説明

タイヤ用ゴム組成物の製造方法

【課題】コンパウンドの高粘度化を抑制し加工性に優れるタイヤ用ゴム組成物の提供。
【解決手段】共役ジエンによる1,2−結合を有する、1種または2種以上のジエン系ゴム100重量部に対して、メルカプト基含有シランカップリング剤0.5〜20重量部およびイミダゾール基を有するイミダゾール化合物0.1〜5.0重量部を混合して、実質的にシリカを含まないマスターバッチを製造するマスターバッチ製造工程と、前記マスターバッチに少なくともシリカを添加して混練する混練工程とを有する、タイヤ用ゴム組成物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はタイヤ用ゴム組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
1992年にグリーンタイヤ技術が導入されて以来、シリカは転がり抵抗低減に必要不可欠なフィラーとなっている。シリカはゴム中で凝集しやすいため、通常、シランカップリング剤が併用される(例えば、特許文献1)。低転がりタイヤ開発においてメルカプト系シランカップリング剤(メルカプトシラン)を配合することにより、従来の硫黄含有シランカップリング剤に比べて大幅にtanδを低減できることが判っている。しかしメルカプトシランは、シリカ分散性を高め、物性を向上させるが、その反応性の高さ故に、コンパウンドの高粘度化に伴う加工性が悪化しやすく加工性が困難である(ゴムのスコーチ性が早い)という問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2008/123306号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで本発明はコンパウンドの高粘度化を抑制し加工性に優れるタイヤ用ゴム組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本願発明者は上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、共役ジエンによる1,2−結合を有する、1種または2種以上のジエン系ゴム100重量部(ジエン系ゴムが2種以上である場合はその合計が100重量部)に対して、メルカプト基含有シランカップリング剤0.5〜20重量部およびイミダゾール基を有するイミダゾール化合物0.1〜5.0重量部を混合して、実質的にシリカを含まないマスターバッチを製造するマスターバッチ製造工程と、前記マスターバッチに少なくともシリカを添加して混練する混練工程とを有する、ゴム組成物の製造方法によれば、コンパウンドの高粘度化を抑制し加工性に優れるタイヤ用ゴム組成物が得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0006】
すなわち、本発明は、下記1〜12を提供する。
1. 共役ジエンによる1,2−結合を有する、1種または2種以上のジエン系ゴム100重量部に対して、メルカプト基含有シランカップリング剤0.5〜20重量部およびイミダゾール基を有するイミダゾール化合物0.1〜5.0重量部を混合して、実質的にシリカを含まないマスターバッチを製造するマスターバッチ製造工程と、
前記マスターバッチに少なくともシリカを添加して混練する混練工程とを有する、タイヤ用ゴム組成物の製造方法。
2. 前記共役ジエンによる1,2−結合の総量が、前記ジエン系ゴム全量中の10〜60重量%である上記1に記載のタイヤ用ゴム組成物の製造方法。
3. 前記ジエン系ゴムが芳香族ビニルと共役ジエンの共重合体を少なくとも含有し、前記共重合体が有する、前記共役ジエンによる1,2−結合の量が前記共重合体中の30〜65重量%である上記1または2に記載のタイヤ用ゴム組成物の製造方法。
4. 前記メルカプト基含有シランカップリング剤が、下記式(1)で表される上記1〜3のいずれかに記載のタイヤ用ゴム組成物の製造方法。
【化1】

[式中、R1、R2およびR3のうちの少なくとも1つまたは全部が−O−(R5−O)m−R6(R5は、炭素数1〜30の2価の炭化水素基であり、R6は炭素数1〜30のアルキル基、炭素数2〜30のアルケニル基、炭素数6〜30のアリール基または炭素数7〜30のアラルキル基であり、mは1〜30の整数であり、R5が複数の場合複数のR5は同じかまたは異なってもよい。)であり、
1、R2およびR3のうちの1つまたは2つが前記−O−(R5−O)m−R6である場合、残りの基を、炭素数1〜12のアルキル基、−O−R7(R7は水素原子、炭素数1〜30のアルキル基、炭素数2〜30のアルケニル基、炭素数6〜30のアリール基、または炭素数7〜30のアラルキル基である。)、水素原子または炭素数6〜30のアリール基とすることができ、
1、R2およびR3は同じかまたは異なってもよく、
4は炭素数1〜30の2価の炭化水素基である。]
5. 前記ジエン系ゴムがさらにポリブタジエンゴム、天然ゴム、ポリイソプレンゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム、およびイソプレン−ブタジエン共重合体ゴムからなる群から選ばれる少なくとも1種の脂肪族系の、共役ジエンのゴムを含有する上記3または4に記載のタイヤ用ゴム組成物の製造方法。
6. 前記脂肪族系の、共役ジエンのゴムの量が、前記共重合体100重量部に対して、90重量部以下(0〜90重量部)である上記5に記載のタイヤ用ゴム組成物の製造方法。
7. 前記脂肪族系の、共役ジエンのゴムが有する、前記共役ジエンによる1,2−結合の量が前記脂肪族系の、共役ジエンのゴム中の0〜20重量%である上記5または6に記載のタイヤ用ゴム組成物の製造方法。
8. さらにカーボンブラックを含有し、前記カーボンブラックの量が前記ジエン系ゴム100重量部に対して5〜25重量部である上記1〜7のいずれかに記載のタイヤ用ゴム組成物の製造方法。
9. 前記マスターバッチ製造工程において前記混合は密閉式ミキサーを用いて行われる上記1〜8のいずれかに記載のタイヤ用ゴム組成物の製造方法。
10. 前記イミダゾール化合物がベンズイミダゾール系化合物である上記1〜9のいずれかに記載のタイヤ用ゴム組成物の製造方法。
11. 前記マスターバッチ製造工程において前記シリカの量が前記マスターバッチ全量中の0重量%以上15重量%以下である上記1〜10のいずれかに記載のタイヤ用ゴム組成物の製造方法。
12. 前記混練工程後に得られる前記タイヤ用ゴム組成物に含有される全シリカの量が、前記ジエン系ゴム100重量部に対して、20〜120重量部である上記1〜11のいずれかに記載のタイヤ用ゴム組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明のタイヤ用ゴム組成物の製造方法によれば、コンパウンドの高粘度化を抑制し加工性に優れるタイヤ用ゴム組成物を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明について以下詳細に説明する。
本発明のタイヤ用ゴム組成物の製造方法(本発明の製造方法)は、共役ジエンによる1,2−結合を有する、1種または2種以上のジエン系ゴム100重量部に対して、メルカプト基含有シランカップリング剤0.5〜20重量部およびイミダゾール基を有するイミダゾール化合物0.1〜5.0重量部を混合して、実質的にシリカを含まないマスターバッチを製造するマスターバッチ製造工程と、前記マスターバッチに少なくともシリカを添加して混練する混練工程とを有する。
【0009】
本発明において、マスターバッチ製造工程で得られるマスターバッチは、共役ジエンによる1,2−結合を有する、1種または2種以上のジエン系ゴム、メルカプト基含有シランカップリング剤およびイミダゾール化合物を含み、実質的にシリカを含まない。これによって、マスターバッチ製造工程においてメルカプト基含有シランカップリング剤はジエン系ゴム中のビニル基と反応することができ、メルカプト基含有シランカップリング剤によって変性されたジエン系ゴムを得ることができる。
このときイミダゾール化合物はジエン系ゴムに生じるラジカルをキャップしたり、メルカプト基含有シランカップリング剤から生じる過剰なラジカルを補足したりする、いわゆるラジカルスカベンジャーとして機能し、このようなイミダゾール化合物の作用(具体的にはジエン系ゴム間の連鎖移動による架橋を抑制)がメルカプト基含有シランカップリング剤とジエン系ゴムとの反応を制御(メルカプト基含有シランカップリング剤はジエン系ゴム中の、共役ジエンの1,2−結合によって生じるビニル基と反応)することによって、マスターバッチおよびこれを含有するゴム組成物の高粘度化を抑制すると本願発明者は推測する。また、メルカプト基含有シランカップリング剤によって変性されたジエン系ゴムは混練工程において添加されるシランを系内に効果的に分散させることができる。なお上記メカニズムは本願発明者の推測であり、上記メカニズム以外のものであっても本発明の範囲内である。
【0010】
マスターバッチ製造工程について以下に説明する。マスターバッチ製造工程においてマスターバッチを製造する。得られるマスターバッチは、共役ジエンによる1,2−結合を有する、1種または2種以上のジエン系ゴム100重量部に対して、メルカプト基含有シランカップリング剤0.5〜20重量部およびイミダゾール基を有するイミダゾール化合物0.1〜5.0重量部を含み、実質的にシリカを含まない。
【0011】
マスターバッチを製造する際に使用されるジエン系ゴムは、共役ジエンによる1,2−結合を有する。本発明においてジエン系ゴムはそれぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができ、ジエン系ゴムはすなわち1種または2種以上のジエン系ゴムである。
本発明において、ジエン系ゴムは、コンパウンドの高粘度化を抑制しムーニースコーチ時間の長さが適切なものとなり加工性に優れ、ペイン効果を低減または抑制して、反発弾性に優れるという観点から、共役ジエンによる1,2−結合を有する。
本発明の製造方法において使用することができる各ジエン系ゴムが有する共役ジエンによる1,2−結合の量(共役ジエン中の1,2−結合)は、コンパウンドの高粘度化をより抑制しムーニースコーチ時間の長さが適切なものとなり加工性により優れ、ペイン効果を低減または抑制して、反発弾性に優れるという観点から、各ジエン系ゴム中の65重量%以下とすることができる。
また、本発明の製造方法において使用するジエン系ゴム全体が有する、共役ジエンによる1,2−結合の総量は、コンパウンドの高粘度化をより抑制しムーニースコーチ時間の長さが適切なものとなり加工性により優れ、ペイン効果を低減または抑制して、反発弾性に優れるという観点から、前記ジエン系ゴム全量中の10〜60重量%であるのが好ましく、15〜55重量%であるのがより好ましい。
【0012】
ジエン系ゴムは、共役ジエンを少なくとも含むモノマーから得られるゴムであれば特に制限されず単独重合体、共重合体のいずれであってもよい。共役ジエンとしては、例えば、ブタジエン、イソプレン、クロロプレンが挙げられる。モノマーは共役ジエン以外に共役ジエンと重合可能なビニル系モノマー(例えばスチレン、アクリロニトリル等)、非共役ジエンを含むことができる。ジエン系ゴムはその製造について特に制限されず例えば従来公知のものが挙げられる。
ジエン系ゴムとしては、例えば、天然ゴム(NR)、ポリイソプレンゴム(IR)、ポリブタジエンゴム(BR)、アクリロニトリルブタジエンゴム、イソプレン−ブタジエン共重合体ゴム、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体ゴムのような脂肪族系の共役ジエンのゴム;スチレン−ブタジエン共重合体ゴム(SBR)、スチレン−イソプレン共重合体ゴム、スチレン−ブタジエン−イソプレン共重合体(SBIR)のような芳香族ビニルと共役ジエンの共重合体などが挙げられる。なかでも、コンパウンドの高粘度化をより抑制しムーニースコーチ時間の長さが適切なものとなり加工性により優れ、ペイン効果(高歪み域の動的弾性率が低歪み域の動的弾性率よりも低くなるという現象)を低減または抑制して、反発弾性に優れるという観点から、芳香族ビニルと共役ジエンの共重合体、脂肪族系の、共役ジエンのゴムであるのが好ましく、芳香族ビニルと共役ジエンの共重合体(例えばSBR、スチレン−イソプレン共重合体ゴム、スチレン−ブタジエン−イソプレン共重合体(SBIR)からなる群から選ばれる少なくとも1種)および/または脂肪族系の、共役ジエンのゴム(例えばポリブタジエンゴム(BR)、天然ゴム(NR)、ポリイソプレンゴム(IR)、アクリロニトリルブタジエンゴム、およびイソプレン−ブタジエン共重合体ゴムからなる群から選ばれる少なくとも1種の脂肪族系の、共役ジエンのゴム)であるのがより好ましい。
【0013】
芳香族ビニルと共役ジエンの共重合体が有する、共役ジエンによる1,2−結合の量(ビニル結合量、共役ジエン中の1,2−結合)は、コンパウンドの高粘度化をより抑制しムーニースコーチ時間の長さが適切なものとなり加工性により優れ、ペイン効果を低減または抑制して、反発弾性に優れるという観点から、芳香族ビニルと共役ジエンの共重合体中の30〜65重量%であるのが好ましく、40〜65重量%であるのが好ましく、42〜60重量%であるのがより好ましい。
芳香族ビニルと共役ジエンの共重合体が有する芳香族ビニル量は、コンパウンドの高粘度化をより抑制しムーニースコーチ時間の長さが適切なものとなり加工性により優れ、ペイン効果を低減または抑制して、反発弾性に優れるという観点から、ジエン系ゴム(芳香族ビニルと共役ジエンの共重合体)中の5〜60重量%であるのが好ましく、10〜55重量%であるのがより好ましい。
【0014】
脂肪族系の、共役ジエンのゴムが有する、共役ジエンによる1,2−結合の量は脂肪族系の、共役ジエンのゴム中の20重量%以下(0〜20重量%)とすることができ、コンパウンドの高粘度化をより抑制しムーニースコーチ時間の長さが適切なものとなり加工性により優れ、ペイン効果を低減または抑制して、反発弾性に優れるという観点から、15重量%以下であるのが好ましい。脂肪族系の、共役ジエンのゴムが有する、共役ジエンによる1,2−結合の量は脂肪族系の、共役ジエンのゴム中の5重量%以上とすることができる。
【0015】
ジエン系ゴムが芳香族ビニルと共役ジエンの共重合体と、さらに脂肪族系の、共役ジエンのゴムとを含有する場合、脂肪族系の、共役ジエンのゴムの量は、コンパウンドの高粘度化をより抑制しムーニースコーチ時間の長さが適切なものとなり加工性により優れ、ペイン効果を低減または抑制して、反発弾性に優れるという観点から、共重合体100重量部に対して、90重量部以下(0重量部または90重量部以下)であるのが好ましく、10〜80重量部であるのがより好ましい。
【0016】
マスターバッチを製造する際に使用されるメルカプト基含有シランカップリング剤は、メルカプト基(−SH)を有するシランカップリング剤であれば特に制限されない。なかでも、コンパウンドの高粘度化をより抑制しムーニースコーチ時間の長さが適切なものとなり加工性により優れ、ペイン効果を低減または抑制して、反発弾性に優れるという観点から下記式(1)で表される化合物が好ましい。
【化2】

[式中、R1、R2およびR3のうちの少なくとも1つまたは全部が−O−(R5−O)m−R6であり(R5は、炭素数1〜30の2価の炭化水素基であり、R6は炭素数1〜30のアルキル基、炭素数2〜30のアルケニル基、炭素数6〜30のアリール基または炭素数7〜30のアラルキル基であり、mは1〜30の整数であり、R5が複数の場合複数のR5は同じかまたは異なってもよい。)、
1、R2およびR3のうちの1つまたは2つが前記−O−(R5−O)m−R6である場合、残りの基を、炭素数1〜12のアルキル基、−O−R7(R7は水素原子、炭素数1〜30のアルキル基、炭素数2〜30のアルケニル基、炭素数6〜30のアリール基、炭素数7〜30のアラルキル基である。)、水素原子または炭素数6〜30のアリール基とすることができ、
1、R2およびR3は同じかまたは異なってもよく、
4は炭素数1〜30の2価の炭化水素基である。]
【0017】
4、R5で表される、炭素数1〜30の2価の炭化水素基としては、例えば、アルキレン基(例えばメチレン基、ジメチレン基、トリメチレン基)のような脂肪族炭化水素基;芳香族炭化水素基;これらの組み合わせが挙げられる。
6、R7で表される、炭素数1〜30のアルキル基、炭素数2〜30のアルケニル基、炭素数6〜30のアリール基、炭素数7〜30のアラルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基のようなアルキル基;ビニル基、アリル基のようなアルケニル基;フェニル基、トリル基のようなアリール基;ベンジル基、フェネチル基のようなアラルキル基が挙げられる。
mは、1〜30の整数であるのが好ましい。
1、R2およびR3のうちの1つまたは2つが前記−O−(R5−O)m−R6である場合、残りの基としての、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数6〜30のアリール基としては、例えば、メチル基、エチル基のようなアルキル基;フェニル基、トリル基のようなアリール基が挙げられる。
【0018】
式(1)で表される化合物(メルカプト基含有シランカップリング剤)は、コンパウンドの高粘度化をより抑制しムーニースコーチ時間の長さが適切なものとなり加工性により優れ、ペイン効果を低減または抑制して、反発弾性に優れるという観点から、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、デグザ社の商品名「VP Si363」が好ましい。VP Si363は下記式(3)で表される。
【化3】

式(3)中、R1、R2およびR3は−O−(C24−O)n−C1327と−O−C25であり、−O−C25が有する−C25の平均含有量は33%以下であり、nの平均数は5である。
メルカプト基含有シランカップリング剤はそれぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
本発明においてメルカプト基含有シランカップリング剤の量はコンパウンドの高粘度化を抑制しムーニースコーチ時間の長さが適切なものとなり加工性に優れ、ペイン効果を低減または抑制して、反発弾性に優れるという観点から、ジエン系ゴム100重量部に対して0.5〜20重量部であり、同様の理由から、ジエン系ゴム100重量部に対して、1.0〜15重量部であるのが好ましく、4〜12重量部であるのがより好ましい。
【0019】
マスターバッチを製造する際に使用されるイミダゾール化合物はイミダゾール基を有する化合物である。イミダゾール化合物はコンパウンドの高粘度化をより抑制しムーニースコーチ時間の長さが適切なものとなり加工性により優れ、ペイン効果を低減または抑制して、反発弾性に優れるという観点から、下記式(2)で表される化合物であるのが好ましい。
【化4】


式中、R1は水素原子、有機基またはメルカプト基のような官能基であり、R2〜R4はそれぞれ水素原子または有機基であり、R1〜R4の2つ以上が結合して環を形成することができる。有機基としては、脂肪族炭化水素基(直鎖、分岐、環状を含む。不飽和結合を有することができる。)、芳香族炭化水素基、これらの組み合わせが挙げられる。
イミダゾール化合物はコンパウンドの高粘度化をより抑制しムーニースコーチ時間の長さが適切なものとなり加工性により優れ、ペイン効果を低減または抑制して、反発弾性に優れるという観点から、ベンズイミダゾール系化合物であるのが好ましく、2−メルカプトベンズイミダゾールおよびその亜鉛塩誘導体が好ましい。イミダゾール化合物はそれぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
本発明において、イミダゾール化合物の量は、コンパウンドの高粘度化を抑制し加工性に優れ、ペイン効果を低減または抑制して、反発弾性に優れるという観点から、ジエン系ゴム100重量部に対して0.1〜5.0重量部であり、同様の理由から、ジエン系ゴム100重量部に対して、0.3〜4.0重量部であるのが好ましく、0.5〜2.5重量部であるのがより好ましい。
【0020】
マスターバッチまたはタイヤ用ゴム組成物はコンパウンドの高粘度化をより抑制しムーニースコーチ時間の長さが適切なものとなり加工性により優れ、ペイン効果を低減または抑制して、反発弾性に優れるという観点から、さらにカーボンブラックを含有するのが好ましい。
マスターバッチまたはタイヤ用ゴム組成物がさらに含有することができるカーボンブラックは特に制限されない。例えば、FEF、SRF、HAF、ISAF、SAFグレードのもの等が挙げられる。カーボンブラックは、コンパウンドの高粘度化をより抑制しムーニースコーチ時間の長さが適切なものとなり加工性により優れ、ペイン効果を低減または抑制して、反発弾性に優れるという観点から、HAF、ISAF、SAFグレードのものが好ましい。カーボンブラックはそれぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
マスターバッチに含有されるカーボンブラックの量は、コンパウンドの高粘度化をより抑制し加工性により優れ、ペイン効果を低減または抑制して、反発弾性に優れるという観点から、ジエン系ゴム100重量部に対して5〜25重量部であるのが好ましく、10〜20重量部であるのがより好ましい。
【0021】
本発明においてマスターバッチは実質的にシリカを含まない。本発明においてマスターバッチが実質的にシリカを含まないとは、シリカの量がマスターバッチ全量中の0重量%以上15重量%以下であることを意味する。シリカの量はマスターバッチ全量中の0重量%以上10重量%以下であるのが好ましく、0重量%以上5重量%以下であるのがより好ましい。本発明ではマスターバッチ製造工程においてシリカを使用しないことによってメルカプト基含有シランカップリング剤はシリカとのシラニゼーションを回避しジエン系ゴムと反応することができる。マスターバッチ製造工程において上記の範囲で使用してもよいシリカは特に制限されず具体的には下記に示すものと同様のものが挙げられる。
【0022】
マスターバッチ製造工程において混合はコンパウンドの高粘度化をより抑制し加工性により優れ、ペイン効果を低減または抑制して、反発弾性に優れるという観点から、密閉式ミキサーを用いて行われるのが好ましい態様の1つとして挙げられる。
【0023】
混練工程について以下に説明する。混練工程(第2工程)はマスターバッチに少なくともシリカを添加して混練する工程である。
混練工程において使用されるシリカは特に制限されない。例えば、湿式シリカ(含水ケイ酸)、乾式シリカ(無水ケイ酸)、ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム等が挙げられる。なかでも、コンパウンドの高粘度化をより抑制しムーニースコーチ時間の長さが適切なものとなり加工性により優れ、ペイン効果を低減または抑制して、反発弾性に優れるという観点から、沈降シリカが好ましい。シリカはそれぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
混練工程において使用するシリカの量または混練工程後に得られるタイヤ用ゴム組成物が含有することができる全シリカの量はコンパウンドの高粘度化をより抑制しムーニースコーチ時間の長さが適切なものとなり加工性により優れ、ペイン効果を低減または抑制して、反発弾性に優れるという観点から、ジエン系ゴム100重量部に対して、20〜120重量部であるのが好ましく、30〜100重量部であるのがより好ましい。
【0024】
混練工程においてコンパウンドの高粘度化をより抑制しムーニースコーチ時間の長さが適切なものとなり加工性により優れ、ペイン効果を低減または抑制して、反発弾性に優れるという観点から、さらにカーボンブラックを使用するのが好ましい態様の1つとして挙げられる。混練工程おいて使用することができるカーボンブラックは特に制限されない。上記と同様である。
本発明の製造方法によって得られるタイヤゴム組成物が含有することができる全カーボンブラックの量は、コンパウンドの高粘度化を抑制し加工性に優れ、ペイン効果を低減または抑制して、反発弾性に優れるという観点から、ジエン系ゴム100重量部に対して5〜25重量部であるのが好ましく、10〜20重量部であるのがより好ましい。
【0025】
混練工程においてシリカ、カーボンブラック以外の添加剤を添加することができる。添加剤としては例えば、シリカおよびカーボンブラック以外の充填剤、ステアリン酸、老化防止剤、酸化亜鉛、プロセスオイル、酸化防止剤、ワックス、オゾン劣化防止剤が挙げられる。なお添加材はマスターバッチ製造工程において添加することができる。
混練工程において、マスターバッチとシリカと必要に応じて使用することができる、カーボンブラック、添加剤とを、例えば、密閉式ミキサー、ロール、インターナルミキサー等の混練り機を用いて混練しコンパウンドを製造することができる。
【0026】
本発明の製造方法は混練工程(第2工程)後系内にさらに加硫剤、加硫促進剤を添加する第3工程を有することができる。加硫剤、加硫促進剤を混練工程において添加する場合は第3工程は省略できる。第3工程において使用される、加硫剤、加硫促進剤は特に制限されない。加硫剤としては例えば硫黄等が挙げられる。加硫剤の量は、ジエン系ゴム100重量部に対して硫黄分として0.1〜3.0重量部であるのが好ましい。
加硫促進剤としては例えば、2−メルカプトベンゾチアゾール(M)、ジベンゾチアジルジスルフィド(DM)、N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアジルスルフェンアミド(CZ)、N−t−ブチル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(NS)等のチアゾール系加硫促進剤、ジフェニルグアニジン(DPG)等のグアニジン系加硫促進剤等が挙げられる。加硫促進剤の量は、ジエン系ゴム100重量部に対して0.1〜5重量部であるのが好ましい。加硫促進剤はそれぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
本発明の製造方法によって得られるゴム組成物を加硫する条件は特に制限されない。
本発明の製造方法によって得られるゴム組成物の用途としては例えばタイヤ、防振ゴム、ベルト、ホース、その他の工業製品等が挙げられる。
【実施例】
【0027】
以下に、実施例を示して本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらに限定されない。
<評価>
下記のようにして得られたゴム組成物について、粘度、ペイン効果、反発弾性、ムーニースコーチを以下の方法で評価した。結果を第1表に示す。
・第2工程後の粘度(ムーニー粘度)
JlS K6300に基づき、ムーニー粘度計にてL型ロータを使用し、予熱時間1分、ロータの回転時間4分、温度100℃、2rpmの条件で、第2工程後のゴム組成物の粘度を測定した。粘度の数字は比較例1を基準とする指数であり、指数が100未満であるのが好ましく、指数が小さいものほど加工性に優れる。つまり、ジエン系ゴム同士の架橋が抑制され、ジエン系ゴムがメルカプト基含有シランカップリング剤によって変性されていることを示す。
・ペイン効果
第3工程後のゴム組成物(未加硫ゴム)を160℃、20分間加硫し、得られた加硫ゴムを用いて、ASTM D6204に準拠してRPA2000(α−テクノロジー社製歪せん断応力測定機)で、歪0.56%の歪せん断応力G′(0.56%)と、歪100%の歪せん断応力G′(100%)を測定し、G′(0.56%)とG′(100%)の差(絶対値)を算出した。ペイン効果の数字は比較例1を基準とする指数であり、指数が100未満であるのが好ましく、指数が小さいほどペイン効果の低減または抑制が良好なこと(シランの分散性が良好であること)を示す。
・反発弾性
第3工程後のゴム組成物(未加硫ゴム)を160℃、20分間加硫し、得られた加硫ゴムを用いて、JIS K 6255に準じて、温度40℃のときの反発弾性を測定した。反発弾性の数字は比較例1を基準とする指数であり、指数が大きいほど反発弾性が大きい(tanδが低い)ことを意味する。
・ムーニースコーチ
第3工程後のゴム組成物を用いてJlS K6300に基づき125℃にて粘度が5ポイント上昇する時間を測定した。ムーニースコーチの数字は比較例1を基準とする指数であり、指数が高いほどスコーチ性に優れることを意味する。
【0028】
<タイヤ用ゴム組成物の製造方法>
第1表に示す工程において、同表に示す成分を同表に示す量(単位:重量部)で用いた。まず、マスターバッチ製造工程(マスターバッチ練り段階)において同表に示す、マスターバッチ製造工程において使用される成分を混合してマスターバッチを製造し、次いで混練工程において、得られたマスターバッチと同表に示す、混練工程において使用される成分とを混練し、次いでこれに第3工程において同表に示す成分を加えて、タイヤ用ゴム組成物を製造した。
【0029】
【表1】

【0030】
第1表に示されている各成分は、以下のとおりである。
・SBR1(HP755):SBR、JSR社製HP755、SBR中の共役ジエンによる1,2−結合41重量%、SBR中の芳香族ビニル量31重量%
・SBR2(Nipol1739 E−SBR):乳化重合法によるSBR、日本ゼオン社製Nipol1739、SBR中の共役ジエンによる1,2−結合14重量%、SBR中の芳香族ビニル量11重量%
・SBR3(VSL5025):SBR、ランクセス社製VSL−5025−HM1、SBR中の共役ジエンによる1,2−結合72重量%、SBR中の芳香族ビニル量54重量%
・BR:日本ゼオン社製 Nipol1220、BR中の共役ジエン中による1,2−結合1重量%
・カーボンブラック:東海カーボン社製、「シースト6」、HAFグレード
・シリカ:高分散沈降シリカ、ローディア社製、「Zeosil 1165MP」
・シランカップリング剤1:3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、信越化学社製KBM−803
・シランカップリング剤2:ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、デグッサ社製Si69
・シランカップリング剤3:デグッサ社製Si363
・イミダゾール1:2−メルカプトベンズイミダゾール、大内新興社製ノクラックMB
・ステアリン酸:日本油脂製、「ビーズステアリン酸」
・老化防止剤:フレキシス製、「6PPD」
・亜鉛華:酸化亜鉛、正同化学工業(株)製、「酸化亜鉛3種」
・プロセスオイル:昭和シェル石油社製、「エキストラクト4号S」
・油処理硫黄:鶴見化学工業社製、「金華印油入微粉硫黄」
・加硫促進剤1:大内新興化学工業製、「ノクセラーCZ−G」
・加硫促進剤2:三新化学工業製加硫促進剤サンセラーD−G
なお、BR、カーボンブラック、シリカ、シランカップリング剤1〜3、イミダゾール1はマスターバッチ練り段階、第2工程において共通する。
【0031】
第1表に示す結果から明らかなように、マスターバッチ製造工程を有さない比較例2は、スルフィド系シランカップリング剤を含有しイミダゾール化合物を含有しない比較例1と比較してコンパウンドが高粘度化してしまいムーニースコーチ時間が短く加工性が低かった。マスターバッチ製造工程を有さない比較例3は比較例1と比較してコンパウンドが高粘度化してしまい加工性が低かった。マスターバッチ製造工程においてシリカを含有する比較例4はコンパウンドが高粘度化してしまい加工性が低かった。ジエン系ゴム100重量部に対してイミダゾール化合物の量が5.0重量部を超える比較例5は、粘度、反発弾性に改善は見られなかった。マスターバッチがジエン系ゴム100重量部に対してメルカプト基含有シランカップリング剤を20重量部を超えて含む比較例6はムーニースコーチ時間が短く加工性が低かった。
これらに対して実施例1〜6はコンパウンドの高粘度化を抑制しムーニースコーチ時間が適切な長さとなり加工性に優れペイン効果を低減または抑制して反発弾性に優れる。
このように本発明の製造方法によれば、マスターバッチがメルカプト基含有シランカップリング剤を含有しシリカを実質的に含有しないことによって、tanδ低減効果を維持(反発弾性に優れ、タイヤの転がり抵抗が低い。)しながら、コンパウンドの高粘度化を抑制しムーニースコーチ時間が適切な長さとなり加工性に優れ、ペイン効果の低減または抑制に優れる、タイヤ用ゴム組成物を得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
共役ジエンによる1,2−結合を有する、1種または2種以上のジエン系ゴム100重量部に対して、メルカプト基含有シランカップリング剤0.5〜20重量部およびイミダゾール基を有するイミダゾール化合物0.1〜5.0重量部を混合して、実質的にシリカを含まないマスターバッチを製造するマスターバッチ製造工程と、
前記マスターバッチに少なくともシリカを添加して混練する混練工程とを有する、タイヤ用ゴム組成物の製造方法。
【請求項2】
前記共役ジエンによる1,2−結合の総量が、前記ジエン系ゴム全量中の10〜60重量%である請求項1に記載のタイヤ用ゴム組成物の製造方法。
【請求項3】
前記ジエン系ゴムが芳香族ビニルと共役ジエンの共重合体を少なくとも含有し、前記共重合体が有する、前記共役ジエンによる1,2−結合の量が前記共重合体中の30〜65重量%である請求項1または2に記載のタイヤ用ゴム組成物の製造方法。
【請求項4】
前記メルカプト基含有シランカップリング剤が、下記式(1)で表される請求項1〜3のいずれかに記載のタイヤ用ゴム組成物の製造方法。
【化1】

[式中、R1、R2およびR3のうちの少なくとも1つまたは全部が−O−(R5−O)m−R6(R5は、炭素数1〜30の2価の炭化水素基であり、R6は炭素数1〜30のアルキル基、炭素数2〜30のアルケニル基、炭素数6〜30のアリール基または炭素数7〜30のアラルキル基であり、mは1〜30の整数であり、R5が複数の場合複数のR5は同じかまたは異なってもよい。)であり、
1、R2およびR3のうちの1つまたは2つが前記−O−(R5−O)m−R6である場合、残りの基を、炭素数1〜12のアルキル基、−O−R7(R7は水素原子、炭素数1〜30のアルキル基、炭素数2〜30のアルケニル基、炭素数6〜30のアリール基、または炭素数7〜30のアラルキル基である。)、水素原子または炭素数6〜30のアリール基とすることができ、
1、R2およびR3は同じかまたは異なってもよく、
4は炭素数1〜30の2価の炭化水素基である。]
【請求項5】
前記ジエン系ゴムがさらにポリブタジエンゴム、天然ゴム、ポリイソプレンゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム、およびイソプレン−ブタジエン共重合体ゴムからなる群から選ばれる少なくとも1種の脂肪族系の、共役ジエンのゴムを含有する請求項3または4に記載のタイヤ用ゴム組成物の製造方法。
【請求項6】
前記脂肪族系の、共役ジエンのゴムの量が、前記共重合体100重量部に対して、90重量部以下である請求項5に記載のタイヤ用ゴム組成物の製造方法。
【請求項7】
前記脂肪族系の、共役ジエンのゴムが有する、前記共役ジエンによる1,2−結合の量が前記脂肪族系の、共役ジエンのゴム中の0〜20重量%である請求項5または6に記載のタイヤ用ゴム組成物の製造方法。
【請求項8】
さらにカーボンブラックを含有し、前記カーボンブラックの量が前記ジエン系ゴム100重量部に対して5〜25重量部である請求項1〜7のいずれかに記載のタイヤ用ゴム組成物の製造方法。
【請求項9】
前記マスターバッチ製造工程において前記混合は密閉式ミキサーを用いて行われる請求項1〜8のいずれかに記載のタイヤ用ゴム組成物の製造方法。
【請求項10】
前記イミダゾール化合物がベンズイミダゾール系化合物である請求項1〜9のいずれかに記載のタイヤ用ゴム組成物の製造方法。
【請求項11】
前記マスターバッチ製造工程において前記シリカの量が前記マスターバッチ全量中の0重量%以上15重量%以下である請求項1〜10のいずれかに記載のタイヤ用ゴム組成物の製造方法。
【請求項12】
前記混練工程後に得られる前記タイヤ用ゴム組成物に含有される全シリカの量が、前記ジエン系ゴム100重量部に対して、20〜120重量部である請求項1〜11のいずれかに記載のタイヤ用ゴム組成物の製造方法。

【公開番号】特開2012−153865(P2012−153865A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−16910(P2011−16910)
【出願日】平成23年1月28日(2011.1.28)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】