説明

タンパク質を用いた泡沫分離法による細菌の選択的な分離回収装置及び分離回収方法

【課題】タンパク質を用いた泡沫分離法による細菌の選択的な分離回収装置及び分離回収方法を提供する。
【解決手段】複数の細菌を含む処理水を処理槽に注入し、前記細菌を選択的に吸着するタンパク質を前記処理水に投入するとともに、送気手段によって前記処理水内に気泡を発生させ、前記細菌のうち大腸菌1種Esherichia coli、腸球菌1種Enterococcus facalis、レンサ球菌2種Strepttococcus dysgalactia、Streptococcus iniae、パスツレラ菌1種Pastreurella piscucudaのうち少なくとも1種を前記気泡中の前記タンパク質に選択的に吸着させて分離回収する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の細菌が存在する処理水から選択的に細菌を分離回収する方法であって、とくにタンパク質を用いた泡沫分離法による細菌の選択的な分離回収方法に関するものであり、さらにそれに使用する分離回収装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、水道水の原水となる河川水やプール、公衆浴場、海水浴場における水の中には複数の細菌が比較的低濃度で混在しており、その濃度によって人が使用する許容度が決められている。しかし近年、これらの細菌の中に病原性を示す細菌が混在し、動物や魚介類に感染し、さらに人体に間接的、或いは直接的に感染する事故が発生している。
【0003】
上記の事故防止のため、各種の薬品等による殺菌処理が行なわれているが、例えば塩素やオゾン等は人体には有害であり使用方法にも制限があった。また、これらの細菌を分離する方法としては、寒天平板による平板法が広く採用されているが、細菌を培養するためには少なくとも数日間かかり、また少量の試料しか接種できないため細菌密度が低い処理水の場合には細菌が検出できないという問題点があった。さらに吸引濾過とフィルタによる培養方法もあるが、大量の処理水を濾過する必要があり作業に長時間と労力を要し、しかも吸引の際に細菌の細胞が破壊される惧れがあった。
【0004】
これらの問題点を解決するために、活性汚泥処理系における糸状性バルキングによる固液分離障害を抑制するための固液分離障害抑制剤および固液分離障害抑制方法が提案されている(特許文献1参照。)。また修飾抗体の結合した細胞液を、カルボキシル基を表面に含有する水不溶性担体と処理して目的細胞を分離する技術も紹介されている(特許文献2参照。)。
【特許文献1】特開平11−216484号公報
【特許文献2】特開平7−120452号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に提案されている固液分離障害抑制方法の場合、界面活性剤と粒状担体とを必要とし、しかも糸状性細菌の処理に限定されるものであり、複数の細菌が比較的低濃度で混在する水道水の原水となる河川水やプール、公衆浴場、海水浴場から選択的に細菌を分離回収できないという問題点がある。また、特許文献2に紹介された技術では、生化学的研究における細胞分離や医療分野において特定の細胞捕集において有用であるものの、上記の処理水に混入した細菌の分離方法としては適しないものである。
【0006】
上記の問題点に鑑み本発明者らは、細菌が生物の粘膜や体表面粘着物などのタンパク質に付着しやすい性質を有することに着目し鋭意研究の結果、種類の異なる細菌に対するタンパク質の吸着特性の違いを利用し、複数の細菌を含む処理水から選択的に細菌を分離回収する装置および回収方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このため本発明の分離回収方法は、複数の細菌を含む処理水を処理槽に注入し、前記細菌を選択的に吸着するタンパク質を前記処理水に投入するとともに、送気手段によって前記処理水内に気泡を発生させ、前記細菌を前記気泡中の前記タンパク質に選択的に吸着させて分離回収することを特徴とする。
【0008】
また、前記分離回収する細菌は、大腸菌1種Esherichia coli、腸球菌1種Enterococcus facalis、レンサ球菌2種Strepttococcus dysgalactia、Streptococcus iniae、パスツレラ菌1種Pastreurella piscucudaのうち少なくとも1種であることを特徴とする。
【0009】
そして、本発明の分離回収装置は、複数の細菌を含む処理水を処理槽に注入する手段、前記細菌を選択的に吸着するタンパク質を前記処理水に投入する手段、送気手段によって前記処理水内に気泡を発生させる手段、前記細菌を前記気泡中の前記タンパク質に選択的に吸着させて分離回収する手段、とから構成されることを特徴とする。
【0010】
本発明において、使用されるタンパク質としては魚類体表面粘質物(糖タンパク質)、カゼイン、アルブミン、ヘモグロビン、大豆タンパク、ゼラチン等が挙げられ、とくにカゼインは投入する量が少なくてよく、しかも安価である。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係るによれば、塩素やオゾン等の有害な物質を使用せずに処理水から細菌を分離回収ができるため、作業が極めて安全であるという優れた効果を有する。
【0012】
また、処理水にタンパク質を投入し、処理水内に気泡を生じさせて前記タンパク質に細菌を選択的に吸着させ分離回収でるため作業時間も短く、また細菌密度の低い処理水であっても効率よく細菌の分離回収が可能であるという優れた効果を有する。
【0013】
さらに、本発明の分離回収装置は、吸引濾過やフィルタをせず送気手段によって発生する気泡とタンパク質によって細菌を吸着させるため、細菌が破壊されることなく分離回収できるという優れた効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明が本実施例に限定されないことは言うまでもない。また、後述する本実施例における懸濁水は、上記記載の処理水を示す。
【実施例】
【0015】
図1は、本発明による分離回収装置の一実施例を示しており、分離回収装置1は、略円筒形状の処理槽2と送気ポンプ3とガラスボールフィルタ4とアスピレーター5とから構成され、送気ポンプ3と処理槽2の間には空気流量計6が接続され、泡沫トラップ瓶7はアスピレーター5と処理槽2の間に連結されている。
【0016】
処理槽2に注入された原水には、タンパク質投入装置(図示せず)からタンパク質(図示せず)が投入され懸濁水8とされ、送気ポンプ3から送気された空気がガラスボールフィルタ4にて微細気泡とされ処理槽2内の懸濁水8を攪拌し上昇する。懸濁水8に含まれるタンパク質と前記微細気泡により泡沫9が生じ、泡沫9内のタンパク質によって細菌が選択的に吸着される。そして処理槽2の液面に集結した泡沫9は、アスピレーター5にて吸引され、泡沫トラップ瓶7に回収される。以下に本発明に係るタンパク質を用いた泡沫分離法による細菌の選択的な分離回収方法に関してさらに詳細に説明する。
【0017】
(供試細菌の培養と原水への投入)
大腸菌1種Esherichia coli、腸球菌1種Enterococcus facalis、レンサ球菌2種Strepttococcus dysgalactia、Streptococcus iniae、パスツレラ菌1種Pastreurella piscucudaを細菌培養地500mlに移植し、25℃で24時間培養する。次に培養した細菌を遠心分離機にて6000rpmで30分間処理し集菌を行い、滅菌水(原水)250mlに投入した。さらに所定の濁度まで滅菌水(原水)を投入し希釈を行い懸濁水とした。
【0018】
(供試タンパク質)
活魚を冷凍装置によって−30℃にて凍結させ、再度解凍させた後エタノール1lに浸漬し5分間放置した。次に活魚表面からゲル状となった粘質物を薬さじにて剥ぎ取り、GF/Cフィルターにて吸引濾過を行い、さらにエタノールにより複数回洗浄し減圧乾燥し粉砕機にて粉末化し魚類体表面粘質物粉末を得た。カゼイン、アルブミン、ヘモグロビン、大豆タンパク、およびゼラチンは市販のものを採用した。ゼラチンは50〜60℃の温蒸留水にて溶解し、その他は0.01molの水酸化ナトリウム水溶液に溶解させタンパク質水溶液を得た。尚、本実施例における活魚はウナギおよびコイを使用した。
【0019】
(泡沫分離)
懸濁水200mlを300mlのビーカーに投入し、上記準備したタンパク質水溶液をそれぞれ所定の濃度となるように添加し、ジャーテスターにて1分間急速攪拌した。添加濃度は混濁水の表面に泡沫が発生する程度とした。次にこの混濁水を200ml分取し、前記分離回収装置の処理槽に注入し泡沫分離処理を行なった。泡沫分離処理条件としては、送気流量0.3l/分、処理時間3分間とした。分離率は懸濁水原水と分離処理後の処理水の濁度の吸光度から求めた。結果を表1に示す。
【0020】
【表1】

【0021】
表1に示すように、腸球菌、レンサ球菌Strepttococcus dysgalactia、およびパスツレラ菌は上記のタンパク質により選択的に分離回収された。
【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明によるによれば、水道水の原水等の極低密度の細菌試水における病原性細菌の高感度モニタリング技術として利用できる。しかも危険物質である塩素やオゾン等の除菌剤を使用することなく細菌を分離できるため、プール、公衆浴場、あるいは漁港魚市場等の用水の除菌技術として利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に係る分離回収装置の一実施例を示す説明図である。
【符号の説明】
【0024】
1 分離回収装置
2 処理槽
3 ガラスボールフィルター
4 送気ポンプ
5 アスピレーター
6 空気流量計
7 泡沫トラップ瓶
8 懸濁水
9 泡沫

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の細菌を含む処理水を処理槽に注入し、前記細菌を選択的に吸着するタンパク質を前記処理水に投入するとともに、送気手段によって前記処理水内に気泡を発生させ、前記細菌を前記気泡中の前記タンパク質に選択的に吸着させて分離回収することを特徴とするタンパク質を用いた泡沫分離法による細菌の選択的な分離回収方法。
【請求項2】
前記分離回収する細菌は、大腸菌1種Esherichia coli、腸球菌1種Enterococcus facalis、レンサ球菌2種Strepttococcus dysgalactia、Streptococcus iniae、パスツレラ菌1種Pastreurella piscucudaのうち少なくとも1種であることを特徴とする請求項1記載のタンパク質を用いた泡沫分離法による細菌の選択的な分離回収方法。
【請求項3】
複数の細菌を含む処理水を処理槽に注入する手段、前記細菌を選択的に吸着するタンパク質を前記処理水に投入する手段、送気手段によって前記処理水内に気泡を発生させる手段、前記細菌を前記気泡中の前記タンパク質に選択的に吸着させて分離回収する手段、とから構成される請求項1または2記載のタンパク質を用いた泡沫分離法による細菌の選択的な分離回収装置。


【図1】
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【公開番号】特開2006−231124(P2006−231124A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−45907(P2005−45907)
【出願日】平成17年2月22日(2005.2.22)
【出願人】(504224153)国立大学法人 宮崎大学 (239)
【Fターム(参考)】