説明

タイル床仕上げ構造

【課題】割れ欠けなどの損傷を生じることがなく、しかも施工性に優れた乾式工法によるタイル床仕上げ構造を提供する。
【解決手段】床下地の表面に、板状のタイルを複数枚、乾式工法によって敷設したタイル床仕上げ構造であって、前記床下地は、その表面が全体としてフラットに形成されるとともに、床下地の表面と、タイルの裏面との間には、部分的な隙間が形成され、前記タイルは、その吸水率が1%を超えることを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベランダ、テラス、玄関、アプローチなどの床仕上げに用いられて、タイルに割れ、欠けなどの欠損が生じにくく、耐久性に優れたタイル床仕上げ構造に関する。
【背景技術】
【0002】
各種仕上面に汎用される陶磁器タイルは、一般に曲げ応力を伴なう衝撃荷重に弱い。そのため、硬い重量物を誤って床上に落とした時に大きな応力が発生する床面の仕上げとして、曲げ応力が発生し易い乾式工法を採用すると、割れ欠けを生じやすく、見栄えを低下させるとともに、補修工事を頻繁に行なう必要があった。従って床のタイル仕上げには、タイルの裏面全面を下地モルタルによって固定する、所謂湿式工法を用いて施工している。この湿式工法を用いると、重量物落下などによる衝撃荷重を受けても、これを分散して受けることができるため、曲げ応力が発生し難い。更にこの湿式工法における施工性、及び強度を改善するため、ポリアミド系繊維など特殊補強繊維を配合したモルタルを用いる提案がなされている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2003−97021号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、湿式工法によるタイル工事は、熟練が要求されるとともに施工品質にバラツキがあり、更にはモルタルの配合、養生などの煩雑な工程が多く含まれることから施工性が悪く、工期が長引くとともにコストが高くなるという問題があった。
【0005】
本発明は、吸水率が1%を超えるタイルを採用することを基本とし、割れ欠けなどの損傷を生じることがなく、しかも施工性に優れた乾式工法を用いたタイル床仕上げ構造の提供を課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は前記課題解決に向けて、各種タイル仕上げ仕様に関し、試作と施工実験を繰り返し行なった。その結果せっ器質タイル、及び陶器質タイルを含む吸水率が1%を超える領域のタイルは、耐衝撃性に優れ、これを乾式工法による床仕上げに用いても割れ欠けなどの損傷を生じることが少ないことを見出し、本発明を案出するに至った。そして請求項1に係る発明では、床下地の表面に、板状のタイルを複数枚、乾式工法によって敷設したタイル床仕上げ構造であって、前記床下地は、その表面が全体としてフラットに形成されるとともに、床下地の表面と、タイルの裏面との間には、部分的な隙間が形成され、前記タイルは、その吸水率が1%を超えることを特徴とする。
【0007】
請求項2に係る発明は、前記乾式工法は、床下地の表面と、タイルの裏面との間に棒状塗布された接着剤によりタイルを床下地に接着する接着工法であって、前記隙間は、棒状塗布された接着剤の間の空隙により形成されることを特徴とする。
【0008】
請求項3に係る発明は、前記乾式工法は、予めユニット枠体にタイルを配置したタイルユニットを床下地に固着してタイルを床下地に敷設するユニット工法であって、前記隙間は、ユニット枠体によって床下地から持上げられて固着されたタイル裏面と、床下地との間隙により形成されることを特徴とする。
【0009】
請求項4に係る発明は、前記隙間は、床下地の表面、タイルの裏面の少なくとも一方に凹設される排水溝によって形成され、請求項5に係る発明では、前記タイルは、廃ガラスタイルであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
請求項1に係る発明においては、全体がフラットに形成された床下地表面と、タイルの裏面との間に部分的な隙間が形成されるため、落下物衝突による衝撃によって、タイルに大きな曲げ応力が発生する。しかし、吸水率が1%を超えるタイルは、セルフクラッシュし易い物性を有することから衝撃吸収能力が大きく、その結果割れ、欠けなどの破損を生じることがなく、床面の仕上げとして長期間の使用が可能となる。
【0011】
請求項2に係る発明のように、タイル裏面に棒状塗布した接着剤によって、タイルを床下地に接着固定して敷設すると、作業に熟練を要することなく、能率的にタイル施工できる。しかも、前記の如くタイルが高い衝撃吸収能力を備えることから、棒状塗布された接着剤の間の空隙により形成される隙間の上に落下物衝撃力が負荷しても、割れ欠けなどの破損を生じることがない。
【0012】
請求項3に係る発明のように、ユニット工法を採用して、予めタイルをユニット枠体に配したタイルユニットを床下地に固着することによってタイルを床下地に敷設すると、施工性が向上するととともに、熟練を要することなく目地割付などの煩雑な作業を行なうことができる。しかも、吸水率が1%を超えるところの衝撃吸収能力に優れたタイルを使用するため、ユニット枠体によって床下地から持上げられたタイルと、床下地との間隙により隙間が形成されても、割れ欠けを生じることがなくなり、長期間に亘り高感性な外観を維持できる。
【0013】
請求項4に係る発明のように、床下地の表面、タイルの裏面の少なくとも一方に排水溝を凹設すると、床面の排水性能が向上して、激しい降雨時にも水溜りを生じることない。しかも、衝撃吸収能力の高いタイルを使用するため、載荷時に排水溝を跨るタイル部分に衝撃落下を受けても、割れ欠けを生じることが無い。
【0014】
請求項5に係る発明で採用する廃ガラスタイルは、吸水率が1%を超えることから表層のセルフクラッシュ性に富み、タイル裏面と床下地との間に隙間が形成されても、落下衝撃力が緩和されて破損が生じにくい。しかも廃ガラスタイルの使用は、ガラス瓶、建築廃棄物などのガラス資源を再利用することにより、省資源、省エネルギーに寄与できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施の一形態を、図示例とともに説明する。図1に示すように、タイル床仕上げ構造1は、乾式工法を用いて床下地2の表面に複数枚のタイル3を敷設して構成される。
【0016】
前記床下地2は、タイル仕上げする部位に応じて異なる。例えば玄関アプローチにおいては、上位に玄関開口部を設ける布基礎から外側に連続してのび、セメントコンクリートで構成されるスラブ状の基部であり、或いは上階ベランダにおいては、建物矩体から庇状に外側へのびるベランダ構造矩体である。これら床下地2は、仕上げ用のタイル載置するためにその表面全体がフラットに形成されている。
【0017】
前記タイル3は、通常矩形板状をなし、複数枚が目地を介して同高さに並び、前記床下地2上に連続的に敷設される。タイル3は、円形、楕円形、三角形などに形成されることもある。
【0018】
前記タイル3は、吸水率が1%を超えたものが使用される。このような吸水率を有するタイル3としては、せっ器質タイル、或い陶器質タイルを用いることができる。前記せっ器質タイルは、1200℃前後で焼いタイルであり、吸水率5%以下で、わずかに水を吸う性質を有する。そして一般には有色・不透明で、軽く打つと澄んだ音がする性質をもつ。また釉薬で色付けせず、素焼きのような土を焼くときに出来る素朴な色むらを生かした地味で自然の風合いのあるタイルの特徴を活かして使用されることが多い。
【0019】
また前記陶器質タイルは、1000℃以上で焼成したタイルであり、タイルの中では最も軟らかい物性を有し、吸水率が22%以下で、吸水性が高い。また叩くと濁音を発する性質がある。釉薬をつけて仕上げた施釉タイルが多く、色やデザインが豊富であるとともに、透明性を具えるため、装飾仕上げタイルとして広く採用されている。なお吸水率が1%を超えるところの、せっ器質タイル、陶器質タイルは、吸水率が1%以下の磁器質タイルに比べて、発泡率が大きい。従って落下衝撃を受ける際に衝突部の表層において、クラッシュが発生しやすいことから、落下衝撃力が吸収緩和されるため、衝撃による応力発生が抑制される。
【0020】
またタイル3として、廃ガラスに、フライアッシュ、高炉水滓スラグ等の鉱物質微粉末を加えた原料を、比較的低温度で焼成して得られる廃ガラスタイルを用いることもできる。この廃ガラスタイルは、1%を超えて3%以下程度の吸水率を有することから、前記と同様吸水率が1%以下の磁器質タイルに比べて、セルフクラッシュによる衝撃吸収能力に優れる。
【0021】
建築物あるいは自動車等に多量の板ガラスが使用されており、また各種の飲料水を収容するビンなどの容器用ガラスとしても大量に使われ、不要になったものが大量に廃棄処分されている。すなわち、老朽化した建築物の建替えの際、容器については、ワンウエイビンは一度の使用で廃棄され、リサイクルビンにおいても数度の使用で損傷発生あるいは汚染物の除去不能等の理由で新規製品に更新される。このように大量の廃棄処分される資材を廃ガラスタイルの原料として再利用することにより、省資源、省エネルギーに大きく寄与することができる。
【0022】
タイル3を床下地2に敷設する施工システムである前記乾式工法とは、従来のセメントモルタルを用いた湿式工法以外の工法全般を含むものをいう。本形態では図1、2に示すように、タイル3の裏面に、エポキシ系接着剤、アクリルエマルジョン系接着剤、合成ゴムラテックス系接着剤などの接着剤5を、蛇行状に連続させた形で棒状塗布し、この接着剤5によって、タイル3を床下地2に接着する接着工法を用いて構成している。
【0023】
前記棒状塗布による接着工法では、タイル3は床下地2表面から、接着剤5の厚さt1分が浮いて支持され、棒状塗布された接着剤5の間の空隙によって床下地2の表面と、タイル3の裏面との間に部分的な隙間4が形成される。そしてこのような隙間4が形成されると、誤って硬い重量物を落下した際にタイル3に衝撃曲げ応力が発生する。しかし前記の如く吸水率が1%を超えるタイル3は発泡率が高いことから、セルフクラッシュによる衝撃吸収能力が大きく、前記衝撃荷重を抑制できる。その結果割れ、欠けなどの破損発生がなくなり、床面の仕上げとして長期間使用できる。しかも本形態では、タイル3の裏面に棒状塗布した接着剤によって、タイル3を床下地2に接着固定して敷設するため、湿式工法のような煩雑な管理が不要であることから、作業に熟練を要することなく、能率的にタイル施工できる。
【0024】
図3、4は他の実施形態を例示している。以下異なる内容について説明し、それ以外は図中に表れた主要構成に同じ符号を付すだけとする。本形態の乾式工法としては、ユニット枠体6の上部にタイル3を予め配置したタイルユニット7を床下地2に固着することによりタイル仕上げするユニット工法が用いられる。
【0025】
本形態のユニット枠体6は図3に示すように、複数個の小孔21が規則的に縦横に並ぶとともにタイル3と略同大の矩形板状の基板6Aと、前記小孔21の間において基板6Aの下面からに短く垂下する円筒状の多数の脚部6Bとからなり、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリスチレン樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂などのプラスチック材料を用いて一体に形成される。なお基板6Aの連続する二辺には、リング状の接続部22が隔設され、隣り合うタイルユニット7の脚部6Bが挿入されて係合することによって、一体に連結できるように構成されている。
【0026】
前記ユニット枠体6の上に同大のタイル3が接着剤によって予め固着され、タイルユニットを構成している。そして図4に示すように、複数枚のタイルユニット7を床下地2の上に敷設するとともに、接続部22と脚部6Bとの係合によって相互に連結し、その結果タイルユニット7を床下地2上に固定している。さらにタイルユニット7を床下地2に接着すると、位置ズレなどを防止できる。なお一つのユニット枠体6に複数枚のタイル3を取付けたタイルユニット7を用いることもよい。タイルユニット工法においては、施工現場で作業性が向上するとともに、目地割付などの熟練を要する作業が簡単に行なえることからバラツキのない仕上げが得られる点で優れている。
【0027】
このようにタイルユニット7を用いて構成すると、タイル3自体はユニット枠体6によって床下地2から持上げられて固着されることから、タイル3裏面は床下地2からユニット枠体6の厚さ寸法が浮き上がって配置される。しかもユニット枠体6には、前記の如く小孔21が多数設けられるため、この小孔21の内部においては、タイル3裏面と床下地2との間に隙間4が形成される。従って、このような隙間4が断熱空間として作用することから、屋上などでは高温化が防止できる。しかし、硬い重量物をタイル3表面に誤って落下させると、隙間4の部分には大きな衝撃応力が発生し、磁器質タイルなどでは破損を生じやすいが、吸水率が1%を超えた衝撃吸収能力の高いタイル3を使用しているため、床下地2との間隙により隙間4が形成されていても、割れ欠けを生じることがなく、長期間に亘り高感性な外観を維持できる。
【0028】
図5、6は更に他の実施形態を例示している。本形態のタイル3には、その裏面に平行にのびる複数の排水溝8が形成されている。そして、この排水溝8を除く凸部23に塗布される接着剤24によって床下地2に固着している。このように連続する排水溝8によって、床面の排水性能が向上するため、激しい降雨時においても、充分な水はけが得られることから水溜りを生じることがない。しかも吸水率が1%を超える衝撃力吸収能力を備えたタイル3を使用しているため、載荷時に排水溝を跨るタイル部分に落下衝撃荷重が負荷しても、割れ欠けを生じることが無く、高い耐久性が得られる。
【0029】
図7は、床下地2に排水溝8が凹設された実施形態を例示している。この場合には、床下地2の凸部25に接着剤24することにより平板状のタイル3を固着している。
【実施例】
【0030】
表1に実施例1〜5として示すような、吸水率が1%を超える5種類のタイル3を試作した。タイルの吸水率は、JIS A5209を用いて測定した。そしてコンクリートを打設して水平かつフラットに形成した床下地2上に、合成ゴムラテックス系接着剤を棒状塗布した各種のタイル3を固着して、接着養生後に各種タイルの強度を試験した。なお、接着層によるタイル3と床下地2との間隙(図2中にt1で示す)は、1.25mmとし、接着剤を蛇行状に棒状塗布した接着剤相互間の間隔(図1中にd1で示す)は40mmとしている。同時に、吸水率が1%以下の2種類の磁器質タイルを比較例として作成し、同様にして強度試験した。
【0031】
【表1】

【0032】
強度試験の方法は、タイルを製品状態に施工し、タイルの略中央に225gの鋼球を60cmの高さから落とし、タイル表面のひび割れ、剥離などの外観異常を目視及びルーペ(15倍)により確認した。
【0033】
その結果、実施例1〜5の5種類のタイル3に関しては、何ら損傷を生じなかった。比較例1、2の磁器質タイルには、二体ともクラックの発生が認められた。
【0034】
尚、叙上の説明は本発明の実施の形態を例示したものである。従って本発明の技術的範囲はこれに何ら限定されるものではなく、前記した実施の形態の他にも、各種の変形例が含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の一実施の形態を例示する斜視図である。
【図2】そのA−A断面図である。
【図3】他の実施形態を例示する斜視図である。
【図4】そのB−B断面図である。
【図5】更に他の実施形態を例示する斜視図である。
【図6】そのC−C断面図である。
【図7】更に他の実施形態を例示する断面図である。
【符号の説明】
【0036】
1 タイル床仕上げ構造
2 床下地
3 タイル
4 隙間
5 接着剤
6 ユニット枠体
7 タイルユニット
8 排水溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
床下地の表面に、板状のタイルを複数枚、乾式工法によって敷設したタイル床仕上げ構造であって、
前記床下地は、その表面が全体としてフラットに形成されるとともに、床下地の表面と、タイルの裏面との間には、部分的な隙間が形成され、
前記タイルは、その吸水率が1%を超えることを特徴とするタイル床仕上げ構造。
【請求項2】
前記乾式工法は、床下地の表面と、タイルの裏面との間に棒状塗布された接着剤によりタイルを床下地に接着する接着工法であって、
前記隙間は、棒状塗布された接着剤の間の空隙により形成されることを特徴とする請求項1記載のタイル床仕上げ構造。
【請求項3】
前記乾式工法は、予めユニット枠体にタイルを配置したタイルユニットを床下地に固着してタイルを床下地に敷設するユニット工法であって、
前記隙間は、ユニット枠体によって床下地から持上げられて固着されたタイル裏面と、床下地との間隙により形成されることを特徴とする請求項1記載のタイル床仕上げ構造。
【請求項4】
前記隙間は、床下地の表面、タイルの裏面の少なくとも一方に凹設される排水溝によって形成されることを特徴とする請求項1記載のタイル床仕上げ構造。
【請求項5】
前記タイルは、廃ガラスタイルであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のタイル床仕上げ構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−38472(P2008−38472A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−214346(P2006−214346)
【出願日】平成18年8月7日(2006.8.7)
【出願人】(000004673)パナホーム株式会社 (319)
【Fターム(参考)】