説明

ダイナミックマイクロアレイ装置

【課題】 誘電泳動を用いることにより、粒子のトラップをそれぞれのトラップスポット毎に制御することができる選択的粒子配置機能を持つダイナミックマイクロアレイ装置を提供する。
【解決手段】 ダイナミックマイクロアレイ装置において、トラップ流3と非トラップ流4の2層の流れを持つ流路2からなり、粒子8をトラップ流側に移動させるように常時駆動している第1の誘電泳動装置Aと、前記トラップ流3側を流れる粒子8をそのままトラップ流3側に流すか、または前記トラップ流3側を流れる粒子8を非トラップ流4側に移動させるかを制御する第2の誘電泳動装置Bと、この第2の誘電泳動装置Bの下流に配置されるトラップスポット5とを備え、前記トラップスポット5毎に粒子8のトラップを制御可能とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞研究や創薬スクリーニングに用いられるダイナミックマイクロアレイ装置(デバイス)に係り、特に誘電泳動を用いた選択的粒子配置機能を持つダイナミックマイクロアレイ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
細胞研究や創薬スクリーニングにおいて、細胞程度の大きさの粒子を固定、アレイ化し、継続的に観察できる実験系が期待されている。さらに、異種細胞間の反応等の観察をするためには、単にアレイ化するのではなく、異なる種類の粒子を選択的にアレイ化することが必要である。以前、本発明者らは、マイクロ流体技術を用いて、粒子をトラップし、アレイ化するダイナミックマイクロアレイ装置を報告した(下記特許文献1〜3,非特許文献1,2参照)。
【0003】
図10はかかる従来のダイナミックマイクロアレイ装置の動作を示す模式図である。
この図に示すように、従来のダイナミックマイクロアレイ装置は、トラップ流101とバイパス流102の2層の流れを持つ流路からなり、粒子の中心がトラップ流101に乗っている場合トラップスポット103に粒子104がトラップされる。また、粒子の中心がバイパス流102に乗っている場合、粒子105はトラップスポット103にトラップされずに通過する。トラップ流101とバイパス流102の流量比は、溶液の粘性や流速に依存せず、流路の設計に依る。
【0004】
一方、粒子や細胞をハンドリングし、または、選別することを目的として、誘電泳動(Dielectrophoresis;DEP)という手法が提案されている(下記非特許文献3〜11参照)。この方法では、空間内に不均一電場をかけ粒子や溶液を分極させることで粒子が力を受ける。粒子や溶液の性質または周波数により、電場勾配の大きい方向(positive−DEP;p−DEP)や小さい方向(negative−DEP;n−DEP)に粒子は力を受ける。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−186456号公報
【特許文献2】特開2009−125635号公報
【特許文献3】特開2009−022922号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】W.H.Tan and S.Takeuchi,“Trap−and−release Integrated MicroFluidic System For Dynamic Microarray Applications”,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,vol.104,pp.1146−1151(2007)
【非特許文献2】K.Iwai,W.H.Tan and S.Takeuchi,“A resettable dynamic microfluidic device”,Proc.of MEMS 2008,Tucson,USA,pp.649−652(2008)
【非特許文献3】N.G.Green,H.Morgan and J.J.Milner,“Manipulation and trapping of bioparticles using dielectrophoresis”,Journal of Biochemical and Biophysical Methods,pp.89−102(1997)
【非特許文献4】C−H.Tai,S−K.Hsiung,C−Y.Chen,M−L.Tsai and G−B.Lee,“Automatic microfluidic platform for cell separation and nucleus collection”,Bio.Microdev.,pp.533−543(2007)
【非特許文献5】S.Archer,T−T.Li,A.T.Evans,S.T.Britland,and H.Morgan,“Cell Reactions to Dielectrophoretic Manipulation”,Biochem.Biophys.Res.Commun.,vol.257,pp.687−698(1999)
【非特許文献6】R.Pethig,“Dielectrophoresis:Using In homogeneous AC Electrical Fields to Separate and Manipulate Cells”,Crit.Rev.Biotechnol.,vol.16,pp.331−348(1996)
【非特許文献7】Y.Huang,R.Holzel,R.Pethig and X−B.Wang,“Difference in the AC electrodynamics of viable and non−viable yeast cells determined through combined dielectrophoresis and electrorotation studies”,Phys.Med.Bid.,vol.37,pp.1499−1517(1992)
【非特許文献8】Y.Huang,K.L.Ewalt,M.Tirado,R.Haigis,A.Forster,D.Ackley,M.J.Heller,J.P.O’Connell,and M.Krihak,“Electric Manipulation of Bioparticles and Macromolecules on Microfabricated Electrodes”,Anal.Chem.,vol.73,pp.154−1559(2001)
【非特許文献9】R.S.Thomas,H.Morgan and N.G.Green,“Negative DEP traps for single cell immobilisation”,Lab Chip,vol.9,pp.1534−1540(2009)
【非特許文献10】G.H.Markx,C.L.Davey,“The dielectric properties of biological cells at radiofrequencies:Applications in biotechnology”,Enzyme Microb.Technol.vol.25,pp.161−171(1999)
【非特許文献11】J−Y.Jung and H−Y.Kwak,“Separation of Microparticles and Biological Cells Inside an Evaporating Droplet Using Dielectrophoresis”,Anal.Chem.vol.79,pp.5087−5092(2007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記した従来のダイナミックマイクロアレイ装置では、トラップ流とバイパス流の2層の流れを持つ流路において、粒子の中心がトラップ流とバイパス流の二つの流れを跨いで行き来することはできない。そのため、それぞれのトラップスポット毎に粒子のトラップを制御できず、異なる種類の粒子を任意の順に並べ、アレイ化することはできなかった。
【0008】
本発明は、上記状況に鑑みて、誘電泳動を用いることにより、粒子のトラップをそれぞれのトラップスポット毎に制御することができる選択的粒子配置機能を持つダイナミックマイクロアレイ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記目的を達成するために、
〔1〕ダイナミックマイクロアレイ装置において、トラップ流と非トラップ流の2層の流れを持つ流路からなり、粒子をトラップ流側に移動させるように常時駆動している第1の誘電泳動装置と、前記トラップ流側を流れる粒子をそのままトラップ流側に流すか、または前記トラップ流側を流れる粒子を非トラップ流側に移動させるかを制御する第2の誘電泳動装置と、この第2の誘電泳動装置の下流に配置されるトラップスポットとを備え、前記トラップスポット毎に粒子のトラップを制御可能とすることを特徴とする。
【0010】
〔2〕上記〔1〕記載のダイナミックマイクロアレイ装置において、前記トラップスポットをバイパスするバイパス路が形成され、前記非トラップ流がバイパス流となり、前記トラップスポット毎に粒子のトラップを制御可能とすることを特徴とする。
〔3〕上記〔2〕記載のダイナミックマイクロアレイ装置において、前記流路に異なる粒子を順次流し、前記各トラップスポットに選択的にトラップし、前記異なる種類の粒子をアレイ化することを特徴とする。
【0011】
〔4〕上記〔2〕又は〔3〕記載のダイナミックマイクロアレイ装置において、前記誘電泳動装置は、先端が尖っている電極パターンと長方形の電極パターンの一対の電極を備え、前記一対の電極間に電圧を印加して不均一電場を生成することを特徴とする。
〔5〕上記〔4〕記載のダイナミックマイクロアレイ装置において、前記一対の電極に交流電圧を印加することを特徴とする。
【0012】
〔6〕上記〔5〕記載のダイナミックマイクロアレイ装置において、前記粒子が、n(ネガティブ)−DEPの性質又はp(ポジティブ)−DEPの性質を示すポリスチレン粒子であることを特徴とする。
〔7〕上記〔6〕記載のダイナミックマイクロアレイ装置において、前記ポリスチレン粒子の流速を30nl/sec以下とすることを特徴とする。
【0013】
〔8〕上記〔1〕記載のダイナミックマイクロアレイ装置において、前記第2の誘電泳動装置とこの第2の誘電泳動装置の下流に配置されるトラップスポットとの間に分岐流路を具備することを特徴とする。
〔9〕上記〔8〕記載のダイナミックマイクロアレイ装置において、前記粒子のトラップスポットの位置をX軸上及びY軸上に配置したことを特徴とする。
【0014】
〔10〕上記〔9〕記載のダイナミックマイクロアレイ装置において、前記粒子のトラップスポットの位置がマクリックス状に配置したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ダイナミックマイクロアレイ装置において、誘電泳動を用いることにより、それぞれのトラップスポット毎に粒子をトラップするか否かを選択して制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の原理を示す誘電泳動を用いたダイナミックマイクロアレイ装置の動作を示す模式図である。
【図2】本発明の実施例を示す誘電泳動を用いたダイナミックマイクロアレイ装置を示す模式図である。
【図3】誘電泳動装置の電極付近の電場シミュレーションを示す図である。
【図4】PDMS流路及びITO電極付きガラス基板の作製プロセスを示す模式図である。
【図5】PS粒子の誘電泳動装置による変位を示す図である。
【図6】PS粒子のトラップ操作とバイパス操作による挙動を示す図面代用写真である。
【図7】PS粒子の選択的配置を示す図面代用写真である。
【図8】本発明の他の実施例を示す誘電泳動を用いたダイナミックマイクロアレイ装置の全体模式図である。
【図9】図9のE部拡大図である。
【図10】従来のダイナミックマイクロアレイ装置の動作を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明のダイナミックマイクロアレイ装置は、トラップ流と非トラップ流の2層の流れを持つ流路からなり、粒子をトラップ流側に移動させるように常時駆動している第1の誘電泳動装置と、前記トラップ流側に移動させられた粒子をそのままトラップ流側に流すか、または前記トラップ流側を流れる粒子を非トラップ流側に移動させる第2の誘電泳動装置と、この第2の誘電泳動装置の下流に配置されるトラップスポットとを備え、前記トラップスポット毎に粒子のトラップを制御可能とする。
【実施例】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
まず、本発明で用いる誘電泳動(DEP)理論について説明する。
DEPは、不均一な電場内で分極した粒子が受ける力であり、球状の粒子が受けるDEPの力は次の式で表される。
DEP =2πεm 3 Re(fCM)∇|E|2 …(1)
εm は溶液の相対誘電率、rは粒子の半径、Re(fCM)は、Clausius−Mossoti(CM)因子の実数部、∇|E|2 は電場の自乗の勾配を示している。CM因子の実数部の正負によって、粒子に働くDEPの力が、電場勾配の高い方(p−DEP)か低い方(n−DEP) に働くかが決まる。CM因子は、具体的には、
CM=(εp * −εm * )/(εp * +2εm * ),ε* =ε−j(σ/ω)と表され、εp * とεm * は、それぞれ粒子と溶液の複素誘電率で、εは相対誘電率、σは伝導率、ωは印加電圧の周波数である。本発明で用いたポリスチレン(PS)粒子は、電極間の印加電圧の周波数が100kHzではn−DEPを受ける。
【0019】
次に、粒子の選択的配置の原理について説明する。
図1は本発明の原理を示す誘電泳動を用いたダイナミックマイクロアレイ装置の動作を示す模式図であり、図1(a)は第2の誘電泳動装置がオフの場合の粒子の動作を、図1(b)は第2の誘電泳動装置がオンの場合の粒子の動作をそれぞれ示している。
これらの図において、1はチップ、2はトラップ流3と非トラップ流4の2層の流れを持つ流路(マイクロチャンネル)、5は粒子のトラップスポット、Aは第1の誘電泳動装置、6は第1の誘電泳動装置Aの先端が尖っている電極、7は第1の誘電泳動装置Aの長方形電極、8はマイクロチャンネル2中を移動する粒子である。上記したように、誘電泳動装置A,Bは、先端が尖っている電極6と、長方形電極7とからなる一対の電極から構成されており、これらの電極6と電極7との間に電圧が印加されることで不均一電場が生成される。つまり、トラップされる粒子によって異なるが、一対の電極には交流電圧を印加するようにしてもよい。
【0020】
図1(a)に示すように、第1の誘電泳動装置Aは常時駆動(オン)されており、先端が尖っている電極6と長方形電極7との間に電圧が印加されているので、非バイパス流4を流れてきた粒子8は電場勾配の小さい長方形電極7の方向へ力を受け、トラップ流5へと移動する。第1の誘電泳動装置Aより下流では粒子8は、トラップ流3を流れて、第2の誘電泳動装置Bに至る。第2の誘電泳動装置Bを駆動せず(オフ)、電極6,7間に電圧が印加されなければ、粒子8はトラップ流3を流れて、トラップスポット5にトラップされる。
【0021】
一方、図1(b)に示すように、第2の誘電泳動装置Bを駆動(オン)し、先端が尖っている電極6と長方形電極7に電圧を印加した場合、粒子8は非トラップ流4へと移動する。したがって、粒子8はトラップスポット5でトラップされることなく下流へと流れていく。
上記したように、粒子8をトラップスポット5にトラップするか否かの制御を行うことができ、任意の粒子8を任意のトラップスポット5にトラップすることができる。
【0022】
図2は本発明の第1実施例を示す誘電泳動を用いたダイナミックマイクロアレイ装置を示す模式図であり、図2(a−1)は粒子をトラップする場合の動作を示す図、図2(a−2)は粒子をトラップした場合の粒子の動作を示す、図2(a−1)のC部拡大図、図2(b−1)は粒子をトラップしない場合の粒子の動作を示す図、図2(b−2)は粒子をトラップしない場合の粒子の動作を示す、図2(b−1)のD部拡大図をそれぞれ示している。このダイナミックマイクロアレイ装置の流路は蛇行形状をしており、図1における非トラップ流がバイパス流となっている。
【0023】
図2において、11はチップ、12はトラップ流13とバイパス流14の2層の流れを持つ流路(マイクロチャンネル)、15はPS粒子のトラップスポット、Aは上流に配置される第1の誘電泳動装置、BはPS粒子18のトラップスポット15の近傍に配置される第2の誘電泳動装置であり、これらの誘電泳動装置A,Bは、先端が尖っている電極16と、この電極16に対向する長方形電極17とからなる一対の電極から構成されており、これらの電極16と電極17との間に電圧が印加されることで不均一電場が生成される。
【0024】
そこで、図2に示すように、上流に配置される第1の誘電泳動装置Aを常に駆動(オン)し、先端が尖っている電極16と長方形電極17との間に電圧を印加することで、トラップスポット15の前の第2の誘電泳動装置BにPS粒子18が到達した時、そのPS粒子18が常にトラップ流13に乗っているようにしている。第1の誘電泳動装置Aより下流ではPS粒子18はトラップ流13を流れて、第2の誘電泳動装置Bに至る。図2(a−1)に示すように、第2の誘電泳動装置Bを駆動せず(オフ)、電極16,17間に電圧が印加されれば、PS粒子18は図2(a−2)に示すようにトラップ流13を流れて、トラップスポット15でトラップされる。
【0025】
一方、図2(b−1)に示すように、第2の誘電泳動装置Bを駆動(オン)し、電極16と電極17間に電圧を印加した場合、PS粒子18はバイパス流14へと移動する。したがって、PS粒子18はトラップスポット15でトラップされることなく下流へと移動する。
なお、n−DEPの性質を示す条件でのPS粒子18は、電場勾配の小さい長方形電極17の方向へ力を受ける。一方、p−DEPの性質を示す条件でのPS粒子の場合は、電場勾配の大きい先端が尖った電極の方向へ力を受ける。
【0026】
よって、トラップスポット15の近傍に配置される第2の誘電泳動装置Bを制御することによって、トラップスポット15にPS粒子18をトラップするか、否かを決めることができる。
この原理を用い、目的の粒子を順に流しつつ、トラップスポット3で粒子をトラップするか否かを電極6,7で制御することで、異なる粒子の選択的アレイ化が可能となる。
【0027】
図3は誘電泳動装置の電極付近の電場シミュレーションを示す図であり、図3(a)は電極の先端部の電場勾配を示す図、図3(b)は電極対の距離と電場勾配の状況を示す図である。
この図に示すように、FEMLAB(Comsol,Inc,Burlington,MA)を用いて電極付近の電場シミュレーションを行った。先端が尖っている電極と長方形電極間には、10Vの電圧をかけた。その結果、図3(a)に示すように、先端が尖っている電極の先端21付近が最も電場勾配が大きく、他の領域では電場勾配は、先端21付近に比べると小さいことがわかる。また、図3(b)に示すように、電極対の距離が近ければ近い程、電場勾配が大きくなることがわかる。上記式(1)によると、DEPは電場の2乗の勾配に比例した大きさの力を受ける。そのため、粒子が電極先端付近を通過したときに、最もDEPの影響を受けると考えられる。以上の結果から、電圧を印加したときに、バイパス流を流れる粒子がDEPの力を受け、徐々にトラップ流にシフトされるようにマイクロチャネル(流路)とITO電極のパターンを設計した。
【0028】
次に、PDMS流路の作製プロセスについて説明する。
図4はPDMS流路及びITO電極付きガラス基板の作製プロセスを示す模式図であり、図4(a)はPDMS流路の作製プロセスを、図4(b)はITO電極付きガラス基板の作製プロセスをそれぞれ示し、作製したデバイスの全体を図4(c)に示している。
PDMS流路は、図4(a)に示すように、Siウェハ31上にSU−8(SU−8 Series;MicroChemCo.,MA)32をフォトリソグラフィーでパターニングしたものをPDMS流路のモールド33とした。
【0029】
そのモールド33にPDMS(Sylgard 184;Dow Corning,Ithaca,NY)34を流し込みPDMS流路35を得た。流路の高さは、100μmのPS粒子をトラップすることを目的とし、115μm程度とした。
図4(b)にITO電極パターン42付きガラス基板41の作製プロセスを示す。ITOは透明電極なので、流路内の様子を観察が可能となる。ガラス基板41上のITO42上にS1818(43)をスピンコートし、フォトリソグラフィーにより電極44をパターニングした。その後、1:0.16:1の割合で塩酸、硝酸、水を混合したものをITOのエッチャントとして使用し、電極44のエッチングを行った。両者の表面を、酸素プラズマ装置(Compact Etcher FA−1,Samco International Inc.,75W,20ml s−loxygen,5 sec)を用い、表面を活性化させ、ITO電極45とPDMS流路35のアライメント、そして、ボンディングを行った。図4(c)に作製したデバイスの全体図を示す。本発明では、3種類のPS粒子を選択的にトラップさせることを目的としたので、注入口36は3個とした。
【0030】
図5はPS粒子の誘電泳動装置による変位を示す図である。
PS粒子がITO電極付近を通過する際、PS粒子の流れに対して垂直な方向の変位を調べた。図5(a)に示すように、PS粒子はITO電極の先端部分を通過した際に、DEPの影響を大きく受けて変位している様子がわかる。
図5(b)は、PS粒子の流速と変位量の関係をグラフにしたものである。印加電圧は10Vp.p., 周波数は100kHzであった。流速が30nl/secを超えるとDEPの影響は少なく、流体抵抗の作用が大きくなるので、流速は30nl/sec以下にするのが好適である。
【0031】
ここでは、流速のみを変化させて粒子の変位を測定したが、DEPは上記式(1)に示されるように、溶液の性質、印加電圧、及びその周波数にも依るため、それらを制御することで、選択的配置の成功率の向上を図ることができる。
図6はPS粒子のトラップ操作とバイパス操作による挙動を示す図面代用写真である。
図6(a)では、トラップスポットの近傍の電極対(誘電泳動装置B)には電圧を印加していないので、トラップ流に乗ったPS粒子はそのままトラップスポットにトラップされる。一方、図6(b−1)に示すように、トラップスポットの近傍の電極対に電圧を印加すると、PS粒子はトラップスポット直前でバイパス流にシフトし、トラップスポットでトラップされることはない。そして、トラップスポットの上流側の電極対(誘電泳動装置A)によって、PS粒子はDEPの力を受け、トラップ流に戻される様子がわかる〔図6(b−2)参照〕。
【0032】
図7はPS粒子の選択的配置を示す図面代用写真であり、図7(a)は6個のトラップスポットに赤のPS粒子と緑のPS粒子を選択的に配列した様子を示す図、図7(b)は赤のPS粒子、緑のPS粒子、青のPS粒子を順次トラッピングする様子を示す図である。
赤のPS粒子51, 青のPS粒子52, 緑のPS粒子53の3種類のPS粒子を用意し、それぞれの注入口から順次PS粒子を流しつつ、トラップさせたいトラップスポット近傍の電極には電圧を印加しないことで、図7(a),(b)のようにPS粒子をトラップスポットに選択的に配置することができた。
【0033】
本発明によれば、粒子をアレイ化できるダイナミックマイクロアレイ装置と粒子を能動的に制御できるDEPを組み合わせることで、粒子の選択的配置が可能なデバイスを作製し、3色のPS粒子を選択的に配置することに成功した。
また、PS粒子だけではなく、例えばゲルビーズ化した細胞の選択的配置を行ったり、または、DEPに対する応答性の違いを利用して、混在した粒子の選別、そして、アレイ化を行うことが可能である。そして、将来的には細胞研究や創薬スクリーンング等における粒子操作のプラットフォームを構築することができる。
【0034】
図8は本発明の他の実施例を示す誘電泳動を用いたダイナミックマイクロアレイ装置の全体模式図、図9は図8のE部拡大図である。
これらの図において、トラップスポット61,62,…をX方向に延びるトラップ流72と非トラップ流73の2層の流れを持つ流路(マイクロチャンネル)71に沿って配置する。トラップスポット61の上流には第1の誘電泳動装置A−1と第2の誘電泳動装置B−1とが配置され、PS粒子91をトラップスポット61にトラップするか否かを制御することができる。また、流路(マイクロチャンネル)71に直交してY方向に延びる、トラップ流72と非トラップ流73の2層の流れを持つ分岐流路(マイクロチャンネル)74に沿ってトラップスポット81,82,…を配置する。トラップスポット61の下流には第1の誘電泳動装置A−2と第2の誘電泳動装置B−2とが配置されているので、第2の誘電泳動装置B−2を制御することによって、直進してX方向に延びる流路71にPS粒子91を流すのか、Y方向に延びる分岐流路74の方向へPS粒子91を導入し流すのかを制御する。第2の誘電泳動装置B−2を駆動せず(OFF)、電極間に電圧を印加しなかった場合、PS粒子91はトラップ流72を流れ、Y方向に延びる分岐流路74へ導入され、分岐流路74の最初に配置された第1の誘電泳動装置A−3と第2の誘電泳動装置B−3によってトラップスポット81にトラップされるか否かが制御される。以下、各トラップスポット82,…にPS粒子をトラップするか否かを、それぞれ配置されている第2の誘電泳動装置BのON/OFF動作によって制御する。なお、70は流路源、76は各トラップスポットに連結される排出流路、77は分岐流路の終端部、78は排出流路の終端部である。
【0035】
一方、第2の誘電泳動装置B−3を駆動し(ON)、電極間に電圧を印加した場合、PS粒子91は非トラップ流73へシフトし、X方向に延びる流路71をそのまま流れていく。そして、第1の誘電泳動装置A−4と第2の誘電泳動装置B−4とが配置されているので、トラップスポット62にトラップされるか否かが制御される。続いて配置される第1の誘電泳動装置A−5と第2の誘電泳動装置B−5では、第2の誘電泳動装置B−5を制御することによって、Y方向に延びる流路75にPS粒子91が移動するか、更にX方向に延びる流路71に直進するかが制御される。なお、分岐流路74,75の径が大きいような場合には、分岐流路74,75の導入口に、図示しないが、突起状の庇や案内切換板やバルブなどの流路調整部を設け、PS粒子を意図した流路へ導くようにすることができる。
【0036】
このようにしたので、流路をX方向、Y方向に配置し、それぞれの流路にトラップスポットを配置することができる。したがって、X軸上に配置されたトラップスポット61,62,…には1種類目の粒子を、Y軸上に配置されたトラップスポット81,82,…には他の種類の粒子を配列するなど、ダイナミックマイクロアレイ装置を構成することができる。また、これらのトラップスポットの位置をマトリックス状に配置することができる。
【0037】
なお、上記実施例では、2次元的な構造のダイナミックマイクロアレイ装置を示したが、3次元的な構造のダイナミックマイクロアレイ装置として適用することができることは言うまでもない。
なお、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づき種々の変形が可能であり、これらを本発明の範囲から排除するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明のダイナミックマイクロアレイ装置は、細胞研究や創薬スクリーニングに用いることができるダイナミックマイクロアレイ装置として利用可能である。
【符号の説明】
【0039】
1,11 チップ
2,12 流路(マイクロチャンネル)
3,13,72 トラップ流
4,73 非トラップ流
5,15,61,62,…,81,82,… 粒子のトラップスポット
6,16 先端が尖っている電極
7,17 長方形電極
8, 粒子
14 バイパス流
18,91 PS粒子
21 電極の先端
31 Siウェハ
32 SU−8
33 PDMS流路のモールド
34 PDMS
35 PDMS流路
41 ガラス基板
42 ITO
43 S1818
44 電極
45 ITO電極
51 赤のPS粒子
52 緑のPS粒子
53 青のPS粒子
70 流路源
71 X方向に延びる流路
74,75 Y方向に延びる分岐流路
76 排出流路
77 分岐流路の終端部
78 排出流路の終端部
A,A−1〜A−5 第1の誘電泳動装置
B,B−1〜B−5 第2の誘電泳動装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トラップ流と非トラップ流の2層の流れを持つ流路からなり、粒子をトラップ流側に移動させるように常時駆動している第1の誘電泳動装置と、前記トラップ流側を流れる粒子をそのままトラップ流側に流すか、または前記トラップ流側を流れる粒子を非トラップ流側に移動させるかを制御する第2の誘電泳動装置と、該第2の誘電泳動装置の下流に配置されるトラップスポットとを備え、前記トラップスポット毎に粒子のトラップを制御可能とすることを特徴とするダイナミックマイクロアレイ装置。
【請求項2】
請求項1記載のダイナミックマイクロアレイ装置において、前記トラップスポットをバイパスするバイパス路が形成され、前記非トラップ流がバイパス流となり、前記トラップスポット毎に粒子のトラップを制御可能とすることを特徴とするダイナミックマイクロアレイ装置。
【請求項3】
請求項2記載のダイナミックマイクロアレイ装置において、前記流路に異なる粒子を順次流し、前記各トラップスポットに選択的にトラップし、前記異なる種類の粒子をアレイ化することを特徴とするダイナミックマイクロアレイ装置。
【請求項4】
請求項2又は3記載のダイナミックマイクロアレイ装置において、前記誘電泳動装置は、先端が尖っている電極パターンと長方形の電極パターンの一対の電極を備え、前記一対の電極間に電圧を印加して不均一電場を生成することを特徴とするダイナミックマイクロアレイ装置。
【請求項5】
請求項4記載のダイナミックマイクロアレイ装置において、前記一対の電極に交流電圧を印加することを特徴とするダイナミックマイクロアレイ装置。
【請求項6】
請求項5記載のダイナミックマイクロアレイ装置において、前記粒子が、n(ネガティブ)−DEPの性質又はp(ポジティブ)−DEPの性質を示すポリスチレン粒子であることを特徴とするダイナミックマイクロアレイ装置。
【請求項7】
請求項6記載のダイナミックマイクロアレイ装置において、前記ポリスチレン粒子の流速を30nl/sec以下とすることを特徴とするダイナミックマイクロアレイ装置。
【請求項8】
請求項1記載のダイナミックマイクロアレイ装置において、前記第2の誘電泳動装置と該第2の誘電泳動装置の下流に配置されるトラップスポットとの間に、分岐流路を具備することを特徴とするダイナミックマイクロアレイ装置。
【請求項9】
請求項8記載のダイナミックマイクロアレイ装置において、前記粒子のトラップスポットの位置をX軸上及びY軸上に配置したことを特徴とするダイナミックマイクロアレイ装置。
【請求項10】
請求項9記載のダイナミックマイクロアレイ装置において、前記粒子のトラップスポットの位置がマクリックス状に配置したことを特徴とするダイナミックマイクロアレイ装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2011−83665(P2011−83665A)
【公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−236522(P2009−236522)
【出願日】平成21年10月13日(2009.10.13)
【出願人】(801000049)財団法人生産技術研究奨励会 (72)
【Fターム(参考)】