説明

タンパク質翻訳の制御を介する成体CNSにおける軸索再生の促進

病変成熟中枢神経系(CNS)ニューロンの生存または該ニューロンにおける軸索再生を、(a)該ニューロンをタンパク質翻訳の外因性活性化物質の治療有効量と接触させ;(b)該ニューロンの生存または該ニューロンにおける軸索再生の得られた促進を検出することにより促進する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2008年6月6日に出願され、同一の発明の名称および発明者を有する米国特許出願第61/059,568号の優先権を主張する。
【0002】
本研究は、NIHグラント番号P030−HD18655により支援されたものである。米国政府は、本出願に係る任意の特許において権利を有し得る。
【背景技術】
【0003】
本発明の分野は、タンパク質合成を活性化して病変CNS軸索の再生および成熟CNSにおける残された軸索の代償的な再成長を促進することである。
【0004】
成体哺乳動物CNS損傷後の軸索再生の不全は、主として成体CNSの2種の特性、すなわち、阻害的な外因性環境および成熟CNSニューロンの内因性再生能の低下に起因すると考えられている(1〜5)。非許容性環境についての数多くの研究により、軸索の再成長の制限に関与する多数の分子プレイヤーおよびシグナリング経路が同定された。それらの機序が軸索再生にとって明らかに重要な外因性障壁に相当するものの、それらの阻害活性を中和しても、インビボで軸索再生の制限された程度が許容されたにすぎない(6、7)。実際、許容性環境、例えば、病変部位に移植された座骨神経移植片により、損傷した成体軸索のほんの一部しか再生させることができない(5、8)。それらの結果は、阻害活性の中和が十分でなく、したがって他の機序、例えばニューロンが本来有する軸策再生能力を制御する機序が軸索再生において重要な役割を果たし得ることを示す。
【0005】
胚発生の間の軸索成長とは対照的に、成体CNSニューロンに備わっている再生能を制御する分子機序については、ほとんど知られていない(1、3〜5、9)。発生の間の軸索成長および損傷後の軸索再生を同一または異なる機序が機能させるのかどうか、ならびに発生の過程にわたる軸索成長能の減少の原因が何なのかも知られていない。成体CNSにおいて活性遮断に応答する構造的可塑性の解剖学的基礎として一過性および持続性両方の軸索発芽が実証されている(10)。代償機序としての軸索のこの再組織化の理由も、損傷した軸索を再生することができないという点で不明確である。それらの疑問に対する潜在的ヒントは、細胞成長およびサイズを制御する、進化的に保存された分子経路から得られる。あらゆる細胞型において、発生完了時の細胞の過剰増殖を防止するために特異的機序が必要であると考えられている(11)。それらの分子の多くが有糸核分裂後の成熟ニューロン内で発現されることが多いので、本発明者らは、それらの経路が成体CNSニューロンにおける再生能の低下の一因になり得るとの仮説をたてた。
【0006】
視神経損傷モデルにおいて細胞成長制御に関与する種々の経路を試験することにより、本発明者らは、成体網膜神経節細胞(RGC)において、哺乳類ラパマイシン標的タンパク質(mTOR)経路の負の調節物質であるPTEN(ホスファターゼ・テンシン・ホモログ)を阻害することで、軸索再生が顕著に促進されることを示す。さらなる研究により、成体CNSニューロンにおけるmTORシグナリングの2工程抑制:発生成熟による第1の抑制、および軸索切断により誘発されたストレス応答による第2の抑制が明らかになった。mTOR活性のそのような阻害および後続の新たなタンパク質合成能の障害は、それらが損傷した軸索を再生することができないことの一因になる。mTOR経路の別の負の調節物質である結節性硬化症複合体1(TSC1)の阻害によるこの経路の再活性化も、広範囲にわたる長距離軸策(long-distance axon)の再生に導く。本発明者らの研究は、一般的な成長制御経路がニューロンにおける軸索再生能を調節することを示し、これにより、CNS損傷、例えば脊髄損傷、卒中、外傷性脳損傷および緑内障後の軸索再生を促進する新たな方針を提供する。
【0007】
本出願の優先日後に、Nakashima et al.(J Neurosci(2008 Jul 16)28(29):7293−303)により、成体ラットにおいて脊髄損傷後の神経保護治療としてカリウムビスペルオキソ(1,10−フェナントロリン)オキソバナダート(V)を使用する小分子タンパク質チロシンホスファターゼの阻害が報告された。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明の要旨
本発明は、病変成熟中枢神経系(CNS)ニューロンの生存または該ニューロンにおける軸索再成長(再生および発芽)をインサイチューで促進するための方法および構成物を提供する。一般的な本方法は、(a)ニューロンを該ニューロンにおけるタンパク質翻訳の外因性活性化物質の治療有効量と接触させ、これにより該ニューロンの生存または該ニューロンにおける軸索再生を促進する工程;および(b)該ニューロンの生存または該ニューロンにおける軸索再生の得られた促進を検出する工程を含む。
【0009】
特定の実施形態において、タンパク質翻訳の活性化物質は:(a)mTOR経路活性化物質;(b)PTEN阻害剤;(c)TSC1/2阻害剤;(d)Akt活性化物質;(e)Ras/MEK経路活性化物質;または(f)PRAS40阻害剤である。
【0010】
特定の実施形態において、タンパク質翻訳の活性化物質は、PTEN阻害剤、例えば、(a)カリウムビスペルオキソ(ビピリジン)オキソバナダート(V)(bpV(bipy));(b)ジカリウムビスペルオキソ(5−ヒドロキシピリジン−2−カルボキシル)オキソバナダート(V)(bpV(HOpic));(c)カリウムビスペルオキソ(1,10−フェナントロリン)オキソバナダート(V)、(bpV(phen));または(d)ジカリウムビスペルオキソ(ピコリナト)オキソバナダート(V)、(bpV(pic))である。
【0011】
種々の実施形態において、病変は、外傷性損傷、外傷性脳損傷、卒中、急性脊髄損傷またはCNS変性に起因する。
【0012】
具体的な実施形態において、病変軸索は、視神経内に存在し、または感覚ニューロンのCNS軸索であり、または脊髄内に存在する。
【0013】
具体的な実施形態において、病変軸索は、患者の脊髄内に存在し、阻害剤を該患者に鞘内投与する。
【0014】
種々の実施形態において、軸索は、感覚ニューロンのCNS軸索であり、または小脳顆粒ニューロンのCNS軸索である。
【0015】
検出工程は、軸索再生の間接または直接アッセイにより行うことができる。
【0016】
種々の実施形態において、阻害剤を静脈内投与、鞘内投与、経眼投与またはニューロンにおいて局所投与する。
【0017】
特定の実施形態において、一般的方法は、ニューロンが病変していること、ならびに軸索切断により誘導されたストレスおよび/または病因に誘導されたタンパク質翻訳の下方調節を有することを決定する前工程をさらに含む。
【0018】
特定の実施形態において、タンパク質翻訳の活性化物質はPTEN阻害剤であり、病変軸索は視神経内に存在し、該阻害剤を経眼投与する。
【0019】
別の態様において、本発明は、主題方法に具体的に適合された構成物、例えば、軸索切断により誘導されたストレスおよび/または病理学的に誘導されたタンパク質翻訳の下方調節を有すると認められた病変成熟中枢神経系(CNS)ニューロンの生存または該ニューロンにおける軸索再生をインサイチューで促進するためのデバイスであって、該ニューロンにおけるタンパク質翻訳の活性化物質の治療有効量の事前に計測された含有量が装填され、主題方法を実施するために具体的に適合されたリザーバーを含むデバイスを提供する。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の具体的実施形態の詳細な説明
【0021】
標的ニューロンは病変しており、軸索切断により誘導されたストレスおよび/または病因により誘導されたタンパク質翻訳の下方調節を有し、これらは、直接的、間接的に検出し、または推定することができる。特定の例において、病変軸索は、脊髄神経節(DRG)感覚ニューロン、小脳顆粒ニューロンまたは眼の神経のCNS軸索である。成熟(すなわち、終末分化した、非胚性の)ニューロンは、インビトロで、または対象もしくは患者内にインサイチューで存在し得る。具体的な実施形態において、対象は、哺乳動物(例えば、ヒト、ペット、家畜、神経変性またはCNS損傷のためのげっ歯類または霊長類動物モデルなど)である。
【0022】
病変は、外傷性損傷、視神経損傷もしくは障害、脳損傷、卒中、慢性神経変性、例えば、神経毒性により惹起されるもの、または神経疾患もしくは障害(例えば、ハンチントン病、パーキンソン病、アルツハイマー病、多系統萎縮症(MSA)など)に起因し得る。
【0023】
一実施形態において、活性化物質は、眼損傷または障害(例えば、中毒性弱視、視神経萎縮症、高次視覚経路の病変、眼球運動の障害、第III脳神経麻痺、第IV脳神経麻痺、第VI脳神経麻痺、核間性眼筋麻痺、注視麻痺、フリーラジカルからの眼損傷など)、または視神経症(例えば、虚血性視神経症、中毒性視神経症、眼性虚血症候群、視神経炎症、視神経の感染、視神経炎、視神経症、鬱血乳頭、乳頭炎、球後神経炎、網膜振盪症、緑内障、黄斑変性、網膜色素変性、網膜剥離、網膜裂孔または網膜円孔、糖尿病性網膜症、医原性網膜症、視神経ドルーゼンなど)を治療するために使用される。
【0024】
特定の実施形態において、病変は、急性または外傷性損傷、例えば、挫傷、裂傷、急性脊髄損傷などに起因する。具体的な実施形態において、病変CNS軸索は、CNS白質内に、特に外傷性損傷を受けた白質内に存在する。ある実施形態において、病変の形成から96、72、48、24または12時間以内に接触工程を開始する。種々の実施形態において、病変の形成後5、7、14、30または60日を超えて接触工程を開始し、および/または治療を継続する。
【0025】
活性化物質は、抗炎症剤または抗瘢痕化剤、成長因子または栄養因子などの使用のような他の治療と組み合わせて、他の治療前に、または他の治療に続いて損傷ニューロンに投与することができる。具体的な実施形態において、病変は急性脊髄損傷に起因し、本方法は、ニューロンを、脊髄の炎症を低減するのに十分なメチルプレドニゾロンと接触させることをさらに含む。種々の他の実施形態において、活性化物質は、栄養因子および/または成長因子、例えば、NT−3(Piantino et al,Exp Neurol.2006 Oct;201(2):359−67)、イノシン(Chen et al,Proc Natl Acad Sci USA.(2002)99:9031−6;Benowitzの米国特許第6,551,612号;Benowitzの米国特許第6,440,455号;およびBenowitzの米国特許出願公開第20050277614号)、オンコモジュリン(Yin et al,Nat Neurosci.(2006)9:843−52.;Benowitzの米国特許出願公開第20050054558号;Benowitzの米国特許出願公開第20050059594号;およびBenowitzの米国特許第6,855,690号)などと組み合わせて投与する。
【0026】
本発明者らは、本発明の方法および構成物に対する適合性を、広範囲にわたるタンパク質合成活性化物質において詳細に記載しているが、本明細書に記載および例示されているアッセイを用いることによって、好適な更なる活性化物質を容易に同定することができる。一般に、活性化物質は、タンパク質合成の1種以上の正の調節物質(例えば、RheB1、Akt、Rasなど)の有効量を増加させ、またはタンパク質合成の1種以上の負の調節物質(例えば、PTEN、TSC1、TSC2、PRAS40など)の有効量を阻害する。正の調節物質の増加は、単純に正の調節物質またはそのより活性な変種を活性化物質として利用することにより行うことができる。負の調節物質の阻害は、転写のレベルにおいて(例えば、特異的siRNAを使用)、または特異的な薬理学的阻害剤で負の調節物質を狙うことにより行うことができる。例示的な好適な活性化物質は:mTOR経路活性化物質、例えば活性RheB1;PTEN阻害剤、例えば確立されているバナジウム系PTEN阻害剤またはsiRNA;TSC1/2阻害剤、例えばTSC2またはTSC1用のsiRNA;Akt活性化物質、例えば活性Aktおよびメナジオン;Ras/MEK経路活性化物質、例えば活性Ras;ならびにPRAS40阻害剤、例えばsiRNAを含む。更なる好適なタンパク質合成の活性化物質は、本明細書に開示のアッセイおよびプロトコルを使用して容易に同定され、確認され、特性決定される。
【0027】
特定の実施形態において、活性化物質は、PTEN阻害剤、特にバナジウム系PTEN阻害剤、例えばCalbiochem,EMD/Merckから市販されているものであり、(a)カリウムビスペルオキソ(ビピリジン)オキソバナダート(V)(bpV(bipy));(b)ジカリウムビスペルオキソ(5−ヒドロキシピリジン−2−カルボキシル)オキソバナダート(V)(bpV(HOpic));(c)カリウムビスペルオキソ(1,10−フェナントロリン)オキソバナダート(V)、(bpV(phen));および(d)ジカリウムビスペルオキソ(ピコリナト)オキソバナダート(V)、(bpV(pic))を含む。代替的な好適なPTEN阻害剤は、WO2005/097119に記載の式I−XIVのPTEN阻害化合物;US20070292532に記載の、およびRosivatz et al.2006(ACS Chem.Biol.1(12)780−790)によるバナジウム系PTEN阻害剤;Nigorikawa et al.(Mol Pharmacol 70:1143−1149,2006)により記載の1,4−ナフトキノン誘導体であるシコニン;ならびにYoshikawa et al.,Biochim Biophys Acta.2007 Apr;1770(4):687−93により記載のメナジオン(ビタミンK3)を含む。(代替的な好適な阻害剤の同定および確認のための)一般的なスクリーニングおよびIC50決定のためのPTEN阻害アッセイは、当分野、例えばWO2005/097119において公知であり;下記の実施例2も参照のこと。
【0028】
好適なPTEN阻害剤は、WO2007/0203098にも記載されており、該文献に開示の引用されている全ての属、下位属および種を含み、該文献に記載の通り、下記のものを含む:
【0029】
I)アスコルビン酸系PTEN阻害剤:
【化1】

[式中、
R1は、H、C1−C3アルキル、アリール、アルキルアリール、(CHCOXR3、(CHXCOR3、(CHCOR3、(CHSOR3、(CH)nXR3、(CH)nSOX−R3、(CHXSOR3、(CHNR3R4または(CHCO(CHXR3を表し;
R2は、H、C1−C3アルキル、アリール、アルキルアリール、(CHCOX−R3、(CHXCOR3、(CHCOR3、(CHSOR3、(CHXR3、(CH2)nSOX−R3、(CHXSOR3、(CHNR3R4または(CHCO(CHXR3を表し;
R3、R5およびR6は、独立して、H、C1−C4アルキル、アリールまたはアルキルアリールであり;
R4は、H、C1−C4アルキル、アリール、アルキルアリール、NHSOR5、NHCOR5またはNR5R6を表し;
mは、0から3であり;
nは、0から3であり;
Xは、OまたはNR4を表す]。
式IおよびIaの化合物は、R1またはR2のいずれかにおいてエステル結合を有することができる。
【0030】
II)1,2,3−トリアゾールPTEN阻害剤(例えば、WO02/32896に記載):
【化2】

[式中、
R1は、H、C1−C4アルキル、アリール、アルキルアリール、COXR2、COR2、SOXR2、SOR2を表し;
R2は、H、C1−C4アルキル、アリール、アルキルアリール、(CHCOXR4、(CHXCOR4、(CHXR4、(CHSOXR4、(CHXSOR4、NHSOR4、NHCOR4、NHCOR4、NHCOCOR4またはNR4R5を表し;
R3は、H、C1−C4アルキル、アリール、アルキルアリール、(CHCOXR4、(CHXCOR4、(CHXR4、(CHSOXR4、(CHXSOR4、NHSOR4、NHCOR4、NHCOR4、NHCOCOR4またはNR4R5を表し;
R4は、H、C1−C4アルキル、アリールまたはアルキルアリールを表し;
R5は、H、C1−C4アルキル、アリール、アルキルアリール、NHSOR6、NHCOR6、NHCOR6、NR6R7またはN=C(R6R7)を表し;
R6は、H、C1−C4アルキル、アリールまたはアルキルアリールを表し;
R7は、H、C1−C4アルキル、アリールまたはアルキルアリールを表し;
nは、0〜3であり;
Xは、OまたはNR5を表す]。
【0031】
式IIの阻害剤は、以下のものを含む:
【化3】

[式中、
R8は、(CHXR4または(CHSR4を表し;
R9は、NHNHSOアリール、NHNHCO−アリールまたはNHN=C(R6R7)を表し;
R10は、H、C1−C4アルキル、アリール、アルキルアリール、SOR6、COR6またはCOR6を表す]。
【0032】
III)ジアミドPTEN阻害剤
【化4】

[式中、
Aは、5または6員環であり;
R1は、H、C1−C3アルキル、アリール、アルキルアリール、(CHCOXR3、(CHXCOR3、(CHCOR3、(CHSOR3、(CHXR3、(CHSOXR3、(CHXSOR3、NHSOR3、NHCOR3、NHCOR3、NHCOR3、NHCOCOR3、NR3R4または(CHCO(CHXR3を表し;
R2は、H、C1−C3アルキル、アリール、アルキルアリール、(CHCOXR3、(CHXCOR3、(CHCOR3、(CHSOR3、(CH)nXR3、(CH)nSOXR3、(CHXSOR3;NHSOR3、NHCOR3、NHCOR3、NHCOR3、NHCOCOR3、NR3R4または(CH2)nCO(CHXR3を表し;
R3は、H、C1−C4アルキル、アリールまたはアルキルアリールを表し;
R4は、H、C1−C4アルキル、アリール、アルキルアリール、NHSOR5、NHCOR5またはNR5R6を表し;
R5は、H、C1−C4アルキル、アリールまたはアルキルアリールを表し;
R6は、H、C1−C4アルキル、アリールまたはアルキルアリールを表し;
nは、0〜3であり;
mは、0〜3であり;
Xは、OまたはNR4を表す]。
【0033】
環Aは、飽和、不飽和または芳香族であってよく、NおよびOを場合により含むことができる。式IIIの好ましい化合物は、環Aが複素環系、特にビシナル置換されているピリジン、ピリミジン、フラザン、イミダゾール、ピラゾール、フラン、チアゾールおよびオキサゾール、ならびにそれらの飽和類縁体から選択される化合物であり;式IIIの他の好ましい阻害剤は、環Aが全ての炭素芳香族環、例えば、置換および非置換のフェニル、ならびにそれらの飽和類似体を含む阻害剤である。
【0034】
式IIIの阻害剤は、以下のものから選択される環Aを含むことができる:
【化5】

【0035】
IIIA、IIIB、IIIC、IIID、IIIEから選択される環Aを含む式IIIの阻害剤は、以下のものをさらに含むことができる:
R1は、H、C1−C3アルキル、アリール、アルキルアリール、(CHCOR3または(CHSOR3を表し;
R3は、H、C1−C4アルキル、アリールまたはアルキルアリールを表し;
R7は、H、C1−C4アルキル、ハロゲン、NO、CF、アリール、カルボキシラート、アリールオキシ、アミノ、アルキルアミノ、シアノ、イソシアナート、アルコキシカルボニルまたはハロアルキルを表し;
R8は、H、C1−C4アルキル、ハロゲン、NO、CF、アリール、カルボキシラート、アリールオキシ、アミノ、アルキルアミノ、シアノ、イソシアナート、アルコキシカルボニルまたはハロアルキルを表し;
mは、1、2、3である。
【0036】
特定の実施形態において、アルキルアリールは、式IIIFまたはIIIGから選択される:
【化6】

【0037】
式IIIの阻害剤は、以下の式のものであってもよい:
【化7】

[式中、
Aは、5または6員環であり;
R9は、H、C1−C3アルキル、アリール、アルキルアリール、(CHCOXR3、(CHXCOR3、(CHCOR3、CH(CHSOR3、CH(CHXR3、CH(CHSOXR3またはCH(CHXSOR3を表し;
R10は、H、C1−C3アルキル、アリール、アルキルアリール、(CHCOXR3、(CHXCOR3、(CHCOR3、CH(CHSOR3、CH(CH)nXR3、CH(CHSOXR3またはCH(CHXSOR3を表し;
R3、Xおよびnは、式IIIについて記載されている通りである]。
【0038】
阻害剤IIIHおよびIIIJの環Aは、飽和、不飽和または芳香族であってよく、CおよびNにより場合により置換されていてよい。
【化8】

【0039】
IV)アリールイミダゾールカルボニルPTEN阻害剤:
【化9】

[式中、
R1は、H、C1−C4アルキル、アリール、アルキルアリール、(CH)nCOXR3、(CHXCOR3、(CHXR3、(CHCOR3、(CHSOXR3または(CHXSOR3を表し;
R2は、H、C1−C4アルキル、アリールまたはアルキルアリールを表し;
R3は、H、C1−C3アルキル、アリールまたはアルキルアリールを表し;
R4は、H、C1−C4アルキル、アリール、アルキルアリール、NHSOR5、NHCOR5、N=C(R5R6)またはNR5R6を表し;
R5は、H、C1−C4アルキル、アリールまたはアルキルアリールを表し;
R6は、H、C1−C4アルキル、アリールまたはアルキルアリールを表し;
mは、1〜3であり;
nは、0〜3であり;
Xは、O、NR4を表す]。
【0040】
式IVの化合物は、以下の式のものであってよい:
【化10】

[式中、R7は、XR4を表す]。
【0041】
式IVの化合物は、以下の式のものであってもよい:
【化11】

[式中、
R8は、H、C1−C4アルキル、アリール、アルキルアリール、(CHCOX−R3、(CHXCOR3、(CH2)nX−R3、(CHCOR3、(CHSOXR3または(CHXSOR3を表し;
R9は、H、C1−C4アルキル、アリール、アルキルアリールを表す]。
【0042】
式IVBの化合物は、以下のものから選択されてもよい:
【化12】

【0043】
V)ポリアミドPTEN阻害剤
【化13】


【0044】
VI)市販のPTEN阻害剤
1.デルタメトリン;(S)−a−シアノ−3フェノキシベンジル(1R)−シス−3−(2,2ジブロモビニル)−2,2−ジメチルシクロプロパンカルボキシラート
2.アレンドロン酸ナトリウム三水和物
3.N−(9,10−ジオキソ9,10−ジヒドロフェナントレン−2−イル)−2,2−ジメチルプロピオンアミド
4.5−ベンジル−3フリルメチル(1R,S)−シス,トランス−クリサンテマート
5.スラミンナトリウム塩;8,8’−[カルボニルビス[イミノ−3,1フェニレンカルボニルイミノ(4−メチル−3,1−フェニレン)カルボニルイミノ]]ビスナトリウム塩、ヘキサナトリウム塩
6.4−メトキシフェナシルブロミド
7.1,4−ジメチルエンドタール;1,4−ジメチル−7−オキサビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2,3−ジカルボン酸
8.カンタリド酸;2,3−ジメチル−7−オキサビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2,3ジカルボン酸
9.スチボグルコン酸ナトリウム;グルコン酸アンチモンナトリウム
10.3,4−デホスタチン、エチル−
11.フェンバレラート;a−シアノ−3−フェノキシベンジル−a(4−クロロフェニル)イソバレラート
12.α−ナフチルリン酸モノナトリウム塩
13.β−グリセロリン酸ジナトリウム塩五水和物
14.エンドタール;7−オキサビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2,3ジカルボン酸
15.シペルメトリン;(R,S)−α−シアノ−3−フェノキシベンジル−3(2,2−ジクロロビニル)−2,2−ジメチルシクロプロパンカルボキシラート;(1R)−(R)シアノ(3−フェノキシフェニル)メチル3−(2,2−ジクロロビニル)−2,2ジメチルシクロプロパンカルボキシラート。
【0045】
VII)1,10−フェナントロリン−5,6−ジオンPTEN阻害剤
【化14】

[式中、
R1は、0、C1−C4アルキル、(CHCOXR2、(CHXCOR2、(CHXR2、(CHCOR2、(CHSOXR2、(CHXSOR2または(CH)nSOR2を表し;
R2は、H、C1−C4アルキル、アリール、アルキルアリール、NHSOR4、NHCOR4、NHCOR4、NHCOCOR4またはNR4R5を表し;
R3は、H、C1−C4アルキル、アリール、アルキルアリール、NHSOR4、NHCOR4、NHCOR4、NHCOCOR4またはNR4R5を表し;
R4は、H、C1−C4アルキル、アリールまたはアルキルアリールを表し;
R5は、H、C1−C4アルキル、アリールまたはアルキルアリールを表し;
R6は、各出現時において、水素、ハロゲン、NO、NR4R10、C1−C4アルキル、NH(CHCO(CHXR2、(CHCOXR2、(CHXCOR2、(CHXR2、(CH)pCOR2、(CHSOXR2または(CHXSOR2から独立して選択され;
R7は、H、C1−C4アルキル、アリール、アルキルアリール、SOR4、NHSOR4、NHCOR4またはNR8R9を表し;
R8は、H、C1−C4アルキル、アリール、アルキルアリール、(CHCOXR2または(CHXR2を独立して表し;
R9は、H、C1−C4アルキル、アリール、アルキルアリール、(CH)nCOXR2、(CHXR2、(CHCOXR2、(CH)pXCOR2、(CH)p〜XR2、(CH)pCOR2、(CH)pSOXR2、(CHXSORまたは(CH)pSOR2を独立して表し;
R10は、H、C1−C4アルキル R7=H、C1−C4アルキル、アリール、アルキルアリール、SOR4、NHSOR4、NHCOR4またはNR8R9を表し;
mは、0または1を独立して表し;
nは、1〜5であり;
pは、0〜5であり;
qは、0〜5であり;
Xは、OまたはNR3を表し;
Zは、OまたはNR7である]。
式VIIの化合物の環中の窒素は、中性であってよい。この窒素は、少なくとも1個のmが1である場合においてR1基に結合している場合、荷電していてもよい(第四級塩)。
【0046】
阻害剤は、以下のものから選択されてもよい:
【化15】


【0047】
VIII)置換フェナントレン−9−10−ジオンPTEN阻害剤
【化16】

[式中、
R1は、H、NO、NR5R6、ハロゲン、シアノ、アルキル、アルキルアリール、カルボニル、カルボキシ、COR2またはCONR5R6を表し;
R2およびR3は、H、C1−C4アルキル、アリールまたはアルキルアリールを独立して表し;
R4は、H、C1−C4アルキル、アリール、アルキルアリール、SO−R2、NHSOR2、NHCOR2、NHCOR2、N=CR2R3またはNR5R6を表し;
R5は、H、C1−C4アルキル、アリール、アルキルアリール、(CHCOXR2、(CHXR2、(CHCO(CHXR2、SOR2、(CH2)nCO(CH2)nCOXR2または(CHCOR2を表し;
R6は、H、C1−C4アルキル、アリール、アルキルアリール、(CHCOX−R2、(CHXR2、(CHCO(CHXR2、SOR2、(CHCO(CHCOXR2または(CHCOR2を表し;
mは、0〜3であり;
nは、0〜3であり;
Xは、CR2R3、O、NR4を表す]。
【0048】
式VIIIの阻害剤は、以下の式のものであってよい:
【化17】

【0049】
IX)イサチンPTEN阻害剤
【化18】

[式中、
R1は、H、NO、NR5R6、ハロゲン、シアノ、アルキル、アルキルアリール、カルボニル、カルボキシ、COR、CONR5R6、SOR2またはSONR2R3を表し;
R2およびR3は、H、C1−C4アルキル、アリールまたはアルキルアリールを独立して表し;
R4は、H、C1−C4アルキル、アリール、アルキルアリール、SO−R2、NHSOR2、NHCOR2、NHCOR2、N=CR2R3またはNR5R6を表し;
R5は、H、C1−C4アルキル、アリール、アルキルアリール、(CHCOX−R、(CHX−R、(CHCO(CHXR2、SOR2、(CHCO(CHCOXR2または(CHCOR2を表し;
R6は、H、C1−C4アルキル、アリール、アルキルアリール、(CHCOX−R2、(CHX−R2(CHCO(CH)=XR2、SOR2、(CHCO(CHCOXR2または(CHCOR2を表し;
mは、0〜3であり;
nは、0〜3であり;
Xは、CR2R3、O、NR4を表す]。
【0050】
式IXの阻害剤は、以下のものから選択されてよい:
【化19】

【0051】
X)置換フェナントレン−9−オールPTEN阻害剤
【化20】

[式中、
R1は、H、NO2、NR5R6、ハロゲン、シアノ、アルキル、アルキルアリール、カルボニル、カルボキシ、COR2またはCONR5R6を表し;
R2およびR3は、H、C1−C4アルキル、アリールまたはアルキルアリールを独立して表し;
R4は、H、C1−C4アルキル、アリール、アルキルアリール、SO−R2、NHSOR2、NHCOR2、NHCOR2、N=CR2R3またはNR5R6を表し;
R5は、H、C1−C4アルキル、アリール、アルキルアリール、(CHCOXR2、(CHX−R2、(CHCO(CHXR2、SOR2、(CHCO(CHCOXR2または(CHCOR2を表し;
ROは、H、C1−C4アルキル、アリール、アルキルアリール、(CHCOX−R2、CCHX−R2、(CHCO(CHXR2、SOR2、(CHCO(CHCOXR2、(CHCOR2を表し;
mは、0〜3であり;
nは、0〜3であり;
Xは、CR2R3、O、NR4を表す]。
【0052】
【化21】

【0053】
XI)置換ナフタレン−1,2−ジオンPTEN阻害剤
【化22】

[式中、
R1は、H、NO、NR3R4、ハロゲン、シアノ、アルキル、アルキルアリール、カルボニル、カルボキシ、(CHCOXR3、COR2、SO−R2、SON−R3R4、NHSO−R3、NHCOR3、NHCOR3、NHCOCOR2、NR3R4またはCONR3R4から独立して選択され;
R2は、H、C1−C4アルキル、アリールまたはアルキルアリールを表し;
R3およびR4は、H、C1−C4アルキル、アリール、アルキルアリール、(CHCOXR2、(CHCO(CHXR2または(CHOR2を独立して表し;
mは、0〜3であり;
nは、0〜3であり;
Xは、O、NR2を表す]。
【0054】
式XIの阻害剤は、以下のものから選択されてよい:
【化23】

【0055】
XII)置換ナフタレン−1,4−ジオンPTEN阻害剤
【化24】

[式中、
R1は、H、NO、NR3R4、ハロゲン、シアノ、アルキル、アルキルアリール、カルボニル、カルボキシ、(CH)nCOXR3、COR2、SOR2、SON−R3R4、NHSO−R3、NHCOR3、NHCOR3、NHCOCOR2、NR3R4またはCON−R3R4を表し;
R2は、H、C1−C4アルキル、アリールまたはアルキルアリールを表し;
R3およびR4は、H、C1−C4アルキル、アリール、アルキルアリール、(CHCOXR2、(CH)nCO(CHXR2または(CHOR2を独立して表し;
mは、0〜3であり;
nは、0〜3であり;
Xは、O、NR2を表す]。
【0056】
XIII)バナダート系PTEN阻害剤
1.カリウムビスペルオキソ(ビピリジン)オキソバナダート(V)
2.ジカリウムビスペルオキソ(5−ヒドロキシピリジン−2カルボキシル)オキソバナダート(V)
3.ジカリウムビスペルオキソ(ピコリナト)オキソバナダート(V)
4.モノペルオキソ(ピコリナト)オキソバナダート(V)
5.カリウムビスペルオキソ(1,10−フェナントロリン)オキソバナダート(V)
6.ビス(N,N−ジメチルヒドロキサミド)ヒドロオキソオキソバナダート
【0057】
XIV)T1ループ結合エレメント含有PTEN阻害剤
このPTEN阻害剤は、顕著にアニオン性の形態(例えば、分子種の少なくとも5%がpH7.4においてアニオンに荷電している)で生理学的pHにおいて存在する基を含有することができる。そのようなアニオン性基は、PTENにそのペプチド構造のT1ループにおいて溶解状態で結合することができる。
【0058】
そのような基の代表例は、以下のものを含む:
【化25】

[式中、Rは、H、OH、O−アルキル、アルキル、SH、S−アルキル、NH2、NH−アルキル、N−(アルキル)2から独立して選択され、ここで、アルキルは低級のC1−C4アルキル部分である。点線は、上記の式IからXIIIに記載の化合物の式への連結を表す。それらの基は、標準的分子ドッキング手順によりT1ループ空間を満たすそれらの能力についてインシリコでさらに評価することができる。そのようなT1ループ結合基は、式I−XIIIの化合物中に取り込むことができる。それらの基の取り込みは、PTENの阻害に対する分子の選択性を付与することができる。XIVa−XIVd基の調製は、文献において十分に確立されている。式XIVeの化合物は、Wilson et al.,Bioorganic&Medicinal Chemistry Letters,vol6,No.9,pp1043−1046,1996に開示の方法により調製することができる。式I−XIII中へのそれらの基の取り込みは、当業者により容易に実施可能な標準的合成方法による。適切な出発材料を簡単に利用することによる、そのような取り込みの例は、上記基を取り込むもの、例えば:
【化26】

への7〜9の変換により説明される。
【0059】
活性化物質は、好適な薬物送達法および軸索再生の促進に十分な治療プロトコルを使用してニューロンと接触させる。インビトロ法について、活性化物質は、通常、ナノモルまたはマイクロモル濃度において培養培地に添加する。インサイチュー適用について、活性化物質は、経口的に、静脈内(i.v.)ボーラスにより、静脈内注入により、皮下に、筋肉内に、経眼的に(眼内、眼周囲、球後、硝子体内、結膜下、局所に、テノン嚢下投与によるものなど)、頭蓋内、腹腔内、脳室内、鞘内、硬膜外などに投与することができる。
【0060】
意図される送達経路に応じて、組成物を1種以上の剤形(例えば、液体、軟膏剤、液剤、懸濁液剤、乳剤、錠剤、カプセル剤、カプレット、トローチ剤、散剤、顆粒剤、カシェ剤、洗浄剤、座剤、クリーム剤、ミスト、点眼剤、ゲル剤、吸入剤、貼付剤、植込剤、注射剤、注入剤など)で投与することができる。それらの剤形は、結合剤、溶剤、増量剤、可塑剤などを含む種々の他の成分を含むことができる。
【0061】
具体的な実施形態において、活性化物質は、該活性化物質を収容し、ニューロンのCNS軸索への送達に具体的に適合された植込デバイスを使用してニューロンと接触させる。デバイスの例は、固体または半固体デバイス、例えば放出制御性の生分解性マトリックス、繊維、ポンプ、ステント、吸着性ゼラチン(例えば、Gelfoam)などを含む。デバイスには、軸索の再生を促進するのに十分な活性化物質の事前に計測された別々の収容量を装填することができる。特定の実施形態において、デバイスは、好ましくは少なくとも2、5または10日間の、ナノモルまたはマイクロモル濃度における活性化物質とのニューロンの連続的な接触を提供する。
【0062】
本発明の方法は、典型的には、軸索の得られた再生を検出するさらなる工程を含む。インビトロ適用について、軸索再生は、軸索再生をアッセイするための定型的に使用される任意の方法、例えば神経突起伸長アッセイにより検出することができる。インサイチュー適用について、軸索再生は、画像化法、例えばMRIを使用して直接的に、または間接的もしくは推論的に、例えば標的神経機能の改善を示す神経学的検査により検出することができる。検出工程は、治療の開始後の任意の時点において、例えば、治療の開始から少なくとも1日後、1週間後、1ヵ月後、3ヵ月後、6ヵ月後などに行うことができる。ある実施形態において、検出工程は、最初の神経学的検査および最初の検査から少なくとも1日後、1週間後または1ヵ月後に実施される後続の神経学的検査を含む。最初の検査と比較して、後続の検査において神経機能が改善されていれば、得られた軸索再生を示す。使用される特異的検出および/または検査方法は、通常、評価されている軸索病変の特定のタイプ(すなわち、外傷、神経変性など)に対する医療の普及している標準のものに基づく。
【0063】
本発明はまた、活性化物質を溶出し、もしくは活性化物質が含浸されているCNS植込固体または半固体デバイスを提供する。CNS植込デバイスの例は、ポリマーマイクロスフェア(例えば、Benny et al.,Clin Cancer Res.(2005)11:768−76を参照のこと)またはオブラート(例えば、Tan et al.,J Pharm Sci.(2003)4:773−89を参照のこと)、脊髄損傷後の組織再生において使用される生合成植込剤(Novikova et al.,Curr Opin Neurol.(2003)6:711−5により総説)、生分解性マトリックス(例えば、Dumens et al.,Neuroscience(2004)125:591−604を参照のこと)、生分解性繊維(例えば、米国特許第6,596,296号を参照のこと)、浸透圧ポンプ、ステント、吸着性ゼラチン(例えば、Doudet et al.,Exp Neurol.(2004)189:361−8を参照のこと)などを含む。好ましいデバイスは、CNS植込のため、特別に作製され、適合され、設計され、または指定される。植込デバイスは、神経再生を促進または容易にするために使用される1種以上の追加の薬剤を収容することができる。例えば、一実施形態において、急性脊髄損傷の治療のために使用される植込デバイスは、活性化物質およびメチルプレドニゾロンまたは他の抗炎症剤を収容する。別の実施形態において、植込デバイスは、活性化物質、ならびに神経細胞の生存、成長および/もしくは分化を促進する神経成長因子、栄養因子またはホルモン、例えば、脳由来神経栄養因子(BDNF)、毛様体神経栄養因子(CNTF)、神経成長因子(NGF)、イノシン、オンコモジュリン、NT−3などを収容する。
【0064】
実施例1
タンパク質翻訳の促進による成熟CNSにおける軸索再生の促進
【0065】
個々の細胞成長制御遺伝子の生殖細胞系列ノックアウトは、マウスにおいて胚性致死をもたらし、または生存能が低下するので、それらの動物の成体軸索再生試験の有用性を制限する。この問題を避けるため、本発明者らは、成体RGCにおける特異的遺伝子を条件付きで欠失させるためにCreリコンビナーゼを発現させるウイルスによる方針を利用した。RGCにおけるCreの有効な発現を実証するため、本発明者らは、Creを発現するアデノ随伴ウイルス(AAV−Cre)を、PLAP((ヒト胎盤アルカリホスファターゼ)活性がCreの発現に依存するレポーターマウス(Rosa−STOP−PLAP)において眼の硝子体内に注射した。本発明者らは、PLAP発現がRGCの90%超において誘導されることを見出し、このことは、AAV−Creが成体マウスにおけるRGC感染に高度に有効であることを示した。視神経離断の完全性は、病変後に逆行性および順行性トレーサーの両方が網膜または上丘(SC)にそれぞれ到達することができないという観察により確認した。水晶体損傷およびそれに続くマクロファージの活性化がインビボで軸索再生を促進すると報告されているので(9)、注射に使用されるマイクロピペットを水晶体に接触しないように傾けた。本発明者らは、この方法が、抗CD68抗体染色により示される通り、硝子体内AAV注射後に有意なマクロファージ/ミクログリアの活性化をもたらさないことを確認した。
【0066】
成体RGCにおける軸索再生に対する成長制御分子の条件付き欠失の効果を試験するため、本発明者らは、AAV−Creを、Rbf/f(12)、P53f/f(12)、Smad4f/f(13)、Dicerf/f(14)、LKB1f/f(15)およびPTENf/f(16)を含む種々の成体floxedマウスの硝子体内に注射した。RGCにおける個々の遺伝子の欠失は、インサイチューハイブリダイゼーション実験により確認した。したがって、標準的な視神経挫滅アッセイ(9、17)をAAV注射から2週間後に実施した。軸索再生は、病変部位にわたる視神経切片において順行性トレーサーであるコレラトキシンB(CTB)により標識された軸索線維を検査することによりアッセイした。野生型マウスにおける軸索切断されたRGCの約80%が損傷後2週間以内に細胞死を受けるので(18);神経生存も、抗TUJ1抗体(RGCのマーカー)による網膜の全組織標本染色により検査した。
【0067】
本発明者らは、成長促進経路の負の調節物質の阻害がニューロン生存および/または軸索再生を促進することを見出した。PTEN阻害は、神経生存および軸索再生の両方に対して最も劇的な効果を有した。AAV−Creが注射された全てのPTENf/f条件突然変異体においてRGCはRGC生存の有意な増加を示したが、対照AAV−GFPが注射されたPTENf/f条件突然変異体においては示さなかった。さらに、損傷から14日後に顕著な長距離軸索再生が観察された。本発明者らは、PTENf/fマウスの第2の組におけるAAV−Cre実験、および対照としてのAAV−GFP注射を繰り返し、同様の結果が観察された。それらのデータは、PTENの阻害が損傷した成体CNSの再生の向上に十分であることを示す。定量的には、対照動物の約20%と比較して、PTEN欠失RGCの推定45%が損傷2週間後に生存した。損傷から2週間後に生存するRGCのうち、約8〜10%がそれらの病変軸索を病変中心に対して最大0.5mm遠位まで再生する。本発明者らの知る限り、この再生は、損傷した成体哺乳動物の視神経におけるそのような長距離再生の最初の記載である。重要なことに、それらの再生線維は、経時的に視神経に沿って突起し続けた。損傷から4週間後、いくつかの再生線維は視交叉の区域に拡張した。試験された他のマウス系統の中で、p53欠失RGCは、それらのマウスにおいてニューロンの生存能力の有意な増加を示した(損傷したRGCの約54%が生存した)が、それらのマウスにおける軸索再生の証拠は存在しなかった。P53およびPTEN欠失の両方が細胞生存を向上させた一方、PTEN欠失のみが軸索再生を促進したので、それらのデータは、ニューロン生存の誘導は軸索再成長(19)を誘発するのに十分でない場合があることを示す。本発明者らの結果は、PTEN阻害が内因性再生機序に対して作用して損傷後の成体CNSの成長を促進することを示す。
【0068】
本発明者らは、PTENが阻害されたCNS軸索が損傷後に軸索伸長を迅速に再開し得ると仮定した。したがって、本発明者らは、視神経挫滅直後に硝子体内CTB注射を実施して軸索を損傷後早期の時点において追跡した。病変部位において、コンドロイチン硫酸プロテオグリカン(CSPG)発現の上方調節により示される通り、挫滅から1から3日後に明白なグリア応答が起きた。これまでの研究(20)と一致して、GFAP陽性星状膠細胞は病変部位から主として除外され、CSPGシグナルは損傷から7日後に低レベルに戻った。病変から1日後、損傷した視神経線維は、対照およびAAV−Creが注射されたPTENf/fマウスの両方において挫滅部位の近接末端において終結する。しかしながら、損傷から3日後、PTEN欠損RGCからの軸索発芽が始まってCSPG富化病変部位中にマクロファージと一緒に移行し、損傷から7日後にいくつかの線維を病変部位上に見ることができた。対照的に、それらの段階において対照動物において最小の軸索発芽が見られた。電子顕微鏡分析により、野生型状況において変性RGC軸索、髄索の壊死およびマクロファージにより占有された損傷部位が可視的であり、再生線維はほとんど可視的でないことを確認した。しかしながら、PTENをRGCにおいて阻害した場合、束として出現することが多い再生性軸索発芽が、損傷から数日後に病変内および病変に対して遠位の両方で見出された。それらの結果は、PTEN阻害により、実際に軸索が病変部位における阻害を克服し、損傷後すみやかに再生することができることを示した。
【0069】
PTEN欠失は、キャップ依存性タンパク質翻訳開始の調節による細胞成長およびサイズの制御において重要であるPI3K/mTOR経路の活性化をもたらすことが公知である(21〜24)。軸索再生は実質的な新たなタンパク質合成を要求するので、本発明者らは、mTOR活性化がPTEN欠失ニューロンにおける軸索再成長の原因になり得ると仮定した。PTENおよびPI3キナーゼの種々の形態は、野生型成体RGCにおいて発現される。タンパク質翻訳に対するその効果を媒介するmTORキナーゼの十分に研究されている標的の2種は、リボソームS6キナーゼ1(S6K1)および真核開始因子4E(eIF4E)結合タンパク質4E−BP1である。ホスホ−S6K1は、リボソームタンパク質S6を順次リン酸化する。これまでの研究は、S6および4E−BP1のリン酸化をmTOR活性化の指標として使用してきた(25、26)。リン酸化されたS6(p−S6)の染色により、p−S6陽性RGCの割合の劇的な発生依存性減衰が明らかになった。強力なp−S6シグナルは、ほとんどの胚性ニューロン内で見ることができるが、成体RGCの少数にのみ残留し、このことは、mTORシグナリングが成体RGCの大部分において下方調節されることを示す。それらの変化は、それらのニューロンの成熟時の全体的な軸索成長能の減少と相関する。
【0070】
次に本発明者らは、なぜp−S6シグナルを有する成体RGCのサブセットがそれらの損傷した軸索を依然として再生することができないのか決定することを求めた。ストレス、例えば酸素圧低下の経験時に細胞がmTORシグナリングを抑制することにより応答すること(27〜30)、すなわち、生存のためにエネルギー恒常性を維持すると提案されている進化的に保存されているストレス応答がこれまでに報告されている。したがって、本発明者らは、軸索切断に起因するストレスが損傷したニューロン内での全体的な翻訳を低減し得ると仮定した。このことを試験するため、本発明者らは、対照および損傷ラットからの精製RGCにおける新たなタンパク質合成の割合を推定した。対照および損傷RGCを35S−メチオニン/システインとともにインキュベートし、それらの細胞からの抽出物をSDS−PAGEを使用して分析した。全タンパク質内容物に対して正規化された、35S−メチオニン/システインが取り込まれたタンパク質を定量し、結果は軸索切断された成体RGCにおける新たなタンパク質合成の有意な減少を示した。
【0071】
次に本発明者らは、抗p−S6抗体による網膜切片の免疫組織化学分析により、神経病変がmTOR経路の活性を下方調節するかどうかを試験した。本発明者らの結果は、対照マウスにおいて損傷後全ての検査時点(1、3、7日)において軸索切断が成体RGC内に残留するp−S6シグナルをほぼ完全に消滅させることを示し、このことは、軸索切断がmTORにより媒介されるシグナルの迅速で持続的な下方調節を誘発すること、およびこの下方調節を阻害することで野生型成体CNSニューロンにおける再生が促進されることを示す。
【0072】
これまでの研究により、ストレスを受けた誘導分子Redd1/2(発生およびDNA損傷応答調節遺伝子1/2)の上方調節がストレス下で細胞においてmTORの阻害を媒介し得ることが示唆された(27〜30)。したがって、本発明者らは、FACSにより精製されたラットRGCに由来するmRNAを使用する定量リアルタイムPCR(q−PCR)により、損傷したニューロンにおけるRedd1/2発現を分析した。軸索切断されたRGCにおいてRedd1/2mRNAの有意な変化は見られなかった。陽性対照として、本発明者らは、軸索切断後に上方調節されることが公知の遺伝子Gadd45a(31)の発現が、損傷試料の同一の組において有意に増加することを見出した。
【0073】
次に本発明者らは、PTEN阻害が損傷前および損傷後の両方において成体RGCにおけるp−S6レベルに影響を及ぼすかどうかを試験した。AAV−Creが注射された未損傷PTENf/fマウスにおいて、抗ホスホ−S6により染色されたRGCの割合は、野生型またはAAV−GFPが注射されたPTENf/fマウスのものと有意に異なることはなかった。しかしながら、p−S6シグナルの強度が向上して出現し、それらのp−S6陽性RGCは細胞サイズの増加を示し、このことはニューロンの他のタイプにおけるPTEN欠失のこれまでの研究と一致した(32、33)。重要なことに、視神経挫滅後、p−S6陽性RGCの同様の割合が、AAV−Creが注射されたPTENf/fマウスにおいて損傷から1、3または7日後に残留した。したがって、軸索切断に対するストレス応答にかかわらず、PTENを欠失したそれらの軸索切断されたニューロンは、mTOR活性を未損傷の野生型ニューロンと同様のレベルにおいて依然として有する。再生線維の割合(8〜10%)は、p−S6陽性軸索切断されたRGCの割合(8〜10%)と同様であった。
【0074】
mTOR経路の活性化が軸索再生を促進するのに十分であるかどうかをさらに検査するため、本発明者らは、TSC1f/f条件付きノックアウトマウス(34)を使用する同様の視神経損傷/再生アッセイを実施した。TSC1および2は、mTORシグナリングを負に調節するタンパク質複合体を形成する(35〜39)。これまでの報告により、TSC1またはTSC2のいずれかの損失がmTOR経路の構成的な活性化に導くことが示された(38)。予測される通り、AAV−Creが注射されたTSC1f/fマウスにおいて、強力なp−S6シグナルが軸索切断されたRGCにおいて観察され、損傷後にRGC生存の有意な向上が存在した。さらに重要なことに、TSC1欠失マウスにおいてかなりの軸索再生が観察されたが、AAV−Creが注射された野生型マウスにおいては観察されなかった。TSC1欠失マウスにおける軸索再生の程度は、PTEN欠失により誘導されたものよりわずかに弱く、このことは、PTENの他の下流標的、例えばAktおよびGSK−3の活性(40、41)の変化も再生性成長に関与し得ることを示した。それにもかかわらず、それらの結果は、mTOR経路の活性化がCNSニューロンの生存および軸索再生の両方を促進するのに十分であることを示す。
【0075】
本発明者らの結果は、軸索切断されたCNSニューロンにおいて、mTORシグナリングの2工程下方調節;発生成熟による第1の調節、および軸索切断により誘発されるストレス応答による第2の調節により、mTOR活性が抑制されることを明らかにする。本発明者らの結果は、mTORシグナリングの正の調節物質の増加またはmTORシグナリングの負の調節物質の阻害(例えば、TSC1/2またはPTENの化学阻害剤による(42))をCNS損傷後に一過的に使用してタンパク質合成の下方調節を妨げ、軸索再生および機能回復を促進することができる、損傷後の長距離CNS軸索再生を促進する新たな手法を提供する。
【0076】
実施例2a
薬理学的PTEN阻害は成体マウスにおいて病変視神経線維の再生を促進する
【0077】
本発明者らは、ニューロンPTEN活性の薬理学的阻害剤が軸索再生を同様に促進することを実証するために同様の視神経試験を設計し、既に記載されている視神経挫滅のモデルを適合した[Fischer et al,J.Neurosci.18,1646(2004)]。成体マウス視神経を眼球後部において露出し、挫滅した。成体マウスの損傷直後、代替的PTEN阻害剤の溶液中に段階濃度(表1)または0.1%DMSO(対照)中で浸漬させたGelfoamを神経の挫滅部位に対して配置し、試験の最初の6日間につき3日ごとに置き換えた。
【0078】
【表1】

【0079】
動物を損傷から2週間後に屠殺し、次いで4%のパラホルムアルデヒドを経心的に潅流させる。視神経を10μmで凍結切片化し、抗GAP43抗体(Chemicon)により染色して再生軸索を検出する[Fischer et al,前掲]。DMSOにより処置された対照マウスにおいて、再生はほとんど検出されない。しかしながら、PTEN阻害剤の損傷部位適用は、対照マウスと比較して損傷部位を0.25mm超えて計測される軸索再成長および再生軸索数の有意な増加をもたらす。
【0080】
実施例2b
薬理学的PTEN阻害は、成体マウスにおいて病変視神経線維の再生を促進する。
【0081】
後続の同様の実験において、本発明者らは、表2のPTEN阻害剤を網膜内に注射し、視神経損傷を実施し、ニューロン生存および軸索再生の増加を見出した。
【0082】
【表2】

【0083】
実施例3
一般的スクリーニングおよびIC50決定のための例示的PTEN阻害アッセイ
【0084】
PTEN阻害剤を、2mMのジチオトレイトール(DTT)および0.1mMのTris緩衝液(pH8.0)ならびに最大3μgのPTENの全タンパク質を収容するウェル当たり25μlの全容量で半容量96ウェルプレートにおいて実施される阻害アッセイにおいて評価する。試験阻害剤候補(DMSO中25mMの濃縮原液)の少容量をPTEN溶液と室温において約10分間混合し、次いで基質を添加する。次いで、反応混合物を37℃において20分間インキュベートする。これに続き、マラカイトグリーン緩衝液(Upstate,Charlottesville,VA)の100μlのアリコートを添加して暗所で室温において発色させる(この溶液は、脱リン酸化反応も停止させる)。SpectraMax Plus分光光度プレートリーダー(Molecular Devices,Sunnyvale,CA)を使用して650ナノメートルにおける光学密度を計測する。
【0085】
阻害剤候補の最初のスクリーニング濃度は250μMであり、次いで、阻害剤無しの対照群と比較して50%超の阻害を有する候補をさらに評価してIC50値を決定する。PTENは、市販品を購入することができ、または文献方法により調製することができる[すなわち、遺伝子再構成されたグルタチオン−S−トランスフェラーゼ(GST)−PTEN融合タンパク質を発現する細菌の細胞抽出物から、この細胞抽出物中のGST−PTENをGlutathione Sepharose4Bゲル(Amersham,Piscataway,NJ)上に結合させ、このゲルから精製する]。好適なPTEN反応基質は、(a)公開されている方法(Maehama et al.2000,Analytical Biochemistry 279,248−250)を使用して作出することができ、典型的には最終反応混合物中約50μM(成分濃度に対する)において利用されるPIP3リン脂質ベシクル(PLV)、(b)100μMの作業濃度において利用される水溶性PIP3 Echelon Biosciences,Salt Lake City,UTおよび(c)リン酸化チロシン基質の作業濃度が200μMである、(EEEEYp)n(nは2または3である)と設計されたリン酸化ポリグルタミン酸−チロシンペプチド(Biofacilities of Indiana University,Indianapolis,IN)を含む。
【0086】
潜在的PTEN阻害剤の用量応答を決定するため、1nMから250μM(最終反応混合物濃度)の範囲の試験化合物の用量を、一般的なPTEN阻害アッセイ(前掲)において評価する。実施されたIC50データを得るため、用量応答アッセイの2つの別個のラウンドを実施する。第1のラウンドにおいて、1nMから250μMの範囲の10倍段階希釈における阻害剤の存在下でPTEN活性を試験する。PTEN活性が劇的に変化する濃度範囲を決定したら、この範囲内の2つの追加の濃度データ点を加え、次いでPTEN阻害アッセイを第2のラウンドについて再度実行する。PTEN阻害IC50は、PTEN活性(リン酸産生により計測し、未阻害対照試料と比較する)の50%が見出された阻害剤濃度として表す。データからのIC50の決定は、Prismソフトウエア(GraphPad Software,San Diego,CA)を使用して行う。
【0087】
実施例4
PTEN阻害は、ラットにおいて脊髄損傷後の軸索再生を促進する
本動物試験は、脊髄損傷用動物モデルにおいて、PTEN阻害剤bpV(bipy)、bpV(HOpic)、bpV(phen)およびbpV(pic)の鞘内投与または静脈内投与により軸索再生を促進することができることを実証する。本動物試験のための方法は、Nash et al(J.Neurosci(2002)22:7111−7120)、Luo et al(Molecular Pain(2005)1:29)およびObata et al(J.Neurosci.(2004)24:10211−22)から適合した。
【0088】
成体Sprague Dawleyラット(300〜400グラム)を訓練し、把握能を計測する指向前足到達(directed forepaw reaching)(DFR)装置において試験する。Nash et al.,前掲により詳細が記載されているこの装置は、2つのコンパートメント:Plexiglasの仕切りにより分離されている、ラット収容用の主コンパートメントおよび食餌用の副コンパートメントからなる箱である。副コンパートメントは、食餌のペレットをそれぞれ保持する等しいサイズのスロットにさらに分割されている。スロットとPlexiglasの間には空隙が存在する。この装置は、スロットから食餌ペレットを回収するため、ラットが前肢をPlexiglasの仕切りの孔に通して伸ばし、ペレットを把握し、そのペレットを空隙上に持ち上げ、スロットの外に出さなければならないように構成されている。ラットがスロット内でPlexiglasの孔に向かって食餌を集めるにすぎない場合、食餌がスロットから空隙に降下し、副コンパートメントの床に落下する。副コンパートメントの床は、ラットが降下する食餌を回収することができるように構成することができ、または床を低くしてラットが降下した食餌に届かないようにすることができる。脊髄損傷の誘導前、ラットを食餌制限し、訓練および試験の前およびその間にわたり1日当たり約3グラムの食餌/100グラム体重を与える。体重を追跡し、任意の時点においてラットがその元の体重の80%にも減量していることを確保する。全てのラットを、ラットが課題を学習することができる一方、ラットが試験状況に慣れるよう箱内で2〜3日間行動形成させる。動物を5日間1日当たり2回訓練し、次いで5日間1日当たり2回試験し、術前DFRデータを収集する。試験時間の間、ラットに5分間与えて課題を完了させ、ラットがこの時間の間に望むほど試行させる。ラットはその元の体重の少なくとも95%に戻して、ラットが手術を受ける前に健常であることを確保することが要求される。
【0089】
ラットを対照群または実験群に無作為に割り付ける。偽対照ラットは、病変化を伴わず、ミニ浸透圧ポンプ(Alzet型2001;Durect,Cupertino,CA)の配置を伴い、または伴わずに手術手順を受ける。病変対照ラットは、処置を受けず、ビヒクルによる尾静脈注射のみの処置、ミニ浸透圧ポンプ挿入のみの処置、またはビヒクルによるミニ浸透圧ポンプ挿入のみの処置を受ける。イソフルランによる麻酔後、最大露出のため頸髄を曲げるようにラットを手術板上に置く。C2およびC4の間の脊髄の背部を露出して椎弓切除を実施する。後柱を両側で識別し、偽群のラットを除く全てのラットにおいて、縫合針を脊髄に導通させ、後索を単離する。縫合糸を穏やかに持ち上げ、一対の光彩切除用のはさみを使用して後索を両側離断し、これにより後皮質脊髄路(CST)を離断する。後角および中央の灰白交連の可視化により、病変境界の精度を確認する。蛍光逆行性トレーサーFluorogold(0.9%の生理食塩水中3%;Molecular Probes)中に浸漬された生分解性Gelfoamの綿撒糸を病変部位内に置き、軸索が離断されたニューロンを識別し、病変を確認する。PTEN阻害剤処置または対応する対照処置に指定されたラットに、病変部位に隣接してミニ浸透圧ポンプを植込む。処置群におけるポンプは、1μl/時間の速度において7日間作動し、PTEN阻害剤(bpV(bipy)、bpV(HOpic)、bpV(phen)またはbpV(pic))を500ng/μlの濃度において充填する。重層する筋および皮膚を縫合し、ラットを加熱パッド上に置いて体温を維持する。各ラットにブプレノルフィン(0.1mg/kg)の単回用量を術直後に与えて疼痛を緩和する。
【0090】
脊髄を病変化して1時間後、尾静脈注射処置群のラットに生理食塩水/DMSOビヒクル中100μg/kgのPTEN阻害剤(bpV(bipy)、bpV(HOpic)、bpV(phen)またはbpV(pic))をボーラス注射する。この処置を、病変から1から7日後24時間ごとに繰り返す。ビヒクルのみの対照ラットは同一の処置を受けるが、生理食塩水/DMSOの等容量を尾静脈内に注射する。
【0091】
ラットを術後2〜5週間の間、1週間当たり2回訓練する。一部のラットを、ラットが早期術後期間のDFR課題において食餌を把握することができないように深く障害させることができる。この場合、ラットがスロットから副コンパートメントの床上に降下する食餌を主コンパートメント中に集めることができるように装置を構成することができる(Nash et al.,前掲を参照のこと)。このことは、DFR課題の到達の部分を失わないことを確保する。把握障害の重症度は術後期間が増加するにつれて減少し、食餌集めを許容しない装置の構成を徐々に再確立することができる。術後回復期間の終盤までに、全てのラットはDFR課題を首尾良くある程度実施することができる。術後6週間の間、ラットを5日間1日当たり2回試験し、盲検化された測定者により術後DFRデータを収集する。術前試験期間同様、ラットに術後試験期間の間に5分間課題を完了させ、ラットがこの時間の間に望むほど試行させる。データを試行の総数および成功した試行の割合について収集する。試行は、ラットがスロット中に到達し、ペレットを移し、またはペレットを副コンパートメントの床上に降下させた場合のみ評点化する。成功した試行は、ラットがペレットを把握し、ペレットを空隙上に持ち上げ、ペレットをPlexiglasの仕切りに通して試験装置の主要部内に引っ張った場合に評点化する。
【0092】
偽手術動物は、術前に実施するのと同様に十分にDFR課題を術後に実施し、このことは、病変のみがラットのDFR課題実施能を阻害し、手術手順の他の部分が阻害しないことを実証する。病変およびビヒクル群は、術後の群の全てのうち最も障害を受けた群である。病変およびビヒクル群は、DFR課題を約40%の成功率でしか実施することができない。SP600125処置群による有意により良好な実施は、脊髄損傷後の機能的回復に対する処置の効果を実証する。
【0093】
損傷から7週間後、ラットをビオチンデキストランテトラメチルローダミン(BDT;Molecular Probes)の注射のため準備する。一次運動皮質内に注射されるこの蛍光順行性トレーサーは、脊髄の病変部位に対して尾側のCST軸索を標識するために使用する。イソフルラン(5%)による麻酔後、ラットを定位固定器内に置き、定位的に決定された合計6つの孔(0.9mm直径)を前肢に関連する一次運動皮質上の頭蓋内に穿孔する。それらの注射のための前後側(AP)および内外側(ML)のブレグマからの座標は、以下の通りである:±0.5APおよび±3.5ML;±1.5A/Pおよび±2.5ML;ならびに±2.5APおよび±1.5ML。全ての注射は、頭蓋の表面から2.5mmの深さにおいて送達する。10μlのHamilton注射器を使用してBDTを皮質の第V層中に両側注射する。各皮質半球内への3回の注射を使用して順行性トレーサー合計1.2μlを投与する。骨ろう(Ethicon,Somerville,NJ)を使用して頭蓋の孔を密封し、頭皮を縫合し、ブプレノルフィン(0.1mg/kg)の単回用量を術直後に投与して疼痛を緩和する。トレーサーの注射から3日後にラットを死亡させる。
【0094】
病変化から7週間および3日後、ラットを抱水クロラール(10ml/kg)により麻酔し、PBS(pH7.4)300ml、次いで0.1Mリン酸緩衝液中4%のパラホルムアルデヒド300mlを経心的に潅流させる。動物を死亡させた後、全ての脳および脊髄を切除し、0.1Mリン酸緩衝液溶液中30%のスクロース中で一晩浸漬する。脳を冠状に切断し、脊髄を凍結ミクロトームにより20μmの厚さにおいて水平に切断し、ProbeOn(Fisher Scientific,Pittsburgh,PA)被覆スライド上に封入する。脳および脊髄切片は、Nikon(Tokyo,Japan)Labophot蛍光顕微鏡を使用して検査し、画像はデジタルスチルカメラを使用して記録する。一次運動皮質の前肢対応領域は、定位BDT注射部位に基づき識別する。一次運動皮質を全てのラットにおいて検査する。一次運動皮質の第V層中のFluorogold標識ニューロンの存在により、病変化手順の間に背部CST軸索が離断されたことを確認する。後索内に局在する全てのCST軸索が術中に離断され、前肢対応領域におけるCST軸索だけが離断されないので、Fluorogold標識ニューロンが一次運動皮質にわたり第V層中で見出される。この標識パターンの唯一の例外は、脳がFluorogold標識物質を有しない偽群のラットの脳内である。
【0095】
病変に対して尾側の脊髄を検査し、通常は背部CSTにより占有される脊髄の領域を占有するBDT標識軸索を計数する。各切片について、BDT標識軸索の数を病変に対して3mm間隔の尾側において計数し、損傷に対して1mm遠位から開始し(すなわち、1mm、4mm、7mmなど)、病変部位に対して19mm尾側で終了する。ラット前足の神経支配はC3における病変から15.1mmの距離のT1に拡張する。したがって、病変に対して19mm尾側まで遠くの軸索の分析は、前足に対応する距離全体が試験されることを確保する。各間隔において、BDT標識軸索の総数(左右のCSTを合わせる)を500μmの長さ(顕微鏡視野の長さ)に沿って計数する。計数される各視野において、焦点面を上下に調整し、単一の連続する軸索が焦点面の外に横断し、同一視野中のさらに下方に再出現する場合、この軸索が二重に計数されないことを確保する。存在するBDT標識軸索の数を、対照群および実験群について距離のそれぞれ(すなわち、病変部位に対して1、4、7・・・および19mm尾側)において検査する。検査間隔の全てにわたり、軸索の平均数は偽群において最高であり、各検査距離において、偽群の標識軸索の平均数は他の群より有意に高い。任意の検査距離において病変群およびビヒクル群の平均間で有意な差異は観察されない。それらの群において、軸索は、損傷に対して短い距離の尾側にのみ見出され、病変に対して10mm遠位から最も遠い検査距離まで、組織の全てが軸索を可視的に欠く。病変対照ラットと比較してPTEN阻害剤処置群における各距離において有意により標識された軸索は、この処置が脊髄損傷後の軸索再生を促進することを実証する。
【0096】
実施例5
急性脊髄損傷のためのPTEN阻害剤処置後の神経学的転帰の改善
本発明者らのプロトコルをGeisler et al(Spine(2001)26:587−598)により記載されたSygen(登録商標)Multicenter Acute Spinal Cord Injury Studyの研究に応用した。このプロトコルは、プロスペクティブな、二重盲検、無作為化および層別化された多施設試験であり、約800人の患者を、各処置群:プラセボ、低用量PTEN阻害剤(bpV(bipy)、bpV(HOpic)、bpV(phen)またはbpV(pic))および高用量PTEN阻害剤において少なくとも720人に完了させ、評価可能となるように無作為化する。患者を、損傷の重症度の3つの程度(米国脊髄損傷学会(American Spinal Injury Association)グレードA、BおよびC+D)および解剖的損傷の2つのレベル(頸部および胸部)に従って、6つの群に層別化する。720/4=180人の患者の各群が26週目の検査に達し、評価可能になる際、試験を事前に計画を立てた中間分析に続いて行う。患者は、実質的な運動障害を有する少なくとも一方の下肢を有することを要求される。脊髄離断または貫入を有する患者を除外し、それというのも患者が顕著な馬尾、腕神経叢もしくは腰仙骨神経叢、または末梢神経の損傷を有するからである。脊髄を貫通しない銃創は許容される。神経学的計測評価または解釈を妨げるほど重症でない限り、多発外傷は許容される。
【0097】
全ての患者は、脊髄損傷(SCI)後8時間以内に開始するメチルプレドニゾロン(MPSS)の第二次米国脊髄損傷急性期研究(National Acute Spinal Cord Injury Studies(NASCIS II))投与計画を受けることになっている。MPSSおよびPTEN阻害剤の間の任意の考えられる有害な相互作用を避けるため、MPSS投与の完了後まで試験投薬は開始しない。
【0098】
プラセボ群は、プラセボの初回量、次いで56日間のプラセボ投与を有する。低用量PTEN阻害剤群は、静脈内(i.v.)投与される50mgの初回量を有し、次いで56日間10mg/日で静脈内投与する。高用量PTEN阻害剤群は、250mgの初回量を投与し、次いで56日間50mg/日で投与する。
【0099】
基礎期の神経学的評価は、AISおよび詳細な米国脊髄損傷学会(ASIA)の運動ならびに感覚検査の両方を含む。修正ベンゼル分類(Modified Benzel Classification)、ならびにASIAの運動および感覚検査は、損傷から4、8、16、26および52週間後に実施する。修正ベンゼル分類は基礎期後の計測に使用する。それというのも、この分類は、歩行能を評価し、事実上、AISの広範なDカテゴリーを細分するからである。ほとんどの患者は基礎期において不安定な脊椎骨折を有するので、その時に歩行能を評価することはできない(したがって、異なる基礎期および追跡スケールを使用する)。著しい回復は、基礎期のAISからの修正ベンゼル分類における少なくとも尺度2に等しい改善として定義される。一次有効性評価は、26週目において著しい回復を有する患者の割合である。二次有効性評価は、著しい回復の時間経過、および脊髄機能の他の確立した計測(ASIAの運動および感覚スコア、障害の相対および絶対感覚レベル、ならびに膀胱および腸の機能の評価)を含む。
【0100】
実施例6
ラットにおける皮質衝撃損傷後のPTEN阻害の効果
本発明者らは、Cherian et al.(J Pharmacol Exp Ther.(2003)304:617−23)からの方法を応用し、脳衝撃損傷のラットモデルに対するPTEN阻害剤の種々の用量および処置スケジュールの効果を試験する。体重300から400gの合計60匹の雄Evansラットを、腹腔内(i.p)注射または脳室内(i.c.v.)注射される以下の用量:無し(生理食塩水対照群)、0.01、0.1、1.0および10.0mg/kg/日のPTEN阻害剤(bpV(bipy)、bpV(HOpic)、bpV(phen)またはbpV(pic))の1つに割り付ける。ラットを、1、3、7または14日間の処置継続期間に、各処置群の4匹のラットおよび各対照群の3匹のラット(すなわち、生理食塩水を1、3、7または14日間投与)を用いてさらに割り付ける。
【0101】
衝撃損傷をもたらす方法の詳細は、これまでに記載されている(Cherian et al.,J.Neurotrauma(1996)13:371−383)。簡潔に述べると、ラットの頭部を耳棒および切歯棒により定位フレーム内に固定する。直径10mmの開頭術を頭頂葉皮質上の頭蓋右側について実施する。8mmの直径を有するインパクターの先端を、脳の曝露表面に対して垂直の開頭部位において、その垂直に対して約45度の角度で中央に位置させる。この先端が硬膜表面にちょうど到達するまで先端を下げる。次いで、インパクターロッドを収縮させ、先端をさらに3mm進行させ、衝撃の間に3mmの脳変形を生じさせる。インパクターに適用されるガス圧を150psiに調節し、約5m/sの衝撃速度および約150から160msの継続期間を与える。
【0102】
ラットを一晩絶食させ、通気型麻酔チャンバー内で100%酸素中3.5%のイソフルランにより麻酔する。16ゲージのTeflonカテーテルを気管挿管した後、手術準備および衝撃損傷のために100%酸素中2%のイソフルランをラットに機械的に通気する。衝撃部位から十分に離して左前頭葉内に挿入された3Fマイクロセンサ変換器(Codman&Schurtleff,Randolph,MA)により頭蓋内圧(ICP)を追跡する。ICPは、損傷の重症度の計測として衝撃損傷の間に追跡する。直腸温を加熱パッドにより36.5〜37.5℃に維持し、直腸サーミスタにより制御する。頭部に向けられる加熱ランプの助けにより、脳の温度を37℃において一定に保持する。
【0103】
PTEN阻害剤の脳室内投与を受けることになっているラットは、Kitamura et al(J Pharmacol Sci(2006)100:142−148)により記載された手順を使用してミニポンプ植込物を受ける。簡潔に述べると、ラットを定位フレーム(David Kopf Instruments,Tujunja,CA)内に固定する。ガイドカニューレを左側脳室内に植込む(ブレグマ−0.8mm、横1.5mm、硬膜下3.7mmの深さ)。次いで、各カニューレをカテーテルにより、肩胛骨領域内の皮下に植込まれ、薬物を連続的に注入してAS601245(または対照群についてはビヒクルのみ)の規定の1日用量を達成するように構成されているALZET(登録商標)ミニ浸透圧ポンプに連結する。
【0104】
腹腔内投与処置群のラットについて、PTEN阻害剤の各用量を、各群について送達される容量が同一になり、PTEN阻害剤の投与量のみが変わるように滅菌0.9%生理食塩水1ml中で溶解させ、第1の用量を、衝撃損傷後1時間以内に投与する。この後、割り付けられた処置継続時間で1日1回投与する。
【0105】
全てのカテーテルを除去し、手術創を縫合した後、ラットを麻酔から覚醒させる。損傷後最初の3日間、ラットを痛覚消失のため酒石酸ブトルファノールにより、12時間ごと(1日2回)筋肉内投与0.05mgで処置し、術後感染のリスクを低減するためエンロフロキサシン2.27%、筋肉内投与0.1mlにより毎日処置する。
【0106】
転帰計測は、処置群に対して盲検化された測定者により実施する。衝撃から2週間後、動物を、ケタミン/キシラジン/アセプロマジンの組合せにより深く麻酔し、0.9%生理食塩水、次いで10%リン酸緩衝ホルムアルデヒドを経心的に潅流する。脳全体を切除し、4%ホルマリン中で固定する。固定された脳を、挫傷、血腫およびヘルニア形成の存在について肉眼検査する。脳を写真撮影し、2mm間隔において切片化し、次いでパラフィン中で包埋する。ヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)により染色された9μmの厚さの切片を組織学的検査のために調製する。包埋切片の切断表面上の皮質損傷の最大断面領域を含めるよう特に配慮する。H&Eにより染色された冠状切片を、PathScan Enabler(Meyer Instruments,Houston,TX)を備えたPolaroid Sprint Scanner(Polaroid Corporation,Waltham,MA)を使用してデジタル化する。H&Eにより染色された各冠状画像における損傷の断面区域を決定し、薄片間の組織の厚さを掛けることにより損傷容量を計測する。このスラブ容量技法は、画像処理プログラムOptimas5.2(Optimas Corporation,Seattle,WA)上で実施する。海馬のCA1およびCA3領域の中央1mmセグメントにおけるニューロンを200倍の倍率において計数する。ニューロンを核および細胞質の形態により識別し、個々の細胞を正常であるか損傷を受けているかについて計数する。細胞質縮小、好塩基球増加もしくは好酸球増加を有するニューロン、または核細部の損失を有するニューロンを、損傷を受けたものとみなす。計測領域は長さ1mmおよび幅1mm(セグメントの長軸の両側上で0.5mm)である。ニューロンの総数および正常と考えられるニューロンの数は、1平方ミリメートル当たりのニューロンとして表現する。
【0107】
実施例7
PTEN阻害は、局所性脳虚血の動物モデルにおいて神経再生を促進する
【0108】
本試験は、これまでに記載された方法(Brines et al,Proc Natl Acad Sci USA.(2000)97:10526−31)を使用し、局所性脳虚血の動物モデルにおける全身投与されるPTEN阻害剤の効果を実証する。体重約250gのSprague−Dawley雄ラットをペントバルビタール[60mg/kg体重(BW)]により麻酔する。深部体温は、麻酔の継続時間、ウォーターブランケット(water blanket)および直腸サーミスタ(Harvard Apparatus)を使用することにより定温器により37℃において維持する。頸動脈を可視化し、右頸動脈を2つの縫合および切開により閉塞する。右眼窩に隣接する吻側の穿頭孔によりMCAの可視化が可能になり、MCAを鼻動脈に対して遠位で焼灼する。次いで、動物を定位フレーム上に位置させる。この固定されたMCA病変を包囲する可逆的虚血領域をもたらすため、微細鉗子により提供される牽引を使用して対側頸動脈を1時間閉塞する。PTEN阻害剤(bpV(bipy)、bpV(HOpic)、bpV(phen)またはbpV(pic))の1μg/ml溶液0.5mlまたはビヒクル対照を、可逆的頸動脈閉塞の開始から1時間、1日、5日または10日において投与する。損傷度を評価するため、動物を15日後に死亡させ、脳を切除し、ブレインマトリックスデバイス(Harvard Apparatus)を使用することにより脳全体にわたる厚さ1mmの連続切片を切断する。次いで、各切片を154mMのNaCl中2%の塩化トリフェニルテトラゾリウム(重量/容量)の溶液中で37℃において30分間インキュベートし、4%パラホルムアルデヒド中で分析まで貯蔵する。損傷度の定量は、コンピュータ化画像分析システム(MCID,Imaging Research,St.Catharine’s,ON,Canada)を使用することにより決定する。これを達成するため、各切片のデジタル画像を得、テトラゾリウム塩が低減しない、すなわち生存不能な組織である領域の輪郭付けにより損傷の区域の境界を示す。壊死が重症で組織が実際に損失し、したがって境界を直接評価することができない場合については、対側の輪郭を使用して損傷した脳の容量を推定する。梗塞の総容量は、厚さ1mmの連続切片の再構成により算出する。
【0109】
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34.L.Meikle et al.,J Neurosci 27,5546(May 23,2007).
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36.K.Inoki,T.Zhu,K.L.Guan,Cell 115,577(Nov 26,2003).
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44.K.Park,J.M.Luo,S.Hisheh,A.R.Harvey,Q.Cui,J Neurosci 24,10806(Dec 1,2004).
【0110】
上記の実施例および詳細な説明は説明のために提供されるものであり、限定するためのものではない。あたかも個々の各刊行物または特許出願が参照により組み込まれるように個別に具体的に指示される通り、本明細書において引用される全ての刊行物および特許出願は、参照により本明細書に組み込まれる。上記発明を、理解を明確にする目的のため説明および実施例により、いくらか詳細に記載したが、添付の特許請求の範囲の精神および範囲から逸脱することなくある種の変更および改変をさらになすことができることは、本発明の教示に照らして当業者には容易に明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
病変成熟中枢神経系(CNS)ニューロンの生存または該ニューロンにおける軸索再生をインサイチューで促進する方法であって、
(a)該ニューロンを該ニューロンにおけるタンパク質翻訳の外因性活性化物質の治療有効量と接触させ、これにより該ニューロンの生存または該ニューロンにおける軸索再生を促進する工程;および
(b)該ニューロンの生存または該ニューロンにおける軸索再生の結果的な促進を検出する工程
を含む方法。
【請求項2】
タンパク質翻訳の活性化物質が:
(a)mTOR経路活性化物質;
(b)PTEN阻害剤;
(c)TSC1/2阻害剤;
(d)Akt活性化物質;
(e)Ras/MEK経路活性化物質;または
(f)PRAS40阻害剤
である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
タンパク質翻訳の活性化物質が、
(a)カリウムビスペルオキソ(ビピリジン)オキソバナダート(V)(bpV(bipy));
(b)ジカリウムビスペルオキソ(5−ヒドロキシピリジン−2−カルボキシル)オキソバナダート(V)(bpV(HOpic));
(c)カリウムビスペルオキソ(1,10−フェナントロリン)オキソバナダート(V)、(bpV(phen));または
(d)ジカリウムビスペルオキソ(ピコリナト)オキソバナダート(V)、(bpV(pic))
であるPTEN阻害剤である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
病変が外傷性損傷に起因する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
病変が外傷性脳損傷に起因する、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
病変が卒中に起因する、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
病変軸索が視神経内に存在する、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
病変が急性脊髄損傷に起因する、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
病変軸索が患者の脊髄内に存在し、阻害剤を該患者に鞘内投与する、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
軸索が感覚ニューロンのCNS軸索である、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
病変がCNS変性に起因する、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
阻害剤を静脈内投与する、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
阻害剤を鞘内投与する、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
阻害剤を経眼投与する、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
阻害剤をニューロンにおいて局所投与する、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
検出工程を軸索再生の間接アッセイにより行う、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
検出工程を軸索再生の直接アッセイにより行う、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
ニューロンが病変していること、ならびに軸索切断により誘導されたストレスおよび/または病理学的に誘導されたタンパク質翻訳の下方調節を有することを決定する前工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
タンパク質翻訳の活性化物質がPTEN阻害剤であり、病変軸索が視神経内に存在し、該阻害剤を経眼投与する、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
軸索切断により誘導されたストレスおよび/または病理学的に誘導されたタンパク質翻訳の下方調節を有すると決定された病変成熟中枢神経系(CNS)ニューロンの生存または該ニューロンにおける軸索再生をインサイチューで促進するためのデバイスであって、該ニューロンにおけるタンパク質翻訳の活性化物質の治療有効量の事前に計測された含有量が装填され、請求項1に記載の方法を実施するために具体的に適合されたリザーバーを含むデバイス。

【公表番号】特表2011−524347(P2011−524347A)
【公表日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−512727(P2011−512727)
【出願日】平成21年6月6日(2009.6.6)
【国際出願番号】PCT/US2009/046528
【国際公開番号】WO2009/149435
【国際公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TEFLON
2.POLAROID
【出願人】(599086582)チルドレンズ・メディカル・センター・コーポレイション (9)
【氏名又は名称原語表記】Children’s Medical Center Corporation
【住所又は居所原語表記】300 Longwood Avenue, Boston, Massachusetts 02115, U.S.A.
【Fターム(参考)】