説明

ターンシグナル点灯制御装置

【課題】ターンシグナル点灯制御装置において、車線変更時に、より適切なタイミングでターンシグナルを自動消灯させることにある。
【解決手段】車線変更時のターンシグナル2,3の点灯を契機として、所定時間間隔毎に車速V(t)に応じた距離の第1〜第3のしきい値Ka〜Kcが決定される。従って、車線変更時のターンシグナル2,3の点灯後において、車両が加減速した場合であっても、その都度の車速V(t)に応じた第1〜第3のしきい値Ka〜Kcが再決定される。これにより、車両の加減速の影響を受けることなく、車線変更において、適切なタイミングでターンシグナル2,3が消灯される。また、一般的に車速V(t)に応じて車線変更に要する走行距離である移動軌跡距離X(t)は変わる。よって、車速V(t)に応じて第1〜第3のしきい値Ka〜Kcを設定することで、いっそう適切なタイミングでターンシグナル2,3が消灯される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のターンシグナルの点灯制御に係り、詳しくは点灯しているターンシグナルを自動消灯させるターンシグナル点灯制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両には、右左折や進路変更の方向を周囲に示すターンシグナルが備えられている。運転席のステアリングホイールの近傍に備えられるターンレバーの操作に応じて、ターンシグナル点灯制御装置はターンシグナルの点灯及び消灯の制御を行う。そして、ターンシグナル点灯制御装置は、車両の右左折もしくは車線変更が完了したとき、ターンシグナルを消灯させる制御を行う。例えば、特許文献1に記載のターンシグナル点灯制御装置は、ターンシグナルの点灯から時間のしきい値を経過したとき、車線変更が完了したと判断し、ターンシグナルを消灯させる。具体的には、図11に示すように、例えば、車線変更に係るターンレバーの操作がされたとき、走行中の車両は位置P101に存在する。このとき、ターンシグナル点灯制御装置は、しきい値を位置P101における車速に基づき決定する。ここで、車速が大きければ、車線変更の完了までに要する時間が少ない。すなわち、車線変更の完了までに要する時間は車速に反比例するため、位置P101における車速が大きければ、その分、しきい値は短く設定される。このように、位置P101における車速に応じて適切にしきい値が設定されることで、ターンシグナルが点灯してからの時間がしきい値を経過するときに、車線変更が完了する位置P102に車両が到達してターンシグナルが消灯される。これにより、運転者は車線変更後にターンレバーを戻す操作を行うことなく、ターンシグナルが自動消灯されるため、利便性が高い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−105674号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に記載のターンシグナル点灯制御装置において、上記しきい値は、位置P101における車速に基づき、車線変更が完了する位置P102に到達する好適なタイミングでターンシグナルが消灯するように設定される。しかし、上記特許文献1に記載のターンシグナル点灯制御装置においては、位置P101から一定速度で走行することを前提としている。このため、位置P101から車両が加減速しながら車線変更した場合には、位置P102と異なる位置、すなわち好適でないタイミングでターンシグナルが消灯されることになる。具体的には、図11に示すように、位置P101から車両が加速した場合には、位置P102を過ぎた位置P103に到達するタイミングにおいてターンシグナルが消灯される。位置P101から車両が減速した場合には、位置P102に至らない位置P104に到達するタイミングにおいてターンシグナルが消灯される。このように、好適でないタイミングにおいて、ターンシグナルが消灯されるおそれがある。
【0005】
本発明の目的は、車線変更時において、より適切なタイミングにてターンシグナルを自動消灯させることができるターンシグナル点灯制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以下、上記目的を達成するための手段及びその作用効果について説明する。
請求項1に記載の発明は、運転席近傍に設けられる操作手段が操作された際、ターンシグナルをそれまでの消灯状態から点灯状態に切り換え、車線変更に係る前記操作手段の操作を通じたターンシグナルの点灯が実行された場合には、車線変更が完了した旨判断されるときに前記ターンシグナルを自動消灯するターンシグナル点灯制御装置において、車両に設けられる車速センサを通じて取得される車速に基づき前記ターンシグナル点灯からの車両の移動軌跡の距離を算出する移動軌跡距離算出手段と、車線変更時の前記ターンシグナル点灯を契機として、所定時間間隔毎に前記車速に応じた距離のしきい値を決定するしきい値決定手段と、前記移動軌跡距離が前記しきい値以上となったときに第1の条件が満たされたとして、車線変更が完了した旨判断して点灯状態にある前記ターンシグナルを消灯状態に切り換える消灯判断実行手段と、を備えたことをその要旨としている。
【0007】
同構成によれば、車線変更時のターンシグナル点灯を契機として、所定時間間隔毎に車速に応じた距離のしきい値が決定される。従って、車線変更時のターンシグナル点灯後において、車両が加減速した場合であっても、その都度車速に応じたしきい値が再決定される。これにより、車線変更において、車両の加減速の影響を受けることなく、適切なタイミングでターンシグナルが消灯される。また、一般的に車速に応じて車線変更に要する走行距離は変わる。よって、車速に応じてしきい値を設定することで、いっそう適切なタイミングでターンシグナルが消灯される。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のターンシグナル点灯制御装置において、前記車両が進行方向を変える際に該車両に発生する回転角速度を検出する回転角速度検出手段と、前記回転角速度検出手段の検出値を基に、進行方向を変える際の単位時間当たりの方位の変化量として車両方位角変化量を算出する車両方位角変化量算出手段と、前記車両方位角変化量算出手段により算出される前記車両方位角変化量を基に、前記車両が進行方向を変える際にとる車両方位角を算出する車両方位角算出手段と、前記車両方位角算出手段により算出される前記車両方位角を基に、前記車両が進行方向を変える際にとる横方向への移動距離を算出する横方向移動距離算出手段と、を備え、前記消灯判断実行手段は、前記第1の条件が満たされたうえで、前記横方向への移動距離が車線間距離に基づき設定されるしきい値以上となるときに、車線変更が完了した旨判断して点灯状態にある前記ターンシグナルを消灯状態に切り換えることをその要旨としている。
【0009】
同構成によれば、移動軌跡距離に加えて横方向移動距離がしきい値以上となったときにターンシグナルが消灯される。ここで、しきい値は車線間距離に基づき設定されているところ、横方向移動距離がしきい値以上となったときには、車両の車線変更は完了したと判断可能となる。これにより、車両の車線変更が完了する前に前記ターンシグナルが消灯されることが防止され、いっそう適切なタイミングでターンシグナルが消灯される。
【0010】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載のターンシグナル点灯制御装置において、前記操作手段はステアリングコラムに設けられ、基端部を中心に中立位置から上下方向に所定角度まで傾動操作可能なターンレバーであって、前記ターンレバーが中立位置から同位置を基準とする上下方向に設定された右左折操作角度まで傾動操作された旨検出されるとき、右左折に係る操作が行われたとして前記ターンシグナルを点灯し、前記ターンレバーが中立位置から同位置を基準とする上下方向に設定された前記右左折操作角度より小さい角度である車線変更操作角度まで傾動操作された旨検出されるとき、車線変更に係る操作が行われたとして前記ターンシグナルを点灯することをその要旨としている。
【0011】
同構成によれば、ターンレバーの中立位置からの操作角度により車線変更及び右左折の何れに係る操作であるかの切り分けが可能となる。これにより、同一のターンレバーを操作することで、車線変更及び右左折時のターンシグナル点灯に係る操作を行えるため、利便性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ターンシグナル点灯制御装置において、より適切なタイミングにてターンシグナルを自動消灯させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本実施形態におけるターンレバーの取り付け状態を示す模式図。
【図2】本実施形態におけるターンシグナル点灯制御装置の具体的構成を示すブロック図。
【図3】本実施形態における車両が車線変更する際の横方向移動距離の変化を示す説明図。
【図4】本実施形態における車両方位角及び横方向移動距離の算出方法の概念を示す説明図。
【図5】本実施形態における車両が車線変更する際の移動軌跡距離の変化を示す説明図。
【図6】本実施形態における車両が車線変更する際の各車速における移動軌跡を示す説明図。
【図7】本実施形態における車速に応じた各しきい値を示すグラフ。
【図8】本実施形態におけるターンシグナルを消灯する際に実行されるフローチャート。
【図9】本実施形態における車線変更中のしきい値の再決定の態様を示す説明図。
【図10】他の実施形態における車速に応じたしきい値を示すグラフ。
【図11】従来の車線変更時のターンシグナルの消灯タイミングを示した説明図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を具体化したターンシグナル点灯制御装置の一実施形態を図1〜図9に従って説明する。
図1に示すように、車両1の車体左右には、車両1の進行方向(例えば右折、左折、車線変更等)を周囲に通知する点灯具として左右一対のターンシグナル2,3が設けられている。これらターンシグナル2,3は、例えばLED(Light Emitting Diode)等からなり、車体前後の両方に設けられている。なお、左右一対のターンシグナル2,3のうち右側のものを右側ターンシグナル2とし、左側のものを左側ターンシグナル3とする。
【0015】
車内においてステアリングホイール(ハンドル)4の近傍位置には、これらターンシグナル2,3を点灯させる際に操作される操作手段に相当するターンレバー5が設けられている。ターンレバー5は、レバー軸の基端を支点として左右方向(上下方向)に2段階の傾倒操作可能である。
【0016】
すなわち、図1に示すように、ターンレバー5の中立位置の下方向には同中立位置側から右車線変更操作角度領域R2及び右折操作角度領域R1が隣接して設定され、ターンレバー5の中立位置の上方向には同中立位置側から左車線変更操作角度領域L2及び左折操作角度領域L1が隣接して設定される。
【0017】
ターンレバー5が中立位置を基準として下側に右折操作角度領域R1まで倒されると右側ターンシグナル2が点灯し、これとは逆に中立位置を基準としてターンレバー5が上側に左折操作角度領域L1まで倒されると左側ターンシグナル3が点灯する。
【0018】
また、ターンレバー5が中立位置を基準として下側に右折操作角度領域R1より中立位置側にある右車線変更操作角度領域R2まで倒されると右側ターンシグナル2が点灯する。右側ターンシグナル2は、車線変更の完了後に自動消灯する。
【0019】
また、ターンレバー5が中立位置を基準として上側に左折操作角度領域L1より中立位置側にある左車線変更操作角度領域L2まで倒されると左側ターンシグナル3が点灯する。左側ターンシグナル3は、車線変更の完了後に自動消灯する。
【0020】
ターンレバー5は、中立位置を中心にして両車線変更操作角度領域R2,L2の位置までの間においては、傾動操作後にターンレバー5から手が離されると、自動で中立位置に復帰するモーメンタリ式のレバーとして動作する。また、ターンレバー5は、右左折操作角度領域R1,L1においては、その操作位置が保持されるステーショナリー式のレバーとして動作する。従って、運転者はターンレバー5を上下方向に傾動操作した後、同ターンレバー5が保持された場合には、右左折に係るターンシグナル2,3の点灯が実行された旨を認識する。また、運転者は上下方向に傾動操作した後、ターンレバー5が中立位置に復帰した場合には車線変更に係るターンシグナル2,3の点灯が実行された旨を認識する。このように、ターンレバー5の動作方式としてモーメンタリ式及びステーショナリー式を並存させることで、運転者は容易に操作内容を認識でき、ターンレバー5の操作性を向上させることができる。
【0021】
なお、ターンレバー5が右左折操作角度領域R1,L1に至るまでに、車線変更操作角度領域R2,L2を通過することになるが、この場合には、ターンレバー5が右左折操作角度領域R1,L1に至ったときの右左折に係る操作が優先されて、車線変更におけるターンシグナル2,3の自動消灯機能は発揮されない。
【0022】
上述のように、ターンレバー5が左折操作角度領域L1まで傾動操作されたときには、左側ターンシグナル3が点灯状態となるとともに、同ターンレバー5がその操作位置に保持される。その状態において、左折するにあたりステアリングホイール4が回動操作された後、所定角度だけ戻し操作されるとターンレバー5に設けられる図示しない解除機構により、ターンレバー5が中立位置に戻る。これにより、左側ターンシグナル3が消灯する。右折の場合も同様に、ステアリングホイール4の戻し操作によりターンレバー5が中立位置に復帰して右側ターンシグナル2が消灯する。
【0023】
図2に示すように、車両1には、ターンシグナル2,3の点灯及び消灯の動作を管理する制御回路7が設けられている。制御回路7は、例えばCPU(Central Processing Unit)やメモリ等の電子部品からなり、ターンシグナル2,3の点灯消灯の切り換えを制御する。
【0024】
制御回路7には、ターンレバー5の操作位置を検出する位置検出スイッチ8が接続されている。位置検出スイッチ8は、ターンレバー5が何れの操作角度領域R1,R2,L1,L2に位置しているかを検出し、その検出結果を制御回路7に出力する。
【0025】
制御回路7には、車両1の走行速度(車速V(t))を検出する車速センサ10が接続されている。車速センサ10は、例えば車輪の回転数を検出するロータリエンコーダ等からなり、車速V(t)に応じた車速検出信号を制御回路7に逐次出力する。従って、制御回路7は、車速センサ10が検出した車速V(t)を取得可能となる。
【0026】
また、制御回路7には、車両1に発生する回転角速度ω(t)を検出する回転角速度検出センサ9が接続されている。この回転角速度ω(t)は、例えば図3に示すように、車両1が車線変更して進行方向が変わる際に、同車両1に発生する物性値である。回転角速度検出センサ9は、例えばヨーレートセンサからなり、車両1に発生する回転角速度ω(t)に応じた回転角速度検出信号を制御回路7に逐次出力する。従って、制御回路7は、回転角速度検出センサ9の検出した回転角速度ω(t)を取得可能となる。
【0027】
制御回路7は、ドライバとして動作する出力回路11を介して左右一対のターンシグナル2,3と接続されている。制御回路7は、位置検出スイッチ8から得るスイッチ信号、回転角速度検出センサ9からの角速度検出信号、車速センサ10からの車速検出信号等の各種信号を基に、出力回路11を通じてターンシグナル2,3の点灯及び消灯を制御する。
【0028】
制御回路7には、ターンシグナル2,3の点灯動作を管理する点灯実行部12が設けられている。点灯実行部12は、位置検出スイッチ8から入力されるスイッチ信号を基に、出力回路11を通じてターンシグナル2,3を消灯状態から点灯状態に切り換える。
【0029】
点灯実行部12は、ターンレバー5が左折操作角度領域L1又は左車線変更操作角度領域L2まで操作された旨のスイッチ信号を位置検出スイッチ8から受けると、左側ターンシグナル3を点灯させ、ターンレバー5が右折操作角度領域R1又は右車線変更操作角度領域R2まで操作された旨のスイッチ信号を位置検出スイッチ8から受けると、右側ターンシグナル2を点灯させる。
【0030】
また、制御回路7には、車線変更時に点灯状態のターンシグナル2,3を自動消灯させる各種消灯機能群が設けられている。本例の消灯機能について簡単に説明する。ターンレバー5が中立位置から右車線変更操作角度領域R2、又は左車線変更操作角度領域L2まで傾動操作されてターンシグナル2,3が点灯した時点から車両1の移動軌跡距離X(t)及び横方向移動距離Y(t)が算出される。移動軌跡距離X(t)とは、図5に示すように、ターンシグナル2,3の点灯から消灯までの車両1の移動距離(走行距離)である。横方向移動距離Y(t)とは、図4に示すように、ターンシグナル2,3が点灯状態に切り換えられる直前の車両1がとっている進行方向(予測進路)に対して垂直方向における移動距離である。そして、移動軌跡距離X(t)及び横方向移動距離Y(t)が、しきい値以上の値をとったときに、車線変更が完了したとして、ターンシグナル2,3が自動消灯される。
【0031】
まず、移動軌跡距離X(t)の算出方法について、それに必要とされる各種消灯機能群に言及しつつ詳しく説明する。
制御回路7には、移動軌跡距離X(t)を算出する移動軌跡距離算出部18及びターンシグナル2,3点灯からの時間を計測するタイマ20が設けられている。移動軌跡距離算出部18は、所定間隔毎に車速センサ10から取得する車速V(t)をタイマ20により計測される時間tで積分することを通じて、移動軌跡距離X(t)を算出する。
【0032】
次に、横方向移動距離Y(t)の算出方法について、それに必要とされる各種消灯機能群に言及しつつ詳しく説明する。
制御回路7には、回転角速度検出センサ9から入力される回転角速度検出信号を基に車両1の車両方位角変化量Δθ(t)を算出する車両方位角変化量算出部13が設けられている。車両方位角変化量Δθ(t)は、例えば図4に示すように、車両1が車線変更するときにとる単位時間当たりの進行方向の変化量に相当する。
【0033】
制御回路7には、車両方位角変化量算出部13からの車両方位角変化量Δθ(t)を基に、車線変更時に車両1がとる進行方向として車両方位角θ(t)を算出する車両方位角算出部15が設けられている。車両方位角θ(t)は、図4に示すように、車両1が車線変更により進行方向を変えた際に、予想進路を基準とした車両1の所定時間後の進行方向のなす角度である。予想進路とは、車両1が直進したときにとると予想される進路である。
【0034】
図2に示すように、制御回路7には、横方向移動距離Y(t)を算出する横方向移動距離算出部16が設けられている。横方向移動距離算出部16は、車速センサ10から取得する車速V(t)と、車両方位角算出部15により算出された車両方位角θ(t)とを用い、三角関数の関係から横方向移動距離Y(t)を算出する。
【0035】
図2に示すように、制御回路7には、ターンシグナル2,3の消灯動作を管理する消灯判断実行部17が設けられている。消灯判断実行部17は、図5の下段に示すように、移動軌跡距離算出部18が算出した移動軌跡距離X(t)と、しきい値Kとを比較する。また、消灯判断実行部17は、図3の下段に示すように、横方向移動距離算出部16が算出した横方向移動距離Y(t)と、しきい値Jとを比較する。後で詳述するしきい値Kは車速V(t)に応じて可変である。また、しきい値Jは車線間の距離に基づき設定されている。
【0036】
消灯判断実行部17は、移動軌跡距離X(t)がしきい値K以上の値をとって、さらに、横方向移動距離Y(t)がしきい値J以上の値をとれば、車線変更時に点灯させたターンシグナル2,3を消灯すべきと認識し、点灯状態にあるターンシグナル2,3を消灯させる。
【0037】
次に、移動軌跡距離X(t)のしきい値Kの決定方法について説明する。
図2に示すように、制御回路7には、車速V(t)に基づきしきい値Kを決定するしきい値決定部19が設けられる。図6に示すように、一般的に車両は速度に応じて異なる軌跡を経て車線変更を行う。運転者は、一般的に車両が低速で走行しているときにはステアリングホイール4を大きく回動操作することが可能であるものの、高速で走行しているときには低速走行中と同様にステアリングホイール4を大きく回動操作することはできない。高速走行中にステアリングホイール4を大きく回動すると車両及び乗員に対して横方向の大きな加速度が加わり危険だからである。ゆえに、図6に示すように、車両の車速V(t)が大きくなるにつれてステアリングホイール4は緩やかに回動操作され、車両1の車線変更に要する走行距離は長くなる。しきい値決定部19は上記のような傾向を加味したうえでしきい値Kを決定する。ここで、しきい値Kは、第1〜第3のしきい値Ka〜Kcのいずれかに設定される。
【0038】
具体的には、図7に示すように、車速V(t)に応じた3段階のしきい値Ka〜Kcが設定されている。各しきい値Ka〜Kcには、第1のしきい値Ka<第2のしきい値Kb<第3のしきい値Kc、という大小関係がある。
【0039】
しきい値決定部19は、車速センサ10を通じて取得される車速V(t)が20〜60km/hのときには、しきい値Kを第1のしきい値Kaに決定する。よって、移動軌跡距離X(t)が第1のしきい値Kaに達した時点で車線変更が完了したと判断される。このときには、車両1は最短移動軌跡(図6参照)に類する経路を辿ると想定される。
【0040】
しきい値決定部19は、車速センサ10を通じて取得される車速V(t)が60〜100km/hのときには、しきい値Kを第2のしきい値Kbに決定する。よって、移動軌跡距離X(t)が第2のしきい値Kbに達した時点で車線変更が完了したと判断される。このときには、車両1は中間移動軌跡(図6参照)に類する経路を辿ると想定される。
【0041】
しきい値決定部19は、車速センサ10を通じて取得される車速V(t)が100km/h以上のときには、しきい値Kを第3のしきい値Kcに決定する。よって、移動軌跡距離X(t)が第3のしきい値Kcに達した時点で車線変更が完了したと判断される。このときには、車両1は最長移動軌跡(図6参照)に類する経路を辿ると想定される。
【0042】
次に、車線変更時において、制御回路7が実行する自動消灯制御の処理手順について、図8のフローチャートを参照しつつ説明する。このフローチャートは、制御回路7の図示しないメモリに記憶された自動消灯プログラムに従い実行される。
【0043】
車両1を右車線に車線変更する場合には、ターンレバー5を下方向に右車線変更操作角度領域R2まで傾倒操作する。位置検出スイッチ8はターンレバー5が右車線変更操作角度領域R2まで傾動操作されたことを検出し、その検出結果を制御回路7に出力する。これにより、点灯実行部12により右側ターンシグナル2が点灯状態とされる(S101)。
【0044】
そして、制御回路7は車速センサ10を通じて車速V(t)を取得する(S102)。さらに、しきい値決定部19は取得された車速V(t)に応じたしきい値Ka〜Kcを決定する(S103)。次に、消灯判断実行部17は、移動軌跡距離X(t)と決定されたしきい値Ka〜Kcとを比較し、移動軌跡距離X(t)がしきい値Ka〜Kc以上の値をとるか否かを判定する(S104)。
【0045】
このとき、移動軌跡距離X(t)がしきい値Ka〜Kc未満であれば、右側ターンシグナル2の点灯が継続されて、再度、車速センサ10を通じて車速V(t)が取得される(S104でNO)。そして、しきい値決定部19は、再び取得された車速V(t)に応じたしきい値Ka〜Kcを決定する(S103)。ここで、今回及び前回で決定されたしきい値Ka〜Kcが異なる場合には、右側ターンシグナル2点灯後の走行距離が考慮されたうえで、しきい値Ka〜Kcが再決定される。
【0046】
具体的には、図9に示すように、例えば、第1位置P1において取得された車速V(t)が40km/hであるときには、しきい値決定部19は、しきい値Kを第1のしきい値Kaに決定する。その後、第2位置P2において、再度取得された車速V(t)が70km/hであるときには、しきい値決定部19は、しきい値Kを第2のしきい値Kbに再決定する。
【0047】
ここで、第1位置P1における車速(40km/h)にて等速で移動した場合には、最短移動軌跡に沿って移動すると想定される。しかし、第2位置P2に到達するまでに加速することで、最短移動軌跡ではなく中間移動軌跡に沿って移動すると新たに想定される。このような場合でも、再度取得された車速V(t)に基づき、しきい値Kが中間移動軌跡に応じた第2のしきい値Kbに再決定されるため、車線変更が完了する適切な位置及びタイミングにて移動軌跡距離X(t)が第2のしきい値Kb以上となる。この場合には、消灯判断実行部17は第1位置P1から第2位置P2までの距離Aから積算される移動軌跡距離X(t)が第2のしきい値Kb以上の値をとったときに、車線変更が完了するのに充分な距離だけ移動したと認識する(S104でYES)。
【0048】
このように、右側ターンシグナル2の点灯後に車両が加速した場合であっても、しきい値Ka〜Kcが再決定されるため、車線変更が完了すると想定される適切な位置及びタイミングにおいて移動軌跡距離X(t)がしきい値Ka〜Kcに達することになる。なお、車両1が減速した場合にも、同様に、例えば第2のしきい値Kbから第1のしきい値Kaに再決定され、車線変更が完了すると想定される適切な位置及びタイミングにおいて移動軌跡距離X(t)が第1のしきい値Kaに達する。
【0049】
次に、消灯判断実行部17は、横方向移動距離Y(t)としきい値Jとを比較し、横方向移動距離Y(t)がしきい値J以上の値をとるか否かを判定する(S105)。このとき、横方向移動距離Y(t)がしきい値J以上の値をとると、車線変更が完了するのに充分な距離だけ車両1が横方向に移動したと認識され、点灯中の右側ターンシグナル2が消灯状態に切り換えられる(S106)。
【0050】
一方、横方向移動距離Y(t)がしきい値J未満であれば、横方向移動距離Y(t)がしきい値J以上となるまで右側ターンシグナル2の点灯が継続される(S105でNO)。なお、左側ターンシグナル3の消灯も同様に実行される。
【0051】
このように、移動軌跡距離X(t)に加えて横方向移動距離Y(t)をターンシグナル2,3の消灯可否の判断要素に加えることで、さらに精度高くターンシグナル2,3を自動消灯させることができる。
【0052】
以上、説明した実施形態によれば、以下の作用効果を奏することができる。
(1)車線変更時のターンシグナル2,3の点灯を契機として、所定時間間隔毎に車速V(t)に応じた距離の第1〜第3のしきい値Ka〜Kcが決定される。従って、車線変更時のターンシグナル2,3の点灯後において、車両が加減速した場合であっても、その都度、車速V(t)に応じた第1〜第3のしきい値Ka〜Kcが再決定される。これにより、車両の加減速の影響を受けることなく、車線変更において、適切なタイミングでターンシグナル2,3が消灯される。また、図6の各移動軌跡に示したように、一般的に車速V(t)に応じて車線変更に要する走行距離である移動軌跡距離X(t)は変わる。よって、車速V(t)に応じて第1〜第3のしきい値Ka〜Kcを設定することで、いっそう適切なタイミングでターンシグナル2,3が消灯される。
【0053】
(2)移動軌跡距離X(t)に加えて、横方向移動距離Y(t)がしきい値J以上となったときにターンシグナル2,3が消灯される。ここで、しきい値Jは車線間距離に基づき設定されているところ、横方向移動距離Y(t)がしきい値J以上となったときには、車両1の車線変更は完了したと判断可能となる。これにより、車両1の車線変更が完了する前に前記ターンシグナル2,3が消灯されることが防止され、いっそう適切なタイミングでターンシグナル2,3が消灯される。
【0054】
(3)ターンレバー5の中立位置からの操作角度により車線変更及び右左折の何れに係る操作であるかの切り分けが可能となる。これにより、同一のターンレバー5を操作することで、車線変更及び右左折時のターンシグナル2,3の点灯に係る操作を行えるため、利便性を向上させることができる。
【0055】
(4)傾動操作後のターンレバー5が傾動操作位置に保持された場合には、運転者は、ターンレバー5が右左折操作角度領域L1,R1まで傾動されて、右左折に係る操作が入力されたと認識する。また、傾動操作後のターンレバー5が中立位置に復帰した場合には、運転者は、ターンレバー5が車線変更操作角度領域L2,R2まで傾動されて、車線変更に係る操作が入力されたと認識する。このように、運転者は傾動操作後のターンレバー5の位置により、容易に操作内容を認識できる。
【0056】
なお、上記実施形態は、これを適宜変更した以下の形態にて実施することができる。
・上記実施形態においては、図8のフローチャートで示したように、移動軌跡距離X(t)が、決定されたしきい値Ka〜Kc以上となったとき(S104でYES)に、横方向移動距離Y(t)がしきい値J以上となるか否か判定されていた(S105)。しかし、ステップS104及びステップS105の順序を逆にして、横方向移動距離Y(t)がしきい値J以上となったときに、移動軌跡距離X(t)が、決定されたしきい値Ka〜Kc以上となるか否かを判定してもよい。
【0057】
・上記実施形態においては、移動軌跡距離X(t)に加えて、横方向移動距離Y(t)がしきい値J以上の値をとるか否かでターンシグナル2,3を消灯するか否かを決定していた。しかし、横方向移動距離Y(t)についての判断を省略して、移動軌跡距離X(t)についてのみしきい値Ka〜Kc以上の値をとるか否か判断してもよい。この場合であっても、加減速の影響を受けることなく、車線変更前に点灯されたターンシグナル2,3が車線変更完了後に消灯される。
【0058】
・上記実施形態においては、車速V(t)に応じた3段階のしきい値Ka〜Kcが設定されていた。しかし、しきい値Kは、車速V(t)に応じてさらに細かく設定されてもよい。具体的には、図10に示すように、車速V(t)に比例させてしきい値Kを設定する。この場合、しきい値決定部19は、車速センサ10を通じて取得される車速V(t)が車速Sであるときには図10のグラフを参照して、しきい値Ksに決定する。本設定によれば、より細かい車速V(t)の大小に応じたしきい値Kを設定可能であるため、より好適なタイミングにてターンシグナル2,3を消灯できる。
【0059】
・上記実施形態においては、ターンレバー5はその動作方式としてモーメンタリ式及びステーショナリー式が並存して構成されている。しかし、ターンレバー5の動作方式をモーメンタリ式のみ、又はステーショナリー式のみとして構成してもよい。ターンレバー5がモーメンタリ式として構成される場合には、同一のターンレバー5における操作角度に基づき車線変更及び右左折に係る両操作を判定可能である。また、ターンレバー5がステーショナリー式として構成される場合には、ターンレバー5が各位置に保持されるため、車線変更及び右左折に係る両操作の判定が可能である。また、ターンレバー5とは別の位置、例えばコンソールボックス等に車線変更に係るターンシグナル2,3を点灯させる新たな操作スイッチを設けてもよい。この場合でも、当該操作スイッチが操作されることでターンシグナル2,3は点灯し、車線変更後にターンシグナル2,3が自動消灯される。
【0060】
次に、前記実施形態から把握できる技術的思想をその効果と共に記載する。
(イ)請求項1〜3、(イ)の何れか一項に記載のターンシグナル点灯制御装置において、前記しきい値決定手段は車速に応じた前記しきい値を車速に比例する値に設定するターンシグナル点灯制御装置。
【0061】
同構成によれば、しきい値は車速に比例する値に設定される。ここで、車速が大きくなるにつれて移動距離は長くなる傾向がある。一般的に車両が低速で走行しているときにはステアリングホイールを大きく回動操作することが可能であるものの、高速で走行しているときには、安定した走行を実現しつつステアリングホイールを大きく回動操作することはできない。よって、自ずと高速走行中における車線変更に要する移動距離は長くなる。このような傾向を加味したうえで、しきい値は車速と比例関係に設定されるため、車両が高速走行しているときには、しきい値は大きく設定される。これにより、適切なタイミングにて、移動距離はしきい値以上となり、ターンシグナルが自動消灯される。
【符号の説明】
【0062】
1…車両、2,3…ターンシグナル、4…ステアリングホイール、5…ターンレバー(操作手段)、9…回転角速度検出センサ(回転角速度検出手段)、10…車速センサ、13…車両方位角変化量算出部(車両方位角変化量算出手段)、15…車両方位角算出部(車両方位角算出手段)、16…横方向移動距離算出部(横方向移動距離算出手段)、17…消灯判断実行部(消灯判断実行手段)、18…移動軌跡距離算出部(移動軌跡距離算出手段)、19…しきい値決定部(しきい値決定手段)、20…タイマ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転席近傍に設けられる操作手段が操作された際、ターンシグナルをそれまでの消灯状態から点灯状態に切り換え、車線変更に係る前記操作手段の操作を通じたターンシグナルの点灯が実行された場合には、車線変更が完了した旨判断されるときに前記ターンシグナルを自動消灯するターンシグナル点灯制御装置において、
車両に設けられる車速センサを通じて取得される車速に基づき前記ターンシグナル点灯からの車両の移動軌跡の距離を算出する移動軌跡距離算出手段と、
車線変更時の前記ターンシグナル点灯を契機として、所定時間間隔毎に前記車速に応じた距離のしきい値を決定するしきい値決定手段と、
前記移動軌跡距離が前記しきい値以上となったときに第1の条件が満たされたとして、車線変更が完了した旨判断して点灯状態にある前記ターンシグナルを消灯状態に切り換える消灯判断実行手段と、
を備えたターンシグナル点灯制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載のターンシグナル点灯制御装置において、
前記車両が進行方向を変える際に該車両に発生する回転角速度を検出する回転角速度検出手段と、
前記回転角速度検出手段の検出値を基に、進行方向を変える際の単位時間当たりの方位の変化量として車両方位角変化量を算出する車両方位角変化量算出手段と、
前記車両方位角変化量算出手段により算出される前記車両方位角変化量を基に、前記車両が進行方向を変える際にとる車両方位角を算出する車両方位角算出手段と、
前記車両方位角算出手段により算出される前記車両方位角を基に、前記車両が進行方向を変える際にとる横方向への移動距離を算出する横方向移動距離算出手段と、を備え、
前記消灯判断実行手段は、前記第1の条件が満たされたうえで、前記横方向への移動距離が車線間距離に基づき設定されるしきい値以上となるときに、車線変更が完了した旨判断して点灯状態にある前記ターンシグナルを消灯状態に切り換えるターンシグナル点灯制御装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のターンシグナル点灯制御装置において、
前記操作手段はステアリングコラムに設けられ、基端部を中心に中立位置から上下方向に所定角度まで傾動操作可能なターンレバーであって、
前記ターンレバーが中立位置から同位置を基準とする上下方向に設定された右左折操作角度まで傾動操作された旨検出されるとき、右左折に係る操作が行われたとして前記ターンシグナルを点灯し、
前記ターンレバーが中立位置から同位置を基準とする上下方向に設定された前記右左折操作角度より小さい角度である車線変更操作角度まで傾動操作された旨検出されるとき、車線変更に係る操作が行われたとして前記ターンシグナルを点灯するターンシグナル点灯制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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