タンパク質結晶化方法
【課題】 X線回折を用いて撮影した時の解像度が高い良質な結晶を得ることができるタンパク質の結晶化方法を提供すること。
【解決手段】 本発明に係るタンパク質の結晶化方法は、タンパク質溶液に、タンパク質の結晶化に必要な試薬を添加してサンプル溶液を生成し、該サンプル溶液に、析出した結晶のX線回折の解像度が高くなる電圧を印加しながらタンパク質の結晶を析出させることを特徴とする。
【解決手段】 本発明に係るタンパク質の結晶化方法は、タンパク質溶液に、タンパク質の結晶化に必要な試薬を添加してサンプル溶液を生成し、該サンプル溶液に、析出した結晶のX線回折の解像度が高くなる電圧を印加しながらタンパク質の結晶を析出させることを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンパク質結晶を製造するためのタンパク質結晶化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生物学や医学の見地からタンパク質の構造や機能を知るためにタンパク質の構造解析の研究が盛んに行われている。
タンパク質の三次元構造を解析するための最も一般的な手法はX線構造解析法である。そして、このX線構造解析法によりタンパク質の三次元構造を解析するためには、タンパク質の良質な単結晶が必要になる。
そして、タンパク質の良質な単結晶を得るために従来から様々な方法が提案されている(特許文献1〜6参照)。
【0003】
【特許文献1】特願2005−176339
【特許文献2】特願2005−176344
【特許文献3】特願2005−176351
【特許文献4】特願2005−176354
【特許文献5】特願2005−176359
【特許文献6】特開2000−63199
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来は、サイズが大きい結晶が良質な結晶とされており、このため、如何にして、サイズが大きい結晶を析出させるかに研究開発の焦点が置かれていた。
発明者等は、鋭意研究の結果、たとえサイズが大きくても、X線回折を用いて撮影した時の解像度が低い結晶では十分な構造解析が行えないので、サイズが大きい結晶が必ずしも良質な結晶とはいえないことを見出した。
本発明は、X線回折を用いて撮影した時の解像度が高い良質な結晶を得ることができるタンパク質の結晶化方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記した目的を達成するために本発明に係るタンパク質の結晶化方法は、タンパク質溶液に、タンパク質の結晶化に必要な試薬を添加してサンプル溶液を生成し、該サンプル溶液に、析出した結晶のX線回折の解像度が高くなる電圧を印加しながらタンパク質の結晶を析出させることを特徴とする。
好ましくは、前記析出した結晶のX線回折の解像度が高くなる電圧は、100Vより高い電圧であり得る。
タンパク質の結晶化は、様々な環境下において行うことができ、例えば、マイクロバッジ法による環境下においてタンパク質を結晶化させてもよく、ハンギングドロップ法、シッティングドロップ法又はサンドイッチドロップ法等の蒸気拡散法による環境下においてタンパク質を結晶化させてもよく、又は、バルクバッジ法による環境下においてタンパク質を結晶化させてもよい。
【発明の効果】
【0006】
本発明に係るタンパク質の結晶化方法は、タンパク質溶液に、タンパク質の結晶化に必要な試薬を添加してサンプル溶液を生成し、該サンプル溶液に、析出した結晶のX線回折の解像度が高くなる電圧を印加しながらタンパク質の結晶を析出させるため、X線回折を用いて撮影した時の解像度が高く構造解析を行い易い結晶を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、添付図面に示した一実施例を参照して、本発明に係る結晶化方法の実施の形態を説明していく。
【0008】
図1(a)及び(b)は、本発明に係る結晶化方法の一例としてのマイクロバッジ法を用いて結晶化を行う結晶化装置の概略斜視図及び概略横断面図である。
図面に示すように、この結晶化装置は、
基板1上に一対の電極2a及び2bを複数列配置した電極板6と、
サンプル液滴5を保持するためのサンプル液滴と混じりあわない溶液4からなる液滴保持手段と
を有する。前記電極2a及び2bは絶縁体3で覆われている。
沈殿剤、塩及び界面活性剤等のような様々なタンパク質結晶化のための試薬とタンパク質溶液との混合物から成るサンプル液滴5は、絶縁体3の上に配置され、各サンプル液滴5が一対の電極の中間に位置するように配置される。
サンプル液滴5は、蒸発を防止するために油等のようなサンプル液滴と混じりあわない溶液4で囲まれている。このサンプル液滴と混じりあわない溶液4によってサンプル液滴5を囲むセットアップは、いわゆる、マイクロバッチ方法に対応している。
電極2a及び2b間に電位差を与えると、サンプル液滴5が置かれている電極2a及び2b上に電場が生じる。継続的な電場を作り出すために不図示の高圧電源が用いられる。また、図示していないが、例えば、増幅器に接続された信号発生器を用いることにより交流電場を生成することも可能である。
前記サンプル液滴5は、例えば、疎水性の表面上に親水化スポットを作ることによって位置決めすることができる。親水化スポットにより位置決めされた液滴は、しっかりと固定される。
【0009】
図2は、上記したタンパク質結晶化装置を用いて、実際にサンプル液滴5に所定の電場を付与して、タンパク質(ソーマチン)の結晶化を観察した結果を示すグラフである。
この実験では、ソーマチンを0.1 Mリン酸緩衝液(pH 6.25)に溶解し、100 mg/mL に調製したものをタンパク溶液とし、沈殿剤として1.0 M酒石酸ナトリウム溶液を0.1 Mリン酸緩衝液(pH 6.25)に溶解したものを用い、それぞれ1.0 μL (直径1.2 mm )を混合したサンプル液滴(2 μL )を60個生成して、パラフィンオイルから成る不活性溶液中で前記サンプル液滴を保持したサンプルホルダーを4つ準備し、
第1のサンプルホルダーには電場を付与せず、
第2のサンプルホルダーには各サンプル液滴に下方に配置された電極により直流500V/mm(100V)の電場を付与し、
第3のサンプルホルダーには各サンプル液滴に下方に配置された電極により直流1000V/mm(200V)の電場を付与し、
第4のサンプルホルダーには各サンプル液滴に下方に配置された電極により直流1350 V/mm(270V)の電場を付与し、結晶化の状態を観察した。
尚、実験に使用したタンパク質結晶化装置における電極板の電極間の間隔は0.2mmであり、上記括弧内に記載した電圧は実際に印加した電圧値を示している。
図2は、最終的に各サンプルの各サンプル液滴に生成された結晶数の平均値を示したグラフである。
図2の実験結果から明らかなように、電場を全く付与しない第1のサンプルに比べて電場を付与した場合に、電場強度を上げるにつれて1つの液滴中に生成する結晶数が減少することを表している。このことより、電場を付与した場合、結晶化が促進され、析出される結晶のサイズが増加することが分かる。
電場を付与しない第1のサンプルのように各サンプル液滴中に生成される結晶の数が多いと、大きな結晶に成長しないため必要な結晶が得られないが、前記条件の電場を与えると、各サンプル液滴中に生成される結晶の数が少なくなり、その分、結晶の大きさが大きくなる。
図3は、第1〜4のサンプルから一つずつピックアップした結晶に対してX線回折装置(超高輝度X線発生装置 FR-E SuperBright(リガク))を用いてX線を照射し、検出器(高速イメージングプレートX線検出器 R-AXIS VII(リガク))により検出した回折像である。その解像度を表1に示す。
【表1】
図2の実験結果によれば、電場を全く付与しない第1のサンプルに比べて電場を付与した場合に、電場強度を上げるにつれて1つの液滴中に生成する結晶数が減少しており、この傾向は、500V/mm(100V)の電場を付与した場合にも現れている。一方、図3及び表1から、X線回折により得られる結晶の解像度は、電場を付与していない第1のサンプル及び500V/mm(100V)の電場を付与した第2のサンプルにおいては共に1.54Åであるのに対して、1000V/mm(200V)の電場を付与した第3のサンプルでは1.37Åに上がり、1350 V/mm(270V)の電場を付与した第4のサンプルでは1.35Åに向上することが確認できる。
上記した実験結果により、500V/mm(100V)の電場を付与した場合には、1つの液滴中に生成される結晶数は減少するものの、X線回折により得られる結晶の解像度は向上しないが、それ以上の電場を付与した場合には、X線回折により得られる結晶の解像度が向上することが確認できた。
【0010】
上記した実施例では、本発明による結晶化方法をマイクロバッチ法に適用した例を挙げて説明しているが、本発明による結晶化方法を適用し得る結晶化の方法は本実施例に限定されることなく、任意の結晶化の方法、例えば、コンテナーレスバッチ法、バルクバッチ法又はマイクロオイルバッチ法等のバッチ法、並びにハンギングドロップ法、シッティングドロップ法又はサンドイッチドロップ法等の蒸気拡散法にも適用することができる。
図4は、蒸気拡散法におけるハンギングドロップ法に、本発明による結晶化方法を適用した例を示す概略図である。
図中符号10は容器を示し、符号11は容器10内に収容される平衡化溶液を示し、符号12はカバーガラスを示し、符号13はタンパク質結晶化のための試薬とタンパク質溶液との混合物から成るサンプル液滴を示す。
前記カバーガラス12には、サンプル液滴13に電圧を印加するための電極20が設けられており、この電極20により、サンプル液滴13に析出した結晶のX線回折の解像度を高くする電圧が印加される。
図5は、蒸気拡散法におけるシッティングドロップ法に、本発明による結晶化方法を適用した例を示す概略図である。
図中符号10は容器を示し、符号11は容器10内に収容される平衡化溶液を示し、符号12はカバーガラスを示し、符号13はタンパク質結晶化のための試薬とタンパク質溶液との混合物から成るサンプル液滴を示す。
容器10にはサンプル液滴13を載せる台座14が設けられている。この台座14は中空に形成され、その内部にサンプル液滴13に電圧を印加するための電極20が設けられている。この電極20により、サンプル液滴13に析出した結晶のX線回折の解像度を高くする電圧が印加される。
図6は、蒸気拡散法におけるサンドイッチドロップ法に本発明による結晶化方法を適用した例を示す概略図である。
図中符号10は容器を示し、符号11は容器10内に収容される平衡化溶液を示し、符号12はカバーガラスを示し、符号13はタンパク質結晶化のための試薬とタンパク質溶液との混合物から成るサンプル液滴を示す。
容器10には台座14が設けられており、サンプル液滴13は前記台座14とカバーガラス12との間に挟まれるように配置される。
前記カバーガラス12には、サンプル液滴13に電圧を印加するための電極20が設けられており、この電極20により、サンプル液滴13に析出した結晶のX線回折の解像度を高くする電圧が印加される。尚、図6の例では、カバーガラス12のみに電極20を設ける例を示しているが、例えば、カバーガラス12と台座14とに各々プラス電極及びマイナス電極を設けるように電極を配置してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】(a)及び(b)は、本発明に係る結晶化方法の一例としてのマイクロバッジ法を用いて結晶化を行う結晶化装置の概略斜視図及び概略横断面図である。
【図2】ソーマチンを用いた各サンプルの各サンプル液滴に生成された結晶数の平均値を示したグラフである。
【図3】(a)〜(d)は、0、500、1000,1350V/mmで電場付与した各サンプルから一つずつピックアップした結晶に対してX線回折装置(超高輝度X線発生装置 FR-E SuperBright(リガク))を用いてX線を照射し、検出器(高速イメージングプレートX線検出器 R-AXIS VII(リガク))により検出した回折像である。
【図4】蒸気拡散法におけるハンギングドロップ法に、本発明による結晶化方法を適用した例を示す概略図である。
【図5】蒸気拡散法におけるシッティングドロップ法に、本発明による結晶化方法を適用した例を示す概略図である。
【図6】蒸気拡散法におけるサンドイッチドロップ法に本発明による結晶化方法を適用した例を示す概略図である。
【符号の説明】
【0012】
1 基板
2 電極
3 絶縁体
4 サンプル液滴と混じりあわない溶液
5 サンプル液滴
6 電極板
10 容器
11 平衡化溶液
12 カバーガラス
13 サンプル液滴
14 台座
20 電極
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンパク質結晶を製造するためのタンパク質結晶化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生物学や医学の見地からタンパク質の構造や機能を知るためにタンパク質の構造解析の研究が盛んに行われている。
タンパク質の三次元構造を解析するための最も一般的な手法はX線構造解析法である。そして、このX線構造解析法によりタンパク質の三次元構造を解析するためには、タンパク質の良質な単結晶が必要になる。
そして、タンパク質の良質な単結晶を得るために従来から様々な方法が提案されている(特許文献1〜6参照)。
【0003】
【特許文献1】特願2005−176339
【特許文献2】特願2005−176344
【特許文献3】特願2005−176351
【特許文献4】特願2005−176354
【特許文献5】特願2005−176359
【特許文献6】特開2000−63199
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来は、サイズが大きい結晶が良質な結晶とされており、このため、如何にして、サイズが大きい結晶を析出させるかに研究開発の焦点が置かれていた。
発明者等は、鋭意研究の結果、たとえサイズが大きくても、X線回折を用いて撮影した時の解像度が低い結晶では十分な構造解析が行えないので、サイズが大きい結晶が必ずしも良質な結晶とはいえないことを見出した。
本発明は、X線回折を用いて撮影した時の解像度が高い良質な結晶を得ることができるタンパク質の結晶化方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記した目的を達成するために本発明に係るタンパク質の結晶化方法は、タンパク質溶液に、タンパク質の結晶化に必要な試薬を添加してサンプル溶液を生成し、該サンプル溶液に、析出した結晶のX線回折の解像度が高くなる電圧を印加しながらタンパク質の結晶を析出させることを特徴とする。
好ましくは、前記析出した結晶のX線回折の解像度が高くなる電圧は、100Vより高い電圧であり得る。
タンパク質の結晶化は、様々な環境下において行うことができ、例えば、マイクロバッジ法による環境下においてタンパク質を結晶化させてもよく、ハンギングドロップ法、シッティングドロップ法又はサンドイッチドロップ法等の蒸気拡散法による環境下においてタンパク質を結晶化させてもよく、又は、バルクバッジ法による環境下においてタンパク質を結晶化させてもよい。
【発明の効果】
【0006】
本発明に係るタンパク質の結晶化方法は、タンパク質溶液に、タンパク質の結晶化に必要な試薬を添加してサンプル溶液を生成し、該サンプル溶液に、析出した結晶のX線回折の解像度が高くなる電圧を印加しながらタンパク質の結晶を析出させるため、X線回折を用いて撮影した時の解像度が高く構造解析を行い易い結晶を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、添付図面に示した一実施例を参照して、本発明に係る結晶化方法の実施の形態を説明していく。
【0008】
図1(a)及び(b)は、本発明に係る結晶化方法の一例としてのマイクロバッジ法を用いて結晶化を行う結晶化装置の概略斜視図及び概略横断面図である。
図面に示すように、この結晶化装置は、
基板1上に一対の電極2a及び2bを複数列配置した電極板6と、
サンプル液滴5を保持するためのサンプル液滴と混じりあわない溶液4からなる液滴保持手段と
を有する。前記電極2a及び2bは絶縁体3で覆われている。
沈殿剤、塩及び界面活性剤等のような様々なタンパク質結晶化のための試薬とタンパク質溶液との混合物から成るサンプル液滴5は、絶縁体3の上に配置され、各サンプル液滴5が一対の電極の中間に位置するように配置される。
サンプル液滴5は、蒸発を防止するために油等のようなサンプル液滴と混じりあわない溶液4で囲まれている。このサンプル液滴と混じりあわない溶液4によってサンプル液滴5を囲むセットアップは、いわゆる、マイクロバッチ方法に対応している。
電極2a及び2b間に電位差を与えると、サンプル液滴5が置かれている電極2a及び2b上に電場が生じる。継続的な電場を作り出すために不図示の高圧電源が用いられる。また、図示していないが、例えば、増幅器に接続された信号発生器を用いることにより交流電場を生成することも可能である。
前記サンプル液滴5は、例えば、疎水性の表面上に親水化スポットを作ることによって位置決めすることができる。親水化スポットにより位置決めされた液滴は、しっかりと固定される。
【0009】
図2は、上記したタンパク質結晶化装置を用いて、実際にサンプル液滴5に所定の電場を付与して、タンパク質(ソーマチン)の結晶化を観察した結果を示すグラフである。
この実験では、ソーマチンを0.1 Mリン酸緩衝液(pH 6.25)に溶解し、100 mg/mL に調製したものをタンパク溶液とし、沈殿剤として1.0 M酒石酸ナトリウム溶液を0.1 Mリン酸緩衝液(pH 6.25)に溶解したものを用い、それぞれ1.0 μL (直径1.2 mm )を混合したサンプル液滴(2 μL )を60個生成して、パラフィンオイルから成る不活性溶液中で前記サンプル液滴を保持したサンプルホルダーを4つ準備し、
第1のサンプルホルダーには電場を付与せず、
第2のサンプルホルダーには各サンプル液滴に下方に配置された電極により直流500V/mm(100V)の電場を付与し、
第3のサンプルホルダーには各サンプル液滴に下方に配置された電極により直流1000V/mm(200V)の電場を付与し、
第4のサンプルホルダーには各サンプル液滴に下方に配置された電極により直流1350 V/mm(270V)の電場を付与し、結晶化の状態を観察した。
尚、実験に使用したタンパク質結晶化装置における電極板の電極間の間隔は0.2mmであり、上記括弧内に記載した電圧は実際に印加した電圧値を示している。
図2は、最終的に各サンプルの各サンプル液滴に生成された結晶数の平均値を示したグラフである。
図2の実験結果から明らかなように、電場を全く付与しない第1のサンプルに比べて電場を付与した場合に、電場強度を上げるにつれて1つの液滴中に生成する結晶数が減少することを表している。このことより、電場を付与した場合、結晶化が促進され、析出される結晶のサイズが増加することが分かる。
電場を付与しない第1のサンプルのように各サンプル液滴中に生成される結晶の数が多いと、大きな結晶に成長しないため必要な結晶が得られないが、前記条件の電場を与えると、各サンプル液滴中に生成される結晶の数が少なくなり、その分、結晶の大きさが大きくなる。
図3は、第1〜4のサンプルから一つずつピックアップした結晶に対してX線回折装置(超高輝度X線発生装置 FR-E SuperBright(リガク))を用いてX線を照射し、検出器(高速イメージングプレートX線検出器 R-AXIS VII(リガク))により検出した回折像である。その解像度を表1に示す。
【表1】
図2の実験結果によれば、電場を全く付与しない第1のサンプルに比べて電場を付与した場合に、電場強度を上げるにつれて1つの液滴中に生成する結晶数が減少しており、この傾向は、500V/mm(100V)の電場を付与した場合にも現れている。一方、図3及び表1から、X線回折により得られる結晶の解像度は、電場を付与していない第1のサンプル及び500V/mm(100V)の電場を付与した第2のサンプルにおいては共に1.54Åであるのに対して、1000V/mm(200V)の電場を付与した第3のサンプルでは1.37Åに上がり、1350 V/mm(270V)の電場を付与した第4のサンプルでは1.35Åに向上することが確認できる。
上記した実験結果により、500V/mm(100V)の電場を付与した場合には、1つの液滴中に生成される結晶数は減少するものの、X線回折により得られる結晶の解像度は向上しないが、それ以上の電場を付与した場合には、X線回折により得られる結晶の解像度が向上することが確認できた。
【0010】
上記した実施例では、本発明による結晶化方法をマイクロバッチ法に適用した例を挙げて説明しているが、本発明による結晶化方法を適用し得る結晶化の方法は本実施例に限定されることなく、任意の結晶化の方法、例えば、コンテナーレスバッチ法、バルクバッチ法又はマイクロオイルバッチ法等のバッチ法、並びにハンギングドロップ法、シッティングドロップ法又はサンドイッチドロップ法等の蒸気拡散法にも適用することができる。
図4は、蒸気拡散法におけるハンギングドロップ法に、本発明による結晶化方法を適用した例を示す概略図である。
図中符号10は容器を示し、符号11は容器10内に収容される平衡化溶液を示し、符号12はカバーガラスを示し、符号13はタンパク質結晶化のための試薬とタンパク質溶液との混合物から成るサンプル液滴を示す。
前記カバーガラス12には、サンプル液滴13に電圧を印加するための電極20が設けられており、この電極20により、サンプル液滴13に析出した結晶のX線回折の解像度を高くする電圧が印加される。
図5は、蒸気拡散法におけるシッティングドロップ法に、本発明による結晶化方法を適用した例を示す概略図である。
図中符号10は容器を示し、符号11は容器10内に収容される平衡化溶液を示し、符号12はカバーガラスを示し、符号13はタンパク質結晶化のための試薬とタンパク質溶液との混合物から成るサンプル液滴を示す。
容器10にはサンプル液滴13を載せる台座14が設けられている。この台座14は中空に形成され、その内部にサンプル液滴13に電圧を印加するための電極20が設けられている。この電極20により、サンプル液滴13に析出した結晶のX線回折の解像度を高くする電圧が印加される。
図6は、蒸気拡散法におけるサンドイッチドロップ法に本発明による結晶化方法を適用した例を示す概略図である。
図中符号10は容器を示し、符号11は容器10内に収容される平衡化溶液を示し、符号12はカバーガラスを示し、符号13はタンパク質結晶化のための試薬とタンパク質溶液との混合物から成るサンプル液滴を示す。
容器10には台座14が設けられており、サンプル液滴13は前記台座14とカバーガラス12との間に挟まれるように配置される。
前記カバーガラス12には、サンプル液滴13に電圧を印加するための電極20が設けられており、この電極20により、サンプル液滴13に析出した結晶のX線回折の解像度を高くする電圧が印加される。尚、図6の例では、カバーガラス12のみに電極20を設ける例を示しているが、例えば、カバーガラス12と台座14とに各々プラス電極及びマイナス電極を設けるように電極を配置してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】(a)及び(b)は、本発明に係る結晶化方法の一例としてのマイクロバッジ法を用いて結晶化を行う結晶化装置の概略斜視図及び概略横断面図である。
【図2】ソーマチンを用いた各サンプルの各サンプル液滴に生成された結晶数の平均値を示したグラフである。
【図3】(a)〜(d)は、0、500、1000,1350V/mmで電場付与した各サンプルから一つずつピックアップした結晶に対してX線回折装置(超高輝度X線発生装置 FR-E SuperBright(リガク))を用いてX線を照射し、検出器(高速イメージングプレートX線検出器 R-AXIS VII(リガク))により検出した回折像である。
【図4】蒸気拡散法におけるハンギングドロップ法に、本発明による結晶化方法を適用した例を示す概略図である。
【図5】蒸気拡散法におけるシッティングドロップ法に、本発明による結晶化方法を適用した例を示す概略図である。
【図6】蒸気拡散法におけるサンドイッチドロップ法に本発明による結晶化方法を適用した例を示す概略図である。
【符号の説明】
【0012】
1 基板
2 電極
3 絶縁体
4 サンプル液滴と混じりあわない溶液
5 サンプル液滴
6 電極板
10 容器
11 平衡化溶液
12 カバーガラス
13 サンプル液滴
14 台座
20 電極
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンパク質溶液に、タンパク質の結晶化に必要な試薬を添加してサンプル溶液を生成し、
該サンプル溶液を所定の環境下においてサンプル溶液内のタンパク質を結晶化させるタンパク質の結晶化方法において、
該サンプル溶液に、析出した結晶のX線回折の解像度が高くなる電圧を印加しながらタンパク質を結晶化させる
ことを特徴とするタンパク質の結晶化方法。
【請求項2】
前記析出した結晶のX線回折の解像度が高くなる電圧が、100Vより高い電圧である
ことを特徴とする請求項1に記載のタンパク質の結晶化方法。
【請求項3】
マイクロバッジ法による環境下においてタンパク質を結晶化させる
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の結晶化方法。
【請求項4】
蒸気拡散法による環境下においてタンパク質を結晶化させる
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の結晶化方法。
【請求項5】
バルクバッジ法による環境下においてタンパク質を結晶化させる
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の結晶化方法。
【請求項1】
タンパク質溶液に、タンパク質の結晶化に必要な試薬を添加してサンプル溶液を生成し、
該サンプル溶液を所定の環境下においてサンプル溶液内のタンパク質を結晶化させるタンパク質の結晶化方法において、
該サンプル溶液に、析出した結晶のX線回折の解像度が高くなる電圧を印加しながらタンパク質を結晶化させる
ことを特徴とするタンパク質の結晶化方法。
【請求項2】
前記析出した結晶のX線回折の解像度が高くなる電圧が、100Vより高い電圧である
ことを特徴とする請求項1に記載のタンパク質の結晶化方法。
【請求項3】
マイクロバッジ法による環境下においてタンパク質を結晶化させる
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の結晶化方法。
【請求項4】
蒸気拡散法による環境下においてタンパク質を結晶化させる
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の結晶化方法。
【請求項5】
バルクバッジ法による環境下においてタンパク質を結晶化させる
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の結晶化方法。
【図1】
【図2】
【図4】
【図5】
【図6】
【図3】
【図2】
【図4】
【図5】
【図6】
【図3】
【公開番号】特開2008−137961(P2008−137961A)
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−326813(P2006−326813)
【出願日】平成18年12月4日(2006.12.4)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成18年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「先進ナノバイオデバイスプロジェクトピコリットル液滴型タンパク結晶化デバイスの研究開発」に係る継続研究、産業活力再生特別処置法第30条の適用を受けるもの)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【出願人】(591086854)株式会社テクノメデイカ (50)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年12月4日(2006.12.4)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成18年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「先進ナノバイオデバイスプロジェクトピコリットル液滴型タンパク結晶化デバイスの研究開発」に係る継続研究、産業活力再生特別処置法第30条の適用を受けるもの)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【出願人】(591086854)株式会社テクノメデイカ (50)
【Fターム(参考)】
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