説明

タンパク質分解酵素

【課題】 植物、人畜更には魚介類を含めた広い分野においてウイルスの感染と増殖を阻害する作用を有する有用な物質を提供する。
【解決手段】 本発明は、タンパク質分解酵素が、動物または植物に感染するウイルスに対して、感染と増殖を阻害する作用を有することを見出したものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウイルスの感染および増殖を阻害するタンパク質分解酵素、および該酵素の利用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ウイルス性疾患の治療法としては化学療法やワクチンが有効であることが知られているが、現在のところ多くのウイルスに対してこれらの方法では限界がある。
【0003】
また、最近注目を浴びている植物ウイルスに対する農薬に関しては、特定の植物に感染するウイルスに対してのみ有効な農薬は知られているが、汎用的な物質(農薬)は存在していないのが現状である。
【0004】
さらに、ウイルス感染の予防方法としてアルコール、アルカリまたは次亜塩素酸などの噴霧または塗布が有効であるが、これらの物質は動物および植物に対しても有害である。
【0005】
近年、タンパク質分解酵素を用いたウイルスの不活化方法が特許文献1に報告されている。また、タンパク質分解酵素を用いたウイルス性疾患の治療が特許文献2、特許文献3および特許文献4に報告されている。しかし、これらの方法は特定のタンパク質分解酵素を用いたものであり、タンパク質分解酵素によるウイルスの感染および増殖を阻害する方法は実質的に確立されていない。
【特許文献1】特開2005−95112
【特許文献2】特開平8−40930
【特許文献3】特開平11−199510
【特許文献4】特開2002−87990
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
以上から、本発明は、人畜、魚介類、さらには植物を含めた広い分野において汎用性が高く安全性が高いウイルスの感染と増殖を阻害する作用を有する有用な物質を得ようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、安全性が高い食品加工用のタンパク質分解酵素の中から、動物に感染するウイルスまたは植物に感染するウイルスの感染および増殖を阻害する作用を有する酵素を見出した。
【0008】
すなわち、本願発明は
(1)スミチームAPおよびプロレーザーFGと表記されるタンパク質を含まないウイルスの感染と増殖を阻害する作用を有するタンパク質分解酵素。
(2)ウイルスの感染と増殖を阻害する作用を有する酵素が少なくともデナプシン2P、ニューラーゼF3−G、アマノS、アマノN、スミチームLPL、ブロメライン、パパイン、フィシン、スミチームMP、プロチンAC、プロレーザーFG、ビオプラーゼSP−4FG、スミチームFP、トリプシン、アルファ−キモトリプシン、ズブチリシンAとして表記されるタンパク質であるタンパク質分解酵素。
(3)(1)または(2)のタンパク質分解酵素を含む薬剤を散布することによりウイルスの感染および増殖を阻害する方法。
(4)(1)または(2)のタンパク質分解酵素を含む薬剤を塗布することによりウイルスの感染および増殖を阻害する方法。
(5)(1)または(2)のタンパク質分解酵素を含む医薬、飲食品、飼料または農薬。
(6)(1)または(2)のタンパク質分解酵素を含有し、ウイルスの感染と増殖を予防するために用いられるものである旨の表示を付した飲食品。
(7)(1)または(2)のタンパク質分解酵素を含有し、ウイルスの感染と増殖を予防するために用いられるものである旨の表示を付した飼料。
を提供できる。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、ウイルスの感染と増殖を阻害する作用を有する医薬、飲食品、飼料または農薬が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0011】
1.タンパク質分解酵素によるウイルス感染の阻害活性の測定。
【0012】
1)それぞれのタンパク質分解酵素を1mg/mlになるように50mMトリス塩酸(Tris−HCl)pH7.0の緩衝液に懸濁する。
【0013】
2)育成したマメ科の植物ササゲ(Vigna unguiculata L.)の2枚の初生葉の1枚の葉(コントロール葉)に、緩衝液のみを綿棒を用いて広げて塗りつける。この葉(もう1枚の初生葉、サンプル処理葉)にサンプル液(上記方法で得た懸濁液)を綿棒を用いて広げて塗りつける。なお、ササゲの葉がサンプル液をはじいてしまう場合は、0.1%のトリトン(TritonX)を混合する。
【0014】
3)ついでこのササゲの初生葉を5から30分間乾燥させる。
【0015】
4)次にキュウリモザイクウイルス液(CMV、pepo系統、濃度10μg/ml〜20μg/ml、0.1Mりん酸バッファー)と、3%になるようにカーボランダム600(子葉表面に傷をつけるための)を混合した試験液を準備する。
【0016】
5)二本の綿棒をこの試験液(ウイルス液)に浸漬させ、同時に取り出し、一方の綿棒でサンプル処理葉に、他方の綿棒でコントロール葉に接触させ、それぞれの葉にウイルスを接種する。
【0017】
6)2〜3日後、ウイルスの局部病斑数を数え感染阻害率を調べた。感染阻害率%は以下の式で算出した。
感染阻害率(%)=(1−処理区病班数/対照区病班数)×100
【0018】
上記方法による各タンパク質分解酵素の植物ウイルス(キュウリモザイクウイルス)感染阻害作用の結果は、表1のごとくになった。
【表1】

【0019】
以上の結果より、スミチーム AP、プロレーザー FGにはウイルス感染防止作用は観察されなかった。すなわち、全てのタンパク質分解酵素がウイルスの感染および増殖を阻害する作用は有するのではなく、個々のタンパク質分解酵素の固有の特性である。
【0020】
ウイルスの感染および増殖を阻害に供するタンパク質分解酵素は、スミチームAPおよびプロレーザーFG以外のタンパク質分解酵素を用いることが望ましい。さらには少なくともデナプシン2P、ニューラーゼF3−G、アマノS、アマノN、スミチームLPL、ブロメライン、パパイン、フィシン、スミチームMP、プロチンAC、プロレーザーFG、ビオプラーゼSP−4FG、スミチームFP、トリプシン、アルファ−キモトリプシン、ズブチリシンAを用いることが望ましい。
【0021】
上記のような酵素は、飲食品または健康食品に利用することができる。健康食品とは、通常の食品よりも積極的な意味で、保健、健康維持・増進等の目的とした食品を意味する。例えば、形態としては、液体または半固形、固形の製品、具体的には、散剤、顆粒剤、錠剤、フィルム、カプセル剤または液体等のほか、クッキー、せんべい、ゼリー、ようかん、ヨーグルト、まんじゅう等の菓子類、清涼飲料、お茶類、栄養飲料、スープ等が挙げられる。
【0022】
これらの食品の製造工程において、あるいは最終製品に、上記の酵素を混合または塗布あるいは噴霧などにより添加して、飲食品とすることができる。飲食品としての使用時には、飲食品の味や外観に悪影響を及ぼさない量で用いることが適当である。例えば、上記タンパク質分解酵素を0.01〜10000μg/mlで含有する溶液を、対象とする食品の0.01〜2重量%の量で加えることができる。
【0023】
また、上記の酵素は、哺乳類動物、魚介類または鳥類などに与える飼料またはペットフードに配合することにより、動物に対するウイルスの感染を予防することもできる。飼料またはペットフードとしての使用時の酵素の添加量は、上記の飲食品としての使用時と同様である。
【0024】
上記の酵素は、適当な賦形剤と混合するか又はせずに、水性または油性の懸濁液、溶液又はエマルジョンの形態で、農薬として用いることができる。用い得る賦形剤としては、溶剤(例えばオリーブ油、大豆油のような油性溶剤、水、アルコール、プロピレングリコールのような親水性溶剤など)、乳化剤(例えば界面活性剤など)、懸濁化剤(例えばポリビニル系化合物、セルロース類のような親水性高分子、界面活性剤など)、増量剤(例えばタルク、クレーなど)、保存剤(例えばパラベン、ソルビン酸など)、着色剤などを挙げることができる。
【0025】
上記の農薬は、使用前に水または他の適切な溶解液で再生する乾燥製品として提供してもよい。 上記の農薬は、植物に塗布または噴霧することにより適用することができる。
例えば、上記の農薬は、上記のゲルろ過クロマトグラフィー後に得られたウイルスの感染と増殖を阻害する作用を有するタンパク質分解酵素を0.01〜10000μg/mlで含有することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スミチームAPおよびプロレーザーFGと表記されるタンパク質を含まないウイルスの感染と増殖を阻害する作用を有するタンパク質分解酵素。
【請求項2】
ウイルスの感染と増殖を阻害する作用を有する酵素が少なくともデナプシン2P、ニューラーゼF3−G、アマノS、アマノN、スミチームLPL、ブロメライン、パパイン、フィシン、スミチームMP、プロチンAC、プロレーザーFG、ビオプラーゼSP−4FG、スミチームFP、トリプシン、アルファ−キモトリプシン、ズブチリシンAとして表記されるタンパク質であるタンパク質分解酵素。
【請求項3】
請求項1または請求項2のタンパク質分解酵素を含む薬剤を散布することによりウイルスの感染および増殖を阻害する方法。
【請求項4】
請求項1または請求項2のタンパク質分解酵素を含む薬剤を塗布することによりウイルスの感染および増殖を阻害する方法。
【請求項5】
請求項1または請求項2のタンパク質分解酵素を含む医薬、飲食品、飼料または農薬。
【請求項6】
請求項1または請求項2のタンパク質分解酵素を含有し、ウイルスの感染と増殖を予防するために用いられるものである旨の表示を付した飲食品。
【請求項7】
請求項1または請求項2のタンパク質分解酵素を含有し、ウイルスの感染と増殖を予防するために用いられるものである旨の表示を付した飼料。

【公開番号】特開2008−154456(P2008−154456A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−337602(P2006−337602)
【出願日】平成18年11月17日(2006.11.17)
【出願人】(506415643)SEIRYU Bio株式会社 (2)
【Fターム(参考)】