常10分以上、好ましくは30分以上、より好ましくは1時間以上、さらに好ましくは5時間以上、特に好ましくは7時間以上、もっとも好ましくは10時間以上であり、通常200時間以下、好ましくは120時間以下、より好ましくは100時間以下、さらに好ましくは50時間以下、特に好ましくは30時間以下、もっとも好ましくは20時間以下である。浸漬時間がこれより短い場合には、ゼオライト膜表面に吸着、堆積した物質が十分に脱離しないことがあり、浸漬時間がこの範囲よりも長い場合、ゼオライトの一部が溶出してゼオライトが壊れる可能性がある。
【0144】
水中に微量のOH−1イオンを積極的に存在させてもよく、その場合、水中のOH−1イオン濃度は、通常0.05mol/l以下、好ましくは0.01mol/l以下、より好ましくは0.005mol/l以下であり、通常0.0001mol/l以上、好ましくは0.0005mol/l以上、より好ましくは0.001mol/l以上である。水中にOH−1イオンが存在することによって存在しない場合よりも短時間で同等の効果を得ることが可能になる。この範囲よりも水中のOH−1イオン濃度が高い場合にはゼオライト膜が溶解して破壊されやすくなる。
【0145】
水には、カルボン酸類、スルホン酸類などの有機酸を含んでいても良く、カルボン酸類としては、酢酸、プロピオン酸、ギ酸、シュウ酸、マレイン酸、アクリル酸などが好ましく、これらの中でとくに酢酸が好ましい。
【0146】
これら有機酸の濃度は、通常0.00001質量%以上、好ましくは0.00005質量%以上、より好ましくは0.0001質量%以上であり、通常5質量%未満、好ましくは3質量%以下、より好ましくは1質量%以下である。
【0147】
有機酸を含む水に浸漬して加熱処理することによって、ゼオライト膜表面に吸着、堆積した物質の脱離を促進する場合がある。
これらの有機酸の濃度が高すぎる場合には、ゼオライト膜の表面全体に有機酸が吸着して流路をふさぎ、かえって透過流束が減少する傾向になり再生とは逆の効果が生じる。
【0148】
ゼオライト膜複合体の水への浸漬は、水の流通下、攪拌下で行ってもよい。通常、ゼオライト膜が破壊されない程度であれば、水を流通させたり、撹拌させたりするのが好ましく、その場合の水の流通条件や攪拌条件は特に限定されず、水を浸漬する際の装置などの条件やゼオライト膜複合体およびまたはゼオライト膜複合体の機械的強度に応じて適宜決定すればよい。
【0149】
透過流束などの分離性能が低下したゼオライト膜複合体を、上記のとおり水に浸漬することにより、表面に付着した分子が浸漬した水中に拡散して、膜表面から除去され、透過流束などが回復すると考えられる。
【0150】
本発明の再生方法により、ゼオライト膜複合体の分離性能を、使用前の状態とほぼ同程度、透過流束でいえば初期の透過流束の通常70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、特に好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、通常100%以下まで回復させることができる。
【0151】
本発明の再生方法の条件によっては、膜面の親水性の程度が向上しこの再生処理を行うことによって、初期の透過流束以上の透過流束が得られる場合がある。その場合は、通常100%以上、好ましくは105%以上、より好ましくは110%以上、通常150%以下、好ましくは130%以下である。
【0152】
(再生されたゼオライト膜複合体を用いる分離方法)
本発明の分離方法は、上記方法により再生された多孔質支持体―ゼオライト膜複合体に、有機化合物を含む気体または液体の混合物を接触させて、該混合物から、透過性の高い物質を透過させて分離することに特徴を有するものである。この発明における分離方法は、上記分離方法の項で述べたものと同様に行えばよい。
【0153】
(分離装置)
次に、分離装置に係る発明について説明する。
本発明の分離装置は、SiO/Alモル比が5以上のゼオライトを含むゼオライト膜が、多孔質支持体の表面に形成されてなる多孔質支持体−ゼオライト膜複合体を膜分離手段として有し、かつ該膜分離手段へ水を供給する水供給ラインを有することに特徴を有するものである。
【0154】
本発明の分離装置において、膜分離手段は、上記で詳述したゼオライト膜を有するものであれば如何なるものであってもよい。ここで、ゼオライト膜は、上記したものと同様のものが用いられる。また、好ましいゼオライト膜や対象となる有機物を含む気体または液体の混合物(以下これを「原料混合物」ということがある。)も、上記と同様である。
【0155】
本発明の分離装置において、ゼオライト膜を透過する物質、例えば水の分離方法に特に制限はなく、例えば、蒸留塔の塔頂蒸気を蒸気透過膜に導いて水蒸気を分離する方法(蒸気透過法:ベーパーパーミエーション法)や、液状の原料混合物や蒸留塔の留出液などを浸透気化膜に導いて水分を分離する方法(浸透気化法:パーベーパレーション法)の何れの方法にも好適に用いることができる。
【0156】
これらの方法は、何れも水分選択透過性の膜を用いるものであり、水の分子の膜透過は、膜を介して存在する水の分圧差を推進力として起るものであり、透過した蒸気又液体の側を減圧とし、濃縮すべき蒸気または液中の水の分圧が透過側の水の分圧よりも大きい状態に保って操作することが必要とされる。
【0157】
本発明において、膜分離手段が有する上記ゼオライト膜が、水分子選択透過性の膜の機能をもつものとして用いられる。膜分離手段へ導入された原料混合物中の水が、選択的にゼオライト膜を透過し透過液側に排出され、凝縮器、透過液トラップ等を経て回収される。また、有機化合物はゼオライト膜を透過せず、水の分離を受け、脱水/濃縮された有機物を含む気体または液体の混合物(以下これを「被透過液」ということがある。)として回収される。
【0158】
本発明において、膜分離手段としては、少なくともゼオライト膜を具備する膜モジュールを有し、膜モジュールの透過液側に、透過液凝縮器、透過液トラップ、真空ポンプを有するものが好ましい。被透過液側には、必要に応じて、凝縮器等を有していてもよい。さらに、膜分離手段の前段部には、必要に応じて、水分調節手段や、結露防止手段等を有していてもよい。
【0159】
ここで、「モジュール」とは、幾つかの部品を集め、まとまりのある機能をもった部品であって、システムを構成する要素となるものを意味する。本発明において、膜分離手段、膜分離手段と他の手段、それを備える分離装置も、それ自体をモジュールとして用い得るものである。
【0160】
膜モジュールは、ゼオライト膜により透過を受ける(被透過)の蒸気又は液体室と透過蒸気室に隔てられた構成となっている。膜モジュールとしては、それ自体既知のものを選べば良いが、例えば、多孔質管状支持体にゼオライト膜を合成させた管状分離膜を具有するシェルアンドチューブ型モジュールが好ましいものとして挙げられる。このモジュールの詳細は、例えば、特開2005−177535号公報の図2、図3に記載されている。
【0161】
本発明において、水供給ラインは、膜分離手段へ水を供給してゼオライト膜の再生を行うためのもの、すなわち、膜分離手段で分離/濃縮を行った後に、ラインを切り替え、膜分離手段へ、原料混合物に代えて水を供給してゼオライト膜の再生を行うためのものである。
【0162】
水供給ラインは、膜分離手段へ水が供給可能なように接続されていればよく、接続方法に特に制限はなく、膜分離手段へ直接接続するか、原料混合物を膜分離手段へ導入する導入ラインなどへ接続すればよい。また、これらのラインは、切り替え可能なように適当なバルブを介して接続すればよい。バルブを介する接続は、それ自体既知の方法で行うことができる。
【0163】
また、本発明において、膜分離手段と水供給ラインと導入ラインを少なくとも有する分離装置を複数個備え、水供給ラインと導入ラインが、個々の分離装置への原料混合物の導入と水の供給を、交互に切り替え可能なように接続されていてもよい。この装置における各ラインの接続も、それ自体既知の方法で行うことができる。
【0164】
水分調節手段は、膜分離手段へ導入する原料混合物、例えば含水有機化合物の含水率を調節する手段である。水分調節手段としては、例えば、蒸留手段、PSA(Pressure Swing Adsorption:圧力変動吸着)装置、TSA(Temperature Swing Adsorption:温度変動吸着)、デシカントシステムなどの吸着分離手段等が挙げられる。これら水分調節手段は、それ自体既知のものである。
【0165】
また、これら水分調節手段を、膜分離手段の後段に用いることにより、原料混合物を、さらに高度に濃縮することもできる。
【0166】
ここで、膜分離手段へ導入する原料混合物、例えば含水有機化合物の含水率は、通常20%以上、好ましくは30%以上、より好ましくは45%以上であり、通常95%以下、好ましくは80%以下、より好ましくは70%以下である。上記水分調節手段により、必要に応じて、含水率をこれらの範囲に調節する。
【0167】
また、結露防止手段は、膜モジュールへ蒸気と導入する場合に、その結露を防止するためのものである。含水有機化合部物を、蒸気として膜モジュールに導入する場合、配管の外側や内側に結露が生じることもある。この場合、凝縮によるエネルギーの損失があり非効率的であるほか装置からの水の滴りによって装置周辺の環境を悪化させるなどの問題が生じる虞れがある。これら問題は結露防止手段により解決することができる。
【0168】
結露防止手段としては、結露の防止機能をもつものであれば特に制限されず、例えば、熱交換器、蒸気圧縮機、過熱機、ヒートポンプ、サーモコンプレッション、絞り機構を有する圧力調整弁などが挙げられる。これら結露防止手段は、それ自体既知のものを用いればよい。
【0169】
結露防止手段により、通常、蒸気は過熱されるが、通常、1〜50℃の過熱状態として膜分離手段へ供給するのが好ましい。
【0170】
本発明の分離装置における実施態様の幾つかの例を、図1に模式的に示す。図1のa)〜f)において、水供給ライン14は、原料混合物11の導入ラインに接続されているが、上記のとおり、例えば膜分離手段20に直説接続されていてもよい。また、図1のb)において、水供給ライン14は、複数個の膜分離手段の間のラインに接続されていてもよい。
【0171】
さらに、図1のa)〜f)の態様に図示されていないが、これらの態様において、水供給ラインと導入ラインを有する膜分離手段を複数個備え、それらが、個々の膜分離手段への原料混合物の導入と水の供給を、交互に切り替え可能なように接続されていてもよい。
【0172】
図1のa)は、単数の膜分離手段を備える分離装置である。これら装置において、原料混合物(含水有機化合物)11は、ゼオライト膜により選択的に水が分離されて、膜の透過液12側に回収され、脱水/濃縮された含水有機化合物が被透過液13側に回収される。
【0173】
図1のb)は、複数の膜分離手段を備える分離装置である。この場合、例えば、本発明のゼオライト膜を有する膜分離手段を複数用いても良いし、本発明のゼオライト膜を有する膜分離手段の後段に、従来の低含水用のゼオライト膜、例えばA型ゼオライト膜を有する膜分離手段を備えていてもよい。これにより、原料混合物を、より高度に脱水/濃縮することができる。この例における物質のフローは図1のa)と同様である。
【0174】
図1のb)における膜分離手段の数は特に制限されず、対象となる有機化合物の種類や、目的とする脱水/濃縮の程度により適宜決定すればよい。
【0175】
図1のc)は、水分調節手段、例えば、蒸留手段20の還流ライン22の途中に膜分離手段10を備える分離装置である。水分調節手段が蒸留手段である場合、ベーパーパーミエーション法(蒸気透過法)により、水の分離が行われる。この場合、膜分離手段により脱水/濃縮された含水有機化合物13は、水分調節手段(蒸留塔)へ戻される。なお、ベーパーパーミエーション法(蒸気透過法)における物質のフローについては、図2の例において詳述する。
【0176】
図1のd)は、水分調節手段、例えば、蒸留手段のボトムの後段に、膜分離手段を備える分離装置である。この例においては、蒸留塔21の缶出液23が、膜分離手段10へ導入される。この場合、通常パーベーパレーション法(浸透気化法)により水の分離が行われる。
【0177】
図1のe)は、膜分離手段の後段に、吸着分離手段30、例えばPSA又はTSAなどを備える分離装置である。PSAなどの吸着分離手段は、通常、高含水有機化合物の分離には適さない。そこで、高含水に対応できる本発明の膜分離手段を前段に導入することにより、より効果的な脱水/濃縮が可能となる。
【0178】
図1のf)は、膜分離手段の後段に、水分調節手段、例えば蒸留手段20を備える分離装置である。これにより、より高度な脱水/濃縮が可能となる。
【0179】
図1のa)〜f)において、膜分離手段の透過流束などが低下した場合、ラインを切り替えて、水を供給し、ゼオライト膜の再生が行われる。ここで、導入する水の温度や組成、導入時間は、再生方法の項で述べたとおりである。
【0180】
本発明の分離装置おける実施態様の他の1例を、図2に模式的に示す。この図は、膜分離手段の前段に、水分調節手段として蒸留手段を備える分離装置を模式的に示したものである。
【0181】
図2において、蒸留手段20は、通常、蒸留塔21、リボイラー(図示せず)、ならびに凝縮器40、還流タンク(図示せず)、還流ポンプ(図示せず)等を有する還流ライン22などから構成される。図2において、水供給ライン14は、膜分離手段20への導入ラインに接続されているが、上記のとおり、例えば膜分離手段20に直接接続されていてもよい。
【0182】
蒸留塔は、棚段式、充填塔など蒸留に適したものであれば特に限定されない。蒸留塔21には、原料混合物(含水有機化合物)11を供給するための供給部を有している。図2において、供給部は蒸留塔21の中段にあるが、その位置は特に制限されず、蒸留条件により適宜決めればよい。
【0183】
この蒸留塔は耐圧性を有するものであれば特に制限がなく、それ自体既知の蒸留塔を使用することができる。
【0184】
含水率が、例えば50質量%で蒸留手段20に導入された混合物(含水有機化合物)は、蒸留塔21により気液平衡により分離され、過剰の高沸成分である水が、蒸留塔の底部から缶出液23として抜き出される。一方、蒸留塔の塔頂からは有機化合物/水混合系の飽和蒸気が留出する。この混合蒸気は、膜分離手段10への供給分を除く残りの混合蒸気が還流ラインへ入り、凝縮器40により凝縮され、還流タンクを通じて還流ポンプにより還流ラインを通じて蒸留塔21へ還流される。
【0185】
かくして、蒸留手段20において含水量が調節され、例えば、エネルギー負担の少ない、比較的含水量が多い、含水率30質量%程度の含水液(含水有機化合物)として膜分離手段10に導入される。
【0186】
なお、蒸留手段20の塔頂部の圧力は、混合蒸気の組成や性状にもより一概に決められないが、通常0.05MPa以上、好ましくは0.1MPa以上であり、通常2MPa以下、好ましくは1MPa以下である。圧力が大きすぎると蒸留塔の建設コストが高くなるなど不利となり、低すぎると蒸気を凝縮しにくくなるなど不利となる。
【0187】
また、本発明において、蒸留手段20で水分調節後の含水率は、通常20%以上、好ましくは30%以上、より好ましくは45%以上であり、通常95%以下、好ましくは80%以下、より好ましくは70%以下である。
【0188】
図2において、膜分離手段10に導入する工程において、必要に応じて結露防止手段50を有していてもよい。膜分離手段10へ導入する原料混合物11の含水量が多い場合、そのまま膜分離手段へ導入すると、膜表面において凝縮が起こりやすくなる。その場合、膜の有効面積が低下し、分離性能が低下する場合がある。そこで、膜分離手段の前に結露防止手段50を設けることにより、膜への凝縮を防ぎ、有効面積を最大化することができる。
【0189】
また、配管の外側および/または内側の結露が生じる場合も考えられる。この場合、凝縮によるエネルギーの損失があり非効率的であるほか装置からの水の滴りによって装置周辺の環境を悪化させるなどの問題が生じるおそれがある。
【0190】
結露防止手段は特に限定されず、例えば、上記したものが挙げられる。
【0191】
結露防止手段により、蒸気は過熱されるが、通常1〜50℃の過熱状態として膜分離手段へ供給する。
【0192】
図2において、水分調節手段(蒸留手段20)から膜分離手段10に導入された高含水有機化合物、例えば含水率30質量%程度の有機化合物の混合蒸気を、本発明のゼオライト膜分離手段に導入することにより、水が選択的にゼオライト膜を透過して透過液12側へ排出され、透過凝縮器、透過液トラップを経て回収される。また、有機化合物は、ゼオライト膜を透過せず、被透過液13側に脱水されて排出され、濃縮液凝縮器を経て容器に回収される。
【0193】
図2において、膜分離手段の透過流束などが低下した場合、ラインを切り替えて、水を供給し、ゼオライト膜の再生が行われる。ここで、導入する水の温度や組成、導入時間は、再生方法の項で述べたとおりである。
【0194】
図2で例示した膜分離方法は、べーパーパーミエーション法(蒸気透過法)であるが、例えば、蒸留塔の塔底からの混合液を分離する場合などは、上記のとおり、パーベーパレーション法(浸透気化法)が用いられる。
【0195】
さらに、図1、図2の態様に図示されていないが、水供給ライン14と導入ラインを有する膜分離手段を並列に複数個備え、それらが、個々の膜分離手段への原料混合物の導入と水の供給を、交互に切り替え可能なように接続されていてもよい。
【0196】
かかる分離装置の1例を、図3に模式的に示す。図3においては、膜分離手段10を2基並列で設け、それぞれの膜分離手段10に原料混合物11を供給するための導入ラインと水供給ライン14を備えている。原料混合物11の導入ラインと水供給ライン14は、それぞれ、バルブ31を備え、膜分離手段10への原料混合物11の導入と水の供給を切り替えられるようになっている。
【0197】
上記構成とすることにより、一方の膜分離手段10に水を供給して再生処理をすると同時に、もう一方の膜分離手段には原料混合物11を導入して分離処理を行うことができる。即ち、原料混合物11の分離処理を中断することなく、膜分離手段10の再生処理を行うことができる。
【0198】
本発明の分離装置において、ゼオライト膜の温度は、蒸気透過法、浸透気化法により異なるが、通常50℃以上、好ましくは70℃以上、より好ましくは80℃以上であり、通常300℃以下、好ましくは250℃以下、より好ましくは200℃以下、さらに好ましくは160℃以下、特に好ましくは140℃以下である。
【0199】
また、本発明の分離装置において、パーベーパレーション法(浸透気化法)を行う場合、低圧側の減圧度は、経済的なメリットがある範囲で低ければ低いほど良い。通常は50torr(6.65kPa)未満、好ましくは10torr(1.33kPa)未満、より好ましくは5torr(0.665kPa)未満である。浸透の駆動力は膜の両側の圧力差であり、圧力差が大きいほど透過流速が大きくなる。
【0200】
こうして得られる透過側の水の濃度、および濃縮される有機物の濃度は、通常80質量%以上、好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上、さらに好ましくは99質量%以上、特に好ましくは99.5質量%以上である。
【実施例】
【0201】
以下、実施例に基づいて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、以下の例において、物性や分離性能等の測定は、次のとおり行った。
【0202】
(1)X線回折(XRD)の測定
ゼオライト膜のXRD測定を、以下の条件で行った。
・装置名:オランダPANalytical社製X’PertPro MPD
・光学系仕様 入射側:封入式X線管球(CuKα)
Soller Slit (0.04rad)
Divergence Slit (Valiable Slit)
試料台:XYZステージ
受光側:半導体アレイ検出器(X’ Celerator)
Ni−filter
Soller Slit (0.04rad)
ゴニオメーター半径:240mm
・測定条件 X線出力(CuKα):45kV、40mA
走査軸:θ/2θ
走査範囲(2θ):5.0−70.0°
測定モード:Continuous
読込幅:0.05°
計数時間:99.7sec
自動可変スリット(Automatic−DS):1mm(照射幅)
横発散マスク:10mm(照射幅)
【0203】
なお、X線は円筒管の軸方向に対して垂直な方向に照射した。またX線は、できるだけノイズ等がはいらないように、試料台においた円筒管状の膜複合体と、試料台表面と平行な面とが接する2つのラインのうち、試料台表面ではなく、試料台表面より上部にあるもう一方のライン上に主にあたるようにした。
【0204】
また、照射幅を自動可変スリットによって1mmに固定して測定し、Materials Data, Inc.のXRD解析ソフトJADE 7.5.2(日本語版)を用いて可変スリット→固定スリット変換を行ってXRDパターンを得た。
【0205】
(2)SEM−EDXの測定
ゼオライト膜のSEM−EDX測定を、以下の条件で行った。
・装置名:SEM:FE−SEM Hitachi:S−4800
EDX:EDAX Genesis
・加速電圧:10kV
倍率5000倍での視野全面(25μm×18μm)を走査し、X線定量分析を行った。
【0206】
(3)SEMの測定
SEM測定は以下の条件に基づき行った。
・装置名:SEM:FE−SEM Hitachi:S−4100
・加速電圧:10kV
【0207】
(4)空気透過量
ゼオライト膜複合体の一端を封止し、他端を、密閉状態で5kPaの真空ラインに接続して、真空ラインとゼオライト膜複合体の間に設置したマスフローメーターで空気の流量を測定し、空気透過量[L/(m・h)]とした。マスフローメーターとしてはKOFLOC社製8300、Nガス用、最大流量500ml/min(20℃、1気圧換算)を用いた。
【0208】
KOFLOC社製8300においてマスフローメーターの表示が10ml/min(20℃、1気圧換算)以下であるときはLintec社製MM−2100M、Airガス用、最大流量20ml/min(0℃、1気圧換算)を用いて測定した。
【0209】
(5)パーベーパレーション法
パーベーパレーション法に用いた装置の概略図を図4に示す。図4においてゼオライト膜複合体5は真空ポンプ9によって内側が減圧され、被分離液4が接触している外側と圧力差が約1気圧(1.01×10Pa)になっている。この圧力差によって、被分離液4中の透過物質(水)がゼオライト膜複合体5に浸透気化して透過する。透過した物質はトラップ7で捕集される。一方、有機化合物は、ゼオライト膜複合体5の外側に滞留する。
【0210】
一定時間ごとに、トラップ7に捕集した透過液の重量測定および組成の分析、被分離液4の組成を分析を行い、それらの値を用いて各時間の分離係数、透過流束、水のパーミエンスを前記のとおり算出した。なお、組成分析はガスクロマトグラフにより行った。
【0211】
[実施例1]
(1)種結晶の合成
組成(モル比)が、SiO/Al/NaOH/KOH/HO/TMADAOH=1/0.033/0.1/0.06/40/0.07の水熱合成用の反応混合物を次のとおり調製した。なお、上記組成中のTMADAOHは、有機テンプレートとして用いたN,N,N−トリメチル−1−アダマンタンアンモニウムヒドロキシドである(以下同様)。
【0212】
1mol/L−NaOH水溶液15gと1mol/L−KOH水溶液9gと水64gを混合したものに水酸化アルミニウム(Al 53.5質量%含有、アルドリッチ社製)0.94gを加えて撹拌し溶解させ、透明溶液とした。これにTMADAOH水溶液(TMADAOH25質量%含有、セイケム社製)8.9gを加え、さらにコロイダルシリカ(日産化学社製 スノーテック−40)22.5gを加えて2時間撹拌し、反応混合物とした。
【0213】
上記反応混合物の入ったテフロン(登録商標)製内筒(200ml)を、オートクレーブに入れて密閉し、160℃で5日間、自生圧力下で加熱した。オートクレーブを、所定時間、15rpmで撹拌後に放冷した。反応混合物を取り出して濾過、洗浄し、100℃で5時間以上乾燥させた。得られたゼオライト結晶は10gであった。
【0214】
上記で得られたゼオライト結晶0.2gを、種結晶として透明溶液に加えた以外は、上記と同様に水熱合成用の反応混合物を調製した。
【0215】
上記反応混合物の入ったテフロン(登録商標)製内筒(200ml)を、オートクレーブに入れて密閉し、160℃で48時間、自生圧力下で加熱した。オートクレーブを、所定時間、15rpmで撹拌した後に放冷した。反応混合物を取り出して濾過、洗浄し、100℃で5時間以上乾燥させ、ゼオライト結晶10gを得た。このCHA型ゼオライトを種結晶として用いた。
【0216】
(2)多孔質支持体−ゼオライト膜複合体の作製とその物性
水熱合成用の反応混合物として、以下のものを調製した。
1mol/L−NaOH水溶液10.5gと1mol/L−KOH水溶液7.0gと水100.5gを混合したものに水酸化アルミニウム(Al 53.5質量%含有、アルドリッチ社製)0.88gを加えて撹拌し溶解させ、透明溶液とした。これにTMADAOH水溶液(TMADAOH25質量%含有、セイケム社製)2.36gを加え、さらにコロイダルシリカ(日産化学社製 スノーテック−40)10.5gを加えて2時間撹拌し、反応混合物とした。
【0217】
この反応混合物の組成(モル比)は、SiO/Al/NaOH/KOH/HO/TMADAOH=1/0.066/0.15/0.1/100/0.04、SiO/Al=15である。
【0218】
無機多孔質支持体として、ニッカトー社製のムライトチューブPM(外径12mm、内径9mm)を、80mmの長さに切断して用いた。このチューブの外表面を#800の紙やすりを用いて研磨し、研磨した多孔質支持体を超音波洗浄機で洗浄したのち120℃で2時間乾燥させた。
【0219】
上記で合成した種結晶を3質量%で水に分散させたスラリーに、上記支持体を浸漬した後、100℃で5時間以上乾燥させて種結晶を付着させた。付着した種結晶の質量は約1.5g/mであった。
【0220】
種結晶を付着させた支持体を上記反応混合物の入ったテフロン(登録商標)製内筒(200ml)に垂直方向に浸漬してオートクレーブを密閉し、静置状態で、160℃48時間、自生圧力下で加熱した。所定時間経過後に放冷し、多孔質支持体−ゼオライト膜複合体を反応混合物から取り出し、洗浄後、100℃で5時間乾燥させた。
【0221】
テンプレート焼成前のゼオライト膜複合体を、電気炉で500℃、5時間焼成した。焼成後のゼオライト膜複合体の質量と支持体の質量の差から求めた、支持体上に結晶化したCHA型ゼオライトの質量は140g/mであった。
【0222】
焼成後のゼオライト膜複合体の空気透過量は、50L/(m・h)(20℃1気圧換算)であった。
【0223】
生成した膜のXRDを測定したところCHA型ゼオライトが生成していることがわかった。
【0224】
XRDパターンから、(2θ=17.9°付近のピークの強度)/(2θ=20.8°付近のピークの強度)=2.4であり、種結晶に用いた粉末のCHA型ゼオライトのXRDに比べ2θ=17.9°付近のピークの強度が顕著に大きく、rhombohedral settingにおける(1,1,1)面への配向が推測された。
【0225】
短冊状に切断した多孔質支持体−CHA型ゼオライト膜複合体をSEMで観測した結果、表面に結晶が緻密に生成していた。
【0226】
SEM−EDXにより測定した、ゼオライト膜のSiO/Alモル比は17であった。
【0227】
(3)ゼオライト膜複合体の分離性能
[水/2−プロパノール混合溶液の分離]
得られた多孔質支持体−CHA型ゼオライト膜複合体を用いて、パーベーパレーション法により70℃の水/2−プロパノール混合溶液(30/70質量%)から水を選択的に透過させる分離を行った。
【0228】
透過開始から5時間後の透過流束は5.8kg/(m・h)、分離係数は31000、透過液中の水の濃度は99.99質量%であった。水のパーミエンスであらわすと、3.3×10−6mol/(m・s・Pa)であった。透過開始から7時間後の透過流束は5.8kg/(m・h)、分離係数は40100、透過液中の水の濃度は99.99質量%であった。水のパーミエンスであらわすと、3.3×10−6mol/(m・s・Pa)であった。時間の経過による膜の性能の低下は見られなかった。
[水/酢酸混合溶液の分離]
水/2−プロパノール混合溶液の分離に用いた、この多孔質支持体−CHA型ゼオライト膜複合体を用いて、パーベーパレーション法により70℃の水/酢酸混合溶液(50/50質量%)から水を選択的に透過させる分離を行った。
【0229】
透過開始から5時間後の透過流束は5.0kg/(m・h)、分離係数は1300、透過液中の水の濃度は99.93質量%であった。水のパーミエンスであらわすと、3.2×10−6mol/(m・s・Pa)であった。透過開始から18時間後の透過流束は3.9kg/(m・h)、分離係数は4800、透過液中の水の濃度は99.98質量%であった。水のパーミエンスであらわすと、2.5×10−6mol/(m・s・Pa)であった。時間の経過につれて、透過流束が低下した。
【0230】
(4)ゼオライト膜複合体の再生
酢酸混合溶液の分離を18時間行ったゼオライト膜複合体を、脱塩水が150g入ったテフロン(登録商標)製内筒(200ml)に垂直方向に浸漬してオートクレーブを密閉し、静置状態で、80℃で6時間、自生圧力下で加熱した。所定時間経過後に放冷し、多孔質支持体−ゼオライト膜複合体を脱塩水から取りだした。
【0231】
(5)再生後のゼオライト膜複合体の分離性能
再生処理を行ったゼオライト膜複合体を用いて、上記と同様に、パーベーパレーション法により70℃の水/酢酸混合溶液(50/50質量%)から水を選択的に透過させる分離を行った。
【0232】
透過開始から5時間後の透過流束は5.0kg/(m・h)、分離係数は1900、透過液中の水の濃度は99.95質量%であった。水のパーミエンスであらわすと、3.2×10−6mol/(m・s・Pa)であった。
【0233】
再生処理を行うことで、18時間の分離によって3.9kg/(m・h)まで低下した透過流束が向上し、使用前と同等になった。
【産業上の利用可能性】
【0234】
本発明は産業上の任意の分野に使用可能であるが、例えば、化学プラント、発酵プラント、精密電子部品工場、電池製造工場等の、含水有機化合物から水を分離し、有機化合物の回収などが必要とされる分野において、特に好適に使用できる。
【符号の説明】
【0235】
10 膜分離手段
11 原料混合物(含水有機化合物)
12 透過液
13 被透過液
14 水供給ライン
20 蒸留手段
21 蒸留塔
22 還流ライン
23 缶出液
30 吸着分離手段
31 バルブ
40 凝縮器
50 結露防止手段
1 スターラー
2 湯浴
3 撹拌子
4 被分離液
5 ゼオライト膜複合体
6 ピラニゲージ
7 透過液捕集用トラップ
8 コールドトラップ
9 真空ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
SiO/Alモル比が5以上のゼオライトを含むゼオライト膜が、多孔質支持体上に形成されてなる多孔質支持体−ゼオライト膜複合体の再生方法であって、該ゼオライト膜複合体に、有機物を含む気体または液体の混合物を接触させて、該混合物のうち透過性の高い物質を透過させ後に、該ゼオライト膜複合体を水に浸漬することを特徴とする多孔質支持体−ゼオライト膜複合体の再生方法。
【請求項2】
水の温度が50℃以上であり、浸漬時間が1時間以上である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
浸漬が水の流通下で行われる、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
有機物を含む気体または液体の混合物が含水有機化合物である、請求項1乃至3の何れか1項に記載の方法。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の方法により再生された多孔質支持体―ゼオライト膜複合体に、有機化合物を含む気体または液体の混合物を接触させて、該混合物から、透過性の高い物質を透過させて分離することを特徴とする分離方法。
【請求項6】
SiO/Alモル比が5以上のゼオライトを含むゼオライト膜が、多孔質支持体上に形成されてなる多孔質支持体−ゼオライト膜複合体を膜分離手段として有し、かつ該膜分離手段へ水を供給する水供給ラインを有することを特徴とする分離装置。
【請求項7】
有機物を含む気体または液体の混合物を膜分離手段へ導入する導入ラインをさらに有し、該導入ラインに水供給ラインが接続されている、請求項6に記載の分離装置。
【請求項8】
膜分離手段と水供給ラインと導入ラインを少なくとも有する分離装置を複数個備え、水供給ラインと導入ラインが、個々の分離装置への有機物を含む気体または液体の混合物の導入と水の供給を、交互に切り替え可能なように接続されている、請求項6又は7に記載の分離装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2012−45484(P2012−45484A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−189656(P2010−189656)
【出願日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】