説明

タンパク質の製造のための酵母株

ピチア・パストリス(P.pastoris)を含む酵母および真菌のade1およびade2栄養要求性株に基づく、発現系のための方法および系を開示する。該発現系は、形質転換細胞系の細胞生産性の増加および工業的規模の組換え糖タンパク質の製造に有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(1)発明の分野
本発明は分子生物学の分野に関する。特に、本発明は、形質転換された発現系からのタンパク質産生の改善に使用される新規選択遺伝子に関する。
【背景技術】
【0002】
(2)関連分野の説明
近年、出芽酵母ピチア・パストリス(Pichia pastoris)は、学術的および商業的に関心のある異種タンパク質の発現のための、人気のある生物となっている(Cereghinoら,Curr.Opin.Biotechnol.4:329−332(2002);CereghinoおよびCregg,FEMS Microbiol.Rev.24:45−66(2000))。ピチア・パストリス(P.pastoris)グリコシル化装置を遺伝的に修飾し、複合型ヒトグリカンで修飾された異種糖タンパク質を発現させることが可能であることが最近示された(Choiら,Proc.Natl.Acad.Sci.100:5022−5027(2003);Hamiltonら,Science 301:1244−1246(2003);Bobrowiczら,Glycobiology 14:757−766(2004);Hamilton,Science,313:1441−1443(2006))。しかし、形質転換ピチア・パストリス(P.pastoris)細胞系のような形質転換細胞における、より高い細胞産生を達成するための方法および物質に対する需要が依然として存在する。
【0003】
長年にわたり、多数の栄養要求性および優性選択マーカーが開発されており(Higginsら,Methods Mol.Biol.103:41−53(1998);Lin Cereghinoら,Gene 263:159−169(2001);NettおよびGerngross,Yeast 20:1279−1290(2003);Nettら,Yeast 22:295−304(2005))、種々の用途のタンパク質発現ベクターを構築するために使用されている。一般に、マーカー遺伝子、プラスミド上の別の相同領域またはAOX1プロモーター断片において線状化され、適当な栄養要求性突然変異体内に形質転換されたプラスミドを使用して、関心のある遺伝子がピチア・パストリス(P.pastoris)ゲノム内に組み込まれる。その場合、該遊離DNA末端の相同組換えがこれらの遺伝子座内への単一交差型組込みを引き起こす。ピチア・パストリス(P.pastoris)形質転換体は単コピーの該発現ベクターを含有するが、関心のあるタンパク質を高レベルで発現する形質転換体を得るためには、多コピー組込み体に関してスクリーニングすることが、しばしば望ましい。KanまたはZeoのような薬物耐性遺伝子を選択マーカーとして含有する発現ベクターを使用して、選択に使用される薬物のレベルを増加させることにより、多コピーの発現ベクターを含有する形質転換体の数を増加させることが可能である。単一交差型組込みの1つの重要な欠点は、複数の組込みコピーが相同組換えにより壊れて単コピーに戻りうることである。これは、関心のあるタンパク質が該細胞に対して毒性である又は該発現プラスミドの幾つかのコピーの排除が該細胞の他の成長上の利益を有する場合、発酵中の発現反応の大規模化において特に問題となりうる。
【0004】
米国特許第5,584,039号は、ピチア・メタノリカ(Pichia methanolica)から単離された選択マーカー遺伝子ADE2に関するものである。Piontekら,Appl Microbiol.Biotechnol.50:331−338(1998)は、シュワンニオマイセス・オクシデンタリス(Schwanniomyces occidentalis)およびピチア・スチピチス(Pichia stipitis)における新規遺伝子発現系に関するものであり、該系は、ADE2マーカーと推定複製配列とを含有するベクターを利用する。しかし、対応する遺伝子はピチア・パストリス(P.pastoris)からは未だ単離されておらず、ピチア・パストリス(P.pastoris)におけるADE2での形質転換の効果は未だ確認されていない。
【0005】
したがって、宿主発現系としてピチア・パストリス(P.pastoris)酵母を使用する、異種遺伝子の形質転換、選択および発現のための改良方法が必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許出願公開第5,584,039号
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Cereghinoら,Curr.Opin.Biotechnol.4:329−332(2002)
【非特許文献2】CereghinoおよびCregg,FEMS Microbiol.Rev.24:45−66(2000)
【非特許文献3】Choiら,Proc.Natl.Acad.Sci.100:5022−5027(2003)
【非特許文献4】Hamiltonら,Science 301:1244−1246(2003)
【非特許文献5】Bobrowiczら,Glycobiology 14:757−766(2004)
【非特許文献6】Hamilton,Science,313:1441−1443(2006)
【非特許文献7】Higginsら,Methods Mol.Biol.103:41−53(1998)
【非特許文献8】Lin Cereghinoら,Gene 263:159−169(2001)
【非特許文献9】NettおよびGerngross,Yeast 20:1279−1290(2003)
【非特許文献10】Nettら,Yeast 22:295−304(2005)
【非特許文献11】Piontekら,Appl Microbiol.Biotechnol.50:331−338(1998)
【発明の概要】
【0008】
発明の概括
本発明は、組換えタンパク質を発現させるための発現系としての酵母または糸状菌のような下等真核細胞の使用のための方法および物質を提供する。
【0009】
1つの態様においては、該方法は、下等真核細胞の、より遅く成長するade2栄養要求性株の構築、およびプロモーターに機能的に連結されたADE2マーカー遺伝子またはオープンリーディングフレーム(ORF)および組換えタンパク質をコードする核酸を含みade2栄養要求性株のゲノム内に組込まれうる組込みベクターの使用に基づくものであり、ここで、該組込みベクターは該ade2栄養要求性株のゲノム内に組込まれ、該ADE2は該栄養要求性株をアデニンに関して原栄養性にし、該組換えタンパク質が発現される。
【0010】
したがって、(a)Ade2pをコードする内因性ADE2遺伝子がピチア・パストリス(Pichia pastoris)宿主細胞のゲノムから除去されている該ピチア・パストリス(Pichia pastoris)宿主細胞と、(b)組込みベクター[該組込みベクターは、(1)Ade2pをコードする核酸、(2)関心のある1以上の異種ペプチド、タンパク質および/または機能性核酸をコードする核酸を含む1以上の発現カセットの挿入のための挿入部位を有する核酸、ならびに(3)相同組換えによる該宿主細胞のゲノムの特定の位置への該組込みベクターの挿入を導く標的化核酸を含む]とを含む発現系を提供する。
【0011】
また、異種タンパク質またはペプチドを発現する組換えピチア・パストリス(Pichia pastoris)宿主細胞の製造方法をも提供する。ここで、該製造方法は、(a)Ade2pをコードする内因性ADE2遺伝子が宿主細胞のゲノムから除去されている該宿主細胞を準備し、(a)組込みベクター[該組込みベクターは、(1)Ade2pをコードする核酸、(2)関心のある1以上の異種ペプチド、タンパク質および/または機能性核酸をコードする核酸を含む1以上の発現カセットを有する核酸、ならびに(3)相同組換えによる該宿主細胞のゲノムの特定の位置への該組込みベクターの挿入を導く標的化核酸を含む]で該宿主細胞を形質転換することを含み、ここで、該形質転換宿主細胞は該組換えタンパク質を産生する。
【0012】
さらに、ピチア・パストリス(Pichia pastoris)のADE2遺伝子を含む単離された核酸を提供する。特定の態様においては、該核酸は、Ade2pタンパク質をコードするオープンリーディングフレームを含み、あるいは該核酸は、ヌクレオチド127〜ヌクレオチド1,815の配列番号60に示されている核酸配列に対して95%の同一性を有するヌクレオチド配列を有する。さらに、配列番号61に示されているアミノ酸配列に対して95%の同一性を有するアミノ酸配列を含む単離されたポリペプチドを提供する。
【0013】
本出願人は更に、低い転写活性を有するプロモーターである該組込みベクター内の最小プロモーターに栄養要求性マーカー遺伝子またはORFを機能的に連結させることが、該栄養要求性宿主細胞のゲノム内に組込まれた該組込みベクターの十分な数のコピーを含有する組換え宿主細胞の産生を可能にして、該細胞を原栄養性にし、該ゲノム内に組込まれた該組込みベクターの1コピーのみを含有する細胞において産生されるであろう量より多量の関心のある組換えタンパク質または機能性核酸を該細胞が産生することを可能にすることを見出した。
【0014】
したがって、下等真核細胞の栄養要求性株を入手または構築する方法を提供し、また、弱いプロモーター、減衰化内因性もしくは異種プロモーター、潜在性(クリプティック)プロモーターまたはトランケート化内因性もしくは異種プロモーターに機能的に連結された該栄養要求性を相補するマーカー遺伝子またはORFおよび組換えタンパク質をコードする核酸を含み該栄養要求性株のゲノム内に組込まれうる組込みベクターを提供する。該宿主細胞の栄養要求性を相補するよう幾つかの該組込みベクターがゲノム内に組込まれた宿主細胞を、該栄養要求性を相補する代謝産物を欠く培地において選択し、該栄養要求性を相補する代謝産物を欠く培地において、または該代謝産物を含有する培地において(なぜなら、その場合、該マーカーを含むプラスミドを含有しない細胞は、より遅く成長するからである)、該宿主細胞を増殖させることにより維持する。
【0015】
もう1つの実施形態においては、(a)栄養要求性選択マーカータンパク質をコードする内因性遺伝子が宿主細胞のゲノムから除去されている該宿主細胞と、(b)組込みベクター[該組込みベクターは、(1)弱いプロモーター、減衰化内因性もしくは異種プロモーター、潜在性(クリプティック)プロモーター、トランケート化内因性もしくは異種プロモーターに機能的に連結された又はプロモーターを伴わない、該栄養要求性選択マーカータンパク質をコードする内因性遺伝子の機能に相補的な機能をコードするオープンリーディングフレーム(ORF)を含む核酸、(2)関心のある1以上の異種ペプチド、タンパク質および/または機能性核酸をコードする核酸を含む1以上の発現カセットの挿入のための挿入部位を有する核酸、ならびに(3)相同組換えによる該宿主細胞のゲノムの特定の位置への該組込みベクターの挿入を導く標的化核酸を含む]とを含む発現系を提供する。
【0016】
さらにもう1つの実施形態においては、宿主細胞における組換えタンパク質の発現のための方法を提供し、該方法は、(a)栄養要求性選択マーカータンパク質をコードする内因性遺伝子が宿主細胞のゲノムから除去されている該宿主細胞を準備し、(a)組込みベクター[該組込みベクターは、(1)弱いプロモーター、減衰化内因性もしくは異種プロモーター、潜在性(クリプティック)プロモーター、トランケート化内因性もしくは異種プロモーターに機能的に連結された又はプロモーターを伴わない、該栄養要求性選択マーカータンパク質をコードする内因性遺伝子の機能に相補的な機能をコードするオープンリーディングフレーム(ORF)を含む核酸、(2)関心のある1以上の異種ペプチド、タンパク質および/または機能性核酸をコードする核酸を含む1以上の発現カセットの挿入のための挿入部位を有する核酸、ならびに(3)相同組換えによる該宿主細胞のゲノムの特定の位置への該組込みベクターの挿入を導く標的化核酸を含む]で該宿主細胞を形質転換することを含み、ここで、該形質転換宿主細胞は該組換えタンパク質を産生する。
【0017】
前記実施形態の他の態様においては、該栄養要求性選択マーカータンパク質は、ADE、URAおよびLYSよりなる群から選ばれる遺伝子によりコードされている。さらにもう1つの態様においては、該栄養要求性選択マーカータンパク質はADE1遺伝子またはADE2遺伝子によりコードされている。
【0018】
さらに他の態様においては、該組込みベクターは、関心のある1以上の異種ペプチド、タンパク質および/または機能性核酸をコードする1以上の発現カセットの挿入のための複数の挿入部位を含む。さらに他の態様においては、該組込みベクターは2以上の発現カセットを含む。さらに他の態様においては、該組込みベクターはそれらの発現カセットの間に相同DNA配列をほとんど又は全く含まない。さらに他の態様においては、該組込みベクターは、モノクローナル抗体の軽鎖をコードする第1発現カセットと、モノクローナル抗体の重鎖をコードする第2発現カセットとを含む。
【0019】
さらに他の態様においては、該宿主細胞は下等真核生物である。さらに他の態様においては、該宿主細胞は、ピチア・パストリス(Pichia pastoris)、ピチア・フィンランディカ(Pichia finlandica)、ピチア・トレハロフィラ(Pichia trehalophila)、ピチア・コクラメ(Pichia koclamae)、ピチア・メンブラネファシエンス(Pichia membranaefaciens)、ピチア・ミヌタ(Pichia minuta)[オガタエア・ミヌタ(Ogataea minuta)、ピチア・リンドネリ(Pichia lindneri)]、ピチア・オプンチエ(Pichia opuntiae)、ピチア・テルモトレランス(Pichia thermotolerans)、ピチア・サリクタリア(Pichia salictaria)、ピチア・グエルクウム(Pichia guercuum)、ピチア・ピエペリ(Pichia pijperi)、ピチア・スティプティス(Pichia stiptis)、ピチア・メタノリカ(Pichia methanolica)、ピチア属種(Pichia sp.)、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、サッカロミセス属種(Saccharomyces sp.)、ハンゼヌラ・ポリモルファ(Hansenula polymorpha)、クライベロミセス属種(Kluyveromyces sp.)、クライベロミセス・ラクチス(Kluyveromyces lactis)、カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)、アスペルギルス・ニデュランス(Aspergillus nidulans)、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)、アスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)、トリコデルマ・レエセイ(Trichoderma reesei)、クリソスポリウム・ルクノウェンセ(Chrysosporium lucknowense)、フザリウム属種(Fusarium sp.)、フザリウム・グラミネウム(Fusarium gramineum)、フザリウム・ベネナツム(Fusarium venenatum)、フィスコミトレラ・パテンス(Physcomitrella patens)およびニューロスポラ・クラッサ(Neurospora crassa)よりなる群から選ばれる種のものである。さらに他の態様においては、請求項1の発現系において、該宿主細胞は、ピチア・パストリス(Pichia pastoris)、または混合型もしくは複合型N−グリカンを有する糖タンパク質を産生しうるよう修飾されたピチア・パストリス(Pichia pastoris)細胞である。
【0020】
定義
本明細書中で特に定められていない限り、本発明に関して用いる科学技術用語および表現は、当業者に一般に理解されている意義を有するものとする。さらに、文脈に矛盾しない限り、単数形の用語は複数形を含むものとし、複数形の用語は単数形を含むものとする。一般に、本明細書に記載の生化学、酵素学、分子細胞生物学、微生物、遺伝学ならびにタンパク質および核酸の化学およびハイブリダイゼーションに関して用いる名称、ならびにそれらの技術は、当技術分野においてよく知られており一般に用いられているものである。一般に、本発明の方法および技術は、特に示さない限り、当技術分野でよく知られている通常の方法に従い、ならびに本明細書中に引用され記載されている種々の全般的およびより具体的な参考文献に記載されているとおりに行われる。例えば、Sambrookら,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,2d ed.,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,N.Y.(1989);Ausubelら,Current Protocols in Molecular Biology,Greene Publishing Associates(1992,and Supplements to 2002);HarlowおよびLane,Antibodies:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,N.Y.(1990);Taylor and Drickamer,Introduction to Glycobiology,Oxford Univ.Press(2003);Worthington Enzyme Manual,Worthington Biochemical Corp.,Freehold,NJ;Handbook of Biochemistry:Section A Proteins,Vol I,CRC Press(1976);Handbook of Biochemistry: Section A Proteins,Vol II,CRC Press(1976);Essentials of Glycobiology,Cold Spring Harbor Laboratory Press(1999)を参照されたい。本明細書に記載の全ての刊行物、特許および他の参考文献の全体を、参照により本明細書に組み入れることとする。
【0021】
本明細書においては、酵母の染色体遺伝子を命名するための遺伝学的命名法が用いられている。各遺伝子、対立遺伝子または遺伝子座は3つのイタリック体の文字により示されている。優性対立遺伝子は、その遺伝子記号の全文字の大文字を用いることにより示されており(例えば、アデニン2遺伝子に関するADE2)、一方、小文字は劣性対立遺伝子を示す(例えば、アデニン2の栄養要求性マーカーに関するade2)。野生型遺伝子は上付き「+」により示され、突然変異体は上付き「−」により示される。記号Δは部分的または完全な欠失を示しうる。遺伝子の挿入は、記号「::」を用いることにより、細菌学的命名法に準拠している。例えば、trp2::ARG2はTRP2遺伝子座におけるARG2遺伝子の挿入を示し、この場合、ARG2が優性(かつ機能性)であり、trp2が劣性(かつ欠損性)である。遺伝子によりコードされるタンパク質は、大文字の頭文字および通常は接尾語「p」を伴う非イタリック体の関連遺伝子記号により示される。例えば、ADE2によりコードされるアデニン2タンパク質はAde2pである。表現型は、大文字の頭文字を伴う、遺伝子記号に対応する非イタリック体の3文字略語により示される。野生型株は「+」上付き記号により示され、突然変異体は「−」上付き記号により示される。例えば、Ade2は野生型表現型であり、一方、Ade2は栄養要求性表現型(アデニンを要するもの)である。
【0022】
本明細書中で用いる「ベクター」なる語は、それに連結された別の核酸を運搬しうる核酸分子を意味すると意図される。1つのタイプのベクターは「プラスミド」であり、これは、追加的なDNA断片が連結されうる環状二本鎖DNAループを意味する。他のベクターには、コスミド、細菌人工染色体(BAC)および酵母人工染色体(YAC)が含まれる。もう1つのタイプのベクターは、追加的なDNA断片がウイルスゲノム内に連結されうるウイルスベクターである(後記において更に詳しく説明する)。あるベクターは、それが導入される宿主細胞において自律複製することが可能である(例えば、該宿主細胞内で機能する複製起点を有するベクター)。他のベクターは宿主細胞内への導入の際に宿主細胞のゲノム内に組込まれることが可能であり、それにより、宿主ゲノムと共に複製される。さらに、ある好ましいベクターは、それが機能的に連結されている遺伝子の発現を導きうる。そのようなベクターは本明細書中では「組換え発現ベクター」(または単に「発現ベクター」)と称される。
【0023】
「組込みベクター」なる語は、選択マーカー遺伝子またはオープンリーディングフレーム(ORF)、標的化核酸、関心のある1以上の遺伝子または核酸、および微生物自律性DNA複製開始部位(以下、DNA複製起点、例えば、細菌に関してはORIと称される)として機能する核酸配列を含有する、宿主細胞内に組込まれうるベクターを意味する。該組込みベクターは、宿主細胞ゲノムの特異的遺伝子座内にDNAの直鎖状断片を組込む相同組換えのようなDNA組換えの過程により該ベクターが該宿主細胞ゲノム内に組込まれた場合にのみ、該宿主細胞内で複製されうる。例えば、該標的化核酸は該組込みベクターを該ゲノム内の対応領域へ標的化し、ついで、その部位において、それは相同組換えにより該ゲノム内に組込まれる。
【0024】
「選択マーカー遺伝子」、「選択マーカー遺伝子」、「選択マーカー配列」などの語は、該マーカー遺伝子を含有しない宿主と比べた場合の遺伝的利点を形質転換宿主にもたらすベクター上に含有された遺伝子または核酸配列を意味する。例えば、ピチア・パストリス(P.pastoris)URA5遺伝子はマーカー遺伝子である。なぜなら、該遺伝子を含有する細胞がウラシルの非存在下で増殖しうることにより、その存在が選択されうるからである。その存在は、該遺伝子を含有する細胞が5−FOAの存在下で増殖し得ないことによっても選択されうる。選択マーカー遺伝子または配列は、正および負の両方の選択可能性を示すことを必ずしも要しない。ピチア・パストリス(P.pastoris)由来のマーカー配列または遺伝子の非限定的な具体例には、ADE1、ADE2、ARG4、HIS4、LYS2、URA5およびURA3が含まれる。一般に、本明細書に開示されている発現系において使用される選択マーカー遺伝子は、該宿主における栄養要求性突然変異を相補する遺伝子産物をコードする。栄養要求性突然変異または栄養要求性は、生物が、その成長に要求される特定の有機化合物または代謝産物を合成し得ないことを意味する(IUPACによる定義)。栄養要求体は、この特徴を示す生物であり、「栄養要求(の)」は、対応する形容詞である。栄養要求性は原栄養性の反対語である。
【0025】
「標的化核酸」なる語は、「標的遺伝子座」と称される、宿主における特異的相同遺伝子座内への、ベクター組込みプラスミドの相同組換えによる挿入を導くベクタープラスミド上に含有された核酸を意味する。
【0026】
「関心のある配列」または「関心のある遺伝子」または「関心のある核酸」なる語は、典型的には、宿主細胞内で通常は発現されないタンパク質または機能性RNAをコードする核酸配列を意味する。本明細書に開示されている方法は、宿主ゲノム内に安定に組込まれた1以上の関心のある配列または関心のある遺伝子の効率的発現を可能にする。関心のある配列の非限定的な具体例には、酵素活性を有する1以上の関心のあるポリペプチド、例えば、宿主におけるN−グリカン合成に影響を及ぼす酵素、例えばマンノシルトランスフェラーゼ、N−アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼ、UDP−N−アセチルグルコサミントランスポーター、ガラクトシルトランスフェラーゼ、UDP−N−アセチルガラクトシルトランスフェラーゼ、シアリルトランスフェラーゼ、フコシルトランスフェラーゼ、エリスロポエチン、サイトカイン、例えばインターフェロン−α、インターフェロン−β、インターフェロン−γ、インターフェロン−ωおよび顆粒球−CSF、凝固因子、例えば因子VIII、因子IXおよびヒトプロテインC、可溶性IgE受容体α鎖、IgG、IgM、ウロキナーゼ、キマーゼ、尿素トリプシンインヒビター、IGF−結合性タンパク質、上皮増殖因子、増殖ホルモン放出因子、アネキシンV融合タンパク質、アンジオスタチン、血管内皮増殖因子−2、骨髄系前駆体抑制因子−1およびオステオプロテゲリンをコードする配列が含まれる。
【0027】
「機能的に連結」なる語は、発現制御配列が、関心のある遺伝子もしくは配列または選択マーカー遺伝子もしくは配列に隣接して連結されていて、該遺伝子または配列の発現を制御すること、ならびにトランスで又は或る距離を隔てて作用する発現制御配列が、関心のある遺伝子を制御するように連結されていることを意味する。
【0028】
本明細書中で用いる「発現制御配列」なる語は、それが機能的に連結されているコード配列の発現に影響を及ぼすのに必要なポリヌクレオチド配列を意味する。発現制御配列は、核酸配列の転写、転写後事象および翻訳を制御する配列である。発現制御配列には、適当な転写開始配列、終結配列、プロモーター配列およびエンハンサー配列;効率的なRNAプロセッシングシグナル、例えばスプライシングおよびポリアデニル化シグナル;細胞質mRNAを安定化する配列;翻訳効率を増強する配列(例えば、リボソーム結合部位);タンパク質安定性を増強する配列;ならびに望ましい場合には、タンパク質分泌を促進する配列が含まれる。そのような制御配列の性質は宿主生物によって異なり、原核生物においては、そのような制御配列には、一般に、プロモーター、リボソーム結合部位および転写終結配列が含まれる。「制御配列」なる語は、少なくとも、発現のために存在が必須である全ての成分を含むと意図され、存在することが有利である追加的な成分、例えばリーダー配列および融合相手の配列をも含みうる。
【0029】
本明細書中で用いる「組換え宿主細胞」(「発現宿主細胞」、「発現宿主系」、「発現系」または単に「宿主細胞」)なる語は、組換えベクターが導入された細胞を意味すると意図される。そのような用語は、その特定の対象細胞だけでなく、そのような細胞の後代をも意味すると意図されると理解されるべきである。突然変異または環境の影響により、後の世代において、ある修飾が生じうるため、そのような後代は実際には親細胞と同一でない可能性があるが、本明細書中で用いる「宿主細胞」なる語の範囲内に尚も含まれる。組換え宿主細胞は、培養内で増殖した単離された細胞または細胞系であることが可能であり、あるいは、生きた組織または生物に存在する細胞でありうる。
【0030】
「真核生物」なる語は有核細胞または生物を意味し、昆虫細胞、植物細胞、哺乳類細胞、動物細胞および下等真核細胞を意味する。
【0031】
「下等真核細胞」なる語は、酵母、単細胞および多細胞真菌または糸状菌を含む。「酵母」および「真菌」には、限定的なものではないが、ピチア・パストリス(Pichia pastoris)、ピチア・フィンランディカ(Pichia finlandica)、ピチア・トレハロフィラ(Pichia trehalophila)、ピチア・コクラメ(Pichia koclamae)、ピチア・メンブラネファシエンス(Pichia membranaefaciens)、ピチア・ミヌタ(Pichia minuta)[オガタエア・ミヌタ(Ogataea minuta)、ピチア・リンドネリ(Pichia lindneri)]、ピチア・オプンチエ(Pichia opuntiae)、ピチア・テルモトレランス(Pichia thermotolerans)、ピチア・サリクタリア(Pichia salictaria)、ピチア・グエルクウム(Pichia guercuum)、ピチア・ピエペリ(Pichia pijperi)、ピチア・スティプティス(Pichia stiptis)、ピチア・メタノリカ(Pichia methanolica)、ピチア属種(Pichia sp.)、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、サッカロミセス属種(Saccharomyces sp.)、ハンゼヌラ・ポリモルファ(Hansenula polymorpha)、クライベロミセス属種(Kluyveromyces sp.)、クライベロミセス・ラクチス(Kluyveromyces lactis)、カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)、アスペルギルス・ニデュランス(Aspergillus nidulans)、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)、アスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)、トリコデルマ・レエセイ(Trichoderma reesei)、クリソスポリウム・ルクノウェンセ(Chrysosporium lucknowense)、フザリウム属種(Fusarium sp.)、フザリウム・グラミネウム(Fusarium gramineum)、フザリウム・ベネナツム(Fusarium venenatum)、フィスコミトレラ・パテンス(Physcomitrella patens)およびニューロスポラ・クラッサ(Neurospora crassa)が含まれる。
【0032】
本明細書中で用いる「ペプチド」なる語は、短いポリペプチド、例えば、典型的には約50アミノ酸長未満、より典型的には約30アミノ酸長未満のポリペプチドを意味する。本明細書中で用いる該用語は、ポリペプチドおよびタンパク質の構造的機能、ひいては生物学的機能を模倣した誘導体、突然変異体、類似体および模倣体を含む。
【0033】
「ポリペプチド」なる語は、天然で生じるタンパク質および非天然で生じるタンパク質の両方ならびにそれらの断片、突然変異体、誘導体および類似体を含む。ポリペプチドは単量体または重合体でありうる。さらに、ポリペプチドは、1以上の異なる活性をそれぞれが有する多数の異なるドメインを含みうる。
【0034】
「融合タンパク質」なる語は、異種アミノ酸配列に結合したポリペプチドまたは断片を含むポリペプチドを意味する。融合タンパク質は、2以上の異なるタンパク質からの2以上の所望の機能要素を含有するよう構築されうるため、有用である。融合タンパク質は、関心のあるポリペプチドからの少なくとも10個の連続的アミノ酸、より好ましくは少なくとも20または30アミノ酸、より一層好ましくは少なくとも40、50または60アミノ酸、さらに好ましくは少なくとも75、100または125アミノ酸を含む。本発明のタンパク質の全体を含む融合体が特に有用である。本発明の融合タンパク質内に含まれる異種ポリペプチドは少なくとも6アミノ酸長、しばしば、少なくとも8アミノ酸長、有用なものとしては、少なくとも15、20および25アミノ酸長である。融合体は、より大きなポリペプチド、または更にはタンパク質全体、例えば緑色蛍光タンパク質(「GFP」)、特定の有用性を有する発色団含有タンパク質をも含む。融合タンパク質は、異なるタンパク質またはペプチドをコードする核酸配列とインフレームでポリペプチドまたはその断片をコードする核酸配列を構築し、ついで該融合タンパク質を発現させることにより、組換え的に製造されうる。あるいは、融合タンパク質は、ポリペプチドまたはその断片を別のタンパク質に架橋することにより、化学的に製造されうる。
【0035】
「機能性核酸」なる語は、宿主細胞内に導入され又は宿主細胞内で発現されると、タンパク質の発現を特異的に妨げる核酸分子を意味する。一般に、機能性核酸分子は、タンパク質をコードする転写産物と直接的に相互作用することにより該タンパク質の発現を軽減する能力を有する。リボザイム、アンチセンス核酸およびsiRNA分子、例えばshRNA分子、短いRNA(典型的には400塩基長未満)およびマイクロ−RNA(miRNA)が典型的な機能性核酸に相当する。
【0036】
特に示さない限り、本明細書中で用いる全ての科学技術用語は、本発明に関連する分野の当業者により一般に理解されているのと同じ意義を有する。典型的な方法および物質(材料)を以下に説明するが、本明細書に記載されているものと類似または同等の方法および物質も本発明の実施において使用可能であり、当業者に明らかであろう。本明細書に記載されている全ての刊行物および他の参考文献の全体を参照により本明細書に組み入れることとする。矛盾する場合には、定義を含めて本明細書が優先される。該材料、方法および実施例(具体例)は例示に過ぎず、限定的なものではない。
【0037】
発明の詳細な説明
本発明は、組換えペプチド、タンパク質または機能性核酸を発現させるための発現系としての下等真核細胞、例えば酵母または糸状菌の使用のための方法および物質を提供する。1つの態様においては、該方法は、下等真核細胞の、より遅く成長するade2栄養要求性株を入手または構築し、プロモーターに連結されたADE2マーカー遺伝子またはオープンリーディングフレーム(ORF)をコードする核酸および関心のある組換えタンパク質または機能性核酸を発現する核酸を含みade2栄養要求性株のゲノム内に組込まれうる組込みベクターを該細胞内に導入することを含む、組換えタンパク質を発現させるための方法を提供し、ここで、該組込みベクターは該ade2栄養要求性株のゲノム内に組込まれ、該ADE2は該栄養要求性株をアデニンに関して原栄養性にし、該組換えペプチド、タンパク質または機能性核酸が発現される。該組換え宿主細胞は、代謝産物アデニンを欠く培地において選択されるが、代謝産物アデニンを欠く培地において、または代謝産物アデニンを含む培地において維持されうる。一般に、ADE2マーカーを喪失しうる組換え宿主細胞(復帰変異体)は、より遅く成長し、該組換え細胞が成長するにつれて経時的に喪失するであろう。経時的な復帰変異体の喪失は、該組換え宿主細胞が、代謝産物アデニンを含む培地において成長するか又は代謝産物アデニンを欠く培地において成長するかに無関係に生じるであろう。
【0038】
前記発明の開発において、出願人は、特定のマーカー遺伝子に関して栄養要求性である下等真核宿主細胞内に組換えタンパク質を導入するための組込みベクターが、相補性マーカー遺伝子またはORFをコードする核酸を該組込みベクター内に含むが、該マーカー遺伝子またはORFが、天然プロモーターより低いレベルへとプロモーターの天然活性を軽減する弱い、減衰化、潜在性(クリプティック)もしくはトランケート化プロモーターに機能的に連結されている又はプロモーターが存在しない場合、該組込みベクターの2以上のコピーが該宿主細胞のゲノム内に組込まれるならば、該宿主細胞の栄養要求性が相補されうることを見出した。該組換え宿主細胞は該組込みベクターの2以上のコピーを含有し、該組込みベクターの各コピーは転写的に活性であるため、該組換え宿主細胞は、該宿主細胞を該栄養要求性マーカーに関して原栄養性にするのに十分な量の該マーカー遺伝子またはORFを産生することが可能であり、したがって、該栄養要求性を相補しうる代謝産物を欠く培地において成長することが可能である。該相補性マーカー遺伝子またはORFに連結されたプロモーターが弱ければ弱いほど、該宿主細胞のゲノム内に組込まれた組込みベクターの、より多数のコピーが、該宿主細胞を該栄養要求性マーカーに関して原栄養性にするのに必要とされる。該栄養要求性を相補しうる代謝産物を欠く培地における細胞の成長または継代中に、宿主ゲノム内に組込まれた組込みベクターのコピーを喪失する宿主細胞は、該マーカー遺伝子に関して再び栄養要求性となる。これらの新たに栄養要求性となった宿主細胞は該培地において淘汰的に不利であり、一般に、残りの原栄養性宿主細胞が成長し増殖し続けるにつれて、喪失する。重要なことに、該組込みベクターは、関心のある1以上の組換えタンパク質または機能性核酸を発現する発現カセットを含有するため、該組込みベクターの1以上のコピーを含有する宿主細胞は、該組込みベクターを1コピーしか含有しない宿主細胞において産生されるものより多量の該組換えタンパク質を産生するであろう。
【0039】
したがって、多量の組換えタンパク質(ペプチドを含む)または機能性核酸を産生しうる組換え宿主細胞を産生させるのに特に有用である方法、物質および系を提供する。したがって、本発明が提供する方法においては、下等真核細胞の栄養要求性株を入手または構築し、弱い、潜在性、減衰化もしくはトランケート化プロモーターに機能的に連結された又はプロモーターを伴わない該栄養要求性を相補するマーカー遺伝子またはORFおよび組換えタンパク質をコードする核酸を含み、該栄養要求性株のゲノム内に組込まれうる組込みベクターを準備する。該宿主細胞の栄養要求性を相補するよう幾つかの該組込みベクターが該ゲノム内に組込まれている宿主細胞を、該栄養要求性を相補する代謝産物を欠く培地において選択し、該栄養要求性を相補する代謝産物を欠く又は該栄養要求性を相補する代謝産物を含む培地において該宿主細胞を増殖させることにより、該宿主細胞を維持する。一般に、該栄養要求性マーカーを喪失しうる組換え宿主細胞(復帰変異体)は、より遅く成長し、該組換え細胞が成長するにつれて経時的に喪失するであろう。経時的な復帰変異体の喪失は、該組換え宿主細胞が、代謝産物アデニンを含む培地において成長するか又は代謝産物アデニンを欠く培地において成長するかに無関係に生じるであろう。この現象は、少なくとも、栄養要求性マーカーADE、URAまたはLYSに関して観察されており、少なくとも部分的には、該培地から該組換え宿主細胞内への該代謝産物の輸送不良によるものであると現在考えられている。
【0040】
一般的態様においては、組換え宿主細胞を特定の有機化合物に関して栄養要求性にするが、これは、該有機化合物を産生させるのに必要な遺伝子産物または該有機化合物もしくは代謝産物を産生させるための中間体を産生させるのに必要な遺伝子産物をコードする遺伝子または遺伝子座を除去し又は欠失させることにより行う。ついで該栄養要求性宿主細胞を組込みベクター[該組込みベクターは、(1)該栄養要求性を相補する選択マーカー遺伝子または他の核酸をコードするオープンリーディングフレーム(ORF)を含む核酸、(2)関心のある機能性核酸を発現する又は異種もしくは組換えタンパク質もしくはペプチドをコードする1以上のORFをコードする核酸、ならびに(3)相同組換えによる該宿主細胞のゲノムの特定の標的位置または遺伝子座への該組込みベクターの挿入を導く標的化配列を含む核酸を含む]で形質転換する。
【0041】
該プラスミド内の標的化配列は、該宿主細胞ゲノム内の任意の配列、例えば、宿主細胞遺伝子、宿主細胞プロモーターもしくはターミネーター配列または未知機能の配列を含みうる。宿主細胞内へのプロモーターまたはターミネーター配列内の組込みの場合、異種もしくは組換えタンパク質もしくはペプチドをコードする又は関心のある機能性核酸を発現する1以上のORFの発現を調節するために使用される該発現カセット内のプロモーターおよび/またはターミネーター配列は、該組込みベクターを標的位置へ標的化するための標的化配列としても機能しうる。例えば、前記(1)または(2)の核酸は、該組込みベクターが標的化されるプロモーターに隣接した宿主細胞遺伝子の場合、宿主細胞プロモーターに機能的に連結されうる。ロール・イン(roll−in)単一交差相同組換えによる該プロモーター内への該ベクターの組込みは該プロモーター配列の重複を引き起こす。したがって、組込み後、該発現カセットは、該標的化配列を含むプロモーターに、尚も、機能的に連結しており、該標的化配列であった該プロモーターに隣接する宿主細胞遺伝子は尚も機能的である。したがって、該組換え宿主細胞においては、異種タンパク質、ペプチドまたは機能性核酸の発現は、該標的化部位に隣接する宿主細胞遺伝子の発現を損なうことなく生じる。
【0042】
該組込みベクターを宿主細胞のゲノム内にロール・イン単一交差相同組換えにより組込むために、標的化配列が直鎖状核酸分子の末端に存在する該直鎖状核酸分子が得られるよう、該標的化配列内の部位において該組込みベクターを切断することにより、該ベクターを線状化する。単一交差事象はゲノム遺伝子座の重複を招き、直列反復を生成する。これらの直列反復は高い組換え率を示し、該組換え宿主細胞の増殖中に該マーカーおよび発現カセットの喪失をもたらしうるが、弱い、潜在性、減衰化もしくはトランケート化プロモーターに該マーカーが機能的に連結されている又はプロモーターが存在しない本明細書に開示されている方法は、増殖中に該宿主細胞を該マーカーに関して原栄養性にするのに十分なコピー数の組込みベクターを維持する宿主細胞のみを確保する。好ましい態様においては、該標的化配列内に1個だけ存在する制限酵素部位において該組込みベクターを線状化する。ついで該ベクターはロール・イン単一交差相同組換えにより該標的部位内に組込まれる。ロール・イン単一交差相同組換えは、該標的部位における該遺伝子の発現を損なうことなく該ゲノム内への該組込みベクターの組込みを可能にする。ロール・イン単一交差相同組換えはNettら,Yeast 22:295−304(2005)に記載されている。
【0043】
該組込みベクターの重要な特徴は、該選択マーカー遺伝子または他の核酸をコードするORFが、その内因性完全効力プロモーターにも異種完全効力プロモーターにも機能的に連結されておらず、弱いプロモーター、減衰化内因性もしくは異種プロモーター、潜在性プロモーターまたはトランケート化内因性もしくは異種プロモーター(この場合、該トランケート化は該プロモーターを該天然プロモーターより低い転写活性を有するようにする)に機能的に連結されていることである。特定の実施形態においては、該減衰化またはトランケート化プロモーターは、該完全効力プロモーターの活性の50%以下である転写活性を有する。他の実施形態においては、該減衰化またはトランケート化プロモーターは、該完全効力プロモーターの活性の10%以下である転写活性を有する。他の実施形態においては、該減衰化またはトランケート化プロモーターは、該完全効力プロモーターの活性の1%以下である転写活性を有する。いずれの理論にも束縛されるものではないが、一般に、該選択マーカー遺伝子をコードするORFに隣接する核酸配列は、該選択マーカー遺伝子の低レベルの発現を可能にするいわゆる潜在性(クリプティック)プロモーターを含有すると考えられている。潜在性プロモーターは、少量の該選択マーカーを産生するのに十分な、該ORFに隣接する十分な量の偽転写開始を可能にするであろう。該選択マーカー遺伝子の発現は、該栄養要求性を完全に相補するのに必要なレベルより低いため、該栄養要求性の完全相補のためには該宿主細胞内の標的配列内への該組込みベクターの多重組込みが必要である。該栄養要求性を相補するためには複数のコピーの該組込みベクターが該宿主細胞のゲノム内に組込まれなければならないため、関心のあるタンパク質またはペプチドまたは機能性核酸をコードする複数のコピーのORFが存在し、それらは全て発現される。したがって、該宿主細胞は、そのゲノム内に組込まれた組込みベクターを1コピーしか含まない宿主細胞の場合より多数の、関心のあるタンパク質またはペプチドまたは機能性核酸をコードしうる。
【0044】
該方法を実施する際には、組込みに関して該標的配列と競合しうる選択マーカー遺伝子配列が該栄養要求性宿主細胞内に全く存在しないことが好ましい。したがって、他の実施形態においては、(上流および下流領域を含む)該マーカーをコードする遺伝子全体が該ゲノムから欠失または除去されており、あるいは少なくとも、該マーカー遺伝子をコードするオープンリーディングフレームが該ゲノムから欠失または除去されている。該組込みベクターが標的遺伝子座内に組込まれている安定組換え宿主細胞は、特定の有機化合物(代謝産物)を欠く培地において該形質転換宿主細胞を培養することにより選択される。該選択マーカー遺伝子またはORFは内因性または異種完全効力プロモーターに機能的に連結されていないが、弱い、減衰化、潜在性プロモーターまたはトランケート化プロモーターに機能的に連結されているため(あるいは特定の態様においては、プロモーターが存在しないため)、該標的遺伝子座内に挿入された組込みベクターを1コピーのみ含有する組換え形質転換宿主細胞は該有機化合物または代謝産物に関して原栄養性にならない。該形質転換宿主細胞を該有機化合物または代謝産物に関して原栄養性にするためには、複数のコピーの該組込みベクターが該宿主細胞の標的遺伝子座内に組込まれる必要がある。また、複数のコピーの該組込みベクターが該標的遺伝子座内に組込まれる必要があるため、関心のある遺伝子または配列によりコードされるタンパク質またはペプチドも、相当な量で産生される。
【0045】
タンパク質の発現のためには、下等真核生物、例えば酵母が好ましい。なぜなら、それらは高収率で経済的に培養可能であり、適当に修飾されると、適当なグリコシル化をもたらしうるからである。酵母は特に、迅速な形質転換、試験タンパク質局在化法および簡便な遺伝子ノックアウト技術を可能にする確立された遺伝的現象をもたらす。適当なベクターは、所望により、発現制御配列、例えばプロモーター、例えば3−ホスホグリセリン酸キナーゼまたは他の解糖酵素、および複製起点、終結配列などを有する。
【0046】
細胞培養には、種々の酵母、例えばクライベロミセス・ラクチス(K.lactis)、ピチア・パストリス(Pichia pastoris)、ピチア・メタノリカ(Pichia methanolica)およびハンゼヌラ・ポリモルファ(Hansenula polymorpha)が一般に好ましい。なぜなら、それらは高い細胞密度まで増殖可能であり、多量の組換えタンパク質を分泌可能だからである。同様に、本発明の糖タンパク質を工業的規模で製造するために、糸状菌、例えばアスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)、フザリウム属種(Fusarium sp.)、ニューロスポラ・クラッサ(Neurospora crassa)などが使用されうる。本発明における宿主細胞として有用な他の細胞には、原核細胞、例えば大腸菌(E.coli)、ならびに真核宿主細胞(培養内)、例えば下等真核細胞、植物細胞および哺乳類細胞、例えばチャイニーズハムスター卵巣(CHO)が含まれる。
【0047】
下等真核生物、特に酵母は、グリコシル化パターンがヒト様であるか又はヒト化されている糖タンパク質をそれが発現するよう、遺伝的に修飾されうる。それは、選択された内因性グリコシル化酵素を排除すること及び/又は外因性酵素を供給すること[Gerngrossら,US 2004/0018590(その開示を参照により本明細書に組み入れることとする)に記載されている]により達成されうる。例えば、宿主細胞は、糖タンパク質上のN−グリカン上にマンノース残基を付加する1,6−マンノシルトランスフェラーゼ活性を除去するよう、選択または操作されうる。
【0048】
米国公開出願第20070072262号は、ARG1、ARG2、ARG3、HIS1、HIS2、HIS5およびHIS6遺伝子、ならびに酵母内への安定な遺伝的組込みのための、該遺伝子の使用方法を開示しており、米国公開出願第20040229306号は、ピチア・パストリス(Pichia pastoris)URA5遺伝子、および酵母における安定な遺伝的組込みのための、その使用を開示している。本明細書に記載されている方法および系を実施するのに特に有用な選択マーカー遺伝子には、URA3、URA5、HIS3、LEU3、TRP1、LYS2、ADE1およびADE2遺伝子座が含まれるが、これらに限定されるものではない。有用な栄養要求性宿主細胞および選択マーカー遺伝子は、特定の栄養要求性が、該細胞を、対応する原栄養体と競合する能力を低下させる又は対応する原栄養体より遅く成長するようにするものである。例えば、特に有用な選択マーカー遺伝子は選択マーカー遺伝子ADE1、ADE2、LYS2、URA3およびURA5である。
【0049】
ADE1遺伝子は、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)(Myasnikovら,Gene,109:143−147(1991))、クライベロミセス・ラクチス(Kluyveromyces lactis)(Zonneveldおよびvan der Zandenら,Yeast,11:823−827(1995))、ピチア・パストリス(Pichia pastoris)(Cereghinoら,Gene 263:159−169(2001))を含む種々の種の酵母および真菌からクローニングされている。ADE1遺伝子は、ドゥ・ノボ(de novo)プリンヌクレオチド生合成に必要なN−スクシニル−5−アミノイミダゾール−4−カルボキサミド リボチド(SAICAR)シンターゼをコードしている。アデニンを欠く突然変異細胞においては赤色色素が蓄積する。
【0050】
ADE2遺伝子は、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)(JonesおよびFink,“Regulation of amino acid and nucleotide biosynthesis in yeast”pp.181−299 in The Molecular Biology of the Yeast Saccharomyces:Metabolism and Gene Expression,Strathernら(編)Cold Spring Harbor,NY:Cold Spring Harbor Laboratory Press)、カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)(Kurtzら,Mol.Cell.Biol.,6:142−149(1986))、アスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)(Jinら,Biosci Biotechnol Biochem.68:656−62(2004))およびピチア・パストリス(Pichia pastoris)(本明細書)を含む種々の種の酵母および真菌からクローニングされている。ADE2遺伝子は、ドゥ・ノボ(de novo)プリンヌクレオチド生合成経路内の一工程を触媒するホスホリボシル−アミノイミダゾールカルボキシラーゼをコードしている。アデニンを欠く突然変異細胞においては赤色色素が蓄積する。
【0051】
他の実施形態においては、1以上の栄養要求性遺伝子を置換し又はその機能をノックアウトするベクターで細胞系が形質転換されうる[例えば、該細胞をアデニンに関して栄養要求性にする、ADE1またはADE2遺伝子のノックアウトまたは置換(例えば、Ade1またはAde2表現型を有する細胞)]。したがって、本発明は、細胞系を遺伝的に操作して、該細胞の成長を妨げる栄養要求性突然変異を該細胞系が含有するようにするための方法を含む。この場合、栄養要求性突然変異を含有するこれらの細胞系は、本明細書に教示されている選択のための宿主細胞として働くことが可能であり、ここで、所望のタンパク質を発現する細胞が、容易に特定可能であり選択可能な表現型を与え該栄養要求性突然変異を相補する遺伝子をも含有するよう、該宿主細胞は、該栄養要求性突然変異を相補する遺伝子および1以上の所望の糖タンパク質をコードする組込みベクターで形質転換されている。
【0052】
ADE1またはADE2マーカーおよびade1またはade2栄養要求性宿主細胞を使用する本明細書に開示されている方法は、組換えピチア・パストリス(Pichia pastoris)宿主細胞を製造するのに特に有用である。なぜなら、それは、多コピー選択に使用されうるピチア・パストリス(Pichia pastoris)のための適当なマーカーの不足に対処したものだからである。現在、主として、ゼオシンのような優性マーカーがこの目的に使用されている。しかし、優性マーカーは顕著な欠点を有する。例えば、発酵中、該異種遺伝子の全組込みコピーが組込まれたままであることを保証するために、該抗生物質を加えることはしばしば不可能である。しかし、本明細書に開示されている構築物が除去されると、該細胞はアデニンを産生できなくなり、より遅い成長および薄桃色の選択可能な表現型を示す。したがって、発酵中に除去される異種構築物は、このより遅い成長に基づいて容易に選択される。
【0053】
開示されている系の利点は、該ゲノム内に組込まれた該宿主細胞内での発現のための所望の遺伝子および多コピー(複数コピー)マーカーを含有する形質転換体を色により選択することが可能であること、ならびにade1またはade2細胞の遅い成長により、該ゲノム内に組込まれた1以上のコピーを含有する形質転換体が安定に保持されることである。1つの態様においては、該系は、優性ゼオシン選択に基づく組換え宿主細胞を製造するための現在の系と比べて改良された系を得るために、該宿主細胞内での発現のための所望の遺伝子およびプロモーターに機能的に連結されたADE1またはADE2オープンリーディングフレーム(ORF)のコピーを含むプラスミドの組込み、ならびにAde1またはAde2表現型を有する株の遅い成長と共に、ade/ADE株の桃色/白色選択の表現型の差を利用する。もう1つの態様においては、該系は、優性ゼオシン選択に基づく組換え宿主細胞を製造するための現在の系と比べて改良された系を得るために、該宿主細胞内での発現のための所望の遺伝子および弱い、減衰化または潜在性プロモーターに機能的に連結されたADE1またはADE2 ORFのコピーを含むプラスミドの強制多重組込み、ならびにAde1またはAde2表現型を有する株の遅い成長と共に、ade/ADE株の桃色/白色選択の表現型の差を利用する。したがって、該方法および物質は、異種タンパク質の、安定な高レベル発現に有用である。
【0054】
したがって、特定の実施形態においては、該方法および系は、混合型または複合型N−グリカンを有する糖タンパク質を産生しうる宿主細胞を使用する場合、糖タンパク質を含む組換えタンパク質の製造に関する改善された生産性を伴う、組換え宿主細胞、非ヒト真核宿主細胞、特に下等真核宿主細胞、例えば酵母および糸状菌宿主を含む。該組換え宿主細胞は、栄養要求性マーカー遺伝子、例えばADE1またはADE2をコードする少なくとも1つの内因性遺伝子の機能の軽減または排除により修飾される。アデニン欠損を招く突然変異を有する細胞は非常に遅く成長し、赤みを帯びた色素を蓄積し、これは桃色のコロニー(すなわち、Ade1またはAde2表現型を有する細胞)の産生をもたらす。Ade1またはAde2表現型を有するこれらの細胞が、ADE1またはADE2 ORFの発現のためのプロモーターに機能的に連結されたそれぞれADE1またはADE2 ORFを含むプラスミドで形質転換された場合、Ade1またはAde2突然変異は相補され、該細胞はアデニンに関して原栄養性となる。すなわち、該細胞はAde1またはAde2表現型を有するようになる。これらの相補された組換え細胞は白色および大きなコロニーサイズを示し、これは該組換え細胞の同定および選択を容易にする。あるいは、Ade1またはAde2表現型を有するこれらの細胞が、ADE1またはADE2 ORFの発現のためのプロモーターに機能的に連結されていないそれぞれADE1またはADE2 ORFを含むプラスミドで形質転換された場合には、Ade1またはAde2突然変異は、該ゲノム内に組込まれたADE1またはADE2遺伝子を2コピー以上含有する組換え細胞においてのみ相補される。
【0055】
他の実施形態においては、Ade1またはAde2表現型を示す宿主細胞を使用する発現系における異種遺伝子の選択可能な発現のための組込みベクターを提供する。該組込みベクターは、クローニング部位により隔てられクローニング部位に連結されたプロモーター配列および転写終結配列を含む核酸を含む。関心のある1以上の所望の異種タンパク質もしくはペプチドまたは機能性核酸をコードする核酸配列を、標準的な連結技術を用いて、該プロモーターにより発現される適切な配向で該クローニング部位内に挿入する。該組込みベクターは、好ましくは、該宿主細胞において機能性である少なくとも1つのプロモーター、およびそれに続く少なくとも1つの制限部位、好ましくはマルチクローニング部位、およびそれに続く、該宿主細胞において機能性である転写終結配列を含む。適当な公知技術を用いて、所望のタンパク質またはポリペプチドをコードするヌクレオチド断片を該組込みベクターのクローニング部位の制限部位内に連結することが可能である。該組込みベクターは、該宿主細胞において機能性である適当な転写終結ターミネーター配列の制御下にありうるADE1およびADE2よりなる群から選ばれる選択マーカーORFの少なくとも1つのコピーをも含む。幾つかの実施形態においては、該ORFは完全効力同種または異種プロモーターに機能的に連結され、他の実施形態においては、該ORFは、潜在性プロモーター、弱いプロモーター、減衰化プロモーターまたはトランケート化同種もしくは異種プロモーター(完全効力プロモーターと比較して低下した転写活性を有する)に機能的に連結される。
【0056】
もう1つの実施形態においては、異種または組換えタンパク質およびペプチドを発現させるための組換え宿主細胞の構築のための方法、物質および系を提供し、ここで、該宿主細胞をアデニンに関して栄養要求性にするために、例えば、該細胞をade1にするために、ADE1遺伝子が除去または欠失されている。そして該ade1宿主細胞を組込みベクター[該組込みベクターは、(1)弱いプロモーター、減衰化内因性もしくは異種プロモーター、潜在性(クリプティック)プロモーター、トランケート化内因性もしくは異種プロモーターに機能的に連結された又はプロモーターを伴わない、Ade1pまたはAde1p活性をコードする核酸、(2)異種または組換えタンパク質またはペプチドまたは機能性核酸を異所的に産生するよう、関心のある遺伝子または機能性核酸をコードする1以上の核酸、ならびに(3)相同組換えによる該宿主細胞のゲノムの特定の標的位置または遺伝子座への該組込みベクターの挿入を導く標的化核酸配列を含む]で形質転換する。該組込みベクターが該標的遺伝子座内に組込まれている安定組換え宿主細胞を、アデニンを欠く培地において該形質転換宿主細胞を培養することにより選択する。Ade1p活性をコードする核酸は、弱い、減衰化、潜在性プロモーターまたはトランケート化プロモーターに機能的に連結されているため、該標的遺伝子座内に挿入された該組換えベクターを1コピーしか含有しない組換え形質転換宿主細胞はアデニンに関して原栄養性にならない。該形質転換宿主細胞を原栄養性にするためには、複数のコピーの該組込みベクターが該宿主細胞の標的遺伝子座内に組込まれる必要がある。また、複数のコピーの該組込みベクターが該標的遺伝子座内に組込まれる必要があるため、関心のある遺伝子または配列によりコードされるタンパク質またはペプチドも、相当な量で産生される。
【0057】
もう1つの実施形態においては、異種または組換えタンパク質およびペプチドを発現させるための組換え宿主細胞の構築のための方法、物質および系を提供し、ここで、該宿主細胞をアデニンに関して栄養要求性にするために、ADE2遺伝子が除去または欠失されている。そして該ade2宿主細胞を組込みベクター[該組込みベクターは、(1)弱いプロモーター、減衰化内因性もしくは異種プロモーター、潜在性(クリプティック)プロモーター、トランケート化内因性もしくは異種プロモーターに機能的に連結された又はプロモーターを伴わない、Ade2pまたはAde2p活性をコードする核酸、(2)異種または組換えタンパク質またはペプチドまたは機能性核酸を異所的に産生するよう、関心のある遺伝子または機能性核酸をコードする1以上の核酸、ならびに(3)相同組換えによる該宿主細胞のゲノムの特定の標的位置または遺伝子座への該組込みベクターの挿入を導く標的化核酸配列を含む]で形質転換する。該組込みベクターが該標的遺伝子座内に組込まれている安定組換え宿主細胞を、アデニンを欠く培地において該形質転換宿主細胞を培養することにより選択する。Ade2p活性をコードする核酸は、弱い、減衰化または潜在性プロモーターに機能的に連結されているため、該標的遺伝子座内に挿入された該組換えベクターを1コピーしか含有しない組換え形質転換宿主細胞はアデニンに関して原栄養性にならない。該形質転換宿主細胞をアデニンに関して原栄養性にするためには、2コピー以上の該組込みベクターが該宿主細胞の標的遺伝子座内に組込まれる必要がある。また、複数のコピーの該組込みベクターが該標的遺伝子座内に組込まれる必要があるため、関心のある遺伝子または配列によりコードされるタンパク質またはペプチドも、相当な量で産生される。
【0058】
前記実施形態のどちらにおいても、ade1またはade2栄養要求体は、原栄養体(例えば、それぞれADE1またはADE2)、またはゲノム内への複数のコピーの該組込みベクターの組込みにより原栄養体にされた細胞より遅く成長する。培養においては、該標的遺伝子座内に挿入された複数のコピーの該組込みベクターを喪失する形質転換細胞および復帰変異体は、複数のコピーの該組込みベクターを維持している細胞より遅く成長し、それとの競合に負ける。また、特に、酵母ade1またはade2栄養要求体のような生物は赤色または桃色であり、一方、原栄養体、またはゲノム内への2以上のコピーの該組込みベクターの組込みにより原栄養体にされた細胞は白色である。したがって、該標的配列内に挿入された複数のコピーの該組換えベクターを含有する組換え細胞の選択は白色コロニーの選択に基づいたものでありうる。
【0059】
本発明における方法および系は、ade1またはade2のような栄養要求性突然変異が施されうる任意の生物において実施可能であり、その相補は、本明細書に記載されている選択可能な表現型をもたらす。該方法は、ade1またはade2マイナス表現型を示す宿主細胞を、相補性Ade1pまたはAde2pタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む組込みベクターで形質転換することを含み、それにより、所望の分泌糖タンパク質をコードする組込みベクターで該宿主細胞を形質転換した場合、Ade1および/またはAde2表現型の相補は、所望の糖タンパク質をコードする遺伝子の安定組込みをもたらし、形質転換された組換え宿主細胞の質の改善、特に、所望の組換え糖タンパク質の収量の増加に寄与する。
【0060】
他の実施形態においては、本発明の宿主細胞は、該宿主細胞および/またはそれから産生されたタンパク質もしくはペプチドが所望の特性を示すよう、そのゲノム内に他の遺伝的操作が施される。例えば、該宿主細胞が、非常に均質なレベルの1以上の所望の糖形態を有する組換え糖タンパク質を産生しうるよう、該宿主細胞は、例えば米国特許第7,029,872号、米国公開出願第2004/0018590号およびHamiltonら,Science,313:1441−1443(2006)に記載されている方法により操作されうる。他の実施形態においては、分子シャペロンタンパク質をコードする1以上の内因性遺伝子を欠失させ、および/または、産生すべき異種タンパク質もしくはポリペプチドの種に由来する分子シャペロン遺伝子をコードする1以上の異種遺伝子で該宿主細胞を形質転換することにより、該宿主細胞を修飾することが可能である。例えば、ピチア(Pichia)種の宿主細胞は、内因性タンパク質PDIおよび/またはBiPの除去により修飾され、哺乳類PDI、BiPおよび/またはGRP94遺伝子をコードする1以上のプラスミドで形質転換されうる。Choiら(前掲)(これを参照により本明細書に組み入れることとする)を参照されたい。
【0061】
さらに他の実施形態においては、非ヒト真核宿主細胞、下等真核宿主細胞または酵母もしくは糸状菌宿主細胞における組換えヒトまたは哺乳類糖タンパク質の生産性を増加させるための方法を提供する。該方法は、混合型または複合型N−グリカンを有する糖タンパク質を産生しうる、ade1またはade2である宿主細胞を、ADE1またはADE2 ORFをコードする核酸および関心のある糖タンパク質をコードする核酸を含むベクターで形質転換する工程を含む。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】図1は、サッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)Ade2pアミノ酸配列(配列番号62)に対するピチア・パストリス(P.pastoris)Ade2pアミノ酸配列(配列番号61)のアライメントを示す。
【図2A】図2AはプラスミドpGLY1065の地図を示す。
【図2B】図2BはプラスミドpGLY2057の地図を示す。
【図2C】図2CはプラスミドpGLY225の地図を示す。
【図2D】図2DはプラスミドpGLY1083の地図を示す。
【図2E】図2EはプラスミドpGLY2092の地図を示す。
【図2F】図2FはプラスミドpGLY2094の地図を示す。
【図3A】図3は、グルコセレブロシダーゼ、一本鎖抗HER2抗体またはヒトCD40エクトドメインを発現する組込みベクターで形質転換されたade1栄養要求性酵母株において産生されたタンパク質のウエスタンブロットおよびクーマシーゲルを示す。パネルAは、GAPDHプロモーターに機能的に連結された一本鎖抗HER2抗体および対応する天然プロモーターに機能的に連結されたADE1 ORFをコードするpJ903で形質転換されたYGLY563 ade1細胞の7つのクローンにおいて産生された一本鎖抗HER2抗体、ならびにGAPDHプロモーターに機能的に連結された一本鎖抗HER2抗体およびプロモーターに機能的に連結されていないADE1 ORFをコードするpJ904で形質転換されたYGLY563 ade1細胞の7つのクローンにおいて産生された一本鎖抗HER2抗体を示す。パネルBは、GAPDHプロモーターに機能的に連結されたグルコセレブロシダーゼ(GBA)および対応する天然プロモーターに機能的に連結されたADE1 ORFをコードするpGly1084で形質転換されたYGLY564 ade1細胞の7つのクローンにおいて産生されたグルコセレブロシダーゼ(GBA)、ならびにGAPDHプロモーターに機能的に連結されたGBAおよびプロモーターに機能的に連結されていないADE1 ORFをコードするpGLY1085で形質転換されたYGLY564 ade1細胞の7つのクローンにおいて産生されたGBAを示す。パネルCは、AOX1プロモーターに機能的に連結されたヒトCD40エクトドメインおよび対応する天然プロモーターに機能的に連結されたADE1 ORFをコードするpGLY1073で形質転換されたYGLY563 ade1細胞の6つのクローンにおいて産生されたヒトCD40エクトドメイン、ならびにGAPDHプロモーターに機能的に連結されたヒトCD40エクトドメインおよびプロモーターに機能的に連結されていないADE1 ORFをコードするpGLY1074で形質転換されたYGLY563 ade1細胞の7つのクローンにおいて産生されたヒトCD40エクトドメインのクーマシーゲルを示す。パネルDは、AOX1プロモーターに機能的に連結されたヒトCD40エクトドメインおよび対応する天然プロモーターに機能的に連結されたADE1 ORFをコードするpGLY1073で形質転換されたYGLY564 ade1細胞の6つのクローンにおいて産生されたヒトCD40エクトドメイン、ならびにAOX1プロモーターに機能的に連結されたヒトCD40エクトドメインおよびプロモーターに機能的に連結されていないADE1 ORFをコードするpGLY1074で形質転換されたYGLY564 ade1細胞の6つのクローンにおいて産生されたヒトCD40エクトドメインを示す。
【図3B】図3は、グルコセレブロシダーゼ、一本鎖抗HER2抗体またはヒトCD40エクトドメインを発現する組込みベクターで形質転換されたade1栄養要求性酵母株において産生されたタンパク質のウエスタンブロットおよびクーマシーゲルを示す。パネルAは、GAPDHプロモーターに機能的に連結された一本鎖抗HER2抗体および対応する天然プロモーターに機能的に連結されたADE1 ORFをコードするpJ903で形質転換されたYGLY563 ade1細胞の7つのクローンにおいて産生された一本鎖抗HER2抗体、ならびにGAPDHプロモーターに機能的に連結された一本鎖抗HER2抗体およびプロモーターに機能的に連結されていないADE1 ORFをコードするpJ904で形質転換されたYGLY563 ade1細胞の7つのクローンにおいて産生された一本鎖抗HER2抗体を示す。パネルBは、GAPDHプロモーターに機能的に連結されたグルコセレブロシダーゼ(GBA)および対応する天然プロモーターに機能的に連結されたADE1 ORFをコードするpGly1084で形質転換されたYGLY564 ade1細胞の7つのクローンにおいて産生されたグルコセレブロシダーゼ(GBA)、ならびにGAPDHプロモーターに機能的に連結されたGBAおよびプロモーターに機能的に連結されていないADE1 ORFをコードするpGLY1085で形質転換されたYGLY564 ade1細胞の7つのクローンにおいて産生されたGBAを示す。パネルCは、AOX1プロモーターに機能的に連結されたヒトCD40エクトドメインおよび対応する天然プロモーターに機能的に連結されたADE1 ORFをコードするpGLY1073で形質転換されたYGLY563 ade1細胞の6つのクローンにおいて産生されたヒトCD40エクトドメイン、ならびにGAPDHプロモーターに機能的に連結されたヒトCD40エクトドメインおよびプロモーターに機能的に連結されていないADE1 ORFをコードするpGLY1074で形質転換されたYGLY563 ade1細胞の7つのクローンにおいて産生されたヒトCD40エクトドメインのクーマシーゲルを示す。パネルDは、AOX1プロモーターに機能的に連結されたヒトCD40エクトドメインおよび対応する天然プロモーターに機能的に連結されたADE1 ORFをコードするpGLY1073で形質転換されたYGLY564 ade1細胞の6つのクローンにおいて産生されたヒトCD40エクトドメイン、ならびにAOX1プロモーターに機能的に連結されたヒトCD40エクトドメインおよびプロモーターに機能的に連結されていないADE1 ORFをコードするpGLY1074で形質転換されたYGLY564 ade1細胞の6つのクローンにおいて産生されたヒトCD40エクトドメインを示す。
【図3C】図3は、グルコセレブロシダーゼ、一本鎖抗HER2抗体またはヒトCD40エクトドメインを発現する組込みベクターで形質転換されたade1栄養要求性酵母株において産生されたタンパク質のウエスタンブロットおよびクーマシーゲルを示す。パネルAは、GAPDHプロモーターに機能的に連結された一本鎖抗HER2抗体および対応する天然プロモーターに機能的に連結されたADE1 ORFをコードするpJ903で形質転換されたYGLY563 ade1細胞の7つのクローンにおいて産生された一本鎖抗HER2抗体、ならびにGAPDHプロモーターに機能的に連結された一本鎖抗HER2抗体およびプロモーターに機能的に連結されていないADE1 ORFをコードするpJ904で形質転換されたYGLY563 ade1細胞の7つのクローンにおいて産生された一本鎖抗HER2抗体を示す。パネルBは、GAPDHプロモーターに機能的に連結されたグルコセレブロシダーゼ(GBA)および対応する天然プロモーターに機能的に連結されたADE1 ORFをコードするpGly1084で形質転換されたYGLY564 ade1細胞の7つのクローンにおいて産生されたグルコセレブロシダーゼ(GBA)、ならびにGAPDHプロモーターに機能的に連結されたGBAおよびプロモーターに機能的に連結されていないADE1 ORFをコードするpGLY1085で形質転換されたYGLY564 ade1細胞の7つのクローンにおいて産生されたGBAを示す。パネルCは、AOX1プロモーターに機能的に連結されたヒトCD40エクトドメインおよび対応する天然プロモーターに機能的に連結されたADE1 ORFをコードするpGLY1073で形質転換されたYGLY563 ade1細胞の6つのクローンにおいて産生されたヒトCD40エクトドメイン、ならびにGAPDHプロモーターに機能的に連結されたヒトCD40エクトドメインおよびプロモーターに機能的に連結されていないADE1 ORFをコードするpGLY1074で形質転換されたYGLY563 ade1細胞の7つのクローンにおいて産生されたヒトCD40エクトドメインのクーマシーゲルを示す。パネルDは、AOX1プロモーターに機能的に連結されたヒトCD40エクトドメインおよび対応する天然プロモーターに機能的に連結されたADE1 ORFをコードするpGLY1073で形質転換されたYGLY564 ade1細胞の6つのクローンにおいて産生されたヒトCD40エクトドメイン、ならびにAOX1プロモーターに機能的に連結されたヒトCD40エクトドメインおよびプロモーターに機能的に連結されていないADE1 ORFをコードするpGLY1074で形質転換されたYGLY564 ade1細胞の6つのクローンにおいて産生されたヒトCD40エクトドメインを示す。
【図3D】図3は、グルコセレブロシダーゼ、一本鎖抗HER2抗体またはヒトCD40エクトドメインを発現する組込みベクターで形質転換されたade1栄養要求性酵母株において産生されたタンパク質のウエスタンブロットおよびクーマシーゲルを示す。パネルAは、GAPDHプロモーターに機能的に連結された一本鎖抗HER2抗体および対応する天然プロモーターに機能的に連結されたADE1 ORFをコードするpJ903で形質転換されたYGLY563 ade1細胞の7つのクローンにおいて産生された一本鎖抗HER2抗体、ならびにGAPDHプロモーターに機能的に連結された一本鎖抗HER2抗体およびプロモーターに機能的に連結されていないADE1 ORFをコードするpJ904で形質転換されたYGLY563 ade1細胞の7つのクローンにおいて産生された一本鎖抗HER2抗体を示す。パネルBは、GAPDHプロモーターに機能的に連結されたグルコセレブロシダーゼ(GBA)および対応する天然プロモーターに機能的に連結されたADE1 ORFをコードするpGly1084で形質転換されたYGLY564 ade1細胞の7つのクローンにおいて産生されたグルコセレブロシダーゼ(GBA)、ならびにGAPDHプロモーターに機能的に連結されたGBAおよびプロモーターに機能的に連結されていないADE1 ORFをコードするpGLY1085で形質転換されたYGLY564 ade1細胞の7つのクローンにおいて産生されたGBAを示す。パネルCは、AOX1プロモーターに機能的に連結されたヒトCD40エクトドメインおよび対応する天然プロモーターに機能的に連結されたADE1 ORFをコードするpGLY1073で形質転換されたYGLY563 ade1細胞の6つのクローンにおいて産生されたヒトCD40エクトドメイン、ならびにGAPDHプロモーターに機能的に連結されたヒトCD40エクトドメインおよびプロモーターに機能的に連結されていないADE1 ORFをコードするpGLY1074で形質転換されたYGLY563 ade1細胞の7つのクローンにおいて産生されたヒトCD40エクトドメインのクーマシーゲルを示す。パネルDは、AOX1プロモーターに機能的に連結されたヒトCD40エクトドメインおよび対応する天然プロモーターに機能的に連結されたADE1 ORFをコードするpGLY1073で形質転換されたYGLY564 ade1細胞の6つのクローンにおいて産生されたヒトCD40エクトドメイン、ならびにAOX1プロモーターに機能的に連結されたヒトCD40エクトドメインおよびプロモーターに機能的に連結されていないADE1 ORFをコードするpGLY1074で形質転換されたYGLY564 ade1細胞の6つのクローンにおいて産生されたヒトCD40エクトドメインを示す。
【図4A】図4は、エリスロポエチン(EPO)をコードする組込みベクターで形質転換されたade2栄養要求性酵母株において産生されたタンパク質のウエスタンブロットを示す。パネルAは、AOX1プロモーターに機能的に連結されたEPOおよび対応する天然プロモーターに機能的に連結されたADE1 ORFをコードするpGLY2663で形質転換されたYGLY1215 ade2細胞の6つのクローンにおいて産生されたEPO、ならびにAOX1プロモーターに機能的に連結されたEPOおよびプロモーターに機能的に連結されていないADE2 ORFをコードするpGLY2664で形質転換されたYGLY1215 ade2細胞の6つのクローンにおいて産生されたEPOを示す。パネルBは、AOX1プロモーターに機能的に連結されたEPOおよび対応する天然プロモーターに機能的に連結されたADE1 ORFをコードするpGLY2663で形質転換されたYGLY1216 ade2細胞の6つのクローンにおいて産生されたEPO、ならびにAOX1プロモーターに機能的に連結されたEPOおよびプロモーターに機能的に連結されていないADE2 ORFをコードするpGLY2664で形質転換されたYGLY1216 ade2細胞の6つのクローンにおいて産生されたEPOを示す。
【図4B】図4は、エリスロポエチン(EPO)をコードする組込みベクターで形質転換されたade2栄養要求性酵母株において産生されたタンパク質のウエスタンブロットを示す。パネルAは、AOX1プロモーターに機能的に連結されたEPOおよび対応する天然プロモーターに機能的に連結されたADE1 ORFをコードするpGLY2663で形質転換されたYGLY1215 ade2細胞の6つのクローンにおいて産生されたEPO、ならびにAOX1プロモーターに機能的に連結されたEPOおよびプロモーターに機能的に連結されていないADE2 ORFをコードするpGLY2664で形質転換されたYGLY1215 ade2細胞の6つのクローンにおいて産生されたEPOを示す。パネルBは、AOX1プロモーターに機能的に連結されたEPOおよび対応する天然プロモーターに機能的に連結されたADE1 ORFをコードするpGLY2663で形質転換されたYGLY1216 ade2細胞の6つのクローンにおいて産生されたEPO、ならびにAOX1プロモーターに機能的に連結されたEPOおよびプロモーターに機能的に連結されていないADE2 ORFをコードするpGLY2664で形質転換されたYGLY1216 ade2細胞の6つのクローンにおいて産生されたEPOを示す。 以下の実施例は、本発明の更なる理解を促すことを意図したものである。
【実施例1】
【0063】
ピチア・パストリス(Pichia pastoris)ADE1およびADE2遺伝子のクローニングを以下のとおりに行った。
【0064】
ピチア・パストリス(P.pastoris)ADE1遺伝子のクローニングは既に公開されている(Cereghinoら,前掲)。Integrated Genomics,Chicago,ILから得た部分的ピチア・パストリス(P.pastoris)ゲノム配列を使用して、追加的な5’−および3’−配列を得た。プロモーターおよび転写終結配列を含むピチア・パストリス(P.pastoris)ADE1オープンリーディングフレーム(ORF)のヌクレオチド配列を配列番号56に示す。ピチア・パストリス(P.pastoris)ADE1のアミノ酸配列を配列番号57に示す。プログラムBLAST(Altschulら,J.Mol.Biol.215:403−410(1990))を使用して、同じゲノム配列をサッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)ADE2 ORFで問合せて、ピチア・パストリス(P.pastoris)ADE2ホモログ(69%の同一性を有する563アミノ酸)が特定された。プロモーターおよび転写終結配列を含むピチア・パストリス(P.pastoris)ADE2 ORFをコードするヌクレオチド配列を配列番号60に示す。ADE2 ORFは、配列番号60に示すヌクレオチド配列のヌクレオチド127−1,815によりコードされ、配列番号61に示すアミノ酸配列を有する。サッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)ADE2アミノ酸配列(配列番号62)に対するピチア・パストリス(P.pastoris)ADE2アミノ酸配列(配列番号61)のアライメントを図1に示す。
【実施例2】
【0065】
ADE1およびADE2ノックアウトベクターおよび株の構築は以下のとおりであった。プラスミド構築の第1工程においては、(a)ノックアウトすべき遺伝子の5’および3’領域のための間隙維持体としてのピチア・パストリス(P.pastoris)のARG3遺伝子(Nettら,2005,前掲)、(b)栄養要求性マーカーとしてのピチア・パストリス(P.pastoris)URA5−ブラスター(blaster)(NettおよびGerngross,Yeast 20:1279−1290(2003))、ならびに(c)外来遺伝子の挿入のためのマルチクローニング部位を有する発現カセットのDNA領域を含有する汎用ノックアウトプラスミドを作製した。
【0066】
該汎用ノックアウトプラスミドの構造に適合しうるURA5−ブラスターカセットを作製するために、lacZのSacI−PvuII断片をpUC19のSacI−SmaI部位内にクローニングした。得られたプラスミドをHincIIで消化し、T4DNAポリメラーゼを使用して平滑末端化されたlacZのSacI−PvuII断片を頭−尾配向でこのプラスミド内に挿入してpGLY8を得た。ピチア・パストリス(P.pastoris)URA5遺伝子の1.0kb DNA断片を、プライマーUra5comp5(配列番号1)およびUra5comp3(配列番号2)ならびに鋳型としての酵母株NRRL Y−11430ゲノムDNAを使用して増幅し、pGLY8のBamHI−XbaI部位内にクローニングしてpGLY10を得た。内部のSacIおよびXhoI部位を取り出すために、鋳型としてのpGLY10ならびにそれぞれプライマーペアURA5MUT1(配列番号3)およびURA5MUT2(配列番号4)、URA5MUT3(配列番号5)およびURA5MUT4(配列番号6)、ならびにURA5MUT5(配列番号7)およびURA5MUT6(配列番号8)を使用して、URA5の3つの重複断片を増幅した。得られたPCR産物をゲル精製し、混合し、URA5MUT1(配列番号3)およびURA5MUT6(配列番号8)プライマーとして使用する融合PCRにおける鋳型として使用した。ついで、得られたPCR産物をベクターpCR2.1 TOPO(登録商標)内にクローニングし、ClaIおよびBssHIIを使用して再び取り出し、同様にClaIおよびBssHIIで消化されたpGLY10内にクローニングしてpGLY12を得た。SacIおよびBamHI部位を取り出すために、pGLY12をまず、SacIで切断し、T4DNAポリメラーゼを使用して平滑末端化し、再連結してpGLY13aを得、ついでBamHIで切断し、平滑末端化し、再連結してpGLY13bを得た。どちらの場合も、lacZ−URA5カセットはEcoRIおよびSphIでの消化により遊離されうる。
【0067】
ARG3−5’領域の1.1kb DNA断片を、鋳型としてのピチア・パストリス(P.pastoris)ゲノムDNAと共にプライマーARG355DIS(配列番号9)およびARG353−2(配列番号10)を使用するPCRにより増幅し、pUC19のSacI−SalI部位内にクローニングした。得られたプラスミドをBamHIおよびSalIで切断し、プライマーARG335−2(配列番号11)およびARG333(配列番号12)を使用して増幅されたARG3−3’領域の0.7kb DNA断片を空部位内にクローニングしてpGLY21を得た。該プラスミドをBamHIで切断し、T4DNAポリメラーゼで平滑末端化し、pGLY13aまたはpGLY13bからのEcoRIおよびSphIで切断され平滑化されたlacZ−URA5カセットを挿入して、それぞれプラスミドpGLY22bおよびpGLY23を得た。プラスミドpGLY22bは、追加的発現カセットを伴わない該汎用ノックアウトプラスミドに相当し、一方、pGLY23を、異種遺伝子の追加的発現のためのカセットをも含有するよう更に修飾した。
【0068】
クローニング部位としてNotIおよびPacIを含有する発現カセットを作製するために、ピチア・パストリス(P.pastoris)のGAPDHプロモーターを含有する0.5kb DNA断片を、プライマーGAP5CLEAN(配列番号13)およびGAP3CLEAN(配列番号14)ならびに鋳型としてのピチア・パストリス(P.pastoris)ゲノムDNAを使用して増幅し、pUC19のBamHI−SphI部位内にクローニングした。得られたプラスミドをSpeIおよびSphIで切断し、プライマーCYC5CLEAN(配列番号15)およびCYC3CLEAN(配列番号16)ならびに鋳型としてのサッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)ゲノムDNAを使用して増幅されNheIおよびSphIで切断されたサッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)CYC1転写ターミネーター領域を含有する0.3kb断片を空部位内にクローニングしてpGLY17を得た。該発現カセットをBamHI消化により遊離させ、pGLY23内にクローニングしてpGLY24を得た。
【0069】
以下の方法でpGLY22bからADE1ノックアウトプラスミドを構築した。プライマーADE155L(配列番号17)およびADE153L(配列番号18)を使用して増幅されたADE1−5’領域の1.8kb断片をSacIおよびPmeIで切断し、pGLY22b内にクローニングしてpGLY1064を得た。ついで、プライマーADE1KO35(配列番号19)およびADE133L(配列番号20)を使用して増幅されたADE1−3’領域の1.5kb断片をSwaIおよびSphIで切断し、pGLY1064内にクローニングしてADE1ノックアウトプラスミドpGLY1065(図1A)を得た。
【0070】
以下の方法でpGLY24からADE2ノックアウトプラスミドを構築した。ピチア・パストリス(P.pastoris)ALG3転写ターミネーターを、プライマーRCD534(配列番号21)およびRCD535(配列番号22)ならびに鋳型としてのピチア・パストリス(P.pastoris)ゲノムDNAを使用してPCR増幅し、EcoRVおよびAflIIで切断し、pGLY24のPmeI−AflII部位内にクローニングしてpGLY566を得た。この修飾は以下のADEノックアウトプラスミドには無関係であるが、異なる計画に使用したプラスミドを構築するために利用した。プライマーADE235(配列番号25)およびADE233(配列番号26)を使用して増幅されたADE2−3’領域の1.7kb断片をSwaIおよびSalIで切断し、pGLY566内にクローニングしてpGLY1079を得た。ついで、プライマーADE255KO(配列番号23)およびADE253KO(配列番号24)を使用して増幅されたADE2−5’領域の1.0kb断片をSacIおよびFseIで切断し、pGLY1079内にクローニングしてADE2ノックアウトプラスミドpGLY2057(図1B)を得た。
【0071】
以下の方法でADE1およびADE2ノックアウト株を構築した。既に記載されている方法(NettおよびGerngross,Yeast 20:1279−1290(2003);Choiら,Proc.Natl.Acad.Sci.100:5022−5027(2003);Hamiltonら,Science 301:1244−1246(2003))を用いて構築された株YGLY24−3[ura5Δ::MET16,och1Δ::lacZ,bmt2Δ::lacZ/K1MNN2−2,mnn4L1Δ::lacZ/MmSLC35A3,pno1Δmnn4Δ::lacZ,met16Δ::lacZ]をpGLY1065で形質転換し、2つの桃色の形質転換体をYGLY563およびYGLY564と命名した。それらのAde1表現型は、アデニンを欠く培地上でそれらが成長し得ないことにより確認された。これらの株は、主としてManGlcNAc N−グリカンを有する糖タンパク質を産生しうる。
【0072】
株YGLY227およびYGLY228(URA5マーカー付きトリコデルマ・レエセイ(Trichoderma reesei)1,2マンノシダーゼ発現プラスミドで形質転換され、無関係な実験において5−FOA上で対抗選択されたYGLY24−3の直接の後代)をpGLY2057で形質転換し、各株ごとに1つの桃色形質転換体を単離して、それぞれ、株YGLY1215およびYGLY1216を得た。それらのade2表現型も、アデニンを欠く培地上でそれらが成長し得ないことにより確認された(結果は示されていない)。予想どおり(Cereghinoら,前掲)、該ade1およびade2株は共に、アデニンで補足された培地上でさえも、遅い成長の表現型を示した。これらの株は、主としてManGlcNAc N−グリカンを有する糖タンパク質を産生しうる。
【実施例3】
【0073】
ADE1およびADE2マーカー付き組込みベクターの構築は以下のとおりであった。
【0074】
BglII、EcoRI、KpnI、SwaI、BamHI、NotI、PacI、AscIおよびSfiIに対する部位を含有する、より適切なマルチクローニング部位を有するベクターを、pUC19をEcoRIおよびHindIIIで切断し、アニール化オリゴEXMCS1(配列番号27)およびEXMCS2(配列番号28)を挿入することにより構築して、pGLY192を得た。プライマーCYCTT5(配列番号29)およびCYCTT3(配列番号30)ならびに鋳型としてのサッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)ゲノムDNAを使用して増幅されたサッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)CYC1転写ターミネーター領域を含有する0.3kb DNA断片をBamHIおよびSwaIで切断し、pGLY192内にクローニングしてpGLY213を得た。ついでピチア・パストリス(P.pastoris)AOX1プロモーターを、オリゴAOX1P−5(配列番号31)およびAOX1P−3(配列番号32)を使用してゲノムDNAから増幅し、BglIIおよびEcoRIで切断し、pGLY213内に連結してpGLY214を得た。両adeノックアウトプラスミドは、全ORFを除去するように設計されていたため、該プロモーター領域に代わる該プラスミドの組込みのための領域を付加した。この目的のために、ピチア・パストリス(P.pastoris)TRP2遺伝子を含有する1.8kb断片を、オリゴTRP2−5(配列番号33)およびTRP2−3改変体(配列番号34)を使用してゲノムDNAから増幅し、SfiIで切断し、pGLY214内にクローニングしてpGLY215を得た。このプラスミドは、関心のある遺伝子の付加のためのEcoRI、KpnI、SwaI部位、およびトランケート化ADEマーカーの付加のためのBamHI、NotI、PacI、AscI部位を含有する。
【0075】
対応する天然プロモーターに又は該天然プロモーターの種々のトランケート化体に機能的に連結されたADE1 ORFを含有するADE1マーカーカセットを以下のとおりに構築した。完全長またはトランケート化プロモーターを有するADE1マーカーを、3’−オリゴとしてのオリゴADE1−3(配列番号35)ならびに5’−オリゴとしてのADE1−5C−BAM(配列番号36)、ADE1−5−100(配列番号37)、ADE1−5−186(配列番号38)、ADE1−5−295(配列番号39)、ADE1−5−325(配列番号40)およびADE1−50RF(配列番号41)を使用してPCR増幅して、それぞれプロモーター領域の370、276、191、82、50および0ヌクレオチドを有する断片を得た。最初の5つの断片をNotIおよびAscIで切断し、最後の断片をPacIおよびAscIで切断し、全断片をpGLY215内にクローニングして、それぞれ、ADE1マーカー付き組込みプラスミドpGLY220〜pGLY225を得た(pGLY225のプラスミド地図に関しては図1Cを参照されたい)。構成的タンパク質発現のためのプラスミドを作製するために、pGLY220およびpGLY225内のAOX1プロモーターを除去し、プライマーGAPDHP−5(配列番号42)およびGAPDHP−3(配列番号43)を使用して増幅されたGAPDHプロモーターにより置換して、それぞれプラスミドpGLY1082およびpGLY1083を得た(pGLY1083のプラスミド地図に関しては図1Dを参照されたい)。
【0076】
対応する天然プロモーターに又は該天然プロモーターの種々のトランケート化体に機能的に連結されたADE2 ORFを含有するADE2マーカーカセットを以下のとおりに構築した。ADE2マーカーカセットのためのpGLY215と同等の無マーカー組込みプラスミドを、前記と実質的に同じ方法で構築した。pGFI4と称されるこのプラスミドとpGLY215との主な相違は、それが、前記のとおりに増幅されたGAPDHプロモーターを含有しており、関心のある遺伝子の付加のためのマルチクローニング部位が、制限部位EcoRI、RsrII、SphI、StuI、KpnI、FseIおよびSwaIを含有するよう、オリゴ 5オリゴERSSKFS(配列番号44)および3オリゴSFSSRF(配列番号45)を使用して拡張されていたことであった。3’−オリゴとしてのADE23(配列番号46)ならびに5’−オリゴとしてのオリゴADE25NotI−1(配列番号47)、ADE25NotI−2(配列番号48)、ADE25NotI−3(配列番号49)、ADE25NotI−4(配列番号50)およびADE25’PacInew(配列番号51)を使用して、トランケート化ADE2マーカーを増幅して、それぞれ、プロモーター領域の126、82、51、13および0ヌクレオチドを有する断片を得た。最初の4つのDNA断片をNotIおよびAscIで切断し、最後のDNA断片をPacIおよびAscIで切断し、全断片をpGFI4内にクローニングして、それぞれ、ADE2マーカー付き組込みプラスミドpGLY2077〜pGLY2081を得た。該マルチクローニング部位内のEcoRI部位に加えて、これらのプラスミドはADE2 ORF内にEcoRI部位をも含有する。
【0077】
したがって、pGLY2077およびpGLY2081においては、該ORF内のEcoRI部位を部位特異的突然変異誘発により除去して、それぞれ、pGLY2091およびpGLY2092を得た(pGLY2092のプラスミド地図に関しては図1Eを参照されたい)。誘導性タンパク質発現のためのプラスミドを作製するために、これらの2つの最後の構築物におけるGAPDHプロモーターを除去し、前記のとおりにプライマーAOX1P−5(配列番号52)およびAOX1P−3(配列番号53)を使用して増幅されたAOX1プロモーターにより置換して、それぞれ、プラスミドpGLY2093およびpGLY2094を得た(pGLY2094のプラスミド地図に関しては図1Fを参照されたい)。
【0078】
タンパク質発現に対する該トランケート化マーカーの効果を試験するために、関心のある種々のタンパク質を発現する幾つかのベクターを構築した。
【0079】
ヒトグルコセレブロシダーゼ(GBA)をヒト血清アルブミン(HSA)シグナル配列に融合し、pGLY1082およびpGLY1083のEcoRI/KpnI部位内にクローニングして、それぞれ、GAPDH駆動ADE1マーク付き組込みベクターpGLY1084およびpGLY1085を得た。一本鎖形態の抗HER2モノクローナル抗体Herceptin(登録商標)(米国特許出願第20060252096号)をサッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)アルファ接合因子プレ配列に融合させ、pGLY1082およびpGLY1083のEcoRI/SwaI部位内にクローニングして、それぞれ、GAPDH駆動ADE1マーカー付き組込みベクターpJN904およびpJN905を得た。ヒトCD40エクトドメイン(アミノ酸20−192,R.J.Noelleの贈呈品;Lu,L.ら,J.Biol.Chem.278:45414−45418(2003))をサッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)アルファ接合因子プレプロ配列に融合させ、pGLY220およびpGLY225のEcoRI/KpnI部位内にクローニングして、それぞれ、AOX1駆動ADE1マーカー付き組込みベクターpGLY1073およびpGLY1074を得た。ヒトEPOをサッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)アルファ接合因子プレ配列に融合させ、pGLY2093およびpGLY2094のEcoRI/KpnI部位内にクローニングして、それぞれ、AOX1駆動ADE2マーカー付き組込みベクターpGLY2663およびpGLY2664を得た。
【実施例4】
【0080】
コピー数およびタンパク質発現に対するADEマーカープロモーター長の効果を判定した。
【0081】
コピー数およびタンパク質発現に対する種々のADEマーカープロモータートランケート化の効果を試験するために、本発明者らは以下の仮定をたてた。1)全組込みプラスミドは同一遺伝子座(TRP2)内に組込まれるため、マーカープロモーター強度の減少がプラスミド組込み体自体のコピー数の増加を招くとは予想されない。2)マーカープロモーター強度が或る閾値未満に低下すると、該プラスミドの単コピーのみが組込まれているクローンは、adeマイナス表現型の遅成長表現型により、該プラスミドの複数コピーが組込まれているクローンより遅く成長すると予想される。これは低コピークローンにおける桃色の外観をも伴うはずである。3)したがって、マーカープロモーター強度の漸次低下は、速く成長する白色クローンの数の減少、そして相対的に、遅く成長する桃色クローンの数の増加を招くはずである。4)異種タンパク質の発現が形質転換体の成長に及ぼしうる何らかの影響を排除するために、まず、空発現プラスミドを試験すべきである。
【0082】
したがって、栄養要求性ade1株YGLY563およびYGLY564を、BspEIを使用してTRP2組込み領域において線状化された等量(0.2μg)の組込みプラスミドpGLY220〜pGLY225で形質転換し、最少培地プレート上に塗抹した。23℃で5日間のインキュベーションの後、該形質転換プレートをコロニー数に関して評価した。驚くべきことに、組込みプラスミドpGLY220〜pGLY224は全て、ほぼ同数のコロニーを与えた。しかし、pGLY225で形質転換された酵母株は共に、バックグラウンドにおけるかろうじて視認可能な桃色形質転換体を伴う、10%未満の数の白色形質転換体を示した(表1を参照されたい)。該プロモータートランケート化を伴うプラスミドは、該プロモーターの長さが減少するにつれて、より少数のコロニーを与え、該ORFのみを含有する最も短いものはコロニーを全く与えないだろうと予想されていた。しかし、結果は、CYC1ターミネーター領域および該マーカーの前のマルチクローニンング部位が潜在性プロモーター活性を含有し、これがバックグラウンドレベルの転写を可能にして、場合によってはade1栄養要求性表現型を相補するのに十分なレベルのADE1遺伝子産物を与えることを示唆している。
【0083】
ade2栄養要求性株YGLY1215およびYGLY1216を組換えプラスミドpGLY2077〜pGLY2081で形質転換した場合、ある程度類似した状況が得られた。しかし、トランケート化ADE2マーカーの場合には、より短いプロモーターに伴うコロニー数の漸次減少が観察された。ADE1の場合と同様に、天然プロモーター配列を全く伴わずにADE2 ORFのみを含有するベクターは、該完全プロモーター配列を伴う構築物の場合の10%未満の数の白色形質転換体を与えた(表1を参照されたい)。
【0084】
【表1】

【0085】
この予想される多コピー組込みがタンパク質発現レベルにどのように影響を及ぼすのかを試験するために、GBA、一本鎖抗HER2抗体、ヒトCD40エクトドメインまたはヒトEPOを発現するプラスミドをade1またはade2栄養要求性酵母株内に形質転換した(表2を参照されたい)。形質転換体を96ウェル深底プレート内で成長させ、適当な炭素源を使用して発現を誘導し、ウエスタンブロットまたはクーマシーゲルによりタンパク質レベルを評価した(図3および4を参照されたい)。無プロモーターADE2 ORFをマーカーとして使用するほとんどの形質転換体の場合には、予想どおり、非常に少数の白色形質転換体(5〜20個)が観察された。しかし、それらのクローンの発現レベルは一般に、完全ADE2遺伝子をマーカーとして使用する形質転換から得られたクローン(これらは通常、数百個の形質転換体を与えた)より有意に高かった(図3および4を参照されたい)。特に顕著なのは、図3Dにおいて星印の付いたレーンに示されているクローンから産生されたタンパク質の量である。
【0086】
【表2】

【0087】
材料および方法
組換えDNAの実施には大腸菌(Escherichia coli)株DH5αを使用した。酵母株の構築には野生型ピチア・パストリス(P.pastoris)株NRRL−Y 11430を使用した(ATCC#76273)。EXTAQ(TaKaRa)、Taq Poly(Promega)またはPfu Turbo(登録商標)(Stratagene,La Jolla,CA)を使用して、供給業者の推奨に従い、PCR反応を行った。制限および修飾酵素はNew England Biolabs(Beverly,MA)から入手した。酵母株は、YPD(1% 酵母エキス、2% ペプトン、2% デキストロースおよび1.5% 寒天)または合成規定培地(1.4% 酵母窒素塩基、2% デキストロース、4×10−5% ビオチンおよび1.5% 寒天)(適宜補足されたもの)において成長させた。酵母の形質転換は、記載されているとおりに(Nettら,2005)、エレクトロポレーションにより行った。4〜20% プレキャストTRIS−SDSゲルおよびMini PROTEAN 3セル(Biorad)を製造業者の説明に従い使用して、クーマシーゲルおよびウエスタンブロットを行った。検出のための一次抗体は以下のものであった:ヤギ抗ヒトIgG(Fc)#31413(Pierce)(Herceptin用、1:10000希釈)、抗ヒトEPO #sc7956(Santa Cruz Biotechnology)(1:500希釈)、抗GBAウサギポリクローナル(特製)(Rockland Immunochemicals,Inc.)(1:500希釈)。
【0088】
本発明は、例示されている実施形態に関して本明細書に記載されているが、本発明はそれに限定されないと理解されるべきである。通常の技量を有し本明細書中の教示を利用できる当業者は、その範囲内の追加的な修飾および実施形態を認識するであろう。したがって、本発明は、本明細書に添付されている特許請求の範囲によってのみ限定される。
【0089】
【表3】









【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)栄養要求性選択マーカータンパク質をコードする内因性遺伝子が宿主細胞のゲノムから除去された該宿主細胞と、
(b)組込みベクター[該組込みベクターは、
(1)弱いプロモーター、減衰化内因性もしくは異種プロモーター、潜在性プロモーター、トランケート化内因性もしくは異種プロモーターに機能的に連結された又はプロモーターを伴わない、該栄養要求性選択マーカータンパク質をコードする内因性遺伝子の機能に相補的な機能をコードするオープンリーディングフレーム(ORF)を有する核酸、
(2)関心のあるペプチド、タンパク質および/または機能性核酸をコードする核酸を含む1以上の発現カセットの挿入のための挿入部位を有する核酸、ならびに
(3)相同組換えによる該宿主細胞のゲノムの特定の位置への該組込みベクターの挿入を導く標的化核酸を含む]とを含む発現系。
【請求項2】
該栄養要求性選択マーカータンパク質が、ADE、URAおよびLYSよりなる群から選ばれる遺伝子によりコードされている、請求項2記載の発現系。
【請求項3】
該栄養要求性選択マーカータンパク質がADE1遺伝子によりコードされている、請求項2記載の発現系。
【請求項4】
該栄養要求性選択マーカータンパク質がADE2遺伝子によりコードされている、請求項2記載の発現系。
【請求項5】
該組込みベクターが、前記の1以上の異種ペプチドまたはタンパク質をコードする1以上の発現カセットの挿入のための複数の挿入部位を含む、請求項2記載の発現系。
【請求項6】
該組込みベクターが2以上の発現カセットを含む、請求項2記載の発現系。
【請求項7】
該組込みベクターが、それらの発現カセット間に相同DNA配列をほとんど又は全く含まない、請求項6記載の発現系。
【請求項8】
該組込みベクターが、モノクローナル抗体の軽鎖をコードする第1発現カセットと、モノクローナル抗体の重鎖をコードする第2発現カセットとを含む、請求項6記載の発現系。
【請求項9】
該宿主細胞が下等真核生物である、請求項2記載の発現系。
【請求項10】
該宿主細胞が、ピチア・パストリス(Pichia pastoris)、ピチア・フィンランディカ(Pichia finlandica)、ピチア・トレハロフィラ(Pichia trehalophila)、ピチア・コクラメ(Pichia koclamae)、ピチア・メンブラネファシエンス(Pichia membranaefaciens)、ピチア・ミヌタ(Pichia minuta)[オガタエア・ミヌタ(Ogataea minuta)、ピチア・リンドネリ(Pichia lindneri)]、ピチア・オプンチエ(Pichia opuntiae)、ピチア・テルモトレランス(Pichia thermotolerans)、ピチア・サリクタリア(Pichia salictaria)、ピチア・グエルクウム(Pichia guercuum)、ピチア・ピエペリ(Pichia pijperi)、ピチア・スティプティス(Pichia stiptis)、ピチア・メタノリカ(Pichia methanolica)、ピチア属種(Pichia sp.)、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、サッカロミセス属種(Saccharomyces sp.)、ハンゼヌラ・ポリモルファ(Hansenula polymorpha)、クライベロミセス属種(Kluyveromyces sp.)、クライベロミセス・ラクチス(Kluyveromyces lactis)、カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)、アスペルギルス・ニデュランス(Aspergillus nidulans)、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)、アスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)、トリコデルマ・レエセイ(Trichoderma reesei)、クリソスポリウム・ルクノウェンセ(Chrysosporium lucknowense)、フザリウム属種(Fusarium sp.)、フザリウム・グラミネウム(Fusarium gramineum)、フザリウム・ベネナツム(Fusarium venenatum)、フィスコミトレラ・パテンス(Physcomitrella patens)およびニューロスポラ・クラッサ(Neurospora crassa)よりなる群から選ばれる種のものである、請求項9記載の発現系。
【請求項11】
該宿主細胞がピチア・パストリス(Pichia pastoris)である、請求項2記載の発現系。
【請求項12】
ピチア・パストリス(Pichia pastoris)細胞が、混合型または複合型N−グリカンを有する糖タンパク質を産生しうるよう修飾されている、請求項11記載の発現系。
【請求項13】
関心のある組換えペプチド、タンパク質および/または核酸を宿主細胞において発現させるための方法であって、
(a)栄養要求性選択マーカータンパク質をコードする内因性遺伝子が宿主細胞のゲノムから除去されている該宿主細胞を準備し、
(a)組込みベクター[該組込みベクターは、
(1)弱いプロモーター、減衰化内因性もしくは異種プロモーター、潜在性プロモーター、トランケート化内因性もしくは異種プロモーターに機能的に連結された又はプロモーターを伴わない、該栄養要求性選択マーカータンパク質をコードする内因性遺伝子の機能に相補的な機能をコードするオープンリーディングフレーム(ORF)を含む核酸、
(2)関心のあるペプチド、タンパク質および/または機能性核酸をコードする核酸を含む1以上の発現カセットを有する核酸、ならびに
(3)相同組換えによる該宿主細胞のゲノムの特定の位置への該組込みベクターの挿入を導く標的化核酸を含む]で該宿主細胞を形質転換することを含んでなり、
ここで、該形質転換宿主細胞が、関心のある組換えペプチド、タンパク質および/または核酸を産生する、方法。
【請求項14】
該栄養要求性選択マーカーが、ADE、URAおよびLYSよりなる群から選ばれる遺伝子によりコードされている、請求項14記載の方法。
【請求項15】
該栄養要求性選択マーカータンパク質がADE1遺伝子によりコードされている、請求項14記載の方法。
【請求項16】
該栄養要求性選択マーカータンパク質がADE2遺伝子によりコードされている、請求項14記載の方法。
【請求項17】
該組換えベクターが、前記の1以上の異種ペプチドまたはタンパク質をコードする1以上の発現カセットの挿入のための複数の挿入部位を含む、請求項13記載の方法。
【請求項18】
該組換えベクターが2以上の発現カセットを含む、請求項13記載の方法。
【請求項19】
該組換えベクターが、それらの発現カセット間に相同DNA配列をほとんど又は全く含まない、請求項18記載の方法。
【請求項20】
該組換えベクターが、モノクローナル抗体の軽鎖をコードする第1発現カセットと、モノクローナル抗体の重鎖をコードする第2発現カセットとを含む、請求項18記載の方法。
【請求項21】
該宿主細胞が下等真核生物である、請求項13記載の方法。
【請求項22】
該宿主細胞が、ピチア・パストリス(Pichia pastoris)、ピチア・フィンランディカ(Pichia finlandica)、ピチア・トレハロフィラ(Pichia trehalophila)、ピチア・コクラメ(Pichia koclamae)、ピチア・メンブラネファシエンス(Pichia membranaefaciens)、ピチア・ミヌタ(Pichia minuta)[オガタエア・ミヌタ(Ogataea minuta)、ピチア・リンドネリ(Pichia lindneri)]、ピチア・オプンチエ(Pichia opuntiae)、ピチア・テルモトレランス(Pichia thermotolerans)、ピチア・サリクタリア(Pichia salictaria)、ピチア・グエルクウム(Pichia guercuum)、ピチア・ピエペリ(Pichia pijperi)、ピチア・スティプティス(Pichia stiptis)、ピチア・メタノリカ(Pichia methanolica)、ピチア属種(Pichia sp.)、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、サッカロミセス属種(Saccharomyces sp.)、ハンゼヌラ・ポリモルファ(Hansenula polymorpha)、クライベロミセス属種(Kluyveromyces sp.)、クライベロミセス・ラクチス(Kluyveromyces lactis)、カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)、アスペルギルス・ニデュランス(Aspergillus nidulans)、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)、アスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)、トリコデルマ・レエセイ(Trichoderma reesei)、クリソスポリウム・ルクノウェンセ(Chrysosporium lucknowense)、フザリウム属種(Fusarium sp.)、フザリウム・グラミネウム(Fusarium gramineum)、フザリウム・ベネナツム(Fusarium venenatum)、フィスコミトレラ・パテンス(Physcomitrella patens)およびニューロスポラ・クラッサ(Neurospora crassa)よりなる群から選ばれる種のものである、請求項21記載の方法。
【請求項23】
該宿主細胞がピチア・パストリス(Pichia pastoris)である、請求項13記載の方法。
【請求項24】
ピチア・パストリス(Pichia pastoris)細胞が、混合型または複合型N−グリカンを有する糖タンパク質を産生しうるよう修飾されている、請求項23記載の方法。
【請求項25】
ピチア・パストリス(Pichia pastoris)のADE2遺伝子を含んでなる単離された核酸。
【請求項26】
該核酸が、Ade2pタンパク質をコードするオープンリーディングフレームを含む、請求項25記載の核酸。
【請求項27】
該核酸が、配列番号60に示すヌクレオチド127−ヌクレオチド1,815の核酸配列に対して95%の同一性を有するヌクレオチド配列を有する、請求項26記載の核酸。
【請求項28】
請求項27記載の核酸を含んでなるベクター。
【請求項29】
内因性ADE2遺伝子の欠失もしくは破壊、またはADE2遺伝子もしくはAde2pを非機能性にする任意の他の修飾を含んでなるピチア・パストリス(Pichia pastoris)細胞。
【請求項30】
ADE2オープンリーディングフレームを含むベクターが、該内因性ADE2遺伝子が位置していた位置以外のピチア・パストリス(Pichia pastoris)ゲノム内の位置に組込まれている、請求項29記載のピチア・パストリス(Pichia pastoris)。
【請求項31】
配列番号61に示すアミノ酸配列に対して95%の同一性を有するアミノ酸配列を含んでなる単離されたポリペプチド。
【請求項32】
(a)Ade2pをコードする内因性ADE2遺伝子がピチア・パストリス(Pichia pastoris)宿主細胞のゲノムから除去されている該ピチア・パストリス(Pichia pastoris)宿主細胞と、
(b)組込みベクター[該組込みベクターは、
(1)Ade2pをコードする核酸、
(2)関心のある1以上の異種ペプチド、タンパク質および/または機能性核酸をコードする核酸を含む1以上の発現カセットの挿入のための挿入部位を有する核酸、ならびに
(3)相同組換えによる該宿主細胞のゲノムの特定の位置への該組込みベクターの挿入を導く標的化核酸を含む]とを含む発現系。
【請求項33】
関心のある異種ペプチド、タンパク質および/または核酸を発現する組換えピチア・パストリス(Pichia pastoris)宿主細胞の製造方法であって、
(a)Ade2pをコードする内因性ADE2遺伝子が該宿主細胞のゲノムから除去されている該宿主細胞を準備し、
(a)組込みベクター[該組込みベクターは、
(1)Ade2pをコードする核酸、
(2)関心のある1以上の異種ペプチド、タンパク質および/または機能性核酸をコードする核酸を含む1以上の発現カセットを有する核酸、ならびに
(3)相同組換えによる該宿主細胞のゲノムの特定の位置への該組込みベクターの挿入を導く標的化核酸を含む]で該宿主細胞を形質転換することを含んでなり、
ここで、該形質転換宿主細胞が、関心のある組換えペプチド、タンパク質および/または核酸を産生する、製造方法。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図2D】
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【図2E】
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【図2F】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図3D】
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【図4A】
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【図4B】
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【公表番号】特表2011−507512(P2011−507512A)
【公表日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−539445(P2010−539445)
【出願日】平成20年12月15日(2008.12.15)
【国際出願番号】PCT/US2008/013719
【国際公開番号】WO2009/085135
【国際公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【出願人】(503007287)グライコフィ, インコーポレイテッド (37)
【Fターム(参考)】