説明

タキサン誘導体を含有する、改良された再構成時間を有する凍結乾燥医薬組成物及びその製法

【課題】再構成時間が向上したタキソイド含有凍結乾燥組成物及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】タキソイド、シクロデキストリン(CD)と、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ポリエチレングリコール(PEG)及びポリビニルピロリドン(PVP)からなる群から選択される親水性ポリマー及び単糖類の膨化剤を注射用水に混合して溶解した後、前記混合液を凍結乾燥して得られる再構成時間が向上した凍結乾燥組成物及びその製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は再構成時間が短縮されたタキソイド含有凍結乾燥組成物に関する。更に、本発明はその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ドセタキセル含有の注射剤であるタキソテール(登録商標、サノフィ・アベンティス)は、治療成分を含有するバイアルAと13%エタノールを含有するバイアルBとで構成される。プレミックス溶液の製造の際に発生する泡を防止するために、そっと振らなければならない。それにもかかわらず、泡が形成された場合、泡が消えるまでプレミックス溶液を放置する。前記タキソテール(登録商標)のプレミックス溶液をNaCl溶液(0.9%、250mL)またはデキストロース溶液(5%、250mL)に添加して最終濃度が0.3〜0.74mg/mLとなるように製造し、患者の血管にかん流させる。
【0003】
別の種類のアルブミン結合タキソイドであるパクリタキセル含有の注射剤であるアブラキサン(登録商標、アストラゼネカ)は、凍結乾燥組成物の形態で提供される。アブラキサン(登録商標)を投与する前、注射用食塩水20mLをバイアルに入れ、前記バイアルを5分間放置した後、約2〜3分間ゆっくり上下に振り凍結乾燥組成物を完全に溶かす。泡が存在する場合、バイアルを泡が消えるまで放置して、最終的に5mg/mLのパクリタキセル溶液が得られる。
【0004】
前述したように凍結乾燥組成物を投与するために有効成分の適当濃度を有する溶液の製造する過程は“再構成”と呼ばれる。再構成時間が短いことが医療者及び患者のために好ましい。再構成時間が非常に長い場合、製造時間が長くなるため、多くの患者に同時に投与することが難しく、最終的に薬物の競争力が低下してしまう。
【0005】
本発明者は、既存の注射剤組成物と比べて、副作用を引き起こすポリソルベートまたはエタノールのような可溶化剤を使用せず、貯蔵安定性と希釈安定性が優れ、溶解度が向上した新規のタキソイド含有抗がん注射剤組成物を開発した。即ち、タキソイドを可溶化及び製剤化するために、ヒドロキシプロピルβ−シクロデキストリン;ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ポリエチレングリコール(PEG)またはポリビニルピロリドン(PVP)のような親水性ポリマーを混合し、注射用水に溶解して凍結乾燥組成物を製造した後、既存の注射剤と比べて貯蔵及び希釈安定性が優れた抗がん注射剤組成物が得られた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者は、ヒドロキシプロピルβ−シクロデキストリン;ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ポリエチレングリコール(PEG)またはポリビニルピロリドン(PVP)のような親水性ポリマーを含む凍結乾燥組成物にデキストロースまたはソルビトールのような単糖類の膨化剤を添加することで、既存の凍結乾燥組成物と比べて物性を改善して再構成時間を短縮させた。
【0007】
また、本発明は物性が向上されたタキソイド含有凍結乾燥組成物及びその製造方法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、不水溶性タキソイド、シクロデキストリンと、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ポリエチレングリコール(PEG)及びポリビニルピロリドン(PVP)からなる群から選択される少なくとも1種の親水性ポリマーを含む組成物に単糖類の膨化剤を添加して、物性が改善されたタキソイド含有凍結乾燥組成物に関する。
【0009】
本発明は、
1)タキソイド、シクロデキストリンと、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ポリエチレングリコール(PEG)またはポリビニルピロリドン(PVP)のような親水性ポリマー及び単糖類の膨化剤を蒸留水に溶解する段階と、
2)段階1)で得られた混合液を凍結乾燥する段階と、
を含む安定性が向上されたタキソイドを含有する注射用組成物の製造方法に関する。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、タキソイド、シクロデキストリン(CD)と、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ポリエチレングリコール(PEG)またはポリビニルピロリドン(PVP)のような親水性ポリマーと、膨化剤を注射用水に混合して溶解した後、凍結乾燥して製造するタキソイド含有凍結乾燥組成物及びその製造方法に関する。前記凍結乾燥組成物は、既存の凍結乾燥組成物より多孔性を確保することで、物性が向上し、希釈剤を使用することで再構成時間が短縮する。
【0011】
本発明は、
1)第1段階は、不水溶性タキソイド、シクロデキストリン、親水性ポリマー及び膨化剤を注射用水に溶解する段階である。前記不水溶性タキソイドは下記式1で表される誘導体であることが好ましい。
【0012】
〔式1〕

【0013】
前記式1において、Rは水素原子またはアセチル基であり、R1は三級ブトキシカルボニルアミノ基またはベンゾイルアミノ基である。
【0014】
式1で表されるタキソイドはRが水素原子、R1が三級ブトキシカルボニルアミノ基であるドセタキセル、またはRがアセチル基、R1がベンゾイルアミノ基であるパクリタキセルであることが好ましい。
【0015】
更に、本発明のタキソイドは遊離形態または薬剤学的に許容可能な塩、その無水物または水和物の形態である。前記タキソイドは凍結乾燥組成物中に0.2〜50%(w/w)が好ましく、更に好ましくは0.2〜20%(w/w)、最も好ましくは1.0〜5.0%(w/w)含まれるのが良い。前記タキソイドの含量が低い場合、再構成で相当量の溶液が必要である。一方、前記含量が高いと、再構成時間が長くなるため商業的利用が減少する。
【0016】
シクロデキストリンはその性質及び空孔サイズによってα−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン及びγ−シクロデキストリンに分類される。本発明で利用可能なシクロデキストリンには、各空孔径が6.0〜6.5Åであるシクロデキストリン誘導体、好ましくはβ−シクロデキストリンまたはその誘導体、更に好ましくは、既に市販中の欧州薬局方に記載された注射剤であるヒドロキシプロピルβ−シクロデキストリン(HPBCD)が含まれる。シクロデキストリンは、タキソイド1質量部に対して1〜500質量部含まれるのが好ましく、更に好ましくは5〜200質量部、最も好ましくは5〜100質量部含まれる。
【0017】
シクロデキストリンが非常に多量で使用されると、液状組成物の粘度が非常に高くなり、0.22μmのろ過紙を通してろ過することが難しくなる。一方、シクロデキストリンが非常に少ないと、適当なタキソイドの溶解度及び安定性を得ることができない。
【0018】
ヒドロキシプロピルβ−シクロデキストリン(HPBCD)の分子置換数は0.2〜1.0が好ましく、0.4〜1.0が更に好ましい。分子置換数が非常に低いと、HPBCDの溶解度が低くなる。一方、非常に高いと、HPBCDは粘度が高くなり扱いにくくなる。
【0019】
本発明で使用される親水性ポリマーは溶液内のタキソイドの溶解度と安定性を増加させ、シクロデキストリンと反応させることでタキソイドの溶解度を増加させる。
【0020】
通常の親水性ポリマーの例としては、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリビニルピロリドン(PVP)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、ヒドロキシメチルセルロース(HMC)、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ヒドロキシプロピルエチルセルロース(HPEC)などが含まれ、本発明での親水性ポリマーはヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ポリエチレングリコール(PEG)またはポリビニルピロリドン(PVP)が好ましい。
【0021】
ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)の粘度は5〜100,000cpsが好ましく、更に好ましくは5〜4,000cpsである。ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)の粘度が非常に低い場合、タキソイドの溶解度または安定性が著しく落ちてしまう。粘度が非常に高いと、扱いが難しく、注射剤として開発が困難である。
【0022】
ポリエチレングリコールの場合は、平均分子量が300〜150,000である多様な製品が存在する。ポリエチレングリコールの好ましい製品は、注射剤として使用可能である平均分子量が300〜600である製品、更に好ましくは平均分子量が300、400及び600の製品である。
【0023】
更に、ポリビニルピロリドンのK−値は10〜20の範囲が好ましい。10未満の場合、タキソイドの溶解度または安定性が著しく落ちてしまう。一方、20を超過すると、粘度が増加し、注射剤として使用することが難しい。
【0024】
親水性ポリマーの含量はタキソイド1質量部に対して0.01〜100質量部が好ましく、0.1〜10.0質量部が更に好ましい。0.01質量部未満の場合、溶解度および安定性が著しく低くなる。一方、100を超過すると、粘度が過剰に増加するため、ろ過、洗浄が困難となる。
【0025】
また、凍結乾燥組成物の再構成時間を短縮するためのチャンネルを形成させるために膨化剤を使用することが好ましい。前記膨化剤はデキストロースまたはソルビトールが好ましく、その含量はタキソイド1重量に対して1〜50質量部が好ましく、更に好ましくは1〜30質量部、最も好ましくは5〜30質量部であることが良い。前記膨化剤の含量が1質量部未満の場合、膨化剤の効果が低くなる。一方、前記含量が50質量部を超過すると、溶液の粘度と溶解度に基づく凍結乾燥が難しくなる。
【0026】
実際、マンニトール、ラクトース、スクロース、塩化ナトリウム、トレハロース、でんぷん、ヘタスターチ、グリシンのような凍結乾燥組成物に利用可能な膨化剤は、凍結乾燥組成物の物性を向上させることができず、溶媒にて再構成時間を短縮させることができない。
【0027】
本発明による再構成でかん流液として使用される溶液に関しては制限しないが、注射用水が好ましい。前記溶液はタキソイド濃度が1.5〜30mg/mLとなるように調剤される。前記濃度が1.5mg/mLより低い場合、凍結乾燥機での1バッチの生産性が低下し、単価が増加する。30mg/mLを超過すると、タキソイドの溶解度は向上するが粘度が増加するため、商業的に滅菌工程を行うことが困難となる。
【0028】
2)第2段階は、前記段階1)で得られた混合液を加熱、攪拌して安定性を確保した後、ろ過滅菌し、得られた組成物を凍結乾燥する段階であり、前記攪拌は5〜50℃の温度、好ましくは15〜30℃で行う。得られた混合液は凍結乾燥するために−80〜−40℃の減圧下で凍結させた後、白色または淡黄色の凍結乾燥組成物が得られる。
【0029】
本発明により得られた凍結乾燥組成物は、温度及び湿度に関わらず優れた安定性を確保することで、長期間保管でき、注射剤への製剤化が容易であり、製造工程中に温度及び湿度の影響により分解されない。更に、過敏性服作用を引き起こす界面活性剤または有機溶媒を使用することなく人体に安全に投与することができる。
【0030】
前記段階2)で得られた組成物を注射剤として製剤するために、凍結乾燥組成物を希釈し、前記希釈剤は注射液として使用可能な全ての溶液が適切であり、好ましくは注射用水、デキストロース溶液または食塩水が良い。
【0031】
本発明を下記実施例により更に詳細に説明するが、本発明がこれに限定されるわけではない。
【0032】
実施例1〜4及び比較例1〜4
ドセタキセルまたはパクリタキセル、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシプロピルβ−シクロデキストリン(HPBCD)などの親水性ポリマー及び膨化剤を下記表1のように秤量して、室温で攪拌しながら均一に溶解した。前記混合溶液を0.22μmのろ紙を通してろ過して−45℃で冷却した後、凍結乾燥した。そして、前記凍結乾燥組成物を注射用水に完全に溶解し、ドセタキセルまたはパクリタキセルの濃度が5.0mg/mLに達するまでの再構成時間を測定した。
【0033】
【表1】

【0034】
試験例2:凍結乾燥組成物の物性測定
実施例1〜4と比較例1〜4で得られた凍結乾燥組成物の基礎物性と構造を、XRD、TGA、DSC及びSEMを測定することで分析した。結果によると、凍結乾燥組成物の多形性及び構造に顕著な違いは見られなかったが、再構成時に単糖類の膨化剤が溶媒用チャンネルの形成を促進して凍結乾燥組成物に浸透するため、再構成時間が短縮される。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明はタキソイド含有凍結乾燥組成物の物性を向上させる方法に関する。凍結乾燥前の溶液中の固形物の含量が20%以上の場合、得られた凍結乾燥組成物にチャンネルを形成できず、凍結乾燥組成物の再構成にかなりの時間が所要される。
【0036】
単糖類または糖アルコールの膨化剤は凍結乾燥前の溶液の物性及び安定性を向上させ、再構成過程中の凍結乾燥組成物の多孔性を確保し、再構成時間を短縮させることができる。
【0037】
前述した単糖類及び糖アルコールのうち、特にデキストロース及びD−ソルビトールは凍結乾燥組成物の物性を向上させるのに卓越した効果を有する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タキソイド、シクロデキストリンと、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ポリエチレングリコール(PEG)及びポリビニルピロリドン(PVP)からなる群から選択される少なくとも1種の親水性ポリマーと、単糖類の膨化剤を含有する再構成時間が短縮された凍結乾燥組成物。
【請求項2】
前記タキソイドは下記式1で表される、請求項1記載の組成物。

前記式1において、Rは水素原子またはアセチル基であり、R1は三級ブトキシカルボニルアミノ基またはベンゾイルアミノ基である。
【請求項3】
前記タキソイドは式1で表されるドセタキセルであり、Rは水素原子であり、R1は三級ブトキシカルボニルアミノ基である、請求項2記載の組成物。
【請求項4】
前記タキソイドは式1で表されるパクリタキセルであり、Rはアセチル基であり、R1はベンゾイルアミノ基である、請求項2記載の組成物。
【請求項5】
前記タキソイドは、遊離形態または薬剤学的に許容可能な塩の形態、その無水物または水和物の形態である、請求項2記載の組成物。
【請求項6】
タキソイド、シクロデキストリンと、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ポリエチレングリコール(PEG)及びポリビニルピロリドン(PVP)からなる群から選択される少なくとも1種の親水性ポリマーと、単糖類の膨化剤を含有する再構成時間が短縮された凍結乾燥組成物において、
(a)界面活性剤及び有機溶媒を含まず、
(b)選択的に薬剤学的に許容可能な賦形剤を含み、
(c)タキソイドを0.2〜50質量%含有する上記組成物。
【請求項7】
前記シクロデキストリンはタキソイド1質量部に対して1〜500質量部である、請求項1記載の組成物。
【請求項8】
前記シクロデキストリンはタキソイド1質量部に対して5〜200質量部である、請求項7記載の組成物。
【請求項9】
前記親水性ポリマーはタキソイド1質量部に対して0.01〜100質量部である、請求項1記載の凍結乾燥組成物。
【請求項10】
前記シクロデキストリンはβ−シクロデキストリンまたはその誘導体である、請求項1記載の凍結乾燥組成物。
【請求項11】
前記シクロデキストリンはヒドロキシプロピルβ−シクロデキストリンである、請求項10記載の凍結乾燥組成物。
【請求項12】
前記膨化剤はタキソイド1質量部に対して1〜50質量部である、請求項1記載の凍結乾燥組成物。
【請求項13】
1)タキソイド、シクロデキストリンと、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ポリエチレングリコール(PEG)及びポリビニルピロリドン(PVP)からなる群から選択される親水性ポリマーと、単糖類の膨化剤を注射用水に混合して溶解する段階と、
2)段階1)で得た混合液を凍結乾燥する段階と、
を含む安定性が向上されたタキソイド含有凍結乾燥組成物の製造方法。

【公表番号】特表2011−509925(P2011−509925A)
【公表日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−534893(P2010−534893)
【出願日】平成20年11月21日(2008.11.21)
【国際出願番号】PCT/KR2008/006876
【国際公開番号】WO2009/066956
【国際公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【出願人】(505053947)エスケー ケミカルズ カンパニー リミテッド (16)
【Fターム(参考)】