説明

タリウムの流入および流出測定のための組成物および方法

本発明は、細胞内のイオンチャネル活性検出のための方法に関する。本方法は、イオンチャネルを持つ細胞に添加緩衝液を提供することを含む。添加緩衝液は、少なくとも一つのタリウム指示薬(環境感受性発光色素など)および生理的濃度の塩素イオンを含む。本方法は、細胞に刺激緩衝液を提供することをさらに含み、ここで刺激緩衝液はタリウム(タリウムイオンなど)を含む。刺激緩衝液の提供により、イオンチャネルを通してのタリウムの細胞への流入が起こる。刺激緩衝液の提供後、細胞内の色素の発光(蛍光など)が検出される。色素の発光は、タリウムの有無で変化し得る。本方法は、イオンチャネルを通してのタリウムの流入または流出を測定するために使用できる。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照:
この出願は、2007年10月15日出願の米国出願番号60/979,958に対して優先権を主張し、その開示はその全体を参照することにより本明細書に組み込まれる。
【0002】
発明の分野
本発明は、細胞内のイオンチャネル活性検出のための方法に関する。本方法は、細胞に添加緩衝液を提供し、刺激緩衝液を細胞に提供することを含み、ここで当該添加緩衝液は少なくとも一つの環境感受性タリウム指示薬(発光色素など)および塩素イオンを含み、当該刺激緩衝液はタリウムを含む。刺激緩衝液の提供により、イオンチャネルを通してのタリウムの細胞への流入が起こる。刺激緩衝液の提供後、細胞内でタリウム指示薬の発光(蛍光など)が検出され、ここで色素の発光はタリウムの有無で変化し得る。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
イオンチャネルのハイスループット・スクリーニング(HTS)(HCSなど)は、自動化パッチクランプ機器の効率により、現在制限されている。カルシウム指示薬BTC AMエステルを負荷したクローン細胞株のカリウムチャネル活性の代理指示薬として、タリウム流入を使用することは、現在確立されている(Weaver et al., Journal of Biomolecular Screening 2004; 9(8): 671-677(非特許文献1))。今日まで、イオンチャネルのモニタリングのための分析にはタリウム(I)を使用しており、これは選択的に開放カリウムチャネル(Hille, J. Gen. Physiol. 1973; 61:. 669-686(非特許文献2))に入ってBTCに結合し、カリウムチャンネル活性の光学読み出しが得られる。この方法は、化合物ライブラリーのHTSモードで試験された薬剤で、イオンチャネルの活性化および/または阻害を研究するために使用できる。
【0004】
しかし現在の方法には、大きな欠点がある。すなわち、塩化タリウムは難溶性で約4.5 mM以上の濃度で溶液から析出する。このように、データを得るためには、現在の方法に使用されている緩衝液は、TlClが溶液から析出するのを防ぐために基本的に塩素を含まないことが必要である。そのため現在の方法では、培養下細胞が正常に成長する緩衝液(塩素を含む緩衝液など)の洗浄および除去の追加的段階が必要となる。さらに、これらの分析では塩素が存在しないため、これらの分析は生理的条件に近似していないと見られる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Weaver et al., Journal of Biomolecular Screening 2004; 9(8): 671-677
【非特許文献2】Hille, J. Gen. Physiol. 1973; 61:. 669-686
【発明の概要】
【0006】
発明の要約
本発明は、細胞内のイオンチャネル活性検出のための方法に関する。本方法は、イオンチャネルを通してのタリウムの流入または流出を測定するために使用できる。本方法は一般に、細胞に添加緩衝液を提供し、刺激緩衝液を細胞に提供することを含み、ここで当該添加緩衝液は少なくとも一つの環境感受性タリウム指示薬(蛍光色素などの発光色素など)および塩素(塩素イオンなど)を含み、当該刺激緩衝液はタリウムを含む。添加緩衝液は、生理的条件の塩素イオンを含み得る。刺激緩衝剤の提供により、イオンチャネルを通してのタリウムの細胞への流入が起こり得る。刺激緩衝剤の提供後、細胞内で色素の発光(蛍光など)が検出され、ここで色素の発光はタリウムの有無で変化し得る。
【0007】
一態様において、細胞内のイオンチャネル活性を検出するための方法が提供される。本方法は、a)イオンチャネルを持つ細胞を提供すること、b)細胞に添加緩衝液を提供し、当該添加緩衝液はタリウム指示薬および生理的濃度の塩素イオンを含むこと、c)細胞に刺激緩衝液を提供し、ここで刺激緩衝液はタリウムを含み、刺激緩衝液の提供によりイオンチャネルを通してのタリウムの細胞への流入が起こること、d)タリウム指示薬を検出することを含む。本発明のある方法は、さらに検出されたタリウムレベルを定量化することを含む。例えば、タリウムレベルは、タリウム流入に反応するタリウム指示薬の少なくとも一つの光学特性(強度、極性、周波数、または光学密度など)を測定することにより決定できる。検出方法は光学顕微鏡法、共焦点顕微鏡法、蛍光顕微鏡法または分光光度法があり得る。
【0008】
別の態様では、細胞中のイオンチャネル活性の検出方法が提供され、これにはa)細胞を添加緩衝液と接触させること(ここで細胞はイオンチャネルを含み、添加緩衝液はタリウム指示薬および生理的濃度の塩素イオンを含む)、b)刺激緩衝液を細胞に提供すること(ここで刺激緩衝液はタリウムを含み、刺激緩衝液を提供することにより、イオンチャネルを通しての細胞へのタリウム流入が起こる)、c)タリウム指示薬を検出することを含む。
【0009】
また別の態様では、細胞中のイオンチャネル活性の検出方法が提供され、これにはa)細胞にタリウムを負荷すること(ここで細胞はイオンチャネルを含む)、b)溶液を細胞に提供すること(ここで溶液はタリウム指示薬および生理的濃度の塩素イオンを含む)、c)イオンチャネルを通してのタリウムの流入を生じるように細胞のイオンチャネルを刺激すること、d)タリウム指示薬を検出することを含む。本方法はさらに、過剰のタリウムを除去するための細胞の洗浄を含み得る。本方法で使用される細胞のイオンチャネルは、タリウム指示薬に不透過性であり得る。
【0010】
本発明の方法は、カリウムイオンチャネル、受容体に連結したイオンチャネル、チャネル連結型受容体、およびイオントランスポーターを含むさまざまなタイプのイオンチャネルの分析に使用できる。イオンチャネルは、リガンドまたは電位依存性のイオンチャネル、伸展活性化カチオンチャネル、または選択的または非選択的カチオンチャネルであり得る。
【0011】
本発明の方法は、細菌、酵母、植物および動物細胞(哺乳動物細胞など)を含むさまざまなタイプの細胞の分析に使用され得る。細胞は、神経、心臓細胞、がん細胞、平滑筋細胞、または不死化細胞であり得る。細胞はカリウムチャネルを含み得る。イオンチャネルはタリウムイオンに対して透過性であり得る。
【0012】
さらに別の態様では、本発明は添加緩衝液を提供し、これにはタリウム指示薬を含む。本発明の実施には多くのタイプのタリウム指示薬が使用できる。タリウム指示薬は、タリウム(タリウムの細胞外レベルを検出するための細胞または緩衝液内タリウムなど)と結びつくことのできる親水性または疎水性化合物で、タリウムの有無で変化する光学特性を持ち得る。例えばタリウム指示薬は、タリウムイオンと結びついた時に蛍光の増加を示すことができ、またタリウム指示薬はタリウムイオンと結びついた時に、細胞内の光学密度の変化を示すことができる。タリウム指示薬は環境感受性蛍光色素または非蛍光化合物(タリウムと結びついて沈殿またはヨウ化物、臭化物、およびクロム酸塩などの着色生成物を形成する化合物など)であり得る。タリウム指示薬は、タリウム感受性分析で25%以上の蛍光強度変化を示す蛍光化合物であり得る。タリウム感受性分析で陽性反応を示し(実施例3参照)、本発明の実施に使用し得る化合物には、一価または二価のカチオンに感受性のある蛍光化合物(Zn2+またはCa2+指示薬など)が含まれる。タリウム感受性分析に陽性反応を示す例示的化合物は、キサンテン部分(FluoZin 1、FluoZin 2、FluoZin 3、FluoZin 4、Red Fluo-4FF、マグネシウムグリーン、フェングリーン、RhodZin-3、またはその誘導体もしくは塩など)、クマリン部分(BTCまたはAPTRA-BTCまたはその誘導体もしくは塩など)、ベンゾフラン部分(Mag-Fura Redまたはその誘導体もしくは塩など)、ナフタレン部分、またはクラウンエーテル部分を含み得る。タリウム指示薬は、タリウムイオン存在下、蛍光強度の減少を示すことができる(ANTS、Fluo-4、Fluo-3、PBFI、フェングリーン、APTRA-BTCまたはMag-Fura Red、またはその誘導体もしくは塩など)、またはタリウムイオンの存在下で蛍光の増加を示すことができる(マグネシウムグリーン、Fluo-4FF、FluoZin-1またはFluoZin-2、RhodZin-3、またはその誘導体もしくは塩など)。一部の実施形態では、タリウム指示薬はANTS、Fluo-4、Fluo-3、PBFI、フェングリーン、マグネシウムグリーン、Mag-Fura Red、Fluo-4FF、FluoZin-1、FluoZin-2、RhodZin-3、またはその誘導体もしくは塩であり得る。
【0013】
タリウム指示薬はアセトキシメチルエステル部分を含み得る。例えば、タリウム指示薬は、ANTS、Fluo-4、Fluo-3、PBFI、フェングリーン、マグネシウムグリーン、Mag-Fura Red、Fluo-4FF、FluoZin-1、RhodZin-3、FluoZin-2から成る群より選択された化合物のアセトキシメチル(AM)エステル誘導体であり得る。
【0014】
提供された方法は、生理的濃度(約2 mMを超える、または約5 mM〜約20 mM、または約20 mM〜約100 mM、または約50 mM〜約150 mMなど)の塩素イオンを含む添加緩衝液を使用できる。塩素源は、NaClまたはKClなどの塩の形でもよい。
【0015】
提供された方法は、タリウムを含む刺激緩衝液を使用できる。タリウムは塩の形でもよく、添加緩衝液に可溶性であり得る。例えば、タリウム塩はTl2SO4、Tl2CO3、TlCl、TlOH、TlOAc、またはTlNO3であり得る。刺激緩衝液はタリウムを約4.5 mM未満、または約4.0 mM未満、または約3.0 mM未満含むことができ、またはタリウム濃度は約0.1〜約2.0 mMの範囲であり得る。特定の実施形態では、刺激緩衝液はタリウム(タリウムイオンなど)を約0.1 mM〜2 mMの濃度で含み、添加緩衝液は塩素イオンを約10 mM〜約150 mMの濃度で含み得る。他の実施形態では、タリウム濃度は約2 mM〜約5 mMであり、添加緩衝液は、約10 mM〜約150 mMの濃度の塩素イオンを含む。さらに他の実施形態では、タリウム濃度は約5 mM〜約20 mMであり、添加緩衝液は、約10 mM〜約150 mMの濃度の塩素イオンを含む。
【0016】
細胞は任意に、細胞に添加緩衝液が提供された後に洗浄してもよい(過剰のタリウム指示薬を除去するためなど)。特定の実施形態では、細胞は洗浄されず、添加緩衝液に消光剤を添加することがある。この場合、消光剤は細胞透過性でないことがある。消光剤の例には、タートラジン、アマランス、アシッドレッド37、コンゴレッド、トリパンブルー、ブリリアントブラック、またはこれらの消光剤の組み合わせが含まれる。
【0017】
本発明の方法は、イオンチャネルを刺激(イオンチャネルに結合するリガンド、チャネル連結型受容体、または電子刺激など)で刺激することが含まれ得る。刺激は、GIRKカリウムイオンチャネルを活性化してタリウムを流入させることができるGタンパク質共役受容体アゴニストであり得る。刺激は代わりにまたはさらに、ニコチン、アセチルコリン、ムスカリン、カルバミリン、またはGIRKカリウムイオンチャネル活性化剤でもよい。刺激は、イオンチャネルの脱分極を生じる組成物(イオノフォア、バリノクミシン、またはカリウム塩など)、あるいはチャネルロドプシン、ハロロドプシン、または量子ドットナノ結晶を含む組成物であり得るかまたはこれを含み得る。
【0018】
さらに別の態様では、細胞内のイオンチャネルの活性(タリウム流入または流出など)を検出するためのキットが提供される。特定のキット(タリウムイオン流入検出用キットなど)は、添加緩衝液(ここで添加緩衝液はタリウム指示薬および生理的濃度の塩素イオンを含む)、および刺激緩衝液(ここで刺激緩衝液はタリウムを含み、刺激緩衝液は、イオンチャネルを通しての細胞へのタリウム流入を生じさせる)を含み得る。特定のキット(タリウムイオン流出検出用キット)は、タリウム添加溶液(ここで本溶液はタリウムを含む)、およびタリウム指示薬および生理的濃度の塩素イオンを含む溶液(緩衝液など)を含み得る。
【0019】
また別の態様では、細胞内のイオンチャネルの活性を検出するための溶液は、a)タリウム指示薬、b)生理的濃度の塩素イオン、およびc)タリウムを含む。溶液のタリウム濃度は< 4.5 mMまたは約0.1 mM〜約4 mM、または約0.1 mM〜約2 mMであり得る。溶液の塩素イオン濃度は約10 mM〜約150 mMまたは約50 mM〜約150 mMである。
【0020】
本発明は、緩衝液の少なくともいくつかが生理的濃度の塩素イオンを含む、イオンチャネルのモニタリング方法を提供することにより、現在のタリウム流入および流出分析に関する問題を解決する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】テトラサイクリン誘導プロモーターの制御下、hERGカリウムイオンチャネル遺伝子でトランスフェクトされた細胞のタリウム流入を示す。hERG遺伝子でトランスフェクトされ、hERG遺伝子の発現を促進するためにテトラサイクリンで誘導された細胞は、タリウム流入を示した。誘導されなかったトランスフェクト細胞は、タリウム流入を示さなかった(下の曲線)。
【図2】FLUXORタリウムNW検出キット(Invitrogen Corporation、カリフォルニア州カールズバッド)を使って96ウェルプレートで測定されたhERG活性を示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
発明の詳細な説明
本発明を詳細に説明する前に、当然のことながら、この発明は具体的な組成物またはプロセス段階に限定されない。この明細書および添付の特許請求の範囲では、文脈から明らかにそうでないと分かる場合を除いて、単数形「a」「an」および「the」は複数の言及を含むことに注目すべきである。「約」という用語は、数値を表す時に使われた時は、文脈から明らかにそうでないと分かる場合を除いて、その数値の± 15%の範囲を含むことにも注目すべきである。
【0023】
本発明は、細胞内のイオンチャネル活性検出のための方法に関する。本明細書では、「細胞」という用語は、一つ以上の細胞を意味することを意図している。添加および刺激緩衝液が細胞に適用できるならば、細胞は任意の環境中にあってよい。一つの実施形態では、細胞はインビトロ環境にあり、本方法は周知の細胞培養技術を使用して実施される。より具体的な実施形態では、細胞は細胞培養懸濁液中にある。別の具体的な実施形態では、細胞は細胞付着培養中にある。
【0024】
本発明の方法は、細胞がタリウムに対して透過性のイオンチャネルを持つ/発現するならば、任意の細胞で実施できる。イオンチャネルの例には、カリウムイオンチャネル、受容体に連結したイオンチャネル(GIRKなど)、およびチャネル連結型受容体(GPCRなど)およびイオントランスポーター(グルタミン酸トランスポーターなど)を含むがこれに限定されない。細胞は通常はイオンチャネルを持つまたは発現するか、またはイオンチャネルは周知のトランスフェクションおよび転換技術を使用して導入され得る。天然レベルのイオンチャネルを発現している細胞(非遺伝子操作細胞など)の分析のため、および実施者がイオンチャネルを含めるよう変更された細胞(遺伝子操作細胞など)の分析のために方法が提供されている。
【0025】
本方法は、チャネルがタリウムに対して透過性であるならば、特定のタイプのイオンチャネルに限定されない。このように、本方法で使用され得るイオンチャネルのタイプには、リガンドまたは電位依存性、伸展活性化カチオンチャネル、選択的または非選択的カチオンチャネルが含まれるが、これに限定されない。
【0026】
リガンド依存性非選択的カチオンチャネルのタイプには、アセチルコリン受容体、AMPA、カイニン酸、およびNMDA受容体などのグルタミン酸受容体、5-ヒドロキシトリプタアミン依存性受容体チャネル、ATP依存性(P2X)受容体チャネル、ニコチン性アセチルコリン依存性受容体チャネル、バニロイド受容体、リアノジン受容体チャネル、IP3受容体チャネル、細胞内cAMPによりインサイチューで活性化されるカチオンチャネル、細胞内cGMPによりインサイチューで活性化されるカチオンチャネルが含まれるが、これに限定されない。
【0027】
電位依存性イオンチャネルのタイプには、Ca2+、K+およびNa+チャネルが含まれるがこれに限定されない。チャネルは外因的または内因的に発現され得る。チャネルは天然または遺伝子操作細胞株の両方で安定的または一時的に発現され得る。
【0028】
K+チャネルのタイプには、KCNQ1(KvLOT1)、KCNQ2、KCNQ3、KCNQ4、KCNQ5、HERG、KCNE1(IeK、MinK)、Kv1.5、Kir 3.1、Kir 3.2、Kir 3.3、Kir 3.4、Kir 6.2、SUR2A、ROMK1、Kv2.1、Kv1.4、Kv9.9、Kir6、SUR2B、KCNQ2、KCNQ3、GIRK1、GIRK2、GIRK3、GIRK4、h1K1、KCNA1、SUR1、Kv1.3、hERG、細胞内カルシウム活性化K+チャネル、ラット脳(BK2)、マウス脳(BK1)等が含まれるがこれに限定されない。さらなるイオンチャネルがConley, E. C. and Brammer, W. J., The Ion Channel, Factsbook IV, Academic Press, London, UK, (1999)に開示されており、参照により本明細書に組み込まれる。
【0029】
Na+チャネルのタイプにはラット脳I、II、III、ヒトII等が含まれるがこれに限定されない。
【0030】
Ca2+チャネルのタイプにはヒトカルシウムチャネルαl、α2、βおよび/またはγサブユニット、リアノジン受容体(RyR)およびイノシトール1,4,5-トリホスホネート受容体(IP3R)、ウサギ骨格筋αlサブユニット、ウサギ骨格筋α2サブユニット、ウサギ骨格筋pサブユニット、ウサギ骨格筋γサブユニット等が含まれるが、これに限定されない。
【0031】
本発明の方法は、チャネル連結型受容体活性の間接的測定、およびシグナル伝達システムにも適用できる。チャネル活性は、受容体サブユニットとイオンチャネル(GPCR β-γサブユニットなど)やGPCR連結型K+チャネル(GIRKなど)の間の相互作用、またはカルシウム、脂質代謝物、またはイオンチャネル活性を調整する環状ヌクレオチドなどのメッセンジャー分子の濃度の変化によって調整され得る。
【0032】
従って本発明は、イオンチャネル透過性に変化を生じることが知られている細胞内事象の活性をモニター、検出、および/または測定するための方法を提供する。細胞内活性には、タンパク質リン酸化または脱リン酸化、転写の上方調節または下方調節、内部カルシウム流入または流出、細胞分割、細胞壊死、受容体二量化等が含まれるがこれに限定されない。それ故、このような細胞内事象の測定または検出は、その必要があれば、イオンチャネルの間接的検出または測定としての役割も果たす。
【0033】
さらに、G共役タンパク質受容体も本発明で使用できる。G共役タンパク質受容体の例には、ムスカリン性アセチルコリン受容体(mAChR)、アドレナリン受容体、セロトニン受容体、ドーパミン受容体、アンジオテンシン受容体、アデノシン受容体、ブラジキニン受容体、代謝調節型興奮性アミノ酸受容体等が含まれるがこれに限定されない。
【0034】
本発明の間接的分析の別のタイプは、活性化された時に細胞内の環状ヌクレオチド(cAMP、cGMPなど)のレベルの変化をもたらす受容体の活性を測定することに関連する。例えば、一部のドーパミン、セロトニン、代謝調節型グルタミン酸受容体およびムスカリン性アセチルコリン受容体は、細胞質のcAMPまたはcGMPレベルの増加または減少をもたらす。さらに、一部の環状ヌクオトチド依存性イオンチャネル(桿体光受容体細胞チャネルなどおよび嗅覚神経チャネルなど)は、cAMPまたはcGMPの結合による活性化時にはカチオンに対して透過性であることが知られている。従って、本発明の方法によると、光受容体または嗅覚神経チャネルの環状ヌクレオチド活性化量の変化により生じる細胞質イオンレベルの変化は、活性化された時にcAMPまたはcGMPの変化を生じる受容体の機能を決定するために使用できる。一つの実施形態では、細胞内ヌクレオチドレベルを増加または減少させる試薬(ホルスコリンなど)を、受容体活性化化合物の添加の前に細胞に添加する。例えば、受容体の活性化が環状ヌクレオチドレベルを減少させることが知られているまたは疑われている場合、分析において受容体活性化化合物を細胞に添加する前に、細胞内ヌクレオチドレベルを増加させることが知られているホルスコリンを細胞に添加し得る。
【0035】
このタイプの分析に使用される細胞は、宿主細胞とイオンチャネル(hERGなど)をコードするDNA、および活性化された時に細胞質の環状ヌクレオチドレベルの変化を生じるチャネル連結型受容体をコードするDNAとの共トランスフェクションにより生成できる。
【0036】
本発明で使用される受容体には、ムスカリン性受容体、例えばヒトM2、ラットM3、ヒトM4、ヒトM5等が含まれるがこれに限定されない。他の受容体には、神経ニコチン性アセチルコリン受容体、例えばヒトα2、ヒトα3、ヒトβ2、ヒトα5、サブタイプラットα2サブユニット、ラットα3サブユニット、ラットα4サブユニット、ラットα5サブユニット、ニワトリα7サブユニット、ラットβ2サブユニット、ラットβ3サブユニット、ラットβ4サブユニット、ラットα aサブユニットの組み合わせ、ラットNMDAR1受容体、マウスNMDA el受容体、ラットNMDAR2A、NMDAR2B、NMDAR2C受容体、ラット代謝調節型mGluR1受容体、ラット代謝調節型mGluR2、mGluR3、およびmGluR4受容体、ラット代謝調節型mGluR5受容体等が含まれるがこれに限定されない。他の受容体には、アドレナリン性受容体、例えばヒトベータ1、ヒトアルファ2、ハムスターベータ2等が含まれるがこれに限定されない。さらに他の受容体には、ドーパミン受容体、セロトニン受容体、例えばヒトD2、哺乳動物ドーパミンD2受容体、ラットドーパミン受容体、ヒト5HT1a、セロトニン5HT1C受容体、ヒト5HT1D、ラット5HT2、ラット5HT1c等が含まれるがこれに限定されない。
【0037】
「イオンチャネル」という用語はイオントランスポーターも含む。イオントランスポーターの例には、神経伝達物質イオントランスポーター、例えばドーパミンイオントランスポーター、グルタミン酸イオントランスポーターまたはセロトニンイオントランスポーター、ナトリウム・カリウムATPアーゼ、プロトン・カリウムATPアーゼ、ナトリウム/カルシウム交換体、およびカリウム・塩素イオン共トランスポーターが含まれるがこれに限定されない。
【0038】
本発明の方法に使用できる細胞のタイプには、細菌細胞、酵母細胞、植物細胞および動物細胞を含むがこれに限定されない。本発明に使用できる動物細胞の例には、昆虫細胞、鳥類細胞、および哺乳動物細胞が含まれるがこれに限定されない。本発明の方法を使用して試験できる他の細胞の例には、ニューロン、心臓細胞、がん細胞、平滑筋細胞等がある。特定の実施形態では、細胞は不死化細胞であり得る。
【0039】
細胞内のイオンチャネル活性を測定する方法が提供され、細胞のイオンチャネルを通してのタリウム(タリウムイオンなど)の流入または流出を検出するために使用され得る。一態様において、イオンチャネルを通してのタリウムの流入を測定する方法が提供される。タリウム流入を評価する方法は一般に、細胞(または細胞の溶液)にタリウム指示薬および生理的濃度の塩素イオンを含む添加緩衝液を接触させることを伴う。次にタリウムを含む刺激緩衝液を細胞に添加して、イオンチャネルを通しての細胞内へのタリウム流入を生じさせる。細胞刺激時のタリウム指示薬の検出により、イオンチャネル活性についての情報が提供される。特定の実施形態では、タリウム指示薬の光学特性が検出される。
【0040】
本発明の方法を実施するために、添加緩衝液が細胞に提供される。本発明で使用される添加緩衝液は、環境感受性薬剤と塩素イオンを含む。本明細書では、「環境感受性薬剤」とは、化合物の少なくとも一つの特性(光学特性など)が周辺の環境の一面に反応して変化する、色素などの化合物である。特に、本発明で使用される薬剤の少なくとも一つの光学特性は、タリウム濃度に感受性があるべきである。従って一態様において、環境感受性薬剤はタリウム感受性薬剤であり得る。本明細書では「タリウム感受性薬剤」または「タリウム指示薬」は、化合物の少なくとも一つの特性(光学特性など)が、タリウム(タリウムイオンなど)の有無で変化する、例えば色素などの、少なくとも一つの光学特性を持つ化合物である。
【0041】
添加緩衝液は、血清アルブミン、トランスフェリン、L-グルタミン、脂質、抗生物質、β-メルカトエタノール、ビタミン、ミネラル、ATPおよび存在する可能性のある類似の成分などの追加的成分も含むが、これに限定されない。添加緩衝液はまた、ベンズブロマロン、プロベネシド・アロプリノール、コルヒチンおよびスルフィンピラゾールなどの少なくとも一つの有機イオントランスポーターの阻害剤を含むが、これに限定されない。存在し得るビタミンの例には、ビタミンA、B1、B2、B3、B5、B6、B7、B9、B12、C、D1、D2、D3、D4、D5、E、トコトリエノール、K1、K2が含まれるがこれに限定されない。界面活性剤(BASF Corporation(ニュージャージー州マウントオリーブ)より入手可能なPLURONIC F127、P85等などのポリオキシアルキレン・エーテルなど)またはPOWERLOAD(Invitrogen Corporation(カリフォルニア州カールズバッド)より入手可能)など、タリウム指示薬の可溶化を改善するための追加的成分を添加緩衝液に含めてもよい。当業者であれば、任意の培養で使用するミネラル、ビタミン、ATP、脂質、必須脂肪酸等の最適濃度を決定することができる。例えば補給剤の濃度は、約0.001μM〜約1 mMまたはそれ以上であり得る。補給剤を供給する濃度の個別例には、約0.005μM、0.01μM、0.05μM、0.1μM、0.5μM、1.0μM、2.0μM、2.5μM、3.0μM、4.0μM、5.0μM、10μM、20 μM、100μM等を含むがこれに限定されない。プロベネシドなどの細胞に添加された色素を補助および保持するために使用される薬剤も、100マイクロモルから10ミリモルの範囲の濃度で調製・使用される水溶性の形態または塩基溶解性の形態を含み、さまざまな可能な製剤で使用してよい。
【0042】
タリウム感受性薬剤は、細胞膜を超えてのタリウムの流れの指示薬として採用され、細胞質中のタリウムイオン濃度の変化に反応する少なくとも一つの光学特性において検出可能な変化を生じるために、十分な感受性がある。検出可能なシグナルを生成するタリウム感受性薬剤のタイプには、蛍光化合物および非蛍光化合物を含むがこれに限定されない。
【0043】
本発明の実施に使用され得るタリウム指示薬には、一価イオンまたは二価イオンに感受性のある化合物を含む。例えば、タリウム指示薬は、Li+、Na+、K+、Rb+、Ag+、Au+などの一価イオン、またはZn2+、Ca2+、Mg2+、Hg2+、Pb2+、Cd2+、Fe2+、Ni2+などの二価イオンに感受性を持ち得る。
【0044】
分析および/または評価されるイオンチャネルのタイプは、どのタリウム指示薬を使用するかを決める上で重要な要因である。特定の用途では、タリウムに対して高感受性を持つタリウム指示薬が必要な場合がある。しかし、他の用途では、感受性の低いタリウム指示薬を使用し得る。タリウムイオンに対してさまざまな感受性を持つタリウム指示薬が提供される。
【0045】
特定の実施形態では、タリウム指示薬はタリウム(I)イオンに対して感受性を持つ。タリウム(I)イオンに対する化合物の感受性は、さまざまな方法で評価できる。一つの方法は、蛍光ベースの感受性分析を使用することである。タリウム感受性分析は一般に、本明細書に記載のように、任意の濃度で化合物を緩衝液中のさまざまな量のタリウムイオンを組み合わせ、増加するタリウムイオン濃度の関数として化合物の蛍光強度の変化をモニターすることを伴う。タリウム感受性は、実施例3に示すタリウム感受性分析を使用して評価できる。タリウム感受性化合物は、一般的にタリウムの低濃度(濃度< 4. 5 mMなど)で大きな蛍光強度変化を持つ。5 mM以下の濃度のタリウム存在下で25%以上の蛍光強度変化を持つタリウム指示薬は、タリウムに特に感受性があると考えられ、本明細書に記載の分析方法で使用され得る。
【0046】
さまざまなタイプの化合物がタリウムに対して感受性を持ち、本発明の実施に使用できる。本発明の一つの実施形態では、タリウム感受性薬剤は蛍光化合物(蛍光色素など)である。基本的に、細胞に添加できる任意のタリウム感受性蛍光化合物を使用することができる。一つの具体的な実施形態では、化合物は低いタリウムイオン濃度(< 4.5 mMなど)を検出するために選択される。化合物はタリウムと結びつくと、一つ以上の蛍光特性の変化を示し得る。例えば、特定化合物の蛍光強度は、タリウムと結びつくと増加する場合がある。また、特定化合物の蛍光強度は、タリウムと結びつくと減少する場合がある。
【0047】
タリウムと化合物(蛍光化合物など)の結びつきは、本明細書に記載のように、任意の方法で化合物の任意の部位にイオンまたは非イオン相互作用によって起こり得る。特定の実施形態では、タリウム指示薬はタリウム(I)イオンに結合して、その蛍光特性に変化を生じる化合物である。
【0048】
タリウムの結合に反応して一つ以上の蛍光特性の変化を示す任意の化合物を、本発明の実施に使用し得る。例示的タリウム指示薬には、キサンテンに基づく蛍光化合物を含む。キサンテンベースの化合物には、例えばフルオロセインまたはロドールまたはローダミンを含む。特定の実施形態では、タリウム指示薬はキサンテン誘導体である。他の実施形態では、タリウム指示薬はロドール誘導体である。他の実施形態では、タリウム指示薬はローダミン誘導体である。本発明の実施に使用できる例示的キサンテンベースの化合物には、芳香族炭素の一つ以上が、例えばフッ素などのハロゲンで置換されたフルオロセインまたはロドールを含む。例示的なフッ素置換キサンテン(フッ素化フルオレセインおよびロドール化合物など)には、例えば米国特許第6,162,931号およびGee et al., Cell Calcium; 2002, 31 (5): 245-51に記載されたものを含む。以下のリストは、タリウム指示薬が由来し、本明細書に従って用いることができるフッ素化キサンテンの特定例を示す:
6-アミノ-9-(2-カルボキシル-3,4,5,6-テトラフルオロフェニル)-3H-キサンテン-3-オン、
6-アミノ-9-(2,4-ジカルボキシフェニル)-2-フルオロ-3H-キサンテン-3-オン、
6-アミノ-9-(2,4-ジカルボキシフェニル)-7-フルオロ-3H-キサンテン-3-オン、
4',5'-ビス((ジ(カルボキシメチル)アミノ)メチル)-2',7'-ジフルオロフルオレセイン(2',7'-ジフルオロカルセイン)、
4',5'-ビス((ジ(カルボキシメチル)アミノ)メチル)-2',7'-ジフルオロフルオレセイン、アセトキシメチルエステル(2',7'-ジフルオロカルセインAM)、
4-(カルボキシメチル)チオ-5,6,7-トリフルオロフルオレセイン、
6-(カルボキシメチル)チオ-4,5,7-トリフルオロフルオレセイン、
4-(カルボキシメチル)チオ-2',5,6,7,7'-ペンタフルオロフルオレセイン、
6-(カルボキシメチル)チオ-2',4,5,7,7'-ペンタフルオロフルオレセイン、
9-(4-カルボキシ-2-スルホフェニル)-2',7'-ジフルオロフルオレセイン、
4',5'-ジクロロ-2',7'-ジメトキシ-4,5,6,7-テトラフルオロフルオレセイン-5-カルボン酸、
2',7'-ジクロロ-4,5,6,7-テトラフルオロフルオレセイン、
1',8'-ジフルオロフルオレセイン、
2',7'-ジフルオロフルオレセイン、
2',7'-ジフルオロフルオレセイン二酢酸、
4',5'-ジフルオロフルオレセイン、
2',7'-ジフルオロ-6-ヒドロキシ-3H-キサンテン-3-オン、
2',7'-ジフルオロフルオレセイン-5-カルボン酸、
2',7'-ジフルオロフルオレセイン-5-カルボン酸二酢酸、
2',7'-ジフルオロフルオレセイン-5-カルボン酸二酢酸、アセトキシメチルエステル、
2',7'-ジフルオロフルオレセイン-6-カルボン酸、
2',7'-ジフルオロフルオレセイン-5-スルホン酸、
2',7'-ジフルオロフルオレセイン-6-スルホン酸、
2',7'-ジメトキシ-4,5,6,7-テトラフルオロフルオレセイン、
2',7'-ジメトキシ-4,5,6,7-テトラフルオロフルオレセイン-5-カルボン酸、
5-ドデカノイルアミノ-2',7'-ジフルオロフルオレセイン、
2'-フルオロフルオレセイン、
4'-フルオロフルオレセイン、
2',4,5,6,7,7'-ヘキサフルオロフルオレセイン、
2',4,5,6,7,7'-ヘキサフルオロフルオレセイン二酢酸、
1,2,4,5,7,8-ヘキサフルオロ-6-ヒドロキシ-9-(ペンタフルオロフェニル)-3H-キサンテン-3-オン、
6-ヒドロキシ-9-(2-スルホ-3,4,5,6-テトラフルオロフェニル)-3H-キサンテン-3-オン、
2',4',5',7'-テトラブロモ-4,5,6,7-テトラフルオロフルオレセイン、
2',4',5',7'-テトラフルオロフルオレセイン、
2',4',5',7'-テトラフルオロフルオレセイン-5-カルボン酸、
2',4',5',7'-テトラフルオロフルオレセイン二酢酸、
4,5,6,7-テトラフルオロフルオレセイン、
4,5,6,7-テトラフルオロフルオレセイン二酢酸、
4,5,6,7-テトラフルオロフルオレセイン-2',7'-ジプロピオン酸、
4,5,6,7-テトラフルオロフルオレセイン-2',7'-ジプロピオン酸、アセトキシメチルエステル、または
2',4',5',7'-テトラヨード-4,5,6,7-テトラフルオロフルオレセイン。
【0049】
タリウムに感受性を持つキサンテンベースの化合物には、FluoZin 1、FluoZin 2、FluoZin 3、Fluo-4FF、マグネシウムグリーン、RhodZin-3、およびフェングリーン(すべて、Invitrogen Corporation(カリフォルニア州カールズバッド)から入手可能)などの市販の化合物も含まれる。
【0050】
別の態様において、タリウム指示薬が提供され、これにはクマリン部分を含む。クマリンベースのタリウム指示薬の代表例には、例えば、BTCまたはその誘導体(APTRA-BTCなど)が含まれる。
【0051】
さらに別の態様において、タリウム指示薬が提供され、これにはベンゾフラン部分を含む。ベンゾフランベースのタリウム指示薬の代表例には、例えば、Mag-Fura Redまたはその誘導体(Invitrogen Corporation、カリフォルニア州カールズバッド)が含まれる。
【0052】
さらに別の態様において、タリウム指示薬が提供され、これにはナフタレン部分を含む。ナフタレンベースのタリウム指示薬の代表例には、例えば、ANTS(Invitrogen Corporation、カリフォルニア州カールズバッド)が含まれる。
【0053】
さらに別の態様において、タリウム指示薬が提供され、これにはクラウンエーテル部分を含む。クラウンエーテルベースのタリウム指示薬の代表例には、例えば、PBFI(Invitrogen Corporation、カリフォルニア州カールズバッド)が含まれる。
【0054】
タリウムがタリウム指示薬化合物の特定部分または部位に結合することは必要でないが、本発明の特定のタリウム指示薬は、イオン錯体部分を含み得る。イオン錯体部分の代表例には、ジアリルジアザ・クラウンエーテル、1,2-ビス-(2-アミノフェノキシエタン)- N,N,N',N'-テトラ酢酸(BAPTA)の誘導体、2-カルボキシメトキシ-アニリン-N,N-二酢酸(APTRA)の誘導体、2-メトキシ-アニリン-N,N-二酢酸の誘導体、およびピリジルベースとフェナントロリン金属イオンキレートなどのクラウンエーテルを含む。
【0055】
タリウム感受性薬剤は親水性または疎水性であり得る。本明細書に記載された任意のタリウム感受性化合物は、化合物の親水性または疎水性を増加させる部分を含むようにさらに誘導体化され得る。例えば、化合物を誘導体化してより疎水性の形態に変換し、細胞膜をより容易に透過できるようにしてもよい。例えば、細胞を色素または色素の膜透過性誘導体を含む添加緩衝液に接触させることにより、タリウム感受性蛍光薬剤を細胞に添加できる。より疎水性の形態の色素を使用することによって、細胞への色素添加を促進し得る。
【0056】
特定の用途に対しては、開裂可能な疎水性部分を持つタリウム指示薬を提供することが望ましい。例えば、開裂可能な部分を持つタリウム指示薬は、細胞膜を通して容易に細胞に入り得る。細胞内に入ると、当該部分は細胞中で薬剤(酵素など)により開裂され、疎水性の低い化合物を生成し、これは細胞内に閉じ込められたままになる。開裂可能な部分は、酵素(エステラーゼ、リパーゼ、ホスホリパーゼ等)により開裂されやすい任意の部分であり得る。代表的な開裂可能部分には、例えば、アセトキシメチル(AM)エステルなどの疎水性部分が含まれる。一部の実施形態では、タリウム指示薬は、アセトキシメチルエステル(AM)の形の色素で、未修飾体の色素よりも本来疎水性が高く、はるかに容易に細胞膜を透過できる。色素のアセトキシメチルエステル型が細胞に入ると、エステル基が細胞質エステラーゼによって除去され、それにより色素が細胞質内に閉じ込められる。
【0057】
特定の実施形態では、タリウム指示薬はキサンテンベースの化合物(フッ素化ロドールまたはフルオロセインなどのフッ素化キサンテンなど)のAMエステル誘導体である。特定の実施形態では、タリウム指示薬はクマリンベースの化合物のAMエステル誘導体である。特定の実施形態では、タリウム指示薬はベンゾフランベースの化合物のAMエステル誘導体である。特定の実施形態では、タリウム指示薬はナフタレンベースの化合物のAMエステル誘導体である。特定の実施形態では、タリウム指示薬はクラウンエーテルベースの化合物のAMエステル誘導体である。
【0058】
タリウム指示薬は塩の形であってもよい。「塩」とは、化合物の許容可能な塩を指し、ここで塩は当分野で周知のさまざまな有機および無機対イオンから派生し、ほんの一例として、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、アンモニウム、テトラアルキルアンモニウム、および分子が塩基官能基を含むとき、塩酸、臭化水素酸、酒石酸、メシル酸、酢酸、マレイン酸、およびシュウ酸などの有機または無機酸の塩を含む。本発明の実施に使用し得るタリウム指示薬塩の代表例には、例えばNa+、K+、NH4+、およびNR4+などの対イオンを持つものを含む。本明細書に記載された化合物の塩は、当業者に周知の方法を使用して調製できる。当然ながら、複数のタリウム指示薬(2つ以上のタリウム指示薬の組み合わせなど)を本発明の実施に使用し得る。
【0059】
本発明で使用されるタリウム指示薬の光学特性は、その特性がタリウムに反応して変化するならば、任意の光学特性であり得る。発光(蛍光など)色素の光学特性の例には、強度、周波数および極性を含むがこれに限定されない。一つの具体的な実施形態では、色素の強度が検出または測定される。
【0060】
タリウム指示薬の蛍光強度は、タリウムイオンの存在下で、増加または減少し得る。上記のタリウム感受性蛍光薬剤のうち(ANTS、Fluo-4、Fluo-3、PBFI、フェングリーン、マグネシウムグリーン、BTC、APTRA-BTC、Mag-Fura Red、Fluo-4FF、FluoZin-1およびFluoZin-2など)、ANTS、Fluo-4、Fluo-3、PBFI、フェングリーン、APTRA-BTCおよびMag-Fura Redはタリウムイオンの存在下で蛍光強度の減少を示す。マグネシウムグリーン、RhodZin-3、BTC、Fluo-4FF、FluoZin-1およびFluoZin-2はタリウムイオンの存在下で蛍光の増加を示す。
【0061】
蛍光タリウム感受性薬剤が使用された一つの具体的な実施形態では、過剰な蛍光化合物を、十分な量の細胞外消光剤を使用して除去できる。本明細書では「消光剤」は、光子減少薬剤を指し、蛍光エネルギーを再放出することなく、蛍光タリウム指示薬が放出したエネルギーを吸収する。細胞外消光剤を使用すると、未添加のタリウム感受性蛍光薬剤を細胞から洗い出す必要がなくなる。細胞外消光剤は細胞透過性である必要はなく、タリウム感受性蛍光薬剤の蛍光から容易に分離できる蛍光を持つ光吸収蛍光化合物であり得る。細胞外消光剤の吸収スペクトルは、タリウム感受性蛍光薬剤の発光を大幅に吸収する。細胞外消光剤は、その細胞内への通過を防止する化学組成物である必要があり、一般的に、消光剤は荷電または非常に大きな化合物であるべきである。細胞外消光剤の濃度範囲は、その光吸収特性によって、マイクロモルからミリモル濃度であり得る。使用できる細胞外消光剤のタイプには、タートラジンおよびアマラント、アシッドレッド37、コンゴレッド、トリパンブルー、ブリリアントブラックまたはこのような消光剤の混合物が含まれるがこれに限定されない。消光剤は、Sigma-Aldrich Handbook of Dyes, Stains, and Indicators(Floyd G. Green、1990年、米国ミズーリ州セントルイス)に記載されている。
【0062】
本発明はまた、タリウム濃度に感受性のある非蛍光薬剤の使用も提供する。一つの実施形態では、本発明はタリウムイオンと結びつくか反応する非蛍光化合物であるタリウム感受性薬剤を使用して、沈殿物を形成するかまたは着色生成物を形成することのできる生成物を形成し、これにより試験混合物の光学密度の検出可能な変化を生じる事を提供する。これらの化合物には、ヨウ化物、臭化物、およびクロム酸塩を含むがこれに限定されない。
【0063】
タリウム感受性薬剤が非蛍光化合物である時、吸収はタリウムイオンの添加およびチャネル調節剤の添加の前、間、および後に、例えば分光光度計で記録できる。細胞発現イオンチャネルおよび/または受容体には、ヨウ化物、臭化物またはクロム酸塩イオンが添加される。細胞は、例えば緩衝生理食塩溶液で洗浄される。タリウムの細胞内への輸送は、光学密度シグナルを増加または減少させる。開放チャネルを通過するタリウムイオンは濃度勾配を降下し、細胞内の光学密度変化をもたらし、シグナルの記録を生じる。イオンチャネルの活性化はタリウムイオン流入速度を増進し、例えば沈殿物または着色生成物の形成の増加を生じ、阻害はタリウムイオン流入速度を減少させ、例えば沈殿物または着色生成物に全くあるいはほとんど変化を生じない。一般的に、タリウムイオンが非蛍光化合物と反応しない場合、光学密度は変化しない。従って、イオンチャネルがブロックされている場合、タリウムイオン流入は阻害され、光学密度の変化は全くまたはほとんど検出されない。
【0064】
添加緩衝液はまた塩素(塩素イオンなど)を含み得る。本発明の一つの実施形態では、添加緩衝液は検出可能な量の塩素を含む。別の実施形態では、添加緩衝液は塩素を含まない。特定の実施形態では、添加緩衝液は実質的に塩素イオンを含まない(2 mM未満など)。他の実施形態では、添加緩衝液は1 mM未満の塩素イオンを含む。本発明が提供するメリットの一つは、細胞をタリウムで刺激する前に、添加緩衝液および細胞培地に塩素が使用できることである。一般的に、緩衝液の塩素源は通常NaClまたはKCl塩であるが、塩素は存在する場合任意の源からであり得る。本発明の方法は塩素の不在に依存しないので、緩衝液に存在する場合(添加緩衝液または洗浄緩衝液など)、塩素は実質的に任意の濃度であり得る。塩素イオンが分析を妨害しないので、生理的に適切な濃度の塩素を本発明の実施に使用できる。「生理的に適切な濃度」とは、生物の健康または正常な機能を特徴付けるまたはそれに一致する濃度を指す。特定の実施形態では、添加溶液の塩素濃度は約2 mMより高い。特定の実施形態では、添加溶液の塩素濃度は約5 mMより高い。特定の実施形態では、添加溶液の塩素濃度は約10 mMより高い。他の実施形態では、添加溶液の塩素濃度は約5 mM〜約20 mMである。さらに別の実施形態では、添加溶液の塩素濃度は約20 mM〜約100 mMである。さらに別の実施形態では、添加溶液の塩素濃度は約50 mM〜約150 mMである。一部の実施形態では、添加緩衝液は約10mM〜約150 mMの濃度の塩素を含む。他の実施形態では、添加緩衝液は約50mM〜約150 mMの濃度の塩素を含む。他の実施形態では、添加緩衝液は約75mM〜約125 mMの濃度の塩素を含む。他の実施形態では、添加緩衝液は約100mM〜約125 mMの濃度の塩素を含む。当業者が許容可能な塩素レベルを容易に決定できる場合は、他の塩素濃度も使用できる。
【0065】
添加緩衝液を細胞に供給した後、刺激緩衝液を細胞に添加し、細胞内へ、または細胞外へのタリウムの移動を刺激する。刺激緩衝液はタリウムを含むべきである。
【0066】
刺激緩衝液は、イオンチャネル、チャネル連結型受容体またはイオントランスポーター(アゴニストなど)を活性化する溶液である。一部のイオンチャネル/トランスポーターは構造的に活性で、そのためタリウムイオン・トレーサーに加えての「刺激」を必要としない。刺激を必要とするチャネルに対しては、刺激はリガンド(チャネルまたはチャネル連結型受容体に結合する分子で、これを活性化する(アゴニスト))であり得る。刺激は、電位依存性チャネルの膜電位の変化でもあり得る。一般に、電位依存性チャネルは、電極での直接的電気刺激か、または脱分極(高い外部カリウムなど)を生じるイオン性組成物を含む刺激溶液を使って活性化される。さらに、タリウムイオンは電位依存性チャネルの刺激としての働きもできる。このような場合、タリウムイオンは「トレーサー」および脱分極刺激の両方として働くことができる。流入分析では、タリウムイオンを、刺激添加の直前、間、または後に添加できる。
【0067】
本発明の方法では、本方法で使用されるイオンチャネル、チャネル連結型受容体またはイオントランスポーターのタイプに基づいて選択された刺激緩衝液を使用できる。適切な刺激溶液と、イオンチャネル、チャネル連結型受容体またはイオントランスポーター活性化試薬の選択は、当分野の技術の範囲内である。一つの実施形態では、刺激緩衝液はイオンチャネルを活性化する試薬を含まない緩衝液を含むので、イオンチャネル、チャネル連結型受容体またはイオントランスポーターは実質的に静止したままである。この実施形態では、刺激溶液は、関心のあるイオンチャネル、チャネル連結型受容体またはイオントランスポーターを活性化しないが、分析を始めるために細胞に調節試薬を添加したときに、イオンチャネル、チャネル連結型受容体またはイオントランスポーターの活性化を促進する試薬を含む。
【0068】
電位依存性イオンチャネル(NタイプカルシウムチャネルまたはKCNQ2チャネルなど)との使用のために選択される刺激溶液は、細胞膜の静止電位へのイオンチャネルの感受性に依存する。これらの電位依存性イオンチャネルを使用する方法では、刺激溶液は膜を脱分極するための役割をする活性化試薬(イオノフォア、バリノマイシン等)を含み得る。
【0069】
細胞膜の脱分極による活性化のために一部の電位依存性イオンチャネルとの使用に選択される刺激緩衝液は、細胞含有ウェル中のカリウムイオンの最終濃度が約10〜150 mM(50 mM KClなど)になるような濃度のカリウム塩を含む。さらに、電位依存性イオンチャネルは、量子ドットナノ結晶または細胞表面に発現された光感受性イオンチャネルの光励起の場合のように、電気的または光活性化刺激によっても刺激される。
【0070】
チャネル連結型受容体およびリガンド依存性イオンチャネルとの使用に選択される刺激緩衝液は、このような受容体を活性化することが知られているリガンドに依存する。例えば、ニコチン性アセチルコリン受容体はニコチンまたはアセチルコリンによって活性化されることが知られており、同様にムスカリン性アセチルコリン受容体は、ムスカリンまたはカルバミルコリンの添加により活性化され得る。これらのシステムとともに使用される刺激緩衝液は、ニコチン、アセチルコリン、ムスカリンまたはカルバミルコリンを含み得る。特定の実施形態では、刺激はGIRKカリウムイオンチャネルを活性化してタリウムを流入させることができるGタンパク質共役受容体アゴニストであり得る。他の実施形態では、刺激緩衝液はイオンチャネルの脱分極を起こす組成物を含み得る。脱分極組成物には、例えばイオノフォア、バリノマイシン、またはカリウム塩などの薬剤を含み得る。細胞膜の脱分極は、チャネルロドプシンまたはハロロドプシン、または活性化量子ドットナノ結晶などの細胞表面の光活性化イオンチャネルを使用して達成できる。
【0071】
刺激緩衝液中のタリウムは任意の形態でよいが、主として塩の形態であり、従ってタリウムイオンを提供する。特定の実施形態では、タリウムの源は塩である。本発明の方法のタリウム溶液に使用するタリウム塩には、Tl2SO4、Tl2CO3、TlCl、TlOH、TlOAc、TlNO3等の水溶性塩が含まれるがこれに限定されない。特定の実施形態では、タリウム塩は添加緩衝液に可溶性である。
【0072】
本発明のタリウム指示薬は非常に低濃度のタリウムに感受性があるので、刺激緩衝液中のタリウムは非常に低い濃度であり得る。タリウムは低濃度中に存在し得るので、塩素濃度にかかわらず、タリウムイオンは本明細書に記載の緩衝液中に溶解したままでいることができる。一般に、刺激緩衝液中のタリウム(タリウムイオンなど)は約4.5 mM未満の濃度である。特定の実施形態では、タリウム濃度は約4.0 mM未満であり得る。他の実施形態では、タリウム濃度は約3.0 mM未満であり得る。他の実施形態では、タリウム濃度は約2.5 mM未満であり得る。特定の実施形態では、タリウム(タリウムイオンなど)濃度は約0.1 mM〜約2 mMであり、添加緩衝液は、約10 mM〜約150 mMの濃度の塩素イオンを含む。特定の実施形態では、タリウム(タリウムイオンなど)濃度は約0.1 mM〜約4 mMであり、添加緩衝液は、約10 mM〜約150 mMの濃度の塩素イオンを含む。本発明の特定の方法では、タリウムを約1 mM〜約10 mMの濃度で含む刺激緩衝液、および、塩素イオンを約10 mM〜約150 mMの濃度で含む添加緩衝液を使用する。他の実施形態では、タリウム濃度は約2 mM〜約5 mMであり、添加緩衝液は、約10 mM〜約150 mMの濃度の塩素イオンを含む。他の実施形態では、タリウム濃度は約5 mM〜約20 mMであり、添加緩衝液は、約10 mM〜約150 mMの濃度の塩素イオンを含む。他の別の実施形態では、添加緩衝液は約50 mM〜約150 mMの濃度の塩素イオンを含み、タリウム(タリウムイオンなど)の濃度は約0.1 mM〜約2 mM、または約0.1 mM〜約4.0 mM、または約1 mM〜約10 mM、または約2 mM〜約5 mM、または約5 mM〜約20 mMであり得る。他の濃度のタリウムおよび塩素も本発明の方法に使用できる。
【0073】
別の態様において、溶液が提供され、これにはタリウム指示薬、タリウム指示薬および生理的濃度の塩素イオンを含む添加緩衝液、ならびにタリウム(タリウムイオンなど)が含まれる。溶液中のタリウム濃度は一般的に< 4.0 mMであるが、溶液はより高いレベルのタリウムを含んでもよい。例えば、溶液のタリウム濃度の範囲は約0.1 mM〜約20 mMであり得る。例えば、溶液のタリウム濃度は約0.1 mM〜約2 mM、または約0.1 mM〜約4.0 mM、または約1 mM〜約10 mM、または約2 mM〜約5 mM、または約5 mM〜約20 mMであり得る。溶液の塩素濃度は約150 mM未満、および約10 mM〜約150 mM、または約50 mM〜約150 mM、または約100 mM〜約150 mMの範囲であり得る。一つの実施形態では、タリウム濃度は4.0 mM未満であり、塩素イオン濃度は50 mM〜約150 mMである。タリウム指示薬は、タリウムイオンの存在を検出するために十分な量で溶液中に存在する。
【0074】
タリウム感受性薬剤およびタリウムイオンの細胞内への輸送の後、環境感受性薬剤のシグナルの増加または減少が起こる。タリウムイオンは開放チャネルを通って濃度勾配に沿って移動し、細胞内の色素蛍光の強度を変化させ、記録シグナルを生じる。イオンチャネルの活性化はタリウムイオンの流入速度を増進し(タリウム感受性蛍光化合物の蛍光の変化を生じ)、阻害はタリウムイオンの流入速度を減少させる(タリウム感受性蛍光薬剤の蛍光変化を全くまたはほとんど生じない)。一般的に、タリウムイオンが結合しない場合、蛍光は変化しない。
【0075】
環境感受性薬剤の少なくとも一つの光学特性が、本発明の方法で検出または測定される。前述のように、蛍光色素を使用した場合、タリウム流入または流出を判定するために、蛍光色素の任意の光学特性を測定または検出することができる。蛍光色素の光学特性の例には、蛍光色素の発光の強度、極性、および周波数を含むがこれに限定されない。検出薬剤として非蛍光色素を使用した場合、検出されるべき薬剤の光学特性も、強度、極性および周波数であり得る。本発明の一つの具体的な態様において、薬剤の光学特性の測定または検出には、例えば、薬剤がタリウムと反応して細胞内で生成物または沈殿物を形成し、これが細胞自体の光学密度を増加させ得る時、細胞自体の光学密度を測定することを含む。
【0076】
蛍光色素を使用した場合、蛍光シグナルを検出する装置でタリウム感受性薬剤の蛍光を測定でき、これには分光光度計、顕微鏡などが含まれるがこれに限定されない。一つの具体的な実施形態では、色素の蛍光は、標準96ウェルプレートリーダーを使用して検出および/または測定する。別のタイプの装置は、FLIPR装置(Molecular Devices Corp.、カリフォルニア州サニーベイル)などの蛍光イメージングプレートリーダーであり、タリウムイオンの添加および候補イオンチャネル、チャネル連結型受容体またはイオントランスポーター調節剤の添加の前、間、後に、最高1 Hzの速度で蛍光が記録される。非接着細胞に使用される装置の例には、FLIPR装置およびフローサイトメーター(Becton-Dickinson)がある。薬剤の光学特性の検出または測定に使用される装置および方法のさらなる例には、光学顕微鏡法、共焦点顕微鏡法、および蛍光顕微鏡法が含まれるがこれに限定されない。
【0077】
本発明の一つの実施形態では、チャネル連結型受容体の活性が決定され、ここで受容体の活性化は、イオンチャネル活性の調節につながる後続の細胞内事象を開始する。
【0078】
本発明はまた、イオンチャネル、チャネル連結型受容体、またはイオントランスポーター活性を調節する化合物を特定する方法も提供する。基本的に、任意の化合物を本発明の分析の潜在的調節因子として使用できる。特定の実施形態では、候補化合物は水溶液または有機溶液(DMSOベースなど)に溶解し得る。当業者には当然のことながら、Sigma Chemical Co.(ミズーリ州セントルイス)、Aldrich Chemical Co.(ミズーリ州セントルイス)、Sigma-Aldrich(ミズーリ州セントルイス)、Fluka Chemika-Biochemica Analytika(スイス、ブックス)などを含む、化合物の多くの商業的供給業者がある。このように、イオンチャネルが候補チャネル調製因子によりブロックされ、タリウム流入が阻害されると、蛍光の変化はほとんどまたは全く検出されない。
【0079】
本発明は、イオンチャネルを通してのタリウム流出を検出する方法も提供する。一般的に、タリウム流出を評価する方法は、当業者に知られている方法を使用して、イオンチャネルを含む細胞にタリウムを負荷することを伴う。例えば、細胞をタリウム(タリウム塩など)を含む溶液(緩衝液など)と混合して、細胞にタリウムを負荷するために十分な時間インキュベートし得る。タリウム負荷細胞は、任意に洗浄して過剰タリウムを除去できる。次に、タリウム指示薬および生理的濃度の塩素イオンを含む溶液が細胞に添加され、イオンチャネルを通してタリウムの流れを生じるように細胞のイオンチャネルが刺激される。指示薬が細胞内に入らないように、イオンチャネルに不透過性のタリウム指示薬を使用し得る。細胞刺激時のタリウム指示薬の検出により、イオンチャネル活性についての情報が提供される。特定の実施形態では、タリウム指示薬の光学特性が検出される。
【0080】
流出分析では、流入分析と同じ細胞を使うことができ、本明細書に記載のように、BTCなどのシグナル生成タリウム感受性蛍光薬剤を添加する。記述された流出分析に使用できる指示薬の追加例には、マグネシウムグリーン、Fluo-4FF、FluoZin-1またはFluoZin-2、RhodZin-3、ANTS、Fluo-4、Fluo-3、PBFI、フェングリーン、またはMag-Fura Redまたはその誘導体もしくは塩を含むがこれに限定されない。タリウムを細胞と接触させて細胞に負荷する。一つの実施形態では、細胞をタリウムイオンと約15分間接触させる。過剰タリウムイオンを除去するために細胞を洗浄し、流入分析で使用されたのと同じシグナル変化を検出する機器を使用して分析できる(例えば蛍光分析イメージプレートリーダー(FLIPR)(Molecular Devices Corp.、米国カリフォルニア州サニーベイル))。多くのリガンドの一つの添加により、またはカリウム濃度を変化させることなどによって細胞の膜電位を変えることにより、分析チャネルが刺激されて開き、イオンチャネルを通してのイオンの流出が可能となる。例えば、流出はBTCの蛍光の減少を生じる。対照化合物などの他の化合物は、流入分析で使用されたものと同じであり得る。上述のように細胞にタリウムイオンが事前負荷され、過剰のタリウムイオンを洗浄して除去する以外は、本発明の方法の流入分析と同じ条件が適用される。
【0081】
本明細書に提供されたタリウム流入・流出分析では、タリウム指示薬は本明細書に記載された任意の化合物であり得る。特定の実施形態では、タリウム指示薬は、実施例3に記載のタリウム感受性分析で25%以上の蛍光強度変化を示す蛍光化合物である。一価および二価のカチオン(Zn2+またはCa2+など)に感受性のある特定のタリウム指示薬は、タリウム感受性分析に陽性を示し、本発明の蛍光ベースのタリウム流入・流出分析において特に有用である。このような蛍光タリウム指示薬の代表例には、キサンテン部分(FluoZin 1、FluoZin 2、FluoZin 3、FluoZin 4、Red Fluo-4FF、マグネシウムグリーン、フェングリーン、RhodZin-3、またはその誘導体もしくは塩など)、ベンゾフラン部分(Mag-Fura Redまたはその誘導体もしくは塩など)、ナフタレン部分(ANTSなど)、またはクラウンエーテル部分(PBFIなど)を含む。蛍光キサンチン、ベンゾフラン、ナフタレン、およびアセトキシメチルエステル部分で置換されたクラウンエーテルベースの化合物を、特定の状況下で(例えば化合物を細胞内に保持するために)使用し得る。タリウムの形態および存在する塩素イオン量によっては、クマリン部分(BTCまたはAPTRA-BTCまたはその誘導体もしくは塩など)を含む蛍光タリウム指示薬を使用することが望ましいことがある。
【0082】
一態様において、細胞内のイオンチャネル活性を検出するための方法が提供され、その方法は、a)イオンチャネルを持つ細胞を提供すること、b)細胞に添加緩衝液を提供し、当該添加緩衝液はタリウム指示薬および生理的濃度の塩素イオン(例えば約50 mM〜約150 mM)を含むこと、c)細胞に刺激緩衝液を提供し、ここで刺激緩衝液はタリウムを含み、刺激緩衝液の提供によりイオンチャネルを通してのタリウムの細胞への流入が起こること、d)タリウム指示薬を検出することを含む。タリウム濃度は約4.5 mM未満であり得る。本方法に使用されるタリウム指示薬は、キサンテン部分を含む蛍光化合物であり得る(FluoZin 1、FluoZin 2、FluoZin 3、FluoZin 4、Red Fluo-4FF、マグネシウムグリーン、フェングリーン、RhodZin-3、またはその誘導体もしくは塩など)。あるいは、タリウム指示薬は、Mag-Fura Redまたはその誘導体もしくは塩などのベンゾフラン部分、ナフタレン部分(ANTSなど)、またはクラウンエーテル部分(PBFIなど)を含む蛍光化合物であり得る。
【0083】
別の態様において、細胞内のイオンチャネル活性を検出するための方法が提供され、その方法は、a)細胞にタリウムを負荷すること(ここで細胞はイオンチャネルを含む)、b)溶液を細胞に提供すること(溶液はタリウム指示薬および生理的濃度の塩素イオン(例えば約50 mM〜約150 mM)を含む)、c)イオンチャネルを通してのタリウムの流入を生じるように細胞のイオンチャネルを刺激すること、d)タリウム指示薬を検出することを含む。負荷後の細胞中のタリウム濃度は約4.5 mM未満であり得る。本方法に使用されるタリウム指示薬は、キサンテン部分を含む蛍光化合物であり得る(FluoZin 1、FluoZin 2、FluoZin 3、FluoZin 4、Red Fluo-4FF、マグネシウムグリーン、フェングリーン、RhodZin-3、またはその誘導体もしくは塩など)。あるいは、タリウム指示薬は、Mag-Fura Redまたはその誘導体もしくは塩などのベンゾフラン部分、ナフタレン部分(ANTSなど)、またはクラウンエーテル部分(PBFIなど)を含む蛍光化合物であり得る。
【0084】
本発明の方法は、ハイスループット・スクリーニング法にも適用でき、候補イオンチャネル調節剤が大スケールでスクリーニングできる。ハイスループット・スクリーニング分析は知られており、マイクロタイタープレートまたはピコ・ナノまたはマイクロリットルアレイを使用する。
【0085】
本発明のハイスループット法は、イオンチャネルを発現している細胞全体、イオンチャネルおよびチャネル連結型受容体または関心のあるイオントランスポーターを使用し、マイクロタイタープレートなどで本発明の方法を実践することにより実施できる。細胞は接着または非接着条件下で培養できる。標的化合物を前処理として細胞に添加し、その後刺激緩衝液を細胞に添加し、例えば蛍光が検出される。検出可能シグナルの変化は、プレート上の特定のウェルのチャネル調節剤の効果を示す。
【0086】
本発明の分析は、例えば分析段階を自動化し、分析のために任意の便利な源から候補調整化合物を提供することにより、大きな化学ライブラリーのハイスループット・スクリーニングを可能にするように設計されている。固体担体上で並行して実行される分析(ロボット分析のマイクロタイタープレート上のマイクロタイター・フォーマットなど)がよく知られている。光学検出の変化を検出および/または測定するための自動化システムおよび方法も、よく知られている(米国特許第6,171,780号、同第5,985,214号、同第6,057,114号)。
【0087】
本発明のハイスループット・スクリーニング法は、多数の潜在的治療的調整化合物(Borman, S, C. & E. News, 1999, 70(10), 33-48)を含む組み合わせライブラリーを提供することを含む。組み合わせ化学ライブラリーの準備およびスクリーニングは、当業者には周知である。
【0088】
組み合わせ化学ライブラリーは、化学的合成または生物学的合成のどちらかを使用し、試薬などの多数の化学的成分を組み合わせることにより生成される多様な化合物の収集物である。例えば、ポリペプチドライブラリーなどの直線状組み合わせ化学ライブラリーは、任意の化合物の長さ(すなわち、ポリペプチド化合物中のアミノ酸の数)に対して事実上すべての可能な方法で一式のアミノ酸を組み合わせることにより形成される。化学成分のこのような組み合わせ混合を通して、数百万の化合物が合成できる。
【0089】
本発明は、細胞内のイオンチャネル活性検出のためのキットも提供する。一つの特定の実施形態では、キットは色素、塩素を含み得る分析緩衝液、および刺激緩衝液を含む。緩衝液の個々の成分および色素は、凍結乾燥または他の乾燥した形態で保管され、ここでそれぞれは成分を原液(stock solution)または希釈標準溶液(working solution)に水和させることができる。本発明のキットは、本明細書の上記または他に記載された、事実上任意の成分の組み合わせを含み得る。細胞中のイオンチャネルの活性(タリウム流入など)を検出するための一つの例示的キットには、a)タリウム指示薬および生理的濃度の塩素イオンを含む添加緩衝液、およびb)タリウムを含む刺激緩衝液(ここで刺激緩衝液は、イオンチャネルを通して細胞内へのタリウムの流入を生じる)を含む。細胞内のイオンチャネル活性(タリウム流出など)を検出するための別の例示的キットには、a)タリウム(タリウムイオンなど)を含むタリウム添加溶液、およびb)タリウム指示薬および生理的濃度の塩素イオンを含む溶液(緩衝液など)を含む。当業者であれば、本発明のキットで提供される成分はキットの使用目的によって異なることが分かる。従って、キットはこの出願書に提示されたさまざまな機能を実施するために設計でき、このようなキットの要素はそれに従って異なる。
【0090】
本発明の詳細な説明を上記に示したが、以下の実施例は本発明の説明目的のものであって、本発明または特許請求の範囲を制限するとは解釈されないものとする。
【実施例】
【0091】
実施例1
タリウム流入分析
以下は、本発明のいくつかの方法で使用できる成分の例である。
成分A:
バイアル当たり:FluoZin-1 AMエステル(Invitrogen)1〜20μg
凍結乾燥し、単回使用の15 mLバイアル中に保管
成分B:5X分析緩衝液:1x25 mL
バイアル当たり:50容量% 10XHBSS 12.5 mL
10容量% 1 M HEPES 2.5 mL
40容量% H2O 10 mL
成分C:5X塩素を含まない刺激緩衝液:1x25 mL
バイアル当たり:700 mM グルコン酸ナトリウム 3.82 g
12.5 mM グルコン酸カリウム 73 mg
9 mM グルコン酸カルシウム 96.7 mg
5 mM グルコン酸マグネシウム 51.7 mg
100 mM HEPES 2.5 mL 1M
水 22.5 mL
成分D:濃縮(125 mM)K2SO4溶液:1x20 mL
バイアル当たり:125 mM 硫酸カリウム 435 mg
H2O 20 mL
成分E:濃縮(50 mM)Tl2S04 溶液:1x20 mL
バイアル当たり:50 mM 硫酸タリウム 505 mg
H2O 20 mL
成分F:100X:lx1 mL
バイアル当たり:PLURONIC F127 20〜100 mg
PLURONIC P85 5〜20 mg
H2O 1 mL
【0092】
イオンチャネルを含む細胞は、約75%集密まで対数期増殖で培養される。その後細胞は、周知の細胞培養技術および緩衝液を使用して回収され、例えば2x105細胞/ウェルの密度で96ウェルプレートに再び蒔かれる。細胞は内因的にイオンチャネルを含むか、または細胞は特定タイプのイオンチャネルを含むように設計できる。細胞をトランスフェクトおよび/または形質転換して特定タイプのタンパク質を発現する方法は当分野ではよく知られており、本明細書で繰り返す必要はない。
【0093】
添加緩衝液を調製するためには、バイアルに入った成分Aを室温まで暖め、100 uLの成分Fを添加緩衝液に添加し、色素を可溶化し、血漿膜を通して細胞内に運ぶ。上記の混合物をかき混ぜた後、2 mLの成分B、5xHBSS(ハンクス液)の後に8 mL H2Oを加える。
【0094】
次に96ウェルプレート中の細胞から細胞培養培地を吸引し、ウェル当たり100μLの添加緩衝液で置換する。ウェルに残った培地は、色素が細胞に入る前に色素の加水分解を促進する。
【0095】
添加後、マイクロプレートは直射光から遮られ、室温で60〜120分インキュベートされる。最善の比較は、添加緩衝液中に類似回数の後に分析したプレート間で得られる。
【0096】
細胞インキュベート中、25 mM K2SO4および10 mM Tl2S04を含む刺激緩衝液を以下のように調製する。2 mLのH2Oを1 mLの成分C(5X塩素を含まない緩衝液)、1 mLの成分D(125 mM K2SO4)、1 mLの成分E(50 mM Tl2S04)と混合する。この配合は、マイクロプレートを1:5に希釈する刺激緩衝液を生成し、最終濃度で遊離カリウムイオンが10 mMおよび遊離タリウム(I)イオンが4 mMとなる。
【0097】
次に「化合物プレート」が配置され、分析が行われる。まず、化合物プレートに分注する溝に、刺激緩衝液を注ぎ入れる。8チャネルピペッターを使って、化合物プレートカラム当たり150 ulの緩衝液を加え、1回の分注当たり25 uLで4つのマイクロプレートカラムをカバーする。任意に、刺激緩衝液を添加した後、細胞外タリウムを除去するために細胞を洗浄することができる。しかし本発明の方法は、過剰タリウムを除去する洗浄段階ありでもなしでも実施することができる。
【0098】
次に、分光光度計の蛍光を読み取る。サンプルは488nmの光で励起され、515nmのカットオフフィルターを使って発光を525nmで読み取る。読み取り時間は、5秒間隔の読み取りで、90〜300秒の間の任意の時間に設定する。
【0099】
実施例2
hERGイオンチャネルでトランスフェクトされた細胞の分析
hERGイオンチャネルでトランスフェクトされた細胞を、本発明の方法を使用して分析した。0.5 uM FluoZin-1 AMエステルを含む分析緩衝液中に細胞を添加し、1X希釈の刺激緩衝液(成分C、25 mM K2SO4および10 mM T12SO4を含む)で刺激した。「対照」はtet-刺激hERG 293 T Rex細胞で、「tetなし」トレースはhERG発現のために刺激されなかった細胞であった。刺激は25 uLの容量で細胞に与えられ、5倍希釈のため100 uLまで添加された。この特定の実施例では、細胞のタリウム最終濃度は約4 mMであった。図1は、hERGイオンチャネルでトランスフェクトされ、本発明の方法を使用して分析された細胞の吸収曲線(時間の関数をdF/Fとしてプロット)を示す。図2は、hERGイオンチャネル(テトラサイクリン誘導または非テトラサイクリン誘導)でトランスフェクトされたhERG活性細胞を、96ウェルプレート中、FLUXORタリウムNW検出キット(Invitrogen Corporation、カリフォルニア州カールズバッド)で測定したものを示す(カリウムイオン刺激の時間を矢印で示す)。
【0100】
実施例3
タリウム感受性分析
タリウム(I)に対する化合物の感受性を評価するために分析が提供される。タリウム(I)に十分な感受性を持つ化合物は、イオンチャネルを通してのタリウムの流入および流出を測定するためのタリウム指示薬として使用し得る。蛍光化合物の10マイクロモル溶液を、pH 7.4の10 mM HEPES緩衝液で調製する。最大蛍光発光強度は、化合物の励起最大波長での励起で測定される。測定は、蛍光分光光度計のキュベットまたは蛍光マイクロプレート・リーダーのマイクロプレート・ウェル中で行われる。硫酸タリウムの原水溶液の量を増加させながら蛍光化合物溶液に添加し、タリウム(I)の最終濃度が0、5、10、50、100、500、1000、2000マイクロモルになるようにする。硫酸タリウム溶液を添加するたびに、蛍光強度を測定し、タリウム(I)がゼロの場合に得られた強度と比較する。タリウム(I)濃度の範囲を通して全体的蛍光強度変化が25%の場合、イオンチャネルを通してのタリウムの流入および流出を測定するための分析について、化合物がさらに評価されるための十分なタリウム(I)感受性を持つことを示す。
【0101】
すべての米国特許、米国公開特許公報、米国特許出願、外国特許、外国特許出願およびこの明細書に言及された非特許公報は、参照によりその全体を本明細書に組み込む。さまざまな特許、出願および公報の概念を採用してさらなる実施形態を提供するために必要ならば、実施形態の態様は変更できる。
【0102】
上記の説明を踏まえて、これらおよび他の変更を実施形態に行うことができる。一般的に、以下の特許請求の範囲において使用される条件は、特許請求の範囲を、明細書および特許請求の範囲において開示された特定の実施形態に限定するものではなく、このような特許請求の範囲が権利を持つ同等物のすべての範囲とともに、すべての可能な実施形態を含むと解釈されるべきである。従って、特許請求の範囲は本開示によって限定されない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の段階を含む、細胞内のイオンチャネルの活性を検出する方法:
a)イオンチャネルを持つ細胞を提供する段階、
b)細胞に、タリウム指示薬および生理的濃度の塩素イオンを含む添加緩衝液を提供する段階、
c)細胞にタリウムを含む刺激緩衝液を提供する段階であって、それによりイオンチャネルを通してのタリウムの細胞への流入が起こる、段階、
d)タリウム指示薬を検出する段階。
【請求項2】
タリウム指示薬が細胞内でタリウムと結びつく、請求項1記載の方法。
【請求項3】
タリウム指示薬がタリウムの有無で変化する光学特性を持つ、請求項1記載の方法。
【請求項4】
タリウム指示薬がタリウムイオンと結びついた時に蛍光の増加を示す化合物である、請求項1記載の方法。
【請求項5】
タリウム指示薬がタリウムイオンと結びついた時に細胞内で光学密度の変化を示す化合物である、請求項1記載の方法。
【請求項6】
タリウム指示薬が疎水性である、請求項1記載の方法。
【請求項7】
タリウム指示薬が親水性である、請求項1記載の方法。
【請求項8】
タリウム指示薬がアセトキシメチルエステル部分を含む、請求項1記載の方法。
【請求項9】
タリウム指示薬が環境に感受性のある蛍光色素である、請求項1記載の方法。
【請求項10】
タリウム指示薬が非蛍光化合物である、請求項1記載の方法。
【請求項11】
タリウム指示薬がタリウムと結びついて沈殿物または着色生成物を形成する、請求項10記載の方法。
【請求項12】
タリウム指示薬がヨウ化物、臭化物およびクロム酸塩から選択されたイオンである請求項10記載の方法。
【請求項13】
タリウム指示薬がタリウムイオンの存在下で蛍光強度の減少を示す、請求項1記載の方法。
【請求項14】
タリウム指示薬がANTS、Fluo-4、Fluo-3、PBFI、フェングリーン、APTRA-BTCまたはMag-Fura Red、またはその誘導体もしくは塩である、請求項13記載の方法。
【請求項15】
タリウム指示薬がタリウムイオンの存在下で蛍光の増加を示す、請求項1記載の方法。
【請求項16】
タリウム指示薬がマグネシウムグリーン、Fluo-4FF、FluoZin-1またはFluoZin-2、RhodZin-3、またはその誘導体もしくは塩である、請求項15記載の方法。
【請求項17】
タリウム指示薬がタリウム感受性分析で25%以上の蛍光強度変化を示す蛍光化合物である、請求項1記載の方法。
【請求項18】
タリウム指示薬が一価または二価のカチオンに感受性のある蛍光化合物である、請求項17記載の方法。
【請求項19】
タリウム指示薬がZn2+またはCa2+指示薬である、請求項18記載の方法。
【請求項20】
タリウム指示薬がキサンテン部分を含む、請求項1記載の方法。
【請求項21】
タリウム指示薬がFluoZin 1、FluoZin 2、FluoZin 3、FluoZin 4、Red Fluo-4FF、マグネシウムグリーン、フェングリーン、RhodZin-3、またはその誘導体もしくは塩である、請求項20記載の方法。
【請求項22】
タリウム指示薬がクマリン部分を含む、請求項1記載の方法。
【請求項23】
タリウム指示薬がBTCまたはAPTRA-BTC、またはその誘導体もしくは塩である、請求項22記載の方法。
【請求項24】
タリウム指示薬がベンゾフラン部分を含む、請求項1記載の方法。
【請求項25】
タリウム指示薬がMag-Fura Redまたはその誘導体もしくは塩である、請求項24記載の方法。
【請求項26】
タリウム指示薬がナフタレン部分を含む、請求項1記載の方法。
【請求項27】
タリウム指示薬がクラウンエーテル部分を含む、請求項26記載の方法。
【請求項28】
タリウム指示薬がアセトキシメチルエステル部分を含む、請求項1〜27のいずれか一項記載の方法。
【請求項29】
添加緩衝液の塩素イオン濃度が約2 mMより大きい、請求項1記載の方法。
【請求項30】
添加緩衝液の塩素イオン濃度が約5 mM〜約20 mMである、請求項1記載の方法。
【請求項31】
添加緩衝液の塩素イオン濃度が約20 mM〜約100 mMより大きい、請求項1記載の方法。
【請求項32】
添加緩衝液の塩素イオン濃度が約50 mM〜約150 mMである、請求項1記載の方法。
【請求項33】
塩素イオン源がNaClまたはKClである、請求項1記載の方法。
【請求項34】
タリウムが塩の形態である、請求項1記載の方法。
【請求項35】
タリウム塩が添加緩衝液に可溶性である、請求項34記載の方法。
【請求項36】
タリウム塩がTl2SO4、Tl2CO3、TlCl、TlOH、TlOAc、およびTlNO3から選択される、請求項34記載の方法。
【請求項37】
刺激緩衝液が約4.0 mM未満の濃度のタリウムを含む、請求項1記載の方法。
【請求項38】
刺激緩衝液が約3.0 mM未満の濃度のタリウムを含む、請求項1記載の方法。
【請求項39】
刺激緩衝液が約0.1〜約2.0 mMの濃度のタリウムを含む、請求項1記載の方法。
【請求項40】
刺激緩衝液が約0.1 mM〜約20 mMの濃度のタリウムを含み、かつ添加緩衝液が、約50 mM〜約150 mMの濃度の塩素イオンを含む、請求項1〜39のいずれか一項記載の方法。
【請求項41】
刺激緩衝液が約2.0 mM〜約5.0 mMの濃度のタリウムを含み、かつ添加緩衝液が、約50 mM〜約150 mMの濃度の塩素イオンを含む、請求項1〜39のいずれか一項記載の方法。
【請求項42】
タリウムレベルを定量化する段階をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項43】
タリウムレベルを定量化する段階が、タリウム流入に反応したタリウム指示薬の少なくとも一つの光学特性を測定する段階を含む、請求項42記載の方法。
【請求項44】
タリウム指示薬の少なくとも一つの光学特性が強度、極性、周波数、または光学密度である、請求項43記載の方法。
【請求項45】
タリウム指示薬が光学顕微鏡法、共焦点顕微鏡法、蛍光顕微鏡法または分光光度法で検出される、請求項1記載の方法。
【請求項46】
添加緩衝液が細胞に提供された後に細胞を洗浄する段階をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項47】
添加緩衝液が細胞に提供された後に細胞を洗浄する段階を含まない、請求項1記載の方法。
【請求項48】
添加緩衝液に消光剤を添加する段階をさらに含む、請求項47記載の方法。
【請求項49】
消光剤が実質的に細胞透過性でない、請求項48記載の方法。
【請求項50】
消光剤がタートラジン、アマランス、アシッドレッド37、コンゴレッド、トリパンブルー、ブリリアントブラック、またはこれらの組み合わせである、請求項48記載の方法。
【請求項51】
イオンチャネルを刺激で刺激する段階をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項52】
刺激がイオンチャネルに結合するリガンド、チャネル連結型受容体、または電気刺激である、請求項51記載の方法。
【請求項53】
刺激が、GIRKカリウムイオンチャネルを活性化してタリウムを流入させることができるGタンパク質共役受容体アゴニストである、請求項51記載の方法。
【請求項54】
刺激がニコチン、アセチルコリン、ムスカリン、カルバミリン、またはGIRKカリウムイオンチャネル活性化剤である、請求項51記載の方法。
【請求項55】
刺激がイオンチャネルの脱分極を生じる組成物を含む、請求項51記載の方法。
【請求項56】
組成物がイオノフォア、バリノマイシン、またはカリウム塩を含む、請求項55記載の方法。
【請求項57】
組成物がチャネル・ロドプシン、ハロロドプシン、または量子ドットナノ結晶を含む、請求項55記載の方法。
【請求項58】
以下の段階を含む、細胞内のイオンチャネルの活性を検出する方法:
a)イオンチャネルを含む細胞にタリウムを負荷する段階、
b)細胞に、タリウム指示薬および生理的濃度の塩素イオンを含む溶液を提供する段階、
c)イオンチャネルを通してタリウムの流出を生じるように細胞のイオンチャネルを刺激する段階、ならびに
d)タリウム指示薬を検出する段階。
【請求項59】
過剰のタリウムを除去するために細胞を洗浄する段階をさらに含む、請求項58記載の方法。
【請求項60】
イオンチャネルがタリウム指示薬に対して不透過性である、請求項58記載の方法。
【請求項61】
以下の段階を含む、細胞内のイオンチャネルの活性を検出する方法:
a)細胞を添加緩衝液と接触させる段階であって、ここで該細胞はイオンチャネルを含み、かつ該添加緩衝液はタリウム指示薬および生理的濃度の塩素イオンを含む、段階、
b)該細胞にタリウムを含む刺激緩衝液を提供する段階であって、それによりイオンチャネルを通してのタリウムの細胞への流入が起こる、段階、ならびに
c)タリウム指示薬を検出する段階。
【請求項62】
イオンチャネルがカリウムイオンチャネル、受容体に連結したイオンチャネル、チャネル連結型受容体、およびイオントランスポーターから選択される、請求項1〜61のいずれか一項記載の方法。
【請求項63】
イオンチャネルがリガンドまたは電位依存性のイオンチャネル、伸展活性化カチオンチャネル、または選択的または非選択的カチオンチャネルである、請求項1〜61のいずれか一項記載の方法。
【請求項64】
細胞が細菌、酵母、植物および動物細胞から成る群より選択される、請求項1〜61のいずれか一項記載の方法。
【請求項65】
細胞が哺乳動物細胞である、請求項1〜61のいずれか一項記載の方法。
【請求項66】
細胞がカリウムチャネルを含む、請求項1〜61のいずれか一項記載の方法。
【請求項67】
細胞がニューロン、心臓細胞、がん細胞、または平滑筋細胞である、請求項1〜61のいずれか一項記載の方法。
【請求項68】
細胞が不死化細胞である、請求項1〜61のいずれか一項記載の方法。
【請求項69】
イオンチャネルがタリウムイオンに対して透過性である、請求項1〜61のいずれか一項記載の方法。
【請求項70】
タリウム指示薬がANTS、Fluo-4、Fluo-3、PBFI、フェングリーン、マグネシウムグリーン、Mag-Fura Red、Fluo-4FF、FluoZin-1およびFluoZin-2、RhodZin-3、またはその誘導体もしくは塩から成る群より選択される、請求項1〜61のいずれか一項記載の方法。
【請求項71】
タリウム指示薬がANTS、Fluo-4、Fluo-3、PBFI、フェングリーン、マグネシウムグリーン、Mag-Fura Red、Fluo-4FF、FluoZin-1、RhodZin-3およびFluoZin-2、またはその塩から成る群より選択される化合物のアセトキシメチル(AM)エステル誘導体である、請求項1〜61のいずれか一項記載の方法。
【請求項72】
以下を含む、細胞内のイオンチャネルの活性を検出するためのキット:
a)タリウム指示薬および生理的濃度の塩素イオンを含む添加緩衝液、ならびに
b)タリウムを含み、かつイオンチャネルを通してのタリウムの細胞への流入を引き起こす刺激緩衝液。
【請求項73】
以下を含む、細胞内のイオンチャネルの活性を検出するためのキット:
a)タリウムを含むタリウム負荷溶液、ならびに
b)タリウム指示薬および生理的濃度の塩素イオンを含む添加緩衝液。
【請求項74】
以下を含む、細胞内のイオンチャネルの活性を検出するための溶液:
a)タリウム指示薬、
b)生理的濃度の塩素イオン、および
c)タリウム。
【請求項75】
溶液中のタリウム濃度が< 4.5 mMである、請求項74記載の溶液。
【請求項76】
溶液中のタリウム濃度が約0.1 mM〜約4 mMである、請求項74記載の溶液。
【請求項77】
溶液中のタリウム濃度が約0.1 mM〜約2 mMである、請求項74記載の溶液。
【請求項78】
溶液中の塩素イオン濃度が約10 mM〜約150 mMである、請求項74〜77のいずれか一項記載の溶液。
【請求項79】
溶液中の塩素イオン濃度が約50 mM〜約150 mMである、請求項74〜77のいずれか一項記載の溶液。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2011−501155(P2011−501155A)
【公表日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−530083(P2010−530083)
【出願日】平成20年10月15日(2008.10.15)
【国際出願番号】PCT/US2008/079997
【国際公開番号】WO2009/052183
【国際公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【出願人】(502221282)ライフ テクノロジーズ コーポレーション (113)
【Fターム(参考)】