説明

タンブラーコーティング装置及びタンブラーコーティング方法

【課題】被処理物が互いに接着することを防止できると共に、薄くかつ均一に被覆成分を被覆することができるタンブラーコーティング装置等を提供する。
【解決手段】タンブラーコーティング装置等であって、収容空間を有し、水平方向に対して、所定角度で傾斜した回転軸の周りを回転する回転手段と、網状材料により形成され、筒部及び底部を有するとともに、当該底部の中心部が回転軸に対して合致するように収容空間に装着され、内部に多数の被処理物が収容された状態で回転手段と共に回転する収容手段と、被覆処理液を、収容手段内で流動する多数の被処理物に向けて吹付ける吹付手段と、収容手段内で流動する多数の被処理物を加熱して、多数の被処理物の表面に付着した被覆成分を固化する加熱手段と、を備え、収容手段の底部に、回転軸の上方側へ突出する突部を設けるとともに、突部と、筒部との間で、多数の被処理物を流動させる構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンブラーコーティング装置及びタンブラーコーティング方法であって、特に、多数の被処理物を流動させつつ被覆処理液を付着させて固化させることにより、各被処理物の表面に、均一厚さを有する被覆成分の被膜を形成するためのタンブラーコーティング装置及びタンブラーコーティング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、各種電気部品に用いられる磁性コアの表面に対して、電気絶縁性を確保するために、絶縁性被膜が形成されている。
そこで、フェライト成形品の表面を、ポリイミド樹脂を含む被膜によりコーティングした被覆フェライト成形品及びその製造方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
そして、成形品等の被処理物に薄肉の被膜を形成する方法として、図6(a)〜(b)に示すように、タンブラーコーティング装置100、200を用い、被処理物を回転振動させながら、被覆処理剤を付着させて、固化させる被膜の形成方法が開示されている。
【0003】
より具体的には、図6(a)に示すタンブラーコーティング装置100の場合、その内部空間120に、複数の被処理物に対する攪拌制御板107a、107bと、運搬制御装置105とが備えてあって、回転部材113が連結部109の下にある回転装置111によって、所定の回転方向に回転することが可能である。
また、図6(b)に示すタンブラーコーティング装置200の場合、内部空間220と、開閉可能な扉203付きの回転部材213と、を有するタンブラーコーター200であって、その内部空間220に複数の攪拌バッフル207a、207bと、運搬バッフル205とが備えてあって、回転部材213が連通部209の側面にある回転装置211によって回転する構成であっても良い。
よって、これらのタンブラーコーティング装置100、200によれば、内部空間120、220を有する回転手段113、213を備え、フェライト成形品(図示せず。)を収容した状態で、回転手段113、213を回転させることにより、フェライト成形品を回転振動させつつ、その表面全体に、被覆処理剤を効率的に付着させることができる旨が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3865765号公報(特許請求の範囲等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に示す従来のタンブラーコーティング装置において、収容空間の底部は、基本的に平底またはそれを傾斜させた平面あるいは曲面であって、被処理物の処理量が増えた場合や、被処理物の形状が小型化した場合、被処理物同士相互に接着しやすいという現象が見られた。
また、比較的薄肉の被膜を形成しようとすると、各被処理物の表面で被覆処理剤の付着量がばらつき易く、また、均一な厚さに形成することが容易でないという現象も見られた。
【0006】
そこで、本発明の発明者は鋭意検討した結果、収容空間の形態が、被処理物に対する被膜形成状況に影響し得ることに鑑み、それを所定形態とすることによって、被処理物の処理量や大きさにかかわらず、被処理物同士が相互に接着することなく、例えば、10μm以下の薄膜からなる被覆であっても、均一かつ安定的に皮膜成形ができることを見出し、本発明を完成させたものである。
すなわち、本発明は、被処理物が相互に接着することを有効に防止して、多数かつ小型の被処理物に対して、被膜として、均一な厚さの薄膜であっても効率的に成膜可能なタンブラーコーティング装置、及びそのようなコーティング装置を用いたタンブラーコーティング方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、収容空間を有し、水平方向に対して、所定角度で傾斜した回転軸の周りを回転する回転手段と、網状材料により形成され、筒部及び底部を有し、底部の中心部が回転軸に対して合致するよう配置されるように収容空間に装着され、内部に多数の被処理物が収容された状態で回転手段と共に回転する収容手段と、多数の被処理物の表面を被覆するための被覆成分が含有された被覆処理液を、収容手段内で流動する多数の被処理物に向けて吹付ける吹付手段と、収容手段内で流動する多数の被処理物を加熱して、多数の被処理物の表面に付着した被覆成分を固化する加熱手段と、を備え、収容手段の底部の中心部に回転軸の上方側へ突出する突部を設けるとともに、突部と、筒部との間で、多数の被処理物が流動するように構成することを特徴とするタンブラーコーティング装置が提供され、上述した課題を解決することができる。
【0008】
すなわち、本発明のタンブラーコーティング装置によれば、所定の回転手段と共に傾斜して回転することにより、収容された多数の被処理物を、重力等を利用して流動させる収容手段を備え、所定の突部と、筒部との間で多数の被処理物が流動するように構成されているので、いわゆるなだれ現象を利用して、多数の被処理物を効率よく、かつ、穏やかに攪拌することができる。
したがって、吹付手段により収容手段内で流動する多数の被処理物に向けて被覆処理液を吹付けることにより、多数の被処理物の表面に対して、薄く、かつ、均一に被覆処理液を付着させることができる。
また、所定の加熱手段により、収容手段内で流動する多数の被処理物を直接または間接に加熱することにより、表面に付着した被覆成分を均質かつ迅速に固化することができ、その結果、被処理物同士が、被覆成分を介して相互に接着結合されることを有効に防止することができる。
よって、少量かつ大型の被処理物のみならず、多数かつ小型の被処理物に対しても、被膜として、均一な厚さの薄膜であっても効率的に成膜できるタンブラーコーティング装置を提供することができる。
【0009】
また、本発明のタンブラーコーティング装置を構成するにあたり、加熱手段は、加熱気体を噴出する加熱気体噴出部を備えているとともに、加熱気体と共に、被覆処理液を、多数の被処理物に対して、吹付けることが好ましい。
このように構成することによって、加熱気体の温度と気流を利用して、多数の被処理物に付着された被覆処理液に含まれる被覆成分の固化を促進することができる。
【0010】
また、本発明のタンブラーコーティング装置を構成するにあたり、加熱手段は、回転手段を加熱することで収容空間内を加熱可能な加熱ヒータをさらに備えることが好ましい。
このように構成することにより、収容空間内を被覆処理液の被覆成分を固化可能な温度に保ちやすくなる。したがって、収容手段内で多数の被処理物を流動させた場合であっても、各被処理物の表面と接する雰囲気温度が安定し、被処理物に付着した被覆処理液の被覆成分を、迅速かつ均質に固化させることができる。
【0011】
また、本発明のタンブラーコーティング装置を構成するにあたり、回転手段は、収容空間を囲む側周壁及び底壁を有しており、底壁と、突部との間が通気可能に離間していることが好ましい。
このように構成することにより、被覆処理液を吹き付ける際の気流を収容手段の底部の突部の内部または表面に沿って透過させることができ、気流中に存在する被覆処理液を多数の被処理物に対して、さらに効率よく付着させることができる。
【0012】
また、本発明のタンブラーコーティング装置を構成するにあたり、被覆処理液が、被覆成分として、ポリイミド樹脂前駆体又はポリイミド樹脂組成物を含有する溶液であって、加熱手段によって、被覆成分が硬化可能な温度に被処理物を加熱することが好ましい。
このように構成することによって、多数の被処理物に被覆処理液を順次付着させる間に、被覆成分の強度を確保し易くなる。そのため、被覆処理液の吹き付け処理中に被膜に損傷等が生じ難く、より確実に均一な厚さの被膜を形成し易くなる。
【0013】
本発明の別の態様によれば、上述した何れか一つに記載のタンブラーコーティング装置を用いて、多数の被処理物の表面に被覆成分を被覆するタンブラーコーティング方法であり、多数の被処理物を収容手段の底部で流動させつつ、吹付手段からの被覆処理液の吹き付けと、加熱手段の加熱による被覆成分の固化とを同時に行うことを特徴とするタンブラーコーティング方法が提供され、上述した課題を解決することができる。
【0014】
すなわち、本発明のタンブラーコーティング方法によれば、上述したタンブラーコーティング装置を用いて、多数の被処理物を収容手段の底部で流動させつつ、吹付手段からの被覆処理液の吹き付けと、加熱手段の加熱による被覆成分の固化とを同時に行うので、多数の被処理物に対して、被覆処理液を均一に付着させつつ、被処理物間相互間の接着を防止して均質に固化させることができる。そのため、被処理物同士の接着を防止しつつ、多数の被処理物に対して、薄くかつ均一に被覆成分を被覆することができる。
【0015】
また、本発明のタンブラーコーティング方法を実施するに際して、被処理物の表面における被膜の厚さを0.1〜10μmの範囲内の値とすることが好ましい。
このように実施することによって、所定時間内で、薄膜の被膜を備えた被処理物をさらに効率的に得ることができ、結果として、被処理物における熱変質等を有効に防止することができる。
また、このような厚さであっても、均一かつ均質であることから、被膜としての所定の耐久性や電気絶縁性を確保することができる。
【0016】
また、本発明のタンブラーコーティング方法を実施するにあたり、多数の被処理物の表面は金属からなり、多数の被処理物にアルミナ粒子を吹き付けてサンドブラスト処理した後、被覆処理液を吹き付けることが好ましい。
このように実施することにより、被処理物の表面に酸化膜等を備える場合であっても、それを効率的に除去することができるため、さらに薄く、均一な厚さの被膜を安定的に形成することができる。
また、酸化膜を除去してあることから、当該酸化膜に起因した被処理物における電気特性や磁性に対する悪影響を排除することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、本願発明におけるタンブラーコーティング装置を説明するために供する概略図である。
【図2】図2(a)〜(c)は、本願発明における回転手段と、収容手段と、それらの組み合わせをそれぞれ説明するために供する概略図である。
【図3】図3は、収容手段の高さ(H1)に対する突部の高さ(H2)の関係等を説明するために供する図である。
【図4】図4は、本願発明における塗膜を形成するための被処理物を説明するために供する斜視図である。
【図5】図5は、本願発明に使用するサンディングブラスト装置を説明するために供する概略図である。
【図6】図6(a)〜(b)は、従来のタンブラーコーティング装置を説明するために供する概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[第1の実施形態]
第1の実施形態は、図1および図2に例示するように、
収容空間25を有し、水平方向に対して、所定角度に傾斜した回転軸(L)の周りを回転する回転手段27と、
網状材料により形成され、筒部29a及び底部29bを有するとともに、底部29bの中心部が、回転軸(L)に対して合致するように収容空間25に装着され、内部に多数の被処理物10が収容された状態で回転手段27と共に回転する収容手段29と、
被覆成分を含む被覆処理液31aを、収容手段29の内部で流動する多数の被処理物に向けて吹付ける吹付手段31と、
収容手段29の内部で流動する多数の被処理物を加熱して、多数の被処理物の表面に付着した被覆成分を固化する加熱手段35と、を備え、
収容手段29の底部29bには回転軸(L)の上方側へ突出する突部29eを設けるとともに、突部29eと、筒部29aとの間で、多数の被処理物を流動させることを特徴とするタンブラーコーティング装置20である。
【0019】
すなわち、かかるタンブラーコーティング装置は、所定場所において、多数の被処理物を流動させつつ、被覆処理液を吹付けて付着させるとともに、被覆処理液中の被覆成分を各被処理物の表面で固化させることにより、被処理物の全表面に対して、均一かつ薄膜の被膜を形成する装置である。
なお、多数の被処理物を流動させるとは、多数の被処理物を保持する部位に対して同方向に、各被処理物の向きや相対位置等を変化させながら所定位置まで回転移動することを意味しており、さらに、所定位置において、当初位置まで戻る動作を含んでいても良い。
以下、図面を適宜参照しつつ、タンブラーコーティング装置に関する実施形態について具体的に説明する。
【0020】
1.被処理物
被処理物は、図4に示す通り、流動可能な形状や大きさを有する部材であればよく、表面に凹凸を有する異形形状や、凹んだ隅部を有する形状であってもよい。
この実施の形態の被処理物10は、図4に示すような略U字形状を呈する磁性コア部材であって、凹んだ隅部11を有している。
そして、このような被処理物10の典型例として、例えば、400K〜800Kで保磁力が変化し易い軟磁性材料からなる磁性コアが挙げられる。
より具体的には、Fe−Si−Al系粉末や、このFe−Si−Al系粉末および絶縁性結着剤からなる複合軟磁性粉末等が挙げられる。
さらに、コア損失が小さく、小型化、高周波での使用が可能となることから、被処理物の保持力を3Oe(=79.4A/m)以下の値とすることが好ましく、さらに、0.1〜1Oeの範囲内の値とすることがより好ましい。
【0021】
2.被覆処理液
また、図1に示す被覆処理液31aは、被処理物の表面に被膜を形成するための被覆成分を含有しており、かかる被覆成分を被処理物の表面に付着させた後、固化させることにより、被処理物の表面に、所定の被膜を形成可能な液状物である。
このような被覆処理液は、被覆成分として、例えば、ポリアミド酸等のポリイミド樹脂前駆体や、ポリイミド樹脂と、エポキシ化合物やエポキシ樹脂等のポリイミド樹脂と重合可能な1種又は2種以上の硬化成分とを含むポリイミド樹脂組成物を含有する溶液又は分散液である。
すなわち、これらの被覆成分が固化することによって、ポリイミド樹脂やエポキシ樹脂等からなる被膜を形成可能であって、被処理物の表面に対して、例えば、厚さ0.1〜10μmの被膜を形成することができる。
【0022】
また、被覆成分を溶解又は分散する溶媒又は分散媒としては、ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシド等のスルホキシド系溶媒、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、フェノール、クレゾール、キシノール、ハロゲン化フェノール、カテコール、ヘキサメチルホスホルアミド、γ−ブチロラクトン(GBL)、テトラヒドロフラン等の極性溶剤が挙げられる。
すなわち、これらの溶媒又は分散媒であれば、被覆成分を均一に溶解または分散することできる。
また、比較的蒸発が容易であることから、本願発明のタンブラーコーティング装置を用いた場合に、複数の被処理物同士が連結固着することなく、効率的に乾燥硬化することができる。
【0023】
3.被膜
また、被処理物の表面における被膜の厚さは、被着体の種類や形態、さらには被覆処理液の態様等にもよるが、例えば、被膜の厚さを0.1〜10μmの範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、被膜の厚さが0.1μm未満の値になると、被着体の形態が小型化した場合、安定的に形成することが困難となったり、電気絶縁性が著しく低下したり、使用可能な被覆処理液の種類が過度に制限されたりする場合があるためである。
一方、被膜の厚さが10μmを超えた値になると、適用できる被着体の種類が過度に制限される場合があるためである。
したがって、被膜の厚さを1〜9μmの範囲内の値とすることがより好ましく、3〜8μmの範囲内の値とすることがより好ましい。
【0024】
また、このような被膜を形成するにあたり、被覆処理液として、被覆成分に対して、溶媒又は分散媒の混合比が高い液状物を用いることが好ましい。
より具体的には、被覆処理液における溶媒又は分散媒の濃度を、例えば、被覆処理液の全体量に対して、5〜50重量%の希薄液とするのが好ましく、10〜35重量%の範囲内の値とするのがより好ましく、15〜25重量%の範囲内の値とするのがさらに好ましい。
【0025】
そして、このような被膜を形成するにあたり、被覆処理液の粘度(測定温度:25℃、以下同様である。)を、通常、10〜10000mPa・secの範囲内の値とするのが好ましい。
この理由は、このような粘度を有する被覆処理液であれば、吹付により微細な液滴を被処理物に対して、均一に付着させ易いからである。
すなわち、被覆処理液の粘度が、10mPa・sec未満の値になると、表面張力の関係で、全体として、均一な厚さの塗膜を形成することが困難となる場合があるためである。
一方、被覆処理液の粘度が、10000mPa・secを超えた値になると、均一に吹き付けることが困難となったり、隣接する被処理物同士が、結合しやすくなったりする場合があるためである。
したがって、被覆処理液の粘度を、50〜5000mPa・secの範囲内の値とするのがより好ましく、100〜1000mPa・secの範囲内の値とするのがさらに好ましい。
【0026】
更に、このような被膜を形成するにあたり、被覆処理液の処理量を、被処理物の表面積100cm2当たり、0.0001〜10mlの範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、被覆処理液の処理量が、所定表面積当たり、0.0001ml未満の値になると、所定膜厚とするために、過度に処理時間を要する場合があるためである。
一方、被覆処理液の処理量が、所定表面積当たり、10mlを超えた値になると、均一に吹き付けることが困難となったり、隣接する被処理物同士が、結合しやすくなったりする場合があるためである。
したがって、被覆処理液の処理量を、被処理物の表面積100cm2当たり、0.001〜1mlの範囲内の値とすることがより好ましく、0.01〜0.1mlの範囲内の値とすることがさらに好ましい。
【0027】
4.タンブラーコーティング装置
(1)基本的構成
図1に例示するタンブラーコーティング装置20は、基本的に、底部27bと、回転手段27と、を備えており、そのうち回転手段27は、支持部21によって、水平方向に対して、所定角度で傾斜して支持された回転部27aと、その内部の収容空間25と、を有しているとともに、かかる回転手段27は、モーター等の回転駆動部23によって、傾斜した回転軸(L)の周りを回転可能な回転ドラム等として構成されている。
【0028】
また、タンブラーコーティング装置20は、例えば、第4図に示す形状の多数の被処理物10が収容された状態で、回転手段27の収容空間25に着脱可能に装着される網製ドラム等の収容手段29を備えている。
また、収容空間25の収容手段29の内部に、被覆処理液31aを吹付可能なスプレーガン等の吹付手段31を備えている。
さらに、回転手段27における回転部27aの内部に設けられた加熱手段35の一部としての加熱ヒータ(図示せず。)と、吹付手段31の近傍に設けられて収納空間25の収容手段29の内部に、加熱気体を噴出可能な別な加熱手段35を備えている。
【0029】
(2)回転手段
また、タンブラーコーティング装置20の回転手段27は、底部27bと、回転部27aと、回転駆動部23と、を有しており、これらに囲まれて上部が開口した収容空間25が設けられている。
この回転手段27は、回転部27aに連結したモーター等の回転駆動部23によって、所定回転数で駆動されることにより、水平方向に対して、所定角度で傾斜した回転軸(L)の周りを、回転可能に構成されている。
【0030】
また、装着状態で、回転手段27が、回転駆動部23により回転されることによって、収容手段29が回転され、これにより第4図に示す形状の様な多数の被処理物10が、収容手段29の筒部29aと、突部29eと、の間、さらには底部29b(平坦な底面部分29g)とによって構成される所定空間に保持されつつ、回転に伴って移動する。
その際、所定空間において、いわゆるなだれ現象を繰り返し生じさせ、回転方向の後方側で、被処理物10が上昇すると共に、重力により下降することを繰り返し、収容手段29の内部で、安定的に流動するように構成されている。
【0031】
そして、かかるタンブラーコーティング装置20では、収容手段29の内部における被処理物10の規則的な流動により、被処理物10を効率よく穏やかに攪拌さるために、回転手段27及び収容手段29を以下のように構成している。
まず、回転軸(L)の傾斜角は、回転軸(L)の周りに回転されることにより、収容手段29の内部で多数の被処理物10が回転方向に適度に上昇できると共に、重力により下降できる角度に設定されている。
【0032】
この傾斜角は、被処理物10の態様、収容手段29の態様、回転速度等、種々の条件に応じて選択されるが、例えば、水平方向に対して、30〜80°の範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、水平方向に対する回転軸(L)の傾斜角度が過剰に小さいと、被処理部が収容手段29の最下部から移動し難くなり、被処理物10が収容手段29の内部で、安定的に流動しにくくなる場合があるためである。
一方、水平方向に対する回転軸(L)の傾斜角度が過剰に大きいと、被処理物10が収容手段29の底部29bに留まった状態で、回転手段27及び収容手段29と共に、回転し易くなる場合があるためである。
したがって、回転軸(L)の傾斜角を、水平方向に対して、45〜75°の範囲内の値とすることがより好ましく、50〜70°の範囲内の値とすることがさらに好ましい。
なお、この回転軸(L)の傾斜角は、例えば、支持部21に対して、回転部27aの取付角度を調整することによって、調整可能な構成とするのが好適である。
【0033】
次に、回転手段27の回転速度は、多数の被処理物10が収容手段29との摩擦等により、回転手段27及び収容手段29の回転に伴って適度に移動できる速度とされている。
したがって、回転手段27の回転速度を、例えば、2〜25rpmの範囲内の値とすることが好ましい。
すなわち、かかる回転速度が過剰に速いと、収容手段29と被処理物10との摩擦力が大きくなったり、遠心力が作用して上昇量が高くなることにより下降時の衝撃が大きくなり易く、被膜に破損等が生じ易くなる場合があるためである。
一方、かかる回転速度が過剰に遅いと、被処理物10に一度に付着する被覆処理液が多量となることにより均一に付着させ難くなり易くなる場合があるためである。
したがって、回転手段27の回転速度を、2〜15rpmの範囲内の値とすることがより好ましく、4〜10rpmの範囲内の値とすることがさらに好ましい。
【0034】
(3)収容手段
収容手段29は、図1〜図3に示すように、筒部29a及び底部29bを有するとともに、底部29bの中心部が、回転軸(L)に対して合致するように収容空間25に装着され、内部に多数の被処理物10が収容された状態で回転手段27と共に回転する部材である。
すなわち、図2(b)に示す収容手段29は、図2(c)に示すように、回転手段27の収容空間25に装着されて使用され、そのため、図2(a)に示す回転手段27の収容空間25に対して収容可能なように、円筒形状の筒部29a及び底部29bを有しており、上部が開口した容器状に形成されている。
【0035】
ここで、収容手段29は、図2(b)に示すように、被処理物10が通過不能な多数の開口を有する網状材料により形成されている。
このような網状材料としては、例えば、30〜80メッシュの範囲内の値であるスレンレス網などを例示できる。
この理由は、このような網状材料を用いることにより、収容手段29に多数の被処理物10が収容された状態で回転手段27と共に傾斜して回転した際、収容手段29の内部に保持された多数の被処理物10を収容手段29の回転により、適度な摺動抵抗で移動させ易くでき、また、良好な通気性が得られやすいためである。
【0036】
そして、図2(b)に示すように、収容手段29の底部29bに、回転軸(L)の上方側へ突出する円錐又は円錐台形状の突部29eが設けられている。
また、収容手段29の底部29bにおいて、その周辺部と、突部29eとの間には、サークル状に、略平坦な底面部分29gが設けられている。
さらに、図3に示すように、収容手段29の上部において、所定のフランジ29cが設けてあり、それを外側や内側に折り曲げることができるように構成してある。
したがって、図2(c)に示すように、収容手段29は、内部に多数の被処理物10を収容した状態で、図2(a)に示す回転手段27の上部の開口から収容空間25に装着されることにより、回転手段27と共に回転可能となる。
また、収容手段29のフランジ29cが、回転手段27の先端部27cやフランジ27dと、当接するため、回転手段27と共に回転した場合でも、抜けにくい装着状態となる。
【0037】
すなわち、かかる装着状態において、収容手段29の底部29bの中心部が、回転軸(L)に対して合致する様に配置される。また、回転手段27の筒部29aの壁が存在するため、筒部29aと、突部29eとの間には、断面V字状の所定空間が形成される。
よって、この所定空間において、被処理物10の規則的な流動が生じやすくなって、被処理物10を効率よく穏やかに攪拌することができ、ひいては、吹付手段により収容手段内で流動する多数の被処理物に向けて被覆処理液を吹付けることにより、多数の被処理物の表面に対して、薄く、かつ、均一に被覆処理液を付着させることができる。
【0038】
また、図3に示す収容手段29において、収容手段29の突部29eの高さ(H2)に関し、筒部29aの高さ(H1)に対する突部29eの高さ(H2)の比率H2/H1として、1〜5の範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、かかる比率H2/H1が1未満の値となると、収容手段29の筒部29aと、突部29eとの間の間隔、特に、上方側の間隔が狭くなり易く、筒部29aと、突部29eとの間に形成される所定空間で流動する被処理物10が流動時に広がり難くなり、被覆処理液が均一に付着し難くなる場合があるためである。
一方、かかる比率H2/H1が5を超えた値になると、突部29eの高さが過剰に低くなって、傾斜角度が過剰に小さい場合には、多数の被処理物10が幅方向に広がり易くなりやすくなって流動せず、被覆処理液を均一に付着させることが困難となる場合があるためである。
したがって、収容手段29の突部29eの高さに関して、比率H2/H1を1.5〜7の範囲内の値とするのがより好ましく、1.5〜5の範囲内の値とするのがさらに好ましい。
【0039】
また、図3に示す収容手段29において、収容手段29の突部29eの高さ(H2)に関し、通常、その値を20〜100mmの範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、かかる突部29eの高さ(H2)が、20mm未満の値となると、被処理物に対し被服処理液を安定的に成膜することが困難となるばかりか、回転軸の傾斜角度が過剰に大きい場合には、多数の被処理物10が幅方向に広がり易くなりやすくなって、被覆処理液を均一に付着させることが困難となる場合があるためである。
一方、かかる突部29eの高さ(H2)が、100mmを超えた値になると、被処理物に対し被服処理液を安定的に形成することがさらに困難となる場合があるためである。また、回転軸の傾斜角度が過剰に小さい場合には、収容手段29の筒部29aと、突部29eとの間の間隔が狭くなり易く、所定空間で流動する被処理物10が流動時に広がり難くなって、被処理物に対し、被覆処理液が均一に付着し難くなる場合があるためである。
したがって、収容手段29の突部29eの高さ(H2)を30〜90mmの範囲内の値とするのがより好ましく、40〜80mmの範囲内の値とするのがさらに好ましい。
【0040】
なお、図2(b)に示すように、収容手段29の突部29eは、平板状の網状材料の一部を切断するとともに、切断部分をずらして重ね、それを溶接や縫製を行い、つなぎ部29fを設けることによって、容易に形成することができる。
また、収容手段29の筒部29aは、平板状の網状材料を複数枚、積層するとともに、それを溶接や縫製することによって、補強部29dとしての機能を発揮し、さらに耐久性に優れた所定形状の筒部およびそれを含んだ収容手段29とすることができる。
その際、図2(b)に示すように、溶接や縫製した箇所を、筒部29aの内側表面に0.1〜2mm程度の凹凸となる補強部29dとして形成することによって、多数の被処理物との間の摩擦力が向上し、被処理物をさらに安定的に流動させることができる。
【0041】
(4)吹付手段
また、タンブラーコーティング装置20の吹付手段31は、被覆処理液31aを収容手段29の内部で流動する多数の被処理物10に向けて吹付けるように、回転手段27及び収容手段29の上部の開口側から、収容手段29の内部に、先端部としての吐出口を臨ませて固定して配置されている。
この吹付手段31の吐出口は、底部29bにおける突部29eと、筒部29aとの間に、回転方向の最下端乃至1/4回転後方に配向させるのが好適である。この理由は、流動する多数の被処理物10に対して、効率よく被覆処理液31aを付着させ易いためである。
【0042】
この吹付手段31では、圧縮空気の供給源49から供給される圧縮空気により、貯留タンク48からの被覆処理液31aを微細な液滴にして多数の被処理物10に吹付けるように構成されている。
吹付圧力や吹付量は、適被処理物10の種類や形態に応じて、適宜選択することができるものの、例えば、吹付手段31の吐出口から、被処理物10までの距離が30cm以下の場合、吹付気体の圧力を0.1〜0.3MPaの範囲内の値とすることが好ましい。
そして、被覆処理液の吹付量を、例えば、0.5〜2ml/minの範囲内の値とするのが好ましく、0.8〜1.5ml/minの範囲内の値とするのがさらに好ましい。
【0043】
(5)加熱手段
また、タンブラーコーティング装置20は、加熱手段35として、回転手段27に設けられた加熱ヒータ(図示せず)と、吹付手段31の近傍に設けられた加熱気体噴出部35と、を備えている。
かかる加熱ヒータは、給電されて回転手段27を所定温度に加熱するものであり、例えば回転手段27の内表面の温度を50±20℃の温度に加熱可能に構成されている。
【0044】
また、加熱気体噴出部35は、加熱された気体を収容部内で流動する多数の被処理物10に向けて吹き付けるものであり、例えば250±20℃の温度の加熱気体を噴出可能に構成されている。
これらの加熱ヒータ及び加熱気体噴出部35は、収容部内で流動する多数の被処理物10に付着した被覆成分を固化可能な温度に昇温可能となっている。ここでは、少なくとも被覆処理液の溶媒を十分に蒸発可能な温度まで昇温でき、好ましくは、ポリイミド樹脂前駆体或いはポリイミド樹脂組成物が縮合重合可能な温度まで昇温できることが好適である。
【0045】
(6)動作
このようにして表面が清浄にされた多数の被処理物10をタンブラーコーティング装置20の収容手段29の内部に多数の被処理物10を収容し、この収容手段29を回転手段27に装着し、その回転手段27を、モーターやVベルト等回転駆動部23により所定速度で回転させる。
これにより、収容手段29の内部で、多数の被処理物10が最下部から回転方向に沿って上昇すると共に、上昇した多数の被処理物10が重力により下降し、これらが連続することにより、多数の被処理物10が収容手段29の内部で流動する。
また、加熱ヒータにより回転手段27を所定温度に加熱すると共に、加熱気体噴出部35から所定温度の加熱気体を流動する多数の被処理物10に向けて噴出し、多数の被処理物10を加熱する。
【0046】
この状態で吹付手段31から被覆処理液31aを多数の被処理物10に向けて吹き付け、主として被覆成分を表面に付着させる。
これにより、多数の被処理物10を収容手段29の内部で流動させつつ、吹付手段31からの被覆処理液31aの吹き付けと、加熱手段35の加熱による被覆成分の固化とを同時に行う。すると、被処理物10の表面に付着した被覆処理液31aから溶媒が蒸発すると共に、被覆処理液31aに含有されている被覆成分が固化することになる。
【0047】
なお、このような吹付を行う間、吹付手段31から吹付けられた気体や加熱気体噴出部35から吹付けられた気体は、流動している多数の被処理物10周辺に滞留せずに、収容手段29の突部29eを透過して、他の部位から放出される。
そして、これらを継続することにより、多数の被処理物10の表面に被覆成分が均一に付着して固化され、好ましくは硬化されて被膜が形成される。
【0048】
その後、被処理物10をタンブラーコーティング装置20から取り出し、所定温度に保持可能な加熱装置により、表面に被膜が形成された多数の被処理物10を再加熱処理することにより、被膜を十分に硬化させることができる。
したがって、このような再加熱処理では、被膜の被覆成分を完全に硬化可能な温度、例えば、200±10℃の温度で、90〜160分程度、オーブン中に保持すればよく、これにより強固な被覆成形体を得ることができる。
なお、このような再加熱処理を行う場合であっても、収容手段29に収容したままの状態で、被処理物10をオーブンに移動することによって、迅速かつ簡易に、再加熱処理を行うことができる。
【0049】
[第2の実施形態]
第2の実施形態は、第1の実施形態のタンブラーコーティング装置を用いて、多数の被処理物の表面に対して、被覆成分を被覆するタンブラーコーティング方法であって、
多数の被処理物を収容手段の底部で流動させつつ、吹付手段からの被覆処理液の吹き付けと、加熱手段の加熱による被覆成分の固化と、を同時に行うことを特徴とするタンブラーコーティング方法である。
【0050】
すなわち、図1に示す所定のタンブラーコーティング装置20を用いたタンブラーコーティング方法では、多数の被処理物10を収容手段29の底部29bで流動させつつ、吹付手段31からの被覆処理液の吹き付けと、加熱手段の加熱による被覆成分の固化とを同時に行うことができるので、多数の被処理物10に被覆処理液を均一に付着させつつ、被処理物10間の接着を防止して均質に固化させることができる。そのため、被処理物10同士の接着を防止しつつ、多数の被処理物10に薄く均一に被覆成分を被覆することが可能である。
以下、タンブラーコーティング方法に関する実施形態について、具体的に説明する。
【0051】
1.前処理工程
前処理工程として、多数の被処理物10に対して、アルミナ粒子やジルコニア粒子等のブラスト媒体を吹き付けて、サンドブラスト処理を行うことが好ましい。
すなわち、多数の被処理物10の表面は金属からなり、被処理物10に対して、アルミナ粒子等を吹き付けてサンドブラスト処理することにより、多数の被処理物10の表面の酸化膜や汚染物等を効率的に除去することができる。
したがって、その後に、所定のタンブラーコーティング方法を実施することによって、さらに薄くかつ均一な被覆成分の被膜を、安定的に形成することができる。
【0052】
より具体的には、多数の被処理物10に対して、サンドブラスト処理を実施するには、例えば、平均粒径が80〜200μmの範囲内の値であるアルミナ粒子を準備し、図5に示すブラストタンク55に収容する。
次いで、図5に示すような多角形形状であって、ブラスト媒体57が、透過可能な細孔58aを有する回転収容部58を備えたサンドブラスト装置50を用いて、多数の被処理物10を流動させる。
すなわち、回転収容部58に多数の被処理物10を収容して回転、例えば、図中、矢印で示すように、回転数1〜30rpmで回転させることにより、回転収容部58の内部で多数の被処理物10を流動させることができる。
また、回転収容部58は、金属製やプラスチック製の保護部材59によって、包囲されていることから、ブラスト媒体が、外部に飛散することを有効に防止するとともに、内部への汚染物の侵入を有効に防止することができる。
【0053】
したがって、その状態で、作動制御手段52と、噴射方向制御手段53と、圧縮空気制御手段54と、ブラストタンク55と、気流発生装置56と、を備えたノズル51から、一例ではあるが、ブラスト媒体57としてのアルミナ粒子を、0.1〜0.5MPaの圧力で、10〜40分間、吹付けることによりサンドブラスト処理を実施する。
すなわち、このようなサンドブラスト処理により、多数の被処理物10の表面に存在する酸化膜や汚染物を十分かつ効率的に除去することができる。
一方、使用されたアルミナ粒子57は、回転収容部58の細孔58aを通って、自重または遠心力で、回収部58bに回収され、ブラストタンク55を経て、次回のサンドブラスト処理に使用される。
なお、サンドブラスト処理を実施した後、被処理物10にアルミナ粒子57や汚染物等が付着している場合があることから、被処理物10を揮発性の有機溶媒を用いて洗浄し、乾燥させることが好ましい。
【0054】
2.塗布工程
(1)収容工程
収容工程は、所定量の被処理物を、収容空間に収容する工程である。
すなわち、サンドブラスト処理等を実施した後、塗布工程を実施するに先立ち、所定量の被処理物を、収容空間に収容する工程である。
【0055】
その際、被処理物量の容積が、収容空間の容積(100容積%)の0.01〜30容積%となるように、被処理物の収容量を定めることが好ましい。
この理由は、かかる被処理物の収容量が、0.01容積%未満の値になると、被処理物の生産効率が著しく低下する場合があるためである。
一方、かかる被処理物の収容量が、30容積%を超えた値になると、均一な被膜を安定的に形成することが困難となる場合があるためである。
したがって、被処理物の収容量を、収容空間の容積(100容積%)の0.1〜10容積%の範囲内の値とすることがより好ましく、1〜5容積%の範囲内の値とすることがさらに好ましい。
【0056】
(2)回転工程
また、回転工程は、多数の被処理物を、収容空間において、回転させる工程である。
すなわち、筒部及び底部を有して網状材料により形成された収容手段であって、回転手段と共に傾斜して回転することにより、収容された多数の被処理物を、底部付近において、重力を利用して流動させる収容手段を備えている。
そして、この収容手段の底部に、上方側へ突出する突部が設けられており、突部と、筒部との間で多数の被処理物が、安定的に流動するように構成されているので、流動される多数の被処理物が効率よく、かつ穏やかに攪拌することができる。
【0057】
(3)加熱工程
また、加熱工程は、多数の被処理物を、収容空間において、回転させながら加熱する工程である。
すなわち、加熱手段が、加熱気体を噴出する加熱気体噴出部を備え、被覆処理液が加熱気体と共に多数の被処理物に吹付けられるように構成されているので、吹付手段から吹き付けられて、多数の被処理物に付着された被覆処理液の被覆成分の固化を、加熱気体の温度と気流により、促進することができる。
【0058】
また、加熱手段が回転手段を加熱することで収容空間内を加熱可能な加熱ヒータを備えているので、収容空間内を被覆処理液の被覆成分を固化可能な温度に保ち易い。そのため、収容手段内で多数の被処理物を流動させても、各被処理物の表面と接する雰囲気温度が安定し易く、被処理物に付着された被覆処理液の被覆成分を均質に固化させ易くなる。
【0059】
(4)吹付工程
また、吹付工程は、多数の被処理物を、収容空間において、加熱状態で流動させながら、被覆処理液を吹き付ける工程である。
すなわち、吹付手段により収容手段の内部で流動する多数の被処理物に向けて、微量の被覆処理液を長時間にわたって吹付けることにより、多数の被処理物の表面に薄く、かつ、均一に被覆処理液を付着させるものである。
また、加熱手段により収容手段内で流動する多数の被処理物を加熱することにより、表面に付着した被覆成分を均質に固化し易いと共に、被処理物同士が被覆成分を介して接着されることを防止しやすくなる。
【0060】
なお、被覆処理液は、一部上述したように、ポリイミド樹脂前駆体及びポリイミド樹脂組成物の少なくとも一方からなる被覆成分を含む溶液又は分散液であることが好ましい。
すなわち、加熱手段により被覆成分が硬化可能な温度に被処理物を加熱する加熱処理を行うので、多数の被処理物に被覆処理液を順次付着させる間に、被覆成分の強度を確保し易く、そのため被覆処理液の吹き付け処理中に被膜に損傷等が生じ難く、より確実に均一な被膜を形成し易くなる。
【0061】
3.後処理工程
(1)再加熱工程
また、任意工程ではあるが、得られた被処理物における被覆成分を、さらに完全硬化させたり、余分な溶媒を除去したりするために、所定温度で加熱する再加熱工程を設けることが好ましい。
例えば、ポリイミド樹脂前駆体及びポリイミド樹脂組成物の少なくとも一方からなる被覆成分を含む被覆処理液の場合、オーブン中、200±10℃の温度で、10〜160分程度、再加熱処理を行うことが好ましい。
【0062】
(2)冷却工程
また、任意工程ではあるが、得られた被処理物を、室温に所定時間放置して、室温または室温付近まで、自然冷却することが好ましい。
この理由は、このように冷却することにより、被膜における内部歪を減少させ、被膜の密着性や耐久性を著しく向上させることができるためである。
なお、得られた被処理物を、一例としては、室温、10〜60分程度、自然冷却することが好ましい。
【0063】
(3)検査工程
また、同様に任意工程ではあるが、得られた被処理物の外観、被膜の厚さ、被膜の電気絶縁性、被処理物の保持率等を測定し、それぞれ所定範囲内の値であることを確認するための検査工程を設けることが好ましい。
【実施例】
【0064】
[実施例1]
実施例1は、以下に示すように、表1に示す突部を備えた収容手段を用いて、被覆成形品を作成し、ポリイミド層の厚さを測定することにより、収容手段の突部の高さがコーティングに与える影響を確認した。
【0065】
1.被覆成形品の作成
(1)被処理物の準備
まず、使用した被処理物は、軟磁性材料から図4に示すような形状に成形され、1個当たりの全表面積が10mmで、保磁力が40A/mであった。
なお、この被処理物の保磁力は、500K程度の温度に昇温すると、低下し易いものであった。
【0066】
(2)サンドブラスト処理
また、サンドブラスト処理は、図5に示すように、回転収容部が8角形の側周壁を有するサンドブラスト装置を用いて行った。
この処理では、回転収容部を11rpmで回転させ、内部で被処理物を流動させつつ、平均粒径7μmのアルミナ粒子を0.2MPaの圧力で、60分吹き付けることにより行った。
【0067】
(3)塗布工程
また、被覆処理液は、濃度10重量%の熱硬化性のポリイミド樹脂と、溶媒としてのテトラヒドロフラン(THF)と、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)と、からなり、THF:NMPが重量比で1:2となるように混合した液を調製して用いた。得られた被覆処理液の粘度は、特殊粘度計で14.9±0.5秒(測定温度:25℃)であった。
また、収容手段は、図3に示すような筒部の内径D1、突部の底部との接続部分の外形D2、筒部の高さH1、突部の高さH2をそれぞれ表1のようにして、60メッシュのステンレス鋼製の網状材料により作成されたものであった。
【0068】
また、タンブラーコーティング装置において、一例ではあるが、回転手段の回転軸Lの傾斜角を60°、回転手段の回転数を7rpm、回転手段の加熱温度を50℃、加熱気体噴出部から噴出する加熱空気の温度を250℃、吹付手段の吹付気体の圧力を0.2MPaに設定した。
【0069】
そして、タンブラーコーティング装置を用いたコーティング処理は、サンドブラスト処理された6000個の被処理物を収容手段に収容し、この収容手段を回転手段の収容空間に配置し、上述した条件でタンブラーコーティング装置を駆動し、150分間で、0.8mlの被覆処理液を一定供給量で吹付手段から吹き付け、被処理物の表面で固化させた。
【0070】
(4)加熱処理
被処理物の加熱処理は、被処理物を収容した状態の収容手段をタンブラーコーティング装置から取り出した後、それを加熱空間内に収容し、200℃で、120分保持することにより行った。
なお、かかる加熱処理を行った後、収容手段から被処理物を取り出し、室温、60分の条件で、自然冷却して、実施例1の被処理物を得た。
【0071】
2.被覆成形品の評価
以上のようにして得られた被覆成形体には、約8μmのポリイミドからなる被膜が形成されていた。この被覆成形体から5個のサンプルを無作為に採取し、被覆成形体における被膜の膜厚を、表面粗さ計(小坂研究所製、Surfcorder1700a)を用い、JIS 2001に準拠してそれぞれ測定し、それらの平均値を算出した。さらに、膜厚の標準偏差(σ)を算出し、膜厚のばらつきとして、併せて表1に示す。
【0072】
[実施例2〜5]
実施例2〜5では、表1に示すように、突部の高さ(H1)が異なる収容手段をそれぞれ用いたほかは、実施例1と同様にして、被処理物の表面全面がポリイミド層で被覆された被覆成形品を作成し、評価した。
【0073】
[比較例1]
比較例1は、表1に示すように、突部の高さがゼロ、すなわち、突部が無い収容手段を用いたほかは、実施例1と同様にして、被処理物の表面全面がポリイミド層で被覆された被覆成形品を作成し、評価した。
【0074】
【表1】

【0075】
表1から明らかなように、比較例1のように突部を設けない収容手段を用いた場合に比べ、突部を設けた収容手段を用いた実施例1〜5では、膜厚のばらつきが小さく抑えられており、薄肉で、均一なポリイミド層からなる塗膜を形成することができることが確認された。
特に、実施例3〜5のように、突部の高さ(H2)の収容手段の高さ(H1)に対する比率(H1/H2)が1.5〜5の範囲内であれば、実施例1(H1/H2=1.2)や実施例2(H1/H2=7)に比べて、膜厚のばらつきをさらに小さくできることが確認された。
さらに言えば、実施例1〜5および比較例1において、被処理物の塗装前後における保持力は、それぞれ0.3〜0.4Oeの範囲であって、顕著な差がないことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明のタンブラーコーティング装置、及びそのようなコーティング装置を用いたタンブラーコーティング方法によれば、被処理物が互いに接着することを有効に防止して、多数かつ小型の被処理物に対して、被膜として、均一な厚さの薄膜であっても効率的に形成できるようになった。
したがって、本発明のタンブラーコーティング装置、及びタンブラーコーティング方法は、所定の被膜を備えた被処理物の作成として、電気的特性、機械的特性、あるいは環境特性の観点から、各種フェライト成型品、各種電気部品、各種自動車部品、各種機械部品等への応用が期待される。
【符号の説明】
【0077】
10:被処理物、11:隅部、20:タンブラーコーティング装置、21:支持部、23:回転駆動部(モータ)、25:収容空間、27:回転手段、27a:回転部、27b:底部、27c:先端部、27d:フランジ、29:収容手段、29a:筒部、29b:底部、29c:フランジ、29d:補強部、29e:突部、29f:つなぎ部、29g:略平坦な底面部分、31:吹付手段、31a:被覆処理液、35:加熱気体噴出部、48:貯留タンク、49:圧縮空気の供給源、50:サンドブラスト装置、51:ノズル、52:作動制御手段、53:噴射方向制御手段、54:圧縮空気供給手段、55:ブラストタンク、56:気流発生装置、57:ブラスト材、58:回転収容部、58a:細孔、58b:回収部、59:保護部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
収容空間を有し、水平方向に対して、所定角度で傾斜した回転軸の周りを回転する回転手段と、
網状材料により形成され、筒部及び底部を有するとともに、当該底部の中心部が回転軸に対して合致するように、前記収容空間に装着され、内部に多数の被処理物が収容された状態で回転手段と共に回転する収容手段と、
被覆処理液を、前記収容手段内で流動する多数の被処理物に向けて吹付ける吹付手段と、
前記収容手段内で流動する多数の被処理物を加熱して、多数の被処理物の表面に付着した被覆成分を固化する加熱手段と、を備え、
前記収容手段の底部に、前記回転軸の上方側へ突出する突部を設けるとともに、前記突部と、前記筒部との間で、多数の被処理物を流動させることを特徴とするタンブラーコーティング装置。
【請求項2】
前記加熱手段は、加熱気体を噴出する加熱気体噴出部を備えるとともに、前記加熱気体と共に、前記被覆処理液を、前記多数の被処理物に対して吹付けることを特徴とする請求項1に記載のタンブラーコーティング装置。
【請求項3】
前記加熱手段は、前記回転手段を加熱することで、前記収容空間内を加熱可能な加熱ヒータをさらに備えることを特徴とする請求項1又は2に記載のタンブラーコーティング装置。
【請求項4】
前記回転手段は、前記収容空間を囲む側周壁及び底壁を有し、前記底壁と前記突部と、の間が、通気可能に離間していることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のタンブラーコーティング装置。
【請求項5】
前記被覆処理液が、被覆成分として、ポリイミド樹脂前駆体又はポリイミド樹脂組成物を含有する溶液であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のタンブラーコーティング装置。
【請求項6】
タンブラーコーティング装置を用いて、多数の被処理物の表面に対して、被覆成分を被覆するタンブラーコーティング方法であって、
前記タンブラーコーティング装置は、
収容空間を有し、水平方向に対して、所定角度で傾斜した回転軸の周りを回転する回転手段と、
前記収容空間に装着され、網状材料により形成され、筒部及び底部を有し、当該底部が回転軸に対して交差方向に配置されるとともに、内部に多数の被処理物が収容された状態で回転手段と共に回転する収容手段と、
多数の被処理物の表面を被覆するための被覆成分が含有された被覆処理液を、前記収容手段内で流動する多数の被処理物に向けて吹付ける吹付手段と、
前記収容手段内で流動する多数の被処理物を加熱して、前記多数の被処理物の表面に付着した被覆成分を固化させる加熱手段と、を備えており、
前記収容手段の底部に、回転軸の上方側へ突出する突部を設けるとともに、当該突部と、筒部との間で、前記多数の被処理物を流動させながら、
前記吹付手段からの前記被覆処理液の吹き付けと、前記加熱手段の加熱による前記被覆成分の固化と、を同時に行うことを特徴とするタンブラーコーティング方法。
【請求項7】
前記被処理物の表面における被膜の厚さを0.1〜10μmの範囲内の値とすることを特徴とする請求項6に記載のタンブラーコーティング方法。
【請求項8】
前記多数の被処理物にアルミナ粒子を吹き付けてサンドブラスト処理した後、前記タンブラーコーティング装置を用いて、前記被覆処理液を吹き付けることを特徴とする請求項6または7に記載のタンブラーコーティング方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−11177(P2011−11177A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−159392(P2009−159392)
【出願日】平成21年7月6日(2009.7.6)
【特許番号】特許第4611432号(P4611432)
【特許公報発行日】平成23年1月12日(2011.1.12)
【出願人】(000150512)株式会社仲田コーティング (40)
【Fターム(参考)】