説明

ダイカスト装置およびダイカスト製造方法

【課題】溶湯充填時間を求め、これによりガス抜き通路断面積を大きくしてガスの巻き込みを有効に防止することができるダイカスト装置およびダイカスト製造方法を提供する。
【解決手段】キャビティを有する金型と、前記金型に配置され、前記キャビティに溶湯を射出する入口となるゲートと、前記金型に配置され、前記キャビティのガス抜きを行なう排気側通路と、を有するダイカスト装置とこれを用いたダイカスト製造方法である。前記ゲートには溶湯の到達を検出する入口センサーが配置され、前記排気側通路には同じく出口センサーが配置され、前記入口センサーから出力される入口側検出信号と、前記出口センサーから出力される排気側検出信号との時間差により、前記キャビティに対する溶湯充填時間を算出するコントローラーが配置されたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はダイカスト装置およびダイカスト製造方法に係り、特に、アルミ製品等の金属を射出成形するのに好適なダイカスト装置とダイカスト製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的にダイカスト装置は、固定型と移動型とを型合わせした後に、内部に形成されたキャビティ内に溶湯を射出し、キャビティ形状に倣った製品に成形するものである。射出装置から押出された溶湯は、ゲートからキャビティに充填されるが、キャビティ内部にガス(空気)が充満しているので、予めキャビティにはガス抜き通路を開口させており、キャビティへの溶湯充填により内部ガスをガス抜き通路に押出し、ガス抜き通路から大気に開放させている。通常、溶湯は、ガス抜き通路の途中に設けられたオーバーフローと称する湯溜への充填量を含んでいるために、キャビティ体積よりは容量を多く供給され、キャビティ内からガスを追い出すようにしている。
【0003】
しかし、湯溜(オーバーフロー)が存在すると、ここに二次充填現象を起こし、加圧時間の遅れから製品の品質低下を引き起こす問題があり、歩留まり低下や製造現場環境の悪化を招いてしまう。
【0004】
一方、溶湯の充填とガスの排出に関して、通常、充填時間は凝固時間の半分以下であることが理想とされている。溶湯金属は時間とともに溶融状態から半溶融に変態し、さらには固体へと変態する。このため、溶融状態に近い状態で金型に打込まれることが良品製造につながると考えられている。充填時間が短いと鋳込まれた溶湯は、溶融状態であるために、金型の先端部のエアベント(ガス抜き通路)や金型の隙間に入り込み、バリやフラッシュを発生させてしまう。溶湯がエアーベントや隙間から出ない原理は、先端の溶湯が金型で冷されて凝固することで、後から押出されてくる溶湯をシールする指向性凝固に起因する。このようなバリやフラッシュはダイカストの生産に支障をきたすので、金型の隙間やエアーベントをできるだけ狭くするのが現状の考え方である。
【0005】
これに対し、品質面では、金型の中に存在したガスが溶湯の充填に伴って短時間で置換されるべきところ、隙間が狭いために、排気できなくなる可能性が生じる。排気できなかったガスは製品に巻き込まれ、巻き込み巣となって製品不良の原因となってしまう。
【0006】
このようなことから、従来のダイカスト装置では、ガス抜き通路の開口部分の厚さは、指向性凝固を利用して閉塞するようにしているため、0.08〜0.1mm程度の狭窄部とされている。ガスの巻き込みを防止するためにガス抜き作用を高くしようとして開口厚さを大きくとると、溶湯が飛散するフラッシングを起こしてしまうので、それ以上大きくできない。また、複雑な製品は中子が多く、通路の数が制限され、結果的にガス抜き断面積を大きくすることが困難となっている。いずれにしても、充填時間の短縮化と、ガス抜き断面積を拡大して溶湯充填時の排気効率を良くしてガス巻き込みを防止するという二律背反の問題を解決することは困難となっている。
【0007】
短時間充填とガス巻き込み防止という問題に着目すれば、ガス抜き通路の開口厚さを広げて高速充填を行い、充填完了と同時にガス抜き通路を遮断することができれば解決できる。射出装置による低速移動工程は約2秒前後であることに比較し、これに続いてキャビティへの充填を行なうための高速移動工程は0.05秒前後と短く、この短時間内に溶湯が急冷され、溶融状態から半溶融状態、さらには固体となって一気に固まるので、この時間管理が重要となっている。しかし、キャビティへ充填される時間の管理が重要であるとされているものの、従来では直接に充填時間を計る手段がなく、射出の速度波形から間接的にチェックすることが一般的となっている。間接的な測定による管理は射出装置側のプランジャーストロークや速度情報に頼らざるを得ず、低速から高速に移行する切替え位置や速度情報、給湯量に依存して行なわれるが、これらはショット毎にバラついたり、充填抵抗の変動によって誤差を生じるため、これらを製造管理に反映させても根本的な解決には至らない。
【0008】
一方、キャビティ内部ガスを完全に追い出す方法として、真空ダイカスト法が知られている(特許文献1、2)。この方法は、前述したガス抜き通路に真空ポンプを接続し、キャビティへの溶湯充填開始に際してキャビティ内ガスを強制排気しつつ溶湯を充填させるようにして、キャビティ内へのガス巻き込みを防止しようとするものである。
【0009】
しかし、真空ダイカスト法では、溶湯が真空装置に入り込まない対策が複雑で、動作不良の原因となるばかりか、オーバーフローと同様の二次充填現象を引き起こし、製品の品質を低下させる問題がある。このため、大気開放型の一般的なダイカスト法に比べ、真空ダイカスト法は少数派に過ぎない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2007−268550号公報
【特許文献2】特開2004−344910号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、特に、従来のダイカスト法では、キャビティ内部情報としてキャビティへの充填時間を、射出装置のストロークや射出装置が受ける圧力など、マシン側からの間接的な情報からしか求めることができないため、正しくダイカスト製品の製造情報を把握することができず、ダイカスト品の製造に際して、溶湯がキャビティ内に完全に充填される時間を求めていないことに起因しているとの知見を得てなされたものである。
【0012】
すなわち、溶湯がキャビティへの充填完了時間が解れば、その完了時間後にキャビティへの充填供給を停止し、ガス抜きバルブを閉める制御をすることができるので、それまではガス抜き通路断面積を大きく採ることができる。キャビティ出口のガス抜き通路断面積を大きくして排気性能を上げることができ、これにより、ガスの巻き込みを抑制することができるのである。
【0013】
したがって、本発明の目的は、第1に、キャビティへの溶湯充填時間を簡単に直接求めることができ、これをモニタリングして目的の充填時間から外れた場合にはアラームを出すことにより、品質の向上を図ることができるダイカスト装置およびダイカスト製造方法を提供することを目的とする。
【0014】
第2に、キャビティ出口に溶湯が到達したと同時的に、排気側通路を遮断することで、キャビティへの充填中に排気抵抗が殆ど発生せずに内部ガスを大気放出することができ、ガスの巻き込みのない製品の鋳造ができるダイカスト装置およびダイカスト製造方法を提供することを目的とする。
【0015】
第3に、キャビティに開口されているガス抜き通路断面積を必要十分に大きくすることができ、これにより排気性能を高くして、キャビティへの短時間充填を実現できるダイカスト装置およびダイカスト製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するために、本願発明に係るダイカスト装置は、キャビティを有する金型と、前記金型に配置され前記キャビティに溶湯を射出する入口となるゲート側通路と、前記金型に配置され前記キャビティのガス抜きを行なう排気側通路と、を有するダイカスト装置であって、前記ゲート側通路のキャビティ入口部に溶湯が達したことを検出する入口センサーを配置し、前記排気側通路のキャビティ出口部に溶湯が達したことを検出する出口センサーを配置し、前記入口センサーによる検出信号と前記出口センサーによる検出信号との時間差を、前記キャビティに対する溶湯充填時間として出力する演算部を有するコントローラーが配置されたことを特徴としている。
【0017】
上記構成により、キャビティに対する溶湯充填時間を直接測定することができるので、ゲートからキャビティに射出される溶湯の射出速度の調整等を容易に行うことができる。
【0018】
また、前記出口センサーに併設して前記排気側通路にガス抜きバルブを配置し、前記ガス抜きバルブは前記入口側検出信号を起点として前記溶湯充填時間の満了とともに前記排気側通路を遮断するように前記コントローラーにより駆動可能とされていることを特徴する。
上記構成により、入口側検出信号を起点としているので、ガス抜きバルブの作動遅れ時間(作動開始信号から実際の遮断が行なわれるまでの時間)に余裕ができ、ガス抜き通路断面積を大きくすることができるとともにフラッシングの防止を図りつつ、排気側通路に溶湯が充填される二次充填現象を回避することができる。
【0019】
そして、前記ガス抜きバルブによる排気側通路遮断を検知する遮断検知器を設け、前記コントローラーは、前記入口側検出信号を起点とした前記溶湯充填時間の経過時点と前記遮断検知器による遮断時点との偏差を求め、前記ガス抜きバルブの駆動開始タイミングを制御するフィードバック制御手段を設けていることを特徴とする。
【0020】
上記構成において、射出成形を繰り返し行う場合、溶湯充填時間に変動があってもキャビティに溶湯が充填されたとほぼ同時にガス抜きバルブを閉じることができる。
【0021】
前記ガス抜きバルブによる通路遮断を検知する遮断検知器を設け、前記コントローラーは、前記出口センサーによる溶湯検出信号の検出時点と前記遮断検知器による遮断時点との偏差を求め、前記ガス抜きバルブの駆動開始タイミングを制御するフィードバック制御手段を設けていることを特徴とする構成としてよい。
【0022】
この場合も、射出成形を繰り返し行う場合、ガス抜きバルブの制御時間に変動があってもキャビティに溶湯が充填されたとほぼ同時にガス抜きバルブを閉じることができる。
【0023】
前記出口センサー、ガス抜きバルブはユニットブロックに組み込まれ、金型に対して着脱可能とした構成とすることも可能である。このように構成することで汎用性のあるセンサー・バルブの組み込みユニットができる。
【0024】
さらに、前記排気側通路は大気開放すればよい。これにより、排気側通路の断面積を大きく設計することができるので、キャビティ内のガス抜きを効率的に行い、ダイカスト中の巣の発生を抑制することができる。
【0025】
一方、本発明に係るダイカスト製造方法は、金型により形成されるキャビティに通じるゲート側通路と排気側通路におけるキャビティ入口部と出口部において射出された溶湯の到達をそれぞれ検出することにより予め前記キャビティへの溶湯充填時間を直接求めることを特徴としている。
【0026】
上記構成により、キャビティに対する溶湯充填時間を直接測定することができるので、ゲートからキャビティに射出される溶湯の射出速度の調整等を容易に行うことができる。
【0027】
金型により形成されるキャビティに通じるゲート側通路と排気側通路におけるキャビティ入口部と出口部において射出された溶湯の到達をそれぞれ検出することにより予め前記キャビティへの溶湯充填時間を直接求めておき、ダイカスト製造の際に前記ゲート側通路のキャビティ入口部において溶湯到達を検出した後、前記溶湯充填時間が経過した時点に合せてキャビティの排気側通路を遮断してダイカスト成形をなすようにしていることを特徴とする。
上記方法により、排気側通路に溶湯が充填される二次充填現象を回避することができる。
【0028】
また、上記方法において、前記排気側通路の遮断タイミングと溶湯充填時間の経過時点との偏差を求め、この偏差を解消するようにフィードバック制御を行って排気側通路の遮断タイミングを調整することを特徴とすることができる。
【0029】
この方法によれば、射出成形を繰り返し行う場合、溶湯充填時間に変動があってもキャビティに溶湯が充填されたとほぼ同時にガス抜きバルブを閉じることができる。
【0030】
前記排気側通路の遮断タイミングと出口センサーによる溶湯検出信号の検出時点との偏差を求め、この偏差を解消するようにフィードバック制御を行って排気側通路の遮断タイミングを調整するようにしてもよい。
【0031】
このようにすることで、射出成形を繰り返し行う場合、ガス抜きバルブの制御時間に変動があってもキャビティに溶湯が充填されたとほぼ同時にガス抜きバルブを閉じることができる。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、正確な溶湯充填時間をキャビティ側から直接求めることができる。そして、これをキャビティ入口部分に設けた入口側溶湯検知センサーによる検知時点から、充填時間が経過する際にガス抜きバルブを作用することができる。これにより、排気側通路の出口側溶湯検知センサーによる検知時間を起点とする場合に比較して、コントロール時間を稼ぎつつガス抜きバルブを適正に作動させることができる。このようなことから、従来、ガス抜き通路の途中に設けているオーバーフロー用の湯溜をなくすることができる。この結果、射出溶湯量を少なくできる。また、二次充填現象を起こす湯溜りを無くする事ができるので、加圧時間遅れによる品質低下を抑制できる。さらには、ガス抜き通路の断面積を、指向性凝固により形成されている硬化溶湯より大きくできるので、ガスを抵抗無く排気でき、ガスの巻き込みを防ぐことができる。また、大気開放型のダイカスト方式と、真空ダイカスト方式へも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本実施形態のダイカスト装置の断面図である。
【図2】本実施形態の溶湯検出センサーの断面図である。
【図3】本実施形態のコントローラーの制御フロー図である。
【図4】射出鋳造時の特性線図と各種信号のタイムチャートとを示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明を図に示した実施形態を用いて詳細に説明する。但し、この実施形態に記載される構成要素、種類、組み合わせ、形状、その相対配置などは特定的な記載がない限り、この発明の範囲をそれのみに限定する主旨ではなく単なる説明例に過ぎない。
【0035】
図1に本実施形態のダイカスト装置の構成図を示す。ダイカスト装置は、基本的に、キャビティを有する金型と、前記金型に配置され前記キャビティに溶湯を射出する入口となるゲート側通路と、前記金型に配置され前記キャビティのガス抜きを行なう排気側通路を備えている。すなわち、図1に示すように、ダイカスト装置10は、固定型12aと可動型12bとからなる金型12を有している。そして、固定型12aと可動型12bの合せ面に鋳型となるキャビティ14が形成されている。このキャビティ14には、溶湯射出装置20から押出された溶湯28をキャビティ14に導入するゲート16が接続開口されている。また、排気側通路18が、キャビティ14内の湯流れ方向に沿った下流側に開口形成されている。この排気側通路18は、射出に伴ってキャビティ14に充填された溶湯28の出口となってガス抜きを行なう。
【0036】
前記溶湯射出装置20は、金型12のランナーに接続されており、中空のスリーブ22と、スリーブ22内に配置されたプランジャー24により構成されている。スリーブ22内には図示しない溶湯供給装置から溶湯28が供給され、プランジャー24の押し出しにより溶湯28がゲート16を通じてキャビティ14に射出される。またプランジャー24は図示しない射出駆動手段により作動される。
【0037】
このような基本構成において、本実施形態では、前記ゲート側通路の特にキャビティ入口部に溶湯が達したことを検出する入口センサー26Aを配置し、また、前記排気側通路18のキャビティ出口部に溶湯が達したことを検出する出口センサー26Bを配置している。これら溶湯検出センサー26(入口センサー26A、出口センサー26B)としては、溶湯28の電気導電性を利用し、溶湯28が溶湯検出センサー26の先端面に付着したことによって電気的な短絡状態となるように構成されたもので、例えば図2に示すような構造のセンサーが用いられる。
【0038】
図2に示す溶湯検出センサー26は、セラミックスのような電気絶縁体26bの中に、電気伝導性の金属線26a(例えば、銅線)を埋め込み、電気絶縁体26bを金属製のケース26cに収容したものである。センサー先端面は中心部から外周に向けて、金属線26a、電気絶縁体26b、及び金属ケース26cが同心円状に配置された形態となるように構成する。このような溶湯検出センサー26は、センサー先端面がゲート16近傍におけるキャビティ入口部、及び排気側通路18のキャビティ出口部に露出するように取り付けられる。そして、金属線26aに電圧を印加し、ケース26cは電気的に接地するように回路構成する。これにより、射出された溶湯28がセンサー先端面に接触すると、金属線26aとケース26cとが溶湯28を介して短絡することにより金属線26aが接地電位となり、これにより溶湯28の接触(溶湯28が溶湯検出センサー26に達したこと)を検出することができる。
【0039】
溶湯検出センサー26は、上述したように、ゲート側通路のキャビティ入口部に配置された入口センサー26Aと、排気側通路18のキャビティ出口部に配置された出口センサー26Bによって構成されているので、両センサー26A、26Bの検出時間差は、溶湯28がキャビティ14に完全に充填されるまでの充填時間となる。すなわち、キャビティ14への溶湯充填時間を直接実測値として求めることができるようになるのである。
【0040】
このような溶湯充填時間を求めるために、前記両センサー26A、26Bはコントローラー40に電気的に接続されており、コントローラー40は入口センサー26Aによる溶湯検出信号と、出口センサー26Bによる溶湯検出信号とを入力し、それらの時間差を内蔵する演算部40Aにて演算処理して出力できるようにしている。内蔵するタイマー(図示せず)によって、入口センサー26Aによる検出時間と出口センサー26Bによる検出時間との差を演算することにより容易に溶湯充填時間が算出される。
【0041】
ここで、上述したように、演算部40Aにより実測値として求めたキャビティ14への溶湯充填時間を利用して、この実施形態では、キャビティ14へ溶湯28が完全に充填されると同時に前記排気側通路18を遮断するようにしている。このため、前記出口センサー26Bに併設して前記排気側通路18の下流側にて通路を開放・遮断可能とするガス抜きバルブ30が配置されている。そして、上記コントローラー40は、前記ガス抜きバルブ30を、前記入口センサー26Aによる検出信号を起点として前記溶湯充填時間の満了とともに前記排気側通路18を遮断するように、駆動させるものとしている。
【0042】
ガス抜きバルブ30は、駆動形式を問わないが、実施形態では、電磁作動バルブ機構によって構成されており、作動コイルへの通電により弁体によって通路を遮断するようにしている。具体的には、シリンダ30a内を往復移動可能に装着されたスプール30bを有し、スプール30bを電磁コイル30cへの通電・遮断により往復駆動させるようにしている。スプールロッド30dの先端部には、ポペット型弁体30eが形成され、これを排気側通路18に臨ませ、排気側通路18の壁面に形成された弁座30fに着座することで、排気側通路18を遮断し、キャビティ14側と大気との間の通気をカットすることができるようにしている。弁座30fの中央部には大気側に通じる通路が形成されている。ガス抜きバルブ30は通常は大気通路を開放している常開バルブとして構成されており、溶湯28が出口センサー26Bに到達する時間で閉弁するように駆動される。駆動信号をこのガス抜きバルブ30の電磁コイル30cに出力するバルブドライバー32が設けられ、これはコントローラー40からの駆動信号により作動される。
【0043】
また、ガス抜きバルブ30にはポペット型弁体30eによる排気側通路18を大気開放する開弁位置と、当該通路18を遮断する閉弁位置を検出するリミットスイッチ34A、34Bが配置されている。リミットスイッチ34A、34Bは、スプール30bの移動前進限と後退限を検出し、その検出信号をコントローラー40に出力する。閉弁位置を検出するリミットスイッチ34Bは、ガス抜きバルブ30による排気側通路遮断を検知する遮断検知器となる。
【0044】
ここで、コントローラー40は、前述した入口センサー26Aと出口センサー26Bとにより検出される時間差が溶湯充填時間であることから、前記入口センサー26Aで溶湯28を検出してから、予め求めた前記溶湯充填時間の経過後、すなわち、溶湯28がキャビティ14に完全に充填されたとほぼ同時にガス抜きバルブ30を閉じるように制御するものである。このような制御を行なうことにより、特に入口センサー26Aによる溶湯検知を起点として、ガス抜きバルブ30が閉じられるので、時間的余裕ができ、キャビティ14の出口近傍でメタルシャットすることができる。この結果、大気開放されている排気側通路18の断面積を大きくしても適正なタイミングで通路遮断することができるので、オーバーフローを省略して、溶湯28のキャビティ14からの流れ出し量を低減することができる。排気側通路18の断面積(通路厚さ)を大きくすることが可能となるので、キャビティ14内のガスの排気を容易にし、溶湯28が凝固して得られるダイカスト中の巣(気泡)の発生を抑制することができる。
【0045】
コントローラー40は、入口センサー26A、出口センサー26B、バルブドライバー32、リミットスイッチ34A、34Bに電気的に接続されている。また、コントローラー40にはタイマー(不図示)が内蔵され、入口センサー26Aから溶湯検出信号が入力されるとタイマーがカウントアップするようになっている。
【0046】
一方、コントローラー40には、入口側検知信号のバルブドライバー32に出力する駆動信号の待ち時間を取るための駆動カウント値が付属のメモリ(不図示)に記憶されている。すなわち、ガス抜きバルブ30は閉弁信号を出力しても実際に排気側通路18を遮断するまでの作動遅れ時間がある。この作動遅れ時間の分だけ、キャビティ充填時間が満了する前に閉弁駆動信号を出力させる必要がある。したがって、予め、試行ショットを行い、最初に溶湯検出センサー26から溶湯充填時間を求め、作動遅れ時間(閉弁信号を受けてから実際にシャットするまでの作動時間)はバルブの仕様書から求め、実際のバルブシャットの駆動信号の待ち時間を定めておくのである。そして、コントローラー40は入口センサー26Aによる溶湯検知信号が入力された場合、待ち時間に対応するタイマーのカウント値をモニターし、カウント値が駆動カウント値と一致したときに駆動信号を出力できるようになっている。
【0047】
ところで、前記コントローラー40は、前記入口センサー26Aによる検出信号を起点とした前記溶湯充填時間の経過時点と、遮断検知器である閉弁検出リミットスイッチ34Bによる遮断時点との偏差を求め、前記ガス抜きバルブの駆動開始タイミングを制御するフィードバック制御部(制御手段)36を設けている。コントローラー40において、溶湯28がキャビティ14に完全に充填されたとほぼ同時にガス抜きバルブ30を閉じるように制御するためには、上述したように、予め求めた溶湯充填時間からバルブ作動遅れ時間を差し引いた時間がカウントされたときにバルブを作動させればよい。しかし、実際にはいろいろな要因でショット毎に時間的なズレが生じる場合がある。このため、この実施形態では、溶湯28を出口センサー26Bが検知するタイミングと、ガス抜きバルブ30に付帯している閉弁限を検出するリミットスイッチ34Bによる検知タイミングとが一致しているかどうかを検出するようにしている。そして、検出タイミングが一致しなかった場合に、ガス抜きバルブ30への駆動信号の送信タイミング、すなわち待ち時間のカウントアップ時間を不一致時間分だけ前後に調整し、メタルシャットされるタイミングと出口センサー26Bによる溶湯検出タイミングが一致するようにフィードバック制御される。
【0048】
本実施形態では、キャビティ14への溶湯充填時間を簡単に直接求めることができ、これをモニタリングして目的の充填時間から外れた場合にはアラームを出すようにすればよい。このため、モニター70にてコントローラー40からの出力信号を表示させ、充填時間のしきい値の範囲から外れた場合にアラーム画像表示もしくはアラーム音声出力により手段を作動させる。
【0049】
なお、この実施形態では、出口センサー26B、ガス抜きバルブ30は、共に排気側通路18に配置されるため、これを一つのユニットブロック50として構成し(図1の破線で囲まれたクロスハッチング部分)、固定型12bにまとめて着脱可能な状態で装着できるようにしている。もちろん、これらにコントローラー40やバルブドライバー32を電子回路ユニット60として組み込み、一体的に金型12に着脱可能とすることができる。このようにすることで、金型12の変更や新設時にも汎用的に利用することができる。
【0050】
本実施形態のダイカスト装置10においては、以下に説明するように、1回目の射出成形において溶湯充填時間、作動遅れ時間、待ち時間の初期値を求め、2回目以降の射出成形においてこれらの時間を毎回更新できるようにしている。
【0051】
図3に本実施形態のコントローラーの制御フロー図を示す。図3においては制御ステップ0乃至制御ステップ6が定義され、制御ステップの引数(0〜6)を各制御ステップの処理終了段階で更新し、最新の引数と一致する制御ステップで枝分かれしてその制御ステップを処理しつつ時計回りのループを繰り返している。そして図3では、制御ステップ0乃至6の順で制御ステップを処理し、制御ステップ6から制御ステップ2に戻り、制御ステップ2乃至6の処理を繰り返す制御フローとなっている。
【0052】
上記制御フローのもと、1回目の射出成形においては、キャビティ14に対する溶湯充填時間を充填カウント値、ガス抜きバルブ30の作動遅れ時間を遅延カウント値として算出し、これらを用いて待ち時間を駆動カウント値として算出する。まず、1回目の射出成形に先立って、付属のメモリ内の情報をクリアするとともに、駆動信号を出力してガス抜きバルブ30を閉じた状態にする。そして、入口センサー26A及び出口センサー26Bを起動する。
【0053】
次に、1回目の射出成形により、溶湯充填時間を充填カウント値として算出する(制御ステップ0)。まず溶湯射出装置20を駆動させて、溶湯28をキャビティ14内に充填する。このとき溶湯28が入口センサー26Aに接触すると、コントローラー40には入力側検出信号が入力されてタイマーがカウントアップし、その後、溶湯28が出口センサー26Bに接触すると、コントローラー40には排気側検出信号が入力され、これまでカウントしてきたカウント値を充填カウント値としてメモリに記憶する。
【0054】
次にガス抜きバルブ30の作動遅れ時間を遅延カウント値として算出する(制御ステップ1)。キャビティ14で成形されたダイカスト品を取り出して、入口側検出信号及び排気側検出信号の出力を停止させる。またコントローラー40はバルブドライバー32に解除信号を出力してガス抜きバルブ30を開放しリミットスイッチ34(34A、34B)の検知信号の出力を停止させる。
【0055】
そして、所定時間(スプール30bの移動が終了するまでの時間)経過後にコントローラー40は、バルブドライバー32に駆動信号を出力するとともにタイマーのカウントアップを開始し、リミットスイッチ34Bから閉鎖検知信号が入力されるまでにカウントしたカウント値を遅延カウント値としてメモリに記憶する(制御ステップ2)。そしてコントローラー40は、充填カウント値と遅延カウント値を読み出し、充填カウント値から遅延カウント値を差し引いたカウント値を駆動カウント値(初期値)としてメモリに記憶する。
次に2回目の射出成形を行なう。まず、コントローラー40は、解除信号を出力して排気側通路18を開放後、溶湯射出装置20を駆動させるとともにメモリから駆動カウント値を読み出し、入口センサー26Aからの入口側検出信号入力待ち状態とする(制御ステップ3)。
【0056】
そして、コントローラー40は、入口側検出信号が入力されるとタイマーをカウントアップさせるとともにタイマーのカウント値と駆動カウント値とを照合し、タイマーのカウント値と駆動カウント値とが一致したときに駆動信号を出力する(制御ステップ4)。さらにコントローラー40は、出口センサー26Bから排気側での溶湯検出信号が入力されると、入力時のタイマーのカウント値を新たな充填カウント値としてメモリに上書き更新する。
【0057】
次に、上述の制御ステップ1と同様に、キャビティ14で成形されたダイカストを取り出して、入口側検出信号及び排気側検出信号の出力を停止させる。また、コントローラー40はタイマーのカウントアップを停止してリセットするとともに解除信号を出力してリミットスイッチの閉鎖検知信号の出力を停止させる(制御ステップ5)。
【0058】
最後にスプール30bの移動が完了する時間(20ms)まで待機させ(制御ステップ6)、制御ステップ3に戻り3回目の射出成形を行なう。よって3回目以降において、コントローラー40は、上述の制御ステップ2から制御ステップ6までの制御を繰り返すことになる。このとき充填カウント値、遅延カウント値、駆動カウント値はメモリにおいて毎回上書き更新され、更新された新たな駆動カウント値は、次の回の射出成形の際にコントローラー40の駆動信号の待ち時間として用いられる。
【0059】
上述のように射出成形を繰り返し行う場合、溶湯充填時間及び作動遅れ時間に変動があっても、上記制御を行なうことにより、キャビティ14に溶湯28が充填されたとほぼ同時にガス抜きバルブ30を閉じることができる。
【0060】
なお、制御ステップ3において、充填カウント値のみならず、コントローラー40に入力側検知信号の入力された後、閉鎖検知信号が入力されるまでにカウントされたカウント数を閉鎖カウント値としてメモリに記憶し、充填カウント値と閉鎖カウント値との差分となる差分カウント値を駆動カウント値に足し合わせる形で駆動カウント値を更新し、3回目の射出成形において制御ステップ3から制御ステップ6までの制御を繰り返す構成としてもよい。
【0061】
このとき、充填カウント値より閉鎖カウント値が大きいときは、更新された駆動カウント値はもとの更新カウント値よりも差分カウント値の絶対値分だけ小さくなり、逆に充填カウント値より閉鎖カウント値が小さいときは、更新された駆動カウント値はもとの更新カウント値よりも差分カウント値の絶対値分だけ大きくなる。もちろん充填カウント値と閉鎖カウント値が一致する場合には更新前後の駆動カウント値の変動はない。
【0062】
上記制御を行なうことにより、各々の射出成形時における溶湯充填時間とガス抜きバルブ30の閉鎖時間との時間差に基づいて待ち時間を更新することができる。したがって、次回の射出成形時においてガス抜きバルブ30の閉鎖を溶湯28の充填時間とほぼ同時に行うことができる。
【0063】
図4に、射出鋳造時の溶湯射出装置の射出速度、射出圧力、そして入口側検出信号、排気側検出信号、駆動信号の出力の有無を時間軸に沿って時系列的に表示した図を示す。図4において時刻tは、溶湯28がキャビティ14に入り始める時刻、時刻tは、溶湯28がキャビティ14に完全に充填される時刻、時刻tはゲート16内の溶湯28が凝固し始める時刻である。
【0064】
図4において、キャビティ14に溶湯28が射出される間は、溶湯射出装置20(プランジャー24)の射出速度は高速に保たれ、ガス抜きバルブ30が閉じると射出速度は急速にゼロに収束する。またプランジャー24が高速の射出速度で移動している間は、射出圧力(溶湯射出装置20内の溶湯圧力)はほぼ一定の値をとり、ガス抜きバルブ30が閉じると上昇していく。
【0065】
本実施形態では、ゲート16(キャビティ14の入口側)に配置された入口センサー26Aが時刻tで溶湯28を検出して入口側検出信号を出力し、排気側通路18(キャビティ14の出口側)に配置された出口センサー26Bが時刻tで溶湯28を検出して排気側検出信号を出力し、2つの信号の時間差をとることにより溶湯充填時間を算出している。さらにコントローラー40が駆動信号を出力してからリミットスイッチから閉鎖検知信号が入力されるまでの作動遅れ時間を算出している。そしてコントローラー40は、入口側検出信号が入力された時刻tの後、溶湯充填時間から作動遅れ時間分だけ早くなる待ち時間経過後に駆動信号を出力している。これにより、出口センサー26Bが溶湯28を検知する時刻tとガス抜きバルブ30が閉じる時刻をほぼ一致させることができる。一般的に、溶湯充填時間は50〜100msとされており、ガス抜きバルブ30として5〜7msの作動時間のものを利用することにより、キャビティガスの排気時間を長くとることができるものとなる。
【0066】
また、本実施形態では、溶湯充填時間、作動遅れ時間を毎回測定して、溶湯充填時間、作動遅れ時間、待ち時間を更新し、次回の射出成形において更新された待ち時間を用いて上述同様に駆動信号を出力する構成を採用している。これにより、出口センサー26Bが溶湯28を検知する時刻tとガス抜きバルブ30が閉じる時刻との差を最小限に抑制することができる。
【0067】
ところで、溶湯射出装置20(プランジャー24)は、キャビティ14に溶湯28を射出する間はその射出速度を高める必要がある。しかし、本実施形態では、上述の時刻tと時刻tを、それぞれ溶湯検出センサー26(26A、26B)により直接測定することができるので、溶湯射出手段20の射出速度の時間方向の制御を容易に行なうことができる。よって、溶湯射出手段20の制御を容易にし、キャビティ14に対する射出速度や射出時間の最適化を容易に行うことができる。
【符号の説明】
【0068】
10………ダイカスト装置、12………金型、12a………固定型、12b………可動型、14………キャビティ、16………ゲート、18………排気側通路、20………溶湯射出装置、22………スリーブ、24………プランジャー、26………溶湯検出センサー、26A………入口センサー、26B………出口センサー、26a………金属線、26b………電気絶縁体、26c………ケース、28………溶湯、30………ガス抜きバルブ、30a………シリンダ、30b………スプール、30c………電磁コイル、30d………スプールロッド、30e………ポペット型弁体、30f………弁座、32………バルブドライバー、34A、34B………リミットスイッチ、36………フィードバック制御部(制御手段)、40………コントローラー、50………ユニットブロック、60………電子回路ユニット、70………モニター。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャビティを有する金型と、
前記金型に配置され前記キャビティに溶湯を射出する入口となるゲート側通路と、
前記金型に配置され前記キャビティのガス抜きを行なう排気側通路と、
を有するダイカスト装置であって、
前記ゲート側通路のキャビティ入口部に溶湯が達したことを検出する入口センサーを配置し、
前記排気側通路のキャビティ出口部に溶湯が達したことを検出する出口センサーを配置し、
前記入口センサーによる検出信号と前記出口センサーによる検出信号との時間差を、前記キャビティに対する溶湯充填時間として出力する演算部を有するコントローラーが配置されたことを特徴とするダイカスト装置。
【請求項2】
前記出口センサーに併設して前記排気側通路にガス抜きバルブを配置し、前記ガス抜きバルブは前記入口側検出信号を起点として前記溶湯充填時間の満了とともに前記排気側通路を遮断するように前記コントローラーにより駆動可能とされていることを特徴とする請求項1に記載のダイカスト装置。
【請求項3】
前記ガス抜きバルブによる排気側通路遮断を検知する遮断検知器を設け、
前記コントローラーは、前記入口側検出信号を起点とした前記溶湯充填時間の経過時点と前記遮断検知器による遮断時点との偏差を求め、前記ガス抜きバルブの駆動開始タイミングを制御するフィードバック制御手段を設けていることを特徴とする請求項2に記載のダイカスト装置。
【請求項4】
前記ガス抜きバルブによる通路遮断を検知する遮断検知器を設け、
前記コントローラーは、前記出口センサーによる溶湯検出信号の検出時点と前記遮断検知器による遮断時点との偏差を求め、前記ガス抜きバルブの駆動開始タイミングを制御するフィードバック制御手段を設けていることを特徴とする請求項2に記載のダイカスト装置。
【請求項5】
前記出口センサー、ガス抜きバルブはユニットブロックに組み込まれ、金型に対して着脱可能とされていることを特徴とする請求項2に記載のダイカスト装置。
【請求項6】
前記排気側通路は大気開放されていることを特徴とする請求項1に記載のダイカスト装置。
【請求項7】
金型により形成されるキャビティに通じるゲート側通路と排気側通路におけるキャビティ入口部と出口部において射出された溶湯の到達をそれぞれ検出することにより予め前記キャビティへの溶湯充填時間を直接求めることを特徴とするダイカスト製造方法。
【請求項8】
金型により形成されるキャビティに通じるゲート側通路と排気側通路におけるキャビティ入口部と出口部において射出された溶湯の到達をそれぞれ検出することにより予め前記キャビティへの溶湯充填時間を直接求めておき、
ダイカスト製造の際に前記ゲート側通路のキャビティ入口部において溶湯到達を検出した後、前記溶湯充填時間が経過した時点に合せてキャビティの排気側通路を遮断してダイカスト成形をなすようにしていることを特徴とするダイカスト製造方法。
【請求項9】
前記排気側通路の遮断タイミングと溶湯充填時間の経過時点との偏差を求め、この偏差を解消するようにフィードバック制御を行って排気側通路の遮断タイミングを調整することを特徴とする請求項8に記載のダイカスト製造方法。
【請求項10】
前記排気側通路の遮断タイミングと出口センサーによる溶湯検出信号の検出時点との偏差を求め、この偏差を解消するようにフィードバック制御を行って排気側通路の遮断タイミングを調整することを特徴とする請求項8に記載のダイカスト製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−99756(P2013−99756A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−243920(P2011−243920)
【出願日】平成23年11月7日(2011.11.7)
【出願人】(510095651)株式会社ダイレクト21 (2)
【Fターム(参考)】