説明

タグボート用ロープウインチ

【課題】タグボートの進行速度に応じてバックテンションを付与することのできるタグボート用ロープウインチを、極めて低コストで実現すること。
【解決手段】ロープを巻回するドラムと、このドラムを、ロープ繰り出し方向又はロープ巻き取り方向に回転駆動する電動モータと、前記電動モータをインバータ制御して前記ドラムの回転を制御するドラム制御部と、前記電動モータと前記ドラムとの間に介設したギヤボックスと、作動油タンクと、前記ギヤボックスに連動連結した油圧モータと、作動油の流路を切り替える流路切換弁と、リリーフバルブとを含み、前記ギヤボックスに組み込まれた油圧回路と、を備え、前記ドラム制御部は、前記ドラムをロープ繰り出し方向に回転したときに、前記流路切換弁により作動油の流路を切り換えて前記油圧モータを抵抗体として機能させた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、曳航用ロープを繰り出したり、巻き取ったりするタグボート用ロープウインチに関するものである。
【背景技術】
【0002】
タンカーなどの大型船舶が港湾などを出入りする場合、水先案内のためにタグボートで曳航するが、曳航用ロープ(以下、単に「ロープ」とする場合がある)は、タグボート上に配置されたウインチに巻回されて、繰り出し、巻取り操作がなされている(例えば、特許文献1を参照。)。
【0003】
また、ロープの繰り出し、巻取りは、通常、ウインチ前方に配置されたロープ案内装置を介してなされる。すなわち、曳航作業を行う前には、タグボートを曳航すべき大型船舶に近接させておき、ウインチから繰り出されたロープの一端を曳航される船舶に渡して固定する準備作業がなされるが、このとき、例えばウインチが船首側にある場合、船舶に渡すだけの必要長さ分のロープをウインチから繰り出して船首側甲板上に予め一纏めにしておかなければならない。しかし、引き出されるロープの重量が大きくなるので、人力では大変な重労働になるため、ウインチから引き出されたロープを所定速度で案内するロープ案内装置が設けられているのである。
【0004】
ロープを大型船舶に連結すると、所定のロープ長になるまで、タグボートはロープを繰り出しながら大型船舶から遠ざかっていく(ウインチが船首側にある場合は後進することになる)。
【0005】
このとき、ロープの繰り出し速度が速すぎると、ロープは大型船舶とタグボートの間で大きく弛んでしまい、海中に没したりするおそれがあり、反対にロープの繰り出し速度が遅すぎると、ロープに急激な張力が加わってロープを切断したり、ウインチに過大な負荷をかけたりするおそれがある。したがって、ロープを繰り出す場合は、大型船に始端を連結しロープに一定の緊張(バックテンション)を与えておくことが望ましい。
【特許文献1】特開2000−095184号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一方、大がかりな油圧配管をなくすとともに、油圧特有の騒音がなく、かつゼロから最高速度まで容易に正逆回転駆動を制御できるように、ウインチを、インバータ制御による電動モータにより駆動することが考えられたが、電動モータでは、高速で進むタグボートに追従してバックテンション機能を実現することができなかった。すなわち、電動モータに抵抗をかけて、油圧同様のバックテンション機能を得ようとすると、タグボートの進行速度でウインチのドラムが外力回転して電動モータが高速回転するため、簡単には処理できないほど発熱してしまうからである。
【0007】
このように、ウインチに電動モータを用いながら、なおかつタグボートに必要な高速バックテンション機能を実現する技術は未だ確立されていない。
【0008】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたもので、曳航用ロープを巻回するドラムをインバータ制御可能な電動モータにより駆動するとともに、甲板上に容易に配管できる小規模の油圧回路を構築して、油圧ポンプとしても機能する油圧モータを抵抗として機能させ、ロープ繰り出し方向と逆方向に進行する船体速度に応じた所定の張力を繰り出されたロープに加えるバックテンション機能を有するタグボート用ロープウインチを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)本発明では、船体の甲板上に設けられ、曳航用のロープを繰り出し及び巻き取り可能としたタグボート用ロープウインチであって、前記ロープを巻回するドラムと、このドラムを、ロープ繰り出し方向又はロープ巻き取り方向に回転駆動する電動モータと、前記電動モータをインバータ制御して前記ドラムの回転を制御するドラム制御部と、前記電動モータと前記ドラムとの間に介設したギヤボックスと、作動油タンクと、前記ギヤボックスに連動連結した油圧モータと、作動油の流路を切り替える流路切換弁と、リリーフバルブとを含み、前記ギヤボックスに組み込まれた油圧回路と、を備え、前記ドラム制御部は、前記ドラムをロープ繰り出し方向に回転したときに、前記流路切換弁により作動油の流路を切り換えて前記油圧モータを抵抗体として機能させ、ロープ繰り出し方向と逆方向に進行する船体速度に応じた所定の張力を繰り出されたロープに加えるバックテンション機能を有することとした。
【0010】
(2)本発明は、上記(1)記載のタグボート用ロープウインチにおいて、前記油圧回路にブレーキ弁を設け、バックテンション機能が作動した場合、前記ブレーキ弁と前記油圧モータとを循環するループ回路を形成することを特徴とする。
【0011】
(3)本発明は、上記(1)又は(2)に記載のタグボート用ロープウインチにおいて、繰り出されたロープが挿通される案内口に臨ませたローラにより前記ロープを挟持し、当該ロープを一方向へ繰り出すローラ機構を備えたロープ案内装置を備え、このロープ案内装置を前記油圧回路に連通連結して油圧駆動させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、インバータ制御によりゼロ〜最高速度まで正逆回転を容易に制御できる電動モータを用いながら、繰り出す曳航用ロープに、タグボートの進行速度に応じてバックテンションを付与することのできるタグボート用ロープウインチを、極めて低コストで実現することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本実施形態に係るタグボート用ロープウインチは、船体の甲板上に設けられ、曳航用のロープを繰り出し及び巻き取り可能としており、前記ロープを巻回するドラムと、このドラムを、ロープ繰り出し方向又はロープ巻き取り方向に回転駆動する電動モータと、前記電動モータをインバータ制御して前記ドラムの回転を制御するドラム制御部と、前記電動モータと前記ドラムとの間に介設したギヤボックスと、作動油タンクと、前記ギヤボックスに連動連結した油圧モータと、作動油の流路を切り替える流路切換弁と、リリーフバルブとを含み、かつ前記ギヤボックスに組み込まれた油圧回路と、を備えている。そして、前記ドラム制御部は、前記ドラムをロープ繰り出し方向に回転したときに、前記流路切換弁により作動油の流路を切り換えて前記油圧モータを抵抗体として機能させ、ロープ繰り出し方向と逆方向に進行する船体速度に応じた所定の張力を繰り出されたロープに加えるバックテンション機能を有する構成となっている。
【0014】
かかる構成により、船体内からウインチ駆動用の油圧配管を甲板上まで配設するといった大掛かりな配管構造は不要となり、ロープを巻回するドラムを、速度ゼロから最高速度まで、電動モータのインバータ制御によって容易に正逆回転駆動することができ、高速バックテンションも実現可能となる。しかも、仕事率や速度の微調整も従来の油圧駆動などに比較して大きく優るものとなる。
【0015】
また、ウインチ駆動に電動モータを用いるため、油圧特有の騒音がなく、駆動時のみに電力消費するため、省エネルギーとなり、環境保護が重要視される近代社会に適したものとなる。
【0016】
油圧回路は、作動油タンクと、前記ギヤボックスに連動連結した油圧モータと、作動油の流路を切り替える流路切換弁と、リリーフバルブとを含み、甲板上に油圧配管して構成することができるため、効率的なスペース利用が可能であり、また、バックテンション機能はギヤボックス内に組み込むことができるため、外部配管が不要となり、バックテンションのための配管を甲板上に設置する必要がない。
【0017】
前記油圧回路にはブレーキ弁を設けられており、バックテンション機能が作動した場合、前記ブレーキ弁と前記油圧モータとを循環するループ回路を形成するようにしている。ブレーキ回路には、所定の設定圧力でポートを開放するリリーフバルブが設けられるとともに、バックテンションの設定圧を決定するバックテンション用リリーフバルブが前記ブレーキ弁の下流側にパイロット流路と流路切換弁を介して接続されている。そして、バックテンション機能を作動させる場合、前記流路切換弁を動作させて流路を切り換え、前記ブレーキ弁のリリーフバルブの設定圧よりも低く設定されたバックテンション用の設定圧力を超えたときにバックテンション用リリーフバルブが開放されて前動油が通過する回路が形成される。
【0018】
このように、本実施形態では、特別な機構などを要せず、簡単な構成でバックテンション機能を実現することができる。
【0019】
さらに、繰り出されたロープが挿通される案内口に臨ませたローラにより前記ロープを挟持し、当該ロープを一方向へ繰り出すローラ機構を備えたロープ案内装置を備え、このロープ案内装置を前記油圧回路に連通連結して油圧駆動させることができる。
【0020】
すなわち、ロープ案内装置は、船体の甲板上に固定される左右一対の支柱間にハウジングを形成し、前記ハウジングに設けた曳航用ロープを挿通する案内口にローラを臨ませて前記曳航用ロープを挟持し、当該曳航用ロープを一方向へ繰り出すローラ機構を前記ハウジング内に収納配設したタグボートにおけるロープ案内装置において、前記ローラ機構は、前記支柱によりその左右両端側を支持される上下一対の上部軸及び下部軸と、前記上部軸にそれぞれ回転自在に取り付けられた上部左右ローラと、前記下部軸にそれぞれ回転自在に取り付けられた下部左右ローラと、前記上部左右ローラ及び前記下部左右ローラをそれぞれ独立して回転駆動させるローラ駆動部と、互いに上下方向に所定間隔をあけて配設された前記上部軸及び下部軸に連結して前記上部軸及び下部軸間を相互に上下近接方向及び離隔方向へ移動させる支持軸間移動部と、を具備し、前記上部左ローラ及び前記下部左ローラを第1のローラ組とし、前記上部右ローラ及び前記下部右ローラを第2のローラ組として、1本又は2本の前記曳航用ロープを前記第1、第2のローラ組を介して上下方向から挟持して繰り出し可能とするように構成することができる。
【0021】
かかる構成によって、曳航用ロープを上部ローラ及び下部ローラにより上下方向から鋏持してロープの繰り出し作業を確実に行うことができ、しかも2本のロープのそれぞれを制御して曳航作業を安定的かつ安全に行うことができる。すなわち、ロープ案内装置は、そのハウジング中央などに形成された曳航用ロープの案内口に、上下方向から移動して曳航用ロープに突出可能に設けられた対となる駆動用ローラを備えており、この駆動用ローラによりロープを挟持した状態でローラを回転させる。これによって、曳航作業時にタグボートと被曳航船とのによる高さ方向のロープ送り角度が深くなったり、大きく変動したりしたとしても駆動用ローラとロープとの摩擦力を保持させてロープを確実に操作することができるのである。
【0022】
本実施形態では、上述した機能を有するロープ案内装置を、バックテンション機能を付与するための油圧回路によって駆動させることができるため、ロープ案内装置を駆動するための専用ポンプなどが不要となり、コスト面、レイアウト面でも極めて有利な構成とすることができる。
【0023】
以下、本発明の一実施形態を、添付した図面を参照してより具体的に説明する。図1は本実施形態に係るタグボートの側面図、図2は同平面図、図3は本実施形態に係るタグボート用ウインチの平面図、図4は図3のA−A断面視による説明図、図5は同図3のB−B断面視による説明図、図6は同ウインチに設けた油圧回路の説明図、図7〜図9は同油圧回路における作動油流路の説明図である。
【0024】
図1及び図2に示すように、本実施形態に係るタグボート1は、船首側の甲板上に、前側からロープ案内装置としてのロープリーダ10と本実施形態の要部となるロープウインチ2とが順に立設されている。すなわち、本実施形態に係るタグボート1は、大型船などを曳航する場合は後進することになる。また、12は船体側部に配設した古タイヤなどからなる防舷材であり、これを介して大型船に船体を接触させて押すことにより所定位置に移動させることができる。
【0025】
なお、本実施形態では、1機のロープリーダ10と左右2機のロープウインチ2,2とで曳航部3を構成し、2本の曳航用ロープ(以下、単に「ロープ」とする場合がある)4,4を操作可能としているが、1機のロープウインチ2に対して1機のロープリーダ10を備えた曳航部3を、左右に2組設置することもできる。
【0026】
ロープリーダ10は、後述する油圧回路8を介して油圧駆動されるのに対し、ロープウインチ2は、図3〜図6に示すように、所定の減速比となるように組まれたギヤ群50を収納したギヤボックス5を介して、インバータ制御可能とした電動モータ6と駆動軸51とを連通連結し、電動モータ6によって、停止状態から最高速回転状態まで正逆回転可能となっている。そして、駆動軸51には、第1ブレーキドラム21、チェーンドラム22、ロープドラム(トーイングドラムとも呼ぶ)23、第2ブレーキドラム24が直列に連結されている。図中、25はアンカーを連結したチェーン、26は第1ブレーキを手動操作するブレーキハンドル、27はチェーンドラム22のクラッチ機構である。
【0027】
また、ギヤボックス5には、油圧モータ7を取り付けてギヤ群50と連動連結している。この油圧モータ7は、図6に示すように、作動油タンク80と、作動油の流路を切り替える2位置切換え式の第1流路切換弁81、3位置切換え式の第2流路切換弁82、及び2位置切換え式の第3流路切換弁83と、リリーフバルブ84を備えたブレーキ弁85とともに、油圧回路8に組み込まれている。なお、11aはロープ案内用の上側油圧モータ,11bは同下側油圧モータであり、左右のロープウインチ2、2の各ロープ4に対応させて、ロープリーダ10内に左右に1組ずつ収納配設されている。
【0028】
そして、上記油圧回路8を介して、本実施形態ではロープリーダ10についても駆動可能としている。すなわち、図6に示すように、ギヤボックス5の上部側に、40リットル程度の容量の作動油タンク80を設け、この作動油タンク80に油圧モータ7を介してパイプを連通連結し、作動油タンク80→油圧モータ7→作動油タンク80と循環する油圧回路8が構成されている。このように、ロープウインチ2のギヤボックス5周りにコンパクトに油圧配管して油圧回路8が構成されているため、効率的なスペース利用が可能となっている。
【0029】
ロープ4の繰り出し時に油圧モータ7の下流側を構成し、当該油圧モータ7の吐出側と作動油タンク80とを連通連結する第1パイプ88aには、ロープリーダ10を作動させるか否かを切り換える2位置切換え式の第1流路切換弁81を配設しており、この第1流路切換弁81の第1のポートとロープリーダ10とを、同じく2位置切換え式の第3流路切換弁83を介して連通連結している。なお第2のポートは閉止端としている。
【0030】
また、第1パイプ88aと、同じくロープ4の繰り出し時に油圧モータ7の上流側を構成し、作動油タンク80と油圧モータ7の吸引側とを連通連結する第2パイプ88bとのの間には、リリーフバルブ84と複数の逆止弁からなるブレーキ弁85を介設している。そして、このブレーキ弁85とバックテンション用リリーフバルブ87とを第2流路切換弁82を介してパイロット流路により連通している。すなわち、ブレーキ弁85のリリーフバルブ84の下流側にパイロット流路を介して3位置切換え式の第2流路切換弁82を配設し、バックテンションを作動させた場合には作動油流路が切り換わり、バックテンション用リリーフバルブ87の設定圧を超える作動油は、このバックテンション用リリーフバルブ87を介して前記第2パイプ88bと合流するようにしている。図6中、89はロープリーダ10の回転速度を微調整するための絞り弁、91はコックである。
【0031】
ロープウインチ2及びロープリーダ10の操作、すなわち、第1流路切換弁81と第2流路切換弁82との切換えは、図示しない操作パネルを介して行うことができる。
【0032】
本実施形態に係る操作パネルは、ロープウインチ2の電動モータ6をインバータ制御するドラム制御部として機能するものであり、例えば、スイッチ回路などを含むインバータ制御回路と、これに電気的に接続する操作スイッチなどを含めた概念としている。かかる操作パネルは、例えば操舵室の操縦スタンドなどに組み込むことができ、各装置類を遠隔操作可能としている。したがって、この操作パネルからの操作入力により、電動モータ6の駆動及び停止操作、バックテンション機能の作動、ロープリーダ10の駆動などが行える。
【0033】
ここで、図7〜図9を用いて、ロープウインチ2の通常駆動時(トーイングウインチ)と、ロープリーダ10の駆動時と、バックテンション作動時とについて、油圧回路8における作動油の流れについて説明する。なお、ここでは電動モータ6を逆転させたときにロープ4を繰り出し、正転させたときに巻き取ることとしている。
【0034】
図7はロープウインチ2の通常駆動時であり、ここでは、ロープ4を巻き取る場合を例に説明する。すなわち、操作パネルを操作して、ロープ4の巻取り操作を実行すると、第1流路切換弁81、及び第3流路切換弁83が第1の制御位置に、第2流路切換弁82は中立位置になるとともに、電動モータ6が正転駆動する。この電動モータ6の回転駆動により、油圧モータ7がギヤボックス5内のギヤ群50を介して回転し、作動油は、図示するように、作動油タンク80→第1パイプ88a(第3流路切換弁83→第1流路切換弁81)→油圧モータ7→第2パイプ88b→作動油タンク80と流れる。このとき、油圧としては無負荷状態であり、ロープ4は電動モータ6の回転に応じた速度でロープドラム23に巻き取られる。
【0035】
また、ロープ4の繰り出しを行う場合は、電動モータ6が逆転駆動し、作動油は、図7における作動油の流れを示す矢印とは逆に流れ、ロープ4は、やはり電動モータ6の回転に応じた速度でロープドラム23から繰り出されることになる。
【0036】
ここで、図8及び図9を参照しながら、大型船舶を実際に曳航する場合について説明する。
【0037】
大型船舶を曳航するには、先ず、ロープ4を大型船舶に連結しなければならないが、そのために、連結に必要な長さ分のロープ4を、甲板上に繰り出しておく必要がある。このとき、比較的重量物であるロープ4を安全かつ確実に繰り出すために、ロープリーダ10を動作させる。このロープリーダ10には、ロープ案内用の上・下側油圧モータ11a,11bにより回転駆動してロープ4を送りだす一対のローラ(図示せず)が設けられている。
【0038】
操作パネルを操作して、ロープリーダ10を動作させると、図8に示すように、第1流路切換弁81及び第2流路切換弁82は第1の制御位置に、第3流路切換弁83は第2の制御位置になり、電動モータ6が逆転して、ギヤボックス5のギヤ群50を介して油圧モータ7が回転する。このとき、油圧モータ7があたかも油圧ポンプとして機能し、作動油は、作動油タンク80→第2パイプ88b→油圧モータ7→第1パイプ88a(第1流路切換弁81→第3流路切換弁83→上・下側油圧モータ11a,11b)→作動油タンク80と流れ、ロープ案内用の上・下側油圧モータ11a,11bを回転させてロープ4を船首側甲板上に繰り出すことができる。このとき、電動モータ6の回転速度と比例して油圧モータ7も駆動するので、ロープロープ4の繰り出し速度と同調したロープリーダ10のローラの回転が得られる。なお、速度を同調させるための微調整は絞り弁89で行うことができる。
【0039】
次いで、タグボート1を対象となる大型船舶に寄せ、ロープ4の先端を大型船舶に渡して所定位置に連結する。そして、曳航時のロープ4が所定の曳航距離となる位置まで、ロープウインチ2を駆動してロープ4を繰り出しながら、タグボート1を後進させて行く。このとき、ロープ4の繰り出し速度が速すぎると、ロープ4は大型船舶とタグボート1の間で大きく弛んでしまい、海中に没し、スクリューに巻き込まれたり、浮遊物に接触したりするおそれがある。また、反対にロープ4の繰り出し速度が遅すぎると、ロープ4に急激な張力が加わってロープ4を切断したり、ロープウインチ2に過大な負荷がかかったりするおそれがあるため、操作パネルを用いてバックテンション機能を作動させる。
【0040】
すなわち、図9に示すように、この場合は、第1流路切換弁81及び第2流路切換弁82は第2の制御位置に、第3流路切換弁83は第1の制御位置になり、ロープ4からの外力によりロープドラム23が逆転して電動モータ6が逆転して、ギヤボックス5のギヤ群50を介して油圧モータ7が回転する。このとき、第1流路切換弁81が第2の制御位置になって、ポートが閉塞端部と繋がるため、油圧モータ7の回転により、作動油はブレーキ弁85側にのみ流れ、リリーフバルブ87に設定された圧力まで加圧されていく。そして、所定の圧力になると、作動油はブレーキ弁85から図中のaで示す流路を通って第2パイプ88bへとバイパスして流れる。つまり、作動油は油圧モータ7→第1パイプ88a→ブレーキ弁85→流路a→第2パイプ88b→油圧モータ7と循環し、リリーフバルブ87の設定圧によるバックテンションが作用することになる。こうして、バックテンション機能が作動した場合は、ブレーキ弁85と油圧モータ7とを循環するループ回路が形成されることになる。なお、設定圧を超えたパイロット流路の作動油は、ブレーキ弁85→第2流路切換弁82→リリーフバルブ87→第1パイプ88aと流れて作動油タンク80へと戻る。
【0041】
こうして、操作パネルを介してバックテンション機能の作動指示が入力され、ロープウインチ2のロープドラム23が回転駆動すると、油圧モータ7があたかも可変抵抗のように機能して、ロープ4に所定の張力(バックテンション)を付与した状態でのロープ4の繰り出しが行える。したがって、熟練した技能などがなくとも容易にバックテンション機能をロープウインチ2に付与することができる。
【0042】
しかも、船体内の機関室からウインチ駆動用の油圧配管を甲板上まで配設するといった大掛かりな配管構造は不要となり、効率的なスペース利用が可能であり、また、バックテンション機能はギヤボックス5内に組み込むことができるため、外部配管が不要となり、バックテンションのための配管を甲板上に設置する必要がない。
【0043】
また、ロープドラム23を、速度ゼロから最高速度まで、電動モータ6のインバータ制御によって容易に正逆回転駆動することができ、高速バックテンションも実現可能となる。そして、電動モータ6を用いることにより、油圧特有の騒音がなく、駆動時のみに電力消費するため、省エネルギーとなる。
【0044】
上述した実施形態から、以下のタグボート用ロープウインチが実現できる。
【0045】
すなわち、船体の甲板上に設けられ、曳航用のロープ4を繰り出し及び巻き取り可能としたタグボート用ロープウインチ(ロープウインチ2)であって、前記ロープ4を巻回するドラム(ロープドラム23)と、このドラムを、ロープ繰り出し方向又はロープ巻き取り方向に回転駆動する電動モータ6と、前記電動モータ6をインバータ制御して前記ドラムの回転を制御するドラム制御部と、前記電動モータ6と前記ドラムとの間に介設したギヤボックス5と、作動油タンク80と、前記ギヤボックス5に連動連結した油圧モータ7と、作動油の流路を切り替える流路切換弁(例えば、第1流路切換弁81、第2流路切換弁82)と、リリーフバルブ(例えば、リリーフバルブ84、バックテンション用リリーフバルブ87)とを含み、前記ギヤボックス5に組み込まれた油圧回路8とを備え、前記ドラム制御部は、前記ドラムをロープ繰り出し方向に回転したときに、前記流路切換弁により作動油の流路を切り換えて前記油圧モータ7を抵抗体として機能させ、ロープ繰り出し方向と逆方向に進行する船体速度に応じた所定の張力を繰り出されたロープ4に加えるバックテンション機能を有するタグボート用ウインチ。
【0046】
前記油圧回路にブレーキ弁85を設け、バックテンション機能が作動した場合、前記ブレーキ弁85と前記油圧モータ7とを循環するループ回路(例えば、油圧モータ7→第1パイプ88a→ブレーキ弁85→流路a→第2パイプ88b→油圧モータ7)を形成するタグボート用ウインチ。
【0047】
繰り出されたロープ4が挿通される案内口に臨ませたローラにより前記ロープ4を挟持し、当該ロープ4を一方向へ繰り出すローラ機構を備えたロープ案内装置(ロープリーダ10)を備え、このロープ案内装置を前記油圧回路8に連通連結して(例えば、図8参照)油圧駆動させるタグボート用ウインチ。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本実施形態に係るタグボートの側面図である。
【図2】同平面図である。
【図3】本実施形態に係るタグボート用ウインチの平面図である。
【図4】図3のA−A断面視による説明図である。
【図5】図3のB−B断面視による説明図である。
【図6】同ウインチに設けた油圧回路の説明図である。
【図7】同油圧回路における作動油流路の説明図である。
【図8】同油圧回路における作動油流路の説明図である。
【図9】同油圧回路における作動油流路の説明図である。
【符号の説明】
【0049】
1 タグボート
2 ロープウインチ
4 曳航用ロープ
5 ギヤボックス
6 電動モータ
7 油圧モータ
8 油圧回路
10 ロープリーダ(ロープ案内装置)
23 ロープドラム
81 第1流路切換弁
82 第2流路切換弁
83 第3流路切換弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
船体の甲板上に設けられ、曳航用のロープを繰り出し及び巻き取り可能としたタグボート用ロープウインチであって、
前記ロープを巻回するドラムと、
このドラムを、ロープ繰り出し方向又はロープ巻き取り方向に回転駆動する電動モータと、
前記電動モータをインバータ制御して前記ドラムの回転を制御するドラム制御部と、
前記電動モータと前記ドラムとの間に介設したギヤボックスと、
作動油タンクと、前記ギヤボックスに連動連結した油圧モータと、作動油の流路を切り替える流路切換弁と、リリーフバルブとを含み、前記ギヤボックスに組み込まれた油圧回路と、
を備え、
前記ドラム制御部は、前記ドラムをロープ繰り出し方向に回転したときに、前記流路切換弁により作動油の流路を切り換えて前記油圧モータを抵抗体として機能させ、ロープ繰り出し方向と逆方向に進行する船体速度に応じた所定の張力を繰り出されたロープに加えるバックテンション機能を有することを特徴とするタグボート用ロープウインチ。
【請求項2】
前記油圧回路にブレーキ弁を設け、バックテンション機能が作動した場合、前記ブレーキ弁と前記油圧モータとを循環するループ回路を形成することを特徴とする請求項1記載のタグボート用ロープウインチ。
【請求項3】
繰り出されたロープが挿通される案内口に臨ませたローラにより前記ロープを挟持し、当該ロープを一方向へ繰り出すローラ機構を備えたロープ案内装置を備え、
このロープ案内装置を前記油圧回路に連通連結して油圧駆動させることを特徴とする請求項1又は2に記載のタグボート用ロープウインチ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate