説明

タイヤ用ゴム組成物

【課題】低発熱性と破壊特性とを高度に両立させ、タイヤの低燃費化を図るとともに耐久性に優れる加工性のよいタイヤ用ゴム組成物を提供する。
【解決手段】ジエン系ゴム成分、硫黄及びピリチオン金属塩を混練してゴム混合物を得、前記ゴム混合物を用いた後混合工程において加硫促進剤を添加混練し得られるタイヤ用ゴム組成物である。前記ピリチオン金属塩は、下記一般式(1)で表される化合物を用いることができる。


(式中、nは1または2、MはZn、Cu、Na、Caのいずれかである。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤ用ゴム組成物に関し、ゴムの破壊特性を維持しながら発熱性を改善することにより低転がり抵抗性を高めたタイヤ用ゴム組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車の低燃費化の要求はますます高まり、タイヤの転がり抵抗を低減することが強く求められている。転がり抵抗性はゴム組成物の発熱性と関係することが知られており、ゴムのヒステリシスロスを低減すること、すなわちゴム組成物の損失係数(tanδ)を低く抑えることが効果的である。
【0003】
ゴム組成物の発熱性を抑える技術としては、種々提案されており、例えば、天然ゴム及びポリブタジエンゴム65重量%以上含む加硫可能なゴム100重量部、シリカ及び/又は窒素吸着比表面積(NSA)が20〜85m/gのカーボンブラックを合計量で30〜80重量部並びに特定の環状ポリスルフィドを0.1〜10重量部を含むことで、高硬度でかつ強度、伸びが高くtanδの上昇を抑えるサイドトレッド用ゴム組成物が開示されている(特許文献1)。
【0004】
また、天然ゴムラテックスに極性基含有単量体をグラフト重合し、凝固、乾燥してなる変性天然ゴムを含むゴム組成物が、低発熱性と高耐破壊性との双方に共に優れるとされている(特許文献2)。
【0005】
また、天然ゴム及び/又はイソプレンゴム70〜20重量部とブタジエンゴム30〜80重量部からなるジエン系ゴム100重量部、ビス(1−ヒドロキシ−2(1H)−ピリジンチオナート−O,S)−亜鉛0.20〜3.0重量部並びにHAF級を含むこれより小粒径のカーボンブラック60〜90重量部を含んでなるタイヤ用ゴム組成物が、耐摩耗性及び低発熱性を両立することが記載されている(特許文献3)。
【特許文献1】特開2005−146076号公報
【特許文献2】特開2006−151259号公報
【特許文献3】特開2005−15638号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
タイヤ用ゴム組成物は、転がり抵抗性やタイヤ耐久性を確保するために低発熱かつ高破壊特性であることが求められる。このような要求に応えるため、従来より天然ゴム成分主体の配合で、天然ゴムにSBRやBRをブレンドすることにより、ゴム組成物のtanδをできるだけ小さくし、ゴム組成物自体の発熱を抑制する方法が検討されているが、天然ゴムの比率を上げていくと、破壊強力は向上するものの、低発熱性は得られない傾向にあり、低発熱と破壊特性とのより高度な両立は困難であった。
【0007】
本発明は、以上の点に鑑みて、天然ゴム成分を主体とするジエン系ゴム配合において、低発熱性と破壊特性とを高度に両立させ、タイヤの低燃費化を図るとともに耐久性に優れる加工性のよいタイヤ用ゴム組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、ジエン系ゴム成分に硫黄及びピリチオン金属塩を予め、かつ同時に混合したマスターバッチをゴム組成物に用いることで、発熱性を改良できることを見出したものである。
【0009】
本発明は、ジエン系ゴム成分、硫黄及びピリチオン金属塩を混練してゴム混合物を得、前記ゴム混合物を用いた後混合工程において加硫促進剤を添加混練し得られることを特徴とするタイヤ用ゴム組成物である。
【0010】
本発明では、前記ゴム混合物は、ジエン系ゴム成分100重量部に対し、前記硫黄を0.1〜1.0重量部、及び前記ピリチオン金属塩を0.2〜5.0重量部含むことが好ましい。
【0011】
また、前記後混合工程において、前記ゴム混合物に補強性フィラーが添加混合されることが好ましい。
【0012】
また、前記ピリチオン金属塩は、下記一般式(1)で表される化合物を用いることができる。
【化1】

(式中、nは1または2、MはZn、Cu、Na、Caのいずれかである。)
【発明の効果】
【0013】
本発明のタイヤ用ゴム組成物によれば、天然ゴム成分を主体とするジエン系ゴム配合において、低発熱と破壊特性とを高度に両立させ、タイヤの低燃費化を図るとともに耐久性に優れ、さらに加工性を良好に維持し工程安定化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、第1の混合工程(予備混合)において、ジエン系ゴム成分、硫黄及びピリチオン金属塩を混練してゴム混合物を得、第2混合工程以降の混合工程において前記ゴム混合物に加硫促進剤を添加混練し得られるものである。
【0015】
ゴム成分として用いられるジエン系ゴムとしては、天然ゴムの他、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴムなどのジエン系合成ゴムが挙げられ、これらはいずれか1種を単独で用いても、2種以上を任意の比率でブレンドし用いてもよい。
【0016】
本発明においては、天然ゴム又はイソプレンゴムをゴム成分100重量部中に、60重量部以上含むことが好ましく、より好ましくは70重量部以上含むことであり、これによりゴム組成物の破壊強度、耐摩耗性、耐疲労性などの特性を確保しやすくする。
【0017】
また、天然ゴムにジエン系合成ゴムをブレンド使用する場合は、反発弾性、低温特性、耐屈曲疲労性などに優れるブタジエンゴム、特にシス−1,4結合含有量が95%以上であるハイシスタイプのブタジエンゴム、耐老化性、耐熱性、耐摩耗性などに優れる溶液スチレン−ブタジエンゴムが好適であり、これらの合成ゴムの製造は乳化重合でも、溶液重合であってもよく、またミクロ構造も特に限定されない。
【0018】
硫黄としては、粉末硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄、不溶性硫黄、オイル処理硫黄などが挙げられる。これらの硫黄は2種以上を併用してもよい。
【0019】
本発明のゴム組成物に用いられるピリチオン金属塩は、下記一般式(1)で表される化合物を用いることができる。
【化1】

(式中、nは1または2、MはZn、Cu、Na、Caのいずれかである。)
【0020】
上記式(1)で表されるピリチオン金属塩は、ピリチオン亜鉛、ピリチオン銅、ピリチオンナトリウムであり、例えば、ピリチオン亜鉛はビス[1−ヒドロキシ−2(1H)−ピリジンチオネート−O,S]亜鉛(ZPNO)がある。ピリチオン亜鉛は、例えば米国特許第2,809,971号に記載されているように、1−ヒドロキシ−2−ピリジンチオンまたはその可溶性塩を亜鉛塩(例えば、ZnSO)と反応させ、ピリチオン亜鉛沈殿を生成させることによって製造され、ZPNOは、FLEXSYS社製カーボンカップリング剤として市販されている。
【0021】
このZPNOを配合することで耐摩耗性、耐熱老化性、耐疲労性などの特性を悪化させることなく、発熱性を改善することができる。
【0022】
本発明では、前記第1の混合工程で得られるゴム混合物は、ジエン系ゴム成分100重量部に対し、前記硫黄を0.1〜1.0重量部、及び前記ピリチオン金属塩0.2〜5.0重量部含むことが好ましい。
【0023】
ゴム成分と硫黄のみとを混合した場合、発熱性、加工性の改良効果が得られず、ピリチオン金属塩を同時添加し混合することで発熱性、加工性の改良効果が発揮される。
【0024】
前記硫黄の添加量が0.1重量部未満では所望の効果の発現が困難となり、1.0重量部を超えると混練中の発熱により架橋反応が始まるおそれが大きくなる。また、前記ピリチオン金属塩が0.2重量部未満では発熱性、加工性の改良効果が不十分であり、5.0重量部を超えると発熱性は良好であるがゴム混合物のゴム硬度が上昇し、最終ゴム組成物の破壊特性などの諸特性に悪化を招くようになる。
【0025】
また、この第1の混合工程において、カーボンブラックやシリカなどの補強性フィラーを同時混合すると、ZPNOとフィラーとが反応して結合しゴム混合物を硬化させ、後工程での混練性や加工性を低下させるので、補強性フィラーは第2混合工程以降で添加混合することが好ましい。但し、場合によっては、補強性フィラーを第1の混合工程で添加混合してもよい。
【0026】
また、本発明の第2混合工程以降の混合工程にて添加混合される加硫促進剤は、その種類は制限されず用いることができる。例えば、N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアジルスルフェンアミド(CZ)、N−tert−ブチルベンゾチアゾール−2−スルフェンアミド(NS)、N−オキシジエチレン−2−ベンゾチアゾールスルフェンアミド(OBS)などのスルフェンアミド系、テトラメチルチウラムジスルフィド(TT)、テトラブチルチウラムジスルフィド(TBT)などのチウラム系、ヘキサメチレンテトラミンなどのアルデヒド・アンモニア系、1,3−ジフェニルグアニジン(D)などのグアニジン系、2−メルカプトベンゾチアゾル(M)、ジベンゾチアジルジサルファイド(DM)などのチアゾール系、などの各種加硫促進剤が挙げられる。
【0027】
加硫促進剤はゴム成分100重量部に対し0.3〜5重量部程度の量で使用され、好ましくは0.5〜3重量部である。加硫促進剤が0.3重量部未満であると加硫速度が遅くなり生産性が低下し、5重量部を超えるとスコーチしやすくなる。加硫促進剤は2種類以上を併用してもよい。
【0028】
本発明のゴム組成物において使用される補強性フィラーとしては、カーボンブラック、シリカ、炭酸カルシウム、クレー、タルクなどの充填剤が挙げられる。
【0029】
カーボンブラックは、特に制限されず、例えば、窒素吸着比表面積(NSA)が25〜130m/gであり、かつDBP吸油量が80ml/100g以上のコロイダル特性を有するカーボンブラックを使用できる。
【0030】
このようなカーボンブラックとしては、ASTMナンバーのN110、N220、N330、N550、N660などの各種グレードが挙げられる。
【0031】
上記カーボンブラックの配合量は、ゴム成分100重量部に対し20〜80重量部程度で用いられる。カーボンブラックの配合量が20重量部未満であると、補強効果が不足して破壊特性や耐摩耗性が低下し、一方、80重量部を超えると、発熱性が悪化し転がり抵抗の低減効果が減少する傾向となる。
【0032】
また、シリカとしては、例えば、BET比表面積(BET)が150m/g以下であり、かつDBP吸油量が190ml/100g以下のコロイダル特性を有するものがある。このような大粒径で、かつストラクチャーの小さいシリカを用いることにより、加工性を向上させることができるとともに、タイヤの転がり抵抗を低減させることができる。
【0033】
上記シリカの配合量は、ゴム成分100重量部に対して10〜50重量部である。該シリカの配合量が10重量部未満であると、転がり抵抗の低減効果を充分に発揮することができなくなる。シリカのより好ましい配合量は、20〜40重量部である。
【0034】
上記シリカは、上記コロイダル特性を満たせば特に限定されず、例えば、湿式シリカ(含水ケイ酸),乾式シリカ(無水ケイ酸),ケイ酸カルシウム,ケイ酸アルミニウム等が挙げられるが、中でも破壊特性と低転がり抵抗の両立する湿式シリカが好ましく、また生産性に優れる点からも好ましい。市販品として、東ソー・シリカ(株)のニップシールAQ、トクヤマ(株)のトクシールなどが使用できる。
【0035】
さらに、シリカとしてはアミン類や有機高分子などで表面処理しポリマーとの親和性を改善した表面処理シリカなどを用いてもよい。
【0036】
なお、シリカを用いる場合は、前記シリカ量に対して2〜20重量%のシランカップリング剤を使用することが好ましく、より好ましくは2〜15重量%の範囲で使用される。シランカップリング剤としては、例えば、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド等のイオウ含有シランカップリング剤、3−トリメトキシシリルプロピルベンゾチアゾールテトラスルフィドなどが挙げられる。
【0037】
本発明のゴム組成物には、上記成分の他に、タイヤ工業において通常に用いられるプロセスオイル、亜鉛華、ステアリン酸、ワックス、老化防止剤、加硫助剤、樹脂類などの各種配合剤を、本発明の効果を損なわない範囲で必要に応じ適宜配合し用いることができる。
【0038】
以上よりなる本発明のタイヤ用ゴム組成物は、バンバリーミキサー、ニーダ等のゴム用混練機を用いて常法により調製される。
【0039】
すなわち、第1の混合工程(A)において、ジエン系ゴム成分、硫黄及びピリチオン金属塩を混練してゴム混合物(マスターバッチ)を調製する。補強性フィラーを同時混合してもよい。第2の混合工程(B)において、前記マスターバッチに追加されるゴム成分、硫黄、ピリチオン金属塩とカーボンブラックなどの補強性フィラー及び亜鉛華、老化防止剤、ステアリン酸などの他の配合剤を添加し混練する。第3の混合工程(C)において、さらに追加されるゴム成分、硫黄、ピリチオン金属塩と加硫促進剤、及び焼け防止剤を添加し混練して最終のゴム組成物が調製される。また、上記(B)工程と(C)工程を同一工程で行い、2工程で最終混合物を調製することもできる。
【0040】
本発明により得られるタイヤ用ゴム組成物は、その用途は特に制限されず、乗用車用、トラックやバスの大型タイヤなど各種用途、サイズの空気入りタイヤのトレッド部、サイドウォール部、ビード部、タイヤコード被覆用ゴムなどタイヤの各部位に適用することができる。
【実施例】
【0041】
以下、本発明の実施例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0042】
天然ゴム、ブタジエンゴムの合計100重量部に、下記に示す配合成分を表1の配合処方に従い、容量20リットルの密閉式バンバリーミキサーを使用し、第1混合工程にてマスターバッチを調製し、このマスターバッチを用いて第2,第3の混合工程により最終のゴム組成物を調製した。
【0043】
[ゴム成分]
・天然ゴム:STR20
・ブタジエンゴム:JSR(株)「JSR BR01」
【0044】
[配合成分]
・硫黄:鶴見化学工業(株)「5%オイル処理粉末硫黄」
・ピリチオン亜鉛(ビス[1−ヒドロキシ−2(1H)−ピリジンチオネート−O,S]亜鉛(ZPNO)):FLEXSYS製
・素練促進剤:大内新興化学工業(株)「ノクタイザーSD」
・カーボンブラック:昭和キャボット(株)「ショウブラックN220」
・加硫促進剤CZ:住友化学工業(株)「ソクシノールCZ」
・焼け防止剤:フレキシス(株)「サントガードPVI」
・亜鉛華:三井金属鉱業(株)「亜鉛華1号」
・老化防止剤:住友化学工業(株)「アンチゲン6C」
・ステアリン酸:花王(株)「ルナックS−25」
・ワックス:ハネウェウル社「オケリン2122H」
【0045】
得られた各ゴム組成物について、破壊特性の指標として300%モジュラス、及び発熱性の指標としてtanδを下記方法により評価した。結果を表1に示す。
【0046】
[300%モジュラス]
JIS K6251に準じる引張試験(3号ダンベル使用)にて測定し、比較例1を100とする指数で示した。数値が大ほど良好である。
【0047】
[tanδ]
UBM製、レオスペクトロメーター E4000を使用し、周波数50Hz,動歪み2%、80℃の条件で測定し、比較例1を100とする指数で示した。数値が小ほど発熱が小さく良好である。
【0048】
【表1】

【0049】
表1から知られるように、本発明に係る実施例は、加工性を良好に維持しながら、破壊特性、発熱性を改善し、タイヤの低燃費性、耐久性能を向上を図ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、各種用途、サイズの空気入りタイヤのトレッド部、サイドウォール部、ビード部、タイヤコード被覆用ゴムなどタイヤの各部位に適用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジエン系ゴム成分、硫黄及びピリチオン金属塩を混練してゴム混合物を得、前記ゴム混合物を用いた後混合工程において加硫促進剤を添加混練し得られる
ことを特徴とするタイヤ用ゴム組成物。
【請求項2】
前記ゴム混合物が、ジエン系ゴム成分100重量部に対し、前記硫黄を0.1〜1.0重量部、及び前記ピリチオン金属塩を0.2〜5.0重量部含む
ことを特徴とする請求項1に記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項3】
前記後混合工程において、前記ゴム混合物に補強性フィラーが添加混合される
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項4】
前記ピリチオン金属塩が、下記一般式(1)で表される化合物である
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のタイヤ用ゴム組成物。
【化1】

(式中、nは1または2、MはZn、Cu、Na、Caのいずれかである。)

【公開番号】特開2009−40898(P2009−40898A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−207816(P2007−207816)
【出願日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【出願人】(000003148)東洋ゴム工業株式会社 (2,711)
【Fターム(参考)】