説明

タンパク質の製造方法

【課題】 効率よく不活性タンパク質から活性タンパク質にタンパク質をリフォールディングすることが求められていた。
【解決手段】 タンパク質の製造方法であって、不活性タンパク質をメソ孔中に担持した多孔体を用意する工程と、前記不活性タンパク質を担持した前記多孔体に変性剤を付与する工程と、前記多孔体より変性剤を除去し、前記不活性タンパク質を活性タンパク質に変化させる工程とを備えるタンパク質の製造方法により解決することが可能になった。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンパク質の製造方法に関し、タンパク質製剤や新規薬剤の開発、バイオセンサの機能賦活などへの応用が期待される。
【背景技術】
【0002】
近年、遺伝子工学及びタンパク質工学の進展に伴い、タンパク質の入手方法も次第に変化しており、なかでも目的タンパク質をコードする遺伝子を取り出し、適当な宿主細胞で発現させる方法は、大量の目的タンパク質を得ることを可能にした。このような遺伝子からタンパク質を合成する手法としては、大腸菌、昆虫細胞、動物細胞などで遺伝子を過発現させる方法や、無細胞タンパク質合成法を用いる方法がとられる。
【0003】
昆虫細胞や哺乳動物細胞によるタンパク質合成では、得られるタンパク質の高次構造が制御され、秩序だった立体構造を取り、可溶性である場合が多い。しかし、これらの方法では、目的タンパク質の収率が極めて低く、目的のタンパク質を得るためには、複雑な分離精製の操作が必要になり、目的タンパク質を得るまでに時間がかかる。さらに、得られる目的タンパク質の量も極めて少なく、コストも高い。
【0004】
これに対して、大腸菌によるタンパク質合成は、操作が簡単であり、目的タンパク質を得るのにあまり時間を要せず、コストもさほどかからない。このため、現在は目的タンパク質の合成を担う遺伝子コードを組み込ませた大腸菌を用いる方法が、タンパク質合成の主流となっており、その生産プロセスも確立されつつある。ただ、ヒトなどの高等生物のタンパク質を大腸菌の発現系で合成した場合、インクルージョンボディ(封入体)と呼ばれる不溶化したタンパク質の凝集体を菌体内に形成することが数多く報告されている。当然ながら、この不溶性化したタンパク質であるインクルージョンボディは、そのタンパク質に固有の機能・性能を持たず、活性を示さない。このため、人工的なタンパク質生産プロセスでは、インクルージョンボディを解きほぐし、高次構造を整え、秩序だった立体構造を持つ活性タンパク質に変換する操作、すなわちインクルージョンボディのリフォールディングが必要となる。
【0005】
この種のリフォールディングは、大腸菌により生産されたタンパク質のみならず、熱履歴等のある種の原因で失活したタンパク質の再生にも応用でき、極めて重要な技術であり、盛んに研究されてきた。しかし、これまでにも種々の方法が提案されてはいるが、それらはリフォールディング率が低いうえに、ある限定されたタンパク質に対して偶発的に好ましい結果が得られたに過ぎなかった。
【0006】
例えば、不溶化したタンパク質は一度、尿素やグアニジン塩酸塩などのタンパク質変性剤で可溶化させ、徐々にタンパク質変性剤を除くことによってリフォールディングさせることが広く行われてきた。しかし、タンパク質の自発的なフォールディングにまかせたこの方法は条件設定に非常に時間を要し、また、リフォールディングできないタンパク質も多く存在するなど多くの課題を抱えているのが現状である。特に、タンパク質の大量生産が求められる現在の状況には向かない方法であるといえる。
【0007】
その中で注目を集めている方法として分子シャペロン(Molecular Chaperone)を利用したリフォールディング方法がある。分子シャペロンの古くは熱ショックタンパク質として知られていた一連のタンパク質で、タンパク質のリフォールディング、膜透過、会合、分解などに働いているタンパク質として知られ、大腸菌から人に至るまでその遺伝子配列は高度に保存されている。分子シャペロンの多くは、生体が熱ショック、代謝阻害、重金属、ウイルス感染、虚血などに晒された場合に合成され、生体をそれらのストレスショックから守り、恒常性を維持する機能を果たしている。しかし、どのようなメカニズムでリフォールディングが行われているかは未だに解明されていない。また、人工の分子シャペロンとしては、β−シクロデキストリンやシクロアミラーゼが用いられ、このシャペロン溶液に変性したタンパク質を混ぜると、人工シャペロンによる取り込み除去が生じ、この過程でタンパク質が巻き戻るとの報告(非特許文献1)もある。しかし、これらの方法もまた、CarbonicanhydraseBなどで成功しているに過ぎず、しかも繰り返し行える方法ではないため、高コストである。
【0008】
また、特許文献1には、ゼオライトベータに接触させる方法が開示されている。インクルージョンボディをゼオライトベータに接触、吸着させた後に界面活性剤等で剥離することで、分子量10万以上のタンパク質をリフォールディングすることが可能であり、数種類以上のタンパク質でのリフォールディングが確認されている。しかしながら、吸着剤であるゼオライトベータからの剥離過程で、界面活性剤等の選択により、リフォールディング率が大きく変わるため、種々のタンパク質の性質に応じて条件出しをする必要性がある。また、従来のリフォールディング法と比較しても、より複雑なプロセスを要する。
【特許文献1】特開2005−029531号公報
【非特許文献1】J.Am.Chem.Soc.,Vol.117,(1995)2373−2374.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
このように、種々のリフォールディングの方法が報告されているが、これらの方法には、上記のような課題があるのが実情である。本発明は、このような背景技術に鑑みてなされたものであり、より簡便で高効率なリフォールディングを可能にしたタンパク質の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そこで、本発明は、
タンパク質の製造方法であって、
不活性タンパク質を孔中に担持した多孔体を用意する工程と、
前記不活性タンパク質を担持した前記多孔体に変性剤を付与し、前記不活性タンパク質の立体構造を変化させる工程と、
前記多孔体より変性剤を除去し、前記不活性タンパク質を活性タンパク質に変化させる工程とを備えるタンパク質の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、孔の中でタンパク質のリフォールディングを行うことにより、リフォールディング率の高いタンパク質の製造方法が提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の概要について図1を用いて説明する。
【0013】
本発明は、タンパク質の製造方法であり、まず、図1(a)に示すように不活性タンパク質12を孔中に担持した多孔体11を用意する工程を備える。そして、図1(b)に示すように前記不活性タンパク質12を担持した前記多孔体11に変性剤13を付与する工程を備える。これにより、不活性タンパク質の結合の一部を切断し、不活性タンパク質の立体構造を変化させる。さらに、図1(c)に示すように、前記多孔体より変性剤13を除去し、前記不活性タンパク質を活性タンパク質に変化させる工程があり、この工程により、新たな結合を形成することにより、活性タンパク質に変化させるものである。
【0014】
より詳細に本発明を構成するものについて詳細に説明する。
【0015】
(タンパク質について)
タンパク質に活性タンパク質と不活性タンパク質という文言を用いている。本明細書では、活性タンパク質とは、タンパク質自体が本来ある基質特異性を示すものを言う。例えば、細菌細胞壁のムコペプチドなどに存在するN−アセチルムラミン酸(MurNAc)とN−アセチルグルコサミン(GlcNAc)間のβ−1,4結合間を特異的に加水分解するリゾチームタンパク質がある。また、免疫グロブリンをFabフラグメントとFcフラグメントに特異的に分解するパパインタンパク質や、アルコールをアルデヒドに酸化するアルコールデヒドロゲナーゼタンパク質等も挙げられる。
【0016】
一方、不活性タンパク質では、タンパク質が有する本来の基質特異性を示さないものを言う。例えば、上述のリゾチームタンパク質であれば、化合物のムコペプチド、パパインタンパク質であれば免疫グロブリン、アルコールデヒドロゲナーゼではアルコールに対してそれぞれ基質特異性を示さないものが該当する。また、本明細書における不活性タンパク質には、一般的に大腸菌等の発現系で得られる立体構造が無秩序なタンパク質、いわゆるインクルージョンボディや不溶化タンパク質も含む。また、熱履歴等のある種の原因で不活性化したタンパク質も含む。
【0017】
(メソ孔と多孔体について)
本発明に用いられる多孔体の細孔はメソ孔を有している。メソ孔とは、IUPACで定義されており、2nmから50nmの範囲の孔径を有する細孔を指す。本発明に用いられる多孔体の形状は、図2に示すようなメソ孔23が短軸方向に配向し、かつマクロ孔21を有した樹枝状構造体22を有する多孔体が好適である。この多孔体の方がタンパク質の拡散に優れ、且つ、担持量を多くでき、ハイスルーブットのリフォールディングを行うためにも好ましい。ただし、球状や膜状など他の形状でも同様の効果が得られるものであれば、どのような形態も適用可能である。本明細書では、多孔体のことを多孔質材料と表現する場合がある。また、メソ孔を有する多孔体のことをメソ多孔体やメソポーラス材料と表記することもある。
【0018】
多孔体の細孔構造を図2に示す。図2に示すように実質的に均一な径のメソ孔を有する。この図2には、2次元ヘキサゴナル構造のものが示されているが、細孔の配置はこれに限定されるものではない。例えば、この他に、キュービック構造のもの、3次元ヘキサゴナル構造のもの等を使用することが可能である。また、細孔径は実質的に均一であって、その配置がランダムなものでも、本発明のタンパク質製造方法に良好に用いることができる。
【0019】
この多孔体のメソ孔は、界面活性剤分子集合体(ミセル)が形成するものである。ある条件においてはミセルを形成する分子の会合数が等しいために、同じ形の細孔が形成されるものである。ミセルの形状は、球状、チューブ状、層状など種々の形態が知られているが、本発明に関わるメソポーラス材料を形成するミセルの形状は基本的にチューブ状のものである。チューブ間は繋がっていても分離されていても良い。
【0020】
本発明に利用されるメソポーラス材料において、多孔質材料の孔壁24を形成する材料は、上述の細孔構造を有するものであれば、どのようなものでも適用可能である。例えば、酸化チタン、酸化スズ、酸化ケイ素などがある。その中で、ケイ素を成分を含む材料が好ましく、特にシリカが好ましく用いられる。また,1以上の炭素原子を含有する有機基と,前記有機基と2箇所以上で結合する2以上のケイ素原子と、前記ケイ素原子と結合する1以上の酸素原子から構成される有機シリカハイブリッド材料でも良い。
【0021】
界面活性剤ミセルを鋳型に用いて作成されるメソポーラス材料のうち、細孔径と細孔の長さのアスペクト比が小さなメソポーラス材料の作成方法が本発明に用いる多孔体として好適である。それは、次の文献に開示されている方法で作製可能である。
Journal of the American Chemical Society詩第126巻第7740頁
ただし、本発明に利用されるメソポーラス材料は、上述のメソポーラス材料の特徴を満たすものであれば、例示した文献の方法に限定されない。
【0022】
(多孔体の製造方法について)
以下、本発明に用いられたゾル−ゲル法による短軸配向性メソポーラスシリカの合成方法について説明する。
【0023】
反応溶液は、界面活性剤と有機分子、そして金属アルコキシド等の目的材料の原料になる物質を含む溶液である。細孔壁を形成する材料に応じて、加水分解反応触媒である酸等を適当量添加する場合もある。
【0024】
目的材料に応じて、原料としてハロゲン化物、カルコゲン化物、金属アルコキシド等が用いられる。例えば、細孔壁がシリカの場合には、金属アルコキシドであるテトラエトキシシランやテトラメトキシシランが好ましく用いられる。当然、アルコキシド以外のシリカ源でも本発明に適応可能である。
【0025】
使用する界面活性剤は、ポリエチレンオキシドを親水基として含むブロックコポリマーなどの非イオン性界面活性剤等が用いられる。しかし、使用可能な界面活性剤はこれらに限定されず、目的の構造が得られるものであれば特に限定しない。
【0026】
アスペクト比の小さな細孔構造の制御は、添加する有機分子およびその添加量によって制御される。例えばn−デカンを添加することによって、アスペクト比の小さな細孔構造を有したロッド状メソポーラスシリカが合成される。
【0027】
使用する酸も塩酸、硝酸のような一般的なものを使用することが可能である。
【0028】
上記のような反応溶液を水熱条件下で反応させることにより、目的のメソポーラス材料を合成することができる。合成させる際の温度は、80℃〜150℃の温度領域において選択される。反応時間は数時間〜数日程度で、反応温度や反応時間は適宜最適化される。
【0029】
この様にして合成されたメソポーラス材料は、純水で洗浄した後に空気中で自然乾燥させることで、細孔内に界面活性剤ミセルをテンプレートとして含む無機−有機複合粉末材料が得られる。以上のように作製された無機−有機複合粉末材料からテンプレートの界面活性剤ミセルを除去することで、本発明に利用することができるメソポーラス材料を作製することができる。界面活性剤の除去方法には、種々の方法があるが、細孔構造を破壊せずに界面活性剤を除去できる方法であれば、どのような方法を使用しても良い。
【0030】
最も一般的に用いられる方法は、酸素を含んだ雰囲気中で焼成する方法である。例えば、合成した材料を空気中で、500℃において10時間焼成することによって、メソ孔構造をほとんど破壊することなく、完全に界面活性剤を除去することができる。焼成温度と時間は、細孔壁を形成する材料と使用する界面活性剤により、最適化されるのが好ましい。
【0031】
(多孔体の検証)
このような方法で合成したメソポーラス粉末試料について、窒素ガス吸脱着測定を行い、細孔径に関する知見を得ることができる。本発明におけるメソポーラス材料の細孔径は、実質的に均一な径であることを特徴とする。ここでいう均一径の細孔とは、窒素ガス吸着測定の結果から、Berret−Joyner−Halenda(BJH)法により評価される細孔径分布において、求められた細孔径分布が、単一の極大値を有する。さらに細孔径分布において、全メソ孔中の60%以上のメソ孔が、10nmの幅を持つ範囲内に含まれることを示す。尚、細孔径は、後に説明する界面活性剤を適宜選択することで変化させることができる。
【0032】
細孔の周期構造はX線回折(XRD)測定によって知見を得ることが可能である。本発明におけるメソポーラス材料は、XRD測定の分析において、回折結果が1nm以上の構造周期に対応する角度領域に少なくとも1つの回折ピークを有することを特徴とする。
【0033】
(多孔体を用いたリフォールディング)
続いて、前記多孔体を用いたリフォールディングプロセスによる、不活性タンパク質の活性化方法について説明する。
【0034】
このメソ多孔体を利用したリフォールディングプロセスを図1に模式的に示した。この図において、11はメソ多孔体であり、12は失活したタンパク質等のインクルージョンボディである。13は変性剤である。
【0035】
本発明では、リフォールディングの対象となるタンパク質としては、インクルージョンボディ、あるいは熱履歴等、ある種の原因で失活したタンパク質などの不活性タンパク質が用いられる。本発明では、これらのタンパク質をメソ多孔体のメソ孔内で処理して、タンパク質の立体構造をリフォールディングすることにより、タンパク質を活性化させる。
【0036】
活性化タンパク質に変化させる工程は、通常、タンパク質のインクルージョンボディを、変性剤含有の溶液に先ず分散溶解し、メソ多孔体を混合させることで細孔内へタンパク質を吸着させる。その後、濃度勾配により変性剤を除去する方法や、メソ多孔体の細孔内においてタンパク質を熱履歴等により失活させ、その後変性剤を添加、次いで変性剤を除去させる工程で行われる。もちろん、予め不活性タンパク質を担持した多孔体を変性剤含有の溶液に分散させてもよい。
【0037】
メソ多孔体に吸着前のタンパク質の分散溶媒としては、一般には、それが大腸菌等の発現系で生産されることがある。また、タンパク質は、通常、水溶液中で使われることが多く、失活した場合でも水溶液中にあることが多いことから水が用いられるが、必ずしもこれに限定されるものではない。
【0038】
本発明におけるタンパク質のアンフォールディング(解きほぐし)は、インクルージョンボディなど、絡んだタンパク質鎖長を解きほぐし易くし、また、巻き戻り易くするための変性剤とを入れて行われる。さらに、タンパク質鎖長中に不本意に生成したジスルフィド結合を切断するために、ある種の還元剤を用いることもある。本発明では一般に用いられる界面活性剤等のリフォールディング因子は添加しない。
【0039】
変性剤は、広義ではタンパク質の立体構造を変化させるものであればよい。ここでは、さらに、変性剤と還元剤に分けて説明する。
【0040】
変性剤は、尿素、塩酸グアニジンなどが挙げられる。本発明で用いられる変性剤は、タンパク質内の水素結合や疎水結合を切断することができるものが好ましいと考察される。還元剤は、メルカプトエタノール、グルタチオン、ジチオスレイトールなどが挙げられる。還元剤は、タンパク質内のジスルフィド結合を切断することができるものが好ましいと考察される。
【0041】
アンフォールディングされたタンパク質は、変性剤の除去によってリフォールディングすることができる。変性剤の除去方法は、希釈法や透析法など、変性剤を除去できる方法であれば特に限定されないが、濃度勾配による希釈法がより好ましい。また、細孔内に分散しているアンフォールディングしたタンパク質は、急激な濃度勾配による凝集を防ぐことが可能であるため、このような希釈に行う時間を数時間に短縮することが可能である。
【0042】
また、リフォールディングしたタンパク質は、物理吸着よって細孔内にトラップされており、中でも静電吸着によるところが大きいため、緩衝溶液のpHを変えたり、イオン交換したりすることにより細孔外に脱着させることが可能である。このようにメソ孔内に担持することにより、希釈時間の短縮とタンパク質の立体構造の正確な再構築が可能になる。
【0043】
以下、実施例を用いて、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は実施例の内容に限定されるものではない。
【実施例1】
【0044】
本実施例は、枝分かれしたロッド状のシリカが3次元的に網目状に配列した、マクロ孔を有する多孔質材料において、実質的に均一なチューブ状メソ孔がロッドの短軸方向に対して並行に形成されたメソポーラスシリカを作製する。そして、リゾチームを任意の量で吸着させた後、熱失活させ、変性剤の吸脱着のみでリフォールディングさせた例である。
2.40gの非イオン界面活性剤であるトリブロックコポリマー
(EO20PO70EO20;HO(CHCHO)20(CHCH(CH)O)70(CHCHO)20H)
を76.5mLの純水に溶解し、さらに7.5mLの36wt%濃塩酸を添加し、室温で30分撹拌した。溶解後、水溶液を18℃から30℃の恒温槽にて冷却し、2時間放置した。続いてnーdecaneを13.9g添加し、1日撹拌した。さらに、この混合溶液に加水分解触媒としてNHFを0.027g、および5.10gのテトラエトキシシラン(TEOS)を添加したものを前駆溶液とした。最終的な前駆溶液の組成(モル比)は、TEOS:HCl:EO20:PO70:EO20:NHF:nーdecane:HO=0.25:0.9:0.004:0.007:1:42.9となるようにした。
【0045】
この前駆体溶液を上記温度において、1日撹拌し、その後耐圧容器に移し変えて100℃で24時間反応させた。得られた白色沈殿物は純水で十分に洗浄し、真空乾燥させた。
【0046】
得られた粉末試料を、空気中500℃で焼成し、細孔内から界面活性剤を分解・除去した。界面活性剤等の有機物の除去は、赤外吸収スペクトルによって確認された。
【0047】
合成されたメソポーラスシリカ粉末をX線回折法により評価した結果、図3のように面間隔11.7nmのヘキサゴナル構造の(100)面に帰属される回折ピークを始め、(110)、(200)、(210)面に帰属される回折ピークを確認した。この結果は、このメソポーラスシリカの細孔構造が、高い規則性を持ったヘキサゴナル配列を有していることを示している。
【0048】
77Kにおける窒素吸脱着等温線測定を行った結果、吸着等温線形状はIUPAC分類におけるIV型となった。B.E.T.法によって算出された比表面積は700m/gとなり、細孔容量は1.88mL/gとなった。また、この吸着等温線の結果から、BJH法により細孔径を算出すると、本実施例で合成したメソポーラスシリカの細孔径分布は、14.1nmに単一のピークを有する狭い分布となり、細孔の90%以内が10nmの分布内に収まった。
【0049】
次に、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察を行ったところ、図4のように無数の枝分かれしたロッド状の構造体および、これらの構造体が3次元的に網目状に配列した構造を形成していた。この枝分かれしたロッド状構造体の間隙には、300〜500nmのマクロ孔が形成されていた。またロッド状構造体の直径は、200〜300nmであった。さらに高倍率でSEM観察を行ったところ、図5のように樹枝状構造体の短軸方向に直径14nmのチューブ状メソ孔が配向していた。また、その断面図では図6のように、比較的均一なチューブ状のメソ孔がハニカム状にパッキングした細孔構造を形成していた。
【0050】
次に、このメソポーラスシリカのメソ孔内に、モデルタンパク質としてリゾチームを吸着させた。リゾチームはその構造内に、ジスルフィド結合を2ヶ所持っており、リフォールドしにくい酵素として知られている。
【0051】
pH=7.4の10mMリン酸緩衝液を用いてリゾチームを0.2mg/mLに調製し、この1mL中に上記方法で合成したメソポーラスシリカを2.0mg加えた。この混合溶液は4℃、24時間の条件下でシェーカーを用いて撹拌し、該リゾチームをメソポーラスシリカ細孔内に吸着させた。撹拌終了後、4℃、10分、20000gで遠心分離を行い、リゾチーム固定化シリカを得た。吸着前後の上澄み溶液における280nmの吸収極大を利用し、メソポーラスシリカへのリゾチームの吸着量を算出した。吸着等温線はLangmuir型の単層吸着挙動を示し、約100mg/gの吸着が確認された。メソポーラスシリカの外表面ではなく、細孔の中にリゾチームが導入されていることは、リゾチームのメソポーラスシリカへの吸着前後における、窒素吸着測定装置による細孔内への窒素分子の吸着挙動の変化で確認した。
【0052】
次に、このリゾチーム固定化メソポーラスシリカに熱処理を加え、リフォールディング測定を行った。
【0053】
上記で調製したリゾチーム固定化メソポーラスシリカを洗浄し、10mMリン酸緩衝液(pH=7.0)を1mL加え、90℃で2時間加熱した。次に、6Mグアニジン塩酸塩溶液と20mMβメルカプトエタノールの混合溶液を2mL添加し、12時間撹拌した。その後、1時間から6時間で適宜純水による洗浄を繰り返し、リフォールディングプロセスを行った。リフォールディングしているかどうかは、リゾチームの活性を測定することで評価した。リフォールディングプロセスの最終結果物以外にも、固定化した直後のリゾチーム活性、熱処理後のリゾチーム活性もコントロールとして測定した。以下にリゾチームの活性測定方法を示す。
【0054】
リゾチームを固定化したメソポーラスシリカを洗浄した。そして、50mM酢酸ナトリウム緩衝液(pH=5.0)で調製した1.5mg/mLのp−Nitrophenyl−penta−N−acetyl−β―chitopentaoside(PNP−GlucNAc)を230μLの溶液を用意した。また、10mMリン酸緩衝液(pH=7.0)で調製した0.012mg/mLのN−acetylglucosaminidase from Jack beans(NAHase)を100μLの溶液を用意した。それらを50mM酢酸ナトリウム緩衝液(pH=5.0)の混合溶液にして加え、37℃で1時間撹拌した。活性化したリゾチーム存在下ではp−ニトロフェノールが生成するため、405nmの吸光度を測定することによりリゾチーム活性を評価した。図7は、熱処理前のリゾチーム活性を100%とした相対活性を示している。また、熱処理後のリゾチーム活性はほぼ0%を示した。この結果から、変性剤の除去のみで20%以上のリゾチームがリフォールディングされたことが確認された。
【0055】
また、メソ多孔体から脱着させたリゾチームの活性を測定した。変性剤を除去し、リフォールディングされたリゾチーム試料に、50mMから100mMのリン酸緩衝液を加え、12時間撹拌し、リゾチームを細孔内から脱着させた。撹拌終了後、4℃、10分、20000gで遠心分離を行い、メソポーラスシリカを沈殿させ、リゾチームを含む上澄み液を採取し、上記方法によりリゾチーム活性を測定した。リゾチームの活性は10%程度に低下したが、活性化したリゾチームは、メソ多孔体から脱着していることが確認された。
【0056】
(比較例1)
本比較例は、実施例1で示したリフォールディングプロセスを、均一細孔を有していない単分散球状シリカを用いた場合と、細孔径が2.9nmのキュービック状メソポーラスシリカを用いた場合のリフォールディング効果を測定した例である。単分散球状シリカの合成方法は特開平05−139717に、キュービックメソポーラスシリカの合成方法は、Nature誌第359号710頁に記載されている。
【0057】
合成した単分散球状シリカはSEM観察より平均直径が約50nm、キュービックメソポーラスシリカは窒素吸着等温線測定より、900m2/gの比表面積と2.9nmの細孔径を有していた。
【0058】
これら2種類の試料を用いて、実施例1と同様のリゾチームのリフォールディング実験実験を行った。pH=7.4の10mMリン酸緩衝液を用いてリゾチームを0.2mg/mLに調製し、この1mL中に上記方法で合成したメソポーラスシリカをそれぞれ2.0mg加えた。この混合溶液は4℃、24時間の条件下でシェーカーを用いて撹拌し、該リゾチームをメソポーラスシリカに吸着させた。撹拌終了後、4℃、10分、20000gで遠心分離を行い、リゾチーム固定化シリカを得た。吸着前後の上澄み溶液における280nmの吸収極大を利用し、メソポーラスシリカへのリゾチームの吸着量を算出した。それぞれ約10mg/gの吸着が確認された。リゾチームのメソポーラスシリカへの吸着前後における、窒素吸着測定装置による窒素分子の吸着挙動の変化では、吸着したリゾチームはほとんど細孔内に導入されておらず、外表面へ吸着していることが確認された。これは、リゾチームの大きさが3nm程度に対し、細孔が充分に大きくなかったためであると推察できる。
【0059】
次に、このリゾチーム固定化メソポーラスシリカに熱処理を加え、リフォールディングの効果を確認した。上記で調製したリゾチーム固定化メソポーラスシリカを洗浄し、10mMリン酸緩衝液(pH=7.0)を1mL加え、90℃で2時間加熱した。次に、6Mグアニジン塩酸塩溶液と20mMβメルカプトエタノールの混合溶液を2mL添加し、12時間撹拌した。その後、1時間から6時間で適宜純水による洗浄を繰り返し、リフォールディングプロセスを行った。リフォールディングしているかどうかは、リゾチームの活性を測定することで評価した。リフォールディングプロセスの最終結果物以外にも、固定化した直後のリゾチーム活性、熱処理後のリゾチーム活性もコントロールとして測定した。以下にリゾチームの活性測定方法を示す。
【0060】
リゾチームを固定化したメソポーラスシリカを洗浄した。50mM酢酸ナトリウム緩衝液(pH=5.0)で調製した1.5mg/mLのp−Nitrophenyl−penta−N−acetyl−β―chitopentaoside(PNP−GlucNAc)を230μLの溶液を用意した。また、10mMリン酸緩衝液(pH=7.0)で調製した0.012mg/mLのN−acetylglucosaminidase from Jack beans(NAHase)を100μLの溶液を用意した。そして混合してできた50mM酢酸ナトリウム緩衝液(pH=5.0)を加え、37℃で1時間撹拌した。活性化したリゾチーム存在下ではp−ニトロフェノールが生成するため、405nmの吸光度を測定することによりリゾチーム活性を評価した。しかし、本比較例に用いた試料は両方とも405nm付近に吸光を示さず、熱処理試料同様、全く活性を示さなかったことから、細孔内以外の吸着では、変性剤の単純除去のみではリフォールディングしないことが分かった。
【0061】
以上のように、従来開示されていたリフォールディング技術と近似する比較例と本実施例とを比べれば明らかなように、従来よりも高効率なリフォールディング技術を提供できることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0062】
タンパク質製剤や新規薬剤、バイオセンサの機能賦活などの産業に利用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の一実施形態の例を示したタンパク質の製造方法の模式図である。
【図2】実施例で利用した短軸配向性メソポーラス材料を説明するための模式図である。
【図3】実施例で利用した短軸配向性メソポーラス材料のX線回折の結果である。
【図4】実施例で利用した短軸配向性メソポーラス材料の走査型電子顕微鏡のイメージである。
【図5】実施例で利用した短軸配向性メソポーラス材料の走査型電子顕微鏡の高倍率イメージである。
【図6】図4で示された短軸配向性メソポーラス材料の断面における走査型電子顕微鏡の高倍率イメージである。
【図7】熱処理後のリゾチーム活性と、実施例の製造方法を実施後のリゾチーム活性の比較図。
【符号の説明】
【0064】
11 多孔体
12 失活したタンパク質等の封入体
13 変性剤
14 活性化したタンパク質等
21 マクロ孔
22 メソ孔を有した樹枝状構造体
23 メソ孔
24 孔壁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンパク質の製造方法であって、
不活性タンパク質を孔中に担持した多孔体を用意する工程と、
前記不活性タンパク質を担持した前記多孔体に変性剤を付与し、前記不活性タンパク質の立体構造を変化させる工程と、
前記多孔体より変性剤を除去し、前記不活性タンパク質を活性タンパク質に変化させる工程とを備えることを特徴とするタンパク質の製造方法。
【請求項2】
前記孔がメソ孔であることを特徴とする請求項1記載のタンパク質の製造方法。
【請求項3】
前記変性剤は、前記不活性タンパク質内の水素結合又は疎水結合を切断することを特徴とする請求項1記載のタンパク質の製造方法。
【請求項4】
前記活性タンパク質に変化させる工程は、前記多孔体に担持されたタンパク質内で新たな水素結合又は疎水結合を形成する工程であることを特徴とする請求項1記載のタンパク質の製造方法。
【請求項5】
前記不活性タンパク質は、熱履歴によって不活性化したタンパク質であることを特徴とする請求項1記載のタンパク質の製造方法。
【請求項6】
前記多孔体から前記活性タンパク質を取り出す工程を備えることを特徴とする請求項1記載のタンパク質の製造方法。
【請求項7】
前記多孔体のメソ孔の配置は、ハニカム状に配置されていることを特徴とする請求項1記載のタンパク質の製造方法。
【請求項8】
前記変性剤を付与する工程は、さらに還元剤も付与することを特徴とする請求項1記載のタンパク質の製造方法。
【請求項9】
メソ孔を有した前記多孔体のX線回折の分析において、回折結果が1nm以上の構造周期に対応する角度領域に少なくとも1つの回折ピークを有することを特徴とする請求項1記載のタンパク質の製造方法。
【請求項10】
前記多孔体の孔壁を構成する材料がケイ素を成分として含むことを特徴とする請求項1記載のタンパク質の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−201735(P2008−201735A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−40903(P2007−40903)
【出願日】平成19年2月21日(2007.2.21)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】