説明

タイヤパンク補修材

【課題】シール性能を改善し、貯蔵安定性にも優れるタイヤパンク補修材の提供。
【解決手段】合成樹脂エマルジョンと、粘着付与剤と、水ガラスとを含有し、水素イオン指数が5.5〜8.5であるタイヤパンク補修材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤパンク補修材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、パンクしたタイヤを修理するタイヤパンク補修材として、天然ゴムラテックスに、粘着付与樹脂エマルジョンと凍結防止剤とを配合したものが多用されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、「天然ゴムラテックスと粘着付与樹脂エマルジョンと凍結防止剤とを少なくとも含むタイヤのパンクシーリング剤であって、前記天然ゴムラテックスの固形分Aと粘着付与樹脂エマルジョンの固形分Bと凍結防止剤Cとの和A+B+Cである総固形分100重量部に対し、前記天然ゴムラテックスの固形分Aの含有量を30〜60重量部、前記粘着付与樹脂エマルジョンの固形分Bの含有量を10〜30重量部、かつ前記凍結防止剤Cの含有量を20〜50重量部とするとともに、前記粘着付与樹脂エマルジョンの粘着付与樹脂として芳香族変性テルペン樹脂を用いたことを特徴とするタイヤのパンクシーリング剤」が記載されている。
【0004】
また、特許文献2には、「少なくとも、ゴムラテックス溶液と短繊維とを含有するパンクシーリング剤であって、さらに、クレイ系増粘剤を含有してなり、該クレイ系増粘剤を添加した前記ゴムラテックス溶液の+50℃〜−20℃の範囲における粘度が、3〜6000mPa・sであることを特徴とするパンクシーリング剤。」が記載されている。
【0005】
しかしながら、特許文献1および2に記載の天然ゴムラテックス系のパンクシーリング剤は、貯蔵安定性(保管性能)が低く、例えば、自動車のトランク内に放置された場合の寿命が約1年程度で、それを過ぎると固化またはゲル化して流動性が著しく低下し、パンクしたタイヤ内に注入できなくなる等の問題がある。
【0006】
この問題を解決すべく、特許文献3では、本出願人により、「合成樹脂エマルジョンと、凍結防止剤とを含有し、水素イオン指数が5.5〜8.5であるタイヤパンクシール材。」が提案されている。
【0007】
【特許文献1】特開2004−035867号公報
【特許文献2】特開2005−170973号公報
【特許文献3】特開2007−224246号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、本発明者が検討したところ、特許文献1および2に記載のパンクシーリング剤や、特許文献3に記載タイヤパンクシール材を用いた場合、直径4mm程度の釘や異物によるパンク孔(以下、単に「孔」という。)についてはシールすることが可能であるものの、直径6mm程度の釘や異物による孔についてはシールすることが困難であることが分かった。
【0009】
そこで、本発明は、シール性能を改善し、貯蔵安定性にも優れるタイヤパンク補修材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、鋭意検討した結果、合成樹脂エマルジョンおよび粘着付与剤を含有し、更に水ガラスを含有するタイヤパンク補修材が、高いシール性能を有し、貯蔵安定性にも優れることを見出し、本発明を完成させた。
即ち、本発明は、下記(1)〜(10)を提供する。
【0011】
(1)合成樹脂エマルジョンと、粘着付与剤と、水ガラスとを含有し、水素イオン指数が5.5〜8.5であるタイヤパンク補修材。
【0012】
(2)上記水ガラスが、Na2SiO3、Na4SiO4、Na2Si25およびNa2Si49からなる群から選択される少なくとも1種のケイ酸ナトリウムを含む上記(1)に記載のタイヤパンク補修材。
【0013】
(3)上記合成樹脂エマルジョンが、エチレン酢酸ビニル系エマルジョンである上記(1)または(2)に記載のタイヤパンク補修材。
【0014】
(4)上記粘着付与剤が、ロジン系樹脂、テルペン系樹脂および水添テルペン系樹脂からなる群から選択される少なくとも1種を含む上記(1)〜(3)のいずれかに記載のタイヤパンク補修材。
【0015】
(5)上記水ガラスの固形分を、上記合成樹脂エマルジョンの固形分100質量部に対して、3〜70質量部含有する上記(1)〜(4)のいずれかに記載のタイヤパンク補修材。
【0016】
(6)上記粘着付与剤の固形分を、上記合成樹脂エマルジョンの固形分100質量部に対して、50〜200質量部含有する上記(1)〜(5)のいずれかに記載のタイヤパンク補修材。
【0017】
(7)更に、凍結防止剤を含有する上記(1)〜(6)のいずれかに記載のタイヤパンク補修材。
【0018】
(8)上記凍結防止剤が、エチレングリコール、プロピレングリコールおよびジエチレングリコールからなる群から選択される少なくとも1種を含む上記(7)に記載のタイヤパンク補修材。
【0019】
(9)上記凍結防止剤の固形分を、上記合成樹脂エマルジョンの固形分100質量部に対して100〜400質量部含有する上記(7)または(8)に記載のタイヤパンク補修材。
【0020】
(10)水素イオン指数が、6.0〜8.0である上記(1)〜(9)のいずれかに記載のタイヤパンク補修材。
【発明の効果】
【0021】
以下に説明するように、本発明によれば、シール性能を改善し、貯蔵安定性にも優れるタイヤパンク補修材を提供することができるため有用である。
また、本発明のタイヤパンク補修材は、センター溝部およびショルダー溝部のいずれにおける孔(直径6mm程度の釘や異物による孔)に対しても良好なシール性能を発現するため、非常に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明をより詳細に説明する。
本発明のタイヤパンク補修材は、合成樹脂エマルジョンと、粘着付与剤と、水ガラスとを含有し、水素イオン指数が5.5〜8.5であるタイヤパンク補修材である。
次に、本発明のタイヤパンク補修材の各成分について詳述する。
【0023】
<合成樹脂エマルジョン>
本発明のタイヤパンク補修材に用いられる合成樹脂エマルジョンは、特に限定されず、従来公知の合成樹脂エマルジョンを用いることができる。
上記合成樹脂エマルジョンとしては、具体的には、例えば、ウレタンエマルジョン、アクリルエマルジョン、スチレン−ブタジエン系エマルジョン、ニトリル系エマルジョン、ポリオレフィン系エマルジョン、エチレン酢酸ビニル系エマルジョン、酢酸ビニル系エマルジョン、ポリ塩化ビニル系エマルジョン等が挙げられ、これらを1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0024】
本発明においては、上記合成樹脂エマルジョンを合成(重合)する際に、乳化分散剤を用いて共重合(乳化重合)して得られる樹脂エマルジョンであるのが、後述する水ガラスとの相性がよく、得られる本発明のタイヤパンク補修材のシール性能をより改善することができる。
【0025】
上記乳化分散剤としては、例えば、ノニオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性イオン界面活性剤等が挙げられる。これらの中でも、ノニオン性界面活性剤が、中性であり、臭気が少ない点から好ましい。特に、水溶性高分子を用いることが好ましく、ポリビニルアルコール(PVA)を用いることがより好ましい。
【0026】
また、本発明においては、得られる本発明のタイヤパンク補修材の貯蔵安定性がより向上するという理由から、エチレン酢酸ビニル系エマルジョンが好ましい。
以下に、エチレン酢酸ビニル系エマルジョンについて、詳述する。
【0027】
(エチレン酢酸ビニル系エマルジョン)
上記エチレン酢酸ビニル系エマルジョン(以下、「EVAエマルジョン」という。)は、特に限定されず、従来公知のEVAエマルジョンを用いることができる。
上記EVAエマルジョンとしては、エチレンと酢酸ビニルモノマーを、上記乳化分散剤を用いて共重合(乳化重合)して得られる水性エマルジョン等が好適に挙げられる。
共重合する際に配合されるエチレンと酢酸ビニルモノマーとの質量比は、10/90〜40/60が好ましい。
【0028】
本発明においては、上記共重合において、必要に応じて、他のモノマーを共重合させてもよい。他のモノマーとしては、具体的には、例えば、アクリル酸2─エチルヘキシル、アクリル酸ブチル、アクリル酸エチルなどのアクリル酸エステル;メタクリル酸メチル、メタクリル酸ブチルなどのメタクリル酸エステル;塩化ビニル、バーサチック酸ビニルなどのビニルエステル;等が挙げられる。また、他のモノマーとして、アクリル酸、メタクリル酸のようにカルボキシル基を含有するモノマーの他、スルホン酸基、ヒドロキシ基、エポキシ基、メチロール基、アミノ基、アミド基等の官能基を含有する各種モノマーも使用することができる。
【0029】
上記EVAエマルジョンの重量平均分子量は、10000〜500000であるのが好ましく、50000〜200000であるのがより好ましい。
また、上記EVAエマルジョンは、固形分が40〜70質量%であるのが好ましく、50〜65質量%であるのがより好ましい。
【0030】
上記EVAエマルジョンとして市販品を用いてもよく、その具体例としては、住化ケムテックス社製のエチレン酢酸ビニルエマルジョン(スミカフレックスS7400、S400HQ、S467、510HQ、1010、410HQ、408HQE、950HQ、951HQ)等が挙げられる。
【0031】
<粘着付与剤>
本発明のタイヤパンク補修材に用いられる粘着付与剤は、特に限定されず、従来公知の粘着付与剤を用いることができる。
上記粘着付与剤としては、具体的には、例えば、ロジンエステル、重合ロジンエステル、変性ロジンなどのロジン系樹脂;テルペンフェノール、芳香族テルペンなどのテルペン系樹脂;テルペン系樹脂を水素添加した水添テルペン系樹脂;フェノール樹脂;キシレン樹脂等が挙げられ、これらを1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
特に、上記乳化分散剤を用いてこれらの樹脂を乳化して得られるエマルジョンであるのが、上記合成樹脂エマルジョンとの相溶性に優れる理由から好ましい。
また、ロジン系樹脂、テルペン系樹脂および水添テルペン系樹脂からなる群から選択される少なくとも1種を含む粘着付与剤であるのが、得られる本発明のタイヤパンク補修材のシール性能がより向上する理由から好ましい。
【0032】
本発明においては、上記粘着付与剤の固形分の含有量は、上記合成樹脂エマルジョンの合計固形分100質量部に対して50〜200質量部であるのが好ましく、60〜150質量部であるのがより好ましく、70〜130質量部であるのが更に好ましい。
上記粘着付与剤の固形分の含有量が上記範囲であると、得られる本発明のタイヤパンク補修材のシール性能が更に向上する。
ここで、粘着付与剤の固形分とは、粘着付与剤に含有される各成分から水および溶剤を除いたものの合計を意味する。
【0033】
<水ガラス>
本発明のタイヤパンク補修材に用いられる水ガラスは、特に限定されず、従来公知の水ガラスを用いることができる。
水ガラスを用いることにより、得られる本発明のタイヤパンク補修材の貯蔵安定性を良好に保持しつつ、シール性能を改善することができる。
これは、水ガラスの凝固作用によるものと考えられる。具体的には、タイヤパンク補修材は、タイヤの空気充填部からタイヤ内に注入され、所定の空気圧まで空気を充填した後に車を走行させることによりパンク穴に到達し、タイヤが回転接地する際に受ける圧縮力や剪断力によりゴム粒子の凝集体を形成して孔をシールする作用があるが、水ガラスを含有することにより、この凝集体の形成が促進されるものと考えられる。
【0034】
本発明においては、上記水ガラスは、Na2SiO3、Na4SiO4、Na2Si25およびNa2Si49からなる群から選択される少なくとも1種のケイ酸ナトリウムを含むものであるのが、凝集体の形成が容易でかつ入手が容易な理由から好ましい。
【0035】
また、本発明においては、上記水ガラスの固形分の含有量は、上記合成樹脂エマルジョンの合計固形分100質量部に対して3〜70質量部であるのが好ましい。上記水ガラスの固形分の含有量がこの範囲であると、得られる本発明のタイヤパンク補修材のシール性能がより向上する。
更に、上記水ガラスの固形分の含有量は、上記合成樹脂エマルジョンの合計固形分100質量部に対して4〜45質量部であるのがより好ましい。上記水ガラスの固形分の含有量がこの範囲であると、得られる本発明のタイヤパンク補修材のシール性能が更に向上し、貯蔵安定性性も良好となる。
ここで、水ガラスの固形分とは、水ガラスに含有される各成分から水および溶剤を除いたものの合計を意味する。
【0036】
上記水ガラスとして市販品を用いてもよく、その具体例としては、和光純薬工業社製の水ガラス等が挙げられる。
【0037】
<凍結防止剤>
本発明のタイヤパンク補修材は、氷点下雰囲気下でも使用できる理由から、更に凍結防止剤を含有するのが好ましい。
上記凍結防止剤としては、具体的には、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール等が挙げられ、これらを1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0038】
本発明においては、上記凍結防止剤を含有する場合、その固形分の含有量は、上記合成樹脂エマルジョンの固形分100質量部に対して100〜400質量部であるのが好ましく、100〜300質量部であるのがより好ましく、110〜200質量部であるのが更に好ましい。
上記凍結防止剤の固形分の含有量が上記範囲であると、得られる本発明のタイヤパンク補修材の凍結を防止する性能が十分に発揮される。
ここで、凍結防止剤の固形分とは、凍結防止剤に含有される各成分から水および溶剤を除いたものの合計を意味する。
【0039】
本発明のタイヤパンク補修材は、上述したゴム粒子の凝集体の形成をより促進させる観点から、更に上記合成樹脂エマルジョンを架橋させる成分を含有するのが好ましい。
上記成分としては、具体的には、例えば、アジピン酸ジヒドラジド、オキサゾリン基含有エマルジョン、オキサゾリン基含有水溶性樹脂、カルボジイミド含有樹脂等が挙げられる。
【0040】
本発明のタイヤパンク補修材は、上述した各成分以外に、所望により、充填剤、老化防止剤、酸化防止剤、顔料(染料)、可塑剤、揺変性付与剤、紫外線吸収剤、難燃剤、界面活性剤(レベリング剤を含む)、分散剤、脱水剤、帯電防止剤等の各種添加剤等を含有することができる。
【0041】
充填剤としては、各種形状の有機または無機の充填剤が挙げられる。具体的には、例えば、ヒュームドシリカ、焼成シリカ、沈降シリカ、粉砕シリカ、溶融シリカ;ケイソウ土;酸化鉄、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化バリウム、酸化マグネシウム;炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸亜鉛;ろう石クレー、カオリンクレー、焼成クレー;カーボンブラック;これらの脂肪酸処理物、樹脂酸処理物、ウレタン化合物処理物、脂肪酸エステル処理物等が挙げられる。
【0042】
老化防止剤としては、具体的には、例えば、ヒンダードフェノール系等の化合物が挙げられる。
酸化防止剤としては、具体的には、例えば、ブチルヒドロキシトルエン(BHT)、ブチルヒドロキシアニソール(BHA)等が挙げられる。
【0043】
顔料としては、具体的には、例えば、酸化チタン、酸化亜鉛、群青、ベンガラ、リトポン、鉛、カドミウム、鉄、コバルト、アルミニウム、塩酸塩、硫酸塩等の無機顔料;アゾ顔料、フタロシアニン顔料、キナクリドン顔料、キナクリドンキノン顔料、ジオキサジン顔料、アントラピリミジン顔料、アンサンスロン顔料、インダンスロン顔料、フラバンスロン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、ジケトピロロピロール顔料、キノナフタロン顔料、アントラキノン顔料、チオインジゴ顔料、ベンズイミダゾロン顔料、イソインドリン顔料、カーボンブラック等の有機顔料等が挙げられる。
【0044】
可塑剤としては、具体的には、例えば、ジイソノニルフタレート(DINP);アジピン酸ジオクチル、コハク酸イソデシル;ジエチレングリコールジベンゾエート、ペンタエリスリトールエステル;オレイン酸ブチル、アセチルリシノール酸メチル;リン酸トリクレジル、リン酸トリオクチル;アジピン酸プロピレングリコールポリエステル、アジピン酸ブチレングリコールポリエステル等が挙げられる。
【0045】
揺変性付与剤としては、具体的には、例えば、エアロジル(日本エアロジル社製)、ディスパロン(楠本化成社製)等が挙げられる。
【0046】
難燃剤としては、具体的には、例えば、クロロアルキルホスフェート、ジメチル・メチルホスホネート、臭素・リン化合物、アンモニウムポリホスフェート、ネオペンチルブロマイド−ポリエーテル、臭素化ポリエーテル等が挙げられる。
【0047】
界面活性化剤としては、具体的には、例えば、ロジンのアルカリ金属塩、アルキルベンゼンスルフホン酸、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸エステル塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、ポリオキシモノおよびジスチリルフェニルエーテルスルホコハク酸モノエステル塩、アルキルフェノキシボリオキシエチレンプロピルスルホン酸塩などのアニオン性界面活性剤;ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフエニルエーテルなどの非イオン性界面活性剤;テトラアルキルアンモニウムクロライド、トリアルキルベンジルアンモニウムクロライド、アルキルアミン、モノオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレンアルキルアミンなどのカチオン性界面活性剤;等が挙げられる。
【0048】
帯電防止剤としては、具体的には、例えば、第四級アンモニウム塩;ポリグリコール、エチレンオキサイド誘導体等の親水性化合物等が挙げられる。
【0049】
本発明のタイヤパンク補修材の製造方法は、特に限定されないが、例えば、反応容器に上記合成樹脂エマルジョン、粘着付与剤および水ガラスならびに所望により凍結防止剤および各種添加剤を入れ、減圧下で混合ミキサー等のかくはん機を用いて十分に混練する方法が挙げられる。
【0050】
本発明のタイヤパンク補修材の水素イオン指数(pH)は、5.5〜8.5である。pHがこの範囲であるとスチールコードを腐食しにくい。また、本発明のタイヤパンク補修材は、pHが上記範囲内のときに比較的安定である合成樹脂エマルジョンを用いることにより、アンモニア等の添加量を抑制できる、または添加する必要がないため、刺激臭が少ない。
これらの特性により優れる点から、本発明のタイヤパンク補修材のpHは6.0〜8.0であるのがより好ましく、6.5〜8.0であるのが更に好ましい。
【0051】
本発明のタイヤパンク補修材に、酸または塩基を添加してpHを上記範囲内に調整してもよい。
上記酸としては、特に限定されないが、具体的には、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、亜リン酸等の無機酸、酢酸、プロピオン酸、ギ酸、酪酸、乳酸、リンゴ酸、クエン酸等の有機酸が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
上記塩基としては、特に限定されないが、刺激臭のないものが好ましく、具体的には、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、第三級アミン等が好適に挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。中でも、トリエチルアミンが安全性、シール後の耐水性という点から好ましい。
【0052】
以下、本発明のタイヤパンク補修材の使用方法について説明する。ただし、本発明のタイヤパンク補修材の使用方法は下記の方法に限定されない。
まず、本発明のタイヤパンク補修材をタイヤの空気充填部からタイヤ内に注入する。本発明のタイヤパンク補修材をタイヤ内に注入する方法は、特に限定されず従来公知の方法を用いることができ、例えば、シリンジ、スプレー缶等を用いる方法が挙げられる。タイヤ内に注入されるタイヤパンク補修材の量は、特に限定されず、パンク穴の大きさ等に応じて適宜選択される。
次に、所定の空気圧まで空気を充填する。
その後、車を走行させる。タイヤが回転接地する際に受ける圧縮力や剪断力によって合成樹脂粒子等の凝集体を形成し、パンク穴をシールすることができる。
【実施例】
【0053】
以下、実施例を示して、本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0054】
(実施例1〜10、比較例1)
下記第1表の各成分を、第1表に示す組成で、かくはん機を用いて混合し、第1表に示される各タイヤパンク補修材を得た。なお、第1表に示す数値は、固形分換算した質量部である。
得られた各タイヤパンク補修材の水素イオン指数をpHメーター(日立ハイテクノロジー社製)で測定した。また、各タイヤパンク補修材について、下記に示す方法により、シール性能および貯蔵安定性の評価を行った。これらの結果を第1表に示す。
【0055】
<シール性能>
まず、タイヤのトレッドのセンター溝部にパンク孔(直径6mm)を空けた。
次いで、パンク孔を空けたタイヤをドラム試験機に装着し、上記で得られたタイヤパンク補修材をタイヤのバルブ口から注入し、タイヤ内圧が250kPaになるように空気を充填した。
その後、荷重350kg、時速30kmの条件下で上記タイヤを走行させ、空気漏れがなくなるまでの走行時間(分)を計測した。なお、空気漏れの有無は、目視および石鹸水をパンク孔付近に吹き付けることで確認した。
その結果、走行時間が20分以下であれば、シール性能に優れているといえる。
【0056】
(貯蔵安定性)
得られたタイヤパンク補修材を容器に入れ、窒素置換した後密閉し、90℃で50日間放置した。その後、タイヤパンク補修材の状態を観察し、分散状態を目視で観察し、沈殿・分離がないもの貯蔵安定性に優れるものとして「○」と評価した。
【0057】
【表1】

【0058】
上記第1表に示す各成分は、下記のとおりである。
・合成樹脂エマルジョン1:EVAエマルジョン(スミカフレックスS510HQ、住化ケムテックス社製、固形分55質量%)
・合成樹脂エマルジョン2:EVAエマルジョン(スミカフレックス408HQE、住化ケムテックス社製、固形分52質量%)
・粘着付与剤1:ロジン系樹脂エマルジョン(ハリエスターSK508、ハリマ化成社製、固形分55質量%)
・粘着付与剤2:ロジンエステル系樹脂エマルジョン(E720、荒川化学工業社製、固形分50質量%)
・粘着付与剤3:テルペン系樹脂エマルジョン(R1050、ヤスハラケミカル社製、固形分55質量%)
・凍結防止剤1:プロピレングリコール(三協化学社製、固形分100質量%)
・凍結防止剤2:エチレングリコール(和光純薬工業社製、固形分100質量%)
・凍結防止剤3:ジエチレングリコール(和光純薬工業社製、固形分100質量%)
・水ガラス:和光純薬工業社製、固形分65質量%
【0059】
上記第1表に示す結果から明らかなように、水ガラスを配合しないで調製したタイヤパンク補修材(比較例1)は、パンク孔(直径6mm)をシールするのに30分以上要し、シール性能が劣ることが分かった。
これに対し、水ガラスを配合して調製したタイヤパンク補修材(実施例1〜10)は、貯蔵安定性に優れ、また、直径が6mmのパンク孔であっても短時間でシールすることができ、シール性能に優れていることが分かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成樹脂エマルジョンと、粘着付与剤と、水ガラスとを含有し、水素イオン指数が5.5〜8.5であるタイヤパンク補修材。
【請求項2】
前記水ガラスが、Na2SiO3、Na4SiO4、Na2Si25およびNa2Si49からなる群から選択される少なくとも1種のケイ酸ナトリウムを含む請求項1に記載のタイヤパンク補修材。
【請求項3】
前記合成樹脂エマルジョンが、エチレン酢酸ビニル系エマルジョンである請求項1または2に記載のタイヤパンク補修材。
【請求項4】
前記粘着付与剤が、ロジン系樹脂、テルペン系樹脂および水添テルペン系樹脂からなる群から選択される少なくとも1種を含む請求項1〜3のいずれかに記載のタイヤパンク補修材。
【請求項5】
前記水ガラスの固形分を、前記合成樹脂エマルジョンの固形分100質量部に対して、3〜70質量部含有する請求項1〜4のいずれかに記載のタイヤパンク補修材。
【請求項6】
前記粘着付与剤の固形分を、前記合成樹脂エマルジョンの固形分100質量部に対して、50〜200質量部含有する請求項1〜5のいずれかに記載のタイヤパンク補修材。
【請求項7】
更に、凍結防止剤を含有する請求項1〜6のいずれかに記載のタイヤパンク補修材。
【請求項8】
前記凍結防止剤が、エチレングリコール、プロピレングリコールおよびジエチレングリコールからなる群から選択される少なくとも1種を含む請求項7に記載のタイヤパンク補修材。
【請求項9】
前記凍結防止剤の固形分を、前記合成樹脂エマルジョンの固形分100質量部に対して100〜400質量部含有する請求項7または8に記載のタイヤパンク補修材。
【請求項10】
水素イオン指数が、6.0〜8.0である請求項1〜9のいずれかに記載のタイヤパンク補修材。

【公開番号】特開2010−126553(P2010−126553A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−299503(P2008−299503)
【出願日】平成20年11月25日(2008.11.25)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】