説明

タッチパネル

【課題】タッチペンによる入力が可能な静電容量方式のタッチパネルを提供する。
【解決手段】タッチパネル1は静電容量方式であり、電極6、7の形成された一対の基板2、3を、電極面が対向するよう配置するとともに、電極6、7間に液晶4を配向させて構成される。液晶4は、電極6、7間に印加された電場により配向を安定化するよう、正または負の誘電異方性を有する液晶が選択されたものであり、基板2への押圧によって生じる液晶4の配向の乱れを静電容量の変化として検知し、基板2への押圧を検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タッチパネルに関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話やスマートフォンやPDA(パーソナルデジタルアシスタント)などの電子機器では、画面の大型化への要求が大きく、スイッチやテンキーなどの入力装置を配置できる領域が少なくなっている。また、液晶ディスプレイ等の表示素子に表示された画像を参照しながら表示画像に触れ、分かりやすく情報の入力ができる情報入力方法の実現が求められている。
こうしたことから、最近タッチパネル付きの表示装置への要求が高まっている。
【0003】
タッチパネルは、上述した液晶ディスプレイなどの表示素子の上に配置され、操作者が指やペンなどで操作面に触れた場合、そのタッチ位置を検出する入力装置の総称である。接触位置検出の方式としては、抵抗膜方式や静電容量方式などがある。
抵抗膜方式は、表面に透明電極の配設された2枚の基板を、互いの透明電極が対向するように離間して配置する。そして、指やペンで基板を押下することで接触し通電する構造となっている。抵抗膜方式タッチパネルでは、基板を押して対向する電極間をショートさせる構造のため、摩耗などを生じて耐久性に乏しい。
【0004】
静電容量方式は、操作者の指先とタッチパネル内の電極との間の静電容量の変化を検知して指のタッチ位置を検出する方式であり、携帯電子機器などにも好適な方式である。そして、この方式において近年盛んに使用されているのが、投影型静電容量方式である。
投影型静電容量方式は、人間が導体であり、操作者の指がグランドとして機能することを利用する。すなわち、タッチパネルの基板上に配置されたセンシング用の電極に指が近づくと、指と電極との間に容量が形成され、そうした変化を制御回路等により検知する。このとき、容量変化によって、操作者の指の接近を感知するため、直接に指がセンシング用の電極に触れる必要は無い。
【0005】
このような投影型静電容量方式では、センシングのためにセンシング用の透明電極のパターニングが必要となる。最近では、透明基板の一の面にX方向伸びた複数のX電極と、Y方向に伸びた複数のY電極とを設け、それらを格子状に配置する技術が盛んに用いられている。
特許文献1には、ガラスなどの透明基板上に複数のX側透明導電線路(X電極)と複数のY側透明導電線路(Y電極)とを、絶縁膜を介し、互いに絶縁して配置した静電容量方式のタッチパネル技術が開示されている。
【0006】
こうした構造のタッチパネルを用い、センシングのための、まず複数のX電極に対し所定のタイミングでセンシング用の電圧を順次印加し、続いてY電極に対し所定のタイミングで電圧を印加する。こうすることにより、各X電極とY電極の間に所定の静電容量がそれぞれ所定のタイミングで順次形成される。
【0007】
このような状態の下で、グランドとして機能する操作者の指がタッチパネルにタッチすると、指のタッチ位置近傍のみ、静電容量が変化する。そして、この静電容量の変化を検知し、指のタッチ位置(座標)を検出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭60−75927号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
以上のように、投影型静電容量方式のタッチパネルでは、操作者の指の接触などを検知して、そのタッチ位置を検出することができるが、非電導性のタッチペンを入力手段として使用できないという問題を有する。
【0010】
すなわち、操作者である人間は導体であり、その指はグランドとして機能する。しかし、非電導性のタッチペンの場合、こうした機能を果たすことはできない。また、操作者が手袋などを付けて入力操作しようとする場合、グランドとしての指とタッチパネルとの間の距離が離れており、上述した容量変化を起こさせるだけの影響をタッチパネルに与えることができない場合がある。その場合、期待したタッチ入力ができないことになる。
【0011】
本発明は、以上のような、非電導性のタッチペンや手袋を付けた状態での指によって入力ができないという問題に鑑みてなされたものである。
すなわち、本発明の目的は、非電導性のタッチペンによる入力が可能な静電容量方式のタッチパネルを提供することにある。
【0012】
本発明の他の目的および利点は、以下の記載から明らかとなるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の態様は、電極の形成された一対の基板を、電極面が対向するよう配置するとともに、基板間に挟持された液晶を有する静電容量方式のタッチパネルであって、
液晶は、電極間で配向され、電極間に印加された電場により配向が安定化するよう、正または負の誘電異方性を有するように選択された液晶であり、
基板への押圧によって生じる液晶の配向の乱れによる容量変化を検知し、基板への押圧を検出することを特徴とするものである。
【0014】
本発明の態様において、液晶は正の誘電異方性を有し、電極間の液晶は垂直配向することが好ましい。
【0015】
または、本発明の態様において、液晶は負の誘電異方性を有し、電極間の液晶は平行配向することが好ましい。
【0016】
本発明の態様において、電極の形成された一対の基板のうちの一方は、電極がグランドに接続されていることが好ましい。
【0017】
本発明の態様において、一対の基板のうち、一方の基板は第1の方向に延在する第1の電極が形成されており、他方の基板は第1の方向と交差する第2の方向に延在する第2の電極が形成されており、
基板への押圧によって生じる液晶の配向乱れによる、第1の電極と第2の電極の交差部の容量変化を検知して、基板への押圧を検出するよう構成されることが好ましい。
【0018】
または、本発明の態様において、複数の第1の電極のうち隣接する電極の隙間および複数の第2の電極のうち隣接する電極の隙間が、10μm以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、非電導性のタッチペンによる入力が可能な静電容量方式のタッチパネルが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の第1の実施形態であるタッチパネルの概略構成を説明する断面図である。
【図2】(a)および(b)は、本発明の第1の実施形態であるタッチパネルの電極構造を模式的に説明する平面図である。
【図3】本発明の第1の実施形態であるタッチパネルの基板間の液晶の初期配向状態を模式的に説明する図である。
【図4】タッチパネルをタッチペンで押した際の液晶の配向変化を説明する図である。
【図5】本発明の第3の実施形態であるタッチパネルの概略構成を説明する断面図である。
【図6】(a)および(b)は、本発明の第3の実施形態であるタッチパネルの電極構造を模式的に説明する平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1は、本発明の第1の実施形態であるタッチパネルの概略構成を説明する断面図である。
【0022】
本発明の第1の実施形態であるタッチパネル1は、自己容量方式(Self方式)のタッチパネルである。自己容量方式は、タッチパネルの検出用の電極とアースとの間に形成された静電容量の変化を検知して指などのタッチ位置を検出する方式である。
【0023】
図1に示すように、タッチパネル1は、離間して対向配置される一対の基板を有する。一対の基板のうち、操作者側(フロント側)に配置されるのがフロント基板2であり、その後ろ側(リア側)に配置されるのがリア基板3である。
【0024】
フロント基板2とリア基板3はそれぞれ、透光性の基板であって、例えば、ガラス基板や、PET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム、PC(ポリカードネート)フィルムなどの使用が可能である。ガラス基板の場合、厚さを0.3mm〜3.0mmとすることが可能である。
対向する一対のフロント基板2とリア基板3との間には液晶4が挟持されている。この液晶4は正の誘電異方性を有するネマチック液晶であり、その機能については後に説明する。
【0025】
図1に示すように、フロント基板2とリア基板3との間には、液晶4を囲むようシール材5が配設されており、フロント基板2とリア基板3とが離間して配置されるよう互いを固定している。
【0026】
図1に示すように、フロント基板2とリア基板3は液晶4を挟持する表面にそれぞれの電極6、7を有する。
電極6、7はいずれも同様の透光性の電極(以下、透明電極とも言う)であり、タッチパネル1の操作面に相当する領域に形成される。
電極6、7は、可視光に対する高い透過率と導電性を有する透明な材料を用いて構成される。例えば、ITO(酸化インジウム錫、Indium Tin Oxide)、IZO(Indium Zinc Oxide)、ZnO(酸化亜鉛)を用いて構成することができる。
【0027】
図2は、本発明の第1の実施形態であるタッチパネルの電極構造を模式的に説明する平面図である。図2(a)は、リア基板3上の電極7のパターンの概要を示す平面図であり、図2(b)は、フロント基板2上の電極6のパターンの概要を示す平面図である。
【0028】
図2(a)および図2(b)に示すように、電極6と電極7はそれぞれパターニングがなされている。図2(b)に示すように、フロント基板2上の電極6は、タッチパネルの操作面の全域をカバーするよう、ベタ板状にパターニングされている。一方、リア基板3上の電極7は、例えば、図2(a)に示すように、複数個の独立した電極形状とし、それぞれが長方形状にパターニングされている。尚、リア基板3上の電極7の数がここで示したものに限定されるわけではない。電極7の形状や数は、操作面の大きさと要求される検出位置の精度に応じて決定することができる。
【0029】
図2(a)に示すように、リア基板3上の電極7の各電極パターンには引き出し配線8が接続されている。引き出し配線8については、ITOの他、より低抵抗なMo、Mo合金、Al、Al合金、Au、Au合金などの金属材料を用いて構成することができる。
【0030】
図2(a)および図2(b)に示すように、フロント基板2とリア基板3との対応する端部には、フロント基板2上の電極6とリア基板3上の配線接続部12とを接続するための接続部9が設けられている。
【0031】
リア基板3上の電極7の各電極パターンと接続部9とからは引き出し配線8が引き出されている。それぞれの引き出し配線8は端部が、リア基板3上の一方の端に設けられた配線接続部12に集められる。そして、配線接続部12には、フレキシブルフィルム10が接続されている。タッチパネル1は、電極6、7への電圧印加を制御し、静電容量を監視する回路部(図示されない)を有するが、この回路部と電極6,7との接続はフレキシブルフィルム10を介してなされる。尚、フレキシブルフィルム10上に直接、センサーICを搭載して回路部を構成することも可能である。
【0032】
回路部を構成するセンサーICとしては市販のものを利用することが可能である。タッチパネル1は自己容量方式であり、例えば、アナログデバイスズ社(Analog Devices社)のAD7147や、サイプレス社(Cypress社)のCY8C20466などを使用することができる。
【0033】
次に、本実施の形態のタッチパネル1について、フロント基板2とリア基板3との間に挟持される液晶4の機能とタッチ位置検出の機構を説明する。
図3は、本発明の第1の実施形態であるタッチパネルの基板間の液晶の初期配向状態を模式的に説明する図である。尚、初期配向状態とは電圧無印加状態時の配向状態のことをいう。図3は、タッチパネル1の模式的な断面図となっている。
【0034】
フロント基板2とリア基板3とによって挟持された液晶4は、上述のように、正の誘電異方性を有するネマチック液晶である。液晶4は、電圧無印加時に、含有する液晶分子11の分子長軸方向がフロント基板2およびリア基板3と垂直になるように、垂直配向となっている。液晶4の垂直配向は、フロント基板2およびリア基板3の電極6、7の上層に設けられた垂直配向層(図示されない)によって実現される。
【0035】
図4は、タッチパネルをタッチペンで押した際の液晶の配向変化を説明する図である。
図4に示すように、タッチパネル1をタッチペン(図示されない)により、矢印13に示す押し下げ方向で押すと、フロント基板3が変形する。この変形に伴って、液晶4の液晶分子11は、横方向(フロント基板2およびリア基板3と平行な方向)へ移動する。液晶分子11は、図4に模式的に示されるように、楕円体と見なすことができ、長軸方向が移動方向に向く。すなわち、タッチペンの押し下げによって変形が生じた場合、その変形箇所の近傍では、液晶分子11は、初期の垂直配向状態から平行配列状態に変化する。
【0036】
液晶4は正の誘電異方性を有し、液晶分子11は、分子長軸方向に直交する誘電率ε⊥が分子長軸方向の誘電率ε〃より小さくなっている。したがって、液晶分子11が、初期状態である垂直配向の状態から平行配列状態に変化すると、電極7と電極6の間の液晶4の誘電率は小さくなる。その結果、タッチペンによる変形箇所の近傍では静電容量が小さくなる。こうした、静電容量の変化を検知することにより、タッチペンの接触を検出し、ひいてはタッチ位置を検出する。
【0037】
ここで、液晶4に正の誘電異方性液晶を用いた場合、電極6、7間に電場が印加されると、液晶分子11は分子長軸を電場方向と平行な方向に向けようとする。その結果、液晶4は、垂直配向の状態を取ろうとすることになる。
すなわち、液晶4に誘電異方性が正の液晶を用いて、初期配向状態を垂直配向とすれば、タッチペンによる押し下げ変形により液晶分子11は平行配列状態になる。次いで電極6、7間への電場の印加により、液晶分子11の配向変化が起こり、液晶分子11の配向状態を初期の垂直配向状態に戻すことができる。
【0038】
特に垂直配向するネマチック液晶の場合、例えば上述のような外部からの押圧に伴う配向変化または配向乱れが生じた場合、初期配向の復帰に時間を要することが知られている。配向乱れとして残存することもある。したがって、電極6、7間への電場の印加により、液晶4の配向状態を初期の垂直配向の状態に素早く戻すことができれば、タッチパネルとして非常に有効な方法となる。
【0039】
フロント基板2とリア基板3上の電極6、7に電場を印加する方法については、もともと回路部(図示されない)から電圧印加により電極6、7間にセンシング用に電場が印加されており、これを利用することができる。そのため、電極6、7に印加される電場のレベルは、液晶分子11の配向変化を可能とするレベルが選択される。尚、センシング用の電場以外に別途、配向整列のための液晶駆動用に電場を印加することも可能である。
【0040】
タッチペンによる押し下げ変形により液晶分子11が平行配列状態になっても、電場の印加により瞬時に初期の垂直配向状態に復帰させることが可能であり、タッチペンによる接触動作を素早く、高い時間分解能を持って検出することが可能である。
【0041】
以上より、液晶4については、タッチペンで押したときの配向変化により、静電容量の変化が大きくなるよう、誘電異方性はできる限り大きいことが望ましく、+1以上の値であることが好ましい。
また、タッチパネル1のフロント基板2の厚さは、変形によって容易に割れが生じない範囲内で、できる限り薄くすることが好ましく0.8mm以下とすることが好ましい。
【0042】
次に、本発明の第1の実施形態であるタッチパネルの製造方法について、図1、図2(a)および図2(b)を参照しながら説明する。
【0043】
フロント基板2とリア基板3はそれぞれ、透光性の基板であり、厚さ0.55mmのガラス基板を用いた。
このガラス基板表面にスパッタ法によりITOを成膜し、図2に示す形状の電極6、7と引き出し配線8のパターニングを実施した。
【0044】
次に、これらガラス基板上に、接続部9と配線接続部12を除いて、絶縁膜組成物を転写法により印刷した。次いで、焼成を行い、酸化ケイ素(SiO)と酸化チタン(TiO)からなる絶縁膜を形成した。
【0045】
次に、これらガラス基板に垂直配向膜組成物を転写法により印刷し、焼成してポリイミド系の垂直配向膜を形成した。そして、フロント基板2とリア基板3を得た。
尚、垂直配向膜を形成後、ラビング処理することも可能である。ラビング処理により、液晶4の配向変化方向を規制するよう、液晶4に数度程度のプレチルト角を付与することができる。
【0046】
次に、フロント基板2とリア基板3の一方にシール材5を印刷し、所望の基板間距離(以下、ギャップとも言う)を得るためのスペーサを散布し、両基板2、3の重ね合わせを行った。こうして、フロント基板2とリア基板3とを用い、空セル状態のタッチパネルを製造した。
尚、ギャップは約10μmとした。また、フロント基板2とリア基板3との接続部9には、シール材内に導電粒子を混入させた異方性導電部材を用いた。
【0047】
次に、空セル状態のタッチパネルに真空注入法により正の誘電異方性を有する液晶4を注入した。
【0048】
次に、フレキシブルフィルム10をリア基板3上の配線接続部12に取り付け、フレキシブルフィルム10によって、アナログデバイスズ社(Analog Devices社)のセンサーICであるAD7147との接続を実施した。
【0049】
このとき、フロント基板2(電極6)にはグランドとして接地電位となるように配線をした。
【0050】
こうして製造された自己容量方式のタッチパネル1は、タッチペンでフロント基板2に触れ、これを押すと、グランドとなっているフロント基板2に変形が生じる。その結果、対向するフロント基板2とリア基板3との間の液晶4の配向が乱れ、容量変化が発生する。この容量変化を検出することにより、タッチ位置を検出することができる。
【0051】
製造されたタッチパネル1を所定の液晶表示装置の前面に置き、タッチペンによる入力操作を実施したところ、タッチパネルとしての動作が確認された。したがって、タッチパネル1では、従来の静電容量方式のタッチパネルで問題となっていたタッチペンによる入力が可能であることがわかった。
【0052】
次に、本発明の第2の実施形態であるタッチパネルについて説明する。
本発明の第2の実施形態であるタッチパネルは、上述のタッチパネル1と同様、自己容量方式のタッチパネルである。したがって、上述のタッチパネル1と同様の構造を有する。
【0053】
相違する点は、液晶として負の誘電異方性を有する液晶を使用することと、フロント基板およびリア基板上の垂直配向層の代わりに、水平配向層を使用したことである。その結果、液晶の初期配向状態は、フロント基板およびリア基板に対して水平な方向である。尚、水平配向層は、ポリイミド系の水平配向膜をラビング処理して形成することができる。
【0054】
このような、本発明の第2の実施形態であるタッチパネルを所定の液晶表示装置の前面に置き、タッチペンによる入力操作を実施したところ、上述のタッチパネル1に比べ感度が劣るものの、タッチパネルとしての動作が確認された。したがって、本発明の第2の実施形態であるタッチパネルでは、従来の静電容量方式のタッチパネルで問題となっていたタッチペンによる入力が可能であることがわかった。
【0055】
次に、本発明の第3の実施形態であるタッチパネルについて説明する。
図5は、本発明の第3の実施形態であるタッチパネルの概略構成を説明する断面図である。
【0056】
本発明の第3の実施形態であるタッチパネル100は、相互静電容量方式(Mutual方式)のタッチパネルである。相互容量方式は、2つの電極の間に形成された静電容量の変化を検知して指などのタッチ位置を検出する方式である。
【0057】
図5に示すように、タッチパネル100は、離間して対向配置される一対の基板を有する。上述のタッチパネル1と同様、操作者側(フロント側)に配置されるのがフロント基板102であり、その後ろ側(リア側)に配置されるのがリア基板103である。
【0058】
フロント基板102とリア基板103はそれぞれ、透光性の基板であって、例えば、ガラス基板や、PET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム、PC(ポリカードネート)フィルムなどの使用が可能である。ガラス基板の場合、厚さを0.3mm〜3.0mmとすることが可能である。
対向する一対のフロント基板102とリア基板103との間には液晶104が挟持されている。この液晶104は、上述のタッチパネル1と同様、正の誘電異方性を有するネマチック液晶であり、その機能についても上述のタッチパネル1と同様である。
【0059】
図5に示すように、フロント基板102とリア基板103との間には、液晶104を囲むようシール材105が配設されており、フロント基板102とリア基板103とが離間して配置されるように互いを固定している。
【0060】
図5に示すように、フロント基板102とリア基板103は液晶104を挟持する表面にそれぞれの電極106と電極107とを有する。
電極106、107はいずれも同様の透光性の電極(以下、透明電極とも言う)であり、タッチパネル100の操作面に相当する領域に形成される。
【0061】
電極106、107は、可視光に対する高い透過率と導電性を有する透明な材料を用いて構成される。例えば、ITO(酸化インジウム錫、Indium Tin Oxide)、IZO(Indium Zinc Oxide)、ZnO(酸化亜鉛)を用いて構成することができる。
【0062】
図6は、本発明の第3の実施形態であるタッチパネルの電極構造を模式的に説明する平面図である。図6(a)は、リア基板103上の電極107のパターンの概要を示す平面図であり、図6(b)は、フロント基板102上の電極106のパターンの概要を示す平面図である。
【0063】
図6(a)および図6(b)に示すように、電極106と電極107はそれぞれ所望のパターニングがなされている。図6(b)に示すように、フロント基板102上では、X方向に伸びる4つの短冊状の電極106が設けられている。一方、図6(a)に示すように、リア基板103上では、Y方向に伸びる3つの短冊状の電極107が設けられている。
【0064】
尚、フロント基板102およびリア基板103の上の電極106、107の数と形状はここで示したものに限定されるわけではない。電極106と電極107の数は、操作面の大きさと要求される検出位置の精度に応じて決定することができる。そして、それぞれ短冊状である電極106と電極107の幅は、挟持する液晶104と作る容量を考慮して最適化することができる。この場合、最適化は液晶104の誘電率と電極106、107間の距離(液晶104の厚さに相当する)を考慮してなされる。
【0065】
図6(a)に示すように、リア基板103上の電極107の各電極パターンには引き出し配線108が接続されている。引き出し配線108については、ITOの他、より低抵抗なMo、Mo合金、Al、Al合金、Au、Au合金などの金属材料を用いて構成することができる。
【0066】
図6(a)および図6(b)に示すように、フロント基板102とリア基板103との対応する端部には、フロント基板102上の電極106とリア基板103上の配線接続部112とを接続するための接続部109が設けられている。
【0067】
リア基板103上の電極107の各電極パターンと接続部109とからは引き出し配線108が引き出されている。それぞれの引き出し配線108は端部が、リア基板103上の一方の端に設けられた配線接続部112に集められる。配線接続部112には、図5に示すように、フレキシブルフィルム110が接続されている。タッチパネル100は、電極106、107への電圧印加を制御し、静電容量を監視する回路部(図示されない)を有するが、この回路部と電極106、107との接続はフレキシブルフィルム110を介してなされる。尚、フレキシブルフィルム110上に直接、センサーICを搭載して回路部を構成することも可能である。
【0068】
回路部を構成するセンサーICとしては市販のものを利用することが可能である。タッチパネル100は相互静電容量方式(Mutual方式)であり、例えば、アバゴ社(AVAGO社)のAMRI−5000や、ソロモン社(Solomon社)のSSD2521などを使用することができる。
【0069】
本実施の形態のタッチパネル100において、正の誘電異方性を有するネマチック液晶である液晶104の機能は、上述のタッチパネル1と同様である。タッチパネル100は、フロント基板102上でX方向に伸びる電極106と、リア基板103上でY方向に伸びる電極107とによって電極のマトリクスが形成される。タッチペン等のタッチにより液晶の初期配向に乱れが生じた場合、タッチ位置近傍の、マトリクスの交差部で形成される液晶104の容量が変化する。この容量変化を検知することにより、タッチ位置を検出する。
【0070】
また、上述のタッチパネル1と同様、電極106と電極107との間に電場を印加することにより、液晶分子104の配向状態を初期の垂直配向状態に戻すことができる。
【0071】
フロント基板102とリア基板103上の電極106、107に電場を印加する方法については、上述のタッチパネル1と同様とすることができる。すなわち、回路部(図示されない)からは、電圧印加により電極106、107間にセンシング用に電場が印加されており、これを利用することができる。尚、センシング用の電場以外に別途、配向整列のための液晶駆動用に電場を印加することも可能である。
【0072】
タッチペンによる押し下げ変形により液晶104の配向乱れが生じても、電場の印加により瞬時に初期の垂直配向状態に復帰させることが可能であり、タッチペンによる接触動作を素早く、高い時間分解能を持って検出することが可能である。
【0073】
以上より、液晶104については、タッチペンで押したときの配向変化により、静電容量の変化が大きくなるよう、誘電異方性はできる限り大きいことが望ましく、+1以上の値であることが好ましい。
また、タッチパネル100のフロント基板102の厚さは、変形によって容易に割れが生じない範囲内で、できる限り薄くすることが好ましく0.8mm以下とすることが好ましい。さらに、各基板上に形成される電極106、107は、それぞれ複数個の短冊状の電極を有するが、平面的に隣接する短冊状の電極間の隙間は10μm以下とすることが好ましい。10μm以下とすることで、タッチペンの押圧によって隙間に配向乱れが生じたとしても、両側の電極の磁場によって隙間の液晶分子も再配向させることができ、容量変化を顕著に検出することができる。また、隙間を5μm以下にすることがさらに好ましい。
【0074】
次に、本発明の第3の実施形態であるタッチパネルの製造方法については、電極106と電極107のパターニング形状を変更すること以外、タッチパネル1の場合とほぼ同様の方法で製造することができる。以下、図5および図6を参照しながら、概要を説明する。
【0075】
フロント基板102とリア基板103はそれぞれ、透光性の基板であり、厚さ0.55mmのガラス基板を用いた。
このガラス基板表面にスパッタ法によりITOを成膜し、図6(a)および図6(b)に示す形状の電極106、107と引き出し配線108のパターニングを実施した。尚、フロント基板102上に形成した複数の電極106において、隣接する電極106間の隙間は5μmとした。また、リア基板103上に形成した複数の電極107において、隣接する電極107間の隙間は10μmとした。
【0076】
次に、これらガラス基板上に、接続部109と配線接続部112を除いて、絶縁膜組成物を転写法により印刷した。次いで、焼成を行い、酸化ケイ素(SiO)と酸化チタン(TiO)からなる絶縁膜を形成した。
【0077】
次に、これらガラス基板に垂直配向膜組成物を転写法により印刷し、焼成してポリイミド系の垂直配向膜を形成した。そして、フロント基板102とリア基板103を得た。
尚、垂直配向膜を形成後、ラビング処理することも可能である。ラビング処理により、液晶4の配向において数度程度のプレチルト角を付与することが可能となる。
【0078】
次に、フロント基板102とリア基板103の一方にシール材105を印刷し、所望の基板間距離(以下、ギャップとも言う)を得るためのスペーサを散布し、両基板102、103の重ね合わせを行った。こうして、フロント基板102とリア基板103とを用い、空セル状態のタッチパネルを製造した。
尚、ギャップは約10μmとした。また、フロント基板102とリア基板103との接続部109には、シール材内に導電粒子を混入させた異方性導電部材を用いた。
【0079】
次に、空セル状態のタッチパネルに真空注入法により正の誘電異方性を有する液晶104を注入した。
【0080】
次に、フレキシブルフィルム110をリア基板103上の配線接続部112に取り付け、フレキシブルフィルム110によって、ソロモン社(solomon社)のセンサーICであるSSD2521との接続を実施した。
【0081】
こうして製造された相互静電容量方式(Mutual方式)のタッチパネル100は、タッチペンでフロント基板102に触れ、これを押すと、フロント基板102に変形が生じる。その結果、タッチ位置近傍の液晶104の配向が乱れ、電極106と電極107との交差部で形成される液晶104の容量が変化する。この容量変化を検出することにより、タッチ位置を検出することができる。
【0082】
製造されたタッチパネル100を所定の液晶表示装置の前面に置き、タッチペンによる入力操作を実施したところ、タッチパネルとしての動作が確認された。したがって、タッチパネル100では、従来の静電容量方式のタッチパネルで問題となっていたタッチペンによる入力が可能であることがわかった。
【0083】
尚、本発明は上記各実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内において、種々変形して実施することができる。
【0084】
例えば、上記の各実施の形態のタッチパネルでは、タッチパネルとしてのみ機能させることを説明したが、部分的に液晶表示装置として機能させることも可能である。例えば、正の誘電異方性の液晶を用いた場合、タッチパネルとして機能させる領域では液晶を垂直配向とする。そして、液晶表示部装置として機能させる領域では液晶を平行配向させる。基板上にはそれぞれ、偏光板などの必要な光学手段を設ける。そして、それぞれの領域に電場が印加された時、タッチパネル領域では液晶が初期配向状態を維持しようとし、液晶表示領域では液晶が配向変化して垂直配向状態となる。
【0085】
また、シール材でタッチパネルの面内をタッチパネル領域と液晶表示領域とに区画し、それぞれの領域で正負の異なる誘電異方性の液晶を注入し、初期配向状態を両領域とも同様とすることで上述の目的を実現することも可能である。
【符号の説明】
【0086】
1、100 タッチパネル
2、102 フロント基板
3、103 リア基板
4、104 液晶
5、105 シール材
6、7、106、107 電極
8、108 引き出し配線
9、109 接続部
10、110 フレキシブルフィルム
11 液晶分子
12、112 配線接続部
13 矢印(押し下げ方向)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極の形成された一対の基板を、電極面が対向するよう配置するとともに、前記基板間に挟持された液晶を有する静電容量方式のタッチパネルであって、
前記液晶は、前記電極間で配向され、前記電極間に印加された電場により配向が安定化するよう、正または負の誘電異方性を有するように選択された液晶であり、
前記基板への押圧によって生じる前記液晶の配向の乱れによる容量変化を検知し、前記基板への押圧位置を検出することを特徴とするタッチパネル。
【請求項2】
前記液晶は正の誘電異方性を有し、前記電極間の前記液晶は垂直配向することを特徴とする請求項1に記載のタッチパネル。
【請求項3】
前記液晶は負の誘電異方性を有し、前記電極間の前記液晶は平行配向することを特徴とする請求項1に記載のタッチパネル。
【請求項4】
前記電極の形成された一対の基板のうちの一方は、前記電極がグランドに接続されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のタッチパネル。
【請求項5】
前記一対の基板のうち、一方の基板は第1の方向に延在する複数の第1の電極が形成されており、他方の基板は前記第1の方向と交差する第2の方向に延在する複数の第2の電極が形成されており、
前記基板への押圧によって生じる前記液晶の配向乱れによる、前記第1の電極と前記第2の電極の交差部の容量変化を検知して、前記基板への押圧を検出するよう構成されたことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のタッチパネル。
【請求項6】
前記複数の第1の電極のうち隣接する電極の隙間および前記複数の第2の電極のうち隣接する電極の隙間が、10μm以下であることを特徴とする請求項5に記載のタッチパネル。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2012−79135(P2012−79135A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−224406(P2010−224406)
【出願日】平成22年10月1日(2010.10.1)
【出願人】(000103747)オプトレックス株式会社 (843)
【Fターム(参考)】