説明

タコの加工用複合製剤及び前処理方法

【課題】冷凍タコの蒸し・煮沸処理の前に行う前処理の工程を短縮して、一度の工程で酸化防止効果を付与し、ヌメリをとって蒸し処理後の皮めくれを防止するとともに、蒸し処理後に良好な赤い発色を得られる前処理剤を提供する。
【解決手段】エリソルビン酸、アスコルビン酸、若しくはそれらのアルカリ金属塩又はそれらの混合物からなる処理成分と、有機酸、酸性のリン酸化合物、又はその両方からなる酸性成分とを含み、上記処理成分が全体に占める含有率が35重量%以上であり、1重量%水溶液としたときのpHが2.7以上5.1以下である加工用複合製剤を調製する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、解凍したタコを蒸し・煮沸処理する前に行う前処理に関する。
【背景技術】
【0002】
冷凍タコを蒸し、煮沸した上で出荷する際には、冷凍タコをそのまま熱するのではなく、解凍後に、処理剤溶液で洗うことで、酸化防止効果を与えたり、ヌメリをとったりする前処理作業を行うことで、製品である蒸し煮沸タコの発色を鮮やかにし、退色を防止し、皮めくれを防止するといった効果を与えている。
【0003】
その処理の従来の手順は例えば、図1のような構成になる。まず、原料である冷凍タコを、解凍機を用いるか、又は自然解凍にて解凍させる(11)。解凍されたタコを洗い機で水洗いし(12)、包丁を用いた手作業で股切りを行う(13)。股切りを行ったタコを洗い機に投入し、塩化ナトリウム水溶液で塩揉みを行う(14)。この塩揉みにより、後述する蒸し・煮沸処理によるタコの発色をよくする。ただし、この工程ではタコのヌメリが残ってしまう。ヌメリが残っている状態で蒸し処理を行うと皮めくれが生じてしまう。このため、塩揉みの後に、より酸性の強いミョウバン水溶液で洗うことで、皮膚を整えるとともに、皮膚の表面のヌメリを取る酸性処理を行う(15)。ここまでが前処理である。このような前処理を行う例が、特許文献1に記載されている。
【0004】
また、アスコルビン酸類と可食性有機酸塩とからなる発色用組成物を用いて蒸し・煮沸処理前のタコを薬品処理することで、蒸し・煮沸処理後の発色を鮮やかにすると共に、酸化防止効果を向上させる例が特許文献2に記載されている。さらに、塩揉みの際に塩化ナトリウムとともにこの発色用組成物を添加して、塩揉み(14)と上記発色用組成物による処理とを一度に行う場合もある。このようにまとめることで、上記発色用組成物による効果を付与しつつ、工程に要する時間を短縮し水を節約することができる。
【0005】
前処理の終わったタコを、蒸し器で蒸した後(20)、アルカリ性水溶液を満たしたボイル槽で短時間煮沸する(21)、蒸し・煮沸処理を行う。これにより、上記の前処理に応じた色合いでタコは赤く発色する。このように蒸してからアルカリに漬けることで、発色の調整ができる。蒸すことなくいきなり茹でると、煮汁によってタコ全体が染まってしまうが、蒸してから短時間茹でると足の吸盤部分の本来発色しない部分を白く残すことができるのでより好ましい。
【0006】
加熱が終わった蒸し煮沸タコを、冷却槽に投入して冷却し、冷蔵、又は冷凍保存する(22)。冷却保存されたタコは、人間が手作業で品質確認しつつ箱詰めする(23)。その後、箱ごと金属検出器にかけて、上記の処理工程で金属片等が紛れ込んでいないかを確認した上で(24)、製品として出荷する(25)。
【0007】
なお、上記前処理のうち、酸性処理(15)で用いるミョウバン水溶液の代わりに、他の有機酸を用いて行ったヌメリとり剤の例が、特許文献3に記載されている。この例では、タコに限らず魚介類全般に対して、蒸し・煮沸処理後の発色をよくする洗い作業を行った後に、酸性の溶液で処理することで、ヌメリをとることが記載されている。
【0008】
【特許文献1】特開昭59−227273号公報
【特許文献2】特開昭59−169467号公報
【特許文献3】特開2005−168456号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、蒸し・煮沸処理前に行う前処理のうち、塩揉み、薬品処理、酸性処理の各工程は、いずれも溶液や水での洗い作業を行うことになるが、それぞれの溶液での洗い作業を行った後、タコを、溶液で満たした洗い機から一旦引き揚げた後で次の工程に用いる溶液で満たした溶液中に漬ける作業を繰り返すか、又は、洗い機から溶液を一旦抜いてから次の工程で用いる溶液を添加する作業を繰り返すか、どちらかの作業が必要となる。これは、特許文献3に記載のヌメリとり剤を用いる場合でも、別途酸性処理が必要であり、前処理として最低でも二段階の工程を行うため同じである。
【0010】
上記前処理中のこれらの作業で使用する水は、それぞれの工程ごとに変える必要があるため、工程が一つ増えるごとに、使用する水の消費量は無視できない量が増加する。また、工程ごとにかかる時間は少なくとも10〜20分程度かかるため、出来るだけ前処理で行う工程をまとめることが求められていた。このうち、上記塩揉みと上記薬品処理は、状況によってはまとめることが可能であったが、特許文献1に記載のミョウバンによる上記酸性処理を、特許文献2に記載の上記薬品処理や上記塩揉みとまとめて行うと、処理したタコを蒸した後の赤色の発色が不十分なものとなってしまうため、単純に作業工程をまとめることはできなかった。
【0011】
一方、特許文献2に記載のアスコルビン酸類と可食性有機酸塩との発色用組成物は、発色性の維持と酸化防止効果のみを目的としており、ヌメリをとることを想定していないため、そのままでは処理したタコを蒸し、煮沸を行うと皮めくれが生じる場合があった。また、その発色用組成物を用いて処理したタコの、冷蔵保存時における色合いの保持は、3日程度が限度であり、一週間が経過すると退色が避けられず、酸化防止効果が不十分であった。
【0012】
そこでこの発明は、タコの前処理にあたって、蒸し・煮沸処理後のタコの品質を低下させることなく、かつ、酸化防止効果を十分な期間保持して、前処理の工程をまとめることを可能にし、前処理にかかる手間及び時間と使用される水を節約することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この発明は、エリソルビン酸、アスコルビン酸、若しくはそれらのアルカリ金属塩、又はそれらの混合物からなる処理成分と、全体を弱酸性に調整する、有機酸、酸性リン酸化合物又はそれらの両方からなる酸性成分とを含み、上記処理成分の含有量が35重量%以上であり、1重量%水溶液としたときのpHが2.7以上5.1以下となるタコの加工用複合製剤を用いることにより、上記の課題を解決したのである。ここで複合製剤とは、少なくとも酸化防止剤とpH調整剤との効果を併せ持つ製剤であることを示し、実際には発色効果も発揮しうる。
【0014】
すなわち、上記加工用複合製剤を用いて前処理を行うことで、従来は薬品処理と酸性処理として別途行っていた工程を一つにまとめることができる。まず、エリソルビン酸、アスコルビン酸、又はこれらのアルカリ金属塩からなる処理成分は、酸化防止効果と皮の整えに十分な効果を発揮することができる。アルカリ金属塩としては例えばナトリウムが挙げられる。これらの処理成分は単独で用いてもよいし、混合して用いてもよい。また、上記の限定された酸性成分により溶液をpH2.7〜5.1に調整することで、この加工用複合製剤自体による酸化防止効果や、発色効果を妨げることなく、ヌメリを確実に除去して、蒸し・煮沸処理時に皮めくれが生じることを確実に防ぐことができる。特に、酸性にするためにミョウバンのみを用いて処理をまとめる場合と比べて、赤色の発色を十分に維持することができる。また、ミョウバンと併用しても発色を維持することが出来る。さらに、単に有機酸を用いるだけでは色合いが保持できないが、前記処理成分との組み合わせで用いることにより、ヌメリを取りつつ蒸し・煮沸処理後の発色を鮮やかにすることができ、かつ、その色合いが退色することを一週間以上に亘って防ぐことができる。
【0015】
さらに、この発明にかかる加工用複合製剤が、酸性成分としてメタリン酸ナトリウムを適量含有すると、蒸し・煮沸処理後のタコの色合いをさらに鮮やかにすることができる。
【0016】
また、この発明にかかる加工用複合製剤が、酸性成分としてメタリン酸ナトリウムと酒石酸とを併用して適量含有しても、メタリン酸ナトリウムを適量含有する場合と同様、又はそれ以上に、蒸し・煮沸処理後のタコの色合いをさらに鮮やかにすることができる。このように酒石酸を併用するようにすると、潮解性の高いメタリン酸ナトリウムのみで色合いを鮮やかにする効果を得ようとする場合よりも薬剤自体が湿りにくいものとなるので、保存性が高い加工用複合製剤とすることができる。
【発明の効果】
【0017】
この発明にかかる加工用複合製剤を用いて前処理を行うことにより、従来は別個の工程として、それぞれで時間と水とを消費していた、酸化防止効果を与える添加剤による薬品処理工程と、酸性溶液を用いてヌメリを取って蒸し・煮沸処理時の皮めくれを防ぐ酸性処理とを一つの洗い工程にまとめることができ、前処理を簡略化し、かかる時間と使用する水の節約ができる。すなわち、この加工用複合製剤による前処理で、ヌメリ取り効果と、蒸し・煮沸処理時の発色効果と、その後の酸化防止効果とを一挙に得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、この発明について詳細に説明する。この発明は、解凍したタコを蒸し・煮沸処理する前に行う前処理において、水溶液として用いて洗うことでタコに酸化防止効果、蒸し・煮沸処理時の皮めくれ防止効果、及び蒸し・煮沸処理後の発色効果等の効果を与える加工用複合製剤である。なお、蒸し・煮沸処理とは、タコを蒸した後にアルカリ水で煮沸して、赤く発色させる処理のことを示す。
【0019】
この発明にかかる加工用複合製剤は、処理成分と酸性成分とを含有するものであり、水溶液として解凍したタコを洗うことで前記処理成分による処理効果を発揮させる。前記処理成分とは、エリソルビン酸、アスコルビン酸、若しくはそれらのアルカリ金属塩又はそれらの混合物からなり、主としてタコに酸化防止効果を与え、蒸し・煮沸処理後に鮮やかな赤い発色効果を発揮させるものである。エリソルビン酸とアスコルビン酸とで、得られる効果に差はなく、エリソルビン酸を用いる方が経済的に好ましい。また、酸とアルカリ金属塩とでは、pHを所定の範囲とするためのその他の成分の配合比が変わるが、酸化防止効果に変わりはない。
【0020】
上記処理成分の、上記加工用複合製剤全体に占める含有量は35重量%以上である必要がある。35重量%未満であると、上記処理成分による前処理の主要な目的である、蒸し・煮沸処理後の発色効果と、長期保存後にも対応した酸化防止効果とが不十分となり、赤い発色が不十分になったり、退色し始めるまでの期間が短くなりすぎて、一週間程度の色の保持すらできなくなる場合がある。一方、上限は特に規定されないが、上記加工用複合製剤の溶液が後述するpHの条件を満たす程度に上記有機酸を含む必要がある。
【0021】
上記酸性成分は、この発明にかかる加工用複合製剤を全体として弱酸に調整するためのものであり、コハク酸、酒石酸、フマル酸、クエン酸、リンゴ酸、アジピン酸、グルコン酸、乳酸などの有機酸や、ピロリン酸二水素二ナトリウム、メタリン酸ナトリウムなどの酸性のリン酸化合物を、単独で又は複数を任意に選択して用いてよい。これらの酸性成分により全体としてこの発明にかかる加工用複合製剤を弱酸性のpH2.7〜5.1に調製することで、処理されたタコのヌメリをとり、蒸し・煮沸処理時に皮めくれが生じるのを防ぐことができる。なお、上記の有機酸やリン酸化合物は、食品衛生法上、食品添加物として利用可能なものである必要がある。また、上記の有機酸やリン酸化合物は、常温で固体であるものを用いると、匂いが無く、取り扱いが容易であるため好ましい。例えば常温で液体である酢酸は、強い匂いを有し、かつ、常温で液体であるため上記処理成分と混合して保存するには、固体粉末の混合体ではなく、溶液として保存することになってしまう。
【0022】
なお、上記の酸性成分の中でも、メタリン酸ナトリウムを含んでいると特に好ましい。メタリン酸ナトリウムを含む加工用複合製剤を用いると、蒸し・煮沸処理後の赤い発色が特に鮮やかで好ましいものとなる。このメタリン酸ナトリウムを含む場合、メタリン酸ナトリウムと上記処理成分との質量比は、3/7以上であると好ましい。3/7未満であると、メタリン酸ナトリウムの含有量が少なすぎて、メタリン酸ナトリウムを加えることによる効果が不十分になったり、或いは、ほとんど得られなくなってしまう場合がある。ただし、後述する酒石酸と併用する場合にはメタリン酸ナトリウムの含有量が、上記の質量比未満であっても、十分な発色効果を発揮する場合がある。一方、メタリン酸ナトリウムの含有量の上限は特に制限されないが、上記加工用複合製剤中の上記処理成分の最低含有率が限定され、それに合わせてpHを適切に調製するために酸性成分と下記のpH調整剤を用いるので、その状況に合わせてメタリン酸ナトリウムの最大添加量が限定される。なお、この質量比の好ましい値はメタリン酸ナトリウムとして無水物を用いた場合の値である。
【0023】
また、酒石酸もメタリン酸ナトリウムと混合して同様の効果を発揮する。このため、メタリン酸ナトリウムのみでは上記処理成分との質量比の条件を満たさなくても、酒石酸とメタリン酸ナトリウムとを合わせた量の上記処理成分に対する質量比が1.7/4以上であれば、同様に十分な発色効果を発揮する。なお、上限は特に規定されないが、上記と同様に上記処理成分の最低含有率が限定されていることで、事実上の上限がある。また、メタリン酸ナトリウムは潮解性を有するので、メタリン酸ナトリウムの含有率が少ないほど、この発明にかかる加工用複合製剤は湿りにくく保存性がよいものとなる。このため、保存性の観点からは酒石酸が多い方が好ましい。また、発色を好ましいものとする観点から考えられる酒石酸の含有量の上限としては、メタリン酸ナトリウムと酒石酸との質量比が2/15以上であれば、少なくとも蒸し・煮沸処理後の発色を好ましいものとする効果を発揮する。
【0024】
さらに、この発明にかかる加工用複合製剤は、水溶液とした際のpHを後述する適切な範囲に調整するために、上記処理成分や上記酸性成分とは別に、pH調整剤を含んでいてもよい。上記酸性成分だけでは酸性が強すぎる場合に、pHを上げるために用いる。このようなpH調整剤としては、上記有機酸のナトリウム塩やカリウム塩などの有機酸塩、ピロリン酸四カリウムなどのアルカリ性リン酸化合物、酢酸ナトリウムなどを用いることができる。また、上記の酸性成分だけではpHを十分に低下させることができない場合に、十分な酸性処理を行うことができる程度にpHを低下させるために、ミョウバンを含んでいてもよい。ただし、ミョウバンを含めると発色効果がやや低下する場合があるため、上記酸性成分による発色効果でタコの発色を補うことができる範囲で添加することが望ましい。具体的には、25%以下であると好ましく、2%以下であると発色効果の低下はほとんど見られない。
【0025】
さらにまた、この発明にかかる加工用複合製剤は、上記処理成分と上記酸性成分の他に、上記処理成分の処理効果を妨げない範囲でその他の食品添加物となる成分を含んでいてもよい。
【0026】
この発明にかかる加工用複合製剤は、1重量%水溶液としたときのpHが2.7以上5.1以下である必要がある。5.1を超えると、酸性が弱くなりすぎてヌメリを取る効果が不十分になり、残ったヌメリのために、蒸し・煮沸処理時に皮めくれを生じるおそれがある。その場合、別途ミョウバンなどで酸性処理を行う必要が生じ、前処理の工程をまとめて処理を短縮し、使用する水を節約する効果が得られなくなってしまう。一方、2.7未満となることは、上記処理成分や上記有機酸自体の酸性度から現実的ではない。
【0027】
この発明にかかる加工用複合製剤を用いて、実際にタコの前処理を行うにあたっては、上記加工用複合製剤を水に溶解させて、0.3〜2重量%水溶液として用いるとよい。0.3重量%未満では薄すぎて前処理の効果が薄くなってしまう。一方で、2重量%を超えると、pHが低すぎるために排液処理に問題が生じる場合があるためである。ただしその濃度で上記のpHの条件を満たすものである必要がある。
【0028】
この発明にかかる加工用複合製剤による薬品処理は、冷凍タコを解凍して水洗いした後に股切りをしたタコに対して、塩化ナトリウム水溶液による塩揉みと同時、又は塩揉みの後に行う。前記塩揉みと同時に行う場合は、上記加工用複合製剤を塩化ナトリウムとともに溶解させた水溶液を用いて洗い機で揉み洗いを行い、一工程で洗い作業を完結させる。一方、塩揉みの後に行う場合は、塩化ナトリウム水溶液中で揉み洗いした後、タコをその液中から一旦引き揚げて、別途用意した上記加工用複合製剤水溶液中に漬けて揉み洗いを行う方法と、塩化ナトリウム水溶液を洗い機に満たして洗った後に排水し、その後上記加工用複合製剤水溶液を洗い機に投入して洗う方法と、塩化ナトリウム水溶液を洗い機に満たして洗った後、排水せずにその水溶液に所定量の上記加工用複合製剤水溶液を添加し溶解させて再び洗う方法とが挙げられる。塩化ナトリウム水溶液と上記加工用複合製剤水溶液を別途用意する前二つの方法の方が、最終的に得られる蒸し煮沸タコの品質はよいが、塩化ナトリウム水溶液に加工用複合製剤を添加する方法であると、使用する水を半分に節約することができ、経済的である。また、塩揉みと同時に加工用複合製剤による処理を行うと、さらに所要時間を短縮することができる。これらの洗い作業は、一般的に用いられる洗い機を用いて行うことができる。
【0029】
上記加工用複合製剤によって揉み洗いする薬品処理作業を終えたタコは、その後、蒸し器で蒸した後にpH10〜12程度のアルカリ水で煮沸する、蒸し・煮沸処理を行う。なお、アルカリ水に限らず酸性水で煮沸してもよい。この蒸し・煮沸処理によって、上記の加工用複合製剤の構成により厳密な色合いが異なるものの、鮮やかな赤の発色をした蒸し煮沸タコが得られる。なお、蒸す時間とボイルする時間の比は、90:10〜95:5であると、得られる蒸し煮沸タコの品質上よい。蒸し・煮沸処理全体の所要時間は2〜20分程度で望ましい赤い色合いとなる。なお、20分を超えて蒸し・煮沸処理をすると、元々水分含有量の多いタコから多くの水分が抜け出て歩留まりが悪くなってしまう場合がある。
【0030】
得られた蒸し煮沸タコは、その後冷蔵保存するか、再び冷凍保存して、蒸し煮沸タコとして出荷できる。この保存時において、上記処理成分による酸化防止効果が発揮されるため、1週間程度の冷蔵、又は冷凍保存では、発色した鮮やかな赤色を保持することが出来る。
【実施例】
【0031】
以下、この発明にかかる加工用複合製剤を実施した実施例を説明する。まず、用いた薬品について説明する。
【0032】
(処理成分)
・エリソルビン酸ナトリウム……扶桑化学工業(株)製
・アスコルビン酸ナトリウム……扶桑化学工業(株)製
・エリソルビン酸……扶桑化学工業(株)製
・アスコルビン酸……扶桑化学工業(株)製
(有機酸)
・コハク酸……扶桑化学工業(株)製
・L酒石酸……昭和化工(株)製
・フマル酸……扶桑化学工業(株)製
・リンゴ酸……磐田化学工業(株)製
・クエン酸……扶桑化学工業(株)製
(酸性リン酸化合物)
・ピロリン酸二水素二ナトリウム……燐化学工業(株)製(表中「ピロリン酸HNa」と略記する。)
・メタリン酸ナトリウム……太平化学工業(株)製:ウルトラポリン
(pH調整剤)
・リンゴ酸ナトリウム……扶桑化学工業(株)製
・フマル酸ナトリウム……扶桑化学工業(株)製
・コハク酸ナトリウム……扶桑化学工業(株)製
・L酒石酸ナトリウム……昭和化工(株)製
・クエン酸ナトリウム……扶桑化学工業(株)製
・無水酢酸ナトリウム……南海化学工業(株)製
・ピロリン酸四カリウム……大洋化学工業(株)製(表中「ピロリン酸K」と略記する。)
・ピロリン酸四ナトリウム……燐化学工業(株)製(表中「ピロリン酸Na」と略記する。)
(その他の成分)
・ピロ亜硫酸ナトリウム……神洲化学(株)製
・無水亜硫酸ナトリウム……神洲化学(株)製
・無水酢酸ナトリウム……南海化学工業(株)製
・硫酸アルミニウムカリウム……ラサ晃栄(株)製:ミョウバン(表中「ミョウバン」と略記する。)
・リン酸二水素ナトリウム……燐化学工業(株)製
・リン酸水素二ナトリウム……燐化学工業(株)製
・塩化ナトリウム……イヌイ(株)製
【0033】
それぞれの例において、処理するタコは水揚げ後に加熱せずに冷凍していたタコを自然解凍させた後、水洗いをして含有する砂を落とすとともに完全な解凍をし、一本一本の足を切り落としたものを用いた。これを5%塩化ナトリウム水溶液で満たした洗い機で10分間洗い、引き揚げた後に、個々の例の加工用複合製剤の溶液で満たした洗い機に投入し、10分間洗った。その後、蒸し・煮沸処理として、3分間蒸し器で蒸した後1分間ボイル槽で湯煮して、赤色に発色させた。なお、それぞれの加工用複合製剤の溶液のpHは、pH測定器((株)堀場製作所製:B−212)で測定した。
【0034】
それぞれの例において、発色させたタコを、十人の人間により目視し、全員が良好であると判断したものを○、半数以下の人間が、赤色の発色がくすんでいたり不十分であると判断したものを△、過半数が発色不十分と判断したものを×とし、特に発色が良好であると全員がと判断したものを◎とする官能試験をおこなった。
【0035】
また、発色後のタコを冷蔵環境で7日間保存し、赤色の発色の鮮やかさが保持されているか否かを目視で確認して酸化防止効果が発揮されているかを調べた。判断基準は上記の発色評価と同様とした。
【0036】
(実施例1)
2リットルの水に、処理成分としてエリソルビン酸ナトリウム7g、有機酸としてコハク酸を3g、pH調整剤としてピロリン酸四カリウムを2g、リン酸化合物としてメタリン酸ナトリウムを8g溶解させて、1重量%の加工用複合製剤溶液を作成した。この構成からなる加工用複合製剤のうち、処理成分が占める割合は35重量%である。また、加工用複合製剤溶液のpHは3.4であった。この加工用複合製剤を用いて上記の工程を行ったところ、ヌメリを十分に除去することができるとともに、蒸し・煮沸処理後に鮮やかな赤色の発色を得た。また、冷蔵環境で7日間保存した後も色の鮮やかさを保持し、酸化防止効果が発揮された。
【0037】
(実施例2)
実施例1のエリソルビン酸ナトリウムの代わりに同量のアスコルビン酸ナトリウムを用いて同様の試験を行った。加工用複合製剤溶液のpHは同様に3.4であり、実施例1と同様にヌメリを除去でき、蒸し・煮沸処理後は実施例1と同様の発色を得て、7日間保存後も退色が見られなかった。
【0038】
(実施例3)
実施例1のエリソルビン酸ナトリウムの代わりに、3.5gのエリソルビン酸ナトリウムと3.5gのアスコルビン酸ナトリウムを混合して用いて同様の試験を行ったところ、実施例1及び2と同様に、ヌメリ取り、発色、酸化防止効果が得られた。
【0039】
(実施例4,5)
実施例1,2において、それぞれコハク酸3gの代わりに酒石酸3gを用いて同様の試験をおこなった。それぞれの溶液のpHは3.2と3.1であった。この差は誤差の範囲と考えられる。実施例1,2とは発色の色合いが異なるが、同様のヌメリ取り効果、酸化防止効果が得られた。
【0040】
(実施例6〜31)
以下、処理成分としてエリソルビン酸ナトリウムを使用し、表1の組成である加工用複合製剤を調製して同様の試験を行った。また、それぞれの加工用複合製剤の1重量%水溶液のpHを表1に示す。このうち、実施例9,18は酸性成分として有機酸を使用していない。実施例11は酸性成分として有機酸を使用せず、酸性リン酸化合物のみを用いており、加工用複合製剤の合計量が15gであるため、用いる水を1.5リットルとしている。実施例17は酸性リン酸化合物を使用しなかった。また、実施例19,20は、酸性リン酸化合物としてメタリン酸ナトリウムではなく、ピロリン酸二水素二ナトリウムを用いた。さらに、実施例21,22は、有機酸を二種類使用し、一方を酒石酸とした。実施例23は、酸性成分としてメタリン酸ナトリウムと酒石酸のみを用いた。実施例25〜31は、メタリン酸ナトリウムの一部を、比率を変えて酒石酸に置換しつつ、クエン酸などのその他の成分を調整した。これらいずれの実施例も、蒸し・煮沸処理後の赤の色合いが異なる以外は、ヌメリ取り効果、酸化防止効果を得ることができた。なお、表中塩の化合物の表記に当たってはナトリウムを「Na」と、カリウムを「K」と略記する。また、蒸し・煮沸処理直後の色の評価を「発色評価」とし、7日間保存後の評価を「発色保持」として記載する。
【0041】
【表1】

【0042】
(実施例32〜37)
処理成分として、エリソルビン酸又はアスコルビン酸を使用し、表1の組成である加工用複合製剤を調製して同様の試験を行った。それぞれの加工用複合製剤の1重量%水溶液のpHと、試験結果を表1に示す。なお、実施例32と33,34と35、36と37とは、処理成分以外の構成は共通である。
【0043】
(実施例38〜41)
処理成分としてエリソルビン酸ナトリウムを使用して、表1の組成である加工用複合製剤を調製して同様の試験を行った。ただし実施例40のみは水を1.7リットルとしている。それぞれの加工用複合製剤の1重量%水溶液のpHと試験結果を表1に示す。
【0044】
(実施例42〜44)
処理成分としてエリソルビン酸ナトリウムを使用して、表1の組成である加工用複合製剤を調製して同様の試験を行った。ただし、実施例42は水を1.5リットル、実施例43は水を1.8リットル、実施例44は水を1.7リットルとしている。それぞれの加工用複合製剤の1重量%水溶液のpHと試験結果を表1に示す。
【0045】
(実施例45)
処理成分としてアスコルビン酸ナトリウムを使用して、表1の組成である加工用複合製剤を調製して同様の試験を行った。ただし、水を1.7リットルとしている。それぞれの加工用複合製剤の1重量%水溶液のpHと試験結果を表1に示す。
【0046】
(実施例46〜49)
処理成分として、エリソルビン酸ナトリウム(実施例46)、エリソルビン酸(実施例47)、アスコルビン酸ナトリウム(実施例48)、アスコルビン酸(実施例49)を選択し、それ以外の成分は共通として、表1の組成である加工用複合製剤を調製して同様の試験を行った。それぞれの加工用複合製剤の1重量%水溶液のpHと試験結果を表1に示す。
【0047】
(実施例50〜51)
処理成分としてエリソルビン酸ナトリウムを使用して、表1の組成である加工用複合製剤を調製して同様の試験を行った。ただし、実施例51は水を1.6リットルとしている。それぞれの加工用複合製剤の1重量%水溶液のpHと試験結果を表1に示す。なお、実施例50については、発色がやや白みを帯びたものとなった。
【0048】
<処理成分が不足した場合>
(比較例1〜4)
表2に記載の組成である前処理剤を調製して、同様の試験をおこなった。それぞれの前処理剤の1重量%水溶液のpHを表1に示す。このうち、比較例1,4は処理成分の含有量が20重量%であり、比較例2,3は30重量%である。いずれも、蒸し・煮沸処理後の発色は良好だったが、一週間後まで色の鮮やかさを保持することができず、酸化防止効果が不十分なものとなってしまった。この色の劣化は、処理成分が少ないほど顕著なものとなった。
【0049】
【表2】

【0050】
<酸性成分が無い場合>
(比較例5)
エリソルビン酸ナトリウム7gとピロリン酸四ナトリウム7gとからなる前処理剤を調製し、1.4リットルの水に溶解させた前処理剤水溶液を得た。この溶液のpHは9.6であった。この前処理剤溶液で実施例1と同様の薬品処理をしても、タコのヌメリが取れなかったため、ミョウバン水溶液を別途用意してヌメリを取る必要が生じてしまい、工程の短縮が出来なかった。また、薬品処理中にタコの色素が抜け落ちて前処理剤水溶液が茶色く染まってしまい、タコ自体の色は薄くなってしまった。
【0051】
<pHが規定範囲外>
(比較例6)
表2に記載の組成である前処理剤を調製して、2リットルの水に溶かして1重量%の水溶液としたところ、pHが5.1を上回った。この前処理剤溶液で薬品処理をしても、タコのヌメリが残ってしまったため、ミョウバン水溶液を別途用意してヌメリを取る必要が生じてしまい、工程の短縮が出来なかった。
【0052】
<処理成分をミョウバンのみでpH調整した場合>
(比較例7)
エリソルビン酸ナトリウムを7gとミョウバン7gとからなる前処理剤を調製し、1.4リットルの水に溶解させた前処理剤水溶液を得た。これらの溶液のpHは4.0であった。この前処理剤溶液を実施例1と同様に用いてタコの蒸し・煮沸処理を行ったところ、本来白い箇所も含めたタコ全体が小豆色に染まり、かつ、実施例よりも全体的に白っぽい色合いになった。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】従来の冷凍タコの処理工程を示すフロー図

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エリソルビン酸、アスコルビン酸、若しくはそれらのアルカリ金属塩、又はそれらの混合物からなる処理成分と、有機酸、酸性のリン酸化合物、又はそれらの両方からなる酸性成分とを含み、上記処理成分が全体に占める含有率が35重量%以上であり、1重量%水溶液としたときのpHが2.7以上5.1以下である、タコの加工用複合製剤。
【請求項2】
上記酸性成分としてメタリン酸ナトリウムを含有し、メタリン酸ナトリウムと上記処理成分との質量比が3/7以上である、請求項1に記載のタコの加工用複合製剤。
【請求項3】
上記酸性成分としてメタリン酸ナトリウム及び酒石酸を含有する、請求項1に記載のタコの加工用複合製剤。
【請求項4】
上記酸性成分としてメタリン酸ナトリウム及び酒石酸を含有し、メタリン酸ナトリウム及び酒石酸と上記処理成分との質量比が1.7/4以上であり、メタリン酸ナトリウムと酒石酸との質量比が2/15以上である請求項3に記載のタコの加工用複合製剤。
【請求項5】
解凍した蒸し・煮沸処理前のタコを、請求項1乃至4のいずれか1項に記載のタコの加工用複合製剤を水に溶解させてpHを2.7以上5.1以下に調整した水溶液により薬品処理して、ヌメリ取り効果と蒸し・煮沸処理後の発色効果と酸化防止効果とを発揮させる、蒸し・煮沸処理前のタコの前処理方法。
【請求項6】
請求項5の前処理方法で前処理を行った後に、蒸し・煮沸処理を行って赤色に発色させた蒸し煮沸タコ。

【図1】
image rotate