説明

ターンシグナル操作装置

【課題】操作性が向上したターンシグナル操作装置を提供する。
【解決手段】ステアリングシャフト11に外嵌され、ステアリングシャフト11の軸心から外周方向に突出するキャンセル突部103を有するキャンセルカム10と、車両1の進行方向指示のためにターンシグナルスイッチを操作する操作レバー20と、操作レバー20に取付けられ、操作レバー20を中立位置N、右折方向指示位置R、または左折方向指示位置Lに保持する調節保持機構30と、調節保持機構30に取付けられ、方向指示位置R・Lに保持されているときにキャンセル突部103と接触可能に突出する爪部材40と、を備えるターンシグナル操作装置であって、ステアリングシャフト11には、その軸心方向に垂直な挿入孔11aが形成され、キャンセルカム10には、挿入孔11aの直径よりも長い長孔104が外周方向に形成され、挿入孔11aおよび長孔104に伝達軸50が挿入される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ターンシグナルの操作装置に関し、特に、ステアリングシャフトに外嵌されて、操作レバーの操作保持をキャンセルさせるキャンセルカムの技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、走行車両において、ステアリングシャフトの近傍に方向指示器(ターンシグナル)用の操作レバーが配置され、当該操作レバーを中立位置から右折または左折方向指示位置に操作することで、スイッチを「ON」として、走行車両に取付けられた右側または左側のターンシグナルを点滅させるようにしている。このような走行車両では、走行車両が右折または左折後に、操縦者が特別な操作をしなくてもターンシグナルの点滅を停止させるためのターンシグナルスイッチのキャンセル構造が構成されている。
【0003】
例えば、特許文献1に示すターンシグナルスイッチのキャンセル構造は、ステアリングシャフトの近傍に操作レバーの操作位置を保持するターンシグナルスイッチ(調節保持機構とスイッチを合わせた物)が配置され、操作レバーは、可動盤(ブラケット)を介してターンシグナルスイッチによって操作位置を保持されながら支持される。ステアリングシャフト側の調節保持機構には、変位することで調節保持機構を介して操作レバーの操作位置をニュートラル位置(中立位置)から右折方向または左折方向指示位置に保持させるためのキャンセルカム(爪部材)が配置される。一方、ステアリングシャフトには、キャンセルピン(キャンセル突部)を有する部材(キャンセルカム)が外嵌されており、当該キャンセルピンはステアリングシャフトの外方に突出するように形成される。このように構成されることで、操作レバーで指示した方向とは反対の方向のステアリング操作が行われると、爪部材を保持位置から自由位置へと移動させ、調節保持機構による操作レバーの右折または左折方向指示位置の保持を解除し、操作レバーを中立位置に戻すことでターンシグナルの点滅が終了するように構成される。
【0004】
このような構成のターンシグナルスイッチのキャンセル構造では、キャンセルカムのキャンセル突部が、爪部材のロック位置(保持位置)にある際、操作レバーを右折方向または左折方向指示位置に操作しようとしても、キャンセル突部と接触して爪部材がロック位置に移動することができない場合がある。
また、走行車両が右折または左折した後に、なかなか操作レバーが中立位置に戻らず、ターンシグナルの点滅を停止することが遅くなる場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−10406号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は以上の如き状況を鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、操作性が向上したターンシグナル操作装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0008】
即ち、請求項1においては、操向ハンドルが取付けられるステアリングシャフトと、前記ステアリングシャフトに外嵌され、前記ステアリングシャフトの軸心から外周方向に突出するキャンセル突部を有するキャンセルカムと、車両の進行方向指示のためにターンシグナルスイッチを操作する操作レバーと、前記操作レバーに取付けられ、前記操作レバーを中立位置、右折方向指示位置、または左折方向指示位置に保持する調節保持機構と、前記調節保持機構に取付けられ、右折方向指示位置または左折方向指示位置に保持されているときに前記キャンセル突部と接触可能に突出する爪部材と、を備えるターンシグナル操作装置であって、前記ステアリングシャフトには、その軸心方向に垂直な挿入孔が形成され、前記キャンセルカムには、前記挿入孔の直径よりも長い長孔が外周方向に形成され、前記挿入孔および前記長孔に伝達軸が挿入されるものである。
【0009】
請求項2においては、前記キャンセル突部は、前記キャンセルカムの軸心から半径方向に同じ角度をあけてキャンセルカムの外周に三箇所または四箇所形成されるものである。
【0010】
請求項3においては、前記キャンセル突部は、先端が曲面状に形成されるものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0012】
請求項1においては、操作レバーを中立位置から右折方向指示位置、または、左折方向指示位置に操作するときに、キャンセル突部に爪部材が当接しても、伝達軸と長孔の端部が接触するまでキャンセルカムが回動することができ、言い換えれば、長孔内で伝達軸が逃げるように回動し、爪部材とキャンセル突部とが移動(変位)を阻止されること無く移動し、調節保持機構によって操作レバーを右折方向指示位置、または、左折方向指示位置に保持することができる。つまり、調節保持機構によって操作レバーが右折方向指示位置、または、左折方向指示位置に保持されずに中立位置に戻ることを回避することができ、操作レバーの操作性が向上する。
【0013】
請求項2においては、請求項1の効果に加えて、旋回操作時において、爪部材とキャンセル突部との接触頻度を上げることができ、右折方向指示位置または左折方向指示位置にある操作レバーを中立位置に戻すタイミングを早くすることができる。したがって、無駄なターンシグナルの点滅を防止できる。
【0014】
請求項3においては、キャンセル突部に爪部材が接触した場合に、キャンセル突部の先端が曲面状に形成されているため、爪部材の移動する際の力を上手く逃がし、爪部材が移動しやすくなり、調節保持機構によって操作レバーが右折方向指示位置、または、左折方向指示位置に保持されることができる。つまり、操作レバーが右折方向指示位置、または、左折方向指示位置に保持されずに中立位置に戻ることを回避することができ、操作レバーの操作性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施の一形態に係るトラクタの右側面図。
【図2】同じく操作ハンドル周辺の構成を示す背面図。
【図3】キャンセル構造の構成を示す図1におけるA方向矢視一部断面図。
【図4】操作レバーが中立位置におけるキャンセル構造の構成を示す図。
【図5】操作レバーが右折方向指示位置におけるキャンセル構造の構成を示す図。
【図6】キャンセルカムがステアリングシャフトに外嵌された状態を示す斜視図。
【図7】キャンセルカムとステアリングシャフトを示す図。(a)キャンセルカムの軸心方向からみた平面図。(b)図7の(a)におけるC方向矢視図。(c)図7の(a)におけるB−B線断面図。(d)図7の(c)の状態から伝達軸を取り除いた状態を示す図。
【図8】右折方向指示位置と同方向にステアリングが回動している状態でのキャンセル構造の状態を示す図。
【図9】右折方向指示位置と反対方向にステアリングが回動している状態でのキャンセル構造の状態を示す図。
【図10】ロック状態の爪部材の位置にキャンセル突部がある状態を示す図。
【図11】回避した後の伝達軸と長孔の状態を示す図。
【図12】右折方向指示位置に操作レバーがある状態におけるキャンセル突部と爪部材が噛み合おうとする状態を示す図。
【図13】爪部材を調節保持機構に対して爪部材を二箇所配置した構成を示す図。
【図14】本発明の別実施形態に係る伝達軸とキャンセル突部との位置関係を示す図。(a)キャンセルカムの軸心方向からみた平面図。(b)図14の(a)におけるD方向矢視図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下では、本発明に係る走行車両の実施の一形態(第一実施形態)であるトラクタ1について説明する。
なお、本発明に係る走行車両は、本実施形態に係る作業車両であるトラクタ1に限るものではなく、農業車両や建設車両や産業車両等のその他の作業車両、および普通乗用自動車等、広く車両全般に適用することが可能である。
また、図中の矢印Fの方向を前方向と定義し、この前方に向かって左右及び後方を決定してトラクタ1の全体構成の説明を行う。
【0017】
図1に示すように、トラクタ1においては、機体フレーム2が長手方向を前後方向として配置され、その前部でフロントアクスルを介して左右一対の前輪4・4に支持されるとともに、その後部でリアアクスルを介して左右一対の後輪5・5に支持される。機体フレーム2の前部にはエンジン3が設けられ、ボンネット6によって覆われる。機体フレーム2の後部には動力伝達機構が設けられる。
【0018】
そして、エンジン3の動力が動力伝達機構で変速された後、フロントアクスルを経て左右一対の前輪4・4に伝達可能とされるとともに、前記リアアクスルを経て左右一対の後輪5・5に伝達可能とされる。エンジン3の動力が伝達されることによって、左右一対の前輪4・4及び左右一対の後輪5・5が回転駆動され、トラクタ1の走行が行われる。
【0019】
そして、エンジン3の動力が動力伝達機構で変速された後、機体フレーム2に対して装着された図示しない耕耘装置等の作業機にも伝達可能とされる。エンジン3の動力が伝達されることによって、前記作業機が駆動される。
【0020】
機体フレーム2の前後中途部から後部には、トラクタ1の運転および各種操作を行う運転操作部が設けられ、キャビン7によって覆われる。キャビン7内の後部には、座席8が配置され、座席8の側部には、主変速レバー、副変速レバー等の操作具が突設される。前記座席8前下方のステップ上方には、ブレーキペダルや主クラッチペダルやデフロックペダル等が配設されている。図1および図2に示すように、ボンネット6後方のキャビン7内の前部には、ステアリングコラム9が後上方に突設され、ステアリングコラム9にステアリングシャフト11が略上下方向に支持され、ステアリングシャフト11の上端に操向ハンドル12が固設される。また、前記ステアリングコラム9において、その上部に操作パネルが配置され、その側部に方向指示のための操作レバー20や、各種操作スイッチ等が設置される。キャビン7の前部両側及び後部両側の外側には、左右一対のターンシグナル71・71・71・71が配置される。
【0021】
操向ハンドル12は、その回動操作量に応じて左右一対の前輪4・4の操舵角を変更し、トラクタ1を操舵することができるように構成される。また、操縦者は操舵(右折または左折)する前に予め、操作レバー20を操作することによって、右側または左側のターンシグナル71・71を点滅させ、トラクタ1の予定進路を周囲に示すことができるように構成される。
【0022】
以下では、トラクタ1が右折または左折後に、操作レバー20を自動的に中立位置Nに戻すターンシグナルスイッチのキャンセル構造(以下において単に「キャンセル構造」と記す)について、既に周知となっている構成を説明する。また便宜上、キャンセル構造については図中に記載の上下前後左右の方向を用いて説明を行う。
【0023】
図3および図4に示すように、キャンセル構造は、主として、操作レバー20、調節保持機構(デテント機構)30、爪部材40、キャンセルカム10等によって構成される。
【0024】
操作レバー20は、右側または左側のターンシグナル71・71(図1参照)を点滅させるための操作具である。操作レバー20は、ステアリングコラム9の上右部内から外方へと突出するように配置される。操作レバー20のステアリングコラム9内側の一端は、調節保持機構30内に配置される。当該操作レバー20は、操縦者によって前方または後方に操作されることによって、その軸心が図4に二点鎖線で示す左折方向指示位置Lまたは右折方向指示位置Rに位置される。そうすることで、図示しないターンシグナルスイッチは操作される。
【0025】
調節保持機構30は、前記操作レバー20の操作位置を保持したり、トラクタ1が右折または左折後に操作レバー20を中立位置に戻したりするためのものである。
【0026】
調節保持機構30は、主として、ケース31、ブラケット32、第一付勢部材33、節度部材34、可動部材35、第二付勢部材36、第三付勢部材37等によって構成される。
【0027】
図1、図3および図4に示すように、ケース31は、ステアリングコラム9内であってステアリングシャフト11の外周近傍に所定間隔をあけて配置される。ケース31は、分割可能に形成され、さらに、ケース31の下部には、前記ターンシグナル71・71・71・71と電気的に接続され、右側または左側のどちら一側のターンシグナル71・71を点滅可能とするターンシグナルスイッチ(図示省略)が配置される。図4に示すように、ケース31の前後両内側面には、節度谷部31a・31a・31aと節度山部31b・31bとが交互に左右方向に形成されることでなる節度溝が形成される。
【0028】
ブラケット32は、操作レバー20の一端に固設され、操作レバー20を調節保持機構30のケース31に対して回動可能に支持するためのものである。ブラケット32は、ステアリングシャフト11の軸心方向と略同じ軸心方向の支点軸32aが上方に突設される。支点軸32aは、ケース31に回動可能に支持される。
【0029】
ブラケット32のステアリングシャフト11側には、ガイド孔が形成される。当該ガイド孔のステアリングシャフト11側には、ガイド谷部32b・32bが前後方向に並列するように形成される。このガイド谷部32b・32b間には、操作レバー20側へ突出するガイド山部32cが形成される。
【0030】
さらに、ブラケット32の左右中央の前部および後部には、後述する可動部材35を支持する支持部32d・32dが突出して所定の間隔をあけて形成される。ブラケット32の前後中央で支点軸32aの左方側には、後述する第二付勢部材36の一端を支持するためのバネ受部32eが形成される。
【0031】
ブラケット32の前後外側面には、腕部32f・32fが節度溝(節度山部31b、節度谷部31a)側に突設され、当該腕部32f・32fの先端側には開口が形成されている。腕部32fの開口には、圧縮コイルバネで構成された第一付勢部材33が収納され、さらに当該第一付勢部材33の節度溝側の先端に節度部材34が配置される。したがって、節度部材34は第一付勢部材33の付勢力によって節度溝(節度谷部31a、節度山部31b)に圧接するように構成される。
【0032】
可動部材35は、後述する爪部材40から押圧され、爪部材40の押圧力をブラケット32に伝えるためのものである。可動部材35は、開放側がステアリングシャフト11側に向うにつれて拡開された略「U」字状に形成される。可動部材35の拡開側の内側面は、当接面35aとする。当該当接面35aの左右中途部からそれぞれ係止突起35b・35bは内方へと突設される。当該係止突起35b・35bは、爪部材40が可動部材35を押圧した際に、爪部材40が支点軸32aの方向へ移動することを規制する突起である。さらに、可動部材35の前後側面の右側には、係合部35cが形成され、前記支持部32d・32dと係合可能に形成される。
【0033】
第二付勢部材36は、可動部材35を爪部材40側に押圧するためのものである。第二付勢部材36は、圧縮コイルバネによって構成され、その一端は、可動部材35の操作レバー20側の側面に固設される。第二付勢部材36の他端は、バネ受部32eに接触するように配置される。
【0034】
爪部材40は、前記調節保持機構30と相互に作用して、操作レバー20を左折方向指示位置Lまたは右折方向指示位置Rに保持したり、操作レバー20を中立位置Nとしたりするためのものである。爪部材40は、接触部41、押圧部42およびガイド軸43が一体的となるように形成される。爪部材40は、図4に示す「フリー位置」、図5に示す「ロック位置」に移動する。ここで「フリー位置」とは、操作レバー20を中立位置Nとするように調節保持機構30内を変位させる爪部材40の位置である。また、「ロック位置」とは、操作レバー20を左折方向指示位置Lまたは右折方向指示位置Rに保持可能となるように調節保持機構30内を変位させる爪部材40の位置である。
【0035】
接触部41は、ステアリングシャフト11側に突出し、当該ステアリングシャフト11と共に回動するキャンセルカム10(詳細には、キャンセル突部103・103・103)と係合する部分である。
【0036】
押圧部42は、可動部材35側に突出する略円形状に形成され、可動部材35の当接面35aと接触することで、可動部材35を介して第二付勢部材36の付勢力を受けながらブラケット32を押圧する部分である。
【0037】
ガイド軸43は、接触部41と押圧部42の間の部分に形成され、その軸心方向をステアリングシャフト11の軸心と略同じとなるように上方および下方へ突出するように配置される。ガイド軸43は、ケース31の下側の長穴(図示省略)およびブラケット32のガイド孔(ガイド山部32c、ガイド谷部32b・32b)に摺動可能に支持される。
【0038】
第三付勢部材37は、板バネによって構成され、その両端をケース31の前後内面に配置された固定部材37a・37aによってケース31に固定される。第三付勢部材37の前後中央部は、前記ガイド軸43の上部に固設される。
【0039】
したがって、第三付勢部材37が接触部41の操作レバー20側とガイド軸43と係合することで、爪部材40はステアリングシャフト11側に付勢される。さらに、爪部材40は、第二付勢部材36が可動部材35を介して押圧部42を押圧することで、ステアリングシャフト11側に付勢される。したがって、爪部材40のガイド軸43は、ガイド山部32c(またはガイド谷部32b・32b)に係止されると共に、その斜面を摺動可能に支持される。
【0040】
図4および図6に示すキャンセルカム10は、爪部材40と接触することで調節保持機構30の保持状態を解除させるためのものである。図3および図6に示すようにキャンセルカム10は、操向ハンドル12の近傍のステアリングシャフト11に外嵌される。キャンセルカム10は、図4から図7に示すように、カム本体101、フランジ部102、および三つのキャンセル突部103によって構成され、それらは一体的に形成される。
【0041】
カム本体101は、略筒状に形成され、その上部内径D1は、下部内径D2よりも大きくなるように形成される。
【0042】
フランジ部102は、カム本体101の下部外周にリング状に形成される。
【0043】
キャンセル突部103は、キャンセルカム10の軸心(中心)から半径方向に同じ角度(本実施形態において120度)をあけて、フランジ部102の外周面から突設される。キャンセル突部103は、その先端(外周側)がその軸心方向から見て曲面状となるように形成される。
【0044】
カム本体101の上部には、二つの長孔104・104がカム本体101の直径方向を貫通するように形成される。当該長孔104は、カム本体101の外周方向を長手方向とする開孔である。さらに、この長孔104・104に対応するように、ステアリングシャフト11には、挿入孔11aがステアリングシャフト11の軸心方向に対して直交する方向に形成される。
【0045】
伝達軸50は、キャンセルカム10にステアリングシャフト11の回転力を伝達するためのものである。伝達軸50は、ロールピンによって構成される。伝達軸50は、キャンセルカム10の長孔104・104とステアリングシャフト11の挿入孔11aとを略一致させた状態で挿入される。
【0046】
前記挿入孔11aの直径は伝達軸50の直径より若干小さく構成され、挿入孔11aに伝達軸50を打ち込むことにより抜け止めされる。
【0047】
以下では、上記構成のキャンセルカム10によるキャンセル作動について説明する。
【0048】
図4に示す操作レバー20の中立位置Nの状態において、調節保持機構30内は以下のようになっている。
【0049】
節度部材34・34は、腕部32f・32f内の第一付勢部材33・33の付勢力によって左右中央の節度谷部31a・31aをそれぞれ圧接する。
他方、爪部材40の押圧部42は、可動部材35を介して第二付勢部材36の付勢力を受け、さらに、爪部材40のガイド軸43は第三付勢部材37の付勢力を受ける。したがって、爪部材40は、操作レバー20の軸心方向の付勢力を受けることで、爪部材40のガイド軸43は、ブラケット32のガイド山部32cで接触し、キャンセルカム10の回動軌跡Tよりも外に接触部41が位置する。つまり爪部材40は、「フリー位置」にある。
【0050】
操作レバー20は、この中立位置Nの状態から支点軸32aを中心として前方に回動操作されると、調節保持機構30によって左折方向指示位置Lに保持される。また、操作レバー20は、この中立位置Nの状態から支点軸32aを中心として後方に回動操作されると、調節保持機構30によって右折方向指示位置Rに保持される。
【0051】
ここで、本実施形態のターンシグナルスイッチのキャンセル構造において、調節保持機構30は、操作レバー20が中立位置Nであるとき、前後対称に構成されている。よって、便宜上、操作レバー20を左折方向指示位置Lにした場合の作動の説明を省略し、操作レバー20を右折方向指示位置Rにした場合のみの説明をおこなう。
【0052】
図4に示す中立位置Nの操作レバー20は、右折方向指示位置Rとするため、支点軸32aを中心として後方に回動操作される。このとき、左右中央の節度谷部31a・31aに係合した節度部材34は、回動方向に隣接する節度山部31bを越えてさらに隣接する節度谷部31aに移り、当該節度谷部31aを圧接しながら図5に示す位置で係止される。他方、ブラケット32のガイド山部32cが中立位置Nにおける操作レバー20の軸心からずれるため、爪部材40は第三付勢部材37の付勢力により、ガイド軸43がガイド山部32cからガイド谷部32bへと摺動して、ガイド谷部32bに位置する。そして、爪部材40の接触部41は、ステアリングシャフト11と共に回転するキャンセルカム10の回動軌跡Tの内側(キャンセルカム10側)に移動する。つまり、爪部材40は図5に示す「ロック位置」に移動する。この状態において、爪部材40の押圧部42は、可動部材35の一方(後方)の当接面35aと係止突起35bに圧接する。
【0053】
この調節保持機構30内の各部材および爪部材40の作動によって、作動杆である前部のガイド軸43(図5の紙面奥側のガイド軸43)が、ターンシグナルスイッチをスライドさせることで「ON」とし、図1に示すトラクタ1の右側のターンシグナル71・71を点滅させる。
【0054】
その後、操縦者が操向ハンドル12を更に回転操作することでステアリングシャフト11が右回転し、トラクタ1は右折する。ここで、ステアリングシャフト11の右回転とともに図5に示すキャンセルカム10が図8に示すX方向すなわち右方向に回転する。すると、爪部材40の接触部41は、キャンセル突部103と接触し、キャンセルカム10の右回転に従動して爪部材40は、ガイド軸43を中心として反時計方向(左方向)に回転する。このとき、押圧部42の回転を規制するものがないため、接触部41はキャンセル突部103の回転に対して抵抗することなく回転する。接触部41とキャンセル突部103の接触が解消された直後は、爪部材40は右方向に回転し、再び図5に示す「ロック位置」の状態となる。したがって、爪部材40は可動部材35のどの箇所も押圧することがないため、調節保持機構30内の可動部材35およびブラケット32は、操作レバー20を右折方向指示位置Rに保持したまま中立位置Nへ復帰させることがない。
【0055】
トラクタ1の右折が終了すると、直進するためにステアリングシャフト11は前記と逆方向に(元の位置に戻るように)回転する。この回転とともにキャンセルカム10が図9に示すY方向すなわち左方向に回転すると、爪部材40の接触部41がキャンセル突部103と接触し、爪部材40は、ガイド軸43を中心として右方向に回転する。そして爪部材40の押圧部42が、可動部材35との接触部分である当接面35aを押圧する。それに伴って、可動部材35は、他方側の係合部35cおよび支持部32dとを支点とし、可動部材35の一方側が支持部32dを押圧する。一方側の支持部32dが押圧されることで、ブラケット32は、支点軸32aを中心として左方向に回転する。爪部材40のガイド軸43は、ガイド孔のガイド谷部32bを摺動しながらガイド山部32cに係合する。したがって、爪部材40は「フリー位置」に移動する。このとき、節度部材34は、第一付勢部材33の付勢力に抗して節度山部31bを越え左右中央の節度谷部31aへ移動する。節度部材34は、第一付勢部材33の付勢力によって節度谷部31aを圧接する。そして再び操作レバー20は、図5に示す中立位置Nに戻り、ガイド軸43によって、ターンシグナルスイッチを「OFF」とする。そして、トラクタ1の右折ターンシグナル71・71の点滅が終了する。
【0056】
次に、図10に示すように爪部材40の「ロック位置」にキャンセルカム10のキャンセル突部103が位置している場合での本実施形態のキャンセルカム構造の作動について説明する。
【0057】
操作レバー20が中立位置Nから右折方向指示位置Rに移行するとき、爪部材40は、回動軌跡T内へと移動する。キャンセルカム10のキャンセル突部103が、爪部材40の「ロック位置」にある場合、キャンセル突部103が爪部材40の移動を阻害して、爪部材40が「ロック位置」に移動することができず、操作レバー20は中立位置Nへ戻ってしまう。
【0058】
しかし、本実施形態のキャンセルカムにおいては、爪部材40が「フリー位置」から「ロック位置」へと移動するときに、キャンセル突部103と爪部材40の接触部41が接触する。そして、爪部材40は、その移動する方向にキャンセル突部103を押圧するが、キャンセル突部103の一端(先端)が曲面状に形成されているため、この押圧力を回避するように、キャンセルカム10が回転する。
【0059】
このとき、カム本体101に形成された長孔104と伝達軸50とで形成される隙間(空間)によって、ステアリングシャフト11および伝達軸50の位置はそのままで、キャンセルカム10のみが回動可能となっている。つまり、爪部材40の押圧力によって、図11に示すようにキャンセルカム10は、伝達軸50と長孔104が接触するまで回動することができ、ステアリングシャフト11に対して回動することができる。また、このキャンセルカム10は、カム本体101の下部の内径D2が、上部の内径D1よりも大きく形成されていることで(図7の(d)参照)、ステアリングシャフト11との摩擦が軽減され、ステアリングシャフト11に対して回動しやすく構成されている。したがって、キャンセル突部103が「ロック位置」にある場合であっても、キャンセル突部103によって爪部材40の「ロック位置」への移動が阻止されることなく、調節保持機構30が操作レバー20を右折方向指示位置Rに保持することが可能となる。
【0060】
また、図12に示すように、操作レバー20が右折方向指示位置R(または左折方向指示位置L)に保持された状態において、爪部材40とキャンセル突部103の動きが同期して噛み合うことがある。この場合にも、長孔104がキャンセルカム10に形成されることでこの噛み合いを回避することが可能となる。
【0061】
図5に示す操作レバー20が右折方向指示位置Rに保持されている状態において、図8に示すステアリングシャフト11とともにキャンセルカム10が右回転することで、爪部材40はキャンセル突部103との接触と接触解除とを繰り返し、爪部材40が揺動する不安定な状態となる。このとき、キャンセルカム10のキャンセル突部103と爪部材40の動きが同期して、図12に示すような両方が噛み合うことがある。この場合、本実施形態のキャンセルカム構造では、爪部材40とキャンセル突部103が噛み合おうとしたときに、長孔104と伝達軸50との隙間の分だけ、キャンセルカム10がステアリングシャフト11に対して右回転する(図11の長孔104と伝達軸50の位置を参照)。つまり、爪部材40とキャンセル突部103が噛み合うとする力をキャンセルカムの回転力とすることができ、爪部材40とキャンセルカム10との噛み合いを回避することができる。
【0062】
なお、キャンセル突部103をキャンセルカム10に対して五箇所以上設けると、爪部材40と接触する頻度が高くなり、爪部材40が揺動して不安定になりやすくなったり、操作レバー20が中立位置Nに復帰するタイミングが早すぎ、操縦者の違和感となったりする。そのため、本実施形態のように、キャンセル突部103をキャンセルカム10に対して三箇所設ける、または、軸心から半径方向に同じ角度(90度)毎に四箇所設けることが望ましい。
【0063】
なお、調節保持機構30に対して爪部材40を一つで構成しているが限定するものではなく、図13に示すように、調節保持機構130に対して爪部材140を二つ配置して構成してもよい。ただし、爪部材140の「ロック位置」は図中において二点鎖線で表され、「フリー位置」は実線で表している。また、長孔104の軸心を対称軸として、キャンセル突部103を左右対称となるように配置したが限定するものではなく、図14に示すように、長孔204の軸心を対称軸として、キャンセル突部203・203・203を非対称に配置してもよい。
【0064】
以上の如く、本実施形態のターンシグナル操作装置は、
操向ハンドル12が取付けられるステアリングシャフト11と、
前記ステアリングシャフト11に外嵌され、前記ステアリングシャフト11の軸心から外周方向に突出するキャンセル突部103(203)を有するキャンセルカム10と、
車両(トラクタ1)の進行方向指示のためにターンシグナルスイッチを操作する操作レバー20と、
前記操作レバー20に取付けられ、前記操作レバー20を中立位置N、右折方向指示位置R、または左折方向指示位置Lに保持する調節保持機構30(130)と、
前記調節保持機構30(130)に取付けられ、右折方向指示位置Rまたは左折方向指示位置Lに保持されているときに前記キャンセル突部103(203)と接触可能に突出する爪部材40(140)と、を備えるターンシグナル操作装置であって、
前記ステアリングシャフト11には、その軸心方向に垂直な挿入孔11aが形成され、
前記キャンセルカム10(210)には、前記挿入孔11aの直径よりも長い長孔104(204)が外周方向に形成され、
前記挿入孔11aおよび前記長孔104(204)に伝達軸50が挿入されるものである。
【0065】
このように構成することにより、操作レバー20を中立位置Nから右折方向指示位置R、または、左折方向指示位置Lに操作するときに、キャンセル突部103(203)に爪部材40(140)が当接しても、伝達軸50と長孔104(204)の端部が接触するまでキャンセルカム10(210)が回動することができ、言い換えれば、長孔104(204)内で伝達軸50が逃げるように回動し、爪部材40(140)とキャンセル突部103(203)とが移動を(変位)阻止されること無く移動し、調節保持機構30(130)によって操作レバー20を右折方向指示位置R、または、左折方向指示位置Lに保持することができる。つまり、調節保持機構30(130)が右折方向指示位置R、または、左折方向指示位置Lに保持されずに中立位置Nに戻ることを回避することができ、操作レバー20の操作性が向上する。
【0066】
本実施形態のキャンセル突部103(203)は、前記キャンセルカム10(210)の軸心から半径方向に同じ角度(120度または90度)をあけてキャンセルカム10(210)の外周に三箇所または四箇所形成されるものである。
【0067】
このように構成することにより、旋回操作時において、爪部材40(140)とキャンセル突部103(203)の接触頻度を上げることができ、右折方向指示位置Rまたは左折方向指示位置Lにある操作レバー20を中立位置Nに戻すタイミングを早くすることができる。したがって、無駄なターンシグナル71・71の点滅を防止できる。
【0068】
本実施形態のキャンセル突部103は、先端が曲面状に形成されるものである。
【0069】
このように構成することにより、キャンセル突部103(203)に爪部材40(140)が接触した場合に、キャンセル突部103(203)の先端が曲面状に形成されているため、爪部材40(140)の移動する際の力を上手く逃がし、爪部材40(140)が移動しやすくなり、調節保持機構30(130)によって操作レバー20が右折方向指示位置R、または、左折方向指示位置Lに保持されることができる。つまり、操作レバー20が右折方向指示位置R、または、左折方向指示位置Lに保持されずに中立位置Nに戻ることを回避することができ、操作レバー20の操作性が向上する。
【符号の説明】
【0070】
1 トラクタ
10 キャンセルカム
103 キャンセル突部
104 長孔
11 ステアリングシャフト
11a 挿入孔
12 操向ハンドル
20 操作レバー
30 調節保持機構
40 爪部材
50 伝達軸
71 ターンシグナル
130 調節保持機構
140 爪部材
210 キャンセルカム
203 キャンセル突部
204 長孔
N 中立位置
L 左折方向指示位置
R 右折方向指示位置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
操向ハンドルが取付けられるステアリングシャフトと、
前記ステアリングシャフトに外嵌され、前記ステアリングシャフトの軸心から外周方向に突出するキャンセル突部を有するキャンセルカムと、
車両の進行方向指示のためにターンシグナルスイッチを操作する操作レバーと、
前記操作レバーに取付けられ、前記操作レバーを中立位置、右折方向指示位置、または左折方向指示位置に保持する調節保持機構と、
前記調節保持機構に取付けられ、右折方向指示位置または左折方向指示位置に保持されているときに前記キャンセル突部と接触可能に突出する爪部材と、を備えるターンシグナル操作装置であって、
前記ステアリングシャフトには、その軸心方向に垂直な挿入孔が形成され、
前記キャンセルカムには、前記挿入孔の直径よりも長い長孔が外周方向に形成され、
前記挿入孔および前記長孔に伝達軸が挿入されることを特徴とするターンシグナル操作装置。
【請求項2】
前記キャンセル突部は、前記キャンセルカムの軸心から半径方向に同じ角度をあけてキャンセルカムの外周に三箇所または四箇所形成されることを特徴とする、請求項1に記載のターンシグナル操作装置。
【請求項3】
前記キャンセル突部は、先端が曲面状に形成されることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載のターンシグナル操作装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−140104(P2012−140104A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−668(P2011−668)
【出願日】平成23年1月5日(2011.1.5)
【出願人】(000006781)ヤンマー株式会社 (3,810)
【Fターム(参考)】