説明

タイヤ性能シミュレーション方法、タイヤ性能シミュレーション装置、及びタイヤ性能シミュレーションプログラム

【課題】計算時間の長大化を抑えつつ精度よくタイヤ性能を解析する。
【解決手段】タイヤ性能シミュレーション方法は、タイヤ本体を要素分割したタイヤ本体モデルを作成するステップ102、タイヤ本体モデルを転動させたときの変形計算を実行するステップ108、トレッドパターンを要素分割すると共にそのゴム材料の物性を粘弾性で設定したトレッドパターンモデルを作成するステップ114、トレッドパターンが接触する路面を、トレッドパターンの要素のサイズよりも小さいサイズで要素分割した路面モデルを作成するステップ116、タイヤ本体モデルを転動させたときの変形計算結果に基づいて、タイヤ本体モデルを転動させたときのトレッドパターンモデルに対応する領域の変形軌跡を算出するステップ112、変形軌跡を境界条件としてトレッドパターンモデルを路面モデル上で転動させた場合のトレッドパターンの変形計算を実行するステップ120を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤ性能シミュレーション方法、タイヤ性能シミュレーション装置、及びタイヤ性能シミュレーションプログラムに係り、より詳しくは、有限要素法によりタイヤの性能を解析するためタイヤ性能シミュレーション方法、タイヤ性能シミュレーション装置、及びタイヤ性能シミュレーションプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、空気入りタイヤ開発において、タイヤ性能は実際にタイヤを設計・製造し、自動車に装着して性能試験を行うことにより得られるものであり、性能試験の結果に満足できなければ設計・製造からやり直す、という手順を踏んできた。近年では、有限要素法等の数値解析手法や計算機環境の発達により、例えば、舗装路面を対象にしたタイヤ性能については、計算機でタイヤの剛体路面への荷重負荷、転動解析を行うことによる予測も可能になり、ここから幾つかの性能予測が行えるようになってきた。
【0003】
タイヤと路面との間で発生する摩擦はタイヤ性能に大きく影響し、タイヤ性能をシミュレーションする際の要因として支配的である。また、実際には、路面には微少な凹凸が存在するため、タイヤと路面との摩擦特性を評価する場合、路面の凹凸、すなわち路面の粗さを考慮することは非常に重要である。
【0004】
路面の凹凸を考慮して摩擦特性を評価する技術として、特許文献1には、路面の凹凸表面の幾何学形状情報に基づいて凹凸表面モデルを作成し、これとタイヤモデルとを接触させて、タイヤと路面との摩擦特性を評価する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−21551号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載された発明は、タイヤが非転動の状態で路面に接触させた場合の接触面積を考慮することにより、路面の凹凸を考慮した摩擦特性を評価するものであり、タイヤ転動時におけるタイヤと路面との摩擦特性を精度よく評価できるとは限らない。
【0007】
また、タイヤと路面との摩擦特性を精度よくシミュレーションを行おうとする場合、シミュレーションに用いるタイヤモデルのメッシュサイズが路面の微少な凹凸サイズよりも小さくなることが必要となる。この場合、要素数が膨大となり、計算時間が長大化する、という問題があった。
【0008】
本発明は、上記事実を鑑みて成されたものであり、計算時間が長大化するのを抑えつつ精度よくタイヤ性能を解析することができるタイヤ性能シミュレーション方法、タイヤ性能シミュレーション装置、及びタイヤ性能シミュレーションプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、請求項1記載の発明のタイヤ性能シミュレーション方法は、タイヤ本体モデル作成手段が、タイヤのタイヤ本体を複数の要素に要素分割したタイヤ本体モデルを作成するステップと、第1の路面モデル作成手段が、前記タイヤ本体が接触する路面を複数の要素に要素分割したタイヤ本体用路面モデルを作成するステップと、
第1の変形計算手段が、前記タイヤ本体モデルを前記タイヤ本体用路面モデル上で転動させたときの変形計算を実行するステップと、第2の路面モデル作成手段が、前記タイヤのトレッドパターンが接触する路面を複数の要素に要素分割したトレッドパターン用路面モデルを作成するステップと、トレッドパターンモデル作成手段が、前記トレッドパターンを前記トレッドパターン用路面モデルの要素のサイズよりも小さいサイズで複数の要素に要素分割すると共に、前記トレッドパターンを構成するゴム材料の物性を粘弾性で設定したトレッドパターンモデルを作成するステップと、変形軌跡算出手段が、前記変形計算の結果に基づいて、前記タイヤ本体モデルを前記タイヤ本体用路面モデル上で転動させたときの前記トレッドパターンモデルに対応する領域の変形軌跡を算出するステップと、第2の変形計算手段が、前記変形軌跡を境界条件として前記トレッドパターンモデルを前記トレッドパターン用路面モデル上で転動させた場合の前記トレッドパターンの変形計算を実行するステップと、を含むことを特徴とする。
【0010】
この発明によれば、トレッドパターンを構成するゴム材料の物性を粘弾性で設定したトレッドパターンモデルを作成すると共に、トレッドパターンモデルの要素の要素サイズを、トレッドパターン用路面モデルの要素の要素サイズより小さくしてトレッドパターンの変形計算を実行する。これにより、トレッドパターンモデルの転動計算において、路面の微少な凹凸が考慮された計算結果が得られ、高精度でタイヤ性能を解析することができると共に、計算時間が長大化するのを抑えることができる。なお、タイヤ本体モデルには、スムースタイヤモデルの他、例えばサイプ無しのトレッドパターンが設けられたトレッドパターン付きタイヤモデルや、簡単なリブパターンが設けられたリブパターンモデルも含む。
【0011】
なお、請求項2に記載したように、前記タイヤ本体を構成するゴム材料の物性を超弾性又は弾性で設定してもよい。
【0012】
また、請求項3に記載したように、前記タイヤ本体のうち前記トレッドパターンに対応した一部の領域を構成するゴム材料の物性を粘弾性で設定し、その他の領域のゴム材料の物性を超弾性又は弾性で設定してもよい。
【0013】
請求項4記載の発明のタイヤ性能シミュレーション装置は、タイヤのタイヤ本体を複数の要素に要素分割したタイヤ本体モデルを作成するタイヤ本体モデル作成手段と、前記タイヤ本体が接触する路面を複数の要素に要素分割したタイヤ本体用路面モデルを作成する第1の路面モデル作成手段と、前記タイヤ本体モデルを前記タイヤ本体用路面モデル上で転動させたときの変形計算を実行する第1の変形計算手段と、前記タイヤのトレッドパターンが接触する路面を複数の要素に要素分割したトレッドパターン用路面モデルを作成する第2の路面モデル作成手段と、前記トレッドパターンを前記トレッドパターン用路面モデルの要素のサイズよりも小さいサイズで複数の要素に要素分割すると共に、前記トレッドパターンを構成するゴム材料の物性を粘弾性で設定したトレッドパターンモデルを作成するトレッドパターンモデル作成手段と、前記変形計算の結果に基づいて、前記タイヤ本体モデルを前記タイヤ本体用路面モデル上で転動させたときの前記トレッドパターンモデルに対応する領域の変形軌跡を算出する変形軌跡算出手段と、前記変形軌跡を境界条件として前記トレッドパターンモデルを前記トレッドパターン用路面モデル上で転動させた場合の前記トレッドパターンの変形計算を実行する第2の変形計算手段と、を含むことを特徴とする。
【0014】
この発明によれば、トレッドパターンを構成するゴム材料の物性を粘弾性で設定したトレッドパターンモデルを作成すると共に、トレッドパターンモデルの要素の要素サイズを、トレッドパターン用路面モデルの要素の要素サイズより小さくしてトレッドパターンの変形計算を実行する。これにより、トレッドパターンモデルの転動計算において、路面の微少な凹凸が考慮された計算結果が得られ、高精度でタイヤ性能を解析することができると共に、計算時間が長大化するのを抑えることができる。
【0015】
請求項5記載の発明のタイヤ性能シミュレーションプログラムは、タイヤのタイヤ本体を複数の要素に要素分割したタイヤ本体モデルを作成するステップと、前記タイヤ本体が接触する路面を複数の要素に要素分割したタイヤ本体用路面モデルを作成するステップと、前記タイヤ本体モデルを前記タイヤ本体用路面モデル上で転動させたときの変形計算を実行するステップと、前記タイヤのトレッドパターンが接触する路面を複数の要素に要素分割したトレッドパターン用路面モデルを作成するステップと、前記トレッドパターンを前記トレッドパターン用路面モデルの要素のサイズよりも小さいサイズで複数の要素に要素分割すると共に、前記トレッドパターンを構成するゴム材料の物性を粘弾性で設定したトレッドパターンモデルを作成するステップと、前記変形計算の結果に基づいて、前記タイヤ本体モデルを前記タイヤ本体用路面モデル上で転動させたときの前記トレッドパターンモデルに対応する領域の変形軌跡を算出するステップと、前記変形軌跡を境界条件として前記トレッドパターンモデルを前記トレッドパターン用路面モデル上で転動させた場合の前記トレッドパターンの変形計算を実行するステップと、を含む処理をコンピュータに実行させることを特徴とする。
【0016】
この発明によれば、トレッドパターンを構成するゴム材料の物性を粘弾性で設定したトレッドパターンモデルを作成すると共に、トレッドパターンモデルの要素の要素サイズを、トレッドパターン用路面モデルの要素の要素サイズより小さくしてトレッドパターンの変形計算を実行する。これにより、トレッドパターンモデルの転動計算において、路面の微少な凹凸が考慮された計算結果が得られ、高精度でタイヤ性能を解析することができると共に、計算時間が長大化するのを抑えることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、計算時間が長大化するのを抑えつつ精度よくタイヤ性能を解析することができる、という効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】タイヤの性能予測を実施するためのパーソナルコンピュータの概略図である。
【図2】コンピュータの概略ブロック図である。
【図3】タイヤ性能シミュレーションプログラムのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0020】
図1には一例として空気入りタイヤのタイヤモデルの作成や性能予測を実施するためのタイヤ性能シミュレーション装置としてのパーソナルコンピュータの概略が示されている。このパーソナルコンピュータは、データ等を入力するためのキーボード10、予め記憶された処理プログラムに従ってタイヤの3次元モデルを作成したり性能を予測したりするコンピュータ12、コンピュータ12による演算結果や各種画面等を表示するディスプレイ14、及びディスプレイ14に表示されたカーソルを所望の位置に移動させたり、カーソル位置のメニュー項目やオブジェクト等を選択したり選択解除したりドラッグしたりする操作を行うためのマウス16を含んで構成されている。
【0021】
コンピュータ12は、図2に示すように、CPU(Central Processing Unit)12A、ROM(Read Only Memory)12B、RAM(Random Access Memory)12C、不揮発性メモリ12D、及び入出力インターフェース(I/O)12Eがバス12Fを介して各々接続された構成となっている。
【0022】
I/O12Eには、キーボード10、ディスプレイ14、マウス16、ハードディスク18、及び記録媒体としてのCD−ROM20が挿抜可能なCD−ROMドライブ22が接続されている。
【0023】
ハードディスク18には、後述するタイヤ性能シミュレーションプログラムや、これらの実行に必要な各種パラメータやデータ等が記憶されている。CPU12Aは、ハードディスク18に記憶されたタイヤ性能シミュレーションプログラムを読み込んで実行する。
【0024】
なお、後述するタイヤ性能シミュレーションプログラム等は、例えばCD−ROMドライブ22を用いてCD−ROM20に対して読み書き可能とすることもできるので、後述する各種プログラムは、予めCD−ROM20に記録しておき、CD−ROMドライブ22を介してCD−ROM20に記録された各種プログラムを読み込んで実行してもよい。また、記録媒体としては、CD−ROMに限らず、DVD−ROM等の光ディスクや、MD,MO等の光磁気ディスクがあり、これらを用いるときには、上記CD−ROMドライブ22に代えて、またはさらにDVD−ROMドライブ、MDドライブ、MOドライブ等を用いればよい。
【0025】
次に、本実施の形態の作用として、コンピュータ12で実行されるタイヤ性能シミュレーションプログラムについて図3に示すフローチャートを参照して説明する。
【0026】
タイヤと路面との摩擦を考慮してタイヤ性能を精度よく解析しようとする場合、シミュレーションに用いるタイヤモデルのメッシュサイズが路面の微少な凹凸サイズよりも小さくする必要があるが、タイヤ全体のメッシュサイズを路面の凹凸よりも小さくした場合、要素数が膨大となり、計算時間が膨れ上がってしまう。
【0027】
そこで、本実施の形態では、GL解析(Global−Local・Analysis)を利用し、タイヤモデル計算部分とトレッドパターンモデル計算部分を分割して計算する。これによって、トレッドパターンの設計変更はタイヤモデル計算部分には影響せず、トレッドパターンモデル計算部分にのみ影響するため、再計算はトレッドパターンモデル計算部分だけとなる。なお、GL解析とは、グローバル解析(Global・Analysis:以下、G解析という)とローカル解析(Local・Analysis:以下、L解析という)とを組み合わせた解析である。詳細は後述するが、タイヤモデルとして、全周が平坦なスムースタイヤモデルを基本とし、タイヤの踏込み部の解析が容易となるのに必要な一部のトレッドパターン(例えば1ピッチ又は複数ピッチ分のトレッドパターン)をスムースタイヤモデルに有させて解析を行うものである。
【0028】
図3は、本実施形態に係るタイヤ性能シミュレーションプログラムの処理ルーチンを示すものである。
【0029】
ステップ100では、評価するタイヤの設計案(タイヤ形状、構造、材料、パターンの変更など)を定める。例えば、ハードディスク18に、予め複数種類のタイヤのCADデータ(タイヤ形状、構造、材料等の設計データ)等の設計データを記憶しておき、挙動解析の対象となるタイヤの設計データを選択して読み込むことにより、挙動解析の対象となるタイヤを設定することができる。
【0030】
なお、ステップ100における設定はタイヤ設計案に限定されるものではなく、現存するタイヤを解析する場合を含む。すなわち、現存するタイヤそのものを対象のモデルとして設定してもよい。
【0031】
上記ステップ100の設定を基にして、まずG解析を行う。図3では、G解析としてステップ102乃至ステップ110の処理が該当する。
【0032】
まず、図1のステップ102では、タイヤ設計案を数値解析上のモデルに落とし込むため、タイヤ本体のタイヤ本体モデル(以下、タイヤモデル)を作成する。このタイヤモデルの作成は、用いる数値解析手法により若干異なる。本実施の形態では数値解析手法として有限要素法(FEM)を用いるものとする。従って、上記ステップ102で作成するタイヤモデルは、有限要素法(FEM)に対応した要素分割、例えば、メッシュ分割によって複数の要素に分割され、タイヤを数値的・解析的手法に基づいて作成されたコンピュータプログラムヘのインプットデータ形式に数値化したものをいう。この要素分割とはタイヤ、流体、及び路面等の対象物を小さな幾つかの(有限の)小部分に分割することをいう。この小部分ごとに計算を行い全ての小部分について計算した後、全部の小部分を足し合わせることにより全体の応答を得ることができる。なお、数値解析手法には差分法や有限体積法を用いても良い。
【0033】
上記ステップ102のタイヤモデルの作成では、タイヤ径方向断面のモデルを作成、すなわちタイヤ断面データを作成する。このタイヤ断面データは、設計図面から採取またはタイヤ外形をレーザー形状測定器等で計測し値を採取する。また、タイヤ内部の構造は設計図面および実際のタイヤ断面データ等から正確なものを採取する。タイヤ断面内のゴム、補強材(ベルト、プライ等、鉄・有機繊維等でできた補強コードをシート状に束ねたもの)をそれぞれ有限要素法のモデル化手法に応じてモデル化する。すなわち、タイヤ断面を複数の要素に要素分割することによりタイヤモデルを作成する。次に、2次元データであるタイヤ断面データ(タイヤ径方向断面のモデル)を周方向に一周分展開し、タイヤの3次元(3D)モデルを作成する。
【0034】
なお、このステップ102では、トレッドパターンのモデル化を必要としない。すなわち、タイヤモデルとして、全周が平坦なスムースタイヤモデルを基本としたG解析のためのモデル化であるため、スムースタイヤモデルを作成する。
【0035】
また、タイヤモデルのゴム材料の物性として、本実施形態では一例として超弾性又は弾性を設定する。これにより、後述するタイヤモデルの転動計算の計算時間が長大化するのを抑えることができる。
【0036】
上記のようにしてタイヤモデルを作成した後には、ステップ104において、路面モデルを作成する。この路面モデルは、タイヤが接地する路面を複数の要素に要素分割することにより作成する。なお、ステップ102で作成したタイヤモデルの要素の要素サイズ(例えば面積)は、路面モデルの要素の要素サイズよりも小さくする必要はない。これにより、後述するタイヤモデルの転動計算の計算時間が長大化するのを抑えることができる。
【0037】
上記のようにしてタイヤモデル及び路面モデルを作成した後には、ステップ106へ進み、境界条件の設定がなされる。この境界条件とは、タイヤモデルに解析上すなわちタイヤの挙動をシミュレートする上で必要なものであり、タイヤモデルに付与する各種条件である。
【0038】
例えば、タイヤモデルを転動させるタイヤ転動時の場合、ステップ106の境界条件の設定は、タイヤモデルに内圧や回転変位及び直進変位(変位は力、速度でも良い)の少なくとも一方と、予め定めた負荷荷重とを与える。
【0039】
次のステップ108では、タイヤモデルの転動計算を行う。すなわち、タイヤモデルの変形計算を行う。このタイヤモデルの変形計算は、有限要素法に基づいて、境界条件が与えられたタイヤモデルの変形計算を行うものである。
【0040】
ステップ110では、計算結果を予測結果として出力する。この予測結果とは、タイヤ変形時の物理量である。具体的には、例えばサイドのたわみ量や接地形状、接地圧分布、タイヤ中心に作用する横力、モーメント、タイヤの上下方向の偏心固有値等である。そして、これらの予測結果の評価を行う。なお、予測結果の評価は、予測結果の出力値や出力値の分布を用いて、予め定めた許容値や許容特性を各出力値や出力値の分布にどの程度適合するかを数値的に表現することによって、評価値を定めることができる。
【0041】
次に、ステップ112では、トレッドパターンモデルの変形軌跡を求める。この変形軌跡を求める処理は、タイヤ転動時におけるタイヤモデルの最外層のベルトの変位を求める処理である。この求めたトレッドパターンモデルの変形軌跡を基にして以下のL解析を行う。図3では、L解析としてステップ114乃至ステップ122の処理が該当する。
【0042】
本実施の形態では、タイヤの性能予測をするにあたって、タイヤの挙動について、踏込み部のパターンに着目した。踏込み部とは、タイヤが転動するときに、タイヤが路面に近づくまたは接触する付近をいう。
【0043】
従って、本実施の形態では、G解析の計算結果をもとに、転動時のベルトモデル、すなわちタイヤの最外層のベルトの変位を取り出す。そして、取り出した最外層のベルトの変位をもとにトレッドパターンモデルに接地変形を与える。
【0044】
まず、ステップ114では、トレッドパターンモデルを作成する。すなわち、トレッドパターンを複数の要素に要素分割したトレッドパターンモデルを作成する。まず、スムースタイヤモデルに貼り付けるためのトレッドパターンをモデル化する。すなわちトレッドパターンモデルは、上記タイヤモデルにトレッド部分として貼りつけるためのものである。このトレッドパターンモデルは、リブ・ラグやサイプ等を考慮して作成することが好ましい。詳細には、ベルト(トレッドパターンモデルの一部と同じ)の転動軌跡が計算されているので、ベルトモデル(シェル)の全節点の転動中の変位を出力(これを速度に変換して出力してもよい。)し、トレッドパターンモデル(一部)をベルトモデルに貼りつける。
【0045】
なお、トレッドパターンモデルのゴム材料の物性として、本実施形態では粘弾性を設定する。これにより、後述するトレッドパターンモデルタイヤモデルの転動計算において、路面の凹凸に起因するヒステリシス摩擦が考慮され、精度よくタイヤ性能を解析することができる。
【0046】
次のステップ116では、トレッドパターンモデルに対応する路面モデルを作成する。このトレッドパターンモデルに対応する路面モデルは、タイヤが移動する領域を含むが、そのタイヤのトレッドパターンが接触及び離間することを想定する付近の領域でよい。この領域を複数の要素に要素分割することにより路面モデルを作成する。このとき、路面の微少な凹凸を考慮して路面モデルを作成する。なお、トレッドパターンモデルの要素のサイズ(例えば面積)は、路面モデルの要素の要素サイズよりも小さくする。これにより、後述するステップ120のトレッドパターンモデルの転動計算において、路面の微少な凹凸が考慮された計算結果が得られる。
【0047】
なお、トレッドパターンモデルに対応した路面モデルの要素の要素サイズは、ステップ104で作成したタイヤモデルに対応した路面モデルの要素の要素サイズよりも小さいため、要素数が多くなる。しかしながら、L解析でのみ路面モデルの要素数が多くなるため、計算時間が長大化するのを極力抑えることができると共に、精度よくタイヤ性能を解析することができる。
【0048】
次のステップ118では、上記変形軌跡(ステップ112)に基づく境界条件の設定がなされる。ここでは、上記と同様に、トレッドパターンモデルを対象としたタイヤの挙動をシミュレートする上で必要なものであり、トレッドパターンモデルに付与する各種条件である。例えば、タイヤモデルには内圧を与えたときに相当する上記のベルト変位を定め、タイヤモデルに回転変位及び直進変位(変位は力、速度でも良い)の少なくとも一方と、予め定めた負荷荷重とを与える。より具体的には、ベルトモデルの節点に強制速度(変位でも可)を付与する。
【0049】
次のステップ120では、上記境界条件設定後のトレッドパターンモデルの転動計算を実行する。このステップ120の処理は上記ステップ108の処理とほぼ同様であり、タイヤモデルをトレッドパターンモデルに置き換えた処理である。このステップ120では、タイヤモデルの一部をパターン化したものであるトレッドパターンモデルについて処理をする点で、計算負荷が増大することはない。
【0050】
次のステップ122では、ステップ120のトレッドパターンモデルの転動計算の計算結果を予測結果として出力する。次のステップ124では、予測結果の評価を行う。
【0051】
次に、ステップ126では、上記予測結果の評価から、予測性能が良好であるか否かを判断する。このステップ126の判断は、キーボードによる入力によってなされてもよくまた、上記評価値に、許容範囲を予め定めておき、予測結果の評価値が許容範囲内に存在するときに、予測性能が良好であると判断するようにしてもよい。
【0052】
予測性能の評価の結果、目標性能に対して不十分であるときは、ステップ126で否定され、次のステップ130において設計案を変更(修正)してすなわちトレッドパターンモデルを変更してステップ114へ戻りこれまでの処理(L解析)をやり直す。一方、性能が十分であるときは、ステップ126で肯定され、次のステップ128において、上記ステップ100で設定した設計案のタイヤまたはステップ130で修正した設計案を良好な性能のものとして採用し、本ルーチンを終了する。
【0053】
このようにして、スムースタイヤモデルの結果から、ベルトモデル(トレッドパターンモデルの一部と同じ)の転動軌跡を計算して、トレッドパターンのみが転動される。このため、トレッドパターンモデルに対応する路面モデルに対してトレッドパターンのみを解析するL解析を行う。
【0054】
以上のように、本実施形態では、L解析における路面モデルの要素の要素サイズを、トレッドパターンモデルの要素の要素サイズより小さくすると共に、トレッドパターンモデルの材料を粘弾性の材料で定義する。これにより、トレッドパターンモデルの転動計算において、路面の微少な凹凸が考慮された計算結果が得られ、高精度でタイヤ性能を解析することができると共に、計算時間が長大化するのを抑えることができる。
【0055】
なお、本実施形態では、タイヤモデルのゴム材料の物性を超弾性又は弾性として設定し、トレッドパターンモデルのゴム材料の物性として粘弾性を設定した場合について説明したが、これに限らず、タイヤモデルのゴム材料の物性を粘弾性で設定してもよい。また、タイヤモデルのうちトレッドパターンモデルが貼り付けられる領域のゴム材料の物性を粘弾性で設定し、その他の領域のゴム材料の物性を超弾性又は弾性で設定してもよい。
【0056】
また、本実施形態においては、G解析をスムースタイヤモデルで行う場合について説明したが、これに限らず、G解析をトレッドパターン付きタイヤモデルや簡単なリブパターンが設けられたリブパターンモデルで行うようにしてもよい。例えば、サイプ無しのトレッドパターン付きタイヤモデルでG解析を行い、サイプ付きのトレッドパターンモデルでL解析を行うことができる。
【符号の説明】
【0057】
10 キーボード
12 コンピュータ
14 ディスプレイ
16 マウス
18 ハードディスク
20 タイヤ
22 CD−ROMドライブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤ本体モデル作成手段が、タイヤのタイヤ本体を複数の要素に要素分割したタイヤ本体モデルを作成するステップと、
第1の路面モデル作成手段が、前記タイヤ本体が接触する路面を複数の要素に要素分割したタイヤ本体用路面モデルを作成するステップと、
第1の変形計算手段が、前記タイヤ本体モデルを前記タイヤ本体用路面モデル上で転動させたときの変形計算を実行するステップと、
第2の路面モデル作成手段が、前記タイヤのトレッドパターンが接触する路面を複数の要素に要素分割したトレッドパターン用路面モデルを作成するステップと、
トレッドパターンモデル作成手段が、前記トレッドパターンを前記トレッドパターン用路面モデルの要素のサイズよりも小さいサイズで複数の要素に要素分割すると共に、前記トレッドパターンを構成するゴム材料の物性を粘弾性で設定したトレッドパターンモデルを作成するステップと、
変形軌跡算出手段が、前記変形計算の結果に基づいて、前記タイヤ本体モデルを前記タイヤ本体用路面モデル上で転動させたときの前記トレッドパターンモデルに対応する領域の変形軌跡を算出するステップと、
第2の変形計算手段が、前記変形軌跡を境界条件として前記トレッドパターンモデルを前記トレッドパターン用路面モデル上で転動させた場合の前記トレッドパターンの変形計算を実行するステップと、
を含むタイヤ性能シミュレーション方法。
【請求項2】
前記タイヤ本体を構成するゴム材料の物性を超弾性又は弾性で設定した
請求項1記載のタイヤ性能シミュレーション方法。
【請求項3】
前記タイヤ本体のうち前記トレッドパターンに対応した一部の領域を構成するゴム材料の物性を粘弾性で設定し、その他の領域のゴム材料の物性を超弾性又は弾性で設定した
請求項1記載のタイヤ性能シミュレーション方法。
【請求項4】
タイヤのタイヤ本体を複数の要素に要素分割したタイヤ本体モデルを作成するタイヤ本体モデル作成手段と、
前記タイヤ本体が接触する路面を複数の要素に要素分割したタイヤ本体用路面モデルを作成する第1の路面モデル作成手段と、
前記タイヤ本体モデルを前記タイヤ本体用路面モデル上で転動させたときの変形計算を実行する第1の変形計算手段と、
前記タイヤのトレッドパターンが接触する路面を複数の要素に要素分割したトレッドパターン用路面モデルを作成する第2の路面モデル作成手段と、
前記トレッドパターンを前記トレッドパターン用路面モデルの要素のサイズよりも小さいサイズで複数の要素に要素分割すると共に、前記トレッドパターンを構成するゴム材料の物性を粘弾性で設定したトレッドパターンモデルを作成するトレッドパターンモデル作成手段と、
前記変形計算の結果に基づいて、前記タイヤ本体モデルを前記タイヤ本体用路面モデル上で転動させたときの前記トレッドパターンモデルに対応する領域の変形軌跡を算出する変形軌跡算出手段と、
前記変形軌跡を境界条件として前記トレッドパターンモデルを前記トレッドパターン用路面モデル上で転動させた場合の前記トレッドパターンの変形計算を実行する第2の変形計算手段と、
を含むタイヤ性能シミュレーション装置。
【請求項5】
タイヤのタイヤ本体を複数の要素に要素分割したタイヤ本体モデルを作成するステップと、
前記タイヤ本体が接触する路面を複数の要素に要素分割したタイヤ本体用路面モデルを作成するステップと、
前記タイヤ本体モデルを前記タイヤ本体用路面モデル上で転動させたときの変形計算を実行するステップと、
前記タイヤのトレッドパターンが接触する路面を複数の要素に要素分割したトレッドパターン用路面モデルを作成するステップと、
前記トレッドパターンを前記トレッドパターン用路面モデルの要素のサイズよりも小さいサイズで複数の要素に要素分割すると共に、前記トレッドパターンを構成するゴム材料の物性を粘弾性で設定したトレッドパターンモデルを作成するステップと、
前記変形計算の結果に基づいて、前記タイヤ本体モデルを前記タイヤ本体用路面モデル上で転動させたときの前記トレッドパターンモデルに対応する領域の変形軌跡を算出するステップと、
前記変形軌跡を境界条件として前記トレッドパターンモデルを前記トレッドパターン用路面モデル上で転動させた場合の前記トレッドパターンの変形計算を実行するステップと、
を含む処理をコンピュータに実行させるためのタイヤ性能シミュレーションプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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