タービンブレード用被覆
本発明は、タービンブレードまたは翼の内側および外側表面の同時処理に関する。とりわけ、本発明は、タービンブレードまたは翼の外側および内側表面を、それぞれアルミニウムおよびクロムで、実質的に同時に被覆する方法を提供する。本方法は、(i)アルミニウム、調整剤、活性化剤、および希釈剤を含んでなるアルミニウム被覆組成物を外側表面に塗布する工程、(ii)クロム、活性化剤、および希釈剤を含んでなるクロム被覆組成物を内側表面に塗布する工程をいずれかの順で行うことを含む。これらの工程に続いて、(iii)タービンブレードまたは翼を加熱し、外側表面上にアルミニウム層および内側表面上にクロム層を形成する工程を行う。本発明は、好適なアルミニウム被覆組成物およびクロム被覆組成物も提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【０００１】
本発明は、タービンブレード用被覆に関し、とりわけ、タービンブレードの内側および外側表面の同時処理に関する。
【背景技術】
【０００２】
現在、最新の工業用ガスタービンにおいては、エンジンの高温部分に通常使用されているニッケルおよびコバルト合金にとって非常に過酷な条件下で作動している。したがって、これらの合金は、タービンのこの区域において、雰囲気により急速に腐食して劣化を引き起こし、早期に交換する必要に迫られている。ニッケルまたはコバルト合金に添加して使用される、腐食性でかつ酸化性の環境に対して合金の耐性を改良する金属は、高濃度で添加すると合金の機械的特性に悪影響を及ぼすため、十分な濃度で添加することができない。この理由から、ベース材料の機械的特性に悪影響を及ぼさずに、部品の表面で必要とされる特性を与える保護被覆が開発されている。
【０００３】
今日、工業用ガスタービンに使用されている表面工学的解決策は、非常に多岐にわたり、個々のタービンブレード上に種々の被覆系を使用することができる。
【０００４】
陸上発電ガスタービン内の化学的腐食性環境としては、６００〜８００℃の温度でアルカリおよび遷移金属の硫酸塩が関与する腐食（タイプII腐食）、７５０〜９５０℃で溶融した硫酸塩が関与する腐食（タイプＩ腐食）、および、より高温における気体酸化を引き起こすことがある。そのような条件下におけるベース材料の保護は困難であり、耐食性被覆の使用を必要とする。様々な腐食環境には、個別の被覆組成物、典型的には、タイプII腐食に対して保護するためのクロミア形成剤（例えばクロマイド拡散被覆）、およびタイプＩおよび高温腐食に対するアルミナ形成剤（例えばアルミナイド拡散被覆）を使用する必要がある。
【０００５】
この分野では、タービンブレードを高温酸化や腐食から保護するために、アルミナイド被覆を使用するのが標準的である。現在、表面層のアルミニウム濃度を高くすることにより、タイプＩ硫化物形成(sulphidation)に対して十分な保護が得られることが認められている。これは、腐食性元素、例えば硫黄および酸素の浸透に対する効果的なバリヤー性を備えるアルミナスケールが形成されるためである。タイプＩ硫化物が形成するような高温においては、クロムにより形成される酸化物スケールが、このような高温では非常に高い蒸気圧を有するため、クロムは使用できない。すなわち、スケールが表面から急速に蒸発し保護特性が失われる。これは、ガスタービンブレードの外側表面で観察される典型的な状況である。
【０００６】
高温においてはタービンブレードを冷却する必要がある。冷却は、酸素に加えて硫黄を含む場合がある圧縮空気を、タービンブレード中の冷却通路を通して強制的に送ることにより達成することができる。したがって、この内側区域における金属表面での温度は、外側表面での温度よりも低い。タイプII硫化物が形成される温度ではアルミニウムスケールが容易に形成されず、したがって、アルミニウムはこの種の腐食に対して効果的な保護を与えない。しかし、クロムスケールはこの温度で容易に形成され物理的にも安定しているため、この種の腐食に対して効果的な保護を与える。
【０００７】
したがって、タイプII硫化物形成が内側表面で起こり、タイプＩ硫化物形成が外側表面で起こるようなタービンブレードにおける好ましい被覆系は、外側表面上のアルミニウム被覆および内側表面上のクロム被覆である。
【０００８】
タービンブレードと同じく、翼もブレードと類似の材料から製造され、冷却通路を有することができる。したがって、翼もブレードと同様の腐食にさらされる。
【０００９】
この業界では、化学蒸着（「拡散被覆」とも呼ばれる）を使用してこれらの保護被覆を工業用ガスタービンに施工するのが一般的である。これらの被覆は、一般的に、保護を必要とする表面を、表面上に堆積させるべき金属の濃度が高い雰囲気に接触させた時に形成される。金属化学種は、通常、揮発性ハロゲン化物の形態にある。堆積は、一般的に高温（すなわち８００℃を超える）で、還元性雰囲気、例えば水素の存在下で行われる。
【００１０】
クロムおよびアルミニウムの拡散被覆は、二つの個別被覆工程で行われる。しかし、この手法には、有用な工業的製法としては幾つかの欠点がある。例えば、二つの工程を順次行うために、タービンブレードを保護するためのコストが増加し、この製法を行うための時間が大幅に増加し、実行すべき第二工程が第一被覆工程の結果に影響を及ぼす。
【発明の概要】
【００１１】
したがって、本発明は、タービンブレードまたは翼の外側および内側表面を、それぞれアルミニウムおよびクロムで、実質的に同時に被覆する方法であって、下記の工程(i)および(ii)、すなわち(i)アルミニウム、調整剤(moderator)、活性化剤(energiser)、および希釈剤を含んでなるアルミニウム被覆組成物を外側表面に塗布する工程、(ii)クロム、活性化剤、および希釈剤を含んでなるクロム被覆組成物を内側表面に塗布する工程を、いずれかの順で行い、続いて、(iii)タービンブレードまたは翼を加熱し、外側表面上にアルミニウム層を形成し、かつ内側表面上にクロム層を形成する、工程を行うことを含んでなる、方法を提供する。
【００１２】
クロムおよびアルミニウム保護被覆を同時に施すことには、明らかな商業的および技術的な利点がある。
【発明の具体的説明】
【００１３】
ここで本発明を、本発明の方法で使用するのに好適な、内側冷却通路を備えたタービンブレードを図式的に示す、添付図面を参照しながら説明する。
【００１４】
この図面において、区域Ａ（外側表面）は、アルミニウム拡散被覆で被覆し、区域Ｂは（内側表面）はクロム拡散被覆で被覆する。本出願人は、アルミニウム被覆組成物およびクロム被覆組成物の両方を調整することにより、両方の被覆を実質的に同時に施すことができることを見出した。
【００１５】
外側アルミニウム拡散被覆は、ブレードまたは翼全体を、アルミニウム被覆組成物(または「パック」)中に浸漬することにより行われる。アルミニウム被覆組成物は、アルミニウム金属粉末、調整剤、セラミック希釈剤、および活性化剤を含んでなる。
【００１６】
アルミニウム被覆には、ハロゲン化アルミニウムをその場で発生させる。したがって、アルミニウム被覆組成物は、ブレードまたは翼の外側表面を被覆するのに十分なハロゲン化アルミニウムを製造する量のアルミニウムを含む。アルミニウム含有量は、アルミニウム被覆組成物の総重量に対して好ましくは３〜２０重量％である。
【００１７】
通常は金属粉末である、クロム、ニッケル、または鉄等の調整剤は、その場で形成されるハロゲン化アルミニウムを吸収し、ブレードまたは翼の表面におけるハロゲン化アルミニウムの蒸気圧を下げるのに必要であり、これによって、アルミニウム層が、合金の表面上に堆積せず、表面合金中に拡散し易くなる。調整剤の量は、堆積ではなく、拡散するのに十分でなければならない。しかし、拡散は温度により制御され、温度が増加するにつれて拡散し易くなるため、高温では必要な調整剤が少なくなる。さらに、本発明のアルミニウム被覆組成物は、通常の含有量よりも多くの調整剤を使用するので、クロム被覆と同じ条件下でアルミニウム被覆を行うことができる。好ましくは、調整剤は、アルミニウム被覆パックの総重量に対して１０〜５０重量％で存在する。アルミニウムと調整剤との比は、典型的には１：２〜１：５、好ましくは１：２．５〜１：３．５、より好ましくは１：２．５である。
【００１８】
アルミニウム被覆工程に使用する活性化剤は、一般的にハロゲン化物、例えば臭化物、塩化物またはフッ化物を含む。好ましいハロゲン化物は、アルカリ金属、例えばナトリウム、およびアンモニウムであり、塩化アンモニウムが特に好ましい。活性化剤は、アルミニウム被覆パックの総重量に対して一般的に０．１〜２重量％、好ましくは０．５重量％である。
【００１９】
希釈剤は、一般的にはアルミニウム被覆パック中にある成分のバランスをとる耐火性酸化物粉末である。希釈剤は、好ましくはＡｌ２Ｏ３（アルミナ）、ＴｉＯ２（チタニア）、ＭｇＯまたはＣｒ２Ｏ３である。最も好ましい耐火性希釈剤は、か焼したアルミナである。希釈剤含有量は、アルミニウム被覆パックの自由流動性を維持するのに十分である必要があり、典型的には、アルミニウム被覆パックの総重量に対して少なくとも２０重量％、好ましくは少なくとも２５重量％である。
【００２０】
アルミニウム被覆組成物は、アルミニウムの十分に厚い被覆を形成するのに十分な量で存在する。十分に厚い被覆とは、典型的には６０〜１００ミクロである。表面ブレードまたは翼におけるアルミニウム濃度は、一般的に２５〜４５重量％であり、残りはベース合金である。
【００２１】
そのようなアルミニウム被覆組成物は、当該分野で公知ではなく、したがって、本発明は、アルミニウム３〜２０重量％、調整剤１０〜５０重量％、活性化剤０．１〜２重量％、および希釈剤を少なくとも２０重量％含んでなり、アルミニウムと調整剤との重量比が１：２〜１：５である、アルミニウム被覆組成物も提供する。
【００２２】
タービンブレードまたは翼の外側表面は、アルミニウム被覆を行う前に、必要であれば、追加の被覆をスプレーする等の前処理を行ってもよい。
【００２３】
内側表面は、外側表面と実質的に同時に、内側冷却通路にもクロム被覆組成物を充填することにより、クロム被覆を行う。「実質的に同時に」とは、アルミニウム被覆組成物およびクロム被覆組成物の両方を最初にタービンブレードまたは翼に塗布し、続く拡散熱処理の際に、両方の被覆を形成することを意味する。
【００２４】
クロム被覆組成物は、クロム金属粉末、セラミック希釈剤、および活性化剤を含んでなる。
【００２５】
クロム被覆においては、ハロゲン化クロムもその場で発生させる。したがって、クロム被覆組成物は、ブレードまたは翼の内側表面、すなわち冷却通路、を被覆するのに十分なハロゲン化クロムを発生する量でクロムを含む。クロム含有量は、好ましくはクロム被覆組成物の総重量に対して１５〜６５重量％である。
【００２６】
クロム被覆工程に使用する活性化剤は、一般的にハロゲン化物成分、例えばヨウ化物、臭化物、塩化物またはフッ化物、を含む。好ましいハロゲン化物は、アルカリ金属、例えばナトリウム、およびアンモニウム、であり、塩化アンモニウムが特に好ましい。活性化剤は、一般的にクロム被覆組成物の総重量に対して０．１〜５重量％、好ましくは１重量％で存在する。
【００２７】
希釈剤は、一般的に耐火性酸化物粉末であり、クロム被覆組成物中にある成分の残りの部分を構成する。希釈剤は、好ましくはＡｌ２Ｏ３（アルミナ）、ＴｉＯ２（チタニア）、ＭｇＯまたはＣｒ２Ｏ３である。最も好ましい耐火性希釈剤は、か焼したアルミナである。希釈剤含有量は、クロム被覆パックの自由流動性を維持するのに十分である必要があり、典型的には、クロム被覆パックの総重量に対して少なくとも２０重量％、好ましくは少なくとも２５重量％である。
【００２８】
クロム被覆組成物の粒子は、十分な量のクロム被覆組成物が内側表面に到達できるように、すなわち、クロム被覆組成物が冷却穴の中に入り込み、次いでその中で十分に厚いクロム被覆を形成できるように、十分に小さな粒子径を有する必要がある。十分に厚い被覆とは、典型的には１０〜６０μｍ、好ましくは１０〜５０μｍ、最も好ましくは１０〜２０μｍである。冷却穴の表面におけるクロム濃度は、一般的に３０〜６０重量％であり、残りはベース合金である。クロム被覆組成物の粒子径は、好ましくは２００μｍメッシュサイズ以下、好ましくは１００μｍメッシュサイズ以下、最も好ましくは７５μｍメッシュサイズ以下である。どのような最小値（ゼロを除く）でも使用できるが、粒子径が小さくなるにつれて、パックはより高価になり、粒子径減少の有益性が低下する。
【００２９】
そのようなクロム被覆組成物は、この分野で公知ではなく、したがって、本発明は、クロム１５〜６５重量％、活性化剤０．１〜５重量％および希釈剤少なくとも２０重量％を含んでなり、クロム被覆組成物の粒子径が、クロム被覆組成物が２００μｍメッシュ以下を通過できるような粒子径である、クロム被覆組成物も提供する。
【００３０】
実質的に同時に行うアルミニウム被覆およびクロム被覆工程の際、アルミニウム被覆およびクロム被覆組成物を、大気中の酸素による腐食から保護すべきである。不活性雰囲気中によって保護を行ってもよく、組成物中に存在するアンモニウム塩によって、アンモニウム塩が高温で分解して水素を発生させることにより不活性雰囲気を作ることができる。あるいは、またはこれに加えて、還元性雰囲気、例えば水素または水素含有ガス混合物、例えばアルゴン中水素５％により、保護することもできる。
【００３１】
各種の被覆組成物およびタービンブレードまたは翼を含むレトルトを、不活性または還元性雰囲気、典型的にはアルゴン中水素５％または純粋な水素を備えた炉の中に入れる。次いで、炉中のタービンブレードまたは翼を、温度８５０〜１１５０℃、好ましくは９００〜１１００℃、より好ましくは１０００〜１０５０℃に、１〜２４時間、好ましくは２〜１０時間、上記の保護雰囲気下で加熱する。この処理サイクルの後、部品を保護雰囲気下で常温に冷却する。次いで、ブレードまたは翼からアルミニウム被覆組成物を除去し、穏やかに叩くか、または振動させることにより、クロム被覆組成物を除去する。ブレードの表面から過剰の被覆組成物を除去した後、ベース材料に必要な機械的特性が達成されるように、ブレードを熱処理するのが好ましい。
【実施例】
【００３２】
タービンブレードの冷却穴に、クロム金属粉末３０重量％、か焼したアルミナ６９重量％および塩化アンモニウム１重量％を含むクロム被覆組成物を装填する。次いで、このブレードを、アルミニウム金属粉末１８重量％、クロム金属粉末４５重量％、および塩化アンモニウム０．５重量％を含み、残量がか焼したアルミナであるアルミニウム被覆組成物中に浸漬する。各種の被覆組成物およびタービンブレードを含むレトルトを、水素５％含有アルゴンの還元性雰囲気下で、炉中に入れる。次いで、炉中のタービンブレードを、上記の保護雰囲気下で１０４０℃に６時間加熱する。この処理サイクルの後、タービンブレードを保護雰囲気下で常温に冷却する。次いで、ブレードからアルミニウム被覆組成物を除去し、穏やかに叩いてクロム被覆組成物を除去する。ブレード表面から過剰の被覆組成物を除去した後、ベース材料に必要な機械的特性が達成されるように、ブレードを熱処理する。
【００３３】
得られたブレードは、その内側表面が、タイプII腐食に耐えるのに十分な厚さにクロムで被覆され、その外側表面が、タイプＩ腐食に耐えるのに十分な厚さにアルミニウムで被覆されている。
【図面の簡単な説明】
【００３４】
【図１】本発明の方法において使用するのに好適な、内側冷却通路を備えたタービンブレードを図式的に示す図である。
【技術分野】
【０００１】
本発明は、タービンブレード用被覆に関し、とりわけ、タービンブレードの内側および外側表面の同時処理に関する。
【背景技術】
【０００２】
現在、最新の工業用ガスタービンにおいては、エンジンの高温部分に通常使用されているニッケルおよびコバルト合金にとって非常に過酷な条件下で作動している。したがって、これらの合金は、タービンのこの区域において、雰囲気により急速に腐食して劣化を引き起こし、早期に交換する必要に迫られている。ニッケルまたはコバルト合金に添加して使用される、腐食性でかつ酸化性の環境に対して合金の耐性を改良する金属は、高濃度で添加すると合金の機械的特性に悪影響を及ぼすため、十分な濃度で添加することができない。この理由から、ベース材料の機械的特性に悪影響を及ぼさずに、部品の表面で必要とされる特性を与える保護被覆が開発されている。
【０００３】
今日、工業用ガスタービンに使用されている表面工学的解決策は、非常に多岐にわたり、個々のタービンブレード上に種々の被覆系を使用することができる。
【０００４】
陸上発電ガスタービン内の化学的腐食性環境としては、６００〜８００℃の温度でアルカリおよび遷移金属の硫酸塩が関与する腐食（タイプII腐食）、７５０〜９５０℃で溶融した硫酸塩が関与する腐食（タイプＩ腐食）、および、より高温における気体酸化を引き起こすことがある。そのような条件下におけるベース材料の保護は困難であり、耐食性被覆の使用を必要とする。様々な腐食環境には、個別の被覆組成物、典型的には、タイプII腐食に対して保護するためのクロミア形成剤（例えばクロマイド拡散被覆）、およびタイプＩおよび高温腐食に対するアルミナ形成剤（例えばアルミナイド拡散被覆）を使用する必要がある。
【０００５】
この分野では、タービンブレードを高温酸化や腐食から保護するために、アルミナイド被覆を使用するのが標準的である。現在、表面層のアルミニウム濃度を高くすることにより、タイプＩ硫化物形成(sulphidation)に対して十分な保護が得られることが認められている。これは、腐食性元素、例えば硫黄および酸素の浸透に対する効果的なバリヤー性を備えるアルミナスケールが形成されるためである。タイプＩ硫化物が形成するような高温においては、クロムにより形成される酸化物スケールが、このような高温では非常に高い蒸気圧を有するため、クロムは使用できない。すなわち、スケールが表面から急速に蒸発し保護特性が失われる。これは、ガスタービンブレードの外側表面で観察される典型的な状況である。
【０００６】
高温においてはタービンブレードを冷却する必要がある。冷却は、酸素に加えて硫黄を含む場合がある圧縮空気を、タービンブレード中の冷却通路を通して強制的に送ることにより達成することができる。したがって、この内側区域における金属表面での温度は、外側表面での温度よりも低い。タイプII硫化物が形成される温度ではアルミニウムスケールが容易に形成されず、したがって、アルミニウムはこの種の腐食に対して効果的な保護を与えない。しかし、クロムスケールはこの温度で容易に形成され物理的にも安定しているため、この種の腐食に対して効果的な保護を与える。
【０００７】
したがって、タイプII硫化物形成が内側表面で起こり、タイプＩ硫化物形成が外側表面で起こるようなタービンブレードにおける好ましい被覆系は、外側表面上のアルミニウム被覆および内側表面上のクロム被覆である。
【０００８】
タービンブレードと同じく、翼もブレードと類似の材料から製造され、冷却通路を有することができる。したがって、翼もブレードと同様の腐食にさらされる。
【０００９】
この業界では、化学蒸着（「拡散被覆」とも呼ばれる）を使用してこれらの保護被覆を工業用ガスタービンに施工するのが一般的である。これらの被覆は、一般的に、保護を必要とする表面を、表面上に堆積させるべき金属の濃度が高い雰囲気に接触させた時に形成される。金属化学種は、通常、揮発性ハロゲン化物の形態にある。堆積は、一般的に高温（すなわち８００℃を超える）で、還元性雰囲気、例えば水素の存在下で行われる。
【００１０】
クロムおよびアルミニウムの拡散被覆は、二つの個別被覆工程で行われる。しかし、この手法には、有用な工業的製法としては幾つかの欠点がある。例えば、二つの工程を順次行うために、タービンブレードを保護するためのコストが増加し、この製法を行うための時間が大幅に増加し、実行すべき第二工程が第一被覆工程の結果に影響を及ぼす。
【発明の概要】
【００１１】
したがって、本発明は、タービンブレードまたは翼の外側および内側表面を、それぞれアルミニウムおよびクロムで、実質的に同時に被覆する方法であって、下記の工程(i)および(ii)、すなわち(i)アルミニウム、調整剤(moderator)、活性化剤(energiser)、および希釈剤を含んでなるアルミニウム被覆組成物を外側表面に塗布する工程、(ii)クロム、活性化剤、および希釈剤を含んでなるクロム被覆組成物を内側表面に塗布する工程を、いずれかの順で行い、続いて、(iii)タービンブレードまたは翼を加熱し、外側表面上にアルミニウム層を形成し、かつ内側表面上にクロム層を形成する、工程を行うことを含んでなる、方法を提供する。
【００１２】
クロムおよびアルミニウム保護被覆を同時に施すことには、明らかな商業的および技術的な利点がある。
【発明の具体的説明】
【００１３】
ここで本発明を、本発明の方法で使用するのに好適な、内側冷却通路を備えたタービンブレードを図式的に示す、添付図面を参照しながら説明する。
【００１４】
この図面において、区域Ａ（外側表面）は、アルミニウム拡散被覆で被覆し、区域Ｂは（内側表面）はクロム拡散被覆で被覆する。本出願人は、アルミニウム被覆組成物およびクロム被覆組成物の両方を調整することにより、両方の被覆を実質的に同時に施すことができることを見出した。
【００１５】
外側アルミニウム拡散被覆は、ブレードまたは翼全体を、アルミニウム被覆組成物(または「パック」)中に浸漬することにより行われる。アルミニウム被覆組成物は、アルミニウム金属粉末、調整剤、セラミック希釈剤、および活性化剤を含んでなる。
【００１６】
アルミニウム被覆には、ハロゲン化アルミニウムをその場で発生させる。したがって、アルミニウム被覆組成物は、ブレードまたは翼の外側表面を被覆するのに十分なハロゲン化アルミニウムを製造する量のアルミニウムを含む。アルミニウム含有量は、アルミニウム被覆組成物の総重量に対して好ましくは３〜２０重量％である。
【００１７】
通常は金属粉末である、クロム、ニッケル、または鉄等の調整剤は、その場で形成されるハロゲン化アルミニウムを吸収し、ブレードまたは翼の表面におけるハロゲン化アルミニウムの蒸気圧を下げるのに必要であり、これによって、アルミニウム層が、合金の表面上に堆積せず、表面合金中に拡散し易くなる。調整剤の量は、堆積ではなく、拡散するのに十分でなければならない。しかし、拡散は温度により制御され、温度が増加するにつれて拡散し易くなるため、高温では必要な調整剤が少なくなる。さらに、本発明のアルミニウム被覆組成物は、通常の含有量よりも多くの調整剤を使用するので、クロム被覆と同じ条件下でアルミニウム被覆を行うことができる。好ましくは、調整剤は、アルミニウム被覆パックの総重量に対して１０〜５０重量％で存在する。アルミニウムと調整剤との比は、典型的には１：２〜１：５、好ましくは１：２．５〜１：３．５、より好ましくは１：２．５である。
【００１８】
アルミニウム被覆工程に使用する活性化剤は、一般的にハロゲン化物、例えば臭化物、塩化物またはフッ化物を含む。好ましいハロゲン化物は、アルカリ金属、例えばナトリウム、およびアンモニウムであり、塩化アンモニウムが特に好ましい。活性化剤は、アルミニウム被覆パックの総重量に対して一般的に０．１〜２重量％、好ましくは０．５重量％である。
【００１９】
希釈剤は、一般的にはアルミニウム被覆パック中にある成分のバランスをとる耐火性酸化物粉末である。希釈剤は、好ましくはＡｌ２Ｏ３（アルミナ）、ＴｉＯ２（チタニア）、ＭｇＯまたはＣｒ２Ｏ３である。最も好ましい耐火性希釈剤は、か焼したアルミナである。希釈剤含有量は、アルミニウム被覆パックの自由流動性を維持するのに十分である必要があり、典型的には、アルミニウム被覆パックの総重量に対して少なくとも２０重量％、好ましくは少なくとも２５重量％である。
【００２０】
アルミニウム被覆組成物は、アルミニウムの十分に厚い被覆を形成するのに十分な量で存在する。十分に厚い被覆とは、典型的には６０〜１００ミクロである。表面ブレードまたは翼におけるアルミニウム濃度は、一般的に２５〜４５重量％であり、残りはベース合金である。
【００２１】
そのようなアルミニウム被覆組成物は、当該分野で公知ではなく、したがって、本発明は、アルミニウム３〜２０重量％、調整剤１０〜５０重量％、活性化剤０．１〜２重量％、および希釈剤を少なくとも２０重量％含んでなり、アルミニウムと調整剤との重量比が１：２〜１：５である、アルミニウム被覆組成物も提供する。
【００２２】
タービンブレードまたは翼の外側表面は、アルミニウム被覆を行う前に、必要であれば、追加の被覆をスプレーする等の前処理を行ってもよい。
【００２３】
内側表面は、外側表面と実質的に同時に、内側冷却通路にもクロム被覆組成物を充填することにより、クロム被覆を行う。「実質的に同時に」とは、アルミニウム被覆組成物およびクロム被覆組成物の両方を最初にタービンブレードまたは翼に塗布し、続く拡散熱処理の際に、両方の被覆を形成することを意味する。
【００２４】
クロム被覆組成物は、クロム金属粉末、セラミック希釈剤、および活性化剤を含んでなる。
【００２５】
クロム被覆においては、ハロゲン化クロムもその場で発生させる。したがって、クロム被覆組成物は、ブレードまたは翼の内側表面、すなわち冷却通路、を被覆するのに十分なハロゲン化クロムを発生する量でクロムを含む。クロム含有量は、好ましくはクロム被覆組成物の総重量に対して１５〜６５重量％である。
【００２６】
クロム被覆工程に使用する活性化剤は、一般的にハロゲン化物成分、例えばヨウ化物、臭化物、塩化物またはフッ化物、を含む。好ましいハロゲン化物は、アルカリ金属、例えばナトリウム、およびアンモニウム、であり、塩化アンモニウムが特に好ましい。活性化剤は、一般的にクロム被覆組成物の総重量に対して０．１〜５重量％、好ましくは１重量％で存在する。
【００２７】
希釈剤は、一般的に耐火性酸化物粉末であり、クロム被覆組成物中にある成分の残りの部分を構成する。希釈剤は、好ましくはＡｌ２Ｏ３（アルミナ）、ＴｉＯ２（チタニア）、ＭｇＯまたはＣｒ２Ｏ３である。最も好ましい耐火性希釈剤は、か焼したアルミナである。希釈剤含有量は、クロム被覆パックの自由流動性を維持するのに十分である必要があり、典型的には、クロム被覆パックの総重量に対して少なくとも２０重量％、好ましくは少なくとも２５重量％である。
【００２８】
クロム被覆組成物の粒子は、十分な量のクロム被覆組成物が内側表面に到達できるように、すなわち、クロム被覆組成物が冷却穴の中に入り込み、次いでその中で十分に厚いクロム被覆を形成できるように、十分に小さな粒子径を有する必要がある。十分に厚い被覆とは、典型的には１０〜６０μｍ、好ましくは１０〜５０μｍ、最も好ましくは１０〜２０μｍである。冷却穴の表面におけるクロム濃度は、一般的に３０〜６０重量％であり、残りはベース合金である。クロム被覆組成物の粒子径は、好ましくは２００μｍメッシュサイズ以下、好ましくは１００μｍメッシュサイズ以下、最も好ましくは７５μｍメッシュサイズ以下である。どのような最小値（ゼロを除く）でも使用できるが、粒子径が小さくなるにつれて、パックはより高価になり、粒子径減少の有益性が低下する。
【００２９】
そのようなクロム被覆組成物は、この分野で公知ではなく、したがって、本発明は、クロム１５〜６５重量％、活性化剤０．１〜５重量％および希釈剤少なくとも２０重量％を含んでなり、クロム被覆組成物の粒子径が、クロム被覆組成物が２００μｍメッシュ以下を通過できるような粒子径である、クロム被覆組成物も提供する。
【００３０】
実質的に同時に行うアルミニウム被覆およびクロム被覆工程の際、アルミニウム被覆およびクロム被覆組成物を、大気中の酸素による腐食から保護すべきである。不活性雰囲気中によって保護を行ってもよく、組成物中に存在するアンモニウム塩によって、アンモニウム塩が高温で分解して水素を発生させることにより不活性雰囲気を作ることができる。あるいは、またはこれに加えて、還元性雰囲気、例えば水素または水素含有ガス混合物、例えばアルゴン中水素５％により、保護することもできる。
【００３１】
各種の被覆組成物およびタービンブレードまたは翼を含むレトルトを、不活性または還元性雰囲気、典型的にはアルゴン中水素５％または純粋な水素を備えた炉の中に入れる。次いで、炉中のタービンブレードまたは翼を、温度８５０〜１１５０℃、好ましくは９００〜１１００℃、より好ましくは１０００〜１０５０℃に、１〜２４時間、好ましくは２〜１０時間、上記の保護雰囲気下で加熱する。この処理サイクルの後、部品を保護雰囲気下で常温に冷却する。次いで、ブレードまたは翼からアルミニウム被覆組成物を除去し、穏やかに叩くか、または振動させることにより、クロム被覆組成物を除去する。ブレードの表面から過剰の被覆組成物を除去した後、ベース材料に必要な機械的特性が達成されるように、ブレードを熱処理するのが好ましい。
【実施例】
【００３２】
タービンブレードの冷却穴に、クロム金属粉末３０重量％、か焼したアルミナ６９重量％および塩化アンモニウム１重量％を含むクロム被覆組成物を装填する。次いで、このブレードを、アルミニウム金属粉末１８重量％、クロム金属粉末４５重量％、および塩化アンモニウム０．５重量％を含み、残量がか焼したアルミナであるアルミニウム被覆組成物中に浸漬する。各種の被覆組成物およびタービンブレードを含むレトルトを、水素５％含有アルゴンの還元性雰囲気下で、炉中に入れる。次いで、炉中のタービンブレードを、上記の保護雰囲気下で１０４０℃に６時間加熱する。この処理サイクルの後、タービンブレードを保護雰囲気下で常温に冷却する。次いで、ブレードからアルミニウム被覆組成物を除去し、穏やかに叩いてクロム被覆組成物を除去する。ブレード表面から過剰の被覆組成物を除去した後、ベース材料に必要な機械的特性が達成されるように、ブレードを熱処理する。
【００３３】
得られたブレードは、その内側表面が、タイプII腐食に耐えるのに十分な厚さにクロムで被覆され、その外側表面が、タイプＩ腐食に耐えるのに十分な厚さにアルミニウムで被覆されている。
【図面の簡単な説明】
【００３４】
【図１】本発明の方法において使用するのに好適な、内側冷却通路を備えたタービンブレードを図式的に示す図である。
【特許請求の範囲】
【請求項１】
タービンブレードまたは翼の外側および内側表面を、それぞれアルミニウムおよびクロムで、実質的に同時に被覆する方法であって、
(i)アルミニウム、調整剤、活性化剤、および希釈剤を含んでなるアルミニウム被覆組成物を前記外側表面に塗布する工程、
(ii)クロム、活性化剤、および希釈剤を含んでなるクロム被覆組成物を前記内側表面に塗布する工程
を、いずれかの順で行い、続いて、
(iii)前記タービンブレードまたは翼を加熱し、外側表面上にアルミニウム層および内側表面上にクロム層を形成する工程を行う、ことを含んでなる、方法。
【請求項２】
前記アルミニウム被覆組成物が、アルミニウムを３〜２０重量％、調整剤を１０〜５０重量％、活性化剤を０．１〜２重量％、および希釈剤を少なくとも２０重量％を含んでなる、請求項１に記載の方法。
【請求項３】
アルミニウムと調整剤との重量比が、１：２〜１：５である、請求項２に記載の方法。
【請求項４】
前記クロム被覆組成物が、クロムを１５〜６５重量％、活性化剤を０．１〜５重量％、および希釈剤を少なくとも２０重量％を含んでなる、請求項１〜３のいずれか一項に記載の方法。
【請求項５】
前記クロム被覆組成物の粒子が、十分な量のクロム被覆組成物が前記内側表面に到達できるように、十分に小さな粒子径を有する、請求項１〜４のいずれか一項に記載の方法。
【請求項６】
前記粒子径が、クロム被覆組成物が２００μｍメッシュ以下を通過できるような粒子径である、請求項５に記載の方法。
【請求項７】
前記加熱が８５０〜１１５０℃で行われる、請求項１〜６のいずれか一項に記載の方法。
【請求項８】
前記加熱が１〜２４時間行われる、請求項１〜７のいずれか一項に記載の方法。
【請求項９】
前記タービンブレードまたは翼の外側表面に、追加被覆の前処理を行う、請求項１〜８のいずれか一項に記載の方法。
【請求項１０】
前記追加被覆がスプレーにより実施される、請求項９に記載の方法。
【請求項１１】
アルミニウムを３〜２０重量％、調整剤を１０〜５０重量％、活性化剤を０．１〜２重量％、および希釈剤を少なくとも２０重量％を含んでなり、アルミニウムと調整剤との重量比が１：２〜１：５である、アルミニウム被覆組成物。
【請求項１２】
クロムを１５〜６５重量％、活性化剤を０．１〜５重量％、および希釈剤を少なくとも２０重量％を含んでなり、クロム被覆組成物の粒子径が、前記クロム被覆組成物が２００μｍメッシュ以下を通過できるような粒子径である、クロム被覆組成物。
【請求項１】
タービンブレードまたは翼の外側および内側表面を、それぞれアルミニウムおよびクロムで、実質的に同時に被覆する方法であって、
(i)アルミニウム、調整剤、活性化剤、および希釈剤を含んでなるアルミニウム被覆組成物を前記外側表面に塗布する工程、
(ii)クロム、活性化剤、および希釈剤を含んでなるクロム被覆組成物を前記内側表面に塗布する工程
を、いずれかの順で行い、続いて、
(iii)前記タービンブレードまたは翼を加熱し、外側表面上にアルミニウム層および内側表面上にクロム層を形成する工程を行う、ことを含んでなる、方法。
【請求項２】
前記アルミニウム被覆組成物が、アルミニウムを３〜２０重量％、調整剤を１０〜５０重量％、活性化剤を０．１〜２重量％、および希釈剤を少なくとも２０重量％を含んでなる、請求項１に記載の方法。
【請求項３】
アルミニウムと調整剤との重量比が、１：２〜１：５である、請求項２に記載の方法。
【請求項４】
前記クロム被覆組成物が、クロムを１５〜６５重量％、活性化剤を０．１〜５重量％、および希釈剤を少なくとも２０重量％を含んでなる、請求項１〜３のいずれか一項に記載の方法。
【請求項５】
前記クロム被覆組成物の粒子が、十分な量のクロム被覆組成物が前記内側表面に到達できるように、十分に小さな粒子径を有する、請求項１〜４のいずれか一項に記載の方法。
【請求項６】
前記粒子径が、クロム被覆組成物が２００μｍメッシュ以下を通過できるような粒子径である、請求項５に記載の方法。
【請求項７】
前記加熱が８５０〜１１５０℃で行われる、請求項１〜６のいずれか一項に記載の方法。
【請求項８】
前記加熱が１〜２４時間行われる、請求項１〜７のいずれか一項に記載の方法。
【請求項９】
前記タービンブレードまたは翼の外側表面に、追加被覆の前処理を行う、請求項１〜８のいずれか一項に記載の方法。
【請求項１０】
前記追加被覆がスプレーにより実施される、請求項９に記載の方法。
【請求項１１】
アルミニウムを３〜２０重量％、調整剤を１０〜５０重量％、活性化剤を０．１〜２重量％、および希釈剤を少なくとも２０重量％を含んでなり、アルミニウムと調整剤との重量比が１：２〜１：５である、アルミニウム被覆組成物。
【請求項１２】
クロムを１５〜６５重量％、活性化剤を０．１〜５重量％、および希釈剤を少なくとも２０重量％を含んでなり、クロム被覆組成物の粒子径が、前記クロム被覆組成物が２００μｍメッシュ以下を通過できるような粒子径である、クロム被覆組成物。
【公表番号】特表２００７−５３４８４６（Ｐ２００７−５３４８４６Ａ）
【公表日】平成１９年１１月２９日（２００７．１１．２９）
【国際特許分類】
【出願番号】特願２００７−５１００９３（Ｐ２００７−５１００９３）
【出願日】平成１７年２月４日（２００５．２．４）
【国際出願番号】ＰＣＴ／ＧＢ２００５／０００３７４
【国際公開番号】ＷＯ２００５／１０６０６４
【国際公開日】平成１７年１１月１０日（２００５．１１．１０）
【出願人】（５０４１２４１３０）ディフュージョン アロイス リミテッド (1)
【出願人】（５０６３５３７９２）マン、ターボ、アクチエンゲゼルシャフト (1)
【氏名又は名称原語表記】ＭＡＮ ＴＵＲＢＯ ＡＧ
【Ｆターム（参考）】
【公表日】平成１９年１１月２９日（２００７．１１．２９）
【国際特許分類】
【出願日】平成１７年２月４日（２００５．２．４）
【国際出願番号】ＰＣＴ／ＧＢ２００５／０００３７４
【国際公開番号】ＷＯ２００５／１０６０６４
【国際公開日】平成１７年１１月１０日（２００５．１１．１０）
【出願人】（５０４１２４１３０）ディフュージョン アロイス リミテッド (1)
【出願人】（５０６３５３７９２）マン、ターボ、アクチエンゲゼルシャフト (1)
【氏名又は名称原語表記】ＭＡＮ ＴＵＲＢＯ ＡＧ
【Ｆターム（参考）】
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