タンパク質送達のための組成物およびその使用方法
【解決手段】 目的タンパク質を送達するための組成物及びその方法が提供される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、米国特許法第119条(e)項の下、2007年5月11日出願の米国特許仮出願第60/928,884号および2007年12月5日出願の米国特許仮出願第61/005,463号の優先権を主張する。上記出願は、本明細書中で参照として組み込まれる。
【0002】
本発明は、治療薬を患者、特に、中枢神経系(CNS)に送達するための組成物および方法に関する。
【背景技術】
【0003】
血液脳関門(BBB)は、生物学において最も制限される関門の1つである。多くの因子が相互に作用してこの制限的関門を生み出す。電子顕微鏡研究により、脳血管内皮細胞と他の内皮細胞修飾物(modification)との間の密着結合(例えば、飲作用の減少、細胞内窓(intracellular fenestrae)の欠如)が血漿限外濾過液の形成を阻止することが証明されている。BBBの酵素活性は、いくつかの物質、具体的にはモノアミンおよびいくつかの小ペプチドの侵入をさらに制限する(非特許文献1;非特許文献2;非特許文献3;非特許文献4;非特許文献5)。飽和性血液脳関門排出系(p−糖タンパク質(Pgp)など)も小分子および脂溶性物質の蓄積を防止する(非特許文献6;非特許文献7)。末梢因子(タンパク質結合/可溶性受容体、酵素分解、クリアランス、および組織による隔離など)も提示の制限によって物質がBBBを通過する能力に影響を及ぼし、これらの因子は外因的に投与された物質に特に重要である(非特許文献8)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Baranczyk−Kuzma and Audus(1987)J.Cereb.Blood Flow Metab.,7:801−805
【非特許文献2】Hardebo and Owman(1990)Pathophysiology of the BBB,pp.41−55(Johansson et al.,Eds.)Elsevier,Amsterdam
【非特許文献3】Miller et al .(1994)J.Cell.Physiol.,161:333−341
【非特許文献4】Brownson et al.(1994)J.Pharmacol.Exp.Ther.,270:675−680
【非特許文献5】Brownlees and Williams(1993)J.Neurochem.,60:793−803
【非特許文献6】Taylor,E.M.(2002)Clin.Pharmacokinet.,41:81−92
【非特許文献7】Schinkel et al.(1996)J.Clin.Invest.,97:2517−2524
【非特許文献8】Banks and Kastin(1993)Proceedings of the International Symposium on Blood Binding and Drug Transfer,pp.223− 242(Tillement et al.,Eds.)Fort and Clair,Paris
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に従って、患者の神経障害を治療する諸方法を提供する。これらの方法は、治療有効量のa)治療用ポリペプチドおよび治療用ポリペプチドの電荷と逆の少なくとも1つの電荷を含む合成ポリマーを含む少なくとも1つの複合体、およびb)少なくとも1つの薬学的に許容可能なキャリアを含む組成物を投与する工程を含む。特定の実施形態では、合成ポリマーは、少なくとも1つの非イオン性セグメントおよび少なくとも1つのポリイオンセグメントを含む。さらに別の実施形態では、投与される複合体は、血液脳関門を通過する。
【0006】
本発明の別の態様では、患者の神経障害を治療する諸方法は、治療有効量の治療用ポリペプチドおよび治療用ポリペプチドの電荷と逆の少なくとも1つの電荷を含む合成ポリマーを含む少なくとも1つの複合体を含む単離細胞、ならびに少なくとも1つの薬学的に許容可能なキャリアを含む組成物を投与する工程を含む。特定の実施形態では、該合成ポリマーは、少なくとも1つの非イオン性セグメント、および少なくとも1つのポリイオンセグメントを含む。さらに別の実施形態では、投与される細胞は血液脳関門を通過する。該投与される細胞を、治療される患者から単離することができる。特定の実施形態では、該細胞は、免疫細胞(例えば、単球、またはマクロファージ、または骨髄由来単球、または樹状細胞、またはリンパ球、またはT細胞、または好中球、または好酸球、または好塩基球など)である。
【0007】
本発明のさらに別の態様によれば、少なくとも1つの目的のタンパク質および該目的のタンパク質の電荷と逆の少なくとも1つの電荷を含む合成ポリマーを含む少なくとも1つの複合体を含む単離細胞を提供する。その細胞を含む組成物も提供する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1A】図1Aは、ポリペプチド−ポリイオン複合体構造(ナノザイムとも呼ばれる)の模式図を示す。
【図1B】図1Bは、種々のZでの酵素/ポリイオン複合体のゲル遅延度アッセイ画像である。サンプルを、未変性条件下で(SDSなし)ポリアクリルアミドゲル(7.5%)のゲル電気泳動に供した。レーン1:酵素のみ;レーン2〜4:Zが漸増した(0.5、2、4)酵素/PEI−PEG複合体。
【図1C】図1C〜Eは、種々の条件下でのカタラーゼ−ポリイオン複合体のキュムラント直径(図1C〜E)およびゼータ電位(図1C)の変化を示すグラフである。図1C:PBS溶液中のZ;図ID:イオン強度(Z=1、pH7.4);図1E:pH(Z=1、[NaCl]=0.15M)。
【図1D】図1C〜Eは、種々の条件下でのカタラーゼ−ポリイオン複合体のキュムラント直径(図1C〜E)およびゼータ電位(図1C)の変化を示すグラフである。図1C:PBS溶液中のZ;図ID:イオン強度(Z=1、pH7.4);図1E:pH(Z=1、[NaCl]=0.15M)。
【図1E】図1C〜Eは、種々の条件下でのカタラーゼ−ポリイオン複合体のキュムラント直径(図1C〜E)およびゼータ電位(図1C)の変化を示すグラフである。図1C:PBS溶液中のZ;図ID:イオン強度(Z=1、pH7.4);図1E:pH(Z=1、[NaCl]=0.15M)。
【図1F】図1Fはカタラーゼ−ポリイオン複合体(Z=1)のTEM画像である。バーは100nmを示す。
【図1G】図1Gは、ポリイオン複合体中のカタラーゼの酵素活性を示すグラフである。種々のZを有するポリイオン複合体中のカタラーゼ活性を、過酸化水素分解比によって決定した。データは平均±SEM(n=4)を示す。カタラーゼのみと比較したカタラーゼ−ポリイオン複合体活性の統計的有意性を、アスタリスクで示す:(*)P<0.05。カタラーゼの酵素活性は広範なブロックコポリマーで変化せず、Z=50のみで有意に減少した。
【図2A】図2Aは、Hu BChE/PLL−g−PEO(2)複合体のゲル電気泳動アッセイの画像である。レーン番号は、表1中のサンプル番号に対応している。
【図2B】図2Bは、種々の組成でのHor BChEのみおよびHor BChE/PLL−g−PEO(2)複合体のゲル電気泳動アッセイの画像である。レーン番号は、表2中のサンプル番号に対応している。
【図3】図3は、種々のZ+/−において(○)Hor BChE/PLL−g−PEO(2)および(■)Hu BChE/PLL−g−PEO(2)混合物中で形成された粒子の直径を示すグラフである。BChE濃度は0.15mg/mlであった(23℃、10mMリン酸緩衝液(pH7.4))。
【図4A】図4Aは、種々の希釈度での、(A)Hor BChEのみ、および(B)Hor BChE/PLL−g−PEO(7)複合体(Z+/−=10.3)のゲル電気泳動アッセイの画像である。Hor BChEの初濃度は0.167mg/mlであった。
【図4B】図4Bは、種々の希釈度(1:1000、1:5000、および1:250)での、(A)Hu BChEのみ;(B)非架橋Hu BChE/ PLL−g− PEO(2)複合体(Z+/−=1.2);および(C)架橋Hu BChE/ PLL−g−PE0(2)複合体(Z+/−=1.2;架橋比85%)のゲル電気泳動アッセイの画像である。Hu BChEの初濃度は0.15mg/mlであった。
【図5A】図5A〜5Cは、種々の希釈度:1000倍、500倍、および250倍でのHu BChEのみ(レーンA);非架橋Hu BChE/ PLL−g−PEO(2)複合体(レーンB)(Z+/−=1.2);および架橋Hu BChE/ PLL−g−PEO(2)複合体(レーンC)(Z+/−=1.2)のゲル電気泳動アッセイの画像を示す。架橋比は、それぞれ、図5A、5B、および5Cで85%、40%、および20%であった。Hu BChEの最終濃度は0.15mg/mlであった。
【図5B】図5A〜5Cは、種々の希釈度:1000倍、500倍、および250倍でのHu BChEのみ(レーンA);非架橋Hu BChE/ PLL−g−PEO(2)複合体(レーンB)(Z+/−=1.2);および架橋Hu BChE/ PLL−g−PEO(2)複合体(レーンC)(Z+/−=1.2)のゲル電気泳動アッセイの画像を示す。架橋比は、それぞれ、図5A、5B、および5Cで85%、40%、および20%であった。Hu BChEの最終濃度は0.15mg/mlであった。
【図5C】図5A〜5Cは、種々の希釈度:1000倍、500倍、および250倍でのHu BChEのみ(レーンA);非架橋Hu BChE/ PLL−g−PEO(2)複合体(レーンB)(Z+/−=1.2);および架橋Hu BChE/ PLL−g−PEO(2)複合体(レーンC)(Z+/−=1.2)のゲル電気泳動アッセイの画像を示す。架橋比は、それぞれ、図5A、5B、および5Cで85%、40%、および20%であった。Hu BChEの最終濃度は0.15mg/mlであった。
【図6】図6は、500倍希釈での種々の架橋比の架橋Hu BChE/PLL−g−PEO(2)複合体(Z+/−=1.2)のゲル電気泳動アッセイの画像である。Hu BChEの最終濃度は0.15mg/mlであった。
【図7】図7は、CuZnSOD−ポリイオン複合体を静脈内注射したマウスの画像を示す。IVIS 200画像化システムを使用して、680標識CuZnSOD−ポリイオン複合体の静脈内(尾静脈)注射後の種々の時間間隔においてマウス中のAlexa 680蛍光を検出した。
【図8A】図8Aおよび8Bは、それぞれHu BChE/PLL−b−PEO複合体およびHor BChE/PLL−b−PEO複合体のゲル電気泳動アッセイの画像を示す。該レーン番号は、表9中に示すサンプル番号に対応している。Hu BChEおよびHor BChEの濃度は0.15mg/mlであった。
【図8B】図8Aおよび8Bは、それぞれHu BChE/PLL−b−PEO複合体およびHor BChE/PLL−b−PEO複合体のゲル電気泳動アッセイの画像を示す。該レーン番号は、表9中に示すサンプル番号に対応している。Hu BChEおよびHor BChEの濃度は0.15mg/mlであった。
【図9A】図9Aおよび9Bは、それぞれZ+/−=1.0またはZ+/−=2.0、架橋比40%での架橋Hu BChE/PLL−b−PEOおよびHor BChE/PLL−b−PEO複合体のゲル電気泳動アッセイの画像である。レーンAは、Hu BChEのみである。レーンBは、非架橋Hu BChE/PLL−b−PEO複合体である。レーンCは、架橋Hu BChE/PLL−b−PEO複合体である。レーンDは、Hor BChEのみである。レーンEは、非架橋Hor BChE/PLL−b−PEO複合体である。レーンFは架橋Hor BChE/PLL−b−PEO複合体である。BChEの最終濃度は0.0003mg/mlであった。
【図9B】図9Aおよび9Bは、それぞれZ+/−=1.0またはZ+/−=2.0、架橋比40%での架橋Hu BChE/PLL−b−PEOおよびHor BChE/PLL−b−PEO複合体のゲル電気泳動アッセイの画像である。レーンAは、Hu BChEのみである。レーンBは、非架橋Hu BChE/PLL−b−PEO複合体である。レーンCは、架橋Hu BChE/PLL−b−PEO複合体である。レーンDは、Hor BChEのみである。レーンEは、非架橋Hor BChE/PLL−b−PEO複合体である。レーンFは架橋Hor BChE/PLL−b−PEO複合体である。BChEの最終濃度は0.0003mg/mlであった。
【図10】図10は、BMMにおけるポリペプチド−ポリイオン複合体(Z=1)または対応するPEI−PEG濃縮物の細胞傷害性を示すグラフである。細胞を、種々の濃度のポリペプチド−ポリイオン複合体またはブロックコポリマーと24時間インキュベートし、洗浄し、新鮮な培地中にて37℃で48時間インキュベートした。細胞生存を、スルホローダミン−B(SRB)アッセイによって決定した。Microkinetics reader BT2000にて490nmの吸光度を測定し、得られた値を、ポリペプチド−ポリイオン複合体を添加しなかったコントロール細胞について得られた値に対する比率として示した。全ての測定を8回繰り返した。BMMにおけるカタラーゼのみまたはカタラーゼとPEI−PEGとのポリイオン複合体の細胞傷害効果は認められなかった。
【図11A】図11Aは、単球における「裸の(naked)」カタラーゼおよびカタラーゼ−ポリイオン複合体(Z=1)の蓄積速度のグラフである。細胞を、種々の時点でAlexa Fluor 594標識酵素または酵素−ポリイオン複合体で処理した。インキュベーション後、細胞内容物を回収し、蛍光分光光度計(λex=580nm、λem=617nm)によって蛍光量を測定した。データは、平均±SEM(n=4)を示す。
【図11B】図11Bは、種々のZでのBMM中のカタラーゼ−ポリイオン複合体蓄積を示す棒グラフである。
【図11C】図11Cは、BMM中のRITC標識カタラーゼ−ポリイオン複合体の細胞内局在の画像を示す。カバーガラス上で増殖させた細胞に、カタラーゼ/PEI−PEG複合体(Z=1)を24時間ロードした。インキュベーションした後、該細胞を固定し、F−アクチン特異的オレゴングリーン488ファロイジンおよび核染色剤ToPro−3で染色した。共焦点蛍光顕微鏡システムACAS−570によって画像を得た。
【図12A】図12Aは、BMMからのカタラーゼ−ポリイオン複合体の放出プロフィールを示すグラフである。細胞にカタラーゼ/PEI−PEG複合体(Z=1)を1時間ロードし、PBSで洗浄し、種々の時間間隔で無カタラーゼ培地とインキュベートした。カタラーゼの培地への放出量および細胞中に保持される量を、蛍光分光光度法によって計算した。データは、平均±SEM(n=4)を示す。
【図12B】図12Bは、培地中のBMMから誘発されたカタラーゼ放出を示すグラフである。成熟BMMにAlexa Fluor 594標識カタラーゼ− ポリイオン複合体(Z=1)を予め1時間ロードし、PBSで洗浄し、次いで、10μM酢酸ミリスチン酸ホルボール(PMA)を含む、もしくは含まない無カタラーゼ培地と種々の時間間隔でインキュベートした。培地へのカタラーゼの放出量を、蛍光分光光度法によって計算した。データは、平均±SEM(n=4)を示す。インキュベーション培地へのPMAの添加により、培地への酵素放出が50%増加した。
【図13A】図13Aおよび13Bは、BMM中の分解に対するカタラーゼの酵素活性の保存を示すグラフである。図13Aでは、「裸の」カタラーゼまたはカタラーゼ−ポリイオン複合体(Z=1)をBMMにロードし、細胞を洗浄し、細胞を洗浄し、種々の時間間隔で無カタラーゼ培地とインキュベートした。BMMから放出されたカタラーゼの活性を、分光光度法によって決定した。
【図13B】図13Aおよび13Bは、BMM中の分解に対するカタラーゼの酵素活性の保存を示すグラフである。図13Bでは、種々の組成物とのカタラーゼポリイオン複合体(Z)を該細胞にロードし、無カタラーゼ培地中で2時間インキュベートした。次いで、該培地を回収し、分光光度法によってカタラーゼ活性について評価した。データは、平均±SEM(n=4)を示す。カタラーゼのみと比較したカタラーゼ−ポリイオン複合体活性の統計的有意性をアスタリスクで示した:(*)P<0.05、(**)p<0.005。
【図14A】図14Aは、BMMから放出されたカタラーゼ−ポリイオン複合体による小膠細胞誘導性ROSの調整のスキームである。ブロックコポリマー(2mg/ml;図14C)または「裸の」カタラーゼもしくはカタラーゼ−ポリイオン複合体(Z=1)(図14Bおよび図14D)をBMMにロードした。次いで、細胞を洗浄し、クレブスリンゲル緩衝液中で2時間インキュベートした。並行して、マウス小膠細胞を、200ng/mL TNF−α(48時間)(図14Bおよび図14C)または0.5μM N−α−syn(図14D)のいずれかで刺激した。次いで、放出された酵素とともに、BMMから回収した上清にAmplex RedおよびHRP溶液を補足し、それらを活性化小膠細胞に添加した。コントロール活性化小膠細胞を、新鮮な培地(図14B)または0.5μM凝集N−α−syn(図14D)とインキュベートした。小膠細胞によって生成され、BMMから放出されたカタラーゼによって分解されたH2O2量を、蛍光によって検出した。データは、平均±SEM(n=6)を示す。活性化小膠細胞(コントロール)と比較したBMMから放出されたカタラーゼ−ポリイオン複合体またはカタラーゼによって分解されたH2O2量の統計的有意性を、以下のアスタリスクで示す:(*)p<0.05、(**)、p<0.005。
【図14B】ブロックコポリマー(2mg/ml;図14C)または「裸の」カタラーゼもしくはカタラーゼ−ポリイオン複合体(Z=1)(図14Bおよび図14D)をBMMにロードした。次いで、細胞を洗浄し、クレブスリンゲル緩衝液中で2時間インキュベートした。並行して、マウス小膠細胞を、200ng/mL TNF−α(48時間)(図14Bおよび図14C)または0.5μM N−α−syn(図14D)のいずれかで刺激した。次いで、放出された酵素とともに、BMMから回収した上清にAmplex RedおよびHRP溶液を補足し、それらを活性化小膠細胞に添加した。コントロール活性化小膠細胞を、新鮮な培地(図14B)または0.5μM凝集N−α−syn(図14D)とインキュベートした。小膠細胞によって生成され、BMMから放出されたカタラーゼによって分解されたH2O2量を、蛍光によって検出した。データは、平均±SEM(n=6)を示す。活性化小膠細胞(コントロール)と比較したBMMから放出されたカタラーゼ−ポリイオン複合体またはカタラーゼによって分解されたH2O2量の統計的有意性を、以下のアスタリスクで示す:(*)p<0.05、(**)、p<0.005。
【図14C】ブロックコポリマー(2mg/ml;図14C)または「裸の」カタラーゼもしくはカタラーゼ−ポリイオン複合体(Z=1)(図14Bおよび図14D)をBMMにロードした。次いで、細胞を洗浄し、クレブスリンゲル緩衝液中で2時間インキュベートした。並行して、マウス小膠細胞を、200ng/mL TNF−α(48時間)(図14Bおよび図14C)または0.5μM N−α−syn(図14D)のいずれかで刺激した。次いで、放出された酵素とともに、BMMから回収した上清にAmplex RedおよびHRP溶液を補足し、それらを活性化小膠細胞に添加した。コントロール活性化小膠細胞を、新鮮な培地(図14B)または0.5μM凝集N−α−syn(図14D)とインキュベートした。小膠細胞によって生成され、BMMから放出されたカタラーゼによって分解されたH2O2量を、蛍光によって検出した。データは、平均±SEM(n=6)を示す。活性化小膠細胞(コントロール)と比較したBMMから放出されたカタラーゼ−ポリイオン複合体またはカタラーゼによって分解されたH2O2量の統計的有意性を、以下のアスタリスクで示す:(*)p<0.05、(**)、p<0.005。
【図14D】ブロックコポリマー(2mg/ml;図14C)または「裸の」カタラーゼもしくはカタラーゼ−ポリイオン複合体(Z=1)(図14Bおよび図14D)をBMMにロードした。次いで、細胞を洗浄し、クレブスリンゲル緩衝液中で2時間インキュベートした。並行して、マウス小膠細胞を、200ng/mL TNF−α(48時間)(図14Bおよび図14C)または0.5μM N−α−syn(図14D)のいずれかで刺激した。次いで、放出された酵素とともに、BMMから回収した上清にAmplex RedおよびHRP溶液を補足し、それらを活性化小膠細胞に添加した。コントロール活性化小膠細胞を、新鮮な培地(図14B)または0.5μM凝集N−α−syn(図14D)とインキュベートした。小膠細胞によって生成され、BMMから放出されたカタラーゼによって分解されたH2O2量を、蛍光によって検出した。データは、平均±SEM(n=6)を示す。活性化小膠細胞(コントロール)と比較したBMMから放出されたカタラーゼ−ポリイオン複合体またはカタラーゼによって分解されたH2O2量の統計的有意性を、以下のアスタリスクで示す:(*)p<0.05、(**)、p<0.005。
【図15】図15は、MPTP処置マウスにおける125I標識カタラーゼ−ポリイオン複合体の分布を示すグラフである。マウスに、カタラーゼ−ポリイオン複合体(Z=1、50μCi/マウス)をロードしたBMM(10×106細胞/マウス)またはカタラーゼ−ポリイオン複合体のみ(コントロール群)を注射した。24時間後、マウスを屠殺し、種々の器官中の放射能量を測定した。データは、平均±SEM(n=4)を示す。カタラーゼ−ポリイオン複合体のみの群と比較したBMMロードしたカタラーゼ−ポリイオン複合体輸送の統計的有意性をアスタリスクで示す:(**)p<0.005。
【図16】図16は、BMMにロードし、MPTP中毒性マウスに静脈内注射したAlexa 680標識ポリペプチド−ポリイオン構造の長期にわたる生体分布の画像を示す。
【図17】図17は、カタラーゼをロードしたポリペプチド−ポリイオン構造を含むBMMの投与によるMPTP誘導性ドーパミン作動性神経喪失に対する神経保護を示すグラフである。コントロールマウスでNAAレベルの有意な減少が認められ、カタラーゼ−ポリイオン複合体/BMM処置マウスでわずかに増加した(n=4)。
【図18】図18は、末梢投与したCuZnSOD−ポリイオン複合体がICV Angll媒介性の血圧増加を阻害することを示すグラフである。ICV注射AngII後の平均動脈圧(MAP)ピークの変化を、無CuZnSODまたはCuZnSOD−ポリイオン複合体の脛動脈内投与の0、1、2、および5日後に測定した。
【図19】図19は、カタラーゼポリイオン複合体をロードしたBMMによるMPTP誘導性ドーパミン作動性神経喪失に対する神経保護を示すグラフである。
【図20】図20は、種々の架橋剤を使用したカタラーゼ/ポリイオン複合体のゲル遅延度アッセイの画像である。サンプルを、変性条件下(SDSを使用)でのポリアクリルアミドゲル(10%)のゲル電気泳動に供した。レーン:1−分子量マーカー;2−カタラーゼのみ;および3−EDCと架橋したポリイオン複合体;4−GAと架橋したポリイオン複合体;5−BS3と架橋したポリイオン複合体。
【図21】図21は、使用した種々のリンカーについてのSOD/ポリイオン複合体のゲル遅延度アッセイの画像である。サンプルを、変性条件下(SDSを使用)でのポリアクリルアミドゲル(10%)のゲル電気泳動に供した。レーン:1−分子量マーカー;2−SODのみ;3−非架橋ポリイオン複合体;および4−EDCと架橋したポリイオン複合体;5−GAと架橋したポリイオン複合体;6−BS3と架橋したポリイオン複合体。
【図22A】図22Aは、使用した種々のリンカーについてのカタラーゼ/SOD/ポリイオン複合体のゲル遅延度アッセイの画像である。サンプルを、変性条件下(SDSを使用)でのポリアクリルアミドゲル(10%)のゲル電気泳動に供した。レーン:1−非架橋複合体;2−GAと架橋したポリイオン複合体;3−EDCと架橋したポリイオン複合体;4−BS3と架橋したポリイオン複合体;および5−EDC−S−NHSと架橋したポリイオン複合体。カタラーゼに対する抗体を使用して視覚化を行った。
【図22B】図22Bは、種々の使用リンカーについてのカタラーゼ/SOD/ポリイオン複合体のゲル遅延度アッセイの画像である。サンプルを、変性条件下(SDSを使用)でのポリアクリルアミドゲル(10%)のゲル電気泳動に供した。レーン:1−非架橋複合体;2−GAと架橋したポリイオン複合体;3−EDCと架橋したポリイオン複合体;4−BS3と架橋したポリイオン複合体;および5−EDC−S−NHSと架橋したポリイオン複合体。SODに対する抗体を使用して視覚化を行った。
【図23】図23は、カタラーゼポリイオン複合体をロードしたLi−COR標識BMMの生体分布の画像を示す。BMMを、BALB/Cマウスから単離し、成熟まで(12日間)成長させ、Li−CORで標識し、カタラーゼポリイオン複合体とともに2時間ロードした。ロードしたBMMを、流動食で24時間保持した剪毛BALB/C(50mln/マウス)に静脈注射した。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明に従って、目的のタンパク質/ポリペプチドの部位特異的および/または持続的送達のための組成物および諸方法を提供する。より具体的には、該組成物は、目的のポリペプチドと, 目的のタンパク質の正味の電荷と逆の正味の電荷を有する合成ポリマーとのポリイオン複合体を含む。
【0010】
本発明の好ましい実施形態では、該複合体の合成ポリマーはブロックコポリマーである。より具体的には、該合成ポリマーは、少なくとも1つのポリイオンセグメントおよび少なくとも1つの非イオン性水溶性ポリマーセグメントを含むブロックコポリマーである。ブロックコポリマーは、最も簡潔には少なくとも2つの異なるポリマーセグメントの複合物(conjugate)と定義される(Tirrel,M.In:Interactions of Surfactants with Polymers and Proteins.Goddard E.D.and Ananthapadmanabhan,K.P.(eds.),CRC Press,Boca Raton,Ann Arbor,London,Tokyo,pp.59−122,1992)。最も簡潔なブロックコポリマー構造は、その末端で連結してA−B型ジブロックが得られる2つのセグメントを含む。その末端による2つ以上のセグメントのその後の結合(conjugation)により、A−B−A型トリブロック、A−B−A−B−型マルチブロック、またはさらなるマルチセグメントA−B−C−構造が得られる。1つまたはいくつかの反復単位が異なるポリマーセグメントに連結するブロックコポリマー中の主鎖を定義することができる場合、該コポリマーは、例えば、A(B)n型のグラフト構造を有する。より複雑な構造には、例えば、1つの中心に連結した2つ以上のポリマーセグメントを有する(AB)nまたはAnBmスターブロック(starblock)が含まれる。本発明の代表的なブロックコポリマーは、式A−BまたはB−A(式中、Aはポリイオンセグメントであり、Bは非イオン性水溶性ポリマーセグメントである)を有するであろう。該ブロックコポリマーのセグメントは、約2〜約1000個の反復単位またはモノマーを有することができる。
【0011】
複合体の好ましいサイズは、約5nm〜約500nm、より好ましくは約5nm〜約250nm、より好ましくは約10nm〜約150nm、さらにより好ましくは約10nm〜約140nm、さらにより好ましくは約20nm〜約100nmである。これらの複合体は凝集せず、生理学的pHおよびイオン強度の水溶液(例えば、リン酸緩衝化生理食塩水(pH7.4))中への分散後少なくとも1時間好ましいサイズ範囲内のままである。これらのサイズは、動的光散乱によって有効径(effective diameter)として測定することができる(例えば、Batrakova et al.(2007)Bioconjugate Chem.,18:1498−1506を参照のこと)。水溶液中での分散後、これらの複合体は安定なままであることが好ましい(すなわち、少なくとも2時間、好ましくは12時間、さらにより好ましくは24時間凝集および/または沈殿しない)。
【0012】
該ブロックコポリマーのポリイオンセグメントは、目的のタンパク質と逆の正味電荷を有する。例えば、目的のタンパク質が正味の負電荷を有する場合、ポリイオンセグメントは適切なpHで正味の正電荷を有するであろう。該ポリイオンセグメントは、ポリカチオン(すなわち、特定のpHで正味の正電荷を有するポリマー)またはポリアニオン(すなわち、特定のpHで正味の負電荷を有するポリマー)であり得る。特定の実施形態では、該ポリイオンセグメントは、少なくとも3電荷、好ましくは少なくとも10電荷、より好ましくは少なくとも15電荷を有する。好ましい実施形態では、該電荷は相互に近接している。実際、理論に拘束されないが、高分子電解質の電荷の間の距離が一定の臨界値未満である場合、溶液中に存在する小さな対イオンはかかる高分子電解質の鎖上に縮合し得ると考えられる。例えば、高分子電解質水溶液における「ビエルム長」は、約7Åである(Manning(1980)Biopolymers,19:37−59を参照のこと)。かかる対イオンは、高分子電解質の逆帯電したポリイオンとの反応中に外液に放出され、したがって、高分子電解質複合体の形成のための「駆動力(driving force)」を得ることができる(Kabanov et al.(2002)Structure,dispersion stability and dynamics of DNA and polycation complexes.In Pharmaceutical Perspectives of Nucleic Acid−Based Therapeutics(S.W.Kim,R.Mahato,Eds.)Taylor & Francis,London,New York,pp.164−189)。
【0013】
該ポリイオンセグメントの重合度は、典型的には、約10〜約100,000である。より好ましくは、重合度は、約20〜約10,000、さらにより好ましくは約10〜約1,000、さらにより好ましくは約10〜約200である。該ポリイオンセグメントと無関係に、該非イオン性水溶性ポリマーセグメントの重合度は、約10〜約100,000である。より好ましくは、該重合度は、約20〜約10,000、さらにより好ましくは約10〜約1,000、さらにより好ましくは約10〜約200である。
【0014】
該ポリイオンセグメントは、ポリカチオンセグメントおよびポリアニオンセグメントを含む。ポリカチオンセグメントの例としては、1つもしくは複数のモノマー(第一級アミン、第二級アミン、および/または第三級アミン(それぞれ部分的または完全に四級化し、それにより、第四級アンモニウム塩を形成することができる)が含まれるが、これらに限定されない)から誘導される単位を含むポリマー、コポリマー、およびそれらの塩が挙げられるが、これらに限定されない。これらのモノマーの例としては、カチオン性アミノ酸(例えば、リジン、アルギニン、ヒスチジン、およびオルニチンなど)、アルキレンイミン(例えば、エチレンイミン、プロピレンイミン、ブチレンイミン、ペンチレンイミン、ヘキシレンイミン、およびスペルミンなど)、ビニルモノマー(例えば、ビニルカプロラクタムおよびビニルピリジンなど)、アクリラートおよびメタクリラート(例えば、N,N−ジメチルアミノエチルアクリラート、N,N−ジメチルアミノエチルメタクリラート、N,N−ジエチルアミノエチルアクリラート、N,N−ジエチルアミノエチルメタクリラート、t−ブチルアミノエチルメタクリラート、アクリルオキシエチルトリメチルアンモニウムハライド、アクリルオキシエチル−ジメチルベンジルアンモニウムハライド、およびメタクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムハライドなど)、アリルモノマー(例えば、ジメチルジアリルアンモニウムクロリド)、脂肪族イオン、または複素環イオン、または芳香族イオンが挙げられる。
【0015】
該ポリカチオンおよびポリカチオンセグメントを、それ自体がカチオン性でなくてよいモノマー(例えば、4−ビニルピリジンなど)の重合によって生成し、次いで、モノマー単位の種々の化学反応(例えば、アルキル化など)によってポリカチオン形態に変換することができ、それにより、イオン性基が出現し得る。モノマー単位の不完全な変換により、イオン性基を持たない単位の一部を有するコポリマー(例えば、ビニルピリジンとN−アルキルビニルピリジニウムハライドとのコポリマーなど)を得ることができる。
【0016】
ポリカチオンセグメントは、2つ以上のモノマー単位型(カチオン性単位と少なくとも1つの他の単位型(例えば、カチオン性単位、アニオン性単位、双性イオン性単位、親水性非イオン性単位、および/または疎水性単位が含まれる)との組み合わせが含まれる)を含むコポリマーであり得る。かかるポリカチオンセグメントを、2つ以上の化学的に異なるモノマー型の共重合によって得ることができる。かかるコポリマーを使用する場合、他の成分と反応した場合に複合体が形成されるように、該荷電基を相互に十分に近接させるべきである。好ましい実施形態では、該ポリマーまたはポリマーブロックが事実上主にカチオン性のままであるように、非カチオン性単位の一部が比較的低い。該ポリカチオン含有ポリマーは、異なる構造の2つ以上のポリマー(異なる重合度、骨格構造、および/または官能基を含むポリマーなど)の混合物であり得る。
【0017】
ポリアニオンセグメントのとしては、1つもしくは複数のモノマー(不飽和エチレンモノカルボン酸、不飽和エチレンジカルボン酸、スルホン酸基、そのアルカリ金属塩、およびそのアンモニウム塩を含むエチレンモノマーが含まれる)に由来する単位を含むポリマーおよびそれらの塩が挙げられるが、これらに限定されない。これらのモノマーの例としては、アクリル酸、メタクリル酸、アスパラギン酸、α−アクリルアミドメチルプロパンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、シトラジン酸、シトラコン酸、trans−桂皮酸、4−ヒドロキシ桂皮酸、trans−グルタコン酸、グルタミン酸、イタコン酸、フマル酸、リノール酸、リノレン酸、マレイン酸、核酸、trans−β−ヒドロムコン酸、trans−trans−ムコン酸、オレイン酸、1,4−フェニレンジアクリル酸、ホスフェート2−プロペン−1−スルホン酸、リシノール酸、4−スチレンスルホン酸、スチレンスルホン酸、2−スルホエチルメタクリラート、trans−トラウマチン酸、ビニルスルホン酸、ビニルベンゼンスルホン酸、ビニルリン酸、ビニル安息香酸、およびビニルグリコール酸など、ならびにカルボキシル化デキストラン、スルホン酸化デキストラン、およびヘパリンなどが含まれる。ポリアニオンの例としては、ポリマレイン酸、ポリアミノ酸(例えば、ポリアスパラギン酸、ポリグルタミン酸、およびそれらのコポリマー)ポリアクリル酸、およびポリメタクリル酸などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0018】
該ポリアニオンおよびポリアニオンセグメントを、それ自体がアニオン性や親水性でなくてもよいモノマー(例えば、tert−ブチルメタクリラートまたはシトラコン酸無水物など)の重合によって生成し、次いで、モノマー単位の種々の化学反応(例えば、加水分解)によってポリアニオンに変換することができ、それにより、イオン性基が出現し得る。モノマー単位の不完全な変換により、イオン性基を持たない単位の一部を有するコポリマー(例えば、tert−ブチルメタクリラートとメタクリル酸とのコポリマーなど)を得ることができる。
【0019】
該ポリアニオンセグメントは、2つ以上のモノマー単位型を含むコポリマー(アニオン性単位と少なくとも1つの他の単位型(アニオン性単位、カチオン性単位、双性イオン性単位、親水性非イオン性単位および/または疎水性単位が含まれる)との組み合わせが含まれる)であり得る。かかるポリアニオンおよびポリアニオンセグメントを、2つ以上の化学的に異なるモノマー型の共重合によって得ることができる。かかるコポリマーを使用する場合、他の成分と反応した場合に複合体が形成されるように、該荷電基を相互に十分に近接させるべきである。好ましい実施形態では、該ポリマーまたはポリマーブロックの大部分が事実上アニオン性且つ親水性のままであるように、非アニオン性単位の一部が比較的低い。該ポリアニオン含有ポリマーは、異なる構造の2つ以上のポリマー(異なる重合度、骨格構造、および/または官能基を含むポリマーなど)の混合物であり得る。
【0020】
1つの好ましい実施形態では、該ポリイオンセグメントは、リジン、ヒスチジン、アルギニン、オルニチン、アスパラギン酸および/またはグルタミン酸、およびそれらの塩のポリマーまたはコポリマーからなる群から選択されるポリペプチドである。かかる合成ポリイオンの例としては、ポリリジン、ポリヒスチジン、ポリアルギニン、ポリオルニチン、ポリアスパラギン酸、ポリグルタミン酸、およびそれらの塩が挙げられる。別の好ましい実施形態では、ポリイオンセグメントは、ポリアクリル酸、ポリアルキレンアクリル酸、ポリアルキレンイミン、ポリエチレンイミン、ポリホスフェート、およびそれらの塩からなる群から選択される。
【0021】
該非イオン性水溶性ポリマーセグメントを、ポリエチレンオキシド、エチレンオキシドとプロピレンオキシドとのコポリマー、ポリサッカリド、ポリアクリルアミド、ポリグリセロールグリセロール、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルピリジンN−オキシド、ビニルピリジンN−オキシドとビニルピリジンとのコポリマー、ポリオキサゾリン、およびポリアクロイルモルホリン、またはその誘導体からなる群から選択することができる。好ましくは、非イオン性ポリマーセグメントは、無毒且つ非免疫原性である。特定の実施形態では、該水溶性ポリマーは、ポリ(エチレンオキシド)(PEO);ポリ(エチレングリコール)(PEG);またはエチレンオキシドとプロピレンオキシドとのコポリマーである。該非イオン性水溶性ポリマーセグメントがポリ(エチレンオキシド)である場合、かかるポリマーの好ましい分子量は、約300〜約20,000、より好ましくは約1,500〜約15,000、さらにより好ましくは約2,000〜約10,000、さらにより好ましくは約4,000〜約10,000である。
【0022】
該ポリイオンセグメントおよび非イオン性水溶性ポリマーセグメントは、異なる末端基を含むことができる。例えば、該合成方法により、異なる末端基を含むことができる。
【0023】
本発明の複合体は、ナノスケールサイズの粒子に自発的に自己集合する。理論に拘束されないが、該形成された粒子はコアシェル形態を有すると考えられる。該粒子のコアはタンパク質−ポリイオン複合体を含み、該親水性シェルは該コポリマーの非イオン性水溶性セグメントを含む。実際、該ポリイオン電荷の中和により、疎水性ドメインが形成され、水媒体中で分離する傾向がある。しかしながら、該水溶性非イオン性セグメントは、凝集および巨視的相分離を防止する。結果として、これらの複合体は、ナノサイズの粒子に自己集合し、安定な水分散液を形成する。
【0024】
目的のポリペプチドまたはタンパク質のための保護ナノコンテナ(protective nanocontainer)を構築するために、ブロックコポリマーを、ポリイオンセグメント(例えば、ポリエチレンイミン(PEI、2,000Da))と非イオン性水溶性セグメント(例えば、ポリ(エチレンオキシド)(PEO、10,000Da))との結合によって合成する(Vinogradov et al.(1999)Bioconjug.Chem.,10:851−60)。複合体を、緩衝液(例えば、リン酸緩衝生理食塩水(pH 7.4))中での目的のタンパク質の溶液(例えば、カタラーゼ(1mg/ml))のブロックコポリマー溶液(例えば、PEI−PEG(2mg/ml))に添加することによって形成し、わずかに乳白色の分散液を生成することができる。
【0025】
特定の実施形態では、該粒子を、生理学的なpH7.4の等張液中の体内の細胞に投与する。しかしながら、該複合体を、投与前にpH7.4未満またはpH7.4超で調製することができる。本発明の多くの目的のポリペプチドは、陽性基および陰性基の両方を含む両性高分子電解質であると認識される。かかるポリペプチドの陽性基および陰性基のバランスは、その化学構造および外液のpHに依存する。等電点(pI)未満のpHで、該ポリペプチドは正に帯電し得る。pIを超えるpHで、該ポリペプチドは負に帯電し得る。したがって、本発明の複合体を、pH未満でのポリペプチドのポリアニオンとの反応によって生成することができる。これらの複合体を、pIを超えるポリペプチドのポリカチオンとの反応によって調製することもできる。これらの複合体の調製後、溶液のpHを、さらなる投与に望ましいpH(例えば、pH7.4)に変更することができる。いくつかの場合、該ポリペプチドは、相互に近接して存在する複数の陽性基または陰性基を有する部位またはドメインを含むことができる。かかるポリペプチドは、pH未満およびpH超の両方で正電荷のポリイオン(例えば、ポリペプチド中に複数の陰性基を有する部位の場合のポリカチオンまたは複数の陽性基を有する部位の場合のポリアニオン)と複合体を形成することができる。
【0026】
該複合体のコアを架橋することができる。該架橋は、該ポリペプチド、またはポリイオン、またはポリペプチドおよびポリイオンの両方の官能基を化学的に連結することができる(ポリペプチドとポリイオンとの間の連結が含まれる)。該架橋剤は切断性または分解性を示し、体内または細胞内で切断することができる。当該分野で公知の種々の架橋方法を架橋に適用することができる(G.Hermanson,Bioconjugate Techniques,Elsevier,1996,785 p.)。架橋剤の例としては、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(DEC)、グルタルアルデヒド(GA)、ホルムアルデヒド、ジビニルスルホン、ポリ酸無水物、ポリアルデヒド、多価アルコール、カルボジイミド、エピクロロヒドリン、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ブタンジオールジグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ビス−またはポリ−エポキシ架橋剤(例えば、1,2,3,4−ジエポキシブタンまたは1,2,7,8−ジエポキシオクタン)およびG.Hermanson(Bioconjugate Techniques,Elsevier,1996)で引用された架橋剤が挙げられるが、これらに限定されない。特定の実施形態では、該ポリペプチド−ポリイオン複合体の架橋比は、約40%〜約75%、好ましくは約40%〜約60%、より好ましくは約40%〜約50%である。該ポリペプチド−ポリイオン複合体中の過剰なブロックコポリマーの存在により、複合体安定性に必要な架橋比を減少し得る。
【0027】
本発明のポリペプチド−ポリイオン複合体を、哺乳動物被験体、特にヒトに投与することができる。本発明のポリペプチド−ポリイオン複合体は、特に、患者が神経変性または神経炎症性の疾患または障害を有する場合、BBBを通過して目的のポリペプチドをCNSに送達させることができることを以下に示す。理論に拘束されないが、該ポリペプチド−ポリイオン複合体の粒子を、哺乳動物被験体の身体に投与後、脳に到達することができる循環細胞に取り込むことができ、ポリペプチドの一部がこれらの細胞によって脳に送達される。より具体的には、該循環細胞は、免疫系細胞(単球またはマクロファージ、好ましくは骨髄由来単球、樹状細胞、リンパ球、好ましくはT細胞、好中球、好酸球、好塩基球、およびその組み合わせなど)であり得る。
【0028】
さらに、理論に拘束されないが、本発明の複合体は細胞内でポリペプチドを保護すると考えられる。同時に、ブロックコポリマーによって誘導される特異的コア−シェル構造に起因して、該複合体は宿主細胞に対して無毒であり、細胞の機能的特性を損なわない。特に、該複合体は、細胞が疾患部位に進行する能力を損なわない。
【0029】
理論に拘束されないが、複合体の循環時間が長いか、循環細胞中に捕捉され得るとも考えられる。結果として、BBBへの循環複合体の曝露が増加し、脳に送達されるポリペプチドの注射用量の比率が増加し得る。多くの病態により、BBBの透過性が減少し得る。これにより、ポリペプチドの脳送達をさらに増加させることができる。
【0030】
さらに、理論に拘束されないが、複合体が神経細胞および/または神経末梢突起に結合するかこれらに侵入し、逆行性輸送として公知の過程(Zweifel et al.(2005)Nat.Rev.Neurosci.,6:615−625;米国特許出願公開第2003/0083299号)または類似の過程によって脳に輸送することができるとも考えられる。本発明の複合体、特に、コポリマー中のイオン性ポリマー鎖と非イオン性ポリマー鎖との組み合わせの固有の構造により、該ポリペプチドを保護し、細胞および組織の損傷を最小にし、複合体の脳への自由な移動を容易にする。
【0031】
本発明のポリペプチド−ポリイオン複合体を、非経口(皮下、静脈内、および腹腔内が挙げられるが、これらに限定されない)で投与することができる。さらに、該ポリペプチド−ポリイオン複合体を、神経系に、特に、髄腔内、または脳内、または硬膜外に直接投与することができる。該ポリペプチド−ポリイオン複合体を、筋肉内、または皮内、または頸動脈内に投与することもできる。異なる投与方法の組み合わせを使用することができる。
【0032】
本発明の別の実施形態によれば、該ポリペプチド−ポリイオン複合体を細胞にロードし、次いで、これを治療薬として患者に投与することができる。より具体的には、該細胞は循環細胞、特に免疫系細胞である。免疫系細胞としては、単球、マクロファージ、骨髄由来単球、樹状細胞、リンパ球、T細胞、好中球、好酸球、好塩基球、および/またはその組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。ロードした該細胞は、特に該患者が神経変性または神経炎症性の疾患または障害を有する場合、BBBを通過して目的のポリペプチドを送達させることができる。当該分野で利用可能な細胞単離および分離技術を使用して、該細胞を哺乳動物被験体から単離することができる。以下の記載のように、該細胞の該ポリペプチド−ポリイオン複合体とのインキュベーションによって該細胞に該ポリペプチド−ポリイオン複合体をロードすることができる。ロードした該細胞を、非経口で(皮下、静脈内、および腹腔内が挙げられるが、これらに限定されない)投与することができる。これに加えて、ロードした該細胞を、神経系に、特に、髄腔内、または脳内、または硬膜外に直接投与することができる。該ポリペプチド−ポリイオン複合体を、筋肉内、または皮内、または頸動脈内に投与することもできる。異なる投与方法の組み合わせを使用することができる。
【0033】
星状膠細胞および内皮細胞との脳単核食細胞(MP;血管周囲および実質性マクロファージおよび小グリア細胞)の活性化によって実行される神経炎症は、パラクリン経路を介して、非常に多岐にわたる疾患(アルツハイマー病(AD)およびパーキンソン病(PD)、ハンチントン病(HD)、HIV関連神経認知障害(HAND)、および海綿状脳症および卒中など)における神経損傷を加速するように作用し得る。これらの障害では、CNS炎症性浸潤は複雑且つ多面的である。先天免疫の最初のレスポンダー(responder)またはMP細胞要素がカスケードを設定し、その後に適応免疫系の活性化および漸増に関与し、最終的に、神経変性に関与する。結局、小グリア細胞は、損傷に応答するCNS中の一次MPであり、その主な機能は脳の保護である。活性化小グリア細胞は、神経毒性因子(キノリン酸、スーパーオキシドアニオン、マトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)、一酸化窒素、アラキドン酸、およびその代謝産物、ケモカイン、炎症促進性サイトカイン、および興奮毒(グルタミン酸塩が含まれる)が含まれる)の産生による神経変性に関連する炎症過程に関与する。他方では、小グリア細胞の神経保護機能は、ニューロトロフィンを生成して細胞外間隙中に存在する興奮毒を除去および排除する能力によって調節することができる。実際、脳損傷後の脳生存は、小グリア細胞活性によって影響を確実に受けることが公知である。本発明は特定の理論に制限されないが、これらの共通の神経変性機構を、ポリペプチド−ポリイオン複合体の免疫細胞輸送を使用した治療効果のために使用することができると考えられる。好ましい実施形態では、単核食細胞の辺縁趨向および血管外遊走によってBBBを通過する並外れた能力を有する単核食細胞を使用する。
【0034】
本発明の上記実施形態の代表的な方法は、以下の工程を含む:患者から標的細胞を単離する工程、ポリペプチド−ポリイオン複合体と該単離細胞とをインキュベーションする工程、および該患者に該細胞を戻す工程。本発明は特定の理論に制限されないが、このアプローチのための1つの要因は、ポリペプチド−ポリイオン複合体が食細胞のリソソーム内で非常に攻撃的なタンパク質分解からその被輸送物を保護する能力であると考えられる。コア−シェルポリペプチド−ポリイオン複合体は、循環細胞がBBBを通過してペイロード(payload)を脳に輸送する能力を変化させないとさらに考えられる。
I.定義
【0035】
本発明の理解を深めるために、以下の定義を提供する。
【0036】
本明細書中で使用する場合、用語「ポリマー」は、2つ以上の反復する単位またはモノマーの化学結合から形成される分子を示す。用語「ブロックコポリマー」は、最も簡潔には、各ポリマーセグメントが2つ以上の同種の隣接単位を含む少なくとも2つの異なるポリマーセグメントの複合物をいう。
【0037】
用語「単離タンパク質」または「単離および精製タンパク質」は、本明細書中で時折使用される。この用語は、主に、本発明の単離核酸分子の発現によって生成されたタンパク質をいう。あるいは、この用語は、「実質的に純粋な」形態で存在するように天然に会合する他のタンパク質から十分に分離されたタンパク質をいうことができる。「単離した」は、他の化合物または物質との人工混合物もしくは合成混合物、または基本的活性を妨害せず、例えば、不完全な精製または安定剤の添加に起因して存在し得る夾雑物の存在を排除することを意味しない。
【0038】
「ポリペプチド」および「タンパク質」を本明細書中で時折交換可能に使用し、アミノ酸の分子鎖を示す。用語「ポリペプチド」は、ペプチド、オリゴペプチド、およびタンパク質を含む。本用語には、ポリペプチドの発現後修飾物(例えば、グリコシル化、アセチル化、およびリン酸化など)も含まれる。さらに、タンパク質フラグメント、アナログ、変異タンパク質、またはバリアントタンパク質、および融合タンパク質などは、ポリペプチドの意味の範囲内に含まれる。
【0039】
用語「単離した」は、「実質的に純粋な」形態で存在するように天然に会合する環境から十分に分離されたタンパク質、または核酸、または化合物、または細胞をいうことができる。「単離した」は、他の化合物または物質との人工混合物もしくは合成混合物、または基本的活性を妨害せず、例えば、不完全な精製に起因して存在し得る夾雑物の存在を排除することを必ずしも意味しない。
【0040】
「薬学的に許容可能な」は、連邦政府もしくは州政府の規制機関による承認、または動物、より詳細にはヒトでの使用について米国薬局方または他の一般的に認識されている薬局方に列挙されていることを示す。
【0041】
「キャリア」は、例えば、本発明の活性薬剤と共に投与される希釈剤、アジュバント、防腐剤(例えば、チメロゾール(Thimersol)、ベンジルアルコール)、抗酸化剤(例えば、アスコルビン酸、メタ重亜硫酸ナトリウム)、可溶化剤(例えば、Tween80、ポリソルベート80)、乳化剤、緩衝液(例えば、トリスHCl、酢酸緩衝液、リン酸緩衝液)、水、水溶液、オイル、増量剤(例えば、ラクトース、マンニトール)、賦形剤、補助剤またはビヒクルをいう。適切な薬学的キャリアは、"Remington‘s Pharmaceutical Sciences" by E.W.Martin(Mack Publishing Co.,Easton,PA);Gennaro,A.R.,Remington:The Science and Practice of Pharmacy,20th Edition,(Lippincott,Williams and Wilkins),2000;Liberman,et al.,Eds.,Pharmaceutical Dosage Forms,Marcel Decker,New York,N.Y.,1980;およびKibbe,et al.,Eds.,Handbook of Pharmaceutical Excipients(3rd Ed.),American Pharmaceutical Association,Washington,1999に記載されている。
II.治療薬
【0042】
本発明の好ましい実施形態が、ポリマー複合体内に含まれるタンパク質を含む一方で、該ポリマー複合体への目的の他の治療薬または化合物をカプセル化することも本発明の範囲内である。かかる薬剤または化合物としては、ポリペプチド、ペプチド、核酸、および化合物(合成および天然の薬物など)が挙げられるが、これらに限定されない。好ましい実施形態では、該治療薬は、ポリペプチドまたはタンパク質である。本発明の説明を通してポリペプチド−ポリイオン複合体を参照している一方で、タンパク質の使用も本発明の範囲内であることが意図される。多くの場合、用語「ポリペプチド」および「タンパク質」を、本明細書中で交換可能に使用する。
【0043】
本発明の好ましい実施形態では、ポリマー複合体中の目的のタンパク質は治療タンパク質であり、すなわち、疾患、障害、病変、および/またはこれらに関連する症状の改善および/または治癒を達成する。タンパク質としては、(特に、CNSの)神経障害(神経変性疾患、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病(HD)、卒中、外傷、感染症、髄膜炎、脳炎、グリオーマ、癌(脳転移が含まれる)、HIV−1関連認知症(HAD)、HIV関連神経認知障害(HAND)、麻痺、筋萎縮性側索硬化症(ALSまたはルー・ゲーリック病)、多発性硬化症(MS)、CNS関連心血管疾患、プリオン病、肥満、代謝障害、炎症性疾患、代謝障害、およびリソソーム蓄積症(LSD;ゴーシェ病、ポンぺ病、ニューマン・ピック、ハンター症候群(MPS II)、ムコ多糖症I(MPS I)、GM2−ガングリオシドーシス、ゴーシェ病、サンフィリッポ症候群(MPS HIA)、テイ・サックス病、サンドホフ病、クラッベ病、異染性白質ジストロフィ、およびファブリー病などであるが、これらに限定されない)が挙げられるが、これらに限定されない)に対して治療的価値が有し得る。治療活性タンパク質としては、脳への投与によって疾患、障害、病変、および/またはこれらに関連する症状の改善および/または治癒を達成することができる酵素、抗体、ホルモン、成長因子、他のポリペプチドが挙げられるが、これらに限定されない。本発明で有用な神経活性ポリペプチドとしては、内分泌因子、成長因子、視床下部放出因子、神経栄養因子、パラクリン因子、神経伝達物質ポリペプチド、上記ポリペプチド(神経栄養因子および成長因子など)のいずれかに結合する抗体および抗体フラグメント、これらのポリペプチドの受容体(神経栄養因子受容体など)に結合する抗体および抗体フラグメント、サイトカイン、エンドルフィン、ポリペプチドアンタゴニスト、CNS細胞によって発現した受容体のアゴニスト、およびリソソーム蓄積症に関与するポリペプチドなどが挙げられるが、これらに限定されない。特定の実施形態では、該治療タンパク質はCNSでその効果を発揮する。別の特定の実施形態では、該治療タンパク質は、それのみでBBBを通過しない。
【0044】
特異的タンパク質の例としては、カタラーゼ、テロメラーゼ、スーパーオキシドジスムターゼ(SOD)、グルタチオンペルオキシダーゼ、グルタミナーゼ、サイトカイン、エンドルフィン(例えば、エンケファリン)、成長因子(例えば、上皮成長因子(EGF)、酸性および塩基性線維芽細胞成長因子(aFGFおよびbFGF)、インスリン様成長因子I(IGF−I)、脳由来神経栄養因子(BDNF)、グリア由来神経栄養因子(GDNF)、血小板由来成長因子(PDGF)、血管成長因子(VGF)、神経成長因子(NGF)、インスリン様成長因子−II(IGF−II)、腫瘍壊死因子−B(TGF−B)、白血病阻止因子(LIF)、および種々のインターロイキンなど)、抗アポトーシス性タンパク質(BCL−2およびPI3キナーゼなど)、アミロイドβ結合剤(例えば、抗体)、α−、β−、および/またはγ−セクレターゼのモジュレーター、血管作用性腸管ペプチド、レプチン、酸性α−グルコシダーゼ(GAA)、酸性スフィンゴミエリナーゼ、イズロン酸−2−スルファターゼ(iduronate−2−sultatase)(I2S)、α−L−イズロニダーゼ(IDU)、β−ヘキソサミニダーゼA(HexA)、酸性β−グルコセレブロシダーゼ、N−アセチルガラクトサミン−4−スルファターゼ、α−ガラクトシダーゼA、および神経伝達物質(例えば、Schapira,A.H.(2003)Neurology 61.S56−63;Ferrari et al.(1990)Adv Exp Med Biol.265:93−99;Ferrari et al .(1991)J Neurosci Res.30:493−497;Koliatsos et al.(1991)Ann Neurol.30:831−840;Dogrukol−Ak et al .(2003)Peptides 24:437−444;Amalfitano et al.(2001)Genet Med.3:132−138;Simonaro et al.(2002)Am J Hum Genet.71:1413−1419;Muenzer et al.(2002)Acta Paediatr Suppl .91:98−99;Wraith et al.(2004)J Pediatr.144:581−588;Wicklow et al.(2004)Am J Med Genet.127A:158−166;Grabowski(2004)J Pediatr.144:S15−19;Auclair et al.(2003)Mol Genet Metab.78:163−174;Przybylska et al .(2004)J Gene Med.6:85−92を参照のこと)が挙げられるが、これらに限定されない。リソソーム蓄積症は、酵素が欠損して細胞の天然のリサイクリング機能が阻止される遺伝性遺伝子欠損である(Enns and Huhn,(2008)Neurosurg.Focus 24:E12)。これにより、種々の進行性の身体的および/または知的退行が発症し、これらの欠損酵素の脳への送達によってこれらの疾患を治療することができると考えられる。リソソーム蓄積症に関与する種々の酵素または欠損酵素の機能を果たすことができる酵素を、本発明の諸方法を使用して送達させることができる。
【0045】
1つの実施形態では、本発明を、ブチリルコリンエステラーゼまたはアセチルコリンエステラーゼ、コリンエステラーゼ再賦活薬(例えば、オキシム化合物)、有機リン酸塩のスカベンジャーおよびカルバミン酸塩インヒビターの脳送達に基づいた兵器剤(warfare agent)由来の急性神経毒性に対する治療方法として使用することができる。ブチリルコリンエステラーゼ(BChE)は多くのエステル含有薬物(コカインおよびサクシニルコリンなど)も加水分解するので、本発明の複合体内のBChEは、コカイン嗜癖および毒性に対して治療的価値を有する(例えば、Carmona et.al.(1999)Drug Metab.Dispos.,28:367−371;Carmona(2005)Eur.J.Pharmacol.,517:186−190)。
【0046】
本発明の諸方法は、1つまたはいくつかの有用なポリペプチドを含むポリペプチド複合体の使用または単独または細胞とともに同時または個別に投与することができる異なるポリペプチドを含むいくつかの複合体の使用を含む。該複合体は、同一の組成物中に存在するか、個別の組成物中に存在し得る。
III.投与
【0047】
本明細書中に記載のポリペプチド−ポリイオン複合体および該ポリペプチド−ポリイオン複合体を含む細胞を、一般に、薬学的調製物として患者に投与する。本明細書中で用語「患者」を使用する場合、それは、ヒト被験体または動物被験体をいう。これらのポリペプチド−ポリイオン複合体およびこれを含む細胞を、医師の指導の下で治療的に使用することができる。
【0048】
該ポリペプチド−ポリイオン複合体および/または本発明のポリペプチド−ポリイオン複合体を取り込んだ細胞を含む薬学的調製物を、任意の薬学的に許容可能なキャリアとの投与のために都合よく処方することができる。例えば、複合体および細胞を、許容可能な溶剤(水、または緩衝化生理食塩水、またはエタノール、またはポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、および液体ポリエチレングリコールなど)、またはジメチルスルホキシド(DMSO)、またはオイル、または界面活性剤、または懸濁剤、またはその適切な混合物など)を使用して処方することができる。選択した溶剤中の該ポリペプチド−ポリイオン複合体および/または該細胞の濃度は様々であってよく、溶剤を薬学的調製物の所望の投与経路に基づいて選択することができる。いかなる慣用の溶剤または薬剤が投与すべきポリペプチド−ポリイオン複合体または細胞と不適合でない限りは、薬学的調製物におけるその使用が意図される。
【0049】
特定の患者への投与に適切な本発明のポリペプチド−ポリイオン複合体および/または細胞の用量および投薬レジメンを、患者の年齢、性別、体重、一般的病状、ならびにポリペプチド−ポリイオン複合体または細胞が投与される特定の容態およびその重症度を考慮する医師が決定することができる。該医師は、投与経路、薬学的キャリア、およびポリペプチド−ポリイオン複合体または細胞の生物活性も考慮することができる。
【0050】
適切な薬学的調製物の選択はまた、選択した投与方法に依存する。例えば、該ポリペプチド−ポリイオン複合体または本発明のポリペプチド−ポリイオン複合体を含む細胞を、血液脳関門に近接した領域へ直接注射することによって投与することができる。この例では、薬学的調製物は、注射部位と適合する溶剤中に分散させたポリペプチド−ポリイオン複合体または細胞を含む。
【0051】
本発明のポリペプチド−ポリイオン複合体または細胞を、血流への静脈内注射、または経口投与、または皮下注射、もしくは筋肉内注射、もしくは腹腔内注射などの任意の方法によって投与することができる。注射用の薬学的調製物は、当該分野で公知である。ポリペプチド−ポリイオン複合体または細胞の投与方法として注射を選択する場合、十分な量の分子または細胞がその標的細胞に到達して生物学的効果を発揮することを確認する工程を取らなければならない。
【0052】
薬学的に許容可能なキャリアとの本質的混合物中の有効成分としての本発明の複合体または細胞を含む薬学的組成物を、従来の薬学的配合技術にしたがって調製することができる。該キャリアは、投与(例えば、静脈内、経口、直接注射、頭蓋内、および硝子体内)に望ましい調製物の形態に応じて広範な種々の形態を取ることができる。
【0053】
本発明の薬学的調製物を、投与を容易にし、投薬量を均一にするために、投薬単位形態で処方することができる。本明細書中で使用する場合、「投薬単位形態」は、治療を受ける患者に適切な薬学的調製物の物理的に分離した単位をいう。各投薬量は、選択された薬学的キャリアと組み合わせた場合に所望の効果が得られるように計算された有効成分量を含むべきである。その適切な投薬単位を決定する手順は、当業者に周知である。
【0054】
投薬単位を、該患者の体重に基づいて比例的に増減させることができる。特定の病的状態を緩和するのに適切な濃度を、当該分野で公知の投薬濃度曲線によって決定することができる。
【0055】
本発明によれば、ポリペプチド−ポリイオン複合体またはこの複合体を含む細胞の投与に適切な投薬単位を、動物モデルにおける分子または細胞の毒性の評価によって決定することができる。種々の濃度のポリペプチド−ポリイオン複合体または細胞を含む薬学的調製物をマウスに投与することができ、該処置の結果として認められた有利な結果および副作用に基づいて最小および最大の投薬量を決定することができる。適切な投薬単位を、他の標準的な薬物と組み合わせた該ポリペプチド−ポリイオン複合体または細胞の治療有効性によって決定することもできる。ポリペプチド−ポリイオン複合体の投薬単位を、検出された効果にしたがって個別にまたは各処置と組み合わせて決定することができる。
【0056】
該ポリペプチド−ポリイオン複合体または細胞を含む薬学的調製物を、病的症状が軽減または緩和するまでの適切な間隔(例えば、少なくとも1日2回以上)で投与し、その後に投薬量を維持レベルに減少させることができる。特定の症例における適切な間隔は、通常、患者の容態に依存する。
【0057】
以下の実施例は、本発明の例示的な実施方法を提供し、本実施例は、本発明の範囲を制限することを決して意図しない。
【0058】
実施例
【実施例1】
【0059】
アルツハイマー病およびパーキンソン病(ADおよびPD)(Brinton,R.D.(1999)Int.J.Fertil.Womens Med.,44:174−85;Gozes,I.(2001)Trends Neurosci.,24:700−5;Kroll et al.(1998)Neurosurgery 42:1083−100)、感染症(髄膜炎、脳炎、プリオン病、およびHIV関連認知症)(Bachis et al.(2005)Ann.N.Y.Acad.Sci .,1053:247−57;Wang et al.(2003)Virology 305:66−76)、卒中(Koliatsos et al.(1991)Ann.Neurol.,30:831−40;Dogrukol−Ak et al.(2003)Peptides 24:437−44)、リソソーム蓄積症(Desnick et al.(2002)Nat.Rev.Genet.,3:954−66;Urayama et al.(2004)Proc.Natl.Acad.Sci.,101:12658−63)、肥満(Banks,W.(2003)Curr.Pharm.Des.,9:801−809;Banks et al.(2002)J.Drug Target.,10:297−308)、およびCNSの他の代謝性疾患および炎症性疾患中の罹患脳組織への治療用ポリペプチドの送達が早急に必要であり、この必要性はどれだけ誇張してもしすぎることはない。
【0060】
神経系の代謝性疾患および変性疾患の重要な要素は、炎症を含む(Perry et al.(1995)Curr.Opin.Neurobiol.,5:636−41)。かかる炎症活性は深刻である。何故なら、この炎症活性によって炎症誘発性生成物および活性酸素種(ROS)が過剰に産生され、これにより、部分的に細胞死および神経変性が起こるからである。炎症誘発性サイトカインおよびエイコサノイドの産生または形成を阻害するターゲティングされた抗酸化剤または薬物の使用などによって疾患中に神経炎症活性に影響を及ぼすことにより、ROSおよび他の神経毒のレベルを減少させ、それにより、疾患の転帰を改善することができる(Prasad,et al.(1999)Curr.Opin.Neurol.,12:761−70)。しかし、薬物がBBBを透過するだけでなく、進行中の疾患機構に影響を及ぼすのに十分な濃度に至らなければならないので、かかるアプローチは制限されている。さらに、炎症機構が疾患初期の事象の可能性が高いので、治療方法を初期且つ頻繁に使用しなければならない。薬物送達の制限は、神経系障害の新規の治療パラダイムの開発で直面する主な障壁の1つである。
【0061】
かかる疾患の1つにはPDがあり、これは65歳以上の第2の最も一般的な神経変性障害である。この疾患は、SNpc内のドーパミン作動性ニューロンの喪失および線条体に対するその神経支配に起因する神経伝達物質ドーパミンの欠如によって特徴づけられる。PD神経病理学は、脳の炎症、小グリア細胞活性化、およびその後の分泌性神経毒性活性(細胞損傷および細胞死において重要な役割を果たすROS産生が含まれる)を含む(McGeer et al.(1988)Neurology 38:1285−91;Busciglio et al.(1995)Nature 378:776−9;Ebadi et al.(1996)Prog.Neurobiol.,48:1−19;Wu et al.(2003)Proc.Natl.Acad.Sci.,100:6145−50)。PD脳は、抗酸化性酵素および抗酸化剤レベルが減少し(Ambani et al.(1975)Arch.Neurol.,32:114−8;Riederer et al.(1989)J.Neurochem.,52:515−20;Abraham et al.(2005)Indian J.Med.Res.,121:111−5)、それにより、酸化ストレスおよび関連する神経変性を管理する能力が減少する。多くの証拠によって、PDの実験および動物モデルにおいて抗酸化剤が炎症反応を阻害し、ドーパミン作動性ニューロンを保護することができるという概念が支持されている(Wu et al.(2002)J.Neurosci.,22:1763−71;Du et al.(2001)Proc.Natl.Acad.Sci.,98:14669−74;Kurkowska−Jastrzebska et al.(2002)Int.Immunopharmacol .,2:1213−8;Teismann et al.(2001)Synapse 39:167−74;Ferger et al.(1999)Naunyn Schmiedebergs Arch.Pharmacol.,360:256−61;Ferger et al.(1998)Naunyn Schmiedebergs Arch.Pharmacol.,358:351−9;Peng et al.(2005)J.Biol.Chem.,280:29194−8)。カタラーゼは、全ての公知の酵素で最も高い代謝回転率の1つで過酸化水素(公知のROS)の水と酸素分子への変換を触媒する。多くの証拠により、抗酸化剤が炎症反応を阻害し、in vitroおよびin vivoでドーパミン作動性ニューロンを最高90%保護することができることが示唆されている(Wu et al.(2002)J.Neurosci.,22:1763−71;Du et al.(2001)Proc.Natl.Acad.Sci.,98:14669−74;Kurkowska−Jastrzebska et al.(2002)Int.Immunopharmacol .,2:1213−8;Teismann et al.(2001)Synapse 39:167−74;Ferger et al.(1999)Naunyn.Schmiedebergs Arch.Pharmacol.,360:256−61;Ferger et al.(1998)Naunyn.Schmiedebergs Arch.Pharmacol.,358:351−9;Peng et al.(2005)J.Biol.Chem.,280:29194−8)。PDのin vitroモデルでは、カタラーゼは、ROSの毒作用から初代培養小脳顆粒細胞を救済することが示された(Prasad et al.(1999)Curr.Opin.Neurol.,12:761−70;Gonzalez−Polo et al.(2004)Cell Biol.Int.,28:373−80)。さらに、低分子量カタラーゼアクチベーターであるラサギリンは、PDマウスモデルにおいて神経保護を誘導した(Maruyama et al.(2002)Neurotoxicol .Teratol.,24:675−82)。低分子量抗酸化剤を使用した臨床試験はほとんど行われておらず、これらの臨床試験では、PD進行速度の阻害のためにR−トコフェロールおよびデプレニルが最も広く使用されている(Group,T.P.S.(1993)N.Engl.J.,328:176−183)。しかし、上記のように、ほとんどの試験で有意な改善を示すことができなかった。これは、BBBを通過するR−トコフェロールの輸送量の制限および疾患発症後の薬物を使用した時期に起因する(Pappert et al.(1996)Neurology,47:1037−42)。
【0062】
材料と方法
材料。ウシ肝臓由来のカタラーゼ、ポリエチレンイミン(PEI)(2K、分岐、50%水溶液)、スルホローダミン−B(SRB)、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、Sephadex G−25、およびTriton X−100を、Sigma−Aldrich(St−Louis,MO)から購入した。メトキシポリ(エチレングリコール)エポキシ(Me−PEG−エポキシ)を、Shearwater Polymer Inc.,Huntsville,ALから購入した。
【0063】
MPTP。1−メチル−4−フェニル−1,2,3,6−テトラヒドロピリジン(MPTP)−中毒症レシピエントC57BL/6について、マウスを記載のように処置した(Benner et al.(2004)Proc.Natl.Acad.Sci.,101:9435−40)。12時間後、MPTP処置マウスに、50μCi/マウスの125I標識ポリペプチド−ポリイオン複合体を静脈注射した。24時間後、マウスを屠殺し、主な器官(脳、脾臓、肝臓、肺、および腎臓)中の放射量を、1480γカウンターWizard 3(Perkin−Elmer Life Sciences,Shelton,CT)によって検出した。酵素の送達量を、全器官の注射用量に対する比率として示した。
【0064】
PEI−PEG複合物。コポリマーを、変更した手順(Nguyen et al .(2000)Gene Ther.,7:126−38)を使用して、PEIとMe−PEG−エポキシとの結合によって合成した。簡潔に述べれば、Me−PEG−エポキシ水溶液を5%PEIを含む水に添加し、室温で一晩インキュベートした。過剰なPEIから(および低分子量残渣から)精製するために、得られた複合物を、カットオフ6000〜8000DaのSpectraPoreメンブレン中で水(2回置換)に対して48時間透析し、次いで、真空下で濃縮した。最終精製のために、複合物を20mLの100%メタノールに溶解し、次いで、400mLのエーテルに滴下した。該沈殿物を遠心分離し(400g、5分間)、エーテルで2回洗浄し、エキシケーター(exicator)中で乾燥させた。該生成物の詳細な特徴づけを、報告されたように分光光度法および質量分析によって行った(Nguyen et al.(2000)Gene Ther.,7:126−38)。
【0065】
ブロックイオノマー複合体。所定量のカタラーゼ(1mg/mL)およびブロックコポリマー(2mg/mL)を、個別に室温のリン酸緩衝化生理食塩水(PBS)中に溶解した。該酵素の溶液を、撹拌しながらブロックコポリマー溶液に滴下した。+/−電荷比(Z)を、pH7.4でプロトン化したPEI−PEGのアミノ基量(Vinogradov et al.(1998)Bioconjugate Chem.,9:805−812)をカタラーゼ中のグルタミンおよびアスパラギン酸の総量で割ることによって計算した。物理化学的方法の組み合わせ(電気泳動保持(electrophoretic Retention)、動的光散乱(DLS)、および透過型電子顕微鏡法(TEM))を使用して、以前に記載したように、得られたナノ粒子の組成、サイズ、分散安定性、形態学、形状、および構造を特徴づけた(Vinogradov et al.(1999)Bioconjugate Chem.,10:851−60;Lemieux et al.(2000)J.Drug Target.,8:91−105;Vinogradov et al .(2004)J.Drug Target.,12:517−26;Vinogradov et al.(2005)J.Controlled Release,107:143−57)。
【0066】
電気泳動保持。ポリイオン複合体の形成を、アクリルアミドゲルシフトアッセイによって試験した。種々のZでの酵素複合体を、5mM トリス、50mMグリシン(pH8.3)を含む7.5%アクリルアミドゲルに、複合体を保持するための未変性条件下(SDSの非存在下)でロードした。タンパク質バンドを、ウサギポリクローナル抗カタラーゼ抗体(Ab 1877,Abeam Inc,Cambridge,MA;1:6000)および二次西洋ワサビペルオキシダーゼ抗ウサギIg抗体(Amersham Life Sciences,Cleveland,OH;1:1500)で視覚化した。該特異的タンパク質バンドを、化学発光キット(Pierce,Rockford,IL)を使用して視覚化した。
【0067】
光散乱の測定。ポリペプチド−ポリイオン複合体の有効流体力学直径およびゼータ電位を、以前の記載のように(Bronich et al.(2000)J.Am.Chem.Soc,122:8339−8343;Vinogradov et al .(1999)Colloids Surf.B−Biointerfaces 16:291−304)、「ZetaPlus」ゼータ電位分析器(Brookhaven Instruments,Santa Barbara,CA)を使用する光子相関分光法によって測定した。
【0068】
TEM。PBS中の1滴のカタラーゼ/PEI−PEG分散液(Z=1)を、Formvarコーティング銅グリッド(150メッシュ,Ted Pella Inc.,Redding,CA)上に配置した。ポリペプチド−ポリイオン複合体を含む乾燥させたグリッドを、硫酸バナジルで染色し、Philips 201透過型電子顕微鏡(Philips/FEI Inc.,Briarcliff Manor,NY)を使用して視覚化した。
【0069】
カタラーゼおよびカタラーゼ活性。ポリマーナノ粒子中の酵素活性を、種々の電荷比でのカタラーゼまたはカタラーゼ−ポリイオン複合体による過酸化水素の分解の反応速度を使用して研究し、240nmでの吸光度の変化のモニタリングによって決定した(H2O2の吸光係数は44×106M−1cm1)。
【0070】
カタラーゼ−ポリイオン複合体の125I標識化。125I標識カタラーゼ−ポリイオン複合体を得るために、該タンパク質溶液を含むPBS(1mg/mL)を、ヨード−BEADSヨウ素化試薬(Pierce,Rockford,IL)の存在下でNa125I(1mCi)と15分間インキュベートし、次いで、D−salt脱塩カラム(Pierce,Rockford,IL)を使用して非結合標識から精製した。125I標識カタラーゼ(400μCi/mL、0.7mg/mL)に、PEI−PEGブロックコポリマー(Z=1)を補足した。
【0071】
統計分析。全実験について、データを平均±SEMとして示す。群間の有意差の検定を、GraphPad Prism 4.0(GraphPad software,San Diego,CA)を使用した多重比較(Fisherの対比較)を用いた一元配置ANOVAを使用して行った。最小p値0.05が、全検定の有意レベルとして予想された。
結果
【0072】
ブロックイオノマー複合体は、ブロックイオノマーを逆に帯電した界面活性剤または高分子電解質と混合させることによって自発的に形成される(Harada et al.(2001)J.Controlled Release 72:85−91;Kabanov et al.(1995)Bioconjugate Chem.,6:639−643;Harada et al.(1995)Macromolecules 28:5294−5299;Bronich et al.(1997)Macromolecules 30:3519−3525)。該ポリイオン電荷の中和によって疎水性ドメインが形成され、水媒体中でポリイオン複合体ミセルのコア中に分離される。ブロックイオノマーの水溶性非イオン性セグメント(例えば、PEG)により、凝集および巨視的相分離が防止される。その結果、これらの複合体はナノスケールサイズの粒子に自己集合し、安定な水分散液を形成する(図1A)。カタラーゼは、生理学的条件下で正味の負電荷を有する。したがって、該酵素(1mg/mL)と正に帯電したPEI−PEG(2mg/mL)との混合によってリン酸緩衝液(pH 7.4)中でポリイオン複合体を得た。
【0073】
カタラーゼとPEI−PEGの複合体を種々の+/−電荷比(Z=0〜4)で得た。これらを、未変性条件下で電気泳動に供し、次いで、ニトロセルロース膜に移した。該タンパク質のバンドを、カタラーゼに対する抗体を使用して視覚化した(図1B)。コポリマーが増加するにつれてバンドの強度が減少した。これにより、ゲルに侵入することができない複合体が形成されたことが示唆され、これをDLSによって確認した。PEI−PEGのカタラーゼ溶液(1mg/mL)への添加により、比較的低い多分散度指数(約0.1〜0.2)を有するナノスケールサイズの粒子が得られた一方で、カタラーゼのみについては粒子は検出されなかった。
【0074】
粒子サイズは、電荷比、イオン強度、およびpHに依存した(図1、C、D、およびE部分)。PBS中で、有効径は電荷比の増加につれて増加し、電荷比(Z)1以上にて約90〜100nmで安定化した(図1C)。該ゼータ電位は、ブロックコポリマー量の増加に伴って増加した(図1C)。一定の電荷比(Z=1)で、塩の非存在下にて600nm超の巨大な凝集体が形成された(図1D)。塩の添加によって粒子サイズが減少し、このサイズは、NaCl濃度が0.15Mに到達した時に約90nmで安定化した。巨大な非平衡の高分子電解質複合体の凝集体がカタラーゼとPEI−PEG溶液を混合するや否や形成される可能性が高い。塩の非存在下で、低いポリイオンの交換率のために、これらの凝集体は平衡化できず、「凍結した」ままであった(Kabanov,V.(1994)Polym.Sci.,36:143−156;Kabanov,V.(2003)Fundamentals of Polyelectrolyte Complexes in Solution and the Bulk.In Multilayer Thin Films(Decher,G.,and Schlenoff,J.,Eds.)pp 47−86,Wiley−VCH Verlag GmbH & Co.KGaA,Weinheim)。塩を添加するにつれて該ポリイオン交換が加速されて、小(平衡)粒子が形成された。これらの粒子はおよそpH7.4〜11.5の範囲で安定であったが、pHがこの範囲未満に減少するかこの範囲を超えて増加した場合に不可逆的に凝集した(図1E)。この範囲内で、該カタラーゼおよびPEI−PEGは逆に帯電していた。該複合体の凝集体は、低pHでのカタラーゼのプロトン化および電荷反転(pI=6.5)または高pHでのPEIの脱プロトン化と関連していた。概して、ポリペプチド−ポリイオン複合体粒子は、生理学的pHおよびイオン強度下で安定であった。これらの条件下で、該粒子は、ほぼ球形であった(図1F)。その後の細胞の負荷、送達、および放出実験のために使用した電荷比で、カタラーゼの酵素活性の変化は認められなかった(図1G)。
【0075】
ポリペプチド−ポリイオン複合体がヒトPDを反映する活動的な神経炎症性疾患を有する脳亜領域に到達することができるかどうかを決定するために、MPTPモデルを使用した。MPTPにより、ヒトおよび非ヒト霊長類において重篤且つ不可逆的なパーキンソン症候群が発症し(Langston et al.(1986)Clin.Neuropharmacol .9:485−507)、黒質線条体神経変性の自己永続的過程が開始される(Langston et al.(1999)Ann.Neurol.46:598−605)。マウスでは、MPTPにより、PDのほとんどの生化学的および病理学的特質(SNpcおよび対応する線条体中でのドーパミン作動性ニューロンの特異的変性(Schmidt et al.(2001)J.Neural.Transm.108:1263−82)およびグリア細胞炎症(Gao et al.(2003)Trends Pharmacol.Sci.,24:395−401)が含まれる)が再現される。
【0076】
MPTP中毒C57B1/6マウスに、125I標識カタラーゼを含む遊離ポリペプチド−ポリイオン複合体を静脈内注射した。注射の24時間後、脳および他の組織中で放射能が検出可能であった。
【実施例2】
【0077】
グラフト構造のカチオン性ブロックイオノマー(PLL骨格上にグラフティングした約1.4PEO鎖を含むポリ−L−リジン−グラフト−ポリ(エチレンオキシド)(PLL−g−PEO(2)))を使用して、ブチリルコリンエステラーゼBChE/PLL−g−PEO複合体を調製した。1H NMR分析によるとPLL−g−PEO(2)の推定分子量は約24,000g/molである。ヒトBChE(Hu BChE)およびウマ血清由来のBChE(Hor BChE)の両サンプルを本研究で使用した。
【0078】
Hu BChEのPLL−g−PEO(2)との複合体を、緩衝液(リン酸緩衝液、10mM、pH7.4)中でブロックイオノマーとタンパク質成分との簡潔な混合によって調製した。組成物間の化学量論的電荷比に近い混合物の組成を研究し、表1に示した。混合物の組成を、シアル酸/リジンモル比(PLL−g−PEO(2)のアミノ基の濃度をBChE中のシアル酸単位の濃度で割ることによって計算した)に関して示した。BChE/PLL−g−PEO(2)混合物の組成も、タンパク質中のカルボキシル基(グルタミン酸、アスパラギン酸、およびシアル酸)の総量に関して示し、タンパク質中のカルボキシル基の総濃度に対するPLL−g−PEO(2)中のアミノ基濃度の比(Z+/−)として計算した。
【0079】
【表1】
【0080】
ブロックイオノマー複合体へのHu BChEの取り込み程度を、未変性ポリアクリルアミドゲル電気泳動(PAGE)を使用してモニタリングした。図2Aは、Hu BChEおよびPLL−g−PEO(2)の混合物について認められたゲル電気泳動パターンを示す。Hu BChEのバンド強度は、該混合物中のコポリマー量が増加するにつれて有意に減少した。これにより、PLL−g−PE0(2)コポリマーがHu BChEに結合してその電荷を中和することが証明された。実質的に完全な複合体移動の遅延が、Z+/−=1.0付近のHu BChE/PLL−g−PEO(2)混合物の組成で認められた。
【0081】
Hor BChEとPLL−g−PEO(2)との複合体を、表2に示す混合物と類似の方法および組成で調製した。ブロックイオノマー複合体へのHor BChEの取り込み程度を、未変性PAGEを使用してモニタリングした。図2Bは、Hor BChEおよびPLL−g−PEO(2)の混合物で認められるゲル電気泳動パターンを示す。過剰なブロックイオノマーで混合物中に(Z+/−=6.2)複合体へのHor BChEの完全な固定化が認められた。Hor BChEとPLL鎖あたりのPEOのグラフティング密度(grafting density)が約6.6鎖であるPLL−g−PEOコポリマー(PLL−g−PEO(7)と示す)との複合体について類似のデータが得られた。
【0082】
【表2】
【0083】
両型のBChEとPLL−g−PEO(2)との複合体を、動的光散乱によってさらに特徴づけた。全複合体型の研究についてのデータを、図3にまとめている。タンパク質のみよりもわずかに大きなサイズの粒子が全てのBChE/ブロックイオノマー混合物中で検出された。
【0084】
Hu BChE/PLL−g−PEO(2)複合体の分子量(Mw)を、沈降平衡分析によって測定した。20℃、回転子速度4000rpm、沈降時間24時間で全ての測定を行った。得られた沈降平衡パターンを、UV吸収光学系を使用して記録した。平均タンパク質部分比体積0.73cm3/gを、測定した沈降平衡からの分子量の計算のために使用した。計算した分子量を、表3に示す。
【0085】
【表3】
【0086】
これらのデータにより、Hu BChEおよびPLL−g−PEO(2)から形成された複合体が1つのタンパク質分子からなることも示唆される。タンパク質のみと比較して認められた複合体の分子量の増加は、タンパク質四量体あたり約2〜3鎖のPLL−g−PEO(2)コポリマーの結合と対応する。
【0087】
該複合体に取り込まれたHu BChEの活性を、ブチリルチオコリンヨージドの加水分解に基づいたアッセイを使用して決定し、表4に示す。過剰なブロックイオノマーの存在下でさえ、該複合体に取り込まれたBChEの酵素活性の変化は認められなかった。BChE活性の決定に非常に低濃度の酵素または複合体(BChEベースで0.0025mg/ml)を必要とするので、複合体がかかる希釈度でその完全性を保持することを確認する必要があった。種々の希釈度の複合体を、PAGE技術およびその後のゲルのKarnovsky&Roots活性染色を使用して試験した(Karnovsky and L.Roots(1964)J.Histochem,Cytochem,12:219−221)。この「直接染色(direct−coloring)」 チオコリン法は、低濃度のBChEで高感度である。典型的なゲル電気泳動パターンを、図4Aに示す。これらのデータは、BChEとブロックイオノマーの複合体が、希釈度が非常に高い場合に、解離することを示す。
【0088】
【表4】
【0089】
ブロックイオノマー複合体の多分子コア−シェル構造を、ポリマー鎖間の架橋の形成によって強化することができる。得られた架橋複合体は、本質的に、希釈の際に安定であり、pH、イオン強度、溶媒組成、および構造劣化を伴わない剪断力の変化などの環境上の課題に耐え得るナノスケールの単一分子である。したがって、該BChE/ブロックイオノマー複合体の安定性をさらに増加させるために、該複合体構造に架橋を導入した。グルタルアルデヒド(GA)(アミン反応性ホモ官能性(homofunctional)架橋剤)を、これらの研究で使用した。GAのアルデヒド基とブロックイオノマーのタンパク質およびポリリジンセグメントの両方の第一級アミノ基との間のイミン(シッフ塩基)の形成に起因して架橋が起こる。
【0090】
該複合体に架橋を導入するために、Hu BChE/PLL−g−PEO(2)複合体(Z+/−=1.2、BChEベースで0.15mg/ml)を含む10mMリン酸緩衝液(pH7.4)を、0.25%GA水溶液で処理した。GA量を、GA溶液中のアルデヒド基の総量対PLL−g−PEOコポリマー中のリジン残基の総数として定義された標的化架橋比(85%)に基づいて計算した。該複合体の架橋溶液を、室温で5時間保持した。希釈に対する架橋複合体の安定性を、Karnovsky&Roots法を使用して評価した。該架橋複合体を、それぞれ、1000倍、5000倍、および250倍に希釈した。同程度に希釈したHu BChEおよび元の非架橋複合体を、コントロールとして使用した。ゲル電気泳動パターンを図4Bに示す。1000倍まで希釈した架橋Hu BChE/PLL−g−PEO(2)複合体に対応するレーン中にBChEバンドが認められた。対照的に、複合体−前駆体の希釈により、完全に解離して遊離BchEが放出された。これらのデータにより、コア中にBchEを捕捉するブロックイオノマー複合体の安定性を、複合体コア中の架橋の導入によって有意に増加させることができることが示唆される。
【0091】
架橋複合体に取り込まれたHu BChEの酵素活性を、基質としてブチリルチオコリンヨージドを使用してさらに評価した。ブチリルチオコリンヨージドは、架橋複合体を透過するのに十分に小さな分子であるので捕捉された酵素と反応できる。データを表5に示す。これらのデータは、BChE/PLL−g−PEO複合体の架橋によって複合体に捕捉されたBChEの酵素活性が喪失する(例えば、BChEの初期非活性の75%の減少が認められた)ことを示した。概して、BChE/PLL−g−PEO複合体のコアの架橋により、得られたBChE/PLL−g−PEO複合体が希釈に対して十分に耐性を示す。
【0092】
【表5】
【0093】
種々の架橋を複合体に導入するために、Hu BChE/PLL−g−PEO(2)複合体(Z+/−=1.2、BChEベースで0.15mg/ml)を含む10mMリン酸緩衝液(pH7.4)を、GA水溶液で処理した。表6に示すように、種々の濃度の3μLのGA溶液を、120μLの複合体溶液に添加した。GA量を、該GA溶液中のアルデヒド基の総量対PLL−g−PEOコポリマー中のリジン残基の総数として定義された標的化架橋比に基づいて計算した。標的化架橋の程度が、正確なアミド化の程度よりもむしろ、より低いと予想される起こり得る理論上の最大架橋量を示すことに注目すべきである。該標的化架橋度は、10%から100%まで様々であった。混合物を、室温で5時間保持した。
【0094】
【表6】
【0095】
希釈に対する架橋複合体の安定性を、Karnovsky&Roots法を使用して評価した。架橋複合体を、1000倍、5000倍、および250倍に希釈した。同程度に希釈したHu BChEおよび元の非架橋複合体を、コントロールとして使用した。種々の架橋比(85%、40%、および20%)の複合体についての代表的なゲル電気泳動パターンを、図5A〜5Cに示す。85%および40%の標的化架橋比で調製した複合体は安定であり、1000倍までの希釈の際に解離しなかった。標的化架橋85%(図5A)および40%(図5B)を有する架橋Hu BChE/PLL−g−PEO(2)複合体に対応するレーン中にBChEバンドは認められなかった。複合体−前駆体の希釈により、完全に解離して遊離BchEが放出された(レーンB)。標的化架橋比20%で調製した複合体は、より高い希釈度で部分的に解離した(図5C)。実際、遊離BChEに対応するバンドは、250倍希釈した架橋複合体に対応するレーン中で認められた。
【0096】
図6は、種々の架橋比および500倍希釈で調製したBChE/ PLL−g−PEO(2)複合体(Z+/−=1.2)について認められたゲル電気泳動パターンを示す。遊離BChEのバンドは、架橋比30%以下の架橋複合体に対応するバンド中に出現した。これらのデータにより、希釈の際の複合体の分解を防ぐために少なくとも40%の標的化架橋比で、BChE/ PLL−g−PE0(2)複合体に架橋が好ましく導入されることが示唆される。
【0097】
架橋Hu BChE/PLL−g−PEO(2)複合体の分子量(Mw)を、沈降平衡分析によって測定した。20℃、回転子速度6000rpm、沈降時間24時間で全ての測定を行った。得られた沈降平衡パターンを、UV吸収光学系を使用して記録した。平均タンパク質部分比体積0.73cm3/gを、測定した沈降平衡からの分子量の計算のために使用した。計算した分子量を、表7に示す。架橋複合体の分子量は、複合体−前駆体の分子量に匹敵する。これらのデータにより、架橋反応が各複合体粒子内で進行し、複合体の粒子間の架橋および凝集が起こらないことが示唆される。
【0098】
【表7】
【0099】
架橋複合体に取り込まれたHu BChEの酵素活性を、基質としてブチリルチオコリンヨージドを使用してさらに評価した。データを表8に示す。これらのデータは、BChE/PLL−g−PEO複合体の架橋が複合体のコアに取り込まれたBChEの活性に影響を及ぼすことを示した。架橋比の増加により、酵素活性が喪失した。例えば、BChEの初期非活性の75%の減少は、標的化架橋比85%で認められ、架橋100%で活性は認めれなかった。対照的に架橋比40%では、観察された活性の減少はむしろ小さかった(20%)。結論として、BChE/PLL−g−PEO複合体コアの化学的架橋は、複合体のイオン性コアに取り込まれたタンパク質の活性を保存しながら希釈に対する複合体の安定性を調整するための有効なツールである。
【0100】
【表8】
【0101】
ポリマー複合体によって送達されたBChEのin vivoでの移動および局在化を、光学的画像を使用してブチリルコリンエステラーゼヌリザイゴート(nullizygote)(BChE−/−)マウスで評価した。BChE−/−ノックアウトマウスを、BCHE遺伝子の一部を遺伝子ターゲティングで削除することによって作成した(受入番号M99492;Li et.al.(2008)J.Pharm.Exp.Ther.,324:1146−1154)。近赤外蛍光プローブIRDye(登録商標)800CW(Li−cor,Lincoln,NE)を使用して、Hor BChEを標識した。標識度は、タンパク質四量体あたり1つの色素分子と計算された。標識Hor BChE(Hor BChE/IRDye)を含む複合体を調製するために、16μLのHor BChE/IRDye溶液を、57μLのPLL−g−PEO(2)溶液(10mg/ml)および8μLの10×PBS緩衝液(0.1Mリン酸緩衝液、C(NaCl)=1.4M、pH7.4)と混合した。得られた複合体を、グルタルアルデヒドを使用してさらに架橋した。グルタルアルデヒドの添加量を、40%の標的化架橋度に基づいて計算した。混合物を室温で5時間保持した。Karnovsky&Roots法で確認したところ、その架橋されたHor BChE/IRDye/ PLL−g−PEO(2)複合体は、希釈に対して安定であった。架橋手順によってポリマー複合体に取り込まれたHor BChE/IRDyeの酵素活性の全般的な認められた減少は、約35%であった。
【0102】
画像化を行なう前に、動物の腹部および背部区域の毛をNairクリームを使用して除去した。マウスを、特別な精製飼料で維持して、標準的な動物用飼料によって誘導される胃内および腸内の干渉蛍光シグナルを減少させた。2つの注射経路(髄腔内(IT)および筋肉内(IM))を使用した。動物を麻酔し、次いで、架橋複合体に取り込んだ標識タンパク質つまりHor BChE/IRDyeを投与した。IVIS 200撮像装置を使用して、Hor BChE/IRDyeのin vivo蛍光を48時間追跡した。ポリマー複合体に取り込まれたHor BChE/IRDyeの蓄積は、複合体のIT注射の2.5時間後に脳内で認められた。Hor BChE/IRDyeに対応する蛍光シグナルはまた、該複合体の筋肉注射の48時間後にマウスの脳内で検出された。
【0103】
脳内の送達BChE酵素の最終活性を決定するために、マウスを安楽死させ、分析のために脳組織を切り出した。脳関連BChE活性を、Ellmanアッセイを使用して決定した(Duysen,et al.(2001)J.Pharm.Exp.Ther.299:528−535)。活性単位を、pH7.0、25℃で1分間あたりに加水分解されたブチリルチオコリン量(μモル)と定義した。データを表9に示す。
【0104】
【表9】
【実施例3】
【0105】
以下の手順を使用して、生きている動物内のCuZnSOD−ポリイオン複合体の生体分布を研究した。
【0106】
タンパク質の標識化。CuZnスーパーオキシドジスムターゼ(CuZnSOD;2mg)を、1mlリン酸緩衝化生理食塩水(PBS:0.1Mリン酸カリウム、1.5M NaCl、pH7.4)中に室温で溶解した。100μlの1Mリン酸カリウム緩衝液(K2H2PO4)を溶液に添加して、溶液のpHをpH8.5に上昇させた。得られた溶液を、反応色素Alexa 680(Molecular Probes,Inc.,Eugene,OR,cat # A−20172)を含むバイアルに移し、撹拌しながら室温で1時間インキュベートした。
【0107】
標識CuZnSODの精製。反応混合物(1ml)を、溶離緩衝液としてリン酸緩衝液(10mM、pH7.4)を使用してSephadex G−25カラム(0.5×26cm)に供した。2つの有色バンドは、非結合色素からの標識タンパク質の分離を示した。最初の有色バンド(淡青色)が、約30分間で8個の画分(150μlの各画分)に回収された。Pierce BCAアッセイを使用して決定した該タンパク質濃度は、0.75mg/mlであった。該標識タンパク質溶液を凍結乾燥させ、−20℃で保存した。
【0108】
タンパク質を取り込んだポリイオン複合体の調製。+/−電荷比(Z)=2:1のCuZnSOD−ポリイオン複合体を得るために、500μlのAlexa 680標識CuZnSOD(1mg/ml)を含む生理学的緩衝液を、830μlのポリ(エチレンイミン)(PEI)およびポリ(エチレングリコール)(PEG)ブロックコポリマー(PEI−PEG、2mg/ml)の溶液に撹拌しながら滴下した。該+/−電荷比(Z)を、pH7.4でプロトン化したPEI−PEGのアミノ基量をCuZnSOD中のグルタミンおよびアスパラギン酸の総量で割ることによって計算した。得られたCuZnSOD−ポリイオン複合体溶液を、さらなる使用前に少なくとも1時間インキュベートした。
【0109】
マウス内のCuZnSOD−ポリイオン複合体の生体分布の視覚化。実験前に、BALB/C雌マウスを、30〜40mg/kg体重の用量でのペントバルビタールの腹腔内注射を使用して麻酔し、剪毛し、脱毛した(毛による蛍光ブロッキングを軽減するため)。該マウスを、流動食で72時間保持した(固形食由来の胃内および腸内の自己蛍光を排除するため)。該マウスにAlexa−680標識CuZnSOD−ポリイオン複合体を尾静脈注射した。次いで、該マウスを66%亜酸化窒素および残りの酸素と共に1.5%イソフルラン混合物を使用して麻酔し、撮像カメラ中に配置した。CuZnSOD−ポリイオン複合体の生体分布を、IVIS 200 Series Imaging Gas Anasthesia Systemによって検出されるようにAlexa−680のin vivo蛍光の測定によって決定した。Alexa 680標識CuZnSOD−ポリイオン複合体は、IV注射の1時間後に脳内に蓄積し始め、注射7時間後にピークに達し、注射後少なくとも24時間上昇したままであった(図7)。これらのデータは、末梢投与したCuZnSOD−ポリイオン複合体が脳に局在することを示す。
【実施例4】
【0110】
ブロック構造を有するPLL−PEOコポリマーを使用して、ブロックコポリマー複合体中にBChEを取り込んだ。ポリ−L−リジン−グラフト−ポリ(エチレンオキシド)(PLL−b−PEO)を合成した(例えば、Harada et al .(1995)Macromolecules 28:5294を参照のこと)。分子量5,600g/molおよびかなり狭い分子量分布1.27を有するα−メトキシ−ω−アミノ−ポリ(エチレングリコール)(Biotech GmbH,Germany)を、ブロックコポリマー合成のためのマクロイニシエーター(macroinitiator)として使用した。PLL−b−PEOを、Varian 500 MHz分光計で溶媒としてD2Oを使用して1H NMR分光法によって特徴づけた。PLLセグメントの長さは、25と計算された。PLL−g−PEOの推定分子量は、約24,000g/molである。このポリマーを、PLL−b−PEOと示した。PEOのメチレンプロトン(OCH2CH2:δ=3.62ppm)およびPLLのε−メチレンプロトン((CH2)3CH2NH3:δ=2.9ppm)のピーク強度比を測定してPLLセグメントの重合度を計算し、36と決定された。PLL−b−PEOの推定分子量は約10,200g/molである。このポリマーを、PLL−b−PEOと示した。
【0111】
逆滴定を行ってPLL−b−PEO溶液中のアミノ基濃度を決定した。5mg/mlのPLL−b−PEO溶液中のアミノ基濃度は、6.1mMと計算された。
【0112】
ヒトBChE(Hu BChE)およびウマ血清由来のBChE(Hor BChE)の両サンプルを使用して、PLL−b−PEOとの複合体を調製した。混合物の種々の組成での緩衝液(リン酸緩衝液、10mM、pH7.4)中でのブロックコポリマーとタンパク質成分との簡単な混合によって複合体を調製し、これを表10に示す。該BChE/PLL−b−PEO混合物の組成を、タンパク質中のカルボキシル基(グルタミン酸、アスパラギン酸、およびシアル酸)の総量に関して示し、タンパク質中のカルボキシル基の全濃度に対するPLL−b−PEO中のアミノ基濃度の比率(Z+/−)として計算した。
【0113】
【表10】
【0114】
ブロックイオノマー複合体へのBChEの取り込み程度を、未変性PAGEを使用してモニタリングした。図8Aおよび8Bは、それぞれ、Hu BChE/PLL−b−PEOおよびHor BChE/PLL−b−PEO混合物について認められたゲル電気泳動パターンを示す。両方の場合、混合物中のブロックコポリマー量が増加するにつれてBChEバンドの強度が減少した。これは、該PLL−b−PEOブロックコポリマーが該BChEに結合し、その電荷を中和することを証明していた。実質的に完全なゲル中の複合体移動の遅延が、Hu BChE/PLL−b−PEOおよびHor BChE/PLL−b−PEO混合物の両方についておよそZ+/−=2.0で認められた。グラフト構造のPLL−PEOコポリマー(PLL−g−PE0(2)またはPLL−g−PE0(7))を使用したブロックイオノマー複合体へのウマ血清由来のBChE(Hor BChE)の取り込みには混合物中に過剰なコポリマーの存在(Z+/−=6.2)が必要であることに注目すべきである。
【0115】
両型のBChEとPLL−g−PEOとの複合体を、動的光散乱によってさらに特徴づけた。全複合体型の研究についてのデータを、図11にまとめる。タンパク質のみよりもわずかに大きなサイズの粒子がBChE/ブロックコポリマー混合物中で検出された。
【0116】
【表11】
【0117】
複合体の安定性に及ぼすBChE/PLL−b−PEO複合体コアの架橋の影響を、さらに解明した。グルタルアルデヒド(GA)(アミン反応性ホモ官能性架橋剤)を、これらの研究で使用した。該複合体に架橋を導入するために、10mMリン酸緩衝液(pH7.4)中のHu BChE/PLL−b−PEOおよびHor BChE/PLL−b−PEO複合体(Z+/−=1.0、BChEベースで0.15mg/ml)両方を、0.008%GA水溶液で処理した。GA量を、GA溶液中のアルデヒド基の総量対PLL−g−PEOコポリマー中のリジン残基の総数として定義された標的化架橋比(40%)に基づいて計算した。架橋剤を添加した該複合体溶液を、室温で5時間保持した。希釈に対する該架橋複合体の安定性を、Karnovsky&Roots法を使用して評価した。架橋複合体を、500倍希釈した。同一程度に希釈したBChEサンプルおよび元の非架橋複合体を、コントロールとして使用した。該ゲル電気泳動パターンを図9Aに示す。これらのデータは、Z+/−=1.0の組成および標的化架橋比40%で調製したBChE/PLL−b−PEO複合体は希釈に耐えられずに分離することを示す。遊離BChEに対応するバンドは、架橋複合体に対応する全レーン(それぞれ、図9AのレーンCおよびF)およびその非架橋前駆体(それぞれ、図9AのレーンBおよびE)で認められた。
【0118】
別の実験では、Z+/−=2.0(BChEベースで0.15mg/ml)で調製したHu BChE/PLL−b−PEOおよびHor BChE/PLL−b−PEO複合体を、標的化架橋度40%を達成するために0.016%GA溶液で処理した。架橋複合体を、500倍希釈した。同一程度に希釈したBChEサンプルおよび元の非架橋複合体を、コントロールとして使用した。該ゲル電気泳動パターンを図9Bに示す。図9Bで認められるように、Z+/−=2.0の架橋Hu BChE/PLL−b−PEOおよびHor BChE/PLL−b−PEO複合体にそれぞれ対応するレーンCおよびFにBChEバンドは認められなかった。対照的に、複合体−前駆体の希釈により、完全に解離して遊離BchEが放出された(図9BのレーンBおよびE)。したがって、少量の過剰なブロックコポリマーを含む該BChE/PLL−b−PEO複合体は良好な複合体コアの架橋に必要なようである。
【0119】
非架橋および架橋BChE/PLL−b−PEO複合体に取り込まれたBChEの酵素活性を、基質としてブチリルチオコリンヨージドを使用してさらに評価した。該データを表12に示す。架橋Hor BChE/PLL−b−PEO複合体(Z+/−=2)に取り込まれたHor BChEの酵素活性は実質的に変化しなかった。さらに、非架橋複合体溶液中で測定したBChE活性と比較して、架橋Hu BChE/PLL−b−PEO複合体の場合、Hu BchEの酵素活性は減少しなかった。
【0120】
【表12】
【実施例5】
【0121】
神経炎症反応によって誘導されたケモカイン勾配の確立の結果として、脳への侵入が起こる(Kadiu et al.(2005)Neurotox.Res.,8:25−50;Gorantla et al .(2006)J.Leukocyte Biol.,80:1165−1174)。したがって、細胞ベースの送達の有用性を試験するためのPD用モデル系を作製した。第1に、多岐にわたる炎症の合図を使用して、小グリア細胞からのROS産生を刺激し、ニトロ化αシヌクレイン(N−α−syn)(PD中に細胞外放出されて免疫活性化を誘発すると考えられている)を含めた(Gendelman,H.(2006)Neurotoxicology 27:1162;Mosley et al .(2006)Clin.Neurosci.Res.,6:261−281;El−Agnaf et al.(2003)FASEB J.,17:1945−7)。第2に、1−メチル−4−フェニル−l,2,3,6−テトラヒドロピリジン(MPTP)誘導性炎症は、脳へのBMM侵入のための勾配としての機能を果たした。炎症の合図の後、白血球が漏出および走化性によって脳に動員することが十分に報告されている(Anthony et al.(1997)Brain 120:435−44;Anthony et al.(2001)Prog.Brain Res.,132:507−24;Blamire et al .(2000)J.Neurosci.,20:8153−9;Persidsky et al.(1999)Am.J.Pathol.,155:1599−611;Kuby,J.(1994)Immunology;Freeman,WH.and Co.,New York)。単球−マクロファージは、脳傍細胞間隙を通過し、それにより、脳内皮細胞の結合複合体を通過することができる(Pawlowski et al.(1988)J.Exp.Med.,168:1865−82;Lossinsky et al.(2004)Histol.Histopathol .,19:535−64)。その有効な武器は、外来粒子の貪食およびエキソサイトーシスによる貪食物質の遊離からなる。それぞれが一緒になって、これらの特徴により、マクロファージをキャリアとして活用して、神経炎症過程に影響を及ぼすことが可能となる(Daleke et al.(1990)Biochim.Biophys .Acta 1024:352−66;Lee et al.(1992)Biochim.Biophys.Acta 1103:185−97;Nishikawa et al.(1990)J.Biol.Chem.,265:5226−31;Fujiwara et al .(1996)Biochim.Biophys.Acta 1278:59−67)。
【0122】
ここで、BMMを、脳へのカタラーゼの治療濃縮物の輸送のためのビヒクルとして使用することができる。このアプローチの成功のための主な障害は、マクロファージが貪食した粒子を効率よく分解するという点である(Fujiwara et al.(1996)Biochim.Biophys.Acta 1278:59− 67)。したがって、細胞キャリア内の酵素活性を保護することが極めて重要である。高分子ナノキャリー(polymeric nanocarry)(ナノスフェア、リポソーム、ミセル、ナノ粒子)への取り込みにより、かかる保護を得ることができる(Aoki et al.(2004)Int.J.Hypertherm.,20:595−605;Calvo et al.(2001)Pharm.Res.,18:1157−1166;Gref et al.;(1994)Science 263:1600−1603;Harada et al.(1999)Science 283:65−7;Jaturanpinyo(2004)Bioconjugate Chem.,15:344−8;Kabanov et al.(2002)J.Controlled Release 82:189−212;Kwon,G.S.(2003)Crit.ReV.Ther.Drug Carrier Syst.,20:357−403;Mora et al.(2002)Pharm.Res.,19:1430−8;Rousseau et al.(1999)Exp.Brain Res.,125:255−64;Torchilin,V.P.(2000)Eur.J.Pharm.Sci.,11.S81−91;Vinogradov et al.(2004)Bioconjugate Chem.,15:50−60)。以前の研究により、高分子間電解質複合体の使用によって酵素を固定することができることが証明されている(Kabanov et al.(1977)Mol.Biol.(Russian),11:582−596;Kabanov,V.(1994)Polym.Sci.,36:183−197;Kabanov et al.(2004)J.Phys .Chem.B,108:1485−1490)。該酵素−高分子電解質複合体を、酵素をイオン性および非イオン性の水溶性ブロックを含む反対の電荷をもつブロック高分子電解質と自己集合することによってナノスケールで調製することができる(Harada et al.(2001)J.Controlled Release 72:85−91;Harada et al .(2003)J.Am.Chem.Soc,125:15306−7)。得られたナノ粒子は、水溶性非イオン性ポリマー(ポリエチレングリコール(PEG)など)のシェルに囲まれたタンパク質−高分子電解質複合体のコアを含む。現在の研究では、ポリヌクレオチド送達のために以前に使用されたカチオン性ブロックコポリマーであるポリエチレンイミン−ポリ(エチレングリコール)(PEI−PEG)との反応によってカタラーゼを固定している(Vinogradov et al.(1998)Bioconjugate Chem.,9:805− 812)。得られたカタラーゼのブロックイオノマー複合体は、BMMによって取り込まれる。かかる修飾によってBMM中での分解からカタラーゼを保護し、BMMが外部媒体中に少なくとも4〜5日間ポリペプチド−ポリイオン複合体を放出し、PDのMPTPモデルなどにおいてBMMがポリペプチド−ポリイオン複合体を脳に送達することができるという証拠をここに示す。
【0123】
材料と方法
材料。実施例1と同一。
【0124】
BMM。記載のようにマウス大腿骨(C57BL/6、雌マウス)から抽出した骨髄細胞(Dou et al.(2006)Blood 108:2827−35)を、1000U/mLマクロファージコロニー刺激因子(MCSF)(Wyeth Pharmaceutical,Cambridge,MA)を補足した培地中で10日間培養した。単球培養物の純度を、FACSCalibur(BD Biosciences,San Jose,CA)を使用したフローサイトメトリーによって決定した。
【0125】
小グリア細胞。C57BL/6 新生仔(1〜3日齢)から脳を取り出し、氷冷HBSSで洗浄し、小片にすりつぶした。上清を2.5%トリプシンおよびDNアーゼ溶液(1mg/ml)と置換し、37℃で30分間インキュベートし、次いで、1mLの氷冷FBSを10mL HBSSと共に添加した。混合物を遠心分離し(5分間、1500rpm、4℃)、MCSFを含む完全培地をペレットに添加した。成熟するまで細胞を培養した(典型的には10日間)。
【0126】
MPTP。実施例1と同一。
【0127】
PEI−PEG複合物。実施例1と同一。
【0128】
ブロックイオノマー複合体。実施例1と同一。
【0129】
電気泳動保持。実施例1と同一。
【0130】
光散乱測定。実施例1と同一。
【0131】
TEM。実施例1と同一。
【0132】
カタラーゼおよびカタラーゼ活性。実施例1と同一。
【0133】
Alexa Fluor 594およびローダミンイソチオシアナート(RITC)でのカタラーゼの標識。負荷および放出研究のために、メーカーのプロトコールに従って、酵素をAlexa Fluor 594タンパク質標識キット(A10239,Molecular probes,Inc.,Eugene,OR)で標識した。共焦点顕微鏡法研究のために、カタラーゼをRITCで標識した。簡潔に述べれば、カタラーゼを0.1M炭酸ナトリウム緩衝液(pH8.5)(1mg/ml)に溶解し、RITC(10mg/ml)を含むDMSOにて室温で2時間処理した。標識したカタラーゼを、PBSを含むSephadex G−25カラム(1×20cm)による溶離速度0.5mL分−1でのゲル濾過によって低分子量残渣から精製し、凍結乾燥させた。
【0134】
BMM中のポリペプチド−ポリイオン複合体の蓄積および放出。24ウェルプレート(2.5×106細胞/プレート)上で増殖させたBMM(Batrakova et al.(1998)Pharm.Res.,15:1525−1532;Batrakova et al.(2005)Bioconjugate Chem.,16:793−802)を、アッセイ緩衝液(122mM NaCl、25mM NaHCO3、10mMグルコース、3mM KCl、1.2mM MgSO4、0.4mM K2HPO4、1.4mM CaCl2、および10mM HEPES)と共に約20分間プレインキュベートした。プレインキュベーション後、該細胞を、Alexa−Fluor 594標識酵素(0.7mg/ml)を含むアッセイ緩衝液のみまたはポリペプチド−ポリイオン複合体にて種々の時点で処理した。インキュベーション後、該細胞を氷冷PBSで3回洗浄し、Triton×100(1%)中に溶解した。BMMから放出されたポリペプチド−ポリイオン複合体の測定のために、負荷したBMMを、種々の測定点で新鮮な培地とインキュベートした。各サンプル中の蛍光を、Shimadzu RF5000 蛍光分光光度計(λex580nm、λem617nm)によって測定した。ポリペプチド−ポリイオン複合体の量をタンパク質含有量について正規化し、負荷実験についてのタンパク質mgあたりの酵素μgおよび培地mLあたりの酵素μgを平均±SEM(n=4)としてとして示す。
【0135】
ポリペプチド−ポリイオン複合体の細胞内局在化。チャンバースライド中で増殖させた単球(Kabanov et al.(1995)Bioconjugate Chem.,6:639−643)を、RITC標識ポリペプチド−ポリイオン複合体(Z=1)に37℃で24時間曝露した。インキュベーション後、該細胞を4%パラホルムアルデヒド中で固定し、F−アクチン特異的オレゴングリーン488ファロイジンおよび核染色(ToPro−3(Molecular Probes,Inc.,Eugene,OR))で染色した。標識細胞を、アルゴンイオンレーザー(励起波長、488nm)および対応するフィルターセットを備えた共焦点蛍光顕微鏡システム ACAS−570(Meridian Instruments,Okimos,MI)によって試験した。CCDカメラ(Photometries,Tuscon,AZ)およびAdobe Photoshopソフトウェアを使用してデジタル画像を得た。
【0136】
抗酸化剤活性の測定。成熟マウスBMMに酵素のみまたは酵素−ポリイオン複合体(Z=1)を1時間ロードし、PBSで洗浄し、新鮮な培地を該細胞に添加した。種々の時間間隔後、該培地を回収し、BMMから放出された酵素の抗酸化剤活性を、過酸化水素の分解率によってアッセイした。
【0137】
Ampex Red Dye蛍光アッセイ。96ウェルプレートに播種したマウス小膠細胞(0.1×106細胞/ウェル)を、腫瘍壊死因子α(TNF−α)(200ng/mL)で48時間またはニトロ化α−シヌクレイン(N−α−syn)(0.5μM)のいずれか一方で刺激して、ROS産生を誘導した。並行して、24ウェルプレート中で増殖させたBMMに、「裸の」カタラーゼ(1mg/mL)またはカタラーゼ−ポリイオン複合体を1時間ロードし、次いで、Krebs−Ringerクレブス−リンゲル緩衝液(145mM NaCl、4.86mM KCl、5.5mMグルコース、5.7mM NaH2PO4、0.54mM CaCl2、1.22mM MgCl2、pH7.4)と2時間インキュベートして、細胞から上清に放出されたカタラーゼを回収した。インキュベーション後、「裸の」カタラーゼまたはカタラーゼ−ポリイオン複合体をロードしたBMMから回収した上清に、Ampex Red Dyeストック液(10U/mL HRP、10mM Ampex Red)を補足した。小グリア細胞のN−α−syn刺激のために、上清に0.5μM凝集N−α−synも補足した。得られた溶液を活性化小膠細胞に添加し、「裸の」カタラーゼまたはカタラーゼ−ポリイオン複合体によるROSの分解をλex=563run、λem=587nmでの蛍光によって測定した。ROS分解に及ぼす非ロードBMMまたはPEI−PEGのみをロードしたBMMから回収した上清の影響を、コントロール実験と比較して評価した。
【0138】
カタラーゼポリペプチド−ポリイオン複合体の125I標識。実施例1と同一。125I標識カタラーゼ(400μCi/mL、0.7mg/ml)にPEI−PEGブロックコポリマー(Z=1)を補足し、成熟単球(1mLの培地中に80×106BMM)に37℃で2時間ロードした。インキュベーション後、ロードした単球を、氷冷PBSで3回洗浄した。
【0139】
統計分析。実施例1と同一。
【0140】
結果
該ポリペプチド−ポリイオン複合体の製造は、上の実施例1に記載されている。最初に、スルホローダミン−B(SRB)細胞生存アッセイを使用して、ポリペプチド−ポリイオン複合体(およびカタラーゼまたはコポリマーのみ)では広範な濃度にわたってBMM細胞傷害性を誘導しないことが証明された(0.03〜1000μgカタラーゼ/mL;図10)。蓄積速度により、遊離カタラーゼおよびポリペプチド−ポリイオン複合体のBMM中への迅速な取り込みが示唆された(図11A)。特に、遊離酵素は、ポリペプチド−ポリイオン複合体のほぼ2倍の速度でBMM中に取り込まれた。60分の時点で、BMMへのポリペプチド−ポリイオン複合体のローディングは約30μgカタラーゼ/106細胞であった。60分でのポリペプチド−ポリイオン複合体の取り込みは、電荷比が増加するにつれて減少し(図11B)、これはPEGコロナの影響に起因し得る。共焦点顕微鏡法のデータにより、ポリペプチド−ポリイオン複合体中へのBBMに投与されたRITC標識カタラーゼの小胞および/または細胞質の局在化が示唆された(図11C)。
【0141】
成熟BMMに、Alexa Fluor 594標識カタラーゼ−ポリイオン複合体をプレローディングし(60分間)、新鮮な培地中にて異なる時間間隔で培養した。ロードした該BMMは、外部の培地中にカタラーゼを少なくとも4〜5日間放出した(図12A)。同一期間中、該細胞に会合した該酵素の量は比例的に減少した。ポリペプチド−ポリイオン複合体ロードしたBMMの10μM酢酸ミリスチン酸ホルボール(PMA)(タンパク質キナーゼC経路およびROS生成の強力な活性化剤)への曝露(Chang et al.(1993)Immunology 80:360−366)により、培地中での酵素放出が約50%増強された(図12B)。これにより、BMMからのポリペプチド−ポリイオン複合体の放出は細胞活性化に依存し得ることが示唆された。
【0142】
「裸の」カタラーゼまたはカタラーゼ−ポリイオン複合体をロードしたBBMを新鮮な培地中に入れ、異なるインキュベーション時間間隔で培地中に放出された該酵素の活性を決定した。放出後に事実上不活性であった遊離カタラーゼをロードしたBMMと対照的に、カタラーゼ−ポリイオン複合体をロードした該細胞は、少なくとも24時間活性な酵素を放出した(図13A)。放出された該酵素の最大活性は、化学量論比(Z=1)で調製されたカタラーゼ−ポリイオン複合体をロードしたBMMで認められた(図13B)。以上を総合すると、これは、PEI−PEGを有するブロックイオノマー複合体中のカタラーゼの取り込みによってBMMから活性なカタラーゼが保護され、持続的に放出されることを示す。
【0143】
小グリア細胞のROS産生に及ぼすカタラーゼナノ処方物(nanoformulation)の抗酸化能力を評価するために、「裸の」カタラーゼまたはカタラーゼ−ポリイオン複合体をロードしたBMMを、クレブス−リンゲル緩衝液中で2時間インキュベートし、得られた上清を回収し、TNF−α(200ng/mL)刺激小膠細胞に添加した。カタラーゼまたはカタラーゼ−ポリイオン複合体をロードしたBMMから回収した上清中のカタラーゼは、小グリア細胞によって過酸化水素を分解した(図14A)。カタラーゼ−ポリイオン複合体によってより高い影響が認められ、これは、キャリア細胞中に酵素活性を保存する能力と一致した。さらに、非ロードBMM(図14B)またはPEI−PEGのみをロードしたBMM(図14C)から回収した上清は、たとえあったとしても、過酸化水素レベルにほとんど影響を及ぼさなかった。これらの所見をPDで典型的に見出される刺激によって活性化された小グリア細胞中で再現することができるかどうかを決定するために、細胞を0.5μM N−α−synで刺激した。PD中に細胞質体として存在する凝集したN−α−synはドーパミン作動性ニューロンの死滅後に放出され、これはレヴィ小体の主成分である(Zhang et al.(2005)FASEB J.,19:533−42)。これらの凝集タンパク質が、小グリア細胞活性化のための刺激としての機能を果たすとの仮説が立てられる(Gendelman,H.(2006)Neurotoxicology 27:1162;Thomas et al.(2007)J.Neurochem.100:503−19)。再度、過酸化水素レベルは、カタラーゼ−ポリイオン複合体をロードしたBMMの上清の添加によって有意に減少した(図14D)。以上を総合すると、本研究により、BMMから放出されたカタラーゼ−ポリイオン複合体が小グリア細胞の活性化に起因する酸化ストレスを弱めることができることが示唆される。実際、BMMから放出されたカタラーゼ−ポリイオン複合体は、「裸の」カタラーゼよりも有意に大量にH2O2を減少させ、それにより、ポリイオン複合体がBMM中にカタラーゼの酵素活性を有効に保存することを示す。
【0144】
カタラーゼ−ポリイオン複合体を保有するBMMがヒトPDを反映する活動的な神経炎症性疾患を有する脳小領域に到達することができるかどうかを決定するために、MPTPモデルを使用した。2つのMPTP中毒C57B1/6マウス群に、125I標識カタラーゼを含む遊離ポリペプチド−ポリイオン複合体を静脈内投与するか、養子移入されたカタラーゼ−ポリイオン複合体がロードされたBMMを投与した。注射24時間後、カタラーゼ−ポリイオン複合体のみで処置した群と比較して、養子移入を受けた群の脾臓、肝臓、肺、腎臓、および脳の放射能レベルが有意に増加した(図15)。養子移入後、注射用量の約0.6%が脳内で見出され、これは遊離カタラーゼ−ポリイオン複合体を注射した動物で見出された量の2倍であったことに注目すべきである。以上を総合すると、これらのデータにより、酵素−ポリイオン複合体をロードしたBMMの養子移入が脳およびマクロファージ組織移動部位であると知られる他の末梢組織への送達を増加させることができるという証拠が得られる。
【0145】
脳への治療用ポリペプチドの効率的な輸送が、神経変性疾患および神経炎症性疾患の良好な治療に必要である。この目的を達成するために、強力な抗酸化剤であるカタラーゼの送達のためのビヒクルとしてBMMを使用することができるかどうかを試験した。実際、マクロファージおよび小グリア細胞ならびに他の単核食細胞がコロイド状ナノ粒子(例えば、リポソームまたはナノサスペンション(nanosuspension))を細胞内に取込み、その後に薬物を組織の損傷部位、または感染部位、または罹患部位に輸送して放出することができることが以前より知られている(Dou et al.(2006)Blood 108:2827−35;Dou et al.(2007)Virology 358:148−158;Gorantla et al .(2006)J.Leukocyte Biol.,80:1165−1174;Daleke et al.(1990)Biochim.Biophys.Acta 1024:352−66;Jain et al.(2003)Int.J.Pharm.,261:43−55)。
【0146】
さらに、BMMがBBBを通過する能力も調査した(Lawson et al.(1992)Neuroscience 48:405−15;Simard et al.(2004)FASEB J.,18:998−1000;Male et al.(2001)Prog.Brain Res.,132:81−93;Streit et al.(1999)Prog.Neurobiol.,57:563−81;Kokovay et al.(2005)Neurobiol.Dis.,19:471−8;Kurkowska−Jastrzebska et al.(1999)Acta Neurobiol.Exp.(Wars)59:1−8;Kurkowska−Jastrzebska et al.(1999)Exp.Neurol.,156:50−61;Simard et al.(2006)Mol.Psychiatry 11:327−35)。特に、PDのMPTPマウスモデルにおいて単球が脳に浸潤することが証明された(Kokovay et al.(2005)Neurobiol.Dis.,19:471−8;Kurkowska−Jastrzebska et al.(1999)Acta Neurobiol.Exp.(Wars)59:1−8;Kurkowska−Jastrzebska et al.(1999)Exp.Neurol.,156:50−61)。実際、MPTP毒性は、中脳、層、中隔、および海馬への単球浸潤率の一過性全般的増加を刺激した。これらの以前の研究では、脳中の単球−マクロファージの最大蓄積が、MPTP処置の1日後に認められた。これらのデータに基づいて、MPTP処置マウスに養子移入されたカタラーゼロード単球がPD中で最も冒されやすい脳領域(黒質および線条体が含まれる)に酵素を送達させることができるようである。
【0147】
BMM内のカタラーゼの分解を阻止するために、該タンパク質を、カチオン性ブロックコポリマーであるPEI−PEGを有するブロックイオノマー複合体中に固定した。得られたナノ粒子のサイズは約60〜100nmであり、生理学的条件下(pH、イオン強度)で安定であった。BMM中の高ローディングを達成しカタラーゼ活性を保存するために、該カタラーゼ−ポリイオン複合体の組成および構造を変化させた。外来粒子の内在化および開口分泌は、マクロファージにおける最も基本的な機能の1つである(Stout et al.(1997)Front.Biosci.,2:dl97−206)。BMMが比較的短い期間に(約40〜60分間)かなりの量のポリペプチド−ポリイオン複合体を蓄積し(約30μgカタラーゼ/106細胞)、その後に外部の培地中に4〜5日間放出し続けることができることを本明細書中で証明した。これにより、養子移入後のカタラーゼ−ポリイオン複合体をロードした細胞がカタラーゼを脳に到達させて放出するのに十分な時間を有することができることも示唆される。さらに、単球およびマクロファージの活性化によって開口分泌を刺激することができると報告されている(Schorlemmer et al.(1977)Clin.Exp.Immunol.,27:198−207;Allison et al.(1974)Symp.Soc.Exp.Biol.,419−46;Cardella et al.(1974)Nature 247:46−8)。上記の諸実験は、BMMによるポリペプチド−ポリイオン複合体の放出をPMAの刺激によって増強することができることを示す。ブロックイオノマー複合体が宿主細胞内のカタラーゼ活性を保護することも上記で証明する。特に、該酵素−ポリイオン複合体をロードしたBMMは、少なくとも24時間培地に活性な酵素を放出した。さらに、ポリペプチド−ポリイオン複合体をロードしたBMMから回収した培養上清は、N−α−synまたはTNF−αのいずれか一方で活性化された小グリア細胞によって産生されたROSに対するアッセイで強力な抗酸化剤を有していた。したがって、これらの細胞培養モデルは、ポリペプチド−ポリイオン複合体をロードしたBMMが神経変性過程に関連する酸化ストレスを軽減することができることを示す。最後に、ポリペプチド−ポリイオン複合体をロードしたBMMの養子移入によって組織への標識酵素の送達を増加させることができる(MPTP処置マウスの脳内の酵素量の2倍増加が含まれる)というin vivoでの証拠を示す。興味深いことに、かなりの量の標識酵素が該ポリペプチド−ポリイオン複合体のみの注射後の脳内にも見出された。該ポリペプチド−ポリイオン複合体を循環単球によって取り込み、次いで、該酵素を脳に運搬することができる可能性がある。
【実施例6】
【0148】
画像の可視化およびin Vivo画像化システム(IVIS)研究。BALB/CマウスにMPTP(PD関連ニューロン炎症(neuroninflammation)を誘導するため)を注射し、剪毛した(毛による蛍光ブロッキングを軽減するため)。Alexa 680標識ポリペプチド−ポリイオン複合体(PEI−PEO;Z=1)をBMMにロードし、次いで、該単球をMPTP処置マウスに静脈投与した(50mln/マウス)。該マウスを、種々の時間間隔でIVISを使用して撮像した(図16)。MPTP中毒脳内にかなりの量のポリペプチド−ポリイオン複合体が見出された。有意に、非MPTPコントロールマウスの脳内に蛍光は検出されなかった。これは、BMMがBBBを通過し炎症部位へのポリペプチド−ポリイオン複合体送達を容易にしたことを示す。
【0149】
in vivoでのポリペプチド−ポリイオン複合体をロードしたBMMの毒性についての組織病理学的評価。C57BL/6健常マウスに、ポリペプチド−ポリイオン複合体(10mln/マウス)またはPBS(コントロール群)をロードした単球を注射した。48時間後、脳、肝臓、脾臓、および腎臓を剖検で回収した。コード化された(coded)H&E染色器官の切片を、光学顕微鏡によって調べた。アポトーシスの兆候、BBB破壊の兆候、脳内の神経細胞死のニューロン炎症反応の兆候;大滴性脂肪症(macrovesicular steatosis)および肝細胞の壊死;肝臓の胆汁分泌停止の兆候;または腎臓における急性尿細管壊死の兆候が見出されなかった。
【0150】
マウスにおけるMPTP誘導性ドーパミン作動性神経喪失に対するBMMにロードしたポリペプチド−ポリイオン複合体の神経保護。ポリペプチド−ポリイオン複合体の神経保護効果を評価するために、MPTP中毒性マウスにポリペプチド−ポリイオン複合体ロードしたBMMを静脈注射し、SNpcおよび層(ヒト疾患で最も影響をうける領域)中の脳神経代謝産物N−アセチルアスパルタート(NAA)のレベルを、処置7日目にモニタリングした。MPTP注射により、コントロールマウスのSNpcおよび層中のNAAが有意に喪失した(図17)。対照的に、BMMにロードしたポリペプチド−ポリイオン複合体で処置したMPTP中毒性マウス中のNAAレベルは減少しなかった。さらなる研究では、MPTPで中毒にされ、次いで、カタラーゼ−ポリイオン複合体をロードしたBMMを静脈内投与したマウスの脳に、特にSNpcおよび層に、2日後のコントロールマウスに対するアストロサイトーシスによって測定したところ、炎症レベルの減少が見出された。上記は、カタラーゼ−ポリイオン複合体がMPTP誘導性ドーパミン作動性神経変性中に神経保護能力を有することを示す。
【実施例7】
【0151】
CuZnSOD−ポリイオン複合体の末梢投与は、中枢投与したAngIIの急性血圧応答を阻害する。
【0152】
実施例3に記載のCuZnSOD−ポリイオン複合体を使用して、末梢投与したCuZnSOD−ポリイオン複合体が脳内のAngIIシグナル伝達を調整することができるという証拠を得た。具体的には、該実験は、ICV投与したAngII(100ng)によって誘導された血圧の急性増加に及ぼす末梢投与した(頸動脈内)CuZnSOD−ポリイオン複合体の影響を調べた。ICV AngII誘導性の平均動脈圧(MAP)の変化を、CuZnSOD−ポリイオン複合体または遊離CuZnSODの脛動脈内投与の0、1、2、および5日後にウサギにおいて記録した。ICV投与AngII後のMAPの変化は、0日目の応答と比較してCuZnSOD−ポリイオン複合体処置の1日後および2日後に劇的に減少した(図18)。対照的に、活性であるが細胞膜を介して通過できない遊離CuZnSODタンパク質での処置は、ICV AngII誘導性血圧応答に影響を及ぼさなかった(図18)。これらのデータは、末梢投与されたCuZnSOD−ポリイオン複合体がCNS中のAngII感受性ニューロンを透過し、中枢AngII媒介性心血管応答を調整することができることを示す。実際、本発明の特定の実施形態では、a)銅亜鉛スーパーオキシドジスムターゼ(CuZnSOD)およびCuZnSODの電荷と逆の少なくとも1つの電荷を含む合成ポリマーを含む少なくとも1つの複合体およびb)少なくとも1つの薬学的に許容可能なキャリアを含む組成物の投与を含む、高血圧症患者の治療方法を提供する。特定の実施形態では、CuZnSOD およびCuZnSODの電荷と逆の少なくとも1つの電荷を含む合成ポリマーを含む複合体は、患者に投与される細胞内に含まれる。
【実施例8】
【0153】
脳由来の神経栄養因子(BDNF)は、等電点10.23を有する分子量27.3kDaの塩基性神経栄養タンパク質である。BDNFは、中性pHで正味の正電荷(+9.5)を有する(Philo et.al.(1994)J.Biol.Chem.,269:27840−27846)。したがって、陰イオン性ブロックコポリマーであるPEO−b−ポリ(メタクリル酸ナトリウム)(PEO−b−PMA)(カルボキシル基のpKaは5.2である)を使用して、該ポリイオン複合体にBDNFを取り込んだ。ブロックコポリマーおよびタンパク質成分を含む緩衝液の簡単な混合によって複合体を調製した。混合物中のポリマー/タンパク質比を、PEO−b−PMAのカルボキシル基の計算した全濃度をタンパク質中のリジン残基およびアルギニン残基の全濃度で割ることによって計算した。混合の際、これらの系は透明なままであり、沈殿は認められなかった。
【0154】
ハーセプチン(トラスツズマブ)は、ヒト化抗ヒト上皮成長因子受容体2(HER2/c−erbB2)モノクローナル抗体である。ハーセプチンは、HER2を過剰発現する原発性および頭蓋転移性乳癌に対して有効であることが示された。しかし、脳転移した患者では、血液脳関門がその使用を制限する(Kinoshita et.al.(2006)PNAS,103:11719−11723)。
【0155】
ハーセプチンは、等電点8.45を有する分子量145.5kDaの塩基性タンパク質である。ハーセプチンは、中性pHで正味の正電荷(+12)を有する。陰イオン性ブロックコポリマーであるPEO−b−ポリ(メタクリル酸ナトリウム)(PEO−b−PMA)(カルボキシル基のpKaは5.2である)を使用して、ポリイオン複合体にハーセプチンを取り込んだ。ブロックコポリマーおよびタンパク質成分を含む緩衝液の簡単な混合によって複合体を調製した。該混合物中のポリマー/タンパク質比を、PEO−b−PMAのカルボキシル基の計算した全濃度をタンパク質中のリジン残基およびアルギニン残基の全濃度で割ることによって計算した。混合の際、これらの系は透明なままであり、沈殿は認められなかった。
【0156】
レプチンは18.7kDのタンパク質ホルモンであり、エネルギーの取り込みおよびエネルギーの消費の調節(食欲の調節(減少)および代謝の調節(増加)が含まれる)で重要な役割を果たす。レプチンは、生理学的pHで等電点5.85および正味の負電荷(約−2)を有する。PLL骨格上にグラフティングされた約1.4PEO鎖を含むグラフト構造のカチオン性ブロックイオノマーであるpoly−L−リジン−グラフト−ポリ(エチレンオキシド)(PLL−g−PEO(2))を使用して、レプチン−ポリイオン複合体を調製した。該グラフトポリマーおよびタンパク質成分を含む緩衝液の簡単な混合によって複合体を調製した。該混合物中のポリマー/タンパク質比を、PLL−g−PEO(2)のアミノ基の全濃度をタンパク質中のアスパラギン酸残基およびグルタミン酸残基の全濃度で割ることによって計算した。混合の際、これらの系は透明なままであり、沈殿は認められなかった。
【実施例9】
【0157】
カタラーゼポリイオン複合体をロードした単球によるMPTP中毒性マウスにおける炎症の防止。
【0158】
PDについて特徴づけられた病理学的変化の誘導のために、雄C7BL/6レシピエントマウスに、2時間毎の4回の腹腔内注射によって、18mgの遊離塩基MPTP/kg体重をPBSで投与した(MPTP(Sigma Chemical Co.,St.Louis,MO))。コントロールマウスに、18時間後に生理食塩水を静脈注射し、MPTP中毒マウスの半分にカタラーゼポリイオン複合体(10mln/マウス)をロードした単球を静脈注射し、残りの半分のマウスに生理食塩水を静脈注射した。ニューロン死の活動期および神経炎症活動のピークは、MPTP注射の2日後に起こる。したがって、2日後、ナイーブマウス、MPTP中毒マウス、およびMPTP中毒化後にカタラーゼをロードした単球で処置したマウスの中脳領域を単離し、脳を瞬間冷凍し、OCT培地に包埋した。免疫組織学的分析を、4%パラホルムアルデヒド中で24時間固定し、その後スクロース溶液中にて4℃で48時間固定した厚さ30μmのインタクトなスライスにおいて行った。組織スライスを、0.01%アジ化ナトリウムを含むPBS中で保存し、染色前にPBSで3回洗浄した。次いで、組織スライスを、7%正常ヤギ血清(NGS)中で1時間ブロッキングした。
【0159】
小グリア細胞活性化(Mac−1染色)のために、切片にした組織を、7%NGSで200倍希釈したラットCD11b一次抗体(AbD Serotec,Raleigh,NC)にて4℃で一晩免疫染色する。サンプルを、7%NGSで200倍希釈したヤギ抗ラット二次抗体 Alexa Fluor 594(Invitrogen Corporation,Carlsbad,CA)と室温で45分間インキュベートした。
【0160】
アストロサイトーシスについて、組織切片を1%Triton X−100を含む5%NGS(正常ヤギ血清)のPBS液にて10分間透過処理し、5%NGSで1時間ブロッキングし、次いで、5%NGSで1000倍希釈したウサギ抗グリア線維性酸性タンパク質一次抗体と4℃で18時間インキュベートした。サンプルを、200倍希釈したヤギ抗ウサギ488(Molecular Probes)と室温で45分間インキュベートした。該スライスを、Aquamount中に固定した。蛍光分析によって免疫反応性を評価した。蛍光強度を、ImageJ software(National Institute of Health;NIH)を使用して計算した。領域を、ImageJ softwareを使用して、CD11b発現レベルの関数として計算した。
【0161】
【表13】
【0162】
表13に示したデータは、MPTP注射によって黒質緻密部内に有意な炎症を生じ、それにより、小グリア細胞活性化およびアストロサイトーシスが起こることを明確に示す。対照的に、カタラーゼをロードした単球でのMPTP注射マウスの処置により、神経炎症が健常動物におけるレベルに防止された(表13)。
【0163】
マウスにおけるMPTP誘導性ドーパミン作動性神経喪失に対するカタラーゼポリイオン複合体をロードした単球の神経保護効果。
【0164】
MPTP中毒性マウスにおけるPDの進行にもたらされた黒質および線条体におけるカタラーゼ増大神経保護の影響を定量的且つ非浸潤的に評価するために、神経N−アセチルアスパルタート(NAA)レベルを評価する新規の神経画像を、磁気共鳴分光学的画像化(magnetic resonance spectroscopic imaging)(MRSI)によって読み出した。
【0165】
この目的のために、最初に、マウスをMPTP注射前にプレスキャニングした。次いで、該マウスの半分に、カタラーゼポリイオン複合体をロードしたBMM(25mln BMM/100μl/マウス)を注射した。PBSを注射したMPTP処置マウスは、最大神経変性のコントロールとしての機能を果たした。SNpcおよび層中の脳神経代謝産物N−アセチルアスパルタート(NAA)を、処置7日後にMRSIによって評価した。MRIおよびMRSIを、アクティブに分離した72mm体積送信コイル(volume coil transmit)および研究室で組み立てた1.25×1.5cm受信表面コイルを使用して300.41 MHzで操作するBruker Avance 7T/21cmシステムで取得した。MR画像を、20mm FOV、25枚の連続する厚さ0.5mmのスライス、交互的なスライスの順序、128×128マトリックス、8エコー、エコー間隔12msを使用して取得し、CPMG位相循環RFリフォーカシングパルスを使用してリフォーカシングして、組織学を使用したT2マッピングおよび同時記録のための8画像を形成した。3つの直交スライス選択的リフォーカシングパルスを使用してリフォーカシングした数値的に最適化された二重励起を使用して分光学的画像を得た(体積選択性リフォーカシングを使用した二重励起、BEVR)。名目上のボクセルサイズ1μlが得られるSNpcを含むスライスの4つの平均値を使用した視野(FOV)20mmにわたる24×24空間符合化を使用した8×4.2×1.5mmの目的体積の選択によって分光学的画像を得た。総取得時間は80分である。MRSI処理。分光学的画像を、次元をコード化する相でフーリエ変換し、Matlab(Mathworks Inc,Nantick,MA)を使用して再フォーマットした。jMRUIパッケージ中のAMARESを使用して、スペクトルをフィッティングした。モデルパラメーターおよび制約を、ファントム由来のスペクトルを使用して得た。
【0166】
TR=1s、NA=1、およびレシーバゲイン=1000を除いて同一方法のスペクトルパラメーターを使用して非抑制水(unsuppressed water)分光学的画像を得る。該非抑制水を、水抑制MRSIデータからの代謝産物濃度を定量するために各ボクセルの内部標準として使用する。データソースを隠された技術者がデータをフィッティングする。各レシーバゲインでの水信号振幅に対する代謝産物の比の校正を、ファントム研究で行った。Matlab(The Mathworks Inc,Nantick,MA)を使用して計算し、代謝産物濃度をASCII(データベース開発のため)およびバイナリ(MRI重複のため)代謝産物マップとして出力した。
【0167】
図19に示すように、MPTP注射によってコントロールマウスのSNpcおよび層中のNAAが有意に喪失した。対照的に、ポリペプチド−ポリイオン複合体ロードしたBMMで処置したMPTP中毒性マウスにおけるNAAレベルは減少しなかった。これらの結果は、マウスPDモデルにおいてロードした細胞が脳の損傷領域に有意なレベルで到達して活性カタラーゼを放出し、その後に神経保護効果を生じることができることを示した。
【実施例10】
【0168】
種々のタイプの細胞キャリア中のカタラーゼポリイオン複合体の蓄積。
【0169】
BMMに加えて(beside)、炎症状態下で脳に浸潤することも証明された樹状細胞(DC)またはTリンパ球などの他の細胞キャリアを、カタラーゼポリイオン複合体の送達のために使用することができる。BMMと同様にローディング試験を行った。簡潔に述べれば、DCまたはT−リンパ球を、1×106細胞/ウェルの密度で96ウェルプレートに播種し、Alexa Fluor 594標識カタラーゼポリイオン複合体(+/−電荷比(Z)=1)と種々の時間間隔でインキュベートした。次いで、該細胞を洗浄し、1%TritonX100で破壊した。BMM中の蛍光の蓄積量をアッセイし、細胞量について正規化した(表14)。
【0170】
【表14】
【0171】
BMMと同様に、両細胞はかなりの量のカタラーゼナノ粒子(それぞれ、106個のDC、Tリンパ球、およびBMMあたり112μg、21μg、および30μg)を迅速に(1時間)取り込むことを証明する。これにより、種々の細胞キャリア系を使用して、カタラーゼポリイオン複合体の良好な脳送達を確実にすることが可能である。
【実施例11】
【0172】
カタラーゼポリイオン複合体の架橋
複合体を安定化するために、ブロックコポリマーをタンパク質と架橋する種々の架橋剤を使用した。
【0173】
グルタルアルデヒド
カタラーゼポリイオン複合体を得るために、0.5mlのカタラーゼ(0.5mg/ml)を含む60mMリン酸緩衝液(pH=7.4)を、0.5mlのブロックコポリマー(0.25mg/ml)を含む同一の緩衝液と混合した。次いで、4μl(100倍過剰(NH2基の量))のグルタルアルデヒド(Fluka、#49632、25%水溶液)を、強く撹拌しながら該混合物に添加した。該混合物を、室温で2時間インキュベートした。次いで、7.5μlの水素化ホウ素ナトリウム溶液(5×10−2M)を含む1M NaOHを、20分間隔で2回に分けて添加した。該混合物を室温で1時間さらにインキュベートし、SephadexG25カラムでのゲル濾過によって精製した。
【0174】
N−エチル−N’−(3−ジメチルアミノプロピル)−カルボジイミド(EDC)
カタラーゼポリイオン複合体を、上記のように得た。次いで、1.5mg EDC(30倍過剰(COO−基の量))を、強く撹拌しながら該混合物に添加した。該混合物を、室温で2時間インキュベートした。インキュベーション後、該混合物をSephadexG25カラムでのゲル濾過によってさらに精製した。
【0175】
ビス−(スルホスクシンイミジル)スベリン酸ナトリウム塩(BS3)
カタラーゼポリイオン複合体を上記のように得た。次いで、2mg BS3(7倍過剰(リジン基の量))を、強く撹拌しながら該混合物に添加した。該混合物を、室温で3時間インキュベートした。インキュベーション後、該混合物をSephadexG25カラムでのゲル濾過によってさらに精製した。
【0176】
カタラーゼポリイオン複合体の架橋を、ウェスタンブロットによって確認した。サンプルを、変性条件下(SDSを使用)でのポリアクリルアミドゲル(10%)のゲル電気泳動に供し、非架橋複合体を破壊した。次いで、ゲルをブロッティングし、タンパク質バンドをカタラーゼに対する一次抗体(abeam、abl877)で視覚化した。図20は、種々のリンカーを使用して架橋したカタラーゼ/ポリイオン複合体の画像を示す。レーン1:後者(latter);レーン2:カタラーゼのみ;ライン3:EDCと架橋したカタラーゼポリイオン複合体;ライン4:GAと架橋したカタラーゼポリイオン複合体;ライン5:BS3と架橋したカタラーゼポリイオン複合体。
【0177】
図20で認められるように、GAと完全に結合し、それにより、カタラーゼバンドが存在しなかった。これはゲルに侵入しない巨大な複合体に起因する(ライン4、カタラーゼバンドなし)。架橋剤としてのEDCの使用によっても架橋したが(ライン3)、いくつかの遊離カタラーゼバンドが存在するので、これらの条件下で完全な結合が行われなかった。BS3との架橋により(ライン5)、ゲルに侵入するより小さな複合体が生成されたが、遊離カタラーゼバンド(ライン2)と比較して遅延した。
【0178】
スーパーオキシドジスムターゼ(SOD)ポリイオン複合体の架橋
類似の架橋複合体を、SODおよびブロックコポリマーを使用して得た。
【0179】
GA
SODポリイオン複合体を得るために、0.5mlのSOD(1mg/ml)を含む60mMリン酸緩衝液(pH=7.4)を、0.5mlのブロックコポリマー(0.25mg/ml)を含む同一の緩衝液と混合した。次いで、10μl(100倍過剰(NH2基の量))のGAを、強く撹拌しながら該混合物に添加した。該混合物を、室温で2時間インキュベートした。次いで、5μlの水素化ホウ素ナトリウム溶液(5×10−2M)を含む1M NaOHを、20分間隔で2回に分けて添加した。該混合物を室温で1時間さらにインキュベートし、SephadexG25カラムでのゲル濾過によって精製した。
【0180】
EDC
SODポリイオン複合体を上記のように得た。次いで、1.5mg EDC(12倍過剰(COO−基の量))を、強く撹拌しながら該混合物に添加した。該混合物を、室温で2時間インキュベートした。インキュベーション後、該混合物をSephadexG25カラムでのゲル濾過によってさらに精製した。
【0181】
BS3
SODポリイオン複合体を上記のように得た。次いで、1.7mg BS3(4.5倍過剰(リジン基の量))を、強く撹拌しながら該混合物に添加した。該混合物を、室温で3時間インキュベートした。インキュベーション後、該混合物をSephadexG25カラムでのゲル濾過によってさらに精製した。
【0182】
SODポリイオン複合体の架橋を、ウェスタンブロットによって確認した。サンプルを、変性条件下(SDSを使用)でのポリアクリルアミドゲル(10%)のゲル電気泳動に供し、非架橋複合体を破壊した。次いで、ゲルをブロッティングし、タンパク質バンドをSODに対する一次抗体(Calbiochaem,# 574597)で視覚化した。図21は、種々のリンカーを使用して架橋したSOD/ポリイオン複合体の画像を示す。レーン1:後者;レーン2:SODのみ;ライン3:非架橋SODポリイオン、ライン4:EDCと架橋したSODポリイオン複合体;ライン5:GAと架橋したSODポリイオン複合体;ライン6:BS3と架橋したSODポリイオン複合体。
【0183】
図21で認められるように、いくつかの遊離SODバンドが存在するので、EDCとの架橋(ライン4)は、これらの特定の条件下で完全に結合しなかった。対照的に、GA(ライン5)およびBS3(ライン6)と完全に結合し、それにより、巨大な複合体がゲルに侵入できないためSODバンドは認められなかった。
【0184】
カタラーゼ/SODポリイオン複合体の架橋
概して、混合カタラーゼ/SODポリイオン複合体を得るために、第1に、カタラーゼおよびSODをpH6.8で混合し(このpHでカタラーゼは負に帯電し(PI7.28)、SODは正に帯電している(PI 6.32))。次いで、上記合成と同様に、該ブロックコポリマーを添加し、種々のリンカーを使用して、該ブロックコポリマーを該タンパク質に結合させた。
【0185】
GA
カタラーゼ/SODポリイオン複合体を得るために、1mgのカタラーゼおよび1.33mgのSODを60mMリン酸緩衝液(pH=6.8)に溶解した。次いで、1.3mgのブロックコポリマーを該混合物に添加し、室温で10分間インキュベートした。5μl(9倍過剰(NH2基の量))のGAを、強く撹拌しながら該混合物に添加した。該混合物を、4℃で一晩(8時間)インキュベートした。次いで、6.5μlの水素化ホウ素ナトリウム溶液(5×10−2M)を含む1M NaOHを、20分間隔で2回に分けて添加した。該混合物を室温で1時間さらにインキュベートし、SephadexG25カラムでのゲル濾過によって精製した。
【0186】
EDC
カタラーゼ/SODポリイオン複合体を上記のように得た。次いで、10mgのEDC(20倍過剰(COO−基の量))を、強く撹拌しながら該混合物に添加した。該混合物を、4℃で一晩(8時間)インキュベートした。インキュベーション後、該混合物をSephadexG25カラムでのゲル濾過によってさらに精製した。
【0187】
BS3
カタラーゼ/SODポリイオン複合体を上記のように得た。次いで、8.6mgのBS3(10倍過剰(リジン基の量))を、強く撹拌しながら該混合物に添加した。該混合物を、室温で3時間インキュベートした。インキュベーション後、該混合物をSephadexG25カラムでのゲル濾過によってさらに精製した。
【0188】
EDC−スルホ−NHS
中間体EDC複合体を安定化するために、スルホ−N−ヒドロキシスクシンイミド(スルホ−NHS)を使用した。この目的のために、カタラーゼ/SODポリイオン複合体を上記のように得た。次いで、10mgのEDC(20倍過剰(COO−基の量))を、強く撹拌しながら該混合物に添加した。EDCの添加後、2mgスルホ−NHSを添加し、反応混合物を、室温で3時間インキュベートした。インキュベーション後、該混合物をSephadexG25カラムでのゲル濾過によってさらに精製した。
【0189】
カタラーゼ/SODポリイオン複合体の架橋を、ウェスタンブロットによって確認した。サンプルを、変性条件下(SDSを使用)でのポリアクリルアミドゲル(10%)のゲル電気泳動に供した。次いで、ゲルをブロッティングし、タンパク質バンドを個別にカタラーゼおよびSODに対する一次抗体で視覚化した。図22Aは、カタラーゼに対する抗体を使用して標識した種々のリンカーを使用して架橋したカタラーゼ/SOD/ポリイオン複合体の画像を示す。レーン1:非架橋カタラーゼ/SODポリイオン複合体;GAと架橋したカタラーゼ/SODポリイオン複合体(EDC;ライン5:GAと架橋したSODポリイオン複合体(レーン2);EDC(ライン3);BS3(ライン4);EDC−S−NHS(ライン5)。該図で認められるように、GAと完全に結合し(ライン2)、EDCとの架橋(ライン3)により、不完全に結合した(いくつかの遊離カタラーゼバンドが存在する)。BS3リンカーの使用(ライン4)により、ゲルに侵入することができる複合体が得られたが、非架橋カタラーゼ/SODポリイオン複合体と比較して遅延した。スルホ−N−ヒドロキシスクシンイミドを使用した中間体EDC複合体の安定化(ライン5)により、EDCのみ(ライン3)と比較して有意により良好な架橋が得られた。
【0190】
図22Bは、SODに対する抗体で標識した種々のリンカーを使用して架橋したカタラーゼ/SOD/ポリイオン複合体の画像を示す。レーン1:非架橋カタラーゼ/SODポリイオン複合体;GAと架橋したカタラーゼ/SODポリイオン複合体(EDC;ライン5:GAと架橋したSODポリイオン複合体(レーン2);EDC(ライン3);BS3(ライン4);EDC−S−NHS(ライン5)。
【0191】
該結果は、カタラーゼに対する抗体で染色したゲルから得たデータを確認した。GAと完全に結合した(ライン2);EDCとの架橋(ライン3)によって不完全に結合した(遊離SODが有意に染色する)。BS3リンカー(ライン4)およびスルホ−N−ヒドロキシスクシンイミドをEDCと共に使用して(ライン5)、ほとんど完全に結合した。
【実施例12】
【0192】
MPTP中毒性マウス中のBMM生体分布の視覚化
実験前に、BALB/C雌マウスを、30〜40mg/kg体重の用量でのペントバルビタールの腹腔内注射を使用して麻酔し、剪毛し、脱毛した(毛による蛍光ブロッキングを軽減するため)。該マウスを、流動食で72時間保持した(固形食由来の胃内および腸内の自己蛍光を排除するため)。該マウスに、2時間毎の4回の腹腔内注射によって18mgの遊離塩基MPTP/kg体重をPBSで投与した(MPTP(Sigma Chemical Co.,St.Louis,MO))。18時間後、該マウスにカタラーゼポリイオン複合体をロードしたLi−COR標識BMM(50mln/マウス)を尾静脈注射した。次いで、該マウスを66%亜酸化窒素および残りの酸素と共に1.5%イソフルラン混合物を使用して麻酔し、撮像カメラ中に配置した。カタラーゼポリイオン複合体をロードした標識BMMの生体分布を、IVIS 200 Series Imaging Gas Anasthesia Systemによって検出するようにLi−CORのin vivo蛍光の測定によって決定した。カタラーゼポリイオン複合体をロードしたLi−COR標識BMMは、IV注射の2時間後に脳内に蓄積し始め、注射4〜7時間後にピークに達し、注射後少なくとも48時間上昇したままであった(図23)。これらのデータは、末梢投与したカタラーゼポリイオン複合体をロードしたBMMがMPTP中毒化マウスの脳内に到達し、かなりの量で蓄積することができたことを示す。
【0193】
いくつかの刊行物および特許書類を上記明細書を通して引用し、本発明が関連する最新技術を説明している。これらの各引用の開示全体は、本明細書中で参考として援用される。
【0194】
本発明の一定の好ましい実施形態を上に記載し、具体的に例示しているが、本発明はかかる実施形態に制限されることを意図しない。以下の特許請求の範囲に記載のように、本発明の範囲および精神を逸脱することなく、種々の修飾形態を施すことができる。
【技術分野】
【0001】
本出願は、米国特許法第119条(e)項の下、2007年5月11日出願の米国特許仮出願第60/928,884号および2007年12月5日出願の米国特許仮出願第61/005,463号の優先権を主張する。上記出願は、本明細書中で参照として組み込まれる。
【0002】
本発明は、治療薬を患者、特に、中枢神経系(CNS)に送達するための組成物および方法に関する。
【背景技術】
【0003】
血液脳関門(BBB)は、生物学において最も制限される関門の1つである。多くの因子が相互に作用してこの制限的関門を生み出す。電子顕微鏡研究により、脳血管内皮細胞と他の内皮細胞修飾物(modification)との間の密着結合(例えば、飲作用の減少、細胞内窓(intracellular fenestrae)の欠如)が血漿限外濾過液の形成を阻止することが証明されている。BBBの酵素活性は、いくつかの物質、具体的にはモノアミンおよびいくつかの小ペプチドの侵入をさらに制限する(非特許文献1;非特許文献2;非特許文献3;非特許文献4;非特許文献5)。飽和性血液脳関門排出系(p−糖タンパク質(Pgp)など)も小分子および脂溶性物質の蓄積を防止する(非特許文献6;非特許文献7)。末梢因子(タンパク質結合/可溶性受容体、酵素分解、クリアランス、および組織による隔離など)も提示の制限によって物質がBBBを通過する能力に影響を及ぼし、これらの因子は外因的に投与された物質に特に重要である(非特許文献8)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Baranczyk−Kuzma and Audus(1987)J.Cereb.Blood Flow Metab.,7:801−805
【非特許文献2】Hardebo and Owman(1990)Pathophysiology of the BBB,pp.41−55(Johansson et al.,Eds.)Elsevier,Amsterdam
【非特許文献3】Miller et al .(1994)J.Cell.Physiol.,161:333−341
【非特許文献4】Brownson et al.(1994)J.Pharmacol.Exp.Ther.,270:675−680
【非特許文献5】Brownlees and Williams(1993)J.Neurochem.,60:793−803
【非特許文献6】Taylor,E.M.(2002)Clin.Pharmacokinet.,41:81−92
【非特許文献7】Schinkel et al.(1996)J.Clin.Invest.,97:2517−2524
【非特許文献8】Banks and Kastin(1993)Proceedings of the International Symposium on Blood Binding and Drug Transfer,pp.223− 242(Tillement et al.,Eds.)Fort and Clair,Paris
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に従って、患者の神経障害を治療する諸方法を提供する。これらの方法は、治療有効量のa)治療用ポリペプチドおよび治療用ポリペプチドの電荷と逆の少なくとも1つの電荷を含む合成ポリマーを含む少なくとも1つの複合体、およびb)少なくとも1つの薬学的に許容可能なキャリアを含む組成物を投与する工程を含む。特定の実施形態では、合成ポリマーは、少なくとも1つの非イオン性セグメントおよび少なくとも1つのポリイオンセグメントを含む。さらに別の実施形態では、投与される複合体は、血液脳関門を通過する。
【0006】
本発明の別の態様では、患者の神経障害を治療する諸方法は、治療有効量の治療用ポリペプチドおよび治療用ポリペプチドの電荷と逆の少なくとも1つの電荷を含む合成ポリマーを含む少なくとも1つの複合体を含む単離細胞、ならびに少なくとも1つの薬学的に許容可能なキャリアを含む組成物を投与する工程を含む。特定の実施形態では、該合成ポリマーは、少なくとも1つの非イオン性セグメント、および少なくとも1つのポリイオンセグメントを含む。さらに別の実施形態では、投与される細胞は血液脳関門を通過する。該投与される細胞を、治療される患者から単離することができる。特定の実施形態では、該細胞は、免疫細胞(例えば、単球、またはマクロファージ、または骨髄由来単球、または樹状細胞、またはリンパ球、またはT細胞、または好中球、または好酸球、または好塩基球など)である。
【0007】
本発明のさらに別の態様によれば、少なくとも1つの目的のタンパク質および該目的のタンパク質の電荷と逆の少なくとも1つの電荷を含む合成ポリマーを含む少なくとも1つの複合体を含む単離細胞を提供する。その細胞を含む組成物も提供する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1A】図1Aは、ポリペプチド−ポリイオン複合体構造(ナノザイムとも呼ばれる)の模式図を示す。
【図1B】図1Bは、種々のZでの酵素/ポリイオン複合体のゲル遅延度アッセイ画像である。サンプルを、未変性条件下で(SDSなし)ポリアクリルアミドゲル(7.5%)のゲル電気泳動に供した。レーン1:酵素のみ;レーン2〜4:Zが漸増した(0.5、2、4)酵素/PEI−PEG複合体。
【図1C】図1C〜Eは、種々の条件下でのカタラーゼ−ポリイオン複合体のキュムラント直径(図1C〜E)およびゼータ電位(図1C)の変化を示すグラフである。図1C:PBS溶液中のZ;図ID:イオン強度(Z=1、pH7.4);図1E:pH(Z=1、[NaCl]=0.15M)。
【図1D】図1C〜Eは、種々の条件下でのカタラーゼ−ポリイオン複合体のキュムラント直径(図1C〜E)およびゼータ電位(図1C)の変化を示すグラフである。図1C:PBS溶液中のZ;図ID:イオン強度(Z=1、pH7.4);図1E:pH(Z=1、[NaCl]=0.15M)。
【図1E】図1C〜Eは、種々の条件下でのカタラーゼ−ポリイオン複合体のキュムラント直径(図1C〜E)およびゼータ電位(図1C)の変化を示すグラフである。図1C:PBS溶液中のZ;図ID:イオン強度(Z=1、pH7.4);図1E:pH(Z=1、[NaCl]=0.15M)。
【図1F】図1Fはカタラーゼ−ポリイオン複合体(Z=1)のTEM画像である。バーは100nmを示す。
【図1G】図1Gは、ポリイオン複合体中のカタラーゼの酵素活性を示すグラフである。種々のZを有するポリイオン複合体中のカタラーゼ活性を、過酸化水素分解比によって決定した。データは平均±SEM(n=4)を示す。カタラーゼのみと比較したカタラーゼ−ポリイオン複合体活性の統計的有意性を、アスタリスクで示す:(*)P<0.05。カタラーゼの酵素活性は広範なブロックコポリマーで変化せず、Z=50のみで有意に減少した。
【図2A】図2Aは、Hu BChE/PLL−g−PEO(2)複合体のゲル電気泳動アッセイの画像である。レーン番号は、表1中のサンプル番号に対応している。
【図2B】図2Bは、種々の組成でのHor BChEのみおよびHor BChE/PLL−g−PEO(2)複合体のゲル電気泳動アッセイの画像である。レーン番号は、表2中のサンプル番号に対応している。
【図3】図3は、種々のZ+/−において(○)Hor BChE/PLL−g−PEO(2)および(■)Hu BChE/PLL−g−PEO(2)混合物中で形成された粒子の直径を示すグラフである。BChE濃度は0.15mg/mlであった(23℃、10mMリン酸緩衝液(pH7.4))。
【図4A】図4Aは、種々の希釈度での、(A)Hor BChEのみ、および(B)Hor BChE/PLL−g−PEO(7)複合体(Z+/−=10.3)のゲル電気泳動アッセイの画像である。Hor BChEの初濃度は0.167mg/mlであった。
【図4B】図4Bは、種々の希釈度(1:1000、1:5000、および1:250)での、(A)Hu BChEのみ;(B)非架橋Hu BChE/ PLL−g− PEO(2)複合体(Z+/−=1.2);および(C)架橋Hu BChE/ PLL−g−PE0(2)複合体(Z+/−=1.2;架橋比85%)のゲル電気泳動アッセイの画像である。Hu BChEの初濃度は0.15mg/mlであった。
【図5A】図5A〜5Cは、種々の希釈度:1000倍、500倍、および250倍でのHu BChEのみ(レーンA);非架橋Hu BChE/ PLL−g−PEO(2)複合体(レーンB)(Z+/−=1.2);および架橋Hu BChE/ PLL−g−PEO(2)複合体(レーンC)(Z+/−=1.2)のゲル電気泳動アッセイの画像を示す。架橋比は、それぞれ、図5A、5B、および5Cで85%、40%、および20%であった。Hu BChEの最終濃度は0.15mg/mlであった。
【図5B】図5A〜5Cは、種々の希釈度:1000倍、500倍、および250倍でのHu BChEのみ(レーンA);非架橋Hu BChE/ PLL−g−PEO(2)複合体(レーンB)(Z+/−=1.2);および架橋Hu BChE/ PLL−g−PEO(2)複合体(レーンC)(Z+/−=1.2)のゲル電気泳動アッセイの画像を示す。架橋比は、それぞれ、図5A、5B、および5Cで85%、40%、および20%であった。Hu BChEの最終濃度は0.15mg/mlであった。
【図5C】図5A〜5Cは、種々の希釈度:1000倍、500倍、および250倍でのHu BChEのみ(レーンA);非架橋Hu BChE/ PLL−g−PEO(2)複合体(レーンB)(Z+/−=1.2);および架橋Hu BChE/ PLL−g−PEO(2)複合体(レーンC)(Z+/−=1.2)のゲル電気泳動アッセイの画像を示す。架橋比は、それぞれ、図5A、5B、および5Cで85%、40%、および20%であった。Hu BChEの最終濃度は0.15mg/mlであった。
【図6】図6は、500倍希釈での種々の架橋比の架橋Hu BChE/PLL−g−PEO(2)複合体(Z+/−=1.2)のゲル電気泳動アッセイの画像である。Hu BChEの最終濃度は0.15mg/mlであった。
【図7】図7は、CuZnSOD−ポリイオン複合体を静脈内注射したマウスの画像を示す。IVIS 200画像化システムを使用して、680標識CuZnSOD−ポリイオン複合体の静脈内(尾静脈)注射後の種々の時間間隔においてマウス中のAlexa 680蛍光を検出した。
【図8A】図8Aおよび8Bは、それぞれHu BChE/PLL−b−PEO複合体およびHor BChE/PLL−b−PEO複合体のゲル電気泳動アッセイの画像を示す。該レーン番号は、表9中に示すサンプル番号に対応している。Hu BChEおよびHor BChEの濃度は0.15mg/mlであった。
【図8B】図8Aおよび8Bは、それぞれHu BChE/PLL−b−PEO複合体およびHor BChE/PLL−b−PEO複合体のゲル電気泳動アッセイの画像を示す。該レーン番号は、表9中に示すサンプル番号に対応している。Hu BChEおよびHor BChEの濃度は0.15mg/mlであった。
【図9A】図9Aおよび9Bは、それぞれZ+/−=1.0またはZ+/−=2.0、架橋比40%での架橋Hu BChE/PLL−b−PEOおよびHor BChE/PLL−b−PEO複合体のゲル電気泳動アッセイの画像である。レーンAは、Hu BChEのみである。レーンBは、非架橋Hu BChE/PLL−b−PEO複合体である。レーンCは、架橋Hu BChE/PLL−b−PEO複合体である。レーンDは、Hor BChEのみである。レーンEは、非架橋Hor BChE/PLL−b−PEO複合体である。レーンFは架橋Hor BChE/PLL−b−PEO複合体である。BChEの最終濃度は0.0003mg/mlであった。
【図9B】図9Aおよび9Bは、それぞれZ+/−=1.0またはZ+/−=2.0、架橋比40%での架橋Hu BChE/PLL−b−PEOおよびHor BChE/PLL−b−PEO複合体のゲル電気泳動アッセイの画像である。レーンAは、Hu BChEのみである。レーンBは、非架橋Hu BChE/PLL−b−PEO複合体である。レーンCは、架橋Hu BChE/PLL−b−PEO複合体である。レーンDは、Hor BChEのみである。レーンEは、非架橋Hor BChE/PLL−b−PEO複合体である。レーンFは架橋Hor BChE/PLL−b−PEO複合体である。BChEの最終濃度は0.0003mg/mlであった。
【図10】図10は、BMMにおけるポリペプチド−ポリイオン複合体(Z=1)または対応するPEI−PEG濃縮物の細胞傷害性を示すグラフである。細胞を、種々の濃度のポリペプチド−ポリイオン複合体またはブロックコポリマーと24時間インキュベートし、洗浄し、新鮮な培地中にて37℃で48時間インキュベートした。細胞生存を、スルホローダミン−B(SRB)アッセイによって決定した。Microkinetics reader BT2000にて490nmの吸光度を測定し、得られた値を、ポリペプチド−ポリイオン複合体を添加しなかったコントロール細胞について得られた値に対する比率として示した。全ての測定を8回繰り返した。BMMにおけるカタラーゼのみまたはカタラーゼとPEI−PEGとのポリイオン複合体の細胞傷害効果は認められなかった。
【図11A】図11Aは、単球における「裸の(naked)」カタラーゼおよびカタラーゼ−ポリイオン複合体(Z=1)の蓄積速度のグラフである。細胞を、種々の時点でAlexa Fluor 594標識酵素または酵素−ポリイオン複合体で処理した。インキュベーション後、細胞内容物を回収し、蛍光分光光度計(λex=580nm、λem=617nm)によって蛍光量を測定した。データは、平均±SEM(n=4)を示す。
【図11B】図11Bは、種々のZでのBMM中のカタラーゼ−ポリイオン複合体蓄積を示す棒グラフである。
【図11C】図11Cは、BMM中のRITC標識カタラーゼ−ポリイオン複合体の細胞内局在の画像を示す。カバーガラス上で増殖させた細胞に、カタラーゼ/PEI−PEG複合体(Z=1)を24時間ロードした。インキュベーションした後、該細胞を固定し、F−アクチン特異的オレゴングリーン488ファロイジンおよび核染色剤ToPro−3で染色した。共焦点蛍光顕微鏡システムACAS−570によって画像を得た。
【図12A】図12Aは、BMMからのカタラーゼ−ポリイオン複合体の放出プロフィールを示すグラフである。細胞にカタラーゼ/PEI−PEG複合体(Z=1)を1時間ロードし、PBSで洗浄し、種々の時間間隔で無カタラーゼ培地とインキュベートした。カタラーゼの培地への放出量および細胞中に保持される量を、蛍光分光光度法によって計算した。データは、平均±SEM(n=4)を示す。
【図12B】図12Bは、培地中のBMMから誘発されたカタラーゼ放出を示すグラフである。成熟BMMにAlexa Fluor 594標識カタラーゼ− ポリイオン複合体(Z=1)を予め1時間ロードし、PBSで洗浄し、次いで、10μM酢酸ミリスチン酸ホルボール(PMA)を含む、もしくは含まない無カタラーゼ培地と種々の時間間隔でインキュベートした。培地へのカタラーゼの放出量を、蛍光分光光度法によって計算した。データは、平均±SEM(n=4)を示す。インキュベーション培地へのPMAの添加により、培地への酵素放出が50%増加した。
【図13A】図13Aおよび13Bは、BMM中の分解に対するカタラーゼの酵素活性の保存を示すグラフである。図13Aでは、「裸の」カタラーゼまたはカタラーゼ−ポリイオン複合体(Z=1)をBMMにロードし、細胞を洗浄し、細胞を洗浄し、種々の時間間隔で無カタラーゼ培地とインキュベートした。BMMから放出されたカタラーゼの活性を、分光光度法によって決定した。
【図13B】図13Aおよび13Bは、BMM中の分解に対するカタラーゼの酵素活性の保存を示すグラフである。図13Bでは、種々の組成物とのカタラーゼポリイオン複合体(Z)を該細胞にロードし、無カタラーゼ培地中で2時間インキュベートした。次いで、該培地を回収し、分光光度法によってカタラーゼ活性について評価した。データは、平均±SEM(n=4)を示す。カタラーゼのみと比較したカタラーゼ−ポリイオン複合体活性の統計的有意性をアスタリスクで示した:(*)P<0.05、(**)p<0.005。
【図14A】図14Aは、BMMから放出されたカタラーゼ−ポリイオン複合体による小膠細胞誘導性ROSの調整のスキームである。ブロックコポリマー(2mg/ml;図14C)または「裸の」カタラーゼもしくはカタラーゼ−ポリイオン複合体(Z=1)(図14Bおよび図14D)をBMMにロードした。次いで、細胞を洗浄し、クレブスリンゲル緩衝液中で2時間インキュベートした。並行して、マウス小膠細胞を、200ng/mL TNF−α(48時間)(図14Bおよび図14C)または0.5μM N−α−syn(図14D)のいずれかで刺激した。次いで、放出された酵素とともに、BMMから回収した上清にAmplex RedおよびHRP溶液を補足し、それらを活性化小膠細胞に添加した。コントロール活性化小膠細胞を、新鮮な培地(図14B)または0.5μM凝集N−α−syn(図14D)とインキュベートした。小膠細胞によって生成され、BMMから放出されたカタラーゼによって分解されたH2O2量を、蛍光によって検出した。データは、平均±SEM(n=6)を示す。活性化小膠細胞(コントロール)と比較したBMMから放出されたカタラーゼ−ポリイオン複合体またはカタラーゼによって分解されたH2O2量の統計的有意性を、以下のアスタリスクで示す:(*)p<0.05、(**)、p<0.005。
【図14B】ブロックコポリマー(2mg/ml;図14C)または「裸の」カタラーゼもしくはカタラーゼ−ポリイオン複合体(Z=1)(図14Bおよび図14D)をBMMにロードした。次いで、細胞を洗浄し、クレブスリンゲル緩衝液中で2時間インキュベートした。並行して、マウス小膠細胞を、200ng/mL TNF−α(48時間)(図14Bおよび図14C)または0.5μM N−α−syn(図14D)のいずれかで刺激した。次いで、放出された酵素とともに、BMMから回収した上清にAmplex RedおよびHRP溶液を補足し、それらを活性化小膠細胞に添加した。コントロール活性化小膠細胞を、新鮮な培地(図14B)または0.5μM凝集N−α−syn(図14D)とインキュベートした。小膠細胞によって生成され、BMMから放出されたカタラーゼによって分解されたH2O2量を、蛍光によって検出した。データは、平均±SEM(n=6)を示す。活性化小膠細胞(コントロール)と比較したBMMから放出されたカタラーゼ−ポリイオン複合体またはカタラーゼによって分解されたH2O2量の統計的有意性を、以下のアスタリスクで示す:(*)p<0.05、(**)、p<0.005。
【図14C】ブロックコポリマー(2mg/ml;図14C)または「裸の」カタラーゼもしくはカタラーゼ−ポリイオン複合体(Z=1)(図14Bおよび図14D)をBMMにロードした。次いで、細胞を洗浄し、クレブスリンゲル緩衝液中で2時間インキュベートした。並行して、マウス小膠細胞を、200ng/mL TNF−α(48時間)(図14Bおよび図14C)または0.5μM N−α−syn(図14D)のいずれかで刺激した。次いで、放出された酵素とともに、BMMから回収した上清にAmplex RedおよびHRP溶液を補足し、それらを活性化小膠細胞に添加した。コントロール活性化小膠細胞を、新鮮な培地(図14B)または0.5μM凝集N−α−syn(図14D)とインキュベートした。小膠細胞によって生成され、BMMから放出されたカタラーゼによって分解されたH2O2量を、蛍光によって検出した。データは、平均±SEM(n=6)を示す。活性化小膠細胞(コントロール)と比較したBMMから放出されたカタラーゼ−ポリイオン複合体またはカタラーゼによって分解されたH2O2量の統計的有意性を、以下のアスタリスクで示す:(*)p<0.05、(**)、p<0.005。
【図14D】ブロックコポリマー(2mg/ml;図14C)または「裸の」カタラーゼもしくはカタラーゼ−ポリイオン複合体(Z=1)(図14Bおよび図14D)をBMMにロードした。次いで、細胞を洗浄し、クレブスリンゲル緩衝液中で2時間インキュベートした。並行して、マウス小膠細胞を、200ng/mL TNF−α(48時間)(図14Bおよび図14C)または0.5μM N−α−syn(図14D)のいずれかで刺激した。次いで、放出された酵素とともに、BMMから回収した上清にAmplex RedおよびHRP溶液を補足し、それらを活性化小膠細胞に添加した。コントロール活性化小膠細胞を、新鮮な培地(図14B)または0.5μM凝集N−α−syn(図14D)とインキュベートした。小膠細胞によって生成され、BMMから放出されたカタラーゼによって分解されたH2O2量を、蛍光によって検出した。データは、平均±SEM(n=6)を示す。活性化小膠細胞(コントロール)と比較したBMMから放出されたカタラーゼ−ポリイオン複合体またはカタラーゼによって分解されたH2O2量の統計的有意性を、以下のアスタリスクで示す:(*)p<0.05、(**)、p<0.005。
【図15】図15は、MPTP処置マウスにおける125I標識カタラーゼ−ポリイオン複合体の分布を示すグラフである。マウスに、カタラーゼ−ポリイオン複合体(Z=1、50μCi/マウス)をロードしたBMM(10×106細胞/マウス)またはカタラーゼ−ポリイオン複合体のみ(コントロール群)を注射した。24時間後、マウスを屠殺し、種々の器官中の放射能量を測定した。データは、平均±SEM(n=4)を示す。カタラーゼ−ポリイオン複合体のみの群と比較したBMMロードしたカタラーゼ−ポリイオン複合体輸送の統計的有意性をアスタリスクで示す:(**)p<0.005。
【図16】図16は、BMMにロードし、MPTP中毒性マウスに静脈内注射したAlexa 680標識ポリペプチド−ポリイオン構造の長期にわたる生体分布の画像を示す。
【図17】図17は、カタラーゼをロードしたポリペプチド−ポリイオン構造を含むBMMの投与によるMPTP誘導性ドーパミン作動性神経喪失に対する神経保護を示すグラフである。コントロールマウスでNAAレベルの有意な減少が認められ、カタラーゼ−ポリイオン複合体/BMM処置マウスでわずかに増加した(n=4)。
【図18】図18は、末梢投与したCuZnSOD−ポリイオン複合体がICV Angll媒介性の血圧増加を阻害することを示すグラフである。ICV注射AngII後の平均動脈圧(MAP)ピークの変化を、無CuZnSODまたはCuZnSOD−ポリイオン複合体の脛動脈内投与の0、1、2、および5日後に測定した。
【図19】図19は、カタラーゼポリイオン複合体をロードしたBMMによるMPTP誘導性ドーパミン作動性神経喪失に対する神経保護を示すグラフである。
【図20】図20は、種々の架橋剤を使用したカタラーゼ/ポリイオン複合体のゲル遅延度アッセイの画像である。サンプルを、変性条件下(SDSを使用)でのポリアクリルアミドゲル(10%)のゲル電気泳動に供した。レーン:1−分子量マーカー;2−カタラーゼのみ;および3−EDCと架橋したポリイオン複合体;4−GAと架橋したポリイオン複合体;5−BS3と架橋したポリイオン複合体。
【図21】図21は、使用した種々のリンカーについてのSOD/ポリイオン複合体のゲル遅延度アッセイの画像である。サンプルを、変性条件下(SDSを使用)でのポリアクリルアミドゲル(10%)のゲル電気泳動に供した。レーン:1−分子量マーカー;2−SODのみ;3−非架橋ポリイオン複合体;および4−EDCと架橋したポリイオン複合体;5−GAと架橋したポリイオン複合体;6−BS3と架橋したポリイオン複合体。
【図22A】図22Aは、使用した種々のリンカーについてのカタラーゼ/SOD/ポリイオン複合体のゲル遅延度アッセイの画像である。サンプルを、変性条件下(SDSを使用)でのポリアクリルアミドゲル(10%)のゲル電気泳動に供した。レーン:1−非架橋複合体;2−GAと架橋したポリイオン複合体;3−EDCと架橋したポリイオン複合体;4−BS3と架橋したポリイオン複合体;および5−EDC−S−NHSと架橋したポリイオン複合体。カタラーゼに対する抗体を使用して視覚化を行った。
【図22B】図22Bは、種々の使用リンカーについてのカタラーゼ/SOD/ポリイオン複合体のゲル遅延度アッセイの画像である。サンプルを、変性条件下(SDSを使用)でのポリアクリルアミドゲル(10%)のゲル電気泳動に供した。レーン:1−非架橋複合体;2−GAと架橋したポリイオン複合体;3−EDCと架橋したポリイオン複合体;4−BS3と架橋したポリイオン複合体;および5−EDC−S−NHSと架橋したポリイオン複合体。SODに対する抗体を使用して視覚化を行った。
【図23】図23は、カタラーゼポリイオン複合体をロードしたLi−COR標識BMMの生体分布の画像を示す。BMMを、BALB/Cマウスから単離し、成熟まで(12日間)成長させ、Li−CORで標識し、カタラーゼポリイオン複合体とともに2時間ロードした。ロードしたBMMを、流動食で24時間保持した剪毛BALB/C(50mln/マウス)に静脈注射した。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明に従って、目的のタンパク質/ポリペプチドの部位特異的および/または持続的送達のための組成物および諸方法を提供する。より具体的には、該組成物は、目的のポリペプチドと, 目的のタンパク質の正味の電荷と逆の正味の電荷を有する合成ポリマーとのポリイオン複合体を含む。
【0010】
本発明の好ましい実施形態では、該複合体の合成ポリマーはブロックコポリマーである。より具体的には、該合成ポリマーは、少なくとも1つのポリイオンセグメントおよび少なくとも1つの非イオン性水溶性ポリマーセグメントを含むブロックコポリマーである。ブロックコポリマーは、最も簡潔には少なくとも2つの異なるポリマーセグメントの複合物(conjugate)と定義される(Tirrel,M.In:Interactions of Surfactants with Polymers and Proteins.Goddard E.D.and Ananthapadmanabhan,K.P.(eds.),CRC Press,Boca Raton,Ann Arbor,London,Tokyo,pp.59−122,1992)。最も簡潔なブロックコポリマー構造は、その末端で連結してA−B型ジブロックが得られる2つのセグメントを含む。その末端による2つ以上のセグメントのその後の結合(conjugation)により、A−B−A型トリブロック、A−B−A−B−型マルチブロック、またはさらなるマルチセグメントA−B−C−構造が得られる。1つまたはいくつかの反復単位が異なるポリマーセグメントに連結するブロックコポリマー中の主鎖を定義することができる場合、該コポリマーは、例えば、A(B)n型のグラフト構造を有する。より複雑な構造には、例えば、1つの中心に連結した2つ以上のポリマーセグメントを有する(AB)nまたはAnBmスターブロック(starblock)が含まれる。本発明の代表的なブロックコポリマーは、式A−BまたはB−A(式中、Aはポリイオンセグメントであり、Bは非イオン性水溶性ポリマーセグメントである)を有するであろう。該ブロックコポリマーのセグメントは、約2〜約1000個の反復単位またはモノマーを有することができる。
【0011】
複合体の好ましいサイズは、約5nm〜約500nm、より好ましくは約5nm〜約250nm、より好ましくは約10nm〜約150nm、さらにより好ましくは約10nm〜約140nm、さらにより好ましくは約20nm〜約100nmである。これらの複合体は凝集せず、生理学的pHおよびイオン強度の水溶液(例えば、リン酸緩衝化生理食塩水(pH7.4))中への分散後少なくとも1時間好ましいサイズ範囲内のままである。これらのサイズは、動的光散乱によって有効径(effective diameter)として測定することができる(例えば、Batrakova et al.(2007)Bioconjugate Chem.,18:1498−1506を参照のこと)。水溶液中での分散後、これらの複合体は安定なままであることが好ましい(すなわち、少なくとも2時間、好ましくは12時間、さらにより好ましくは24時間凝集および/または沈殿しない)。
【0012】
該ブロックコポリマーのポリイオンセグメントは、目的のタンパク質と逆の正味電荷を有する。例えば、目的のタンパク質が正味の負電荷を有する場合、ポリイオンセグメントは適切なpHで正味の正電荷を有するであろう。該ポリイオンセグメントは、ポリカチオン(すなわち、特定のpHで正味の正電荷を有するポリマー)またはポリアニオン(すなわち、特定のpHで正味の負電荷を有するポリマー)であり得る。特定の実施形態では、該ポリイオンセグメントは、少なくとも3電荷、好ましくは少なくとも10電荷、より好ましくは少なくとも15電荷を有する。好ましい実施形態では、該電荷は相互に近接している。実際、理論に拘束されないが、高分子電解質の電荷の間の距離が一定の臨界値未満である場合、溶液中に存在する小さな対イオンはかかる高分子電解質の鎖上に縮合し得ると考えられる。例えば、高分子電解質水溶液における「ビエルム長」は、約7Åである(Manning(1980)Biopolymers,19:37−59を参照のこと)。かかる対イオンは、高分子電解質の逆帯電したポリイオンとの反応中に外液に放出され、したがって、高分子電解質複合体の形成のための「駆動力(driving force)」を得ることができる(Kabanov et al.(2002)Structure,dispersion stability and dynamics of DNA and polycation complexes.In Pharmaceutical Perspectives of Nucleic Acid−Based Therapeutics(S.W.Kim,R.Mahato,Eds.)Taylor & Francis,London,New York,pp.164−189)。
【0013】
該ポリイオンセグメントの重合度は、典型的には、約10〜約100,000である。より好ましくは、重合度は、約20〜約10,000、さらにより好ましくは約10〜約1,000、さらにより好ましくは約10〜約200である。該ポリイオンセグメントと無関係に、該非イオン性水溶性ポリマーセグメントの重合度は、約10〜約100,000である。より好ましくは、該重合度は、約20〜約10,000、さらにより好ましくは約10〜約1,000、さらにより好ましくは約10〜約200である。
【0014】
該ポリイオンセグメントは、ポリカチオンセグメントおよびポリアニオンセグメントを含む。ポリカチオンセグメントの例としては、1つもしくは複数のモノマー(第一級アミン、第二級アミン、および/または第三級アミン(それぞれ部分的または完全に四級化し、それにより、第四級アンモニウム塩を形成することができる)が含まれるが、これらに限定されない)から誘導される単位を含むポリマー、コポリマー、およびそれらの塩が挙げられるが、これらに限定されない。これらのモノマーの例としては、カチオン性アミノ酸(例えば、リジン、アルギニン、ヒスチジン、およびオルニチンなど)、アルキレンイミン(例えば、エチレンイミン、プロピレンイミン、ブチレンイミン、ペンチレンイミン、ヘキシレンイミン、およびスペルミンなど)、ビニルモノマー(例えば、ビニルカプロラクタムおよびビニルピリジンなど)、アクリラートおよびメタクリラート(例えば、N,N−ジメチルアミノエチルアクリラート、N,N−ジメチルアミノエチルメタクリラート、N,N−ジエチルアミノエチルアクリラート、N,N−ジエチルアミノエチルメタクリラート、t−ブチルアミノエチルメタクリラート、アクリルオキシエチルトリメチルアンモニウムハライド、アクリルオキシエチル−ジメチルベンジルアンモニウムハライド、およびメタクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムハライドなど)、アリルモノマー(例えば、ジメチルジアリルアンモニウムクロリド)、脂肪族イオン、または複素環イオン、または芳香族イオンが挙げられる。
【0015】
該ポリカチオンおよびポリカチオンセグメントを、それ自体がカチオン性でなくてよいモノマー(例えば、4−ビニルピリジンなど)の重合によって生成し、次いで、モノマー単位の種々の化学反応(例えば、アルキル化など)によってポリカチオン形態に変換することができ、それにより、イオン性基が出現し得る。モノマー単位の不完全な変換により、イオン性基を持たない単位の一部を有するコポリマー(例えば、ビニルピリジンとN−アルキルビニルピリジニウムハライドとのコポリマーなど)を得ることができる。
【0016】
ポリカチオンセグメントは、2つ以上のモノマー単位型(カチオン性単位と少なくとも1つの他の単位型(例えば、カチオン性単位、アニオン性単位、双性イオン性単位、親水性非イオン性単位、および/または疎水性単位が含まれる)との組み合わせが含まれる)を含むコポリマーであり得る。かかるポリカチオンセグメントを、2つ以上の化学的に異なるモノマー型の共重合によって得ることができる。かかるコポリマーを使用する場合、他の成分と反応した場合に複合体が形成されるように、該荷電基を相互に十分に近接させるべきである。好ましい実施形態では、該ポリマーまたはポリマーブロックが事実上主にカチオン性のままであるように、非カチオン性単位の一部が比較的低い。該ポリカチオン含有ポリマーは、異なる構造の2つ以上のポリマー(異なる重合度、骨格構造、および/または官能基を含むポリマーなど)の混合物であり得る。
【0017】
ポリアニオンセグメントのとしては、1つもしくは複数のモノマー(不飽和エチレンモノカルボン酸、不飽和エチレンジカルボン酸、スルホン酸基、そのアルカリ金属塩、およびそのアンモニウム塩を含むエチレンモノマーが含まれる)に由来する単位を含むポリマーおよびそれらの塩が挙げられるが、これらに限定されない。これらのモノマーの例としては、アクリル酸、メタクリル酸、アスパラギン酸、α−アクリルアミドメチルプロパンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、シトラジン酸、シトラコン酸、trans−桂皮酸、4−ヒドロキシ桂皮酸、trans−グルタコン酸、グルタミン酸、イタコン酸、フマル酸、リノール酸、リノレン酸、マレイン酸、核酸、trans−β−ヒドロムコン酸、trans−trans−ムコン酸、オレイン酸、1,4−フェニレンジアクリル酸、ホスフェート2−プロペン−1−スルホン酸、リシノール酸、4−スチレンスルホン酸、スチレンスルホン酸、2−スルホエチルメタクリラート、trans−トラウマチン酸、ビニルスルホン酸、ビニルベンゼンスルホン酸、ビニルリン酸、ビニル安息香酸、およびビニルグリコール酸など、ならびにカルボキシル化デキストラン、スルホン酸化デキストラン、およびヘパリンなどが含まれる。ポリアニオンの例としては、ポリマレイン酸、ポリアミノ酸(例えば、ポリアスパラギン酸、ポリグルタミン酸、およびそれらのコポリマー)ポリアクリル酸、およびポリメタクリル酸などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0018】
該ポリアニオンおよびポリアニオンセグメントを、それ自体がアニオン性や親水性でなくてもよいモノマー(例えば、tert−ブチルメタクリラートまたはシトラコン酸無水物など)の重合によって生成し、次いで、モノマー単位の種々の化学反応(例えば、加水分解)によってポリアニオンに変換することができ、それにより、イオン性基が出現し得る。モノマー単位の不完全な変換により、イオン性基を持たない単位の一部を有するコポリマー(例えば、tert−ブチルメタクリラートとメタクリル酸とのコポリマーなど)を得ることができる。
【0019】
該ポリアニオンセグメントは、2つ以上のモノマー単位型を含むコポリマー(アニオン性単位と少なくとも1つの他の単位型(アニオン性単位、カチオン性単位、双性イオン性単位、親水性非イオン性単位および/または疎水性単位が含まれる)との組み合わせが含まれる)であり得る。かかるポリアニオンおよびポリアニオンセグメントを、2つ以上の化学的に異なるモノマー型の共重合によって得ることができる。かかるコポリマーを使用する場合、他の成分と反応した場合に複合体が形成されるように、該荷電基を相互に十分に近接させるべきである。好ましい実施形態では、該ポリマーまたはポリマーブロックの大部分が事実上アニオン性且つ親水性のままであるように、非アニオン性単位の一部が比較的低い。該ポリアニオン含有ポリマーは、異なる構造の2つ以上のポリマー(異なる重合度、骨格構造、および/または官能基を含むポリマーなど)の混合物であり得る。
【0020】
1つの好ましい実施形態では、該ポリイオンセグメントは、リジン、ヒスチジン、アルギニン、オルニチン、アスパラギン酸および/またはグルタミン酸、およびそれらの塩のポリマーまたはコポリマーからなる群から選択されるポリペプチドである。かかる合成ポリイオンの例としては、ポリリジン、ポリヒスチジン、ポリアルギニン、ポリオルニチン、ポリアスパラギン酸、ポリグルタミン酸、およびそれらの塩が挙げられる。別の好ましい実施形態では、ポリイオンセグメントは、ポリアクリル酸、ポリアルキレンアクリル酸、ポリアルキレンイミン、ポリエチレンイミン、ポリホスフェート、およびそれらの塩からなる群から選択される。
【0021】
該非イオン性水溶性ポリマーセグメントを、ポリエチレンオキシド、エチレンオキシドとプロピレンオキシドとのコポリマー、ポリサッカリド、ポリアクリルアミド、ポリグリセロールグリセロール、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルピリジンN−オキシド、ビニルピリジンN−オキシドとビニルピリジンとのコポリマー、ポリオキサゾリン、およびポリアクロイルモルホリン、またはその誘導体からなる群から選択することができる。好ましくは、非イオン性ポリマーセグメントは、無毒且つ非免疫原性である。特定の実施形態では、該水溶性ポリマーは、ポリ(エチレンオキシド)(PEO);ポリ(エチレングリコール)(PEG);またはエチレンオキシドとプロピレンオキシドとのコポリマーである。該非イオン性水溶性ポリマーセグメントがポリ(エチレンオキシド)である場合、かかるポリマーの好ましい分子量は、約300〜約20,000、より好ましくは約1,500〜約15,000、さらにより好ましくは約2,000〜約10,000、さらにより好ましくは約4,000〜約10,000である。
【0022】
該ポリイオンセグメントおよび非イオン性水溶性ポリマーセグメントは、異なる末端基を含むことができる。例えば、該合成方法により、異なる末端基を含むことができる。
【0023】
本発明の複合体は、ナノスケールサイズの粒子に自発的に自己集合する。理論に拘束されないが、該形成された粒子はコアシェル形態を有すると考えられる。該粒子のコアはタンパク質−ポリイオン複合体を含み、該親水性シェルは該コポリマーの非イオン性水溶性セグメントを含む。実際、該ポリイオン電荷の中和により、疎水性ドメインが形成され、水媒体中で分離する傾向がある。しかしながら、該水溶性非イオン性セグメントは、凝集および巨視的相分離を防止する。結果として、これらの複合体は、ナノサイズの粒子に自己集合し、安定な水分散液を形成する。
【0024】
目的のポリペプチドまたはタンパク質のための保護ナノコンテナ(protective nanocontainer)を構築するために、ブロックコポリマーを、ポリイオンセグメント(例えば、ポリエチレンイミン(PEI、2,000Da))と非イオン性水溶性セグメント(例えば、ポリ(エチレンオキシド)(PEO、10,000Da))との結合によって合成する(Vinogradov et al.(1999)Bioconjug.Chem.,10:851−60)。複合体を、緩衝液(例えば、リン酸緩衝生理食塩水(pH 7.4))中での目的のタンパク質の溶液(例えば、カタラーゼ(1mg/ml))のブロックコポリマー溶液(例えば、PEI−PEG(2mg/ml))に添加することによって形成し、わずかに乳白色の分散液を生成することができる。
【0025】
特定の実施形態では、該粒子を、生理学的なpH7.4の等張液中の体内の細胞に投与する。しかしながら、該複合体を、投与前にpH7.4未満またはpH7.4超で調製することができる。本発明の多くの目的のポリペプチドは、陽性基および陰性基の両方を含む両性高分子電解質であると認識される。かかるポリペプチドの陽性基および陰性基のバランスは、その化学構造および外液のpHに依存する。等電点(pI)未満のpHで、該ポリペプチドは正に帯電し得る。pIを超えるpHで、該ポリペプチドは負に帯電し得る。したがって、本発明の複合体を、pH未満でのポリペプチドのポリアニオンとの反応によって生成することができる。これらの複合体を、pIを超えるポリペプチドのポリカチオンとの反応によって調製することもできる。これらの複合体の調製後、溶液のpHを、さらなる投与に望ましいpH(例えば、pH7.4)に変更することができる。いくつかの場合、該ポリペプチドは、相互に近接して存在する複数の陽性基または陰性基を有する部位またはドメインを含むことができる。かかるポリペプチドは、pH未満およびpH超の両方で正電荷のポリイオン(例えば、ポリペプチド中に複数の陰性基を有する部位の場合のポリカチオンまたは複数の陽性基を有する部位の場合のポリアニオン)と複合体を形成することができる。
【0026】
該複合体のコアを架橋することができる。該架橋は、該ポリペプチド、またはポリイオン、またはポリペプチドおよびポリイオンの両方の官能基を化学的に連結することができる(ポリペプチドとポリイオンとの間の連結が含まれる)。該架橋剤は切断性または分解性を示し、体内または細胞内で切断することができる。当該分野で公知の種々の架橋方法を架橋に適用することができる(G.Hermanson,Bioconjugate Techniques,Elsevier,1996,785 p.)。架橋剤の例としては、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(DEC)、グルタルアルデヒド(GA)、ホルムアルデヒド、ジビニルスルホン、ポリ酸無水物、ポリアルデヒド、多価アルコール、カルボジイミド、エピクロロヒドリン、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ブタンジオールジグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ビス−またはポリ−エポキシ架橋剤(例えば、1,2,3,4−ジエポキシブタンまたは1,2,7,8−ジエポキシオクタン)およびG.Hermanson(Bioconjugate Techniques,Elsevier,1996)で引用された架橋剤が挙げられるが、これらに限定されない。特定の実施形態では、該ポリペプチド−ポリイオン複合体の架橋比は、約40%〜約75%、好ましくは約40%〜約60%、より好ましくは約40%〜約50%である。該ポリペプチド−ポリイオン複合体中の過剰なブロックコポリマーの存在により、複合体安定性に必要な架橋比を減少し得る。
【0027】
本発明のポリペプチド−ポリイオン複合体を、哺乳動物被験体、特にヒトに投与することができる。本発明のポリペプチド−ポリイオン複合体は、特に、患者が神経変性または神経炎症性の疾患または障害を有する場合、BBBを通過して目的のポリペプチドをCNSに送達させることができることを以下に示す。理論に拘束されないが、該ポリペプチド−ポリイオン複合体の粒子を、哺乳動物被験体の身体に投与後、脳に到達することができる循環細胞に取り込むことができ、ポリペプチドの一部がこれらの細胞によって脳に送達される。より具体的には、該循環細胞は、免疫系細胞(単球またはマクロファージ、好ましくは骨髄由来単球、樹状細胞、リンパ球、好ましくはT細胞、好中球、好酸球、好塩基球、およびその組み合わせなど)であり得る。
【0028】
さらに、理論に拘束されないが、本発明の複合体は細胞内でポリペプチドを保護すると考えられる。同時に、ブロックコポリマーによって誘導される特異的コア−シェル構造に起因して、該複合体は宿主細胞に対して無毒であり、細胞の機能的特性を損なわない。特に、該複合体は、細胞が疾患部位に進行する能力を損なわない。
【0029】
理論に拘束されないが、複合体の循環時間が長いか、循環細胞中に捕捉され得るとも考えられる。結果として、BBBへの循環複合体の曝露が増加し、脳に送達されるポリペプチドの注射用量の比率が増加し得る。多くの病態により、BBBの透過性が減少し得る。これにより、ポリペプチドの脳送達をさらに増加させることができる。
【0030】
さらに、理論に拘束されないが、複合体が神経細胞および/または神経末梢突起に結合するかこれらに侵入し、逆行性輸送として公知の過程(Zweifel et al.(2005)Nat.Rev.Neurosci.,6:615−625;米国特許出願公開第2003/0083299号)または類似の過程によって脳に輸送することができるとも考えられる。本発明の複合体、特に、コポリマー中のイオン性ポリマー鎖と非イオン性ポリマー鎖との組み合わせの固有の構造により、該ポリペプチドを保護し、細胞および組織の損傷を最小にし、複合体の脳への自由な移動を容易にする。
【0031】
本発明のポリペプチド−ポリイオン複合体を、非経口(皮下、静脈内、および腹腔内が挙げられるが、これらに限定されない)で投与することができる。さらに、該ポリペプチド−ポリイオン複合体を、神経系に、特に、髄腔内、または脳内、または硬膜外に直接投与することができる。該ポリペプチド−ポリイオン複合体を、筋肉内、または皮内、または頸動脈内に投与することもできる。異なる投与方法の組み合わせを使用することができる。
【0032】
本発明の別の実施形態によれば、該ポリペプチド−ポリイオン複合体を細胞にロードし、次いで、これを治療薬として患者に投与することができる。より具体的には、該細胞は循環細胞、特に免疫系細胞である。免疫系細胞としては、単球、マクロファージ、骨髄由来単球、樹状細胞、リンパ球、T細胞、好中球、好酸球、好塩基球、および/またはその組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。ロードした該細胞は、特に該患者が神経変性または神経炎症性の疾患または障害を有する場合、BBBを通過して目的のポリペプチドを送達させることができる。当該分野で利用可能な細胞単離および分離技術を使用して、該細胞を哺乳動物被験体から単離することができる。以下の記載のように、該細胞の該ポリペプチド−ポリイオン複合体とのインキュベーションによって該細胞に該ポリペプチド−ポリイオン複合体をロードすることができる。ロードした該細胞を、非経口で(皮下、静脈内、および腹腔内が挙げられるが、これらに限定されない)投与することができる。これに加えて、ロードした該細胞を、神経系に、特に、髄腔内、または脳内、または硬膜外に直接投与することができる。該ポリペプチド−ポリイオン複合体を、筋肉内、または皮内、または頸動脈内に投与することもできる。異なる投与方法の組み合わせを使用することができる。
【0033】
星状膠細胞および内皮細胞との脳単核食細胞(MP;血管周囲および実質性マクロファージおよび小グリア細胞)の活性化によって実行される神経炎症は、パラクリン経路を介して、非常に多岐にわたる疾患(アルツハイマー病(AD)およびパーキンソン病(PD)、ハンチントン病(HD)、HIV関連神経認知障害(HAND)、および海綿状脳症および卒中など)における神経損傷を加速するように作用し得る。これらの障害では、CNS炎症性浸潤は複雑且つ多面的である。先天免疫の最初のレスポンダー(responder)またはMP細胞要素がカスケードを設定し、その後に適応免疫系の活性化および漸増に関与し、最終的に、神経変性に関与する。結局、小グリア細胞は、損傷に応答するCNS中の一次MPであり、その主な機能は脳の保護である。活性化小グリア細胞は、神経毒性因子(キノリン酸、スーパーオキシドアニオン、マトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)、一酸化窒素、アラキドン酸、およびその代謝産物、ケモカイン、炎症促進性サイトカイン、および興奮毒(グルタミン酸塩が含まれる)が含まれる)の産生による神経変性に関連する炎症過程に関与する。他方では、小グリア細胞の神経保護機能は、ニューロトロフィンを生成して細胞外間隙中に存在する興奮毒を除去および排除する能力によって調節することができる。実際、脳損傷後の脳生存は、小グリア細胞活性によって影響を確実に受けることが公知である。本発明は特定の理論に制限されないが、これらの共通の神経変性機構を、ポリペプチド−ポリイオン複合体の免疫細胞輸送を使用した治療効果のために使用することができると考えられる。好ましい実施形態では、単核食細胞の辺縁趨向および血管外遊走によってBBBを通過する並外れた能力を有する単核食細胞を使用する。
【0034】
本発明の上記実施形態の代表的な方法は、以下の工程を含む:患者から標的細胞を単離する工程、ポリペプチド−ポリイオン複合体と該単離細胞とをインキュベーションする工程、および該患者に該細胞を戻す工程。本発明は特定の理論に制限されないが、このアプローチのための1つの要因は、ポリペプチド−ポリイオン複合体が食細胞のリソソーム内で非常に攻撃的なタンパク質分解からその被輸送物を保護する能力であると考えられる。コア−シェルポリペプチド−ポリイオン複合体は、循環細胞がBBBを通過してペイロード(payload)を脳に輸送する能力を変化させないとさらに考えられる。
I.定義
【0035】
本発明の理解を深めるために、以下の定義を提供する。
【0036】
本明細書中で使用する場合、用語「ポリマー」は、2つ以上の反復する単位またはモノマーの化学結合から形成される分子を示す。用語「ブロックコポリマー」は、最も簡潔には、各ポリマーセグメントが2つ以上の同種の隣接単位を含む少なくとも2つの異なるポリマーセグメントの複合物をいう。
【0037】
用語「単離タンパク質」または「単離および精製タンパク質」は、本明細書中で時折使用される。この用語は、主に、本発明の単離核酸分子の発現によって生成されたタンパク質をいう。あるいは、この用語は、「実質的に純粋な」形態で存在するように天然に会合する他のタンパク質から十分に分離されたタンパク質をいうことができる。「単離した」は、他の化合物または物質との人工混合物もしくは合成混合物、または基本的活性を妨害せず、例えば、不完全な精製または安定剤の添加に起因して存在し得る夾雑物の存在を排除することを意味しない。
【0038】
「ポリペプチド」および「タンパク質」を本明細書中で時折交換可能に使用し、アミノ酸の分子鎖を示す。用語「ポリペプチド」は、ペプチド、オリゴペプチド、およびタンパク質を含む。本用語には、ポリペプチドの発現後修飾物(例えば、グリコシル化、アセチル化、およびリン酸化など)も含まれる。さらに、タンパク質フラグメント、アナログ、変異タンパク質、またはバリアントタンパク質、および融合タンパク質などは、ポリペプチドの意味の範囲内に含まれる。
【0039】
用語「単離した」は、「実質的に純粋な」形態で存在するように天然に会合する環境から十分に分離されたタンパク質、または核酸、または化合物、または細胞をいうことができる。「単離した」は、他の化合物または物質との人工混合物もしくは合成混合物、または基本的活性を妨害せず、例えば、不完全な精製に起因して存在し得る夾雑物の存在を排除することを必ずしも意味しない。
【0040】
「薬学的に許容可能な」は、連邦政府もしくは州政府の規制機関による承認、または動物、より詳細にはヒトでの使用について米国薬局方または他の一般的に認識されている薬局方に列挙されていることを示す。
【0041】
「キャリア」は、例えば、本発明の活性薬剤と共に投与される希釈剤、アジュバント、防腐剤(例えば、チメロゾール(Thimersol)、ベンジルアルコール)、抗酸化剤(例えば、アスコルビン酸、メタ重亜硫酸ナトリウム)、可溶化剤(例えば、Tween80、ポリソルベート80)、乳化剤、緩衝液(例えば、トリスHCl、酢酸緩衝液、リン酸緩衝液)、水、水溶液、オイル、増量剤(例えば、ラクトース、マンニトール)、賦形剤、補助剤またはビヒクルをいう。適切な薬学的キャリアは、"Remington‘s Pharmaceutical Sciences" by E.W.Martin(Mack Publishing Co.,Easton,PA);Gennaro,A.R.,Remington:The Science and Practice of Pharmacy,20th Edition,(Lippincott,Williams and Wilkins),2000;Liberman,et al.,Eds.,Pharmaceutical Dosage Forms,Marcel Decker,New York,N.Y.,1980;およびKibbe,et al.,Eds.,Handbook of Pharmaceutical Excipients(3rd Ed.),American Pharmaceutical Association,Washington,1999に記載されている。
II.治療薬
【0042】
本発明の好ましい実施形態が、ポリマー複合体内に含まれるタンパク質を含む一方で、該ポリマー複合体への目的の他の治療薬または化合物をカプセル化することも本発明の範囲内である。かかる薬剤または化合物としては、ポリペプチド、ペプチド、核酸、および化合物(合成および天然の薬物など)が挙げられるが、これらに限定されない。好ましい実施形態では、該治療薬は、ポリペプチドまたはタンパク質である。本発明の説明を通してポリペプチド−ポリイオン複合体を参照している一方で、タンパク質の使用も本発明の範囲内であることが意図される。多くの場合、用語「ポリペプチド」および「タンパク質」を、本明細書中で交換可能に使用する。
【0043】
本発明の好ましい実施形態では、ポリマー複合体中の目的のタンパク質は治療タンパク質であり、すなわち、疾患、障害、病変、および/またはこれらに関連する症状の改善および/または治癒を達成する。タンパク質としては、(特に、CNSの)神経障害(神経変性疾患、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病(HD)、卒中、外傷、感染症、髄膜炎、脳炎、グリオーマ、癌(脳転移が含まれる)、HIV−1関連認知症(HAD)、HIV関連神経認知障害(HAND)、麻痺、筋萎縮性側索硬化症(ALSまたはルー・ゲーリック病)、多発性硬化症(MS)、CNS関連心血管疾患、プリオン病、肥満、代謝障害、炎症性疾患、代謝障害、およびリソソーム蓄積症(LSD;ゴーシェ病、ポンぺ病、ニューマン・ピック、ハンター症候群(MPS II)、ムコ多糖症I(MPS I)、GM2−ガングリオシドーシス、ゴーシェ病、サンフィリッポ症候群(MPS HIA)、テイ・サックス病、サンドホフ病、クラッベ病、異染性白質ジストロフィ、およびファブリー病などであるが、これらに限定されない)が挙げられるが、これらに限定されない)に対して治療的価値が有し得る。治療活性タンパク質としては、脳への投与によって疾患、障害、病変、および/またはこれらに関連する症状の改善および/または治癒を達成することができる酵素、抗体、ホルモン、成長因子、他のポリペプチドが挙げられるが、これらに限定されない。本発明で有用な神経活性ポリペプチドとしては、内分泌因子、成長因子、視床下部放出因子、神経栄養因子、パラクリン因子、神経伝達物質ポリペプチド、上記ポリペプチド(神経栄養因子および成長因子など)のいずれかに結合する抗体および抗体フラグメント、これらのポリペプチドの受容体(神経栄養因子受容体など)に結合する抗体および抗体フラグメント、サイトカイン、エンドルフィン、ポリペプチドアンタゴニスト、CNS細胞によって発現した受容体のアゴニスト、およびリソソーム蓄積症に関与するポリペプチドなどが挙げられるが、これらに限定されない。特定の実施形態では、該治療タンパク質はCNSでその効果を発揮する。別の特定の実施形態では、該治療タンパク質は、それのみでBBBを通過しない。
【0044】
特異的タンパク質の例としては、カタラーゼ、テロメラーゼ、スーパーオキシドジスムターゼ(SOD)、グルタチオンペルオキシダーゼ、グルタミナーゼ、サイトカイン、エンドルフィン(例えば、エンケファリン)、成長因子(例えば、上皮成長因子(EGF)、酸性および塩基性線維芽細胞成長因子(aFGFおよびbFGF)、インスリン様成長因子I(IGF−I)、脳由来神経栄養因子(BDNF)、グリア由来神経栄養因子(GDNF)、血小板由来成長因子(PDGF)、血管成長因子(VGF)、神経成長因子(NGF)、インスリン様成長因子−II(IGF−II)、腫瘍壊死因子−B(TGF−B)、白血病阻止因子(LIF)、および種々のインターロイキンなど)、抗アポトーシス性タンパク質(BCL−2およびPI3キナーゼなど)、アミロイドβ結合剤(例えば、抗体)、α−、β−、および/またはγ−セクレターゼのモジュレーター、血管作用性腸管ペプチド、レプチン、酸性α−グルコシダーゼ(GAA)、酸性スフィンゴミエリナーゼ、イズロン酸−2−スルファターゼ(iduronate−2−sultatase)(I2S)、α−L−イズロニダーゼ(IDU)、β−ヘキソサミニダーゼA(HexA)、酸性β−グルコセレブロシダーゼ、N−アセチルガラクトサミン−4−スルファターゼ、α−ガラクトシダーゼA、および神経伝達物質(例えば、Schapira,A.H.(2003)Neurology 61.S56−63;Ferrari et al.(1990)Adv Exp Med Biol.265:93−99;Ferrari et al .(1991)J Neurosci Res.30:493−497;Koliatsos et al.(1991)Ann Neurol.30:831−840;Dogrukol−Ak et al .(2003)Peptides 24:437−444;Amalfitano et al.(2001)Genet Med.3:132−138;Simonaro et al.(2002)Am J Hum Genet.71:1413−1419;Muenzer et al.(2002)Acta Paediatr Suppl .91:98−99;Wraith et al.(2004)J Pediatr.144:581−588;Wicklow et al.(2004)Am J Med Genet.127A:158−166;Grabowski(2004)J Pediatr.144:S15−19;Auclair et al.(2003)Mol Genet Metab.78:163−174;Przybylska et al .(2004)J Gene Med.6:85−92を参照のこと)が挙げられるが、これらに限定されない。リソソーム蓄積症は、酵素が欠損して細胞の天然のリサイクリング機能が阻止される遺伝性遺伝子欠損である(Enns and Huhn,(2008)Neurosurg.Focus 24:E12)。これにより、種々の進行性の身体的および/または知的退行が発症し、これらの欠損酵素の脳への送達によってこれらの疾患を治療することができると考えられる。リソソーム蓄積症に関与する種々の酵素または欠損酵素の機能を果たすことができる酵素を、本発明の諸方法を使用して送達させることができる。
【0045】
1つの実施形態では、本発明を、ブチリルコリンエステラーゼまたはアセチルコリンエステラーゼ、コリンエステラーゼ再賦活薬(例えば、オキシム化合物)、有機リン酸塩のスカベンジャーおよびカルバミン酸塩インヒビターの脳送達に基づいた兵器剤(warfare agent)由来の急性神経毒性に対する治療方法として使用することができる。ブチリルコリンエステラーゼ(BChE)は多くのエステル含有薬物(コカインおよびサクシニルコリンなど)も加水分解するので、本発明の複合体内のBChEは、コカイン嗜癖および毒性に対して治療的価値を有する(例えば、Carmona et.al.(1999)Drug Metab.Dispos.,28:367−371;Carmona(2005)Eur.J.Pharmacol.,517:186−190)。
【0046】
本発明の諸方法は、1つまたはいくつかの有用なポリペプチドを含むポリペプチド複合体の使用または単独または細胞とともに同時または個別に投与することができる異なるポリペプチドを含むいくつかの複合体の使用を含む。該複合体は、同一の組成物中に存在するか、個別の組成物中に存在し得る。
III.投与
【0047】
本明細書中に記載のポリペプチド−ポリイオン複合体および該ポリペプチド−ポリイオン複合体を含む細胞を、一般に、薬学的調製物として患者に投与する。本明細書中で用語「患者」を使用する場合、それは、ヒト被験体または動物被験体をいう。これらのポリペプチド−ポリイオン複合体およびこれを含む細胞を、医師の指導の下で治療的に使用することができる。
【0048】
該ポリペプチド−ポリイオン複合体および/または本発明のポリペプチド−ポリイオン複合体を取り込んだ細胞を含む薬学的調製物を、任意の薬学的に許容可能なキャリアとの投与のために都合よく処方することができる。例えば、複合体および細胞を、許容可能な溶剤(水、または緩衝化生理食塩水、またはエタノール、またはポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、および液体ポリエチレングリコールなど)、またはジメチルスルホキシド(DMSO)、またはオイル、または界面活性剤、または懸濁剤、またはその適切な混合物など)を使用して処方することができる。選択した溶剤中の該ポリペプチド−ポリイオン複合体および/または該細胞の濃度は様々であってよく、溶剤を薬学的調製物の所望の投与経路に基づいて選択することができる。いかなる慣用の溶剤または薬剤が投与すべきポリペプチド−ポリイオン複合体または細胞と不適合でない限りは、薬学的調製物におけるその使用が意図される。
【0049】
特定の患者への投与に適切な本発明のポリペプチド−ポリイオン複合体および/または細胞の用量および投薬レジメンを、患者の年齢、性別、体重、一般的病状、ならびにポリペプチド−ポリイオン複合体または細胞が投与される特定の容態およびその重症度を考慮する医師が決定することができる。該医師は、投与経路、薬学的キャリア、およびポリペプチド−ポリイオン複合体または細胞の生物活性も考慮することができる。
【0050】
適切な薬学的調製物の選択はまた、選択した投与方法に依存する。例えば、該ポリペプチド−ポリイオン複合体または本発明のポリペプチド−ポリイオン複合体を含む細胞を、血液脳関門に近接した領域へ直接注射することによって投与することができる。この例では、薬学的調製物は、注射部位と適合する溶剤中に分散させたポリペプチド−ポリイオン複合体または細胞を含む。
【0051】
本発明のポリペプチド−ポリイオン複合体または細胞を、血流への静脈内注射、または経口投与、または皮下注射、もしくは筋肉内注射、もしくは腹腔内注射などの任意の方法によって投与することができる。注射用の薬学的調製物は、当該分野で公知である。ポリペプチド−ポリイオン複合体または細胞の投与方法として注射を選択する場合、十分な量の分子または細胞がその標的細胞に到達して生物学的効果を発揮することを確認する工程を取らなければならない。
【0052】
薬学的に許容可能なキャリアとの本質的混合物中の有効成分としての本発明の複合体または細胞を含む薬学的組成物を、従来の薬学的配合技術にしたがって調製することができる。該キャリアは、投与(例えば、静脈内、経口、直接注射、頭蓋内、および硝子体内)に望ましい調製物の形態に応じて広範な種々の形態を取ることができる。
【0053】
本発明の薬学的調製物を、投与を容易にし、投薬量を均一にするために、投薬単位形態で処方することができる。本明細書中で使用する場合、「投薬単位形態」は、治療を受ける患者に適切な薬学的調製物の物理的に分離した単位をいう。各投薬量は、選択された薬学的キャリアと組み合わせた場合に所望の効果が得られるように計算された有効成分量を含むべきである。その適切な投薬単位を決定する手順は、当業者に周知である。
【0054】
投薬単位を、該患者の体重に基づいて比例的に増減させることができる。特定の病的状態を緩和するのに適切な濃度を、当該分野で公知の投薬濃度曲線によって決定することができる。
【0055】
本発明によれば、ポリペプチド−ポリイオン複合体またはこの複合体を含む細胞の投与に適切な投薬単位を、動物モデルにおける分子または細胞の毒性の評価によって決定することができる。種々の濃度のポリペプチド−ポリイオン複合体または細胞を含む薬学的調製物をマウスに投与することができ、該処置の結果として認められた有利な結果および副作用に基づいて最小および最大の投薬量を決定することができる。適切な投薬単位を、他の標準的な薬物と組み合わせた該ポリペプチド−ポリイオン複合体または細胞の治療有効性によって決定することもできる。ポリペプチド−ポリイオン複合体の投薬単位を、検出された効果にしたがって個別にまたは各処置と組み合わせて決定することができる。
【0056】
該ポリペプチド−ポリイオン複合体または細胞を含む薬学的調製物を、病的症状が軽減または緩和するまでの適切な間隔(例えば、少なくとも1日2回以上)で投与し、その後に投薬量を維持レベルに減少させることができる。特定の症例における適切な間隔は、通常、患者の容態に依存する。
【0057】
以下の実施例は、本発明の例示的な実施方法を提供し、本実施例は、本発明の範囲を制限することを決して意図しない。
【0058】
実施例
【実施例1】
【0059】
アルツハイマー病およびパーキンソン病(ADおよびPD)(Brinton,R.D.(1999)Int.J.Fertil.Womens Med.,44:174−85;Gozes,I.(2001)Trends Neurosci.,24:700−5;Kroll et al.(1998)Neurosurgery 42:1083−100)、感染症(髄膜炎、脳炎、プリオン病、およびHIV関連認知症)(Bachis et al.(2005)Ann.N.Y.Acad.Sci .,1053:247−57;Wang et al.(2003)Virology 305:66−76)、卒中(Koliatsos et al.(1991)Ann.Neurol.,30:831−40;Dogrukol−Ak et al.(2003)Peptides 24:437−44)、リソソーム蓄積症(Desnick et al.(2002)Nat.Rev.Genet.,3:954−66;Urayama et al.(2004)Proc.Natl.Acad.Sci.,101:12658−63)、肥満(Banks,W.(2003)Curr.Pharm.Des.,9:801−809;Banks et al.(2002)J.Drug Target.,10:297−308)、およびCNSの他の代謝性疾患および炎症性疾患中の罹患脳組織への治療用ポリペプチドの送達が早急に必要であり、この必要性はどれだけ誇張してもしすぎることはない。
【0060】
神経系の代謝性疾患および変性疾患の重要な要素は、炎症を含む(Perry et al.(1995)Curr.Opin.Neurobiol.,5:636−41)。かかる炎症活性は深刻である。何故なら、この炎症活性によって炎症誘発性生成物および活性酸素種(ROS)が過剰に産生され、これにより、部分的に細胞死および神経変性が起こるからである。炎症誘発性サイトカインおよびエイコサノイドの産生または形成を阻害するターゲティングされた抗酸化剤または薬物の使用などによって疾患中に神経炎症活性に影響を及ぼすことにより、ROSおよび他の神経毒のレベルを減少させ、それにより、疾患の転帰を改善することができる(Prasad,et al.(1999)Curr.Opin.Neurol.,12:761−70)。しかし、薬物がBBBを透過するだけでなく、進行中の疾患機構に影響を及ぼすのに十分な濃度に至らなければならないので、かかるアプローチは制限されている。さらに、炎症機構が疾患初期の事象の可能性が高いので、治療方法を初期且つ頻繁に使用しなければならない。薬物送達の制限は、神経系障害の新規の治療パラダイムの開発で直面する主な障壁の1つである。
【0061】
かかる疾患の1つにはPDがあり、これは65歳以上の第2の最も一般的な神経変性障害である。この疾患は、SNpc内のドーパミン作動性ニューロンの喪失および線条体に対するその神経支配に起因する神経伝達物質ドーパミンの欠如によって特徴づけられる。PD神経病理学は、脳の炎症、小グリア細胞活性化、およびその後の分泌性神経毒性活性(細胞損傷および細胞死において重要な役割を果たすROS産生が含まれる)を含む(McGeer et al.(1988)Neurology 38:1285−91;Busciglio et al.(1995)Nature 378:776−9;Ebadi et al.(1996)Prog.Neurobiol.,48:1−19;Wu et al.(2003)Proc.Natl.Acad.Sci.,100:6145−50)。PD脳は、抗酸化性酵素および抗酸化剤レベルが減少し(Ambani et al.(1975)Arch.Neurol.,32:114−8;Riederer et al.(1989)J.Neurochem.,52:515−20;Abraham et al.(2005)Indian J.Med.Res.,121:111−5)、それにより、酸化ストレスおよび関連する神経変性を管理する能力が減少する。多くの証拠によって、PDの実験および動物モデルにおいて抗酸化剤が炎症反応を阻害し、ドーパミン作動性ニューロンを保護することができるという概念が支持されている(Wu et al.(2002)J.Neurosci.,22:1763−71;Du et al.(2001)Proc.Natl.Acad.Sci.,98:14669−74;Kurkowska−Jastrzebska et al.(2002)Int.Immunopharmacol .,2:1213−8;Teismann et al.(2001)Synapse 39:167−74;Ferger et al.(1999)Naunyn Schmiedebergs Arch.Pharmacol.,360:256−61;Ferger et al.(1998)Naunyn Schmiedebergs Arch.Pharmacol.,358:351−9;Peng et al.(2005)J.Biol.Chem.,280:29194−8)。カタラーゼは、全ての公知の酵素で最も高い代謝回転率の1つで過酸化水素(公知のROS)の水と酸素分子への変換を触媒する。多くの証拠により、抗酸化剤が炎症反応を阻害し、in vitroおよびin vivoでドーパミン作動性ニューロンを最高90%保護することができることが示唆されている(Wu et al.(2002)J.Neurosci.,22:1763−71;Du et al.(2001)Proc.Natl.Acad.Sci.,98:14669−74;Kurkowska−Jastrzebska et al.(2002)Int.Immunopharmacol .,2:1213−8;Teismann et al.(2001)Synapse 39:167−74;Ferger et al.(1999)Naunyn.Schmiedebergs Arch.Pharmacol.,360:256−61;Ferger et al.(1998)Naunyn.Schmiedebergs Arch.Pharmacol.,358:351−9;Peng et al.(2005)J.Biol.Chem.,280:29194−8)。PDのin vitroモデルでは、カタラーゼは、ROSの毒作用から初代培養小脳顆粒細胞を救済することが示された(Prasad et al.(1999)Curr.Opin.Neurol.,12:761−70;Gonzalez−Polo et al.(2004)Cell Biol.Int.,28:373−80)。さらに、低分子量カタラーゼアクチベーターであるラサギリンは、PDマウスモデルにおいて神経保護を誘導した(Maruyama et al.(2002)Neurotoxicol .Teratol.,24:675−82)。低分子量抗酸化剤を使用した臨床試験はほとんど行われておらず、これらの臨床試験では、PD進行速度の阻害のためにR−トコフェロールおよびデプレニルが最も広く使用されている(Group,T.P.S.(1993)N.Engl.J.,328:176−183)。しかし、上記のように、ほとんどの試験で有意な改善を示すことができなかった。これは、BBBを通過するR−トコフェロールの輸送量の制限および疾患発症後の薬物を使用した時期に起因する(Pappert et al.(1996)Neurology,47:1037−42)。
【0062】
材料と方法
材料。ウシ肝臓由来のカタラーゼ、ポリエチレンイミン(PEI)(2K、分岐、50%水溶液)、スルホローダミン−B(SRB)、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、Sephadex G−25、およびTriton X−100を、Sigma−Aldrich(St−Louis,MO)から購入した。メトキシポリ(エチレングリコール)エポキシ(Me−PEG−エポキシ)を、Shearwater Polymer Inc.,Huntsville,ALから購入した。
【0063】
MPTP。1−メチル−4−フェニル−1,2,3,6−テトラヒドロピリジン(MPTP)−中毒症レシピエントC57BL/6について、マウスを記載のように処置した(Benner et al.(2004)Proc.Natl.Acad.Sci.,101:9435−40)。12時間後、MPTP処置マウスに、50μCi/マウスの125I標識ポリペプチド−ポリイオン複合体を静脈注射した。24時間後、マウスを屠殺し、主な器官(脳、脾臓、肝臓、肺、および腎臓)中の放射量を、1480γカウンターWizard 3(Perkin−Elmer Life Sciences,Shelton,CT)によって検出した。酵素の送達量を、全器官の注射用量に対する比率として示した。
【0064】
PEI−PEG複合物。コポリマーを、変更した手順(Nguyen et al .(2000)Gene Ther.,7:126−38)を使用して、PEIとMe−PEG−エポキシとの結合によって合成した。簡潔に述べれば、Me−PEG−エポキシ水溶液を5%PEIを含む水に添加し、室温で一晩インキュベートした。過剰なPEIから(および低分子量残渣から)精製するために、得られた複合物を、カットオフ6000〜8000DaのSpectraPoreメンブレン中で水(2回置換)に対して48時間透析し、次いで、真空下で濃縮した。最終精製のために、複合物を20mLの100%メタノールに溶解し、次いで、400mLのエーテルに滴下した。該沈殿物を遠心分離し(400g、5分間)、エーテルで2回洗浄し、エキシケーター(exicator)中で乾燥させた。該生成物の詳細な特徴づけを、報告されたように分光光度法および質量分析によって行った(Nguyen et al.(2000)Gene Ther.,7:126−38)。
【0065】
ブロックイオノマー複合体。所定量のカタラーゼ(1mg/mL)およびブロックコポリマー(2mg/mL)を、個別に室温のリン酸緩衝化生理食塩水(PBS)中に溶解した。該酵素の溶液を、撹拌しながらブロックコポリマー溶液に滴下した。+/−電荷比(Z)を、pH7.4でプロトン化したPEI−PEGのアミノ基量(Vinogradov et al.(1998)Bioconjugate Chem.,9:805−812)をカタラーゼ中のグルタミンおよびアスパラギン酸の総量で割ることによって計算した。物理化学的方法の組み合わせ(電気泳動保持(electrophoretic Retention)、動的光散乱(DLS)、および透過型電子顕微鏡法(TEM))を使用して、以前に記載したように、得られたナノ粒子の組成、サイズ、分散安定性、形態学、形状、および構造を特徴づけた(Vinogradov et al.(1999)Bioconjugate Chem.,10:851−60;Lemieux et al.(2000)J.Drug Target.,8:91−105;Vinogradov et al .(2004)J.Drug Target.,12:517−26;Vinogradov et al.(2005)J.Controlled Release,107:143−57)。
【0066】
電気泳動保持。ポリイオン複合体の形成を、アクリルアミドゲルシフトアッセイによって試験した。種々のZでの酵素複合体を、5mM トリス、50mMグリシン(pH8.3)を含む7.5%アクリルアミドゲルに、複合体を保持するための未変性条件下(SDSの非存在下)でロードした。タンパク質バンドを、ウサギポリクローナル抗カタラーゼ抗体(Ab 1877,Abeam Inc,Cambridge,MA;1:6000)および二次西洋ワサビペルオキシダーゼ抗ウサギIg抗体(Amersham Life Sciences,Cleveland,OH;1:1500)で視覚化した。該特異的タンパク質バンドを、化学発光キット(Pierce,Rockford,IL)を使用して視覚化した。
【0067】
光散乱の測定。ポリペプチド−ポリイオン複合体の有効流体力学直径およびゼータ電位を、以前の記載のように(Bronich et al.(2000)J.Am.Chem.Soc,122:8339−8343;Vinogradov et al .(1999)Colloids Surf.B−Biointerfaces 16:291−304)、「ZetaPlus」ゼータ電位分析器(Brookhaven Instruments,Santa Barbara,CA)を使用する光子相関分光法によって測定した。
【0068】
TEM。PBS中の1滴のカタラーゼ/PEI−PEG分散液(Z=1)を、Formvarコーティング銅グリッド(150メッシュ,Ted Pella Inc.,Redding,CA)上に配置した。ポリペプチド−ポリイオン複合体を含む乾燥させたグリッドを、硫酸バナジルで染色し、Philips 201透過型電子顕微鏡(Philips/FEI Inc.,Briarcliff Manor,NY)を使用して視覚化した。
【0069】
カタラーゼおよびカタラーゼ活性。ポリマーナノ粒子中の酵素活性を、種々の電荷比でのカタラーゼまたはカタラーゼ−ポリイオン複合体による過酸化水素の分解の反応速度を使用して研究し、240nmでの吸光度の変化のモニタリングによって決定した(H2O2の吸光係数は44×106M−1cm1)。
【0070】
カタラーゼ−ポリイオン複合体の125I標識化。125I標識カタラーゼ−ポリイオン複合体を得るために、該タンパク質溶液を含むPBS(1mg/mL)を、ヨード−BEADSヨウ素化試薬(Pierce,Rockford,IL)の存在下でNa125I(1mCi)と15分間インキュベートし、次いで、D−salt脱塩カラム(Pierce,Rockford,IL)を使用して非結合標識から精製した。125I標識カタラーゼ(400μCi/mL、0.7mg/mL)に、PEI−PEGブロックコポリマー(Z=1)を補足した。
【0071】
統計分析。全実験について、データを平均±SEMとして示す。群間の有意差の検定を、GraphPad Prism 4.0(GraphPad software,San Diego,CA)を使用した多重比較(Fisherの対比較)を用いた一元配置ANOVAを使用して行った。最小p値0.05が、全検定の有意レベルとして予想された。
結果
【0072】
ブロックイオノマー複合体は、ブロックイオノマーを逆に帯電した界面活性剤または高分子電解質と混合させることによって自発的に形成される(Harada et al.(2001)J.Controlled Release 72:85−91;Kabanov et al.(1995)Bioconjugate Chem.,6:639−643;Harada et al.(1995)Macromolecules 28:5294−5299;Bronich et al.(1997)Macromolecules 30:3519−3525)。該ポリイオン電荷の中和によって疎水性ドメインが形成され、水媒体中でポリイオン複合体ミセルのコア中に分離される。ブロックイオノマーの水溶性非イオン性セグメント(例えば、PEG)により、凝集および巨視的相分離が防止される。その結果、これらの複合体はナノスケールサイズの粒子に自己集合し、安定な水分散液を形成する(図1A)。カタラーゼは、生理学的条件下で正味の負電荷を有する。したがって、該酵素(1mg/mL)と正に帯電したPEI−PEG(2mg/mL)との混合によってリン酸緩衝液(pH 7.4)中でポリイオン複合体を得た。
【0073】
カタラーゼとPEI−PEGの複合体を種々の+/−電荷比(Z=0〜4)で得た。これらを、未変性条件下で電気泳動に供し、次いで、ニトロセルロース膜に移した。該タンパク質のバンドを、カタラーゼに対する抗体を使用して視覚化した(図1B)。コポリマーが増加するにつれてバンドの強度が減少した。これにより、ゲルに侵入することができない複合体が形成されたことが示唆され、これをDLSによって確認した。PEI−PEGのカタラーゼ溶液(1mg/mL)への添加により、比較的低い多分散度指数(約0.1〜0.2)を有するナノスケールサイズの粒子が得られた一方で、カタラーゼのみについては粒子は検出されなかった。
【0074】
粒子サイズは、電荷比、イオン強度、およびpHに依存した(図1、C、D、およびE部分)。PBS中で、有効径は電荷比の増加につれて増加し、電荷比(Z)1以上にて約90〜100nmで安定化した(図1C)。該ゼータ電位は、ブロックコポリマー量の増加に伴って増加した(図1C)。一定の電荷比(Z=1)で、塩の非存在下にて600nm超の巨大な凝集体が形成された(図1D)。塩の添加によって粒子サイズが減少し、このサイズは、NaCl濃度が0.15Mに到達した時に約90nmで安定化した。巨大な非平衡の高分子電解質複合体の凝集体がカタラーゼとPEI−PEG溶液を混合するや否や形成される可能性が高い。塩の非存在下で、低いポリイオンの交換率のために、これらの凝集体は平衡化できず、「凍結した」ままであった(Kabanov,V.(1994)Polym.Sci.,36:143−156;Kabanov,V.(2003)Fundamentals of Polyelectrolyte Complexes in Solution and the Bulk.In Multilayer Thin Films(Decher,G.,and Schlenoff,J.,Eds.)pp 47−86,Wiley−VCH Verlag GmbH & Co.KGaA,Weinheim)。塩を添加するにつれて該ポリイオン交換が加速されて、小(平衡)粒子が形成された。これらの粒子はおよそpH7.4〜11.5の範囲で安定であったが、pHがこの範囲未満に減少するかこの範囲を超えて増加した場合に不可逆的に凝集した(図1E)。この範囲内で、該カタラーゼおよびPEI−PEGは逆に帯電していた。該複合体の凝集体は、低pHでのカタラーゼのプロトン化および電荷反転(pI=6.5)または高pHでのPEIの脱プロトン化と関連していた。概して、ポリペプチド−ポリイオン複合体粒子は、生理学的pHおよびイオン強度下で安定であった。これらの条件下で、該粒子は、ほぼ球形であった(図1F)。その後の細胞の負荷、送達、および放出実験のために使用した電荷比で、カタラーゼの酵素活性の変化は認められなかった(図1G)。
【0075】
ポリペプチド−ポリイオン複合体がヒトPDを反映する活動的な神経炎症性疾患を有する脳亜領域に到達することができるかどうかを決定するために、MPTPモデルを使用した。MPTPにより、ヒトおよび非ヒト霊長類において重篤且つ不可逆的なパーキンソン症候群が発症し(Langston et al.(1986)Clin.Neuropharmacol .9:485−507)、黒質線条体神経変性の自己永続的過程が開始される(Langston et al.(1999)Ann.Neurol.46:598−605)。マウスでは、MPTPにより、PDのほとんどの生化学的および病理学的特質(SNpcおよび対応する線条体中でのドーパミン作動性ニューロンの特異的変性(Schmidt et al.(2001)J.Neural.Transm.108:1263−82)およびグリア細胞炎症(Gao et al.(2003)Trends Pharmacol.Sci.,24:395−401)が含まれる)が再現される。
【0076】
MPTP中毒C57B1/6マウスに、125I標識カタラーゼを含む遊離ポリペプチド−ポリイオン複合体を静脈内注射した。注射の24時間後、脳および他の組織中で放射能が検出可能であった。
【実施例2】
【0077】
グラフト構造のカチオン性ブロックイオノマー(PLL骨格上にグラフティングした約1.4PEO鎖を含むポリ−L−リジン−グラフト−ポリ(エチレンオキシド)(PLL−g−PEO(2)))を使用して、ブチリルコリンエステラーゼBChE/PLL−g−PEO複合体を調製した。1H NMR分析によるとPLL−g−PEO(2)の推定分子量は約24,000g/molである。ヒトBChE(Hu BChE)およびウマ血清由来のBChE(Hor BChE)の両サンプルを本研究で使用した。
【0078】
Hu BChEのPLL−g−PEO(2)との複合体を、緩衝液(リン酸緩衝液、10mM、pH7.4)中でブロックイオノマーとタンパク質成分との簡潔な混合によって調製した。組成物間の化学量論的電荷比に近い混合物の組成を研究し、表1に示した。混合物の組成を、シアル酸/リジンモル比(PLL−g−PEO(2)のアミノ基の濃度をBChE中のシアル酸単位の濃度で割ることによって計算した)に関して示した。BChE/PLL−g−PEO(2)混合物の組成も、タンパク質中のカルボキシル基(グルタミン酸、アスパラギン酸、およびシアル酸)の総量に関して示し、タンパク質中のカルボキシル基の総濃度に対するPLL−g−PEO(2)中のアミノ基濃度の比(Z+/−)として計算した。
【0079】
【表1】
【0080】
ブロックイオノマー複合体へのHu BChEの取り込み程度を、未変性ポリアクリルアミドゲル電気泳動(PAGE)を使用してモニタリングした。図2Aは、Hu BChEおよびPLL−g−PEO(2)の混合物について認められたゲル電気泳動パターンを示す。Hu BChEのバンド強度は、該混合物中のコポリマー量が増加するにつれて有意に減少した。これにより、PLL−g−PE0(2)コポリマーがHu BChEに結合してその電荷を中和することが証明された。実質的に完全な複合体移動の遅延が、Z+/−=1.0付近のHu BChE/PLL−g−PEO(2)混合物の組成で認められた。
【0081】
Hor BChEとPLL−g−PEO(2)との複合体を、表2に示す混合物と類似の方法および組成で調製した。ブロックイオノマー複合体へのHor BChEの取り込み程度を、未変性PAGEを使用してモニタリングした。図2Bは、Hor BChEおよびPLL−g−PEO(2)の混合物で認められるゲル電気泳動パターンを示す。過剰なブロックイオノマーで混合物中に(Z+/−=6.2)複合体へのHor BChEの完全な固定化が認められた。Hor BChEとPLL鎖あたりのPEOのグラフティング密度(grafting density)が約6.6鎖であるPLL−g−PEOコポリマー(PLL−g−PEO(7)と示す)との複合体について類似のデータが得られた。
【0082】
【表2】
【0083】
両型のBChEとPLL−g−PEO(2)との複合体を、動的光散乱によってさらに特徴づけた。全複合体型の研究についてのデータを、図3にまとめている。タンパク質のみよりもわずかに大きなサイズの粒子が全てのBChE/ブロックイオノマー混合物中で検出された。
【0084】
Hu BChE/PLL−g−PEO(2)複合体の分子量(Mw)を、沈降平衡分析によって測定した。20℃、回転子速度4000rpm、沈降時間24時間で全ての測定を行った。得られた沈降平衡パターンを、UV吸収光学系を使用して記録した。平均タンパク質部分比体積0.73cm3/gを、測定した沈降平衡からの分子量の計算のために使用した。計算した分子量を、表3に示す。
【0085】
【表3】
【0086】
これらのデータにより、Hu BChEおよびPLL−g−PEO(2)から形成された複合体が1つのタンパク質分子からなることも示唆される。タンパク質のみと比較して認められた複合体の分子量の増加は、タンパク質四量体あたり約2〜3鎖のPLL−g−PEO(2)コポリマーの結合と対応する。
【0087】
該複合体に取り込まれたHu BChEの活性を、ブチリルチオコリンヨージドの加水分解に基づいたアッセイを使用して決定し、表4に示す。過剰なブロックイオノマーの存在下でさえ、該複合体に取り込まれたBChEの酵素活性の変化は認められなかった。BChE活性の決定に非常に低濃度の酵素または複合体(BChEベースで0.0025mg/ml)を必要とするので、複合体がかかる希釈度でその完全性を保持することを確認する必要があった。種々の希釈度の複合体を、PAGE技術およびその後のゲルのKarnovsky&Roots活性染色を使用して試験した(Karnovsky and L.Roots(1964)J.Histochem,Cytochem,12:219−221)。この「直接染色(direct−coloring)」 チオコリン法は、低濃度のBChEで高感度である。典型的なゲル電気泳動パターンを、図4Aに示す。これらのデータは、BChEとブロックイオノマーの複合体が、希釈度が非常に高い場合に、解離することを示す。
【0088】
【表4】
【0089】
ブロックイオノマー複合体の多分子コア−シェル構造を、ポリマー鎖間の架橋の形成によって強化することができる。得られた架橋複合体は、本質的に、希釈の際に安定であり、pH、イオン強度、溶媒組成、および構造劣化を伴わない剪断力の変化などの環境上の課題に耐え得るナノスケールの単一分子である。したがって、該BChE/ブロックイオノマー複合体の安定性をさらに増加させるために、該複合体構造に架橋を導入した。グルタルアルデヒド(GA)(アミン反応性ホモ官能性(homofunctional)架橋剤)を、これらの研究で使用した。GAのアルデヒド基とブロックイオノマーのタンパク質およびポリリジンセグメントの両方の第一級アミノ基との間のイミン(シッフ塩基)の形成に起因して架橋が起こる。
【0090】
該複合体に架橋を導入するために、Hu BChE/PLL−g−PEO(2)複合体(Z+/−=1.2、BChEベースで0.15mg/ml)を含む10mMリン酸緩衝液(pH7.4)を、0.25%GA水溶液で処理した。GA量を、GA溶液中のアルデヒド基の総量対PLL−g−PEOコポリマー中のリジン残基の総数として定義された標的化架橋比(85%)に基づいて計算した。該複合体の架橋溶液を、室温で5時間保持した。希釈に対する架橋複合体の安定性を、Karnovsky&Roots法を使用して評価した。該架橋複合体を、それぞれ、1000倍、5000倍、および250倍に希釈した。同程度に希釈したHu BChEおよび元の非架橋複合体を、コントロールとして使用した。ゲル電気泳動パターンを図4Bに示す。1000倍まで希釈した架橋Hu BChE/PLL−g−PEO(2)複合体に対応するレーン中にBChEバンドが認められた。対照的に、複合体−前駆体の希釈により、完全に解離して遊離BchEが放出された。これらのデータにより、コア中にBchEを捕捉するブロックイオノマー複合体の安定性を、複合体コア中の架橋の導入によって有意に増加させることができることが示唆される。
【0091】
架橋複合体に取り込まれたHu BChEの酵素活性を、基質としてブチリルチオコリンヨージドを使用してさらに評価した。ブチリルチオコリンヨージドは、架橋複合体を透過するのに十分に小さな分子であるので捕捉された酵素と反応できる。データを表5に示す。これらのデータは、BChE/PLL−g−PEO複合体の架橋によって複合体に捕捉されたBChEの酵素活性が喪失する(例えば、BChEの初期非活性の75%の減少が認められた)ことを示した。概して、BChE/PLL−g−PEO複合体のコアの架橋により、得られたBChE/PLL−g−PEO複合体が希釈に対して十分に耐性を示す。
【0092】
【表5】
【0093】
種々の架橋を複合体に導入するために、Hu BChE/PLL−g−PEO(2)複合体(Z+/−=1.2、BChEベースで0.15mg/ml)を含む10mMリン酸緩衝液(pH7.4)を、GA水溶液で処理した。表6に示すように、種々の濃度の3μLのGA溶液を、120μLの複合体溶液に添加した。GA量を、該GA溶液中のアルデヒド基の総量対PLL−g−PEOコポリマー中のリジン残基の総数として定義された標的化架橋比に基づいて計算した。標的化架橋の程度が、正確なアミド化の程度よりもむしろ、より低いと予想される起こり得る理論上の最大架橋量を示すことに注目すべきである。該標的化架橋度は、10%から100%まで様々であった。混合物を、室温で5時間保持した。
【0094】
【表6】
【0095】
希釈に対する架橋複合体の安定性を、Karnovsky&Roots法を使用して評価した。架橋複合体を、1000倍、5000倍、および250倍に希釈した。同程度に希釈したHu BChEおよび元の非架橋複合体を、コントロールとして使用した。種々の架橋比(85%、40%、および20%)の複合体についての代表的なゲル電気泳動パターンを、図5A〜5Cに示す。85%および40%の標的化架橋比で調製した複合体は安定であり、1000倍までの希釈の際に解離しなかった。標的化架橋85%(図5A)および40%(図5B)を有する架橋Hu BChE/PLL−g−PEO(2)複合体に対応するレーン中にBChEバンドは認められなかった。複合体−前駆体の希釈により、完全に解離して遊離BchEが放出された(レーンB)。標的化架橋比20%で調製した複合体は、より高い希釈度で部分的に解離した(図5C)。実際、遊離BChEに対応するバンドは、250倍希釈した架橋複合体に対応するレーン中で認められた。
【0096】
図6は、種々の架橋比および500倍希釈で調製したBChE/ PLL−g−PEO(2)複合体(Z+/−=1.2)について認められたゲル電気泳動パターンを示す。遊離BChEのバンドは、架橋比30%以下の架橋複合体に対応するバンド中に出現した。これらのデータにより、希釈の際の複合体の分解を防ぐために少なくとも40%の標的化架橋比で、BChE/ PLL−g−PE0(2)複合体に架橋が好ましく導入されることが示唆される。
【0097】
架橋Hu BChE/PLL−g−PEO(2)複合体の分子量(Mw)を、沈降平衡分析によって測定した。20℃、回転子速度6000rpm、沈降時間24時間で全ての測定を行った。得られた沈降平衡パターンを、UV吸収光学系を使用して記録した。平均タンパク質部分比体積0.73cm3/gを、測定した沈降平衡からの分子量の計算のために使用した。計算した分子量を、表7に示す。架橋複合体の分子量は、複合体−前駆体の分子量に匹敵する。これらのデータにより、架橋反応が各複合体粒子内で進行し、複合体の粒子間の架橋および凝集が起こらないことが示唆される。
【0098】
【表7】
【0099】
架橋複合体に取り込まれたHu BChEの酵素活性を、基質としてブチリルチオコリンヨージドを使用してさらに評価した。データを表8に示す。これらのデータは、BChE/PLL−g−PEO複合体の架橋が複合体のコアに取り込まれたBChEの活性に影響を及ぼすことを示した。架橋比の増加により、酵素活性が喪失した。例えば、BChEの初期非活性の75%の減少は、標的化架橋比85%で認められ、架橋100%で活性は認めれなかった。対照的に架橋比40%では、観察された活性の減少はむしろ小さかった(20%)。結論として、BChE/PLL−g−PEO複合体コアの化学的架橋は、複合体のイオン性コアに取り込まれたタンパク質の活性を保存しながら希釈に対する複合体の安定性を調整するための有効なツールである。
【0100】
【表8】
【0101】
ポリマー複合体によって送達されたBChEのin vivoでの移動および局在化を、光学的画像を使用してブチリルコリンエステラーゼヌリザイゴート(nullizygote)(BChE−/−)マウスで評価した。BChE−/−ノックアウトマウスを、BCHE遺伝子の一部を遺伝子ターゲティングで削除することによって作成した(受入番号M99492;Li et.al.(2008)J.Pharm.Exp.Ther.,324:1146−1154)。近赤外蛍光プローブIRDye(登録商標)800CW(Li−cor,Lincoln,NE)を使用して、Hor BChEを標識した。標識度は、タンパク質四量体あたり1つの色素分子と計算された。標識Hor BChE(Hor BChE/IRDye)を含む複合体を調製するために、16μLのHor BChE/IRDye溶液を、57μLのPLL−g−PEO(2)溶液(10mg/ml)および8μLの10×PBS緩衝液(0.1Mリン酸緩衝液、C(NaCl)=1.4M、pH7.4)と混合した。得られた複合体を、グルタルアルデヒドを使用してさらに架橋した。グルタルアルデヒドの添加量を、40%の標的化架橋度に基づいて計算した。混合物を室温で5時間保持した。Karnovsky&Roots法で確認したところ、その架橋されたHor BChE/IRDye/ PLL−g−PEO(2)複合体は、希釈に対して安定であった。架橋手順によってポリマー複合体に取り込まれたHor BChE/IRDyeの酵素活性の全般的な認められた減少は、約35%であった。
【0102】
画像化を行なう前に、動物の腹部および背部区域の毛をNairクリームを使用して除去した。マウスを、特別な精製飼料で維持して、標準的な動物用飼料によって誘導される胃内および腸内の干渉蛍光シグナルを減少させた。2つの注射経路(髄腔内(IT)および筋肉内(IM))を使用した。動物を麻酔し、次いで、架橋複合体に取り込んだ標識タンパク質つまりHor BChE/IRDyeを投与した。IVIS 200撮像装置を使用して、Hor BChE/IRDyeのin vivo蛍光を48時間追跡した。ポリマー複合体に取り込まれたHor BChE/IRDyeの蓄積は、複合体のIT注射の2.5時間後に脳内で認められた。Hor BChE/IRDyeに対応する蛍光シグナルはまた、該複合体の筋肉注射の48時間後にマウスの脳内で検出された。
【0103】
脳内の送達BChE酵素の最終活性を決定するために、マウスを安楽死させ、分析のために脳組織を切り出した。脳関連BChE活性を、Ellmanアッセイを使用して決定した(Duysen,et al.(2001)J.Pharm.Exp.Ther.299:528−535)。活性単位を、pH7.0、25℃で1分間あたりに加水分解されたブチリルチオコリン量(μモル)と定義した。データを表9に示す。
【0104】
【表9】
【実施例3】
【0105】
以下の手順を使用して、生きている動物内のCuZnSOD−ポリイオン複合体の生体分布を研究した。
【0106】
タンパク質の標識化。CuZnスーパーオキシドジスムターゼ(CuZnSOD;2mg)を、1mlリン酸緩衝化生理食塩水(PBS:0.1Mリン酸カリウム、1.5M NaCl、pH7.4)中に室温で溶解した。100μlの1Mリン酸カリウム緩衝液(K2H2PO4)を溶液に添加して、溶液のpHをpH8.5に上昇させた。得られた溶液を、反応色素Alexa 680(Molecular Probes,Inc.,Eugene,OR,cat # A−20172)を含むバイアルに移し、撹拌しながら室温で1時間インキュベートした。
【0107】
標識CuZnSODの精製。反応混合物(1ml)を、溶離緩衝液としてリン酸緩衝液(10mM、pH7.4)を使用してSephadex G−25カラム(0.5×26cm)に供した。2つの有色バンドは、非結合色素からの標識タンパク質の分離を示した。最初の有色バンド(淡青色)が、約30分間で8個の画分(150μlの各画分)に回収された。Pierce BCAアッセイを使用して決定した該タンパク質濃度は、0.75mg/mlであった。該標識タンパク質溶液を凍結乾燥させ、−20℃で保存した。
【0108】
タンパク質を取り込んだポリイオン複合体の調製。+/−電荷比(Z)=2:1のCuZnSOD−ポリイオン複合体を得るために、500μlのAlexa 680標識CuZnSOD(1mg/ml)を含む生理学的緩衝液を、830μlのポリ(エチレンイミン)(PEI)およびポリ(エチレングリコール)(PEG)ブロックコポリマー(PEI−PEG、2mg/ml)の溶液に撹拌しながら滴下した。該+/−電荷比(Z)を、pH7.4でプロトン化したPEI−PEGのアミノ基量をCuZnSOD中のグルタミンおよびアスパラギン酸の総量で割ることによって計算した。得られたCuZnSOD−ポリイオン複合体溶液を、さらなる使用前に少なくとも1時間インキュベートした。
【0109】
マウス内のCuZnSOD−ポリイオン複合体の生体分布の視覚化。実験前に、BALB/C雌マウスを、30〜40mg/kg体重の用量でのペントバルビタールの腹腔内注射を使用して麻酔し、剪毛し、脱毛した(毛による蛍光ブロッキングを軽減するため)。該マウスを、流動食で72時間保持した(固形食由来の胃内および腸内の自己蛍光を排除するため)。該マウスにAlexa−680標識CuZnSOD−ポリイオン複合体を尾静脈注射した。次いで、該マウスを66%亜酸化窒素および残りの酸素と共に1.5%イソフルラン混合物を使用して麻酔し、撮像カメラ中に配置した。CuZnSOD−ポリイオン複合体の生体分布を、IVIS 200 Series Imaging Gas Anasthesia Systemによって検出されるようにAlexa−680のin vivo蛍光の測定によって決定した。Alexa 680標識CuZnSOD−ポリイオン複合体は、IV注射の1時間後に脳内に蓄積し始め、注射7時間後にピークに達し、注射後少なくとも24時間上昇したままであった(図7)。これらのデータは、末梢投与したCuZnSOD−ポリイオン複合体が脳に局在することを示す。
【実施例4】
【0110】
ブロック構造を有するPLL−PEOコポリマーを使用して、ブロックコポリマー複合体中にBChEを取り込んだ。ポリ−L−リジン−グラフト−ポリ(エチレンオキシド)(PLL−b−PEO)を合成した(例えば、Harada et al .(1995)Macromolecules 28:5294を参照のこと)。分子量5,600g/molおよびかなり狭い分子量分布1.27を有するα−メトキシ−ω−アミノ−ポリ(エチレングリコール)(Biotech GmbH,Germany)を、ブロックコポリマー合成のためのマクロイニシエーター(macroinitiator)として使用した。PLL−b−PEOを、Varian 500 MHz分光計で溶媒としてD2Oを使用して1H NMR分光法によって特徴づけた。PLLセグメントの長さは、25と計算された。PLL−g−PEOの推定分子量は、約24,000g/molである。このポリマーを、PLL−b−PEOと示した。PEOのメチレンプロトン(OCH2CH2:δ=3.62ppm)およびPLLのε−メチレンプロトン((CH2)3CH2NH3:δ=2.9ppm)のピーク強度比を測定してPLLセグメントの重合度を計算し、36と決定された。PLL−b−PEOの推定分子量は約10,200g/molである。このポリマーを、PLL−b−PEOと示した。
【0111】
逆滴定を行ってPLL−b−PEO溶液中のアミノ基濃度を決定した。5mg/mlのPLL−b−PEO溶液中のアミノ基濃度は、6.1mMと計算された。
【0112】
ヒトBChE(Hu BChE)およびウマ血清由来のBChE(Hor BChE)の両サンプルを使用して、PLL−b−PEOとの複合体を調製した。混合物の種々の組成での緩衝液(リン酸緩衝液、10mM、pH7.4)中でのブロックコポリマーとタンパク質成分との簡単な混合によって複合体を調製し、これを表10に示す。該BChE/PLL−b−PEO混合物の組成を、タンパク質中のカルボキシル基(グルタミン酸、アスパラギン酸、およびシアル酸)の総量に関して示し、タンパク質中のカルボキシル基の全濃度に対するPLL−b−PEO中のアミノ基濃度の比率(Z+/−)として計算した。
【0113】
【表10】
【0114】
ブロックイオノマー複合体へのBChEの取り込み程度を、未変性PAGEを使用してモニタリングした。図8Aおよび8Bは、それぞれ、Hu BChE/PLL−b−PEOおよびHor BChE/PLL−b−PEO混合物について認められたゲル電気泳動パターンを示す。両方の場合、混合物中のブロックコポリマー量が増加するにつれてBChEバンドの強度が減少した。これは、該PLL−b−PEOブロックコポリマーが該BChEに結合し、その電荷を中和することを証明していた。実質的に完全なゲル中の複合体移動の遅延が、Hu BChE/PLL−b−PEOおよびHor BChE/PLL−b−PEO混合物の両方についておよそZ+/−=2.0で認められた。グラフト構造のPLL−PEOコポリマー(PLL−g−PE0(2)またはPLL−g−PE0(7))を使用したブロックイオノマー複合体へのウマ血清由来のBChE(Hor BChE)の取り込みには混合物中に過剰なコポリマーの存在(Z+/−=6.2)が必要であることに注目すべきである。
【0115】
両型のBChEとPLL−g−PEOとの複合体を、動的光散乱によってさらに特徴づけた。全複合体型の研究についてのデータを、図11にまとめる。タンパク質のみよりもわずかに大きなサイズの粒子がBChE/ブロックコポリマー混合物中で検出された。
【0116】
【表11】
【0117】
複合体の安定性に及ぼすBChE/PLL−b−PEO複合体コアの架橋の影響を、さらに解明した。グルタルアルデヒド(GA)(アミン反応性ホモ官能性架橋剤)を、これらの研究で使用した。該複合体に架橋を導入するために、10mMリン酸緩衝液(pH7.4)中のHu BChE/PLL−b−PEOおよびHor BChE/PLL−b−PEO複合体(Z+/−=1.0、BChEベースで0.15mg/ml)両方を、0.008%GA水溶液で処理した。GA量を、GA溶液中のアルデヒド基の総量対PLL−g−PEOコポリマー中のリジン残基の総数として定義された標的化架橋比(40%)に基づいて計算した。架橋剤を添加した該複合体溶液を、室温で5時間保持した。希釈に対する該架橋複合体の安定性を、Karnovsky&Roots法を使用して評価した。架橋複合体を、500倍希釈した。同一程度に希釈したBChEサンプルおよび元の非架橋複合体を、コントロールとして使用した。該ゲル電気泳動パターンを図9Aに示す。これらのデータは、Z+/−=1.0の組成および標的化架橋比40%で調製したBChE/PLL−b−PEO複合体は希釈に耐えられずに分離することを示す。遊離BChEに対応するバンドは、架橋複合体に対応する全レーン(それぞれ、図9AのレーンCおよびF)およびその非架橋前駆体(それぞれ、図9AのレーンBおよびE)で認められた。
【0118】
別の実験では、Z+/−=2.0(BChEベースで0.15mg/ml)で調製したHu BChE/PLL−b−PEOおよびHor BChE/PLL−b−PEO複合体を、標的化架橋度40%を達成するために0.016%GA溶液で処理した。架橋複合体を、500倍希釈した。同一程度に希釈したBChEサンプルおよび元の非架橋複合体を、コントロールとして使用した。該ゲル電気泳動パターンを図9Bに示す。図9Bで認められるように、Z+/−=2.0の架橋Hu BChE/PLL−b−PEOおよびHor BChE/PLL−b−PEO複合体にそれぞれ対応するレーンCおよびFにBChEバンドは認められなかった。対照的に、複合体−前駆体の希釈により、完全に解離して遊離BchEが放出された(図9BのレーンBおよびE)。したがって、少量の過剰なブロックコポリマーを含む該BChE/PLL−b−PEO複合体は良好な複合体コアの架橋に必要なようである。
【0119】
非架橋および架橋BChE/PLL−b−PEO複合体に取り込まれたBChEの酵素活性を、基質としてブチリルチオコリンヨージドを使用してさらに評価した。該データを表12に示す。架橋Hor BChE/PLL−b−PEO複合体(Z+/−=2)に取り込まれたHor BChEの酵素活性は実質的に変化しなかった。さらに、非架橋複合体溶液中で測定したBChE活性と比較して、架橋Hu BChE/PLL−b−PEO複合体の場合、Hu BchEの酵素活性は減少しなかった。
【0120】
【表12】
【実施例5】
【0121】
神経炎症反応によって誘導されたケモカイン勾配の確立の結果として、脳への侵入が起こる(Kadiu et al.(2005)Neurotox.Res.,8:25−50;Gorantla et al .(2006)J.Leukocyte Biol.,80:1165−1174)。したがって、細胞ベースの送達の有用性を試験するためのPD用モデル系を作製した。第1に、多岐にわたる炎症の合図を使用して、小グリア細胞からのROS産生を刺激し、ニトロ化αシヌクレイン(N−α−syn)(PD中に細胞外放出されて免疫活性化を誘発すると考えられている)を含めた(Gendelman,H.(2006)Neurotoxicology 27:1162;Mosley et al .(2006)Clin.Neurosci.Res.,6:261−281;El−Agnaf et al.(2003)FASEB J.,17:1945−7)。第2に、1−メチル−4−フェニル−l,2,3,6−テトラヒドロピリジン(MPTP)誘導性炎症は、脳へのBMM侵入のための勾配としての機能を果たした。炎症の合図の後、白血球が漏出および走化性によって脳に動員することが十分に報告されている(Anthony et al.(1997)Brain 120:435−44;Anthony et al.(2001)Prog.Brain Res.,132:507−24;Blamire et al .(2000)J.Neurosci.,20:8153−9;Persidsky et al.(1999)Am.J.Pathol.,155:1599−611;Kuby,J.(1994)Immunology;Freeman,WH.and Co.,New York)。単球−マクロファージは、脳傍細胞間隙を通過し、それにより、脳内皮細胞の結合複合体を通過することができる(Pawlowski et al.(1988)J.Exp.Med.,168:1865−82;Lossinsky et al.(2004)Histol.Histopathol .,19:535−64)。その有効な武器は、外来粒子の貪食およびエキソサイトーシスによる貪食物質の遊離からなる。それぞれが一緒になって、これらの特徴により、マクロファージをキャリアとして活用して、神経炎症過程に影響を及ぼすことが可能となる(Daleke et al.(1990)Biochim.Biophys .Acta 1024:352−66;Lee et al.(1992)Biochim.Biophys.Acta 1103:185−97;Nishikawa et al.(1990)J.Biol.Chem.,265:5226−31;Fujiwara et al .(1996)Biochim.Biophys.Acta 1278:59−67)。
【0122】
ここで、BMMを、脳へのカタラーゼの治療濃縮物の輸送のためのビヒクルとして使用することができる。このアプローチの成功のための主な障害は、マクロファージが貪食した粒子を効率よく分解するという点である(Fujiwara et al.(1996)Biochim.Biophys.Acta 1278:59− 67)。したがって、細胞キャリア内の酵素活性を保護することが極めて重要である。高分子ナノキャリー(polymeric nanocarry)(ナノスフェア、リポソーム、ミセル、ナノ粒子)への取り込みにより、かかる保護を得ることができる(Aoki et al.(2004)Int.J.Hypertherm.,20:595−605;Calvo et al.(2001)Pharm.Res.,18:1157−1166;Gref et al.;(1994)Science 263:1600−1603;Harada et al.(1999)Science 283:65−7;Jaturanpinyo(2004)Bioconjugate Chem.,15:344−8;Kabanov et al.(2002)J.Controlled Release 82:189−212;Kwon,G.S.(2003)Crit.ReV.Ther.Drug Carrier Syst.,20:357−403;Mora et al.(2002)Pharm.Res.,19:1430−8;Rousseau et al.(1999)Exp.Brain Res.,125:255−64;Torchilin,V.P.(2000)Eur.J.Pharm.Sci.,11.S81−91;Vinogradov et al.(2004)Bioconjugate Chem.,15:50−60)。以前の研究により、高分子間電解質複合体の使用によって酵素を固定することができることが証明されている(Kabanov et al.(1977)Mol.Biol.(Russian),11:582−596;Kabanov,V.(1994)Polym.Sci.,36:183−197;Kabanov et al.(2004)J.Phys .Chem.B,108:1485−1490)。該酵素−高分子電解質複合体を、酵素をイオン性および非イオン性の水溶性ブロックを含む反対の電荷をもつブロック高分子電解質と自己集合することによってナノスケールで調製することができる(Harada et al.(2001)J.Controlled Release 72:85−91;Harada et al .(2003)J.Am.Chem.Soc,125:15306−7)。得られたナノ粒子は、水溶性非イオン性ポリマー(ポリエチレングリコール(PEG)など)のシェルに囲まれたタンパク質−高分子電解質複合体のコアを含む。現在の研究では、ポリヌクレオチド送達のために以前に使用されたカチオン性ブロックコポリマーであるポリエチレンイミン−ポリ(エチレングリコール)(PEI−PEG)との反応によってカタラーゼを固定している(Vinogradov et al.(1998)Bioconjugate Chem.,9:805− 812)。得られたカタラーゼのブロックイオノマー複合体は、BMMによって取り込まれる。かかる修飾によってBMM中での分解からカタラーゼを保護し、BMMが外部媒体中に少なくとも4〜5日間ポリペプチド−ポリイオン複合体を放出し、PDのMPTPモデルなどにおいてBMMがポリペプチド−ポリイオン複合体を脳に送達することができるという証拠をここに示す。
【0123】
材料と方法
材料。実施例1と同一。
【0124】
BMM。記載のようにマウス大腿骨(C57BL/6、雌マウス)から抽出した骨髄細胞(Dou et al.(2006)Blood 108:2827−35)を、1000U/mLマクロファージコロニー刺激因子(MCSF)(Wyeth Pharmaceutical,Cambridge,MA)を補足した培地中で10日間培養した。単球培養物の純度を、FACSCalibur(BD Biosciences,San Jose,CA)を使用したフローサイトメトリーによって決定した。
【0125】
小グリア細胞。C57BL/6 新生仔(1〜3日齢)から脳を取り出し、氷冷HBSSで洗浄し、小片にすりつぶした。上清を2.5%トリプシンおよびDNアーゼ溶液(1mg/ml)と置換し、37℃で30分間インキュベートし、次いで、1mLの氷冷FBSを10mL HBSSと共に添加した。混合物を遠心分離し(5分間、1500rpm、4℃)、MCSFを含む完全培地をペレットに添加した。成熟するまで細胞を培養した(典型的には10日間)。
【0126】
MPTP。実施例1と同一。
【0127】
PEI−PEG複合物。実施例1と同一。
【0128】
ブロックイオノマー複合体。実施例1と同一。
【0129】
電気泳動保持。実施例1と同一。
【0130】
光散乱測定。実施例1と同一。
【0131】
TEM。実施例1と同一。
【0132】
カタラーゼおよびカタラーゼ活性。実施例1と同一。
【0133】
Alexa Fluor 594およびローダミンイソチオシアナート(RITC)でのカタラーゼの標識。負荷および放出研究のために、メーカーのプロトコールに従って、酵素をAlexa Fluor 594タンパク質標識キット(A10239,Molecular probes,Inc.,Eugene,OR)で標識した。共焦点顕微鏡法研究のために、カタラーゼをRITCで標識した。簡潔に述べれば、カタラーゼを0.1M炭酸ナトリウム緩衝液(pH8.5)(1mg/ml)に溶解し、RITC(10mg/ml)を含むDMSOにて室温で2時間処理した。標識したカタラーゼを、PBSを含むSephadex G−25カラム(1×20cm)による溶離速度0.5mL分−1でのゲル濾過によって低分子量残渣から精製し、凍結乾燥させた。
【0134】
BMM中のポリペプチド−ポリイオン複合体の蓄積および放出。24ウェルプレート(2.5×106細胞/プレート)上で増殖させたBMM(Batrakova et al.(1998)Pharm.Res.,15:1525−1532;Batrakova et al.(2005)Bioconjugate Chem.,16:793−802)を、アッセイ緩衝液(122mM NaCl、25mM NaHCO3、10mMグルコース、3mM KCl、1.2mM MgSO4、0.4mM K2HPO4、1.4mM CaCl2、および10mM HEPES)と共に約20分間プレインキュベートした。プレインキュベーション後、該細胞を、Alexa−Fluor 594標識酵素(0.7mg/ml)を含むアッセイ緩衝液のみまたはポリペプチド−ポリイオン複合体にて種々の時点で処理した。インキュベーション後、該細胞を氷冷PBSで3回洗浄し、Triton×100(1%)中に溶解した。BMMから放出されたポリペプチド−ポリイオン複合体の測定のために、負荷したBMMを、種々の測定点で新鮮な培地とインキュベートした。各サンプル中の蛍光を、Shimadzu RF5000 蛍光分光光度計(λex580nm、λem617nm)によって測定した。ポリペプチド−ポリイオン複合体の量をタンパク質含有量について正規化し、負荷実験についてのタンパク質mgあたりの酵素μgおよび培地mLあたりの酵素μgを平均±SEM(n=4)としてとして示す。
【0135】
ポリペプチド−ポリイオン複合体の細胞内局在化。チャンバースライド中で増殖させた単球(Kabanov et al.(1995)Bioconjugate Chem.,6:639−643)を、RITC標識ポリペプチド−ポリイオン複合体(Z=1)に37℃で24時間曝露した。インキュベーション後、該細胞を4%パラホルムアルデヒド中で固定し、F−アクチン特異的オレゴングリーン488ファロイジンおよび核染色(ToPro−3(Molecular Probes,Inc.,Eugene,OR))で染色した。標識細胞を、アルゴンイオンレーザー(励起波長、488nm)および対応するフィルターセットを備えた共焦点蛍光顕微鏡システム ACAS−570(Meridian Instruments,Okimos,MI)によって試験した。CCDカメラ(Photometries,Tuscon,AZ)およびAdobe Photoshopソフトウェアを使用してデジタル画像を得た。
【0136】
抗酸化剤活性の測定。成熟マウスBMMに酵素のみまたは酵素−ポリイオン複合体(Z=1)を1時間ロードし、PBSで洗浄し、新鮮な培地を該細胞に添加した。種々の時間間隔後、該培地を回収し、BMMから放出された酵素の抗酸化剤活性を、過酸化水素の分解率によってアッセイした。
【0137】
Ampex Red Dye蛍光アッセイ。96ウェルプレートに播種したマウス小膠細胞(0.1×106細胞/ウェル)を、腫瘍壊死因子α(TNF−α)(200ng/mL)で48時間またはニトロ化α−シヌクレイン(N−α−syn)(0.5μM)のいずれか一方で刺激して、ROS産生を誘導した。並行して、24ウェルプレート中で増殖させたBMMに、「裸の」カタラーゼ(1mg/mL)またはカタラーゼ−ポリイオン複合体を1時間ロードし、次いで、Krebs−Ringerクレブス−リンゲル緩衝液(145mM NaCl、4.86mM KCl、5.5mMグルコース、5.7mM NaH2PO4、0.54mM CaCl2、1.22mM MgCl2、pH7.4)と2時間インキュベートして、細胞から上清に放出されたカタラーゼを回収した。インキュベーション後、「裸の」カタラーゼまたはカタラーゼ−ポリイオン複合体をロードしたBMMから回収した上清に、Ampex Red Dyeストック液(10U/mL HRP、10mM Ampex Red)を補足した。小グリア細胞のN−α−syn刺激のために、上清に0.5μM凝集N−α−synも補足した。得られた溶液を活性化小膠細胞に添加し、「裸の」カタラーゼまたはカタラーゼ−ポリイオン複合体によるROSの分解をλex=563run、λem=587nmでの蛍光によって測定した。ROS分解に及ぼす非ロードBMMまたはPEI−PEGのみをロードしたBMMから回収した上清の影響を、コントロール実験と比較して評価した。
【0138】
カタラーゼポリペプチド−ポリイオン複合体の125I標識。実施例1と同一。125I標識カタラーゼ(400μCi/mL、0.7mg/ml)にPEI−PEGブロックコポリマー(Z=1)を補足し、成熟単球(1mLの培地中に80×106BMM)に37℃で2時間ロードした。インキュベーション後、ロードした単球を、氷冷PBSで3回洗浄した。
【0139】
統計分析。実施例1と同一。
【0140】
結果
該ポリペプチド−ポリイオン複合体の製造は、上の実施例1に記載されている。最初に、スルホローダミン−B(SRB)細胞生存アッセイを使用して、ポリペプチド−ポリイオン複合体(およびカタラーゼまたはコポリマーのみ)では広範な濃度にわたってBMM細胞傷害性を誘導しないことが証明された(0.03〜1000μgカタラーゼ/mL;図10)。蓄積速度により、遊離カタラーゼおよびポリペプチド−ポリイオン複合体のBMM中への迅速な取り込みが示唆された(図11A)。特に、遊離酵素は、ポリペプチド−ポリイオン複合体のほぼ2倍の速度でBMM中に取り込まれた。60分の時点で、BMMへのポリペプチド−ポリイオン複合体のローディングは約30μgカタラーゼ/106細胞であった。60分でのポリペプチド−ポリイオン複合体の取り込みは、電荷比が増加するにつれて減少し(図11B)、これはPEGコロナの影響に起因し得る。共焦点顕微鏡法のデータにより、ポリペプチド−ポリイオン複合体中へのBBMに投与されたRITC標識カタラーゼの小胞および/または細胞質の局在化が示唆された(図11C)。
【0141】
成熟BMMに、Alexa Fluor 594標識カタラーゼ−ポリイオン複合体をプレローディングし(60分間)、新鮮な培地中にて異なる時間間隔で培養した。ロードした該BMMは、外部の培地中にカタラーゼを少なくとも4〜5日間放出した(図12A)。同一期間中、該細胞に会合した該酵素の量は比例的に減少した。ポリペプチド−ポリイオン複合体ロードしたBMMの10μM酢酸ミリスチン酸ホルボール(PMA)(タンパク質キナーゼC経路およびROS生成の強力な活性化剤)への曝露(Chang et al.(1993)Immunology 80:360−366)により、培地中での酵素放出が約50%増強された(図12B)。これにより、BMMからのポリペプチド−ポリイオン複合体の放出は細胞活性化に依存し得ることが示唆された。
【0142】
「裸の」カタラーゼまたはカタラーゼ−ポリイオン複合体をロードしたBBMを新鮮な培地中に入れ、異なるインキュベーション時間間隔で培地中に放出された該酵素の活性を決定した。放出後に事実上不活性であった遊離カタラーゼをロードしたBMMと対照的に、カタラーゼ−ポリイオン複合体をロードした該細胞は、少なくとも24時間活性な酵素を放出した(図13A)。放出された該酵素の最大活性は、化学量論比(Z=1)で調製されたカタラーゼ−ポリイオン複合体をロードしたBMMで認められた(図13B)。以上を総合すると、これは、PEI−PEGを有するブロックイオノマー複合体中のカタラーゼの取り込みによってBMMから活性なカタラーゼが保護され、持続的に放出されることを示す。
【0143】
小グリア細胞のROS産生に及ぼすカタラーゼナノ処方物(nanoformulation)の抗酸化能力を評価するために、「裸の」カタラーゼまたはカタラーゼ−ポリイオン複合体をロードしたBMMを、クレブス−リンゲル緩衝液中で2時間インキュベートし、得られた上清を回収し、TNF−α(200ng/mL)刺激小膠細胞に添加した。カタラーゼまたはカタラーゼ−ポリイオン複合体をロードしたBMMから回収した上清中のカタラーゼは、小グリア細胞によって過酸化水素を分解した(図14A)。カタラーゼ−ポリイオン複合体によってより高い影響が認められ、これは、キャリア細胞中に酵素活性を保存する能力と一致した。さらに、非ロードBMM(図14B)またはPEI−PEGのみをロードしたBMM(図14C)から回収した上清は、たとえあったとしても、過酸化水素レベルにほとんど影響を及ぼさなかった。これらの所見をPDで典型的に見出される刺激によって活性化された小グリア細胞中で再現することができるかどうかを決定するために、細胞を0.5μM N−α−synで刺激した。PD中に細胞質体として存在する凝集したN−α−synはドーパミン作動性ニューロンの死滅後に放出され、これはレヴィ小体の主成分である(Zhang et al.(2005)FASEB J.,19:533−42)。これらの凝集タンパク質が、小グリア細胞活性化のための刺激としての機能を果たすとの仮説が立てられる(Gendelman,H.(2006)Neurotoxicology 27:1162;Thomas et al.(2007)J.Neurochem.100:503−19)。再度、過酸化水素レベルは、カタラーゼ−ポリイオン複合体をロードしたBMMの上清の添加によって有意に減少した(図14D)。以上を総合すると、本研究により、BMMから放出されたカタラーゼ−ポリイオン複合体が小グリア細胞の活性化に起因する酸化ストレスを弱めることができることが示唆される。実際、BMMから放出されたカタラーゼ−ポリイオン複合体は、「裸の」カタラーゼよりも有意に大量にH2O2を減少させ、それにより、ポリイオン複合体がBMM中にカタラーゼの酵素活性を有効に保存することを示す。
【0144】
カタラーゼ−ポリイオン複合体を保有するBMMがヒトPDを反映する活動的な神経炎症性疾患を有する脳小領域に到達することができるかどうかを決定するために、MPTPモデルを使用した。2つのMPTP中毒C57B1/6マウス群に、125I標識カタラーゼを含む遊離ポリペプチド−ポリイオン複合体を静脈内投与するか、養子移入されたカタラーゼ−ポリイオン複合体がロードされたBMMを投与した。注射24時間後、カタラーゼ−ポリイオン複合体のみで処置した群と比較して、養子移入を受けた群の脾臓、肝臓、肺、腎臓、および脳の放射能レベルが有意に増加した(図15)。養子移入後、注射用量の約0.6%が脳内で見出され、これは遊離カタラーゼ−ポリイオン複合体を注射した動物で見出された量の2倍であったことに注目すべきである。以上を総合すると、これらのデータにより、酵素−ポリイオン複合体をロードしたBMMの養子移入が脳およびマクロファージ組織移動部位であると知られる他の末梢組織への送達を増加させることができるという証拠が得られる。
【0145】
脳への治療用ポリペプチドの効率的な輸送が、神経変性疾患および神経炎症性疾患の良好な治療に必要である。この目的を達成するために、強力な抗酸化剤であるカタラーゼの送達のためのビヒクルとしてBMMを使用することができるかどうかを試験した。実際、マクロファージおよび小グリア細胞ならびに他の単核食細胞がコロイド状ナノ粒子(例えば、リポソームまたはナノサスペンション(nanosuspension))を細胞内に取込み、その後に薬物を組織の損傷部位、または感染部位、または罹患部位に輸送して放出することができることが以前より知られている(Dou et al.(2006)Blood 108:2827−35;Dou et al.(2007)Virology 358:148−158;Gorantla et al .(2006)J.Leukocyte Biol.,80:1165−1174;Daleke et al.(1990)Biochim.Biophys.Acta 1024:352−66;Jain et al.(2003)Int.J.Pharm.,261:43−55)。
【0146】
さらに、BMMがBBBを通過する能力も調査した(Lawson et al.(1992)Neuroscience 48:405−15;Simard et al.(2004)FASEB J.,18:998−1000;Male et al.(2001)Prog.Brain Res.,132:81−93;Streit et al.(1999)Prog.Neurobiol.,57:563−81;Kokovay et al.(2005)Neurobiol.Dis.,19:471−8;Kurkowska−Jastrzebska et al.(1999)Acta Neurobiol.Exp.(Wars)59:1−8;Kurkowska−Jastrzebska et al.(1999)Exp.Neurol.,156:50−61;Simard et al.(2006)Mol.Psychiatry 11:327−35)。特に、PDのMPTPマウスモデルにおいて単球が脳に浸潤することが証明された(Kokovay et al.(2005)Neurobiol.Dis.,19:471−8;Kurkowska−Jastrzebska et al.(1999)Acta Neurobiol.Exp.(Wars)59:1−8;Kurkowska−Jastrzebska et al.(1999)Exp.Neurol.,156:50−61)。実際、MPTP毒性は、中脳、層、中隔、および海馬への単球浸潤率の一過性全般的増加を刺激した。これらの以前の研究では、脳中の単球−マクロファージの最大蓄積が、MPTP処置の1日後に認められた。これらのデータに基づいて、MPTP処置マウスに養子移入されたカタラーゼロード単球がPD中で最も冒されやすい脳領域(黒質および線条体が含まれる)に酵素を送達させることができるようである。
【0147】
BMM内のカタラーゼの分解を阻止するために、該タンパク質を、カチオン性ブロックコポリマーであるPEI−PEGを有するブロックイオノマー複合体中に固定した。得られたナノ粒子のサイズは約60〜100nmであり、生理学的条件下(pH、イオン強度)で安定であった。BMM中の高ローディングを達成しカタラーゼ活性を保存するために、該カタラーゼ−ポリイオン複合体の組成および構造を変化させた。外来粒子の内在化および開口分泌は、マクロファージにおける最も基本的な機能の1つである(Stout et al.(1997)Front.Biosci.,2:dl97−206)。BMMが比較的短い期間に(約40〜60分間)かなりの量のポリペプチド−ポリイオン複合体を蓄積し(約30μgカタラーゼ/106細胞)、その後に外部の培地中に4〜5日間放出し続けることができることを本明細書中で証明した。これにより、養子移入後のカタラーゼ−ポリイオン複合体をロードした細胞がカタラーゼを脳に到達させて放出するのに十分な時間を有することができることも示唆される。さらに、単球およびマクロファージの活性化によって開口分泌を刺激することができると報告されている(Schorlemmer et al.(1977)Clin.Exp.Immunol.,27:198−207;Allison et al.(1974)Symp.Soc.Exp.Biol.,419−46;Cardella et al.(1974)Nature 247:46−8)。上記の諸実験は、BMMによるポリペプチド−ポリイオン複合体の放出をPMAの刺激によって増強することができることを示す。ブロックイオノマー複合体が宿主細胞内のカタラーゼ活性を保護することも上記で証明する。特に、該酵素−ポリイオン複合体をロードしたBMMは、少なくとも24時間培地に活性な酵素を放出した。さらに、ポリペプチド−ポリイオン複合体をロードしたBMMから回収した培養上清は、N−α−synまたはTNF−αのいずれか一方で活性化された小グリア細胞によって産生されたROSに対するアッセイで強力な抗酸化剤を有していた。したがって、これらの細胞培養モデルは、ポリペプチド−ポリイオン複合体をロードしたBMMが神経変性過程に関連する酸化ストレスを軽減することができることを示す。最後に、ポリペプチド−ポリイオン複合体をロードしたBMMの養子移入によって組織への標識酵素の送達を増加させることができる(MPTP処置マウスの脳内の酵素量の2倍増加が含まれる)というin vivoでの証拠を示す。興味深いことに、かなりの量の標識酵素が該ポリペプチド−ポリイオン複合体のみの注射後の脳内にも見出された。該ポリペプチド−ポリイオン複合体を循環単球によって取り込み、次いで、該酵素を脳に運搬することができる可能性がある。
【実施例6】
【0148】
画像の可視化およびin Vivo画像化システム(IVIS)研究。BALB/CマウスにMPTP(PD関連ニューロン炎症(neuroninflammation)を誘導するため)を注射し、剪毛した(毛による蛍光ブロッキングを軽減するため)。Alexa 680標識ポリペプチド−ポリイオン複合体(PEI−PEO;Z=1)をBMMにロードし、次いで、該単球をMPTP処置マウスに静脈投与した(50mln/マウス)。該マウスを、種々の時間間隔でIVISを使用して撮像した(図16)。MPTP中毒脳内にかなりの量のポリペプチド−ポリイオン複合体が見出された。有意に、非MPTPコントロールマウスの脳内に蛍光は検出されなかった。これは、BMMがBBBを通過し炎症部位へのポリペプチド−ポリイオン複合体送達を容易にしたことを示す。
【0149】
in vivoでのポリペプチド−ポリイオン複合体をロードしたBMMの毒性についての組織病理学的評価。C57BL/6健常マウスに、ポリペプチド−ポリイオン複合体(10mln/マウス)またはPBS(コントロール群)をロードした単球を注射した。48時間後、脳、肝臓、脾臓、および腎臓を剖検で回収した。コード化された(coded)H&E染色器官の切片を、光学顕微鏡によって調べた。アポトーシスの兆候、BBB破壊の兆候、脳内の神経細胞死のニューロン炎症反応の兆候;大滴性脂肪症(macrovesicular steatosis)および肝細胞の壊死;肝臓の胆汁分泌停止の兆候;または腎臓における急性尿細管壊死の兆候が見出されなかった。
【0150】
マウスにおけるMPTP誘導性ドーパミン作動性神経喪失に対するBMMにロードしたポリペプチド−ポリイオン複合体の神経保護。ポリペプチド−ポリイオン複合体の神経保護効果を評価するために、MPTP中毒性マウスにポリペプチド−ポリイオン複合体ロードしたBMMを静脈注射し、SNpcおよび層(ヒト疾患で最も影響をうける領域)中の脳神経代謝産物N−アセチルアスパルタート(NAA)のレベルを、処置7日目にモニタリングした。MPTP注射により、コントロールマウスのSNpcおよび層中のNAAが有意に喪失した(図17)。対照的に、BMMにロードしたポリペプチド−ポリイオン複合体で処置したMPTP中毒性マウス中のNAAレベルは減少しなかった。さらなる研究では、MPTPで中毒にされ、次いで、カタラーゼ−ポリイオン複合体をロードしたBMMを静脈内投与したマウスの脳に、特にSNpcおよび層に、2日後のコントロールマウスに対するアストロサイトーシスによって測定したところ、炎症レベルの減少が見出された。上記は、カタラーゼ−ポリイオン複合体がMPTP誘導性ドーパミン作動性神経変性中に神経保護能力を有することを示す。
【実施例7】
【0151】
CuZnSOD−ポリイオン複合体の末梢投与は、中枢投与したAngIIの急性血圧応答を阻害する。
【0152】
実施例3に記載のCuZnSOD−ポリイオン複合体を使用して、末梢投与したCuZnSOD−ポリイオン複合体が脳内のAngIIシグナル伝達を調整することができるという証拠を得た。具体的には、該実験は、ICV投与したAngII(100ng)によって誘導された血圧の急性増加に及ぼす末梢投与した(頸動脈内)CuZnSOD−ポリイオン複合体の影響を調べた。ICV AngII誘導性の平均動脈圧(MAP)の変化を、CuZnSOD−ポリイオン複合体または遊離CuZnSODの脛動脈内投与の0、1、2、および5日後にウサギにおいて記録した。ICV投与AngII後のMAPの変化は、0日目の応答と比較してCuZnSOD−ポリイオン複合体処置の1日後および2日後に劇的に減少した(図18)。対照的に、活性であるが細胞膜を介して通過できない遊離CuZnSODタンパク質での処置は、ICV AngII誘導性血圧応答に影響を及ぼさなかった(図18)。これらのデータは、末梢投与されたCuZnSOD−ポリイオン複合体がCNS中のAngII感受性ニューロンを透過し、中枢AngII媒介性心血管応答を調整することができることを示す。実際、本発明の特定の実施形態では、a)銅亜鉛スーパーオキシドジスムターゼ(CuZnSOD)およびCuZnSODの電荷と逆の少なくとも1つの電荷を含む合成ポリマーを含む少なくとも1つの複合体およびb)少なくとも1つの薬学的に許容可能なキャリアを含む組成物の投与を含む、高血圧症患者の治療方法を提供する。特定の実施形態では、CuZnSOD およびCuZnSODの電荷と逆の少なくとも1つの電荷を含む合成ポリマーを含む複合体は、患者に投与される細胞内に含まれる。
【実施例8】
【0153】
脳由来の神経栄養因子(BDNF)は、等電点10.23を有する分子量27.3kDaの塩基性神経栄養タンパク質である。BDNFは、中性pHで正味の正電荷(+9.5)を有する(Philo et.al.(1994)J.Biol.Chem.,269:27840−27846)。したがって、陰イオン性ブロックコポリマーであるPEO−b−ポリ(メタクリル酸ナトリウム)(PEO−b−PMA)(カルボキシル基のpKaは5.2である)を使用して、該ポリイオン複合体にBDNFを取り込んだ。ブロックコポリマーおよびタンパク質成分を含む緩衝液の簡単な混合によって複合体を調製した。混合物中のポリマー/タンパク質比を、PEO−b−PMAのカルボキシル基の計算した全濃度をタンパク質中のリジン残基およびアルギニン残基の全濃度で割ることによって計算した。混合の際、これらの系は透明なままであり、沈殿は認められなかった。
【0154】
ハーセプチン(トラスツズマブ)は、ヒト化抗ヒト上皮成長因子受容体2(HER2/c−erbB2)モノクローナル抗体である。ハーセプチンは、HER2を過剰発現する原発性および頭蓋転移性乳癌に対して有効であることが示された。しかし、脳転移した患者では、血液脳関門がその使用を制限する(Kinoshita et.al.(2006)PNAS,103:11719−11723)。
【0155】
ハーセプチンは、等電点8.45を有する分子量145.5kDaの塩基性タンパク質である。ハーセプチンは、中性pHで正味の正電荷(+12)を有する。陰イオン性ブロックコポリマーであるPEO−b−ポリ(メタクリル酸ナトリウム)(PEO−b−PMA)(カルボキシル基のpKaは5.2である)を使用して、ポリイオン複合体にハーセプチンを取り込んだ。ブロックコポリマーおよびタンパク質成分を含む緩衝液の簡単な混合によって複合体を調製した。該混合物中のポリマー/タンパク質比を、PEO−b−PMAのカルボキシル基の計算した全濃度をタンパク質中のリジン残基およびアルギニン残基の全濃度で割ることによって計算した。混合の際、これらの系は透明なままであり、沈殿は認められなかった。
【0156】
レプチンは18.7kDのタンパク質ホルモンであり、エネルギーの取り込みおよびエネルギーの消費の調節(食欲の調節(減少)および代謝の調節(増加)が含まれる)で重要な役割を果たす。レプチンは、生理学的pHで等電点5.85および正味の負電荷(約−2)を有する。PLL骨格上にグラフティングされた約1.4PEO鎖を含むグラフト構造のカチオン性ブロックイオノマーであるpoly−L−リジン−グラフト−ポリ(エチレンオキシド)(PLL−g−PEO(2))を使用して、レプチン−ポリイオン複合体を調製した。該グラフトポリマーおよびタンパク質成分を含む緩衝液の簡単な混合によって複合体を調製した。該混合物中のポリマー/タンパク質比を、PLL−g−PEO(2)のアミノ基の全濃度をタンパク質中のアスパラギン酸残基およびグルタミン酸残基の全濃度で割ることによって計算した。混合の際、これらの系は透明なままであり、沈殿は認められなかった。
【実施例9】
【0157】
カタラーゼポリイオン複合体をロードした単球によるMPTP中毒性マウスにおける炎症の防止。
【0158】
PDについて特徴づけられた病理学的変化の誘導のために、雄C7BL/6レシピエントマウスに、2時間毎の4回の腹腔内注射によって、18mgの遊離塩基MPTP/kg体重をPBSで投与した(MPTP(Sigma Chemical Co.,St.Louis,MO))。コントロールマウスに、18時間後に生理食塩水を静脈注射し、MPTP中毒マウスの半分にカタラーゼポリイオン複合体(10mln/マウス)をロードした単球を静脈注射し、残りの半分のマウスに生理食塩水を静脈注射した。ニューロン死の活動期および神経炎症活動のピークは、MPTP注射の2日後に起こる。したがって、2日後、ナイーブマウス、MPTP中毒マウス、およびMPTP中毒化後にカタラーゼをロードした単球で処置したマウスの中脳領域を単離し、脳を瞬間冷凍し、OCT培地に包埋した。免疫組織学的分析を、4%パラホルムアルデヒド中で24時間固定し、その後スクロース溶液中にて4℃で48時間固定した厚さ30μmのインタクトなスライスにおいて行った。組織スライスを、0.01%アジ化ナトリウムを含むPBS中で保存し、染色前にPBSで3回洗浄した。次いで、組織スライスを、7%正常ヤギ血清(NGS)中で1時間ブロッキングした。
【0159】
小グリア細胞活性化(Mac−1染色)のために、切片にした組織を、7%NGSで200倍希釈したラットCD11b一次抗体(AbD Serotec,Raleigh,NC)にて4℃で一晩免疫染色する。サンプルを、7%NGSで200倍希釈したヤギ抗ラット二次抗体 Alexa Fluor 594(Invitrogen Corporation,Carlsbad,CA)と室温で45分間インキュベートした。
【0160】
アストロサイトーシスについて、組織切片を1%Triton X−100を含む5%NGS(正常ヤギ血清)のPBS液にて10分間透過処理し、5%NGSで1時間ブロッキングし、次いで、5%NGSで1000倍希釈したウサギ抗グリア線維性酸性タンパク質一次抗体と4℃で18時間インキュベートした。サンプルを、200倍希釈したヤギ抗ウサギ488(Molecular Probes)と室温で45分間インキュベートした。該スライスを、Aquamount中に固定した。蛍光分析によって免疫反応性を評価した。蛍光強度を、ImageJ software(National Institute of Health;NIH)を使用して計算した。領域を、ImageJ softwareを使用して、CD11b発現レベルの関数として計算した。
【0161】
【表13】
【0162】
表13に示したデータは、MPTP注射によって黒質緻密部内に有意な炎症を生じ、それにより、小グリア細胞活性化およびアストロサイトーシスが起こることを明確に示す。対照的に、カタラーゼをロードした単球でのMPTP注射マウスの処置により、神経炎症が健常動物におけるレベルに防止された(表13)。
【0163】
マウスにおけるMPTP誘導性ドーパミン作動性神経喪失に対するカタラーゼポリイオン複合体をロードした単球の神経保護効果。
【0164】
MPTP中毒性マウスにおけるPDの進行にもたらされた黒質および線条体におけるカタラーゼ増大神経保護の影響を定量的且つ非浸潤的に評価するために、神経N−アセチルアスパルタート(NAA)レベルを評価する新規の神経画像を、磁気共鳴分光学的画像化(magnetic resonance spectroscopic imaging)(MRSI)によって読み出した。
【0165】
この目的のために、最初に、マウスをMPTP注射前にプレスキャニングした。次いで、該マウスの半分に、カタラーゼポリイオン複合体をロードしたBMM(25mln BMM/100μl/マウス)を注射した。PBSを注射したMPTP処置マウスは、最大神経変性のコントロールとしての機能を果たした。SNpcおよび層中の脳神経代謝産物N−アセチルアスパルタート(NAA)を、処置7日後にMRSIによって評価した。MRIおよびMRSIを、アクティブに分離した72mm体積送信コイル(volume coil transmit)および研究室で組み立てた1.25×1.5cm受信表面コイルを使用して300.41 MHzで操作するBruker Avance 7T/21cmシステムで取得した。MR画像を、20mm FOV、25枚の連続する厚さ0.5mmのスライス、交互的なスライスの順序、128×128マトリックス、8エコー、エコー間隔12msを使用して取得し、CPMG位相循環RFリフォーカシングパルスを使用してリフォーカシングして、組織学を使用したT2マッピングおよび同時記録のための8画像を形成した。3つの直交スライス選択的リフォーカシングパルスを使用してリフォーカシングした数値的に最適化された二重励起を使用して分光学的画像を得た(体積選択性リフォーカシングを使用した二重励起、BEVR)。名目上のボクセルサイズ1μlが得られるSNpcを含むスライスの4つの平均値を使用した視野(FOV)20mmにわたる24×24空間符合化を使用した8×4.2×1.5mmの目的体積の選択によって分光学的画像を得た。総取得時間は80分である。MRSI処理。分光学的画像を、次元をコード化する相でフーリエ変換し、Matlab(Mathworks Inc,Nantick,MA)を使用して再フォーマットした。jMRUIパッケージ中のAMARESを使用して、スペクトルをフィッティングした。モデルパラメーターおよび制約を、ファントム由来のスペクトルを使用して得た。
【0166】
TR=1s、NA=1、およびレシーバゲイン=1000を除いて同一方法のスペクトルパラメーターを使用して非抑制水(unsuppressed water)分光学的画像を得る。該非抑制水を、水抑制MRSIデータからの代謝産物濃度を定量するために各ボクセルの内部標準として使用する。データソースを隠された技術者がデータをフィッティングする。各レシーバゲインでの水信号振幅に対する代謝産物の比の校正を、ファントム研究で行った。Matlab(The Mathworks Inc,Nantick,MA)を使用して計算し、代謝産物濃度をASCII(データベース開発のため)およびバイナリ(MRI重複のため)代謝産物マップとして出力した。
【0167】
図19に示すように、MPTP注射によってコントロールマウスのSNpcおよび層中のNAAが有意に喪失した。対照的に、ポリペプチド−ポリイオン複合体ロードしたBMMで処置したMPTP中毒性マウスにおけるNAAレベルは減少しなかった。これらの結果は、マウスPDモデルにおいてロードした細胞が脳の損傷領域に有意なレベルで到達して活性カタラーゼを放出し、その後に神経保護効果を生じることができることを示した。
【実施例10】
【0168】
種々のタイプの細胞キャリア中のカタラーゼポリイオン複合体の蓄積。
【0169】
BMMに加えて(beside)、炎症状態下で脳に浸潤することも証明された樹状細胞(DC)またはTリンパ球などの他の細胞キャリアを、カタラーゼポリイオン複合体の送達のために使用することができる。BMMと同様にローディング試験を行った。簡潔に述べれば、DCまたはT−リンパ球を、1×106細胞/ウェルの密度で96ウェルプレートに播種し、Alexa Fluor 594標識カタラーゼポリイオン複合体(+/−電荷比(Z)=1)と種々の時間間隔でインキュベートした。次いで、該細胞を洗浄し、1%TritonX100で破壊した。BMM中の蛍光の蓄積量をアッセイし、細胞量について正規化した(表14)。
【0170】
【表14】
【0171】
BMMと同様に、両細胞はかなりの量のカタラーゼナノ粒子(それぞれ、106個のDC、Tリンパ球、およびBMMあたり112μg、21μg、および30μg)を迅速に(1時間)取り込むことを証明する。これにより、種々の細胞キャリア系を使用して、カタラーゼポリイオン複合体の良好な脳送達を確実にすることが可能である。
【実施例11】
【0172】
カタラーゼポリイオン複合体の架橋
複合体を安定化するために、ブロックコポリマーをタンパク質と架橋する種々の架橋剤を使用した。
【0173】
グルタルアルデヒド
カタラーゼポリイオン複合体を得るために、0.5mlのカタラーゼ(0.5mg/ml)を含む60mMリン酸緩衝液(pH=7.4)を、0.5mlのブロックコポリマー(0.25mg/ml)を含む同一の緩衝液と混合した。次いで、4μl(100倍過剰(NH2基の量))のグルタルアルデヒド(Fluka、#49632、25%水溶液)を、強く撹拌しながら該混合物に添加した。該混合物を、室温で2時間インキュベートした。次いで、7.5μlの水素化ホウ素ナトリウム溶液(5×10−2M)を含む1M NaOHを、20分間隔で2回に分けて添加した。該混合物を室温で1時間さらにインキュベートし、SephadexG25カラムでのゲル濾過によって精製した。
【0174】
N−エチル−N’−(3−ジメチルアミノプロピル)−カルボジイミド(EDC)
カタラーゼポリイオン複合体を、上記のように得た。次いで、1.5mg EDC(30倍過剰(COO−基の量))を、強く撹拌しながら該混合物に添加した。該混合物を、室温で2時間インキュベートした。インキュベーション後、該混合物をSephadexG25カラムでのゲル濾過によってさらに精製した。
【0175】
ビス−(スルホスクシンイミジル)スベリン酸ナトリウム塩(BS3)
カタラーゼポリイオン複合体を上記のように得た。次いで、2mg BS3(7倍過剰(リジン基の量))を、強く撹拌しながら該混合物に添加した。該混合物を、室温で3時間インキュベートした。インキュベーション後、該混合物をSephadexG25カラムでのゲル濾過によってさらに精製した。
【0176】
カタラーゼポリイオン複合体の架橋を、ウェスタンブロットによって確認した。サンプルを、変性条件下(SDSを使用)でのポリアクリルアミドゲル(10%)のゲル電気泳動に供し、非架橋複合体を破壊した。次いで、ゲルをブロッティングし、タンパク質バンドをカタラーゼに対する一次抗体(abeam、abl877)で視覚化した。図20は、種々のリンカーを使用して架橋したカタラーゼ/ポリイオン複合体の画像を示す。レーン1:後者(latter);レーン2:カタラーゼのみ;ライン3:EDCと架橋したカタラーゼポリイオン複合体;ライン4:GAと架橋したカタラーゼポリイオン複合体;ライン5:BS3と架橋したカタラーゼポリイオン複合体。
【0177】
図20で認められるように、GAと完全に結合し、それにより、カタラーゼバンドが存在しなかった。これはゲルに侵入しない巨大な複合体に起因する(ライン4、カタラーゼバンドなし)。架橋剤としてのEDCの使用によっても架橋したが(ライン3)、いくつかの遊離カタラーゼバンドが存在するので、これらの条件下で完全な結合が行われなかった。BS3との架橋により(ライン5)、ゲルに侵入するより小さな複合体が生成されたが、遊離カタラーゼバンド(ライン2)と比較して遅延した。
【0178】
スーパーオキシドジスムターゼ(SOD)ポリイオン複合体の架橋
類似の架橋複合体を、SODおよびブロックコポリマーを使用して得た。
【0179】
GA
SODポリイオン複合体を得るために、0.5mlのSOD(1mg/ml)を含む60mMリン酸緩衝液(pH=7.4)を、0.5mlのブロックコポリマー(0.25mg/ml)を含む同一の緩衝液と混合した。次いで、10μl(100倍過剰(NH2基の量))のGAを、強く撹拌しながら該混合物に添加した。該混合物を、室温で2時間インキュベートした。次いで、5μlの水素化ホウ素ナトリウム溶液(5×10−2M)を含む1M NaOHを、20分間隔で2回に分けて添加した。該混合物を室温で1時間さらにインキュベートし、SephadexG25カラムでのゲル濾過によって精製した。
【0180】
EDC
SODポリイオン複合体を上記のように得た。次いで、1.5mg EDC(12倍過剰(COO−基の量))を、強く撹拌しながら該混合物に添加した。該混合物を、室温で2時間インキュベートした。インキュベーション後、該混合物をSephadexG25カラムでのゲル濾過によってさらに精製した。
【0181】
BS3
SODポリイオン複合体を上記のように得た。次いで、1.7mg BS3(4.5倍過剰(リジン基の量))を、強く撹拌しながら該混合物に添加した。該混合物を、室温で3時間インキュベートした。インキュベーション後、該混合物をSephadexG25カラムでのゲル濾過によってさらに精製した。
【0182】
SODポリイオン複合体の架橋を、ウェスタンブロットによって確認した。サンプルを、変性条件下(SDSを使用)でのポリアクリルアミドゲル(10%)のゲル電気泳動に供し、非架橋複合体を破壊した。次いで、ゲルをブロッティングし、タンパク質バンドをSODに対する一次抗体(Calbiochaem,# 574597)で視覚化した。図21は、種々のリンカーを使用して架橋したSOD/ポリイオン複合体の画像を示す。レーン1:後者;レーン2:SODのみ;ライン3:非架橋SODポリイオン、ライン4:EDCと架橋したSODポリイオン複合体;ライン5:GAと架橋したSODポリイオン複合体;ライン6:BS3と架橋したSODポリイオン複合体。
【0183】
図21で認められるように、いくつかの遊離SODバンドが存在するので、EDCとの架橋(ライン4)は、これらの特定の条件下で完全に結合しなかった。対照的に、GA(ライン5)およびBS3(ライン6)と完全に結合し、それにより、巨大な複合体がゲルに侵入できないためSODバンドは認められなかった。
【0184】
カタラーゼ/SODポリイオン複合体の架橋
概して、混合カタラーゼ/SODポリイオン複合体を得るために、第1に、カタラーゼおよびSODをpH6.8で混合し(このpHでカタラーゼは負に帯電し(PI7.28)、SODは正に帯電している(PI 6.32))。次いで、上記合成と同様に、該ブロックコポリマーを添加し、種々のリンカーを使用して、該ブロックコポリマーを該タンパク質に結合させた。
【0185】
GA
カタラーゼ/SODポリイオン複合体を得るために、1mgのカタラーゼおよび1.33mgのSODを60mMリン酸緩衝液(pH=6.8)に溶解した。次いで、1.3mgのブロックコポリマーを該混合物に添加し、室温で10分間インキュベートした。5μl(9倍過剰(NH2基の量))のGAを、強く撹拌しながら該混合物に添加した。該混合物を、4℃で一晩(8時間)インキュベートした。次いで、6.5μlの水素化ホウ素ナトリウム溶液(5×10−2M)を含む1M NaOHを、20分間隔で2回に分けて添加した。該混合物を室温で1時間さらにインキュベートし、SephadexG25カラムでのゲル濾過によって精製した。
【0186】
EDC
カタラーゼ/SODポリイオン複合体を上記のように得た。次いで、10mgのEDC(20倍過剰(COO−基の量))を、強く撹拌しながら該混合物に添加した。該混合物を、4℃で一晩(8時間)インキュベートした。インキュベーション後、該混合物をSephadexG25カラムでのゲル濾過によってさらに精製した。
【0187】
BS3
カタラーゼ/SODポリイオン複合体を上記のように得た。次いで、8.6mgのBS3(10倍過剰(リジン基の量))を、強く撹拌しながら該混合物に添加した。該混合物を、室温で3時間インキュベートした。インキュベーション後、該混合物をSephadexG25カラムでのゲル濾過によってさらに精製した。
【0188】
EDC−スルホ−NHS
中間体EDC複合体を安定化するために、スルホ−N−ヒドロキシスクシンイミド(スルホ−NHS)を使用した。この目的のために、カタラーゼ/SODポリイオン複合体を上記のように得た。次いで、10mgのEDC(20倍過剰(COO−基の量))を、強く撹拌しながら該混合物に添加した。EDCの添加後、2mgスルホ−NHSを添加し、反応混合物を、室温で3時間インキュベートした。インキュベーション後、該混合物をSephadexG25カラムでのゲル濾過によってさらに精製した。
【0189】
カタラーゼ/SODポリイオン複合体の架橋を、ウェスタンブロットによって確認した。サンプルを、変性条件下(SDSを使用)でのポリアクリルアミドゲル(10%)のゲル電気泳動に供した。次いで、ゲルをブロッティングし、タンパク質バンドを個別にカタラーゼおよびSODに対する一次抗体で視覚化した。図22Aは、カタラーゼに対する抗体を使用して標識した種々のリンカーを使用して架橋したカタラーゼ/SOD/ポリイオン複合体の画像を示す。レーン1:非架橋カタラーゼ/SODポリイオン複合体;GAと架橋したカタラーゼ/SODポリイオン複合体(EDC;ライン5:GAと架橋したSODポリイオン複合体(レーン2);EDC(ライン3);BS3(ライン4);EDC−S−NHS(ライン5)。該図で認められるように、GAと完全に結合し(ライン2)、EDCとの架橋(ライン3)により、不完全に結合した(いくつかの遊離カタラーゼバンドが存在する)。BS3リンカーの使用(ライン4)により、ゲルに侵入することができる複合体が得られたが、非架橋カタラーゼ/SODポリイオン複合体と比較して遅延した。スルホ−N−ヒドロキシスクシンイミドを使用した中間体EDC複合体の安定化(ライン5)により、EDCのみ(ライン3)と比較して有意により良好な架橋が得られた。
【0190】
図22Bは、SODに対する抗体で標識した種々のリンカーを使用して架橋したカタラーゼ/SOD/ポリイオン複合体の画像を示す。レーン1:非架橋カタラーゼ/SODポリイオン複合体;GAと架橋したカタラーゼ/SODポリイオン複合体(EDC;ライン5:GAと架橋したSODポリイオン複合体(レーン2);EDC(ライン3);BS3(ライン4);EDC−S−NHS(ライン5)。
【0191】
該結果は、カタラーゼに対する抗体で染色したゲルから得たデータを確認した。GAと完全に結合した(ライン2);EDCとの架橋(ライン3)によって不完全に結合した(遊離SODが有意に染色する)。BS3リンカー(ライン4)およびスルホ−N−ヒドロキシスクシンイミドをEDCと共に使用して(ライン5)、ほとんど完全に結合した。
【実施例12】
【0192】
MPTP中毒性マウス中のBMM生体分布の視覚化
実験前に、BALB/C雌マウスを、30〜40mg/kg体重の用量でのペントバルビタールの腹腔内注射を使用して麻酔し、剪毛し、脱毛した(毛による蛍光ブロッキングを軽減するため)。該マウスを、流動食で72時間保持した(固形食由来の胃内および腸内の自己蛍光を排除するため)。該マウスに、2時間毎の4回の腹腔内注射によって18mgの遊離塩基MPTP/kg体重をPBSで投与した(MPTP(Sigma Chemical Co.,St.Louis,MO))。18時間後、該マウスにカタラーゼポリイオン複合体をロードしたLi−COR標識BMM(50mln/マウス)を尾静脈注射した。次いで、該マウスを66%亜酸化窒素および残りの酸素と共に1.5%イソフルラン混合物を使用して麻酔し、撮像カメラ中に配置した。カタラーゼポリイオン複合体をロードした標識BMMの生体分布を、IVIS 200 Series Imaging Gas Anasthesia Systemによって検出するようにLi−CORのin vivo蛍光の測定によって決定した。カタラーゼポリイオン複合体をロードしたLi−COR標識BMMは、IV注射の2時間後に脳内に蓄積し始め、注射4〜7時間後にピークに達し、注射後少なくとも48時間上昇したままであった(図23)。これらのデータは、末梢投与したカタラーゼポリイオン複合体をロードしたBMMがMPTP中毒化マウスの脳内に到達し、かなりの量で蓄積することができたことを示す。
【0193】
いくつかの刊行物および特許書類を上記明細書を通して引用し、本発明が関連する最新技術を説明している。これらの各引用の開示全体は、本明細書中で参考として援用される。
【0194】
本発明の一定の好ましい実施形態を上に記載し、具体的に例示しているが、本発明はかかる実施形態に制限されることを意図しない。以下の特許請求の範囲に記載のように、本発明の範囲および精神を逸脱することなく、種々の修飾形態を施すことができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
治療を必要とする患者の神経障害を治療する方法であって、治療有効量の以下:
a)治療用ポリペプチドおよび前記治療用ポリペプチドの電荷と逆の少なくとも1つの電荷を含む合成ポリマーを含む少なくとも1つの複合体、および
b)少なくとも1つの薬学的に許容可能なキャリア、
を含む組成物を投与する工程を含む、方法。
【請求項2】
前記合成ポリマーが、少なくとも1つの非イオン性セグメントおよび少なくとも1つのポリイオンセグメントを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記合成ポリマーが負に帯電し、前記治療用ポリペプチドがpH7.4で正味の正電荷を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記合成ポリマーが正に帯電し、前記治療用ポリペプチドがpH7.4で正味の負電荷を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記ポリイオンセグメントが、ポリアルキレンイミン、ポリリジン、ポリアルギニン、ポリアスパラギン酸、ポリグルタミン酸、ポリアクリル酸、ポリアルキレンアクリル酸、およびそのコポリマーからなる群から選択される、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
前記治療用ポリペプチドが、酵素、抗体、ホルモン、および成長因子からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記治療用ポリペプチドが中枢神経系治療活性を示す、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記治療用ポリペプチドおよび合成ポリマーが化学的に架橋している、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記治療用ポリペプチドが、内分泌因子、成長因子、視床下部放出因子、神経栄養因子、パラクリン因子、神経伝達物質ポリペプチド、抗体、抗体フラグメント、サイトカイン、エンドルフィン、ポリペプチドアンタゴニスト、CNS細胞によって発現した受容体のアゴニスト、リソソーム蓄積症ポリペプチド、および抗アポトーシス性タンパク質からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記治療用ポリペプチドが、カタラーゼ、スーパーオキシドジスムターゼ、およびグルタチオンペルオキシダーゼからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記治療用ポリペプチドが、ブチリルコリンエステラーゼ再賦活薬、アセチルコリンエステラーゼ再賦活薬、コリンエステラーゼ再賦活薬、有機リン酸塩のスカベンジャー、およびカルバミン酸塩インヒビターからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記少なくとも1つの複合体が血液脳関門を通過する、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
治療を必要とする患者の神経障害を治療する方法であって、治療有効量の以下:
a)治療用ポリペプチドおよび前記治療用ポリペプチドの電荷と逆の少なくとも1つの電荷を含む合成ポリマーを含む少なくとも1つの複合体を含む単離細胞、および
b)少なくとも1つの薬学的に許容可能なキャリア、
を含む組成物を投与する工程を含む、方法。
【請求項14】
前記合成ポリマーが、少なくとも1つの非イオン性セグメントおよび少なくとも1つのポリイオンセグメントを含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記合成ポリマーが負に帯電し、前記治療用ポリペプチドがpH7.4で正味の正電荷を有する、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記合成ポリマーが正に帯電し、前記治療用ポリペプチドがpH7.4で正味の負電荷を有する、請求項13に記載の方法。
【請求項17】
前記ポリイオンセグメントが、ポリアルキレンイミン、ポリリジン、ポリアルギニン、ポリアスパラギン酸、ポリグルタミン酸、ポリアクリル酸、ポリアルキレンアクリル酸、およびそのコポリマーからなる群から選択される、請求項14に記載の方法。
【請求項18】
前記治療用ポリペプチドが、酵素、抗体、ホルモン、および成長因子からなる群から選択される、請求項13に記載の方法。
【請求項19】
前記治療用ポリペプチドが中枢神経系治療活性を示す、請求項13に記載の方法。
【請求項20】
前記治療用ポリペプチドおよび前記合成ポリマーが化学的に架橋している、請求項13に記載の方法。
【請求項21】
前記治療用ポリペプチドが、内分泌因子、成長因子、視床下部放出因子、神経栄養因子、パラクリン因子、神経伝達物質ポリペプチド、抗体、抗体フラグメント、サイトカイン、エンドルフィン、ポリペプチドアンタゴニスト、CNS細胞によって発現した受容体のアゴニスト、リソソーム蓄積症ポリペプチド、および抗アポトーシス性タンパク質からなる群から選択される、請求項13に記載の方法。
【請求項22】
前記治療用ポリペプチドが、カタラーゼ、スーパーオキシドジスムターゼ、およびグルタチオンペルオキシダーゼからなる群から選択される、請求項13に記載の方法。
【請求項23】
前記治療用ポリペプチドが、ブチリルコリンエステラーゼ再賦活薬、アセチルコリンエステラーゼ再賦活薬、コリンエステラーゼ再賦活薬、有機リン酸塩のスカベンジャー、およびカルバミン酸塩インヒビターからなる群から選択される、請求項13に記載の方法。
【請求項24】
前記細胞が血液脳関門を通過する、請求項13に記載の方法。
【請求項25】
前記細胞を治療される前記患者から単離する、請求項13に記載の方法。
【請求項26】
前記細胞が免疫細胞である、請求項13に記載の方法。
【請求項27】
前記免疫細胞が、単球、マクロファージ、骨髄由来単球、樹状細胞、リンパ球、T細胞、好中球、好酸球、および好塩基球からなる群から選択される少なくとも1つの細胞を含む、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記免疫細胞が、単球およびマクロファージからなる群から選択される少なくとも1つの細胞を含む、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記免疫細胞が骨髄由来の単球である、請求項27に記載の方法。
【請求項30】
少なくとも1つの目的のタンパク質および前記目的のタンパク質の電荷と逆の少なくとも1つの電荷を含む合成ポリマーを含む少なくとも1つの複合体を含む単離細胞。
【請求項31】
前記合成ポリマーが、少なくとも1つの非イオン性セグメントおよび少なくとも1つのポリイオンセグメントを含む、請求項30に記載の単離細胞。
【請求項32】
前記細胞が免疫細胞である、請求項30に記載の単離細胞。
【請求項33】
前記免疫細胞が、単球、マクロファージ、骨髄由来単球、樹状細胞、リンパ球、T細胞、好中球、好酸球、および好塩基球からなる群から選択される、請求項32に記載の単離細胞。
【請求項34】
前記免疫細胞が、単球およびマクロファージからなる群から選択される、請求項33に記載の単離細胞。
【請求項35】
前記細胞が骨髄由来の単球である、請求項33に記載の単離細胞。
【請求項36】
前記目的のタンパク質が神経障害の治療用である、請求項33に記載の単離細胞。
【請求項37】
請求項30に記載の少なくとも1つの細胞および少なくとも1つの薬学的に許容可能なキャリアを含む単離組成物。
【請求項1】
治療を必要とする患者の神経障害を治療する方法であって、治療有効量の以下:
a)治療用ポリペプチドおよび前記治療用ポリペプチドの電荷と逆の少なくとも1つの電荷を含む合成ポリマーを含む少なくとも1つの複合体、および
b)少なくとも1つの薬学的に許容可能なキャリア、
を含む組成物を投与する工程を含む、方法。
【請求項2】
前記合成ポリマーが、少なくとも1つの非イオン性セグメントおよび少なくとも1つのポリイオンセグメントを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記合成ポリマーが負に帯電し、前記治療用ポリペプチドがpH7.4で正味の正電荷を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記合成ポリマーが正に帯電し、前記治療用ポリペプチドがpH7.4で正味の負電荷を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記ポリイオンセグメントが、ポリアルキレンイミン、ポリリジン、ポリアルギニン、ポリアスパラギン酸、ポリグルタミン酸、ポリアクリル酸、ポリアルキレンアクリル酸、およびそのコポリマーからなる群から選択される、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
前記治療用ポリペプチドが、酵素、抗体、ホルモン、および成長因子からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記治療用ポリペプチドが中枢神経系治療活性を示す、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記治療用ポリペプチドおよび合成ポリマーが化学的に架橋している、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記治療用ポリペプチドが、内分泌因子、成長因子、視床下部放出因子、神経栄養因子、パラクリン因子、神経伝達物質ポリペプチド、抗体、抗体フラグメント、サイトカイン、エンドルフィン、ポリペプチドアンタゴニスト、CNS細胞によって発現した受容体のアゴニスト、リソソーム蓄積症ポリペプチド、および抗アポトーシス性タンパク質からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記治療用ポリペプチドが、カタラーゼ、スーパーオキシドジスムターゼ、およびグルタチオンペルオキシダーゼからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記治療用ポリペプチドが、ブチリルコリンエステラーゼ再賦活薬、アセチルコリンエステラーゼ再賦活薬、コリンエステラーゼ再賦活薬、有機リン酸塩のスカベンジャー、およびカルバミン酸塩インヒビターからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記少なくとも1つの複合体が血液脳関門を通過する、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
治療を必要とする患者の神経障害を治療する方法であって、治療有効量の以下:
a)治療用ポリペプチドおよび前記治療用ポリペプチドの電荷と逆の少なくとも1つの電荷を含む合成ポリマーを含む少なくとも1つの複合体を含む単離細胞、および
b)少なくとも1つの薬学的に許容可能なキャリア、
を含む組成物を投与する工程を含む、方法。
【請求項14】
前記合成ポリマーが、少なくとも1つの非イオン性セグメントおよび少なくとも1つのポリイオンセグメントを含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記合成ポリマーが負に帯電し、前記治療用ポリペプチドがpH7.4で正味の正電荷を有する、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記合成ポリマーが正に帯電し、前記治療用ポリペプチドがpH7.4で正味の負電荷を有する、請求項13に記載の方法。
【請求項17】
前記ポリイオンセグメントが、ポリアルキレンイミン、ポリリジン、ポリアルギニン、ポリアスパラギン酸、ポリグルタミン酸、ポリアクリル酸、ポリアルキレンアクリル酸、およびそのコポリマーからなる群から選択される、請求項14に記載の方法。
【請求項18】
前記治療用ポリペプチドが、酵素、抗体、ホルモン、および成長因子からなる群から選択される、請求項13に記載の方法。
【請求項19】
前記治療用ポリペプチドが中枢神経系治療活性を示す、請求項13に記載の方法。
【請求項20】
前記治療用ポリペプチドおよび前記合成ポリマーが化学的に架橋している、請求項13に記載の方法。
【請求項21】
前記治療用ポリペプチドが、内分泌因子、成長因子、視床下部放出因子、神経栄養因子、パラクリン因子、神経伝達物質ポリペプチド、抗体、抗体フラグメント、サイトカイン、エンドルフィン、ポリペプチドアンタゴニスト、CNS細胞によって発現した受容体のアゴニスト、リソソーム蓄積症ポリペプチド、および抗アポトーシス性タンパク質からなる群から選択される、請求項13に記載の方法。
【請求項22】
前記治療用ポリペプチドが、カタラーゼ、スーパーオキシドジスムターゼ、およびグルタチオンペルオキシダーゼからなる群から選択される、請求項13に記載の方法。
【請求項23】
前記治療用ポリペプチドが、ブチリルコリンエステラーゼ再賦活薬、アセチルコリンエステラーゼ再賦活薬、コリンエステラーゼ再賦活薬、有機リン酸塩のスカベンジャー、およびカルバミン酸塩インヒビターからなる群から選択される、請求項13に記載の方法。
【請求項24】
前記細胞が血液脳関門を通過する、請求項13に記載の方法。
【請求項25】
前記細胞を治療される前記患者から単離する、請求項13に記載の方法。
【請求項26】
前記細胞が免疫細胞である、請求項13に記載の方法。
【請求項27】
前記免疫細胞が、単球、マクロファージ、骨髄由来単球、樹状細胞、リンパ球、T細胞、好中球、好酸球、および好塩基球からなる群から選択される少なくとも1つの細胞を含む、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記免疫細胞が、単球およびマクロファージからなる群から選択される少なくとも1つの細胞を含む、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記免疫細胞が骨髄由来の単球である、請求項27に記載の方法。
【請求項30】
少なくとも1つの目的のタンパク質および前記目的のタンパク質の電荷と逆の少なくとも1つの電荷を含む合成ポリマーを含む少なくとも1つの複合体を含む単離細胞。
【請求項31】
前記合成ポリマーが、少なくとも1つの非イオン性セグメントおよび少なくとも1つのポリイオンセグメントを含む、請求項30に記載の単離細胞。
【請求項32】
前記細胞が免疫細胞である、請求項30に記載の単離細胞。
【請求項33】
前記免疫細胞が、単球、マクロファージ、骨髄由来単球、樹状細胞、リンパ球、T細胞、好中球、好酸球、および好塩基球からなる群から選択される、請求項32に記載の単離細胞。
【請求項34】
前記免疫細胞が、単球およびマクロファージからなる群から選択される、請求項33に記載の単離細胞。
【請求項35】
前記細胞が骨髄由来の単球である、請求項33に記載の単離細胞。
【請求項36】
前記目的のタンパク質が神経障害の治療用である、請求項33に記載の単離細胞。
【請求項37】
請求項30に記載の少なくとも1つの細胞および少なくとも1つの薬学的に許容可能なキャリアを含む単離組成物。
【図1A】
【図1B】
【図1C】
【図1D】
【図1E】
【図1F】
【図1G】
【図2A】
【図2B】
【図3】
【図4A】
【図4B】
【図5A】
【図5B】
【図5C】
【図6】
【図7】
【図8A】
【図8B】
【図9A】
【図9B】
【図10】
【図11A】
【図11B】
【図11C】
【図12A】
【図12B】
【図13A】
【図13B】
【図14A】
【図14B】
【図14C】
【図14D】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22A】
【図22B】
【図23】
【図1B】
【図1C】
【図1D】
【図1E】
【図1F】
【図1G】
【図2A】
【図2B】
【図3】
【図4A】
【図4B】
【図5A】
【図5B】
【図5C】
【図6】
【図7】
【図8A】
【図8B】
【図9A】
【図9B】
【図10】
【図11A】
【図11B】
【図11C】
【図12A】
【図12B】
【図13A】
【図13B】
【図14A】
【図14B】
【図14C】
【図14D】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22A】
【図22B】
【図23】
【公表番号】特表2010−540411(P2010−540411A)
【公表日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−508512(P2010−508512)
【出願日】平成20年5月9日(2008.5.9)
【国際出願番号】PCT/US2008/063213
【国際公開番号】WO2008/141155
【国際公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【出願人】(507007131)ザ ボード オブ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティー オブ ネブラスカ (2)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年5月9日(2008.5.9)
【国際出願番号】PCT/US2008/063213
【国際公開番号】WO2008/141155
【国際公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【出願人】(507007131)ザ ボード オブ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティー オブ ネブラスカ (2)
【Fターム(参考)】
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