説明

タンパク質を細胞に送達する方法

本明細書では、カチオン性ポリマから形成されたミセルおよびタンパク質の複合体、ならびに前記タンパク質を細胞内に送達するために前記複合体を使用する方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2007年4月30日に出願された米国特許仮出願第60/924,092号の恩典および優先権を主張し、その内容は参照により本明細書に完全に組み入れられる。
【0002】
発明の分野
本発明は一般に、タンパク質を細胞内に送達する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
様々な障害、疾患および状態への治療アプローチは、生物活性タンパク質を細胞内に送達させることを企図し、そのため、送達されたタンパク質は、細胞状況において、その生物学的機能を実行することができる。
【0004】
生物活性タンパク質を細胞内に送達させるための既存の方法は、マイクロインジェクション[6,7]およびエレクトロポレーション[8,9]などの物理的方法を含むが、これらの方法をインビボにて適用することは困難である可能性がある。
【0005】
分子技術は、タンパク質の細胞取り込みを媒介するため、タンパク質導入ドメイン(PTD)を活性タンパク質に結合させることを含む。3つの最も積極的に研究されたPTDは、ドロソフィリア・アンテナペディア(Drosophilia anntennapedia)ペプチド、HSV-VP22タンパク質およびHIV-TATタンパク質導入モチーフに由来する。これらのPTDによる細胞膜を横切る導入は、現在のところ良く理解されていない機序を通して起こるが、研究によりペプチドおよびタンパク質送達が、PTD中の正に荷電されたリシンおよびアルギニン残基の量および分布と強く相関することが示されている[10,11]。
【0006】
徐々に盛んとなりつつある合理的な薬物送達研究の別のアプローチは、カチオン性脂質およびポリマを含む。例えば、ポリエチレンイミン(PEI)-結合タンパク質はイオン電荷相互作用に基づき細胞に入ることができる[12]。タンパク質のPEIとの結合は、タンパク質が変性しないようにするために、緩やかな条件下で実施しなければならない。さらに、PEI、とりわけ高い分子量を有するPEIの細胞毒性はまた、インビボ適用を制限する。
【0007】
生物活性タンパク質または抗体を含むタンパク質を、細胞内に送達させるための別のアプローチが必要とされている。
【発明の概要】
【0008】
1つの局面では、以下を含むミセル-タンパク質複合体が本明細書で提供される:一般式I-(W-X-Y-Z)p-(W’-X’-Y’-Z’)q-の構造を有するカチオン性ポリマのミセル;およびミセルと複合体化するのに利用可能な領域を有するタンパク質。タンパク質はタンパク質とカチオン性ポリマとの間の相互作用によりミセルの外側に複合体化される。
【0009】
一般式Iでは、W、X、YおよびZはそれぞれ、以下から独立して選択され:

;および、なし、
式中、W、X、YおよびZのうちの1つのみがなしで、W、X、YおよびZのうちの少なくとも1つがRまたはR’に結合された窒素を含む基である。
【0010】
また、一般式Iでは、W’、X’、Y’およびZ’はそれぞれ、以下から独立して選択され:

;および、なし、
式中、W’、X’、Y’およびZ’のうちの1つのみがなしで、W’、X’、Y’およびZ’のうちの少なくとも1つがR’’またはR’’’に結合された窒素を含む基である。
【0011】
また、一般式Iでは、RおよびR’はそれぞれ独立して、H、アルキルまたはヘテロアルキルであり;R’’およびR’’’はそれぞれ独立して疎水性基であり;pおよびqはそれぞれ独立して0より大きな整数であり;m、n、r、s、t、m’、n’、r’、s’およびt’はそれぞれ独立して0より大きな整数である。
【0012】
本明細書で提供したミセル-タンパク質複合体では、カチオン性ポリマはポリ{N-メチルジエテンアミンセバケート)-コ-[(コレステリルオキソカルボニルアミドエチル)メチルビス(エチレン)アンモニウムブロミド]セバケート}を含んでもよい。タンパク質はオリゴペプチド、ペプチド、ポリペプチド、全長タンパク質、タンパク質断片、タンパク質ドメイン、または融合タンパク質であってもよく、生物学的に活性であってもよい。
【0013】
様々な態様では、タンパク質はホルモン、受容体リガンド、転写因子、転写エンハンサ、転写サプレッサ、酵素、キナーゼ、ホスファターゼ、ヌクレアーゼ、プロテアーゼ、成長因子、抗体、または細胞毒性タンパク質を含んでもよい。特定の態様では、成長因子はグリア由来神経栄養因子を含んでもよく、細胞毒性タンパク質はレクチンAを含んでもよく、抗体はハーセプチンを含んでもよい。
【0014】
本明細書で提供したミセル-タンパク質複合体はさらに、ミセル内部に含まれる薬剤またはミセルの外側に複合体化された薬剤もしくは核酸分子を含む、別の治療薬を含有してもよい。
【0015】
別の局面では、本明細書では、タンパク質を細胞内に送達する方法が提供される。方法は、本明細書で記載したミセル-タンパク質複合体を細胞と接触させ、ミセル-タンパク質複合体を細胞内に取り込ませる段階を含む。
【0016】
細胞はインビトロであってもよく、またはインビボであってもよく、そのため、方法はミセル-タンパク質複合体を、例えばヒトを含む被験体に投与する段階を含む。
【0017】
ある態様では、タンパク質は生物学的に活性であり、細胞内に送達された後に生物活性を保持する。
【0018】
さらに別の局面では、本明細書では、本明細書で記載したミセル-タンパク質複合体を含む薬学的組成物が提供される。薬学的組成物はさらに、薬学的に許容される担体を含んでもよい。
【0019】
さらに別の局面では、本明細書では、タンパク質を被験体の細胞内に送達するための、本明細書で記載したミセル-タンパク質複合体の使用が提供される。被験体はヒトであってもよい。
【0020】
様々な態様では、タンパク質は生物学的に活性であり、細胞内に送達された後に生物活性を保持する。
【0021】
本発明の別の局面および特徴は、添付の図面と共に本発明の特定の態様の以下記載を検討すると、当業者には明らかになるであろう。
【0022】
図面では、本発明の態様が示されているが、例示にすぎない。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】P(MDS-co-CES)ミセル/レクチンA複合体の粒子サイズおよびゼータ電位。各条件は3度試験した。標準偏差はエラーバーにより示してある。
【図2】固定した濃度のレクチンAおよび様々な濃度のP(MDS-co-CES)を含むミセル/レクチンA複合体と共にインキュベートした後のMDA-MB-231(a)、HepG2(b)、HeLa(c)および4T1(d)細胞の生存率。各条件を8度試験した。標準偏差はエラーバーにより示してある。
【図3】様々な濃度のレクチンAおよび固定した濃度のP(MDS-co-CES)を含むミセル/レクチンA複合体と共にインキュベートした後のMDA-MB-231(a)、HepG2(b)、HeLa(c)および4T1(d)の生存率。各条件を8度再現して試験した。標準偏差はエラーバーにより示してある。
【図4】P(MDS-co-CES)ミセル-およびBioPorter-により媒介されたレクチンAのMDA-MB-231(a)、HepG2(b)、HeLa(c)および4T1(d)細胞への送達の比較研究。P(MDS-co-CES)を、血清を含む培地中、それぞれ、(a)20 ppm、(b)50 ppm、(c)40 ppmおよび(d)100 ppmの固定濃度で使用した。各条件を8度再現して試験した。標準偏差はエラーバーにより示してある。
【発明を実施するための形態】
【0024】
詳細な説明
本発明の方法および組成物は、生分解性カチオン性ミセルとタンパク質との間の複合体の形成、およびタンパク質を細胞内部に送達させるためのそのような複合体の使用に関する。
【0025】
新規カチオン性コア-シェルミセルは、米国特許出願第10/849,498号(US 2005/0260276として公開)で以前に記載されている。その出願は、ミセルの内側にカプセル化された薬物を含む薬物の送達、およびミセルの外側に結合された核酸分子を含む核酸分子の送達のための生分解性カチオン性コア-シェルミセルの使用に関する。ミセルを形成するポリマは、骨格中の第4級アミノ基で骨格に結合された疎水性ペンダント基を有する親水性の骨格鎖から構成される。荷電第4級アミノ基はポリマにポリカチオン性の性質を提供し、骨格に沿って中和できない正電荷が分布する。ポリマはまた、骨格に沿って第3級アミノ基を含み、これはプロトン化または脱プロトン化させることができ、これにより、ポリマは生理学的状況において緩衝効果を有する[14]。
【0026】
US 2005/0260276において記載されているように、薬物は、ミセルの構築中にポリマと共に薬物を含有させることにより、ミセルの内側に容易にカプセル化させることができる。多くの薬物が疎水性部分、例えば、疎水性環状構造を含み、このため、薬物とポリマ上の疎水性ペンダント基との間の結合が可能になり、これはミセル構造の内側に分離される傾向があるが、いくらかの疎水性基はミセルの外側に配置される可能性がある。
【0027】
また、US 2005/0260276において記載されているように、DNAなどの核酸は、ミセルの外側に容易に結合させることができる。核酸は分子骨格に沿って規則的に分布した負電荷を有するフレキシブル分子であり、このためミセルの表面に適合することができ、ミセルの外表面で正電荷と静電的に結合することができる。
【0028】
対照的に、タンパク質は、特に活性がタンパク質の立体構造的な折り畳みに典型的に依存する生物活性タンパク質の場合、折り畳まれて、球状構造を含む複雑な構造とされてもよい。タンパク質は、負電荷領域を有する場合でさえ、ポリマアニオン性核酸と同じ電荷分布を有する傾向はなく、核酸と同じようにミセルの表面に適合することができない傾向にある。同様に、タンパク質は、微小環境を含む環境に対し、かなり感受性が高い傾向があり、好ましくない条件下では変性する可能性があり、生物活性が失われることとなる。これらのタンパク質に関連する明らかな難点にも関わらず、本発明者らは、今や、驚いたことに、前に記載したミセルを使用して、折り畳まれた、生物活性タンパク質を細胞内に送達させることができることを見出した。
【0029】
コア-シェルミセルを使用して、タンパク質が有している可能性のある生物活性を保持したまま、タンパク質を細胞内に送達してもよい。細胞毒性レクチンAを生物活性を有する例示的なタンパク質として使用し、これは以下で設定した実施例1により実証されており、レクチンAは、カチオン性脂質を含む市販のタンパク質担体である、BioPorterよりも効果的に細胞内に送達された。同様に、様々な癌細胞系に対するレクチンAの細胞毒性は、ミセルにより送達させた場合、BioPorterによる場合に比べずっと高くなった。このように、本発明の方法は、タンパク質が有している可能性のある任意の生物活性を維持しながら、タンパク質の細胞内への非常に効率のよい送達を提供する可能性がある。ミセル-タンパク質複合体は、インビトロ用途、研究およびヒトの医学的用途を含む様々な用途を有する。
【0030】
レクチンAを例示的なタンパク質として使用したが、本明細書で記載した本発明の方法および複合体は、抗体、例えばハーセプチンを含む一般的なタンパク質にまで拡張されるものであり;本方法および複合体は、本方法または複合体において使用されるタンパク質のいずれの特定のアミノ酸配列または生物活性にも依存しないことは認識されるであろう。
【0031】
このように、タンパク質を細胞の内側に送達するための方法が提供される。生分解性、カチオン性、両親媒性ポリマから形成されたミセルを送達溶媒として使用し、送達されるタンパク質との複合体を形成するために使用する。複合体をその後、タンパク質を送達させるべき細胞と接触させる。複合体は適当に正に荷電され、適当な寸法とされ、これにより複合体は飲食され、このように、細胞に取り込まれ、タンパク質が細胞内に送達される。
【0032】
最初に、タンパク質に複合体化されたミセルを提供する。US 2005/0260276において記載されているような例示的なミセルはカチオン性ポリマを含む。上記のように、ポリマはアミノ基を含む親水性骨格を有する。主ポリマ鎖の骨格を形成する親水性分子中のアミノ基は第3級アミノ基である。第3級アミノ基はpHによってプロトン化されるか、または脱プロトン化されてもよく、溶液条件によって正味の正電荷に影響する。しかしながら、疎水性ペンダント基が第3級アミノ基の少なくとも一部を介して親水性主鎖に付着され、そのようなアミノ基が永久的な正荷電基(すなわち、第4級アミノ基)に変換され、pHに関係なくカチオン性であるポリマが得られる。
【0033】
カチオン性ポリマは一般式Iの構造を有する:
-(W-X-Y-Z)p-(W’-X’-Y’-Z’)q-
【0034】
W、X、YおよびZはそれぞれ、以下から独立して選択される:

;および
なし。
【0035】
W、X、YおよびZのうちの1つのみがなしで、W、X、YおよびZのうちの少なくとも1つがRまたはR’に結合された窒素を含む基である。
【0036】
W’、X’、Y’およびZ’はそれぞれ、以下から独立して選択され:

;および
なし。
【0037】
W’、X’、Y’およびZ’のうちの1つのみがなしで、W’、X’、Y’およびZ’のうちの少なくとも1つがR’’またはR’’’に結合された窒素を含む基である。
【0038】
RおよびR’はそれぞれ独立して、H、アルキルまたはヘテロアルキルである。
【0039】
本明細書で使用されるように、アルキルは1〜20の範囲の炭素原子、1〜12の炭素原子または1〜8の炭素原子を有する直鎖または分枝飽和炭化水素一価ラジカルを示し、例えば、((任意で低級)アルキル基の)アルコキシ、ハロゲン、トリフルオロメチル、シアノ、カルボキシル、カルバメート、スルホニル、またはスルホンアミドにより置換されてもよい。
【0040】
本明細書で使用されるように、ヘテロアルキルは上記アルキルに対して規定した通りであるが、主炭化水素鎖の一部として1つまたは複数のヘテロ原子(例えば、N、O、Sなど)を含む。
【0041】
R’’およびR’’’はそれぞれ独立して疎水性基である。
【0042】
本明細書で使用されるように、疎水性基は疎水性分子、例えばコレステロール、ポリ乳酸、ポリ(乳酸-グリコール酸)、ポリカプロラクトン、ポリカーボネートまたはポリフェノールから水素を除去することにより形成される一価ラジカルである。
【0043】
pおよびqはそれぞれ独立して正の整数、例えば、1〜2000、1〜1000または1〜500の整数である。各-(W-X-Y-Z)-および各-(W’-X’-Y’-Z’)-モノマはポリマ骨格に沿ってランダムに配列されてもよいこと、上記式Iは必ずしも、モノマがブロックで配列されることを意味しないことは認識されるであろう。
【0044】
m、n、r、s、t、m’、n’、r’、s’およびt’はそれぞれ独立して0より大きな整数、例えば、1〜20の整数、1〜12の整数または1〜8の整数である。
【0045】
特定の態様では、ポリマは一般式IIの構造を有してもよい:

【0046】
式IIでは、p、q、n、s、t、n’、s’、t’、RおよびR’’はそれぞれ、式Iに対し上記で規定した通りである。
【0047】
特定の態様では、ポリマは一般式IIIの構造を有してもよい:

【0048】
式IIIでは、p、q、n、s、t、n’、s’、t’、RおよびR’’はそれぞれ、式Iに対し上記で規定した通りである。
【0049】
特定の態様では、ポリマは一般式IVの構造を有してもよい:

【0050】
式IVでは、p、q、m、n、r、t、m’、n’、r’、t’、R、R’、R’’およびR’’’はそれぞれ、式Iに対し上記で規定した通りである。
【0051】
特定の態様では、ポリマは、US 2005/0260276で記載されるように、ポリ{N-メチルジエテンアミンセバケート)-コ-[(コレステリルオキソカルボニルアミドエチル)メチルビス(エチレン)アンモニウムブロミド]セバケート}(P(MDS-co-CES))を含む。特定の態様では、ポリマはP(MDS-co-CES)である。
【0052】
上記ポリマは骨格に沿ってエステルおよびウレタノ基を含むため、生分解性である。同様に、ポリマは骨格に沿って配置されたエステル、エーテルおよびアミノ基ならびに骨格に沿ったアミノ基で骨格上にグラフトされた疎水性基のために両親媒性である。ポリマの両親媒性の性質により、ポリマはミセルを形成することができ、水性または親水性溶液中で形成された場合、疎水性基はミセルの内側に向かって配置される傾向があり、親水性カチオン骨格はミセルの外側に向かって配置される傾向がある。
【0053】
グラフト化疎水性基による骨格の置換度は、式I〜IVにおいて見られるように、正に荷電された第4級置換アミノ基の形成により、ポリマの正味の総電荷および正電荷分布に影響する。このように、骨格は、ポリマがミセルを形成し、ポリマに適当なカチオン電荷を提供することができるのに十分な程度までグラフト化疎水性基により置換され、ミセルはタンパク質と複合体化し、タンパク質が細胞内に送達される。置換度は、例えば、約1%〜約100%、約10%〜約90%、約20%〜約50%、約25%〜約40%としてもよい。また、置換度は約100%未満、約90%未満、約80%未満、約50%未満、約40%未満、約30%未満、約20%未満、約25%より大きく、約30%より大きく、約40%より大きく、約50%より大きく、約80%より大きく、約90%より大きくてもよい。置換度に対し示されるパーセンテージは、(疎水性置換基を含む骨格上の第4級アミノ基の数)/(疎水性基により置換するために使用できる可能性のあるアミノ基の数)×100%として測定される。
【0054】
ポリマ鎖長は、自己組織化を含む、ポリマにミセルを形成させるのに十分な重量平均分子量を有する。様々な態様では、ポリマは約1 kDa〜約50 kDa、約1 kDa〜約30 kDa、約5 kDa〜約30 kDa、約5 kDa〜約20 kDa、約5 kDa〜約15 kDa、約8 kDa〜約12 kDa、または約3 kDa〜約8 kDaの重量平均分子量を有する。
【0055】
ポリマはUS 2005/0260276において記載されているものおよび以下で記載した実施例において設定されたものを含む当技術分野で公知の標準化学技術により調製させてもよい。例えば、適した縮合反応を使用して適当なモノマを反応させ所望の親水性骨格を獲得してもよい。その後、骨格を適当な疎水性分子と反応させ、ポリマ骨格上の第3級アミノ基の窒素原子と疎水性分子中の電子不足中心との間の反応を受けさせてもよい。
【0056】
具体的には、P(MDS-co-CES)に対する合成機構はUS 2005/0260276、Wang et al. Nat. Mater. 2006,5,791および以下実施例1において記載されている。
【0057】
カチオン性ポリマはこのように、組織化されてミセルとなる可能性がある。ミセルは当技術分野で公知であり、US 2005/0260276において記載されている標準法を使用して形成させてもよい。例えば、ミセルは一般に、当技術分野で公知であるように溶解技術、透析技術またはシングルエマルジョン技術により形成されてもよい。
【0058】
カチオン性ポリマは、自己組織化してミセルとなるように設計されてもよく、カチオン性ポリマを極性非プロトン正溶媒(例えば、ジメチルホルムアミド)などの適した溶媒に溶解し、その後、水または水性緩衝溶液に対し透析させる透析技術によるものが含まれ、US 2005/0260276および以下で設定される実施例において記載されているものが含まれる。
【0059】
ミセルサイズは、ミセルが、タンパク質と複合体化された場合に、タンパク質が送達された細胞によりミセル-タンパク質複合体のエンドサイトーシスが可能になるような十分なサイズになるようなものとしてもよい。例えば、ミセルは約1 μm未満、約250 nmまたはそれ以下、約180 nmまたはそれ以下、約10 nm〜約250 nm、約50 nm〜約200 nm、約100 nm〜約200 nm、約100 nm〜約180 nm、約130 nm〜約160 nm、約150 nmの断面サイズを有してもよい。
【0060】
本明細書で記載した方法では、ミセルはタンパク質と複合体化される。本明細書において「ミセル-タンパク質複合体」と言及された場合、または本明細書でタンパク質およびミセルが「複合体化され」もしくは「複合体」を形成すると言及された場合、細胞内に送達させるためにタンパク質がミセルと結合することができるように十分安定であるミセルとタンパク質との間の相互作用が示される。本明細書で細胞「内に送達」または細胞「内に送達された」と言及された場合、タンパク質が細胞の外側から細胞の内側に入り、サイトゾルまたは細胞の小器官内に配置されることが意味される。
【0061】
本明細書で使用されるように、タンパク質は、ペプチド(アミド)結合を介して共に結合され1つの鎖とされた2つまたはそれ以上のアミノ酸を示し、ポリペプチド、抗体、全長タンパク質、タンパク質断片、タンパク質ドメイン、または融合タンパク質を含む。ポリペプチドはオリゴペプチドまたはペプチドであってもよい。
【0062】
タンパク質は、ある生物学的状況において、標的分子、例えば、別のタンパク質もしくはタンパク質ドメインまたは核酸配列に結合する生物学的機能、例えば酵素活性、ホルモン活性、細胞シグナル伝達活性、転写活性化または抑制活性、細胞増殖または細胞周期調節、抗癌活性または細胞毒性活性を有するという点において、生物学的に活性であってもよい。
【0063】
タンパク質はミセルと複合体を形成するのに使用することができるタンパク質の領域または部分を有する。例えば、タンパク質はミセルと、タンパク質上で利用できる様々な官能基とミセルの外側で利用できる相補的な官能基との間の疎水性、静電または水素結合相互作用を介して複合体を形成してもよい。
【0064】
このように、ミセルを、細胞内に送達させるべきタンパク質と複合体化させるために、タンパク質は負に荷電された、またはアニオン性の領域、例えば、タンパク質の一部またはタンパク質に付着させたタグを有してもよい。タンパク質上の負電荷によりタンパク質は、静電相互作用によりカチオン性ミセルと複合体を形成することができる。例えば、タンパク質が短いオリゴペプチドである場合、オリゴペプチドはその長さに沿って1つまたは複数の負に荷電されたアミノ酸、例えばアスパラギン酸またはグルタミン酸を含んでもよい。タンパク質が、全長タンパク質、抗体、タンパク質ドメインまたは融合タンパク質を含む折り畳まれた鎖である場合、タンパク質は、そのタンパク質の表面上の負に荷電したアミノ酸の空間配列により、そのタンパク質の表面上において負に荷電した領域を含んでもよい。タンパク質は、例えば、生物活性タンパク質またはタンパク質ドメインのC-末端で、負に荷電されたアミノ酸を含むアミノ酸の伸展を有する融合タンパク質として設計されてもよい。また、タンパク質は、タンパク質に付着させた負に荷電された基またはタグで修飾されてもよい。別のアミノ酸の融合または負に荷電されたタグの付着を含む、任意の修飾は、タンパク質の生物学的機能を妨害しないように実施されるべきであることは認識されるであろう。
【0065】
また、ミセルを、細胞内に送達させるべきタンパク質と複合体化させるために、タンパク質は疎水性領域、例えばタンパク質の一部またはタンパク質に付着させたタグを有してもよい。タンパク質の疎水性領域により、タンパク質は、ミセルの外側に暴露されている任意の疎水性ペンダント基との疎水性相互作用を介して、カチオン性ミセルと複合体を形成することができる。例えば、タンパク質が短いオリゴペプチドである場合、オリゴペプチドは1つまたは複数の疎水性アミノ酸、例えば、フェニルアラニン、トリプトファン、イソロイシン、ロイシンまたはバリンをその長さに沿って含んでもよい。タンパク質が全長タンパク質、抗体、タンパク質ドメインまたは融合タンパク質を含む折り畳まれた鎖である場合、タンパク質は、タンパク質の表面上の疎水性アミノ酸の空間配列により、そのタンパク質表面上において疎水的な領域を含んでもよい。タンパク質は、例えば、生物活性タンパク質またはタンパク質ドメインのC-末端で、疎水性アミノ酸を含む一続きのアミノ酸を有する融合タンパク質として設計されてもよい。また、タンパク質は、タンパク質に付着させた疎水性基またはタグで修飾されてもよい。別のアミノ酸の融合または疎水性タグの付着を含む、任意の修飾は、タンパク質の生物学的機能を妨害しないように実施されるべきであることは認識されるであろう。
【0066】
また、ミセルを、細胞内に送達させるべきタンパク質と複合体化させるために、タンパク質は極性または荷電領域、例えばタンパク質の一部またはタンパク質に付着させたタグを有してもよい。タンパク質上の極性または荷電領域により、タンパク質は、水素結合相互作用を介して、カチオン性ミセルと複合体を形成することができる。例えば、タンパク質が短いオリゴペプチドである場合、オリゴペプチドは、水素結合供与体または受容体基として機能することができる官能基を含む1つまたは複数の極性または荷電アミノ酸、例えば、チロシン、セリン、トレオニン、アルギニン、グルタミンまたはリシンをその長さに沿って含んでもよい。タンパク質が全長タンパク質、抗体、タンパク質ドメインまたは融合タンパク質を含む折り畳まれた鎖である場合、タンパク質は、そのタンパク質の表面上の極性または荷電アミノ酸の空間配列により、そのタンパク質の表面上において極性または電荷を有する領域を含んでもよい。タンパク質は、例えば、生物活性タンパク質またはタンパク質ドメインのC-末端で、極性または荷電アミノ酸を含むアミノ酸の伸展を有する融合タンパク質として設計されてもよい。また、タンパク質は、水素結合供与体または受容体基として機能することができる官能基を含む、タンパク質に付着させた極性もしくは荷電基またはタグで修飾されてもよい。別のアミノ酸の融合または極性もしくは荷電タグの付着を含む、任意の修飾は、タンパク質の生物学的機能を妨害しないように実施されるべきであることは認識されるであろう。
【0067】
細胞に送達させるために、ミセルと複合体化させてもよい特定のタンパク質は、ホルモン、受容体リガンド、転写因子、転写エンハンサ、転写サプレッサ、酵素、キナーゼ、ホスファターゼ、ヌクレアーゼ、プロテアーゼ、成長因子、例えば、グリア由来神経栄養因子、細胞毒性タンパク質、例えばレクチンA、または抗体、例えばハーセプチンを含んでもよい。
【0068】
所望であれば、ミセルを使用して、別の治療薬をタンパク質と共に細胞内に送達させてもよい。例えば、US 2005/0260276で記載されているように、薬物などの薬剤をミセルの形成中にミセルの内側に含有させてもよい。また、薬剤が十分な負電荷、極性水素結合供与体もしくは受容体基または疎水性領域を有する場合、薬剤はタンパク質と同じ様式でミセルの外側と複合体化させてもよい。核酸およびタンパク質はどちらも、ミセルの外側と複合体化させてもよく、これにより、細胞内でのターゲッティングおよび/または相乗治療効果が得られる可能性がある。
【0069】
このように、ミセルは、細胞内に送達されるべきタンパク質、および任意で、小分子薬物または核酸を含む別の治療薬と複合体化される。ミセルは、(ミセルの外側と複合体化される場合)、タンパク質および任意的な別の治療薬を含む溶液にミセルを添加することにより複合体化されてもよい。
【0070】
タンパク質質量対ミセル質量の比は、複合体の十分な形成が確保されるように、および所望のサイズおよびゼータ電位を有する複合体が提供されるように、常用の研究室法を使用して、最適化されてもよい。ある態様では、ミセル:タンパク質の質量比が約0.2もしくはそれ以上、または約1もしくはそれ以上、または約2.5もしくはそれ以上、または約5もしくはそれ以上、または約10もしくはそれ以上、または約20もしくはそれ以上、または約30もしくはそれ以上、または約40もしくはそれ以上、または約50もしくはそれ以上であれば、効率的で安定な複合体化が可能になる。表面電荷の測定値であるゼータ電位を、複合体化を測定するためのパラメータとして使用してもよい。例えば、約5mVもしくはそれ以上、約5m V〜約20 mV、約20 mV〜約100 mVの正のゼータ電位は、例えば、タンパク質とミセルの間の適当な複合体の形成を示すために使用してもよい。
【0071】
タンパク質に複合体化されたミセル(いずれかの任意的な別の治療薬を含む)が提供されるとすぐに、複合体を細胞に送達させてもよく、タンパク質が細胞内に取り込まれる。
【0072】
細胞への送達は、ミセル-タンパク質複合体を細胞表面と接触させる段階を含む。いずれの特定の理論にも限定されないが、ミセル-タンパク質は細胞により飲食されてもよく、それによりミセル-タンパク質複合体が細胞に取り込まれることになる。細胞の内側に入るとすぐに、複合体は解離してもよく、タンパク質が細胞内コンパートメント、例えばエンドソーム内に放出される。エンドソーム内では、ポリマ中の第3級アミノ基の少なくともいくつかがプロトン化される可能性があり、エンドソーム膜が破壊され、複合体はエンドソームから出て行くことができ、これによりタンパク質がサイトゾル内に放出される。
【0073】
タンパク質が送達される細胞は、インビトロ細胞、培養細胞、または被験体内のインビボ細胞を含む任意の細胞であってもよい。本明細書で使用されるように「細胞」という用語は、特に記載がなければ、単一細胞、複数の細胞または状況が許す場合、細胞群を示し、それらを含む。細胞は被験体から外植された細胞を含むインビトロ細胞であってもよく、または細胞は被験体内のインビボ細胞であってもよい。同様に、「細胞」への言及はまた、特に記載がなければ、状況が許す場合、単一細胞への言及を含む。
【0074】
細胞は任意の生物、例えば昆虫、細菌を含む微生物、またはヒトを含む哺乳類を含む動物に由来してもよい。
【0075】
細胞内に送達された場合、上記のように、タンパク質は、もしあれば、その生物学的機能を保持したままである可能性がある。当業者であれば、タンパク質検出法、イムノアッセイおよび蛍光標識技術を含む公知の方法および技術を使用して、タンパク質が細胞内に送達されたかどうかを容易に決定することができる。当業者であればまた、細胞内での特別な生物学的機能に対する直接または間接アッセイ法が存在すれば、タンパク質がその生物学的機能を保持するかどうかを容易に決定することができる。例えば、キナーゼ活性を検出する場合、標的タンパク質のホスホリル化レベルをタンパク質送達の前後で比較してもよく、放射性標識ホスフェートを使用することが含まれる。
【0076】
別の治療薬を含むミセル-タンパク質複合体を含む、上記ミセル-タンパク質複合体もまた提供される。
【0077】
細胞が被験体内のインビボ細胞である場合を含む、タンパク質を細胞内に送達するための、上記ミセル-タンパク質複合体の使用、またはタンパク質を細胞内に送達するための薬剤の製造のための上記ミセル-タンパク質複合体の使用もまた、提供される。
【0078】
そのようなミセル-タンパク質複合体を被験体に投与するのを助けるために、複合体は薬学的組成物中の成分として製剤化されてもよい。
【0079】
そのため、上記ミセル-タンパク質複合体を含む薬学的組成物が提供される。薬学的組成物はさらに、薬学的に許容される希釈剤または担体を含んでもよい。薬学的組成物は、通常、薬学的に許容される濃度の塩、緩衝剤、保存剤および様々な適合性担体を含んでもよい。全ての形態の送達に対し、ミセル-タンパク質複合体は生理食塩水中で製剤化されてもよい。
【0080】
薬学的に許容される希釈剤または担体の割合およびアイデンティティは選択した投与経路、適切な場合における生物活性タンパク質との適合性、および標準薬務により決定される。
【0081】
薬学的組成物は、被験体に投与するのに適した薬学的に許容される組成物の調製のための公知の方法により調製することができ、そのため、有効量のミセル-タンパク質複合体および任意の別の1つまたは複数の活性物質が薬学的に許容されるビヒクルを有する混合物中で組み合わされる。有効量のミセル-タンパク質複合体が被験体に投与される。本明細書で使用されるように、「有効量」という用語は、所望の結果を達成する、例えばタンパク質を被験体内の標的細胞または細胞群内に送達するのに必要な用量および期間の間で、有効な量を意味する。
【0082】
適したビヒクルは、例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences(Remington’s Pharmaceutical Sciences, Mack Publishing Company, Easton, Pa., USA 1985)において記載されている。これに基づき、組成物は、限定はされないが、ミセル-タンパク質複合体のための溶液を、1つまたは複数の薬学的に許容されるビヒクルまたは希釈剤と組み合わせて含み、適したpHを有し、生理液と等張である緩衝溶液中に含有される。
【0083】
貯蔵および使用の通常の条件下では、そのような薬学的組成物は、微生物の増殖を阻止するために保存剤を含んでもよく、これにより、タンパク質の任意の生物活性が維持される。当業者であれば、適した製剤を調製する方法を知っている。適した製剤の選択および調製のための従来の手順および成分が、例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciencesおよび1999年に公表されたThe United States Pharmacopeia:The National Formulary(USP 24 NF19)において記載されている。また、複合体は、ミセルとタンパク質溶液を混合することにより、使用するのに十分近い時間で製剤化してもよく、保存剤が必要ない。
【0084】
患者に投与する場合、ミセル-タンパク質複合体は有効量で、所望の結果を達成する用量および十分な期間で投与される。例えば、ミセル-タンパク質複合体は、感染、疾患または障害を軽減、改善、緩和、寛解、安定化し、その蔓延を阻止し、その進行を減速もしくは遅延させ、またはそれらを治癒させる、または、例えば、疾患に関連する酵素活性を阻害し、減少させまたは障害するように機能することができるタンパク質を送達するのに必要な量および用量で投与されてもよい。疾患に関連する酵素は代謝または生物化学経路に関与する酵素であり、経路が妨害された場合、または酵素もしくは経路の調節管理が妨害され、または阻害された場合、酵素活性が疾患または障害の発症または進行に関与する。
【0085】
被験体に投与されるミセル-タンパク質複合体の有効量は、ミセル-タンパク質複合体の薬力学特性、投与方法、被験体の年齢、健康および体重、障害または疾患状態の性質および程度、もしあれば、治療頻度および現在の治療の型、ならびにミセル-タンパク質複合体の濃度および形態などの多くの因子によって変動する可能性がある。
【0086】
当業者であれば、上記因子に基づき適当な量を決定することができる。被験体の臨床応答に応じて、コンジュゲートを、必要量に調節した適量において、最初に投与してもよい。有効量のミセル-タンパク質複合体は、経験的に決定することができ、安全に投与することができるミセル-タンパク質複合体の最大量に依存する。しかしながら、投与されるミセル-タンパク質複合体の量は所望の結果を生じさせる最小量であるべきである。
【0087】
薬学的組成物は、当業者に理解されるように、選択した投与経路によって、様々な形態で被験体に投与してもよい。特に、生物活性剤がミセル-タンパク質複合体と同じ形態で同時に投与される場合、非経口経路が好ましい。本発明の組成物は外科的処置により、または所望の部位への注入により投与してもよい。異なる態様では、組成物は所望の部位で直接注入することにより(非経口、皮下、静脈内、筋内、標的組織または器官への直接注入などにより)投与される。
【0088】
本方法および使用は、以下、非制限的な実施例によりさらに例示される。
【0089】
実施例
実施例1
この実施例では、細胞内に送達される例示的なアニオン性の生物活性タンパク質としてレクチンAを使用した。数十年間、ヒトの癌に対する治療活性物質としてヤドリギ抽出物由来のレクチンに対し、研究が集中していた。多くの研究において、強力かつ細胞毒性である韓国ヤドリギ(Korean mistletoe)が、いくつかのインビトロ系においてアポトーシスを誘導する能力を有することが記載されている。韓国ヤドリギ(ヴィスカム・アルバム・バー.コロラタム:Viscum album var.Coloratum)抽出物から単離された細胞毒性レクチンは、腫瘍細胞においてアポトーシスを誘導する糖タンパク質である[1]。報告により、韓国ヤドリギレクチン-II(ML-II)はMolt4細胞に対し細胞毒性であり[2,3]、カスパーゼカスケードの活性化によりU937細胞のアポトーシス死を引き起こすことができる[4]ことが示されている。
【0090】
V.albumのこの種に関連する抗癌活性はレクチンAによるものであり、これは2型リボソーム不活性化タンパク質(RIP II)に属し、2つのジスルフィド結合されたタンパク質サブユニットから構成される[1,3]。rRNA N-グリコシダーゼ活性を有する触媒活性A-鎖は、28S rRNA中の4324部位でアデニンの脱プリンを引き起こすことにより、リボソームを不活性化する[5]。これにより、タンパク質生合成中の細胞翻訳の転位段階の破壊に至り、細胞死が起こる。
【0091】
レクチンAの対応物、B-鎖は直接細胞毒性特徴を有していないが、適した糖残基を用いて細胞表面上の糖タンパク質に結合することにより、細胞毒性A-鎖の輸送およびターゲッティングを媒介するように機能する。レクチンAは、細胞内に取り込まれた後にその細胞毒性効果を引き出すことができるにすぎないので、レクチンBはまた、エンドサイトーシスを介するその後のA-鎖の内部移行を促進する際に重要な役割を果たす[3]。
【0092】
植物抽出物からのML IIの単離または組換え法によるその産生は、大規模な精製およびスケールアップ問題などの難点を含む。このように、本実施例は、レクチンAの細胞内送達のための別の安定で要求にかなう担体を提供する。
【0093】
材料および方法
【0094】
材料
組換えレクチンA(Mw:30.7kD)をシンガポールのナンヤン工科大学(Nanyang Technological University)のHo Sup Yoon研究室で産生させた。P(MDS-co-CES)を、以前に報告したプロトコルに従い合成した[13]。ジメチルスルホキシド(DMSO)およびジメチルホルムアミド(DMF)をSigma-Aldrich、USAから購入した。ミセル作製のために使用する透析緩衝液を、Merck, USA由来のACSグレードの酢酸ナトリウムおよび酢酸を使用して、自己調製した。特に記載がなければ、試薬および溶媒は全て市販グレードであり、受け取ったまま使用した。MDA-MB-231、HeLa、HepG2および4T1細胞系をATCC, USAから入手し、ATTC推奨に従い培養した。HepG2およびHeLaはDMEM中で、MDA-MB-231はLeibovitz L-15中で、4T1はRPMI 1640中で増殖させた。培地全てに10%ウシ胎仔血清、100 U/mlペニシリンおよび100 μg/mlストレプトマイシン(HyClone, USA)を補充した。BioPorter(商標)をGenlantis, USAから購入し、製造者の指示に従い使用した。3-[4,5-ジメチルチアゾール-2-イル]-2,5-ジフェニルテトラゾリウムブロミド(MTT)をSigma, USAから入手し、これをホスフェート緩衝塩類溶液(PBS、pH7.4)中、5 mg/mlの濃度で使用し、溶液を0.22 μmフィルタを用いて濾過し、青色ホルマザン結晶を除去した。
【0095】
P(MDS-co-CES)ミセルの調製およびキャラクタリゼーション
P(MDS-co-CES)を3段階合成により入手した[13]。最初に、主鎖、ポリ(N-メチルジエテンアミンセバケート)(PMDS)を、N-メチルジエタノールアミンとセバシン酸ジクロリドの間の縮重合により製造した。過剰のトリエチルアミンを使用して塩酸塩を除去し、第3級アミンのプロトン化を制限した。次に、クロロギ酸コレステリルを、2-ブロモエチルアミン臭化水素酸塩とアミド化反応において反応させた。得られた疎水性N-(2-ブロモエチル)カルバモイルコレステロールをその後、親水性ポリ(N-メチルジエテンアミンセバケート)主鎖上に、四級化反応によりグラフトさせると、最終生成物が得られた。コレステロールグラフティング度は約28.5 %であった。ゲル浸透クロマトグラフィにより測定すると、P(MDS-co-CES)は〜5.0 kDaの重量平均分子量(Mw)を有し、多分散指数は1.7であった。カチオン性ミセルを調製するために、P(MDS-co-CES)15.0 mgをDMF 5.0 mlに溶解し、これを2000 Daの分子量カットオフを有する透析膜内に入れた(Spectrum Laboratories, USA)。その後、透析バッグをpH4.6の20 mM酢酸ナトリウム/酢酸500 mlに、室温で24時間浸した。透析緩衝液を、24時間過程中の最初の8時間の間、1時間に1度新しい緩衝液と交換した。透析工程の終了時に、得られたミセル溶液を滅菌環境で0.22 μmフィルタを通して濾過し、大きな凝集体を除去した。動的光散乱機能(散乱角:90°)を有し、658 nmのHe-Neレーザービームが備えられたゼータサイザ(Malvern Instruments Zetasizer Nano ZS, UK)を用いて、ミセルをそのサイズおよびゼータ電位について特徴づけた。各測定を3度繰り返し、平均値を示した。
【0096】
ミセル/レクチンA複合体化
本検討で使用した組換えレクチンAは、実験中、温度変化により引き起こされるその構造的安定性の崩壊を阻止するために、氷浴中で維持した。レクチンAを最初に、pH6.0の酢酸ナトリウム/酢酸緩衝液に添加した。新たに調製したミセル溶液をタンパク質溶液に、様々な質量比で添加することによりミセル/レクチンA複合体をその後形成させ、穏やかに混合した。複合体溶液を室温で30分間放置し、その後、キャラクタライズし、癌細胞内に導入した。
【0097】
細胞毒性検討
HepG2、HeLa、MDA-MB-231、および4T1癌細胞を96-ウエルプレートに1×104細胞/ウエルの密度で播種し、100μlの成長培地で培養した。プレートをその後、インキュベータに24時間戻し、70%〜80%培養密度に到達させ、その後、ミセル/レクチンA複合体を投与した。所望の培養密度に到達したら、使用済みの成長培地を各ウエルから除去し、100μlの予め調製した複合体溶液と交換した。複合体と4時間インキュベートした後、培地を新しいものと交換した。プレートをその後、インキュベータに戻し、5% CO2中、37℃で2日間維持した。各条件を8度再現して試験した。2日間のインキュベーションの終わりに、培地を100μlの新たな培地+20μlのMTT溶液と交換した。プレートをその後、インキュベータに戻し、5% CO2中、37℃でさらに3時間維持した。各ウエル内の成長培地および過剰MTTをその後除去した。200μlのDMSOをその後、各ウエルに添加し、内部移行した紫色のホルマザン結晶を溶解させた。100μlのアリコートを各ウエルから取り出し、新しい96-ウエルプレートに移した。その後、プレートを550 nm、690 nmの参照波長で、マイクロプレートリーダー(PowerWave X, Bio-tek Instruments, USA)を用いてアッセイした。ホルマザン結晶の吸光度測定値は、550 nmでの測定値から690 nmでの測定値を引いたものとした。結果はブランクの吸光度のパーセンテージとして表した。
【0098】
結果および考察
【0099】
ミセルおよびミセル/レクチンA複合体のキャラクタリゼーション
図1に示されるように、ブランクP(MDS-co-CES)ミセルは140 nmの平均サイズおよび約28 mVのゼータ電位を有した。5またはそれ以下の低いミセル対レクチンA質量比では、ポリマの量は、レクチンAと完全に縮合し、結合するには不十分であり、粒子サイズはエンドサイトーシス取り込みには大きすぎる可能性がある(>160 nm)。5を超える質量比では、複合体のサイズは約150 nmでほぼ同じのままであったが、ゼータ電位は25〜30 mVの間であり、これらの質量比では、レクチンAがミセルとうまく縮合され、複合体化されることが示される。複合体の小さなサイズおよび正のゼータ電位により、複合体がエンドサイトーシス細胞取り込みに適したものとなった。
【0100】
レクチンA、ミセルおよびミセル/レクチンA複合体の細胞毒性
レクチンA、ミセルおよびミセル/レクチンA複合体の細胞毒性効果を、MDA-MB-231、HeLa、HepG2、および4T1細胞に対し評価した。ブランクミセルは非選択的細胞毒性を有し、これは用量の増加に伴い増加した。そのため、ポリマ濃度は最初に、この細胞毒性効果を最小に抑えるように、一方、同時に、レクチンAが効率的に送達されるのに十分な量を提供するように、最適化された。図2は固定したレクチンA濃度でのレクチンAの細胞毒性に対するポリマ濃度の効果を示す。ブランクP(MDS-co-CES)ミセルは低い濃度では、4つの全ての細胞系に対し有意の細胞毒性を有しないことが観察された。高濃度では、とりわけMDA-MB-231、HepG2、およびHeLa細胞に対し細胞毒性が引き起こされた。さらに、純粋レクチンAは細胞に対し有意の細胞毒性を与えず、輸送担体がなければ、レクチンAは細胞に入り、その細胞毒性特徴を引き起こすことができないことが示された。著しく対照的に、P(MDS-co-CES)ミセルを使用してレクチンAを送達させた場合、癌細胞はうまく排除された。レクチンAを送達するために適当な量のポリマを使用すると、4つの細胞系全てにおいて、処置後に残った生存細胞のパーセンテージは著しく減少した。
【0101】
図2から、試験した細胞系全てに対し、レクチンAの細胞毒性は低いポリマ濃度では有意ではないことも観察することができ、おそらくこれは、レクチンAがうまく縮合されず、ミセル/レクチンA複合体が効率的な細胞取り込みには大きすぎるサイズを有したからである。他方、ブランクP(MDS-co-CES)ミセルはとりわけ高い濃度で非選択的細胞毒性を示した。このように、最適ポリマ濃度を同定することが必要である。MDA-MB-231では、最適P(MDS-co-CES)濃度は20 ppmと同定された。この理由は、1ppmに固定されたレクチンA濃度でポリマ濃度が20 ppmを超えて増加させた場合、細胞生存率は22〜34%と比較的一定に維持されたことである。しかし、ポリマ濃度が20から1ppmまで減少した場合、細胞生存率は連続して増加した。より重要なことは、ポリマは20 ppmで有意の細胞毒性を示さなかった。同様の原理を別の3つの細胞系に適用することにより、最適ポリマ濃度は、HeLa、HepG2、および4T1に対し、それぞれ、50、40および100 ppmであると分析した。
【0102】
同定し、固定した最適ポリマ濃度を用いて、その後調査を実施し、レクチンAのIC50を決定した。図3はレクチンA濃度を変動させた場合の細胞生存率を示し、これより、レクチンAのIC50は、MDA-MB-231、HeLa、HepG2、および4T1細胞に対し、それぞれ、0.2、0.5、10および50 ppmであることが決定された。様々な細胞系間のIC50の違いから、ミセル/レクチンA複合体の細胞毒性に対する感受性の差が明らかになった。MDA-MB-231細胞は複合体の細胞毒性効果に対し最も低い許容度を示し、続いて、HeLa、HepG2、および4T1と続いた。
【0103】
図4はミセルを使用しないと、レクチンAは80〜100 ppmであっても、とりわけMDA-MB-231、HepG2、および4T1細胞に対し有意の細胞毒性を示さないこと、さらに、レクチンAはそれ自体では細胞に入ることができないことを示した。しかしながら、カチオン性ミセルは効率的にレクチンAの細胞取り組みを媒介した。ミセルを用いたレクチンAの細胞毒性をBioPorterにより誘導したものと比較した。図4で示されるように、試験した4つの細胞系全てにおいて、BioPorterは、血清存在下でのその不安定性のために、血清を含む細胞培地において、血清を含まない培地よりも低いレクチンAの細胞毒性効果を媒介した。しかしながら、ミセル/レクチンA複合体により誘導されるレクチンAの細胞毒性は、血清を含む培地中であっても、血清を含まない培地中でBioPorter/レクチンA複合体により得られるものより著しく高くなった。これは、ミセル/レクチンA複合体のより大きな細胞取り込み、安定性およびエンドソーム緩衝能力のためである可能性がある。
【0104】
これらの実験により、生物活性レクチンAの癌細胞への送達により本明細書で証明されるように、生分解性のカチオン性P(MDS-co-CES)ミセルはタンパク質の細胞内送達のためにうまく使用することができることが証明される。ミセル/レクチンA複合体は細胞取り込みを媒介するのに十分小さく、適当な正電荷分布を有した。ミセルはまた、細胞により取り込まれた後、レクチンAの細胞内放出を誘導する良好なエンドソーム緩衝能力を有した。P(MDS-co-CES)ミセルにより送達されたレクチンAの細胞毒性は、血清を含む培地においてさえも、BioPorter(商標)により誘導されたものより著しく高かった。これらのミセルはこのように、生物活性タンパク質を含むタンパク質の細胞内送達のための担体として有用である。
【0105】
本明細書で引用した出版物および特許出願はすべて、それぞれの出版物または特許出願が特異的に、個々に参照により組み入れられるように示されたかのように、参照により本明細書に組み入れられる。任意の出版物の引用は、出願日前の開示に対するものであり、本発明が、先行発明に基づきそのような出版物に先行する権利を与えられないことを認めるものと解釈してはならない。
【0106】
本明細書および添付の特許請求の範囲で使用されるように、単数形「1つの(a、an)」および「その(the)」は、特に明確な記載がなければ、複数を含む。本明細書および添付の特許請求の範囲で使用されるように、「含む」、「含んでいる」、「含んだ」、およびこれらの用語の他の形態は、非制限的な含むという意味で表されたものであり、すなわち、特別な列挙された要素または構成要素を含むが、いずれの他の要素または構成要素を排除するものではない。特に記載がなければ、本明細書で使用される技術用語および科学用語はすべて、本発明が属する技術分野において当業者が普通に理解しているものと同じ意味を有する。
【0107】
前記発明について、理解を明確にする目的で、例証および実施例により幾分詳細に記載してきたが、本発明の教示に鑑みれば、添付の特許請求の範囲の精神または範囲から逸脱しなければ、本発明にある変更および改変が可能であることは、当業者には容易に明らかとなる。
【0108】
参考文献


【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式I-(W-X-Y-Z)p-(W’-X’-Y’-Z’)q-;の構造を有するカチオン性ポリマのミセル:
および、ミセルと複合体化するのに利用可能な領域を有するタンパク質
を含み;
該タンパク質は該タンパク質と該ポリマとの間の相互作用によりミセルの外側に複合体化され;
ここで、一般式Iにおいて、W、X、YおよびZのそれぞれが、以下から独立して選択され:

;および、なし、
式中、W、X、YおよびZのうちの1つのみがなしであり、W、X、YおよびZのうちの少なくとも1つがRまたはR’に結合された窒素を含む基であり;
W’、X’、Y’およびZ’のそれぞれが、以下から独立して選択され:

;および、なし、
式中、W’、X’、Y’およびZ’のうちの1つのみがなしであり、W’、X’、Y’およびZ’のうちの少なくとも1つがR’’またはR’’’に結合された窒素を含む基であり;
RおよびR’はそれぞれ独立して、H、アルキルまたはヘテロアルキルであり;
R’’およびR’’’はそれぞれ独立して疎水性基であり;
pおよびqはそれぞれ独立して0より大きな整数であり;および
m、n、r、s、t、m’、n’、r’、s’およびt’はそれぞれ独立して0より大きな整数である、
ミセル-タンパク質複合体。
【請求項2】
前記ミセルと複合体化するのに利用可能な領域が、負に荷電された領域、極性領域または疎水性領域である、請求項1記載のミセル-タンパク質複合体。
【請求項3】
前記カチオン性ポリマが、ポリ{N-メチルジエテンアミンセバケート)-コ-[(コレステリルオキソカルボニルアミドエチル)メチルビス(エチレン)アンモニウムブロミド]セバケート}を含む、請求項1または2記載のミセル-タンパク質複合体。
【請求項4】
前記タンパク質が、オリゴペプチド、ペプチド、ポリペプチド、全長タンパク質、タンパク質断片、タンパク質ドメイン、または融合タンパク質である、請求項1〜3のいずれか一項に記載のミセル-タンパク質複合体。
【請求項5】
前記タンパク質が、生物学的に活性ある、請求項1〜4のいずれか一項に記載のミセル-タンパク質複合体。
【請求項6】
前記タンパク質が、ホルモン、受容体リガンド、転写因子、転写エンハンサ、転写サプレッサ、酵素、キナーゼ、ホスファターゼ、ヌクレアーゼ、プロテアーゼ、成長因子、抗体、または細胞毒性タンパク質を含む、請求項5記載のミセル-タンパク質複合体。
【請求項7】
前記成長因子がグリア由来神経栄養因子を含み、前記細胞毒性タンパク質がレクチンAを含み、前記抗体がハーセプチンを含む、請求項6記載のミセル-タンパク質複合体。
【請求項8】
別の治療薬をさらに含む、請求項1〜7のいずれか一項に記載のミセル-タンパク質複合体。
【請求項9】
前記別の治療薬が、ミセルの内部に含まれる薬剤である、請求項8記載のミセル-タンパク質複合体。
【請求項10】
前記別の治療薬が、ミセルの外側に複合体化された薬剤または核酸分子である、請求項8記載のミセル-タンパク質複合体。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか一項に記載のミセル-タンパク質複合体を細胞と接触させ、ミセル-タンパク質複合体を細胞内に取り込ませる段階を含む、タンパク質を細胞内に送達する方法。
【請求項12】
前記細胞がインビトロである、請求項11記載の方法。
【請求項13】
前記細胞がインビボであり、ミセル-タンパク質複合体を被験体に投与する段階を含む、請求項12記載の方法。
【請求項14】
前記被験体がヒトである、請求項13記載の方法。
【請求項15】
前記タンパク質が生物学的に活性あり、細胞内に送達された後に生物活性を保持する、請求項11〜14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
請求項1〜10のいずれか一項に記載のミセル-タンパク質複合体を含む、薬学的組成物。
【請求項17】
薬学的に許容される担体をさらに含む、請求項16記載の薬学的組成物。
【請求項18】
タンパク質を被験体の細胞内に送達するための、請求項1〜10のいずれか一項に記載のミセル-タンパク質複合体の使用。
【請求項19】
前記被験体がヒトである、請求項18記載の使用。
【請求項20】
前記タンパク質が生物学的に活性であり、細胞内に送達された後に生物活性を保持する、請求項18または19記載の使用。

【図1】
image rotate

【図2−1】
image rotate

【図2−2】
image rotate

【図3−1】
image rotate

【図3−2】
image rotate

【図4−1】
image rotate

【図4−2】
image rotate


【公表番号】特表2010−526062(P2010−526062A)
【公表日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−506144(P2010−506144)
【出願日】平成20年4月30日(2008.4.30)
【国際出願番号】PCT/SG2008/000151
【国際公開番号】WO2008/133597
【国際公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【出願人】(508305029)エージェンシー フォー サイエンス, テクノロジー アンド リサーチ (36)
【Fターム(参考)】