説明

タイヤ

【課題】耐久性に優れ、温度上昇による複素弾性率の低下を抑制することができ、広い速度範囲における操縦安定性を向上させることができ、さらに、安価なタイヤを提供する。
【解決手段】ゴム成分100重量部に対して、木粉を0.5〜40重量部、および硬化性樹脂を0.5〜20重量部含有するゴム組成物を用いたタイヤ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車の装備や性能の著しい充実に加え、道路網が拡充発展したことで、タイヤについても常に安定した操縦安定性、とくに、高速走行時における高い安定性が要求されてきている。操縦安定性を向上させるには、トレッド部またはビード部を高剛性化すればよいことが知られている。
【0003】
たとえば、ビード部を高剛性化させる手法としては、ビード部を補強するビードエイペックス配合に多量のカーボンブラックおよびフェノール系熱硬化性樹脂を用いる方法が知られている。しかし、カーボンブラックを充填するにしたがい、ムーニー粘度が増大し加工性が悪化したり、フェノール系熱硬化性樹脂を用いると、高温使用時で軟化したりするという問題があった。
【0004】
また、ビード部を高剛性化させる手法としては、紙繊維を充填する方法も知られている。しかし、紙繊維をゴム中に分散させるためには、混練り時間を長く確保する必要があり、コストが高くなってしまったり、生産性が悪化したりするという問題があった。
【0005】
特許文献1には、ゴム成分および紙成分を主成分とする添加剤を所定量含有する硬質ゴム組成物が開示されている。しかし、該文献で開示されているのは、パイプ、パッキン、容器などに使用されるものであり、タイヤに適用するという意図はなく、さらに、紙成分を主成分とする添加剤を多量に充填しているため、分散性を確保するためには、練り時間を長くしなければならないため、加工性に劣るという問題があった。
【0006】
【特許文献1】特開2001−26679号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、耐久性に優れ、温度上昇による複素弾性率の低下を抑制することができ、広い速度範囲における操縦安定性を向上させることができ、さらに、安価なタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、ゴム成分100重量部に対して、木粉を0.5〜40重量部、および硬化性樹脂を0.5〜20重量部含有するゴム組成物を用いたタイヤに関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ゴム成分、木粉および硬化性樹脂を所定量含有することで、耐久性に優れ、温度上昇による複素弾性率の低下を抑制することができ、広い速度範囲における操縦安定性を向上させることができ、さらに、安価なタイヤを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明のタイヤは、ゴム組成物を含有する。
【0011】
前記ゴム組成物は、ゴム成分、木粉および硬化性樹脂を含有する。
【0012】
ゴム成分としては、とくに制限はなく、たとえば、天然ゴム(NR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、イソプレンゴム(IR)、ブチルゴム(IIR)、ハロゲン化ブチルゴム(X−IIR)、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、イソモノオレフィンとパラアルキルスチレンとの共重合体のハロゲン化物などがあげられ、これらのゴム成分は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なかでも、NRは、強度に優れ、SBRは、剛性を向上させることができるという理由から、NRおよび/またはSBRが好ましく、NRおよびSBRがより好ましい。
【0013】
木粉としては、とくに制限はなく、たとえば、栂、松、杉、ヒノキ、ラワンなどの一般的な天然木材から得られるものがあげられ、これらの木粉は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0014】
木粉としては、繊維状であることが好ましい。また、タイヤのラジアル方向の剛性を維持したまま、タイヤの周方向の剛性を向上させることで、操縦安定性および乗り心地を高次元にバランスよく向上させることができるという理由から、タイヤの周方向に配向させることが好ましい。
【0015】
木粉の成形方法としては、粗粉砕、中粉砕、微粉砕の各段階で異なるが、とくに制限はなく、上記天然木材や建築廃材などを、ロールミル、インパクトミルなどの破砕機を用いて粉砕する方法などがあげられる。
【0016】
木粉の平均繊維径(D)は0.5μm以上が好ましく、1μm以上がより好ましい。木粉のDが0.5μm未満では、充分な補強効果が得られない傾向がある。また、木粉のDは100μm以下が好ましく、80μm以下がより好ましく、60μm以下がさらに好ましい。木粉のDが100μmをこえると、ゴム組成物中における木粉の分散不良やゴム組成物の物性の不均一が引き起こされる傾向がある。
【0017】
繊維状の木粉を使用する場合、木粉の平均繊維長(L)は10μm以上が好ましく、50μm以上がより好ましい。木粉のLが10μm未満では、充分な補強効果が得られない傾向がある。また、木粉のLは1000μm以下が好ましく、900μm以下がより好ましい。木粉のLが1000μmをこえると、ゴム組成物中における木粉の分散不良やゴム組成物の物性の不均一が引き起こされる傾向がある。
【0018】
繊維状の木粉を使用する場合、木粉の平均アスペクト比(L/D)は10以上が好ましく、20以上がより好ましい。木粉の平均アスペクト比が10未満では、充分な補強効果が得られない傾向がある。また、木粉の平均アスペクト比は2000以下が好ましく、1800以下がより好ましい。木粉の平均アスペクト比が2000をこえると、ゴム組成物中における木粉の分散不良やゴム組成物の物性の不均一が引き起こされる傾向がある。
【0019】
木粉の含水率は10重量%以下が好ましく、8重量%以下がより好ましい。木粉の含水率が10重量%をこえると、脱水処理時間が長くなるため生産性が低下する傾向がある。また、脱水処理をしないと、正確な木粉の計量ができなくなる傾向がある。
【0020】
木粉の含有量は、ゴム成分100重量部に対して0.5重量部以上、好ましくは1重量部以上である。木粉の含有量が0.5重量部未満では、木粉を添加することによる効果が小さい。また、木粉の含有量は40重量部以下、好ましくは35重量部以下である。木粉の含有量が40重量部をこえると、強度が低下する。
【0021】
硬化性樹脂としては、たとえば、アルキルフェノール樹脂、オイル変性フェノール樹脂、カシュー変性フェノール樹脂などのフェノール系熱硬化性樹脂などがあげられ、これらの硬化性樹脂は単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なかでも、高強度であるという理由から、カシュー変性フェノール樹脂がより好ましい。
【0022】
硬化性樹脂の含有量は、ゴム成分100重量部に対して0.5重量部以上が好ましく、1重量部以上がより好ましい。硬化性樹脂の含有量が0.5重量部未満では、硬化性樹脂を添加することによる効果が小さい傾向がある。また、硬化性樹脂の含有量は20重量部以下が好ましく、15重量部以下がより好ましい。硬化性樹脂の含有量が20重量部をこえると、加工性が悪化し、コストが増大する傾向がある。
【0023】
前記ゴム組成物は、他にも、補強用充填剤を含有することができる。
【0024】
補強用充填剤としては、とくに制限はなく、たとえば、カーボンブラック、シリカ、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、クレー、タルク、アルミナなどがあげられ、これらの補強用充填剤は、とくに制限はなく、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよいが、とくにカーボンブラックおよび/またはシリカが好ましい。
【0025】
カーボンブラックとしては、とくに制限はなく、たとえば、SAF、ISAF、IISAF、HAF、FEF、GPFなどの通常タイヤ工業で使用されるものを使用することができる。
【0026】
シリカとしては、乾式法または湿式法により調製されたものがあげられるが、とくに制限はない。
【0027】
前記ゴム組成物に補強用充填剤を含有する場合、補強用充填剤の含有量は、ゴム成分100重量部に対して30重量部以上が好ましく、40重量部以上がより好ましい。補強用充填剤の含有量が30重量部未満では、耐久性が低下する傾向がある。また、補強用充填剤の含有量は140重量部以下が好ましく、120重量部以下がより好ましい。補強用充填剤の含有量が140重量部をこえると、加工性が悪化する傾向がある。
【0028】
前記ゴム組成物には、前記ゴム成分、木粉、硬化性樹脂および補強用充填剤以外にも、通常タイヤ工業で使用される配合剤、たとえば、オイル、ワックス、各種老化防止剤、粘着付与樹脂、ステアリン酸、酸化亜鉛、硫黄などの加硫剤、各種加硫促進剤などを必要に応じて適宜含有してもよい。
【0029】
前記ゴム組成物の70℃における複素弾性率(E*)は10MPa以上が好ましく、12MPa以上がより好ましい。70℃におけるE*が10MPa未満では、操縦安定性が悪化する傾向がある。また、70℃におけるE*は300MPa以下が好ましく、280MPa以下がより好ましい。70℃におけるE*が300MPaをこえると、乗り心地が悪化する傾向がある。
【0030】
前記ゴム組成物の100℃におけるE*は10MPa以上が好ましく、12MPa以上がより好ましい。100℃におけるE*が10MPa未満では、操縦安定性が悪化する傾向がある。また、100℃におけるE*は300MPa以下が好ましく、280MPa以下がより好ましい。100℃におけるE*が300MPaをこえると、乗り心地が悪化する傾向がある。
【0031】
本発明のタイヤは、通常の方法で製造できる。すなわち、前記配合剤を必要に応じて適宜配合した前記ゴム組成物を、未加硫の状態でタイヤの各部材の形状に成形し、貼り合わせて未加硫タイヤを形成し、該未加硫タイヤを加熱加圧することにより製造することができる。
【0032】
本発明のタイヤを製造する際に、前記ゴム組成物を用いる部材としては、トレッド、ビードエイペックス、サイドウォール、クリンチなど、とくに制限はないが、高剛性の配合にするのに好適であるという理由から、ビードエイペックスが好ましい。
【実施例】
【0033】
実施例にもとづいて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0034】
以下、実施例および比較例で使用した各種薬品をまとめて説明する。
天然ゴム:RSS♯3(タイ製)
スチレンブタジエンゴム(SBR):住友化学(株)製のSBR1502
カーボンブラック:三菱化学(株)製のダイアブラックH(N330)
シリカ:デグッサ・ヒュルス(株)製のウルトラジルVN3
シランカップリング剤:デグッサ・ヒュルス(株)製のSi69(ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド)
木粉:(株)カジノ製のセルロシンNo.100(材質:栂、形状:繊維状、平均繊維径:25μm、平均繊維長:500μm、平均アスペクト比:20、含水率:5重量%)
紙繊維:三共精粉(株)製のミルファイブ♯100(平均繊維径:10μm、平均繊維長:1000μm、平均アスペクト比:100)
硬化性樹脂:住友デュレズ(株)製のスミライトレジンPR12686(カシューオイル変性フェノール樹脂)
アロマオイル:出光興産(株)製のダイアナプロセスPS32
ワックス:大内新興化学工業(株)製のサンノックワックス
老化防止剤:精工化学(株)製のオゾノン6C(N−1,3−ジメチルブチル−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン)
粘着付与樹脂:日本触媒(株)製のSP1068
ステアリン酸:日本油脂(株)製の桐
酸化亜鉛:東邦亜鉛(株)製の銀嶺R
硫黄:鶴見化学工業(株)製の硫黄
加硫促進剤NS:大内新興化学工業(株)製のノクセラーNS(N−tert−ブチル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド)
加硫促進剤H:大内新興化学工業(株)製のノクセラーH(ヘキサメチレンテトラミン)
【0035】
実施例1〜7および比較例1〜8
表1および2に示す配合処方にしたがい、1.7Lのバンバリーミキサーを用いて、硫黄および加硫促進剤以外の薬品を150℃の条件下で4分間混練りし、混練り物を得た。次に、2軸ロールを用いて、得られた混練り物に硫黄および加硫促進剤を添加し、80℃の条件下で4分間混練りし、未加硫ゴム組成物を得た。さらに、得られた未加硫ゴム組成物を150℃および25kgfの条件下で35分間プレス加硫し、実施例1〜7および比較例1〜8の加硫ゴム組成物を作製した。なお、実施例1〜6および比較例1〜6(表1)は、ビードエイペックス用ゴム組成物であり、実施例7および比較例7〜8(表2)はベーストレッド用ゴム組成物である。
【0036】
(加工性)
実施例1〜6および比較例1〜6のゴム組成物において、前記未加硫ゴム組成物から所定のサイズの試験片を作成し、JIS K 6300「未加硫ゴムの試験方法」に準じて、(株)島津製作所製のムーニー粘度試験機を用い、1分間の予熱によって熱せられた130℃の温度条件にて、小ローターを回転させ、4分間経過した時点での未加硫ゴム組成物のムーニー粘度を測定し、下記計算式により、比較例1の加工性指数を100とし、実施例1〜6および比較例2〜5のムーニー粘度を指数表示した。
(加工性指数)=(比較例1のムーニー粘度)/(各配合のムーニー粘度)×100
【0037】
(複素弾性率)
得られた加硫ゴム組成物を4mm×30mm×1.5mmのサイズの加硫ゴム試験片に成形し、(株)岩本製作所製の粘弾性スペクトロメーターを用いて、初期歪10%、動歪±1%および周波数10Hzの条件下で、70℃および100℃における各配合の加硫ゴム試験片の複素弾性率(E*)を測定した。そして、その結果から、E*の低下率(70℃におけるE*/100℃におけるE*)を算出した。なお、E*の低下率が小さいほど、温度上昇によるE*の低下を抑制でき、好ましいことを示す。
【0038】
(中低速時の操縦安定性)
前記未加硫ゴム組成物を、実施例1〜6および比較例1〜6ではビードエイペックスの形状に、実施例7および比較例7〜8ではベーストレッドの形状に成形し、他のタイヤ部材とともに貼りあわせ、未加硫タイヤを形成した。さらに、該未加硫タイヤを150℃および25kgfの条件下で35分間プレス加硫することにより、実施例1〜7および比較例1〜8の試験用タイヤ(サイズ:195/65R15)を製造した。
【0039】
製造したタイヤを車に装着させ、ドライアスファルトのテストコースにて、40〜100km/hで走行させ、テストドライバーによるハンドル応答性、剛性感およびグリップ性のフィーリング試験にて、操縦安定性の評価を行った。なお、評価は、5点満点(5:非常に良好、4:良好、3:普通、2:やや劣る、1:劣る)で行い、比較例1を100とし、指数表示した。また、数値が大きいほど、中低速時の操縦安定性に優れることを示す。
【0040】
(高速時の操縦安定性)
速度を200km/hまで上昇させたこと以外は、中低速時の操縦安定性と同様の方法で、テストドライバーによるレーンチェンジ性、ハンドル応答性および剛性感のフィーリング試験にて、操縦安定性の評価を行った。なお、評価は、5点満点(5:非常に良好、4:良好、3:普通、2:やや劣る、1:劣る)で行い、3人のドライバーの平均値を算出し、比較例1を100とし、指数表示した。また、数値が大きいほど、高速時の操縦安定性に優れることを示す。
【0041】
(耐久性)
製造した試験用タイヤを80℃のオーブンに1週間入れた後、内圧200kPaおよび荷重340kgf(約3334.278N)の条件下で、時速80km/hで30000km走行させた。この際、タイヤが損傷せずに完走できれば合格(○)、タイヤが損傷し、完走できなければ不合格(×)とした。
【0042】
ビードエイペックス用ゴム組成物についての上記試験の評価結果を表1に示す。
【0043】
【表1】

【0044】
比較例1は、木粉を含有せず、硬化性樹脂を含有する従来の配合のビードエイペックス用ゴム組成物である。
【0045】
木粉および硬化性樹脂を所定量含有する実施例1〜6では、耐久性に優れ、温度上昇による複素弾性率の低下を抑制することができ、広い速度範囲における操縦安定性を向上させることができた。なお、安価な木粉を使用しているため、より安価にタイヤを製造することができた。
【0046】
比較例2では、木粉の含有量が多すぎるため、耐久性が悪化した。
【0047】
比較例3では、硬化性樹脂の含有量が多すぎるため、耐久性が悪化した。
【0048】
比較例4および5では、硬化性樹脂を含有しないため、耐久性が悪化し、操縦安定性が低下した。とくに、比較例4では、木粉も含有しないため、操縦安定性が著しく低下した。
【0049】
ベーストレッド用ゴム組成物についての上記試験の評価結果を表2に示す。
【0050】
【表2】

【0051】
比較例7は、木粉および硬化性樹脂を含有しない従来の配合のベーストレッド用ゴム組成物である。
【0052】
木粉および硬化性樹脂を所定量含有する実施例7では、耐久性に優れ、温度上昇による複素弾性率の低下を抑制することができ、広い速度範囲における操縦安定性を向上させることができた。なお、安価な木粉を使用しているため、より安価にタイヤを製造することができた。
【0053】
比較例8では、木粉を含有しないため、温度上昇による複素弾性率の低下を抑制することができなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム成分100重量部に対して、
木粉を0.5〜40重量部、および
硬化性樹脂を0.5〜20重量部含有するゴム組成物を用いたタイヤ。

【公開番号】特開2008−50431(P2008−50431A)
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−226508(P2006−226508)
【出願日】平成18年8月23日(2006.8.23)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)
【Fターム(参考)】