説明

タイル素地の湿式成形方法及び湿式成形装置

【課題】平面形状が例えば菱形のような斜方状の平行四辺形であるタイル素地を湿式成形により効率よく成形する手段を提供する。
【解決手段】押出成形機より押出した素地を横切断して長方形の切断素地とした後、滑り性の良好な搬送路上に斜め方向に張出した配向板により切断素地を斜め方向に配向させ、次いで配向板を搬送路に対する交差方向へ進出させて切断素地を搬送路の側方へ押出し、その押出し位置に所定の相互間隔を以て垂直方向に固定した複数のカッターにより切断素地を押切りさせる、タイル素地の湿式成形方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はタイル素地の湿式成形方法及び湿式成形装置に関する。更に詳しくは本発明は、平面形状が斜方状の平行四辺形であるタイル素地を効率よく成形する湿式成形方法と、この成形方法を実施するための成形装置に関する。
【0002】
本発明において「斜方状の平行四辺形」には、正規の菱形のように、一方の対向する内角が45°で他方の対向する内角が135°であり、かつ、四辺の長さが互いに等しい平行四辺形が含まれる。又、内角が正規の菱形と同様であるが、一方の対向する二辺の長さが他方の対向する二辺の長さとは異なる平行四辺形(菱形を横方向又は縦方向に圧縮した形状の平行四辺形)も含まれる。更に、正規の菱形と同様に四辺の長さが互いに等しいが、一方の対向する内角と他方の対向する内角が正規の菱形とは異なる平行四辺形(正方形と比較した場合のひしゃげ度合いが正規の菱形よりも大きく、又は小さい平行四辺形)も含まれる。
【背景技術】
【0003】
周知のように、成形型を用いてプレス成形等の手段によりタイル素地を成形する乾式成形においては、成形型の選択により任意の平面形状を有するタイル素地を成形することができる。しかし、乾式成形では、生産効率や、成型装置の保守点検の手間等の面で必ずしも満足できない場合も多い。
【0004】
一方、土練機等の押出成形機を用いて素地を連続的に押出した後、ピアノ線等の適宜なカッターにより切断処理を加えてタイル素地を成形する湿式成形法も周知である。例えば下記の特許文献1は、山形状の凹凸模様を有するハツリ面タイルの形成方法及びその装置を開示する。又、下記の特許文献2は、床又は壁面等に貼付されるタイル用成形物の湿式成形において、このような成形物を上下に二分割するために使用されるタイル用成形物の分割装置を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−246720号公報
【特許文献2】特開2000−6130号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、土練機等で押出した素地をコンベアベルト等で搬送しながら切断してタイル素地を成形する湿式成形方法においては、例えば、上記の特許文献1の図7や特許文献2の図10から分かるように、押出した素地は搬送方向に対して「横切り」、即ち搬送方向に対する直角方向に切断され、平面形状が方形ないし長方形のものとして成形されている。
【0007】
従来の湿式成形法において押出した素地が「横切り」されて平面形状が方形ないし長方形のものとされる理由は、もち論、製造目的物であるタイルの平面形状が方形ないし長方形であることによる。しかし、これらの従来技術においては、仮に平面形状が斜方状の平行四辺形であるタイル素地を成形したくても、そのために必要な、押出した素地に対する「斜め切り」が技術的に困難であるため、平面形状が斜方状の平行四辺形であるタイル素地を効率よく成形することができなかった。
【0008】
即ち、土練機等から押出され、コンベアベルト上を搬送される素地をピアノ線や切断刃等で切断するためには、その切断位置にコンベアベルトの中断部分を設ける必要がある。そして中断部分における両側のコンベアベルトの端縁部はベルト搬送方向に対して直角方向となるから、コンベアベルトの中断部分におけるピアノ線や切断刃等を通過させるための隙間もベルト搬送方向に対する直角方向に設定されることになる。
【0009】
そのため、従来の湿式成形法では、もっぱら平面形状が方形ないし長方形のタイル素地のみが成形されていた。そして、平面形状が斜方状の平行四辺形であるタイル素地を成形するためには、方形ないし長方形に切断したタイル素地を、例えば更に手作業で斜方状の平行四辺形に切断成形せざるを得ず、効率が悪かった。
【0010】
しかし近年、タイルに対する意匠性向上の要求もあり、平面形状が斜方状の平行四辺形であるタイルが求められている。又、平面形状が斜方状の平行四辺形であって、その鋭角部と鈍角部の角度が変更された多様な形状や一方の対向する二辺の長さが他方の対向する二辺の長さとは異なる多様な形状のタイルも求められている。更に、そのような各種平面形状のタイルであって、壁面等に貼付した際に表面となる上側面に凹凸形状を備えたタイルであれば、より優れた意匠性を実現できる。又、一般的に土練機等から押出した素地の表面は滑らかであるが、これを粗面(非常に微細な凹凸を伴う面)状とすることができれば、更に優れた意匠性を実現できる。
【0011】
そこで本発明は、平面形状が例えば菱形のような斜方状の平行四辺形であるタイル素地を湿式成形により効率よく成形する手段を提供することを、解決すべき第1の技術的課題とする。又、本発明は、斜方状の平行四辺形であって、鋭角部と鈍角部の角度が変更された多様な形状や一方の対向する二辺の長さが他方の対向する二辺の長さとは異なる多様な形状のタイル素地を湿式成形により効率よく成形する手段を提供することを、解決すべき第2の技術的課題とする。次に本発明は、上側面に凹凸形状を備えたタイル素地を湿式成形により効率よく成形する手段を提供することを、解決すべき第3の技術的課題とする。更に本発明は、表面を粗面状としたタイル素地を湿式成形により効率よく成形する手段を提供することを、解決すべき第4の技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
(第1発明の構成)
上記課題を解決するための本願第1発明の構成は、押出成形機より押出した素地を一定の長さに横切断して平面形状が長方形の切断素地とした後、滑り性の良好な搬送路上で搬送して、搬送路上に斜め方向に張出した配向板により切断素地を斜め方向に配向させ、次いで配向板を搬送路に対する交差方向へ進出させて切断素地を搬送路の側方へ押出し、その押出し位置に所定の相互間隔を以て垂直方向に固定した複数のカッターにより切断素地を押切りさせることにより、平面形状が斜方状の平行四辺形である複数のタイル素地を成形する、タイル素地の湿式成形方法である。
【0013】
以上の第1発明において、「搬送路」とは、例えば無端式のコンベアベルトであるが、切断素地を載置して搬送できる限りにおいて、その他の任意の構成の搬送路を用いても良い。又、「滑り性の良好な搬送路」とは搬送路上の切断素地に対して大きな摩擦抵抗を示さない状態の搬送路を言い、例えば搬送路の始端部にオイルを滴下して搬送路の滑り性を良好にすると言う手段が挙げられるが、その他の、搬送路の滑り性を良好にするための任意の手段を採用しても良い。
【0014】
次に、配向板について「搬送路上に斜め方向に張出した」とは、搬送路上において、搬送路の搬送方向に対して斜め方向に出っ張るように直線状に張出していることを言う。その張出し角度は、例えば斜めに45°程度とすることができるが、それより張出し角度の小さい斜め方向や、それより張出し角度の大きい斜め方向に張出しても良い。但し、張出し角度が90°に近い程に大きかったり、0°に近い程に小さかったりすると、「切断素地を斜め方向に配向させる」という本来の機能を果たせなくなる恐れがある。従って、配向板が「斜め方向に張出す」角度としては30°〜60°程度であることが特に好ましい。
【0015】
又、配向板の搬送路に対する進出方向について「交差方向」とは、好ましくは搬送路の搬送方向に対して90°である直角の方向であるが、搬送路の搬送方向に対して直角よりもある程度小さく又は大きい角度の方向、例えば搬送路の搬送方向に対して60°〜120°程度の範囲内の方向であっても良い。
【0016】
(第2発明の構成)
上記課題を解決するための本願第2発明の構成は、前記第1発明に係るタイル素地の湿式成形方法において、成形すべきタイル素地の平面形状について、
(1)搬送路上に斜め方向に張出した配向板の張出し角度と、配向板の搬送路に対する交差方向への進出の交差角度との組合わせによって、斜方状の平行四辺形における鋭角部と鈍角部の角度を任意に決定し、及び/又は、
(2)長方形の切断素地の横幅と、垂直方向に固定した複数のカッターの相互間隔との組合わせによって、斜方状の平行四辺形における一方の対向する二辺の長さと他方の対向する二辺の長さとを任意に決定する、
タイル素地の湿式成形方法である。
【0017】
(第3発明の構成)
上記課題を解決するための本願第3発明の構成は、前記第1発明又は第2発明に係るタイル素地の湿式成形方法において、
(1)押出成形機の押出し口の断面形状が上側部分において凸形状又は凹形状を備える断面形状であり、あるいは
(2)押出成形機における任意の断面形状を備えた押出し口に対して、上側部分において凸形状又は凹形状を備える断面形状の開口部を備えた口金部材を取付けている、
タイル素地の湿式成形方法である。
【0018】
(第4発明の構成)
上記課題を解決するための本願第4発明の構成は、前記第3発明に係るタイル素地の湿式成形方法において、押出成形機より押出す素地として砂粒(例えば、シャモット)を混合した素地を用い、かつ、(1)の押出成形機における押出し口の上側部分の凸形状の断面形状、又は(2)の押出成形機に取付けた口金部材の開口部の上側部分の凸形状の断面形状を、これらの押出し口又は開口部に張設した高強度の細線部材により輪郭付けている、タイル素地の湿式成形方法である。
【0019】
以上の第4発明において「高強度の細線部材」とは、長方形の切断素地を支障なく切断できる程に細くかつ高強度である限りにおいて限定されないが、例えばピアノ線が挙げられる。又、「細線部材により輪郭付けている」とは、押出成形機から押出される素地の上側部分の凸形状が細線部材により切断されて形成されることを意味する。
【0020】
(第5発明の構成)
上記課題を解決するための本願第5発明の構成は、押出成形機と、押出された素地を所定の長さに横切断して長方形の切断素地とする第1カッターと、切断素地を搬送する搬送路と、この搬送路上の滑り性を良好にする滑り性付与手段と、搬送路上に斜め方向に張り出して設けた配向板と、この配向板を必要なタイミングで搬送路の搬送方向に対する交差方向に沿って進退動作させる配向板駆動部と、配向板の進出位置において所定の間隔を以て垂直方向に固定した複数の第2カッターとを備える、タイル素地の湿式成形装置である。
【0021】
以上の第5発明において、「搬送路」、「滑り性を良好にする」、「搬送路上に斜め方向に張出した」、「交差方向」の意味は、それぞれ第1発明に関して述べた通りである。滑り性付与手段としては、例えば、搬送路の始端部の上方に設けたオイル滴下装置を挙げることができる。
【0022】
(第6発明の構成)
上記課題を解決するための本願第6発明の構成は、前記第5発明に係るタイル素地の湿式成形装置において、
(1)押出成形機の押出し口の断面形状が上側部分において凸形状又は凹形状を備える断面形状であり、あるいは
(2)押出成形機における任意の断面形状を備えた押出し口に対して、上側部分において凸形状又は凹形状を備える断面形状の開口部を備えた口金部材を取付けている、
タイル素地の湿式成形装置である。
【0023】
(第7発明の構成)
上記課題を解決するための本願第7発明の構成は、前記第6発明に係るタイル素地の湿式成形装置において、(1)の押出成形機における押出し口の上側部分の断面形状、又は(2)の押出成形機に取付けた口金部材の開口部の上側部分の断面形状を、これらの押出し口又は開口部に張設した高強度の細線部材により輪郭付けている、タイル素地の湿式成形装置である。
【0024】
以上の第7発明において「高強度の細線部材」、「細線部材により輪郭付けている」の意味は、それぞれ第4発明に関して述べた通りである。
【発明の効果】
【0025】
第1発明によれば、平面形状が例えば菱形のような斜方状の平行四辺形であるタイル素地を湿式成形により効率よく成形する手段が提供され、前記した本発明の第1の課題が解決される。
【0026】
即ち、押出成形機より押出した素地が長方形の切断素地とされ、搬送路上を搬送されて斜め方向に張出した配向板に当たると、搬送路上は滑り性が良好なため、切断素地は搬送路上で回転するように滑り、配向板に沿って斜め方向に配向する。次いで配向板が搬送路に対する交差方向へ進出すると、湿った切断素地と配向板との当接面は強い摩擦抵抗を伴うので、切断素地も配向板に押されて配向板の進出方向へ押出される。次いで、配向板が元の位置に後退動作すると共に、そこへ次の切断素地が搬送されて来て、上記と同様に配向板に沿って配向し、配向板の進出によって押出される。そして配向板による押出し位置には所定の相互間隔を以て垂直方向に固定した複数のカッターが設けられているため、切断素地は順次このカッターに強く押付けられ、押切りされる。
【0027】
その結果、配向板により連続的に押出される各切断素地から、平面形状が斜方状の平行四辺形であるタイル素地が同時に複数、成形される。各切断素地の長さや垂直方向に固定した複数のカッターの設置数の設計により、1個の切断素地から上記のタイル素地を多数個取りすることも容易である。
【0028】
第2発明によれば、搬送路上に斜め方向に張出した配向板の張出し角度と、配向板の搬送路に対する交差方向への進出の交差角度との組合わせによって、成形されるタイル素地の斜方状の平行四辺形における鋭角部と鈍角部との角度を任意に決定することができる。例えば、配向板が搬送路に対して45°の斜め方向に張り出し、かつ、配向板が搬送路に対する90°の直角方向へ進出する場合、成形されるタイル素地は鋭角部が45°でと鈍角部が135°の斜方状の平行四辺形となる。この場合に比較して、配向板の搬送路に対する張出し角度、又は配向板の搬送路に対する交差方向への進出の交差角度を変更することにより、成形されるタイル素地の斜方状の平行四辺形における鋭角部と鈍角部との角度を変更することができる。
【0029】
一方、長方形の切断素地の横幅と、垂直方向に固定した複数のカッターの相互間隔との設計の組合わせによって、斜方状の平行四辺形における一方の対向する二辺の長さと他方の対向する二辺の長さとを任意に決定することができる。
【0030】
従って、第2発明によって前記した本発明の第2の課題が解決される。
【0031】
第3発明によれば、断面形状が上側部分において凸形状又は凹形状を備える押出成形機の押出し口によって、又は任意の断面形状を備えた押出し口を有する押出成形機に取付けた口金部材における、断面形状が上側部分において凸形状又は凹形状を備える開口部によって、上側面に凹凸形状を備えたタイル素地を成形することができる。従って、第3発明によって前記した本発明の第3の課題が解決される。
【0032】
第4発明によれば、押出成形機の押出し口において、又は押出成形機に取付けた口金部材の開口部において、シャモットのような砂粒を混合した押出し素地を高強度の細線部材で切断してタイル素地の上側部分の凸形状を成形する。この場合、砂粒は細線部材で切断されず、切断面上に露出した状態で残るので、細線部材による切断面は粗面状となる。従って、第4発明によって前記した本発明の第4の課題が解決される。
【0033】
なお、細線部材に変えて素地の押出し方向に沿って設けた薄い切断刃を用いた場合は、切断された素地が切断刃の側面に接して通過する際に砂粒が素地中に埋め込まれるため、切断刃による切断面は粗面状とはならず、均平された滑面となる。
【0034】
第5発明によれば、第1発明又は第2発明に係るタイル素地の湿式成形方法を実施するための成形装置が提供される。
【0035】
第6発明によれば、第3発明に係るタイル素地の湿式成形方法を実施するための成形装置が提供される。
【0036】
第7発明によれば、第4発明に係るタイル素地の湿式成形方法を実施するための成形装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】実施例に係るタイル素地の湿式成形装置を示す斜視図である。
【図2】図2(a)〜図2(c)は実施例に係る湿式成形装置の動作及び作用を順次に説明する図である。
【図3】図3(a)〜図3(d)は実施例に係る湿式成形装置の口金部材開口部の形状とその場合に形成されるタイル素地の形状等を示す図である。
【図4】実施例に係る湿式成形装置で成形されたタイル素地を焼成してなるタイルを用いて施工された特徴的な壁面の一例を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0038】
1 湿式成形装置
2 押出成形機
3 押出し口金具
4 口金部材
5 開口部
6a、6b、6c ピアノ線
6d ブレード
7 コンベアベルト
8 切断素地
8a タイル素地
9 オイルパイプ
10 配向板
11 基板
12 軸受
13 ガイド部材
14 支柱
15 加工台
16 加工板
17 切欠き部
18 ピアノ線
19 張設桿
a、b タイル素地
c 壁面材
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
次に、本発明を実施するための形態を、その最良の形態を含めて説明する。
【0040】
〔タイル素地の湿式成形方法及び湿式成形装置〕
本発明に係るタイル素地の湿式成形方法は、押出成形機より押出した素地を一定の長さに横切断して平面形状が長方形の切断素地とした後、滑り性の良好な搬送路上を搬送して、搬送路に対して斜め方向に張り出した配向板により切断素地を斜め方向に配向させ、次いで配向板を搬送路に対する交差方向へ進出させて切断素地を搬送路の側方へ押出し、その押出し位置に所定の間隔を以て垂直方向に固定した複数のカッターにより切断素地を押切りさせることにより、平面形状が斜方状の平行四辺形である複数のタイル素地を成形することを特徴とする。
【0041】
このようなタイル素地の湿式成形方法における好ましい実施形態は、第2発明〜第4発明において前記した通りである。
【0042】
本発明に係るタイル素地の湿式成形装置は、押出成形機と、押出された素地を所定の長さに横切断して長方形の切断素地とする第1カッターと、切断素地を搬送する搬送路と、この搬送路上の滑り性を良好にする滑り性付与手段と、搬送路上に斜め方向に張り出して設けた配向板と、この配向板を必要なタイミングで搬送路の搬送方向に対する交差方向に沿って進退動作させる配向板駆動部と、配向板の進出位置において所定の間隔を以て垂直方向に固定した複数の第2カッターとを備えることを特徴とする。
【0043】
このようなタイル素地の湿式成形装置における好ましい実施形態は、第6発明又は第7発明において前記した通りである
〔その他の実施形態〕
本発明に係るタイル素地の湿式成形方法及び湿式成形装置におけるその他の実施形態として、次のような好ましい実施形態を挙げることができる。
【0044】
搬送路は、前記したように適宜な構成のもの、例えばコンベアベルトによって構成することができるが、常時動作している搬送路を用いることもできるが、押出成形機より押出された素地の横切断による切断素地の成形や、その切断素地の配向板による配向の変更及び配向板の前記進退動作に同期して(時間待ちして)間欠的に動作する搬送路であること、更に、その間欠的な単位動作量によって、切断素地を搬送路上の待機位置から、配向板に当たる位置まで、正確に搬送できる設計になっていることが、より好ましい。そのような間欠的な動作により成形ラインの全体を効率的かつスムースに稼動させることができる。
【0045】
押出された素地を所定の長さに横切断して、長方形の切断素地とするための第1カッターとしては、従来より用いられる一般的な構成の切断装置を利用できる。例えば、押出成形機の押出し口と搬送路の始端部との間の狭い間隔部分を上下方向に横断して、押出された素地を横切断するピアノ線又は薄い切断刃を使用しても良い。配向板に至るまでの搬送路に中断部分(押出された素地の受け渡し部分)を設け、この中断部分を上下方向に横断して押出された素地を横切断するピアノ線又は薄い切断刃を使用しても良い。
【0046】
搬送路上の滑り性を良好にするための滑り性付与手段としての、例えば搬送路上にオイルを滴下する装置は、搬送路の始端部の上方に設けることが好ましいが、配向板に至るまでの搬送路の上方に設けても良い。搬送路が無端式に循環するコンベアベルトである場合、オイルが継続的に滴下されるならば、その滴下量は僅かでも、搬送路上の滑り性は十分に確保される。タイル素地の少なくとも下面(搬送路と接する面)にはオイルが付着するが、タイル素地を後に焼成する際、加熱によりオイルは焼却される。
【0047】
配向板を搬送路の搬送方向に対する交差方向に沿って進退動作させる配向板駆動部の構成は特段に限定されないが、例えば、配向板を駆動するための適宜なアクチュエータと、そのアクチュエータを適宜なタイミングで起動・停止させるためのコントローラと、その進退動作の方向を規制する適宜なガイド機構とによって構成することができる。コントローラとしては、前記搬送路の間欠的な動作と同期してアクチュエータを起動させるタイミングスイッチ方式や、切断素地が配向板に当たる位置に達したことをカメラを用いて光学的に検知し、又は感圧式に検知してアクチュエータを起動させるセンサー方式等を例示することができる。
【実施例】
【0048】
以下に本発明の実施例及び比較例を説明する。本発明の技術的範囲はこれらの実施例及び比較例によって限定されない。
【0049】
〔実施例1:タイル素地の湿式成形装置〕
タイル素地の湿式成形装置を図1に簡略化して示す。
【0050】
湿式成形装置1の押出成形機2における押出し口金具3には、口金部材4を取り付けている。口金部材4の素地押出し用の開口部5は略正方形の断面形状を備えており、かつ開口部5の内径部分には、図3(a)の左側の図に拡大して示すように、互いに斜め方向に交差する2本のピアノ線6a、6bが張設されている。開口部5の左右両側の部分には更に1点鎖線で示す垂直方向の1対のピアノ線6cを張設しても良い。開口部5には、ピアノ線6a〜6cに代えて、図3(b)の左側の図に示すように、下向きに谷状に折れ曲がった薄い金属製のブレード6d(図の奥行き方向に幅を持つブレードであるため、図では単に折れ曲がった実線として表現されている)を架設しても良い。
【0051】
図1に示すように、押出成形機2における素地の押出し方向には、口金部材4との間に僅かな間隔を保って、素地の搬送路である無端式コンベアベルト7を設けている。又、図示を省略するが、口金部材4とコンベアベルト7の始端部との間には、口金部材4より押出された素地を所定の長さに横切断して長方形の切断素地8とするための第1カッターを設けている。更に、コンベアベルト7の始端部の上方には、図示省略のオイル供給タンクに接続されたオイルパイプ9の下端部が開口し、コンベアベルト7の搬送路上に継続的に適量のオイルを滴下して搬送路上の滑り性を確保している。
【0052】
コンベアベルト7の終端部側では、その搬送路面にほぼ接するようにして、搬送路上に斜め方向に張り出す状態で配向板10を設けている。配向板10の張り出し角度は任意に設定できるが、この場合はコンベアベルト7の搬送方向に対して45°の斜め方向に張り出すように設定されている。この配向板10を支持する基板11は、軸受12を介して2本の平行なガイド部材13により支持されており、これらのガイド部材13に沿って進退動作することができる。
【0053】
2本のガイド部材13は支柱14間に架設され、それらの架設方向はコンベアベルト7の搬送方向に対する直角方向であるため、配向板10及び基板11はコンベアベルト7の搬送方向に対する直角方向へ進退動作する。
【0054】
上記の基板11(ひいては配向板10)の進退動作を行わせる機構は任意に設計することができるが、例えば、(イ)ガイド部材13が単なる滑り軸であり、適宜な駆動装置によりプッシュ/プルされる基板11が、滑り軸受けである軸受12を介してガイド部材13沿いに進退動作する機構、(ロ)ガイド部材13が適宜な駆動装置により回転駆動される雄ネジ部材であり、軸受12が雄ネジ部材に螺合した雌ネジ部材であって、2本のガイド部材13の同期回転駆動に従って基板11が進退動作する機構、等が挙げられる。上記(イ)、(ロ)に述べた「適宜な駆動装置」としては、発明の実施形態欄で述べたようなアクチュエータと、タイミングスイッチ方式又はセンサー方式等のコントローラとの組合わせを用いることができる。
【0055】
進退動作する配向板10の進出方向には、コンベアベルト7に隣接して加工台15を設けている。加工台15上には、金属製薄板からなり作業台としても利用される加工板16が固定されており、この加工板16におけるコンベアベルト7側の端縁部には櫛の歯状の切欠き部17を形成している。そして垂直方向に張設されたピアノ線18が個々の切欠き部17中を通過している。これらのピアノ線18は、第5発明で述べた「複数の第2カッター」に相当するものであり、支柱14間に架設した上下の張設桿19(下側の張設桿19の図示を省略する)の間に張設されたものである。第2カッターとしては、上記のピアノ線18に代えて配向板10の進出方向に幅を持つ薄い切断用ブレードを設けることもできる。
【0056】
〔実施例2:タイル素地の湿式成形方法〕
タイル素地の湿式成形方法を図1に基づいて説明する。
【0057】
本実施例においては、成形用の素地として、砂粒(シャモット)を混合した素地を用いる。そして、口金部材4の素地押出し用の開口部5の内径部分には、図3(a)の左側の図に示す2本のピアノ線6a、6bを張設し、あるいは更に1対のピアノ線6cを張設している。
【0058】
従って、開口部5から押出される素地は図3(a)の左側の図においてハッチングで示す断面形状を持ち、更に1対のピアノ線6cを張設している場合には、その左右両側の部分がピアノ線6cにより切り落とされた断面形状を持っている。これらの場合、ピアノ線で切り落とされた面は意匠性に優れた粗面状であり、押出される素地の底面部のみは、建築物の壁面等への施工の際に接着性の良い滑面状である。ピアノ線によって切り取られた余分な素地部分は、実際には押出し方向に対する径方向外側へ湾曲しながら押出されるので、容易に取り除くことができる。
【0059】
開口部5から押出される素地は、前記の第1カッターにより一定の長さに横切断され、図1に示すような平面形状が長方形の切断素地8となる。この切断素地8は、図2(a)に示すように滑り性の良好なコンベアベルト7上を搬送される。そしてコンベアベルト7上に斜め方向に張出した配向板10に当たると、搬送路上は滑り性が良好なため、図2(b)に示すように、切断素地8は搬送路上で回転するように滑り、配向板に沿って斜め方向に配向する。
【0060】
このタイミングを捉えて図2(c)に示すように配向板10が搬送路に対する直角方向へ進出すると、切断素地8もその方向に押出される。配向板10は、複数の第2カッターであるピアノ線18を張設した張設桿19の直前の位置までしか進出できないので、その進出位置まで切断素地8を押出す。次いで配向板10が元の位置に後退動作すると共に、そこへ次の切断素地8が搬送されて来て、上記と同様に配向板10に沿って配向し、配向板10の進出によって押出される。
【0061】
こうして切断素地8が配向板10の進出位置へ順次に押出されると、押出し方向の先端側の切断素地8から順に、張設桿19に張設したピアノ線18に強く押付けられ、押切りされる。その結果、配向板10により連続的に押出される各切断素地8から、平面形状が斜方状の平行四辺形であるタイル素地8aが同時に複数、成形される。その際、成形された複数のタイル素地8aにおけるピアノ線18により切断された面も意匠性に優れた粗面状となる。但し、ピアノ線18に薄い切断用ブレードを用いた場合には、それにより切断された面は滑面状となる。
【0062】
なお、配向板10の進出位置へ順次に押出された切断素地8は、その一部が加工板16に乗り上げているため、又、切断素地8の一部にはピアノ線18が食い込んだ状態にあるため、あるいは更にコンベアベルト7上は滑り性が良好なため、配向板10が後退位置へ戻っている間、コンベアベルト7によって図2の左方向へ移動することがない。
【0063】
〔実施例3:タイルの使用例〕
こうして成形されたタイル素地8aの一例の斜視図を図3(a)の右側の図に示す。このタイル素地8aは平面形状が斜方状の平行四辺形であり、壁面等に貼付した際に表面となる上側面に山状の凸形状を備えたタイル素地である。このタイル素地8aを更に図3(a)の右側の図に示す1点鎖線に沿って切断すると、一方の対角線に沿った山状の直線的な凸部が形成され、この凸部から他方の対角線上の両角部に向かって降りの傾斜面が形成されるという特徴的な形状のタイル素地aとなる。
【0064】
一方、開口部5に図3(b)の左側の図に示す、下向きに谷状に折れ曲がった薄い金属製のブレード6dを設けた場合に生産されるタイル素地8aの一例の斜視図を図3(b)の右側の図に示す。このタイル素地8aは平面形状が斜方状の平行四辺形であり、壁面等に貼付した際に表面となる上側面に谷状の凹形状を備えたタイル素地である。このタイル素地8aを更に図3(b)の右側の図に示す1点鎖線に沿って切断すると、一方の対角線に沿った谷状の直線的な凹部が形成され、この凹部から他方の対角線上の両角部に向かって登りの傾斜面が形成されるという特徴的な形状のタイル素地bとなる。
【0065】
以上のタイル素地a、bから焼成したタイル素地a、bを、図4に示すように、交互に隣接するように所定のパターンで壁面材c上に貼付すると、非常に特徴的な凹凸を伴う優れた意匠性の壁面を構成できる。図4において、ハッチングで示す部分が壁面に対して垂直な立ち上がり面として現われる。
【0066】
次に、タイル素地8aが、図3(c)に示すように、その平面形状が斜方状の平行四辺形である平板状に成形される場合、そのままで、あるいはこのタイル素地8aを更に図3(c)に示す1点鎖線に沿って切断することによって、正規の菱形の平板状のタイル素地となり得る。このタイル素地から焼成した菱形のタイル3枚を図3(d)に示すように組み合わせると、意匠的に面白い正6角形となる。そして、この正6角形を多数隣接させて建築物の壁面、床面、天井面等に施工することができる。その際、正6角形を構成する各タイル毎に異なった色彩を付与し、あるいは同じ色彩で異なる濃度(トーン)を付与すると、あたかも規則的な立体的凹凸模様を有するかのような面白い視覚的効果を与えることができる。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明によって、平面形状が例えば菱形のような斜方状の平行四辺形であるタイル素地を湿式成形により効率よく成形する手段が提供される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
押出成形機より押出した素地を一定の長さに横切断して平面形状が長方形の切断素地とした後、滑り性の良好な搬送路上で搬送して、搬送路上に斜め方向に張出した配向板により切断素地を斜め方向に配向させ、次いで配向板を搬送路に対する交差方向へ進出させて切断素地を搬送路の側方へ押出し、その押出し位置に所定の相互間隔を以て垂直方向に固定した複数のカッターにより切断素地を押切りさせることにより、平面形状が斜方状の平行四辺形である複数のタイル素地を成形することを特徴とするタイル素地の湿式成形方法。
【請求項2】
前記タイル素地の湿式成形方法において、成形すべきタイル素地の平面形状について、
(1)搬送路上に斜め方向に張出した配向板の張出し角度と、配向板の搬送路に対する交差方向への進出の交差角度との組合わせによって、斜方状の平行四辺形における鋭角部と鈍角部の角度を任意に決定し、及び/又は、
(2)長方形の切断素地の横幅と、垂直方向に固定した複数のカッターの相互間隔との組合わせによって、斜方状の平行四辺形における一方の対向する二辺の長さと他方の対向する二辺の長さとを任意に決定する、
ことを特徴とする請求項1に記載のタイル素地の湿式成形方法。
【請求項3】
前記タイル素地の湿式成形方法において、
(1)押出成形機の押出し口の断面形状が上側部分において凸形状又は凹形状を備える断面形状であり、あるいは
(2)押出成形機における任意の断面形状を備えた押出し口に対して、上側部分において凸形状又は凹形状を備える断面形状の開口部を備えた口金部材を取付けている、
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のタイル素地の湿式成形方法。
【請求項4】
前記タイル素地の湿式成形方法において、押出成形機より押出す素地として砂粒を混合した素地を用い、かつ、(1)の押出成形機における押出し口の上側部分の凸形状の断面形状、又は(2)の押出成形機に取付けた口金部材の開口部の上側部分の凸形状の断面形状を、これらの押出し口又は開口部に張設した高強度の細線部材により輪郭付けていることを特徴とする請求項3に記載のタイル素地の湿式成形方法。
【請求項5】
押出成形機と、押出された素地を所定の長さに横切断して長方形の切断素地とする第1カッターと、切断素地を搬送する搬送路と、この搬送路上の滑り性を良好にする滑り性付与手段と、搬送路上に斜め方向に張り出して設けた配向板と、この配向板を必要なタイミングで搬送路の搬送方向に対する交差方向に沿って進退動作させる配向板駆動部と、配向板の進出位置において所定の間隔を以て垂直方向に固定した複数の第2カッターとを備えることを特徴とするタイル素地の湿式成形装置。
【請求項6】
前記タイル素地の湿式成形装置において、
(1)押出成形機の押出し口の断面形状が上側部分において凸形状又は凹形状を備える断面形状であり、あるいは
(2)押出成形機における任意の断面形状を備えた押出し口に対して、上側部分において凸形状又は凹形状を備える断面形状の開口部を備えた口金部材を取付けている、
ことを特徴とする請求項5に記載のタイル素地の湿式成形装置。
【請求項7】
前記タイル素地の湿式成形装置において、(1)の押出成形機における押出し口の上側部分の断面形状、又は(2)の押出成形機に取付けた口金部材の開口部の上側部分の断面形状を、これらの押出し口又は開口部に張設した高強度の細線部材により輪郭付けていることを特徴とする請求項6に記載のタイル素地の湿式成形装置

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−213947(P2012−213947A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−81608(P2011−81608)
【出願日】平成23年4月1日(2011.4.1)
【出願人】(501140762)株式会社谷口製陶所 (1)
【Fターム(参考)】