説明

ダイヤフラムポンプ、ダイヤフラムポンプの制御方法、及び除菌器

【課題】個々の装置の条件に対応した適切な通電電流を設定できるソレノイド駆動式ダイヤフラムポンプ及びソレノイド駆動式のダイヤフラムポンプの制御方法を提供する。
【解決手段】本発明の一形態にかかるソレノイド駆動式のダイヤフラムポンプの制御方法は、液体を注入するソレノイド駆動式のダイヤフラムポンプの制御方法であって、前記ダイヤフラムポンプの運転時における電流値の変化状況に基づいてソレノイドコイルに印加する印加電圧または通電電流を調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイヤフラムポンプ、ダイヤフラムポンプの制御方法、及び除菌器に関する。
【背景技術】
【0002】
井戸水を生活用水や飲用水として利用する際には、井戸水に含まれる鉄マンガンイオンなどをろ過槽により除去するとともに除菌を行っている。
【0003】
ろ過槽は内部にセラミック製ろ過砂や、その表面に二酸化マンガンをコーティングした除マンガン用ろ過材などを充填している。また、ろ過槽1次側には、除菌・酸化剤としての次亜塩素酸ナトリウムを注入する除菌器が設置されている。
【0004】
除菌器は、次亜塩素酸ナトリウムを貯留しておく薬液槽と、ろ過流量を検出するための磁石付き回転翼を有する流量比例注入用流量検出部を備えている。さらに、除菌器は、ろ過流量に比例した一定量の次亜塩素酸ナトリウムを注入するダイヤフラムポンプと、井戸水が通過する連結管及び薬液注入部を備えている。
【0005】
除菌器に使用されるダイヤフラムポンプは、小型で装置内に組込み易く、そのポンプ特性は精密注入に適している。また、ダイヤフラムポンプでは、ダイヤフラムを駆動するために往復動作が必要なので、アクチュエータとして、安価で構造が簡単な電磁ソレノイドが多用されている。
【0006】
ソレノイド駆動式のダイヤフラムポンプは、薬液を吐出する時には、ソレノイドコイルに電流を流してプランジャを注入圧力に抗して押し出す。この押し出し完了時には、金属製のプランジャが金属製の固定鉄心に衝突し、不快な衝突騒音を発生する。この衝突音は周囲の環境によって大きく左右される。例えば大型ポンプなどが設置された機械室内、また使用流量が多く時間当たりのストローク回数が多い場合には、衝突音の大きさや回数が増し、不快感を与えるものとなる。
【0007】
一方、ダイヤフラムポンプの製品仕様には、注入可能な最高圧力があり、この最高圧力にダイヤフラムの受圧面積を乗じた力に、戻しばねの最大圧縮力とダイヤフラムが押し出されたときの弾性力を加算した推力を発生する電流をソレノイドに流す必要がある。また、ソレノイドコイル抵抗値の製品ばらつきや温度上昇による抵抗値上昇、電源電圧の変動も考慮し、余裕のある通電電流と通電時間を設定しなければならない。このため、プランジャが固定鉄心に衝突する直前の移動速度は過大になり、大きな衝突音を発生する原因となる。
【0008】
ソレノイドの特性として、一定の電圧を印加した場合、プランジャが移動を始めて固定鉄心との距離が短くなると、ストローク距離に反比例して推力が増大する。加えてインダクタンスの低下により電流値が増大し、推力がさらに増大し、固定鉄心への衝突音が極めて大きくなる。
【0009】
固定鉄心への衝突音を緩和するために、消音ソレノイドと称して固定鉄心とプランジャの間にゴム等の弾性体(=緩衝材)を挟みこんだ製品も製造されているが、弾性体を介しても金属製のプランジャと固定鉄心が衝突する衝突音を無くすことは出来ない。また、ソレノイドの特性として、プランジャが固定鉄心から最も遠い「押し出し直前」の位置が最も発生推力が小さいため、弾性体の厚みを厚くしすぎると、ストローク距離を加えた押し出し直前の位置がさらに遠くなり、推力低下、所要電流増加、及び温度上昇を招き、弾性体の永久歪みも大きくなるため弾性体の変形によるストローク距離が変動してしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2007−177691号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述した技術では以下のような問題がある。ソレノイド駆動式ダイヤフラムポンプは例えば温度、配管圧力等の周辺環境や装置のばらつき等の各種条件によって適切な通電電流が変化するが、上記技術では、ソレノイドコイルの温度上昇を考慮して大きな推力を発生するソレノイドを選択し、さらに温度上昇による抵抗アップ及び電流低下を見込んで、定格通電電流を高く設定している。したがって、ソレノイド自体のコストアップは逃れず、寒冷時や低ストローク運転時にも高い通電電流をソレノイドコイルに与えているため、無駄な電力を消費しており、固定鉄心の衝突時の騒音も大きくなる傾向にある。
【0012】
そこで本発明は、個々の装置の条件に対応した適切な通電電流を設定できるダイヤフラムポンプ、ダイヤフラムポンプの制御方法、及び除菌器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の一形態にかかるダイヤフラムポンプの制御方法は、液体を注入するソレノイド駆動式のダイヤフラムポンプの制御方法であって、前記ダイヤフラムポンプの運転時における電流値の変化状況に基づいてソレノイドコイルに印加する印加電圧または通電電流を調整することを特徴とする。
【0014】
本発明の他の一形態にかかるダイヤフラムポンプは、液体を注入するソレノイド駆動式のダイヤフラムポンプであって、前記ダイヤフラムポンプの運転時における電流値の変化状況に基づいてソレノイドコイルに印加する印加電圧または通電電流を調整する制御部を備えたことを特徴とする。
【0015】
本発明の他の一形態にかかる除菌器は、前記ダイヤフラムポンプを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、個々の装置の条件に対応した適切な通電電流を設定できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施形態にかかるダイヤフラムポンプを示す説明図。
【図2】同ダイヤフラムポンプを示す説明図。
【図3】同ダイヤフラムポンプの制御装置の構成を示す説明図。
【図4】同ダイヤフラムポンプの制御方法を示すフローチャート。
【図5】同ダイヤフラムポンプの電流波形を説明するグラフ。
【図6】同ダイヤフラムポンプの第1の状態における電流波形を示すグラフ。
【図7】同ダイヤフラムポンプの第2の状態における電流波形を示すグラフ。
【図8】同ダイヤフラムポンプの第3の状態における電流波形を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の一実施形態にかかるソレノイド駆動式ダイヤフラムポンプについて、図1乃至図4を参照して説明する。
【0019】
図1及び図2に、ダイヤフラムポンプ10を示す。図1は、ダイヤフラム18が後退している状態であり、図2は、ダイヤフラム18が前進している状態である。
【0020】
ダイヤフラムポンプ10は、ケース本体12と、筒形コイルであるソレノイドコイル14と、プランジャ16と、ダイヤフラム18と、裏蓋20と、裏蓋20にねじ込まれた調整ねじ22と、ポンプ本体24などから構成されている。以下基本的に、ソレノイドコイル14側から見て、ポンプ本体24側を前方とし、その逆を後方として説明する。
【0021】
ケース本体12は、円筒状で、金属材料、あるいは樹脂材などから形成されている。ケース本体12の内部には、ソレノイドコイル14がねじ26により固定されている。ケース本体12の後方には、裏蓋20がねじ28により固定されている。ケース本体12の前方には、ポンプ本体24が、ねじ30等により液密に取り付けられている。
【0022】
ソレノイドコイル14は円筒状のコイルで、中心にはプランジャ16が前後方向に沿って移動自在に設けられている。ソレノイドコイル14の入力端子には、制御装置60からの電力線86が接続されている。
【0023】
プランジャ16は、軸部32と、軸部32に取り付けられた可動鉄心34と、軸部32の後方に設けられた補助磁極板36などから構成されている。軸部32は、ソレノイドコイル14の中心に設けられた孔15内に、軸受17を介して摺動自在に設けられている。可動鉄心34は、軸部32に一体に固定してあり、ソレノイドコイル14の後方に形成された凹部40内に摺動自在に収納されている。可動鉄心34は、プランジャ16が所定位置まで前進すると、ソレノイドコイル14の後面46に当接し、プランジャ16の前進を停止させる。
【0024】
可動鉄心34とソレノイドコイル14の間には、戻しばね44が設けられている。戻しばね44は、コイルばねで、プランジャ16を所定のばね力で後方に付勢している。
【0025】
補助磁極板36は、金属板で、軸部32に一体に取り付けられている。補助磁極板36は、プランジャ16を前進させるときに磁気回路を形成し、プランジャ16の推力を増加させる。補助磁極板36は、プランジャ16が後退すると、調整ねじ22の前端部52に当接し、プランジャ16の後退を停止させる。調整ねじ22は、裏蓋20にねじで組み付けられており、調整ねじ22を裏蓋20に対して左右に回すことにより、前端部52を任意の位置に設定できる。
【0026】
ダイヤフラム18は、板状で、弾性材料からなり、ポンプ本体24に形成された圧送室54に臨ませて取り付けられている。ダイヤフラム18は、中心部分が軸部32の先端に組み付けられ、外周部分がケース本体12の前端縁とポンプ本体24との間に液密に固定されている。ダイヤフラム18の形状、材質は特に問わない。
【0027】
ポンプ本体24には、上述した圧送室54がほぼ中央に形成してあり、図の下方に流入口96が、図の上方に流出口98が設けられている。圧送室54の流入口96側には流入用一方向ボール弁56が、また流出口98側には流出用一方向ボール弁58がそれぞれ設けられている。ポンプ本体24の流入口96には、貯留槽100(図3参照)からの送液管102がソケット104により連結している。またポンプ本体24の流出口98には、送液管106がソケット108により連結している。
【0028】
送液管106の他端は、通水管110(図3参照)の混入部に延びている。混入部は、送液管106から送られた液体、例えば除菌剤を、通水管110内を流れる流体、例えば井戸水内に流出させ、除菌剤を井戸水に混入させる。混入部の下流側の通水管110は、例えばろ過装置などを介して家庭用の蛇口などに接続されている。またダイヤフラムポンプ10には、図3に示す制御装置60が接続されている。
【0029】
制御装置60は、図3に示すように電源装置62と、記憶装置64と、入力装置66と、表示装置68と、コントロール部70と、制御部72などから構成されている。
【0030】
電源装置62は、整流・平滑回路74と、可変直流電圧生成部76と、制御電源部78などから構成されている。電源装置62には、商用電源200が接続されている。ダイヤフラムポンプ10のメインスイッチがオンされると、商用電源200から整流・平滑回路74に電力が送られる。
【0031】
整流・平滑回路74は、例えばダイオードブリッジとコンデンサなどからなり、商用電源200からの電力を整流し、かつ平滑にする。整流・平滑回路74は、電力線90で可変直流電圧生成部76と、また電力線92で制御電源部78に接続し、整流・平滑回路74で、整流、平滑された電力は、電力線90を通って可変直流電圧生成部76に、また電力線92を通って制御電源部78に送り出される。
【0032】
可変直流電圧生成部76は、例えばFETスイッチング回路であり、電力線94でコントロール部70に、また信号線130で制御部72に接続している。可変直流電圧生成部76は、整流・平滑回路74で整流された電力を受けると、制御部72からの指示に従い、所定の電圧の直流電圧を生成する。生成された電圧は、コントロール部70に印加される。
【0033】
制御電源部78は、電力線132で制御部72に接続しており、整流・平滑回路74からの電力を制御部72に必要な電圧に変換し、安定した電力を制御部72に供給する。
【0034】
制御部72には、制御電源部78からの電力線132の他、信号線65で記憶装置64と、信号線67で入力装置66と、信号線69で表示装置68と接続している。
【0035】
また制御部72には、貯留槽100の水位センサ112、通水管110に設けられた流量センサ114からの信号線120、122が接続されている。
【0036】
水位センサ112は、貯留槽100に貯留されている薬剤の量を計測し、その値を制御部72に送り出す。流量センサ114は、通水管110内を流れる流体の単位時間当たりの流量を計測し、その値を制御部72に送り出す。
【0037】
記憶装置64には、予め各種設定条件や閾値、設定値テーブルなどが記憶されている。また記憶装置64は、制御部72からの指示に従い各種情報を記憶するとともに、制御部72からの要求に従い各種情報を読み出し送出する。記憶装置64は、磁気装置であっても、固体メモリであっても、その他の手段を用いたものでもよく、種類は特に限定しない。
【0038】
入力装置66は、例えばタッチパネル式の入力装置であり、作業者が例えば薬液の設定濃度や圧力値、圧力・注入比率、口径など各種の情報を入力する。入力装置66は、入力された各種の情報を制御部72に送出する。
【0039】
表示装置68は、例えば液晶パネルなどであり、ダイヤフラムポンプ10の運転状態や、通水管110内の通水状況、薬液の圧力・注入比率、入力された各種設定条件などを、制御部72からの指示に従い表示する。
【0040】
更に制御部72は、コントロール部70と、各信号線を介して接続されている。コントロール部70は、電圧計測部80と、電流計測部82と、ON/OFFスイッチング部84などから構成されている。制御部72と電圧計測部80は信号線81で、電流計測部82とは信号線83で、ON/OFFスイッチング部84とは信号線85で接続されている。
【0041】
電圧計測部80は、可変直流電圧生成部76からソレノイドコイル14に印加されている電圧の値を計測し、その値を制御部72に送り出す。電流計測部82は、ソレノイドコイル14を流れている電流の値を計測し、その値を制御部72に送り出す。
【0042】
ON/OFFスイッチング部84は、電力線86を介してダイヤフラムポンプ10のソレノイドコイル14に接続し、制御部72からの指示に従い、可変直流電圧生成部76からの通電をオンオフ操作し、所定電圧の直流電圧をソレノイドコイル14に印加する。
【0043】
ソレノイドコイル14には、入力端子が設けられている。入力端子には、上述したようにコントロール部70(ON/OFFスイッチング部84)から延びる電力線86が接続してあり、電力線86を介して電力が供給されるとソレノイドコイル14が励磁される。
【0044】
以上のように構成されたダイヤフラムポンプは、例えばろ過槽の一次側に設置されて除菌・酸化剤としての次亜塩素酸ナトリウムを注入する除菌器に用いられる。除菌器は、上記ダイヤフラムポンプのほか、次亜塩素酸ナトリウムを貯留しておく薬液槽と、ろ過流量を検出するための磁石付き回転翼を有する流量比例注入用流量検出部と、井戸水が通過する連結管及び薬液注入部などを備えて構成される。
【0045】
以下、本実施形態に係るソレノイド駆動式のダイヤフラムポンプの制御方法及びダイヤフラムの動作について図4乃至図7を参照して説明する。図4は、調整電圧V2を決定するまでの制御手順を示すフローチャートである。制御部72は、電源がONにされると(ST1)、まずダイヤフラム18を作動させるに要する基準電圧V1を求める(ST2)。基準電圧V1は、例えば入力装置66にて手動で入力された設定値を検出してこの設定値に基づいて求めても良いし、予め制御部72の記憶装置64に記憶されている値を用いてもよい。基準電圧V1は、例えばダイヤフラムポンプの製品使用に注入可能な最高圧力にダイヤフラムの受圧面積を乗じた力に、戻しばねの最大圧縮力とダイヤフラムが押し出されたときの弾性力を加算した推力に基づいて決定される。
【0046】
次に、制御部72は、この基準電圧V1を用いて実際に印加する電圧値の調整を行う。図5は正常状態におけるソレノイド駆動式のダイヤフラムポンプの動作、通電電流、電圧値を示すグラフである。縦軸は、印加電圧(V)、通電電流(mA)、移動距離(mm)、及び騒音(dB(A))を示している。横軸は経過時間(ms)を示している。運転の条件としては注入圧力30m、配管圧力30mに設定した。
【0047】
上述したように、ソレノイド駆動式のダイヤフラムポンプは、薬液を吐出するときに、その発生推力により、プランジャを注入圧力に抗して押し出している。ソレノイドは、プランジャが動くとその自己インダクタンスが変化する可変インダクタであり、自己インダクタンスは移動途中で最大となり、固定鉄心に接触して移動が終了するとゼロになる。
【0048】
ソレノイドの通電電流は、コイルインダクタンスと直流抵抗によって決定され、通電初期は、インダクタの充電時定数(=インダクタンス/コイル抵抗)に応じて電流値が増加していくが、通電途中で、プランジャの移動によりインダクタンス分が増加し、急激に電流値が減少する。さらに、プランジャが移動するとインダクタンスが減少し、再度通電が終了するまで電流値が増加する。
【0049】
なお、通電時間が長い場合は静止したソレノイドは抵抗成分のみのため、印加電圧を直流抵抗で割った電流が流れるが、ダイヤフラムポンプの通電時間は100ms以下の短時間であるため、通電終了時に上記の電流値まで到達することは無い。
【0050】
プランジャの移動速度(移動距離/所要時間)は、ソレノイドがダイヤフラムポンプのケーシング内の薬液圧力に抗してプランジャを押し出す推力により決定されるため、正常に薬液が注入されている場合、通電電流値の変化状況を示す通電電流波形は最初の極大点の次に変曲点(ΔIが正→負→正または0)を持った形状となる。
【0051】
すなわち、ソレノイドの通電電流のΔIは通電開始時より正→負に変化して、急激に減少し、その後、変曲点(ΔIが負→0→正)以降は再度増加に転じている。また、ソレノイドの電流波形や変曲点発生時間は、ソレノイドコイル抵抗の変動やダイヤフラム移動距離の組み立て誤差など、ダイヤフラムポンプに起因する要因や、配管圧力や気温などの環境要因の影響を受ける。このため本実施形態ではこの電流の変化状況を示す電流波形や変曲点発生時間に基づいて印加電圧を調整する。
【0052】
図6は第1の状態として通常状態の電流波形を示すグラフである。本実施形態にかかる制御方法では、例えば予め試運転調整する初期運転時に、通常状態における基準変曲点発生時間T0(図6の場合T0=50ms)を検出して記憶しておく。あるいは、基準となる通常状態において変曲点発生時間を複数回、例えば20回検出し、複数の変曲点発生時間を平均化して基準変曲点発生時間T0を決定してもよい。
【0053】
図7は第2の状態として通常状態よりも配管圧力が高い状態の電流波形を示すグラフである。縦軸は、印加電圧(V)、通電電流(mA)、及び騒音(dB(A))を示し、横軸は経過時間(ms)を示している。例えば図7に示すように、設定された注入圧力値に比べて実際の配管圧力が高くなった場合(例:注入圧力=30m、配管圧力=40m)には、推力に対抗する薬液圧力が高くなるため、プランジャがインダクタンス最大となる位置に到達するまでの時間が遅延して、電流波形の変曲点は通電停止側に移動することになる。
【0054】
本実施形態では、注入圧力の不足が一定値以上の状態を検出し調整することとした。なお、注入圧力の差が一定値以下の場合は推力不足に伴う注入量の低下は軽微であるため一定値を基準に判定することとした。
【0055】
例えばここでは、図4に示すように、設定圧力等の入力設定によって予め決定された基準電圧V1にて試運転を行い(ST3)、この試運転における通電電流を検出する(ST4)。そして予め決定され制御部72の記憶装置64に記憶されている前記の基準変曲点発生時間T0を検出し(ST5)、通電電流値の変曲点発生時間Tと基準変曲点発生時間T0を比較する(ST6)。例えば基準電圧V1は通常状態に最適な値として設定され、基準変曲点発生時間T0に対応した値となっている。このため、試運転の結果得られた値Tが基準となる値T0より一定時間t1以上長い場合には(ST6のyes)、ソレノイドに印加する電圧を増加することにより通電電流すなわち推力を増加する(ST7)。
【0056】
例えば、図7に示す例では、通電電流値の変曲点発生時間T=約60msが、前記の基準変曲点発生時間T0=50msより一定時間t1(例6ms)以上長いため、ソレノイドに印加する電圧を増加することにより通電電流すなわち推力を増加する。
【0057】
増加幅や全通電時間との比率は、例えば実験等により予め設定される。ここでは、変曲点発生時間の変動幅を圧力10mアップに対して8ms程度とし、全通電時間(例:80ms)との比率を、5〜10%長い場合(7.5%=6ms)とする。また、初期印加電圧(例:30V)の適正な増加幅は、圧力10mアップに対して2.0V程度とし、印加電圧の増加幅と初期通電電圧との比率を5〜10%(例:1.5〜3.0V)とする。なお、これらの設定値は一例であって、これに限られるものではない。
【0058】
図8は第3の状態として通常状態よりも配管圧力が低い状態の電流波形を示すグラフである。縦軸は、印加電圧(V)、通電電流(mA)、及び騒音(dB(A))を示し、横軸は経過時間(ms)を示している。図8に示すように、設定された注入圧力値に比べて実際の配管圧力が低くなった場合(例:注入圧力=30m、配管圧力=20m)は、推力に対抗する薬液圧力が低いため、プランジャがインダクタンス最大となる位置に到達するまでの時間が短縮され、電流波形の変曲点は通電初期側に移動することになる。
【0059】
そこで、図4に示すように本実施形態のST8では、試運転の結果得られた通電電流値の変曲点発生時間Tが、前記の基準変曲点発生時間T0より、一定時間t2以上短いか否かを判定し、短い場合には(ST8のyes)ソレノイドに印加する電圧を減少して通電電流すなわち推力を減少する(ST9)。
【0060】
例えば、図8の例では、通電電流値の変曲点発生時間T=40msが、前記の基準変曲点発生時間T0=50msより、一定時間t2=6ms以上短いため(10ms=50−40)、ソレノイドに印加する電圧を減少して(例:2.0V)、通電電流=推力を減少している。ここでは一定時間t2は、全通電時間(例:80ms)との比率の5〜10%であり、ここでは7.5%=6msとして決定した。
【0061】
これらの数値は、例えば実験結果より決定される。ここでは、一例として初期印加電圧(例:30V)の適正な減少幅は、圧力10msダウンに対して2.0V程度とし、印加電圧の増加幅と初期通電電圧との比率を5〜10%(1.5〜3.0V)とした。
【0062】
以上ST3乃至ST9における印加電圧の調整により、ソレノイド式のダイヤフラムポンプにて、センサレスで注入圧力に適した推力を発生することが可能になる。このため、配管圧力が大きく変動するような現場においても、注入不良(配管圧力高)や騒音増大(配管圧力低)を招くことが無い。
【0063】
さらに、制御部72は、電装部の操作部にて手動設定した注入圧力範囲Trに対応した印加電圧内に収まるかどうかを判定し(ST10)、注入圧力範囲外であった場合には(ST10のNo)、注入圧力範囲内となるように印加電圧を調整する(ST11)。例えば注入圧力範囲Trは、ダイヤフラムポンプ10の最高仕様圧力や最低必要圧力に基づいて設定される。これにより上記の推力補正が誤動作した場合も必要な印加電圧(通電電流)及び推力を発生するため、注入不足などの可能性を無くすことが出来る。
【0064】
以上の調整を行い、実際に印加する調整電圧V2の値を決定する(ST12)。
【0065】
制御部72は、求められた調整電圧V2に基づき、指示信号を可変直流電圧生成部76に送り出す。求められた調整電圧V2の値は、ダイヤフラムポンプ10から薬剤を通水管110内に注入するに十分な圧力、つまり始動時必要推力が形成される値である。
【0066】
また制御部72は、入力装置66から所望の注入比率が入力されると、流量センサ114から送られてきた通水管110内の流量に基づき、単位時間当たりに注入する薬剤の注入量を算出し、オン信号を送出する基本時間間隔を算出する(ST13)。尚、オン状態の長さは、設定された調整電圧V2でダイヤフラム18が規定量移動する時間から設定する。
【0067】
このようにして、設定された各種条件に基づき、制御部72は各部にそれぞれの指示信号を送出する。可変直流電圧生成部76は、制御部72からの指示に従い所定の電圧の直流電圧をコントロール部70に印加する。
【0068】
制御部72からON/OFFスイッチング部84には、所定の時間間隔で電圧をオンさせる指示が送り出される。ON/OFFスイッチング部84は、制御部72からの指示に従い、可変直流電圧生成部76からの電圧を所定時間オンし、オン状態が終了して所定時間経過した後再びオンにする。ON/OFFスイッチング部84がオン状態となることにより、ダイヤフラムポンプ10に所定の電圧が印加される。
【0069】
ダイヤフラムポンプ10は、所定の電圧が印加されると、ソレノイドコイル14に電流が流れ、磁力が発生し、プランジャ16が吸引される。プランジャ16が吸引されると、ダイヤフラム18が図2に示すように圧送室54内で前進する。すると流入用一方向ボール弁56が閉じ、流出用一方向ボール弁58が開き、所定量の薬剤が所定の圧力でダイヤフラムポンプ10から流出される。
【0070】
ダイヤフラムポンプ10から流出した薬剤は、送液管106を通り、通水管110の混入部に送られ、通水管110内を通過する流体(例えば井戸水のろ過水)に混入される。また可変直流電圧生成部76から印加された電圧と、ダイヤフラムポンプ10を流れる電流は、それぞれ電圧計測部80および電流計測部82で計測され、計測された値は制御部72に送り出される。
【0071】
一方ON/OFFスイッチング部84で通電が停止されると、ソレノイドコイル14での磁力が消失し、プランジャ16が戻しばね44のばね力で後方に移動する。プランジャ16は、補助磁極板36が調整ねじ22に当接するまで後退する。プランジャ16が後退することにより、ダイヤフラム18が圧送室54内で後退し、流入用一方向ボール弁56が開き、流出用一方向ボール弁58が閉じ、所定量の薬剤が貯留槽100からダイヤフラムポンプ10内に流入される。
【0072】
ダイヤフラムポンプ10は、コントロール部70からの電圧の印加に従って作動し、上記したダイヤフラム18の進退が繰り返される毎に所定量の薬剤をその都度通水管110のろ過水に混入させる。またソレノイドコイル14を流れる電流は、電流計測部82で計測され、制御部72に送り出される。
【0073】
本実施形態によれば、以下のような効果が得られる。すなわち、通常、ソレノイド駆動式のダイヤフラムポンプでは、ソレノイドコイル抵抗値の製品ばらつきや温度上昇による抵抗値上昇、電源電圧の変動も考慮し、余裕の通電電流と通電時間を設定しなければならないが、上記実施形態によれば実際に試運転して得られるダイヤフラムポンプの通電電流の波形に基づいて通電電流値と通電時間を設定できるため、製品仕様やばらつき及び使用状況を考慮した適切な電圧を設定できる。このため、印加電圧の過不足を防ぎ常に適切な数値を設定することが可能となるとともに、固定鉄心の衝突時の騒音も抑制できる。
【0074】
ダイヤフラムポンプの通電電流の変曲点発生時間に基づいて印加電圧を調整することにより、容易に調整を行うことが可能となる。センサレスで注入圧力に適した推力を発生することが可能になるため、圧力センサ等の検出機構を省略することが可能となり構成を簡素化できる。
【0075】
また、検出した変曲点発生時間が基準変曲点発生時間よりも一定値以上長い場合には前本電圧値よりも印加電圧を増加して、一定値以上短い場合には前記基準電圧値よりも印加電圧を減少することとしたため、必要性の低い場合には調整しないようにした。さらに一定値を5〜10%としたことにより、不要な調整を行わず、必要な場合にのみ調整をすることが可能となる。
【0076】
さらに、ダイヤフラムポンプの仕様で決定される圧力に対応する基準範囲内になるように調整電圧の二次調整を行うことで、個々の製品により適した値を設定できる。
【0077】
なお、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変形実施可能である。また、各部の具体的構成や、各工程における具体的な制御手順等は、上記実施形態に例示したものに限られるものではなく適宜変功可能である。
【0078】
上記実施形態においては一例として、配管圧力の高い場合と低い場合に電流波形を用いて調整を行うことを例示したが、配管圧力のみに限らず、ソレノイドコイル抵抗値の製品ばらつき、温度上昇による抵抗値上昇、電源電圧の変動などを含めた各種条件の変動によっても同様に電流波形(電流値の変化状況)が変化するので、このような場合にも本発明を適用可能であり、上記と同様に電流波形を用いて調整を行うことで印加電圧を最適化することが可能である。
【0079】
さらに、上記実施形態の構成要件のうち一部を省略しても本発明を実現可能である。
【符号の説明】
【0080】
10…ダイヤフラムポンプ、12…ケース本体、14…ソレノイド、15…孔、
16…プランジャ、17…軸受、18…ダイヤフラム、20…裏蓋、24…ポンプ本体、32…軸部、34…可動鉄心、36…補助磁極板。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を注入するソレノイド駆動式のダイヤフラムポンプの制御方法であって、
前記ダイヤフラムポンプの運転時における電流値の変化状況に基づいてソレノイドコイルに印加する印加電圧または通電電流を調整することを特徴とするソレノイド駆動式のダイヤフラムポンプの制御方法。
【請求項2】
前記ダイヤフラムポンプの通電電流の変曲点発生時間に基づいて印加電圧または通電電流を調整することを特徴とする請求項1記載のソレノイド駆動式のダイヤフラムポンプの制御方法。
【請求項3】
前記検出した変曲点発生時間が基準変曲点発生時間よりも一定値以上長い場合には基準電圧値よりも印加電圧を増加して印加電圧を調整し、
前記検出した変曲点発生時間が基準変曲点発生時間よりも一定値以上短い場合には基準電圧値よりも印加電圧を減少して印加電圧を調整することを特徴とする請求項1記載のソレノイド駆動式ダイヤフラムポンプの制御方法。
【請求項4】
前記一定値は、全通電時間の5〜10%であり、
前記調整により増加または減少する調整電圧は、初期印加電圧の5〜10%であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか記載のソレノイド駆動式ダイヤフラムポンプの制御方法。
【請求項5】
前記調整により増加または減少する調整電圧が、前記ダイヤフラムポンプの仕様で決定される圧力に対応する基準範囲内になるように調整電圧の二次調整をさらに行うことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか記載のソレノイド駆動式ダイヤフラムポンプの制御方法。
【請求項6】
液体を注入するソレノイド駆動式のダイヤフラムポンプであって、
前記ダイヤフラムポンプの運転時における電流値の変化状況に基づいてソレノイドコイルに印加する印加電圧または通電電流を調整する制御部を備えたことを特徴とするダイヤフラムポンプ。
【請求項7】
前記制御部は、前記ダイヤフラムポンプの通電電流の変曲点発生時間に基づいて印加電圧または通電電流を調整することを特徴とする請求項6記載のソレノイド駆動式のダイヤフラムポンプ。
【請求項8】
ケース本体と、
前記ケース本体の一方側に取り付けられるポンプ本体と、
前記ケース本体の内部に固定されるとともに筒形コイルで構成されるソレノイドと、
前記ソレノイドの中心に設けられた孔に摺動可能に設けられた軸部と、前記軸部に取り付けられた可動鉄心と、前記軸部の他方側に設けられた補助磁極板と、を有するプランジャと、
その中心部分が前記プランジャの前記軸部の先端に組み付けられるとともに、その外周部分が前記ケース本体の前端縁と前記ポンプ本体との間に液密に固定されたダイヤフラムと、を備え、
前記可動鉄心は、前記プランジャが所定位置まで前進すると、前記ソレノイドの前記他方側の面に当接し、前記プランジャの移動を停止させることを特徴とする請求項6または7記載のソレノイド駆動式のダイヤフラムポンプ。
【請求項9】
請求項6乃至8のいずれか記載のダイヤフラムポンプを備えたことを特徴とする除菌器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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