説明

ゼオライト膜の製造方法、及びゼオライト膜

【課題】従来よりも膜厚の薄く、透過性の向上したゼオライト膜、及びそれを製造する製造方法を提供する。
【解決手段】多孔質基材の第一の表面に、低極性ポリマーを付着させて表面を覆う表面層を形成する表面層形成工程と、多孔質基材の第一の表面とは異なる面から多孔質基材中にマスキングポリマーを含浸させることにより、表面層までの多孔質基材中の細孔にマスキングポリマーを充填して固化させる充填工程と、表面層を除去する表面層除去工程と、を含むゼオライト膜の製造方法である。表面層除去工程の後、ゼオライト膜を多孔質基材の第一の表面に形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、混合流体を分離するゼオライト膜の製造方法、及びゼオライト膜に関する。
【背景技術】
【0002】
ゼオライトは、触媒、触媒担体、吸着材等として利用されており、また、金属やセラミックスからなる多孔質基材の表面に成膜されたゼオライト膜は、ゼオライトの分子篩作用を利用し、ガス分離膜や浸透気化膜として用いられるようになってきている。ゼオライト膜による膜分離については、近年、有機溶媒やバイオマスエタノールの脱水に用いる膜が実用化されている。
【0003】
ゼオライト膜を分離膜として利用するための性能を向上させるために、分離係数と透過速度の向上が望まれている。つまり、ゼオライト膜の実用化に向けた重要な課題としては、分離性と透過性の両立が挙げられる。しかし、これらは相反するものであり、例えば、分離係数を低下させずに透過速度を向上させることは容易ではない。
【0004】
ゼオライト膜を薄く均一に作製することにより、透過性を向上する方法が開示されている。例えば、多孔質基材にある物質を含浸させた後、表面に種結晶を付着させゼオライト膜を形成することにより、薄く均一なゼオライト膜を形成する方法が開示されている(特許文献1〜2参照)。また、2種類の含浸材料(含浸材料、予備含浸マスキング材料)を用いる方法が開示されている(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−18387号公報
【特許文献2】特開2004−344755号公報
【特許文献3】欧州特許出願公開1163046号明細書
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】J.Hedlund 他 Journal of Membrane Science 222 (2003) 163-179
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1〜2の方法は、多孔質基材に含浸させる物質の含浸深さの制御が難しく、多孔質基材の表面に形成するゼオライト膜の均一性が十分とは言えなかった。特許文献3の方法は、予備含浸マスキング層を形成して含浸材料を支持体に含浸させた場合に、その後の予備含浸マスキング層の完全な除去に時間がかかる。例えば、好ましい予備含浸マスキング層の材料として挙げられているポリメタクリル酸メチル樹脂(ポリメチルメタクリレート,PMMA)の場合、非特許文献1によればアセトンで1週間を要する。予備含浸マスキング層を除去する場合に、支持体には、予備含浸マスキング層を除去するために使用する溶媒(例えば、アセトン)に溶けない物質を含浸材料として含浸させなくてはならない。また、支持体に含浸させる含浸材料は、融点がゼオライトの合成温度以上のものを選ばなくてはならない。低極性ポリマーは疎水性のものが多いため、特許文献3のようにこれをマスキングポリマー(含浸材料)として使用すると、表面に負の電荷を帯び種結晶塗布の際に、水などの溶媒をはじいてしまい、多孔質基材表面に十分に塗布することが難しい。そのため、参考論文(非特許文献1)では種結晶塗布前に、カチオンポリマーを多孔質基材表面に塗布し電荷を取り除き、種結晶を塗布する方法が開示されているが、このような方法は、製膜を行う上で作業が大幅に煩雑になり、製造コストの増加につながる。
【0008】
本発明の課題は、従来よりも膜厚の薄く、透過性の向上したゼオライト膜、及びそれを製造する製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意検討した結果、多孔質基材の第一の表面に、低極性ポリマーを付着させて表面を覆う表面層を形成し、多孔質基材中に低極性ポリマーと相溶性の低い高極性ポリマーをマスキングポリマーとして含浸させ、その後、表面層を除去してゼオライト膜を形成することにより、上記課題を解決しうることを見出した。すなわち、本発明によれば、以下のゼオライト膜の製造方法、及びゼオライト膜が提供される。
【0010】
[1] 多孔質基材の第一の表面に、溶解度パラメーター(SP値)が8.0(cal/cm1/2以下の低極性ポリマーを付着させて表面を覆う表面層を形成する表面層形成工程と、前記多孔質基材の前記第一の表面とは異なる面から前記多孔質基材中に前記低極性ポリマーと相溶性が低くSP値が8.0(cal/cm1/2を超える高極性ポリマーを含浸させることにより、前記表面層までの前記多孔質基材中の細孔に前記高極性ポリマーをマスキングポリマーとして充填して固化させる充填工程と、前記表面層を除去する表面層除去工程と、前記表面層が除去された前記多孔質基材の前記第一の表面に、ゼオライト膜を成膜するための種となる種結晶を付着させる種結晶付着工程と、前記種結晶を成長させて前記多孔質基材の前記第一の表面に構造規定剤を含む緻密な前記ゼオライト膜を形成する膜形成工程と、緻密な前記ゼオライト膜から前記構造規定剤、前記多孔質基材中から前記マスキングポリマーを除去する除去工程と、を含むゼオライト膜の製造方法。
【0011】
[2] 前記表面層は、その厚さが1〜2μmであり、その一部が前記多孔質基材内に、残余が前記多孔質基材の前記第一の表面上に形成されている前記[1]に記載のゼオライト膜の製造方法。
【0012】
[3] 前記低極性ポリマーは、パラフィンワックス、ポリイソブチレン、ポリエチレン、ポリプロピレンからなる群より選択される少なくとも一種である前記[1]または[2]に記載のゼオライト膜の製造方法。
【0013】
[4] 前記マスキングポリマーは、前記膜形成工程におけるゼオライト膜の形成温度よりも融点が高いものである前記[1]〜[3]のいずれかに記載のゼオライト膜の製造方法。
【0014】
[5] 前記種結晶付着工程は、前記多孔質基材を種付け用ゾル内に浸漬するディッピング法にて行う前記[1]〜[4]のいずれかに記載のゼオライト膜の製造方法。
【0015】
[6] 一部が多孔質基材内に、残余が前記多孔質基材の表面上に1〜2μmの厚みで形成され、COのCHに対する分離係数が10以上、かつ、COガスの透過速度が5×10−7mol/s/m/Pa以上である前記[1]〜[5]のいずれかに記載の方法によって製造されるゼオライト膜。
【発明の効果】
【0016】
本発明のゼオライト膜の製造方法は、多孔質基材の第一の表面に、低極性ポリマーを付着させて表面を覆う表面層を形成し、第一の表面とは異なる面から多孔質基材中にマスキングポリマーを含浸させることにより、マスキングポリマーによる含浸の深さを制御することができる。このため、表面層を除去してゼオライト膜を形成すれば、ゼオライト膜の膜厚を従来よりも薄くすることができ、高い透過性と高い分離性の両立が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1A】本発明のゼオライト膜の製造工程を示す模式図であり、表面層形成工程により表面層が形成されたところを示す図である。
【図1B】図1Aに続く、本発明のゼオライト膜の製造工程を示す模式図であり、充填工程によりマスキングポリマーが含浸されたところを示す図である。
【図1C】図1Bに続く、本発明のゼオライト膜の製造工程を示す模式図であり、表面層除去工程により、表面層が除去されたところを示す図である。
【図1D】図1Cに続く、本発明のゼオライト膜の製造工程を示す模式図であり、種結晶付着工程と膜形成工程によりゼオライト膜を形成したところを示す図である。
【図1E】図1Dに続く、本発明のゼオライト膜の製造工程を示す模式図であり、除去工程により、構造規定剤とマスキングポリマーを除去したところを示す図である。
【図2A】実施例1の走査型電子顕微鏡による断面におけるSiの分布を示した写真である。
【図2B】比較例1の走査型電子顕微鏡による断面におけるSiの分布を示した写真である。
【図3】膜透過性能試験装置を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態について説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、発明の範囲を逸脱しない限りにおいて、変更、修正、改良を加え得るものである。
【0019】
本発明のゼオライト膜の製造方法は、多孔質基材の第一の表面に、溶解度パラメーター(SP値)が8.0(cal/cm1/2以下の低極性ポリマーを付着させて表面を覆う表面層を形成する表面層形成工程と、多孔質基材の第一の表面とは異なる面から多孔質基材中に前記低極性ポリマーと相溶性が低くSP値が8.0(cal/cm1/2を超える高極性ポリマーを含浸させることにより、表面層までの多孔質基材中の細孔に前記高極性ポリマーをマスキングポリマーとして充填して固化させる充填工程と、表面層を除去する表面層除去工程と、表面層が除去された多孔質基材の第一の表面に、ゼオライト膜を成膜するための種となる種結晶を付着させる種結晶付着工程と、種結晶を成長させて多孔質基材の第一の表面に構造規定剤を含む緻密なゼオライト膜を形成する膜形成工程と、緻密なゼオライト膜から構造規定剤、多孔質基材中からマスキングポリマーを除去する除去工程と、を含む。
【0020】
低極性ポリマーは、高極性ポリマーに比べて融点が低く、やわらかいものが多いため、加工性に富み、様々な方法で多孔質基材表面に塗布することができることから、多孔質基材の表面に一様に表面層を形成するための材料として優れており、低極性ポリマーを付着させて表面層を形成する表面層形成工程を含むため、その後の多孔質基材中へのマスキングポリマーの充填工程において、マスキングポリマーの含浸深さを制御することができる。このため、表面層を除去する表面層除去工程の後に、従来よりもゼオライト層の膜厚を薄くすることができ、高い透過性を得ることができる。
【0021】
ここで、低極性ポリマーとは、分子間力が弱く、分子量の小さいもの(溶解度パラメーター(SP値)が小さいもの)を言い、本明細書においては、溶解度パラメーター(SP値)が8.0(cal/cm1/2以下のものを言う。低極性ポリマーは、パラフィンワックス(SP値7.0〜8.0(cal/cm1/2、融点48〜60℃)、ポリイソブチレン(SP値8.0(cal/cm1/2、融点44℃)、ポリエチレン(SP値7.9(cal/cm1/2、融点105〜137℃)、ポリプロピレン(SP値7.8〜8.0(cal/cm1/2、融点158〜168℃)からなる群より選択される少なくとも一種であり、このうちパラフィンワックスが好ましい。パラフィンワックスは、融点が48℃であり、多孔質基材(支持体)外周から浸漬させると1分程度で直ちに固化するため、内部まで浸透しにくく、低極性ポリマーとして好ましい。一方、特許文献3の非極性ポリマーでは、固化するまでに少なくとも20分以上要するため、内部まで浸透するため、薄膜化が難しい。
【0022】
本発明のゼオライト膜の製造方法は、低極性ポリマーにて表面層を形成した後、低極性ポリマーと相溶性の低い高極性ポリマーを多孔質基材に含浸させてマスキングポリマーとする。低極性ポリマーと相溶性の低いとは、低極性ポリマーとマスキングポリマーのSP値が1.0(cal/cm1/2以上離れていることを意味する。表面層を低極性ポリマーにて形成することにより、親水性である高極性ポリマーをマスキングポリマーとして使用することが可能となり、様々な種結晶塗布方法が可能になる。また、特許文献3では、極性ポリマーを推奨しているが、高極性ポリマーでは溶剤を用いて完溶させるには、長時間浸漬させる必要があり、表面に電荷を帯び後の種結晶塗布の際に電荷を取り除く必要があるなど、製膜を行う上で作業が大幅に煩雑になる。低極性ポリマーの表面層は、数時間程度(例えば、2時間程度)で除去が可能であるため、非特許文献1より短時間で取り除け、本発明の製造方法は作業時間を短縮することができる。
【0023】
種結晶付着工程は、多孔質基材を種付け用ゾル内に浸漬するディッピング法にて行うことが好ましいが、スピンコート法やろ過コート法など適宜方法を選ぶことができる。
【0024】
以下、各工程について、図1A〜図1Eを用いて具体的に説明する。図1A〜図1Eは、各工程における多孔質基材1の断面図である。多孔質基材1がチューブ形状の場合には外表面と内表面とがあるが、必要に応じて選択した一方の面を「第一の表面」と言う。また市販の蓮根状のセラミックフィルターを用いる場合には、蓮根状の孔の内表面を「第一の表面」と言う。
【0025】
(1)表面層形成工程:
表面層形成工程では、多孔質基材1の第一の表面に、低極性ポリマーを付着させて表面を覆う表面層2を形成する。
【0026】
(1−1)多孔質基材;
本発明に用いられる「多孔質基材」とは、セラミックによって構成された、三次元的に連通する多数の細孔を有する部材であり、その表面にゼオライト膜5が成膜された後は、当該膜の支持体として機能するとともに、ガスを透過させ得るガス透過性能をも備えた部材である。
【0027】
多孔質基材1を構成するセラミックとしては、アルミナ、ジルコニア(ZrO)、ムライト(3Al・2SiO)等をはじめとする従来公知のセラミックが用いられるが、本発明においては、市販品を容易に入手することができ、また、アルコキシドの加水分解といった簡便な製法により、高純度で均一な微粒子を得られることから、アルミナからなる多孔質基材1が特に好適に用いられる。
【0028】
多孔質基材1の気孔率は、20〜60%の範囲内であることが好ましく、25〜40%の範囲内であることが更に好ましい。前記範囲未満であると、ガスが透過する際の抵抗(圧力損失)が大きくなり、成膜されたゼオライト膜5をガス分離膜として使用する場合に、ガスの透過性能(ガス分離体の処理能力)が低下するおそれがある点において好ましくなく、前記範囲を超えると、ゼオライト膜5の支持体として必要とされる機械的強度が著しく低下するおそれがある点において好ましくない。なお、本明細書において「気孔率」というときは、水銀ポロシメータにより測定された気孔率を意味するものとする。
【0029】
多孔質基材1の平均細孔径は、0.003〜10μmの範囲内であることが好ましい。前記範囲未満であると、ガスが透過する際の抵抗(圧力損失)が大きくなり、成膜されたゼオライト膜5をガス分離膜として使用する場合に、ガスの透過性能(ガス分離体の処理能力)が低下するおそれがある点において好ましくなく、前記範囲を超えると、ゼオライト膜5の支持体として必要とされる機械的強度が著しく低下するおそれがある点において好ましくない。
【0030】
なお、本明細書において「平均細孔径」というときは、水銀圧入法により測定された細孔径であって、多孔質基材1に圧入された水銀の累積容量が、多孔質基材1の全細孔容積の50%となった際の圧力から算出された細孔径を意味するものとする。
【0031】
セラミックの多孔質基材1は、多数の細孔を有する多孔質支持体と、多孔質支持体の表面上に、多孔質支持体の平均細孔径よりも小さい平均細孔径の細孔を有する中間層と、中間層の表面上に、中間層の平均細孔径よりも小さい平均細孔径の細孔を有する最表層を有する、多層に形成されたものを利用してもよい(図1A参照)。この場合、最表層にゼオライト膜5を形成する。本願のゼオライト膜の製造方法は、低極性ポリマーを使用した表面層2を形成し、その後マスキングポリマーを充填するため、表面層2の除去層を薄く形成することができ、多孔質基材1内部へのゼオライトの侵入が阻止され、多孔質基材1のゼオライト膜を形成する面(最表層)の平均細孔径が従来よりも大きなものでも適用できる。したがって、上述のように、多層化して最表層の平均細孔径を小さくする必要はないし、従来は、最表層の平均細孔径が1μm以下のものが好ましかったが、本願では、0.003〜10μmの範囲でゼオライト膜が形成可能である。つまり、幅広い細孔径の多孔質基材1を使用することができる。
【0032】
また、多孔質基材1を構成する材料は、セラミック以外に、例えばステンレスなどの耐薬品性、耐熱性に優れる材料を用いたフィルターおよびステンレスの板などに0.01〜0.3μmの穴を開けて加工したものなどでもよい。
【0033】
(1−2)低極性ポリマー;
上述の低極性ポリマーを多孔質基材1の第一の表面だけに塗布し、表面層2を形成する。図1Aに、表面層形成工程により表面層2が形成されたところを示す。低極性ポリマーの塗布の方法は問わないが、溶融させた低極性ポリマーに多孔質基材1を浸漬さて塗布する方法が簡単でかつ均一に塗布できるため望ましい。また低極性ポリマーを多孔質基材1の内部まで含浸させてしまうと、後に多孔質基材1内部に含浸させるマスキングポリマー3が表面まで含浸しなくなってしまうため、なるべく表面だけに塗布することが望ましく、そのためには低極性ポリマーの溶解は、溶媒に熱をかけるなどして適度な粘度にする必要がある。低極性ポリマーによって形成される表面層2は、その厚さが1〜2μmであり、その一部が多孔質基材1内に、残余が多孔質基材1の第一の表面上に形成されていることが好ましい。
【0034】
また、低極性ポリマーは、多孔質基材1内部まで浸透しにくいものであることが望ましく、浸漬の後速やかに固化する物質のほうが浸漬の後も多孔質基材1の内部まで浸透することがないため望ましい。具体的には、低極性ポリマー(例えば、パラフィンワックス)を湯煎によって溶解させ、多孔質基材1(例えば、アルミナ基材)にディッピングにより浸漬させることで表面に均一に塗布することができる。
【0035】
(2)充填工程:
表面層形成工程において、低極性ポリマーにて表面層2を形成した後、多孔質基材1の第一の表面とは異なる面から多孔質基材1中にSP値が8.0(cal/cm1/2を超える高極性ポリマーを含浸させることにより、表面層2までの多孔質基材1中の細孔にマスキングポリマー3として充填して固化させる充填工程を行う。本明細書において、高極性ポリマーとは、SP値が8.0(cal/cm1/2を超えるものをいう。図1Bに充填工程によりマスキングポリマー3が含浸されたところを示す。
【0036】
マスキングポリマー3とは、多孔質基材1中に含浸させて固化させることができ、水熱合成時も多孔質基材内に溶解または分解することなく残存しているポリマーである。このマスキングポリマー3をアセトン等の溶媒に溶解させ、多孔質基材1に含浸させる。例えば、チューブ状の多孔質基材1の、チューブ内径の片側に栓をし、栓をしていないもう一方から溶融させたマスキングポリマー3を含浸させることで多孔質基材1の第一の表面とは異なる内表面側からマスキングポリマー3を含浸させることができる。
【0037】
マスキングポリマー3として使用するポリマーは表面に塗布する低極性ポリマーと相溶性を持つものであると、このあと低極性ポリマーを溶媒で取り除く際にマスキングポリマー3も溶解してしまうため、相溶性を持たないものが良い。具体的には、溶解度パラメーター(SP値)が表面に塗布する低極性ポリマーと1.0[(cal/cm1/2]以上離れていることが望ましく、2.0[(cal/cm1/2]以上離れているものがさらに望ましい。例えば、低極性ポリマーのSP値が7〜8とすると、マスキングポリマー3はSP値が9〜10以上のものが望ましい。
【0038】
合成するゼオライトの種類によっては高い合成温度を必要とするものがある。その場合、マスキングポリマー3は水熱合成時にも溶解・分解せずに残存していることが望ましいため、融点はゼオライト合成温度以上のものが良い。つまり、マスキングポリマー3は、膜形成工程におけるゼオライト膜5の形成温度よりも融点が高いものであることが好ましい。水熱合成の温度はゼオライトの種類により80℃から300℃と異なるが、140℃以上、望ましくは、150℃から200℃であるため、マスキングポリマー3の融点は、150℃よりも高いことが好ましい。また、後に熱焼成によってマスキングポリマー3を除去するため、200〜800℃で分解消失するものが望ましい。
【0039】
ゼオライトの合成温度は80〜300℃程度と幅広く、多くの種類のゼオライトに適用するには、マスキングポリマーとして高融点のポリマーを用いることが望ましい。高融点のポリマーは、高極性ポリマーが多く、高融点のポリマーを選択する場合に、高極性ポリマーを選択することが簡便と考えられている。また、表面層2を形成するポリマーと相溶性があるポリマーは、マスキングポリマーとして用いることはできない。したがって、表面層2を形成するポリマーに低極性ポリマーを用いることで、マスキングポリマーとして高極性ポリマーを使用することが可能になる。
【0040】
マスキングポリマー3としては、ポリメタクリル酸メチル樹脂(SP値9.25(cal/cm1/2、融点160〜200℃)、ポリスチレン(SP値8.6〜9.7(cal/cm1/2、融点230〜240℃)、ニトリルゴム(SP値9.4(cal/cm1/2)、酢酸ビニル樹脂(SP値9.4(cal/cm1/2)、ポリ塩化ビニル(SP値9.5〜9.7(cal/cm1/2、融点212℃)、エポキシ樹脂(SP値9.7〜10.9(cal/cm1/2、融点80〜180℃)、フェノール樹脂(SP値11.5(cal/cm1/2)、ナイロン(SP値12.7〜13.6(cal/cm1/2、融点147〜295℃)、ポリアクリルニトリル(SP値15.4(cal/cm1/2、融点317℃)、ポリカーボネート(SP値9.8(cal/cm1/2、融点205〜230℃)、ポリアミド(SP値13.6(cal/cm1/2、融点224℃)、酢酸セルロース(SP値11.3(cal/cm1/2、融点306℃)、ポリエチレンテレフタレート(SP値10.7(cal/cm1/2、融点220〜267℃)などが挙げられる。例えば、マスキングポリマー3として、ポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA)を使用すると、PMMAは融点が200℃に近いため、多くのゼオライトに対応することが可能である。
【0041】
(3)表面層除去工程:
次に、低極性ポリマーによって形成された表面層2を除去する表面層除去工程を行う。図1Cに、表面層除去工程により、表面層2が除去されたところを示す。多孔質基材1を低極性ポリマーのみを溶解させる溶媒(例えば、n−ヘキサン(SP値7.3))に1〜5時間浸漬させ、表面の低極性ポリマー(例えば、パラフィンワックス)だけを溶解させて、多孔質基材1(例えば、アルミナ基材)表面を露出させる。低極性ポリマーとして、パラフィンワックスを用いれば、アセトン、n−ヘキサンにより2時間程度で完全に除去することも可能である。70℃の乾燥炉で30分乾燥させることにより、除去に使用した溶媒を完全に除去することができる。
【0042】
(4)種結晶付着工程:
ゼオライト膜5を作成するためには種結晶となる膜種と同じゼオライト粉末が必要となる。種結晶となるゼオライト粉末としては、例えば、LTA、MFI、MOR、AFI、FER、FAU、DDR、CHA等の従来公知のゼオライトの粉末が挙げられ、これら結晶構造(細孔構造)の異なる各種ゼオライトの粉末の中から、ゼオライト膜5の用途等に応じて適宜選択すればよい。特にDDR型ゼオライトは、二酸化炭素(CO)等のガスを選択的に透過させるという特徴をもつため、二酸化炭素除去といった工業的に有用な用途への適用が可能となる点において、各種ゼオライトの中でも特に好適に用いることができる。以下、DDR型ゼオライト膜5を例として説明する。
【0043】
DDR型ゼオライト種結晶としては、「M.J.denExter,J.C.Jansen,H.van Bekkum,Studies in Surface Science and Catalysis vol.84,Ed.by J.Weitkamp et al.,Elsevier(1994)1159−1166」に記載のDDR型ゼオライトを製造する方法に従って、DDR型ゼオライト粉末を製造し、これを微粉末に粉砕したものを使用することが好ましい。粉砕後の種結晶は、篩等を用いて所定の粒径範囲とすることが好ましい。種結晶となるゼオライト粉末の粒径は、多孔質基材1の平均細孔径と同程度が望ましい。
【0044】
種結晶付着工程において、表面層2が除去された多孔質基材1の第一の表面に、ゼオライト膜5を成膜するための種となる種結晶を付着させる。DDR型ゼオライト種結晶を多孔質基体の表面上に付着させる手法は、特に限定されず、当業者が通常用いる手法を採用できる。例えば、DDR型ゼオライト種結晶を水に分散させた分散液(種付け用ゾル)を調製し、滴下法、ディッピング法、ろ過コート法、スピンコート法、印刷法等を目的に応じて選択し、多孔質基体表面のDDR型ゼオライト膜5を形成する領域にDDR型ゼオライト種結晶を塗布すればよい。このうち、種付け用ゾル中に多孔質基材1を浸漬するディッピング法が簡便なため好ましく、従来、ディッピング法では、ゼオライト層が厚くなる傾向があったが、本発明の製造方法では、従来よりも薄くゼオライト層を形成することができる。
【0045】
(5)膜形成工程:
本実施形態のDDR型ゼオライト膜の製造方法において、膜形成工程は、DDR型ゼオライト種結晶粒子が表面に形成された多孔質基材1を、1−アダマンタンアミン、シリカ及び水を含有する膜形成用ゾルに浸漬し、水熱合成して、多孔質基材1の表面にDDR型ゼオライト膜5を形成する工程である。多孔質基材1の表面に形成されるDDR型ゼオライト膜5は、多孔質基材1の表面に形成された複数のDDR型ゼオライト結晶粒子が、水熱合成により膜状に成長したものである。
【0046】
膜形成工程における膜形成用ゾルは、1−アダマンタンアミン、シリカ及び水を含有するものであるが、エチレンジアミン及びその他添加剤を混合してもよい。1−アダマンタンアミンは、DDR型ゼオライト膜5を形成するための構造規定剤である。例えば、添加剤として微量のアルミン酸ナトリウムを使用すると、DDR型ゼオライト膜5を構成するSiの一部をAlで置換することもできる。このように置換することにより、形成されるDDR型ゼオライト膜5に分離機能に加えて触媒作用等を付加することも可能である。膜形成用ゾルの調製に際して、シリカに対する1−アダマンタンアミンの比の値(1−アダマンタンアミン/シリカ(モル比))は、0.002〜0.5が好ましく、0.002〜0.2が更に好ましい。0.002より小さいと構造規定剤である1−アダマンタンアミンが不足してDDR型ゼオライトが形成しにくいことがあり、0.5より大きいと高価な1−アダマンタンアミンの使用量が増えるため製造コスト増につながることがある。シリカに対する水の比の値(水/シリカ(モル比))は、10〜500が好ましく、10〜200が更に好ましい。10より小さいとシリカ濃度が高すぎてDDR型ゼオライトが形成しにくいことがあり、500より大きいとシリカ濃度が低すぎてDDR型ゼオライトが形成し難いことがある。
【0047】
膜形成用ゾル中には、エチレンジアミンを含有させることが好ましい。エチレンジアミンを添加して膜形成用ゾルを調製することにより、1−アダマンタンアミンを容易に溶解することが可能となり、均一な厚さのDDR型ゼオライト膜5を製造することが可能となる。1−アダマンタンアミンに対するエチレンジアミンの比の値(エチレンジアミン/1−アダマンタンアミン(モル比))は、4〜35が好ましく、8〜32が更に好ましい。4より小さいと、1−アダマンタンアミンを溶かし易くするための量としては不充分であり、35より大きいと、反応に寄与しないエチレンジアミンが過剰となり製造コストがかかることがある。
【0048】
また、1−アダマンタンアミンを予めエチレンジアミンに溶解することにより1−アダマンタンアミン溶液を調製することが好ましい。このように調製した1−アダマンタンアミン溶液と、シリカを含むシリカゾル溶液とを混合して調製した膜形成用ゾルを用いることが、より簡便かつ完全に1−アダマンタンアミンを溶解し、均一な厚さのDDR型ゼオライト膜5を製造することが可能となる。なお、シリカゾル溶液は、微粉末状シリカを水に溶解すること、又は、アルコキシドを加水分解することにより調製することができるが、シリカゾル市販品のシリカ濃度を調整して用いることもできる。
【0049】
DDR型ゼオライト結晶粒子が表面に形成された多孔質基材1を膜形成用ゾルに浸漬し、水熱合成する方法としては、以下の方法が挙げられる。
【0050】
膜形成用ゾルを入れた耐圧容器等に、DDR型ゼオライト結晶粒子を表面に有する多孔質基材1を入れて、下記所定の温度で所定時間保持することにより水熱合成し、多孔質基材1の表面に、DDR型ゼオライト膜5を形成する。膜形成工程においては、水熱合成に際しての温度条件を140〜200℃とすることが好ましく、150〜165℃とすることが更に好ましい。140℃未満で水熱合成を行った場合には、DDR型ゼオライト膜5を形成し難いことがあり、200℃超で水熱合成を行った場合には、DOH型ゼオライト等の、DDR型ゼオライトとは異なる結晶相が形成されることがある。
【0051】
多孔質基材1の表面に形成されたDDR型ゼオライト膜5の厚さは、100μm以下であることが好ましい。100μmより厚いと、得られるDDR型ゼオライト膜5を被処理流体が透過するときの透過速度が低くなることがある。DDR型ゼオライト膜5の膜厚は、厚さ方向に沿って切断した断面の電子顕微鏡写真により測定した5ヶ所の断面位置での膜厚の平均値である。
【0052】
膜形成工程は、複数回行ってもよい。この場合、膜形成工程を複数回行った後に、DDR型ゼオライト膜形成工程を行う。膜形成工程を複数回行う場合、一回毎(各回毎)に、新たに調製した膜形成用ゾルを使用することが好ましい。
【0053】
図1Dに、種結晶付着工程と膜形成工程によりゼオライト膜5を形成したところを示す。
【0054】
(6)除去工程
電気炉等を用いて、400〜700℃で4〜100時間焼成を行い、緻密なゼオライト膜5から構造規定剤、多孔質基材1中からマスキングポリマー3を除去することにより、分離膜として用いることのできるゼオライト膜5を得ることができる。図1Eに、除去工程により、構造規定剤とマスキングポリマー3を除去したところを示す。
【0055】
以上の本発明のゼオライト膜の製造方法により製造されたゼオライト膜5(ゼオライト分離膜配設体)は、異なる2成分以上の混合流体の分離に使用することができる。具体的な成分系の例としては、COとCHの混合ガス、COとNの混合ガスなどが挙げられる。
【0056】
本発明のゼオライト膜の製造方法によれば、ゼオライト膜5は、膜厚が1〜30μm、好ましくは、1〜20μm、より好ましくは、1〜2μmとすることができる。1μmより薄いと支持体表面を緻密な膜で完全に被覆できない恐れがあり、混合ガス等を分離するときに、分離係数が低くなる可能性がある。30μmより厚いと、十分な透過流束が得られない可能性がある。ここで、ゼオライト膜5の膜厚は、走査型電子顕微鏡(SEM)によって分離膜の断面を観察して得られた値とし、膜厚1〜30μmというときは、最小膜厚が1μm以上であり最大膜厚が30μm以下であることをいう。以上のように本発明のゼオライト膜の製造方法により、一部が多孔質基材内に、残余が前記多孔質基材の表面上に1〜2μmの厚みで形成され、COのCHに対する分離係数が10以上、かつ、COガスの透過速度が5×10−7mol/s/m/Pa以上であるゼオライト膜を作製することができる。
【実施例】
【0057】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0058】
1.ゼオライト膜の作製
1−1.実施例1
本発明は多孔質基材1として、チューブ状のアルミナ基材(日本ガイシ提供のセラミックを切断して使用、平均細孔径0.2μm、直径=10mm、長さ=100mm)、低極性ポリマーとしてパラフィンワックス(融点48℃、SP値7.0〜8.0)を用いた。
【0059】
まず、低極性ポリマーをアルミナ基材(多孔質基材1)の表面(チューブの外表面)だけに塗布した。具体的には、パラフィンワックスを湯煎によって溶解させ、アルミナ基材(多孔質基材1)にディッピングにより浸漬させることで表面に均一に塗布を行った。
【0060】
アルミナ基材(多孔質基材1)表面(チューブの外周面)に低極性ポリマーを塗布した後、アルミナ基材の内部に溶媒に溶解させたマスキングポリマー3を含浸させた。マスキングポリマー3としてアセトンにポリメタクリル酸メチル樹脂(SP値10.0、融点200℃程度、分解消失温度300℃程度)を溶解させたものを用いた。チューブ状のアルミナ基材(多孔質基材1)の、チューブ内径の片側に栓をし、栓をしていないもう一方から溶融させたマスキングポリマー3を含浸させることでアルミナ基材のチューブの内表面側からマスキングポリマー3を含浸させた。このとき、溶解させたポリメタクリル酸メチル樹脂を十分に含浸させるため、真空チャンバー内に基材を置き、脱法処理を行った。
【0061】
その後、アルミナ基材を1日風乾させ、ポリメタクリル酸メチル樹脂が固化しているのを確認後、表面の低極性ポリマー(パラフィンワックス)を除去するため、アルミナ基材を低極性ポリマーのみを溶解させる溶媒(n−ヘキサン(SP値7.3))に2時間浸漬させ、表面の低極性ポリマー(パラフィンワックス)だけを溶解し、アルミナ基材表面を露出させた。n−ヘキサンは70℃の乾燥炉で30分乾燥させ除去した。
【0062】
DDR(Deca−Dodecasil 3R)型ゼオライト結晶を所定の薬品を調整した原料溶液を水熱合成することにより作成し、乳鉢やボールミルなどを用いて粉砕して種結晶となるゼオライト粉末を得た。そして、ゼオライト粉末を水などに分散させた種結晶スラリー中に、アルミナ基材を浸漬させることにより(ディッピング法)、アルミナ基材の表面の露出した部分に種結晶となるゼオライト粉末を塗布し、乾燥させた。
【0063】
次に、コロイダルシリカ、1−アダマンタンアミン、エチレンジアミン、水をそれぞれ1:0.04:0.6:50の割合で混ぜ、振とう機で(200pm)で混合させて作成した原料溶液と、種結晶を塗布したアルミナ基材とを圧力容器に入れて、150℃、24時間、水熱合成を行う事でDDR型ゼオライト膜5を合成した。得られたDDR型ゼオライト膜5は、煮沸洗浄を20分間行った後、乾燥させた。
【0064】
その後、DDR型ゼオライト膜5から構造規定剤とマスキングポリマー3を取り除くために、電気炉を用いて0.2℃/minで昇温し、700℃で6時間焼成を行い、ゼオライト膜5を得た。
【0065】
1−2.比較例1(従来方法)
実施例と同様に、DDR(Deca−Dodecasil 3R)型ゼオライト結晶を所定の薬品を調整した原料溶液を水熱合成することにより作成し、乳鉢やボールミルなどを用いて粉砕したものを種結晶となるゼオライト粉末として使用した。実施例と異なり、低極性ポリマーやマスキングポリマー3を使用することなく、アルミナ基材(多孔質基材1)を種結晶となるゼオライト粉末を水などに分散させた種結晶スラリー中に浸漬させて、その表面に種結晶を塗布した。
【0066】
次に、1−アダマンタンアミン、エチレンジアミン、コロイダルシリカ、水を所定の量に調整し、混合させることで作成した原料溶液と、種結晶を塗布したアルミナ基材を合わせて、所定の温度と時間で水熱合成を行うことでアルミナ基材表面にゼオライト膜5を得た。得られたゼオライト膜5は、水で洗浄した後、焼成を行うことでゼオライト膜5に含まれる構造規定剤1−アダマンタンアミンの除去を行った。
【0067】
2.ゼオライト膜の評価方法(実施例1と比較例1(従来方法)共通)
得られたゼオライト膜5の膜厚は、走査型電子顕微鏡(JEOL製 FE−SEM JSM6701−F)およびエネルギー分散型X線分析装置(JED−2300)を用いてゼオライト膜断面を観察することにより調べた。実施例1の走査型電子顕微鏡による断面写真を図2Aに、比較例1の断面写真を図2Bに示す。なお、図の複合層は、ゼオライト膜5がアルミナ基材(多孔質基材1)に浸透している層(基材とゼオライト膜との層)である。図2A,2Bの白い点がSiの分布を示し、DDR型ゼオライトである。
【0068】
ゼオライト膜5の透過性能は、図3に示す膜透過性能試験装置を用いて調べた。膜透過性能試験装置は、DDR型ゼオライト膜5が配設されたゼオライト配設体を備える分離装置12を備える。分離装置12には、CH、CO、Heガスボンベが接続されており、ゼオライト膜5にガスを供給することができる。また、分離装置12の下流には、石鹸膜流量計13とガスクロマトグラフ14(TCD:Thermal Conductivity Detector, 熱伝導度型検出器)とが備えられており、CHとCOの混合ガスは、分離装置12のゼオライト膜5にて分離され、透過ガス、非透過ガスとして流量の測定がなされるように構成されている。
【0069】
COとCHを5:5の割合で混合させたガスを500mL/minでゼオライト膜5に供給し、ゼオライト膜5を透過したガスをHeガスを用いて500mL/minでスウィープ(掃き出す)した(大気圧Heスウィープ試験)。
【0070】
ゼオライト膜5の透過ガスをシリンジで採取し、ガスの組成をガスクロマトグラフ(島津製作所製 GC8−A)で測定した。ゼオライト膜透過ガス量は石鹸膜流量計とストップウォッチを用いて測定した。以上の結果を表1に示す。なお、分離係数は、以下の式により求めた。
分離係数=((透過ガス中のCO濃度)/(透過ガス中のCH濃度))/((供給ガス中のCO濃度)/(供給ガス中のCH濃度))
【0071】
【表1】

【0072】
本発明で得られたDDR型ゼオライト膜5のCO透過速度は従来技術と比較して約7倍程度向上した。また、本発明で作成したDDR型ゼオライト膜5で分離されたガスはCHに対して25倍の濃度であったことから、ガス分離膜として機能していることが確認された。DDR型ゼオライト膜5の膜厚は、DDR型ゼオライト膜5の断面を走査型電子顕微鏡およびエネルギー分散型X線分析装置を用いて観察したところ、本発明で得られたDDR型ゼオライト膜5は従来技術と比較して、約10分の1の膜厚になっていることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明のゼオライト膜の製造方法は、高い透過性と高い分離性を有し、ガス分離等の分離膜として利用することのできるゼオライト膜の製造方法として適用することができる。
【符号の説明】
【0074】
1:多孔質基材、2:表面層(低極性ポリマー)、3:マスキングポリマー、5:ゼオライト膜、11:膜透過性能試験装置、12:分離装置、13:石鹸膜流量計、14:ガスクロマトグラフ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質基材の第一の表面に、溶解度パラメーター(SP値)が8.0(cal/cm1/2以下の低極性ポリマーを付着させて表面を覆う表面層を形成する表面層形成工程と、
前記多孔質基材の前記第一の表面とは異なる面から前記多孔質基材中に前記低極性ポリマーと相溶性が低くSP値が8.0(cal/cm1/2を超える高極性ポリマーを含浸させることにより、前記表面層までの前記多孔質基材中の細孔に前記高極性ポリマーをマスキングポリマーとして充填して固化させる充填工程と、
前記表面層を除去する表面層除去工程と、
前記表面層が除去された前記多孔質基材の前記第一の表面に、ゼオライト膜を成膜するための種となる種結晶を付着させる種結晶付着工程と、
前記種結晶を成長させて前記多孔質基材の前記第一の表面に構造規定剤を含む緻密な前記ゼオライト膜を形成する膜形成工程と、
緻密な前記ゼオライト膜から前記構造規定剤、前記多孔質基材中から前記マスキングポリマーを除去する除去工程と、
を含むゼオライト膜の製造方法。
【請求項2】
前記表面層は、その厚さが1〜2μmであり、その一部が前記多孔質基材内に、残余が前記多孔質基材の前記第一の表面上に形成されている請求項1に記載のゼオライト膜の製造方法。
【請求項3】
前記低極性ポリマーは、パラフィンワックス、ポリイソブチレン、ポリエチレン、ポリプロピレンからなる群より選択される少なくとも一種である請求項1または2に記載のゼオライト膜の製造方法。
【請求項4】
前記マスキングポリマーは、前記膜形成工程におけるゼオライト膜の形成温度よりも融点が高いものである請求項1〜3のいずれか1項に記載のゼオライト膜の製造方法。
【請求項5】
前記種結晶付着工程は、前記多孔質基材を種付け用ゾル内に浸漬するディッピング法にて行う請求項1〜4のいずれか1項に記載のゼオライト膜の製造方法。
【請求項6】
一部が多孔質基材内に、残余が前記多孔質基材の表面上に1〜2μmの厚みで形成され、COのCHに対する分離係数が10以上、かつ、COガスの透過速度が5×10−7mol/s/m/Pa以上である請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法によって製造されるゼオライト膜。

【図1A】
image rotate

【図1C】
image rotate

【図1D】
image rotate

【図1E】
image rotate

【図3】
image rotate

【図1B】
image rotate

【図2A】
image rotate

【図2B】
image rotate


【公開番号】特開2011−131174(P2011−131174A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−293738(P2009−293738)
【出願日】平成21年12月25日(2009.12.25)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【出願人】(304021288)国立大学法人長岡技術科学大学 (458)
【Fターム(参考)】