説明

ソフトタッチな表面を備えた樹脂成型品を製造するためのフィルムインサート成型用ソフトタッチフィルム成型体

【課題】樹脂成型品の表面に適度なソフトタッチ性、グリップ性、ハンドリング性を与える、成型性に優れたフィルムインサート成型用ソフトタッチフィルム成型体を提供することを課題とする。
【解決手段】フィルム基材と、フィルム基材上に形成されたシリコーンゴム層とから成り、該シリコーンゴム層の硬度、表面粗さ等を制御して、樹脂成型品の触感及び操作性を改善し、具体的には、シリコーンゴム層のショアA硬度が30ないし90の範囲にあり、シリコーンゴム層の中心線表面粗さRaが0.1ないし5.0μmの範囲にあるソフトタッチフィルム成型体及びその製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、携帯電話、ノートパソコン、携帯ゲーム機、小型LCDモニタ、携帯オーディオ機器等の筐体、又は保護ケース、キーパッド等の成型品において人間が手で触れる表皮材の部分を形成するフィルムインサート成型用フィルム成型体に関し、特にグリップ性、ハンドリング性等の触感に優れたフィルムインサート成型用ソフトタッチフィルム成型体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、樹脂等からなる各種の成型品には、その表面を保護するためハードコート層が形成されてきた。表面にハードコート層が形成された成型品を製造する方法として、フィルム基材上にハードコート層や印刷層が形成されたハードコートフィルムと樹脂等の成型材料とを金型により一体的に成型する、フィルムインサート成型がある。
【0003】
フィルムインサート成型に用いられるハードコートフィルム成型体として、ポリエステルフィルム等のフィルム基材の一方の面に金属蒸着層や印刷層が形成され、他方の面にハードコート層が形成されたハードコートフィルム成型体が提案されている(例えば、特許文献1、特許文献2)。
【0004】
また、樹脂等成型品の表面に、ハードコートフィルムに代えて、シリコーンゴム層とプラスチックフィルムとを複合したゴム複合フィルムを用いることが知られている(例えば特許文献3、特許文献4)。該ゴム複合フィルムを用いることにより、触感をソフトにすることができ、フィルムの内側に形成された加飾層等の印刷の鮮明さも保たれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−288720公報
【特許文献2】特開2005−305786公報
【特許文献3】特開平10−226022号公報
【特許文献4】特開2002−178478公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来のハードコート層は、単に樹脂成型品の表面保護を目的とするものであるため、その硬度は一般に鉛筆硬度でH以上、スチールウール試験で300g荷重以上であって、触感は硬く冷たく、滑り易く、ソフトタッチ性やグリップ性、ハンドリング性を要する携帯用の機器等において望ましい触感を有していない。また、光沢があり過ぎるため高級感に欠け、十分な意匠性を有していない。
【0007】
また、従来のゴム複合フィルムは、ゴムの材質が選定され、あるいはその表面に微細な凹凸が施されることにより、上記ハードコートフィルムの硬質な触感を改善しているが、その表面粗さや厚み、硬度が、ソフトタッチ性、グリップ性、又はハンドリング性という観点で十分ではない。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の問題に鑑みて、本発明は、樹脂成型品にソフトタッチな表面を形成することができるフィルムインサート成型用ソフトタッチフィルム成型体であって、成型し易く耐久性に優れたフィルムインサート成型用ソフトタッチフィルム成型体を提供することを課題とする。
【0009】
本発明でいう「ソフトタッチな表面」とは、手に触れた感触が適度に柔らかいというソフトタッチ性に加えて、快適に携帯機器等の樹脂等成型品を保持し操作することができるというグリップ性、ハンドリング性を備えたものである。また、該「ソフトタッチな表面」は、外観においても艶消しの高級感があり、高い意匠性を有する。
【0010】
上記課題を解決する本発明に係るソフトタッチフィルム成型体は、フィルム基材と、フィルム基材上に形成されたシリコーンゴム層とから成り、シリコーンゴム層のショアA硬度が30ないし90(デュロメータ、JIS K6253)の範囲にあり、シリコーンゴム層の中心線表面粗さRa(JIS B0601:1982)が0.1μm〜5.0μmの範囲にあることを特徴とする。
【0011】
上記の表面粗さ及び硬度を有するシリコーンゴム層を有する本発明に係るソフトタッチフィルム成型体を使用してフィルムインサート成型を行うことにより、課題であるソフトタッチな表面を成型品に与えることができる。該ソフトタッチな表面は、触感に優れるとともに、耐傷付き性及び耐久性に優れるものである。
【0012】
また、上記シリコーンゴム層の厚さは30μm以上、特に30〜80μmの範囲にあることが好ましい。シリコーンゴム層の厚さがこの範囲にあることにより、表面粗さの制御による触感改善効果が十分に発揮される。また、フィルムインサート成型の際に剥離やそりが生じることがなく、歩留まりが良好である。
【0013】
本発明に係るソフトタッチフィルム成型体のフィルム基材の厚さは、30〜125μmの範囲にあることが好ましい。フィルム基材の厚さがこの範囲にあれば、フィルムインサート成型した際に皺やそりが生じないからである。
【0014】
また、本発明に係るソフトタッチフィルム成型体は、シリコーンゴム層の前記中心線表面粗さRaが、フィルムインサート成型用ソフトタッチフィルムにおいて前記シリコーンゴム層上に形成された保護フィルムの表面形状により転写されたものであることが好ましい。
【0015】
保護フィルムを使用してシリコーンゴム層の表面を加工すれば、シリコーンゴム層の表面を直接加工した場合に比べて汚れや砥粒の付着がなく、洗浄の手間が省け、量産性に優れる。保護フィルムには、離型フィルムの表面が適度な表面粗さを有するようにマット加工、エンボス加工等されたものを使用することができる。
【0016】
また、保護フィルムを使用することにより、フィルムインサート成型のプロセスの直前までシリコーンゴム層の表面が保護され、搬送、保管の際に埃や傷が付くことがない。本発明に係る保護フィルムは、シリコーンゴム層の厚さや硬度、表面粗さの特性によって、シリコーンゴム層の架橋後であっても容易に剥離できるものである。
【0017】
さらに、フィルム基材と前記シリコーンゴム層との間にプライマー層が形成されることが好ましい。プライマー層が形成されることにより、フィルム基材とシリコーンゴム層との間の接着強度が増すからである。
【0018】
また、フィルム基材上のシリコーンゴム層が形成された側の反対側に加飾層が形成されることが好ましい。加飾層が形成されることにより、フィルムインサート成型により製造される樹脂成型品に高い意匠性を与えることができるからである。
【0019】
本発明のソフトタッチフィルム成型体を使用して樹脂等成型品を製造することにより、触感、保持感及び操作感に優れた、ソフトタッチな表面を有する成型品を得ることができる。
【0020】
さらに本発明は、ソフトタッチな表面を備えた樹脂成型品を製造するためのフィルムインサート成型用ソフトタッチフィルム成型体の製造方法を提供する。該製造方法は、フィルム基材上にシリコーンゴム層を形成してフィルムインサート成型用ソフトタッチフィルムを製造する工程であって、該シリコーンゴム層の厚さが30μm以上でありショアA硬度が30ないし90の範囲にあり、且つ該シリコーンゴム層の中心線表面粗さRaが0.1μmないし5.0μmの範囲にある、ところの工程と、フィルムインサート成型用ソフトタッチフィルムをプレフォーム型により成型する工程と、から成る。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係るフィルムインサート成型用ソフトタッチフィルム成型体は、フィルム基材上にシリコーンゴム層が形成され、該シリコーンゴム層が所定の硬度、表面粗さ、厚さを有することにより、成型品の表面に良好な触感等に寄与する柔軟性や摩擦力を付与することができる。また、本発明に係るフィルムインサート成型用ソフトタッチフィルム成型体は成型性に優れ、歩留まりが良好である。
【0022】
本発明に係るソフトタッチフィルム成型体を使用して携帯電話、ノートパソコンおよび携帯型ゲーム機等の樹脂成型品を製造することにより、ソフトタッチ性、グリップ性、ハンドリング性に優れた表面を備える成型品を得ることができる。また、光沢、テカリが抑えられた艶消しの高級感がある表面を備える成型品を得ることができる。さらに、高い耐傷付き性、耐久性を備える成型品を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】図1は本発明に使用される保護フィルム付きソフトタッチフィルムのひとつの態様を模式的に示す断面図である。
【図2】図2は本発明に使用される保護フィルム付きソフトタッチフィルムの他の態様を模式的に示す断面図である。
【図3】図3は本発明に使用される保護フィルム付きソフトタッチフィルムのさらに他の態様を模式的に示す断面図である。
【図4】図4は本発明のフィルムインサート成型用ソフトタッチフィルム成型体を用いたフィルムインサート成型のプロセスを示す図である。
【図5】図5(A)は本発明に使用される、マット加工により形成された保護フィルムの表面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真であり、図5(B)は該保護フィルムにより形成されたシリコーンゴム層表面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【図6】図6(A)は本発明に使用される、エンボス加工により形成された保護フィルムの表面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真であり、図6(B)は該保護フィルムにより形成されたシリコーンゴム層表面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下図面を参照しながら、本発明のさまざまな特徴が、本発明の限定を意図するものではない好適実施例とともに説明される。図面は説明の目的で単純化され、尺度も必ずしも一致しない。
【0025】
本発明に係るソフトタッチフィルム成型体のひとつの態様に使用される、第1の態様のソフトタッチフィルム1Aが図1に示されている。ソフトタッチフィルム1Aは、フィルム基材2の上にシリコーンゴム層3及び保護フィルム4が形成されて成る。
【0026】
本発明に係るソフトタッチフィルム成型体の他の態様に使用される、第2の態様のソフトタッチフィルム1Bが図2に示されている。ソフトタッチフィルム1Bは、フィルム基材2とシリコーンゴム層3との間に、さらにプライマー層5が形成されて成る。
【0027】
本発明に係るソフトタッチフィルム成型体のもう一つの他の態様に使用される、第3の態様のソフトタッチフィルム1Cが図3に示されている。ソフトタッチフィルム1Cは、シリコーンゴム層の反対側のフィルム基材2の上に、さらに加飾層(蒸着層又は印刷層)6が形成されて成る。
【0028】
フィルム基材
ソフトタッチフィルム1Aないし1Cに使用されるフィルム基材2は、ポリエステル系、ポリウレタン系、ポリアクリル系のポリマー又はこれらの混合物である。フィルム基材2の厚さは、25〜150μmの範囲にあって良く、好適には30〜125μmの範囲にある。
【0029】
フィルム基材2上に、シリコーンゴム層3を形成する際には、密着性を向上させるために後述するプライマー層5を形成することが望ましく、併せてフィルム基材2にコロナ放電処理、紫外線照射処理、プラズマ処理等の表面活性化処理を行っても良い。またフィルム基材2には、必要に応じて帯電防止剤、酸化防止剤、難燃剤、有機若しくは無機微粒子の充填材、又は着色剤等を配合しても良い。
【0030】
シリコーンゴム層
シリコーンゴム層3は、ソフトタッチフィルム1Aないし1Cのいずれかのフィルム基材2上に未加硫のシリコーンゴム層を積層し、電子線照射による架橋処理(加硫処理)を行うことにより形成される。
【0031】
シリコーンゴムとしては、平均単位式:Ra Si O(4-a)/2で表される未架橋のオルガノポリシロキサンが好ましい。上式中、Rは置換または非置換の一価の炭化水素基であり、好ましくは、メチル基、ビニル基、フェニル基等である。また、上式中、aは1.9〜2.1の範囲内の数である。シリコーンゴムの分子構造は特に限定されず、例えば、直鎖状、一部分岐を有する直鎖状、分岐鎖状等が挙げられるが、シリコーンゴムを形成するためには、直鎖状の重合体か、または直鎖状の重合体を主成分とする混合物であることが好ましい。
【0032】
上記のシリコーンゴムは、デュロメータタイプAで測定されるショアA硬さが30〜90の範囲にあるものが好ましい。この範囲内で、触感性や耐久性等の要求特性に応じて選択するのが好ましい。ショアA硬さが30未満では、シリコーンゴムの強度が弱くなり、シリコーンゴム層の耐摩耗性等の耐久性が低下する恐れがあるので好ましくない。逆に、ショアA硬さが90を越えた場合は、触感の改善効果が低下するので好ましくない。
【0033】
シリコーンゴム層3の中心線表面粗さRa(JIS B0601:1982)は、0.1〜5.0μmの範囲にあることが好ましい。シリコーンゴム層表面の表面粗さが上記範囲にあることによって、成型された樹脂成型体の表面に触れたときの感触が著しく向上するからである。表面粗さRaが0.1μm未満では、触感の改善効果が十分得られず、5.0μmを超えると、ざらつき感が増大して触感改善効果が低下するため好ましくない。
【0034】
また、最大表面粗さRmaxは、20μm以下であることが好ましい。20μmを越えると、ざらつき感を生じ好ましくないためである。
【0035】
シリコーンゴム層3の厚さは、30〜80μmの範囲にあることが好ましい。シリコーンゴム層3の厚さが30μm未満であると触感改善効果が低下するので好ましくない。逆に、80μmを越えると、触感改善効果が飽和し、且つ経済的不利益にもなり好ましくない。
【0036】
保護フィルム
上記のシリコーンゴム層3の所定の表面形状、すなわち0.1μm〜5.0μmの範囲にある中心線表面粗さRaは、保護フィルム4によって形成することができる。具体的には、フィルムや布帛からなる保護フィルム4を、未架橋状態のシリコーンゴム層に重ね合わせ、ロールで加圧して、該保護フィルムの表面粗度又は表面形状をシリコーンゴム層3の表面に転写することにより形成することができる。
【0037】
保護フィルム4としては、マット加工、エンボス加工等を施したポリエチレンフィルム、ポリエステルフィルム、塩化ビニルフィルム、あるいはナイロンタフタ、ポリエステルタフタ等のフィラメント織物を使用することができる。
【0038】
マット加工は、例えば研磨材としてのアルミナや珪砂の粉末を圧縮空気によってポリエチレンフィルム等表面に投射するサンドブラスト法により行われる。エンボス加工は、ポリエチレンフィルム等を、凹凸面を有するロールの間に通すことにより、フィルム等表面に凹凸を形成するものである。
【0039】
保護フィルム4の表面形状を転写してシリコーンゴム層3の中心線表面粗さRaを0.1〜5.0μmの範囲に制御するために、保護フィルム4にもまた適度な表面粗さが形成されることが好ましい。保護フィルム4に形成される表面粗さは、シリコーンゴム層3における所望の表面粗さに対し概して1倍ないし2倍程度大きい。
【0040】
保護フィルム4は、シリコーンゴム層の架橋時に重ねられ、架橋終了後に剥離できるものである。保護フィルム4の剥離は、シリコーンゴム層表面に埃等が付着することを防ぐために、フィルムインサート成型のプロセスの直前に行うことが好ましい。
【0041】
プライマー層
さらに、フィルム基材2のシリコーンゴム層3を形成する側の表面には、フィルム基材2とシリコーンゴム層3との接着強度を向上するためのプライマー層5を備えることが好ましい。プライマー層5として接着改良剤を配合する場合は、多価アルコールのアクリル酸エステルやメタクリル酸エステル、多価カルボン酸のアリルエステル等が使用される。
【0042】
加飾層
フィルム基材のシリコーンゴム層が形成された反対側の面、すなわちフィルムインサート成型のために金型にソフトタッチフィルム成型体が配置されたとき、成型用樹脂と対向する側となる面に、加飾層(蒸着層及び/又は印刷層)6を設けることにより、樹脂成型品に高い意匠性を付与することができる。
【0043】
フィルムインサート成型のプロセス
本発明に係るソフトタッチフィルム成型体を使用したフィルムインサート成型のプロセスが図4(a)ないし(f)に示されている。以下では、ソフトタッチフィルム成型体のために図3のソフトタッチフィルム1Cを使用するものとして説明する。
【0044】
初めに、ソフトタッチフィルム1Cの保護フィルム4は、フィルムインサート成型のプロセスの前に剥離される。保護フィルム4のシリコーンゴム層3と接する面に形成された表面形状はシリコーンゴム層3の表面に転写され、保護フィルム4を剥離したシリコーンゴム層3の中心線表面粗さRaは、0.1〜5.0μmの範囲にある。
【0045】
図4(a)は、フィルムインサート成型を行う前に、ソフトタッチフィルム1Cの保護フィルムが剥離されたフィルム10をヒータ12で加熱軟化させる工程を示す。この工程において、フィルム10は、シリコーンゴム層3の面をヒータ側に、加飾層5の面をプレフォーム型側にして配置されている。
【0046】
図4(b)は、真空圧空成型によりフィルム10を成型する工程を示す。この工程において、ヒータ12により加熱軟化させたフィルム10が、圧縮空気13とともにプレフォーム型11のエアー吸引孔(図示せず)からエアーの吸引によりプレフォーム型11に沿わせて成型(プレ成型)され、本発明に係るソフトタッチフィルム成型体10aが作られる。この工程で、真空圧空成型のほか、真空成型、圧空成型、プレス成型も利用できる。
【0047】
図4(c)は、トリミング工程を示す。この工程で、ソフトタッチフィルム成型体10aがプレフォーム型11から取り出され、不要部分をトリミングカッター14でトリミングされる。
【0048】
図4(d)は、トリミングの終了したソフトタッチフィルム成型体10aが金型15内に配置される工程を示す。この工程でソフトタッチフィルム成型体10aがシリコーンゴム層3側を外側にし、加飾層5を有する側を注入樹脂側にして配置された可動型15aを樹脂注入側の金型15bに重ね合わせて、金型15の型締めが行われる。
【0049】
図4(e)は、金型に成型樹脂を射出する工程を示す。この工程で、樹脂注入口16から高温で溶解した成型樹脂17が金型内に射出される。樹脂成型層18が形成されると同時にその表面にソフトタッチフィルム成型体10aが一体化して接着された樹脂成型体19が作られる。樹脂成型材料としては、例えば、アクリル樹脂、ABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体)樹脂、オレフィン樹脂、スチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂などの熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂を使用することができる。
【0050】
図4(f)は、金型15の冷却後、該金型15を開いた状態を示す。樹脂成型体19が取り出され、本発明に係るフィルムインサート成型用ソフトタッチフィルム成型体を使用した、ソフトタッチな表面を備えた樹脂成型品が完成する。
【0051】
以下に本発明の範囲を限定することを意図しない好適な実施例について説明し、従来の例との比較を行う。
【0052】
実施例1
・ソフトタッチフィルムの製造
実施例1に係るソフトタッチフィルムを製造するためのフィルム基材として、厚さが50μmのポリエチレンテレフタレートフィルムが使用された。成型品の外側にソフトタッチ層(ソフトタッチな表面)を形成するために、シリコーンゴム(ポリアルキルアルケニルシロキサン架橋物)溶液が乾燥後の厚さが50μmとなるようにフィルム基材の一方の面に塗布され、約80℃で乾燥された。
【0053】
続いて、厚さ75μmのポリエチレンテレフタレートフィルムが1.5μmの表面粗さ(Ra)を有するようサンドブラスト法によりマット加工されて製造された保護フィルムの上記の表面粗さを有する面が、乾燥されたシリコーンゴム上に重ね合わされた。図5(A)は、マット加工により形成された保護フィルムの表面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。重ねられた保護フィルムの上から圧着ロールで連続的に押圧することにより、積層フィルムが形成された。
【0054】
続いて積層フィルムが電子線照射装置に導入され、シリコーンゴムの側から電子線が照射されて、架橋処理が完結された。形成されたシリコーンゴム層の硬さ(ショアA硬さ)は、70であった。このように製造されたソフトタッチフィルムはロールに巻き取られた。
【0055】
さらに、ソフトタッチフィルムのシリコーンゴム層が形成された面の反対側に、UV硬化型インキを用いて、スクリーン印刷で加飾層が形成された。
【0056】
・プレ成型
図4(a)ないし(b)に図示されたプレ成型を行う前に、ソフトタッチフィルムの原反から保護フィルムが剥離された。保護フィルムが剥離されたシリコーンゴム層の平均表面粗さ(Ra)は、1.0μmであった。図5(B)は、図5(A)の保護フィルムにより転写されたシリコーンゴム層表面のSEM写真である。これにプレ成型工程で絞り加工を施すことにより、フィルムインサート成型用ソフトタッチフィルム成型体が得られた。
【0057】
・樹脂成型体の形成
続いて、ソフトタッチフィルム成型体は、図4(c)のようにトリミングされ、図4(d)のように金型内に配置された。その後、図4(e)ないし(f)のようにフィルムインサート成型が行われ、実施例1のソフトタッチな表面を備えた樹脂成型体が製造された。成型樹脂としては、ポリカーボネート(PC)樹脂とアクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体(ABS)樹脂の混合液が使用された。成型条件の各設定は、金型温度が100℃、注入樹脂温度が300℃、射出速度が1mm/sであった。
【0058】
表1は、ソフトタッチフィルム成型体の特性及び製造された樹脂成型体の特性を示すものである。実施例1のソフトタッチフィルム成型体を使用して製造された樹脂成型体は、ソフトタッチ性、グリップ性、ハンドリング性を含む触感性に優れ、成型性にも優れていた。また、加飾図柄が鮮明で、表面が艶消しされた高級感のある外観を有するものであった。
【0059】
実施例2
実施例2のフィルムインサート成型用フィルムにおいては、保護フィルムの表面粗さがエンボス加工によって形成され、その平均表面粗さ(Ra)は、3.0μmであった。該保護フィルムによって得られた実施例2のシリコーンゴム層の平均表面粗さ(Ra)は、3.0μmであった。図6(A)は、実施例2の保護フィルムのエンボス加工により形成された表面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真であり、図6(B)は、該保護フィルムにより形成されたシリコーンゴム層表面のSEM写真である。
【0060】
そのほかの条件を実施例1と同じようにして、実施例2のソフトタッチフィルム成型体及び樹脂成型体が製造された。表1に示されているとおり、製造された樹脂成型体は、実施例1と同様の優れた触感と高級感のある外観を有するものであった。
【0061】
実施例3
実施例3では、シリコーンゴム層のショアA硬さを50とし、そのほかの条件を実施例1と同じにして、ソフトタッチフィルム成型体及び樹脂成型体が製造された。表1に示されているとおり、実施例3の樹脂成型体もまた、優れた触感と高級感のある外観を有するものであった。
【0062】
実施例4
実施例4では、フィルム基材の厚さを75μmとし、そのほかの条件を実施例1と同じにして、ソフトタッチフィルム成型体及び樹脂成型体が製造された。表1に示されているとおり、実施例4の樹脂成型体もまた、優れた触感と高級感のある外観を有するものであった。
【0063】
実施例5
実施例5では、フィルム基材の厚さを125μmとし、そのほかの条件を実施例1と同じにして、ソフトタッチフィルム成型体及び樹脂成型体が製造された。表1に示されているとおり、実施例5の樹脂成型体もまた、優れた触感と高級感のある外観を有するものであった。
【0064】
実施例6
実施例6では、シリコーン層の厚さを30μmとし、そのほかの条件を実施例1と同じにして、ソフトタッチフィルム成型体及び樹脂成型体が製造された。表1に示されているとおり、実施例6の樹脂成型体もまた、優れた触感と高級感のある外観を有するものであったが、若干シリコーンゴム層に剥離が見られた。
【0065】
比較例1
比較例1では、シリコーンゴム層のショアA硬さを95とし、そのほかの条件を実施例1と同じにして、フィルム成型体及び樹脂成型体が製造された。表1に示されているとおり、比較例1の樹脂成型体はそりを生じ製造歩留りが悪く、ソフトタッチ性、グリップ性、ハンドリング性の触感性が十分ではなかった。
【0066】
比較例2
比較例2では、シリコーンゴム層のショアA硬さを25とし、そのほかの条件を実施例1と同じにして、フィルム成型体及び樹脂成型体が製造された。表1に示されているとおり、比較例2の樹脂成型体は、表面が柔らか過ぎ、グリップ性、ハンドリング性等が十分ではなかった。また、保護フィルムを剥離する工程で、シリコーン層が保護フィルムに付着することがあり、総合して好ましくない評価結果(総合判定×)であった。
【0067】
比較例3
比較例3では、保護フィルムとしてマット加工を施さない保護フィルムを使用し、シリコーンゴム層の平均表面粗さ(Ra)を、0.05μmとした。そのほかの条件を実施例1と同じにして、フィルム成型体及び樹脂成型体が製造された。表1に示されているとおり、比較例3の樹脂成型体は、滑り止め効果がなくグリップ性、ハンドリング性等に難があった。外観においては艶消し効果がなく、高級感が感じられないものであった。
【0068】
比較例4
比較例4では、保護フィルムの平均表面粗さ(Ra)を8.0μmとし、そのほかの条件を実施例1と同じにして、フィルム成型体及び樹脂成型体が製造された。該保護フィルムによって得られた比較例4のシリコーンゴム層の平均表面粗さ(Ra)は、7.0μmであった。表1に示されているとおり、比較例4の樹脂成型体は、シリコーンゴム層の表面の凹凸が大きすぎてざらつき感があり、ソフトタッチ性、ハンドリング性等に難があった。また、加飾層の図柄が不鮮明となって、高級感が感じられなかった。
【0069】
比較例5
比較例5では、シリコーンゴム層の厚さを20μmとし、そのほかの条件を実施例1と同じにして、フィルム成型体及び樹脂成型体が製造された。表1に示されているとおり、比較例5の樹脂成型体は、シリコーン層に剥離を生じ、触感性を評価できないものであった。また、プレ成型前の保護フィルムの剥離工程においてシリコーン層が保護フィルム側に付着し、剥離が困難であった。
【0070】
比較例6
シリコーンゴム層の厚さを100μmとし、そのほかの条件を実施例1と同じにして、フィルム成型体及び樹脂成型体が製造された。表1に示されているとおり、比較例6の樹脂成型体はそりを生じ、製造歩留りが悪く、ソフトタッチ性等の触感が十分ではなかった。
【0071】
比較例7
比較例7では、フィルム基材の厚さを200μmとし、そのほかの条件を実施例1と同じにして、フィルム成型体及び樹脂成型体が製造された。表1に示されているとおり、比較例7の樹脂成型体は、そりを多く生じ、実用に耐えられないものであった。
【0072】
【表1】

【0073】
以上のとおり、本発明に係るフィルムインサート成型用ソフトタッチフィルム成型体は、ポリエステルポリマー等から成るフィルム基材及びシリコーンゴム層から成り、該シリコーンゴム層が適度な硬度、表面粗さ、厚さに制御されることにより、製造される携帯型機器等の樹脂成型品の表面の触感性、すなわちソフトタッチ性、グリップ性、ハンドリング性を著しく向上させることができる。また、本発明に係るソフトタッチフィルム成型体は、良好な成型性を有し、耐熱性、耐傷付き性、耐久性にも優れている。シリコーンゴム層の所定の表面粗さは、保護フィルムの表面形状を転写することにより形成することができる。該保護フィルムは、保管、搬送の際に塵や不純物の混入を防止してソフトタッチフィルムの品質を確保することができるものである。また、該保護フィルムは、シリコーンゴム層から剥離が容易なものである。さらに、シリコーンゴム層の硬度、表面粗さ、厚さを本発明で開示した範囲内で変化させることにより、ソフトタッチ性、グリップ性、又はハンドリング性の触感性を、樹脂成型品の用途によって最適化することができる。
【0074】
本発明の思想及び態様から離れることなく多くのさまざまな修正が可能であることは当業者の知るところである。したがって、言うまでもなく、本発明の態様は例示に過ぎず、本発明の範囲を限定するものではない。
【符号の説明】
【0075】
1A 第1の態様のソフトタッチフィルム
1B 第2の態様のソフトタッチフィルム
1C 第3の態様のソフトタッチフィルム
2 フィルム基材
3 シリコーンゴム層
4 保護フィルム
5 プライマー層
6 加飾層
10 保護フィルムが剥離されたソフトタッチフィルム
10a ソフトタッチフィルム成型体
11 プレフォーム型
12 ヒータ
13 圧縮空気
14 トリミングカッター
15 成型金型
15a 可動型
15b 樹脂注入側金型
16 樹脂注入口
17 成型樹脂
18 樹脂成型層
19 樹脂成型体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ソフトタッチな表面を備えた樹脂成型品を製造するためのフィルムインサート成型用ソフトタッチフィルム成型体であって、
フィルム基材と、
前記フィルム基材上に形成されたシリコーンゴム層と、から成り、
前記シリコーンゴム層のショアA硬度が30ないし90の範囲にあり、
前記シリコーンゴム層の中心線表面粗さRaが0.1μmないし5.0μmの範囲にある、
ことを特徴とするソフトタッチフィルム成型体。
【請求項2】
前記シリコーンゴム層の厚さが30μm以上である、
ことを特徴とする請求項1に記載されたソフトタッチフィルム成型体。
【請求項3】
前記フィルム基材の厚さが30μmないし125μmの範囲にある、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載されたソフトタッチフィルム成型体。
【請求項4】
前記シリコーンゴム層の前記中心線表面粗さRaが、フィルムインサート成型用ソフトタッチフィルムにおいて前記シリコーンゴム層上に形成された保護フィルムの表面形状により転写されたものである、
ことを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載されたソフトタッチフィルム成型体。
【請求項5】
前記フィルム基材と前記シリコーンゴム層との間にプライマー層が形成されて成る、
ことを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載されたソフトタッチフィルム成型体。
【請求項6】
前記フィルム基材上の前記シリコーンゴム層が形成された側の反対側に加飾層が形成されて成る、
ことを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載されたソフトタッチフィルム成型体。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれかに記載されたソフトタッチフィルム成型体を使用して製造された樹脂成型品。
【請求項8】
ソフトタッチな表面を備えた樹脂成型品を製造するためのフィルムインサート成型用ソフトタッチフィルム成型体の製造方法であって、
フィルム基材上にシリコーンゴム層を形成してフィルムインサート成型用ソフトタッチフィルムを製造する工程であって、該シリコーンゴム層の厚さが30μm以上でありショアA硬度が30ないし90の範囲にあり、且つ該シリコーンゴム層の中心線表面粗さRaが0.1μmないし5.0μmの範囲にある、ところの工程と、
前記フィルムインサート成型用ソフトタッチフィルムをプレフォーム型により成型する工程と、から成る、
フィルムインサート成型用ソフトタッチフィルム成型体の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−35258(P2013−35258A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−175579(P2011−175579)
【出願日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【出願人】(390037165)日本ミクロコーティング株式会社 (79)
【Fターム(参考)】