説明

タイヤ用ゴム組成物

【課題】大粒径のカーボンブラックを配合し転がり抵抗を小さくしながら、操縦安定性を従来レベル以上に向上するようにしたタイヤ用ゴム組成物を提供する。
【解決手段】 ジエン系ゴム100重量部に対し、ノボラック型フェノール樹脂及びメチレン供与体を配合しその合計が1〜50重量部、窒素吸着比表面積N2SAが55〜95m2/g、DBP吸収量が110〜160ml/100gのカーボンブラックを30〜100重量部を配合すると共に、前記カーボンブラックの凝集体のストークス径の質量分布曲線におけるモード径Dst(nm)と、前記N2SAとを、Dst=α(N2SA)-0.61の関係式で表わしたときの係数αが1979以上であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コロイダル特性を制御したカーボンブラックを配合し発熱性を低減しながら、操縦安定性を従来レベル以上に向上するようにしたタイヤ用ゴム組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、空気入りタイヤに対する要求性能として、操縦安定性が優れると共に、燃費性能が優れることが求められている。特に燃費性能を向上することは、地球環境問題への関心の高まりに伴いますます重要になっている。燃費性能を向上するためにはタイヤの転がり抵抗を低減することが必要であり、タイヤを構成するゴム組成物の発熱を抑えることが行われている。ゴム組成物の発熱性の指標としては一般に動的粘弾性測定による60℃のtanδが用いられ、ゴム組成物のtanδ(60℃)が小さいほど発熱性が小さくなる。
【0003】
ゴム組成物のtanδ(60℃)を小さくする方法として、例えばカーボンブラックの配合量を少なくしたり、カーボンブラックの粒径を大きくしたりすることが挙げられる。しかし、このような方法では、ゴム硬度や弾性率が低下し、タイヤにしたとき操縦安定性が低下するという問題がある。
【0004】
一方、特許文献1は、ジエン系ゴムにカシュー変性フェノール樹脂及びメチレン供与体を配合し、ゴム弾性率の温度依存性を小さくして操縦安定性能の変化を抑制することを提案している。しかし、このゴム組成物では、タイヤにしたときの操縦安定性能の変化を抑制するのに有効であるものの、転がり抵抗を低減する効果が必ずしも十分ではなく更なる改良が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4458186号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、コロイダル特性を制御したカーボンブラックを配合し転がり抵抗を小さくしながら、操縦安定性を従来レベル以上に向上するようにしたタイヤ用ゴム組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成する本発明のタイヤ用ゴム組成物は、ジエン系ゴム100重量部に対し、ノボラック型フェノール樹脂及びメチレン供与体を配合しその合計が1〜50重量部、窒素吸着比表面積N2SAが55〜95m2/g、DBP吸収量が110〜160ml/100gのカーボンブラックを30〜100重量部配合すると共に、前記カーボンブラックの凝集体のストークス径の質量分布曲線におけるモード径Dst(nm)と、前記N2SAとの関係を下記の式(1)
Dst=α(N2SA)-0.61 (1)
(ただし、Dstは凝集体のストークス径の質量分布曲線におけるモード径(nm)、N2SAは窒素吸着比表面積(m2/g)、αは係数である。)
で表わしたとき、係数αが1979以上であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、ジエン系ゴム100重量部に対し、ノボラック型フェノール樹脂及びメチレン供与体をその合計で1〜50重量部配合し、かつ窒素吸着比表面積N2SAが55〜95m2/g、DBP吸収量が110〜160ml/100g、かつ前記式(1)の関係で表わしたときの係数αが1979以上であるカーボンブラックを30〜100重量部配合するようにしたので、ゴム組成物のtanδ(60℃)を小さくしながらゴム硬度及び弾性率を確保するため、タイヤにしたとき転がり抵抗を小さくしながら、操縦安定性を従来レベル以上に向上することができる。
【0009】
前記係数αとしては、1979≦α≦2450の範囲であることが好ましく、上述した優れた特性を確保しながら生産コストを抑制することができる。
【0010】
前記ノボラック型フェノール樹脂としては、カシューオイルで変性された樹脂が好ましく、ゴム組成物の補強性をより高くすることができる。
【0011】
本発明のタイヤ用ゴム組成物でビードフィラーを構成した空気入りタイヤは、転がり抵抗を小さくし燃費性能を改良しながら、操縦安定性を従来レベル以上に向上することができる。
【0012】
本発明のタイヤ用ゴム組成物でランフラットタイヤの左右のサイドウォール部の断面三日月形のゴム補強層を構成した空気入りタイヤは、通常の走行時には転がり抵抗を小さくし燃費性能を改良しながら、操縦安定性を従来レベル以上に向上することができる。またランフラット走行時には、ランフラット走行性能に優れると共に、サイドウォール部の断面三日月形のゴム補強層の発熱が抑制されるため耐久性能にも優れる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明のタイヤ用ゴム組成物を用いた空気入りタイヤの実施形態の一例を示すタイヤ子午線方向の断面図である。
【図2】本発明のタイヤ用ゴム組成物で使用するカーボンブラックのDstとN2SAの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のタイヤ用ゴム組成物を適用するタイヤは、空気入りタイヤであれば特に限定されるものではなく、例えば乗用車用空気入りタイヤ、トラック・バス用空気入りタイヤ、空気入りランフラットタイヤ等に使用することができる。空気入りランフラットタイヤとしては、左右のサイドウォール部の断面三日月形のゴム補強層を構成したサイド補強方式のランフラットタイヤが挙げられる。図1は、サイド補強方式のランフラットタイヤの一例を示すタイヤ子午線方向の半断面図である。
【0015】
図1において、ランフラットタイヤは、トレッド部1、サイドウォール部2及びビード部3を有し、その内側に2プライのカーカス6が左右一対のビードコア4,4間に、ビードコア4及びビードフィラー5を包み込むように内側から外側に折り返されるように装架され、トレッド部1のカーカス6の外周側に、複数プライ(図では2プライ)からなるベルト層7がタイヤ1周にわたって配置されたラジアル構造になっている。タイヤの最内周側には、インナーライナー層9が配置されている。また、左右のサイドウォール部2,2には、それぞれカーカス6の内側に断面三日月状のゴム補強層8,8が内挿されている。なお、断面三日月状のゴム補強層を内挿する位置は図示の例に限定されるものではなく、2枚のカーカス6の間に内挿するものであってもよい。
【0016】
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、ビードフィラー5及び/又は断面三日月状のゴム補強層8に好適に使用することができる。なおランフラットタイヤ以外の空気入りタイヤのビードフィラーにも好適に使用することができる。
【0017】
本発明のタイヤ用ゴム組成物において、ジエン系ゴムは、タイヤ用ゴム組成物に通常用いられる天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴム等が挙げられる。なかでも天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴムが好ましい。これらジエン系ゴムは、単独又は任意のブレンドとして使用することができる。
【0018】
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、ノボラック型フェノール樹脂及びメチレン供与体を必ず含む。ノボラック型フェノール樹脂及びメチレン供与体を含むことにより、ゴム組成物のゴム硬度及び弾性率を高くし、タイヤにしたときの操縦安定性を維持・向上することができる。
【0019】
本発明では、ノボラック型フェノール樹脂としては、タイヤ用ゴム組成物に通常配合されるものを使用することができる。例えばフェノール、クレゾール、レゾルシン、tert−ブチルフェノールのフェノール類またはこれらの混合物とホルムアルデヒドとを、塩酸、しゅう酸等の酸触媒の存在下において縮合反応させることによって製造したものが例示される。またノボラック型フェノール樹脂を油で変性して得られたノボラック型変性フェノール樹脂が挙げられ、ノボラック型フェノール樹脂の変性に用いられる上記の油の例としては、ロジン油、トール油、カシュー油、リノール酸、オレイン酸、リノレイン酸が挙げられる。なかでも、フェノール樹脂、カシュー変性フェノール樹脂が好ましい。これらノボラック型フェノール樹脂は、単独又は任意の混合物で使用することができる。
【0020】
これらノボラック型フェノール樹脂は、市販品を用いることができる。フェノール樹脂としては、例えば住友化学社製スミカノール620等を例示することができる。カシュー変性フェノール樹脂としては、例えば住友ベークライト社製スミライトレジンPR−YR−170、同PR−150、大日本インキ化学工業社製フェノライトA4−1419等を例示することができる。
【0021】
本発明では、上述したノボラック型フェノール樹脂の硬化剤として、メチレン供与体を使用する。メチレン供与体としては、例えばヘキサメチレンテトラミン及びメチロール化メラミン誘導体が例示される。メチロール化メラミン誘導体としては、ヘキサメトキシメチロールメラミン、ペンタメトキシメチロールメラミン、ヘキサメトキシメチルメラミン、ペンタメトキシメチルメラミン、ヘキサエトキシメチルメラミン、ヘキサキス−(メトキシメチル)メラミン、N,N′,N″−トリメチル−N,N′,N″−トリメチロールメラミン、N,N′,N″−トリメチロールメラミン、N−メチロールメラミンN,N′−(メトキシメチル)メラミン、N,N′,N″−トリブチル−N,N′,N″−トリメチロールメラミン等が挙げられる。なかでもヘキサメチレンテトラミン、ヘキサメトキシメチロールメラミン、ペンタメトキシメチロールメラミン、ヘキサメトキシメチルメラミン、ペンタメトキシメチルメラミンが好ましい。メチレン供与体は、これらを単独あるいは組み合わせて使用することができる。
【0022】
ヘキサメチレンテトラミンとしては、例えば三新化学工業社製サンセラーHT−PO等を例示することができる。ヘキサメトキシメチルメラミン(HMMM)としては、例えばCYTEC INDUSTRIES社製CYREZ 964RPC等を例示することができる。ペンタメトキシメチルメラミン(PMMM)としては、例えばBARA CHEMICAL Co.,LTD.社製スミカノール507A等を例示することができる。
【0023】
本発明において、ノボラック型フェノール樹脂及びメチレン供与体の配合量は、ジエン系ゴム100重量部に対し、ノボラック型フェノール樹脂及びメチレン供与体の合計が1〜50重量部、好ましくは3〜35重量部にする。ノボラック型フェノール樹脂及びメチレン供与体の合計量が1重量部未満であると、ゴム組成物のゴム硬度及び弾性率を十分に高くすることができない。またノボラック型フェノール樹脂及びメチレン供与体の合計量が50重量部を超えると、ゴム組成物の発熱性が大きくなり、タイヤにしたときの転がり抵抗が悪化する。
【0024】
本発明で使用するノボラック型フェノール樹脂とメチレン供与体の重量比は、ノボラック型フェノール樹脂/メチレン供与体が、好ましくは3/1〜30/1、より好ましくは5/1〜20/1にするとよい。ノボラック型フェノール樹脂/メチレン供与体の重量比が3/1より小さいとメチレン供与体の量がフェノール樹脂の量より多すぎるため、メチレン供与体が残存しフェノール樹脂の架橋密度が高くなり過ぎて脆性破壊が起き易くなる。またノボラック型フェノール樹脂/メチレン供与体の重量比が30/1より大きいとメチレン供与体の量が足らず、樹脂の架橋密度が低すぎて効果的でない。
【0025】
本発明のタイヤ用ゴム組成物では、特定の窒素吸着比表面積N2SA及びDBP吸収量を有し、かつN2SAと凝集体のストークス径の質量分布曲線におけるモード径Dstとの関係を限定した新規のカーボンブラックを配合することにより、ゴム組成物のtanδ(60℃)を小さくしながら、引張り強度、引張り破断伸び、ゴム硬度、耐摩耗性などの機械的特性を悪化させることがない。カーボンブラックの配合量は、ジエン系ゴム100重量部に対し30〜100重量部、好ましくは50〜100重量部にする。カーボンブラックの配合量が30重量部未満であると、ゴム組成物のゴム硬度及び弾性率が悪化する。またカーボンブラックの配合量が100重量部を超えると、tanδ(60℃)が大きくなると共に、引張り破断伸びが低下する。
【0026】
本発明で使用するカーボンブラックは、窒素吸着比表面積N2SAが55〜95m2/g、好ましくは55〜85m2/gである。N2SAが55m2/g未満であると、ゴム組成物のゴム硬度、動的弾性率などの機械的特性が低下する。N2SAが95m2/gを超えると、tanδ(60℃)が大きくなる。N2SAは、JIS K6217−2に準拠して、測定するものとする。
【0027】
また、カーボンブラックのDBP吸収量は、110〜160ml/100gであり、好ましくは120〜150ml/100gである。DBP吸収量が110ml/100g未満であるとゴム組成物の補強性能が十分に得られず硬度が低くなりタイヤにしたときの剛性が低下する。またゴム組成物の成形加工性が低下しカーボンブラックの分散性が悪化するのでカーボンブラックの補強性能が十分に得られない。DBP吸収量が160ml/100gを超えると、ゴムが硬くなり過ぎてタイヤとして乗り心地が悪化することになる。また粘度の上昇により加工性が悪化する。DBP吸収量は、JIS K6217−4吸油量A法に準拠して、測定するものとする。
【0028】
本発明で使用するカーボンブラックは、上述したコロイダル特性を有すると共に、凝集体のストークス径の質量分布曲線におけるモード径Dstと窒素吸着比表面積N2SAとを下記の式(1)の関係式で表わしたとき、係数αが1979以上、好ましくは1979〜2450である。
Dst=α(N2SA)-0.61 (1)
(ただし、Dstは凝集体のストークス径の質量分布曲線におけるモード径(nm)、N2SAは窒素吸着比表面積(m2/g)、αは係数である。)
【0029】
カーボンブラックが上述したN2SA及びDBP吸収量を有し、かつ係数αを1979以上にすることにより、ゴム組成物のtanδ(60℃)を小さくしながら、ゴム硬度、動的弾性率などを維持・向上することができる。また係数αの上限は特に限定されるものではないが、カーボンブラックの収率やコストなどの生産性の観点から2450以下にするとよい。本発明において、凝集体のストークス径の質量分布曲線におけるモード径Dstとは、カーボンブラックを遠心沈降させ、光学的に得た凝集体のストークス径の質量分布曲線における最大頻度のモード径をいう。本発明において、DstはJIS K6217−6ディスク遠心光沈降法による凝集体分布の求め方に準拠して、測定するものとする。
【0030】
図2は、本発明で使用するカーボンブラックのDstとN2SAの関係を示すグラフである。図2において、横軸はN2SA(m2/g)、縦軸はDst(nm)である。ASTM規格番号を有する代表的なカーボンブラックを四角印でプロットし、試作により得られたカーボンブラックを丸印及び三角印でプロットした。ここで各プロットに、後述する実施例及び比較例で使用したカーボンブラックCB1〜CB13をそれぞれ参照する数字1〜13を付している。図2に示す通り、従来の規格化されたカーボンブラックブラックのDstとN2SAは、概ね下記式(2)の関係を満たす。
Dst=1650×(N2SA)-0.61 (2)
(ただし、Dstは凝集体のストークス径の質量分布曲線におけるモード径(nm)、N2SAは窒素吸着比表面積(m2/g)を表わす。)
図2では、上記式(2)の関係を点線の曲線で表わした。
【0031】
これに対し、本発明で使用するカーボンブラックでは、Dst及びN2SAは、下記式(3)の曲線(実線)より右上にプロットされる。
Dst=1979×(N2SA)-0.61 (3)
(ただし、Dstは凝集体のストークス径の質量分布曲線におけるモード径(nm)、N2SAは窒素吸着比表面積(m2/g)を表わす。)
【0032】
すなわち本発明では、N2SAが55〜95m2/gの範囲において、Dstが従来のカーボンブラックのDstより大きくした新規のカーボンブラックを使用する。このようなカーボンブラックは、従来のカーボンブラックと比べ、N2SAが同レベルであっても、凝集体のストークス径が大きく、凝集体の形態が球形に近いことを意味する。これにより、ゴムに対する補強性能を高くするため、ゴム組成物のゴム硬度や動的弾性率などの機械的特性を従来レベル以上に向上することができる。
【0033】
上述したコロイダル特性を有するカーボンブラックは、例えば、カーボンブラック製造炉における原料油導入条件、燃料油及び原料油の供給量、燃料油燃焼率、反応時間(最終原料油導入位置から反応停止までの燃焼ガスの滞留時間)などの製造条件を調整して製造することができる。
【0034】
本発明において、カーボンブラックとしては、上述した特定のコロイダル特性を有するカーボンブラックと、その他のカーボンブラックを共に使用することができる。このとき、特定のコロイダル特性を有するカーボンブラックが占める割合が50重量%を超えるものとし、カーボンブラックの合計をジエン系ゴム100重量部に対し、30〜120重量部にする。このようにその他のカーボンブラックを共に配合することにより、ゴム組成物のtanδと機械的特性とのバランスを調整することができる。
【0035】
タイヤ用ゴム組成物には、加硫又は架橋剤、加硫促進剤、各種無機充填剤(乾式シリカ、湿式シリカ、酸化アルミニウム、クレー、炭酸カルシウム等)、各種オイル、老化防止剤、可塑剤などのタイヤ用ゴム組成物に一般的に使用される各種添加剤を配合することができ、かかる添加剤は一般的な方法で混練してゴム組成物とし、加硫又は架橋するのに使用することができる。これらの添加剤の配合量は本発明の目的に反しない限り、従来の一般的な配合量とすることができる。本発明のタイヤ用ゴム組成物は、通常のゴム用混練機械、例えば、バンバリーミキサー、ニーダー、ロール等を使用して、上記各成分を混合することによって製造することができる。
【0036】
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、空気入りタイヤのビードフィラー、ランフラットタイヤにおける断面三日月形のサイド補強ゴム層に好適に使用することができる。これらの部材に本発明のゴム組成物を使用した空気入りタイヤは、走行時の発熱性が小さくなるので、転がり抵抗を小さくし燃費性能を改良することができる。同時に、ゴム組成物のゴム硬度、弾性率の改良により、タイヤにしたときの操縦安定性を従来レベル以上に向上することができる。またランフラットタイヤの左右のサイドウォール部の断面三日月形のゴム補強層に使用すると、通常の走行時には転がり抵抗を小さくし燃費性能を改良しながら、操縦安定性を従来レベル以上に向上することができる。またランフラット走行時には、ランフラット走行性能に優れると共に、サイドウォール部の断面三日月形のゴム補強層の発熱が抑制されるため耐久性能にも優れる。
【0037】
以下、実施例によって本発明をさらに説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0038】
13種類のカーボンブラック(CB1〜CB13)を使用して15種類のゴム組成物(実施例1〜6、比較例1〜9)を調製した。このうち8種類のカーボンブラック(CB1,CB2,CB8〜CB13)は市販グレード、5種類のカーボンブラック(CB3〜CB7)は試作品であり、それぞれのコロイダル特性を表1,2に示した。また図2において、各カーボンブラックCB1〜CB13のDstとN2SAの関係をプロットすると共に、それぞれのカーボンブラックを参照する番号を付した。
【0039】
【表1】

【0040】
【表2】

【0041】
表1,2において、各略号はそれぞれ下記のコロイダル特性を表わす。
・N2SA:JIS K6217−2に基づいて測定された窒素吸着比表面積
・IA:JIS K6217−1に基づいて測定されたよう素吸着量
・CTAB:JIS K6217−3に基づいて測定されたCTAB吸着比表面積
・DBP:JIS K6217−4(非圧縮試料)に基づいて測定されたDBP吸収量
・24M4:JIS K6217−4(圧縮試料)に基づいて測定された24M4−DBP吸収量
・TINT:JIS K6217−5に基づいて測定された比着色力
・Dst:JIS K6217−6に基づいて測定されたディスク遠心光沈降法による凝集体のストークス径の質量分布曲線の最大値であるモード径
・△D50:JIS K6217−6に基づいて測定されたディスク遠心光沈降法による凝集体のストークス径の質量分布曲線において、その質量頻度が最大点の半分の高さのときの分布の幅(半値幅)
・α:Dst及びN2SAを上述した式(1)の関係に当てはめたときの係数α
【0042】
また表1,2において、カーボンブラックCB1,CB2,CB8〜CB13は、それぞれ以下の市販グレードを表わす。
・CB1:東海カーボン社製シーストKHP
・CB2:東海カーボン社製シーストKH
・CB8:東海カーボン社製シースト300
・CB9:キャボットジャパン社製ショウブラック330T
・CB10:新日化カーボン社製ニテロン#10N
・CB11:東海カーボン社製シースト3
・CB12:東海カーボン社製シーストNH
・CB13:東海カーボン社製シースト6
【0043】
カーボンブラックCB3〜CB7の製造
円筒反応炉を使用して、表3に示すように全空気供給量、燃料油導入量、燃料油燃焼率、原料油導入量、反応時間を変えて、カーボンブラックCB3〜CB7を製造した。
【0044】
【表3】

【0045】
タイヤ用ゴム組成物の調製及び評価
上述した13種類のカーボンブラック(CB1〜CB13)を用いて、表4,5に示す配合からなる15種類のゴム組成物(実施例1〜6、比較例1〜9)を調製するに当たり、それぞれ硫黄及び加硫促進剤を除く成分を秤量し、55Lのニーダーで15分間混練した後、そのマスターバッチを放出し室温冷却した。このマスターバッチを55Lのニーダーに供し、硫黄及び加硫促進剤を加え、混合しタイヤ用ゴム組成物を得た。
【0046】
得られた15種類のゴム組成物を使用して空気入りタイヤのビードフィラーを構成するようにして、タイヤサイズが195/65R15の空気入りタイヤを加硫成形した。得られた15種類の空気入りタイヤの転がり抵抗及び操縦安定性を下記に示す方法により評価した。
【0047】
転がり抵抗
得られたタイヤを標準リム(サイズ15×6Jのホイール)に組み付け、JIS D4230に準拠する室内ドラム試験機(ドラム径1707mm)に取り付け、JIS D4230の「6.4高速性能試験A」に記載される高速耐久性の試験に準拠して高速耐久性試験を実施し、試験荷重2.94kN、速度50km/時の抵抗力を測定し、転がり抵抗とした。得られた結果は、比較例1の値の逆数を100とする指数として表4,5の「転がり抵抗」の欄に示した。この指数が大きいほど転がり抵抗が小さく燃費性能が優れていることを意味する。
【0048】
操縦安定性
得られたタイヤを標準リム(サイズ15×6Jのホイール)に組み付け、国産2.0リットルクラスの試験車両に装着し、空気圧230kPaの条件で乾燥路面からなる1周2.6kmのテストコースを実車走行させ、そのときの操縦安定性を専門パネラー3名による感応評価により採点した。得られた結果は、比較例1の値を100とする指数として表4,5の「操縦安定性」の欄に示した。この指数が大きいほど操縦安定性能が優れていることを意味する。
【0049】
【表4】

【0050】
【表5】

【0051】
なお、表4,5において使用した原材料の種類を下記に示す。
NR:天然ゴム、RSS#3
SBR:スチレン−ブタジエンゴム、日本ゼオン社製Nipol 1502
フェノール樹脂1:カシュー変性ノボラック型フェノール樹脂、住友ベークライト社製スミライトレジンPR−YR−170
フェノール樹脂2:未変性のノボラック型フェノール樹脂、住友ベークライト社製PR7031A
メチレン供与体:ヘキサメチレンテトラミン、大内新興化学工業社製ノクセラーH−PO
CB1〜CB13:上述した表1,2に示したカーボンブラック
アロマオイル:ジャパンエナジー社製プロセスX−140
亜鉛華:正同化学工業社製酸化亜鉛3種
ステアリン酸:日油社製ビーズステアリン酸
老化防止剤:フレキシス社製SANTOFLEX6PPD
加硫促進剤:大内新興化学工業社製ノクセラーNS−P
硫黄:四国化成社製ミュークロンOT−20(硫黄分80重量%)
【0052】
表4から明らかなように実施例1〜6の空気入りタイヤは、低転がり抵抗及び操縦安定性が従来レベル以上に向上することが確認された。
【0053】
表4から明らかなように、比較例1の空気入りタイヤは、カーボンブラックCB9のDBP吸収量が110ml/100g未満かつ式(1)の係数αが1979未満であるため、実施例1〜4の空気入りタイヤに比べ低転がり抵抗及び操縦安定性が劣る。比較例2の空気入りタイヤは、カーボンブラックCB3のDBP吸収量が160ml/100gを超えかつ係数αが1979未満であるため、操縦安定性が劣る。
【0054】
表5から明らかなように、比較例3,4,8の空気入りタイヤは、カーボンブラックCB1,CB2,CB12の式(1)の係数αが1979未満であるため、低転がり性及び操縦安定性を同時に改良することができない。
【0055】
比較例5,7の空気入りタイヤは、カーボンブラックCB8,CB11のDBP吸収量が110ml/100g未満かつ係数αが1979未満であるため、低転がり抵抗を小さくすることができず更に操縦安定性能を向上させることができない。
【0056】
比較例6の空気入りタイヤは、カーボンブラックCB10のN2SAが55m2/g未満かつ係数αが1979未満であるため、低転がり性は良いが、操縦安定性能に劣る。
【0057】
比較例9の空気入りタイヤは、カーボンブラックCB13のN2SAが95m2/gを超えかつ係数αが1979未満であるため、低転がり抵抗を小さくすることができない。
【符号の説明】
【0058】
1 トレッド部
2 サイドウォール部
3 ビード部
4 ビードコア
5 ビードフィラー
6 カーカス
7 ベルト層
8 ゴム補強層
9 インナーライナー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジエン系ゴム100重量部に対し、ノボラック型フェノール樹脂及びメチレン供与体を配合しその合計が1〜50重量部、窒素吸着比表面積N2SAが55〜95m2/g、DBP吸収量が110〜160ml/100gのカーボンブラックを30〜100重量部配合すると共に、前記カーボンブラックの凝集体のストークス径の質量分布曲線におけるモード径Dst(nm)と、前記N2SAとの関係を下記の式(1)
Dst=α(N2SA)-0.61 (1)
(ただし、Dstは凝集体のストークス径の質量分布曲線におけるモード径(nm)、N2SAは窒素吸着比表面積(m2/g)、αは係数である。)
で表わしたとき、係数αが1979以上であることを特徴とするタイヤ用ゴム組成物。
【請求項2】
前記係数αが、1979≦α≦2450であることを特徴とする請求項1に記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項3】
前記ノボラック型フェノール樹脂がカシューオイルで変性された樹脂であることを特徴とする請求項1又は2に記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項4】
請求項1,2又は3に記載のタイヤ用ゴム組成物でビードフィラーを構成したことを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項5】
請求項1,2又は3に記載のタイヤ用ゴム組成物で、ランフラットタイヤの左右のサイドウォール部の断面三日月形のゴム補強層を構成したことを特徴とする空気入りタイヤ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−251017(P2012−251017A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−122640(P2011−122640)
【出願日】平成23年5月31日(2011.5.31)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】