説明

タンパク質用の医薬製剤

本発明は、治療用タンパク質と、界面活性剤と、ラジカル消去剤、キレート剤、または連鎖停止剤の群から選択される少なくとも1つの抗酸化剤とを含む、液体医薬製剤を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、治療用タンパク質と、界面活性剤と、ラジカル消去剤、キレート剤、または連鎖停止剤の群から選択される少なくとも1つの抗酸化剤とを含む、液体医薬製剤を提供する。
【背景技術】
【0002】
濾過ポンピング撹拌(例えば、振とうまたは撹拌)、凍結/融解、および凍結乾燥のような、界面相互作用が関係する一般的に利用されるプロセスおよび条件は、凝集を引き起こし得る。ポリソルベートは、界面に誘発される凝集に対してタンパク質を安定化させるため、およびタンパク質の表面吸着を最小限にするために、タンパク質医薬に広く使用されている非イオン性界面活性剤の重要なクラスである(Wang W 2005. Protein aggregation and its inhibition in biopharmaceutics. Int J Pharm 289 (1-2): 1-30(非特許文献1))。ポリソルベートは、多くのタンパク質の保護に有効であるため、タンパク質製剤のために広く普及している。実際、特にモノクローナル抗体(Mab)に対して70%を超える市販の製剤が、ポリソルベート20(PS20)またはポリソルベート80(PS80)のいずれかを含んでいる。ポリソルベートの普及している使用は、それらの高いHLB数、低いCMC値、したがって低濃度での非常に有効な表面活性によるものである。タンパク質の安定化におけるポリソルベートの作用メカニズムは、CMCそれ自体が主要なパラメーターであると見出されていなかったにも関わらず、それらの表面活性ひいてはタンパク質と競合した界面での相互作用に基づくものと考えられる。ポリソルベートの表面への高い親和性は、ポリソルベートそれ自体がフィルター等の表面と相互作用するという事実から明らかである。ポリソルベートは、脂肪酸エステルのポリオキシエチレン(POE)ソルビタンから構成される両親媒性の非イオン性の界面活性剤である。市販のポリソルベートは、主にソルビタンPOE脂肪酸エステルを含む化学的に多様な混合物である。さらに、相当量のPOE、ソルビタンPOE、およびイソソルビドPOE脂肪酸エステルが存在する。ポリソルベートは、自己酸化および加水分解によって分解を生じやすいことが知られている。ポリソルベートの分解の現時点での知識レベルにもかかわらず(Kerwin BA 2008. polysorbates 20 and 80 used in the formulation of protein biotherapeutics: Structure and degradation pathways. J Pharm Sci 97(8):2924-2935(非特許文献2))、非経口タンパク質製剤に使用されるポリソルベートの運命は、薬学的に関連する条件下の経時変化および分解メカニズムへの理解を得るために、さらにより詳しく研究するに値する。これは、タンパク質の安定性に対する分解されたポリソルベート種の相互作用および影響についてはあまり知られていないため、特に該当する。
【0003】
ポリソルベートは、a)加水分解;b)自己酸化の2つのメカニズムによって、バルク中および水溶液中の両方で経時的に分解されることが知られている。
【0004】
ポリソルベートの分解は、(a)もはやタンパク質を安定化せず、したがって負の影響を有することによって、または(b)経時的に産物中に「粒子」として潜在的に出現し得る不溶性分解産物の増加のために、産物の品質に対して潜在的な影響を有し得る。
【0005】
したがって、先行技術のタンパク質用医薬製剤の欠点を少なくとも部分的に克服する、タンパク質用の医薬製剤の必要性が存在する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Wang W 2005. Protein aggregation and its inhibition in biopharmaceutics. Int J Pharm 289 (1-2): 1-30
【非特許文献2】Kerwin BA 2008. polysorbates 20 and 80 used in the formulation of protein biotherapeutics: Structure and degradation pathways. J Pharm Sci 97(8):2924-2935
【発明の概要】
【0007】
タンパク質と、界面活性剤と、ラジカル消去剤、キレート剤、または連鎖停止剤の群から選択される少なくとも1つの抗酸化剤とを含む、液体医薬製剤を提供することが、本発明の目的である。
【0008】
タンパク質を含む液体医薬製剤において界面活性剤の分解を防止するための、ラジカル消去剤、キレート剤、または連鎖停止剤からなる群より選択される少なくとも1つの抗酸化剤の使用を提供することが、本発明のさらなる目的である。
【0009】
本発明の好ましい態様において、少なくとも1つの抗酸化剤は、ラジカル消去剤の群から選択される。
【0010】
本発明の別の好ましい態様において、ラジカル消去剤は、アスコルビン酸、BHT、BHA、亜硫酸ナトリウム、p-アミノ安息香酸、グルタチオン、および没食子酸プロピルから選択される。
【0011】
本発明のさらに好ましい態様において、タンパク質は、治療用タンパク質、好ましくは抗体、より好ましくはモノクローナル抗体である。
【0012】
本発明のさらに好ましい態様において、キレート剤は、EDTAおよびクエン酸から選択される。
【0013】
本発明のさらに好ましい態様において、連鎖停止剤は、メチオニン、ソルビトール、エタノール、およびN-アセチルシステインから選択される。
【0014】
本発明のさらに好ましい態様において、界面活性剤は、ポリソルベートおよびポロキサマーの群から選択される。
【0015】
本発明のさらに好ましい態様において、ポリソルベートは、ポリソルベート20またはポリソルベート80である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1Aは、ポリソルベート20における3つの異なる温度での6ヶ月の貯蔵期間にわたる、製剤の過酸化物含量の増加を示す。図1Bは、ポリソルベート80における3つの異なる温度での6ヶ月の貯蔵期間にわたる、製剤の過酸化物含量の増加を示す。
【図2】図2Aは、HPLC/ELSD法により測定された、ポリソルベート20における6ヶ月の貯蔵期間にわたる、ポリソルベート濃度の減少を示す。図2Bは、HPLC/ELSD法により測定された、ポリソルベート80における6ヶ月の貯蔵期間にわたる、ポリソルベート濃度の減少を示す。
【図3】図3Aは、BHT/EDTA/メチオニンの存在下および非存在下でのPS20のポリソルベート濃度を示す。添加剤は次に示すとおりである:P1=ポリソルベート、P2=ポリソルベート+BHT、P3=ポリソルベート+EDTA、P4=ポリソルベート+メチオニン。図3Bは、BHT/EDTA/メチオニンの存在下および非存在下でのPS80のポリソルベート濃度を示す。添加剤は次に示すとおりである:P1=ポリソルベート、P2=ポリソルベート+BHT、P3=ポリソルベート+EDTA、P4=ポリソルベート+メチオニン。
【図4】図4は、ポリソルベートの分解の防止のための様々な添加剤の非存在下または存在下での意図的に分解されたポリソルベート20の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本明細書に使用される「医薬製剤(または「製剤」)」との用語は、例えば、哺乳動物、例えば治療が必要なヒトに投与される薬学的に許容される添加剤と共に、治療的に有効な量の活性のある医薬成分、例えばポリペプチドまたは抗体を含む、混合物または溶液を意味する。
【0018】
本明細書に使用される「ポリペプチド」との用語は、アミノ酸のポリマーを意味し、特定の長さのものは意味しない。したがって、ペプチド、オリゴペプチド、およびタンパク質断片は、ポリペプチドの定義に含まれる。
【0019】
「抗体」との用語は、抗体全体および抗体断片を含むがこれらには限定されない、様々な形態の抗体構造を包含する。本発明に係る抗体は、本発明に係る特有の性質が維持されている限り、好ましくはヒト化抗体、キメラ抗体、またはさらに遺伝子操作された抗体である。
【0020】
「抗体断片」は、全長抗体の一部、好ましくはその可変ドメイン、または少なくともその抗原結合部位を含む。抗体断片の例には、二重特異性抗体、単鎖抗体分子、抗体断片から形成された多特異性(multispecific)抗体が含まれる。scFv抗体は、例えば、Houston, J.S., Methods in Enzymol. 203 (1991) 46-96に記載される。本明細書に使用される「モノクローナル抗体」または「モノクローナル抗体製剤」との用語は、単一のアミノ酸組成の抗体分子の調製物を指す。
【0021】
「キメラ抗体」との用語は、1つの起源または種に由来する可変領域、すなわち結合領域と、異なる起源または種に由来する定常領域の少なくとも一部とを含む、通常、組換えDNA技術によって調製された抗体を指す。マウス可変領域とヒト定常領域を含むキメラ抗体が好ましい。本発明によって包含される他の好ましい形態の「キメラ抗体」は、定常領域が、元の抗体の定常領域から、特にC1q結合および/またはFc受容体(FcR)結合に関して、本発明に係る特性を生じるように修飾されたまたは変化したものである。そのようなキメラ抗体は、「クラススイッチ抗体」とも呼ばれる。キメラ抗体は、免疫グロブリン可変領域をコードするDNAセグメントと免疫グロブリン定常領域をコードするDNAセグメントを含む免疫グロブリン遺伝子の発現産物である。キメラ抗体を産生するための方法には、当技術分野に周知である従来の組換えDNAおよび遺伝子トランスフェクション技術が含まれる。例えば、Morrison, S.L., et al, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 81 (1984) 6851-6855;米国特許第5,202,238号および同第5,204,244号を参照のこと。
【0022】
本明細書に使用される「ヒト抗体」との用語は、ヒト生殖系の免疫グロブリン配列に由来する可変領域および定常領域を有する抗体を含むことが意図される。ヒト抗体は、当技術分野で周知である(van Dijk, M.A., and van de Winkel, J.G., Curr. Opin. Chem. Biol. 5 (2001) 368-374)。ヒト抗体はまた、免疫化すると、内因性の免疫グロブリン産生が無い場合にヒト抗体の完全レパートリーの産生または選択が可能である、トランスジェニック動物(例えばマウス)においても産生され得る。生殖系変異型マウスへの、ヒト生殖系の免疫グロブリン遺伝子アレイのトランスファーにより、抗原を投与するとヒト抗体の産生が生じる(例えば、Jakobovits, A., et al, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90 (1993) 2551-2555;Jakobovits, A., et al, Nature 362 (1993) 255-258;Bruggemann, M., et al, Year Immunol. 7 (1993) 33-40を参照のこと)。ヒト抗体はまた、ファージディスプレイライブラリーにおいて産生され得る(Hoogenboom, H.R., and Winter, G., J. Mol. Biol. 227 (1992) 381-388;Marks, J.D., et al, J. Mol. Biol. 222 (1991) 581-597)。Cole et al.とBoerner et al.の技術はまた、ヒトモノクローナル抗体の調製に利用可能である(Cole et al., Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy, Alan R. Liss, p. 77 (1985);およびBoerner, P., et al, J. Immunol. 147 (1991) 86-95)。本発明に係るキメラ抗体およびヒト化抗体について既に述べたように、本明細書に使用される「ヒト抗体」の用語はまた、定常領域が、特にC1q結合および/またはFcR結合に関して、例えば「クラススイッチ」、すなわちFc部分の変化または変異(例えば、IgG1からIgG4および/またはIgG1/IgG4変異)等により、本発明に係る特性を生じるように修飾された抗体を含む。
【0023】
「薬学的に許容される添加剤」との用語は、医薬品の製造に使用される緩衝剤、溶媒、等張化剤、安定剤、抗酸化剤、界面活性剤、またはポリマー等の、治療活性を有さず且つ許容される毒性を有する、任意の成分を指す。それらは、米国の食品医薬品局によって推奨されるものを含む確立された政府の基準に従うヒトへの投与に対して、一般に安全である。
【0024】
本明細書に使用される「緩衝剤」との用語は、医薬調製物のpHを安定化する、薬学的に許容される添加剤を意味する。適した緩衝剤は当技術分野に周知であり、文献において見出すことができる。好ましい薬学的に許容される緩衝剤には、ヒスチジン緩衝剤、クエン酸緩衝剤、コハク酸緩衝剤、酢酸緩衝剤、およびリン酸緩衝剤、またはそれらの混合物が含まれるが、これらに限定されない。最も好ましい緩衝剤には、クエン酸、L-ヒスチジン、またはL-ヒスチジンとL-ヒスチジン塩酸塩の混合物が含まれる。他の好ましい緩衝剤は、酢酸緩衝剤である。使用される緩衝剤から独立して、pHは、当技術分野に既知の酸または塩基、例えば、塩酸、酢酸、リン酸、硫酸、およびクエン酸、水酸化ナトリウムおよび水酸化カリウム等で調整され得る。
【0025】
本明細書に使用される「等張化剤」との用語は、製剤の張度を調節するために使用される、薬学的に許容される添加剤を意味する。張度は一般に、通常のヒト血清の浸透圧に対する、溶液の浸透圧に関する。製剤は、低張性、等張性、または高張性であり得る。製剤は典型的に、好ましくは等張性である。等張性の製剤は、液体、または例えば凍結乾燥形態等の固体形態から再構成された液体であり、生理的塩溶液および血清等の比較した他の溶液と同じ張度を有する溶液を意味する。適した等張化剤には、塩、アミノ酸、および糖が含まれるが、これらに限定されない。好ましい等張化剤は、塩化ナトリウム、トレハロース、スクロース、またはアルギニンである。
【0026】
「張度」は、半透膜によって分離される二つの溶液の浸透圧の程度である。浸透圧は、半透膜を超えて内向きに流れる水を妨げるよう溶液にかかる圧力である。膜を横断することができない溶質のみが浸透圧を及ぼすため、浸透圧と張度は、このような溶質によってのみ影響を受ける。膜を自由に横断できる溶質は膜の両側において常に同じ濃度で存在するため、このような溶質は張度に影響しない。
【0027】
等張化剤または安定剤との関連における「アミノ酸」との用語は、カルボキシル基に対しα-位に位置するアミノ部分を有する、薬学的に許容される有機分子を意味する。アミノ酸の例には、アルギニン、グリシン、オルニチン、リジン、ヒスチジン、グルタミン酸、アスパラギン酸、イソロイシン、ロイシン、アラニン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、メチオニン、セリン、プロリンが含まれる。等張化剤または安定剤との関連における好ましいアミノ酸は、アルギニン、トリプトファン、メチオニン、ヒスチジン、またはグリシンである。
【0028】
本明細書に使用される「糖(sugar)」との用語は、単糖またはオリゴ糖を意味する。単糖は、例えばアミノ糖等の単純糖(simple sugar)およびそれらの誘導体を含む、酸によって加水分解できない単量体の炭水化物である。単糖の例には、グルコース、フルクトース、ガラクトース、マンノース、ソルボース、リボース、デオキシリボース、ノイラミン酸が含まれる。オリゴ糖は、分枝または一本鎖のいずれかの、グリコシド結合を介して連結された、複数の単量体糖ユニット(monomeric saccharide unit)からなる炭水化物である。オリゴ糖内の単量体糖ユニットは、同じでもまたは異なっていてもよい。単量体糖ユニットの数により、オリゴ糖は、二糖、三糖、四糖、五糖等である。多糖とは対照的に、単糖およびオリゴ糖は水溶性である。オリゴ糖の例には、スクロース、トレハロース、ラクトース、マルトースおよびラフィノースが含まれる。好ましい糖は、スクロースおよびトレハロースである。
【0029】
本明細書に使用される「界面活性剤(surfactant)」との用語は、撹拌および剪断等の機械的ストレスからタンパク質製剤を保護するために使用される、薬学的に許容される添加剤を意味する。薬学的に許容される界面活性剤の例には、ポロキサマー、ポリソルベート、ポリオキシエチレンアルキルエーテル(Brij)、アルキルフェニルポリオキシエチレンエーテル(Triton-X)、またはドデシル硫酸ナトリウム(SDS)が含まれる。好ましい界面活性剤は、ポリソルベートおよびポロキサマーである。
【0030】
本明細書に使用される「ポリソルベート」との用語は、典型的にはエチレンオキシドと共重合された、ソルビトールおよびその無水物のオレイン酸エステルを意味する。好ましいポリソルベートは、ポリソルベート20(ポリ(エチレンオキシド)(20)ソルビタンモノラウレート、Tween 20)、またはポリソルベート80(ポリ(エチレンオキシド)(80)ソルビタンモノラウレート、Tween 80)である。
【0031】
本明細書に使用される「ポロキサマー」との用語は、ポリ(エチレンオキシド)(PEO)の2つの疎水性鎖が隣接する、ポリ(プロピレンオキシド)(PPO)の中央の疎水性鎖から構成された、非イオン性トリブロックコポリマーを指し、PPOまたはPEOの各鎖は、異なる分子量であってもよい。ポロキサマーはまた、商標名であるPluronicによっても知られている。好ましいポロキサマーは、PPO鎖が1800 g/molの分子質量を有し且つPEO含量が80%(w/w)であるポロキサマーである、ポロキサマー188である。
【0032】
「抗酸化剤」との用語は、活性のある医薬成分の酸化を防止する、薬学的に許容される添加剤を意味する。これには、キレート剤、活性酸素消去剤および連鎖停止剤が含まれる。抗酸化剤は、EDTA、クエン酸、アスコルビン酸、ブチルヒドロキシトルエン(BHT)、ブチルヒドロキシアニソール(BHA)、亜硫酸ナトリウム、p-アミノ安息香酸、グルタチオン、没食子酸プロピル、システイン、メチオニン、エタノール、およびN-アセチルシステインを含むが、これらに限定されない。
【実施例】
【0033】
実験部
長期研究
試験研究1
タンパク質の非存在下(「プラセボ」)で、240 mMのトレハロース、およびPS20またはPS80の0.02%または(w/v)のいずれかと、pH 6で、20 mM His/His.HCl(SA Ajinomoto Omnichem NV, Louvain-la-Neuve, Belgium)を用いて、製剤を調製した。0.001%のBHT(Fluka Chemmie AG, Steinen-heim)、0.01%のEDTA(Fluka Chemmie AG, Steinenheim)、10 mMのメチオニン(SA Ajinomoto Omnichem NV, Louvain-la-Neuve, Belgium)を製剤に添加した。この製剤を0.22μmのMillex GV(PVDF)シリンジフィルターユニット(Millipore, Bedford, MA, USA)を用いて濾過し、滅菌された標準6 mLφ20 mmタイプI透明ガラスインジェクションバイアル(Schott forma vitrum AG, St. Gallen, Switzerland)に無菌的に入れて2.4mLにし、Teflon(登録商標)でコートされたインジェクションストッパー(Daikyo Seiko, Tokyo, Japan)で閉じ、アルミニウムクリンプキャップで封をした。バイアルを5℃、25℃および40℃で保存した。試料は3ヶ月にわたって分布する時点で分析した。
【0034】
試験研究2
タンパク質の非存在下(「プラセボ」)で、240 mMのトレハロース、およびPS20の0.02%または(w/v)のいずれかと、pH 6で、20 mMのHis/His.HCl(SA Ajinomoto Omnichem NV, Louvain-la-Neuve, Belgium)を用いて製剤を調製した。以下の抗酸化剤:0.005%のBHT(Fluka Chemmie AG, Steinenheim, Switzerland)、0.1%のEDTA(Fluka Chemmie AG, Steinenheim, Switzerland)、20 mMのメチオニン(SA Ajinomoto Omnichem NV, Louvain-la-Neuve, Belgium)、20 mMのクエン酸(Fluka Chemmie AG, Steinenheim, Switzerland)、0.5%のアスコルビン酸(Acros organics, Geel Belgium)、0.1%のグルタチオン(Fluka Chemmie AG, Steinenheim, Switzerland)、0.2%の亜硫酸ナトリウム(Merck KGaA, Darmstadt, Germany)、0.5%のソルビトール(Fluka Chemmie AG, Steinenheim, Switzerland)、0.5%のN-アセチルシステイン(Fluka Chemmie AG, Steinenheim, Switzerland)、0.01%の没食子酸プロピル(Fluka Chemmie AG, Steinenheim, Switzerland)、0.01%のp-アミノ安息香酸(Fluka Chemmie AG, Steinenheim, Switzerland)を試験し、かつポロキサマー188を製剤に添加した。製剤に300 ppmのH202または100 ppmのFeCl2のいずれかを添加した。この製剤を0.22μm Millex GV(PVDF)シリンジフィルターユニット(Millipore, Bedford, MA, USA)を用いて濾過し、滅菌された標準6 mLφ20 mmタイプI透明ガラスインジェクションバイアル(Schott forma vitrum AG, St. Gallen, Switzerland)に無菌的に入れて2.4mLにし、Teflon(登録商標)でコートされたインジェクションストッパー(Daikyo Seiko, Tokyo, Japan)で閉じ、アルミニウムクリンプキャップで封をした。バイアルを25℃および40℃で保存した。試料は3週間にわたって分布する時点で分析した。
【0035】
ポリソルベートの定量化
HPLC/ELSDをベースにした方法または蛍光ミセル法のいずれかを使用して、製剤中のポリソルベート濃度の定量化を行った。
【0036】
(a) HPLC/ELSD法
HPLC/ELSD法は、製剤中のポリソルベートを分析するために、Hewitt et al(Hewitt D, Zhang T, Kao YH 2008. Quantitation of polysorbate 20 in protein solutions using mixed-mode chromatography and evaporative light scattering detection. J Chromatogr A 1215(1-2): 156-160)によって記載された方法に基づいた。Watersの30μmミックスモードカラムOasis MAXを使用した。ポリソルベートピーク領域を決定し、較正曲線と比較した。潜在的なアッセイ干渉を除くため、較正基準は、試料中に存在した全ての添加剤を含んだ。
【0037】
(b) 蛍光ミセル法
蛍光ミセルアッセイ法は、抽出試料中のポリソルベート濃度を決定するために使用した。アッセイ法は、ポリソルベートミセルの疎水性コア中への、蛍光色素、N-フェニル-1-ナフチルアミン(NPN)の取り込みに基づく。NPNは水性環境で蛍光量子収率が低いのに対し、非極性の設定では高い収率が観察される。試験は、750 mLニッティドリアクションコイル(knitted reaction coil)(Dionex, Sunnyvale, CA)を介してWaters 474蛍光検出器に連結された、Waters 2695 HPLC(Milford, MA)を用いたフローインジェクションアッセイ(FIA)として組み立てた。蛍光検出器は、励起波長350 nm、発光波長420 nmに設定した。移動相は、0.15 Mの塩化ナトリウム、0.05 MのTRIS、pH 8.0、5%のアセトニトリル、15 ppmのBrij35、および5.0 mMのNPN(N-フェニル-1-ナフチルアミン)からなる。定量化のために、ポリソルベートピーク領域を決定し、較正曲線と比較した。潜在的なアッセイ干渉を除くため、較正基準は、試料中に存在した全ての添加剤を含んだ。
【0038】
過酸化物の決定
過酸化物の決定は、酸性条件下でのFe2+からFe3+への急速なヒドロペルオキシドを介した酸化、および560 nmで強く吸収するキシレノールオレンジとの複合体に依拠するFOXIIアッセイ(Ha E, Wang W, Wang YJ 2002. Peroxide formation in polysorbate 80 and protein stability. J Pharm Sci 91(10):2252-2264)に基づく、Thermo Fischerの市販の過酸化物定量キットであるPeroXOquantによって行った。タンパク質なしの製剤を過酸化物の決定のために使用した。
【0039】
結果:
過酸化物の濃度は、製剤溶液中で増加することが見出された(図1Aおよび図1B)。この増加は、バルクおよび水溶液において他者により以前に認められていたが、薬学的に関連する状態において同じ報告は記載されていない。
【0040】
ポリソルベート濃度は、経時的に製剤溶液中で減少し、より高い温度でより顕著であることが見出された(図2Aおよび図2B)。
【0041】
追加の成分を含めることにより、それが存在しない場合と比較して、水性製剤におけるポリソルベートの安定性が改善され得る。これは、BHT、メチオニン、およびEDTAが添加された製剤中のポリソルベート含量を試験することにより証明された。これらの添加が、ポリソルベートの分解を最小限にすることに正の効果を有することは明らかである(図3Aおよび図3B)。
【0042】
以下の成分は、ポリソルベート分解を最小限にするそれらの可能性についてさらにスクリーニングした:
【表1】

【0043】
試験した抗酸化剤は、概して、キレート剤(例えば、EDTA、クエン酸)、活性酸素消去剤(例えば、アスコルビン酸、BHT、亜硫酸ナトリウム、p-アミノ安息香酸、グルタチオン、没食子酸プロピル)、および連鎖停止剤(例えば、メチオニン、ソルビトール、エタノール、およびN-アセチルシステイン)のカテゴリーのものであった(図4)。
【0044】
ポリソルベート分解を含む積極的な酸化ストレス条件、すなわち300 ppm H202および100 ppm FeCl2に対して製剤を試験した。
【0045】
温度が高くなり且つ時間が長くなるに伴って、ポリソルベート分解がより顕著になることが、再び確認された。
【0046】
特にラジカル消去剤は、キレート剤および連鎖停止剤と比べて非常に重要な役割を担っているようであり、上述の全ての添加剤は改善を示し、すなわちポリソルベート分解を最小限にした。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンパク質と、界面活性剤と、ラジカル消去剤、キレート剤、または連鎖停止剤の群から選択される少なくとも1つの抗酸化剤とを含む、液体医薬製剤。
【請求項2】
前記少なくとも1つの抗酸化剤がラジカル消去剤の群から選択される、請求項1記載の液体医薬製剤。
【請求項3】
前記ラジカル消去剤が、アスコルビン酸、BHT、BHA、亜硫酸ナトリウム、p-アミノ安息香酸、グルタチオン、および没食子酸プロピルから選択される、請求項2記載の液体医薬製剤。
【請求項4】
前記タンパク質が、治療用タンパク質、好ましくは抗体、より好ましくはモノクローナル抗体である、請求項1〜3のいずれか一項記載の液体医薬製剤。
【請求項5】
前記キレート剤が、EDTAおよびクエン酸から選択される、請求項1〜4のいずれか一項記載の液体医薬製剤。
【請求項6】
前記連鎖停止剤が、メチオニン、ソルビトール、エタノール、およびN-アセチルシステインから選択される、請求項1〜5のいずれか一項記載の液体医薬製剤。
【請求項7】
前記界面活性剤が、ポリソルベートおよびポロキサマーの群から選択される、請求項1〜7のいずれか一項記載の液体医薬製剤。
【請求項8】
前記ポリソルベートが、ポリソルベート20またはポリソルベート80である、請求項7記載の液体医薬製剤。
【請求項9】
タンパク質を含む液体医薬製剤において界面活性剤の分解を防止するための、ラジカル消去剤、キレート剤、または連鎖停止剤からなる群より選択される抗酸化剤の使用。
【請求項10】
前記ラジカル消去剤が、アスコルビン酸、BHT、亜硫酸ナトリウム、p-アミノ安息香酸、グルタチオン、および没食子酸プロピルから選択される、請求項9記載の抗酸化剤の使用。
【請求項11】
前記キレート剤が、EDTAおよびクエン酸から選択される、請求項9または10記載の抗酸化剤の使用。
【請求項12】
前記連鎖停止剤が、メチオニン、ソルビトール、エタノール、およびN-アセチルシステインの群から選択される、請求項9〜11のいずれか一項記載の抗酸化剤の使用。
【請求項13】
前記タンパク質が、治療用タンパク質、好ましくは抗体、より好ましくはモノクローナル抗体である、請求項9〜12のいずれか一項記載の抗酸化剤の使用。
【請求項14】
前記界面活性剤が、ポリソルベートおよびポロキサマーの群から選択される、請求項9〜13のいずれか一項記載の抗酸化剤の使用。
【請求項15】
前記ポリソルベートが、ポリソルベート20および/またはポリソルベート80である、請求項14記載の抗酸化剤の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2013−517309(P2013−517309A)
【公表日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−549308(P2012−549308)
【出願日】平成23年1月14日(2011.1.14)
【国際出願番号】PCT/EP2011/050427
【国際公開番号】WO2011/089062
【国際公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【出願人】(591003013)エフ.ホフマン−ラ ロシュ アーゲー (1,754)
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN−LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
【Fターム(参考)】