説明

タウフィラメント線維化を阻害または逆転させるための方法

タウフィラメント形成または線維化を阻害および/または逆転させる方法を提供する。これらの方法は、タウフィラメント形成または線維化を阻害および/または逆転させる薬剤組成物を投与することによって、in vivoで特定の神経障害を治療するために使用することができる。好ましい組成物には、3−(2−ヒドロキシエチル)−2−[2−[[3−(2−ヒドロキシエチル)−5−メトキシ−2−ベンゾチアゾリリデン]メチル]−1−ブテニル]−5−メトキシベンゾチアゾリウムが含まれる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タウフィラメント形成または線維化を阻害および/または逆転させるための方法に関する。本発明は、タウフィラメント形成または線維化を阻害および/または逆転させる薬剤組成物を投与することによってin vivoである種の神経障害を治療するための方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
微小管結合タンパク質タウは、細胞骨格の維持に寄与すると考えられている可溶性のサイトゾルタンパク質である(例えば、非特許文献1および2参照)。しかし、多くの病態では、タウタンパク質は、未知の細胞の状態によって誘発され自己会合して線維状構造となる(例えば、非特許文献3参照)。これらのタウの線維状の形態は、様々な神経変性障害、例えば、アルツハイマー病(AD)(例えば、非特許文献4、5および6参照)、大脳皮質基底核変性症(CBD)(例えば、非特許文献7参照)、進行性核上麻痺(PSP)(例えば、非特許文献8参照)、ピック病(PD)(例えば、非特許文献9参照)、ダウン症候群(例えば、非特許文献10参照)、前頭側頭骨痴呆および染色体17に関連したパーキンソン症(FTDP−17)(例えば、非特許文献11参照)において見出すことができる。これらの神経変性障害のための効果的な治療法の特定の必要性が依然として存在している。
【0003】
神経突起プラーク、神経原線維変化および神経間質糸は、タウタンパク質の線維状神経細胞内封入を含むアルツハイマー病(AD)の顕著に特徴的な病変である(例えば、非特許文献12参照)。タウフィラメントは記憶の保持に関わる脳領域内で形成され、かつその発現が痴呆の程度によく相関するので、疾患進行の強固な目印として現れてきた(例えば、非特許文献13および14参照)。タウフィラメントは、ピック病および大脳皮質基底核変性を含む他の神経変性タウオパシーにおいても発現し、影響を受ける神経集団は疾患によって決まる(例えば、非特許文献15参照)。したがって、タウフィラメント形成は、変性ニューロンの特徴である細胞骨格解体の開始の前触れとなるものであり、様々な発作に対するニューロンの基礎的な病理生物学的応答を表すことができる。
【0004】
特定の神経変性障害とタウ遺伝子における変異との間の直接的な関連を確立することによって、遺伝子研究は、これらの知見を拡大してきた(例えば、非特許文献16参照)。これらの常染色体優性痴呆、例えばFTDP−17は、複数の部類に分けられる。第1の部類は、タウタンパク質をコードする配列内の点変異からなる。第2の部類は、これらの障害の不溶性タウ沈着物中に見られる交互的にスプライスされたタウアイソフォームの分布に影響を及ぼすイントロン変異からなる。生じた「タウオパシー」のそれぞれで、FTDP−17変異P301L遺伝子を有する遺伝子導入マウスと同様に(例えば、非特許文献17および18参照)、フィラメント状タウ封入が蓄積する(例えば、非特許文献16参照)。これらの知見は、正常な神経機能におけるタウタンパク質の重要性を際立たせるものであり、かつ、タウ構造の変化が、フィラメント形成および神経変性に直接つながりうることを示している。
【0005】
実際、ヤツメウナギの網様体脊髄路ニューロンにおいて、単にヒトタウを過剰発現するだけで、フィラメントの蓄積と、結果としての神経細胞死とを推進するのに十分である(例えば、非特許文献19参照)。ヤツメウナギ系において、ニューロンは臨界量のタウフィラメントが存在する限り機能し続ける。神経線維プロトマーNF180などの他の重合性タンパク質の過剰発現も、フィラメント形成を招くが、しかし神経変性はもたらさない(例えば、非特許文献20参照)。これらのデータは、タウタンパク質の線維状形態への集合が、罹患ニューロンにおいて、変性を悪化させるか、または潜在的にそれを媒介する、タウの機能の毒性の獲得をもたらすことを示唆している。
【0006】
精製した組換えタウ調製物は、生理学的濃度(低マイクロモル)と温度(例えば、非特許文献21参照)では自発的には重合しないので、これらの知見をin vitroで確認することがなされてきた。しかし、50から100μMの濃度で脂肪酸を加えることによって、直鎖状の形態を有するタウフィラメントを全長タウタンパク質からの数時間で効率的に形成させることができる(例えば、非特許文献21および22参照)。これらの薬剤は、ミセルを形成し、タウタンパク質に負に荷電した表面をもたらすことによって作用する。接種実験に基づくと、脂肪酸誘発合成による直鎖状フィラメントは、AD中に見られる対になった螺旋状フィラメント(PHF)と密接に関係があり、単一のヘミフィラメントと対応しているようである(例えば、非特許文献21参照)。このパラダイムを用いると、タウ線維化の速度とその程度はC末端切断および残基S396/404でのリン酸化反応模倣の影響を受けることが分かった。P301Lなどの既知のFTDP−17部位での点変異は、タウフィラメント形成を著しく促進することも分かった(例えば、非特許文献23および24参照)。したがって、フィラメント形成および疾患に付随するタウ改変またはタウ変異の多くは、in vitroでタウ線維化を加速することを示すといえる。
【0007】
【特許文献1】米国特許出願第09/919,475号明細書
【特許文献2】米国特許第6,001,331号明細書
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【非特許文献2】Buee et al., Brain Research Reviews 33:95 (2000)
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【非特許文献7】Feany et al., Am. J. Pathol. 146: 1388 (1995)
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【非特許文献12】Buee et al., Brain Res. Rev. 33: 95-130(2000)
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【非特許文献16】Spillantini et al., Neurogenetics 2: 193-205 (2000)
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【非特許文献68】Langer et al. (1990)
【非特許文献69】the U.S. Pharmacopeia or other generally recognized pharmacopeia for use in animals, and, more particularly, in humans
【非特許文献70】"Remington's Pharmaceutical Sciences" by E. W. Martin
【非特許文献71】Gamblin et al., Biochemistry 39: 14203-14210 (2000)
【非特許文献72】Carmel et al., Biol. Chem. 271: 32789-32795 (1996)
【非特許文献73】King et al., J. Neurochem 74: 1749-1757 (2000)
【非特許文献74】Snyder et al., Biophys 67: 1216-1228 (1994)
【非特許文献75】Evans et al., Proc. Natl.Acad. Sci U.S.A. 92: 763-767 (1995))
【非特許文献76】Goldsbury et al., J. Struct. Biol. 130: 352-362 (2000)
【非特許文献77】Masel et al., Biophys. Chem. 88: 47-59 (2000)
【非特許文献78】Wilson et al., J. Biol. Chem. 270: 24306-24314 (1995)
【非特許文献79】Naiki et al., Methods Enzymol 309: 305-318 (1999)
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
同時係属中の米国特許(特許文献1参照)に記載の方法を用いて、タウプロトマーに対して亜化学量論濃度(substoichiometric concentration)で、タウフィラメント形成または線維化を阻害および/または逆転させる比較的低分子量の特異的なリガンド(一般に約400ダルトン未満)が特定されている。本出願と同一の譲受人が所有するこの同時係属中の出願の全体を参照により本明細書に組み込む。これらのリガンドまたは阻害剤は、タウフィラメントがそこで形成されるアルツハイマー病を含む特定の神経障害または病態をin vivoで治療的に処置するために使用することができる。
【0009】
一つの実施形態では、本発明は、
脳内のタウ線維化を阻害する方法を必要とする患者を特定するステップと、
その患者に、薬理学上有効な量のタウ線維化の阻害剤であって、以下の一般式の化合物(式I)
【0010】
【化1】

【0011】
(式中、R、RおよびRは独立に、1個から6個の炭素原子を有する脂肪族基であり、RおよびRは独立に、1個から6個の炭素原子を有する第2の脂肪族基または1個から6個の炭素原子を有するヒドロキシル置換の脂肪族基である)
である阻害剤を投与するステップと
を含む患者の脳内のタンパク質タウの集合を調節する方法を提供する。
【0012】
好ましい一つの実施形態では、阻害剤は次式(式II)
【0013】
【化2】

【0014】
を有する3−(2−ヒドロキシエチル)−2−{2−[[3−(2−ヒドロキシエチル)−5−メトキシ−2−ベンゾチアゾリリデン]メチル]−1−ブテニル]−5−メトキシベンゾチアゾリウム(N744)である。
【0015】
一つの実施形態では、上記患者はヒトである。一般に阻害剤は、通常の技術を用いて決定することができる有効量で投与する。一般に、阻害剤を1日当たり約10mgから1日当たり約1000mgの範囲から選択される量で投与する。一つの実施形態では、少なくとも1週間にわたる期間反復して投与を実施する。一つの実施形態では、少なくとも1カ月にわたる期間反復して投与を実施する。一つの実施形態では、少なくとも3カ月にわたる期間反復して投与を実施する。一つの実施形態では、少なくとも1年にわたる期間反復して投与を実施する。他の実施形態では、少なくとも月1回投与を実施する。他の実施形態では、少なくとも週1回投与を実施する。他の実施形態では、少なくとも1日1回投与を実施する。他の実施形態では、少なくとも週に1回、少なくとも1カ月間投与を実施する。他の実施形態では、少なくとも1日に1回、少なくとも1カ月間投与を実施する。
【0016】
アルツハイマー病は、部分的には、微小管会合タンパク質タウから構成されるフィラメントの神経細胞内蓄積によって定義される。動物モデルによる研究によれば、機能の毒性獲得はニューロン中のタウ線維化を伴うので、そのプロセスの選択性薬理学的阻害剤は神経変性を遅延させる可能性があることが示唆されている。本発明は、式Iのタウ線維化の小分子阻害剤を提供する。
【0017】
【化3】

【0018】
式中、R、RおよびRは独立に、1個から6個の炭素原子を有する脂肪族基であり、RおよびRは独立に、1個から6個の炭素原子を有する第2の脂肪族基または1個から6個の炭素原子を有するヒドロキシル置換の脂肪族基である。好ましい実施形態では、本発明は、タウ線維化の阻害剤、3−(2−ヒドロキシエチル)−2−[2−[[3−(2−ヒドロキシエチル)−5−メトキシ−2−ベンゾチアゾリリデン]メチル]−1−ブテニル]−5−メトキシベンゾチアゾリウム(本明細書ではN744と称する)も提供する。これを式IIに示す。
【0019】
【化4】

【0020】
N744は、平面状でありかつ炭化水素リンカーの側面に位置する2つの芳香族環からなる点で、染料のコンゴレッドファミリーに広く関連するベンゼナミン誘導体である。生理的pHで正に荷電していると予測されている。
【0021】
N744は、300nM未満のIC50を有するタウに対して亜化学量論濃度で、全長4回反復タウタンパク質のアラキドン酸誘発の線維化を阻害する。タウプロトマーに対する化学量論量の濃度で、成熟した合成フィラメントに加えられた場合、N744はタウ脱凝集も促進する。脱凝集は一次速度論に従い、フィラメント数の安定した減少を伴う。これはN744が、限定的なフィラメントの切断を伴って、タウ分子の末端方向の損失(endwise loss)を促進することを示唆している。in vitroでのその活性のため、N744は疾患の細胞モデルでのタウ仮説のテストに有用である。
【0022】
本明細書で提示したデータは、タウ線維化を、タウプロトマーに対して亜化学量論濃度で、かつ>100倍モル過剰の脂肪酸誘導物質の存在下で作用する式Iの化合物、具体的にはN744である小さいリガンド(<400Da)によって阻害することができることを示している。これらのデータは、in vivoでタウフィラメント形成に拮抗する、さらにはその形成を逆転させることの実行可能性を裏付けている。
【0023】
本発明は、このような調節を必要とする哺乳動物脳内のタンパク質タウの集合を調節する方法であって、その哺乳動物に薬学上許容可能な担体中で薬剤有効量のタウ線維化阻害剤を投与することを含む方法を含む。本発明の目的では、「タンパク質タウの集合を調節する」という用語は、これらに限定されないが、タウフィラメント形成または線維化を阻害および/または逆転させること、および/またはタウフィラメント形成または線維化の速度を抑制することを含む。
【0024】
タウタンパク質は、集合して、コンゴレッドおよびチオフラビンSなどの組織化学的染料と結合可能な線状のフィラメントとなる。これは、タウタンパク質が、伸長したβシート構造の特徴の「アミロイド」の沈着物と重合することを示唆している(例えば、非特許文献25および26参照)。断片タウタンパク質と全長タウタンパク質の両方とin vitroで行われるリガンドの媒介した集合反応に基づくと、線維化は、微小管反復領域中に位置する短い疎水性配列によって媒介されるようである(例えば、非特許文献24および27参照)。しかし、この領域外での配列は、線維化の動力学とフィラメント内でのプロトマーの構造の両方に著しく影響を及ぼす(例えば、非特許文献24および28参照)。したがって、他のタンパク質から誘導されたアミロイド原線維とほぼ類似性を維持しているにもかかわらず、全長タウタンパク質のフィラメントは、潜在的にユニークな、重合阻害剤に結合するためのファルマコフォアを提供する。
【0025】
N744は、精製された組換えhtau40からの脂肪酸媒介によるフィラメントの形成を阻害するようである。小分子がアミロイド原線維形成に拮抗する能力はすでに報告されている(例えば、非特許文献29および30参照)。これらの阻害剤は集合の様々な段階で作用して、有効モノマー濃度を低下させるか、フィラメント末端での成長を阻止するか、あるいはフィラメント切断の速度を増大させるとみなされている(例えば、非特許文献31参照)。N744の場合、タウ集合アッセイにこれを含めると、総タウフィラメント質量(これは合計長さに比例している)の濃度依存的な低下を導く。この効果に関するIC50は約300nMであった。単位長さ当たり質量値を74.6kDa/nmと仮定すると(例えば、非特許文献32参照)、4μMタウの約40%がフィラメント形態へ転換され(例えば、非特許文献33参照)、DMSO媒体だけを含む対照反応では111nmの数平均フィラメント長さ(図1A)から、フィラメント数濃度の推定として約10nMが得られる。したがって、N744はタウ線維化を、タウプロトマーに対して亜化学量論濃度で阻害するが、この濃度はフィラメントしたがって核の最終濃度よりずっと高い。
【0026】
合計フィラメント数と長さの阻害についてのIC50値が非常に類似していたので、アラキドン酸を介した核形成の阻害は、IC50近傍でのN744活性に大きく寄与するようである。しかし、合計タウプロトマーに対する化学量論的に近接した濃度では、N744のフィラメント長さ分布に対する効果は明白になる。さらに、化学量論濃度のN744での成熟したフィラメントを処理すると、一次速度式でのフィラメント脱凝集、指数分布に近似したフィラメント長さの維持およびフィラメント数の着実な減少をもたらす。これらの特徴は漸進的な末端方向の脱凝集と一致し、フィラメントの長さ方向に沿った破局的なフィラメント切断とは一致しない(例えば、非特許文献34参照)。フィラメント長さ分布のN744を介した減少とあいまって、これらのデータは、化学量論濃度のN744が原線維タウと非原線維タウとの間の平衡に影響を及ぼし、それによってフィラメント末端からのタウの解離が支配的となることを示唆している。新たな平衡の結果として、4μM htau40の線維化はもはや支持されなかった。
【0027】
組換えモノマーからのタウ線維化の経路は完全には明らかでないが、一般的スキーム(スキームI)に従うことによる他のアミロイドの経路と一致するようである。
【0028】
【化5】

【0029】
ここで、Uは折り畳まれていない状態を表し、Iは二量体などの二次構造またはオリゴマー構造を含むことができる中間形態を表し(例えば、非特許文献35参照)、Nはその形成が律速的である核を表し、Fは複数であってよく、かつプロトフィラメントを含むフィラメント形態を表す(例えば、非特許文献36参照)。成熟したフィラメントは、最終的に、恐らくそのU形態および1形態にある非原線維タンパク質との平衡に達する。これは集合体の臨界濃度に反映されている。アラキドン酸は、折り畳まれていないタウと相互作用してアニオン性のミセルを形成することによってこの経路を加速する(例えば、非特許文献33参照)。得られる複合体は非常に速やかに核形成し、誘導物質の非存在下では通常ほとんどフィラメントをもたらさないか、もたらしてもわずかな低いミクロモルのタウ濃度で大量のフィラメントを生成する。(例えば、非特許文献21および33参照)。他のアミロイド形成タンパク質であるα−シヌクレインを用いた実験では(例えば、非特許文献37参照)、アニオン性のミセルは、部分的に折り畳まれた中間形態に好都合なように平衡をシフトさせ、集合の時間の遅れを短縮させ、集合の見掛けの一次速度を増大させ、かつ、ミセルの非存在下で行われる反応に比較して平衡での臨界濃度を低下させることによって、線維化を誘発するようである。タウのミセルを介した線維化がこれらの特徴を保持すると仮定すると、N744はアラキドン酸の作用に拮抗するようである。N744はタウフィラメント核形成を阻害する、そして集合体の臨界濃度を上昇させるようである。この挙動は多分アラキドン酸ミセル化の直接阻害から誘導されるものではない。その理由は、N744は正に荷電し、アニオン性のミセルと多分相互作用することができるが、タウ線維化の阻害についてのそのIC50は<0.01%のアラキドン酸のモル濃度だからである。実際、拡散したカチオンであるそうしたN744は一般に、アニオン性界面活性剤の臨界ミセル濃度を低下させる(例えば、非特許文献38参照)。
【0030】
N744とコンゴレッドとの間の構造的な類似性による、より可能性のある機構が提案されている。N744と同様に、コンゴレッドは平面状の芳香族染料であり、その結合化学量論と光学特性(複屈折)に基づくと、すべてアミロイド原線維の長さに沿って結合すると考えられる(例えば、非特許文献39参照)。しかし、コンゴレッドは球状タンパク質、および部分的に折り畳まれた中間体の二次的構造要素にも結合する(例えば、非特許文献40参照)。トランスサイレチンに作用するフルフェナム酸、またはチューブリンに作用するコルヒチンなどの球状モノマーに結合できる化合物は、本明細書でタウタンパク質について述べたものと類似した凝集の亜化学量論での阻害をもたらすことができる(例えば、非特許文献41および42参照)。後者の例では、凝集の亜化学量論での阻害および脱集合の促進はフィラメント極性に依存する。ここで、集合および薬物作用は、主に一方の末端で起こり、脱集合はその反対側の末端で進行する(例えば、非特許文献43参照)。接種実験はタウフィラメントが成長極性を有することと一致するので(例えば、非特許文献21参照)、今のところこの機構を排除することはできない。しかし、組換えタウモノマーは大部分ランダムコイルであるので(例えば、非特許文献44参照)、N744がこの形でタウと相互作用することはなさそうである。むしろ、コンゴレッドについて示唆されているように(例えば、非特許文献40参照)、N744は、集合能力のある中間体と結合して集合能力のない凝集体を形成する可能性がある。得られる平衡のシフトは中間体の有効濃度を低下させ、より遅いフィラメント核形成をもたらすと予想される。フィラメント核形成速度とタンパク質濃度との関係については次の式が提案されている。
dC/dt=k(P
ここで、Cはフィラメントの数濃度であり、kは核形成速度定数であり、Pは集合能力のある中間体の濃度であり、nは核の中の分子の数である(例えば、非特許文献45参照)。したがって、小さいN744を介した集合能力のある中間体の濃度の変化は、核形成速度に対して大きな非線形的な影響があることが予測される。N744濃度に対するタウフィラメント核形成の協同的阻害(1.6から1.8のヒル係数が観察される)はこの関係からきている可能性がある。線維化能力のない中間体への平衡における阻害剤媒介シフトも、線維化速度を低下させ、平衡での非原線維プロトマーの量を増大させることが予想される(例えば、非特許文献46参照)。N744によって誘発される末端方向の脱凝集と、新たな平衡へのアプローチの一次速度はこのモデルと一致する。
【0031】
神経原線維損傷の空間的および時間的分布と、神経細胞損失および痴呆の重症度との間の密接な関係はADの進行におけるタウ線維化の中心的役割を示唆している(例えば、非特許文献47、48および49参照)。この仮説は、Aβ沈着物の非存在下での神経原線維損傷の進行を特徴とし、かつタウ遺伝子における変異と遺伝子的に関連している、家族性神経原線維痴呆の発見によって著しく強固なものになってきている(例えば、非特許文献50および51参照)。タウ線維化が、機能の毒性獲得(toxic gain of function)(すなわち、フィラメント自体によって引き起こされた代謝破壊または毒性)または機能の損失(すなわち、フィラメント中へのタウの隔離による正常なタウ機能への干渉)を表すのかはまだ確認されていない。家族性神経原線維痴呆に関連するタウ突然変異体の機能的特徴についての研究は不確かなものである。これらの突然変異体のいくつかは細胞培養で微小管結合の減少を示すが(例えば、非特許文献52および53参照)、これらは、in vitroでフィラメントを形成する傾向の増大も示す(例えば、非特許文献54および23参照)。大部分の家族性神経原線維痴呆の遺伝の常染色体優性モード(例えば、非特許文献55参照)は、作用の「機能の獲得」モードを示唆しており(それを必要とはしないが)、複数のタウをベースとした機構がADおよび家族性神経原線維痴呆に見られる神経変性に寄与することができる。この問題へのN744を用いた薬理学的アプローチによってタウ線維化の神経変性への寄与を明らかにすることができる。作用のその亜化学量論モードは、タウ線維化の阻害が、神経突起損傷に付随して見られる高いタウ濃度でも実施可能であることを示唆している(例えば、非特許文献56参照)。
【0032】
形態学およびプロトマー化学量論に基づけば、アラキドン酸処理で誘発される合成タウフィラメントは疾患の早期に見られる直線状のフィラメントに類似しており(例えば、非特許文献57参照)、標準的な対になった螺旋状フィラメント(PHF)からなる1つのヘミフィラメントに相当している(例えば、非特許文献21および32参照)。これらの形態学の中での、プロトマー構造の明らかな共通性は、N744が、タウオパシー的神経原線維変性の種々の細胞および動物モデルにおいてタウ線維化を調節するのに有用であることを示唆している。
【0033】
染料3−(2−ヒドロキシエチル)−2−[2−[[3−(2−ヒドロキシエチル)−5−メトキシ−2−ベンゾチアゾリリデン]メチル]−1−ブテニル]−5−メトキシベンゾチアゾリウム(N744)(式II)ならびに類似の化合物は、精製された組換えhtau40からの直線状フィラメントの脂肪酸媒介形成を阻害することを見出した。
【0034】
本発明での使用に適した阻害剤は一般式(式I)の化合物である。
【0035】
【化6】

【0036】
式中、R、RおよびRは独立に、1個から6個の炭素原子を有する脂肪族基であり、RおよびRは独立に、1個から6個の炭素原子を有する第2の脂肪族基または1個から6個の炭素原子を有するヒドロキシル置換の脂肪族基である。
【0037】
好ましい一実施形態では、阻害剤は次式(式II)
【0038】
【化7】

【0039】
を有する3−(2−ヒドロキシエチル)−2−[2−[[3−(2−ヒドロキシエチル)−5−メトキシ−2−ベンゾチアゾリリデン]メチル)−1−ブテニル]−5−メトキシベンゾチアゾリウム(N744)である。
【0040】
上記の式Iでは、R、R、Rは独立に1個から6個の炭素原子を有するアルキル基である。そうしたアルキルまたは脂肪族基の例はメチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチルおよびヘキシルであり、直鎖基と分枝基の両方を含む。アルキル基はメチルまたはエチルであることが好ましく、メチルであることがより好ましい。
【0041】
上記の式Iでは、RおよびRは独立に1個から6個の炭素原子を有するアルキルまたは脂肪族基、あるいは1個から6個の炭素原子を有するヒドロキシル置換アルキルまたは脂肪族基である。このようなアルキルまたは脂肪族基の例はメチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、およびヘキシル基であり、直鎖基と分枝基の両方を含む。アルキル基はメチルまたはエチルであることが好ましく、メチルであることがより好ましい。このようなヒドロキシル置換アルキルまたは脂肪族基の例はヒドロキシル置換メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、およびヘキシルであり、直鎖基と分枝基の両方を含む。ヒドロキシル置換アルキル基は−(CHCHOH基であり、式中、nは0から5の整数、より好ましくはnは1であることが好ましい。
【0042】
式Iの阻害剤は、同時係属中の米国特許(特許文献1参照)に記載のものと本質的に同じ方法を用いて同定した。これらの阻害剤は、タウフィラメントの形成または線維化を阻害および/または逆転させる特異的な比較的低分子量のリガンドである。本出願と同一譲人であるこの同時係属中の出願の全体を参照により本明細書に組み込む。これらのリガンドまたは阻害剤は、タウフィラメントがそこで形成されるアルツハイマー病を含む特定の神経障害または病態を治療的に処理するために使用することができる。
【0043】
特に好ましい一つの実施形態では、哺乳動物はヒトである。一般に阻害剤は、従来の技術を用いて投与できる有効量で投与する。一般に、阻害剤は1日当たり約10mgから1日当たり約1000mgの範囲から選択される量で投与する。
【0044】
一つの実施形態では、少なくとも1週間にわたる期間、本発明の阻害剤を反復して投与する。一つの実施形態では、少なくとも1カ月にわたる期間反復して投与を実施する。一実施形態では、少なくとも3カ月にわたる期間反復して投与を実施する。一つの実施形態では、少なくとも1年にわたる期間反復して投与を実施する。他の実施形態では、少なくとも月1回投与を実施する。他の実施形態では、少なくとも週1回投与を実施する。他の実施形態では、少なくとも1日1回投与を実施する。他の実施形態では、少なくとも週に1回、少なくとも1カ月間投与を実施する。他の実施形態では、少なくとも1日に1回、少なくとも1カ月間投与を実施する。
【0045】
本発明のこの態様は、タウ線維化に関連する様々な疾患および障害の治療および/または予防を提供する。本発明は、有効量の本発明の治療薬を対象に投与することによって治療(および予防)する方法を提供する。好ましい態様では、その治療薬は実質的に精製されたものである。患者または対象は好ましくは、これらに限定されないが、ウシ、ブタ、ウマ、トリ、ネコ、イヌ等を含む動物であり、より好ましくは哺乳動物であり、最も好ましくはヒトである。
【0046】
様々な送達系が知られており、これらを本発明の治療薬を投与するために用いることができる。そうした送達系には、例えば、リポソーム中への封入、微小粒子、マイクロカプセル、治療薬を発現できる組換え細胞(例えば、非特許文献58参照)、レトロウイルスベクターまたは他のベクターの一部としての治療用核酸の構築等が含まれる。導入方法には、これらに限定されないが、皮内、筋肉内、腹膜内、静脈内、皮下、経鼻、硬膜外および経口経路が含まれる。治療薬は、輸液またはボーラス注入、上皮または粘膜皮膚壁(例えば口腔粘膜、直腸および腸粘膜等)を通した吸収を含む任意の好都合な経路で投与することができ、他の生物学的活性薬剤と一緒に投与することができる。投与は全身であっても局所であってもよい。さらに、本発明の薬剤組成物を、脳室内およびくも膜下腔内注入を含む任意の適切な経路で、中枢神経系に導入することが望ましい。脳室内注入は、例えばリザーバーに取り付けられた脳室内カテーテルによって使い易くすることができる。エアロゾル化剤を含む調合物を用いた経肺投与も使用することができる(例えば吸入器または噴霧器)。
【0047】
具体的な実施形態では、本発明の薬剤組成物は、脳などの治療を要する領域へ局所的に投与することが望ましい。これは、限定されるものではないが、例えば、外科手術時での局部注入、局所使用(例えば創傷包帯)、注射、カテーテル、座剤または埋め込み(例えば、シアラスティック(sialastic)の膜または線維などの膜を含む多孔性、非多孔性またはゼラチン状材料から形成された埋め込み材)等によって実現することができる。一つの実施形態では、脳などの酸化によって損傷を受ける組織の部位(または元の部位)に直接注入して投与を行うことができる。他の実施形態では、薬を小胞、特にリポソームで送達することができる(例えば、非特許文献59および60参照)。
【0048】
さらに他の実施形態では、治療薬を放出制御系で送達することができる。一つの実施形態では、ポンプを使用することができる(例えば、非特許文献61、62および63参照)。他の実施形態では、ポリマー材料を使用することができる(例えば、非特許文献64、65、66および67参照)。総説として考察されている他の放出制御系も使用することができる(例えば、非特許文献68参照)。
【0049】
一般に、本発明の阻害剤は典型的には薬学上許容可能な担体を用いて投与する。「薬学上許容可能な」という用語は、連邦政府または州政府の監督官庁によって承認されているか、あるいは米国薬局方(例えば、非特許文献69参照)に掲載されていることを意味する。「担体」という用語は、希釈剤、補助剤、賦形剤または治療薬をそれと一緒に投与する媒体を指す。このような薬剤用担体は、水、あるいは油、動物、植物または合成由来のものを含む、例えばピーナッツ油、大豆油、鉱油、ゴマ油等の油類などの滅菌液体であってよい。水は、薬剤組成物を静脈内に投与する場合に適した担体である。食塩水ならびに水性デキストロースおよびグリセロール溶液は液状担体として、特に注入可能な溶液用に使用することもできる。適切な薬剤用賦形剤には、デンプン、グルコース、ラクトース、スクロース、ゼラチン、麦芽、米、小麦粉、チョーク、シリカゲル、ステアリン酸ナトリウム、モノステアリン酸グリセロール、タルク、塩化ナトリウム、乾燥脱脂乳、グリセロール、プロピレン、グリコール、水、エタノール等が含まれる。所望により、治療薬は少量の湿潤剤もしくは乳化剤、またはpHバッファー剤も含むことができる。これらの治療薬は液剤、懸濁剤、乳剤、錠剤、丸剤、カプセル剤、粉剤、持続放出徐放製剤等の形態をとることができる。治療薬は、トリグリセリドなどの従来の結合剤または担体を用いて座剤として製剤することができる。経口製剤には、薬剤グレードのマンニトール、ラクトース、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、セルロース、炭酸マグネシウム等の標準的担体を含むことができる。適切な薬剤担体の例は、文献(例えば、非特許文献70参照)に記載されている。このような治療薬は、患者への適切な投与を提供するために妥当な量の担体と一緒に、治療有効量の活性成分を、好ましくは精製した形で含む。製剤は投与の様式に適合したものでなければならない。
【0050】
好ましい実施形態では、組成物は、ヒトへの静脈内投与に適合した薬剤組成物として通常の手順で製剤される。一般に、静脈内投与のための組成物は殺菌した等張性水性バッファーの溶液である。必要であれば、組成物は、可溶化剤および注入部位の痛みを和らげるためのリグノカインなどの局部麻酔薬も含むことができる。一般に、構成成分は、別々に提供するか、あるいは単位剤形中に一緒に混ぜて、例えば活性薬剤の量を示すアンプルまたはサシェイなどの密封容器中の凍結乾燥粉末または水分を含まない濃縮物として提供する。組成物を輸液で投与する場合、滅菌した薬剤グレードの水または生理食塩水を含む輸液用瓶で組成物を分注することができる。組成物を注入で投与する場合、投与する前に構成成分を混合できるように、滅菌水または生理食塩水のアンプルを提供することができる。
【0051】
本発明の治療薬の有効な量は、タウ関連障害または状態の性質、および障害または状態の段階に依存する。有効な量は標準的な臨床技術によって決定することができる。さらに、以下に述べるようなものなどのin vitroでのアッセイを任意選択で用いて、最適の投与量範囲を特定する助けとすることができる。製剤で用いるための正確な用量は投与の経路に依存することになり、保健医療医の判断および各患者の状況によって決定されなければならない。しかし、適切な投与量範囲は約10mg/日から約1000mg/日である。効果的な用量はin vitroまたは動物モデル試験系から導出される用量反応曲線から推定することができる。本発明は、本発明の治療薬の1つまたは複数の構成成分を充填された1つまたは複数の容器を含む薬剤のパックまたはキットも提供する。
【0052】
一つの実施形態では、患者の脳内タンパク質タウの集合を調節するための方法は、脳内のタウ線維化を阻害する方法を必要とする患者を特定するステップと、薬理学上有効な量の本明細書で定義の式IまたはIIのタウ線維化の阻害剤を患者に投与するステップとを含む。
【0053】
一つの実施形態では、上記特定は、患者でのタウの突然変異体ゲノムサブタイプを特定することに基づく。一般に、これらの突然変異体サブタイプはタウタンパク質線維化の増大を伴う。文献(例えば、非特許文献3参照)の総説を参照されたい。他の実施形態では、その特定はアルツハイマー病の診断以外のものである。この実施形態では、その特定は、これらに限定されないが、ピック病、進行性核上麻痺、大脳皮質基底核変性および家族型前頭側頭骨痴呆、ならびに染色体17(FTDP−17)に関連したパーキンソン症などのタウ線維化を伴う他の障害の診断である。
【0054】
以下の実施例は本発明の方法および組成物を説明し例示する。これらの実施例は単に本発明を例示するためのものであって、範囲においても趣旨においてもそれを限定するものではない。別段の指定のない限り、すべての割合は重量ベースである。当分野の技術者は、実施例で記載の材料、条件および方法の変更形態を用いることができることを容易に理解されよう。
【実施例】
【0055】
一般的実験手順
材料。組換えポリヒスチジン−タグを付けたhtau40を上記したようにして発現させ精製した(例えば、非特許文献71および72参照)。ヒトAβ1〜40(Bachem;Philadelphia,PA)をDMSO(500μM)中に溶解させ、超音波処理し(室温で30分間)、使用前にろ過した(0.2μMカットオフ)。ヒトアミリン(Bachem;Philadelphia,PA)のストック溶液を水(250μM)中で調製した。アラキドン酸(Fluka;Milwaukee,WI)を100%エタノール中に溶解し、使用するまでアルゴンガス中に−80℃で保存した。タウ線維化阻害剤、3−(2−ヒドロキシエチル)−2−[2−[[3−(2−ヒドロキシエチル)−5−メトキシ−2−ベンゾチアゾリリデン]メチル]−1−ブテニル]−5−メトキシベンゾチアゾリウム(Neuronautics,Inc.;Evanston,IL)をDMSO(10mMストック)中に溶解し、−20℃で保存した。
【0056】
タウ凝集。精製した組換えhtau40を、上記したようにして(例えば、非特許文献21、22および73参照)重合させた。標準的条件下で、4μM(最終濃度)htau40を室温かまたは37℃で、集合バッファー(10mM 4−[2−ヒドロキシエチル]−1−ピペラジンエタンスルホン酸、100mM NaClおよび5mM DTT)中でアラキドン酸とインキュベートした。アラキドン酸(75〜100μM)を加えて線維化を誘発させ、これを3時間から6時間継続し、以下に説明するようにして電子顕微鏡で分析した。存在する場合、凝集アッセイにおけるN744最終濃度は0.12〜4.1μMで変化させた(最大4.7μMのN744の最終濃度を脱凝集アッセイで使用した(以下参照))。対照反応を、すべての反応において5%(体積/体積)以下に限定したDMSO媒体について標準化した。
【0057】
タウ脱凝集。精製したhtau40(4μM)の溶液を上記の標準的な条件下で3.5時間重合させ、次いで2つの別々の管に分割した。一方の管には4.7μMの最終濃度でN744を受け、他方の管にはDMSO媒体だけを受けた。0、1、3、5、9、12および19時間インキュベーションした後、それぞれのサンプルから一定分量を取り出し、以下で説明する電子顕微鏡アッセイにかけた。対照(N744が存在しない)反応を、すべての反応において5.7%(体積/体積)未満に保持したDMSO媒体について標準化した。。
【0058】
透過電子顕微鏡法。一定分量(50μl)の凝集および脱凝集反応物を取り出し、グルタルアルデヒド(2%)で固定し、300メッシュのフォルムバール(formvar)/カーボンコーティングした銅グリッド(Electron Microscopy Sciences;Ft.Washington,PA)上で吸着させた(1分間)。得られたグリッドを水で洗浄し、2%酢酸ウラニル(Electron Microscopy Sciences)で染色し(1分間)、再度水で洗浄し、ブロッティングして乾燥し、Phillips CM12顕微鏡で、65kVで動作させて観察した。各実験条件からの3つから5つのランダムな画像を22,000×の倍率でフイルムに記録し、デジタル化し、較正し、上記したようにして(例えば、非特許文献73参照)フィラメント長さおよび数を定量化するためにOptimas6.51に取り込んだ。個々のフィラメントを、その長軸が50nmを超えるすべての物体と規定する。フィラメントを手作業でカウントした。フィラメントの数を、合計フィラメント長さと合計フィラメント数の両方について、平均±標準偏差として記録する。長さ分布を25nm(集合)または50nm(脱集合)のワイドビンで定量化した。
【0059】
Aβ1〜40凝集。Aβストック溶液を、凝集バッファー(150mM NaCl、10mM 2−[N−モルホリノコエタンスルホン酸、pH6.2;最終体積300μl)中で20μMの最終濃度に希釈して凝集を開始させた。Aβ凝集によってもたらされた濁度を、N744の存在下(4.1μM最終濃度)および非存在下で、Beckman DU640B分光光度計における400nmでの時間の関数として、DMSO媒体ブランクと対比してモニターした(例えば、非特許文献74および75参照)。各読取りの前にキュベットを渦巻混合させた。合計DMSO媒体濃度をサンプル間で制御した。6%(体積/体積)は超えなかった。
【0060】
アミリン凝集。4.1μM N744の存在下または非存在下で、ペプチドを10mM Tris−HCI、pH7.3中に50μMの最終濃度まで希釈して凝集を開始させた(例えば、非特許文献76参照)。0、1、3、5、7および24時間後に一定分量を取り出し、上記のようにしてEM用に調製した。合計DMSO媒体濃度は5%(体積/体積)を超えなかった。
【0061】
分析方法。吸収によってタウタンパク質濃度を280nmで測定した(例えば、非特許文献72参照)。別段の言及のない限り、線形回帰分析からの誤差はすべて95%信頼限界である。
【0062】
(実施例1)
タウ線維化の阻害。タウ線維化の化学的拮抗物質を特定するため、小分子のライブラリを、蛍光アッセイを用いて、生理学的条件に近似した条件下でアラキドン酸(50μM)によって誘発されるhtau40(2μM)集合に対する阻害活性についてスクリーニングした(例えば、非特許文献22参照)。N744の構造、N744はスクリーニングによって特定された阻害剤であるが、その構造を式Iに示す。それは荷電した分子(生理的pHで)であり、平面状の芳香族染料であるコンゴレッドファミリーの化合物に幅広く関連している。
【0063】
標準的条件下でアラキドン酸(75μM)によって誘発されるhtau40(4μM)の線維化に拮抗するためのN744の能力を透過電子顕微鏡法で試験した(例えば、非特許文献21参照)。一般に、htau40プロトマーの約50%がこれらの条件下でフィラメント中に取り込まれる。DMSO媒体単独の存在下では、htau40は重合して直線状の形態を有する非常に多くのフィラメントを形成した(図1A)。しかし、N744の存在下では(4.1μM;タウプロトマーに対して約1:1モル化学量論量)、すべてのフィラメントの合計数かまたは合計長さに反映されているように、線維化は著しく阻害されていた(図1B)。0.124μMから4.1μMの間でN744濃度を変化させることにより、阻害された合計フィラメント長さにより測定されるフィラメント形成で、294±23nMのIC50と1.84±0.14の傾き(Hill slope)として阻害活性が類別されることが分かった(図2)。これらのデータによって、N744がタウ線維化の有力な阻害剤であり、タウプロトマーおよびアラキドン酸誘導物質に対して亜化学量論濃度で活性であることが確認された。
【0064】
(実施例2)
阻害機構。タウ線維化は核形成相および伸長相によって特徴づけされる。これらの2つの相に対するN744の影響を識別するために、フィラメント長さ分布を阻害剤濃度の関数として測定し、DMSO媒体だけを含む対照反応と比較した。対照反応で形成された多数のフィラメントは指数長さ分布をとった(図3)。この分布は低N744濃度(すなわち、IC50近傍;図3)で維持されたが、形成されたフィラメントの数は対照反応に対して減少した(図2)。N744濃度が増大してhtau40プロトマー対するモル化学量論量に近似しても、フィラメント数のさらなる減少が観察された(図2)。これらのデータは、N744の主要な作用が、タウフィラメント核形成を阻害することであることを示唆している。確かに、タウフィラメント数の阻害についての用量反応曲線は、合計フィラメント長さの阻害についての用量反応曲線とほぼ同じである(図2)。それにも関わらず、化学量論濃度でのN744は、フィラメント長さ分布もDMSO媒体対照に対してより短い長さの方へシフトさせた(図3)。したがって、N744は亜化学量論濃度でタウフィラメント核形成を阻害できると思われるが、その濃度がタウプロトマー対するモル化学量論量に近似するにしたがって、核形成と伸長の両方を阻害することができる。
【0065】
(実施例3)
N744はタウフィラメント脱凝集を促進する。N744が化学量論濃度近傍で、タウフィラメントの伸長を阻害する能力を有することは、成熟したフィラメントを不安定化させることも可能であることを示唆している。この仮説を検証するため、htau40(4μM)を、3.5時間かけてアラキドン酸(75μM)と重合させ、続いて、等量の一定分量をN744(4.7μM)またはDMSO媒体単独で処理し、フィラメント数と長さを電子顕微鏡で19時間かけて「追跡」して測定した。N744の非存在下では、合計htau40フィラメント長さはこの期間で23±4%減少した(図4)。実験パラダイムにおいて、サンプル希釈は6%だけであったので、DMSO単独では、これらの濃度でタウフィラメントを不安定化させると思われる。これに対して、N744(4.7μM)を加えると、合計フィラメント長さのより迅速な減少がもたらされ、その結果19時間のうちに合計フィラメント長さの87±13%が失われた。これらの条件下で、フィラメント損失の初期速度は一次崩壊としてよくモデル化された(r=0.981;k=0.12±0.01h−1)(図4)。これらのデータは、N744が、成熟フィラメントを不安定化させ、0.10±0.02h−1の正味速度(すなわち、希釈およびDMSO効果を補正した速度)での一次速度式で合計フィラメント長さを減少させることができることを示唆している。
【0066】
(実施例4)
脱凝集の機構。フィラメントの脱凝集は、N744の促進するランダムフィラメント切断によって、または末端方向の解重合を促進することによってもたらされる(例えば、非特許文献77参照)。平衡における線状タンパク質集合体の末端方向解重合の動力学的特徴は、ポリマーの長さ分布によって決まる(例えば、非特許文献34参照)。長さが指数分布をとるタウフィラメントについては(例えば、非特許文献71および78参照)、解離速度は一次であると予測されている(例えば、非特許文献34参照)。さらに、フィラメントの脱集合は、徐々に短縮されるフィラメント長さの指数分布を維持しながら進行すると予測されている(例えば、非特許文献34参照)。
【0067】
一次のリガンド誘発フィラメント解重合の観察から、ランダムなフィラメント切断の促進によるよりは、N744がフィラメント末端からのタウプロトマーの逐次的な放出を促進したことが示唆される。この仮説を確認するために、タウポリマーの長さ分布を、予め集合させたタウフィラメントをN744(4.7μM)またはDMSO媒体単独で処理した後、時間の関数として(19時間)試験した。時間0では、N744処理したものと対照反応の両方が同じタウフィラメント長さの指数分布を示した。末端方向の解重合モデルに一致して、フィラメントが、対照反応に対してより短い長さにシフトしたので(時間0および19時間のみについて示されている;図5)、指数フィラメント長さ分布はN744媒介解重合反応を通して維持された。さらに、N744媒介解重合は、50nm超の長さのフィラメントの数の緩慢な減少を伴った(時間0および19時間のみについて示されている;図5)。これはランダムな切断媒介解重合モデルに一致しなかった。これらのデータを合わせると、成熟した合成タウフィラメントを化学量論濃度のN744で処理すると、末端方向のフィラメント解凝集が促進されることを示唆している。
【0068】
(実施例5)
タウ線維化拮抗の選択性。他の染料が、Aβおよびインスリンから形成されたものを含む様々なアミロイド凝集物と低いミクロモル濃度で結合することが分かっている(例えば、特許文献2参照)。線維化阻害活性がアミロイド結合を伴ったかどうかを検証するために、N744のAβ1〜40の集合を阻害する能力を試験した。リガンドの非存在下では、Aβ1〜40(20μM)は約80分間の遅れの後で自発的に重合した。上述した一次動力学モデル(例えば、非特許文献79参照)を用いて反応データをプロットして光学密度対時間の線形半対数プロットが得られ、136±3分間の集合半減期を示した(図6)。Aβ1〜40プロトマー(4.1μM)に関して亜化学量論量の濃度のN744の存在は、Aβ1〜40集合動力学を穏やかに変えただけであった(t1/2=153±3分間;図6)。これは、N744がこうした条件下ではAβ1〜40の集合に対してほとんど影響を及ぼさなかったことを示唆している。
【0069】
他のアミロイド形成タンパク質であるアミリン(例えば、非特許文献76参照)に対するN744の活性も試験した。定性的電子顕微鏡分析によれば、4.1μMのN744が存在しても50μMアミリンの線維化は24時間にわたって調節されなかった(図6)。これらのデータは、異なるタンパク質プロトマーから形成されたポリマー構造(すなわち、伸長したβシート)の類似性にも関わらず、亜化学量論濃度で目標選択的阻害活性を有するN744などの小リガンドを選択することが可能なことを明確にしている。
【0070】
本出願を通して、様々な特許、刊行物、書籍ならびに核酸およびアミノ酸配列を引用した。これらの特許、刊行物、書籍および配列それぞれの全体を参照により本明細書に組み込む。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1A】N744がタウ線維化を阻害することを示す図である。Htau40(4μM)を、撹拌なしで37℃、3.5時間アラキドン酸(75μM)とともにインキュベートした。次いで一定分量を酢酸ウラニルで染色し、実施例で述べるようにして透過型電子顕微鏡で観察した。図1Aは、DMSO(ジメチルスルホキシド)媒体対照の存在下、htau40は111±6(標準偏差)nmの数平均長さを有する多くのフィラメントを形成したことを示す。
【図1B】N744がタウ線維化を阻害することを示す図である。Htau40(4μM)を、撹拌なしで37℃、3.5時間アラキドン酸(75μM)とともにインキュベートした。次いで一定分量を酢酸ウラニルで染色し、実施例で述べるようにして透過型電子顕微鏡で観察した。図1Bは、4.1μM N744の存在下、タウ線維化は著しく阻害されたことを示す。
【図2】N744が亜化学量論濃度でタウ線維化を阻害することを示す図である。Htau40(4μM)を、様々な濃度(0、0.12、0.41、1.2および4.1μM)のN744の存在下で、アラキドン酸(75μM)とともにインキュベートした(37℃で3.5時間)。次いで、一定分量を透過電子顕微鏡法で22,000倍の倍率で検査した。長さが≧50nmのすべてのフィラメントを2つの負の値から測定し、合計して合計フィラメント長さ(黒□記号)および合計フィラメント数(□記号)対N744濃度をヒルプロット形式でプロットした。ここで、Yは対照フィラメント長さまたはフィラメント数の割合である。各線はデータポイントの線形回帰分析を表す。合計フィラメント長さと合計フィラメント数の両方N744の存在下で減少する。IC50値はそれぞれ294±23および272±17nMである。ヒルプロットの両方は正の傾きを有しており、それぞれ1.84±0.14および1.61±0.10の値である。
【図3】N744がタウフィラメント核形成と伸長の両方を阻害することを示す図である。Htau40(4μM)を、DMSO媒体単独(黒□)、または0.12(□)、0.41(黒○)、1.2(〇)および4.1(黒△)μMのN744の存在下でインキュベートし(37℃で3時間)、次いで、透過電子顕微鏡法で22,000倍の倍率で調べた。次いで≧50nmの長さのフィラメントの長さと数をデジタル画像から判定し、合計してプロットした。各データポイントは、連続した長さ間隔(25nmビン)に分離した3つから5つの負の値で分析したすべてのフィラメントの割合(3722、2972、1248、379、および92でそれぞれ個別に測定したフィラメントからそれぞれを誘導)を表し、他方、各線は、データポイントの指数分布への最良適合の線を表す。低い濃度のN744(≦410nM)では、長さ分布はDMSO媒体対照とそれほど違いはなかった。これは、こうした条件下では、N744はフィラメント伸長を調節しなかったことを示唆している。対照的に、さらにN744濃度を上げると(≧1.2μM)、長さ分布の著しい短縮がもたらされる。これは、こうしたより高い濃度でフィラメント伸長が阻害されたことを示唆している。
【図4】N744媒介脱凝集の時間発展を示す図である。htau40(4μM)とアラキドン酸(75μM)から調製した(37℃で3時間)フィラメントを、2つの等しいプールに分割し、DMSO媒体単独(黒□)、または4.7μM N744(□)の存在下で19時間、さらにインキュベートした。各反応物の一定分量を、0、1、3、5、9、12および19時間でグルタルアルデヒドを加えて停止させた。≧50nmの長さのフィラメントを定量性電子顕微鏡検査で分析した。各データポイントはフィールド当たりの合計フィラメント長さ±標準偏差(n=5観察点)を表す。DMSO媒体単独の存在下で、合計タウフィラメント長さは0.022±0.005h−1の一次速度で時間とともに徐々に減少する。しかしN744の存在下では、フィールド当たりの合計フィラメント長さは0.12±0.01h−1の初期一次速度、DMSO媒体単独について補正した場合0.10±0.02h−1の正味速度で減少した。4.7μMのN744の存在下で19時間インキュベーションした後、合計フィラメント長さは、対照だけの媒体中で観察されたものより13±2%減少した。
【図5A】N744媒介脱凝集の間のフィラメントの長さ分布を示す図である。図3で示した実験から得られる≧50nmのhtau40フィラメントの相対的長さ分布を計算しプロットした。各データポイントは、連続した長さ間隔(50nmビン)に分離した5つのフィールドで分析したすべてのフィラメントの割合を表し、他方、各線はデータポイントの指数分布への最良適合の線を表す。0時間(図5A、上の図)では、DMSO媒体対照単独(黒□)および4.7μM N744(□)での処理についての長さ分布に差はなかった。
【図5B】N744媒介脱凝集の間のフィラメントの長さ分布を示す図である。図3で示した実験から得られる≧50nmのhtau40フィラメントの相対的長さ分布を計算しプロットした。各データポイントは、連続した長さ間隔(50nmビン)に分離した5つのフィールドで分析したすべてのフィラメントの割合を表し、他方、各線はデータポイントの指数分布への最良適合の線を表す。しかし、フィールド当たりの合計フィラメント長さは時間とともに減少し、その結果19時間では(図5B、下の図)、DMSO対照単独(黒○)に対して、N744処理した一定分量(〇)の各ビンは著しく少ないフィラメントしか存在しなかった。フィラメント数が連続的に減少しながら指数分布が維持されていることは、タウフィラメントの末端方向の脱凝集と合致し、ランダムなフィラメント切断とは合致しない。
【図6A】N744がタウ線維化対して選択的であることを示す図である。図6Aでは、Aβ1〜40(アミロイドβペプチド)(20μM)を、DMSO媒体単独(黒○)または4.1μM N744(〇)の存在下、集合バッファー中でインキュベートし、続いて400nmの吸光度で5時間吸収させた。得られたデータはNaikiとGejyoの一次速度式モデル(例えば、非特許文献79参照)を用いてプロットした。ここで、Aは時間tでの吸収であり、Aは平衡において達成された(>5時間)最大吸収である。各実線はデータポイントの線形回帰分析を表し、点線および破線はN744の存在下および非存在下でのt1/2にそれぞれ対応する。2つの曲線の近似性は、これらの条件下では、N744がAβ1〜40線維化の程度または半減期をそれほど調節しなかったことを示している。
【図6B】N744がタウ線維化対して選択的であることを示す図である。第2のアミロイド形成タンパク質のアミリンを、DMSO媒体(図6B)の存在下でインキュベートした。24時間にわたって一定分量を取り出し、透過電子顕微鏡法で画像化した。集合プロセスの開始後3時間でとった画像を示す。N744はこれらの条件下で、アミリン集合を妨害しなかった。これらのデータを合わせると、N744は、亜化学量論濃度でアッセイした場合、タウタンパク質に対して選択的であることが示唆している。
【図6C】N744がタウ線維化対して選択的であることを示す図である。第2のアミロイド形成タンパク質のアミリンを、4.1μM N744(図6C)の存在下でインキュベートした。24時間にわたって一定分量を取り出し、透過電子顕微鏡法で画像化した。集合プロセスの開始後3時間でとった画像を示す。N744はこれらの条件下で、アミリン集合を妨害しなかった。これらのデータを合わせると、N744は、亜化学量論濃度でアッセイした場合、タウタンパク質に対して選択的であることが示唆している。図6C中のバーは500nmを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脳内のタウ線維化を阻害する方法を必要とする患者を特定するステップと、
前記患者に、薬理学上有効な量のタウ線維化の阻害剤であって、一般式Iの化合物、
【化1】

(式中、R、RおよびRは独立に、1個から6個の炭素原子を有する脂肪族基であり、RおよびRは独立に、1個から6個の炭素原子を有する第2の脂肪族基または1個から6個の炭素原子を有するヒドロキシル置換の脂肪族基である)
またはそれらの薬学上許容可能な塩である阻害剤を投与するステップと
を含む患者の脳内のタンパク質タウの集合を調節することを特徴とする方法。
【請求項2】
、RおよびRはメチル基であり、RおよびRは2−ヒドロキシエチル基であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記患者はヒトであり、前記薬理学上有効な量は1日当たり約10mgから約1000mgであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記患者はヒトであり、前記薬理学上有効な量は1日当たり約10mgから約1000mgであることを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項5】
哺乳動物の脳内でのタウフィラメントの生成を阻害するかまたは逆転させる方法であって、
脳内のタウ線維化を阻害するための方法を必要とする哺乳動物を特定するステップと、
前記哺乳動物に、薬理学上有効な量の式II
【化2】

またはそれらの薬学上許容可能な塩のタウ線維化の阻害剤を投与するステップと
を含むことを特徴とする方法。
【請求項6】
前記哺乳動物はヒトであることを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記薬理学上有効な量は1日当たり約10mgから約1000mgであることを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記薬理学上有効な量は1日当たり約10mgから約1000mgであることを特徴とする請求項6に記載の方法。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6A】
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【図6B】
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【図6C】
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【公表番号】特表2007−524617(P2007−524617A)
【公表日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−517492(P2006−517492)
【出願日】平成16年6月21日(2004.6.21)
【国際出願番号】PCT/US2004/019822
【国際公開番号】WO2004/112725
【国際公開日】平成16年12月29日(2004.12.29)
【出願人】(504041217)ニューロナーティクス インコーポレイテッド (1)
【Fターム(参考)】