説明

タキサン誘導体を含有する、安定性が改良された凍結乾燥医薬組成物、及びその製法

【課題】貯蔵安定性が優れたタキソイド含有注射用凍結乾燥医薬組成物及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ポリエチレングリコール(PEG)またはポリビニルピロリドン(PVP)のような親水性ポリマーとシクロデキストリン(CD)が添加された蒸留水に不水溶性タキソイドを溶解した後、凍結乾燥して得られる、既存の製剤と比べて希釈安定性と溶解度が向上した注射用凍結乾燥組成物及びその製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は優れた安定性を有するタキソイド含有注射用凍結乾燥医薬組成物に関する。更に、本発明はその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ドセタキセルはタキソテール(登録商標)という商品名で薬剤として市販されており、乳がん、卵巣がん、非小細胞肺がん、頭部がん、頸部がんに対して治療効果を有する。ドセタキセルは親油性が高く、不水溶性性質を有する半合成タキソイドである。現在、タキソテール(登録商標)はブリスターカートン包装されて流通されており、ポリソルベート80バイアルに溶けたドセタキセルを含有する単回投与溶液と13%(w/w)エタノールバイアルを含有する単回投与溶液からなる。使用の際、この2つを混ぜて10mg/mLのドセタキセル溶解度を有するプレミックス溶液を得た後、食塩水または5%デキストロース溶液に希釈して、0.3〜0.74mg/mLのドセタキセル溶解度を有するインフュージョン溶液を得た後、静脈血管内に1時間注入する。上のように製造されたプレミックス溶液は保存安定性が良くなく、室温または冷蔵保存条件で最大8時間まで保存可能である。また、インヒュージョン溶液は製造後2〜25℃で4時間以内に使用しなければならず、肉眼で粒子や沈殿が観察されなければならない。更に、ポリソルベート80の使用により過敏反応が起き、エタノールにより副作用が起きる。
【0003】
WO98/30205には界面活性剤としてPEG化ビタミンEを使用する方法が開示されており、米国特許公開2004/0127551にはビタミンE TPGS(D−α−トコフェロール−ポリエチレングリコール1000コハク酸エステル)を使用する方法が開示されているが、高い濃度域でドセタキセルを安定的に含有する組成物を製造することができない。
【0004】
大韓民国特許第310839号にはパクリタキセルとポリビニルピロリドンを混ぜてマトリックスを得た後、無水エタノール、ポリオキシエチレングリセロールリシノレート、ポリソルベート80、ポリエチレングリコールなどの溶媒と混合して注射剤を製造する方法が開示されている。しかし、この方法もエタノールとポリソルベート80のようにアルコール中毒や過敏反応を誘発する物質を含有するという短所がある。
【0005】
1997年に出願されたWO99/24073には、前述した界面活性剤を使用する代りにシクロデキストリンを使用してドセタキセルの水溶解度を向上させる方法が開示されている。更に詳しくは、ドセタキセルを少量のエタノールに溶解した後、得られた溶液をアセチル−γ−シクロデキストリン(Ac−γ−CD)またはヒドロキシプロピルメチルβ−シクロデキストリン(HP−β−CD)の5%デキストロース溶液に添加した。蒸発またはその他の適当な方法により大部分のエタノールを除去した後、凍結乾燥した。このとき、ドセタキセルとシクロデキストリンの比は1:25〜1:400であるのが好ましい。凍結乾燥組成物を5%デキストロース溶液に希釈して得られたかん流液の濃度は0.3〜1.2mg/mLであり、72時間以上の物理的安定性を有することを発見した。
【0006】
しかしながら、前記発明はドセタキセルの溶解過程で使用されるエタノールが残留し、ドセタキセルの濃度が低い場合、前記で得た液状組成物の沈殿物が発生し、凍結乾燥化合物を溶解または希釈した後に使用する場合、物理的安定性が低下するという問題がある。また、凍結組成物はタキソテール(登録商標)のプレミックス溶液に相当する10mg/mLの溶解度を持つことが難しいため、臨床投与に適した濃度を有する溶液を製造することが難しい。
【0007】
別の利用可能なタキソイドはタクソールとして広く知られているパクリタキセルであり、悪性腫瘍、特に乳がん、卵巣がん、非小細胞肺がんに対して優れた治療効果を有する。不幸にも、パクリタキセルの水溶解度が低いため、基剤として界面活性剤またはエタノールを使用して注射用製剤のための配合組成物を製造する必要がある。エタノールはパクリタキセルを可溶化させる最も公知の溶媒である。
【0008】
『米国国立がん研究所ジャーナル』(82巻、15番、p1247−1529、1990.8.1)のRowinsky、Lorraine Cazenave及びDonehowerに掲載された文献によると、タクソール(約6mg/mL)が添加されたエタノールとクレモフォールELを含む混合溶液を前もって製造し、注射時にデキストロースを含有するかん流液または食塩水と混合する。物理的観点及び化学的観点から安定した組成物を得るために、かん流液内の有効成分の濃度を0.3〜0.6mg/mLまで制限する必要がある。
【0009】
効果的な抗がん治療のために、十分な量の有効成分が注射されることが好ましく、0.3〜1mg/mLが好ましい。前記投与量以上(1mg/mL以上)を注射すると、クレモフォールにより制御できないアナフィラキシーショックが起き得る。更に、前記文献には、前述した濃度の有効成分を注射するために相当量のエタノールが投与されるため、アルコール中毒を引き起こし得ると記載している。
【0010】
従って、既存の組成物の貯蔵安定性及び溶解度と比べて、希釈後の貯蔵安定性及び溶解度を向上させ、ポリソルベートやエタノールのような有害な可溶化剤を注射剤として使用しない新規のタキソイド含有注射用凍結乾燥組成物の開発が要求される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】WO98/30205
【特許文献2】米国特許公開2004/0127551
【特許文献3】大韓民国特許第310839号
【特許文献4】WO99/24073
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】米国国立がん研究所ジャーナル』(82巻、15番、p1247−1529、1990.8.1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明者は、不水溶性タキソイドを水溶液に可溶化して安定化させるために様々な努力をし、ヒドロキシプロピルβ−シクロデキストリン(HPBCD)と、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ポリエチレングリコール(PEG)またはポリビニルピロリドン(PVP)のような親水性ポリマーを蒸留水に溶解することで、既存の製剤と比べて安定性と溶解度が向上したタキソイド含有注射用凍結乾燥組成物を製造することに成功した。従って、本発明の目的は、優れた貯蔵安定性を有するタキソイド含有注射用凍結乾燥医薬組成物及びその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、不水溶性タキソイド、シクロデキストリン、及びヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ポリエチレングリコール(PEG)またはポリビニルピロリドン(PVP)のような親水性ポリマーを含有する貯蔵安定性が優れた注射用凍結乾燥医薬組成物に関する。
【0015】
更に、本発明は、
1)タキソイド、シクロデキストリン、及びヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ポリエチレングリコール(PEG)またはポリビニルピロリドン(PVP)のような親水性ポリマーを蒸留水に溶解する段階と、
2)段階1)で得た混合液を凍結乾燥する段階と、
を含む貯蔵安定性が優れたタキソイド含有注射用凍結乾燥組成物の製造方法に関する。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、シクロデキストリンを使用した不水溶性タキソイドの可溶化に関し、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ポリエチレングリコール(PEG)またはポリビニルピロリドン(PVP)のような親水性ポリマーを添加した蒸留水にタキソイドを溶解する。本発明は、副作用を引き起こすエタノールまたはポリソルベートのような添加剤を使用することなく、高濃度のタキソイドを含有する注射用凍結乾燥医薬組成物を製造することに特徴がある。
【0017】
また、本発明は、タキソイド含有注射用凍結組成物の製造方法に関する。その方法としては、
1)第1段階は、タキソイド、シクロデキストリン及び親水性ポリマーを蒸留水に溶解する。不水溶性タキソイドは下記式1で表される誘導体であることが好ましい。
【0018】

【0019】
前記式1において、Rは水素またはアセチル基であり、R1は三級ブトキシカルボニルアミノ基またはベンゾイルアミノ基である。
【0020】
式1で表されるタキソイドは、Rが水素であり、R1が三級ブトキシカルボニルアミノ基であるドセタキセル、またはRがアセチル基であり、R1がベンゾイルアミノ基であるパクリタキセルであることが好ましい。また、本発明において、タキソイドは遊離形態または薬剤学的に許容可能な塩の形態、無水物または水和物である。タキソイドの量は全体組成物に対して0.2〜50質量%であることが好ましい。
【0021】
シクロデキストリンはその性質及び空孔サイズによってα−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン及びγ−シクロデキストリンに分類される。本発明で利用可能なシクロデキストリンには、各空孔径が6.0〜6.5Åであるシクロデキストリン誘導体、好ましくはβ−シクロデキストリンまたはその誘導体、更に好ましくはヒドロキシプロピルβ−シクロデキストリン(HPBCD)が含まれる。シクロデキストリンは、タキソイド1質量部に対して1〜500質量部含まれるのが好ましく、更に好ましくは5〜200質量部、最も好ましくは5〜100質量部含まれる。シクロデキストリンが非常に多量で使用されると、液状組成物粘度が非常に高くなり、0.22μmのろ紙を通してろ過することが難しくなり、注射前に希釈剤を使用して最終凍結乾燥組成物を溶かすことが難しくなる。一方、シクロデキストリンが非常に少ないと、適当なタキソイドの溶解度及び安定性を得ることができない。
【0022】
ヒドロキシプロピルβ−シクロデキストリン(HPBCD)の分子置換数は0.2〜1.0が好ましく、0.4〜1.0が更に好ましい。分子置換数が非常に低いと、HPBCDの溶解度が低くなる。一方、非常に高いと、HPBCDは粘度が高くなり扱いにくくなる。
【0023】
本発明で使用される親水性ポリマーは溶液内のタキソイドの安定性を増加させ、シクロデキストリンと反応させることでタキソイドの溶解度を増加させる。通常の親水性ポリマーの例としては、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリビニルピロリドン(PVP)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、ヒドロキシメチルセルロース(HMC)、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ヒドロキシプロピルエチルセルロース(HPEC)などが含まれ、本発明での親水性ポリマーはヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ポリエチレングリコール(PEG)またはポリビニルピロリドン(PVP)が好ましい。
【0024】
ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)の粘度は5〜100,000cpsが好ましく、更に好ましくは5〜4,000cpsである。ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)の粘度が非常に低い場合、タキソイドの溶解度または安定性が著しく落ちてしまう。粘度が非常に高いと、扱いが難しく、注射剤として開発が困難である。ポリエチレングリコールの場合は、平均分子量が300〜150,000である多様な製品が存在する。ポリエチレングリコールの好ましい製品としては、注射剤として使用可能である平均分子量が300、400及び600の製品である。
【0025】
更に、ポリビニルピロリドンのK−値は10〜20の範囲が好ましい。10未満の場合、タキソイドの溶解度または安定性が著しく落ちてしまう。一方、20を超過すると、粘度が増加し、注射剤として使用することが難しい。
【0026】
親水性ポリマーの含量はタキソイド1質量部に対して0.01〜100質量部が好ましく、0.1〜10.0質量部が更に好ましい。0.01質量部未満の場合、タキソイドの溶解度および安定性が著しく低くなり、100を超過すると、粘度が増加して、ろ過、洗浄、注射剤としての使用が困難となる。
【0027】
更に、本発明で使用される溶液はかん流液として使用できる全ての溶液が好ましく、注射用蒸留水が更に好ましい。
【0028】
本発明において蒸留水に成分を溶解する方法は、タキソイド、シクロデキストリン及び親水性ポリマーを凍結乾燥のために十分な容積と濃度となる量で蒸留水に溶解させる方法である。その他の方法は2段階溶解工程である。第1段階では少量の蒸留水に前記成分を溶解し、第2段階では凍結乾燥のために適量添加された蒸留水に再び溶解する。
【0029】
シクロデキストリンは不水溶性タキソイドの可溶化において重要な役割をし、シクロデキストリンの水溶液濃度に比例する。従って、使用されるシクロデキストリンの量が比較的少ない場合は2段階の溶解方法が好ましく、第1段階で使用される蒸留水の量はタキソイドの可溶化に適切なシクロデキストリンの濃度に達することが好ましい。
【0030】
本発明の試験例によると、凍結乾燥のために第2段階で添加される注射用蒸留水がヒドロキシプロピルβ−シクロデキストリン(HPBCD)の濃度が低くなっても、不水溶性タキソイドは沈殿されず、透明な溶解状態を維持する。
【0031】
凍結乾燥に適切なタキソイド濃度は約1.5〜30mg/mLである。1.5mg/mL未満の場合、凍結乾燥の生産性が低下し、生産単価が増加する。30mg/mLを超過する場合、タキソイドの溶解度は向上しないが、粘度は増加するため滅菌の実施が難しい。
【0032】
2)第2段階は前記段階で得た混合液を加熱、攪拌及び凍結乾燥を行う段階である。攪拌は5〜50℃、好ましくは5〜30℃の温度で行われる。前記混合液は凍結乾燥のために−80〜−30℃の減圧下で凍結させた後、白色または淡黄色の凍結乾燥組成物が得られる。
【0033】
追加的に、前記凍結乾燥組成物を注射剤として使用するために、凍結乾燥組成物はプレミックス溶液を得るために希釈しなければならない。前記希釈液は全ての注射剤であり、好ましくは注射用水、デキストロース溶液または食塩水である。希釈濃度は液状組成物の製造方法によって様々である。タキソイドの濃度は1〜20mg/mLが好ましい。製造されたプレミックス溶液は通常の方法によって食塩水または5%デキストロース溶液に希釈されて、静脈に注射される。
【0034】
本発明によって得られた凍結乾燥医薬組成物は、温度及び湿度に関わらず優れた安定性を実現する。従って、長期間保存し、注射剤に製剤化が容易であり、製造工程中に温度及び湿度条件でも分解されない。
【0035】
更に、エタノールクレモフォールまたは過敏性副作用を引き起こし得る添加剤を使用することなく、安全にヒトに投与することができる。
【0036】
本発明を下記実施例により更に詳細に説明するが、本発明がこれに限定されるわけではない。
【0037】
試験例1
ポリビニルピロリドン(PVP、K−12)及びヒドロキシプロピルβ−シクロデキストリン(HPBCD)(MS=0.6)を表1のように秤量して、過量の無水ドセタキセルを添加した後、蒸留水と混合して10mLの混合液を作り、4日間攪拌し、0.22μmの注射器ろ過装置を通してろ過した。液体クロマトグラフィを行ってドセタキセルの溶解度を紫外線検出器(230nm)で測定した。
【0038】
試験例の結果によると、一般的に知られた蒸留水内のドセタキセルの溶解度が0.000025mg/mLであるのに対して、ヒドロキシプロピルβ−シクロデキストリン(HPBCD)を添加した蒸留水中のドセタキセルの溶解度は31.1mg/mLであり、溶解度が120万倍向上し、タキソテール(登録商標)のプレミックス溶液中のドセタキセルの濃度である10mg/mLを上回る優れた溶解度を示した。蒸留水中のドセタキセルの溶解度はヒドロキシプロピルβ−シクロデキストリン(HPBCD)の質量比(w/v%)の10%〜30%の間で比例的に増加する。
【0039】
更に、ドセタキセルとHPBCDの比は最小1:11であり、HPBCDの濃度単位(w/v)を(mg/mL)単位に換算すると、HPBCDの濃度は低下する。それ故、ドセタキセル:HPBCDが1:11より少なくなってもドセタキセルを可溶化できる。従って、本発明によると、ヒドロキシプロピルβ−シクロデキストリン(HPBCD)1質量部以上を使用することが好ましく、更に好ましくはタキソイド1質量部に対して5質量部を使用する。
【0040】
【表1】

【0041】
試験例2
無水ドセタキセル、ポリビニルピロリドン(PVP、K−12)及びヒドロキシプロピルβ−シクロデキストリン(HPBCD)(MS=0.6)を表2のような濃度を有するように秤量して、注射用蒸留水を添加し、攪拌及び溶解してから8時間後、前記溶液を0.22μmの注射器ろ過装置を通してろ過し、HPLCで分析した後、ドセタキセル類縁物質のピーク面積率(%)を測定した。
【0042】
前記試験例の結果によると、親水性ポリマーであるポリビニルピロリドンを含有した溶液内のドセタキセル類縁物質が著しく減少し、注射剤中のドセタキセルの可溶化に効果的であることが分かる。
【0043】
【表2】

【0044】
試験例1及び2によると、前記組成物はエタノールまたは界面活性剤を含まないが、タキソイド、ヒドロキシプロピルβ−シクロデキストリン(HPBCD)及び親水性ポリマーを含む。タキソイドは0.2〜50質量%含有することが好ましく、更に好ましくは0.5〜20質量%含有する。
【0045】
実施例1
無水ドセタキセル(100mg)、ポリビニルピロリドンK−12(100mg)及びヒドロキシプロピルβ−シクロデキストリン(HPBCD)(MS=0.6、1500mg)を秤量した後、最終容積が5mLとなるように注射用蒸留水に溶解して透明な溶液を製造した。この時、ドセタキセルの濃度は20mg/mLであった。反応終了後、最終容積が20mLとなるように注射用蒸留水を添加した後、前記で得た溶液を0.22μmろ紙を通してろ過して約−45℃で冷却した後、凍結乾燥して凍結乾燥組成物を得た。
【0046】
実施例2
無水ドセタキセル(100mg)、ポリビニルピロリドンK−12(100mg)及びヒドロキシプロピルβ−シクロデキストリン(HPBCD)(MS=0.6、2000mg)を秤量した後、最終容積が7mLとなるように注射用蒸留水に溶解して透明な溶液を製造した。この時、ドセタキセルの濃度は14.3mg/mLであった。反応終了後、最終容積が20mLとなるように注射用蒸留水を添加し、前記で得た溶液を0.22μmろ紙を通してろ過して約−45℃で冷却した後、凍結乾燥して凍結乾燥組成物を得た。
【0047】
実施例3
無水ドセタキセル(100mg)、ポリビニルピロリドンK−12(300mg)及びヒドロキシプロピルβ−シクロデキストリン(HPBCD)(MS=0.6、1500mg)を秤量した後、最終容積が7mLとなるように注射用蒸留水に溶解して透明な溶液を製造した。この時、ドセタキセルの濃度は20mg/mLであった。反応終了後、最終容積が20mLとなるように注射用蒸留水を添加し、前記で得た溶液を0.22μmろ紙を通してろ過して約−45℃で冷却した後、凍結乾燥して凍結乾燥組成物を得た。
【0048】
実施例4
無水ドセタキセル(100mg)、ポリビニルピロリドンK−12(300mg)及びヒドロキシプロピルβ−シクロデキストリン(HPBCD)(MS=0.6、2000mg)を秤量した後、最終容積が7mLとなるように注射用蒸留水に溶解して透明な溶液を製造した。この時、ドセタキセルの濃度は14.3mg/mLであった。反応終了後、最終容積が20mLとなるように注射用蒸留水を添加し、前記で得た溶液を0.22μmろ紙を通してろ過して約−45℃で冷却した後、凍結乾燥して凍結乾燥組成物を得た。
【0049】
実施例5
無水ドセタキセル(100mg)、ポリビニルピロリドンK−12(300mg)及びヒドロキシプロピルβ−シクロデキストリン(HPBCD)(MS=0.6、2500mg)を秤量した後、最終容積が7mLとなるように注射用蒸留水に溶解して透明な溶液を製造した。この時、ドセタキセルの濃度は14.3mg/mLであった。反応終了後、最終容積が20mLとなるように注射用蒸留水を添加した後、前記で得た溶液を0.22μmろ紙を通してろ過して約−45℃で冷却した後、凍結乾燥して凍結乾燥組成物を得た。
【0050】
実施例6
無水ドセタキセル(100mg)、ポリビニルピロリドンK−12(300mg)及びヒドロキシプロピルβ−シクロデキストリン(HPBCD)(MS=0.6、5000mg)を秤量した後、最終容積が10mLとなるように注射用蒸留水に溶解して透明な溶液を製造した。この時、ドセタキセルの濃度は10mg/mLであった。反応終了後、最終容積が20mLとなるように注射用蒸留水を添加した後、前記で得た溶液を0.22μmろ紙を通してろ過して約−45℃で冷却した後、凍結乾燥して凍結乾燥組成物を得た。
【0051】
実施例7
無水ドセタキセル(100mg)、ポリビニルピロリドンK−12(300mg)及びヒドロキシプロピルβ−シクロデキストリン(HPBCD)(MS=0.6、6000mg)を秤量した後、最終容積が20mLとなるように注射用蒸留水に溶解して透明な溶液を製造した。この時、ドセタキセルの濃度は5mg/mLであった。そして、前記で得た溶液を0.22μmろ紙を通してろ過して約−45℃で冷却した後、凍結乾燥して凍結乾燥組成物を得た。
【0052】
実施例8
無水ドセタキセル(100mg)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(50cps、100mg)及びヒドロキシプロピルβ−シクロデキストリン(HPBCD)(MS=1.0、3000mg)を秤量した後、最終容積が10mLとなるように注射用蒸留水に溶解して透明な溶液を製造した。この時、ドセタキセルの濃度は10mg/mLであった。反応終了後、最終容積が20mLとなるように注射用蒸留水を添加した後、前記で得た溶液を0.22μmろ紙を通してろ過して約−45℃で冷却した後、凍結乾燥して凍結乾燥組成物を得た。
【0053】
実施例9
無水ドセタキセル(100mg)、ポリエチレングリコール(M.W.400、100mg)及びヒドロキシプロピルβ−シクロデキストリン(HPBCD)(MS=0.6、3000mg)を秤量した後、最終容積が10mLとなるように注射用蒸留水に溶解して透明な溶液を製造した。この時、ドセタキセルの濃度は10mg/mLであった。反応終了後、最終容積が20mLとなるように注射用蒸留水を添加した後、前記で得た溶液をろ過して約−45℃で冷却した後、凍結乾燥して凍結乾燥組成物を得た。
【0054】
実施例10
パクリタキセル(100mg)、ポリビニルピロリドンK−12(300mg)及びヒドロキシプロピルβ−シクロデキストリン(HPBCD)(MS=0.6、2000mg)を秤量した後、最終容積が7mLとなるように注射用蒸留水に溶解して透明な溶液を製造した。この時、パクリタキセルの濃度は14.3mg/mLであった。反応終了後、最終容積が20mLとなるように注射用蒸留水を添加した後、前記で得た溶液を0.22μmろ紙を通してろ過して約−45℃で冷却した後、凍結乾燥して凍結乾燥組成物を得た。
【0055】
試験例3
実施例4、5で得た組成物及び現在市販されているタキソテール(登録商標)を冷蔵温度(4℃)と室温(25℃)で1ヶ月間保存した後、類縁物質のピーク面積率をHPLCで分析した。
【0056】
本試験の結果によると、市販製品と比べて実施例4及び5による凍結乾燥組成物は貯蔵安定性が優れていることが分かる。
【0057】
【表3】

【0058】
試験例4
実施例7で得た凍結乾燥組成物を5%デキストロース溶液にて希釈し、ドセタキセルの濃度が0.7mg/mLとなるようにタキソテール(登録商標)のプレミック溶液を製造した。2つの溶液を25℃の室温で8時間保存した後、溶液のドセタキセル含量、類縁物質及び性状を確認した。
【0059】
本発明の試験結果によると、市販製品と比べて実施例7による凍結乾燥組成物は貯蔵安定性が優れていることが分かる。
【0060】
【表4】

【0061】
実施例11〜22
ドセタキセル三水和物(32mg)、無水ドセタキセル(30mg)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ポリビニルピロリドン(PVP)またはヒドロキシプロピルβ−シクロデキストリン(HPBCD)を表5のように秤量して、注射用蒸留水に溶解した後、室温で攪拌及び溶解し、0.22μmろ紙を通してろ過した後、滅菌した。得られた溶液の溶解度を測定し、−80℃で冷却した後、凍結乾燥した。
【0062】
【表5】



【0063】
実施例23〜34
無水ドセタキセル(30mg)、ポリビニルピロリドン(PVP)、HPMCまたはヒドロキシプロピルβ−シクロデキストリン(HPBCD)を表6のように秤量して、室温で注射用蒸留水に攪拌及び溶解し、0.22μmろ紙を通してろ過した後、滅菌した。得られた溶液の溶解度を測定し、−80℃で冷却した後、凍結乾燥して凍結乾燥組成物を得た。
【0064】
【表6】



【0065】
比較例1
親水性ポリマーの使用を除いては、前記実施例29と同様の方法を利用して白色の凍結乾燥組成物を得た。
【0066】
比較例2
WO99/24073の実施例Iと同様の方法を利用して、ドセタキセル及びHPBCDを含有する凍結乾燥組成物を製造した。ドセタキセル(60mg)をエタノール(3mL)に溶解し、HPBCD(3000mg)を添加した後、注射用蒸留水(60mL)を添加して濃度が1mg/mLである透明な溶液を得た。前記溶液をドライアイスを使用して急速冷凍した後、凍結乾燥して2%w/wのドセタキセルを含有する粉末状の凍結乾燥組成物を得た。
【0067】
比較例3
現在市販されているタキソテール(登録商標)の処方によって、大韓民国特許第0136722号に記載された方法を利用して、凍結乾燥組成物を製造した。ドセタキセル三水和物(96mg)を無水エタノール(1020mL)に溶解し、ポリソルベート80(2490mg)を添加した後、エタノールを減圧下で2時間、ロータリーエバポレーター内で蒸発させた。
【0068】
試験例1:安定性試験(液体状態)
実施例11〜34及び比較例1及び3の凍結乾燥組成物に注射用蒸留水を添加して液状組成物を得た。そして、室温での時間の経過による安定性を初期対比濃度を基にHPLCで測定した。
【0069】
【表7】

【0070】
実施例34と比較例1で得た組成物を0.9%食塩水に溶解して、2.0mg/mLに希釈することで試験を行った。
【0071】
【表8】

【0072】
表8で見られるように、比較例1と比べて本発明による実施例11〜34で得られた凍結乾燥組成物は貯蔵安定性が優れていた。また、前記表8で見られるように、希釈安定性においても比較例3と比べて優れていた。
【0073】
試験例6:安定性試験(乾燥状態)
実施例23、33及び比較例2、3で得られた凍結乾燥組成物を冷蔵条件(4℃)、長期保存条件(25℃、60%RH)及び加速条件(40℃、75%RH;50℃、60%RH)で保存して、組成物の安定性を確認した。類縁物質の量を基に安定性試験が行われ、下記表9によると、比較例2と3と比べて本発明の凍結乾燥組成物は貯蔵安定性が優れていることが分かる。
【0074】
【表9】

【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明によるタキソイド含有注射用凍結乾燥医薬組成物は、人体に安全な成分のみを使用してタキソイドの安定性が優れた製剤に製造することができる。
【0076】
本発明による凍結乾燥医薬組成物は次のような長所を有する:長期間の保存や希釈後もドセタキセルの含量を維持することができる;少量の類縁物質が発生するため、製造工程中に温度と湿度の変化に耐えることができる;投与のために希釈した後や貯蔵中も治療効果を維持することができる。更に、本発明のタキソイド含有注射用凍結乾燥医薬組成物はエタノール、ポリソルベートまたはクレモフォールを含有していないため、これらの成分による副作用がない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不水溶性タキソイド、シクロデキストリンと、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ポリエチレングリコール(PEG)及びポリビニルピロリドン(PVP)からなる群から選択される少なくとも1種の親水性ポリマーを含有する凍結乾燥医薬組成物。
【請求項2】
前記タキソイドは下記式1で表される、請求項1記載の組成物。
〔式1〕

前記式1において、Rは水素またはアセチル基であり、R1は三級ブトキシカルボニルアミノ基またはベンゾイルアミノ基である。
【請求項3】
前記タキソイドは式1で表されるドセタキセルであり、Rは水素原子であり、R1は三級ブトキシカルボニルアミノ基である、請求項2記載の組成物。
【請求項4】
前記タキソイドは式1で表されるパクリタキセルであり、Rはアセチル基であり、R1はベンゾイルアミノ基である、請求項2記載の組成物。
【請求項5】
前記タキソイドは、遊離形態または薬剤学的に許容可能な塩の形態、無水物または水和物である、請求項2記載の組成物。
【請求項6】
前記シクロデキストリンはタキソイド1質量部に対して1〜500質量部である、請求項1記載の組成物。
【請求項7】
前記シクロデキストリンはタキソイド1質量部に対して5〜200質量部である、請求項1記載の組成物。
【請求項8】
前記親水性ポリマーはタキソイド1質量部に対して0.01〜100質量部である、請求項1記載の組成物。
【請求項9】
前記シクロデキストリンはβ−シクロデキストリンまたはその誘導体である、請求項1記載の組成物。
【請求項10】
前記シクロデキストリンはヒドロキシプロピルβ−シクロデキストリンである、請求項1記載の組成物。
【請求項11】
前記ヒドロキシプロピルβ−シクロデキストリンの分子置換数(MS)は0.2〜10である、請求項10記載の組成物。
【請求項12】
前記ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)の粘度は5〜100,000cpsの範囲内である、請求項1記載の組成物。
【請求項13】
前記ポリエチレングリコール(PEG)の平均分子量は300〜600の範囲内である、請求項1記載の組成物。
【請求項14】
前記ポリビニルピロリドンのK−値は10〜20の範囲内である、請求項1記載の組成物。
【請求項15】
前記タキソイドは0.2〜50質量%の範囲内で含有される、請求項1記載の注射用凍結乾燥医薬組成物。
【請求項16】
1)不水溶性タキソイド、シクロデキストリンと、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ポリエチレングリコール(PEG)またはポリビニルピロリドン(PVP)からなる群から選択される少なくとも1種の親水性ポリマーを蒸留水に溶解する段階と、
2)段階1)で得た混合液を凍結乾燥する段階と、
を含むタキソイド含有凍結乾燥医薬組成物の製造方法。
【請求項17】
1)不水溶性タキソイド、シクロデキストリンと、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ポリエチレングリコール(PEG)またはポリビニルピロリドン(PVP)からなる群から選択される少なくとも1種の親水性ポリマーを蒸留水に溶解する段階と、
2)段階1)で得た混合液を凍結乾燥する段階と、
3)段階2)で得た凍結乾燥組成物を蒸留水、デキストロース溶液または食塩水に希釈する段階と、
を含むタキソイド含有注射用医薬液状組成物の製造方法。

【公表番号】特表2011−523620(P2011−523620A)
【公表日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−534892(P2010−534892)
【出願日】平成20年11月21日(2008.11.21)
【国際出願番号】PCT/KR2008/006875
【国際公開番号】WO2009/066955
【国際公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【出願人】(505053947)エスケー ケミカルズ カンパニー リミテッド (16)
【Fターム(参考)】