説明

タイヤ用ゴム組成物及び空気入りタイヤ

【課題】良好な加硫速度を得ながら、加工性、操縦安定性、低燃費性及び破断強度をバランスよく改善できるタイヤ用ゴム組成物、及びこれを用いた空気入りタイヤを提供する。
【解決手段】イソプレン系ゴムと、下記式(1)で表される化合物とを含み、ゴム成分100質量%中の前記イソプレン系ゴムの含有量が70質量%以上であり、
前記ゴム成分100質量部に対して、前記式(1)で表される化合物の含有量が0.5〜6質量部であるタイヤ用ゴム組成物に関する。
また、アルキルフェノール・塩化硫黄縮合物と、下記式(1)で表される化合物とを含み、ゴム成分100質量部に対して、前記アルキルフェノール・塩化硫黄縮合物の含有量が0.4〜6質量部、前記式(1)で表される化合物の含有量が0.5〜6質量部であるタイヤ用ゴム組成物に関する。
[化1]


(式中、Rは炭素数2〜16のアルキル基を表す。Rは炭素数3〜16のアルキル基、ベンゾチアゾリルスルフィド基又はシクロアルキル基を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤ用ゴム組成物及びこれを用いた空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
トレッドやインナーライナー、サイドウォールなどのタイヤ部材には一般に天然ゴムやカーボンブラックが配合されるが、これらの材料はスコーチしやすいため多量に配合した場合、製造工程でのゴム焼けが生じやすい。また、これらのタイヤ部材にはアルキルフェノール・塩化硫黄縮合物が使用されることがあるが、これもスコーチしやすく、ゴム焼けが問題となる。
【0003】
ゴム焼けを防止する方法としては、140℃以下で混練する方法、ゴム押出し時の温度を120℃以下にする方法などがあるが、フィラー分散性や生産性が悪化してしまう。
【0004】
また、ヒドロキシ基を有する湿式シリカを添加することや、硫黄を減量することでも加硫速度を遅らせゴム焼けを防止できるが、耐摩耗性、硬度(操縦安定性)、破断強度などが低下してしまう場合がある。また、加硫促進剤としてDCBSを添加する方法もあるが、DCBSは第1種監視化学物質に指定されており、環境面などから好ましくない。
【0005】
他に加硫速度を遅らせる方法として、PVIなどの加硫遅延剤を添加する方法が知られているが、0.5部以上用いると、ゴム加工中や加硫後にブルーム析出してしまう場合がある。また、原材料の性質にバラツキがある場合や酷暑時期などのゴム焼けが発生しやすい状況下において、通常、PVIの添加は製造現場の判断で行われる。このような事情を考慮すると、各部材の設計中心として、PVI配合量は、ゼロである事が望ましい。
【0006】
特許文献1には、天然ゴムと特定の加硫促進剤などを配合したタイヤコード被覆用ゴム組成物が提案されている。しかし、良好な加硫速度により製造可能で、かつ加工性、操縦安定性、低燃費性及び破断強度をバランスよく改善することも可能な空気入りタイヤを提供するという点については、未だ改善の余地がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−7549号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、前記課題を解決し、良好な加硫速度を得ながら、加工性、操縦安定性、低燃費性及び破断強度をバランスよく改善できるタイヤ用ゴム組成物、及びこれを用いた空気入りタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、イソプレン系ゴムと、下記式(1)で表される化合物とを含み、ゴム成分100質量%中の前記イソプレン系ゴムの含有量が70質量%以上であり、前記ゴム成分100質量部に対して、前記式(1)で表される化合物の含有量が0.5〜6質量部であるタイヤ用ゴム組成物(第1のゴム組成物)に関する。
【化1】

(式中、Rは炭素数2〜16のアルキル基を表す。Rは炭素数3〜16のアルキル基、ベンゾチアゾリルスルフィド基又はシクロアルキル基を表す。)
【0010】
本発明は、アルキルフェノール・塩化硫黄縮合物と、下記式(1)で表される化合物とを含み、ゴム成分100質量部に対して、前記アルキルフェノール・塩化硫黄縮合物の含有量が0.4〜6質量部、前記式(1)で表される化合物の含有量が0.5〜6質量部であるタイヤ用ゴム組成物(第2のゴム組成物)に関する。
【化2】

(式中、Rは炭素数2〜16のアルキル基を表す。Rは炭素数3〜16のアルキル基、ベンゾチアゾリルスルフィド基又はシクロアルキル基を表す。)
【0011】
第1、第2のゴム組成物において、硫黄と、グアニジン系加硫促進剤及び/又はN,N’−ジシクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミドとを含み、前記ゴム成分100質量部に対して、前記硫黄の含有量が0.7〜3質量部、前記グアニジン系加硫促進剤及び前記N,N’−ジシクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミドの合計含有量が0.7質量部以下であることが好ましい。
【0012】
第1、第2のゴム組成物において、前記ゴム成分100質量部に対して、カーボンブラックの含有量が30〜80質量部、湿式法シリカの含有量が20質量部以下、前記式(1)で表される化合物の含有量が1〜4質量部であることが好ましい。
【0013】
第1、第2のゴム組成物において、キュラストメーターを用いて160℃で測定して得られる加硫速度曲線のトルクの最小値をML、最大値をMH、その差(MH−ML)をMEとしたとき、ML+0.1MEに到達する時間t10が2.0〜6.0分であることが好ましい。
【0014】
第1、第2のゴム組成物において、更にクマロンインデン樹脂を含み、トレッド及び/又はサイドウォールに使用されることが好ましい。
第1のゴム組成物において、更にエポキシ化天然ゴムを含み、インナーライナーに使用されることが好ましい。
【0015】
本発明はまた、前記ゴム組成物を用いて作製したトレッド、インナーライナー、サイドウォール、クリンチ、ベーストレッド又はタイガムを有する空気入りタイヤに関する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、イソプレン系ゴム及び/又はアルキルフェノール・塩化硫黄縮合物と、特定の化合物とをそれぞれ所定量含むタイヤ用ゴム組成物であるので、加工性、操縦安定性、低燃費性及び破断強度をバランスよく改善した空気入りタイヤを提供できる。また、タイヤの製造時の加硫速度も良好である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
第1の本発明のタイヤ用ゴム組成物は、イソプレン系ゴムと前記式(1)で表される化合物とを含み、ゴム成分100質量%中の前記イソプレン系ゴムの含有量が特定量以上で、ゴム成分100質量部に対する前記式(1)で表される化合物の含有量も特定量である。また、第2の本発明のタイヤ用ゴム組成物は、アルキルフェノール・塩化硫黄縮合物と前記式(1)で表される化合物とを含み、ゴム成分100質量部に対して、前記アルキルフェノール・塩化硫黄縮合物、前記式(1)で表される化合物のそれぞれの含有量が特定量である。
【0018】
多量のイソプレン系ゴムやアルキルフェノール・塩化硫黄縮合物を配合したゴム組成物では加硫速度が早くゴム焼けが生じやすいが、本発明は、これらのいずれかの成分と特定の加硫促進剤とを併用しているので、タイヤの製造時の加硫速度が良好に得られるだけでなく、加工性、操縦安定性、低燃費性及び破断強度の性能バランスを相乗的に改善できる。また、リバージョンも良好に抑制できる。
【0019】
多量のイソプレン系ゴムを含む第1のゴム組成物は、トレッドやインナーライナーに好適に適用できる。第1のゴム組成物に使用可能なイソプレン系ゴムとしては、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、エポキシ化天然ゴム(ENR)などが挙げられる。なかでも、トレッドに適用する場合、操縦安定性、低燃費性、破断強度が良好に得られるという理由から、NR、IRを使用することが好ましい。インナーライナーに適用する場合、破断強度が良好に得られ、耐空気透過性にも優れているという理由から、ENRを使用することが好ましい。これにより、前記性能バランスを相乗的に改善できる。ENRをインナーライナーに使用することで、NRより空気透過性を向上できる。また、ブチルゴムに比べてtanδも向上でき、これらの性能を相乗的に改善できる。
【0020】
NRとしては特に限定されず、例えば、SIR20、RSS♯3、TSR20、ENR25など、タイヤ工業において一般的なものを使用できる。また、IRとしては特に限定されず、タイヤ工業において一般的なものを使用できる。
【0021】
ENRとしては、市販のENR(ENR25、ENR50(クンプーランガスリー社製)など)を用いてもよいし、天然ゴム(NR)をエポキシ化して用いてもよい。NRをエポキシ化する方法としては特に限定されるものではなく、クロルヒドリン法、直接酸化法、過酸化水素法、アルキルヒドロペルオキシド法、過酸法などの方法を用いて行うことができる。なお、エポキシ化を施すNRとしては、タイヤ工業において一般的なものを使用できる。
【0022】
ENRのエポキシ化率は、好ましくは12モル%以上、より好ましくは20モル%以上である。12モル%未満では、耐リバージョン性が低く、耐空気透過性の改善効果が充分に得られないおそれがある。ENRのエポキシ化率は、好ましくは50モル%以下、より好ましくは30モル%以下である。50モル%を超えると、得られたゴム組成物のゴム強度、低燃費性が充分ではない傾向がある。なお、エポキシ化率とは、エポキシ化前の天然ゴム成分中の炭素間二重結合の全数のうちエポキシ化された数の割合を意味し、例えば、滴定分析や核磁気共鳴(NMR)分析などにより求められる。
【0023】
第1のゴム組成物において、ゴム成分100質量%中のイソプレン系ゴムの含有量は、70質量%以上、好ましくは90質量%以上であり、100質量%であってもよい。イソプレン系ゴム量が多くなるほど、加硫速度の適正化効果やゴム物性の改善効果が効果的に発揮される。なお、第1のゴム組成物がトレッドに適用される場合(特に、厳しい破断強度が要求されるトラック・バス用タイヤのトレッドに適用される場合)、NR及びIRの合計含有量が上記含有量であることが好適で、インナーライナーに適用される場合、ENRの含有量が上記含有量であることが好適である。
【0024】
第1のゴム組成物でイソプレン系ゴムの他に使用できるゴム成分としては特に限定されず、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)、ブチルゴム(IIR)、スチレン−イソプレン−ブタジエン共重合ゴム(SIBR)などが挙げられる。
【0025】
第1のゴム組成物をトレッドに適用する場合、良好な耐摩耗性、加硫速度が得られるという点からBRを使用することが好ましい。ここで、使用できるBRとしては特に限定されないが、トレッドに適用する場合、良好な耐摩耗性、加硫速度、破断伸びが得られるという点から、二重結合部分のシス含量が95モル%以上のBR(ハイシスBR)が好ましい。
【0026】
第1のゴム組成物をトレッドに適用する場合、ゴム成分100質量%中のBRの含有量は、好ましくは10〜30質量%である。上記範囲内であると、本発明の効果が得られ、耐摩耗性も良好に得られる。
【0027】
第1のゴム組成物をインナーライナーに適用する場合、良好な耐空気透過性、耐劣化性が得られるという点からブチル系ゴムを使用することが好ましい。ここで、使用できるブチル系ゴムとしては、例えば、臭素化ブチルゴム(Br−IIR)、塩素化ブチルゴム(Cl−IIR)などのハロゲン化ブチルゴム(X−IIR)、ブチルゴム(IIR)などがあげられる。なかでも、低発熱性の点から、Cl−IIRなどのX−IIRを用いることが好ましい。
【0028】
第1のゴム組成物をインナーライナーに適用する場合、ゴム成分100質量%中のブチル系ゴムの含有量は、好ましくは5質量%以上、より好ましくは20質量%以上である。該含有量は、好ましくは30質量%以下である。上記範囲内であると、低発熱性が良好に得られる。
【0029】
一方、アルキルフェノール・塩化硫黄縮合物を含む第2のゴム組成物は、サイドウォールに好適に適用できる。第2のゴム組成物に使用可能なゴム成分としては特に限定されず、第1のゴム組成物と同様のものを使用できる。なかでも、サイドウォールに適用する場合、加工性、低燃費性、破断強度が良好に得られるという点からはNR、IRなどのイソプレン系ゴムを、良好な耐亀裂成長性、耐摩耗性が得られるという点からはBRを使用することが好ましく、これらを併用することが特に好ましい。これにより、前記性能バランスを相乗的に改善できる。
【0030】
第2のゴム組成物をサイドウォールに適用する場合、ゴム成分100質量%中のイソプレン系ゴムの含有量は、好ましくは10質量%以上、より好ましくは35質量%以上である。10質量%未満であると、充分なゴム強度が得られないおそれがある。該含有量は、好ましくは80質量%以下、より好ましくは65質量%以下である。80質量%を超えると、充分な耐屈曲亀裂成長性が得られない傾向にある。
【0031】
第2のゴム組成物をサイドウォールに適用する場合、BRを使用することが好適であるが、使用するBRとしては、良好な低燃費性などが得られるという点からスズ変性ブタジエンゴム(スズ変性BR)、耐亀裂成長性、耐摩耗性に優れるという点から1,2−シンジオタクチックポリブタジエン結晶を含むブタジエンゴム(SPB含有BR)が好ましく、これらの併用が特に好ましい。これにより、前記の性能バランスを相乗的に改善できる。
【0032】
スズ変性BRとしては特に限定されないが、リチウム開始剤により重合され、スズ原子の含有量が50〜3000ppm、ビニル含量が5〜50質量%、分子量分布が2以下のスズ変性BRが好ましい。
【0033】
スズ変性BRは、リチウム開始剤により1,3−ブタジエンの重合を行った後、スズ化合物を添加することにより得られ、更に該スズ変性BR分子の末端はスズ−炭素結合で結合されていることが好ましい。
【0034】
リチウム開始剤としては、アルキルリチウム、アリールリチウムなどのリチウム系化合物が挙げられる。スズ化合物としては、四塩化スズ、ブチルスズトリクロライドなどが挙げられる。
【0035】
スズ変性BRのスズ原子の含有量は50ppm以上である。50ppm未満では、tanδが増大する傾向がある。また、スズ原子の含有量は3000ppm以下、好ましくは300ppm以下である。3000ppmを超えると、加工性が悪化する傾向がある。
【0036】
スズ変性BRの分子量分布(Mw/Mn)は2以下である。Mw/Mnが2を超えると、tanδが増大する傾向がある。分子量分布の下限は特に限定されないが、1以上であることが好ましい。
なお、本明細書において、重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)(東ソー(株)製GPC−8000シリーズ、検出器:示差屈折計、カラム:東ソー(株)製のTSKGEL SUPERMALTPORE HZ−M)による測定値を基に標準ポリスチレン換算により求めることができる。
【0037】
スズ変性BRのビニル含量は、5質量%以上である。5質量%未満では、スズ変性BRの製造が困難である。該ビニル含量は50質量%以下、好ましくは20質量%以下である。50質量%を超えると、カーボンブラックの分散性が悪く、低燃費性、引張強さが低下する傾向がある。
なお、本明細書において、ビニル含量(1,2−結合ブタジエン単位量)は、赤外吸収スペクトル分析法によって測定できる。
【0038】
第2のゴム組成物をサイドウォールに適用する場合、ゴム成分100質量%中のスズ変性BRの含有量は、好ましくは10質量%以上、より好ましくは15質量%以上である。10質量%未満であると、低燃費性の改善効果が充分に得られないおそれがある。該含有量は、好ましくは60質量%以下、より好ましくは30質量%以下である。60質量%を超えると、加工性、破断伸びが低下する傾向がある。
【0039】
第2のゴム組成物に使用できるSPB含有BRとしては、タイヤ製造における汎用品を使用できるが、前述の性能が良好に得られるという点から、1,2−シンジオタクチックポリブタジエン結晶がブタジエンマトリックスと化学結合し、分散しているものが好ましい。
【0040】
1,2−シンジオタクチックポリブタジエン結晶の融点は、好ましくは180℃以上、より好ましくは190℃以上であり、また、好ましくは220℃以下、より好ましくは210℃以下である。下限未満では、SPB含有BRによる操縦安定性の改善効果が充分に得られないおそれがあり、上限を超えると、加工性が悪化する傾向がある。
【0041】
SPB含有BR中において、1,2−シンジオタクチックポリブタジエン結晶の含有量(沸騰n−ヘキサン不溶物の含有量)は、好ましくは2.5質量%以上、より好ましくは10質量%以上である。2.5質量%未満では、補強効果(E)が充分でないおそれがある。該含有量は好ましくは20質量%以下、より好ましくは18質量%以下である。20質量%を超えると、加工性が悪化する傾向がある。
【0042】
第2のゴム組成物をサイドウォールに適用する場合、ゴム成分100質量%中のSPB含有BRの含有量は、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上である。10質量%未満であると、耐亀裂成長性、耐摩耗性、押出し加工性が充分に得られないおそれがある。該含有量は、好ましくは60質量%以下、より好ましくは30質量%以下である。60質量%を超えると、充分な低燃費性が得られないおそれがある。
【0043】
第2のゴム組成物をサイドウォールに適用する場合、ゴム成分100質量%中のBRの含有量(スズ変性BR、SPB含有BRなどのBRの合計含有量)は、好ましくは20質量%以上、より好ましくは40質量%以上である。該含有量は、好ましくは80質量%以下、より好ましくは60質量%以下である。上記範囲内であると、耐亀裂成長性、耐摩耗性、加工性、低燃費性、破断強度が良好に得られる。
【0044】
第2のゴム組成物に使用されるアルキルフェノール・塩化硫黄縮合物としては特に限定されないが、低発熱性、硬度などが良好に得られ、リバージョンを抑制できるという点から、下記式(2)で表される化合物が好ましい。
【化3】

(式中、R、R及びRは、同一若しくは異なって、炭素数5〜12のアルキル基を表す。x及びyは、同一若しくは異なって、1〜3の整数を表す。tは0〜250の整数を表す。)
【0045】
tは、アルキルフェノール・塩化硫黄縮合物のゴム成分中への分散性が良い点から、0〜250の整数が好ましく、0〜100の整数がより好ましく、10〜100の整数が更に好ましく、20〜50の整数が特に好ましい。x及びyは、高硬度が効率良く発現できる点から、ともに2が好ましい。R〜Rは、アルキルフェノール・塩化硫黄縮合物のゴム成分中への分散性が良い点から、炭素数6〜9のアルキル基が好ましい。
【0046】
上記アルキルフェノール・塩化硫黄縮合物は、公知の方法で調製でき、例えば、アルキルフェノールと塩化硫黄とを、モル比1:0.9〜1.25などで反応させる方法などが挙げられる。アルキルフェノール・塩化硫黄縮合物の具体例として、田岡化学工業(株)製のタッキロールV200(下記式(3))などが挙げられる。
【化4】

(式中、tは0〜100の整数を表す。)
【0047】
第2のゴム組成物において、上記アルキルフェノール・塩化硫黄縮合物の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、0.4質量部以上、好ましくは0.5質量部以上である。0.4質量部未満であると、操縦安定性、低燃費性の改善効果が充分に得られないおそれがある。該含有量は、6質量部以下、好ましくは5質量部以下である。6質量部を超えると、加硫速度が早くなりすぎゴム焼けが生じるおそれがある。また、上記範囲内であると、サイドウォールに好適に適用できる。
【0048】
なお、第1のゴム組成物にもアルキルフェノール・塩化硫黄縮合物を配合しても良い。第1のゴム組成物をトレッド、インナーライナーに適用する場合、アルキルフェノール・塩化硫黄縮合物の含有量の上限は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは2.5質量部以下、より好ましくは1質量部以下である。該含有量の下限は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.2質量部以上である。この場合、加硫速度、加工性、操縦安定性、低燃費性、破断強度が良好に得られる。
【0049】
第1及び第2のゴム組成物は、下記式(1)で表される化合物を含む。
【化5】

(式中、Rは炭素数2〜16のアルキル基を表す。Rは炭素数3〜16のアルキル基、ベンゾチアゾリルスルフィド基又はシクロアルキル基を表す。)
【0050】
のアルキル基としては、本発明の効果が良好に得られるという理由から、分岐構造を有するものが好ましい。分岐構造を有するアルキル基としては、−(CH−CHで表される直鎖アルキル基における炭素鎖(CHを構成する少なくとも1個の水素原子をアルキル基で置換した分岐構造を有するもの(分岐構造を有する直鎖アルキル基)が好ましい。
【0051】
のアルキル基の炭素数は、3〜16が好ましく、4〜16がより好ましく、6〜12が更に好ましい。1では、吸着してしまう傾向があり、17以上では、硬度が低くなる傾向がある。
【0052】
の好ましいアルキル基としては、エチル基、t−ブチル基、2−エチルヘキシル基、2−メチルヘキシル基、3−エチルヘキシル基、3−メチルヘキシル基、2−エチルプロピル基、2−エチルブチル基、2−エチルペンチル基、2−エチルヘプチル基、2−エチルオクチル基などが挙げられる。
【0053】
のアルキル基としては、本発明の効果が良好に得られるという理由から、分岐構造を有するものが好ましい。分岐構造を有するアルキル基としては、前述のRの場合と同様のものが好ましい。
【0054】
のアルキル基の炭素数は、4〜16が好ましく、6〜12がより好ましい。2以下では、吸着してしまう傾向があり、17以上では、硬度が低くなる傾向がある。
【0055】
の好ましいアルキル基としては、t−ブチル基、2−エチルヘキシル基、2−メチルヘキシル基、3−エチルヘキシル基、3−メチルヘキシル基、2−エチルプロピル基、2−エチルブチル基、2−エチルペンチル基、2−エチルヘプチル基、2−エチルオクチル基などが挙げられる。
【0056】
のベンゾチアゾリルスルフィド基は、下記式で表される基である。
【化6】

【0057】
のシクロアルキル基の炭素数は、3〜16が好ましい。Rの好ましいシクロアルキル基としては、シクロヘキシル基などが挙げられる。
【0058】
なお、加硫速度、加工性、操縦安定性、低燃費性、破断強度が高い次元で得られるという点から、Rがt−ブチル基の場合、Rはベンゾチアゾリルスルフィド基であることが好ましい。
【0059】
上記式(1)で表される化合物としては、川口化学工業(株)製のBEHZ(N,N−ジ(2−エチルヘキシル)−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド)、川口化学工業(株)製のBMHZ(N,N−ジ(2−メチルヘキシル)−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド)、フレキシス(株)製のサントキュアーTBSI(N−tert−ブチル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンイミド)、大内新興化学工業(株)製のETZ(N−エチル−N−t−ブチルベンゾチアゾール−2−スルフェンアミド)などが挙げられる。
【0060】
第1及び第2のゴム組成物において、上記式(1)で表される化合物の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、0.5質量部以上、より好ましくは1質量部以上である。0.5質量部未満では、本発明の効果が充分に得られないおそれがある。該含有量は、6質量部以下、好ましくは4質量部以下である。6質量部を超えると、充分な破断強度が得られないおそれがある。
【0061】
第1及び第2のゴム組成物は、1,3−ジフェニルグアニジンなどのグアニジン系加硫促進剤や、N,N’−ジシクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミドなど、他の加硫促進剤を含んでもよい。この場合、低燃費性、破断強度などの点から、グアニジン系加硫促進剤及びN,N’−ジシクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミドの合計含有量は、ゴム成分100質量部に対して、0.7質量部以下が好ましい。
【0062】
第1及び第2のゴム組成物は、通常、硫黄を含む。硫黄の含有量は、操縦安定性に優れるという点から、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.7質量部以上、より好ましくは0.8質量部以上である。該含有量は、耐摩耗性、破断伸びの点から、好ましくは3質量部以下、より好ましくは2.7質量部以下である。なお、本明細書において、硫黄の含有量は、純硫黄分量であり、不溶性硫黄を用いる場合はオイル分を除いた含有量である。
【0063】
第1及び第2のゴム組成物は、下記式(4)で表される化合物を含むことが好ましい。これにより、熱安定性が高いCC結合をゴム組成物に保有させることができ、加硫速度、加工性、操縦安定性、低燃費性、破断強度を相乗的に改善でき、高い次元の前記性能バランスが得られる。
【化7】

(式中、Wは炭素数2〜10のアルキレン基、R11及びR12は、同一若しくは異なって、窒素原子を含む1価の有機基を表す。)
【0064】
Wのアルキレン基(炭素数2〜10)としては、特に限定されず、直鎖状、分岐状、環状のものがあげられるが、なかでも、直鎖状のアルキレン基が好ましい。炭素数は4〜8が好ましい。アルキレン基の炭素数が1では、熱的な安定性が悪く、アルキレン基を有することによる効果が得られない傾向があり、炭素数が11以上では、−S−S−W−S−S−で表される架橋鎖の形成が困難になる傾向がある。
【0065】
上記条件を満たすアルキレン基としては、エチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基、ヘプタメチレン基、オクタメチレン基、デカメチレン基などがあげられる。なかでも、ポリマー間に−S−S−W−S−S−で表される架橋がスムーズに形成され、熱的にも安定であるという理由から、ヘキサメチレン基が好ましい。
【0066】
11及びR12としては、窒素原子を含む1価の有機基であれば特に限定されないが、芳香環を少なくとも1つ含むものが好ましく、炭素原子がジチオ基に結合したN−C(=S)−で表される結合基を含むものがより好ましい。R11及びR12は、それぞれ同一でも異なっていてもよいが、製造の容易さなどの理由から同一であることが好ましい。
【0067】
式(4)で表される化合物としては、例えば、1,2−ビス(N,N’−ジベンジルチオカルバモイルジチオ)エタン、1,3−ビス(N,N’−ジベンジルチオカルバモイルジチオ)プロパン、1,4−ビス(N,N’−ジベンジルチオカルバモイルジチオ)ブタン、1,5−ビス(N,N’−ジベンジルチオカルバモイルジチオ)ペンタン、1,6−ビス(N,N’−ジベンジルチオカルバモイルジチオ)ヘキサン、1,7−ビス(N,N’−ジベンジルチオカルバモイルジチオ)ヘプタン、1,8−ビス(N,N’−ジベンジルチオカルバモイルジチオ)オクタン、1,9−ビス(N,N’−ジベンジルチオカルバモイルジチオ)ノナン、1,10−ビス(N,N’−ジベンジルチオカルバモイルジチオ)デカンなどがあげられる。なかでも、熱的に安定であり、分極性に優れるという理由から、1,6−ビス(N,N’−ジベンジルチオカルバモイルジチオ)ヘキサンが好ましい。
【0068】
第1及び第2のゴム組成物において、式(4)で表される化合物の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.5質量部以上、より好ましくは1.5質量部以上である。0.5質量部未満であると、式(4)で表される化合物の添加による効果が充分に得られないおそれがある。該含有量は、好ましくは5質量部以下、より好ましくは2.5質量部以下である。5質量部を超えると、架橋密度が高くなり過ぎて、耐摩耗性が悪化するおそれがある。
【0069】
第1及び第2のゴム組成物は、カーボンブラックを含むことが好ましい。これにより、良好な補強性が得られ、本発明の効果が良好に得られる。
【0070】
第1のゴム組成物をトレッドに適用する場合、カーボンブラックのセチルトリメチルアンモニウムブロミド吸着比表面積(CTAB)は、好ましくは100m/g以上、より好ましくは150m/g以上である。該CTABは、好ましくは200m/g以下、より好ましくは180m/g以下である。上記範囲内であると、加工性、操縦安定性、低燃費性、破断強度が良好に得られる。
【0071】
第1のゴム組成物をインナーライナー、第2のゴム組成物をサイドウォールに適用する場合、カーボンブラックのセチルトリメチルアンモニウムブロミド吸着比表面積(CTAB)は、好ましくは20m/g以上、より好ましくは30m/g以上である。該CTABは、好ましくは100m/g以下、より好ましくは50m/g以下である。上記範囲内であると、加工性、操縦安定性、低燃費性、破断強度が良好に得られる。
なお、セチルトリメチルアンモニウムブロミド吸着比表面積(CTAB)は、JIS K6217−3:2001に記載の方法により測定される。
【0072】
第1のゴム組成物をトレッドに適用する場合、カーボンブラックのCOANは、好ましくは50ml/100g以上、より好ましくは90ml/100g以上である。また、該COANは、好ましくは130ml/100g以下、より好ましくは110ml/100g以下である。上記範囲内であると、耐摩耗性、操縦安定性、低燃費性、破断強度が良好に得られる。
【0073】
第1のゴム組成物をインナーライナー、第2のゴム組成物をサイドウォールに適用する場合、カーボンブラックのCOANは、好ましくは50ml/100g以上、より好ましくは70ml/100g以上である。また、該COANは、好ましくは130ml/100g以下、より好ましくは90ml/100g以下である。上記範囲内であると、操縦安定性、低燃費性、破断強度が良好に得られる。
なお、本明細書において、カーボンブラックのCOANは、ASTM D3493に準拠して測定される。また、使用オイルはジブチルフタレート(DBP)である。
【0074】
第1、第2のゴム組成物において、カーボンブラックの含有量は特に限定されないが、良好な補強性、耐紫外線劣化性、耐摩耗性が得られるという点から、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは3質量部以上、より好ましくは30質量部以上である。該含有量は、好ましくは80質量部以下である。
【0075】
なお、第1のゴム組成物をトレッド、第2のゴム組成物をサイドウォールに適用する場合、カーボンブラックの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは25質量部以上、より好ましくは40質量部以上である。該含有量は、好ましくは60質量部以下、より好ましくは55質量部以下である。上記範囲内であると、良好な補強性が得られ、本発明の効果が良好に得られる。
【0076】
また、第1のゴム組成物をインナーライナーに適用する場合、カーボンブラックの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは3質量部以上である。該含有量は、好ましくは60質量部以下、より好ましくは55質量部以下である。上記範囲内であると、良好な補強性、耐紫外線劣化性が得られ、本発明の効果が良好に得られる。
【0077】
第1、第2のゴム組成物は、湿式法シリカ(含水ケイ酸)を含むことが好ましく、特に第1のゴム組成物をインナーライナーに適用する場合に配合することが好適である。これにより、補強性、破断伸びを確保した上、加硫速度を遅らせることができ、前述の性能がバランスよく得られる。
【0078】
特に、第1のゴム組成物をトレッド、第2のゴム組成物をサイドウォールに適用する場合、湿式法シリカの窒素吸着比表面積(NSA)は、好ましくは50m/g以上、より好ましくは150m/g以上である。該NSAは、好ましくは200m/g以下である。上記範囲内であると、本発明の効果が良好に得られる。
【0079】
また、第1のゴム組成物をインナーライナーに適用する場合、インナーライナー用ゴム組成物の場合、湿式法シリカの窒素吸着比表面積(NSA)は、好ましくは50m/g以上、より好ましくは75m/g以上である。該NSAは、好ましくは230m/g以下、より好ましくは130m/g以下である。上記範囲内であると、本発明の効果が良好に得られる。
なお、湿式法シリカのNSAは、ASTM D3037−81に準じてBET法で測定される値である。
【0080】
第1、第2のゴム組成物において、湿式法シリカの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは1質量部以上である。該含有量は、好ましくは50質量部以下、より好ましくは40質量部以下である。上記範囲内であると、良好な耐摩耗性、ウェットグリップ性能、低燃費性、加硫速度が得られ、本発明の効果が良好に得られる。
【0081】
特に、第1のゴム組成物をトレッド、第2のゴム組成物をサイドウォールに適用する場合、湿式法シリカの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは5質量部以上である。該含有量は、好ましくは20質量部以下、より好ましくは15質量部以下である。上記範囲内であると、良好な補強性、耐摩耗性、破断伸び、低燃費性、加硫速度が得られ、本発明の効果が良好に得られる。
【0082】
また、第1のゴム組成物をインナーライナーに適用する場合、湿式法シリカの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは5質量部以上である。該含有量は、好ましくは50質量部以下、より好ましくは45質量部以下である。上記範囲内であると、良好な補強性、破断伸び、低燃費性、加硫速度が得られ、本発明の効果が良好に得られる。
【0083】
第1、第2のゴム組成物は、クマロンインデン樹脂を含んでもよく、特に第1ゴム組成物をトレッド、第2ゴム組成物をサイドウォールに適用する場合に配合することが好適である。これにより、優れた低燃費性、破断強度が得られ、加硫速度、加工性、操縦安定性、低燃費性、破断強度を相乗的に改善でき、高い次元の前記性能バランスが得られる。特に、第1のゴム組成物をトレッドに適用する場合、クマロンインデン樹脂を用いることで、tanδとEB、更にはウェットグリップ性能を向上できる。これは、トレッド配合にクマロンインデン樹脂を添加すると、路面接触により摩耗表面を粗くする、又は路面とゴムの接触・引っかき効果を高めると考えられる。また、サイドウォールにクマロンインデン樹脂を使用することで、tanδとEBが向上し、更には亀裂成長性も良くなる。これは、フィラーのミクロ分散、又はポリマー分散が良くなるためと考えられる。
【0084】
クマロンインデン樹脂の軟化点は、好ましくは−20℃以上、より好ましくは0℃以上である。また、該軟化点は、好ましくは60℃以下、より好ましくは35℃以下、更に好ましくは15℃以下である。上記範囲内であると、前述の性能が良好に得られる。
【0085】
第1のゴム組成物をトレッド、第2のゴム組成物をサイドウォールに適用する場合、クマロンインデン樹脂の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.5質量部以上、より好ましくは1.5質量部以上である。0.5質量部未満では、クマロンインデン樹脂を配合することによる改善効果が充分に得られないおそれがある。また、該含有量は、好ましくは10質量部以下、より好ましくは4質量部以下である。10質量部を超えると、充分な低燃費性、破断伸びが得られない傾向がある。
【0086】
第1、第2のゴム組成物は、C5系石油樹脂を含んでもよく、特に第2のゴム組成物をサイドウォールに適用する場合に配合することが好適である。これにより、加工性、操縦安定性、低燃費性、破断強度を相乗的に改善でき、前記性能バランスを顕著に改善できる。C5系石油樹脂としては、ナフサ分解によって得られるC5留分中のオレフィン、ジオレフィン類を主原料とする脂肪族系石油樹脂などが挙げられる。
【0087】
C5系石油樹脂の軟化点は、好ましくは50℃以上、より好ましくは80℃以上である。また、該軟化点は、好ましくは150℃以下、より好ましくは120℃以下である。上記範囲内であると、前述の性能が良好に得られる。
【0088】
なお、本明細書において、軟化点とは、JIS K6220:2001に規定される軟化点を環球式軟化点測定装置で測定し、球が降下した温度である。
【0089】
第2のゴム組成物をサイドウォールに適用する場合、C5系石油樹脂の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.5質量部以上、より好ましくは1.5質量部以上である。また、該含有量は、好ましくは10質量部以下、より好ましくは3質量部以下である。上記範囲内であると、前述の性能をバランス良く改善できる。
【0090】
第1のゴム組成物をインナーライナーに適用する場合、アルカリ性脂肪酸金属塩を含んでもよい。アルカリ性脂肪酸金属塩は、ENR合成の際に使用される酸を中和するため、ENRの混練りや加硫時の熱による劣化を防ぐことができる。また、リバージョンも防ぐことができる。
【0091】
アルカリ性脂肪酸金属塩における金属としては、耐熱性改善効果が大きくなる点とエポキシ化天然ゴムとの相溶性の点から、カルシウム、バリウムが好ましい。このようなアルカリ性脂肪酸金属塩としては、耐熱性改善効果が大きく、エポキシ化天然ゴムとの相溶性も高く、コストも比較的安価な点から、ステアリン酸カルシウム、オレイン酸カルシウムが好ましい。
【0092】
第1のゴム組成物をインナーライナーに適用する場合、アルカリ性脂肪酸金属塩の含有量は、ENR100質量部に対して、好ましくは1質量部以上、より好ましくは1.5質量部以上である。1質量部未満であると、アルカリ性脂肪酸金属塩を配合することによる効果が充分に得られないおそれがある。該含有量は、好ましくは10質量部以下、より好ましくは5質量部以下である。10質量部を超えると、破壊強度や耐摩耗性が悪化する傾向がある。
【0093】
本発明のゴム組成物には、前記成分以外にも、ゴム組成物の製造に一般に使用される配合剤、例えば、各種老化防止剤、ワックス、ステアリン酸、酸化亜鉛、オイル、加硫剤などを適宜配合できる。
【0094】
本発明のゴム組成物の製造方法としては、公知の方法を用いることができ、例えば、前記各成分をオープンロール、バンバリーミキサーなどのゴム混練装置を用いて混練し、その後加硫する方法などにより製造できる。
【0095】
第1、第2のゴム組成物は、前述のとおり、トレッド(なかでも、トラック・バス用タイヤのトレッド)、インナーライナー、サイドウォールに好適に使用できるが、クリンチ、ベーストレッド、タイガムなどのタイヤ部材にも適用可能である。
【0096】
第1、第2のゴム組成物は、生産性、ユニフォミティーの点から、キュラストメーターを用いて160℃で測定して得られる加硫速度曲線のトルクの最小値をML、最大値をMH、その差(MH−ML)をMEとしたとき、ML+0.1MEに到達する時間t10が2.0〜6.0分であることが好ましく、3.0〜6.0分であることがより好ましい。
【0097】
本発明の空気入りタイヤは、上記第1、第2のゴム組成物を用いて通常の方法によって製造できる。すなわち、それぞれのゴム組成物を未加硫の段階でタイヤの各部材の形状に合わせて押し出し加工し、タイヤ成形機上にて通常の方法にて成形し、他のタイヤ部材とともに貼り合わせ、未加硫タイヤを形成できる。この未加硫タイヤを加硫機中で加熱加圧してタイヤを製造できる。
【実施例】
【0098】
実施例に基づいて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0099】
以下、実施例及び比較例で使用した各種薬品について、まとめて説明する。
NR:TSR20
ENR:クンプーランガスリー社(Kumpulan Guthrie Berhad)(マレーシア)製のENR25(エポキシ化率:25モル%)
IR:JSR(株)製のIR2200
変性BR:日本ゼオン(株)製のBR1250H(リチウム開始剤を用いて重合したスズ変性BR、ビニル含量:10〜13質量%、Mw/Mn:1.5、スズ原子の含有量:250ppm)
ハイシスBR(VCR617):宇部興産(株)製のVCR617(SPB含有BR、SPBの含有量:17質量%、SPBの融点:200℃、沸騰n−ヘキサン不溶物の含有量:15〜18質量%)
ハイシスBR(CB25):ランクセス社製のBUNA−CB25(Nd系触媒を用いて合成したBR、シス含量:96モル%)
ブチル系ゴム:日本ブチル(株)製のクロロブチルHT1066(クロロブチルゴム)
シリカ(VN3):デグッサ社製のULTRASIL VN3(NSA:175m/g)
シリカ(Z1085Gr):ローディア社製のZ1085Gr(NSA:80m/g)
カーボンブラック(HP160):デグッサ社製のHP160(CTAB:163m/g、COAN:97ml/100g)
カーボンブラック(N660):Jiangix Black Cat(黒猫)社製のN660(CTAB:36m/g、COAN:74ml/100g)
カーボンブラック(N550):キャボットジャパン(株)製のショウブラックN550(CTAB:43m/g、COAN:80ml/100g)
シランカップリング剤:デグッサ社製のSi75(ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド)
粘着レジン:丸善石油化学(株)製のマルカレッツT−100AS(C5系石油樹脂:ナフサ分解によって得られるC5留分中のオレフィン、ジオレフィン類を主原料とする脂肪族系石油樹脂)(軟化点:100℃)
クマロンインデン樹脂:Rutgers Chemicals社製のNOVARES C10(クマロンインデン樹脂、軟化点:5〜15℃)
オイル:H&R社製のvivatec500
ワックス:日本精鑞(株)製のオゾエース0355
老化防止剤6PPD:住友化学(株)製のアンチゲン6C(N−フェニル−N’−(1,3−ジメチルブチル)−p−フェニレンジアミン)
老化防止剤RD:川口化学工業(株)製アンテージRD(2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリンの重合体)
ステアリン酸カルシウム:日油(株)製のステアリン酸カルシウム
ステアリン酸:日油(株)製の椿
亜鉛華:三井金属鉱業(株)製の亜鉛華2種
HTS:フレキシス社製のDURALINK HTS(1,6−ヘキサメチレン−ジチオ硫酸ナトリウム・二水和物)
KA9188:ランクセス社製のVulcuren VP KA9188(1,6−ビス(N,N’−ジベンジルチオカルバモイルジチオ)ヘキサン)
アルキルフェノール・塩化硫黄縮合物1(V200):田岡化学工業(株)製のタッキロールV200(上記式(3)で表されるアルキルフェノール・塩化硫黄縮合物、硫黄含有率:24質量%、重量平均分子量:9000)
アルキルフェノール・塩化硫黄縮合物2:田岡化学工業(株)製のTS3101(試作品)(下記式で表されるアルキルフェノール・塩化硫黄縮合物、硫黄含有率:27質量%、重量平均分子量:62000)
【化8】

(式中、tは150〜200の整数を表す。)
10%オイル含有不溶性硫黄:日本乾溜工業(株)製のセイミサルファー(2硫化炭素による不溶分60%、オイル分10%)
加硫促進剤(TBBS):大内新興化学工業(株)製のノクセラーNS(N−tert−ブチル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド)(下記式)
【化9】

加硫促進剤(DM):大内新興化学工業(株)製のノクセラーDM(ジ−2−ベンゾチアゾリルジスルフィド)(下記式)
【化10】

加硫促進剤(DCBS):大内新興化学工業(株)製のノクセラーDZ(N,N’−ジシクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド)(下記式)
【化11】

加硫促進剤(BEHZ):川口化学工業(株)製のBEHZ(N,N−ジ(2−エチルヘキシル)−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド)(下記式)
【化12】

加硫促進剤(TBSI):フレキシス(株)製のサントキュアーTBSI(N−tert−ブチル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンイミド)(下記式)
【化13】

【0100】
表1〜3に示す配合に従って、1.7Lバンバリーミキサーを用いて、硫黄、加硫促進剤及びハイブリッド架橋剤(アルキルフェノール・塩化硫黄縮合物、KA9188、HTS)以外の薬品を混練りした。次に、ロールを用いて、得られた混練り物に硫黄、加硫促進剤及びハイブリッド架橋剤(アルキルフェノール・塩化硫黄縮合物、KA9188、HTS)を添加して練り込み、未加硫ゴム組成物を得た。得られた未加硫ゴム組成物を170℃で11分間(トレッド用配合では150℃で30分間)プレス加硫して加硫ゴム組成物を得た。
【0101】
未加硫ゴム組成物及び加硫ゴム組成物を下記により評価し、結果を表1〜3に示した。
【0102】
(加硫速度)
各未加硫ゴム組成物について、JIS K6300に記載されている振動式加硫試験機(キュラストメーター)を用い、測定温度160℃で加硫試験を行って、時間とトルクとをプロットした加硫速度曲線を得た。加硫速度曲線のトルクの最小値をML、最大値をMH、その差(MH−ML)をMEとしたとき、ML+0.1MEに到達する時間t10(分)を算出した。
なお、ゴム焼け、生産性などの点から、t10は、トレッド用配合、インナーライナー用配合の場合3.0〜5.0、サイドウォール用配合の場合2.5〜5.0が好ましい。
【0103】
(押し出し加工性)
各未加硫ゴム組成物について、押出し後の各未加硫ゴム組成物を各部材(トレッド、インナーライナー、サイドウォール)の形状に成形した成形品のエッジ状態、ゴムの焼け度合い、ゴム同士の粘着度合い、平坦さを目視、触覚により評価し、比較例1、5、実施例16を100として指数表示した。数値が大きいほど、シート加工性が優れることを示している。
トレッド用配合、サイドウォール用配合の場合、指数は90より大きいことが好ましい。インナーライナー用配合の場合、指数は100より大きいことが好ましい。
なお、エッジ状態については、最もエッジが真っ直ぐで滑らかな状態を良好とし、ゴムの焼け度合いについては、上記成形品から切り出した15cm角の2mmシートにおいて、ピッツ焼けゴム塊による凹凸がない状態を良好とし、平坦さについては、該シートが平坦で平面板に密着する状態を良好として評価した。
【0104】
(粘弾性試験)
(株)岩本製作所製の粘弾性スペクトロメータVESを用いて、温度70℃、周波数10Hz、初期歪10%及び動歪2%の条件下で、加硫ゴム組成物の複素弾性率E(MPa)及び損失正接tanδを測定した。Eが大きいほど剛性が高く、硬度(操縦安定性)が優れることを示し、tanδが小さいほど発熱性が低く、低燃費性(転がり性能)が優れることを示す。
なお、トレッド用配合の場合、Eが5.70〜6.30、tanδが0.100未満が好ましい。インナーライナー用配合の場合、Eが3.00〜3.80、tanδが0.140未満が好ましい。サイドウォール用配合の場合、Eが3.10〜3.80、tanδが0.110未満が好ましい。
【0105】
(引張試験)
加硫ゴム組成物からなる3号ダンベル型試験片を用いて、JIS K 6251「加硫ゴム及び熱可塑性ゴム−引張特性の求め方」に準じて、室温にて引張試験を実施し、破断時伸びEB(%)を測定した。EBが大きいほど、破断時伸びに優れることを示す。
なお、EBは、トレッド用配合の場合520より大きく、インナーライナー用配合の場合540より大きく、サイドウォール用配合の場合400より大きいことが好ましい。
【0106】
【表1】

【0107】
【表2】

【0108】
【表3】

【0109】
特定の加硫促進剤(上記式(1)で表される化合物)と、イソプレン系ゴムとをそれぞれ所定量用いた実施例では、良好な加硫速度が得られるとともに、押し出し加工性、操縦安定性、低燃費性(転がり性能)、破断強度がバランスよく得られた。
また、特定の加硫促進剤(上記式(1)で表される化合物)と、アルキルフェノール・塩化硫黄縮合物とをそれぞれ所定量用いた実施例でも、これらの性能が良好に得られた。
【0110】
なお、TBSIなどの特定の加硫促進剤とイソプレン系ゴムとをそれぞれ所定量用いて、クリンチ用、ベーストレッド用、タイガム用ゴム組成物を作製すると、これらのゴム組成物でも、前述の性能が良好に得られた。また、特定の加硫促進剤と、アルキルフェノール・塩化硫黄縮合物とをそれぞれ所定量用いて、これらのゴム組成物を作成した場合も、同様に良好な性能が得られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イソプレン系ゴムと、下記式(1)で表される化合物とを含み、
ゴム成分100質量%中の前記イソプレン系ゴムの含有量が70質量%以上であり、
前記ゴム成分100質量部に対して、前記式(1)で表される化合物の含有量が0.5〜6質量部であるタイヤ用ゴム組成物。
【化1】

(式中、Rは炭素数2〜16のアルキル基を表す。Rは炭素数3〜16のアルキル基、ベンゾチアゾリルスルフィド基又はシクロアルキル基を表す。)
【請求項2】
アルキルフェノール・塩化硫黄縮合物と、下記式(1)で表される化合物とを含み、
ゴム成分100質量部に対して、前記アルキルフェノール・塩化硫黄縮合物の含有量が0.4〜6質量部、前記式(1)で表される化合物の含有量が0.5〜6質量部であるタイヤ用ゴム組成物。
【化2】

(式中、Rは炭素数2〜16のアルキル基を表す。Rは炭素数3〜16のアルキル基、ベンゾチアゾリルスルフィド基又はシクロアルキル基を表す。)
【請求項3】
硫黄と、グアニジン系加硫促進剤及び/又はN,N’−ジシクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミドとを含み、
前記ゴム成分100質量部に対して、前記硫黄の含有量が0.7〜3質量部、前記グアニジン系加硫促進剤及び前記N,N’−ジシクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミドの合計含有量が0.7質量部以下である請求項1又は2記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項4】
前記ゴム成分100質量部に対して、カーボンブラックの含有量が30〜80質量部、湿式法シリカの含有量が20質量部以下、前記式(1)で表される化合物の含有量が1〜4質量部である請求項1〜3のいずれかに記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項5】
キュラストメーターを用いて160℃で測定して得られる加硫速度曲線のトルクの最小値をML、最大値をMH、その差(MH−ML)をMEとしたとき、ML+0.1MEに到達する時間t10が2.0〜6.0分である請求項1〜4のいずれかに記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項6】
更にクマロンインデン樹脂を含み、トレッド及び/又はサイドウォールに使用される請求項1〜5のいずれかに記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項7】
更にエポキシ化天然ゴムを含み、インナーライナーに使用される請求項1〜5のいずれかに記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載のゴム組成物を用いて作製したトレッド、インナーライナー、サイドウォール、クリンチ、ベーストレッド又はタイガムを有する空気入りタイヤ。

【公開番号】特開2013−64102(P2013−64102A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−124891(P2012−124891)
【出願日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)
【Fターム(参考)】