説明

タッチパネル装置および指示物判別方法

【課題】電極の配置間隔を大きく設定した場合でも、タッチ操作を行う指示物がペンおよび指のいずれであるかを判別する指示物判別処理の精度を確保することができるようにする。
【解決手段】送信電極3および受信電極4が格子状に配置されたパネル本体5と、受信電極4からの出力信号のタッチ操作に応じた変化量に基づく感度を電極交点ごとに算出する感度算出部11と、感度算出部で取得した感度に基づいてタッチ位置を検出するタッチ位置検出部12と、感度算出部で取得した感度に基づいてタッチ操作を行う指示物がペンおよび指のいずれであるかを判別する指示物判別部13と、を備え、指示物判別部は、タッチ位置検出部で取得したタッチ位置に応じて、感度算出部で取得した感度を補正する感度補正処理を行い、この感度補正処理で取得した感度に基づいて指示物を判別するものとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タッチ操作を行う指示物がペンおよび指のいずれであるかを判別する機能を備えたタッチパネル装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
タッチパネル装置は、パソコンや携帯情報端末の分野で広く普及しているが、このタッチパネル装置を、大画面の表示装置と組み合わせることで、多人数を対象にしたプレゼンテーションや講義で使用することができるようにした、いわゆるインタラクティブホワイトボードとして用いることができ、このような用途は、特に学校などの教育分野での利用が期待される。
【0003】
また、タッチパネル装置には、タッチ位置を検出する原理が異なる種々の方式があるが、例えば静電容量方式のように、指等の指示物によるタッチ操作に応じた静電容量の変化を検出するために多数の電極をパネル内に配設した構成のものでは、タッチ位置を求めるための演算量が、電極の本数が多くなるのに応じて増大する。このため、タッチパネル装置をインタラクティブホワイトボードとして用いると、タッチパネル装置の大型化に伴って電極の本数が増えるため、タッチ位置を求めるための演算量が大幅に増大する。
【0004】
このような演算量の増大に対して制御部の処理能力が不足すると、指等の指示物によるタッチ操作にタッチ位置の検出処理を追従させることができないため、例えばユーザが指示物を動かした際の指示物の軌跡に沿って線が描画される手書きモードで操作感が悪化するなどの不具合が生じる。このような問題に対して、制御部に高い処理能力を有するものを採用することが考えられるが、これには製造コストの大幅な上昇を招き、また処理速度を高めるにも限界がある。
【0005】
そこで、電極の配置間隔を大きくして電極の本数を削減することで制御部の演算負担を軽減することが考えられる。ところが、タッチ位置を検出する処理では、電極から出力される信号がタッチ操作に応じて変化することでタッチ位置を検出するようにしており、この信号変化量はタッチ位置が電極から離れていると小さくなるため、電極の配置間隔を大きくすると、タッチ位置検出の精度が低下するという問題が生じる。このような問題に関連して、タッチ操作に応じた信号の変化量を補正することで、タッチ位置検出の精度を向上させる技術が知られている(特許文献1参照)。
【0006】
また、描画色などの属性(機能)がペンと指とで異なるように設定してペンと指を使い分けることができるように構成すると、利便性を高めることができるが、これにはタッチ操作を行う指示物がペンおよび指のいずれであるかを判別する処理が必要となり、このような指示物判別に関連して、タッチ面に対する指示物の接触面積でペンと指とを判別する技術が知られている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平2−109117号公報
【特許文献2】特開平4−60715号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
さて、前記のように、制御部の演算負担を軽減するために、電極の配置間隔を大きくすると、タッチ位置検出の精度が低下するという問題が生じるが、この問題に関しては、前記の従来技術のように、信号補正により解決することができる。
【0009】
しかしながら、電極の配置間隔を大きくすることで、タッチ位置が電極から離れている場合にタッチ操作に応じた信号変化量が極端に小さくなると、指示物判別の精度を低下させるという別の問題も生じ、このような問題に関して前記の従来技術は有効な解決策とはならず、特にタッチパネル装置をインタラクティブホワイトボードとして用いた場合に、制御部の演算負担を十分に軽減するには、電極の配置間隔を指の太さに比較してかなり大きく設定する必要があるため、指示物判別の精度を確保することが難しいという問題があった。
【0010】
本発明は、このような従来技術の問題点を解消するべく案出されたものであり、その主な目的は、電極の配置間隔を大きく設定した場合でも、タッチ操作を行う指示物がペンおよび指のいずれであるかを判別する指示物判別処理の精度を確保することができるように構成されたタッチパネル装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のタッチパネル装置は、電極が格子状に配置されたパネル本体と、前記電極からの出力信号のタッチ操作に応じた変化量に基づく感度を電極交点ごとに算出する感度算出部と、前記感度算出部で取得した感度に基づいてタッチ位置を検出するタッチ位置検出部と、前記感度算出部で取得した感度に基づいてタッチ操作を行う指示物がペンおよび指のいずれであるかを判別する指示物判別部と、を備え、前記指示物判別部は、前記タッチ位置検出部で取得したタッチ位置に応じて、前記感度算出部で取得した感度を補正する感度補正処理を行い、この感度補正処理で取得した感度に基づいて指示物を判別する構成とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、タッチ位置に応じて感度が補正されるため、タッチ位置が電極から離れているか否かに関係なく、指示物を確実に判別することが可能になり、これにより電極の配置間隔を大きくしても指示物判別の精度を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本実施形態にかかるタッチパネル装置を示す全体構成図
【図2】受信電極4および受信部7の概略構成図
【図3】受信信号処理部21の概略構成図
【図4】タッチ位置検出部12で行われるタッチ位置検出処理の要領を説明する模式図
【図5】タッチ位置に応じた感度の変化状況と、この感度の変化状況を取得する要領を示す図
【図6】第1の感度補正処理で用いられる感度補正値テーブルを示す図
【図7】タッチ位置に応じた感度の変化状況を補正の前後で対比して示す図
【図8】第1の感度補正処理の要領を示す図
【図9】指示物判別部13で行われる指示物判別処理の要領を示す模式図
【図10】タッチ位置に応じた感度合計値の変化状況と、この感度合計値の変化状況を取得する要領を示す図
【図11】第2の感度補正処理で用いられる補正係数テーブルを示す図
【図12】補正係数テーブルで補正係数が設定された領域を示す図
【図13】タッチ位置に応じた感度合計値の変化状況を補正の前後で対比して示すとともに、この感度合計値の変化状況を取得する要領を示す図
【図14】タッチ位置に応じた感度合計値の変化状況を補正の前後で対比して示す図
【図15】制御部8で行われる処理の手順を示すフロー図
【発明を実施するための形態】
【0014】
前記課題を解決するためになされた第1の発明は、電極が格子状に配置されたパネル本体と、前記電極からの出力信号のタッチ操作に応じた変化量に基づく感度を電極交点ごとに算出する感度算出部と、前記感度算出部で取得した感度に基づいてタッチ位置を検出するタッチ位置検出部と、前記感度算出部で取得した感度に基づいてタッチ操作を行う指示物がペンおよび指のいずれであるかを判別する指示物判別部と、を備え、前記指示物判別部は、前記タッチ位置検出部で取得したタッチ位置に応じて、前記感度算出部で取得した感度を補正する感度補正処理を行い、この感度補正処理で取得した感度に基づいて指示物を判別する構成とする。
【0015】
これによると、タッチ位置に応じて感度が補正されるため、タッチ位置が電極から離れているか否かに関係なく、指示物を確実に判別することが可能になり、これにより電極の配置間隔を大きくしても指示物判別の精度を確保することができる。
【0016】
また、第2の発明は、前記タッチ位置検出部は、隣り合う2本の前記電極の間の領域の全体に渡って感度がタッチ位置に応じて概ね直線的に変化するように感度を補正する感度補正処理を行い、この感度補正処理で取得した感度に基づいてタッチ位置を算出する構成とする。
【0017】
これによると、隣り合う2本の電極の間の領域の全体に渡って感度がタッチ位置に応じて概ね直線的に変化するように感度が補正されるため、電極の配置間隔を大きくしてもタッチ位置検出の精度を確保することができる。
【0018】
この場合、感度の実測値ごとに補正値が設定された感度補正値テーブルを有し、この感度補正値テーブルを参照して感度の実測値に対応する補正値を取得してその補正値に置換することで感度を補正するようにするとよい。
【0019】
また、第3の発明は、前記指示物判別部は、前記タッチ位置検出部で取得したタッチ位置の周囲に位置する複数の電極交点ごとの感度を加算した感度合計値を所定のしきい値と比較して指示物を判別する構成とする。
【0020】
これによると、タッチ位置の周囲にある複数の電極交点ごとの感度を加算した感度合計値に基づいて指示物を判別するため、指示物判別の精度を高めることができる。
【0021】
また、第4の発明は、前記指示物判別部は、ペンの場合にタッチ位置に関係なく感度合計値が略一定になるように感度合計値を補正する構成とする。
【0022】
これによると、ペンの場合にタッチ位置に関係なく感度合計値が略一定となり、一方、指の場合にはタッチ位置に関係なくペンの場合より感度合計値が大きくなるため、1つのしきい値でペンと指とを確実に判別することができる。
【0023】
また、第5の発明は、前記指示物判別部は、前記タッチ位置検出部で取得したタッチ位置に対応する補正係数を感度に乗算することで感度を補正する構成とする。
【0024】
これによると、簡単に感度を補正することができるため、感度補正の演算負担を軽減することができる。
【0025】
この場合、基準となる電極交点に対する相対的なタッチ位置に応じて補正係数が設定された補正係数テーブルを有し、この補正係数テーブルを参照してタッチ位置に対応する補正係数を取得して感度を補正するようにするとよい。
【0026】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照しながら説明する。
【0027】
図1は、本実施形態にかかるタッチパネル装置を示す全体構成図である。このタッチパネル装置1は、ペンPや指Fによるタッチ操作が行われるタッチ面2を備え、互いに並走する複数の送信電極3と互いに並走する複数の受信電極4とが格子状に配置されたパネル本体5と、送信電極3に対して駆動信号を印加する送信部6と、送信電極3に印加された駆動信号に応答した受信電極4の応答信号を受信して、送信電極3と受信電極4とが交差する電極交点ごとの検出データを出力する受信部7と、この受信部7から出力される検出データに基づいてタッチ位置を検出すると共に送信部6および受信部7の動作を制御する制御部8とを備えている。
【0028】
このタッチパネル装置1は、大画面の表示装置と組み合わせることで、プレゼンテーションや講義に用いることができるようにした、いわゆるインタラクティブホワイトボードとして用いられ、特にここでは、プロジェクタ装置10と組み合わせて用いられ、パネル本体5のタッチ面2が、プロジェクタ装置10の投影画面を表示するスクリーンとなる。
【0029】
制御部8から出力されるタッチ位置情報は、パソコンなどの外部機器9に入力され、ここで生成した表示画面データがプロジェクタ装置10に出力される。これによりパネル本体5のタッチ面2上でユーザが指示物(ペンPや指F)で行ったタッチ操作に対応した画像がタッチ面2上に表示され、タッチ面2にマーカーで直接描画をするのと同様の感覚で所要の画像を表示させることができ、また表示画面に表示されたボタンなどを操作することができる。さらに、タッチ操作で描かれた画像を消去するイレーサを用いることもできる。
【0030】
送信電極3は、X方向に延在し、Y方向に所定の間隔をおいて配列されている。受信電極4は、Y方向に延在し、X方向に所定の間隔をおいて配列されている。この送信電極3および受信電極4は一般的な指の幅よりも広い同一の配置間隔(例えば20mm)で配置されており、その本数はパネル本体5のアスペクト比に応じて異なり、例えば送信電極3が60本、受信電極4が96本配置される。
【0031】
送信電極3と受信電極4とは、絶縁層を挟んで重なり合う態様で交差しており、この送信電極3と受信電極4とが交差する電極交点にはコンデンサが形成され、ユーザが指示物(ペンPや指F)でタッチ操作を行い、指示物がタッチ面2に接近あるいは接触すると、これに応じて電極交点の静電容量が実質的に減少することで、タッチ操作の有無を検出することができる。
【0032】
ここでは、相互容量方式が採用されており、送信電極3に駆動信号を印加すると、これに応答して受信電極4に充放電電流が流れ、この充放電電流が応答信号として受信電極4から出力され、このとき、ユーザのタッチ操作に応じて電極交点の静電容量が変化すると、受信電極4の充放電電流、すなわち応答信号が変化し、この変化量に基づいてタッチ位置が算出される。この相互容量方式では、受信部7で応答信号を信号処理して得られる検出データが、送信電極3と受信電極4とによる電極交点ごとに出力されるため、同時に複数のタッチ位置を検出する、いわゆるマルチタッチ(多点検出)が可能である。
【0033】
制御部8は、受信電極4からの出力信号のタッチ操作に応じた変化量に基づく感度を電極交点ごとに算出する感度算出部11と、感度算出部11で取得した感度に基づいてタッチ位置を算出するタッチ位置検出部12と、感度算出部11で取得した感度に基づいてタッチ操作を行う指示物がペンPおよび指Fのいずれであるかを判別する指示物判別部13と、を備えている。
【0034】
感度算出部11では、受信部7から出力される検出データがタッチ操作に応じて変化する際の変化量、すなわち受信部7から出力される検出データと、起動時などにおいて予めタッチ操作がない状態で取得した検出データとの差である感度を電極交点ごとに算出する。
【0035】
タッチ位置検出部12では、感度算出部11で取得した電極交点ごとの感度から所定の演算処理によってタッチ位置を求める。このタッチ位置検出処理は、タッチ面2の全面に渡って電極交点ごとの検出データの受信が終了する1フレーム周期ごとに行われ、タッチ位置情報がフレーム単位で外部機器9に出力される。外部機器9では、時間的に連続する複数のフレームのタッチ位置情報に基づいて、各タッチ位置を時系列に連結する表示画面データを生成して、プロジェクタ装置10に出力する。なお、マルチタッチの場合には、複数の指示物によるタッチ位置を含むタッチ位置情報がフレーム単位で出力される。
【0036】
指示物判別部13では、感度算出部11で取得される感度がペンPと指Fとで異なることを利用してペンPと指Fとを判別する。ペンPと指Fとではタッチ面2に対する接触面積が異なり、タッチ面2に対する接触面積が大きい指Fの場合にはペンPの場合よりも感度が大きくなり、この感度の違いに基づいてペンPと指とを判別することができる。
【0037】
ペンPは、タッチ操作時にパネル本体5のタッチ面2に押し当てられるペン先部P1と、ユーザが手で握る把持部P2とが、ともに導電性材料で形成されて互いに電気的に接続されており、ユーザがペンPを把持することで、ペン先部P1が把持部P2を介して人体と導通され、ユーザがペンPでタッチ操作を行うと、指Fの場合も同様に電極交点の静電容量が変化して、タッチ操作を検出することができる。
【0038】
ペンPと指Fとは、互いに異なる属性(手書きモード時の描画色など)に設定することで使い分けることができる。ペンPおよび指Fにそれぞれ設定される属性は、タッチパネル装置1に設けられた図示しない設定ボタンをユーザが操作することで指定することができるようにすればよい。
【0039】
また、ペンPは、単なる導電性材料で形成された、いわゆるスタイラスペンの他に、内部に電子部品を備えた、いわゆる電子ペンであってもよく、特にユーザが属性を設定するための操作スイッチと、その属性情報を制御部8に送信する回路を備えた構成とすると、ペンP側で属性を切り換えることができ、またペンPの識別情報を制御部8に送信する回路を備えた構成とすると、複数のペンPを異なる属性に設定して使い分けることもできる。
【0040】
図2は、受信電極4および受信部7の概略構成図である。各受信電極4には、受信電極4の充放電電流信号の受信部7への入力を断続するスイッチング素子SWが接続されている。受信部7は、スイッチング素子SWを介して受信電極4から入力される充放電電流信号に対して所要の信号処理を行う受信信号処理部21を備えている。各スイッチング素子SWは制御部8からの駆動信号に応じて個別にオン/オフ制御される。
【0041】
受信電極4およびスイッチング素子SWは、所定数(例えば24本)ごとにグループ化され、各グループに属するスイッチング素子SWの互いに対応するもの同士が並行してオン/オフ制御される。また、各グループごとに受信信号処理部21が設けられている。各グループではスイッチング素子SWが1つずつ順にオンとなるように制御され、残りのスイッチング素子SWはオフに制御されており、スイッチング素子SWをオンとすることで選択された1本の受信電極4の充放電電流信号が受信信号処理部21に入力される。
【0042】
このように、スイッチング素子SWのスイッチング動作が複数のグループ間で並行して行われるため、全ての受信電極4の充放電電流信号を受信するのに要する時間を短縮することができる。また、受信部7での充放電電流信号の処理をグループごとに分割して行うことができるため、ハードウエア構成の大型化を抑えることができる。
【0043】
図3は、受信信号処理部21の概略構成図である。この受信信号処理部21は、IV変換部31と、バンドパスフィルタ32と、絶対値検出部33と、積分部34と、サンプルホールド部35と、AD変換部36とを備えている。
【0044】
IV変換部31では、スイッチング素子SWを介して入力される受信電極4の充放電電流信号(アナログ信号)が電圧信号に変換される。バンドパスフィルタ32では、IV変換部31の出力信号に対して、送信電極3に印加される駆動信号の周波数以外の周波数成分を有する信号を除去する処理が行われる。絶対値検出部(整流部)33では、バンドパスフィルタ32の出力信号に対して全波整流が行われる。積分部34では、絶対値検出部33の出力信号を時間軸方向に積分する処理が行われる。サンプルホールド部35では、積分部34の出力信号を所定のタイミングでサンプリングする処理が行われる。AD変換部36では、サンプルホールド部35の出力信号をAD変換して検出データ(レベル信号)を出力する。
【0045】
(タッチ位置検出処理および第1の感度補正処理)
次に、タッチ位置検出部12で行われる、指示物によるタッチ位置を検出するタッチ位置検出処理と、このタッチ位置検出処理の精度を向上させるための第1の感度補正処理とについて説明する。
【0046】
図4は、タッチ位置検出部12で行われるタッチ位置検出処理の要領を説明する模式図である。タッチ位置検出部12では、感度算出部11で取得した電極交点ごとの感度および各電極交点の位置(座標)から補間法を用いてタッチ位置を算出する。これにより、送信電極3および受信電極4の配置間隔(20mm)より高い分解能(例えば1mm)でタッチ位置を検出することができる。
【0047】
特に本実施形態では、4×4、すなわちX方向およびY方向にそれぞれ4個ずつ並んだ、合計16個の電極交点の感度からタッチ位置を算出する。また、タッチ位置の演算では、各電極交点の感度を密度とみなして、質量分布の中心となる重心の位置をタッチ位置として求める方法(重心法)が採用され、各電極交点の感度をg[x][y]として、図4中に示す数式を用いて重心GのX方向位置GxとY方向位置Gyをそれぞれ求める。
【0048】
図5は、指Fによるタッチ位置(電極からの距離)に応じた感度の変化状況と、この感度の変化状況を取得する要領を示す図である。なお、この例は、送信電極3および受信電極4の配置間隔が指Fより大きい場合を示す。
【0049】
図5(B)の点線矢印で示すように、基準となる受信電極4から隣の受信電極4に向けて指Fを所定間隔(1mm)で移動させながら、基準となる電極交点の検出データを取得して、この検出データに基づいて感度を求めると、図5(A)に示すようなタッチ位置に応じた感度特性のグラフが得られる。
【0050】
この図5(A)のグラフに示されるように、感度は、基準となる受信電極4からタッチ位置が遠ざかるのに従って低下し、特に2つの受信電極4間の中間位置の手前側で急激に低下した後、概ね横ばい状態となっており、感度がタッチ位置(電極からの距離)と比例しない。このため、感度算出部11で得られた電極交点ごとの感度をそのまま用いると、タッチ位置検出処理の精度が低下する。
【0051】
ここで、送信電極3および受信電極4の配置間隔が小さい場合には、感度が急激に低下する領域のみとなり、感度が低下したままの横ばい状態が発生しないため、タッチ位置に応じた感度の変化が大きく、タッチ位置検出処理の精度が低下することはない。一方、送信電極3および受信電極4の配置間隔が大きくなると、感度が横ばい状態となる領域も含まれ、この領域ではタッチ位置に応じた感度の変化が小さくなるため、タッチ位置検出処理の精度が低下する。
【0052】
そこで、本実施形態では、以下に詳しく説明するように、タッチ位置検出部12において、感度算出部11で得られた感度を、タッチ位置に応じた理想的な感度に補正する第1の感度補正処理が行われ、この感度補正処理で取得した補正済みの感度に基づいてタッチ位置検出処理が行われるようにしている。
【0053】
図6は、第1の感度補正処理で用いられる感度補正値テーブルを示す図である。図7は、指Fによるタッチ位置(電極からの距離)に応じた感度の変化状況を補正の前後で対比して示す図である。図8は、第1の感度補正処理の要領を示す図である。
【0054】
タッチ位置検出部12では、図6に示す感度補正値テーブルを参照して感度の補正が行われる。この感度補正値テーブルでは、感度の実測値ごとに補正値が設定されており、感度算出部11で得られた感度の実測値に対応する補正値に置き換えることで感度の補正が行われる。
【0055】
この感度補正値テーブルは、図7中に破線で示すように、急激な落ち込みと横ばい状態を示す感度特性を、図7中に実線で示すように、タッチ位置に応じて概ね直線的に変化する理想的な感度特性に変更するものであり、図6に示すように、感度の実測値が大きい領域および小さい領域では補正幅が小さく、感度の実測値が中間の領域では補正幅が大きくなる。
【0056】
この感度補正値テーブルを作成するには、評価用の所定の大きさの擬似指を、図5(B)に示した例と同様に、基準となる受信電極4から隣の受信電極4に向けて所定間隔(1mm)で移動させながら、基準となる電極交点の検出データを取得して、各タッチ位置ごとに感度の実測値を求める。この感度の実測値は、図7中に破線で示す特性となる。また、各タッチ位置での感度の理想値を算出する。この感度の理想値は、図7中に実線で示す特性となる。そして、各タッチ位置での感度の実測値と理想値とを比較して、実測値に対応する理想値を補正値として感度補正値テーブルに設定する。
【0057】
また、第1の感度補正処理では、図8に示すように、感度が最も大きい電極交点と、その周囲にある複数の電極交点の感度を補正する。特に本実施形態では、感度が最も大きい電極交点を中心として、3×3、すなわちX方向およびY方向にそれぞれ3個ずつ並んだ、合計9個の電極交点の感度を補正する。
【0058】
このようにして第1の感度補正処理が行われると、図4に示したように、4×4の合計16個の電極交点の感度に基づいてタッチ位置検出処理が行われる。ここで、タッチ位置に最も近い電極交点で感度が最も大きくなり、この感度が最も大きい電極交点を中心とした9個の電極交点の感度が第1の感度補正処理で補正されており、タッチ位置検出処理の対象となる16個の電極交点は、第1の感度補正処理の対象となる9個の電極交点を含むものとなる。
【0059】
なお、本実施形態では、感度が最も大きい電極交点、すなわちタッチ位置に最も近い電極交点とその周囲の電極交点の感度のみを補正するようにしたが、全ての電極交点の感度を補正することも可能である。もっとも、タッチ位置検出処理の精度を向上させるには、タッチ位置の近傍に位置する電極交点の感度のみを補正すればよく、これにより制御部8の処理負荷を軽減することができる。
【0060】
(指示物判別処理および第2の感度補正処理)
次に、指示物判別部13で行われる、タッチ操作を行う指示物がペンPと指Fのいずれであるかを判別する指示物判別処理と、この指示物判別処理の精度を向上させるための第2の感度補正処理について説明する。
【0061】
図9は、指示物判別部13で行われる指示物判別処理の要領を示す模式図である。指示物判別部13では、タッチ位置検出部12で取得したタッチ位置の近傍に位置する複数の電極交点ごとの感度に基づいて指示物を判別する。特に本実施形態では、タッチ位置の周囲の2×2、すなわちタッチ位置を挟んでX方向およびY方向にそれぞれ2個ずつ並んだ、合計4個の電極交点ごとの感度を加算して感度合計値を求め、この感度合計値を所定のしきい値と比較して、感度合計値がしきい値より大きい場合には指Fと判断し、しきい値より小さい場合にはペンと判断する。
【0062】
図10は、本実施形態の第2の感度補正処理を行わない場合のペンPおよび指Fによるタッチ位置(電極からの距離)に応じた感度合計値の変化状況と、この感度合計値の変化状況を取得する要領を示す図である。図10(B)の点線矢印で示すように、基準となる送信電極3および受信電極4から中間位置までの領域で、ペンPおよび指Fを所定間隔(1mm)で移動させながら、4つの電極交点の検出データを取得し、この検出データに基づいて各電極交点ごとの感度を求め、さらにこれを加算して感度合計値をタッチ位置ごとに求めると、図10(A)に示す感度合計値のグラフが得られる。
【0063】
この図10(A)のグラフに示されるように、感度合計値は、ペンPおよび指Fのいずれの場合でも、基準となる受信電極4の近傍でタッチ位置が最も大きく、基準となる受信電極4からタッチ位置が遠ざかるのに従って小さくなり、特に途中で急激に低下した後、概ね横ばい状態となる。一方、ペンPと指Fとでは、タッチ面に接触する面積が異なるため、感度が異なり、特に指Fの場合にはペンPの場合より感度合計値の変化量が大きくなり、ペンPおよび指Fの各場合の感度合計値の変化領域が互いに重なる。このため、1つのしきい値でペンと指Fとを判別することができない。
【0064】
ここで、送信電極3および受信電極4の配置間隔が小さい場合には、指Fの場合に感度がしきい値より大きくなる領域のみとなるため、指示物判別処理の精度が低下することはない。一方、送信電極3および受信電極4の配置間隔が大きくなると、指Fの場合に感度がしきい値より小さくなる領域も含まれるため、指示物判別処理の精度が低下する。
【0065】
そこで、本実施形態では、以下に詳しく説明するように、指示物判別部13において、タッチ位置検出部12で取得したタッチ位置に応じて、感度算出部11で取得した感度を補正する第2の感度補正処理が行われ、この第2の感度補正処理で取得した補正済みの感度に基づいて指示物判別処理が行われるようにしている。
【0066】
図11は、第2の感度補正処理で用いられる補正係数テーブルを示す図である。図12は、補正係数テーブルで補正係数が設定された領域を示す図である。図13は、ペンPによるタッチ位置(電極からの距離)に応じた感度合計値の変化状況を補正の前後で対比して示すとともに、この感度合計値の変化状況を取得する要領を示す図である。
【0067】
指示物判別部13では、図11に示す補正係数テーブルを参照して感度合計値の補正が行われる。この補正係数テーブルでは、タッチ位置ごとに補正係数(%)が設定されており、タッチ位置検出部12で取得したタッチ位置に対応する補正係数を、感度算出部11で得られた感度の実測値に基づく感度合計値に乗算することで感度合計値の補正が行われる。
【0068】
図11に示す補正係数テーブルでは、図12に示すように、基準となる電極交点から、その電極交点とX方向およびY方向に隣り合う電極交点との中間位置までの領域を対象にして、所定の間隔で設定されたタッチ位置ごとに補正係数が設定されている。特にここでは、送信電極3および受信電極4の配置間隔を20mmとして、電極交点の位置(X0,Y0)から中間位置(X10,Y10)までの領域を対象にして、1mm間隔で補正係数が設定されている。
【0069】
このように補正係数テーブルでは、X方向およびY方向に並んだ4個の電極交点を頂点とした矩形領域をX方向およびY方向にそれぞれ2等分した1/4の領域のうち、電極交点N1を基準とした領域Iのみの補正係数が設定されているが、領域II,III,IV内にタッチ位置がある場合には、それぞれ電極交点N2,N3,N4を基準とした相対的な座標でタッチ位置を換算することで、領域Iのみを対象とした補正係数テーブルのみで、全てのタッチ位置に対応した補正係数を取得することができる。
【0070】
また、図11に示す補正係数テーブルでは、図13(A)に示すように、ペンPの場合に、基準となる電極交点の位置(X0,Y0)からX方向およびY方向にタッチ位置が遠ざかるのに応じて感度合計値が小さくなる特性が、図13(B)に示すように、タッチ位置に関係なく感度合計値が略一定になる特性に変更される。基準となる電極交点の位置では補正係数が100となる、すなわち補正は行われず、基準となる電極交点からX方向およびY方向にタッチ位置が遠ざかるのに応じて補正係数が大きくなる。
【0071】
図11に示す補正係数テーブルを作成するには、図13(C)に示すように、基準となる電極交点からX方向およびY方向にペンPを所定間隔(1mm)で移動させながら、4つの電極交点の検出データを取得し、この検出データに基づいて各電極交点ごとの感度を求め、さらにこれを加算して感度合計値をタッチ位置ごとに求めると、図13(A)に示すグラフが得られる。この実測による各タッチ位置での感度合計値と、基準となる電極交点の位置での感度合計値とを比較して、各タッチ位置での感度合計値が、基準となる電極交点の位置での感度合計値と等しくなるように補正係数が設定される。
【0072】
図14は、ペンPおよび指Fによるタッチ位置(電極からの距離)に応じた感度合計値の変化状況を補正の前後で対比して示す図である。図11に示す補正係数テーブルに設定された補正係数を用いて感度合計値を補正すると、ペンPの場合には、タッチ位置に関係なく、感度合計値は略一定値に補正される。一方、指Fの場合には、補正によって、感度合計値の変化領域の幅が小さくなり、感度合計値はタッチ位置に関係なくペンPの場合よりも常に大きな値となり、ペンPの場合の感度合計値と重ならない。このため、しきい値を適切に設定することで、ペンPの場合には感度合計値が常にしきい値より小さくなり、また指Fの場合には感度合計値が常にしきい値より大きくなり、1つのしきい値でペンPと指Fとを判別することができる。
【0073】
図15は、制御部8で行われる処理の手順を示すフロー図である。まず、1フレーム分のスキャンが行われて(ST101)、全ての電極交点ごとの検出データを取得すると、感度算出部11にて全ての電極交点ごとの感度を求め、これに基づいてタッチ操作があったか否かを判定し(ST102)、タッチ操作があったものと判定されると、タッチ位置検出処理に進み、ここではタッチ位置検出部12にて感度補正値テーブルを参照して、感度が最も高い電極交点を中心とした9個の電極交点の感度を補正する処理(第1の感度補正処理)を行い(ST103)、その補正済みの感度に基づいてタッチ位置を算出する(ST104)。
【0074】
次に、指示物判別処理に進み、ここでは指示物判別部13にてまず、タッチ位置の周囲の4個の電極交点ごとの感度を加算して感度合計値を算出する(ST105)。ついで、補正係数テーブルを参照して、タッチ位置に対応する補正係数を感度合計値に乗じることで感度合計値を補正する処理(第2の感度補正処理)を行う(ST106)。そして、補正された感度合計値がしきい値より小さいか否かを判定し(ST107)、補正された感度合計値がしきい値より小さい場合には指示物をペンPと判断し、ペンPに設定された属性で描画などの所要の処理が行われる(ST108)。一方、補正された感度合計値がしきい値より大きい場合には指示物を指Fと判断し、指Fに設定された属性で描画などの所要の処理が行われる(ST109)。
【0075】
なお、本実施形態では、指示物判別部13において、タッチ位置の周囲に位置する複数の電極交点ごとの感度を加算した感度合計値で指示物を判別するものとし、この感度合計値を、感度算出部11で取得した感度の実測値から求めるものとしたが、タッチ位置検出部12でタッチ位置検出処理の精度を向上させるために行われる第1の感度補正処理で取得した感度の補正値から感度合計値を求めることも可能である。
【0076】
また、本実施形態では、指示物判別部13において、タッチ位置の周囲に位置する複数の電極交点ごとの感度を加算した感度合計値で指示物を判別するものとしたが、複数の電極交点ごとの感度の平均値で指示物を判別することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明にかかるタッチパネル装置は、電極の配置間隔を大きく設定した場合でも、タッチ操作を行う指示物がペンおよび指のいずれであるかを判別する指示物判別処理の精度を確保することができる効果を有し、指示物判別の機能を備えたタッチパネル装置などとして有用である。
【符号の説明】
【0078】
1 タッチパネル装置
3 送信電極
4 受信電極
5 パネル本体
11 感度算出部
12 タッチ位置検出部
13 指示物判別部
P ペン
F 指

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極が格子状に配置されたパネル本体と、
前記電極からの出力信号のタッチ操作に応じた変化量に基づく感度を電極交点ごとに算出する感度算出部と、
前記感度算出部で取得した感度に基づいてタッチ位置を検出するタッチ位置検出部と、
前記感度算出部で取得した感度に基づいてタッチ操作を行う指示物がペンおよび指のいずれであるかを判別する指示物判別部と、を備え、
前記指示物判別部は、前記タッチ位置検出部で取得したタッチ位置に応じて、前記感度算出部で取得した感度を補正する感度補正処理を行い、この感度補正処理で取得した感度に基づいて指示物を判別することを特徴とするタッチパネル装置。
【請求項2】
前記タッチ位置検出部は、隣り合う2本の前記電極の間の領域の全体に渡って感度がタッチ位置に応じて概ね直線的に変化するように感度を補正する感度補正処理を行い、この感度補正処理で取得した感度に基づいてタッチ位置を算出することを特徴とする請求項1に記載のタッチパネル装置。
【請求項3】
前記指示物判別部は、前記タッチ位置検出部で取得したタッチ位置の周囲に位置する複数の電極交点ごとの感度を加算した感度合計値を所定のしきい値と比較して指示物を判別することを特徴とする請求項1または請求項2に記載のタッチパネル装置。
【請求項4】
前記指示物判別部は、ペンの場合にタッチ位置に関係なく感度合計値が略一定になるように感度合計値を補正することを特徴とする請求項3に記載のタッチパネル装置。
【請求項5】
前記指示物判別部は、前記タッチ位置検出部で取得したタッチ位置に対応する補正係数を感度に乗算することで感度を補正することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載のタッチパネル装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図14】
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【図15】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−242989(P2012−242989A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−111105(P2011−111105)
【出願日】平成23年5月18日(2011.5.18)
【特許番号】特許第4897983号(P4897983)
【特許公報発行日】平成24年3月14日(2012.3.14)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】