説明

タイヤ耐久試験方法

【課題】市場でのタイヤ故障により近い状態でタイヤ故障を再現することが可能なタイヤ耐久試験方法を提供する。
【解決手段】空気入りタイヤ1に所定の試験荷重を加えながら所定の試験速度でドラム3上を走行させるドラム耐久試験を行う際に、試験荷重と試験速度の少なくとも一方を周期的に上下に変動させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤ耐久試験方法に関し、更に詳しくは、市場でのタイヤ故障により近い状態でタイヤ故障を再現することができるタイヤ耐久試験方法に関する。
【背景技術】
【0002】
市場でのタイヤ故障を再現し、耐久性を評価するタイヤ耐久試験として、JIS D4230に規定される試験が周知である。また、このJISに規定されるタイヤ耐久試験を改良したタイヤ耐久試験方法が提案されている(例えば、特許文献1,2参照)。
【0003】
ところで、市場で使用されるタイヤの故障は、機械的な破壊要因と内部温度の上昇による熱的な破壊要因との複合によってもたらされる場合が殆どである。しかるに、上述したJISなどに規定されるタイヤ耐久試験方法では、熱的な破壊要因が大きく作用し、機械的な破壊要因の影響が低い傾向にある。即ち、市場で故障したタイヤと、上述したタイヤ耐久試験方法で故障したタイヤを調べてみると、ゴムの熱酸化劣化の度合いが市場で故障したタイヤの方が低い傾向にあり、市場でのタイヤ故障を高い精度で必ずしも再現しているとは言えず、改善の余地が残されていた。
【特許文献1】特開2003−161674号公報
【特許文献2】特開2004−37286号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、市場でのタイヤ故障により近い状態でタイヤ故障を再現することが可能なタイヤ耐久試験方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成する本発明のタイヤ耐久試験方法は、空気入りタイヤに所定の試験荷重を加えながら所定の試験速度でドラム上を走行させるドラム耐久試験を行う際に、前記試験荷重と試験速度の少なくとも一方を周期的に上下に変動させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
上述した本発明によれば、試験速度や試験荷重を周期的に上下動させることで、試験を行う空気入りタイヤ内の最大応力・歪みを増大させながら内部温度の上昇を抑えることができるため、機械的な破壊要因と熱的な破壊要因とを従来より市場に近づけた状態で作用させることができるようになる。その結果、試験におけるゴムの熱酸化劣化の度合いが市場のそれに近づき、市場でのタイヤ故障により近い状態でタイヤ故障を再現し、耐久性を評価することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明の実施の形態について添付の図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本発明のタイヤ耐久試験方法の一実施形態を示し、1は試験を行う空気入りタイヤ(試験タイヤ)、2は試験タイヤ1を加熱するためのオーブン、3はドラム耐久試験を行うためのドラムである。
【0008】
この図1に示す本発明のタイヤ耐久試験方法は、乾熱前処置を実施した後、ドラム耐久試験を行う例を示している。先ず、図1(a)に示すように、試験タイヤ1をホイールWのリムにリム組し、気体を充填する。充填する気体としては、空気でもよいが、酸化劣化を促進し、試験期間を短縮するため、好ましくは、酸素分圧の割合を空気より高くした酸素含有気体を充填するのがよい。酸素分圧の割合としては、好ましくは30%以上、より好ましくは60%以上がよい。酸素濃度は高ければ高いほど劣化を促進できるため、酸素分圧の割合の上限値は可能であれば100%であってもよい(実際上は100%未満)。
【0009】
なお、ここで言う酸素分圧とは、充填気体の全圧力に対する酸素の分圧を示すものである。例えば、通常のやり方でタイヤをリム組みし、酸素を300kPa充填した場合、タイヤ内の1気圧(100kP)の空気に含まれる酸素分(20kPa)を加え、このタイヤ内の酸素分圧は320kPaとなり、酸素分圧の割合は80%となる。但し、空気中に含有される酸素の量は20%とする。
【0010】
次いで、図1(b)に示すように、気体を充填した試験タイヤ1をオーブン2内で加熱する乾熱前処理を実施する。ここで行う乾熱前処理は、従来と同様にして行われる。例えば、酸素分圧の割合を80%にした酸素含有気体を充填した場合には、80℃程度で5日間程オーブン2内で加熱する。加熱後、試験タイヤ1をオーブン2から取り出し、試験タイヤ1内の気体を排出する。
【0011】
乾熱前処理が終了した試験タイヤ1に、従来と同様にして、空気または酸素分圧の割合を空気より高くした気体(酸素分圧の割合が30%以上、より好ましくは60%以上の酸素含有気体)を充填した後、室内に設置したドラム試験機に取り付け、所定の試験荷重を試験タイヤ1に加えながら所定の試験速度で回転するドラム3上をタイヤ故障(ベルト層のエッジセパレーション)が発生するまで走行させるドラム耐久試験を行う(図1(c)参照)。
【0012】
高速耐久性を試験する場合には、試験荷重を一定にする一方、試験速度を段階的に増加させる。その際、本発明では、図2に示すように、各段階における試験速度を周期的に上下に変動させるようにする。上下に変動させる幅は、使用される状況や地域(市場)に応じて適宜設定することができる。一般的には、試験速度が増加しても変動幅は一定とするが、速度の増加につれて変動幅を増加させてもよい。
【0013】
荷重耐久性を試験する場合には、試験速度を一定にする一方、試験荷重を段階的に増加させる。その際、本発明では、図3に示すように、各段階における試験荷重を周期的に上下に変動させるようにする。上下に変動させる幅は、上記と同様に、使用される状況や地域(市場)に応じて適宜設定することができる。一般的には、試験荷重が増加しても変動幅は一定とするが、荷重の増加につれて変動幅を増加させてもよい。
【0014】
周期的な変動の仕方としては、図2,3に示すように、サイン波状に変動するものに限定されず、矩形波状や鋸波状など、変動を一定の周期で繰り返すものであればよい。
【0015】
両試験とも、各段階での走行時間は、少なくとも5時間確保するのがよい。この時間が短いと、即ち、試験速度あるいは試験荷重を短い時間で増加させると、タイヤ故障時におけるゴムの劣化度合いが、実使用における経年劣化のレベル(市場レベル)より小さく、高速走行或いは荷重に伴う熱的要因でタイヤ故障が発生するため、評価結果が実使用における評価結果と異なる結果となり易い。
【0016】
各段階の試験速度あるいは試験荷重での走行時間は、市場レベルの熱酸化疲労により近づけるため、好ましくは6時間以上にするのがよい。上限値としては、耐久試験の評価精度及び試験効率の点から6日以内、好ましくは5日(120時間)以内にするのがよい。
【0017】
各段階で周期的に上下動させながら、試験速度あるいは試験荷重を段階的に増加させ、タイヤ故障が発生した段階でドラム耐久試験が終了する。
【0018】
図4は、本発明のタイヤ耐久試験方法の他の実施形態を示し、ここでは乾熱前処置を実施することなく、ドラム耐久試験を行う例を示している。先ず、図4(a)に示すように、試験タイヤ1をホイールWのリムにリム組し、気体を充填するが、その際には酸化劣化を促進するため、酸素分圧の割合が30%以上、好ましくは60%以上の酸素含有気体を充填する。次いで、図4(b)に示すようにドラム耐久試験を行うが、これは上記と同様である。
【0019】
ドラム耐久試験において、試験速度や試験荷重を上げると、試験タイヤ内の応力・歪みが増大する。そのまま走行し続けると、タイヤの発熱量の増大に伴い内部温度が上昇し、タイヤが熱的な故障要因で故障し易くなるが、上述した本発明では、試験速度や試験荷重を周期的に上下動させることで、試験タイヤ1内の最大応力・歪みを増大させながら内部温度の上昇を抑えることができるので、機械的な破壊要因と熱的な破壊要因とを従来より市場に近づけた状態で作用させることが可能になる。そのため、試験におけるゴムの熱酸化劣化の度合いが市場のそれに近づき、市場でのタイヤ故障により近い状態でタイヤ故障を再現し、耐久性を評価することが可能になる。
【0020】
本発明において、ドラム耐久試験中、試験タイヤ1には、スリップ角及び/またはキャンバ角を付与するのが、市場での走行環境に近い状態となるので好ましい。より好ましくは、スリップ角及び/またはキャンバ角を上記周期的変動に同期させて周期的に変動させるのがよい。スリップ角及び/またはキャンバ角を同期的に変動させる場合、試験速度が増加領域にある時に、図5(a)に示すようにスリップ角及び/またはキャンバ角を一方側(図の+側)に向ける(傾ける)、あるいは図5(b)に示すように他方側(図の−側)に向ける(傾ける)ことができる。
【0021】
本発明は、上述した実施形態のタイヤ耐久試験方法に限定されず、試験タイヤ1に所定の試験荷重を加えながら所定の試験速度でドラム3上を走行させるドラム耐久試験を行うものであれば、いずれにも適用することができる。例えば、試験速度や試験荷重を段階的に増加させずに一定にして行う耐久試験であってもよく、また、より過酷なタイヤ耐久試験として、試験荷重と試験速度の両者を段階的に増加させるようにした試験方法にも用いることができる。その場合、試験荷重と試験速度の少なくとも一方を周期的に変動させるようにすればよい。
【実施例1】
【0022】
タイヤサイズを265/70R16 112Sで共通にした各試験タイヤを、表1に示す条件でそれぞれタイヤ高速耐久試験を行ったところ、表1に示す結果を得た。なお、表1に記載される規格最大荷重とは、JATMAに規定される最大負荷能力の荷重である。また、スリップ角及びキャンバ角はそれぞれ0°である。
【0023】
【表1】

【0024】
表1から、本発明の方法を採用した実施例1〜3は、故障発生時のゴムの熱酸化疲労の度合いを実使用における経年劣化のレベル(市場レベル)と同レベルにすることができ、従来の方法を採用した比較例1より市場でのタイヤ故障に近い状態でタイヤ故障を再現できることがわかる。なお、故障発生速度が低下しているが、これは機械的な破壊要因が増加したことを意味する。
【実施例2】
【0025】
タイヤサイズを265/70R16 LTで共通にした各試験タイヤを、表2に示す条件でそれぞれタイヤ荷重耐久試験を行ったところ、表2に示す結果を得た。なお、表2に記載される規格最大荷重とは、実施例1と同様にJATMAに規定される最大負荷能力の荷重である。また、スリップ角及びキャンバ角もそれぞれ0°である。
【0026】
【表2】

【0027】
表2から、本発明の方法を採用した実施例4〜6も、故障発生時のゴムの熱酸化疲労の度合いを実使用における経年劣化のレベル(市場レベル)と同レベルにできることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】(a)〜(c)は、本発明のタイヤ耐久試験方法の一実施形態を示す説明図である。
【図2】周期的に変動する試験速度の例を示すグラフ図である。
【図3】周期的に変動する試験荷重の例を示すグラフ図である。
【図4】(a),(b)は、本発明のタイヤ耐久試験方法の他の実施形態を示す説明図である。
【図5】(a),(b)は、スリップ角及び/またはキャンバ角を試験速度や試験荷重の周期的変動に同期させて周期的に変動させる例を示すグラフ図である。
【符号の説明】
【0029】
1 空気入りタイヤ(試験タイヤ)
2 オーブン
3 ドラム
W ホイール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気入りタイヤに所定の試験荷重を加えながら所定の試験速度でドラム上を走行させるドラム耐久試験を行う際に、前記試験荷重と試験速度の少なくとも一方を周期的に上下に変動させるタイヤ耐久試験方法。
【請求項2】
前記試験荷重と試験速度の少なくとも一方を段階的に増加させ、該段階的に増加させた少なくとも一方を各段階で周期的に上下に変動させる請求項1に記載のタイヤ耐久試験方法。
【請求項3】
各段階での走行時間が少なくとも5時間である請求項2に記載のタイヤ耐久試験方法。
【請求項4】
各段階での走行時間が6〜120時間である請求項3に記載のタイヤ耐久試験方法。
【請求項5】
前記空気入りタイヤに酸素分圧の割合を空気より高くした酸素含有気体を充填した後加熱する乾熱前処理を実施した後、前記ドラム耐久試験を行う請求項1乃至4のいずれか1項に記載のタイヤ耐久試験方法。
【請求項6】
前記ドラム耐久試験の際に酸素分圧の割合が30%以上の酸素含有気体を前記空気入りタイヤに充填する請求項1乃至5のいずれか1項に記載のタイヤ耐久試験方法。
【請求項7】
前記空気入りタイヤのスリップ角及び/またはキャンバ角を前記周期的変動に同期させて周期的に変動させる請求項1乃至6のいずれか1項に記載のタイヤ耐久試験方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−78453(P2007−78453A)
【公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−265266(P2005−265266)
【出願日】平成17年9月13日(2005.9.13)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】